JP2016108599A - 転動疲労特性に優れた軸受用鋼材および軸受部品 - Google Patents

転動疲労特性に優れた軸受用鋼材および軸受部品 Download PDF

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Abstract

【課題】転動疲労特性に極めて優れており、早期剥離を抑制することのできる新規な軸受用鋼材を提供する。【解決手段】本発明に係る転動疲労特性に優れた軸受用鋼材は、所定の鋼中成分を含み、鋼中に含まれる短径1μm以上の酸化物系介在物の平均組成が質量%で、CaO:20〜50%、Al2O3:20〜50%、SiO2:20〜70%、およびTiO2:3〜10%を含有し、残部は不可避不純物からなると共に、鋼中に含まれる円相当直径が0.01〜1.0μmのNb、V、W、Mo系炭窒化物の個数密度が3個/μm2以上である。【選択図】なし

Description

本発明は、転動疲労特性に優れた軸受用鋼材および軸受部品に関する。詳細には本発明は、自動車や各種産業機械等に使用される軸受部品や機械構造用部品に適用される鋼材に関し、特にころ軸受、玉軸受等の転がり軸受の内・外輪や転動体として用いたときに、優れた転動疲労特性を発揮する軸受用鋼材、およびこのような軸受用鋼材から得られる軸受部品に関する。
各種産業機械や自動車等の分野に使用される軸受用のコロ、ニードル、玉、レース等の転動体には、高い繰り返し応力が付与される。そのため、軸受用の転動体には転動疲労特性に優れることが求められている。転動疲労特性への要求は、産業機械類の高性能化、軽量化に対応して、年々厳しくなっており、軸受部品の更なる耐久性向上のため、軸受用鋼材にはより一層良好な転動疲労特性が求められている。
従来、転動疲労特性は、鋼中に生成する酸化物系介在物のなかでも、主にAl脱酸鋼を用いたときに生成するAl23等のような、硬質酸化物系介在物の個数密度と深く相関しており、上記硬質酸化物系介在物の個数密度を低減することによって転動疲労特性が改善すると考えられていた。そのため、製鋼プロセスにおいて、鋼中の酸素含有量を低減して転動疲労特性を改善する試みがなされてきた。
しかしながら近年では、転動疲労特性と、酸化物系介在物に代表される非金属系介在物の関係に関する研究が進み、酸化物系介在物の個数密度と転動疲労特性とは必ずしも相関関係がないことが判明している。即ち、転動疲労特性は、非金属系介在物のサイズ、例えば非金属系介在物の面積の平方根と密接な相関関係があり、転動疲労特性を改善するには、非金属系介在物の個数密度を低減するよりも、非金属系介在物のサイズを小さくすることが有効であることが明らかになっている。
そこで、従来のようなAl脱酸鋼を用いるのではなく、鋼中のAl含有量を極力抑えると共に、Si脱酸鋼にすることで、生成する酸化物の組成を、Al23主体ではなくSiO2、CaOなどを主体とする組成に制御し、これにより、圧延工程で非金属系介在物を延伸、分断させて非金属系介在物のサイズを低減し、転動疲労特性を改善する方法が提案されている。
例えば特許文献1には、酸化物の平均組成を質量%で、CaO:10〜60%、Al23:20%以下、MnO:50%以下及びMgO:15%以下で残部SiO2及び不純物からなると共に、鋼材の長手方向縦断面の10箇所の100mm2の面積中に存在する酸化物の最大厚さの算術平均の値と硫化物の最大厚さの算術平均の値が、それぞれ、8.5μm以下であることを特徴とする軸受鋼材が提案されている。
また、特許文献2には、上記特許文献1に記載の酸化物系介在物に、従来にない酸化物成分としてZrO2を所定量含む高清浄度Si脱酸鋼材が開示されている。
また、特許文献3は本出願人によって開示された技術である。詳細には上記特許文献3には、Si脱酸で得られる酸化物系介在物中にTiO2を含むことで上記酸化物系介在物の結晶化を抑制でき、母相の鋼と酸化物系介在物との界面の空洞、並びに酸化物系介在物内部の空洞を抑制することで転動疲労特性に極めて優れた軸受用鋼材が得られることが記載されている。
特開2009−30145号公報 特開2010−202905号公報 特開2014−25083号公報
しかしながら、上記特許文献1では、鋼と酸化物系介在物の界面の空洞に関して、空洞を抑制する取組みが行われていないため、充分な転動疲労特性が得られているとはいえない。
上記特許文献2にも、上記界面の剥離によって生じる空洞や、酸化物系介在物内部に発生する空洞に関する記載は一切ない。そもそも非金属系介在物全体の微細化のみに主眼を置いた技術であり、実施例の評価においても、ASTM E45法のC系介在物評点の算術平均値で評価されているに過ぎない。従って、このようにして製造された鋼材が、必ずしも優れた転動疲労特性を発揮するとは限らない。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、転動疲労特性に極めて優れており、早期剥離を抑制することのできる新規な軸受用鋼材を提供することにある。
上記課題を解決し得た本発明に係る軸受用鋼材は、質量%で、C:0.8〜1.2%、Si:0.1〜0.8%、Mn:0.1〜1%、Cr:1.1〜1.8%、P:0%超0.05%以下、S:0%超0.05%以下、Al:0.0002〜0.005%、Ca:0.0002〜0.002%、Ti:0.0005〜0.010%、N:0%超0.01%以下、およびO:0%超0.005%以下を含有し、更に、Nb:0.005〜0.5%、V:0.01〜1.0%、W:0.005〜0.5%、およびMo:0.01〜2.0%よりなる群から選択される1種以上を含み、残部は鉄及び不可避不純物からなり、鋼中に含まれる短径1μm以上の酸化物系介在物の平均組成が質量%で、CaO:20〜50%、Al23:20〜50%、SiO2:20〜70%、およびTiO2:3〜10%を含有し、残部は不可避不純物からなると共に、鋼中に含まれる円相当直径が0.01〜1.0μmのNb、V、W、Mo系炭窒化物の個数密度が3個/μm2以上であるところに要旨を有するものである。
