以下、図面を参照して本発明による一実施例について詳細に説明する。
<内燃機関全体の説明>
図1は、本発明による異常診断装置が用いられている内燃機関を概略的に示す図である。図1を参照すると1は機関本体、2はシリンダブロック、3はシリンダブロック2内で往復動するピストン、4はシリンダブロック2上に固定されたシリンダヘッド、5はピストン3とシリンダヘッド4との間に形成された燃焼室、6は吸気弁、7は吸気ポート、8は排気弁、9は排気ポートをそれぞれ示す。
図1に示されるように、シリンダヘッド4の内壁面の中央部には点火プラグ10が配置され、シリンダヘッド4の内壁面周辺部には燃料噴射弁11が配置される。この燃料噴射弁11からは燃料が燃焼室5内に向けて噴射される。なお、本発明による実施例では、燃料として理論空燃比が14.6であるガソリンが用いられている。しかしながら、ガソリン以外の燃料、或いはガソリンとの混合燃料を用いることもできる。
各気筒の吸気ポート7はそれぞれ対応する吸気枝管13を介してサージタンク14に連結され、サージタンク14は吸気管15を介してエアクリーナ16に連結される。また、吸気管15内にはアクチュエータ17によって駆動されるスロットル弁18が配置される。一方、各気筒の排気ポート9は排気マニホルド19に連結され、排気マニホルド19の集合部は上流側排気浄化触媒20を内蔵した上流側ケーシング21に連結される。上流側ケーシング21は、排気管22を介して下流側排気浄化触媒24を内蔵した下流側ケーシング23に連結される。排気ポート9、排気マニホルド19、上流側ケーシング21、排気管22及び下流側ケーシング23は、排気通路を形成する。
電子制御ユニット(ECU)31はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス32を介して相互に接続されたRAM(ランダムアクセスメモリ)33、ROM(リードオンリメモリ)34、CPU(マイクロプロセッサ)35、入力ポート36および出力ポート37を具備する。吸気管15には、吸気管15内を流れる空気流量を検出するための吸入空気量検出器39が配置され、この吸入空気量検出器39の出力は対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。また、排気マニホルド19の集合部には排気マニホルド19内を流れる排気ガスの空燃比を検出するための上流側空燃比センサ40が配置され、また排気管22内には排気管22内を流れる排気ガスの空燃比を検出するための下流側空燃比センサ41が配置される。これら空燃比センサ40、41の出力も対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。なお、これら空燃比センサ40、41の構成については後述する。
アクセルペダル42にはアクセルペダル42の踏込み量に比例した出力電圧を発生する負荷センサ43が接続され、負荷センサ43の出力電圧は対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。クランク角センサ44は例えばクランクシャフトが15度回転する毎に出力パルスを発生し、この出力パルスが入力ポート36に入力される。CPU35ではこのクランク角センサ44の出力パルスから機関回転数が計算される。一方、出力ポート37は対応する駆動回路45を介して点火プラグ10、燃料噴射弁11及びスロットル弁駆動アクチュエータ17に接続される。
上流側排気浄化触媒20及び下流側排気浄化触媒24は、セラミックから成る担体上に、貴金属(例えば、白金(Pt))および酸素吸蔵能力を有する物質(例えば、セリア(CeO2))を担持させた三元触媒からなる。三元触媒は、三元触媒に流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比に維持されていると、未燃HC、COおよびNOxとを同時に浄化する機能を有するが、排気浄化触媒20、24が酸素吸蔵能力を有している場合には、排気浄化触媒20、24に流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比に対してリッチ側或いはリーン側に若干ずれたとしても未燃HC、COおよびNOxとが同時に浄化される。
即ち、排気浄化触媒20、24が酸素吸蔵能力を有していると、排気浄化触媒20、24に流入する排気ガスの空燃比が若干リーンになったときには排気ガス中に含まれる過剰な酸素が排気浄化触媒20、24内に吸蔵され、排気浄化触媒20、24の表面上が理論空燃比に維持される。その結果、排気浄化触媒20、24の表面上において未燃HC、COおよびNOxが同時に浄化され、このとき排気浄化触媒20、24から流出する排気ガスの空燃比は理論空燃比となる。一方、排気浄化触媒20、24に流入する排気ガスの空燃比が若干リッチになったときには排気ガス中に含まれる未燃HC、COを還元させるのに不足している酸素が排気浄化触媒20、24から放出され、この場合にも排気浄化触媒20、24の表面上が理論空燃比に維持される。その結果、排気浄化触媒20、24の表面上において未燃HC、COおよびNOxが同時に浄化され、このとき排気浄化触媒20、24から流出する排気ガスの空燃比は理論空燃比となる。
このように、排気浄化触媒20、24が酸素吸蔵能力を有している場合には、排気浄化触媒20、24に流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比に対してリッチ側或いはリーン側に若干ずれたとしても未燃HC、COおよびNOxとが同時に浄化され、排気浄化触媒20、24から流出する排気ガスの空燃比は理論空燃比となる。
<空燃比センサの説明>
本発明による実施例では、空燃比センサ40、41として、コップ型の限界電流式空燃比センサが用いられている。次に、図2を参照しつつ、空燃比センサ40、41の構造について簡単に説明する。空燃比センサ40、41は、固体電解質層51と、その一方の側面上に配置された排気側電極52と、その他方の側面上に配置された大気側電極53と、通過する排気ガスの拡散律速を行う拡散律速層54と、基準ガス室55と、空燃比センサ40、41の加熱を行うヒータ部56とを具備する。
特に、本発明による実施例におけるコップ型の空燃比センサ40、41では、固体電解質層51は一端が閉じられた円筒状に形成されている。固体電解質層51の内部に形成された基準ガス室55には、大気ガスが導入されると共に、ヒータ部56が配置される。固体電解質層51の内面上には大気側電極53が配置され、固体電解質層51の外面上には排気側電極52が配置される。固体電解質層51及び排気側電極52の外面上にはこれらを覆うように拡散律速層54が配置される。なお、拡散律速層54の外側には、拡散律速層54の表面上に液体等が付着するのを防止するための保護層(図示せず)を設けることもできる。
