JP2016051678A - 蓄電デバイス正極用バインダー組成物、蓄電デバイス正極用スラリー、蓄電デバイス正極および蓄電デバイス - Google Patents

蓄電デバイス正極用バインダー組成物、蓄電デバイス正極用スラリー、蓄電デバイス正極および蓄電デバイス Download PDF

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Tatsuya Abe
達也 阿部
裕之 宮内
Hiroyuki Miyauchi
裕之 宮内
伸行 藤原
Nobuyuki Fujiwara
伸行 藤原
大介 助口
Daisuke Sukeguchi
大介 助口
盈佳 徐
Eika Jyo
盈佳 徐
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Abstract

【課題】活物質層の厚膜化の際に活物質が剥離することを抑制し、さらには厚膜化した活物質層を捲回する際にはクラックの発生を抑制できる蓄電デバイス正極用バインダー組成物を提供する。【解決手段】本発明に係る蓄電デバイス正極用バインダー組成物は、重合体(A)と、液状媒体(B)と、を含有し、前記重合体(A)が下記一般式(1)で示される繰り返し単位(A1)を含有することを特徴とする。(上記式(1)中、R1は炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を表す。)【選択図】なし

Description

本発明は、蓄電デバイス正極用バインダー組成物、該バインダー組成物を含有する蓄電デバイス正極用スラリー、該スラリーを塗布および乾燥して作製された層を備える蓄電デバイス正極、ならびに該正極を備える蓄電デバイスに関する。
蓄電デバイスに使用される正極や負極(以下、「電極」ともいう。)は、活物質とバインダーとの混合物を集電体表面へ塗布および乾燥させ、集電体表面に活物質層を形成することにより作製される(例えば、特許文献1、2、3参照)。
このようなバインダーに要求される特性としては、活物質同士の結合および、活物質を含む電極用組成物層(以下、「活物質層」ともいう。)と集電体との接着能力、これらの層を備える電極やセパレーターを巻き取る工程における耐擦性や、その後の裁断等で塗布された活物質層から微粉等が発生しない粉落ち耐性等がある。なお、上記の活物質同士の結合能力および活物質と集電体との結着能力、ならびにこれらの粉落ち耐性については、性能の良否がほぼ比例関係にあることが経験上明らかになっている。したがって、本明細書では、以下これらを包括して「密着性」という用語を用いて表す場合がある。
近年、携帯型電子機器や電気自動車等の普及に伴い、蓄電デバイスの高容量化と小サイズ化に対する要望が高まっている。蓄電デバイスの高容量化が進めば、蓄電デバイスの小サイズ化も容易となるため、蓄電デバイスの高容量化へ向けての開発が急務となっている。こうした背景の中、蓄電デバイスの高容量化を図るための一つの手段として、活物質層の厚膜化に関する研究が進められている。
特開2013−30449号公報 特開2010−55847号公報 特開2001-256981号公報
しかしながら、従来の蓄電デバイス正極用バインダーは、フッ素系樹脂を使用しているため、活物質層の厚膜化に必要とされる密着性や柔軟性が不十分であった。そのため、活物質層を厚膜化すると、充放電に伴う活物質の体積変化によって活物質層にクラックが入りやすい傾向があった。また、活物質層を厚膜化すると、電極を捲回させる際の応力に対する耐久性が不十分となるため、活物質層にクラックが入りやすい傾向があった。さらには、活物質層を厚膜化すると、活物質の密着性が低下するため、それらが剥離してしまうことがあった。このように、従来の蓄電デバイス正極用バインダーでは、活物質層を厚膜化することにより、耐久性が悪化し、生産性が低下するため、高容量の蓄電デバイスを作製することが困難になりつつあった。
そこで、本発明に係る幾つかの態様は、上記の要求に応えるために、活物質層の厚膜化の際に活物質が剥離することを抑制し、さらには厚膜化した活物質層を捲回する際にはクラックの発生を抑制できる蓄電デバイス正極用バインダー組成物を提供するものである。
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
[適用例1]
本発明に係る蓄電デバイス正極用バインダー組成物の一態様は、
重合体(A)と、液状媒体(B)と、を含有し、
前記重合体(A)が、下記一般式(1)で示される繰り返し単位(A1)を含有することを特徴とする。
Figure 2016051678
(上記式(1)中、Rは炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を表す。)
[適用例2]
適用例1の蓄電デバイス正極用バインダー組成物において、
前記重合体(A)が、さらに、下記一般式(2)で示される繰り返し単位(A2)を含有することができる。
Figure 2016051678
(上記式(2)中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基またはハロゲン原子を表す。)
[適用例3]
適用例2の蓄電デバイス正極用バインダー組成物において、
前記重合体(A)の全繰り返し単位100mol%中に、
前記一般式(1)で示される繰り返し単位を30mol%以上70mol%以下、および前記一般式(2)で示される繰り返し単位(A2)を30mol%以上70mol%以下含有することができる。
[適用例4]
適用例1ないし適用例3のいずれか一例の蓄電デバイス正極用バインダー組成物において、
前記重合体(A)が、さらに、下記一般式(3)で示される繰り返し単位(A3)を20mol%以下含有することができる。
Figure 2016051678
[適用例5]
本発明に係る蓄電デバイス正極用スラリーの一態様は、
適用例1ないし適用例4のいずれか一例の蓄電デバイス正極用バインダー組成物と、活物質と、を含有することを特徴とする。
[適用例6]
本発明に係る蓄電デバイス正極の一態様は
集電体と、前記集電体の表面上に適用例5の蓄電デバイス正極用スラリーが塗布および乾燥されて形成された層と、を備えることを特徴とする。
[適用例7]
本発明に係る蓄電デバイスの一態様は、
適用例6の蓄電デバイス正極を備えることを特徴とする。
本発明に係る蓄電デバイス正極用バインダー組成物によれば、活物質同士の結合能力、活物質と集電体との結着能力および粉落ち耐性等の密着性および柔軟性に優れた活物質層を製造することができる。その結果、活物質層を厚膜化した場合であっても、活物質の剥離を抑制し、捲回する際にはクラックが発生することを抑制できる。また、本発明に係る蓄電デバイス正極用バインダー組成物を用いて厚膜化された活物質層を備える蓄電デバイスによれば、耐久性に優れ、かつ、高容量化を実現することが可能となる。
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に記載された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。なお、本明細書における「(メタ)アクリル酸〜」とは、「アクリル酸〜」および「メタクリル酸〜」の双方を包括する概念である。
1.蓄電デバイス正極用バインダー組成物
本実施の形態に係る蓄電デバイス正極用バインダー組成物は、重合体(A)と、液状媒体(B)と、を含有し、前記重合体(A)が後述する下記一般式(1)で示される繰り返し単位(A1)を含有することを特徴とする。以下、本実施の形態に係る蓄電デバイス正極用バインダー組成物に含まれ得る各成分について詳細に説明する。
1.1.重合体(A)
本実施の形態に係る蓄電デバイス正極用バインダー組成物に含まれる重合体(A)は、下記一般式(1)で示される繰り返し単位を含有する。また、重合体(A)は、下記一般式(1)で示される繰り返し単位の他に、それと共重合可能な他の単量体に由来する繰り返し単位を含有してもよい。他の単量体に由来する繰り返し単位としては、例えば、下記一般式(2)で示される繰り返し単位、下記一般式(3)で示される繰り返し単位、重合性不飽和二重結合を有する酸、不飽和カルボン酸エステル、α,β−不飽和ニトリル化合物、共役ジエン化合物、芳香族ビニル化合物等が挙げられる。
本実施の形態に係る蓄電デバイス正極用バインダー組成物中の重合体(A)の含有量は、通常0.1〜50質量%、好ましくは0.2〜40質量%、より好ましくは0.5〜20質量%である。