本発明の好ましい実施形態において、上記軸受用鋼材は、更にCu:0%超1%以下、Ni:0%超1%以下、およびCo:0%超1%以下よりなる群から選択される1種以上を含む。
本発明の好ましい実施形態において、上記軸受用鋼材は、更にPb:0%超0.5%以下、Bi:0%超0.5%以下、およびTe:0%超0.1%以下よりなる群から選択される1種以上を含む。
本発明の好ましい実施形態において、上記軸受用鋼材は、更にB:0%超0.005%以下を含む。
本発明には、上記軸受用鋼材を用いて得られる軸受部品も包含される。
本発明によれば、鋼材の化学成分組成および鋼中に含まれる酸化物系介在物の平均組成を適正に制御すると共に、円相当直径が0.01〜1.0μmの微細なNb、V、W、Mo系炭窒化物の個数密度が一定以上に制御されているため、転動疲労特性に極めて優れた軸受用鋼材を提供することができた。このような軸受用鋼材は、コロ、ニードル、玉等、主にラジアル方向の荷重が繰り返し付与される軸受部品の素材として有用であるのみならず、レース等、ストラス方向の荷重も繰り返し付与される軸受部品の素材としても有用であり、荷重の付与される方向にかかわらず転動疲労特性を安定的に改善することができる。
本発明者らは、前述した特許文献3を開示した後も、転動疲労特性に一層優れた軸受用鋼材を提供するため、更に検討を重ねてきた。その結果、Nb、V、W、Moを所定量の範囲内で添加し、円相当直径が0.01〜1.0μmの微細なNb、V、W、Mo系炭窒化物を所定の個数密度で分散させると、転動疲労特性がより一層改善することが判明した。更に、上記微細なNb、V、W、Mo系炭窒化物を分散させるためには、例えば分塊圧延、分塊鍛造、熱間圧延などの前に行われる加熱時の加熱温度を1000℃以上とし、従来よりも高く制御すること;800〜850℃の鍛圧比を2.5以上とし、従来より高く制御すること;熱間圧延または熱間鍛造の終了温度から500℃までの平均冷却速度を1.0℃/sec以上とし、従来より速く制御することが有用である。なお、分塊条件等を考慮すると熱間圧延の前に行われる加熱時の加熱温度を上記のように高めに制御することが好ましい。
以下、本発明に到達した経緯を、特許文献3との関係で詳しく説明する。
本発明者らは、Alによる脱酸処理を行なわなくても、荷重の付与される方向にかかわらず転動疲労特性を安定的に改善することができ、早期剥離を抑制できる軸受用のSi脱酸鋼材の提供を目的とし、転動疲労特性のレベルは、上記特許文献3よりも一層優れたSi脱酸鋼材を提供するとの観点から検討を重ねてきた。
上記特許文献3では、母相の鋼と酸化物系介在物との界面の空洞、並びに酸化物系介在物内部の空洞を抑制しているが、き裂が発生・進展する母相の改善は行われていない。そのため、酸化物系介在物の周囲から一旦、き裂が発生すれば、その伸展速度は従来技術と同等であり、早期剥離は避けられない。
また、接触面圧が高く外力が変動するような過酷な環境下では、軟質化した酸化物系介在物自体が砕けて初期き裂となってしまうため、やはり早期剥離は避けられない。よって、上記特許文献3のように母相の鋼と酸化物系介在物との界面の空洞、並びに酸化物系介在物内部の空洞を抑制することによる転動疲労特性向上の効果には限界がある。
そこで、本発明者らは転動疲労特性の更なる向上には、き裂が発生・進展する母相を改善することが重要であると考えた。母相の強化のみを考慮するのであれば、従来より、鋼材の化学成分を最適化することが提案されている。しかし、上記酸化物系介在物の組成を制御することも考慮すると、鋼材の化学成分を大きく変更することは難しい。
このような事情に鑑み、本発明者らは、上記酸化物系介在物の組成を大きく変化することなしに母相を強化する観点から鋭意検討した。その結果、Nb、V、W、Moを所定量の範囲内で添加すると共に、微細なNb、V、W、Mo系炭窒化物を所定の個数密度で分散させれば、上記酸化物系介在物に影響を及ぼさずに母相を強化することができ、転動疲労特性を改善できることを見出した。
以下では、「円相当直径が0.01〜1.0μmのNb、V、W、Mo系炭窒化物」を、単に「微細なNb、V、W、Mo系炭窒化物」と呼ぶ場合がある。
以下、本発明の軸受用鋼材について詳しく説明する。上述したように本発明に係る転動疲労特性に優れた軸受用鋼材は、質量%で、C:0.8〜1.2%、Si:0.1〜0.8%、Mn:0.1〜1%、Cr:1.1〜1.8%、P:0%超0.05%以下、S:0%超0.05%以下、Al:0.0002〜0.005%、Ca:0.0002〜0.002%、Ti:0.0005〜0.010%、N:0%超0.01%以下、およびO:0%超0.005%以下を含有し、更に、Nb:0.005〜0.5%、V:0.01〜1.0%、W:0.005〜0.5%、およびMo:0.01〜2.0%よりなる群から選択される1種以上を含み、残部は鉄及び不可避不純物からなり、鋼中に含まれる短径1μm以上の酸化物系介在物の平均組成が質量%で、CaO:20〜50%、Al23:20〜50%、SiO2:20〜70%、およびTiO2:3〜10%を含有し、残部は不可避不純物からなると共に、鋼中に含まれる円相当直径が0.01〜1.0μmのNb、V、W、Mo系炭窒化物の個数密度が3個/μm2以上であるところに特徴がある。
まず、本発明を最も特徴づける円相当直径が0.01〜1.0μmのNb、V、W、Mo系炭窒化物について説明する。本発明は、上記の微細なNb、V、W、Mo系炭窒化物の個数密度が3個/μm2以上であるところに特徴がある。
上記「Nb、V、W、Mo系炭窒化物」における炭窒化物とは、炭化物、窒化物、または炭窒化物を意味する。また、上記「Nb、V、W、Mo系炭窒化物」における「Nb、V、W、Mo系」とは、Nb、V、W、およびMoよりなる群から選ばれる少なくとも1種を意味する。よって、上記4種類の元素の一種または二種以上を含む炭化物、窒化物、または炭窒化物である限り、上記4種類の元素以外の元素が含まれていても良い。上記「Nb、V、W、Mo系炭窒化物」は、後述する電解放出型透過型電子顕微鏡(FE−TEM(Field Emission−Transmission Electron Microscope))により同定することができる。