固体電解質層51は、ZrO2(ジルコニア)、HfO2、ThO2、Bi2O3等にCaO、MgO、Y2O3、Yb2O3等を安定剤として配当した酸素イオン伝導性酸化物の焼結体により形成されている。また、拡散律速層54は、アルミナ、マグネシア、けい石質、スピネル、ムライト等の耐熱性無機物質の多孔質焼結体により形成されている。さらに、排気側電極52及び大気側電極53は、白金等の触媒活性の高い貴金属により形成されている。
また、排気側電極52と大気側電極53との間には、ECU31によって制御される印加電圧制御装置60によりセンサ印加電圧Vが印加される。また、ECU31には、センサ印加電圧Vを印加したときに固体電解質層51を通ってこれら電極52、53間に流れる電流Iを検出する電流検出部61が設けられる。この電流検出部61によって検出される電流が空燃比センサ40、41の出力電流Iである。
このように構成された空燃比センサ40、41は、図3に示すような電圧−電流(V−I)特性を有する。図3からわかるように、空燃比センサ40、41の出力電流Iは、排気ガスの空燃比、即ち排気空燃比A/Fが高くなるほど、即ちリーンになるほど、大きくなる。また、各排気空燃比A/FにおけるV−I線には、センサ印加電圧V軸に平行な領域、すなわちセンサ印加電圧Vが変化しても出力電流Iがほとんど変化しない領域が存在する。この電圧領域は限界電流領域と称され、このときの電流は限界電流と称される。図3には、排気空燃比が18であるときの限界電流領域及び限界電流をそれぞれW18、I18で示されている。
図4は、印加電圧Vを0.45V程度(図3)で一定にしたときの、排気空燃比と出力電流Iとの関係を示している。図4からわかるように、空燃比センサ40、41では、排気空燃比が高くなるほど、即ち、リーンになるほど、空燃比センサ40、41からの出力電流Iが大きくなる。また、空燃比センサ40、41は、排気空燃比が理論空燃比であるときに出力電流Iが零になる。なお、空燃比センサ40、41としては、図2に示した構造の限界電流式空燃比センサに代えて、例えば積層型の限界電流式空燃比センサ等の他の構造の限界電流式空燃比センサを用いることもできる。
<基本的な制御>
このように構成された内燃機関では、上流側空燃比センサ40及び下流側空燃比センサ41の出力に基づいて、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比が機関運転状態に基づいた最適な空燃比となるように、燃料噴射弁11からの燃料噴射量が設定される。このような燃料噴射量の設定方法としては、上流側空燃比センサ40の出力に基づいて上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比、即ち、機関本体から流出する排気ガスの空燃比が目標空燃比となるように制御すると共に、下流側空燃比センサ41の出力に基づいて上流側空燃比センサ40の出力を補正したり、目標空燃比を変更したりする方法が挙げられる。
図5を参照して、このような目標空燃比の制御の例について、簡単に説明する。図5は、内燃機関の通常運転時における、上流側排気浄化触媒の酸素吸蔵量、目標空燃比、上流側空燃比センサの出力空燃比及び下流側空燃比センサの出力空燃比の変化を示すタイムチャートである。なお、「出力空燃比」は、空燃比センサの出力に相当する空燃比を意味する。また、「通常運転時」は、内燃機関の特定の運転状態に応じて燃料噴射量を調整する制御、例えば、内燃機関を搭載した車両の加速時に行われる燃料噴射量の増量補正制御や、燃料供給停止制御等を行っていない運転状態を意味する。
図5に示した例では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリッチ判定基準空燃比(例えば、14.55)以下となったときに、目標空燃比はリーン設定空燃比AFlean(例えば、15)に設定され、維持される。その後、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量が推定され、この推定値が予め定められた判定基準吸蔵量Cref(最大酸素吸蔵量Cmaxよりも少ない量)以上になると、目標空燃比はリッチ設定空燃比AFrich(例えば、14.4)に設定され、維持される。図5に示した例では、このような操作が繰り返し行われる。なお、この場合、上述したように、上流側空燃比センサ40の出力に基づいて機関本体から流出する排気ガスの空燃比が目標空燃比となるようにフィードバック制御されている。
具体的には、図5に示した例では、時刻t1の前では、目標空燃比がリッチ設定空燃比AFrichとされており、これに伴って、上流側空燃比センサ40の出力空燃比もリッチ空燃比となっている。また、上流側排気浄化触媒20には酸素が吸蔵されているので、下流側空燃比センサ41の出力空燃比は理論空燃比(14.6)となっている。このとき、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比はリッチ空燃比となっているので、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量は徐々に低下する。
その後、時刻t1においては、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量がゼロに近づくことにより、上流側排気浄化触媒20に流入した未燃ガスの一部は上流側排気浄化触媒20で浄化されずに流出し始める。その結果、時刻t2において、下流側空燃比センサ41の出力空燃比が理論空燃比よりも僅かにリッチなリッチ判定基準空燃比AFrefriとなり、このとき目標空燃比はリッチ設定空燃比AFrichからリーン設定空燃比AFleanへ切り替えられる。
目標空燃比の切替により、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比はリーン空燃比になり、未燃ガスの流出が停止する。また、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量は徐々に増加し、時刻t3において、判定基準吸蔵量Crefに到達する。このように、酸素吸蔵量が判定基準吸蔵量Crefに到達すると、目標空燃比は、再びリーン設定空燃比AFlenaからリッチ設定空燃比AFrichへと切り替えられる。この目標空燃比の切替により、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比は再びリッチ空燃比となり、その結果、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量は徐々に減少し、以降は、このような操作が繰り返し行われる。このような制御を行うことにより、上流側排気浄化触媒20からNOxが流出するのを防止することができる。