以下、重合体(A)を構成する繰り返し単位、重合体(A)の分子量、物性、製造方法の順に説明する。
1.1.1.繰り返し単位(A1)
重合体(A)は、下記一般式(1)で示される繰り返し単位(A1)を含有する。
Figure 2016051678
上記式(1)中、Rは炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を表す。Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基であることが好ましく、蓄電デバイス正極用スラリーのスラリー特性が良好となる観点から、メチル基であることがより好ましい。重合体(A)に含有される繰り返し単位(A1)は、Rが全て同じである必要はなく、異なっていてもよい。すなわち、重合体(A)は、同種の繰り返し単位(A1)を含有してもよく、異なる2種以上の繰り返し単位(A1)を含有してもよい。
重合体(A)の全繰り返し単位を100mol%としたときに、上記一般式(1)で示される繰り返し単位(A1)の含有割合は30mol%以上70mol%以下であることが好ましく、35mol%以上60mol%以下であることがより好ましく、40mol%以上50mol%以下であることが特に好ましい。重合体(A)が繰り返し単位(A1)を前記範囲で含有することにより、密着性および柔軟性に優れた活物質層が得られやすく、厚膜化したこれらの層を捲回する際のクラックの発生や活物質が剥離することを効果的に抑制できる。また、活物質の分散性が良好な蓄電デバイス正極用スラリーとなり、均一な活物質層の作製が可能となる。そのため、構造欠陥がなくなり、良好な充放電特性を示す蓄電デバイスが得られる。
1.1.2.繰り返し単位(A2)
重合体(A)は、下記一般式(2)で示される繰り返し単位(A2)を含有することが好ましい。
Figure 2016051678
上記式(2)中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、またはハロゲン原子を表す。R、R、RおよびRがアルキル基である場合、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基であることが好ましい。これらの中でも、R、R、RおよびRは、カーボンブラックの分散性が良好となる観点から、水素原子であることがより好ましい。重合体(A)は、同種の繰り返し単位(A2)を含有してもよく、異なる2種以上の繰り返し単位(A2)を含有してもよい。
重合体(A)が上記一般式(2)で示される繰り返し単位(A2)を含有する場合、重合体(A)の全繰り返し単位を100mol%としたときに、上記一般式(2)で示され
る繰り返し単位(A2)の含有割合は30mol%以上70mol%以下であることが好ましく、35mol%以上65mol%以下であることがより好ましく、40mol%以上60mol%以下であることが特に好ましい。重合体(A)が繰り返し単位(A2)を前記範囲で含有することにより、密着性および柔軟性に優れた活物質層が得られやすく、厚膜化したこれらの層を捲回する際のクラックの発生や活物質が剥離することを効果的に抑制できる。また、カーボンブラックの分散性が良好なスラリーが得られ、均一な活物質層の作製が可能となる。そのため構造欠陥がなくなり、良好な充放電特性を示す蓄電デバイスが得られる。
1.1.3.繰り返し単位(A3)
重合体(A)は、さらに、下記一般式(3)で示される繰り返し単位(A3)を含有してもよい。
Figure 2016051678
重合体(A)が下記一般式(3)で示される繰り返し単位(A3)を含有する場合、重合体(A)の全繰り返し単位を100mol%としたときに、繰り返し単位(A3)の含有割合は20mol%以下であることが好ましく、3mol%以上17mol%以下であることがより好ましく、5mol%以上15mol%以下であることが特に好ましい。繰り返し単位(A3)を前記範囲で含有することにより、カーボンブラックの分散性が良好な蓄電デバイス正極用スラリーが得られ、均一な活物質層の作製が可能となる。そのため構造欠陥がなくなり、良好な充放電特性を示す蓄電デバイスが得られる。
ここで、重合体(A)が上記一般式(3)で示される繰り返し単位(A3)を含有する場合、重合体(A)100mol%中に含有される繰り返し単位(A1)の割合をA1(mol%)、繰り返し単位(A2)の割合をA2(mol%)、繰り返し単位(A3)の割合をA3(mol%)とすると、A3/(A1+A3)の値は0.5以下が好ましく、0.4以下がより好ましい。A3/(A1+A3)の値が前記範囲であると、バインダー組成物を使用した活物質層の柔軟性が向上し、クラックの発生を効果的に抑制することができる。
また、A2/(A1+A2+A3)の値は0.35〜0.6が好ましく、0.4〜0.55であることがより好ましい。A2/(A1+A2+A3)の値が前記範囲であると、バインダー組成物を使用して形成された活物質層から、重合体(A)が電解液へ溶解して機械強度が低下することを効果的に抑制することができる。また、A2/(A1+A2+A3)の値が前記範囲であると、カーボンブラックの分散性が良好な蓄電デバイス正極用スラリーが得られ、均一な活物質層の作製が可能となる。さらに、後述する液状媒体(B)が有機溶媒の場合、A2/(A1+A2+A3)の値が前記範囲であると、重合体(A)と液状媒体(B)との親和性が向上して均質に溶解しやすくなる。その結果、スラリー特性の均質性や安定性を向上させることができる。
1.1.4.重合性不飽和二重結合を有する酸に由来する繰り返し単位
重合体(A)は、さらに重合性不飽和二重結合を有する酸に由来する繰り返し単位を有してもよい。重合体(A)が重合性不飽和二重結合を有する酸に由来する繰り返し単位を有する場合、重合体(A)の全繰り返し単位を100mol%としたときに、重合性不飽和二重結合を有する酸に由来する繰り返し単位の含有割合は、20mol%以下であることが好ましく、1〜10mol%であることがより好ましい。重合体(A)が重合性不飽
和二重結合を有する酸に由来する繰り返し単位を前記範囲で含有することにより、本実施の形態に係る蓄電デバイス正極用バインダー組成物を用いて調製された蓄電デバイス正極用スラリーの安定性が向上する。
重合性不飽和二重結合を有する酸としては、不飽和カルボン酸および不飽和スルホン酸を好適に使用することができる。重合性不飽和二重結合を有する酸の具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸等の不飽和スルホン酸を挙げることができ、これらの中から選択される1種以上であることができる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸およびメタリルスルホン酸よりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
1.1.5.不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位
重合体(A)は、さらに不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位を有してもよい。重合体(A)が不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位を有する場合、重合体(A)の全繰り返し単位を100mol%としたときに、不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位の割合は、20mol%以下であることが好ましく、1〜10mol%であることがより好ましい。不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位を前記範囲で含有することにより、重合体(A)は電解液との親和性がより好適なものとなり、蓄電デバイス中でバインダーが電気抵抗成分となることによる内部抵抗の上昇を抑制すると共に、電解液を過大に吸収することによる密着性の低下を防ぐことができる。
