JP2016084263A - 層状複水酸化物緻密膜の形成方法 - Google Patents

層状複水酸化物緻密膜の形成方法 Download PDF

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恵実 藤▲崎▼
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Abstract

【課題】多孔質基材の表面に、高度に緻密化されたLDH緻密膜をムラなく均一に形成する方法の提供。
【解決手段】多孔質基材の表面に層状複水酸化物緻密膜を形成する方法であって、層状複水酸化物緻密膜が、一般式:M2+ 1−x3+ (OH)n− x/n・mHO(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4である)で表される層状複水酸化物からなり、(a)多孔質基材を用意する工程と、(b)多孔質基材を、陰イオン界面活性剤を含む溶液で処理する工程と、(c)層状複水酸化物の構成元素を含む原料水溶液中で、多孔質基材に水熱処理を施して、層状複水酸化物緻密膜を多孔質基材の表面に形成させる工程とを含む、方法。
【選択図】図1

Description

本発明は、層状複水酸化物緻密膜の形成方法、より具体的には多孔質基材の表面に層状複水酸化物緻密膜を形成する方法に関する。
ハイドロタルサイトに代表される層状複水酸化物(Layered Double Hydroxide)(以下、LDHともいう)は、水酸化物の層と層の間に交換可能な陰イオンを有する物質群であり、その特徴を活かして触媒や吸着剤、耐熱性向上のための高分子中の分散剤等として利用されている。特に、近年、水酸化物イオンを伝導する材料として注目され、アルカリ形燃料電池の電解質や亜鉛空気電池の触媒層への添加についても検討されている。
従来の適用分野である触媒等を考えた場合、高比表面積が必要であることから粉末状LDHでの合成及び使用で十分であった。一方、アルカリ形燃料電池などの水酸化物イオン伝導性を活かした電解質への応用を考えた場合、燃料ガスの混合を防ぎ、十分な起電力を得るためにも高い緻密性のLDH膜が望まれる。
特許文献1及び2並びに非特許文献1には配向LDH膜が開示されており、この配向LDH膜は高分子基材の表面を尿素及び金属塩を含有する溶液中に水平に浮かせてLDHを核生成させ配向成長させることにより作製されている。これらの文献で得られた配向LDH薄膜のX線回折結果はいずれも(003)面の強いピークが観察されるものである。
中国登録特許公報CNC1333113号 国際公開第2006/050648号
本発明者らは、LDHの緻密なバルク体(以下、LDH緻密体という)の作製に先だって成功している。また、LDH緻密体について水酸化物イオン伝導度の評価を実施する中で、LDH粒子の層方向にイオンを伝導させることで高い伝導度を示すことを知見している。しかしながら、亜鉛空気電池やニッケル亜鉛電池等のアルカリ二次電池へ固体電解質セパレータとしてLDHの適用を考えた場合、LDH緻密体が高抵抗であるとの問題がある。したがって、LDHの実用化のためには薄膜化による低抵抗化が望まれる。この点、特許文献1及び2並びに非特許文献1に開示される配向LDH膜は配向性及び緻密性において十分なものとはいえない。そこで、高度に緻密化されたLDH膜、好ましくは配向LDH膜が望まれる。また、固体電解質セパレータとしてLDH膜の適用を考えた場合、電解液中の水酸化物イオンがLDH膜を通して移動しなければならないことから、LDH膜を支持する基材は多孔質であることが要求される。しかしながら、無数の孔を有する多孔質基材上に極力孔が無いことが望まれるLDH緻密膜を均一に形成することは、LDH膜と基材との間で互いに相反する特性が求められるため、容易なことではない。特に、多孔質基材上にLDH緻密膜の形成を試みた場合、疎密のばらつきが起こりやすく、基材全面にLDH緻密膜を確実かつ均一に成膜する手法が望まれる。
本発明者らは、今般、陰イオン界面活性剤を含む溶液で多孔質基材を処理した後、水熱処理によりLDH緻密膜を形成させることにより、多孔質基材の表面に、高度に緻密化されたLDH緻密膜をムラなく均一に形成できるとの知見を得た。
したがって、本発明の目的は、多孔質基材の表面に、高度に緻密化されたLDH緻密膜をムラなく均一に形成する方法を提供することにある。
本発明の一態様によれば、多孔質基材の表面に層状複水酸化物緻密膜を形成する方法であって、前記層状複水酸化物緻密膜が、一般式:M2+ 1−x3+ (OH)n− x/n・mHO(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4である)で表される層状複水酸化物からなり、
(a)多孔質基材を用意する工程と、
(b)前記多孔質基材を、陰イオン界面活性剤を含む溶液で処理する工程と、
(c)前記層状複水酸化物の構成元素を含む原料水溶液中で、前記多孔質基材に水熱処理を施して、前記層状複水酸化物緻密膜を前記多孔質基材の表面に形成させる工程と、
を含む、方法が提供される。
本発明の方法により得られるLDH含有複合材料の一態様を示す模式断面図である。 LDH含有複合材料の他の一態様を示す模式断面図である。 層状複水酸化物(LDH)板状粒子を示す模式図である。 例A1〜A13の緻密性判定試験Iで使用された緻密性判別測定系の分解斜視図である。 例A1〜A13の緻密性判定試験Iで使用された緻密性判別測定系の模式断面図である。 例A1〜A13の緻密性判定試験IIで使用された測定用密閉容器の分解斜視図である。 例A1〜A13の緻密性判定試験IIで使用された測定系の模式断面図である。 例A1〜A4において観察された膜試料の表面微構造を示すSEM画像である。 例A4において観察された複合材料試料の研磨断面微構造を示すSEM画像である。 例A5〜A7及びA13において観察された膜試料の表面微構造を示すSEM画像である。 例B1においてFT−IRのATR法により測定された、各濃硫酸浸漬時間でスルホン化処理したポリスチレン板の透過スペクトルである。 例B2において試料9の結晶相に対して得られたXRDプロファイルである。 例B3において観察された試料1〜6の表面微構造を示すSEM画像である。 例B3において観察された試料9〜16の表面微構造を示すSEM画像である。 例B3において観察された比較試料18の表面微構造を示すSEM画像である。 例B3において観察された試料9の破断断面微構造のSEM画像である。 例B3において観察された試料9の研磨断面微構造のSEM画像である。 例B3において観察された試料2の研磨断面微構造のSEM画像である。
LDH緻密膜の形成方法
本発明は、多孔質基材の表面に層状複水酸化物緻密膜(LDH緻密膜)を形成する方法に関する。ここで、「多孔質基材の表面」は、多孔質基材の概形を板として巨視的に見た場合の板面の最表面を主として指すが、多孔質基材中における微視的に見て板面最表面の近傍に存在する孔の表面をも付随的に包含しうるのはいうまでもない。LDH緻密膜は、一般式:M2+ 1−x3+ (OH)n− x/n・mHO(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4である)で表される層状複水酸化物(LDH)からなる。上記一般式において、M2+は任意の2価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはMg2+、Ca2+及びZn2+が挙げられ、より好ましくはMg2+である。M3+は任意の3価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはAl3+又はCr3+が挙げられ、より好ましくはAl3+である。An−は任意の陰イオンでありうるが、好ましい例としてはOH及びCO 2−が挙げられる。したがって、上記一般式において、M2+がMg2+を含み、M3+がAl3+を含み、An−がOH及び/又はCO 2−を含むのが好ましい。nは1以上の整数であるが、好ましくは1又は2である。xは0.1〜0.4であるが、好ましくは0.2〜0.35である。mは任意の実数である。