<空燃比センサの素子割れ>
ところで、上述したような空燃比センサ40、41に生じる異常状態として、空燃比センサ40、41を構成する素子に割れが生じる素子割れという現象が挙げられる。具体的には、固体電解質層51及び拡散律速層54を貫通する割れ(図6のC1)や、固体電解質層51及び拡散律速層54に加えて両電極52、53を貫通する割れ(図6にC2)が発生する。このような素子割れが発生すると、図6に示したように割れた部分を介して排気ガスが基準ガス室55内に進入する。この場合、多量の排気ガスが基準ガス室55内に進入すると、排気ガスの空燃比がリッチであったとしても、空燃比センサ40、41の出力空燃比はリーン空燃比となる。次に、このことについて、図7を参照しつつ説明する。
図7は、印加電圧を0.45V程度で一定にしたときの、図3と同様な排気空燃比A/Fと空燃比センサ40、41の出力電流Iとの関係を示している。なお、この図7は、空燃比センサ40、41に固体電解質層51及び拡散律速層54を貫通する貫通穴を穿設して人工的に素子割れの状態を作った場合の実験結果を示している。この図7において、×印は空燃比センサ40、41が正常である場合を示しており、□印、△印、○印は空燃比センサ40、41に貫通穴を穿設した場合を示している。なお、□印は直径が0.1mm の貫通穴を穿設した場合を示しており、△印は直径が0.2mm の貫通穴を穿設した場合を示しており、○印は直径が0.5mm の貫通穴を穿設した場合を示している。
図7に示されるように、貫通穴の直径が0.1mm の場合(□印)には、空燃比センサ40、41が正常である場合(×印)と同様に排気空燃比A/Fが大きくなるにつれて、即ち排気空燃比A/Fがリーンになるにつれて空燃比センサ40、41の出力電流Iが増大する。このときには、空燃比センサ40、41の出力電流Iは排気空燃比A/Fに対して図4と同様に変化する。一方、貫通穴の直径が0.2mm の場合(△印)および貫通穴の直径が0.5mm の場合(○印)には、排気空燃比A/Fが14.6以上であってリーンのときには、貫通穴の直径が0.1mm の場合(□印)および空燃比センサ40、41が正常である場合(×印)と同様に排気空燃比A/Fが大きくなるにつれて、即ち排気空燃比A/Fがリーンになるにつれて空燃比センサ40、41の出力電流Iが増大する。これに対して、排気空燃比A/Fが14.6以下であってリッチのときには、排気空燃比A/Fが小さくなるにつれて、即ち排気空燃比A/Fがリッチになるにつれて空燃比センサ40、41の出力電流Iが大幅に増大する。
この実験結果からわかるように貫通穴の直径が大きくなると、貫通穴から空燃比センサ40、41内に侵入した排気ガスが空燃比センサ40、41の出力電流Iに大きな影響を与え、排気空燃比A/Fがリッチであったとしても空燃比センサ40、41の出力電流Iは正の電流値となる。即ち、実際の排気空燃比A/Fがリッチであったとしても、空燃比センサ40、41の出力空燃比はリーン空燃比を示すことになる。従って、図7に示される実験結果から、実際の排気空燃比A/Fがリッチであるときに空燃比センサ40、41の出力空燃比がリーン空燃比を示している場合には、空燃比センサ40、41の出力空燃比に大きな影響を与える素子割れが生じていると判断できることになる。
一方、図8Aの実線は、空燃比センサ40、41の出力空燃比に大きな影響を与える素子割れが生じている場合において、排気空燃比A/Fがリッチであるときの空燃比センサ40、41の出力電流Iと空燃比センサ40、41への印加電圧Vとの関係を示している。空燃比センサ40、41が正常である場合には、排気空燃比A/Fがリッチのときには図3からわかるように空燃比センサ40、41の出力電流Iは負の電流値となる。しかしながら、空燃比センサ40、41の出力空燃比に大きな影響を与える素子割れが生じた場合には、図8Aの実線からわかるように、排気空燃比A/Fがリッチであるときに空燃比センサ40、41の出力電流Iは正の電流値となり、しかもこのとき、空燃比センサ40、41への印加電圧Vを増大させると空燃比センサ40、41の出力電流Iが急速に増大する。図8Bはこのときの空燃比センサ40、41の出力電流Iの実際の変化を示している。即ち、排気通路内の排圧は振動しており、従って排気ガスが素子割れしている部分を通って空燃比センサ40、41内に出入りするために空燃比センサ40、41の出力電流Iは図8Aに示されるように、常に変動している。
次に、図9Aから図11Cを参照しつつ、空燃比センサ40、41の出力空燃比に大きな影響を与える素子割れが生じた場合には、排気空燃比A/Fがリッチであるときに、図7および図8Aに示す如く、空燃比センサ40、41の出力電流Iは正の電流値となり、図8Aに示す如く、空燃比センサ40、41への印加電圧Vを増大させると空燃比センサ40、41の出力電流Iが急速に増大する理由について、簡単に説明する。
図9Aは、拡散律速層を有しない酸素濃度センサの作動原理の説明図を示している。図9Aにおいて、Aは固体電解質層、Bは大気側電極、Cは排気側電極を夫々示している。
この酸素濃度センサは、大気側の酸素分圧Pa と排気側の酸素分圧Pd との差により次式に従って起電力Eを発生する。
E=(RT/4F)ln(Pa/Pd)
なお、Rは気体定数、Tは固体電解質層Aの絶対温度、Fはファラディ定数である。
排気ガスの空燃比A/Fがリーンのときには大気側の酸素分圧Paの方が排気側の酸素分圧Pdよりも高いので大気中の酸素は大気側電極Bにおいて電子を受け取り、図9Aに示されるように、酸素イオンとなって固体電解質層A内を排気側電極Bまで移動する。その結果、大気側電極Bと排気側電極C間には起電力Eが発生する。このとき大気側の酸素分圧Paと排気側の酸素分圧Pdとの比はそれほど大きくなく、従って図9Bに示されるように、排気ガスの空燃比A/Fがリーンのときの起電力Eは0.1V程度となる。