[円相当直径が0.01〜1.0μmのNb、V、W、Mo系炭窒化物の個数密度:3個/μm2以上]
円相当直径が0.01〜1.0μmの微細なNb、V、W、Mo系炭窒化物は、母相のき裂の発生・進展を抑制する作用を有する。このような効果は、上記微細なNb、V、W、Mo系炭窒化物の個数密度を3個/μm2以上に制御することで有効に発揮される。上記微細なNb、V、W、Mo系炭窒化物の個数密度の下限は、好ましくは3.5個/μm2以上、より好ましくは4.0個/μm2以上である。しかしながら、上記微細なNb、V、W、Mo系炭窒化物の個数密度が30.0個/μm2を超えると母相が強化され過ぎて、逆にき裂の伝搬速度を速めてしまうため、その上限を30.0個/μm2以下にすることが好ましい。上記微細なNb、V、W、Mo系炭窒化物の個数密度の上限は、より好ましくは20.0個/μm2以下である。
本発明は、微細なNb、V、W、Mo系炭窒化物の個数密度を適切に制御したところに特徴があるが、そのためには、円相当直径が5μm以上の粗大なNb、V、W、Mo系炭窒化物の析出はなるべく抑制することが好ましい。上記粗大なNb、V、W、Mo系炭窒化物は、き裂発生の起点となって寿命が悪化する。上記粗大なNb、V、W、Mo系炭窒化物の個数密度は少ない程良く、好ましい上限は10.0個/cm2以下であり、より好ましくは9個/cm2以下、更に好ましくは8個/cm2以下であり、最も好ましくは0個/cm2である。
次に、鋼中成分について説明する。
[C:0.8〜1.2%]
Cは、基地に固溶して、マルテンサイト粒を強化するため、焼入れ焼戻し後の軸受部品の強度を確保するために有効な元素である。軸受部品において、所望の強度を得るためには、Cは少なくとも0.8%以上含有させる必要がある。しかしながらC含有量が1.2%を超えると、鋳造後に大型の炭化物を生成し、その後の圧延中に割れを生じやすくなる。C含有量の好ましい下限は0.85%以上、より好ましくは0.9%以上である。また、C含有量の好ましい上限は1.15%以下、より好ましくは1.1%以下である。
[Si:0.1〜0.8%]
Siは、マトリックスの固溶強化および焼入れ性を向上させるために有用な元素である。こうした効果を有効に発揮させるためには、Si含有量は、0.1%以上を含有させる必要がある。しかしながら、Si含有量が多くなり過ぎると加工性や被削性が著しく低下するので、Si含有量は0.8%以下に抑える必要がある。Si含有量の好ましい下限は0.13%以上、より好ましくは0.15%以上である。また、Si含有量の好ましい上限は0.7%以下、より好ましくは0.6%以下である。
[Mn:0.1〜1%]
Mnは、鋼材マトリックスの固溶強化および焼入れ性を向上させる元素である。Mn含有量が0.1%を下回るとその効果が発揮されず、1%を上回ると低級酸化物であるMnO含有量が増加し、転動疲労特性を悪化させる他、加工性や被削性が著しく低下する。Mn含有量の好ましい下限は0.2%以上、より好ましくは0.3%以上である。また、Mn含有量の好ましい上限は0.9%以下、より好ましくは0.8%以下である。
[Cr:1.1〜1.8%]
Crは、Cと結びついて炭化物を形成し、さらにオーステナイト中の炭化物を安定化させて炭化物の球状化を促進するのに有効な元素である。このような効果を発揮させるためには、1.1%以上含有させる必要がある。Cr含有量が1.8%を超えると、粗大な炭化物が生成し、転動疲労特性を悪化させる。Cr含有量の好ましい下限は1.2%以上、より好ましくは1.3%以上である。また、Cr含有量の好ましい上限は1.7%以下、より好ましくは1.6%以下である。
[P:0%超0.05%以下]
Pは、不可避的に不純物として含有する元素であり、粒界に偏析して加工性を低下させるため、P含有量の上限を0.05%以下に抑制する。P含有量は少ない程良く、好ましくは0.04%以下、より好ましくは0.03%以下とする。尚、P含有量を0%にすることは、工業生産上、困難である。
[S:0%超0.05%以下]
Sは、不可避的に不純物として含有する元素であり、MnSとして析出して転動疲労寿命を低下させるため、S含有量の上限を0.05%以下に抑制する。S含有量は少ない程良く、好ましくは0.04%以下、より好ましくは0.03%以下とする。尚、S含有量を0%にすることは、工業生産上、困難である。
[Al:0.0002〜0.005%]
Alは好ましくない元素であり、本発明の鋼材においては、Alは極力少なくする必要がある。従って、酸化精錬後のAl添加による脱酸処理は行わない。Al含有量が多くなり、特に0.005%を超えてしまうと、Al23を主体とする硬質な酸化物の生成量が多くなり、しかも圧下した後も粗大な酸化物として残存するので、転動疲労特性が劣化する。従って、Alの含有量の上限を0.005%以下とする。但し、Al含有量を0.0002%未満にすると、酸化物中のAl23含有量が少なくなり過ぎ、SiO2を多く含む結晶相が生成する。また、Al含有量を0.0002%未満に制御するためには、Alの混入を抑制するために、鋼中成分のみならず、フラックス中のAl23含有量も少なくする必要があるが、高炭素鋼である軸受鋼においてAl23含有量の少ないフラックスは非常に高価であり、経済的でない。従って、Al含有量の下限は0.0002%以上である。Al含有量の好ましい下限は、0.0005%以上であり、より好ましくは0.0010%以上である。また、Al含有量の好ましい上限は、0.002%以下であり、より好ましくは0.0015%以下である。
[Ca:0.0002〜0.002%]
Caは、酸化物中のCaO含有量を制御し、酸化物系介在物の結晶化を抑制して、転動疲労特性を改善するのに有効である。このような効果を発揮させるため、Ca含有量は0.0002%以上とする。しかしながら、Ca含有量が過剰になって0.002%を超えると、酸化物組成におけるCaOの割合が高くなり過ぎて、酸化物が結晶化してしまう。従って、Ca含有量は0.002%以下とする。Ca含有量の好ましい下限は0.0003%以上であり、より好ましくは0.0005%以上である。また、Ca含有量の好ましい上限は0.001%以下であり、より好ましくは0.0008%以下である。