不飽和カルボン酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸エステルであることが好ましい。このような(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸i−アミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル等の単官能(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、テトラ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトール、ヘキサ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトール、(メタ)アクリル酸アリル等の多官能(メタ)アクリル酸エステル;下記一般式(4)で表される化合物、(メタ)アクリル酸3[4〔1−トリフルオロメチル−2,2−ビス〔ビス(トリフルオロメチル)フルオロメチル〕エチニルオキシ〕ベンゾオキシ]2−ヒドロキシプロピル等の含フッ素(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上であることができる。
Figure 2016051678
(式(4)中、Rは水素原子またはメチル基であり、Rはフッ素原子を含有する炭素数1〜18の炭化水素基である。)
なお、本発明における「多官能(メタ)アクリル酸エステル」とは、(メタ)アクリル酸エステルが有する1つの重合性の二重結合以外に、さらに他の重合性の二重結合、エポキシ基、ヒドロキシ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有することをいう。
上記例示した単官能(メタ)アクリル酸エステルの中でも、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチルおよび(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、(メタ)アクリル酸メチルであることが特に好ましい。
上記例示した多官能(メタ)アクリル酸エステルの中でも、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチルおよび(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、(メタ)アクリル酸グリシジルであることが特に好ましい。
1.1.6.α,β−不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位
重合体(A)は、さらにα,β−不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位を有してもよい。重合体(A)がα,β−不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位を有する場合、重合体(A)の全繰り返し単位を100mol%としたときに、α,β−不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位の割合は、30mol%以下であることが好ましく、5〜25mol%であることがより好ましい。α,β−不飽和ニトリル化合物に由来する繰り返し単位を前記範囲で含有することにより、重合体(A)の電解液に対する親和性が良好となるため、電解液吸収能が向上する。すなわち、ニトリル基の存在によって電極中に形成された重合体鎖からなる網目構造に溶媒が均一に拡散し易くなるため、溶媒和したリチウムイオンがこの網目構造をすり抜けて移動し易くなる。これにより、リチウムイオンの拡散性が向上すると考えられ、その結果、電極抵抗が低下してより良好な充放電特性を実現することができると考えられる。
α,β−不飽和ニトリル化合物の具体例としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリル、シアン化ビニリデン等を挙げることができ、これらから選択される1種以上であることができる。これらのうち、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルから選択される1種以上であることが好ましく、特にアクリロニトリルであることが好ましい。
1.1.7.その他の単量体に由来する繰り返し単位
重合体(A)は、さらに共役ジエン化合物や芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位を含有してもよい。
共役ジエン化合物としては、例えば1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエンなどを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上であることができる。
芳香族ビニル化合物の具体例としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレン、ジビニルベンゼンなどを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上であることができる。
なお、重合体(A)は、高電圧に晒される環境中で使用する場合には酸化電位が低いため、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位および芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位を実質的に含まないことが好ましい。高電圧に晒される環境とは、例えばリチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタなどの正極や正極電極表面とセパレーター間に形成される保護層などが挙げられる。
1.1.8.重合体(A)の特性
<重合体(A)の分子量>
重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、5万〜100万の範囲内にあることが好ましく、10万〜80万であることがより好ましく、15万〜60万であることが特に好ましい。本実施の形態に係る蓄電デバイス正極用バインダー組成物が、上述の分子量範囲を有する重合体(A)を含有することにより、クラックの発生を抑制したより均質な活物質層を作製することができ、良好な充放電特性が発現しやすくなる。
なお、重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、例えばGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法による測定値を単分散ポリスチレン換算することにより求めることができる。
1.1.9.重合体(A)の製造方法
重合体(A)の合成方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば、特開2000−143736号公報、国際公開第2013/005807号、特開2004−359965号公報に記載の方法により、重合体(A)を合成することができる。なお、重合体(A)のケン化反応は、常法に従って少量のアルカリを触媒とするアルコール分解により行なうことができる。
また、エチレン−カルボン酸ビニル−ビニルアルコール共重合体は、エチレン−ビニルアルコール共重合体を再酢化することによっても得ることができる。エチレン−ビニルアルコール共重合体の再酢化に当たっては特に限定されず、例えば特開平5−106112号公報、特開平5−202240号公報、特開平6−41369号公報、特開平6−234899号公報、特開平7−3525号公報に記載されているように、エチレン−ビニルアルコール共重合体に水および氷酢酸、塩酸を加えて溶液状態で再酢化する方法や、酸の存在下溶融状態で再酢化する方法が挙げられる。
1.2.液状媒体(B)
本実施の形態に係る蓄電デバイス正極用バインダー組成物は、液状媒体(B)を含有する。液状媒体(B)としては、水を含有しない非水系媒体であることが好ましい。非水系媒体としては、アミド化合物、炭化水素、アルコール、ケトン、エステル、アミン化合物、ラクトン、スルホキシド、スルホン化合物等の有機媒体を挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。また、液状媒体(B)の全量100質量%中、90質量%以上が有機媒体であることが好ましく、98質量%以上が有機媒体であることがより好ましい。本実施の形態に係る蓄電デバイス正極用バインダー組成物
は、液状媒体(B)として非水系媒体を使用することにより、耐水性に問題のある活物質を使用する場合にも適用することができる。
液状媒体(B)は、水を実質的に含有しないことが好ましい。ここで、「実質的に含有しない」とは、液状媒体(B)として水を意図的に添加しないという程度の意味であり、蓄電デバイス正極用バインダー組成物を調製する際に不可避的に混入する水を含んでもよい。
