JP2016021510A - 磁心およびそれを用いたコイル部品 - Google Patents

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Abstract

【課題】簡易な方法でも製造が可能であるとともに、高強度、高比抵抗および高耐食性を兼ね備えた磁心とそれを用いたコイル部品を提供する。【解決手段】Fe基軟磁性合金粒が分散した組織を有する磁心であって、前記Fe基軟磁性合金粒がAl及びCrを含み、前記Fe基軟磁性合金粒同士が、該粒の表面に形成された酸化物層を介して結合されており、表面の色彩色差測定において、L*a*b*表色系のa*(D65)が−3.0〜1.0であること、b*(D65)が−7.0〜1.0であること、の少なくとも一方を満たすことを特徴とする。【選択図】図2

Description

本発明は、Fe基軟磁性合金粉を用いて構成された磁心および磁心にコイルを巻装して構成されたコイル部品に関する。
従来から、家電機器、産業機器、車両など多種多様な用途において、インダクタ、トランス、チョーク等のコイル部品が用いられている。コイル部品は、磁心と、その磁心の周囲に巻装されたコイルで構成される。近年、電子機器等の電源装置の小型化が進んだ結果、小型・低背で、かつ大電流に対しても使用可能なコイル部品の要求が強くなり、飽和磁束密度が高い金属系磁性粉末を使用した圧粉磁心の採用が進んでいる。金属系磁性粉末としては、例えばFe−Si系などの軟磁性合金粉末が用いられている。コイル部品には、加圧成形して得られた圧粉磁心の周囲にコイルを巻回した一般的な構造の他、小型・低背の要求を満たすために、コイルと軟磁性合金粉末が一体的に成形された構造(コイル封入構造)も採用されている。
Fe−Si系などの軟磁性合金粉末を圧密化して得られる圧粉磁心は、フェライト磁心に比べて飽和磁束密度が高い反面、合金粉末であるため電気抵抗率が低い。そのため、軟磁性合金粉末表面に絶縁性被覆を形成した後に成形するなど、軟磁性合金粉末間の絶縁性を高める方法が適用されている。例えば、特許文献1には、絶縁性被覆となる高電気抵抗物質の自己生成が可能な磁性粉末としてFe−Cr−Al系の軟磁性合金粉末を用いた例が開示されている。特許文献1では、磁性粉末を酸化処理することで、高電気抵抗の酸化皮膜を軟磁性合金粉末の表面に生成し、かかる軟磁性合金粉末を放電プラズマ焼結によって固化成形することで圧粉磁心を得ている。
一方、特許文献2には、Fe及びSiと、Feよりも酸化しやすい金属元素であるCr又はAlを含有する軟磁性合金の粒子群で構成された成形体を400℃から900℃で熱処理する方法と、前記熱処理によって形成された酸化層を介して粒子同士を結合させた磁心が開示されている。成形時に高い圧力を必要とすることなく、高透磁率・高飽和磁束密度の磁心を得ることがその目的である。
特開2005−220438号公報 特開2011−249836号公報
特許文献1に記載の構成は、成形時に高圧は必要としないものの、複雑な設備と多くの時間を必要とする製法である。しかも軟磁性合金粉末の酸化処理後に凝集した粉末を粉砕するための工程が必要になるため、工程が煩雑なものとなってしまう。また、酸化皮膜によって電気抵抗が2.5倍程度向上することが示されているが、抵抗値そのものは、酸化皮膜の有無にかかわらず数mΩ程度にすぎず、高周波用途で使用する場合や、磁心の表面に電極を直接形成する場合には満足できるものではない。
また、特許文献2に記載の磁心は、実施例に記載された熱処理条件によれば、1×10Ω・mを超える比抵抗が得られるものの、破断応力は100MPaにも至らず、フェライト磁心と同程度の強度であった。熱処理温度を上げて1000℃とすることで、破断応力は20kgf/mm(196MPa)と向上するが、比抵抗は2×10Ω・cm(2Ω・m)と著しく低下している。すなわち、高比抵抗と高強度を両立するには至っていない。
また、特許文献1および2に開示された圧粉磁心は、金属系の磁粉を用いるため、絶縁性のみならず、耐食性を確保することが重要である。しかしながら、特許文献1および2は、磁心での耐食性が考慮されておらず、耐食性を改善する技術が必要となった。
そこで、上記問題点に鑑み、本発明は、高強度、高比抵抗および高耐食性を兼ね備え、簡易な方法で製造が可能な磁心およびそれを用いたコイル部品を提供することを目的とする。