[Ti:0.0005〜0.010%]
Tiは、本発明を特徴付ける元素である。所定量のTiを添加し、酸化物中のTiO2含有量を適切に制御することにより、Si脱酸鋼で得られるSiO2含有酸化物系介在物の熱間加工時における結晶化、母相の鋼と酸化物系介在物の界面に発生する空洞、多結晶体である酸化物系介在物内部に発生する空洞の問題を解決することができ、転動疲労特性が向上する。このような効果を得るためには、Ti含有量は0.0005%以上とする必要がある。ただし、Tiの含有量が多くなり、0.010%を超えると、TiO2系酸化物が結晶相として単独で生成する。従って、Ti含有量は0.010%以下とした。よって、Ti含有量の上限を0.010%以下とする。Ti含有量の好ましい下限は0.0008%以上であり、より好ましくは0.0011%以上である。また、Ti含有量の好ましい上限は0.0050%以下であり、より好ましくは0.0030%以下である。
[N:0%超0.01%以下]
Nは、TiNを生成し、転動疲労特性を悪化させるため、できる限り低減することが推奨される。従って、N含有量の上限を0.01%以下とする。N含有量の好ましい上限は0.007%以下であり、より好ましくは0.006%以下である。
[O:0%超0.005%以下]
Oは、好ましくない不純物元素である。不可避的に不純物として含有する元素である。Oの含有量が多くなって、特に0.005%を超えると、粗大な酸化物が生成し易くなり、熱間圧延および冷間圧延後においても粗大な酸化物として残存し、転動疲労特性に悪影響を及ぼす。従って、Oの含有量の上限を0.005%以下とする。O含有量の好ましい上限は0.004%以下であり、より好ましくは0.003%以下とする。
[Nb:0.005〜0.5%、V:0.01〜1.0%、W:0.005〜0.5%、およびMo:0.01〜2.0%よりなる群から選択される1種以上]
Nb、V、W、およびMoは、本発明を最も特徴付ける元素であり、転動疲労寿命を向上させる上で重要な元素である。詳細には、これらの元素は、CやNと結合することによって、母相のき裂の発生・進展抑制に有用な上記Nb、V、W、Mo系炭窒化物の微細分散に寄与する元素である。これらの元素は単独で添加しても良いし、二種以上を併用しても良い。具体的には、上記四種類の元素のうち少なくとも一つが上記範囲内で含まれていれば、上記効果を有効に発揮することができる。例えば、後記する試験No.5は、Nb、V、W、MoのうちVを除く三種類の元素を所定量含む例であり、微細なNb、V、W、Mo系炭窒化物の個数割合も適切に制御されているため、転動疲労寿命に優れている。
[Nb:0.005〜0.5%]
微細なNb系炭窒化物を所定の個数密度で析出させるため、Nb含有量の下限は0.005%以上とする。しかし、Nbの含有量が0.5%を超えると、Nb系炭窒化物が粗大になって破壊の起点となるため、かえって転動疲労寿命を悪化させる。よって、Nb含有量の上限は0.5%以下とする。Nb含有量の好ましい下限は0.010%以上であり、より好ましくは0.02%以上である。また、Nb含有量の好ましい上限は0.45%以下であり、より好ましくは0.40%以下である。
[V:0.01〜1.0%]
微細なV系炭窒化物を所定の個数密度で析出させるため、V含有量の下限は0.01%以上とする。しかし、Vの含有量が1.0%を超えると、V系炭窒化物が粗大になって破壊の起点となるため、かえって転動疲労寿命を悪化させる。よって、V含有量の上限は1.0%以下とする。V含有量の好ましい下限は0.02%以上であり、より好ましくは0.03%以上である。また、V含有量の好ましい上限は0.9%以下であり、より好ましくは0.8%以下である。
[W:0.005〜0.5%]
微細なW系炭窒化物を所定の個数密度で析出させるため、W含有量の下限は0.005%以上とする。しかし、Wの含有量が0.5%を超えると、析出するW系炭窒化物が粗大になって破壊の起点となるため、かえって転動疲労寿命を悪化させる。よって、W含有量の上限は0.5%以下とする。W含有量の好ましい下限は0.010%以上であり、より好ましくは0.02%以上である。また、W含有量の好ましい上限は0.45%以下であり、より好ましくは0.40%以下である。
[Mo:0.01〜2.0%]
微細なMo系炭窒化物を所定の個数密度で析出させるため、Mo含有量の下限は0.01%以上とする。しかし、Moの含有量が2.0%を超えると、析出するMo系炭窒化物が粗大になって破壊の起点となるため、かえって転動疲労寿命を悪化させる。よって、Mo含有量の上限は2.0%以下とする。Mo含有量の好ましい下限は0.02%以上であり、より好ましくは0.03%以上である。また、Mo含有量の好ましい上限は1.8%以下であり、より好ましくは1.6%以下である。
本発明に含まれる元素は上記の通りであって、残部は鉄および不可避不純物である。上記不可避不純物として、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる元素が挙げられ、例えば、As、H等の混入が許容され得る。
更に本発明では、以下の選択成分を含有しても良い。
[Cu:0%超1%以下、Ni:0%超1%以下、およびCo:0%超1%以下よりなる群から選択される1種以上]
Cu、NiおよびCoは、いずれも母相の焼入れ性向上元素として作用し、硬さを高めて転動疲労特性の向上に寄与する元素である。これらの効果を有効に発揮させるために、いずれも0.01%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.02%以上である。しかしながら、いずれも1%を超えると加工性が劣化することになる。従って、いずれも1%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.9%以下、更に好ましくは0.8%以下である。これらの元素は、夫々単独でまたは適宜組み合わせて含有させても良い。
