以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態のガソリンエンジンの制御装置の概略構成図である。
エンジン1はガソリンエンジン(以下、単に「エンジン」ともいう。)である。エンジン1は図示しない車両に搭載されている。エンジン1には、吸気通路4、排気通路21を備える。上記の吸気通路4は、吸気管4a、吸気コレクタ4b、吸気マニホールド4cで構成される。
吸気コレクタ4bのすぐ上流の吸気管4aにはアクセルペダル43の踏込量に応動する電子制御のスロットル装置を備える。スロットル装置は、スロットルバルブ5と、スロットルバルブ5を駆動するモータ(回転電機)6、実際のスロットル開度を検出するスロットルセンサ7により構成されている。吸入空気は吸気管4aを経てスロットルバルブ5によって調量される。スロットルバルブ開度は、アクセルセンサ44により検出されるアクセル開度(アクセルペダル43の踏み量)と、クランク角センサ45により検出されるエンジン回転速度Neに応じて設定されている。調量された空気は吸気コレクタ4bに蓄えられ、吸気弁8が開いたときにこの吸気コレクタ4bから吸気マニホールド4cを介して各気筒の燃焼室10に分配供給される。第1実施形態は電子制御のスロットル装置の場合であるが、スロットルバルブとアクセルペダルとがワイヤーにより連結されたものであってよい。
エンジン1には点火装置13を備える。点火装置13は、点火プラグ14、パワートランジスタ内蔵の点火コイル15から構成される。点火プラグ14が燃焼室10に直接臨んで、かつ燃料噴射弁12が燃焼室10に直接臨んでそれぞれ設けられている。
エンジンコントローラ41では、吸入空気量QaとNeから基本燃料噴射パルス幅Tp[ms]を算出し、このTpを目標当量比TFBYA[無名数]や空燃比フィードバック補正係数α[無名数]で補正して燃料噴射パルス幅Ti[ms]を算出する。上記の吸入空気量Qaはエアフローメータ42により検出する。所定のタイミングでこのTiだけ燃料噴射弁12を開かせることで、燃料が燃焼室10の内部に直接噴射される。
一方、エンジンコントローラ41では、エンジンの負荷と回転速度Neから所定のマップを参照することにより、MBTが得られる基本点火時期ADV0[degCA(BTDC)]を算出する。特に、高負荷低回転速度域ではノッキングが生じる。このため、ノッキングが生じるときの点火時期より少しだけ遅角側にトレース点火時期ADVtr0[degCA(BTDC)]を、上記の基本点火時期ADV0とは別に定めている。高負荷低回転速度域で、このトレース点火時期ADVtr0と上記の基本点火時期ADV0とを比較すると、トレース点火時期ADVtr0のほうが遅角側にくるので、トレース点火時期ADVtr0が点火時期指令値ADV[degCA(BTDC)]として選択される。
そして、クランク角センサ45により検出されるエンジンのクランク角がこの点火時期指令値ADVと一致するタイミングでパワートランジスタを介して点火コイル15の一次側電流を遮断することで、点火プラグ14から火花を発生させる。
燃焼室10に噴射された燃料は、吸気弁8が閉じた後にスロットルバルブ5によって調量された空気と混合してガスとなり、このガスを点火プラグ14で着火して燃焼させる。燃焼するガスは、シリンダを摺動するピストン11を押し下げる仕事をした後、排気弁9が開いたときに排気通路21に排出される。燃料噴射弁12を設ける位置は燃焼室10に限らない。吸気マニホールド4c(吸気ポート)に燃料噴射弁を設けるものであってよい。
エンジン1には吸気弁用のカムシャフトに対する吸気弁8の作動角中心の位相を可変に調整し得る可変バルブタイミング機構16を備える。同様に、排気弁用のカムシャフトに対する排気弁9の作動角中心の位相を可変に調整し得る可変バルブタイミング機構17を備える。これら2つの可変バルブタイミング機構16,17を用い、吸排気弁8,9の開期間が重複するバルブオーバーラップを例えば低負荷域で生じさせることで、エンジンのポンピングロスが減少する。これによって、エンジンの燃費を良くすることができる。バルブオーバーラップを生じさせる運転域を予め定めており、エンジンコンローラ41ではこの運転域になると、2つの可変バルブタイミング機構16,17に指令してバルブオーバーラップを生じさせる。具体的には、IVO(吸気弁開時期)の特性及びEVC(排気弁閉時期)の特性がエンジンの負荷と回転速度Neをパラメータとするマップ上に予め定められている。エンジンコントローラ41ではエンジンの負荷と回転速度Neから当該各マップを参照して、IVOとEVCを求め、この求めたIVOとEVCが得られるように2つの可変バルブタイミング機構16,17に対して指令値を出力する。
排気通路21は、各気筒の燃焼室10からの排気が流入する排気マニホールド21a、この排気マニホールド21aの集合部に接続される排気管21bで構成される。排気中にはHC、CO、NOxの有害三成分を含むので、これらを全て浄化するため排気マニホールド21aの集合部にマニホールド触媒25を、それよりも下流の排気管21bにメイン触媒26を備えている。メイン触媒26は例えば車両の床下に設けられる。これら各触媒25,26は例えば三元触媒で構成される。排気管21bの末端にはマフラー27を備えている。メイン触媒26の活性化後になると、エンジンコンローラ41では、空燃比フィードバック制御を開始する。空燃比フィードバック制御では、空燃比センサ46及びO2センサ47からの信号に基づいてメイン触媒25の酸素ストレージ量が目標値となるように空燃比フィードバック補正係数α[無名数]を算出する。
図2は外気の重量絶対湿度H[g/kg]に対するトレース点火時期[degCA(BTDC)]の一般的な特性図である。ここでは、ノッキングが生じる運転域(例えば高負荷低回転速度域)を扱うため、トレースノック点、ノック点、サージ点の点火時期の各特性を重ねて示している。
ノッキングは、点火の前に燃焼が始まる、正常燃焼でない燃焼状態のことである。ノッキングが生じるようになるとエンジン1にダメージが生じるので、例えば所定の重量絶対湿度の条件でノッキングレベルがこれ以上大きくなってはいけないノッキングレベルの限界値を定めている。この限界値にノッキングレベルが一致するときが、所定の重量絶対湿度の条件での「ノック点」である。
ノッキングが生じる運転域(エンジンの負荷と回転速度から定まる)かつ所定の重量絶対湿度の条件では、ノッキングが全く生じないほうが良いわけでなく、少しだけノッキングが生じるときにエンジン1のトルクが最も出ることが知られている。このときのノックレベル状態が所定の重量絶対湿度の条件での「トレースノック点」で、上記の「ノック点」よりも遅角側に存在する。従って、ノッキングが生じる運転域では、所定の重量絶対湿度の条件のとき、このトレースノック点となる点火時期(この点火時期を、以下「トレース点火時期」という。)でエンジン1を運転することとなる。
一方、ノッキングが生じる運転域かつ所定の重量絶対湿度の条件で、トレース点火時期よりも点火時期を遅角させていくと、燃焼室10内での燃焼速度が低下して燃焼が不安定になり、平均有効圧がばらつくようになる。このため、所定の重量絶対湿度の条件で燃焼安定度がこれ以上悪化しないように燃焼安定度の限界値を予め定めている。この限界値に燃焼安定度が一致するときが所定の重量絶対湿度の条件での「サージ点」である。