本発明の方法によるLDH緻密膜の形成は、(a)多孔質基材を用意し、(b)この多孔質基材を、陰イオン界面活性剤を含む溶液で処理し、(c)原料水溶液中で多孔質基材に水熱処理を施してLDH緻密膜を形成させることにより行われる。このように、陰イオン界面活性剤を含む溶液で多孔質基材を処理した後、水熱処理によりLDH緻密膜を形成させることにより、多孔質基材の表面に、高度に緻密化されたLDH緻密膜をムラなく均一に形成することができる。前述のとおり、無数の孔を有する多孔質基材上に極力孔が無いことが望まれるLDH緻密膜を均一に形成することは、LDH膜と基材との間で互いに相反する特性が求められるため、本来的には容易なことではない。その上、多孔質基材(特にセラミックス製多孔質基材)上にLDH緻密膜の形成を試みた場合、疎密のばらつきが起こりやすく、基材全面にLDH緻密膜を確実かつ均一に成膜する手法が望まれる。この点、本発明の上記手法によれば、親水基が陰イオン性官能基である陰イオン界面活性剤を含む溶液で多孔質基材を処理することで、基材表面に陰イオン性官能基又はそれに由来する陰イオン、すなわち負の電荷を付与することができる。この負の電荷により、原料水溶液に含まれる正電荷である金属イオン(すなわちMg2+、Al3+等のLDH構成元素の金属イオン)を基材表面に付与された陰イオン性官能基に静電力的に吸着させることができる。こうして、多孔質基材にLDHの結晶成長の起点を均一にもたらし、これらの起点からLDHの結晶成長を均一に促すことができる。その結果、多孔質基材の表面に、高度に緻密化されたLDH緻密膜をムラなく均一に形成することができる。
(a)多孔質基材の用意
この(a)工程においては、多孔質基材を用意する。多孔質基材はその表面に所望のLDH緻密膜を形成できるものであればよく、その材質や多孔構造は特に限定されない。いずれにしても、多孔質基材は透水性を有する多孔構造を有するのが、電池用セパレータとして電池に組み込まれた場合に電解液をLDH緻密膜に到達可能に構成できる点で好ましい。
多孔質基材は、セラミックス材料、金属材料、及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成されるのが好ましい。多孔質基材は、セラミックス材料で構成されるのがより好ましい。この場合、セラミックス材料の好ましい例としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、スピネル、カルシア、コージライト、ゼオライト、ムライト、フェライト、酸化亜鉛、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、及びそれらの任意の組合せが挙げられ、より好ましくは、アルミナ、ジルコニア、チタニア、及びそれらの任意の組合せであり、特に好ましくはアルミナ、ジルコニア(例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ))、及びその組合せである。これらの多孔質セラミックスを用いるとLDH緻密膜の緻密性を向上しやすい。金属材料の好ましい例としては、アルミニウム及び亜鉛が挙げられる。高分子材料の好ましい例としては、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。上述した各種の好ましい材料はいずれも電池の電解液に対する耐性として耐アルカリ性を有するものである。多孔質基材を用いる場合、超音波洗浄、イオン交換水での洗浄等を多孔質基材に施すのが好ましい。
上述のとおり、多孔質基材は、セラミックス材料で構成されるのがより好ましい。セラミックス材料製の多孔質基材は、市販品であってもよいし、公知の手法に従って作製したものであってもよく、特に限定されない。例えば、セラミックス粉末(例えばジルコニア粉末(例えばYSZ粉末)、ベーマイト粉末、チタニア粉末等)、メチルセルロース、及びイオン交換水を所望の配合比で混練し、得られた混練物を押出成形に付し、得られた成形体を70〜200℃で10〜40時間乾燥した後、900〜1300℃で1〜5時間焼成することによりセラミックス材料製の多孔質基材を作製することができる。メチルセルロースの配合割合はセラミックス粉末100重量部に対して、1〜20重量部とするのが好ましい。また、イオン交換水の配合割合はセラミックス粉末100重量部に対して、10〜100重量部とするのが好ましい。
多孔質基材は0.001〜1.5μmの平均気孔径を有するのが好ましく、より好ましくは0.001〜1.25μm、さらに好ましくは0.001〜1.0μm、特に好ましくは0.001〜0.75μm、最も好ましくは0.001〜0.5μmである。これらの範囲内とすることで多孔質基材に所望の透水性を確保しながら、透水性(望ましくは透水性及び通気性)を有しない程に緻密なLDH緻密膜を形成することができる。なお、本明細書において「透水性を有しない」とは、後述する実施例で採用される「緻密性判定試験I」)又はそれに準ずる手法ないし構成で透水性を評価した場合に、測定対象物(すなわちLDH緻密膜及び/又は多孔質基材)の一面側に接触した水が他面側に透過しないことを意味する。本発明において、平均気孔径の測定は多孔質基材の表面の電子顕微鏡画像をもとに気孔の最長距離を測長することにより行うことができる。この測定に用いる電子顕微鏡画像の倍率は20000倍以上であり、得られた全ての気孔径をサイズ順に並べて、その平均値から上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均気孔径を得ることができる。測長には、SEMのソフトウェアの測長機能や画像解析ソフト(例えば、Photoshop、Adobe社製)等を用いることができる。
多孔質基材の表面は、10〜60%の気孔率を有するのが好ましく、より好ましくは15〜55%、さらに好ましくは20〜50%である。これらの範囲内とすることで多孔質基材に所望の透水性を確保しながら、透水性(望ましくは透水性及び通気性)を有しない程に緻密なLDH緻密膜を形成することができる。ここで、多孔質基材の表面の気孔率を採用しているのは、以下に述べる画像処理を用いた気孔率の測定がしやすいことによるものであり、多孔質基材の表面の気孔率は多孔質基材内部の気孔率を概ね表しているといえるからである。すなわち、多孔質基材の表面が緻密であれば多孔質基材の内部もまた同様に緻密であるといえる。本発明において、多孔質基材の表面の気孔率は画像処理を用いた手法により以下のようにして測定することができる。すなわち、1)多孔質基材の表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順で白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とする。なお、この画像処理による気孔率の測定は多孔質基材表面の6μm×6μmの領域について行われるのが好ましく、より客観的な指標とするためには、任意に選択された3箇所の領域について得られた気孔率の平均値を採用するのがより好ましい。
(b)界面活性剤での処理
この(b)工程においては、多孔質基材を、陰イオン界面活性剤を含む溶液で処理する。このように多孔質基材の表面を陰イオン界面活性剤で処理した後に、後続の工程(c)を行うことで、多孔質基材の表面に、高度に緻密化されたLDH緻密膜をムラなく均一に形成することができる。このような陰イオン界面活性剤は、LDHの構造の一部となりうる陰イオンを与える親水基(例えば−SOHやO−SOH)を含むものであってもよいし、LDHの構造の一部とならない陰イオンを与える親水基(例えば−COOHやO−P(OH))を含むものであってもよい。いずれにしても、表面に負電荷を帯びる陰イオン性官能基又はそれに由来する陰イオンが付与されることで、正電荷であるMg2+、Al3+等の金属陽イオンが多孔質基材の表面に静電的に吸着してLDHの核が生成しうる。このため、後続の工程(c)を行うことで、多孔質基材の表面に、高度に緻密化されたLDH緻密膜をムラなく均一に形成することができる。
陰イオン界面活性剤の好ましい例としては、スルホン酸型陰イオン界面活性剤、硫酸エステル型陰イオン界面活性剤、リン酸エステル型陰イオン界面活性剤、カルボン酸型陰イオン界面活性剤、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。スルホン酸型陰イオン界面活性剤の例としては、ナフタレンスルホン酸Naホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンスルホコハク酸アルキル2Na、ポリスチレンスルホン酸Na、ジオクチルスルホコハク酸Na、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミンが挙げられる。硫酸エステル型陰イオン界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステルNaが挙げられる。カルボン酸型陰イオン界面活性剤の例としては、ポリカルボン酸型アニオン界面活性剤、及びポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸Naが挙げられる。
多孔質基材の界面活性剤での処理は、多孔質基材の表面に界面活性剤の陰イオン性親水基又はそれに由来する陰イオンを付着させることができる手法であれば特に限定されず、界面活性剤を含む溶液を多孔質基材に塗布する、又は界面活性剤を含む溶液に多孔質基材を浸漬することにより行うのが好ましい。この処理は界面活性剤を含む溶液に多孔質基材を浸漬することにより行うのがより好ましい。この場合、界面活性剤を含む溶液への多孔質基材の浸漬は、溶液を撹拌しながら室温又はそれよりも高温(例えば40〜80℃)で行えばよく、浸漬時間は特に限定されないが、例えば1〜7日間である。
陰イオン界面活性剤を含む溶液は6.0以上のpHを有するのが好ましく、より好ましくは6.3以上、さらに好ましくは6.6以上、特に好ましくは7.0以上、最も好ましくは7.5以上である。なお、このpHは陰イオン界面活性剤を含む溶液で多孔質基材を処理する際(例えば基材の溶液への浸漬時又は基材への溶液の塗布時)における界面活性剤含有溶液のpHである。溶液のpHの上限は特に限定されないが、現実的には14.0以下であり、より現実的には12.0以下である。このような範囲内のpHを有する陰イオン界面活性剤含有溶液で多孔質基材を処理することで、LDHの成膜性が有意に向上して、LDH膜の緻密性及び均一性を確保しやすくなる。なお、陰イオン界面活性剤含有溶液のpHは使用する陰イオン界面活性剤の種類に大きく依存するものである。
(c)水熱処理
この(c)工程においては、LDHの構成元素を含む原料水溶液中で、多孔質基材に水熱処理を施して、LDH緻密膜を多孔質基材の表面に形成させる。既に工程(b)においての陰イオン性親水基又はそれに由来する陰イオンが多孔質基材の表面に付着されているため、上述したメカニズムにより、多孔質基材の表面に、高度に緻密化されたLDH緻密膜をムラなく均一に形成することができる。
好ましい原料水溶液は、マグネシウムイオン(Mg2+)及びアルミニウムイオン(Al3+)を所定の合計濃度で含み、かつ、尿素を含んでなる。尿素が存在することで尿素の加水分解を利用してアンモニアが溶液中に発生することによりpH値が上昇し、共存する金属イオンが水酸化物を形成することによりLDHを得ることができる。また、加水分解に二酸化炭素の発生を伴うため、陰イオンが炭酸イオン型のLDHを得ることができる。原料水溶液に含まれるマグネシウムイオン及びアルミニウムイオンの合計濃度(Mg2++Al3+)は0.20〜0.40mol/Lが好ましく、より好ましくは0.22〜0.38mol/Lであり、さらに好ましくは0.24〜0.36mol/L、特に好ましくは0.26〜0.34mol/Lである。このような範囲内の濃度であると核生成と結晶成長をバランスよく進行させることができ、配向性のみならず緻密性にも優れたLDH緻密膜を得ることが可能となる。すなわち、マグネシウムイオン及びアルミニウムイオンの合計濃度が低いと核生成に比べて結晶成長が支配的となり、粒子数が減少して粒子サイズが増大する一方、この合計濃度が高いと結晶成長に比べて核生成が支配的となり、粒子数が増大して粒子サイズが減少するものと考えられる。
好ましくは、原料水溶液に硝酸マグネシウム及び硝酸アルミニウムが溶解されており、それにより原料水溶液がマグネシウムイオン及びアルミニウムイオンに加えて硝酸イオンを含んでなる。そして、この場合、原料水溶液における、尿素の硝酸イオン(NO )に対するモル比(尿素/NO )が、2〜6が好ましく、より好ましくは4〜5である。
多孔質基材は原料水溶液に所望の向きで(例えば水平又は垂直に)浸漬させればよい。多孔質基材を水平に保持する場合は、吊るす、浮かせる、容器の底に接するように多孔質基材を配置すればよく、例えば、容器の底から原料水溶液中に浮かせた状態で多孔質基材を固定としてもよい。多孔質基材を垂直に保持する場合は、容器の底に多孔質基材を垂直に設置できるような冶具を置けばよい。いずれにしても、多孔質基材にLDHを略垂直方向又はそれに近い方向(すなわちLDH板状粒子がそれらの板面が多孔質基材の表面(基材面)と略垂直に又は斜めに交差するような向きに)に成長させる構成ないし配置とするのが好ましい。
原料水溶液中で、多孔質基材に水熱処理を施して、LDH緻密膜を多孔質基材の表面に形成させる。この水熱処理は密閉容器(好ましくはオートクレーブ)の中、60〜150℃で行われるのが好ましく、より好ましくは65〜120℃であり、さらに好ましくは65〜100℃であり、特に好ましくは70〜90℃である。水熱処理の上限温度は多孔質基材(例えば高分子基材)が熱で変形しない程度の温度を選択すればよい。水熱処理時の昇温速度は特に限定されず、例えば10〜200℃/hであってよいが、好ましくは100〜200℃/hである、より好ましくは100〜150℃/hである。水熱処理の時間はLDH緻密膜の目的とする密度と厚さに応じて適宜決定すればよい。
水熱処理後、密閉容器から多孔質基材を取り出し、イオン交換水で洗浄するのが好ましい。
上記のようにして製造されたLDH緻密膜は、LDH板状粒子が高度に緻密化したものであり、しかも伝導に有利な略垂直方向に配向したものである。すなわち、LDH緻密膜は、典型的には、高度な緻密性に起因して透水性(望ましくは透水性及び通気性)を有しない。また、LDH緻密膜を構成するLDHが複数の板状粒子の集合体で構成され、該複数の板状粒子がそれらの板面が多孔質基材の表面と略垂直に又は斜めに交差するような向きに配向してなるのが典型的である。したがって、十分なガスタイト性を有する緻密性を有するLDH緻密膜を亜鉛空気電池等の電池に用いた場合、発電性能の向上が見込めると共に、従来適用できなかった電解液を用いる亜鉛空気電池の二次電池化の大きな障壁となっている亜鉛デンドライト進展阻止及び二酸化炭素侵入防止用セパレータ等への新たな適用が期待される。また、同様に亜鉛デンドライト進展が実用化の大きな障壁となっているニッケル亜鉛電池にも適用が期待される。
ところで、上記製造方法により得られるLDH緻密膜は多孔質基材の両面に形成されうる。このため、LDH緻密膜をセパレータとして好適に使用可能な形態とするためには、成膜後に多孔質基材の片面のLDH緻密膜を機械的に削るか、あるいは成膜時に片面にはLDH緻密膜が成膜できないような措置を講ずるのが望ましい。
LDH緻密膜及びLDH含有複合材料
本発明の方法を用いて、LDH緻密膜及びそれを備えたLDH含有複合材料を製造することができる。本態様によるLDH含有複合材料は、多孔質基材と、この多孔質基材上及び/又は多孔質基材中に形成される機能層(典型的にはLDH緻密膜)とを備えてなる。機能層は、一般式:M2+ 1−x3+ (OH)n− x/n・mHO(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4である)で表される層状複水酸化物(LDH)を含んでなり、透水性(望ましくは透水性及び通気性)を有しない。すなわち、多孔質材料は孔の存在により透水性を有しうるが、機能層は典型的には透水性を有しない程にまでLDHで緻密化されている。機能層は多孔質基材上に形成されるのが好ましい。例えば、図1に示されるように、LDH含有複合材料10は、多孔質基材12上に機能層14がLDH緻密膜として形成されるのが好ましい。この場合、多孔質基材12の性質上、図1に示されるように多孔質基材12の表面及びその近傍の孔内にもLDHが形成されてよいのはいうまでもない。あるいは、図2に示されるLDH複合材料10’のように、多孔質基材12中(例えば多孔質基材12の表面及びその近傍の孔内)にLDHが緻密に形成され、それにより多孔質基材12の少なくとも一部が機能層14’を構成するものであってもよい。この点、図2に示される複合材料10’は図1に示される複合材料10の機能層14における膜相当部分を除去した構成となっているが、これに限定されず、多孔性基材12の表面と平行に機能層が存在していればよい。いずれにせよ、本態様のLDH含有複合材料において、機能層は透水性を有しない程にまでLDHで緻密化されているため、水酸化物イオン伝導性を有するが透水性を有しないという特有の機能を有することができる。
