図1はこの発明の実施例に係る自律走行作業車の制御装置を全体的に示す概念図、図2は図1に示す自律走行作業車の平面図である。
図1と図2に示す如く、符号10は作業車(自律走行作業車。例えば芝刈り機)を示す。作業車10の車体12はシャシ12aとそれに取り付けられるフレーム12bからなる。また、作業車10は、シャシ12aの前端側にステー12a1を介して固定される比較的小径の左右の前輪13と、シャシ12aに直接取り付けられる比較的大径の左右の後輪14とを備える。
作業車10のシャシ12aの中央位置付近には作業機、例えば芝刈り作業用のブレード(ロータリブレード)16が取り付けられると共に、その上部には電動モータ20が配置される。ブレード16は電動モータ20に接続され、電動モータ(以下「作業モータ」という)20によって回転駆動される。
ブレード16にはユーザの手動操作自在なブレード高さ調整機構22が接続される。ブレード高さ調整機構22はネジ(図示せず)を備え、そのネジをユーザが手で廻すことでブレード16の接地面GRからの高さが調整可能に構成される。
また作業車10のシャシ12aには、ブレード16の後端側で2個の電動モータ(以下「走行モータ」という)24が取り付けられる。走行モータ24は左右の後輪14に接続され、前輪13を従動輪、後輪14を駆動輪として左右独立に正転(前進方向への回転)あるいは逆転(後進方向への回転)させる。ブレード16、作業モータ20、走行モータ24などはフレーム12bで被覆される。
作業車10の後部には充電ユニット(AC/DC変換器を含む)26とバッテリ30が格納されると共に、フレーム12bには充電端子32が2個、前方に突出するように取り付けられる。充電端子32は内側に接点32aを備える。
充電端子32は充電ユニット26に配線を介して接続されると共に、充電ユニット26はバッテリ30に配線を介して接続される。作業モータ20と走行モータ24はバッテリ30に配線を介して接続され、バッテリ30から通電されるように構成される。なお、図1,2では配線の図示を省略する。
このように作業車10は4輪の電動式の自律走行作業車(例えば芝刈り機)として構成される。
作業車10の前方には左右2個の磁気センサ34が配置される。より具体的には、図2に示す如く、作業車10の直進方向に伸びる中心線(直進方向中心線)に対して左右対称となるように2個の磁気センサ34が配置される。また、フレーム12bには接触センサ36が取り付けられる。接触センサ36は、障害物や異物との接触によってフレーム12bがシャシ12aから外れるとき、オン信号を出力する。
ここで、磁気センサ34の特性について図3を参照しながら説明する。図3は磁気センサ34の特性を示した説明図である。なお、図3では作業エリア37の一部のみを表す。
磁気センサ34は作業エリア37を画成するエリアワイヤ(電線)38を流れる電流によって発生する磁界強度を検出する。従って、図3に示す如く、作業車10に搭載される磁気センサ34のセンサ出力値(磁界強度)は、エリアワイヤ38から磁気センサ34までの距離に反比例する。
また、上記したように、2個の磁気センサ34は作業車10の直進方向中心線に対して左右対称となるように配置されることから、作業車10の直進方向とエリアワイヤ38の敷設方向とが作業エリア37平面状で直交する関係にある場合、換言すれば、作業車10の直進方向とエリアワイヤ38の敷設方向との相対角度が直角になるとき、2個の磁気センサ34の出力はそれぞれ同一の値を示す。一方、作業車10の進行方向とエリアワイヤ38の敷設方向との相対角度が直角にならないとき、2個の磁気センサ34の出力はそれぞれ異なる値を示す。
従って、ECU42は2個の磁気センサ34から得られる出力(磁界強度)に基づいて作業車10がエリアワイヤ38に対してどれだけ傾いているか、即ち上記した相対角度を算出することが可能である。
図1,2に戻って説明を続けると、作業車10の中央位置付近には収納ボックスが設けられ、その内部に収納された基板40上にはCPU,ROM,RAMなどを備えるマイクロコンピュータからなる電子制御ユニット(Electronic Control Unit。制御装置。以下「ECU」という)42が配置されると共に、それに近接して作業車10の重心位置のz軸回りに生じる角速度(ヨーレート)を示す出力を生じるYawセンサ(角速度センサ)44と、作業車10に作用するx,y,z(3軸)方向の加速度Gを示す出力を生じるGセンサ(加速度センサ)46と、作業車10の周辺の温度を測定すると共に、Yawセンサ44の温度特性を示すセンサ温度を示す温度センサ47が配置される。