上記ノック点の点火時期、トレース点火時期、上記サージ点の点火時期は、図2に示したように、外気の重量絶対湿度Hに比例して進角する特性である。かつ、外気の重量絶対湿度Hが相違しても、トレース点火時期とノック点の点火時期と間の間隔、トレース点火時期とサージ点の点火時期との間の間隔は同じになっている。言い換えると、ノック点の点火時期、トレース点火時期、サージ点の点火時期の各特性を表す3つの直線の傾きは同じである。ここで、図2横軸の重量絶対湿度Hは、基本的には乾燥空気1kg当たりに水分量が何g入っているかという指標である。重量絶対湿度Hは「混合比」とも呼ばれる。重量絶対湿度と相対湿度との間には関係があるため、外気の相対湿度と外気の温度から外気の重量絶対湿度を算出することができる。
ノック点の点火時期が外気の重量絶対湿度Hに比例して進角する理由は次の通りである。すなわち、燃焼室10内ガスの温度によってノッキングの発生のしやすさが変わってくる。外気の重量絶対湿度H、つまり燃焼室10内ガスの水蒸気量が多いと、燃焼室10内ガスの水蒸気が燃焼ガスの熱を吸い取ってくれるので、燃焼室10内での燃焼速度が低下する。燃焼室10内ガスの水蒸気量が多いほどノッキングが生じにくくなるので、その分、ノック点の点火時期が進角するためである。この結果、ノック点の点火時期から所定値だけ遅角側に設けられるトレースノック点火時期も、外気の重量絶対湿度Hに比例して進角する。
サージ点の点火時期が外気の重量絶対湿度Hに比例して進角する理由は次の通りである。すなわち、燃焼室10内での燃焼が不安定な状態で燃焼室10内ガスの水蒸気量が多いと、その分さらに燃焼室10内での燃焼が不安定になってゆく。これによって、燃焼室10内ガスの水蒸気量が大きいほどサージ点の点火時期が進角するためである。
実際にはV6エンジン、4気筒エンジン、V8エンジンなどエンジンの機種が異なれば、図2に示した点火時期の特性が異なってくる。しかしながら、エンジン機種が異なっても、点火時期を進角していくとノッキングレベルの上昇によってこれ以上進角できない領域が、この逆に点火時期を遅角していくと燃焼不安定によってこれ以上遅角できない領域がそれぞれ存在する。このため、ノッキングを回避し、かつ燃焼が不安定にならないようにするには、ノック点の点火時期とサージ点の点火時期とで区切られた領域にしか点火時期を設定できないこととなる。言い換えると、ノック点の点火時期とサージ点の点火時期はトレース点火時期に対するリミッタ(制限値)として機能する。
このように、トレース点火時期が外気の重量絶対湿度Hに応じて変化するのであれば、外気の実際の重量絶対湿度Hを検出し、検出した重量絶対湿度Hに基づいて、トレースノック点火時期を設定する必要がある。このため、本実施形態では、次のように、外気の重量絶対湿度Hに応じたトレース点火時期(ADVtr+Br)が得られるようにしている。すなわち、後述するように、相対湿度センサ51により検出される外気の相対湿度と、そのときの外気の温度から外気の重量絶対湿度Hを算出する。この外気の重量絶対湿度Hから点火時期の定常湿度補正量Br[degCA]を算出し、この定常湿度補正量Brで基本トレース点火時期ADVtr0[degCA]を補正することで、外気の重量絶対湿度Hに応じたトレース点火時期(ADVtr+Br)を得る。基本トレース点火時期ADVtr0[degCA]は外気の重量絶対湿度が所定値H1のときに適合しているので、外気の重量絶対湿度が所定値H1を外れたときには、その外れた分だけ、基本トレース点火時期ADVtr0が適切な値とならない。この場合に、基本トレース点火時期ADVtr0を定常湿度補正量Brで補正した値であれば、外気の重量絶対湿度が所定値H1を外れたときでも、トレース点火時期として適切な値を与えることができる。
この場合に、外気の重量絶対湿度を直接検出する絶対湿度センサは、現在市販されていないが、外気の相対湿度[%]を検出する相対湿度センサは公知である。例えば、静電容量型の相対湿度センサがある。
この静電容量型の相対湿度センサについてその概略を説明する。例えば、アルミベースの表面に酸化アルミやポリマーなどの多孔質層(不導体)を形成し、その多孔質層の上に櫛状の透湿性金属極を設けている。計測する大気中の水蒸気は、透湿性金属極を透過して多孔質層の孔に吸着される。計測する大気中の水蒸気量が多いほど、透湿性金属極を透過して多孔質層の孔に吸着される水分量が増す。この多孔質層に吸着される水分量に応じて多孔質層の誘電率(静電容量)が変化し、多孔質層の静電容量に応じた電圧が透湿性金属極とアルミベースの間に生じる。大気中の相対湿度が高いほど透湿性金属極とアルミベースの間の電圧が大きくなるので、透湿性金属極とアルミベースの間の電圧を計測することで、計測する大気中の相対湿度を検出することができる。
上記大気中の相対湿度[%]は、そのときの大気の温度が分かっていれば、所定の計算式を用いることで、大気の重量絶対湿度[g/kg]に変換することができる。このため、図1に示したように、エアフローメータ42の近傍に相対湿度センサ51を設けておく。なお、エアフローメータ42には、もともと大気(外気)の温度を検出する温度センサ52が付属している。このようにして、相対湿度センサ51により検出される外気の相対湿度と温度センサ52により検出される外気の温度に基づいて外気の重量絶対湿度を算出することができる。
しかしながら、相対湿度センサ51のセンサ出力には外気の湿度が過渡的に変化する場合に応答遅れがある。例えば、図3上段に実線で示したように外気の相対湿度を20%から40%へとステップ変化させたとき、センサ出力はこのステップ変化に対して、図3上段に一点鎖線で示したようにほぼ一次遅れで応答する。このセンサ出力(相対湿度)から算出される重量絶対湿度の変化を図3上段に対応させて図3下段に一点鎖線で示す。ここで、所定値C1を外気の相対湿度が20%に相当する外気の重量絶対湿度、所定値C2を外気の相対湿度が40%に相当する外気の重量絶対湿度であるとする。図3下段に実線で示したように、外気の重量絶対湿度が所定値C1から所定値C2へとステップ変化するとき、センサ出力から算出される重量絶対湿度は、図3下段に一点鎖線で示したようにほぼ一次後れで応答するのである。
外気の相対湿度が過渡的に変化する場合に相対湿度センサ51のセンサ出力に応答遅れが生じる理由は次の通りである。すなわち、相対湿度センサ51では、基本的には多孔質層への水分量を検出している。この場合、外気の相対湿度が20%の状態にある多孔質層に水分が入って40%の状態になるまでにはガス交換が必要であり、ガス交換が終了するまでに時間がかかるためである。
このように相対湿度センサ51のセンサ出力に過渡的な応答遅れがあると、外気の重量絶対湿度がステップ的に増加する場合に、センサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期がサージ点の点火時期を外れて遅角されることがある。以下、センサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期を「実際のトレース点火時期」ともいう。上記の定常湿度補正量Brを相対湿度センサ51に基づいて算出するので、定常湿度補正量に応答遅れが生じる。従って、定常湿度補正量Brで基本トレース点火時期ADVtr0を補正した値が実際のトレース点火時期に相当することとなる。センサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期がサージ点の点火時期を外れて遅角されると燃焼室10での燃焼が不安定となってエンジン回転速度が不安定となる。