[Pb:0%超0.5%以下、Bi:0%超0.5%以下、およびTe:0%超0.1%以下よりなる群から選択される1種以上]
Pb、BiおよびTeは、いずれも被削性向上元素である。これらの効果を有効に発揮させるために、Pb、Biはそれぞれ0.01%以上、Teは0.00001%以上含有させることが好ましく、より好ましくは、Pb、Biはそれぞれ0.02%以上、Teは0.00002%以上である。しかし、それぞれPb、Biの含有量が0.5%を超えるか、Teの含有量が0.1%を超えると、圧延疵の発生等、製造上の問題が生じることになる。Pb、Biの含有量の好ましい上限は0.3%以下、より好ましくは0.2%以下である。これらの元素は、夫々単独でまたは適宜組み合わせて含有させても良い。
[B:0%超0.005%以下]
Bは、Nと結合することで、窒素化合物を形成して、結晶粒を整粒化し、転動疲労寿命を向上させる上で有効な元素である。これらの効果は、Bで0.0001%以上含有させることで有効に発揮される。B含有量の好ましい下限は0.0001%以上、より好ましい下限は0.0002%以上である。しかしながら、Bの含有量が0.005%を超えると、結晶粒が微細化し、不完全焼入れ相が生成しやすくなる。Bの含有量の好ましい上限は0.005%以下、より好ましい上限は0.003%以下であり、更に好ましくは0.001%以下である。
次に、鋼材中に存在する酸化物系介在物について説明する。前述したように本発明では、鋼中に含まれる短径1μm以上の酸化物系介在物の平均組成が質量%で、CaO:20〜50%、Al23:20〜50%、SiO2:20〜70%、およびTiO2:3〜10%を含有し、残部は不可避不純物からなるところに特徴がある。
本発明において、特に短径1μm以上の酸化物系介在物に着目した理由は、以下のとおりである。すなわち、転動疲労特性は、酸化物系介在物の寸法が大きい程、悪影響が大きいといわれている。そこで、転動疲労特性に悪影響を及ぼす可能性がある、寸法の大きな酸化物系介在物を評価するため、上記サイズの酸化物系介在物を制御することにした。
以下、順に説明する。
[CaO:20〜50%]
CaOは塩基性酸化物であり、酸性酸化物であるSiO2に含まれると、酸化物の液相線温度が下がり、酸化物の結晶化を抑制する効果がある。このような効果は、酸化物の平均組成におけるCaO含有量を20%以上に制御することによって得られる。しかしながら、CaO含有量が高すぎると、酸化物が結晶化してしまうため、CaO含有量を50%以下とする必要がある。酸化物系介在物中に占めるCaO含有量の好ましい下限は22%以上であり、より好ましくは25%以上である。また、CaO含有量の好ましい上限は43%以下であり、より好ましくは41%以下である。
[Al23:20〜50%]
Al23は両性酸化物であり、酸性酸化物であるSiO2に含まれると、酸化物の液相線温度が下がり、酸化物の結晶化を抑制する効果がある。このような効果は、酸化物の平均組成におけるAl23含有量を20%以上に制御することによって得られる。一方、酸化物の平均組成における含有量が50%を超えると、溶鋼中および凝固過程でAl23(コランダム)結晶相が晶出したり、MgOとともにMgO・Al23(スピネル)結晶相が晶出する。あるいは、圧延温度域でこれらの結晶相が生成する。これらの固相は硬質であり、粗大な介在物として存在し、加工中に空洞が生成しやすくなり、転動疲労特性を悪化させる。こうした観点から、酸化物の平均組成におけるAl23含有量は50%以下とする必要がある。酸化物系介在物におけるAl23含有量の好ましい下限は22%以上であり、より好ましくは25%以上である。また、Al23含有量の好ましい上限は43%以下であり、より好ましくは41%以下である。
[SiO2:20〜70%]
SiO2は酸性酸化物であり、酸化物系介在物を非晶質化させるために不可欠の成分である。このような効果を有効に発揮させるためには、酸化物中にSiO2を20%以上含有させる必要がある。しかしながら、SiO2含有量が70%を超えると、SiO2を多く含む結晶相が生成し空洞が形成されるため、転動疲労特性が悪化する。酸化物系介在物中におけるSiO2含有量の好ましい下限は25%以上であり、より好ましくは30%以上である。また、SiO2含有量の好ましい上限は50%以下であり、より好ましくは45%以下である。
[TiO2:3〜10%]
TiO2は、本発明を特徴付ける酸化物成分であり、酸性酸化物であるSiO2に含まれると、TiO2濃化相(A相)とSiO2濃化相(B相)の2相に分離でき、両相とも結晶質化を抑制することができる。その結果、Si脱酸鋼で得られるSiO2含有酸化物系介在物の熱間加工時の結晶化の抑制、母相の鋼と酸化物系介在物との界面に発生する空洞の抑制、多結晶体である酸化物系介在物内部にも発生する空洞の抑制を実現でき、転動疲労特性が一層を向上する。このような効果は、酸化物の平均組成におけるTiO2含有量を3%以上に制御することによって得られる。しかしながら、TiO2含有量が高すぎると、TiO2系酸化物が結晶相として単独で生成し、空洞が形成され、転動疲労特性が低下するため、10%以下とする。酸化物系介在物中におけるTiO2含有量の好ましい下限は4%以上であり、より好ましくは5%以上である。また、TiO2含有量の好ましい上限は8%以下であり、より好ましくは7%以下である。