これに対し、排気ガスの空燃比A/Fがリッチになると排気側電極C上は酸欠状態となり、このとき排気側電極Bに到達した酸素イオンは未燃HC、COと反応してただちに消費される。従って、このときには酸素イオンが次から次へと固体電解質層A内を排気側電極Bまで移動する。このときには大気側の酸素分圧Paと排気側の酸素分圧Pd との比が極めて大きくなるために、図9Bに示される如く、排気ガスの空燃比A/Fがリッチになると起電力Eは0.9V程度まで急激に上昇し、排気ガスの空燃比A/Fがリッチとなっている限り、起電力Eは0.9V程度に維持される。
図10Aは、本発明の実施例において用いている空燃比センサ40、41の作動原理の説明図を示している。なお、図10Aにおいて、51は固体電解質層、52は排気側電極、53は大気側電極、54は拡散律速層を夫々示している。一方、図10Bは、或るリーン空燃比(A/F)l に対する空燃比センサ40、41の出力電流Iと印加電圧Vとの関係、および或るリッチ空燃比(A/F)r に対する空燃比センサ40、41の出力電流Iと印加電圧Vとの関係を示している。さて、この空燃比センサ40、41でも大気側電極53と排気側電極52間には起電力Eが発生しており、更にこの空燃比センサ40、41では大気側電極53と排気側電極52間に、この起電力Eとは逆向きに印加電圧Vが印加される。大気側電極53と排気側電極52間に印加電圧Vが印加されると排気側電極52の表面上において酸素が酸素イオンとされ、この酸素イオンを排気側電極52から大気側電極53へ送り込むポンピング作用が行われる。その結果、空燃比センサ40、41には出力電流Iが発生する。
さて、排気ガスの空燃比A/Fがリーンであるときには、排気ガス中の酸素が拡散律速層54を通って排気側電極52の表面上に達する。このとき大気側の酸素分圧Paと排気側の酸素分圧Pdとの比はそれほど大きくなく、従ってこのときには0.1V程度の起電力Eが発生している。このような状態で印加電圧Vを高めていくと酸素イオンのポンピング作用によって図10Aにおいて実線の矢印で示す正の出力電流Iか発生するようになる。一方、拡散律速層54内を拡散して排気側電極52の表面上に達する酸素量は、排気ガス中の酸素分圧Peと排気側電極52の表面上における酸素分圧Pdとの差に比例し、排気側電極52の表面上には、排気ガス中の酸素分圧Peと排気側電極52の表面上における酸素分圧Pdとの差に応じた量の酸素しか供給されない。従って、印加電圧Vを増大しても、排気側電極52の表面上に供給される酸素の量が律速されているためにポンピング作用によって送り込まれる酸素イオンの量は一定量に制限され、従って図10Bにおいて(A/F)l で示されるように、出力電流Iは印加電圧Vが変化しても一定に維持される、即ち限界電流が生ずることになる。
これに対して、排気ガスの空燃比A/Fがリッチになると、未燃HC,COが拡散律速層54を通って排気側電極52の表面上に達する。このとき、排気側電極52に到達した酸素イオンは未燃HC、COと反応してただちに消費され、従って排気側電極52上は酸欠状態となる。従って、大気側の酸素分圧Paと排気側の酸素分圧Pd との比が極めて大きくなるために、0.9V程度の大きな起電力Eが発生し、従って酸素イオンが次から次へと固体電解質層51内を排気側電極52まで移動する。このときには、図10Aにおいて破線の矢印で示す負の出力電流Iが発生する。ところがこの場合も、拡散律速層54内を拡散して排気側電極52の表面上に達する未燃HC,COの量は、排気ガス中の分圧Peと排気側電極52の表面上における未燃HC,COの分圧Pdとの差に比例し、排気側電極52の表面上には、排気ガス中の未燃HC,COの分圧Peと排気側電極52の表面上における未燃HC,COの分圧Pdとの差に応じた量の未燃HC,COしか供給されない。即ち、排気側電極52の表面上に供給される未燃HC,COの量は拡散律速層54によって律速されることになる。
ところで、このように0.9V程度の起電力Eが発生しているときに0.9V程度の印加電圧Vを印加すると、起電力Eと印加電圧Vとは極性が逆向きなので、図10Bの実線(A/F)r からわかるように、空燃比センサ40、41の出力電流Iは零となる。この状態から印加電圧Vを低下させていくと酸素イオンが排気側電極52に向けて移動を開始する。ところがこのとき、上述したように、排気側電極52の表面上に供給される未燃HC,COの量は拡散律速層54によって律速されている。従って、印加電圧Vを低下させても、排気側電極52に達する酸素イオンの量は一定量に制限され、従って図10Bにおいて(A/F)r で示されるように、出力電流Iは印加電圧Vが変化しても一定に維持される、即ち限界電流が生ずることになる。一方、このように0.9V程度の起電力Eが発生しているときには排気側電極52の表面上には酸素が存在していない。従って、このとき0.9Vよりも高い印加電圧Vを印加しても酸素イオンが大気側電極53に向けて移動すくこともなく、この場合には、即ち0.9Vよりも高い印加電圧Vを印加した場合には、拡散律速層54内において水分の分解が生じ、それにより図10Bにおいて(A/F)l で示されるように、出力電流Iは印加電圧Vが急激に上昇することになる。
さて、空燃比センサ40、41に素子割れが発生すると、排気ガスが図6に示されるように、基準ガス室55内に進入する。即ち、図10Aにおいて、排気ガスが大気側に侵入する。このとき排気ガスの空燃比がリーンである場合には、リーン空燃比の排気ガスが基準ガス室55内に侵入することになる。リーン空燃比の排気ガスが基準ガス室55内に侵入すると、基準ガス室55内の酸素濃度は若干低下する。しかしながらこの場合、大気側の酸素分圧Paの方が依然として排気側の酸素分圧Pdよりも高く、しかもこのときには大気側の酸素分圧Paと排気側の酸素分圧Pdとの比はそれほど大きくないために、0.1V程度の起電力Eが発生する。この場合には、印加電圧Vを増大しても、排気側電極52の表面上に供給される酸素の量が律速されているためにポンピング作用によって送り込まれる酸素イオンの量は一定量に制限され、従って図10Bにおいて(A/F)l で示されるように、出力電流Iは印加電圧Vが変化しても一定に維持される、即ち限界電流が生ずることになる。即ち、空燃比センサ40、41に素子割れが発生しても、出力電流Iは印加電圧Vの変化に対して正常時と同様に変化することになる。
