図1乃至図13は、第1の実施の形態を示す。図1は、印刷装置であるインクジェット記録装置で使用されるインクジェット記録部1を示している。このインクジェット記録部1は、液体吐出部でありインク吐出部であるインクジェットヘッド2と循環部であるインク循環装置3とを備える。図2は、インクジェット記録部1のインク循環装置3のインク室の部分を断面にして示す正面図である。インク循環装置3は、インクジェットヘッド2の上方に配置され、インク循環装置3とインクジェットヘッド2とが一体になっている。インクジェット記録部1は、記録媒体Sにインクを吐出して、所望の画像を形成する。
インクジェットヘッド2は、例えば図3および図4に示すように、ノズル51を備えるノズルプレート52と、アクチュエータ54を備える基板60と、基板60に接続されるマニフォルド61と、を備える。ノズルプレート52は、その長手方向に2列のノズル列(第1ノズル列57a及び第2ノズル列57b)を備える。第1ノズル列57a及び第2ノズル列57bはそれぞれ液体吐出部であるノズル51a、51bを300個ずつ備える。
基板60は、ノズル51とアクチュエータ54の間に、インクを流すインク流路180を備える。アクチュエータ54はインク流路180に面し、かつ各ノズル51に対応してそれぞれ備えられる。基板60は、アクチュエータ54によってインク流路180内のインクに発生した圧力がノズル51に集中するように、隣接するノズル51間に境界壁190を備える。インク流路180の、ノズルプレート52、アクチュエータ54、および境界壁190で囲まれた部分がインク圧力室150となる。インク圧力室150は、第1ノズル列57aの各ノズル51a、及び第2ノズル列57bの各ノズル51bに対応して複数設けられる。
基板60は複数の圧力室150にインクを供給する共通インク供給室58、複数のインク圧力室150からのインクを回収する共通インク回収室59を第1ノズル列57a側と第2ノズル列57b側にそれぞれ備える。
マニフォルド61は、図3中で矢印F方向へインクを流入させる液体供給口であるインク供給口160と、インクを矢印G方向へ排出する液体排出口であるインク排出口170と、を備える。インク循環装置3からインク供給口160にインクIが供給され、インク排出口170からインク循環装置3にインクが還流する。マニフォルド61は、インク供給口160から共通インク供給室58に連通するインク分配通路62を有している。マニフォルド61は、共通インク回収室59からインク排出口170に連通するインク環流通路63を有している。
すなわち、基板60、マニフォルド61、およびノズルプレート52によって、インクジェットヘッド2の内部に、インク流路180が形成される。インク流路180は、ノズル51a、51bに連通する複数のインク圧力室150と、マニフォルド61に形成されたインク供給口160およびインク排出口170と、複数のインク圧力室150に連通される共通インク供給室58と、複数のインク圧力室150からのインクを回収する共通インク回収室59と、インク供給口160から共通インク供給室58に連通するインク分配通路62と、共通インク回収室59からインク排出口170に連通するインク環流通路63と、を有する。
インク分配通路62を矢印F方向に流れるインクIは、共通インク供給室58から複数のインク圧力室150に流入する。インク分岐部53は、図4中で矢印E方向に流れているインクが、ノズル51から吐出させるインクと、そのままインクジェットヘッド2内を流れてインク循環装置3に戻るインクに分岐する部分である。インクIは、インク圧力室150に一方の端部から流入し、インク分岐部53を通り、他方の端部から流出する。すなわち、インク圧力室150内のインク分岐部53でインクの一部はノズル51から吐出され、残りは他方の端部から流出する。インク圧力室150でノズル51から吐出されなかったインクIは、共通インク回収室59に流入し、インク環流通路63に還流する。
インクジェットヘッド2のアクチュエータ54は、例えば圧電素子55と振動板56を積層したユニモルフ式の圧電振動板で構成される。圧電素子55は例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電セラミック材料等で構成される。振動板56は例えばSiN(窒化ケイ素)等で形成される。
図4(A),(B)に示すように圧電素子55は上下に電極55a、55bを備える。電極55a、55bに電圧がかからない場合は、図4(A)に示すように圧電素子55が変形しないことから、アクチュエータ54は変形しない。アクチュエータ54が変形しない場合、インクの表面張力によって、ノズル51内にはインクIと空気の界面であるメニスカス290が形成される。メニスカス290によりインク圧力室150内のインクIは、ノズル51内に留まる。