本発明の鋼材に含まれる酸化物は、CaO、Al23、SiO2、およびTiO2で構成され、残部は不純物である。不純物としては、製造過程などで不可避的に含まれる不純物が挙げられる。不純物は、酸化物系介在物の結晶化状態などに悪影響を及ぼさず、所望の特性が得られる限度において含まれ得るが、不純物全体(合計量)として、おおむね、20%以下に制御されていることが好ましい。具体的には、例えばREM23、MgO、MnO、ZrO2、Na2O、K2O、Li2O、Cr23、NbO、FeO、Fe23をそれぞれ約10%以下の範囲で含有することができる。なお、本発明において、REMとは、ランタノイド元素(LaからLuまでの15元素)およびSc(スカンジウム)とY(イットリウム)を含む意味である。これらの元素のなかでも、La、CeおよびYよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有することが好ましく、より好ましくはLaおよびCeのうち少なくとも1種の元素を含有するのがよい。
次に、上記鋼材を製造する方法について説明する。本発明では、特に所望とする微細なNb、V、W、Mo系炭窒化物が所定の個数密度で得られるように、特に熱間圧延または熱間鍛造前に行われる加熱工程の加熱温度、熱間圧延または熱間鍛造工程の所定温度域における鍛圧比、次いで行われる冷却工程の所定温度域における平均冷却速度に留意して製造すれば良く、それ以外の工程は、軸受用鋼の製造に通常用いられる方法を適宜選択して用いることができる。
上記酸化物組成を得るための好ましい溶製方法は以下のとおりである。
まず鋼材を溶製する際に、通常実施されるAl添加での脱酸処理を行なわずに、Si添加による脱酸を実施する。この溶製時には、CaO、およびAl23の各含有量を制御するために、鋼中に含まれるAl含有量を上記のとおり、0.0002〜0.005%、Ca含有量を上記のとおり0.0002〜0.002%に夫々制御する。
また、TiO2の制御方法としては特に限定されず、当該技術分野で通常用いられる方法に基づき、溶製時に、鋼中に含まれるTi含有量が上記のとおり、0.0005〜0.010%の範囲内に制御されるようにTiを添加すれば良い。Tiの添加方法は特に限定されず、例えば、Tiを含有する鉄系合金を添加して調整しても良いし、あるいは、スラグ組成の制御によって溶鋼中のTi濃度を制御しても良い。
なお、SiO2は、他の酸化物を上記のようにコントロールすることによって得られるものである。
次に、所定個数密度の上記微細なNb、V、W、Mo系炭窒化物を得るための好ましい製造方法は以下のとおりである。
まず、後記する熱間圧延または熱間鍛造の前の加熱温度を、従来(おおむね、700〜1300℃程度)の下限よりも高くして、1000℃以上で行う。通常の鋳造、分塊圧延後の鋼片において析出しているNb、V、W、Mo系炭窒化物は粗大で個数が少ないため、上記Nb、V、W、Mo系炭窒化物をマトリックスに溶け込ませるためである。上記加熱温度の好ましい下限は1050℃以上である。しかしながら、上記加熱温度が高すぎると加熱のコストが増加するため、その上限を好ましくは1300℃以下とする。
上記熱間圧延前または熱間鍛造前の加熱時における加熱時間は、上記作用を有効に発揮させるため、30分以上行うことが好ましい。しかしながら、上記加熱時間が長すぎると製造性が悪くなるため、その上限を好ましくは180分以下とする。
上記のようにして加熱した後、熱間圧延または熱間鍛造する。本発明では、上記熱間圧延または熱間鍛造の工程において、特に800〜850℃の範囲での鍛圧比を2.5以上とする。従来は、900〜1000℃の範囲での鍛圧比をおおむね2.7〜1000として、主に該温度域で鍛圧を行っていた。これに対して本発明では、800〜850℃の範囲での鍛圧比を2.5以上として、主に800〜850℃の温度域で鍛圧を行う。即ち、本発明では800〜850℃の温度域での鍛圧比を、従来より大きくすることにより、上記加熱工程で溶け込ませたNb、V、W、Moを微細に析出させることができ、所望とする微細なNb、V、W、Mo系炭窒化物の個数密度を確保することができる。上記鍛圧比は、熱間圧延前後または熱間鍛造前後の断面積比を規定したものであり、以下の式で算出することができる。
鍛圧比=熱間圧延または熱間鍛造前の鋼材の長手方向に垂直な断面積/熱間圧延または熱間鍛造後の鋼材の長手方向に垂直な断面積
ここで、鍛圧比を制御すべき温度範囲を800〜850℃に限定した理由は、800℃未満では、熱間圧延または熱間鍛造を行うことができず、一方、850℃超では、熱間圧延または熱間鍛造で導入したひずみが消滅するため、Nb、V、W、Mo系炭窒化物を微細に析出させることができないためである。好ましい鍛圧比は2.5以上である。なお、その上限は、上記観点からは特に限定されないが、製造性などを考慮すると、おおむね、5以下であることが好ましい。
その後、冷却する。本発明では、熱間圧延または熱間鍛造の終了温度(おおむね、800〜900℃程度)から500℃までの平均冷却速度を1.0℃/sec以上とし、従来(おおむね、0.1〜0.5℃/sec)より速くしている。これにより、その後の冷却過程においても、所定個数密度の微細なNb、V、W、Mo系炭窒化物を確実に確保することができる。好ましい平均冷却速度は1.5℃/sec以上である。しかしながら、平均冷却速度が速すぎると、熱間圧延材または熱間鍛造材が割れるため、その上限を5.0℃/sec以下とすることが好ましい。
ここで、平均冷却速度を制御すべき温度域を、熱間圧延または熱間鍛造の終了温度から500℃までの範囲に限定した理由は、おおよそ500℃でNb、V、W、Mo系炭窒化物の析出が完了するからである。従って、500℃未満以降の平均冷却速度は特に限定されず、例えば放冷などのように上記平均冷却速度よりも遅くして、室温まで冷却することができる。
その後の工程は特に限定されず、常法に従い、必要に応じて球状化焼鈍を行った後、熱間加工または冷間加工を行う。
このようにして本発明の鋼材を得た後、所定の部品形状にし、焼入れ・焼戻しすると、本発明の軸受部品が得られる。鋼材段階の形状については、こうした製造に適用できるような線状・棒状のいずれも含むものであり、そのサイズも、最終製品に応じて適宜決めることができる。
上記軸受部品としては、例えば、コロ、ニードル、玉、レース等が挙げられる。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することは可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