ここで、図4を参照しながらYawセンサ44の特性と、これに起因する本願発明の目的について説明する。図4はYawセンサ44の温度特性を示した説明図である。
図4に明らかな如く、Yawセンサ44によって得られる出力値Xと実角速度(本来の角速度)の値Yとは、センサ温度Tが特定の値(T=T1)にあるときは1:1の関係を示すが、センサ温度Tが変化するに連れてその相対関係が変化することが知られている。
また、かかる特性は作業車10の回転方向によっても異なる上、センサ個体ごとに異なる変化をするため、角速度を正確に測定するためには個体ごとに実験を行い、求めた温度特性に応じてYawセンサ44を較正する必要がある。しかし、そのような作業を全てのセンサに対して行うことは非常に煩瑣となることから、この発明の実施例にあっては、後述するように、Yawセンサ44を容易に較正する装置を提供することを目的としている。
なお、一般的な角速度センサ同様、ECU42はYawセンサ44から得られた角速度情報を時間積分することによって作業車10の姿勢角情報を得る。従って、ECU42は当該積分値(センサ積分値)を回転方向別に、センサ温度ごとに格納するテーブル(マップ)を備えている。
再び図1,2に戻って説明を続けると、後輪(駆動輪)14の付近には後輪14の車輪速を示す出力を生じる車輪速センサ50が配置されると共に、シャシ12aとフレーム12bの間にはリフトセンサ52が配置され、ユーザなどによってフレーム12bがシャシ12aからリフトされた(持ち上げられた)とき、オン信号を出力する。
また、作業車10にはメインスイッチ56と非常停止スイッチ60がユーザの操作自在に設けられる。
上記した磁気センサ34、接触センサ36、Yawセンサ44、Gセンサ46、温度センサ47、車輪速センサ50、リフトセンサ52、メインスイッチ56、および非常停止スイッチ60の出力は、ECU42に送られる。
作業車10のフレーム12bは上面で大きく切り欠かれ、そこにディスプレイ62が設けられる。ディスプレイ62はECU42に接続され、ECU42の指令に応じて作業モードなどを表示する。
上記の如く構成された作業車10の作業(芝刈り作業)について説明すると、作業エリア37の芝の生育状況に応じてユーザによってブレード16の高さがブレード高さ調整機構22を介して手動で調整されてメインスイッチ56がオンされてオン信号が出力されたとき、ECU42は動作を開始して作業モードに入り、芝刈り作業を行う。
ECU42は作業モードにおいて、車輪速センサ50から検出される車速が所定の値となるように走行モータ24を制御して作業車10を走行させると共に、ブレード16の回転数が所定の値となるように作業モータ20の動作を制御してブレード16で作業をさせる。
より具体的には、ECU42は作業モードにおいて、作業車10を作業エリア37の内側でランダムに、あるいはプログラムに沿って走行させて作業させると共に、磁気センサ34の出力に基づき、作業車10が作業エリア37の外側に出たと判断するときは、Yawセンサ44の出力から検出される進行方向を所定の角度だけ変更して作業エリア37の内側に向けて復帰させる。
図5は上記した作業車10の作業エリア37における作業の様子を説明するための説明図、図6は作業車10の旋回動作を示した説明図である。
図示するように、この発明の実施例にあっては、ECU42は、作業エリア37内で作業車10を繰り返し往復させることで作業エリア37全体の作業を行う。即ち、作業エリア37内において作業車10をある方向に向かって直進させ、エリアワイヤ38で画成される作業エリア37の周縁まで来たところで右または左方向に180度反転(旋回)させると共に、反対方向に向かって再び直進させる動作を繰り返し実行することで作業エリア37全体の作業を行う。
なお、左右の後輪(駆動輪)14は左右の走行モータ24で独立して正逆両方向に駆動可能に構成されることから、左右の走行モータ24を同一回転数で正転させると、作業車10は直進し、異なる回転数で正転させると、作業車10は回転数が少ない方向に旋回する。左右の走行モータ24の一方を正転、他方を逆転させると、図6に示すように、作業車10はその場旋回(いわゆる超信地旋回)する。