電極55a、55bに電圧(V)がかかると、図4(B)に示すように圧電素子55が変形して、アクチュエータ54が変形する。アクチュエータ54の変形により、メニスカス290にかかる圧力が空気圧より高くなり(陽圧)、インクIはメニスカス290を破ってインク滴IDとなりノズル51から吐出する。
インクジェットヘッド2は、インク圧力室150内のインクに圧力変動を生じるものであるが、構造は限定されない。インクジェットヘッド2は、例えば静電気で振動板を変形してインク滴を吐出する構造、あるいはヒータ等の熱エネルギーを利用してノズル51からインク滴を吐出する構造等でもよい。またインクは温度により粘性が変わり、ノズル51からの吐出特性が変わることから、インク吐出を良好に制御するために、インクジェットヘッド2に温度センサを備えても良い。
インク供給口160、インク分配通路62、共通インク供給室58、インク圧力室150、共通インク回収室59、インク環流通路63、インク排出口170の順に、インクIはインクジェットヘッド2内を移動する。このインクIの一部は画像信号に従いノズル51から吐出され、残ったインクIは移動してインク排出口170からインク循環装置3へ環流する。
図1および図2に示すように、インク循環装置3は、インク室ケース4と、インクを循環させるインク循環ポンプ14(図6参照)と、図示しないインクカートリッジからインク室ケース4にインクを補給するインク供給ポンプ13と、を備えている。インク室ケース4には、上側に圧力調整機構5、背面側に制御基板6、側面側にインク補給口7がそれぞれ組み付けられている。
インク循環装置3は、インクジェットヘッド2にインクを循環供給し、且つインクジェットヘッド2のインク圧力室150の圧力を調整する。インク循環装置3は、インク圧力室150の圧力を調整して、ノズル51のメニスカスの圧力を調整する。さらに、インク循環装置3は、インクジェットヘッド2にインクを循環供給して、インクIに含まれる気泡を吸収し、あるいは異物を除去する。
図2は、インク循環装置3のインク室ケース4の部分を断面にして示す正面図である。図2に示すようにインク室ケース4は、インクを収容するインク室を有する2つのインクタンクを備える。2つのインクタンクの一方に上流インク室8、他方に下流インク室9がそれぞれ形成されている。上流インク室8は、インクジェットヘッド2にインクIを供給する。下流インク室9は、インクジェットヘッド2からのインクIを回収する。上流インク室8と下流インク室9は、分離していてもいいし、共通壁(図示せず)を介して隣接していても良い。インク室ケース4は、外気に対して密閉される。
上流インク室8と下流インク室9は、それぞれ第1の液面α1あるいは第2の液面α2を介して下方にインクIを保有する。上流インク室8と下流インク室9は、それぞれ第1の液面α1あるいは第2の液面α2を介して上方に第1の空気室β1あるいは第2の空気室β2を形成する。
上流インク室8は、インク排出管10を備えている。このインク排出管10に連結されたインク流路管を介してインクジェットヘッド2のインク流入口11に連通し、インクジェットヘッド2へインクIを送液する構成となっている。インク流路管の途中には、インクの温度を計測する温度センサ12(図6参照)を備えている。温度センサ12については、熱電対、測温抵抗体、サーミスタなどが挙げられる。上流インク室8は、インク補給口7に接続されるチューブを介して図示しないインクカートリッジから新しいインクを補充するためのインク供給ポンプ13を備える。インク供給ポンプ13は、液体補充部でありインク補充部を構成する。上流インク室8は、インク室ケース4の背面側に装着されたインク循環ポンプ14からインクを吸入する循環ポンプ出口15を備える。上流インク室8の上面には、圧力センサPS(図6参照)に連結される連結口16と、圧力調整機構5に連通する第1の連通孔17とを備える。また、インクジェット記録装置は、インクカートリッジが着脱可能に装着される図示しないカートリッジホルダを有する。このカートリッジホルダには、少なくとも通常印刷用のインクカートリッジと、洗浄用の洗浄液カートリッジのいずれか一方が装着される。
下流インク室9は、インク流入管18を備える。このインク流入管18は、インクジェットヘッド2のインク排出口19に連通し、インクジェットヘッド2のインク排出口19から排出されたインクIを流入させる。下流インク室9は、インク循環ポンプ14にインクIを排出するための循環ポンプ入口20を備える。下流インク室9の上面には、圧力センサPS(図6参照)に連結される連結口21と、圧力調整機構5に連通する第2の連通孔22とを備える。