本実施の形態に係る蓄電デバイス正極用バインダー組成物は、上述した重合体(A)を液状媒体(B)に溶解させたものである。重合体(A)を溶解させるための液状媒体(B)としては、特に制限されないが、標準沸点が80〜350℃(好ましくは100〜300℃)の範囲にある有機媒体の中から選択されることが好ましい。このような有機媒体としては、例えば2−エチル−1−ヘキサノール(184℃)および1−ノナノール(214℃)などのアルコール類;ホロン(197℃)、アセトフェノン(202℃)およびイソホロン(215℃)などのケトン類;乳酸メチル(143℃)、乳酸エチル(154℃)および乳酸ブチル(185℃)などのエステル類;N−メチルピロリドン(202℃)、N,N−ジメチルアセトアミド(194℃)およびジメチルホルムアミド(153℃)などのアミド類;ならびにジメチルスルホキシド(189℃)およびスルホラン(287℃)などのスルホキシド・スルホン類などの有機媒体が挙げられる。ただし、有機媒体名の後の括弧内の数字は常圧での沸点(単位℃)であり、小数点以下は四捨五入または切り捨てられた値である。
本実施の形態に係る蓄電デバイス正極用バインダー組成物には、重合体(A)で表わされる共重合体以外の、他の重合体バインダーを併用してもよい。併用し得る重合体バインダーとしては、例えばスチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレン・ブロック共重合体、スチレン−イソプレン・ブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン・ブロック共重合体等の共役ジエン系(共)重合体;ポリメチルメタクリレート、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン−メタクリル酸メチル・共重合体、スチレン−アクリル酸n−ブチル−イタコン酸−メタクリル酸メチル−アクリロニトリル・共重合体等の(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体;ポリビニリデンフルオライド、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴムなどのフッ素系(共)重合体等が挙げられる。こうしたバインダー組成物中の他の重合体は、有機媒体に溶解していても粒子形状で液状媒体中に分散していてもよい。
2.蓄電デバイス正極用スラリー
本実施の形態に係る蓄電デバイス正極用スラリーは、上述の蓄電デバイス正極用バインダー組成物と、活物質と、を含有する。本実施の形態に係る蓄電デバイス正極用スラリーによれば、上述のバインダー(重合体(A))を含有するので、集電体表面上に形成される活物質層を厚膜化する際に活物質が剥離することを抑制し、さらには厚膜化した活物質層を捲回する際にはクラックの発生を抑制できる。また、上述のバインダー(重合体(A))により、活物質の分散性が良好となり、曳糸性に優れた蓄電デバイス正極用スラリーが得られる。
以下、本実施の形態に係る蓄電デバイス正極用スラリーに含まれる成分について詳細に説明する。ただし、蓄電デバイス正極用バインダー組成物については、上述した通りであるから説明を省略する。
2.1.活物質
本実施の形態に係る蓄電デバイス正極用スラリーに含まれる活物質を構成する材料としては特に制限はなく、目的とする蓄電デバイスの種類により適宜適当な材料を選択するこ
とができる。活物質としては、例えば炭素材料、ケイ素材料、リチウム原子を含む酸化物、鉛化合物、錫化合物、砒素化合物、アンチモン化合物、アルミニウム化合物等を挙げることができる。
上記炭素材料としては、例えば、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ピッチ系炭素繊維などが挙げられる。
上記ケイ素材料としては、例えばケイ素単体、ケイ素酸化物、ケイ素合金などを挙げることができるほか、例えばSiC、SiO(0<x≦3、0<y≦5)、Si、SiO、SiO(0<x≦2)で表記されるSi酸化物複合体(例えば特開2004−185810号公報や特開2005−259697号公報に記載されている材料など)、特開2004−185810号公報に記載されたケイ素材料を使用することができる。上記ケイ素酸化物としては、組成式SiO(0<x<2、好ましくは0.1≦x≦1)で表されるケイ素酸化物が好ましい。上記ケイ素合金としては、ケイ素と、チタン、ジルコニウム、ニッケル、銅、鉄およびモリブデンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の遷移金属との合金が好ましい。これらの遷移金属のケイ素合金は、高い電子伝導度を有し、かつ高い強度を有することから好ましく用いられる。また、活物質がこれらの遷移金属を含むことにより、活物質の表面に存在する遷移金属が酸化されて表面に水酸基を有する酸化物となるから、バインダーとの結着力がより良好になる点でも好ましい。ケイ素合金としては、ケイ素−ニッケル合金またはケイ素−チタン合金を使用することがより好ましく、ケイ素−チタン合金を使用することが特に好ましい。ケイ素合金におけるケイ素の含有割合は、該合金中の金属元素の全部に対して10モル%以上とすることが好ましく、20〜70モル%とすることがより好ましい。なお、ケイ素材料は、単結晶、多結晶および非晶質のいずれであってもよい。
また、活物質としてケイ素材料を用いる場合には、ケイ素材料以外の活物質を併用してもよい。このような活物質としては、例えば上記の炭素材料;ポリアセン等の導電性高分子;A(但し、Aはアルカリ金属または遷移金属、Bはコバルト、ニッケル、アルミニウム、スズ、マンガン等の遷移金属から選択される少なくとも1種、Oは酸素原子を表し、X、YおよびZはそれぞれ1.10>X>0.05、4.00>Y>0.85、5.00>Z>1.5の範囲の数である。)で表される複合金属酸化物や、その他の金属酸化物等が例示される。これらの中でも、リチウムの吸蔵および放出に伴う体積変化が小さいことから、炭素材料を併用することが好ましい。
上記リチウム原子を含む酸化物としては、例えばコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、三元系ニッケルマンガンコバルト酸リチウム、LiFePO、LiCoPO、LiMnPO、Li0.90Ti0.05Nb0.05Fe0.30Co0.30Mn0.30POなどが挙げられる。
活物質の形状としては、粒状であることが好ましい。活物質の平均粒子径としては、0.1〜100μmであることが好ましく、0.5〜20μmであることがより好ましい。
活物質の使用割合は、活物質100質量部に対するバインダー(重合体(A))の含有割合が、0.1〜25質量部となるような割合で使用することが好ましく、0.5〜15質量部となるような割合で使用することがより好ましい。このような使用割合とすることにより、密着性により優れ、しかも電極抵抗が小さく充放電特性により優れた蓄電デバイス正極を製造することができる。
2.2.その他の添加剤
本実施の形態に係る蓄電デバイス正極用スラリーには、必要に応じて導電助剤、非水系
媒体、増粘剤等を添加することができる。
2.2.1.導電助剤
導電助剤の具体例としては、リチウムイオン二次電池においてはカーボンなどが;ニッケル水素二次電池においては酸化コバルトなどが、それぞれ用いられる。カーボンとしては、例えばグラファイト、活性炭、アセチレンブラック、ファーネスブラック、黒鉛、炭素繊維、フラーレン等を挙げることができる。これらの中でも、アセチレンブラックまたはファーネスブラックを好ましく使用することができる。導電助剤の中でもストラクチャ構造を有するカーボンブラックは、導電性付与という機能の他に、活物質層間に介在することにより、リチウムイオンの出入りによる活物質の体積変化を緩衝する作用がある。これにより、充放電が繰り返されても電極としての形状が保たれ、導電経路が確保されるので、結果として長寿命のリチウムイオン二次電池となる。導電助剤の使用割合は、活物質100質量部に対して、好ましくは20質量部以下であり、より好ましくは1〜15質量部であり、特に好ましくは2〜10質量部である。
2.2.2.非水系媒体