本発明の磁心は、Fe基軟磁性合金粒が分散した組織を有する磁心であって、前記Fe基軟磁性合金粒がAl及びCrを含み、前記Fe基軟磁性合金粒同士が、該粒の表面に形成された酸化物層を介して結合されており、表面の色彩色差測定において、L 表色系のa(D65)が−3.0〜1.0であること、b(D65)が−7.0〜1.0であること、の少なくとも一方を満たすことを特徴とする。また、前記磁心の比抵抗が1.0×10Ω・m以上であることが好ましい。
また、前記磁心は、一方向の両端の表面に、互いに平行な二つの平面を有し、
前記二つの平面の前記a(D65)の差の絶対値が0.5以下であることが好ましい。
本発明のコイル部品は、前記磁心と、前記磁心に巻装されたコイルとを有することを特徴とする。
本発明によれば、簡易な方法でも製造が可能であるとともに、高強度、高比抵抗および高耐食性を兼ね備えた磁心とそれを用いたコイル部品を提供することができる。
本発明に係る磁心の実施形態を示す外観斜視図である。 本発明に係る磁心が有する組織の一例を示すSEM写真である。 磁心の組織の拡大模式図である。 本発明に係る磁心の他の実施形態を示す図である。 本発明に係る磁心の製造方法の実施形態を説明するための工程フロー図である。 磁心の断面の元素分布を図である。 磁心の断面の粒界付近のTEM写真である。 磁心の塩水噴霧試験結果と、a(D65)およびb(D65)との関係を示す図である。
以下、本発明に係る磁心の実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。図1は本発明に係る磁心の一実施形態を示す外観図である。図2は、その磁心の断面組織を示すSEM写真、図3はFe基軟磁性合金粒同士の粒界の部分を拡大した模式図である。本発明に係る磁心1は、Fe基軟磁性合金粒2が分散した組織を有する。Fe基軟磁性合金粒が分散した組織は、Fe基軟磁性合金粒の集合体がなす組織である。Fe基軟磁性合金粒2はAl及びCrを含み、Fe基軟磁性合金粒2同士が、該粒の表面に形成された酸化物層3を介して結合されている。より具体的には、かかる酸化物層3は、質量比で内部の合金相よりもFe、AlおよびCrの和に対するAlの比率が高い酸化物層である。該酸化物層3は、Fe基軟磁性合金粉の成形体を熱処理し、Fe基軟磁性合金粉を酸化させることで形成される。また、本発明に係る磁心は、表面の色彩色差測定において、L 表色系のa(D65)が−3.0〜1.0であること、b(D65)が−7.0〜1.0であること、の少なくとも一方を満たす。
これらの構成によって、以下に説明する効果を得ることができる。
磁心を作製する際に用いるFe基軟磁性合金粉(磁心におけるFe基軟磁性合金粒)は、Al及びCrを含むFe−Al−Cr系軟磁性合金粉である。かかるFe−Al−Cr系軟磁性合金粉は、Fe−Si系の合金粉に比べて耐食性に優れる。さらにFe−Al−Cr系の合金粉は、Fe−Si系やFe−Si−Cr系の合金粉に比べて塑性変形しやすい。したがって、Fe−Al−Cr系軟磁性合金粉によれば、低い成形圧力でも高い占積率と強度を備えた磁心を得ることができる。そのため、成形機の大型化・複雑化も回避することができる。また、低圧で成形できるため、金型の破損も抑制され、生産性が向上する。
磁心の形状は図1に示すトロイダル形状に限らず、U型、E型、ドラム型等、各種形状を適用することができる。高強度の特徴を活かす観点からは、本発明に係る構成は、図4に示すような、導線を巻回するための柱状部4、該柱状部の一端側または両端側に鍔部5を有するドラム型磁心に適用することが好ましい。ドラム型磁心の構成はこれを特に限定するものではない。例えば、鍔部の形状は円板状のものに限らず、角板状、多角形状、異形状のものを用いることができる。
Fe基軟磁性合金粒2の表面に形成された酸化物層3は、該合金粒を結合するだけでなく、Fe基軟磁性合金粒間の絶縁層としての機能や耐食性向上の効果も発揮しうる。さらに、表面のD65光源による色彩色差測定において、L 表色系のa(D65)が−3.0〜1.0であること、b(D65)が−7.0〜1.0であることの少なくとも一方を備えることによって、特に耐食性に優れた磁心が提供される。a(D65)およびb(D65)は磁心の表面状態を反映する。かかるa(D65)またはb(D65)を上記範囲に限定することで耐食性に優れた磁心が得られる点が本発明の重要な特徴の一つである。