なお、圧力センサPSは、1チップで2つの圧力検知ポートを有し、上流インク室8の第1の空気室β1に連通する第1の圧力センサPS1(図示せず)と下流インク室9の第2の空気室β2に連通する第2の圧力センサPS2(図示せず)を備える。第1の圧力センサPS1は、上流インク室8の第1の空気室β1の圧力を検出する。第2の圧力センサPS2は、第2の空気室β2の圧力を検出する。そして、上流インク室8上部と下流インク室9上部の空気圧を電気信号として出力する。
上流インク室8あるいは下流インク室9は、インクジェットヘッド2と良好にインクを循環可能であれば構造は限定されない。例えばインクの温度を所定範囲に保持するように、インクを加熱するヒータ23(図6参照)や冷却装置(図示せず)を備えても良い。
インク循環装置3の循環部は、インク循環ポンプ14の搬送力によって、下流インク室9の循環ポンプ入口20からインク循環ポンプ14内を通して上流インク室8の循環ポンプ出口15に達する循環路を備える。循環部は、循環路上にインク循環ポンプ14及び図示しないフィルタを備える。インク循環ポンプ14は、隣接する上流インク室8と下流インク室9に跨って設けられる。インク循環ポンプ14は、インクIを下流インク室9から上流インク室8及びインクジェットヘッド2を経て下流インク室9に戻るように循環する。循環部は、循環ポンプ入口20から吸引し、循環ポンプ出口15を通して上流インク室8へインクIを送液する。このとき、インク循環装置3は、インクジェットヘッド2へインクIを供給し、ノズル51から吐出せずに残ったインクIを回収し、再度インクジェットヘッド2へ回収したインクを供給してインクを循環させる。
循環部により下流インク室9から上流インク室8にインクIを送液循環する間にインクI中の気泡は浮力によって重力方向と逆向き(上方向)に上昇する。浮力により上昇した気泡は上流インク室8の第1の液面α1あるいは下流インク室9の第2の液面α2より上方の空気室β1、β2に到達して除去される。
インクジェットヘッド2のノズル51にはメニスカス290が形成される。ノズル51からインクが吐出する場合、インクと空気の界面であるメニスカス290を破って、インク滴となり吐出する。メニスカス290にかかる圧力が空気圧より高ければ(陽圧)、インクはノズル51から漏れ出る。メニスカス290にかかる圧力が空気圧より低ければ(負圧)、インクはメニスカス290を維持しノズル51内に留まっている。そのため、インク吐出をしない場合、インク圧力室150内のインクの圧力は−0.5〜−4.0kPa(ゲージ圧)に調整され、メニスカス290を維持している。ノズル51はインクが重力方向下向きに吐出するように配置されているので、この範囲より大きい(陽圧側)場合、わずかな振動などでインクがノズルから漏れ出してしまう。また、より小さい(負圧側)場合、ノズルから空気を吸引してしまい、吐出不良が発生する。通常インク圧力室150内は負圧に保たれていて、アクチュエータ54を動作させるとインク圧力室内のインクは陽圧になり、ノズル51からインクが吐出する。それぞれの上流インク室8および下流インク室9からインクジェットヘッド2のノズル51までのインク流路抵抗はほぼ同じになっている。インク流路抵抗がほぼ同じなので、第2の空気室β2の圧力と第1の空気室β1の圧力の平均値にノズル面と両インク室のインク面の水頭差による圧力の平均値を加えたものがノズル51の圧力となる。圧力調整機構5においてノズル51の圧力が所定の圧力になるように圧力を調整することで良好なインク吐出を維持する。
インク循環装置3の圧力調整機構5は、循環装置3のインク室ケース4上に設けられている。圧力調整機構5は、上流インク室8の圧力を調整する第1の圧力調整部5aと、下流インク室9の圧力を調整する第2の圧力調整部5bとを有する。圧力調整機構5について、図5に基づいて説明する。
第1の圧力調整部5aは、第4気体室270を形成するシリンダ250と、シリンダ250内部に収納された第1の可動体であるピストン252と、ピストン252をたとえば図5中でH方向に進退動させることでシリンダ250の容積を変化させる第1の容積可変部であるパルスモータ254とを備えている。