図11Aは、空燃比センサ40、41が正常な場合において、排気ガスの空燃比がリーンであるときの出力電流Iの変化を示しており、図11Bは、空燃比センサ40、41に素子割れが発生した場合において、排気ガスの空燃比がリーンであるときの出力電流Iの変化を示している。図11Aと図11Bとを比較するとわかるように、排気ガスの空燃比がリーンである場合には、空燃比センサ40、41が正常であろうと、空燃比センサ40、41に素子割れが発生していようと、印加電圧Vの変化に対する出力電流Iの変化パターンはほとんど同じである。従って、図7に示されるように、排気ガスの空燃比A/Fがリーンである場合には、空燃比センサ40、41が正常であろうと、空燃比センサ40、41に素子割れが発生していようと、空燃比センサ40、41の出力電流Iは空燃比A/Fが高くなるとほぼ同じ値でもって増大することになる。従って、排気ガスの空燃比がリーンのときの出力電流Iの変化からは、空燃比センサ40、41に素子割れが発生したか否かを判別することはできない。
これに対し、空燃比センサ40、41に素子割れが発生しているときに排気ガスの空燃比がリッチになると、出力電流Iは正常時に比べて大きく変化する。即ち、空燃比センサ40、41に素子割れが発生しているときに排気ガスの空燃比がリッチになると、多量の未燃HC,COが基準ガス室55内に進入する。即ち、図10Aにおいて、多量の未燃HC,COが大気側に侵入する。多量の未燃HC,COが基準ガス室55内に進入するとこれら未燃HC,COは大気側電極53の表面上において酸素と反応し、従って大気側電極53の表面上は酸欠状態となる。このとき大気側電極53の表面上における酸素分圧Paと排気側電極52の表面上における酸素分圧Pdとの比が小さくなり、従ってこのとき発生する起電力Eは0.1V程度となる。このように0.1V程度の起電力Eが発生しているときに0.1V程度の印加電圧Vを印加すると、起電力Eと印加電圧Vとは極性が逆向きなので、図11Cにおいて実線で示されるように、空燃比センサ40、41の出力電流Iは零となる。この状態から印加電圧Vを低下させていくと酸素イオンが排気側電極52に向けて移動を開始する。ところがこのとき、上述したように、排気側電極52の表面上に供給される未燃HC,COの量は拡散律速層54によって律速されている。従って、印加電圧Vを低下させても、排気側電極52に達する酸素イオンの量は一定量に制限され、従って図11Cにおいて実線で示されるように、出力電流Iは印加電圧Vが変化しても一定に維持される、即ち限界電流が生ずることになる。
一方、このように0.1V程度の起電力Eが発生しているときには排気側電極52の表面上には酸素が存在していない。従って、このとき0.1Vよりも高い印加電圧Vを印加しても酸素イオンが大気側電極53に向けて移動することもなく、この場合には、即ち0.1Vよりも高い印加電圧Vを印加した場合には、拡散律速層54内において水分の分解が生じ、それにより図11Cにおいて実線で示されるように、出力電流Iは印加電圧Vが急激に上昇することになる。即ち、空燃比センサ40、41に素子割れが発生しているときに、排気ガスの空燃比がリッチになると、図11Cにおいて実線で示されるように出力電流Iの変化パターンは、図11Cにおいて破線で示す正常の出力電流Iの変化パターンに対して、矢印で示されるように起電力Eが低下した分(0.8V)だけ印加電圧Vの低下方向に移動した形となる。従って、空燃比センサ40、41に素子割れが発生しているときに、排気ガスの空燃比がリッチになると、図7および図8A,8Bに示されるように、空燃比センサ40、41の出力電流Iは正の電流値となり、即ち空燃比センサ40、41の出力空燃比がリーン空燃比を示し、しかもこのとき、図8A,8Bに示されるように、空燃比センサ40、41への印加電圧Vを増大させると空燃比センサ40、41の出力電流Iが急速に増大することになる。
図12に、図11Bに示される出力電流Iの変化をXで示し、図11Cにおいて実線で示される出力電流Iの変化をYで示す。即ち、図12において、Xは、空燃比センサ40、41が正常である場合或いは空燃比センサ40、41に素子割れが発生している場合において排気ガスの空燃比A/Fがリーンにされているときの印加電圧V対する出力電流Iの変化を示しており、Yは、空燃比センサ40、41に素子割れが発生している場合において排気ガスの空燃比A/Fがリッチにされたときの印加電圧V対する出力電流Iの変化を示している。さて、空燃比センサ40、41、例えば下流側空燃比センサ41に素子割れが発生した場合には、排気ガスの空燃比がリッチにされたときに、図12のYで示されるように、下流側空燃比センサ41の出力電流Iは正の電流値となる。即ち、下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリーン空燃比を示す。従って、排気ガスの空燃比A/Fがリッチにされたときに、下流側空燃比センサ41の出力電流Iが正の電流値となっている場合には、即ち、下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリーン空燃比を示している場合には下流側空燃比センサ41に素子割れが発生していると判断できるようにみえる。
しかしながら、実際には、下流側空燃比センサ41が正常であったとしても、排気ガスの空燃比A/Fがリッチにされたときに、下流側空燃比センサ41の出力電流Iは正の電流値となる場合、即ち、下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリーン空燃比を示す場合がある。例えば、気筒間の空燃比にばらつきがあり、特定の気筒間の空燃比が他の気筒に対して大きくリッチ側にずれており、排気通路の形状等によって上流側空燃比センサが各気筒から流出した排気ガスと均一に接触することなく、リッチ側にずれた気筒から流出した排気ガスと主に接触する場合がある。このような場合において、上流側空燃比センサの出力信号に基づいて空燃比を理論空燃比にフィードバック制御すると、各気筒への燃料噴射量が減量されて平均空燃比がリーンとなり、このような状態で空燃比をリッチにすべく各気筒への燃料噴射量が増量されても平均空燃比がリーンとなる場合がある。この場合には、下流側空燃比センサ41が正常であったとしても、排気ガスの空燃比A/Fがリッチにされたときに、下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリーン空燃比を示すことになる。
また、下流側空燃比センサ41が、各気筒から流出した排気ガスと均一に接触することなく、リーン側にずれた気筒から流出した排気ガスと主に接触する場合がある。このような状態において、空燃比をリッチにすべく各気筒への燃料噴射量が増量されても下流側空燃比センサと接触する排気ガスの空燃比が依然としてリーンとなる場合がある。この場合には、下流側空燃比センサ41が正常であったとしても、排気ガスの空燃比A/Fがリッチにされたときに、下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリーン空燃比を示すことになる。従って、排気ガスの空燃比A/Fがリッチにされたときに、下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリーン空燃比を示している場合に、下流側空燃比センサ41に素子割れが発生していると判断すると誤判断することになる。