(D65)およびb(D65)は、磁心の表面を構成する複数の面のうち、色彩色差測定が可能な、最も面積が大きい平面で測定すればよい。例えば、直方体形状であれば最も面積が大きい平面、U型・E型であればU型・E型の平面、トロイダル形状であれば円環状の平面、ドラム型であれば鍔部の外側の平面(図4の5a、5b)等である。柱状部の一端側だけに鍔部を有する形状等を除き、かかる平面は、一方向の両端の磁心表面において、互いに平行な二つの平面として、対をなすのが通常である。なお、鍔部の外側の面にコイルの端子を収容するための凹部や段差がある場合も、該面全体としては平面とみなす。
(D65)およびb(D65)は、Fe基軟磁性合金粉の成形体を熱処理するときの温度、保持時間、雰囲気、配置等に依存する。特に、熱処理温度が高く、熱処理の作用が過度に進んだ状態でa(D65)およびb(D65)が高くなる傾向にある。熱処理の作用が進み過ぎて、a(D65)またはb(D65)が高くなった状態では、耐食性が低下するとともに、磁心の抵抗率も低下する傾向を示す。そのため、磁心の特性として、a(D65)が−3.0〜1.0であること、b(D65)が−7.0〜1.0であることの少なくとも一方を備えることが重要である。なお、Fe基軟磁性合金粉の固有の性状からかけ離れたa(D65)およびb(D65)は取りえないため、a(D65)およびb(D65)の下限はそれぞれ−3.0、−7.0とした。
一方、耐食性や比抵抗のばらつきを抑えるためには、磁心の熱処理において磁心表面全体が均一に処理されることが好ましいが、磁心の形状、熱処理時の磁心の配置等によって、磁心表面全体が均一に処理されずに、a(D65)が不均一になる場合がある。それは、例えば、熱処理時の成形体の載置面とそれに対置する自由面との熱処理状態の違いによるものである。磁心表面のa(D65)およびb(D65)は、熱処理治具への載置面よりも自由面の方が小さくなる傾向がある。
かかる二つの平面のa(D65)の差の絶対値が0.5以下であることが好ましい。前記二つの平面は、互いに離間しているうえ、磁心の製造工程において、一方の平面が載置面、他方の面が自由面となる場合が多く、a(D65)等の差、すなわちばらつきが生じやすい。したがって、かかる二つの平面同士のa(D65)の差を上記範囲内にすることで、磁心表面の耐食性のばらつき抑制が担保される。より好ましくは、前記二つの平面のb(D65)の差の絶対値も0.5以下である。
次に、色彩色差測定に係る構成以外の磁心の構成について、好ましい形態を以下に説明する。
本発明に係る磁心は、高比抵抗と高強度を両立する上で好適な構成である。したがって、かかる磁心の構成を適用して1.0×10Ω・m以上の比抵抗を得ることが好ましい。1.0×10Ω・m以上の比抵抗を得ることもできる。圧環強度も120MPa以上にすることが好ましく、150MPa以上の圧環強度を得ることもできる。
また、磁心を構成する合金粒が細かいことで、強度に加えて高周波特性が改善される。かかる観点から、磁心の断面観察像において、最大径が40μmを超える合金粒の個数比率が1.0%未満であることが好ましい。最大径が40μmを超える合金粒の個数比率は、少なくとも0.04mm以上の視野範囲で評価する。
熱処理後における酸化物層の平均厚みは、150nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。この酸化物層の平均厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)にて、例えば60万倍で磁心の断面を観察し、観察視野内の隣接するFe基軟磁性合金粒の略平行な輪郭が確認される部分で、Fe基軟磁性合金粒間が最も近接する部分の厚み(最小厚み)と最も離間する部分の厚み(最大厚み)とを計測し、その算術平均として算出される厚みを指す。具体的には、粒界の三重点間の中間部付近で測定を行うことが好ましい。酸化物層の厚みが大きいと、Fe基軟磁性合金粒間の間隔が広くなり、透磁率の低下やヒステリシス損失の増加を招来し、また非磁性酸化物を含む酸化物層が占める割合が増加して、飽和磁束密度が低下する場合がある。一方、酸化物層の厚みが小さいと、酸化物層を流れるトンネル電流によって渦電流損失が増加する場合があるため、酸化物層の平均厚みは10nm以上であることが好ましい。より好ましい酸化物層の平均厚みは30〜80nmである。
磁心を構成するために必要な透磁率は用途に応じて決めることができる。インダクタ用途であれば、例えば100kHzの初透磁率で20以上であることが好ましい。より好ましくは30以上、さらに好ましくは38以上である。