シリンダ250内に形成される第4気体室270は、連通管路256を介して上流インク室8の第1の連通孔17に連通するとともに、連通管路400を通じて大気に対して開閉可能になっている。連通管路256の内部には、ばねと、第2開閉部としての第2開閉部材257が取り付けられている。第2開閉部材257は、ばねの付勢によりシリンダ250と上流インク室8内の第1の空気室β1との連通管路256(通路)を閉じ、ピストン252で付勢されることによってこの連通管路256を開く。
連通管路400の内部には、ばねと、第3開閉部としての開閉部材401が取り付けられている。開閉部材401はばねの付勢により大気との連通管路400(通路)を閉じ、ピストン252で付勢されることにより大気との連通管路400を開く。連通管路400への大気取り入れ口にはフィルタFが設けられている。ピストン252には図示しないゴム製のシール材が装着されており、シリンダ250内を気密に保っている。
パルスモータ254の回転軸には雄ねじが固定され、ピストン252が嵌合する部分には雌ねじが形成されている。ピストン252は、中心部の軸316が外周に平面部をもつ小判形状に形成され、シリンダ250に設けられている平面部をもつ小判形状の軸穴318に摺動可能に嵌合し、ピストン252の回転を防止している。ピストン252はパルスモータ254の回転によって、シリンダ250内を上下に摺動する。これにより、シリンダ250とピストン252によって囲まれた第4気体室270の容積を変化させ圧力を変化させる。
第2の圧力調整部5bは、下流インク室9と連通しているシリンダ251と、シリンダ251内部に収納された第2の可動体であるピストン253と、ピストン253をたとえば図5中でH方向に進退動させることでシリンダ251の容積を変化させる第2の容積可変部であるパルスモータ255と、を備えている。シリンダ251、ピストン253、パルスモータ255の構成は第1の圧力調整部5aと同じ構成になっている。そして、ピストン253はパルスモータ255の回転によって、シリンダ251内を上下に摺動することで、シリンダ251とピストン253によって囲まれた第3気体室272の容積を変化させ、圧力を変化させる。
シリンダ251は、下流インク室9の第2の空気室β2と連通する連通管路258を有している。連通管路258の内部には、ばねと、第1開閉部である開閉部材259が取り付けられている。開閉部材259は、ばねの付勢によりシリンダ251と下流インク室9内の第2の空気室β2を連通させる連通孔を閉じ、ピストン253で付勢されると開く。
第1の圧力調整部5aのシリンダ250と第2の圧力調整部5bのシリンダ251の間には両者を常時連通させる連通経路260が設けられている。すなわち、圧力調整機構5は、第3気体室272と、第1開閉部である開閉部材259と、第4気体室270と、第2開閉部である開閉部材257と、連通経路260と、第3開閉部である開閉部材401と、第1の容積可変部であるピストン253と、第2の容積可変部であるピストン252と、を備えている。
圧力調整機構5は、ピストン252と、ピストン253をそれぞれ上下移動させて、シリンダ250、251の空気の容積を変化させる。さらに、開閉部材を切り替えて流路を開閉することで、インク室ケース4内部の圧力を調整し、インクジェットヘッド2のメニスカス290の圧力を適正な範囲に維持する。
図5を参照して、圧力調整機構5の動作について説明する。x1,y1はピストン253と、ピストン252のホーム位置である。ホーム位置x1はピストン253が開閉部材259の先端306に当接せず、連通管路258は閉状態となる位置に設定されている。また、ホーム位置y1は、ピストン252が開閉部材257の先端305を押圧せず、連通管路256が閉状態となる位置に設定されている。
位置x2は、ピストン253が開閉部材259の先端306を押圧し、開閉部材259を開く位置である。x1からx2まではストロークh1だけ離れており、ピストン253が開閉部材259に当接してその後押圧できる距離に設定されている。
ピストン253が位置x2に至る段階においては、位置x1における第3気体室272の圧力より高い圧力を第2の空気室β2に供給してしまうことになるが、それを回避するためには、第3気体室272と第4気体室270の容積の和を一定に保てばよい。このとき、ピストン253をホーム位置x1の下方向にストロークh1だけ動かした容積V1とピストン252をストロークh2だけ動かした容積V2が等しくなるようにすればよい。ここで、シリンダ251とシリンダ250の断面積が等しい場合はh1=h2となる。ピストン252がホーム位置(y1)の時に、第3気体室272と第4気体室270の容積の和を一定に保つようH方向の上にh2動かした位置をy1’とする。