一方、外気の重量絶対湿度がステップ的に減少する場合に、センサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期がノック点の点火時期を外れて進角されることがある。センサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期がノック点の点火時期を外れて進角されると、ノッキングが生じる。
これについてさらに説明する。図4は外気の相対湿度が20%から80%へとステップ変化する場合、図5は外気の相対湿度が20%から40%へとステップ変化する場合に、実際のトレース点火時期がどのように変化するのかをモデルで示している。また、図6は外気の相対湿度が80%から20%へとステップ変化する場合、図7は外気の相対湿度が40%から20%へとステップ変化する場合に、実際のトレース点火時期がどのように変化するのかをモデルで示している。この場合、相対湿度センサ51により検出される相対湿度を、外気の温度を用いて外気の重量絶対湿度Hを算出する。この算出した重量絶対湿度Hから定常湿度補正量Brを算出し、この定常湿度補正量Brで基本トレース点火時期ADVtr0を補正して実際のトレース点火時期(ADVtr0+Br)を算出している。
図4に示したように、外気の重量絶対湿度Hの変化前後でノック点の点火時期(長破線参照)とサージ点の点火時期(短破線参照)がステップ的に変化する。相対湿度センサ51のセンサ出力に遅れがないとしたときのトレース点火時期(以下「要求トレース点火時期」という。)は進角側リミッタとしてのノック点の点火時期と、遅角側リミッタとしてのサージ点の点火時期の間に存在する。そして、要求トレース点火時期は、実線で示したように、ノック点の点火時期とサージ点の点火時期の間でステップ的に変化する。一方、相対湿度センサ51のセンサ出力に応答遅れがあるため、センサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期は、ステップ変化する要求トレース点火時期に対して、一点鎖線で示したように一次遅れで変化する。なお、図4では、センサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期を「実際のトレース点火時期(本実施形態の過渡分湿度補正無し)」で記載している。すると、t1からt2まの期間でセンサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期がサージ点の点火時期より外れて遅角され、燃焼室10での燃焼が不安定となってしまう。
上記図4は外気の相対湿度が相対的に大きく増加する場合であった。一方、図5は外気の相対湿度の増加変化が上記図4の場合より小さい場合である。外気の相対湿度が20%から40%へとステップ変化する場合には、センサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期が図5に一点鎖線で示したようにサージ点の点火時期よりも進角側に収まっている。なお、図5でも、センサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期を「実際のトレース点火時期(本実施形態の過渡分湿度補正無し)」で記載している。このため、燃焼室10内での燃焼の不安定は生じない。
このように、上記図4,図5によれば、外気の相対湿度が過渡的に増加する場合には、相対的に大きく変化するときにだけ、センサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期がサージ点の点火時期より外れて遅角されてしまうのである。
次に、図6に示したように、外気の重量絶対湿度の変化前後でノック点の点火時期(長破線参照)とサージ点の点火時期(短破線参照)がステップ的に変化する。要求トレース点火時期は進角側リミッタとしてのノック点の点火時期と、遅角側リミッタとしてのサージ点の点火時期の間に存在する。そして、要求トレース点火時期は、実線で示したように、ノック点の点火時期とサージ点の点火時期の間でステップ的に変化する。一方、相対湿度センサ51のセンサ出力に応答遅れがあるため、センサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期は、ステップ変化する要求トレース点火時期に対して、一点鎖線のように一次遅れで変化する。なお、図6でも、センサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期を「実際のトレース点火時期(本実施形態の過渡分湿度補正無し)」で記載している。すると、t21からt22の期間でセンサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期がノック点の点火時期より外れて進角され、ノッキングが生じてしまう。
上記図6は外気の相対湿度が相対的に大きく減少する場合であった。一方、図7は外気の相対湿度の減少変化が上記図6の場合より小さい場合である。外気の相対湿度が40%から20%へとステップ変化する場合にも、t31からt32の期間でセンサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期が図7に示したように、ノック点の点火時期より外れて進角される。なお、図7でも、センサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期を「実際のトレース点火時期(本実施形態の過渡分湿度補正無し)」で記載している。これによって、ノッキングが生じてしまう。
このように、上記図6,図7によれば、外気の相対湿度が過渡的に減少する場合には、相対的に大きく変化するときに加えて相対的に小さく変化するときにも、センサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期がノック点の点火時期より外れて進角されてしまう。なお、上記図4〜図7では、簡易的に外気の相対湿度の変化で記載しているが、実際には外気の重量絶対湿度の変化で考える必要がある。
そこで、本発明の第1実施形態では、外気の重量絶対湿度Hが過渡的に変化する場合に、外気の重量絶対湿度Hが変化する方向を判定する。同じく外気の重量絶対湿度Hが過渡的に変化する場合に、外気の重量絶対湿度Hの単位時間当たり変化量ΔHを算出する。これら重量絶対湿度が変化する方向及び単位時間当たり変化量ΔHに応じて、点火時期の過渡分湿度補正量Arを算出する。この過渡分湿度補正量Arで上記センサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期(ADVtr0+Br)を補正して目標トレース点火時期tADVtr(=ADVtr0+Br+Ar)を算出する。そして、この目標トレース点火時期tADVtrを点火装置13に指令する。