本実施の形態に係る蓄電デバイス正極用スラリーは、その塗布性を改善する観点から、80〜350℃の標準沸点を有する非水系媒体を含有することができる。このような非水系媒体の具体例としては、例えば、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド化合物;トルエン、キシレン、n−ドデカン、テトラリン等の炭化水素;2−エチル−1−ヘキサノール、1−ノナノール、ラウリルアルコール等のアルコール;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ホロン、アセトフェノン、イソホロン等のケトン;酢酸ベンジル、酪酸イソペンチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル;o−トルイジン、m−トルイジン、p−トルイジン等のアミン化合物;γ−ブチロラクトン、δ−ブチロラクトン等のラクトン;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド・スルホン化合物を挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。これらの中でも、蓄電デバイス正極用スラリーを塗布する際の作業性などの点から、N−メチルピロリドンを使用することが好ましい。
2.2.3.増粘剤
本実施の形態に係る蓄電デバイス正極用スラリーは、その流動性や安定性を調整する観点から、増粘剤を含有することができる。このような増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース化合物;上記セルロース化合物のアンモニウム塩またはアルカリ金属塩;ポリ(メタ)アクリル酸、変性ポリ(メタ)アクリル酸などのポリカルボン酸;上記ポリカルボン酸のアルカリ金属塩;ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等のポリマーなどを挙げることができる。これらの中でも特に好ましい増粘剤としてはメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース化合物である。
なお、カルボキシメチルセルロースおよびその塩は、高電圧に晒される環境中で使用する場合は、酸化電位が低いため含まない方が好ましい。カルボキシメチルセルロースおよびその塩を添加することにより、電極の柔軟性を低下させて捲回性が損なわれたり、活物質層の密着性が不十分となる場合がある。高電圧に晒される環境とは、例えばリチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタなどの正極や正極電極表面とセパレーター間に形成される保護層などが挙げられる。
本実施の形態に係る蓄電デバイス正極用スラリーが増粘剤を含有する場合、増粘剤の使用割合としては、蓄電デバイス正極用スラリーの全固形分量に対して、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは0.1〜15質量%であり、特に好ましくは0.5〜1
0質量%である。
2.3.蓄電デバイス正極用スラリーの製造方法
本実施の形態に係る蓄電デバイス正極用スラリーは、上述の蓄電デバイス正極用バインダー組成物と、活物質と、必要に応じて用いられる添加剤と、を混合することにより製造することができる。これらの混合は公知の手法による攪拌によって行うことができ、例えば攪拌機、脱泡機、ビーズミル、高圧ホモジナイザーなどを利用することができる。
本実施の形態に係る蓄電デバイス正極用スラリーを製造するための混合撹拌としては、スラリー中に活物質の凝集体が残らない程度に撹拌し得る混合機と、必要にして十分な分散条件とを選択する必要がある。分散の程度は粒ゲージにより測定可能であるが、少なくとも100μmより大きい凝集物がなくなるように混合分散することが好ましい。このような条件に適合する混合機としては、例えばボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサーなどを例示することができる。
2.4.スラリー特性
本実施の形態に係る蓄電デバイス正極用スラリーは、その曳糸性が30〜80%であることが好ましく、33〜79%であることがより好ましく、35〜78%であることが特に好ましい。曳糸性が前記範囲未満であると、スラリーを塗布する際、レベリング性が不足するため、塗膜の厚みの均一性が損なわれる場合がある。厚みが不均一な電極を使用すると、充放電反応の面内分布が発生するため、安定した電池性能の発現が困難となる。一方、曳糸性が前記範囲を超えると、スラリーを塗布する際、液ダレが起き易くなり、安定した品質の電極が得られにくい。そこで、曳糸性が前記範囲にあれば、これらの問題の発生を抑制することができ、良好な電気的特性と密着性とを両立させた蓄電デバイスを製造することが容易となるのである。
本明細書における「曳糸性」とは、以下のようにして測定される物性である。まず、底部に直径5.2mmの開口部を有するザーンカップ(太佑機材株式会社製、ザーンビスコシティーカップNo.5)を準備する。この開口部を閉じた状態で、ザーンカップにスラリー40gを流し込む。その後、開口部を開放すると、開口部からスラリーが流れ出す。ここで、開口部を開放した時をT、スラリーの曳糸が終了した時をT、スラリーの流出が終了した時をTとした場合に、下記式(5)から求めることができる。
曳糸性(%)=((T−T)/(T−T))×100 (5)
3.蓄電デバイス正極
本実施の形態に係る蓄電デバイス正極は、集電体と、前記集電体の表面上に前述の蓄電デバイス正極用スラリーが塗布および乾燥されて形成された層と、を備えるものである。かかる蓄電デバイス正極は、金属箔などの適宜の集電体の表面に、前述の蓄電デバイス正極用スラリーを塗布して塗膜を形成し、次いで該塗膜を乾燥して活物質層を形成することにより製造することができる。このようにして製造された蓄電デバイス正極は、集電体上に、前述のバインダー、活物質、さらに必要に応じて添加した任意成分を含有する活物質層が結着されてなるものである。かかる活物質層は、上述のバインダー(重合体(A))を含有するので、厚膜化しても活物質が剥離せず、また厚膜化した活物質層を捲回してもクラックの発生が抑制される。かかる蓄電デバイス正極は、集電体と活物質層との密着性に優れるため、電気的特性の一つである充放電レート特性が良好となると共に、活物質層の厚膜化が可能となるため、蓄電デバイスの高容量化を実現することができる。
集電体は、導電性材料からなるものであれば特に制限されない。リチウムイオン二次電池においては、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレスなどの金属製の集電体が使
用されるが、特にアルミニウムを用いた場合、前述の蓄電デバイス正極用バインダー組成物を用いて製造された蓄電デバイス正極用スラリーの効果が最もよく現れる。ニッケル水素二次電池における集電体としては、パンチングメタル、エキスパンドメタル、金網、発泡金属、網状金属繊維焼結体、金属メッキ樹脂板などが使用される。集電体の形状および厚さは特に制限されないが、厚さ0.001〜0.5mm程度のシート状のものとすることが好ましい。
蓄電デバイス正極用スラリーの集電体への塗布方法についても特に制限はない。塗布は、例えばドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、浸漬法、ハケ塗り法などの適宜の方法によることができる。蓄電デバイス正極用スラリーの塗布量も特に制限されないが、活物質層を厚膜化した場合でも活物質の剥離やクラックの発生を抑制できることから、液状媒体(B)を除去した後に形成される活物質層の厚さが、150μm以上となる量とすることが好ましく、200μm以上となる量とすることがより好ましい。また、電極の切断など加工性の観点より、活物質層の厚さが、5mm以下となる量とすることが好ましい。活物質層の厚さが上記範囲内にあることによって、活物質層に効果的に電解液を染み込ませることができる。その結果、活物質層中の活物質と電解液との充放電に伴う金属イオンの授受が容易に行われるため、電極抵抗をより低下させることができるため好ましい。また、活物質層の厚さが上記範囲内にあることで、電極を折り畳んだり、捲回するなどして成形加工する場合においても、活物質層が集電体から剥離することなく密着性が良好で、柔軟性に富む蓄電デバイス電極が得られる点で好ましい。