ここで、作業車10が旋回する場合、通常はYawセンサ44によって得られる出力に基づいて旋回角度を測定する。従って、作業車10が予定通りに直進、反転(旋回)動作を繰り返しながら作業を行うためには、作業車10が正確に進行方向を把握、換言すればYawセンサ44によって精度良く作業車10の進行方向を検出する必要がある。
しかしながら、図4を示して説明した如く、Yawセンサ44はセンサ温度の影響を受け易いため、正確に作業車10の進行方向を把握するには、予め実験を通してYawセンサ44を個々に較正することが求められる。あるいは、Yawセンサ44とは別に、精度の良い方位センサ(例えば、地磁気センサ)を設けるようにし、両センサの出力を比較することでYawセンサ44を較正する必要がある。
一方で、作業車10が図6に示すような超信地旋回を行う場合、磁気センサ34によって得られる出力を利用することで正確に旋回角度を測定することができる。
即ち、上記したように、作業車10の直進方向とエリアワイヤ38の敷設方向との相対角度が直角になると2個の磁気センサ34の出力値(磁界強度)が同一の値を示すことを利用し、作業車10がエリアワイヤ38まで接近した場合、先ず作業車10の左右の駆動輪14を適宜駆動して作業車10を2個の磁気センサ34から得られる磁界強度が同一の値となる位置(姿勢)に移動させる(作業車10をエリアワイヤ38に正対する位置に移動させる)。
次いでこの状態から、作業車10を右回り又は左回りに超信地旋回させ、再び磁気センサ34から得られる磁界強度が同一の値となる位置で作業車10を停止させることにより、Yawセンサ44によって測定される旋回角度(測定値)とは別に、作業車10が実際に180度旋回したことを正確に把握することが可能である。
従って、予め実験を通して個々のYawセンサ44の温度特性を調べたり、地磁気センサなどを新たに設けたりせずとも、作業車10に所定の動作をさせるとともに、そのときの磁気センサ34の出力に基づいて算出される相対角度に基づいてYawセンサ44を精度良く較正することが可能となる。
特に、図5を示して説明したように、この発明の実施例にあっては、作業車10は通常の作業中にエリアワイヤ38の周縁で180度旋回を繰り返していることから、かかる動作を行う際にYawセンサ44の較正も併せて実行することができる。
本願発明の発明者は、かかる知見に基づいてこの発明をなしたものであり、図7は上記したECU42の動作、より具体的にはECU42によるYawセンサ44の較正処理を示すフロー・チャートである。なお、図示の処理は作業車10の走行中に所定間隔で繰り返し実行される。
以下説明すると、ECU42は、S10において、Yawセンサ44の較正を実施可能(若しくは実施すべき)状態にあるか否か判断する(S:処理ステップ)。上記したように、この実施例におけるYawセンサ44の較正を行うには作業車10がエリアワイヤ38の付近にいなければならないことから、S10では少なくとも作業車10とエリアワイヤ38との位置関係に基づいて当該判断が行われる。
S10において否定される場合、即ち作業車10がエリアワイヤ38の周縁に到達していないと判断される場合はS12に進み、予めECU42内のマップに格納されているセンサ積算値と、温度センサ47から得られる現在の温度(センサ温度)とに基づいて作業車10の姿勢角を算出し、プログラムを終了する。
なお、この実施例の如く、作業車10がエリアワイヤ38の周縁で旋回するたびにYawセンサ44の較正を行う場合、Yawセンサ44をより精度良く較正することが可能となるが、その反面作業に要する時間がその分だけ余計にかかることとなる。そこで、作業車10が充電ステーション(図示せず)から出発した直後、又は作業を終えて(若しくは作業を中断して)充電ステーションに帰還する直前にのみS10の判断が肯定されるようにしても良い。若しくは、温度センサ47によって得られるセンサ温度が、較正履歴のない温度範囲に含まれる場合にのみS10の判断が肯定されるようにしても良い。