このように、本態様のLDH含有複合材料においては、透水性を有しうる多孔質基材を用いるにもかかわらず、透水性(望ましくは透水性及び通気性)を有しない程に緻密な機能層が形成されたものである。その結果、本態様のLDH含有複合材料は、全体として、水酸化物イオン伝導性を有するが透水性を有しないものとなり、電池用セパレータとしての機能を呈することができる。前述したとおり、電池用固体電解質セパレータとしてLDHの適用を考えた場合、バルク形態のLDH緻密体では高抵抗であるとの問題があったが、本態様の複合材料においては、多孔質基材により強度を付与できるため、LDH含有機能層を薄くして低抵抗化を図ることができる。その上、多孔質基材は透水性を有しうるため、電池用固体電解質セパレータとして使用された際に電解液がLDH含有機能層に到達可能な構成となりうる。すなわち、本態様のLDH含有複合材料は、金属空気電池(例えば亜鉛空気電池)及びその他各種亜鉛二次電池(例えばニッケル亜鉛電池)等の各種電池用途に適用可能な固体電解質セパレータとして、極めて有用な材料となりうる。
本態様の複合材料における機能層は、一般式:M2+ 1−x3+ (OH)n− x/n・mHO(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4である)で表される層状複水酸化物(LDH)を含んでなり、透水性を有しない。上記一般式において、M2+は任意の2価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはMg2+、Ca2+及びZn2+が挙げられ、より好ましくはMg2+である。M3+は任意の3価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはAl3+又はCr3+が挙げられ、より好ましくはAl3+である。An−は任意の陰イオンでありうるが、好ましい例としてはOH及びCO 2−が挙げられる。したがって、上記一般式は、少なくともM2+にMg2+を、M3+にAl3+を含み、An−にOH及び/又はCO 2−を含むのが好ましい。nは1以上の整数であるが、好ましくは1又は2である。xは0.1〜0.4であるが、好ましくは0.2〜0.35である。mは任意の実数である。
機能層は、多孔質基材上及び/又は多孔質基材中、好ましくは多孔質基材上に形成される。例えば、図1に示されるように機能層14が多孔質基材12上に形成される場合には、機能層14はLDH緻密膜の形態であり、このLDH緻密膜は典型的にはLDHからなる。また、図2に示されるように機能層14’が多孔質基材12中に形成される場合には、多孔質基材12中(典型的には多孔質基材12の表面及びその近傍の孔内)にLDHが緻密に形成されることから、機能層14’は典型的には多孔質基材12の少なくとも一部及びLDHからなる。図2に示される複合材料10’及び機能層14’は、図1に示される複合材料10から機能層14における膜相当部分を研磨、切削等の公知の手法により除去することにより得ることができる。
機能層は透水性(望ましくは透水性及び通気性)を有しない。例えば、機能層はその片面を25℃で1週間水と接触させても水を透過させない。すなわち、機能層は透水性を有しない程にまでLDHで緻密化されている。もっとも、局所的且つ/又は偶発的に透水性を有する欠陥が機能膜に存在する場合には、当該欠陥を適当な補修剤(例えばエポキシ樹脂等)で埋めて補修することで水不透性を確保してもよく、そのような補修剤は必ずしも水酸化物イオン伝導性を有する必要はない。いずれにしても、機能層(典型的にはLDH緻密膜)の表面が20%以下の気孔率を有するのが好ましく、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下、特に好ましくは7%以下である。機能層の表面の気孔率が低ければ低いほど、機能層(典型的にはLDH緻密膜)の緻密性が高いことを意味し、好ましいといえる。緻密性の高い機能層は水酸化物イオン伝導体として電池用セパレータ等の機能膜の用途(例えば亜鉛空気電池用の水酸化物イオン伝導性セパレータ)等の用途に有用なものとなる。ここで、機能層の表面の気孔率を採用しているのは、以下に述べる画像処理を用いた気孔率の測定がしやすいことによるものであり、機能層の表面の気孔率は機能層内部の気孔率を概ね表しているといえるからである。すなわち、機能層の表面が緻密であれば機能層の内部もまた同様に緻密であるといえる。本態様において、機能層の表面の気孔率は画像処理を用いた手法により以下のようにして測定することができる。すなわち、1)機能層の表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順で白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とする。なお、この画像処理による気孔率の測定は機能層表面の6μm×6μmの領域について行われるのが好ましく、より客観的な指標とするためには、任意に選択された3箇所の領域について得られた気孔率の平均値を採用するのがより好ましい。
層状複水酸化物は複数の板状粒子(すなわちLDH板状粒子)の集合体で構成され、当該複数の板状粒子がそれらの板面が多孔質基材の表面(基材面)と略垂直に又は斜めに交差するような向きに配向してなるのが好ましい。この態様は、図1に示されるように、LDH含有複合材料10が、多孔質基材12上に機能層14がLDH緻密膜として形成される場合に特に好ましく実現可能な態様であるが、図2に示されるLDH複合材料10’のように、多孔質基材12中(典型的には多孔質基材12の表面及びその近傍の孔内)にLDHが緻密に形成され、それにより多孔質基材12の少なくとも一部が機能層14’を構成する場合においても実現可能である。
すなわち、LDH結晶は図3に示されるような層状構造を持った板状粒子の形態を有することが知られているが、上記略垂直又は斜めの配向は、LDH含有機能層(例えばLDH緻密膜)にとって極めて有利な特性である。というのも、配向されたLDH含有機能層
(例えば配向LDH緻密膜)には、LDH板状粒子が配向する方向(即ちLDHの層と平行方向)の水酸化物イオン伝導度が、これと垂直方向の伝導度よりも格段に高いという伝導度異方性があるためである。実際、本発明者らは、LDHの配向バルク体において、配向方向における伝導度(S/cm)が配向方向と垂直な方向の伝導度(S/cm)と比べて1桁高いとの知見を得ている。すなわち、本態様のLDH含有機能層における上記略垂直又は斜めの配向は、LDH配向体が持ちうる伝導度異方性を層厚方向(すなわち機能層又は多孔質基材の表面に対して垂直方向)に最大限または有意に引き出すものであり、その結果、層厚方向への伝導度を最大限又は有意に高めることができる。その上、LDH含有機能層は層形態を有するため、バルク形態のLDHよりも低抵抗を実現することができる。このような配向性を備えたLDH含有機能層は、層厚方向に水酸化物イオンを伝導させやすくなる。その上、緻密化されているため、層厚方向への高い伝導度及び緻密性が望まれる電池用セパレータ等の機能膜の用途(例えば亜鉛空気電池用の水酸化物イオン伝導性セパレータ)に極めて適する。
特に好ましくは、LDH含有機能層(典型的にはLDH緻密膜)においてLDH板状粒子が略垂直方向に高度に配向してなる。この高度な配向は、機能層の表面をX線回折法により測定した場合に、(003)面のピークが実質的に検出されないか又は(012)面のピークよりも小さく検出されることで確認可能なものである(但し、(012)面に起因するピークと同位置に回折ピークが観察される多孔質基材を用いた場合には、LDH板状粒子に起因する(012)面のピークを特定できないことから、この限りでない)。この特徴的なピーク特性は、機能層を構成するLDH板状粒子が機能層に対して略垂直方向(すなわち垂直方向又はそれに類する斜め方向、好ましくは垂直方向)に配向していることを示す。すなわち、(003)面のピークは無配向のLDH粉末をX線回折した場合に観察される最も強いピークとして知られているが、配向LDH含有機能層にあっては、LDH板状粒子が機能層に対して略垂直方向に配向していることで(003)面のピークが実質的に検出されないか又は(012)面のピークよりも小さく検出される。これは、(003)面が属するc軸方向(00l)面(lは3及び6である)がLDH板状粒子の層状構造と平行な面であるため、このLDH板状粒子が機能層に対して略垂直方向に配向しているとLDH層状構造も略垂直方向を向くこととなる結果、機能層表面をX線回折法により測定した場合に(00l)面(lは3及び6である)のピークが現れないか又は現れにくくなるからである。特に(003)面のピークは、それが存在する場合、(006)面のピークよりも強く出る傾向があるから、(006)面のピークよりも略垂直方向の配向の有無を評価しやすいといえる。したがって、配向LDH含有機能層は、(003)面のピークが実質的に検出されないか又は(012)面のピークよりも小さく検出されるのが、垂直方向への高度な配向を示唆することから好ましいといえる。この点、特許文献1及び2並びに非特許文献1にも開示されるLDH配向膜は(003)面のピークが強く検出されるものであり、略垂直方向への配向性に劣るものと考えられ、その上、高い緻密性も有してないものと見受けられる。