以下詳述する。上記「外気の重量絶対湿度Hが変化する方向」とは、外気の重量絶対湿度Hが過渡的に増加する場合と外気の重量絶対湿度Hが過渡的に減少する場合とを含めた概念である。つまり、外気の重量絶対湿度Hが増加する側に変化する方向の場合が、外気の重量絶対湿度Hが過渡的に増加する場合であり、外気の重量絶対湿度Hが減少する側に変化する方向の場合が、外気の重量絶対湿度Hが過渡的に減少する場合である。
外気の重量絶対湿度Hが過渡的に変化する場合の具体例としては、例えば上記エンジン1を搭載した車両がトンネルに入ったり出たりする場合がある。トンネルの中は、基本的にはトンネルの外よりも高温多湿の状態となっている。これは、車両の通行がある時間、継続して行われた後には車両から排出された高温の排気でトンネルの内部が一杯になり、トンネル内を漂う排気中には水分が多く含まれるためである。そして、トンネルの外部の外気が乾燥していたりトンネルの外部が砂漠地帯であったりすれば、車両がトンネルに入る場合に外気の重量絶対湿度Hが過渡的に増加し、車両がトンネルから出る場合に外気の重量絶対湿度Hが過渡的に減少する。一方、上記エンジン1を搭載した車両を洗車機に入れたり出したりする場合や、当該車両を高温多湿のガレージから出したり入れたりする場合などにも、外気の重量絶対湿度Hが過渡的に変化する可能性がある。
外気の重量絶対湿度Hが過渡的に変化する場合に、相対湿度センサ51のセンサ出力自体の動きは遅いものの、動き始めることに変わりない。このため、外気の重量絶対湿度が増加側に変化した場合にはセンサ出力が増加側に動き、外気の重量絶対湿度が減少側に変化した場合にはセンサ出力が減少側に動く。かつ、重量絶対湿度変化の行き先が大きければ大きいほど外気の重量絶対湿度の単位時間当たり変化量ΔHの絶対値が大きくなるので、重量絶対湿度変化の行き先が相対的に低い値なのか相対的に高い値なのかは、外気の重量絶対湿度の単位時間当たり変化量ΔHの絶対値で推定できる。
図8は外気の重量絶対湿度の単位時間当たり変化量ΔH[g/kg/s]に対する点火時期の過渡分湿度補正量Ar[degCA]の特性図である。横軸に外気の重量絶対湿度の単位時間当たり変化量ΔH、縦軸に点火時期の過渡分湿度補正量Arを採っている。ここで、横軸の単位時間当たり変化量ΔHについては、外気の重量絶対湿度が過渡的に増加する場合に単位時間当たり変化量ΔHが正の値に、外気の重量絶対湿度が過渡的に減少する場合に単位時間当たり変化量ΔHが負の値になる。一方、縦軸の過渡分湿度補正量Arについては、過渡分湿度補正量Arが正の値のとき進角補正量であることを、過渡分湿度補正量Arが負の値のとき遅角補正量であることを表している。なお、過渡分湿度補正量Arが負の値であっても、遅角補正量そのものは正の値で考えるものとする。
まず、単位時間当たり変化量ΔHが正の場合(外気の重量絶対湿度Hが過渡的に増加する場合)には過渡分湿度補正量Arを正の値(進角補正量)で与える。これは次の理由による。すなわち、上記図4に示したように外気の重量絶対湿度Hが過渡的に増加する場合にセンサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期がサージ点の点火時期を外れて遅角側となった(図4の一点鎖線参照)。この場合に本実施形態では過渡分湿度補正量Arを進角補正量で与えることで、センサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期がサージ点の点火時期を外れて遅角側とならないようにするためである。図4では本実施形態の場合を「実際のトレース点火時期(本実施形態の過渡分湿度補正有り)」で重ねて記載している(図4の二点鎖線参照)。
上記図5の場合にも、上記図4の場合と同様に、本実施形態では過渡分湿度補正量Arを進角補正量で与える。図5でも本実施形態の場合を「実際のトレース点火時期(本実施形態の過渡分湿度補正有り)」で重ねて記載している(図5の二点鎖線参照)。
一方、単位時間当たり変化量ΔHが負の場合(外気の重量絶対湿度が過渡的に減少する場合)には過渡分湿度補正量Arを負の値(遅角補正量)で与える。これは次の理由による。すなわち、上記図6に示したように外気の重量絶対湿度が過渡的に減少する場合にセンサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期がノック点の点火時期を外れて進角側となった(図6の一点鎖線参照)。この場合に本実施形態では過渡分湿度補正量Arを遅角補正量で与えることで、センサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期がノック点の点火時期を外れて進角側とならないようにするためである。図6でも本実施形態の場合を「実際のトレース点火時期(本実施形態の過渡分湿度補正有り)」で重ねて記載している(図6の二点鎖線参照)。
上記図7の場合にも、上記図6の場合と同様に、本実施形態では過渡分湿度補正量Arを遅角補正量で与える。図7でも本実施形態の場合を「実際のトレース点火時期(本実施形態の過渡分湿度補正有り)」で重ねて記載している(図7の二点鎖線参照)。
次に、外気の重量絶対湿度Hが過渡的に増加する場合に与える進角補正量を、外気の重量絶対湿度の単位時間当たり変化量ΔHに比例させて定める。この結果、外気の重量絶対湿度Hが過渡的に増加する場合に与える進角補正量は、図8右半分に示したように、ΔHが大きくなるとき右肩上がりの直線の特性となる。
一方、外気の重量絶対湿度Hが過渡的に減少する場合に与える遅角補正量を、外気の重量絶対湿度の単位時間当たり変化量ΔHの絶対値に比例させて定める。この結果、外気の重量絶対湿度Hが過渡的に減少する場合に与える遅角補正量は、図8左半分に示したように、ΔHが負で大きくなるとき左肩下がりの直線の特性となる。
さらに、図8に示したように、外気の重量絶対湿度Hが過渡的に増加する場合に与える進角補正量の直線の傾きの大きさ(D1)と、外気の重量絶対湿度Hが過渡的に減少する場合に与える遅角補正量の直線の傾きの大きさ(|D2|)を相違させる。つまり、同じ単位時間当たり変化量ΔHでも、外気の重量絶対湿度Hが過渡的に減少する場合に与える遅角補正量のほうが外気の重量絶対湿度Hが過渡的に増加する場合に与える進角補正量より大きくなるようにする。
この理由を、図9を参照して説明する。図9は外気の重量絶対湿度Hが過渡的に変化する場合にノック点、サージ点の各点火時期、要求トレース点火時期、センサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期がどのように変化するのかをモデルで示している。なお、図9では、センサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期を「実際のトレース点火時期」で記載している(図9の一点鎖線参照)。図9上段は外気の重量絶対湿度Hが過渡的に増加する場合(以下「湿度増加側」ともいう。)、図9下段は外気の重量絶対湿度Hが過渡的に減少する場合(以下「湿度減少側」ともいう。)である。