以下、磁心の製造方法と、それに関連した磁心の特徴を具体的に説明する。図5は、本発明に係る磁心の製造方法の一実施形態を説明するための工程のフローである。この製造方法は、Fe基軟磁性合金粉が分散した組織を有する磁心の製造方法であって、Fe基軟磁性合金粉とバインダを混合する第1の工程と、前記第1の工程を経て得られた混合物を成形する第2の工程と、前記第2の工程を経て得られた成形体を熱処理する第3の工程とを有する。
Fe基軟磁性合金粉としてFe−Al−Cr系の合金粉を用いる場合、第3の工程の熱処理によってFe基軟磁性合金粉の表面に絶縁性の酸化物層を形成することができる。したがって、成形前に絶縁性酸化物を形成する工程を省略することが可能であるうえ、絶縁性被覆の形成方法も簡易になるため、かかる点においても生産性が向上する。また、上記酸化物層の形成に伴い、Fe基軟磁性合金粉同士が該酸化物層を介して結合され、高強度の磁心が得られる。
磁心の製造方法の実施形態のうち、まず、第1の工程に供するFe基軟磁性合金粉ついて説明する。なお、以下、特に断りのない限り、含有量や百分率は質量比によるものである。Fe基軟磁性合金は、軟磁性合金を構成する各成分の中でFeを最も含有率の高い主成分とし、副成分としてAl、Crを含む。すなわち、Fe、Al、Crが、含有比率の高い三つの主要元素である。磁心を構成できるのであれば、Fe、Al、Crの含有量は、これを特に限定するものではないが、以下好ましい構成について説明する。
Feは、Fe基軟磁性合金粉を構成する主要な磁性元素である。磁心が構成できるのであれば、その含有量を特に限定するものではないが、高飽和磁束密度を確保する観点からはFeの含有量は80質量%以上であることが好ましい。
CrおよびAlは耐食性等を高める元素である。CrおよびAlの含有量も磁心が構成できるのであれば、特に限定されるものではない。耐食性向上等の観点からは、Crの含有量は、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは2.5質量%以上である。一方、非磁性のCrが多くなると飽和磁束密度が低下する傾向を示すため、Crの含有量は、好ましくは9.0質量%以下、より好ましくは7.0質量%以下、さらに好ましくは4.5質量%以下である。
また、上述のようにAlも耐食性を高める元素であり、特にFe基軟磁性合金粉の表面酸化物の形成に寄与する。かかる観点から、Alの含有量は、好ましくは2.0質量%以上、より好ましくは3.0質量%以上、さらに好ましくは5.0質量%以上である。一方、非磁性のAlが多くなると飽和磁束密度が低下する傾向を示すため、Alの含有量は、好ましくは10.0質量%以下、より好ましくは8.0質量%以下、さらに好ましくは6.0質量%以下である。また、Alは占積率の向上にも寄与するため、CrよりもAlの含有量が高いFe基軟磁性合金粉を用いることがより好ましい。
Fe基軟磁性合金粉は、Co、Ni等の磁性元素やAl、Cr以外の非磁性元素を含むことができる。例えば、Fe基軟磁性合金粉は、比抵抗向上の観点からZrを含んでもよい。Zrの含有量は、少なすぎるとその効果が十分ではなく、多すぎると透磁率等が低下する場合があるので、好ましくは0.01〜1.0質量%である。
また、Fe基軟磁性合金粉は、不可避不純物として、Si、Mn、C、P、S、O、N等を含み得る。即ち、Fe基軟磁性合金粉は、Al及びCrを含み、残部がFe及び不可避不純物よりなるものでもよい。かかる不可避不純物の含有量は、それぞれ、Si≦1.0質量%、Mn≦1.0質量%、C≦0.05質量%、O≦0.3質量%、N≦0.1質量%、P≦0.02質量%、S≦0.02質量%であることが好ましい。このうち、Siは比抵抗等に影響を与える場合があるので、Si<0.5質量%に規制することがより好ましい。Si量はさらに好ましくは0.4質量%以下である。
Fe基軟磁性合金粉の平均粒径(ここでは、体積累積粒度分布におけるメジアン径d50を用いる)は特に限定されるものではないが、例えば、1μm以上、100μm以下の平均粒径を有するFe基軟磁性合金粉を用いることができる。平均粒径を小さくすることで、コアロス、高周波特性が改善されるので、メジアン径d50はより好ましくは30μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。一方、平均粒径が小さい場合は透磁率が低くなる傾向があるため、メジアン径d50はより好ましくは5μm以上である。また、篩等を用いてFe基軟磁性合金粉から粗い粒子を除くことがより好ましい。この場合、少なくとも32μmアンダーの(すなわち、目開き32μmの篩を通過した)Fe基軟磁性合金粉を用いることが好ましい。