このように、下流側空燃比センサ41が正常であったとしても、排気ガスの空燃比A/Fがリッチにされたときに、下流側空燃比センサ41の出力電流Iが正の電流値となる場合、即ち、下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリーン空燃比を示す場合がある。ところがこの場合には、出力電流Iは図12のXで示す如く、限界電流領域FXが生ずるように変化する。これに対し、下流側空燃比センサ41に素子割れが発生した場合には、排気ガスの空燃比A/Fがリッチにされたときに、出力電流IはYで示される如く、印加電圧Vの増大に伴い増大するように変化する。従って、このとき下流側空燃比センサが正常である場合には、印加電圧VをV1からV2に増大しても出力電流Iはほとんど変化せず、これに対し下流側空燃比センサ41に素子割れが発生している場合には、印加電圧VをV1からV2に増大すると出力電流Iは必ず大きく増大する。従って、排気ガスの空燃比A/Fをリッチにした状態において、印加電圧VをV1からV2に増大したときの出力電流Iの変化から、下流側空燃比センサ41に素子割れが発生したか否かを正確に判別できることになる。
そこで本発明では、内燃機関の排気通路に配置されかつ空燃比に応じた限界電流が発生する限界電流式の空燃比センサの異常診断装置において、空燃比センサ40,41の出力電流Iを検出する電流検出部61と、空燃比センサ40,41への印加電圧Vを制御する印加電圧制御装置60とを具備しており、印加電圧制御装置60は、空燃比センサ40,41の異常を診断すべく空燃比がリッチにされたときに、空燃比センサ40,41の正常時に空燃比に応じた限界電流が発生する範囲FX内で印加電圧Vを変化させ、このとき電流検出部61により空燃比センサの出力電流Iが予め定められた値以上変化したことが検出されたときには空燃比センサ40,41の素子割れが生じていると判定される。
<異常診断>
次に、図13および図14に示すタイムチャートを参照しつつ、下流側空燃比センサ41の素子割れを検出する場合を例にとって、本発明による空燃比センサの異常診断について説明する。本発明による実施例では、図5を参照しつつ既に説明したように、通常、空燃比はリッチ空燃比とリーン空燃比とに交互に変更されており、このように空燃比をリッチ空燃比とリーン空燃比とに交互に変更する制御を通常制御と称すると、空燃比センサの異常診断を行う際には、空燃比をこの通常制御時におけるリッチ空燃比よりもリッチにするアクティブ制御が実行される。このアクティブ制御は、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比がリッチ空燃比となるように、燃料噴射弁11からの燃料噴射量を制御することによって行われる。
図13および図14には、このアクティブ制御と、目標空燃比の変化と、上流側空燃比センサの出力空燃比の変化と、下流側空燃比センサの出力空燃比(A/F)r の変化と、下流側空燃比センサへの印加電圧Vの変化を示している。なお、図13は、下流側空燃比センサ41が素子割れをしていないのに、空燃比をリッチにしたときに、下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリーンとなっている場合を示しており、図14は、下流側空燃比センサ41が素子割れをしているために、空燃比をリッチにしたときに、下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリーンになる場合を示している。なお、図13と図14とを比較するとわかるように、図13および図14において、アクティブ制御と、目標空燃比と、上流側空燃比センサの出力空燃比と、下流側空燃比センサへの印加電圧Vは、同一の変化を示しており、従って最初に、アクティブ制御と、目標空燃比と、上流側空燃比センサの出力空燃比と、下流側空燃比センサへの印加電圧Vとについて説明する。
図13および図14に示す例では、時刻t4において、アクティブ制御の実行が開始される。時刻t4においてアクティブ制御の実行が開始される前は、空燃比をリッチ空燃比とリーン空燃比とに交互に変更する通常制御時において目標空燃比がリッチ空燃比AFrich となっている場合を示しており、このとき上流側空燃比センサ40の出力空燃比はリッチ空燃比となっている。即ち、このとき電子制御ユニット(ECU)31では、上流側空燃比センサ40の出力空燃比から、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比がリッチ空燃比AFrich になっていると判断されている。また、このときには、下流側空燃比センサへの印加電圧Vは予め定められた第1の印加電圧V1とされている。
次いで、時刻t4においてアクティブ制御の実行が開始されると、目標空燃比がリッチ空燃比に設定される。このとき図13および図14に示される例では、アクティブ制御実行時の目標空燃比は、通常制御時におれるリッチ空燃比AFrich よりもリッチなアクティブ制御時空燃比AFactとされる。このとき、上流側空燃比センサ40の出力空燃比も更にリッチなリッチ空燃比となる。一方、このとき下流側空燃比センサへの印加電圧Vは、変更されることなく予め定められた第1の印加電圧V1に維持されている。なお、図13および図14において、t0は下流側空燃比センサ41の異常を診断すべく空燃比がリッチにされたときからの経過時間を表しており、この経過時間 t0は空燃比がリッチされた後、これにより下流側空燃比センサ41の周囲の雰囲気が変化するまでの時間を示している。図13および図14に示される例では、この経過時間 t0は一定とされており、従って図13および図14に示される例では、空燃比がリッチにされたときから一定時間 t0を経過した後に時刻t5において下流側空燃比センサ41の異常診断が開始される。