ここで、湿度増加側と湿度減少側とで単位時間当たり変化量ΔHは絶対値で同じ値とする。この場合には、湿度増加側と湿度減少側とでセンサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期の単位時間当たり変化量が絶対値で同じになる。このセンサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期の単位時間当たり変化量の絶対値を所定値Aとする。
湿度増加側では、図9上段に示したように、t41の過渡変化タイミングより単位時間が経過したタイミングでの、センサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期はC点にある。C点は、サージ点の点火時期を外れて遅角側にある。このとき進角補正量として所定値Bを与えることで、進角補正後の、センサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期はD点に移動する。これによって、遅角補正後の、センサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期はサージ点の点火時期と一致している(図9上段の一点鎖線参照)。これより燃焼室10内での燃焼の不安定は生じない。
一方、湿度減少側では、図9下段に示したように、t41の過渡変化タイミングより単位時間が経過したタイミングでの、センサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期はE点にある。E点は、ノック点の点火時期を外れて進角側にある。このとき遅角補正量として上記進角補正量Bの絶対値と同じ値(|B|)を与えても、遅角補正後の、センサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期はF点に移動するだけである。F点は、なおノック点の点火時期より進角側にある。これによってノッキングが生じる。
このように、絶対量が同じ値の過渡分湿度補正量Arを与えたとき、湿度増加側と湿度減少側とで違いが生じるのは、要求トレース点火時期とノック点の点火時期との間の幅(余裕代)のほうが要求トレース点火時期とサージ点の点火時期との間の幅(余裕代)よりせまいためである。そこで、湿度減少側では湿度増加側より過渡分湿度補正量Arの絶対値を増やす、つまり外気の重量絶対湿度Hが過渡的に減少する場合に与える遅角補正量を外気の重量絶対湿度Hが過渡的に増加する場合に与える進角補正量より大きくする。これによって、湿度減少側で生じるノッキングを確実に回避するのである。
上記の過渡分湿度補正量Arを、上記センサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期(ADVtr0+Br)に加算することによって目標トレース点火時期tADVtr[degCA(BTDC)]を、つまり次式により目標トレース点火時期tADVtrを算出する。
tADVtr=ADVtr0+Br+Ar …(1)
本実施形態では、(1)式の過渡分湿度補正量Arを新たに導入することで、外気の重量絶対湿度が過渡的に減少する場合に、相対湿度センサに応答遅れがあっても、ノッキングが生じることを回避するのである。また、外気の重量絶対湿度が過渡的に増加する場合に、相対湿度センサに応答遅れがあっても、燃焼室10内で燃焼が不安定となることを回避するのである。このように、(1)式の過渡湿度分補正量Arを新たに導入することで、本実施形態では、図4〜図7に示したように、本実施形態では実際のトレース点火時期(図4〜図7の二点鎖線参照)が実線の要求トレース点火時期とよく一致している。
エンジンコントローラ41で行われるこの点火時期制御を図10A,図10B,図13のフローチャートを参照してさらに説明する。
まず、図10A,図10Bのフローは目標トレース点火時期tADVtr[degCA(BTDC)]を算出するためのもので、所定のクランク角位置になるタイミング毎に実行する。この算出タイミングとして、例えば点火時期よりも進角側のクランク角位置を予め定めておく。
図10Aのステップ1ではエンジンの負荷と回転速度Neから図11を内容とするマップを検索することにより、基本トレース点火時期ADVtr0[degCA(BTDC)]を算出する。基本トレース点火時期ADVtr0は、外気の重量絶対湿度Hが所定値H1の条件で、エンジンの負荷と回転速度Neを相違させて適合したトレース点火時期である。
図10Aのステップ2では、相対湿度センサ51により検出される外気の相対湿度と温度センサ52により検出される外気の温度から外気の重量絶対湿度H[g/kg]を算出する。
図10Aのステップ3では、この外気の重量絶対湿度Hから図12を内容とするテーブルを検索することにより、点火時期の定常湿度分補正量Br[degCA]を算出する。図12に示したように、点火時期の定常湿度分補正量Brは外気の重量絶対湿度Hが所定値H1のときゼロである。また、定常湿度分補正量Brは重量絶対湿度Hが所定値H1より大きくなるほど正の値で大きくなる値である。一方、定常湿度分補正量Brは重量絶対湿度Hが所定値H1より小さくなるほど負の値で大きくなる値である。
定常湿度分補正量Brが必要になる理由は次の通りである。すなわち、上記の基本トレース点火時期ADVtr0は、外気の重量絶対湿度Hが所定値H1から外れた場合に、適切な値とならない。例えば、外気の重量絶対湿度Hが所定値H1から外れて小さい場合には、所定値H1との差の分だけ燃焼室10内の水分量が少なくなるので、ノッキングが発生し易くなる。つまり、ノッキングが発生し易くなる分だけ基本トレース点火時期を遅角側に補正するため、定常湿度分補正量Brを負の値(遅角量)で与えるのである。一方、外気の重量絶対湿度Hが所定値H1から外れて大きい場合には、所定値H1との差の分だけ燃焼室10内の水分量が多くなるので、ノッキングの発生が抑えられる。つまり、ノッキングの発生が抑えられる分だけ基本トレース点火時期を進角側に補正するため、定常湿度分補正量Brを正の値(進角量)で与えるのである。
図10Aのステップ4〜図10Bのステップ24は点火時期の過渡分湿度補正量Ar[degCA]を算出する部分である。まず図10Aのステップ4では、外気の重量絶対湿度の単位時間当たり変化量ΔH[g/kg/s]を次の式により算出する。
ΔH=H−H(前回) …(2)
ただし、H(前回):Hの前回値、
単位時間当たり変化量ΔHは、外気の重量絶対湿度Hが過渡的に増加する場合に正の値となり、外気の重量絶対湿度Hが過渡的に減少する場合に負の値となる。
詳細には、図10Aのステップ4を一定時間毎に実行するサブルーチンで構成する。当該サブルーチンを、例えば1秒毎に実行させるものとし、1秒前の外気の重量絶対湿度の値を「H(前回)」としてメモリに保存させておく。そして、保存させてある1秒前の外気の重量絶対湿度である「H(前回)」の値と今回の外気の重量絶対湿度Hの値との差を単位時間当たり変化量ΔHとして算出する。このサブルーチンは単位時間を1秒とするものであるが、単位時間は必ずしも1秒に限られるものでなく、1秒以外の時間であってよい。