Fe基軟磁性合金粉の形態は、特に限定されるものではないが、流動性等の観点からアトマイズ粉に代表される粒状粉を用いることが好ましい。展性や延性が高く、粉砕しにくい合金の粉末作製には、ガスアトマイズ、水アトマイズ等のアトマイズ法が好適である。また、アトマイズ法は略球状のFe基軟磁性合金粉を得る上でも好適である。
次に、第1の工程において用いるバインダについて説明する。バインダは、成形する際、粉体同士を結着させ、成形後のハンドリングに耐える強度を成形体に付与する。バインダの種類は、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂等の各種有機バインダを用いることができる。有機バインダは成形後の熱処理により、熱分解する。そのため、熱処理後においても固化、残存して粉末同士を結着する、シリコーン樹脂などの無機系バインダを併用してもよい。但し、本発明に係る磁心の製造方法においては、第3の工程で形成される酸化物層がFe基軟磁性合金粉同士を結着する作用を奏するため、上記の無機系バインダの使用を省略して、工程を簡略化することが好ましい。
バインダの添加量は、Fe基軟磁性合金粉間に行きわたり、十分な成形体強度を確保できる量にすればよい。一方、これが多すぎると密度や強度が低下するようになる。かかる観点から、バインダの添加量は、例えば、Fe基軟磁性合金粉100重量部に対して、0.25〜3.0重量部にすることが好ましい。
第1の工程における、Fe基軟磁性合金粉とバインダとの混合方法は、特に限定されるものではなく、従来から知られている混合方法、混合機を用いることができる。バインダが混合された状態では、その結着作用により、混合粉は広い粒度分布をもった凝集粉となっている。かかる混合粉を、例えば振動篩等を用いて篩に通すことによって、成形に適した所望の二次粒子径の造粒粉を得ることができる。造粒方法としては、噴霧乾燥造粒等の湿式造粒方法を採用することもできる。中でもスプレードライヤを用いた噴霧乾燥造粒が好ましく、これによれば、略球形の顆粒を得ることができ、また加熱空気に曝される時間が短く、大量の顆粒を得ることができる。また、加圧成形の場合の粉末と金型との摩擦を低減させるために、ステアリン酸、ステアリン酸塩等の潤滑材を添加することが好ましい。潤滑材の添加量は、軟磁性材料粉100重量部に対して0.1〜2.0重量部とすることが好ましい。潤滑剤は、金型に塗布することも可能である。
次に、第1の工程を経て得られた混合物を成形する第2の工程について説明する。第1の工程で得られた混合物は、好適には上述のように造粒されて、第2の工程に供される。造粒された混合物は、例えば、成形金型を用いて、トロイダル形状、直方体形状等の所定形状に加圧成形される。Fe基軟磁性合金粉としてFe−Al−Cr系軟磁性合金粉を用いると、低い圧力で圧粉磁心の占積率(相対密度)を高めることができ、圧粉磁心の強度も向上する。かかる作用を利用して、熱処理を経た圧粉磁心における軟磁性材料粉の占積率を80〜90%の範囲内にすることが好ましい。かかる範囲が好ましい理由は、占積率を高めることで磁気特性が向上する一方、過度に占積率を高めようとすると、設備的、コスト的な負荷が大きくなるからである。より好ましくは、占積率は82〜90%であり、さらに好ましくは83〜88%である。
第2の工程における成形は、室温成形でもよいし、バインダが消失しない程度に加熱して行う温間成形でもよい。また、混合物の調整方法および成形方法も上記のものに限定されるものではない。例えば、金型を用いた加圧成形の代わりに、シート成形を行い、得られたシートを積層、圧着して積層型磁心用の成形体を得ることもできる。この場合には、混合物はスラリ状態に調整され、ドクターブレード等のシート成形機に供される。
次に、前記第2の工程を経て得られた成形体を熱処理する第3の工程について説明する。成形等で導入された応力歪を緩和して良好な磁気特性を得るために、第2の工程を経た成形体に対して熱処理が施される。かかる熱処理によって、さらに、Fe基軟磁性合金粉の表面に、質量比で内部の合金相よりもFe、AlおよびCrの和に対するAlの比率が高い酸化物層を形成する。この酸化物層は、熱処理によりFe基軟磁性合金粉と酸素とを反応させ成長させたものであり、Fe基軟磁性合金粉の自然酸化を超える酸化反応により形成される。かかる熱処理は、大気中、酸素と不活性ガスの混合気体中など、酸素が存在する雰囲気中で行うことができる。また、水蒸気と不活性ガスの混合気体中など、水蒸気が存在する雰囲気中で熱処理を行うこともできる。これらのうち大気中の熱処理が簡便であり好ましい。