この状態において、ピストン252をH方向に上下に動かすことで、第4気体室270の容積を変動させ、第4気体室270と連通する第3気体室272を経て第2の空気室β2内の圧力を調整する。
位置y2’は圧力調整を行うことによってピストン252が動ける上限の位置である。このようにピストン252が上限位置y2’に至った状態において、ピストン253の位置をx2からx1にして開閉部材259を閉にする。このように開閉部材259を閉にした状態で第3気体室272と第4気体室270の容積の和を一定に保つようピストン252をH方向の下にh2動かした位置をy2とする。
また、位置y3’は、圧力調整を行うことによってピストン252が動ける下限の位置である。このようにピストン252の位置が下限の位置y3’に至った場合にも、ピストン253の位置をx2からx1にして開閉部材259を閉にする。このように開閉部材259を閉にした状態で第3気体室272と第4気体室270の容積の和を一定に保つようピストン252をH方向の下にh2動かした位置をy3とする。この時、ピストン252は開閉部材401の先端307に当接しないように距離を開けて設定される。位置y4はピストン252が開閉部材401を開く位置であり、位置y5はピストン252が開閉部材257を開く位置である。
圧力調整機構5は、ピストン252を上限位置y2’と下限位置y3’との間で動かすことで、インクジェットヘッド2のメニスカス290の圧力を適正な範囲に維持する圧力調整を行うことができる。
本実施の形態では、後述する洗浄モードの判別時には、上記圧力調整機構5を次の通り駆動する。すなわち、パルスモータ245を駆動して、ピストン252を上方に移動し、下流インク室9の第2の空気室β2の内圧を下げる。この時、ピストン253は、開閉部材259を開く位置x2に移動されている。この状態で、たとえば、ノズル51のインク面のインク圧力が約マイナス3kPaよりも低くなると、ノズル51のインク面のインクメニスカス290が破壊されて、ノズル51から空気が入り始める。これにより、ノズル51からインクジェットヘッド2内に空気を入れて、洗浄作用を強くすることができる。
インク循環装置3は、図2に示すように、上流インク室8の内部で鉛直方向の複数の液面位置を検出可能な第1の液面検出部24と、下流インク室9の内部で鉛直方向の複数の液面位置を検出可能な第2の液面検出部25とを有する。第1の液面検出部24と、第2の液面検出部25とは同一構成である。ここでは、第1の液面検出部24の構成を説明し、第2の液面検出部25の同一部分には同一の符号を付してその説明を省略する。
第1の液面検出部24は、液面フロート26と、複数、本実施の形態では液面センサである5個のホールIC27とによって形成されている。液面フロート26は、内部の空気が外に漏れないように気密に形成された液面フロートケース28を有する。この液面フロートケース28の一端部には、アーム29が突設されている。このアーム29の先端に回動支点30が設けられている。液面フロートケース28の内部には回動支点30とは反対側の端部に永久磁石31が固定されている。液面フロート26は、液面フロート回動支点30の1ヶ所でインク室ケース4に回動自在に保持されている。これにより、液面フロート26は、液面フロート回動支点30を中心に回動自在である。液面フロートケース28の内部の空気は十分に容積が大きく、その浮力で液面フロート26をインクまたは洗浄液に浮かべることができる。上流インク室8内のインクまたは洗浄液の液面高さが変化すると、液面フロート26はその浮力と自重が釣り合う位置に、液面フロート回動支点30を中心に回動する。よって、液面フロート26内の永久磁石31の位置は、上流インク室8内のインクまたは洗浄液の液面高さに応じた位置になる。
5個のホールIC27は、上流インク室8の外側に配置され、鉛直方向に沿ってそれぞれ適宜の設定間隔を存して並設されている。各ホールIC27は、それぞれ永久磁石31の磁力線量に応じて電気信号を切り替える。そして、各ホールIC27は、液面フロート26内の永久磁石31が近づき、磁束密度が閾値(たとえば1.8ミリテスラ)を超えると出力を反転する。