図10Bのステップ5では単位時間当たり変化量ΔHとゼロを比較する。単位時間当たり変化量ΔHがゼロであるときには外気の重量絶対湿度Hが過渡的に変化する場合でない、つまり定常状態にあると判断する。あるいはΔHと許容値ε(正の値)とを比較させ、−ε≦ΔH≦εである場合に定常状態にあると判断させる場合であってよい。定常状態にある場合には図10Bのステップ6に進み、基本トレース点火時期ADVtr0に定常湿度補正量Brを加算することによって目標トレース点火時期tADVtr[degCA(BTDC)]を、つまり次式により目標トレース点火時期tADVtrを算出する。
tADVtr=ADVtr0+Br …(3)
一方、図10Bのステップ5で単位時間当たり変化量ΔHがゼロでないときには外気の重量絶対湿度Hが過渡的に変化する場合であると判断する。あるいはΔH>εである場合やΔh<−εである場合に外気の重量絶対湿度Hが過渡的に変化する場合であると判断する。このときには図10Bのステップ7に進み、過渡フラグ(エンジン始動時にゼロに初期設定)をみる。ここでは過渡フラグ=0であるとしてステップ8に進む。
図10Bのステップ8では、単位時間当たり変化量ΔHが正であるか否かをみる。単位時間当たり変化量ΔHが正であるときには、外気の重量絶対湿度Hが過渡的に増加する場合であると判断する。このときには、図10Bのステップ9,10に進む。
図10Bのステップ9,10は、外気の重量絶対湿度Hが過渡的に増加する場合に過渡分湿度補正量Arの初期値を与える部分である。まず図10Bのステップ9では、単位時間当たり変化量ΔHから図13を内容とするテーブルを検索することにより、進角補正量Hadv[degCA]を算出し、これを過渡分湿度補正量Ar[degCA]に入れる。図13は上記図8右半分と同じものである。
図10Bのステップ11では、外気の重量絶対湿度Hが過渡的に増加することを示すため増加フラグ(エンジン始動時にゼロに初期設定)=1とする。図10Bのステップ12では、外気の重量絶対湿度Hが過渡的に変化したことを示すため、過渡フラグ(エンジン始動時にゼロに初期設定)=1とした後、図10Bのステップ25に進む。
図10Bのステップ12で過渡フラグ=1としたことより、次回以降は図10Bのステップ7より図10Bのステップ16に進む。図10Bのステップ16では、増加フラグをみる。増加フラグ=1であるので、図10Bのステップ17〜19に進む。
図10Bのステップ17〜19は過渡分湿度補正量を上記初期値から漸減する部分である。まず図10Bのステップ17では、過渡分湿度補正量の前回値である「Ar(前回)」より一定値Jを減算した値を今回の過渡分湿度補正量Ar[degCA]として、つまり次式により今回の過渡分湿度補正量Arを算出する。
Ar=Ar(前回)−J …(4)
ただし、Ar(前回):Arの前回値、
J:一定値(正の値)[degCA]、
図10Bのステップ18では、上記(4)式により得た今回の過渡分湿度補正量Arとゼロを比較する。今回の過渡分湿度補正量Arがゼロ以上であればそのまま図10Bのステップ25に進む。
過渡フラグ=1かつ増加フラグ=1である限り図10Bのステップ7,16より図10Bのステップ17に進んで、図10Bのステップ17の操作を繰り返す。図10Bのステップ17では過渡分湿度補正量Arを一定値Jずつ減量するので、やがて過渡分湿度補正量Arが負の値となる。このときには図10Bのステップ19に進んで過渡分湿度補正量Arにゼロを入れる。これで過渡分湿度補正を終了するので、図10Bのステップ20で過渡フラグ=0にリセットした後、図10Bのステップ25に進む。
一方、図10Bのステップ8で単位時間当たり変化量ΔHが正でない、つまり負であるときには、外気の重量絶対湿度Hが過渡的に減少する場合であると判断する。このときには、図10Bのステップ13,14に進む。
図10Bのステップ13,14は、外気の重量絶対湿度Hが過渡的に減少する場合に過渡分湿度補正量Arの初期値を与える部分である。まず図10Bのステップ13では、単位時間当たり変化量の絶対値|ΔH|から図14を内容とするテーブルを検索することにより、遅角補正量Hrtd[degCA]を算出し、これを過渡分湿度補正量Ar[degCA]に入れる。図14は上記図8左半分と同じものである。
図10Bのステップ15では、外気の重量絶対湿度Hが過渡的に減少することを示すため増加フラグ(エンジン始動時にゼロに初期設定)=0とする。図10Bのステップ12では、外気の重量絶対湿度Hが過渡的に変化したことを示すため、過渡フラグ(エンジン始動時にゼロに初期設定)=1とした後、図10Bのステップ25に進む。
図10Bのステップ12で過渡フラグ=1としたことより、次回以降は図10Bのステップ7より図10Bのステップ16に進む。図10Bのステップ16では、増加フラグをみる。増加フラグ=0であるので、図10Bのステップ21〜23に進む。
図10Bのステップ21〜23は過渡分湿度補正量を上記初期値から漸増する部分である。まず図10Bのステップ21では、過渡分湿度補正量の前回値である「Ar(前回)」に一定値Kを加算した値を今回の過渡分湿度補正量Ar[degCA]として、つまり次式により今回の過渡分湿度補正量Arを算出する。
Ar=Ar(前回)+K …(5)
ただし、Ar(前回):Arの前回値、
K:一定値(正の値)[degCA]、
図10Bのステップ22では、上記(5)式により得た今回の過渡分湿度補正量Arとゼロを比較する。今回の過渡分湿度補正量Arがゼロ以下であればそのまま図10Bのステップ25に進む。
過渡フラグ=1かつ増加フラグ=0である限り図10Bのステップ7,16より図10Bのステップ21に進んで、図10Bのステップ21の操作を繰り返す。図10Bのステップ21では過渡分湿度補正量Arに一定値Kずつ加算するので、やがて過渡分湿度補正量Arが正の値となる。このときには図10Bのステップ23に進んで過渡分湿度補正量Arにゼロを入れる。これで過渡分湿度補正を終了するので、図10Bのステップ24で過渡フラグ=0にリセットした後、図10Bのステップ25に進む。
図10Bのステップ25では、基本トレース点火時期ADVtr0に過渡分湿度補正量Arと定常湿度補正量Brを加算することによって目標トレース点火時期tADVtr[degCA(BTDC)]を、つまり次式により目標トレース点火時期tADVtrを算出する。
tADVtr=ADVtr0+Br+Ar …(6)
ここで、(6)式のADVtr0+Brがセンサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期である。本実施形態では、新たに過渡分湿度補正量Arを導入し、センサ出力に基づいて算出されるトレース点火時期(ADVtr0+Br)をこの過渡分湿度補正量Arで補正した値を目標トレース点火時期tADVtrとするのである。このようにして算出した目標トレース点火時期tADVtrはメモリに記憶しておく。
この目標トレース点火時期tADVtrをそのまま点火装置13に出力してもよいのであるが、本実施形態では、ノックセンサ53に基づく点火時期フィードバック制御を行っている。このため、目標トレース点火時期tADVtrに対して、ノックセンサに基づく点火時期フィードバック制御を反映させた値が点火時期指令値ADVとなる。