塗布後の塗膜からの乾燥方法(液状媒体(B)の除去方法)についても特に制限されず、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥;真空乾燥;(遠)赤外線、電子線などの照射による乾燥などによることができる。乾燥速度としては、応力集中によって活物質層に亀裂が入ったり、活物質層が集電体から剥離したりしない程度の速度範囲の中で、できるだけ速く液状媒体が除去できるように適宜に設定することができる。
さらに、乾燥後の集電体をプレスすることにより、活物質層の密度を高め、空孔率を以下に示す範囲に調整することが好ましい。プレス方法としては、金型プレスやロールプレスなどの方法が挙げられる。プレスの条件は、使用するプレス機器の種類および活物質層の空孔率および密度の所望値によって適宜に設定されるべきである。この条件は、当業者による少しの予備実験により、容易に設定することができるが、例えばロールプレスの場合、ロールプレス機の線圧力は0.1〜10(t/cm)、好ましくは0.5〜5(t/cm)の圧力において、例えばロール温度が20〜100℃において、乾燥後の集電体の送り速度(ロールの回転速度)が1〜80m/min、好ましくは5〜50m/minで行うことができる。
プレス後の活物質層の密度は、1.5〜5.0g/cmとすることが好ましく、1.5〜4.0g/cmとすることがより好ましく、1.6〜3.8g/cmとすることが特に好ましい。
4.蓄電デバイス
本実施の形態に係る蓄電デバイスは、上述の蓄電デバイス正極を備えていればよい。蓄電デバイスの具体的製造方法としては、正極と負極との間にこれら電極間の短絡を防止するためのセパレーターを挟んで積層し、または正極、セパレーター、負極およびセパレーターをこの順序に積層して電極/セパレーター積層体とし、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、この電池容器に電解液を注入して封口する方法が挙げられる。なお、電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角型、扁平型など、適宜の形状であることができる。
電解液は、液状でもゲル状でもよく、活物質の種類に応じて、蓄電デバイスに用いられる公知の電解液の中から電池としての機能を効果的に発現するものを選択すればよい。電解液は、電解質を適当な溶媒に溶解した溶液であることができる。
上記電解質としては、リチウムイオン二次電池では、従来から公知のリチウム塩のいずれをも使用することができ、その具体例としては、例えばLiClO、LiBF、LiPF、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiB10Cl10、LiAlCl、LiCl、LiBr、LiB(C、LiCFSO、LiCHSO、LiCSO、Li(CFSON、低級脂肪酸カルボン酸リチウムなどを例示することができる。ニッケル水素二次電池では、例えば従来公知の濃度が5モル/リットル以上の水酸化カリウム水溶液を使用することができる。
上記電解質を溶解するための溶媒は、特に制限されるものではないが、その具体例として、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのカーボネート化合物;γ−ブチロラクトンなどのラクトン化合物;トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル化合物;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド化合物などを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。電解液中の電解質の濃度としては、好ましくは0.5〜3.0モル/Lであり、より好ましくは0.7〜2.0モル/Lである。
本実施の形態に係る蓄電デバイスは、電気自動車、バイブリッドカー、トラック等の自動車に搭載される二次電池またはキャパシタとして好適であるほか、AV機器、OA機器、通信機器などに用いられる二次電池、キャパシタとしても好適である。
5.実施例
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例、比較例中の「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準である。
5.1.重合体(A)の合成および評価
(1)合成例1
容量10Lの撹拌機付き重合缶に、メタノール(重合用溶媒)を60g/hr、酢酸ビニルを800g/hr、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル供給量:300mg/hrの割合で供給して、温度60℃、エチレン圧4.7MPa、平均滞留時間5.0hrの条件で連続重合を行った。反応液は連続して重合缶から抜き出し、反応液100質量部あたり重合禁止剤0.2質量部加えた。その後、酢酸ビニルとメタノール(重合溶媒)を留去し、エチレン含量55モル%の重合体P1を得た。
以下の条件により測定した重合体P1の重量平均分子量(Mw)は40×10であった。
・測定機器:東ソー株式会社製、GPC(型番:HLC−8020)
・カラム:TSKgel GMH−HR−H×2(東ソー株式会社製)
・溶離液:クロロホルム
・流速:1mL/分
・温度:40℃
・分子量−標準サンプル:単分散ポリスチレン
・検出器:示差屈折率計
・試料濃度:0.3重量%、フィルターろ過後に測定
・注入量:100μL
なお、エチレン含有量については以下の方法により算出した。まず、重合体P1を濃度約3%のジメチルスルホキシド(DMSO−d)溶液として、核磁気共鳴法(JEOL製、400MHz NMR測定装置、基準物質:TMS)によって温度50℃で測定して、NMRチャートを得た。得られたNMRチャートより、δ3.3〜4.0ppm(CH)およびδ1.0〜1.8ppm(CH)のピークに基づく積分値からエチレン含有量を算出した。ケン化度についても、同様にδ3.3〜4.0ppm、δ1.98ppm(未ケン化アセトキシル基CH)およびδ0.85ppm(アルキル分岐末端CH)のピークに基づく積分値から算出した。
(2)合成例3
容量10Lの撹拌機付き重合缶に、メタノール(重合用溶媒)を60g/hr、酢酸ビニルを900g/hr、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル供給量:300mg/hrの割合で供給して、温度60℃、エチレン圧4.7MPa、平均滞留時間5.0hrの条件で連続重合を行った。反応液は連続して重合缶から抜き出し、反応液100質量部あたり重合禁止剤0.2質量部加えた。その後、酢酸ビニルとメタノール(重合溶媒)を留去し、エチレン含量40モル%の重合体を得た。
この重合体を50%含むメタノール溶液100質量部に、重合体中の酢酸ビニル基に対して0.02当量の水酸化ナトリウムを含有するメタノール溶液150質量部を供給し、ケン化反応を行ない、重合体P3を得た。次に含水率62%のメタノール水溶液60質量部を、重合体P3メタノール溶液に共沸下で供給し、100〜110℃、圧力0.3MPaで、重合体P3がメタノール/水溶液中の樹脂分濃度が40%になるまでメタノールを留出させ、メタノール/水均一溶液を得た。続いて得られた重合体P3のメタノール/水溶液を、水/メタノール溶液(重量比95/5)よりなる凝固液槽にストランド状に押し出してカッターで切断し、ペレットを得、該ペレットを30℃の酢酸水溶液中で洗浄後、30℃の酢酸−酢酸ナトリウム水溶液中で5時間撹拌した後、110℃で9時間乾燥して、エチレン含有量40モル%の重合体P3のペレットを得た。合成例1と同様に測定した重合体P3の重量平均分子量(Mw)は80×10であった。
(3)合成例2
連続重合時に使用するモノマー比率、重合条件を調整し、表1に示す繰り返し単位比率となるようにした以外は、合成例1と同様にして重合体P2を合成した。合成例1と同様に評価した重量平均分子量(Mw)を表1に併せて示す。
(4)合成例4〜6
連続重合時に使用するモノマー比率、重合条件、ケン化条件を調整し、表1に示す繰り返し単位比率となるようにした以外は、合成例3と同様にして重合体P4〜P6を合成した。合成例1と同様に評価した重量平均分子量(Mw)を併せて表1に示す。
Figure 2016051678
上記合成例で得られた重合体と蓄電デバイス電極用バインダー組成物との関係を表1に併せて示しておいた。
5.2.実施例1
5.2.1.蓄電デバイス電極用バインダー組成物の調製
重合体P1をN−メチルピロリドン(NMP)に溶解させ、重合体(A)を8質量%含有する蓄電デバイス電極用バインダー組成物N1を調製した。
5.2.2.蓄電デバイス電極用スラリーの調製および評価