(1)鋳片の製造
小型溶解炉(容量150kg/1ch)を用い、下記表1、2に示す各種化学成分組成の供試鋼(残部は鉄および不可避不純物)を溶製し、直径がφ245mm、高さが480mmの鋳片を作製した。溶製時にMgO系耐火物の取鍋を用い、通常実施されるAl脱酸処理を行わず、Si脱酸処理を行った。
(2)Nb、V、W、Mo系炭窒化物の個数密度測定用試験片と酸化物系介在物の平均組成測定用試験片の作製
このようにして得られた鋳片を1250℃に加熱して1時間保持した後、1200℃で分塊圧延し、室温まで冷却した。次いで表3、4に示す条件で加熱および熱間圧延を行い、熱間圧延の終了温度である900℃から500℃までの温度域を表3、4に示す平均冷却速度で冷却した後、放冷してφ65mmの丸棒鋼の熱間圧延材を作製した。なお、熱間圧延前の加熱は、表3、4に示す加熱温度で45〜75分間行った。このようにして得られた丸棒鋼について、その表面からD/2位置(Dは直径)で圧延方向断面が観察できるように上記丸棒鋼から20mm×20mm×10mmの試験片を得た。この試験片を用いて、以下に示すNb、V、W、Mo系炭窒化物の個数密度、および酸化物系介在物の平均組成を測定した。
(3)円相当直径が0.01〜1.0μmのNb、V、W、Mo系炭窒化物の個数密度の測定
上記試験片の表面に金蒸着を行い、電解放出型透過型電子顕微鏡(FE−TEM)によりレプリカ観察を実施した。この際、TEMのエネルギー分散型X線検出器(EDX、Energy Dispersive X−ray Spectroscopy)により、Nb、V、W、およびMoよりなる群から選ばれる少なくとも1種、CおよびNの少なくとも1種と、を含有する析出物を特定し、30000倍の倍率で視野内を観察した。1視野は16.8μm2とし、任意の3視野について合計50.4μm2観察し、粒子解析ソフト[「粒子解析III for Windows.(登録商標) Version3.00 SUMITOMO METAL TECHNOLOGY製」(商品名)]を用い、円相当直径が0.01〜1.0μmの微細なNb、V、W、Mo炭窒化物の個数密度を求めた。個数密度はμm2当たりに換算した。
(4)円相当直径が5μm以上のNb、V、W、Mo系炭窒化物の個数密度の測定
上記試験片の表面を研磨した後、日本電子データム製の電子線マイクロプローブX線分析計(Electron Probe X−ray Micro Analyzer:EPMA 商品名「JXA−8500F」)により観察を実施した。この際、Nb、V、W、およびMoよりなる群から選ばれる少なくとも1種と、CおよびNの少なくとも1種と、を含有する析出物を特定し、1視野を1cm2として任意の3視野について合計3cm2観察し、円相当直径が5μm以上の粗大なNb、V、W、Mo系炭窒化物の個数密度を求めた。個数密度はcm2当たりに換算した。
(5)酸化物系介在物の平均組成測定
上記試験片の断面を研磨した後、日本電子データム製の電子線マイクロプローブX線分析計(Electron Probe X−ray Micro Analyzer:EPMA 商品名「JXA−8500F」)を用いて観察し、短径が1μm以上の酸化物系介在物について成分組成を定量分析した。このとき、観察面積を100mm2(研磨面)とし、介在物の中央部での成分組成を特性X線の波長分散分光により定量分析した。分析対象元素は、Ca、Al、Si、Ti、Ce、La、Mg、Mn、Zr、Na、K、Cr、O(酸素)とし、既知物質を用いて各元素のX線強度と元素濃度の関係を予め検量線として求めておき、分析対象とする上記介在物から得られたX線強度と上記検量線から各試料に含まれる元素量を定量し、その結果を算術平均することで介在物の平均組成を求めた。このようにして得られた定量結果のうち、酸素含量が5%以上の介在物を酸化物とした。このとき、一つの介在物から複数の元素が観測された場合には、それらの元素の存在を示すX線強度の比から各元素の単独酸化物に換算して酸化物の組成を算出した。本発明では、上記単独酸化物として質量換算したものを平均して、酸化物の平均組成とした。なお、REMの酸化物は、金属元素をMで表すと、鋼材中にM23、M35,MO2などの形態で存在するが、本実施例では、観測される全ての酸化物をM23に換算してREM酸化物の平均組成を算出した。その結果を算術平均することで平均の介在物組成を求めた。
(6)スラスト転動疲労試験片の製造と転動疲労試験
上記(2)で得られた丸棒鋼を770℃で6時間保持した後、10℃/時の平均冷却速度で680℃まで冷却し、その後、放冷して軟化させることにより球状化焼鈍材を得た。このようにして得られた球状化焼鈍材からφ60mm、厚さ6mmの円盤状のスラスト転動疲労試験用のテストピースを切り出し、840℃で30分加熱後に油焼入れをし、次いで160℃の温度で120分間焼き戻しを行った。最後に仕上げ研磨を施して、表面粗さRa0.1μmのスラスト転動疲労試験片を作製した。このようにして得られたスラスト転動疲労試験片を用い、スラスト疲労試験機(スラスト型転動疲労試験機「FJ−5T」、富士試験機製作所製)にて、繰り返し速度1500rpm、鋼球数3個、面圧5.3GPa、中止回数2×10回の条件でスラスト転動疲労試験を実施した。
転動疲労寿命の尺度として、通常、疲労寿命L10(累積破損確率10%における疲労破壊までの応力繰り返し数、以下「L10寿命」と呼ぶ場合がある。)が用いられる。詳細には、L10とは、試験結果をワイブル確率紙にプロットして得られる累積破損確率10%における疲労破壊までの繰り返し数の意味である(「軸受」、岩波全書、曽田範宗著を参照)。各鋼材につき、16個の試料を用いて上記の試験を行ってL10寿命を決定した。
10寿命5.0×10回以上を転動疲労特性に優れると評価した。
これらの結果を表3、4に記載する。なお、表3、4のNo.は、同じ数字の表1、2の鋼材No.を用いたことを示す。
これらの結果から、次のように考察することができる。