図15のフローは点火時期指令値ADV[degCA(BTDC)]を算出するためのもので、図10A,図10Bのフローに続けて、所定のクランク角位置になるタイミング毎に実行する。ここでは、図10A,図10Bと図15の2つのフローに分けて示しているが、図10A,図10Bと図15の2つのフローをまとめたフローとしてもよい。
図15のフローではステップ35を飛ばして説明し、最後にステップ35を説明する。ステップ31〜32、34はノックセンサ53(図1参照)の出力に基づいて点火時期フィードバック量FBを算出する部分である。まず、ステップ31では、ノックセンサ53により検出されるノックレベルに基づいてノッキングが発したか否かをみる。ノックセンサ53により検出されるノックレベルが予め定めているしきい値を超えているときにはノッキングが生じたと判断し、ステップ32に進む。
ステップ32では点火時期フィードバック量の前回値である「FB(前回)」に一定値aを加算した値を今回の点火時期フィードバック量FB[degCA]として、つまり次式により点火時期フィードバック量FBを算出する。
FB=FB(前回)+a …(7)
ただし、FB(前回):FBの前回値、
a:一定値(正の値)[degCA]、
(7)式の「FB(前回)」の初期値にはゼロを入れておく。(7)式の一定値aはノッキングを回避するための値で、予め定めておく。後述するように、ノッキングが生じたときには点火時期が一定値aだけ遅角されるので、ノッキングが回避される。
ステップ33では、ノック発生回数Nknock[回]を1だけ増やす。ノック発生回数Nknockはノッキングが生じた回数を計測するためのものである。ノック発生回数Nknockは今回のエンジン停止後もその値が喪失しないように不揮発性メモリに記憶しておく。
ステップ32の操作でノッキングが回避された次の燃焼時にはノッキングは生じない。このときにはステップ31よりステップ34に進む。
ステップ34では、点火時期フィードバック量の前回値である「FB(前回)」から一定値bを減算した値を今回の点火時期フィードバック量FB[degCA]として、つまり次式により点火時期フィードバック量FBを算出する。
FB=FB(前回)−b …(8)
ただし、FB(前回):FBの前回値、
B:一定値(正の値)[degCA]、
(8)式の一定値bは上記(7)式の一定値aより小さい値である。ステップ31でノッキングが発生しない間は、ステップ34の操作を実行する。これによって、点火時期が徐々に進角側に戻される。
このように、ノッキングが生じたときには点火時期を一定量(a)遅角することで、ノッキングを回避し、その後には点火時期を一定量(b)ずつ徐々に進角させて元の位置に戻す点火時期のフィードバック制御を行う。
上記のステップ33とステップ36〜39はフィードバック量FBを学習する部分である。ステップ36では、ノック発生回数Nknock[回]と所定値N1[回]を比較する。所定値N1は学習タイミングを定めるための値で、予め定めておく。ノック発生回数Nknockが所定値N1を超えたときには学習タイミングになったと判断する。このときにはステップ37〜39に進む。
ステップ37ではフィードバック量FBを学習値GAK[degCA]に移し、ステップ38でフィードバック量FBにゼロを入れる。学習値GAKは今回のエンジン停止後もその値が喪失しないように不揮発性メモリに記憶しておく。ステップ39では次回の学習に備えるためノック発生回数Nknockにゼロを入れ、再び、ノック発生回数Nknockを計測する。
ステップ40では、目標トレース点火時期tADVtr(図10のフローにより算出済み)から学習値とフィードバック量を減算した値を点火時期指令値ADV[degCA(BTDC)]として、つまり次式により点火時期指令値ADVを算出する。
ADV= tADVtr−GAK−FB …(9)
目標トレース点火時期tADVtrの単位は、圧縮上死点から進角側に計測した値であるので、目標トレース点火時期tADVtrから学習値GAKやフィードバック量FBを差し引くことは、tADVtrより遅角側の値を点火時期指令値とすることを意味する。学習値GAKやフィードバック量FBで目標トレース点火時期tADVtrを遅角側に補正するのである。このようにして算出した点火時期指令値ADVはレジスタに格納しておく。
図示しないフローでは、このようにして算出した点火時期指令値ADVを点火装置13に出力する。
図13で説明した点火時期フィードバック量FBの学習についてさらに説明する。例えば、エンジン1がハイオクガソリン仕様であるとした場合に、レギュラーガソリンを使うと、オクタン価がハイオクガソリンより低くなる分でノッキングが発生しがちとなる。点火時期フィードバック量の学習を導入していない場合を考えると、レギュラーガソリン使用時に高負荷低回転速度域でノッキングが発生する。すると、点火時期フィードバック量FBが正の値で残る。この正の値の点火時期フィードバック量FBで目標トレース点火時期tADVtrを補正することで、ノッキングが回避される。
しかしながら、点火時期フィードバック量FBはエンジン1を始動する毎にゼロに初期設定される。このため、次回のエンジン運転時にもレギュラーガソリンを使っていると、高負荷低回転速度域で再びノッキングが発生する。すると、点火時期フィードバック量FBが正の値となり、正の値の点火時期フィードバック量FBで目標トレース点火時期tADVtrを補正することで、ノッキングが回避される。このように、点火時期フィードバック量FBのみの構成であると、エンジンを始動する毎に同じ制御が繰り返されるために、エンジン1の運転中に高負荷低回転速度域になると、ノッキングが生じることとなる。
一方、点火時期フィードバック量の学習を導入すると、点火時期フィードバック量FBが正の値として存在していれば、ノック発生回数Nknockが所定値N1を超えたときにその存在する正の値が学習値GAKに移される。学習値GAKはエンジン1の運転停止後も、その値が消失しないように保持されている。そして、エンジン1の始動当初より、目標トレース点火時期tADVtrから学習値GAKが差し引かれるので、高負荷低回転速度域になってもノッキングが生じない。点火時期フィードバック量の学習を導入していない場合には、レギュラーガソリンを使い続けている限り、エンジン1の始動後の初めての高負荷低回転速度域でノッキングが生じていたが、点火時期フィードバック量の学習を導入することで、こうした事態を回避できるのである。
さて、本実施形態でも、外気の重量絶対湿度Hが過渡的に減少する場合に、ノッキングが生じることがあり、そのために過渡分湿度補正量Arを新たに導入している。つまり、点火時期フィードバック量の学習と合わせて、ノッキング回避の対策が2つになるわけある。そうなると、制御の干渉を避ける必要がある。
このため、図15に示したように、本実施形態ではステップ35を新たに追加する。すなわち、ステップ35で過渡フラグ(図10A,図10Bのフローにより設定済み)をみる。過渡フラグ=1であるときには、本実施形態で新たに導入した過渡分湿度補正量Arによってノッキング回避の制御が行われていると判断する。このときには、点火時期フィードバック量の学習との制御の干渉をさけるため、ステップ36〜39の操作を飛ばす。これによって、点火時期フィードバック量の学習との干渉を回避することができた。