上記の熱処理によってFe基軟磁性合金粉が酸化されて、その表面に酸化物層が形成される。このとき、Fe基軟磁性合金粉中のAlが表層に濃化し、前記酸化物層は内部の合金相よりもFe、AlおよびCrの和に対するAlの比率が高くなる。典型的には、内部の合金相に比べて、構成金属元素のうち特にAlの比率が高く、Feの比率が低い。さらに、より微視的には、Fe基軟磁性合金粉間の粒界の酸化物層において、合金相近傍よりもFeの比率が高い領域が層中央側に形成される。かかる酸化物層が形成されることによって、Fe基軟磁性合金粉の絶縁性および耐食性が向上する。また、かかる酸化物層は、成形体を構成した後に形成されるため、該酸化物層を介したFe基軟磁性合金粉同士の結合にも寄与する。Fe基軟磁性合金粉同士が前記酸化物層を介して結合されることで、高強度の磁心が得られる。
第3の工程の熱処理は、上記酸化物層が形成される温度で行えばよい。かかる熱処理によって強度に優れた磁心が得られる。さらに、第3の工程の熱処理は、Fe基軟磁性合金粉が著しく焼結しない温度で行うことが好ましい。Fe基軟磁性合金粉が著しく焼結すると、Alの比率が高い酸化物層の一部が合金相に取り囲まれてアイランド状に孤立化するようになる。そのため、Fe基軟磁性合金粉の母体の合金相同士を隔てる酸化物層としての機能が低下し、コアロスも増加するようになる。具体的な熱処理温度は、酸化物層形成の観点からは600〜900℃の範囲が好ましい。但し、L 表色系のa(D65)が−3.0〜1.0、b(D65)が−7.0〜1.0である耐食性に優れた磁心を得るためには800℃未満の範囲が好ましい。より好ましくは、700〜750℃の範囲である。上記温度範囲での保持時間は、磁心の大きさ、処理量、特性ばらつきの許容範囲などによって適宜設定されるが、例えば0.5〜4時間が好ましい。
第3の工程の熱処理の条件によって、磁心の表面の色彩色差測定における、L 表色系のa(D65)およびb(D65)が変化する。上述のように熱処理温度によってa(D65)等が変化する他、成形体の形状、配置等によって、一個体中でも部位によるa(D65)およびb(D65)の違いが生じうる。第3の工程におけるa(D65)およびb(D65)のばらつきを抑えるために、成形体を面ではなく、点または線で支えて熱処理を行うこともできる。例えば、メッシュ状の治具に成形体を配置する方法、円板状の鍔部を有するドラム型磁心やトロイダル状磁心を外周面(曲面)を下にして平板状の治具に配置する方法を採用することができる。
なお、かかる配置を採用した第三の工程における熱処理方法は、Fe基軟磁性合金粉としてFe−Al−Cr系軟磁性合金粉を用いる場合に限らず、Fe−Cr−Si系軟磁性合金粉等を用いた場合のように、Fe基軟磁性合金粒同士が、該粒の表面に形成された酸化物層を介して結合された磁心に広く適用できるものである。すなわち、Fe基軟磁性合金粒が分散した組織を有する磁心の製造方法として、Fe基軟磁性合金粉と、バインダとを混合する第1の工程と、前記第1の工程を経て得られた混合物を成形する第2の工程と、前記第2の工程を経て得られた成形体を点または線で支持して熱処理する第3の工程とを有し、前記熱処理によって前記Fe基軟磁性合金粉の表面に酸化物層を形成し、該酸化物層を介してFe基軟磁性合金粉同士を結合させる製造方法の適用が可能である。この場合も磁心表面のa(D65)およびb(D65)のばらつき低減が期待できる。
第1〜第3の各工程の前後に他の工程を追加することも可能である。例えば、第1の工程の前に、熱処理やゾルゲル法等によって軟磁性材料粉に絶縁被膜を形成する予備工程を付加してもよい。但し、本発明に係る磁心の製造方法においては、第3の工程によってFe基軟磁性合金粉の表面に酸化物層を形成することができるため、上記のような予備工程を省略して製造工程を簡略化することがより好ましい。また、酸化物層自体は塑性変形しにくい。そのため、成形後に上述のAlに富む酸化物層を形成するプロセスを採用することで、第2の工程の成形において、Fe基軟磁性合金粉(Fe−Al−Cr系軟磁性合金粉)が持つ高い成形性を有効に利用することができる。
また、第3の工程の後に、表面の色彩色差測定を行い、L 表色系のa(D65)が−3.0〜1.0であること、b(D65)が−7.0〜1.0であること、の少なくとも一方を満たすことを確認する工程を設けることで、耐食性に優れる磁心を選別することができる。