(1)正極用スラリーの調製
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス株式会社製、商品名「TKハイビスミック
ス 2P−03」)に上記で得られた蓄電デバイス電極用バインダー組成物N1を重合体(A)換算で1.5質量部に相当する量を投入し、さらに粒子径(D50値)が10μmの市販のニッケル・マンガン・コバルト酸リチウム(ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)の比率1:1:1)活物質粒子100質量部、導電助剤(電気化学工業株式会社製、商品名「デンカブラック50%プレス品」)3質量部を投入し、60rpmで1時間攪拌を行った。得られたペーストにN−メチルピロリドン(NMP)を加えて固形分濃度を70%に調整した後、攪拌脱泡機(株式会社シンキー製、商品名「あわとり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、1,800rpmで5分間、さらに真空下(約5.0×10Pa)において1,800rpmで1.5分間攪拌混合することにより、正極用スラリーを調製した。
(2)負極用スラリーの調製
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス株式会社製、商品名「TKハイビスミックス 2P−03」)に上記で得られた蓄電デバイス電極用バインダー組成物N1を重合体(A)換算で1質量部に相当する量を投入し、負極活物質としてグラファイト100質量部、アセチレンブラック4質量部、N−メチルピロリドン(NMP)80質量部を投入し、60rpmで1時間撹拌を行った。その後、さらにNMP20質量部を投入した後、撹拌脱泡機(株式会社シンキー製、製品名「あわとり練太郎」)を使用して、200rpmで2分間、次いで1,800rpmで5分間、さらに真空下(約5.0×10Pa)において1,800rpmで1.5分間撹拌・混合することにより、負極用スラリーを調製した。
(3)スラリーの曳糸性測定
上記で得られた正極用スラリーおよび負極用スラリーの曳糸性を、以下のようにして測定した。まず、容器の底辺に直径5.2mmの開口部が存在するザーンカップ(太佑機材株式会社製、ザーンビスコシティーカップNo.5)を準備した。このザーンカップの開口部を閉じた状態で、上記で調製したスラリーを40g流し込んだ。開口部を開放するとスラリーが流れ出した。このとき、開口部を開放した瞬間の時間をTとし、スラリーが流れ出る際に糸を曳くようにして流出し続けた時間を目視で測定し、この時間をTとした。さらに、糸を曳かなくなってからも測定を継続し、スラリーが流れ出なくなるまでの時間Tを測定した。測定した各値T、TおよびTを下記式(5)に代入して曳糸性を求めた。このスラリーの曳糸性は、上述したように30〜80%である場合に集電体上への塗布性が良好であると判断することができる。その結果を表2に併せて示した。
曳糸性(%)=((T−T)/(T−T))×100 (5)
5.2.3.正極、負極の製造および評価
(1)正極の製造
アルミニウム箔からなる集電体の表面に、上記で調製した正極用スラリーを、乾燥後の膜厚が250μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で10分間乾燥した。その後、膜(活物質層)の密度が3.0g/cmになるようにロールプレス機によりプレス加工することにより、正極を得た。
(2)負極の製造
銅箔からなる集電体の表面に、上記で調製した負極用スラリーを、乾燥後の膜厚が250μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で20分間乾燥した。その後、膜(活物質層)の密度が1.5g/cmとなるようにロールプレス機を使用してプレス加工することにより、負極を得た。
(3)極板のクラック率の評価
上記で得られた正極板、負極板を、それぞれ幅2cm×長さ10cmに切り出し、幅方
向に直径2mmの丸棒に沿って正極板を折り曲げ回数100回にて繰り返し折り曲げ試験を行った。丸棒に沿った部分のクラックの大きさを目視により観察し計測し、クラック率を測定した。クラック率は、下記式(6)によって定義した。
クラック率(%)=
(クラックの入った長さ(mm)÷極板全体の長さ(mm))×100 (6)
クラック率は四捨六入することにより5%刻みで評価し、差を明確にしやすくした。ここで、柔軟性や密着性に優れた電極板はクラック率が低い。クラック率は0%であることが望ましいが、正極板と負極板とをセパレーターを介して渦巻き状に捲回して極板群を製造する場合には、クラック率が20%までなら許容される。しかしながら、クラック率が20%より大きくなると、極板が切れ易くなり極板群の製造が不可能となり、極板群の生産性が低下する。このことから、クラック率が20%までが良好な範囲であると考えられる。その結果を表2に併せて示した。
5.2.4.リチウムイオン電池セルの組立ておよび評価
(1)リチウムイオン電池セルの組立て
露点が−80℃以下となるようAr置換されたグローブボックス内で、上記で製造した負極を直径15.95mmに打ち抜き成型したものを、2極式コインセル(宝泉株式会社製、商品名「HSフラットセル」)上に載置した。次いで、直径24mmに打ち抜いたポリプロピレン製多孔膜からなるセパレーター(セルガード株式会社製、商品名「セルガード#2400」)を載置し、さらに、空気が入らないように電解液を500μL注入した後、上記で製造した正極を直径16.16mmに打ち抜き成型したものを載置し、前記2極式コインセルの外装ボディーをネジで閉めて封止することにより、リチウムイオン電池セル(蓄電デバイス)を組み立てた。ここで使用した電解液は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/1(質量比)の溶媒に、LiPFを1モル/Lの濃度で溶解した溶液である。
(2)充放電レート特性の評価
上記で製造したリチウムイオン電池セルにつき、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が4.2Vになった時点で引き続き定電圧(4.2V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)として、0.2Cでの充電容量を測定した。次いで、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.7Vになった時点を放電完了(カットオフ)とし、0.2Cでの放電容量を測定した。
次に、同じセルにつき、定電流(3C)にて充電を開始し、電圧が4.2Vになった時点で引き続き定電圧(4.2V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)として3Cでの充電容量を測定した。次いで、定電流(3C)にて放電を開始し、電圧が2.7Vになった時点を放電完了(カットオフ)とし、3Cでの放電容量を測定した。
上記の測定値を用いて、0.2Cでの充電容量に対する3Cでの充電容量の割合(百分率%)を計算することにより充電レート(%)を、0.2Cでの放電容量に対する3Cでの放電容量の割合(百分率%)を計算することにより放電レート(%)を、それぞれ算出した。充電レートおよび放電レートの双方がいずれもが80%以上のとき、充放電レート特性は良好であると評価することができる。測定された充電レートおよび放電レートの値を、表2にそれぞれ示した。
(3)5Cレート特性、残存容量率および抵抗上昇率の測定
上記で製造したリチウムイオン電池セルを25℃の恒温槽に入れ、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が4.1Vになった時点で引き続き定電圧(4.1V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。次いで、
定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.5Vになった時点を放電完了(カットオフ)とした(エージング充放電)。
上記エージング充放電後のセルを25℃の恒温槽に入れ、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が4.1Vになった時点で引き続き定電圧(4.1V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。次いで、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.5Vになった時点を放電完了(カットオフ)とし、0.2Cにおける放電容量(初期)の値であるC1を測定した。