次に、図16は外気の重量絶対湿度Hが所定値H1の状態から過渡的に所定値H2へと減少する場合に、目標トレース点火時期tADVtrがどのように変化するのかをモデルで示したタイミングチャートである。ここで、上記の所定値H1は基本トレース点火時期ADVtr0を適合したときの外気の重量絶対湿度であるため、外気の重量絶対湿度Hが所定値H1の状態では定常湿度補正量Brがゼロになっている(図16第5段目参照)。
さて、外気の重量絶対湿度Hが図16第2段目に実線で示したように、所定値H1からt51のタイミングで過渡的に減少してt52のタイミングで所定値H2へと変化したとする。この動きを仮に「目標重量絶対湿度」tHの変化であるとする。このように、目標重量絶対湿度tHがステップ変化したとしても、相対湿度センサ51のセンサ出力には応答遅れがあるため、センサ出力は、図16最上段に示したように所定値R1から所定値R2へと一次遅れで減少し、t53のタイミングで所定値R2に落ち着く。センサ出力に基づいて算出される外気の重量絶対湿度Hrealは、図16第2段目に一点鎖線で示したように、所定値H1から所定値H2へと一次遅れで減少し、t53のタイミングで所定値H2に落ち着く。
このように一次遅れで変化する外気の重量絶対湿度Hrealから算出される定常湿度補正量Brは図16第5段目に示したように、ゼロから一次遅れで小さくなり、t53のタイミングで所定値Br1に落ち着く。
この場合に、センサ出力に基づいて算出される外気の重量絶対湿度Hrealと目標重量絶対湿度tHの湿度偏差ΔHdを採ると、湿度偏差ΔHdは次式で与えられる値である。
ΔHd=tH−Hreal …(10)
(10)式の湿度偏差ΔHdは、図16第3段目に示したように、ゼロからt51のタイミングで小さくなってt52のタイミングで所定値ΔH1(負の値)となり、その後は徐々にゼロに向かって変化し、t53のタイミングでゼロに戻る。
このように変化する湿度偏差ΔHdに比例して過渡分湿度補正量Ar’を、つまり次式により過渡分湿度補正量Ar’を算出する。
Ar’=ΔHd×比例定数 …(11)
(11)式の過渡分湿度補正量Ar’は、図16第4段目に示したように、ゼロからt51のタイミングで小さくなってt52のタイミングで所定値Ar1’(負の値)となり、その後は徐々にゼロに向かって変化し、t53のタイミングでゼロに戻る。
図16最下段に破線で示したように、基本トレース点火時期ADVtr0に定常湿度補正量Brを加算して得られる目標トレース点火時期(図16では「定常湿度補正のみのtADVtr」で記載)は、t51のタイミングより一次遅れでしか変化しない。このため、当該目標トレース点時期がノック点の点火時期を外れて進角されることがあり、前述のようにノッキングが発生する。
一方、さらに過渡分湿度補正量Ar’を加算して得られる目標トレース点火時期(図16では「定常湿度補正に加えて過渡分湿度補正を有するtADVtr」で記載)は、図16最下段に二点鎖線で示したように、t51のタイミングからステップ的に小さくなる。そして、t52のタイミングで、実線で示した要求トレース点火時期に一致している。このように過渡分湿度補正量Ar’を新たに導入することで、外気の重量絶対湿度が過渡的に減少する場合に、相対湿度センサのセンサ出力に応答遅れがあっても、ノッキングが生じることを回避できることとなる。
さて、図16では、目標重量絶対湿度tHを仮定した。仮定した目標重量絶対湿度tHの変化が予め分かるのであれば、上記湿度偏差ΔHdを、したがって過渡分湿度補正量Ar’を簡易に求めることができる。しかしながら、実際には変化先の目標重量絶対湿度を変化直後に予め知り得ない。そこで、本実施形態では、上記湿度偏差ΔHdの代用値として、外気の重量絶対湿度の単位時間当たり変化量ΔHを採用し、この単位時間当たり変化量ΔHと外気の重量絶対湿度が変化する方向とから近似的に過渡分湿度補正量Arを算出しているのである。
ここで、本実施形態の作用効果を説明する。
本実施形態では、相対湿度センサ51と、重量絶対湿度算出手段と、変化方向判定手段と、単位時間当たり変化量算出手段と、過渡分湿度補正量算出手段と、トレース点火時期算出手段と、目標トレース点火時期算出手段と、点火時期指令手段とを備える。上記相対湿度センサ51は外気の重量絶対湿度が過渡的に変化する場合に、応答遅れを有する。上記重量絶対湿度算出手段は前記相対湿度センサの出力に基づいて外気の重量絶対湿度Hを算出する。上記変化方向判定手段は前記算出される外気の重量絶対湿度Hが過渡的に変化する場合に、外気の重量絶対湿度が変化する方向を判定する。上記単位時間当たり変化量算出手段は同じく前記算出される外気の重量絶対湿度Hが過渡的に変化する場合に、外気の重量絶対湿度の単位時間当たり変化量ΔHを算出する。上記過渡分湿度補正量算出手段は前記判定される重量絶対湿度Hが変化する方向及び前記算出される単位時間当たり変化量ΔHに応じて、点火時期の過渡分湿度補正量Arを算出する。上記トレース点火時期算出手段は前記算出される外気の重量絶対湿度Hに応じて、ノック点の点火時期よりも一定量遅角側のトレース点火時期ADVtr0を算出する。上記目標トレース点火時期算出手段は前記算出される過渡分湿度補正量Arで前記算出されるトレース点火時期ADVtr0を補正して目標トレース点火時期tADVtrを算出する。上記点火時期指令手段は前記算出される目標トレース点火時期tADVtrを点火装置13に指令する。これによって、外気の重量絶対湿度Hが過渡的に変化する場合に、相対湿度センサ51に応答遅れがあっても、ノッキングが生じることを回避することができる。
本実施形態では、外気の重量絶対湿度Hが過渡的に減少する場合に過渡分湿度補正量Arは遅角補正量Hrtdである。これによって、外気の重量絶対湿度Hが過渡的に減少する場合に、実際のトレース点火時期がノック点の点火時期を外れて進角されてしまうことを回避できる。
本実施形態では、外気の重量絶対湿度Hが過渡的に増加する場合に過渡分湿度補正量Arは進角補正量Hadvである。これによって、外気の重量絶対湿度Hが過渡的に増加する場合に、実際のトレース点火時期がサージ点の点火時期を外れて進角されてしまうことを回避できる。
本実施形態では、前記トレース点火時期よりも遅角側にサージ点の点火時期を設定している。この場合に、ノック点の点火時期とトレース点火時期との間の間隔が、サージ点の点火時期とトレース点火時期との間の間隔より狭い場合に、単位時間当たり変化量ΔHが同じでも、前記遅角補正量Hrtdを前記進角補正量Hadvより大きくする。これによって、ノック点の点火時期とトレース点火時期との間の間隔が、サージ点の点火時期とトレース点火時期との間の間隔より狭い場合であっても、確実にノッキングが生じることを回避できる。
本実施形態では、過渡分湿度補正量Arは単位時間当たり変化量ΔHが大きいほど大きい値である。これによって、単位時間当たり変化量ΔHに関係なく、外気の重量絶対湿度Hが過渡的に変化する直後にノッキングや燃焼の不安定が生じることを回避できる。
本実施形態では、相対湿度センサにより検出される外気の相対湿度と温度センサにより検出される外気の温度から外気の重量絶対湿度を算出する場合で説明したが、この場合に限られない。相対湿度センサにより検出される外気の相対湿度と温度センサにより検出される外気の温度から外気の容量絶対湿度[g/m3]を算出する場合にも本発明の適用がある。