上記の磁心と、該磁心に巻装されたコイルとを用いてコイル部品が提供される。コイルは、導線を磁心に巻回して構成してもよいし、ボビンに巻回して構成してもよい。このような磁心とコイルとを有するコイル部品は、例えばチョーク、インダクタ、リアクトル、トランス等として用いられる。磁心およびコイル部品が使用される周波数帯域は特に限定されるものではないが、例えば1kHz以上であり、100kHz以上の周波数帯域での使用も好ましい。また、磁心およびコイル部品は静止誘導器に限らず、モータ、発電機等の回転機に適用することもできる。
磁心は、上述のようにバインダ等を混合したFe基軟磁性合金粉末だけを加圧成形した圧粉磁心単体の形態で製造してもよいし、内部にコイルが配置された形態で製造してもよい。例えばFe基軟磁性合金粉末とコイルとを一体で加圧成形してコイル封入構造の圧粉磁心を製造することができる。また、積層型の磁心の場合であれば、コイルは磁心内部に巻装される。
また、電極を形成するための平面を有する磁心の表面に、コイルの端部を接続するための電極を、メッキや焼き付け等の手法によって形成し、コイルの巻端を前記電極に接続してコイル部品を構成することもできる。
(材料優位性の評価)
まず、Fe−Al−Cr系軟磁性合金粉を用いた磁心の磁気特性、強度上の優位性を確認するための検討を行った。
Fe基軟磁性合金粉として、Fe−Al−Cr系軟磁性合金粉を用い、以下のようにして圧粉磁心を作製した。かかる合金粉は粒状のアトマイズ粉であり、その組成は質量百分率でFe−4.9%Al−3.9%Crであり、主な不純物元素としてSiを0.2質量%含有し、その他の不純物元素はそれ未満であった。アトマイズ粉は、440メッシュ(目開き32μm)の篩で分級し、篩を通過したFe基軟磁性合金粉を混合に供した。篩を通過したFe基軟磁性合金粉の平均粒径(メジアン径d50)をレーザー回折散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製LA−920)で測定した。該平均粒径は9.8μmであった。
前記Fe基軟磁性合金粉100重量部に対して、バインダとしてPVA(株式会社クラレ製ポバールPVA−205;固形分10%)を2.5重量部(固形分として0.25重量部)の割合で添加し、混合を行った。この混合粉を120℃で10時間乾燥し、乾燥後の混合粉を篩に通して造粒粉を得た。この造粒粉に、Fe基軟磁性合金粉100重量部に対して0.4重量部の割合でステアリン酸亜鉛を添加、混合して成形用の混合物を得た。
得られた混合粉は、プレス機を使用して、0.74GPaの成形圧で室温にて加圧成形した。得られた成形体は、内径φ7.8mm、外径φ13.5mm、高さ4.3mmのトロイダル形状である。得られた成形体を、大気中、温度750℃、保持時間1.0時間の条件で熱処理し、圧粉磁心を得た(No1)。
また、比較のためにFe−Cr−Si系軟磁性合金粉(質量百分率でFe−4.0Cr−3.5%Si)を用いて、混合、加圧成形を行い、トロイダル形状の成形体を得た(No2)。
なお、No2の圧粉磁心の作製の際、バインダはエマルジョンのアクリル樹脂系のバインダ(昭和高分子株式会社製ポリゾールAP−604 固形分40%)を用い、軟磁性合金粉100重量部に対して2.0重量部の割合で混合した。また、成形は0.91GPaの成形圧で行い、熱処理は800℃で行った。
以上の工程により作製した圧粉磁心の密度をその寸法および質量から算出し、圧粉磁心の密度をFe基軟磁性合金の真密度で除して占積率(相対密度)を算出した。合金の真密度は、溶解によって作製された同組成の合金インゴットの密度測定値を用いる。また、トロイダル形状の圧粉磁心の径方向に荷重をかけ、破壊時の最大加重P(N)を測定し、次式から圧環強度σr(MPa)を求めた。
σr=P(D−d)/(Id
(ここで、D:磁心の外径(mm)、d:磁心の径方向の肉厚(mm)、I:磁心の高さ(mm)である。)
さらに、一次側と二次側のそれぞれに巻線を15ターン巻回し、岩通計測株式会社製B−HアナライザーSY−8232により、最大磁束密度30mT、周波数300kHzの条件でコアロスPcvを測定した。また、初透磁率μiは、前記トロイダル形状の圧粉磁心に導線を30ターン巻回し、ヒューレット・パッカード社製4284Aにより、周波数100kHzで測定した。