上記放電容量(初期)測定後のセルを25℃の恒温槽に入れ、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が4.1Vになった時点で引き続き定電圧(4.1V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。次いで、定電流(5.0C)方式で放電したときの放電容量C2を測定した。そして、これらの測定値を用いて、下記式(7)によってリチウムイオン二次電池の5Cレート特性(%)を算出した。
5Cレート特性(%)=(C2/C1)×100 (7)
なお、5Cレート特性の値が大きいほど、高速放電においても良好な出力特性が得られると判断することができるが、特に5Cレート特性の値が60%以上である場合、良好と判断できる。
上記放電容量(初期)測定後のセルを25℃の恒温槽に入れ、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が4.1Vになった時点で引き続き定電圧(4.1V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。
この充電状態のセルについてEIS測定(“Electrochemical Inpedance Spectroscopy”、「電気化学インピーダンス測定」)を行い、初期の抵抗値EISaを測定した。
次に、初期の抵抗値EISaを測定したセルを60℃の恒温槽に入れ、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が4.4Vになった時点で引き続き定電圧(4.4V)にて充電を168時間続行した(過充電の加速試験)。
その後、この充電状態のセルを25℃の恒温槽に入れてセル温度を25℃に低下してから、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.5Vになった時点を放電完了(カットオフ)として、0.2Cにおける放電容量(試験後)の値であるC2を測定した。
上記放電容量(試験後)のセルを25℃の恒温槽に入れ、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が4.1Vになった時点で引き続き定電圧(4.1V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。次いで、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.5Vになった時点を放電完了(カットオフ)とした。このセルのEIS測定を行い、熱ストレスおよび過充電ストレス印加後の抵抗値であるEISbを測定した。
上記の各測定値を下記式(8)および下記式(9)に代入して残存容量率および抵抗上昇率をそれぞれ求めた。
残存容量率(%)=(C2/C1)×100 (8)
抵抗上昇率(%)=((EISb−EISa)/EISa)×100 (9)
この残存容量率が75%以上であり、かつ、抵抗上昇率300%以下であるとき、耐久性は良好であると評価することができる。
なお、上記測定条件において「1C」とは、ある一定の電気容量を有するセルを定電流放電して1時間で放電終了となる電流値を示す。例えば「0.1C」とは、10時間かけて放電終了となる電流値のことであり、「10C」とは0.1時間かけて放電完了となる電流値のことをいう。
5.3.実施例2〜4、比較例1〜2
上記実施例1の「5.2.1.蓄電デバイス電極用バインダー組成物」と同様にして、表1に示す組成の重合体を含むNMP溶液(蓄電デバイス電極用バインダー組成物N2〜N6を調製した。
次いで、上記実施例1の「5.2.2.正極、負極用スラリーの調製および評価」において、重合体の種類、添加量および活物質の種類を表2に記載の通りとした以外は、実施例1と同様に正極、負極用スラリーをそれぞれ調製し、スラリーの曳糸性を測定した。その結果を表2に併せて示した。
さらに、上記実施例1の「5.2.3.正極、負極の製造および評価」、「5.2.4.リチウムイオン電池セルの組立ておよび評価」と同様にして電極、蓄電デバイスを作製し、評価を行った。その結果を表2に併せて示した。
5.4.実施例1〜4、比較例1〜2の評価結果
下表2に、正極、負極用スラリーの組成および各評価結果を示す。
Figure 2016051678
表2における各成分の略称は、それぞれ以下の意味である。
・KFポリマー:株式会社クレハ製、商品名「KFポリマー#1120」、フッ化ビニリデン樹脂
・NMC(111):ユミコア社製、ニッケル・マンガン・コバルト酸リチウム(ニッケル(Ni):マンガン(Mn):コバルト(Co))が1:1:1)、グレード名「MX−10」
・NMC(532):ユミコア社製、ニッケル・マンガン・コバルト酸リチウム(ニッケル(Ni):マンガン(Mn):コバルト(Co)が5:3:2)、グレード名「TX−10」
・AB:アセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、デンカブラック50%プレス)・黒鉛:日立化成工業株式会社製、商品名「MAG」
・NMP:N−メチルピロリドン
上表2から明らかなように、実施例1〜4に示した本発明に係る蓄電デバイス正極用バインダー組成物を用いることにより、密着性および柔軟性に優れた活物質層を形成することができ、活物質層を厚膜化した場合であってもクラック率が低い優れた蓄デバイス正極を与えることが判明した。また、これらの電極を備える蓄電デバイス(リチウムイオン電池)は、蓄電デバイス特性も良好であった。
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を包含する。また本発明は、上記の実施形態で説明した構成の本質的でない部分を他の構成に置き換えた構成を包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成をも包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成をも包含する。

Claims (7)

  1. 重合体(A)と、液状媒体(B)と、を含有し、
    前記重合体(A)が、下記一般式(1)で示される繰り返し単位(A1)を含有することを特徴とする、蓄電デバイス正極用バインダー組成物。
    Figure 2016051678
    (上記式(1)中、Rは炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を表す。)
  2. 前記重合体(A)が、
    さらに、下記一般式(2)で示される繰り返し単位(A2)を含有する、請求項1に記載の蓄電デバイス正極用バインダー組成物。
    Figure 2016051678
    (上記式(2)中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基またはハロゲン原子を表す。)
  3. 前記重合体(A)の全繰り返し単位100mol%中に、
    前記一般式(1)で示される繰り返し単位を30mol%以上70mol%以下、および前記一般式(2)で示される繰り返し単位(A2)を30mol%以上70mol%以下含有する、請求項2に記載の蓄電デバイス正極用バインダー組成物。
  4. 前記重合体(A)が、
    さらに、下記一般式(3)で示される繰り返し単位(A3)を20mol%以下含有する、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の蓄電デバイス正極用バインダー組成物。
    Figure 2016051678
  5. 請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の蓄電デバイス正極用バインダー組成物と、活物質と、を含有する蓄電デバイス正極用スラリー。
  6. 集電体と、前記集電体の表面上に請求項5に記載の蓄電デバイス正極用スラリーが塗布および乾燥されて形成された層と、を備える蓄電デバイス正極。
  7. 請求項6に記載の蓄電デバイス正極を備える蓄電デバイス。
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