機能層は100μm以下の厚さを有するのが好ましく、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは25μm以下、最も好ましくは5μm以下である。このように薄いことで機能層の低抵抗化を実現できる。機能層が多孔質基材上にLDH緻密膜として形成されるのが好ましく、この場合、機能層の厚さはLDH緻密膜の厚さに相当する。また、機能層が多孔質基材中に形成される場合には、機能層の厚さは多孔質基材の少なくとも一部及びLDHからなる複合層の厚さに相当し、機能層が多孔質基材上及び中にまたがって形成される場合にはLDH緻密膜と上記複合層の合計厚さに相当する。いずれにしても、上記のような厚さであると、電池用途等への実用化に適した所望の低抵抗を実現することができる。LDH配向膜の厚さの下限値は用途に応じて異なるため特に限定されないが、セパレータ等の機能膜として望まれるある程度の堅さを確保するためには厚さ1μm以上であるのが好ましく、より好ましくは2μm以上である。
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
例A1〜A13
以下、多孔質基材上に層状複水酸化物配向膜を作製した例を示す。なお、以下の例で作製される膜試料の評価方法は以下のとおりとした。
評価1:膜試料の同定
X線回折装置(リガク社製 RINT TTR III)にて、電圧:50kV、電流値:300mA、測定範囲:10〜70°の測定条件で、膜試料の結晶相を測定してXRDプロファイルを得る。得られたXRDプロファイルについて、JCPDSカードNO.35−0964に記載される層状複水酸化物(ハイドロタルサイト類化合物)の回折ピークを用いて同定を行った。
評価2:微構造の観察
膜試料の表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10kVの加速電圧で観察した。
また、例A4についてのみ、イオンミリング装置(日立ハイテクノロジーズ社製、IM4000によって、膜試料の断面研磨面を得た後に、この断面研磨面の微構造を表面微構造の観察と同様の条件でSEMにより観察した。
評価3:緻密性判定試験I
膜試料が透水性を有しない程の緻密性を有することを確認すべく、緻密性判定試験を以下のとおり行った。まず、図4Aに示されるように、LDH含有複合材料試料120(1cm×1cm平方に切り出されたもの)の膜試料側に、中央に0.5cm×0.5cm平方の開口部122aを備えたシリコンゴム122を接着し、得られた積層物を2つのアクリル製容器124,126で挟んで接着した。シリコンゴム122側に配置されるアクリル製容器124は底が抜けており、それによりシリコンゴム122はその開口部122aが開放された状態でアクリル製容器124と接着される。一方、複合材料試料120の多孔質基材側に配置されるアクリル製容器126は底を有しており、その容器126内にはイオン交換水128が入っている。すなわち、組み立て後に上下逆さにすることで、複合材料試料120の多孔質基材側にイオン交換水128が接するように各構成部材が配置されてなる。これらの構成部材等を組み立て後、総重量を測定した。なお、容器126には閉栓された通気穴(図示せず)が形成されており、上下逆さにした後に開栓されることはいうまでもない。図4Bに示されるように組み立て体を上下逆さに配置して25℃で1週間保持した後、総重量を再度測定した。このとき、アクリル製容器124の内側側面に水滴が付着している場合には、その水滴を拭き取った。そして、試験前後の総重量の差を算出することにより緻密度を判定した。25℃で1週間保持した後においても、イオン交換水の重量に変化は見られなかった場合に、膜試料(すなわち機能膜)は透水性を有しない程に高い緻密性を有するもの、すなわち「液密性あり」と判定した。
評価4:緻密性判定試験II
膜試料が通気性を有しない程の緻密性を有することを確認すべく、緻密性判定試験を以下のとおり行った。まず、図5A及び5Bに示されるように、蓋の無いアクリル容器130と、このアクリル容器130の蓋として機能しうる形状及びサイズのアルミナ治具132とを用意した。アクリル容器130にはその中にガスを供給するためのガス供給口130aが形成されている。また、アルミナ治具132には直径5mmの開口部132aが形成されており、この開口部132aの外周に沿って膜試料載置用の窪み132bが形成されてなる。アルミナ治具132の窪み132bにエポキシ接着剤134を塗布し、この窪み132bに複合材料試料136の膜試料136b側を載置してアルミナ治具132に気密かつ液密に接着させた。そして、複合材料試料136が接合されたアルミナ治具132を、アクリル容器130の開放部を完全に塞ぐようにシリコーン接着剤138を用いて気密かつ液密にアクリル容器130の上端に接着させて、測定用密閉容器140を得た。この測定用密閉容器140を水槽142に入れ、アクリル容器130のガス供給口130aを圧力計144及び流量計146に接続して、ヘリウムガスをアクリル容器130内に供給可能に構成した。水槽142に水143を入れて測定用密閉容器140を完全に水没させた。このとき、測定用密閉容器140の内部は気密性及び液密性が十分に確保されており、複合材料試料136の膜試料136b側が測定用密閉容器140の内部空間に露出する一方、複合材料試料136の多孔質基材136a側が水槽142内の水に接触している。この状態で、アクリル容器130内にガス供給口130aを介してヘリウムガスを測定用密閉容器140内に導入した。圧力計144及び流量計146を制御して膜試料136a内外の差圧が0.5atmとなる(すなわちヘリウムガスに接する側に加わる圧力が反対側に加わる水圧よりも0.5atm高くなる)ようにして、複合材料試料136から水中にヘリウムガスの泡が発生するか否かを観察した。その結果、ヘリウムガスに起因する泡の発生は観察されなかった場合に、膜試料136bは通気性を有しない程に高い緻密性を有するもの、すなわち「気密性あり」と判定した。
例A1(比較)
本例は、界面活性剤での処理(工程(b))を行わずに層状複水酸化物緻密膜の形成を試みた比較例である。
(1)多孔質基材の作製
ジルコニア粉末として3YSZ粉末(東ソー社製、TZ−3YS、Y:3mol%)、メチルセルロース、及びイオン交換水を、(ジルコニア):(メチルセルロース):(イオン交換水)の質量比が10:1:5となるように秤量した後、混練した。得られた混練物を、ハンドプレスを用いた押出成形に付し、2.5cm×10cm×厚さ0.5cmの大きさに成形した。得られた成形体を80℃で12時間乾燥した後、1100℃で3時間焼成し、その後、2cm×2cm×0.3cmの大きさに加工してジルコニア製多孔質基材(3YSZ製多孔質基材)を得た。
得られた多孔質基材について、画像処理を用いた手法により、多孔質基材表面の気孔率を測定したところ、45%であった。この気孔率の測定は、1)表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察して多孔質基材表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順で白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とすることにより行った。この気孔率の測定は多孔質基材表面の6μm×6μmの領域について行われた。