まず、表3の試験No.1〜19は、いずれも本発明で規定する化学成分組成(鋼材の化学成分組成および酸化物組成)を満足する例であり、および微細なNb、V、W、Mo系炭窒化物の個数割合も適切に制御されているため、転動疲労寿命に優れていることが分かる。
なお、本実施例では、スラスト方向での転動疲労特性を測定しているが、本発明の鋼材はNb、V、W、Mo系炭窒化物を分散させ、き裂の伸展も抑制しているため、ラジアル方向の転動疲労特性も良好であると推察される。
これに対し、以下の試験No.は、本発明のいずれかの要件を満足しないため、転動疲労特性が低下した。
試験No.20は鋼中にNb、V、W、およびMoを含まない表2の鋼材No.20を用いた例、試験No.21は鋼中にNb、V、W、およびMoの量が少ない表2の鋼材No.21を用いた例、試験No.25は鋼中Al量が多い表2の鋼材No.25を用いた例、試験No.26は鋼中Al量が少ない表2の鋼材No.26を用いた例、試験No.27は鋼中Ca量が多い表2の鋼材No.27を用いた例、試験No.28は鋼中Ca量が少ない表2の鋼材No.28を用いた例、試験No.29は鋼中Ti量が多い表2の鋼材No.29を用いた例、試験No.30は鋼中Ti量が少ない表2の鋼材No.30を用いた例、試験No.31〜34は鋼中にNb、V、WおよびMoをすべて含む例であり、このうち試験No.31は鋼中Nb量が多い表2の鋼材No.31を用いた例、試験No.32は鋼中V量が多い表2の鋼材No.32を用いた例、試験No.33は鋼中W量が多い表2の鋼材No.33を用いた例、試験No.34は鋼中Mo量が多い表2の鋼材No.34を用いた例である。また、試験No.35〜38は鋼中にNb、V、WおよびMoの1種を含む例であり、このうち試験No.35は鋼中Nb量が多い表2の鋼材No.35を用いた例、試験No.36は鋼中V量が多い表2の鋼材No.36を用いた例、試験No.37は鋼中W量が多い表2の鋼材No.37を用いた例、試験No.38は鋼中Mo量が多い表2の鋼材No.38を用いた例である。これらはいずれも転動疲労特性が低下した。
試験No.20は、鋼中にNb、V、W、およびMoを含まない表2の鋼材No.20を用いた例であり、本発明で規定する微細なNb、V、W、Mo系炭窒化物の個数密度を満たさないため、転動疲労特性が低下した。
試験No.21は、Nb、V、W、およびMoの含有量が少ない表2の鋼材No.21を用いた例であり、本発明で規定する微細なNb、V、W、Mo系炭窒化物の個数密度を満たさないため、転動疲労特性が低下した。
試験No.22は、熱間圧延前の加熱温度が低い例であり、本発明で規定する微細なNb、V、W、Mo系炭窒化物の個数密度が得られなかったため、転動疲労特性が低下した。
試験No.23は、800〜850℃での鍛圧比が低い例であり、本発明で規定する微細なNb、V、W、Mo系炭窒化物の個数密度が得られなかったため、転動疲労特性が低下した。
試験No.24は、熱間圧延の終了温度から500℃までの冷却速度が低い例であり、本発明で規定する微細なNb、V、W、Mo系炭窒化物の個数密度が得られなかったため、転動疲労特性が低下した。
試験No.25は、Al含有量が多い表2の鋼材No.25を用いた例であり、酸化物中のAl23含有量が高く、SiO2含有量が少なく、転動疲労特性が低下した。
試験No.26は、Al含有量が少ない表2の鋼材No.26を用いた例であり、酸化物中のCaO含有量が少なく、Al23含有量が少なく、SiO2含有量が高く転動疲労特性が低下した。
試験No.27は、Ca含有量が多い表2の鋼材No.27を用いた例であり、酸化物中のCaO含有量が高く、SiO2含有量が少なく、転動疲労特性が低下した。
試験No.28は、Ca含有量が少ない表2の鋼材No.28を用いた例であり、酸化物中のCaO含有量が少なく、転動疲労特性が低下した。
試験No.29は、Ti含有量が多い表2の鋼材No.29を用いた例であり、酸化物中のTiO2含有量が少なく、転動疲労特性が低下した。
試験No.30は、Ti含有量が少ない表2の鋼材No.30を用いた例であり、酸化物中のTiO2含有量が少なく、転動疲労特性が低下した。

Claims (5)

  1. 質量%で、
    C:0.8〜1.2%、
    Si:0.1〜0.8%、
    Mn:0.1〜1%、
    Cr:1.1〜1.8%、
    P:0%超0.05%以下、
    S:0%超0.05%以下、
    Al:0.0002〜0.005%、
    Ca:0.0002〜0.002%、
    Ti:0.0005〜0.010%、
    N:0%超0.01%以下、および
    O:0%超0.005%以下を含有し、
    更に、Nb:0.005〜0.5%、V:0.01〜1.0%、W:0.005〜0.5%、およびMo:0.01〜2.0%よりなる群から選択される1種以上を含み、残部は鉄及び不可避不純物からなり、
    鋼中に含まれる短径1μm以上の酸化物系介在物の平均組成が質量%で、
    CaO:20〜50%、Al23:20〜50%、SiO2:20〜70%、およびTiO2:3〜10%を含有し、残部は不可避不純物からなると共に、
    鋼中に含まれる円相当直径が0.01〜1.0μmのNb、V、W、Mo系炭窒化物の個数密度が3個/μm2以上であることを特徴とする軸受用鋼材。
  2. Cu:0%超1%以下、Ni:0%超1%以下、およびCo:0%超1%以下よりなる群から選択される1種以上を含む請求項1に記載の軸受用鋼材。
  3. Pb:0%超0.5%以下、Bi:0%超0.5%以下、およびTe:0%超0.1%以下よりなる群から選択される1種以上を含む請求項1または2に記載の軸受用鋼材。
  4. B:0%超0.005%以下を含む請求項1〜3のいずれかに記載の軸受用鋼材。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の軸受用鋼材を用いて得られる軸受部品。
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