ここで、隣り合うホールIC27の間に永久磁石31が来たとき、どちらのホールIC27も永久磁石31を検出しない空白区間が無いように、隣り合うホールIC27の距離は定められている。よって、隣り合うホールIC27の間に永久磁石31が来たとき、両方のホールIC27が永久磁石31を検出する区間がある。本実施の形態ではホールIC27は上流インク室8、下流インク室9にそれぞれ5個ずつある。よって、1個だけのホールIC27が永久磁石31を検出する液面高さが5か所、2個のホールIC27が永久磁石31を検出する液面高さが4ヶ所ある。すなわち、上流インク室8および下流インク室9は、それぞれ9か所の液面高さを検出可能である。なお、本実施の形態では、上流インク室8の5個のホールIC27は、図2中で上から順に第1検出点27a1、第2検出点27a2、第3検出点27a3、第4検出点27a4、第5検出点27a5としてそれぞれ区別して示す。同様に、下流インク室9の5個のホールIC27は、図2中で上から順に第1検出点27b1、第2検出点27b2、第3検出点27b3、第4検出点27b4、第5検出点27b5としてそれぞれ区別して表示する。
また、上流インク室8および下流インク室9のそれぞれ5個のホールIC27は、図6に示すようにインクジェット記録装置の動作を制御するマイクロコンピュータのCPUである制御部32に接続されている。この制御部32には、インク供給ポンプ13の駆動回路33と、インク循環ポンプ14の駆動回路34と、ヒータ23の駆動回路35と、圧力調整機構5の圧力調整モータ36の駆動回路37とがそれぞれ接続されている。本実施の形態では圧力調整モータ36は、2つのパルスモータ254、255を有する。さらに、制御部32には、プログラムメモリ38と、データメモリ39と、RAM40とがそれぞれ接続されているとともに、通信インターフェース41を介してホストコンピュータ42が接続されている。
また、制御部32は、上流インク室8および下流インク室9のそれぞれ5個のホールIC27からの検出信号に基づいて上流インク室8および下流インク室9の9か所の液面高さを検出する。そして、検出される上流インク室8および下流インク室9の液面高さを使用して複数種類の制御が行われる。本実施の形態では、例えば、モード切り替えシーケンスと、通常のインクシーケンスと、洗浄シーケンスと、緊急停止制御シーケンスとが行われる。
モード切り替えシーケンスは、図11のフローチャートに示すようにインクジェット記録装置のカートリッジホルダに洗浄用の洗浄液カートリッジが装着された状態が検出されるか否かで通常印刷モードと洗浄モードとを判別する(Act1)。ここで、カートリッジホルダに通常印刷用のインクカートリッジが装着された状態が検出された場合(Act1:No)は、通常印刷モードと判別される。この場合は、Act2に進み、通常のインクシーケンスが行われる。
また、Act1で、カートリッジホルダに洗浄用の洗浄液カートリッジが装着された状態が検出された場合(Act1:Yes)は、洗浄モードと判別される。この場合は、Act3に進み、洗浄シーケンスが行われる。
通常のインクシーケンスでは、制御部32によって次の制御が行われる。図2にてインクジェット記録部1のインクの流れを説明する。下流インク室9内に蓄えられたインクは、循環ポンプ14の搬送力によって、循環ポンプ入口20を経て、循環ポンプ14内に吸い込まれる。循環ポンプ14内に吸い込まれたインクは循環ポンプ14の搬送力によって、循環ポンプ出口15を経て、上流インク室8に吐き出される。
上流インク室8のインクは循環ポンプ14の搬送力によって、図2中に矢印で示すインクの流れ方向にインクジェットヘッド2内に搬送され、その後、図2中に矢印で示すインクの流れ方向にインクジェットヘッド2から出て、下流インク室9に搬送される。
次に、図2にてインク圧力調整について説明する。上流インク室8の第1の液面α1の上の第1の空気室β1、下流インク室9の第2の液面α2の上の第2の空気室β2の圧力を圧力センサPSが定期的にサンプリングしている。制御部32は、圧力センサPSから得た2つの圧力値を用いた演算でインクヘッドノズル近傍のインク圧力を算出する。
制御部32は、算出されたインクヘッドノズル近傍の圧力を、あらかじめ設定された上限圧力値、下限圧力値と比較する。制御部32は、算出されたインクヘッドノズル近傍の圧力が、あらかじめ設定された上限圧力値よりも大きい時、圧力調整機構5を用いて、圧力上昇制御を実施する。制御部32は、算出されたインクヘッドノズル近傍の圧力が、あらかじめ設定された下限圧力値よりも小さい時、圧力調整機構5を用いて、圧力減少制御を実施する。圧力センサのサンプリング周期を10ms等短い時間に設定し、インクの圧力変動を高速で打ち消すことで、インク圧力は常に適正に保たれ、良好なインク吐出性能を得る。
次に、図2、図7、図8にて通常のインクシーケンスでのインク液面制御について説明する。インクジェット記録装置にインクカートリッジを装着し、通常のプリントをするとき、制御部32は、上流インク室8および下流インク室9の液面高さが図7の位置にくるように液面を制御する。このとき、上流インク室8の第1の液面α1は、第3検出点27a3と対応する位置、下流インク室9の第2の液面α2は、第3検出点27b3と対応する位置にくるようにそれぞれ制御される。本実施の形態では、上流インク室8の第3検出点27a3と、下流インク室9の第3検出点27b3とそれぞれ対応する位置が通常の液面位置として設定されている。