また、多孔質基材の平均気孔径を測定したところ0.3μmであった。本発明において、平均気孔径の測定は多孔質基材の表面の電子顕微鏡(SEM)画像をもとに気孔の最長距離を測長することにより行った。この測定に用いた電子顕微鏡(SEM)画像の倍率は20000倍であり、得られた全ての気孔径をサイズ順に並べて、その平均値から上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均気孔径を得た。測長には、SEMのソフトウェアの測長機能を用いた。
得られた多孔質基材(2cm角)をアセトン25ml中で5分間超音波洗浄し、エタノール25ml中で2分間超音波洗浄、その後、イオン交換水中で1分間超音波洗浄した。
(2)原料水溶液の作製
原料として、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO・6HO、関東化学株式会社製)、硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO・9HO、関東化学株式会社製)、及び尿素((NHCO、シグマアルドリッチ製)を用意した。カチオン比(Mg2+/Al3+)が2となり且つ全金属イオンモル濃度(Mg2++Al3+)が0.320mol/Lとなるように、硝酸マグネシウム六水和物と硝酸アルミニウム九水和物を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を75mlとした。得られた溶液を攪拌した後、溶液中に尿素/NO =4の割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得た。
(3)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(内容量100ml、外側がステンレス製ジャケット)に上記(2)で作製した原料水溶液と上記(1)で洗浄した多孔質基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように水平に設置した。その後、水熱温度70℃で168時間(7日間)水熱処理を施すことにより基材表面に層状複水酸化物配向膜(機能層)の形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄して、層状複水酸化物(以下、LDHという)の膜を基材上に得た。得られた膜試料の厚さは約1.5μmであった。なお、LDH膜は多孔質基材の両面に形成されていたが、セパレータとしての形態を複合材料に付与するため、多孔質基材の片面のLDH膜を機械的に削り取った。
(4)評価結果
得られたLDH膜試料に対して評価1〜4を行った。結果は以下のとおりであった。
‐評価1:XRDプロファイルから、膜試料はLDH(ハイドロタルサイト類化合物)であることが同定された。
‐評価2:膜試料の表面微構造のSEM画像は図6に示されるとおりであり、膜試料には疎密のばらつきが観察された。このように、本発明の工程(b)を経ないで形成される例A1の膜試料は、緻密性に関して、面内でばらつきがあることが分かる。
‐評価3:膜試料は透水性を有しており、液密性なしと判定された。
‐評価4:膜試料は通気性を有しており、気密性なしと判定された。
例A2(比較)
3YSZ製多孔質基材の代わりにアルミナ製多孔質基材を用いたこと以外は例A1と同様にして、界面活性剤での処理(工程(b))を行わずにLDH緻密膜の作製及び評価を行った。アルミナ製多孔質基材は以下のようにして作製した。ベーマイト(サソール社製、DISPAL 18N4−80)、メチルセルロース、及びイオン交換水を、(ベーマイト):(メチルセルロース):(イオン交換水)の質量比が10:1:5となるように秤量した後、混練した。得られた混練物を、ハンドプレスを用いた押出成形に付し、2.5cm×10cm×厚さ0.5cmの大きさに成形した。得られた成形体を80℃で12時間乾燥した後、1150℃で3時間焼成し、その後、2cm×2cm×0.3cmの大きさに加工してアルミナ製多孔質基材を得た。得られた多孔質基材について例A1と同様の測定を行ったところ、多孔質基材表面の気孔率は48%、多孔質基材の平均気孔径は0.1μmであった。
得られたLDH膜試料に対して評価1〜4を行った。結果は以下のとおりであった。
‐評価1:XRDプロファイルから、膜試料はLDH(ハイドロタルサイト類化合物)であることが同定された。
‐評価2:膜試料の表面微構造のSEM画像は図6に示されるとおりであり、膜試料には疎密のばらつきが顕著に観察され、下地である多孔質基材(特にそれを構成する細かい粒子)が露出している箇所が多数散見された。このように、本発明の工程(b)を経ないで形成される例A2の膜試料は、緻密性に関して、面内でばらつきがあることが分かる。
‐評価3:膜試料は透水性を有しており、液密性なしと判定された。
‐評価4:膜試料は通気性を有しており、気密性なしと判定された。
例A3及びA5〜A13
例A3及びA5〜A13は、界面活性剤での処理(工程(b))を経てLDH緻密膜の形成を行った例である。
(1)多孔質基材の作製
例A1(1)と同様にして、3YSZ製多孔質基材の作製及び洗浄を行った。
(2)界面活性剤の作製
表1及び以下に示される市販の各種界面活性剤溶液をイオン交換水と、(界面活性剤溶液):(イオン交換水)の重量比が2:100となるように混合して、基材の界面活性剤処理に用いるための希釈された界面活性剤溶液を作製した。表1に示されるように、使用する界面活性剤の種類によって親水基や溶液のpHが異なるものであった。なお、表1に示されるpHは上記希釈された界面活性剤溶液のpH、すなわち基材浸漬時のpHである。
なお、使用した界面活性剤の詳細は以下のとおりである。
‐ ナフタレンスルホン酸Naホルマリン縮合物(デモールSS−L、花王株式会社製)
‐ ポリオキシエチレンスルホコハク酸アルキル2Na(ビューライトESS、三洋化成工業株式会社製)
‐ ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステルNa(サンデッドEN、三洋化成工業株式会社製)
‐ ポリスチレンスルホン酸Na(ポリナス、東ソー株式会社製)
‐ ジオクチルスルホコハク酸Na(サンモリンOT−70、三洋化成工業株式会社製)
‐ ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミン(サンデッドET、三洋化成工業株式会社製)
‐ ポリカルボン酸型アニオン界面活性剤(キャリボンL400、三洋化成工業株式会社製)
‐ リン酸エステル型アニオン界面活性剤(ケミスタット3500、三洋化成工業株式会社製)
‐ ポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸Na(ビューライトLCA、三洋化成工業株式会社製)
‐ ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸(ビューライトLCA−H、三洋化成工業株式会社製)
(3)界面活性剤での処理
上記希釈された界面活性剤溶液25mlを含むビーカーに、多孔質基材を回転子と共に互いに接触しないように入れ、ホットスターラー上にて500rpmの回転数で攪拌しながら温度40℃で1日浸漬させた。
(4)水熱処理による成膜
こうして界面活性剤で処理された多孔質基材をオートクレーブ容器に入れ、例A1(2)と同様の原料水溶液を用いて例A1(3)と同様にしてLDH膜の形成を行った。
得られたLDH膜試料に対して評価1〜4を行った。結果は以下のとおりであった。
‐評価1:XRDプロファイルから、例A3及びA5〜A13のいずれの膜試料もLDH(ハイドロタルサイト類化合物)であることが同定された。
‐評価2:例A3及びA5〜A7の膜試料の表面微構造のSEM画像は図6及び8に示されるとおりであり、これらの例では多孔質基材の露出している部分がなく、多孔質基材の表面の全体にわたってLDH膜がムラなく均一に形成されていることが分かる。例A8〜A12についてのSEM画像は載せていないが、例A3〜A7と同程度に均一かつ緻密なLDH膜が得られていることをSEMで確認した。このように、本発明の工程(b)を経て形成される例A3及びA5〜A12の膜試料は、緻密性に関して、面内でばらつきが無いことが分かる。すなわち、高度に緻密化されたLDH緻密膜をムラなく均一に形成されていることが確認された。一方、A13の膜試料の表面微構造は図8に示されるとおり、膜試料には隙間が多く存在し、下地である多孔質基材(特にそれを構成する細かい粒子)が露出している箇所が広範囲にわたって観察された。