S10における判断が肯定される場合、プログラムはS14に進み、作業車10の直進方向(進行方向)とエリアワイヤ38の敷設方向との相対角度が所定角度(90度)となるように駆動輪14を駆動して作業車10を移動させる。
次いでセンサ積分値をリセット(初期化)し(S16)、上記したように磁気センサ34の出力に基づいて作業車10を規定角度(180度)右旋回(又は左旋回)させて停止する(S18)と共に、このとき得られたYawセンサ44の出力に基づいてYawセンサ44を較正、より正確には、このとき得られたYawセンサ44の出力を時間積分したセンサ積分値によって、ECU42のマップに格納されているセンサ積分値のうち、温度センサ47から得られる現在の温度に対応する右旋回時(または左旋回時)の値を上書きする(S20)。
なお、S16,S18における右旋回、左旋回の選択は作業車10の作業プログラムによって必然的に定まる。即ち、図5に示すように、作業車10の作業エリア37内における位置及び進行方向と作業順序(作業プログラム)によって作業車10の右旋回、左旋回が決まることから、かかる条件に従ってS16,S18における選択が行われる。
あるいは、図7の処理を実行する度に右旋回及び左旋回の両方を連続的に実行してYawセンサ44を較正しても良い。
以上説明したように、この発明の実施例にあっては、エリアワイヤ38で規定される作業エリア37を自律走行しつつ作業を行う作業車10と、前記エリアワイヤ38を流れる電流によって発生する磁界強度を検出する磁気センサ34と、前記作業車10の旋回時における角速度を示すセンサ値を出力する角速度センサ(Yawセンサ)44と、前記Yawセンサ44を較正する較正手段(ECU42)とを備えた自律走行作業車の制御装置において、前記磁気センサ34は、前記作業車10の直進方向中心線に対して左右対称となるように前記作業車10の車体の左右にそれぞれ配置され、前記較正手段は、前記左右に配置された磁気センサ34によって検出された磁界強度に基づいて前記エリアワイヤ38の敷設方向と前記作業車10の直進方向との相対角度を算出すると共に、前記算出された相対角度に基づいて前記Yawセンサ34を較正する(ECU42,S14からS20)如く構成した。従って、地磁気センサなどの新たなセンサを追加することなく低コストで容易にYawセンサ44を較正することができる。
即ち、エリアワイヤ38で規定される作業エリア37内を自律走行する作業車10にあっては、自律走行を行う上で、エリアワイヤ38に発生する磁界強度を検出する磁気センサ34は元来必要不可欠な構成であることから、新たなセンサを追加することなく低コストで容易にYawセンサ44を較正することができる。
また、前記較正手段は、前記算出された相対角度が所定角度(より具体的には90度)となったときに前記Yawセンサ44によって出力された前記センサ値を時間積分したセンサ積分値を初期化した後(S16)、前記作業車10を規定角度(より具体的には180度)だけ超信地旋回させる(S18)と共に、前記超信地旋回中に前記Yawセンサ44の出力から得られた前記センサ積分値に基づいて前記Yawセンサを較正(上書き)する(S20)ように構成したので、上記した効果に加え、Yawセンサ44をより一層精度良くかつ容易に較正することができる。
即ち、エリアワイヤ38と作業車10との位置関係を適切に設定し、その場で作業車10を180度だけ正確に旋回させるようにすることで、その際にYawセンサ44が実際に出力しているセンサ値を時間積分したセンサ積分値によって、予め求められた(予めマップに格納されていた)Yawセンサ44の出力特性を上書きすることができ、よってYaw44センサをより一層精度良く較正することができる。
なお、作業車10の構成として芝刈り機を例に挙げ、図1,2を示して具体的に説明したが、作業車10はこれに限られるものではない。
また、上記においては所定角度を90度、規定角度を180度として説明したが、これらは例示に過ぎない。即ち、上記したように、作業車10の直進方向中心線に対して左右対称に配置された磁気センサ34の出力に基づいて得られる作業車10とエリアワイヤ38との相対角度情報から作業車10の実際の旋回角度を算出することができるため、所定角度や規定角度を上記実施例で説明した値に限定する必要はなく、作業エリア37の形状に応じてこれらを適宜変更することも可能である。