上流インク室8の第1の液面α1や、下流インク室9の第2の液面α2が高すぎる時は圧力調整機構5が各インク室8、9内に空気を送り込み、代わりにインクを排出して液面高さを下げる。インク排出手段は、インク室8、9内の圧力を高くしてインクヘッドノズルからインクを垂らすパージを用いる方法と、プリント時の動作を利用してインクヘッドノズルからインクを吐出するスピットを用いる方法がある。
上流インク室8の第1の液面α1や、下流インク室9の第2の液面α2が低すぎる時は圧力調整機構5が各インク室8、9内の空気を吸い込み、代わりに供給ポンプ13がインクをインク室8、9内に補給して液面高さを上げる。この上流インク室8の第1の液面α1や、下流インク室9の第2の液面α2の液面高さを高くする動作は充填シーケンスとも呼ばれ、インクを変更する時などにも使われる。
また、例えば、急激な温度変化で上流インク室8や、下流インク室9内の液面が急速に上昇し、上流インク室8の第1の液面α1や、下流インク室9の第2の液面α2が図8に示す緊急停止位置に来たときに、制御部32は、緊急停止制御を実施する。このとき、上流インク室8の第2検出点27a2と、下流インク室9の第2検出点27b2とがそれぞれ緊急停止位置に設定されている。図12は、このときの通常のインクシーケンスでの液面異常時緊急停止制御シーケンスのフローチャートを示す。
液面異常時緊急停止制御では、制御部32は、上流インク室8の第1の液面α1や、下流インク室9の第2の液面α2が第2検出点27a2、27b2に達したか否かで緊急停止液面かどうかを判別する(Act11)。ここで、上流インク室8の第1の液面α1や、下流インク室9の第2の液面α2が第2検出点27a2、27b2に達していない状態が検出された場合(Act11:No)は、Act12に進み、通常のインクシーケンスが継続される。
また、Act11で、上流インク室8の第1の液面α1や、下流インク室9の第2の液面α2が第2検出点27a2、27b2に達した状態が検出された場合(Act11:Yes)は、緊急停止と判別される。この場合は、Act13に進み、緊急停止シーケンスが行われる。この緊急停止シーケンスでは、インクが、圧力調整機構5または圧力センサPSに流入しないように、循環ポンプ14と供給ポンプ13は即時停止する。圧力調整機構5は液面上昇を止める為に上流インク室8の第1の液面α1の上の第1の空気室β1および下流インク室9の第2の液面α2の第2の空気室β2を外気から遮断してインク室8、9を気密にする。緊急停止が完了した後、制御部32は、通信インターフェース41を経由して、ユーザにインク排出制御開始操作を促すメッセージをだす。
また、制御部32は、図11のモード切り替えシーケンスによって洗浄モードと判別された場合は、Act3に進み、洗浄シーケンスが行われる。図13は、洗浄シーケンスを示すフローチャートである。
洗浄シーケンスでは、制御部32は、最初に変更前のインクを排出する(Act21)。インク排出手段は、前述した通りインク室8、9内の圧力を高くしてインクヘッドノズルからインクを垂らすパージを用いる方法と、プリント時の動作を利用してインクヘッドノズルからインクを吐出するスピットを用いる方法がある。
次に、先に説明した充填シーケンスを用いて、供給ポンプ13を駆動して洗浄液カートリッジの洗浄液を図7の通常の液面位置まで充填する(Act22)。このとき、インク補給経路を洗浄液が通過する時に、インク補給経路内に残っている変更前のインクと洗浄液が混合される。
次に、洗浄液が図7の通常の液面位置まで充填した時点で、供給ポンプ13が停止され、循環ポンプ14が駆動されて洗浄液の循環を開始する(Act23)。このとき、洗浄液の循環によって循環装置3とインクヘッド内に残っている変更前のインクと洗浄液が混合される。その後、Act24に進み、印刷装置が全ノズルからインクと洗浄液の混合液の吐出を開始する。5分後に、循環ポンプ14を停止し、循環が終了する(Act25)。続いて、インクと洗浄液の混合液を排出する(Act26)。このとき、繰り返し回数(N)が1回(N=1)とカウントされる(Act27)。