‐評価3:例A3及びA5〜A12の膜試料は透水性を有しておらず、液密性ありと判定された。一方、例A13の膜試料は透水性を有しており、液密性なしと判定された。
‐評価4:例A3及びA5〜A12の膜試料は通気性を有しておらず、気密性ありと判定された。一方、例A13の膜試料は通気性を有しており、気密性なしと判定された。
例A4
3YSZ製多孔質基材の代わりに、例A2で作製及び洗浄したアルミナ製多孔質基材を用いたこと以外は、例A3と同様にして、界面活性剤の処理、原料水溶液の作製、及びLDH膜の形成を行った。
得られたLDH膜試料に対して評価1〜4を行った。結果は以下のとおりであった。
‐評価1:XRDプロファイルから、膜試料はLDH(ハイドロタルサイト類化合物)であることが同定された。
‐評価2:膜試料の表面微構造及び断面微構造のSEM画像は図6及び7に示されるとおりであった。これらの図から、多孔質基材の露出している部分がなく、多孔質基材の表面の全体にわたってLDH膜がムラなく均一に形成されることが分かる。このように、本発明の工程(b)を経て形成される例A4の膜試料は、緻密性に関して、面内でばらつきが無いことが分かる。すなわち、高度に緻密化されたLDH緻密膜がムラなく均一に形成されていることが確認された。
‐評価3:膜試料は透水性を有しておらず、液密性ありと判定された。
‐評価4:膜試料は通気性を有しておらず、気密性ありと判定された。
例A14
チタニア製多孔質基材を以下のようにして作製した。チタニア(石原産業株式会社製、CR−EL)、メチルセルロース、及びイオン交換水を、(チタニア):(メチルセルロース):(イオン交換水)の質量比が10:1:5となるように秤量した後、混練した。得られた混練物を、ハンドプレスを用いた押出成形に付し、2.5cm×10cm×厚さ0.5cmの大きさに成形した。得られた成形体を80℃で12時間乾燥した後、900℃で3時間焼成し、その後、2cm×2cm×0.3cmの大きさに加工してチタニア製多孔質基材を得た。得られた多孔質基材について例A1と同様の測定を行ったところ、多孔質基材表面の気孔率は46%、多孔質基材の平均気孔径は0.5μmであった。このチタニア製多孔質基材の表面にもLDH緻密膜を形成することができ、界面活性剤による処理効果も期待できる。
例B1〜B4(参考)
以下、無孔質基材上に層状複水酸化物配向膜を作製した例を示す。これらの例は多孔質基材及び界面活性剤を用いていない点で本発明例ではなく参考例として位置づけられるものであるが、無孔質基材を所望の多孔質基材に適宜置き換え、かつ、陰イオン界面活性剤での処理を経ることで、本発明のLDH緻密膜を形成することが可能である。
例B1(参考):層状複水酸化物配向膜の作製
(1)基材のスルホン化処理
表面をスルホン化可能な芳香族系高分子基材として、26.5mm×30.0mm×1.85mmの寸法のポリスチレン板を用意した。このポリスチレン板の表面をエタノールで拭いて洗浄した。このポリスチレン板を密閉容器内で市販の濃硫酸(関東化学株式会社製、濃度:95.0質量%以上)に室温中で浸漬させた。表2に示される浸漬時間の経過後、濃硫酸中からポリスチレン板を取り出し、イオン交換水で洗浄した。洗浄したポリスチレン板を40℃で6時間乾燥させて、表面がスルホン化されたポリスチレン板を、試料1〜17を作製するための基材として得た。また、上記スルホン化処理を行わないポリスチレン板も、比較例態様の試料18を作製するため基材として用意した。
上記スルホン化処理の前後において、ポリスチレン板の透過スペクトルをフーリエ変換型赤外分光(FT−IR)のATR法(Attenuated Total Reflection(全反射測定法))により測定し、スルホン酸基由来のピークの検出を行った。この測定は、FT−IR装置において水平ATR装置を用いて、試料とバックグラウンドに対してそれぞれ積算回数64回、測定範囲4000〜400cm−1の条件で透過スペクトルを得ることにより行った。各濃硫酸浸漬時間でスルホン化処理したポリスチレン板の透過スペクトルを図9に示す。図9に示されるように、スルホン化処理を行ったポリスチレン板では、スルホン化処理を行わなかった板では現れない波数1127cm−1にスルホン酸基由来のピークが確認され、濃硫酸浸漬時間が長くなるほどそのピークの大きさが増大していることが分かる。各測定における測定面積が同じことを踏まえると、濃硫酸浸漬時間が長いほどスルホン酸基の量(密度)が増大しているものと考えられる。ATR法で得た透過スペクトルより、スルホン化処理前後で変化しない、フェニル基CC伸縮
(ベンゼン環骨格)振動由来の1601cm−1での透過率ピークの値(T1601)の、スルホン酸基に由来する1127cm−1での透過率ピークの値(T1127)に対する比(T1601/T1127)を算出した。その結果は表2に示されるとおりであり、濃硫酸浸漬時間が長いほど、スルホン酸基の割合が増大していることが示唆された。
(2)原料水溶液の作製
原料として、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO・6HO、関東化学株式会社製)、硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO・9HO、関東化学株式会社製)、及び尿素((NHCO、シグマアルドリッチ製)を用意した。表3に示されるカチオン比(Mg2+/Al3+)及び全金属イオンモル濃度(Mg2++Al3+)となるように、硝酸マグネシウム六水和物と硝酸アルミニウム九水和物を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を75mlとした。得られた溶液を攪拌した後、溶液中に表3に示される割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得た。
(3)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(内容量100ml、外側がステンレス製ジャケット)に上記(2)で作製した原料水溶液と上記(1)で用意したスルホン化された基材を共に封入した。このとき、基材は溶液中に自然に水平に浮かしている状態とした。その後、表3に示される水熱温度、水熱時間及び昇温速度の条件で水熱処理を施すことにより基材表面に層状複水酸化物配向膜の形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、70℃で10時間乾燥させて、試料1〜18として層状複水酸化物(以下、LDHという)を基材上に得た。試料1〜17は膜形態を有しており、その厚さはいずれも約2μmであった。一方、試料18は成膜できなかった。
例B2(参考):配向性の評価
X線回折装置(D8 ADVANCE、Bulker AXS社製)にて、電圧:40kV、電流値:40mA、測定範囲:5〜70°の測定条件で、試料1〜18の結晶相を測定した。得られたXRDプロファイルについて、JCPDSカードNO.35−0964に記載される層状複水酸化物(ハイドロタルサイト類化合物)の回折ピークを用いて同定した。その結果、試料1〜17はいずれも層状複水酸化物(ハイドロタルサイト類化合物)であることが確認された。
次に、上記得られたXRDプロファイルに基づいて、LDH膜における結晶配向の程度を評価した。説明の便宜のため、最も高い膜密度が得られた試料9の結晶相に対して得られたXRDプロファイルを図10に示す。図10の一番上に示されるプロファイルがポリスチレン基材の結晶相に対応し、真ん中に示されるプロファイルがLDH膜付きポリスチレン基材の結晶相に対応し、一番下に示されるプロファイルがLDH粉末の結晶相に対応する。LDH粉末では(003)面のピークが最強線であるが、LDH配向膜では、(00l)面(lは3及び6である)のピークが減少し、(012)面や(110)面といったピークが観測された。このことから、(00l)面のピークが検出できなくなることで、板状粒子が基材に対して略垂直方向(すなわち垂直方向又はそれに類する斜め方向)に配向しているということが示唆された。
試料9と同様にして結晶配向性の評価を他の試料1〜8及び10〜18についても行い、以下の3段階で評価した。結果は表3に示されるとおりであった。
<結晶配向性の評価基準>
A:(003)面のピークが検出されない又は(003)面のピークが(012)面のピークの大きさの1/2倍未満
B:(003)面のピークが(012)面のピークの大きさの1/2倍以上1倍以下
C:(003)面のピークが(012)面のピークの大きさよりも大きい