図13および図14に示されるように、時刻t5において下流側空燃比センサ41の異常診断が開始されると、予め定められた一定時間 t1の間、下流側空燃比センサへの印加電圧Vは図12に示される予め定められた第1の印加電圧V1、例えば0.4(v)に維持され、次いでこの予め定められた一定時間 t1が経過すると、時刻t6において下流側空燃比センサへの印加電圧Vは図12に示される予め定められた第2の印加電圧V2, 例えば0.6(v)に変更される。次いで、下流側空燃比センサへの印加電圧Vは予め定められた一定時間 t2の間、この予め定められた第2の印加電圧V2に維持される。図13および図14に示される例では、第2の印加電圧V2は第1の印加電圧V1に比べて高くされており、従って図13および図14に示される例では、一定時間 t1が経過すると、下流側空燃比センサ41への印加電圧Vが増大されることになる。次いで、一定時間 t2が経過すると時刻t7においてアクティブ制御の実行が終了せしめられる。このとき、目標空燃比が元のリッチ空燃比AFrich に戻され、それにより上流側空燃比センサ40の出力空燃比も元の空燃比に戻され、下流側空燃比センサへの印加電圧Vも元の第1の印加電圧V1に戻される。
次に、図13および図14を参照しつつ、アクティブ制御が実行されているときの下流側空燃比センサの出力空燃比(A/F)r の出力空燃比の変化について説明する。まず初めに、図13を参照すると、この図13は、上述したように、下流側空燃比センサ41が素子割れをしてもいないのに、空燃比をリッチにしたときに、下流側空燃比センサ41の出力空燃比が、予め定められた設定リーン空燃比α、例えば16.0よりもリーンになっている場合を示している。このような場合の例としては例えば前述したように、気筒間の空燃比にばらつきがあり、特定の気筒間の空燃比が他の気筒に対して大きくリッチ側にずれており、排気通路の形状等によって上流側空燃比センサ40が各気筒から流出した排気ガスと均一に接触することなく、リッチ側にずれた気筒から流出した排気ガスと主に接触する場合である。この場合には、出力電流Iは図12のXで示す如く、限界電流領域FXが生ずるように変化する。従って、この場合には、図12からわかるように、下流側空燃比センサへの印加電圧Vを予め定められた第1の印加電圧V1から第2の印加電圧V2に変化させても、下流側空燃比センサ41の出力電流Iはほとんど変化せず、従って図13に示されるように下流側空燃比センサの出力空燃比(A/F)r はほとんど変化しない。
一方、図14は、下流側空燃比センサ41が素子割れをしているために、空燃比をリッチにしたときに、下流側空燃比センサ41の出力空燃比が予め定められた設定リーン空燃比α、例えば16.0よりもリーンになる場合を示している。この場合には、図12のYで示されるように、下流側空燃比センサ41の出力電流Iが正の電流値となる、即ち、下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリーン空燃比を示すばかりでなく、下流側空燃比センサ41の出力電流Iは、下流側空燃比センサ41への印加電圧Vが増大するとそれに伴って増大する。従って、この場合には、図14に示されるように、印加電圧Vが第1の印加電圧V1から第2の印加電圧V2に増大すると下流側空燃比センサの出力空燃比(A/F)r がそれに伴って増大する。従って、排気ガスの空燃比A/Fをリッチにした状態において、印加電圧VをV1からV2に増大したときの出力電流Iの変化、即ち下流側空燃比センサの出力空燃比(A/F)r の変化から、下流側空燃比センサ41に素子割れが発生したか否かを正確に判別できることになる。
なお、図14において、第1の印加電圧V1が印加されている時間 t1において、下流側空燃比センサ41の出力空燃比が予め定められた設定リーン空燃比α、例えば16.0よりもリーンにならなかった場合には下流側空燃比センサ41に素子割れが生じていないと判断することができる。従ってこの場合には、印加電圧Vを第1の印加電圧V1から第2の印加電圧V2に変化させても意味がなく、従ってこのときには空燃比センサの異常診断は終了せしめられる。従って、本発明による実施例では、第1の印加電圧V1が印加されている時間 t1において、下流側空燃比センサ41の出力空燃比が予め定められた設定リーン空燃比αよりもリーンであるか否かの仮判定が行われ、この仮判定において、第1の印加電圧V1が印加されている時間 t1において、下流側空燃比センサ41の出力空燃比が予め定められた設定リーン空燃比αよりもリーンでないと判定されたときには、空燃比センサの異常診断は終了せしめられる。これに対し、この仮判定において、第1の印加電圧V1が印加されている時間 t1において、下流側空燃比センサ41の出力空燃比が予め定められた設定リーン空燃比αよりもリーンであると判定されたときに、初めて、印加電圧Vが第1の印加電圧V1から第2の印加電圧Vに増大せしめられ、このとき下流側空燃比センサ41の出力電流Iが増大したか否か、即ち下流側空燃比センサ41が素子割れを生じているか否かが本判定される。
即ち、本発明では、印加電圧Vが第1の印加電圧V1とされている状態で、空燃比センサ40,41の異常を診断すべく空燃比がリッチにされたときに、空燃比センサ40,41の出力電流Iが予め定められたリーン空燃比よりもリーンであることを示す電流値となっている場合には空燃比センサ40,41に異常があると仮判定され、空燃比センサ40,41に異常があると仮判定されたときには、印加電圧Vが第1の印加電圧V1から第2の印加電圧V2に変化せしめられ、このとき電流検出部により空燃比センサ40,41の出力電流Iが予め定められた値以上変化したことが検出されたときには空燃比センサ40,41の素子割れが生じていると本判定される。
なお、図8Bに示されるように下流側空燃比センサ41の出力電流Iは変動しており、図14に示されるように下流側空燃比センサ41の出力空燃比は変動している。従って、下流側空燃比センサ41の出力電流I或いは下流側空燃比センサ41の出力空燃比の真の値を可能な限り正確に検出するには、下流側空燃比センサ41の出力電流I或いは下流側空燃比センサ41の出力空燃比の平均値を求めることが好ましいと言える。そこで、本発明では、空燃比センサ40,41に異常があると仮判定されたときには、第1の印加電圧V1が印加されているときの空燃比センサの出力電流Iの平均値と第2の印加電圧V2が印加されているときの空燃比センサ40,41の出力電流Iの平均値とが算出され、第1の印加電圧V1が印加されているときの空燃比センサ40,41の出力電流Iの平均値に対して第2の印加電圧V2が印加されているときの空燃比センサ40,41の出力電流Iの平均値が予め定められた値以上変化した場合には空燃比センサ40,41に異常があると本判定される。
<フローチャート>
図15および図16は、下流側空燃比センサ41の異常診断ルーチンを示している。このルーチンは一定時間間隔の割り込みによって実行される。