次に、供給ポンプ13を駆動して洗浄液カートリッジの洗浄液を前回(N=1)よりも少し高い(「N」mm高い)液面位置まで充填する(Act28)。このとき、前回(N=1)よりも少し高い(「N」mm高い)液面位置を作る為に、制御部32は、永久磁石31の検出から充填シーケンス停止までの時間を前回よりも少し長くする。洗浄液が図7の通常の液面位置よりも少し高い位置まで充填した時点で、供給ポンプ13が停止される。インク補給経路を洗浄液が通過する時に、インク補給経路内に残っている変更前のインクと洗浄液が混合される。続いて、供給ポンプ13が駆動されて2回目の洗浄液の循環動作が行われる(Act29)。この2回目の洗浄液の循環によって循環装置3とインクヘッド内に残っている変更前のインクと洗浄液が混合される。
その後、Act30に進み、印刷装置が全ノズルからインクと洗浄液の混合液の吐出を開始する。5分後に、循環ポンプ14を停止し、循環が終了する(Act31)。続いて、インクと洗浄液の混合液を排出する(Act32)。このとき、繰り返し回数(N)がN+1回(N=N+1=2)とカウントされる(Act33)。
次に、Act34に進み、繰り返し回数(N)が予め設定された所定の設定回数、例えば7回か否かを判別する。ここで、繰り返し回数(N)が7回ではないと判別された場合(Act34:No)は、Act28に戻り、供給ポンプ13を駆動して洗浄液カートリッジの洗浄液を前回よりも少し高い液面位置まで充填し、Act29〜33の制御を繰り返す。この繰り返しによって、洗浄液の液面は徐々に高くなり、インク室8、9の内壁の通常の液面位置(上流インク室8の第3検出点27a3と、下流インク室9の第3検出点27b3とそれぞれ対応する位置)より高い位置に付着した変更前のインクが洗い流される。
また、Act34で、繰り返し回数(N)が7回と判別された場合(Act34:Yes)は、洗浄シーケンスが終了となる。この洗浄シーケンス終了時の洗浄液の液面は、例えば、図9に示すように上流インク室8の第1検出点27a1と第2検出点27a2との中間位置、下流インク室9の第1検出点27b1と第2検出点27b2との中間位置とそれぞれ対応する位置に設定されている。この洗浄シーケンス終了時の洗浄液の液面位置は、通常のインク使用位置である第1の液面位置よりも高い第2の液面位置に設定されている。
なお、洗浄シーケンス中は、通常のシーケンスの時よりも、意図して液面を高く制御しているので、緊急停止を判断する液面も通常よりも高い位置に設定する。例えば、図10に示すように上流インク室8の第1検出点27a1と、下流インク室9の第1検出点27b1とそれぞれ対応する位置に設定する。
本実施の形態のインク循環装置3では、上流インク室8および下流インク室9の内部で鉛直方向の複数の液面位置を検出可能な第1の液面検出部24および第2の液面検出部25を有する。そして、制御部32では、通常印刷モードと洗浄モードとを判別する。通常印刷モードでは、液面検出部24、25の通常のインク使用位置である第1の液面位置でインク室8、9内のインクの液面位置を制御する。さらに、洗浄モードでは、第1の液面位置よりも高い液面位置に設定された第2の液面位置でインク室8、9内の洗浄液の液面位置を制御する。これにより、通常印刷モードで循環装置3のインク室8、9の内壁の最高位に付着したインクよりも高い箇所まで洗浄液を充填させることができる。そのため、通常印刷モードで循環装置3のインク室8、9の内壁の最高位に付着したインクよりも高い箇所まで確実に洗浄できるので、インク残りのないインク置換が可能になる。
そこで、本実施の形態のインク循環装置3では、制御部32による洗浄モードの判別時には、圧力調整機構5のパルスモータ245を駆動して、ピストン252を上方に移動し、下流インク室9の第2の空気室β2の内圧を下げる。この時、ピストン253は、開閉部材259を開く位置x2に移動されている。この状態で、たとえば、ノズル51のインク面のインク圧力が約マイナス3kPaよりも低くなると、ノズル51のインク面のインクメニスカス290が破壊されて、ノズル51から空気が入り始める。そして、インクジェットヘッド2内に入った空気は、洗浄液と共に循環される。そのため、洗浄液と空気とが一緒に循環されることで、洗浄液に空気が混入して洗浄作用が強くなる。
したがって、本実施の形態のインク循環装置3によれば、専用の気液混合体生成装置なしで、洗浄液に空気を混入させて洗浄液の洗浄作用を強くすることができる。そのため、良好な洗浄効果とインク置換が可能である。
これらの実施形態によれば、印刷装置の機体の大型化を防止して、さらに製造コストの上昇を抑制することができるインク循環装置の洗浄装置とインク循環装置の洗浄方法を提供することができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。