例B3(参考):微構造の観察
試料1〜6及び9〜16及び18の表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察した。得られた試料1〜6及び9〜16及び18の表面微構造のSEM画像(二次電子像)を図11〜13に示す。これらの図に示される画像から、最も隙間が小さい(すなわち最も密度が高い)試料は試料9であった。また、比較試料18については膜の形態を有していなかった。
試料9の断面微構造を以下のようにして観察した。まず、試料9の破断した断面(以下、破断断面という)の微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察した。こうして得られた試料9の破断断面微構造のSEM画像を図14に示す。
次に、試料9の破断断面をFIB研磨やクライオミリングによって研磨して研磨断面を形成し、この研磨断面の微構造を電界放出型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて1.5kV〜3kVの加速電圧で観察した。こうして得られた試料9の研磨断面微構造のSEM画像を図15に示す。また、試料2についても上記同様にして研磨断面の微構造を観察したところ、図16に示されるSEM画像が得られた。
例B4(参考):気孔率及び膜密度の測定
試料1〜6及び9〜16及び18について、画像処理を用いた手法により、膜の表面の気孔率を測定した。この気孔率の測定は、1)例B3に示される手順に従い膜の表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順で白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とすることにより行った。この気孔率の測定は配向膜表面の6μm×6μmの領域について行われた。
また、上記得られた膜表面の気孔率を用いて、膜表面から見たときの密度D(以下、表面膜密度という)をD=100%−(膜表面の気孔率)により算出したところ、表3に示される結果が得られた。また、測定された表面の膜密度に基づいて膜の緻密性を以下の4段階で評価したところ、表3に示されるとおりであった。
<緻密性の評価基準>
A:表面膜密度が90%以上
B:表面膜密度が80%以上90%未満
C:表面膜密度が50%以上80%未満
D:表面膜密度が50%未満
また、試料2及び9については、研磨断面の気孔率についても測定した。この研磨断面の気孔率についても測定は、例B3に示される手順に従い膜の厚み方向における断面研磨面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得したこと以外は、上述の膜表面の気孔率と同様にして行った。この気孔率の測定は配向膜断面の2μm×4μmの領域について行われた。こうして試料9の断面研磨面から算出した気孔率は平均で4.8%(2箇所の断面研磨面の平均値)であり、高密度な膜が形成されていることが確認された。また、試料9よりも密度の低い試料2についても研磨断面の気孔率を算出したところ平均で22.9%(2箇所の断面研磨面の平均値)であった。表3に示される結果のとおり、表面気孔率と断面気孔率は概ね対応している。このことから、表面気孔率に基づき算出された上述の表面膜密度、さらにはそれに基づいてなされた膜の緻密性の評価は膜表面のみならず膜の厚さ方向を含む膜全体の特性を概ね反映していることが分かる。
表3に示されるように、試料1〜17の全てにおいて所望の結晶配向性を有する概ね緻密な膜が得られた。特に、スルホン化処理条件で濃硫酸浸漬時間を長くしてスルホン基の量(密度)を多くした試料5〜10においては高い結晶配向性のみならず緻密性にも優れた膜が得られた。一方、スルホン化していないポリスチレン基材を用いた試料18はLDHの核が生成されず、LDH膜は形成されなかった。
10,10’ LDH含有複合材料
12 多孔質基材
14,14’ 機能層

Claims (15)

  1. 多孔質基材の表面に層状複水酸化物緻密膜を形成する方法であって、前記層状複水酸化物緻密膜が、一般式:M2+ 1−x3+ (OH)n− x/n・mHO(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4である)で表される層状複水酸化物からなり、
    (a)多孔質基材を用意する工程と、
    (b)前記多孔質基材を、陰イオン界面活性剤を含む溶液で処理する工程と、
    (c)前記層状複水酸化物の構成元素を含む原料水溶液中で、前記多孔質基材に水熱処理を施して、前記層状複水酸化物緻密膜を前記多孔質基材の表面に形成させる工程と、
    を含む、方法。
  2. 前記陰イオン界面活性剤が、スルホン酸型陰イオン界面活性剤、硫酸エステル型陰イオン界面活性剤、リン酸エステル型陰イオン界面活性剤、及びカルボン酸型陰イオン界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記陰イオン界面活性剤を含む溶液が6.0以上のpHを有する、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記工程(b)が、前記多孔質基材を前記溶液に浸漬すること、又は前記溶液を前記多孔質基材に塗布することにより行われる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 前記工程(c)における水熱処理が、密閉容器中、60〜150℃で行われる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
  6. 前記一般式において、M2+がMg2+を含み、M3+がAl3+を含み、An−がOH及び/又はCO 2−を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
  7. 前記工程(c)で用いられる前記原料水溶液が、マグネシウムイオン(Mg2+)及びアルミニウムイオン(Al3+)を0.20〜0.40mol/Lの合計濃度で含み、かつ、尿素を含んでなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
  8. 前記工程(c)で用いられる前記原料水溶液に硝酸マグネシウム及び硝酸アルミニウムが溶解されており、それにより該原料水溶液がマグネシウムイオン及びアルミニウムイオンに加えて硝酸イオンを含む、請求項7に記載の方法。
  9. 前記工程(c)で用いられる前記原料水溶液における、前記尿素の前記硝酸イオン(NO )に対するモル比が、4〜5である、請求項8に記載の方法。
  10. 前記多孔質基材が、セラミックス材料、金属材料、及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
  11. 前記多孔質基材が、セラミックス材料であり、該セラミックス材料が、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、スピネル、カルシア、コージライト、ゼオライト、ムライト、フェライト、酸化亜鉛、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、及び窒化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項10に記載の方法。
  12. 前記多孔質基材が、0.001〜1.5μmの平均気孔径を有する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
  13. 前記多孔質基材の表面が、10〜60%の気孔率を有する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
  14. 前記層状複水酸化物緻密膜を構成する前記層状複水酸化物が複数の板状粒子の集合体で構成され、該複数の板状粒子がそれらの板面が前記多孔質基材の表面と略垂直に又は斜めに交差するような向きに配向してなる、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
  15. 前記層状複水酸化物緻密膜が透水性を有しない、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
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