まず、ステップS10において、内燃機関の始動後、或いは内燃機関を搭載した車両のイグニッションキーがオンにされた後、下流側空燃比センサ41の異常診断が未完了であるか否かが判定される。内燃機関の始動後に異常判定が既に行われていた場合には処理サイクルを完了する。これに対し、異常診断が未完了であると判定されたときにはステップS11へと進み、アクティブ制御の実行条件が成立しているか否かが判定される。このアクティブ制御の実行条件は、両空燃比センサ40、41の温度が活性温度以上になっており、吸入空気量が予め定められた量以上であり、燃料の供給停止復帰後、予め定められた時間以上経過しているときに成立していると判定される。ここで吸入空気量が予め定められた量以上であることが成立要件の一つとされているのは、空燃比センサ40、41周りを流通する排気ガスの流量が少ないと、素子割れが生じていても空燃比センサ40、41の出力空燃比に変化が生じづらいからであり、また燃料の供給停止復帰後、予め定められた時間以上経過していることが成立要件の一つとされているのは、燃料の供給停止復帰後、暫くの間は排気側電極52の表面上に多量の酸素が存在するために空燃比がリッチにされても空燃比センサ40、41はリーンの出力空燃比を示す危険性があるからである。
ステップS11において、アクティブ制御の実行条件が成立していないと判断されたときには処理サイクルを完了する。これに対し、アクティブ制御の実行条件が成立していると判断されたときには、ステップS12に進み、目標空燃比が、通常制御時におけるリッチ空燃比AFrich よりもリッチなアクティブ制御時空燃比AFact、例えば13.5とされる。それにより空燃比がリッチ空燃比とされ、アクティブ制御が開始される。次いで、ステップS13では、アクティブ制御が開始された後、一定時間 t0が経過したか否かが判別される。アクティブ制御が開始された後、一定時間 t0が経過していないときには、処理サイクルを完了する。これに対し、アクティブ制御が開始された後、一定時間 t0が経過したときにはステップS14に進んで、下流側空燃比センサの出力空燃比(A/F)r が予め定められた設定リーン空燃比α、例えば16.0よりもリーンであるか否か、即ち下流側空燃比センサ41の出力電流Iが、この設定リーン空燃比αに対応する設定電流値よりも大きくなったか否かが判別される。下流側空燃比センサの出力空燃比(A/F)r がこの設定リーン空燃比αよりも小さいとき、即ち下流側空燃比センサ41の出力電流Iが、この設定リーン空燃比αに対応する設定電流値よりも低いときには下流側空燃比センサ41が素子割れを生じていないと判別される。従って、このときには、ステップS29に進んで、下流側空燃比センサ41は正常であると判定される。
これに対し、ステップS14において、下流側空燃比センサの出力空燃比(A/F)r が予め定められた設定リーン空燃比αよりも大きいと判別されたとき、即ち下流側空燃比センサ41の出力電流Iが、この設定リーン空燃比αに対応する設定電流値よりも大きいと判別されたときには、ステップS15に進んで、一定時間 t1内における下流側空燃比センサの出力空燃比(A/F)r の平均値の算出が完了したことを示す完了フラグがセットされているか否かが判別される。完了フラグがセットされていないとき、即ち一定時間 t1内における下流側空燃比センサの出力空燃比(A/F)r の平均値の算出が完了していないときにはステップS16に進んで、下流側空燃比センサの出力空燃比(A/F)r が下流側空燃比センサの出力空燃比の積算値Σ(A/F)r に加算される。次いで、ステップS17では、図13および図14に示される一定時間 t1を経過したか否かが判別される。一定時間 t1を経過していないときには処理サイクルを完了する。
これに対し、一定時間 t1を経過したときには、ステップS18に進んで、下流側空燃比センサの出力空燃比の積算値Σ(A/F)r を一定時間 t1で除算することにより一定時間 t1内における下流側空燃比センサの出力空燃比の平均値AFOが算出される。次いで、ステップS19では、印加電圧Vが第1の印加電圧V1から第2の印加電圧V2に切替えられる。次いで、ステップS20では、下流側空燃比センサの出力空燃比の積算値Σ(A/F)r がクリアされ、完了フラグがセットされる。ついで、処理サイクルを完了する。完了フラグがセットされると、つぎの処理サイクルではステップS15からステップS21にジャンプする。ステップS21では、下流側空燃比センサの出力空燃比(A/F)r が下流側空燃比センサの出力空燃比の積算値Σ(A/F)r に加算される。次いで、ステップS22では、図13および図14に示される一定時間 t2を経過したか否かが判別される。一定時間 t2を経過していないときには処理サイクルを完了する。これに対し、一定時間 t2を経過したときには、ステップS23に進んで、下流側空燃比センサの出力空燃比の積算値Σ(A/F)r を一定時間 t2で除算することにより一定時間 t2内における下流側空燃比センサの出力空燃比の平均値AF1が算出される。
次いで、ステップS24では、一定時間 t2内における下流側空燃比センサの出力空燃比の平均値AF1と一定時間 t1内における下流側空燃比センサの出力空燃比の平均値AF0との差(AF1−AF0)が予め定められた値ΔAF(例えば空燃比差で1.0)よりも大きいか否かが判別される。出力空燃比の平均値AF1と出力空燃比の平均値AF0との差(AF1−AF0)が予め定められた値ΔAFよりも小さいときには、下流側空燃比センサ41が素子割れを生じていないと判断され、ステップS25に進んで下流側空燃比センサ41は正常であると判定される。次いで、ステップS27に進む。これに対し、ステップS24において、出力空燃比の平均値AF1と出力空燃比の平均値AF0との差(AF1−AF0)が予め定められた値ΔAFよりも大きいときには、下流側空燃比センサ41が素子割れを生じていると判断され、ステップS26に進んで下流側空燃比センサ41に異常があると判定される。次いで、ステップS27に進む。ステップS27ではアクティブ制御が終了せしめられる。即ち、ステップS27では、下流側空燃比センサ41への印加電圧Vが第2の印加電圧V2から第1の印加電圧V1に戻され、目標空燃比が元のリッチ空燃比AFrich に戻される。
なお、図15および図16を参照しつつ、下流側空燃比センサ41の異常診断を行う場合を例にとって説明してきたが、上流側空燃比センサ40の異常診断についても、図15および図16を参照しつつ説明してきた方法と同様な方法でもって行うことができる。