また、磁心試料の対向する二平面に導電性接着剤を塗り、乾燥・固化の後、以下のようにして比抵抗(電気抵抗率)の評価を行った。電気抵抗測定装置(株式会社エーディーシー製8340A)を用いて、50Vの直流電圧を印加し、抵抗値R(Ω)を測定した。磁心試料の平面の面積A(m)と厚みt(m)とを測定し、次式により比抵抗ρ(Ω・m)を算出した。
比抵抗ρ(Ω・m)=R×(A/t)
表1に示すようにFe−Al−Cr系軟磁性合金粉を用いて作製したNo1の圧粉磁心は、Fe−Cr−Si系軟磁性合金粉を用いたNo2の圧粉磁心に比べて、占積率および透磁率が大幅に高くなった。また、No1の圧粉磁心の圧環強度は200MPa以上であり、高い成形圧で作製されたNo2の圧粉磁心に比べても2倍以上の値を示した。すなわち、Fe−Al−Cr系Fe基軟磁性合金粉を用いた構成が、簡易な加圧成形を適用する場合において、優れた圧環強度および磁気特性を得るうえできわめて有利であることが分かった。
また、Fe−Al−Cr系軟磁性合金粉を用いて作製したNo1の圧粉磁心では、Fe−Cr−Si系軟磁性合金粉を用いて作製したNo2の圧粉磁心に比べて、比抵抗も高く、Fe−Al−Cr系軟磁性合金粉を用いた圧粉磁心が高強度と高比抵抗を両立する上で特に優れていることが分かった。
No1の圧粉磁心について、走査電子顕微鏡(SEM/EDX)を用いて圧粉磁心の断面観察を行い、同時に各構成元素の分布を調べた。結果を図6に示す。図6(a)はSEM像である。明るいグレーの色調を有するFe基軟磁性合金粒2の表面に黒の色調を有する相が形成されていることがわかる。磁心におけるFe基軟磁性合金粒は、混合に供したFe基軟磁性合金粉に対応する。SEMによる磁心の1000倍の断面観察像において、最大径が40μm以上の合金粒数の存在比率を求めたところ、0%であった。図6(b)〜(d)はそれぞれ、Fe(鉄)、Al(アルミニウム)、O(酸素)の分布を示すマッピングである。明るい色調ほど対象元素が多いことを示す。Crについては明確な濃度分布が確認できなかったため、Crについての図示は省略した。
図6から、Fe基軟磁性合金粒の表面(粒界)には酸素が多く、酸化物が形成されていること、および各軟磁性合金粒同士がこの酸化物を介して結合している様子がわかる。また、Fe基軟磁性合金粒の表面では内部に比べてFeの濃度が低く、Crは明確な濃度分布を示していない。一方、AlはFe基軟磁性合金粒の表面での濃度が顕著に高くなっている。これらのことから、Fe基軟磁性合金粒の表面に、内部の合金相よりもFe、AlおよびCrの和に対するAlの比率が高い酸化物層が形成されていることが確認された。熱処理前には図6に示すような各構成元素の濃度分布は観察されず、上記酸化物層が熱処理によって形成されたこともわかった。また、酸化物は粒界に層状に形成されるだけでなく、三重点の形状にならった塊状にも形成される
図7は、No1の磁心の断面をより高倍率(60万倍)で観察したTEM(透過電子顕微鏡)写真である。TEM写真において、上下方向に横断する帯状部が粒界の酸化物層3であり、粒界を介して隣り合うように位置し、その粒界よりも明度が低い部分がFe基軟磁性合金粒2である。観察視野で粒界の平均厚みを評価したところ、60nmであった。
粒界の中央部(酸化物層の中央部)と、Fe基軟磁性合金粒の近傍とで色調が異なる部分が確認される。そのFe基軟磁性合金粒の近傍であって、断面の輪郭として現れる合金粒の表面からおよそ5nm離れた位置(第1ポイント)と、粒界の中央部位(第2ポイント)とに対し、直径1nmの領域で組成分析を行った。表2に、TEM/EDXによる粒界の酸化物層の組成分析の結果を示す。
粒界には、Fe、Al、Cr、Si及びOが確認された。第1ポイントにおいてFe、Al及びCrの和に対するAlの比率がFe及びCrの各々の比率よりも高く、第2ポイントにおいてFe、Al及びCrの和に対するFeの比率がAl及びCrの各々の比率よりも高かった。すなわち、図3の模式図で示したように、酸化物層3は、FeやCrよりもAlが濃化した第1領域3aと、前記非鉄金属よりもFeが濃化した第2領域3bとを有し、しかも、第1領域3aはFe基軟磁性合金粒2側にあることが判明した。
SEM観察およびTEM観察で確認された上述の酸化物層に係る構成が、高電気抵抗率、低コアロス、高強度に寄与していると考えられる。すなわち、Alの酸化物は絶縁性が高いため、かかるAlの酸化物が軟磁性合金粒の粒界に形成されることで、絶縁性確保やコアロスの低減に寄与していると推察される。また、図6および7に示すように粒界の酸化物層を介して軟磁性合金粒が結合しており、かかる構成が強度向上にも寄与していると考えられる。
(実施例1)
次に、Fe−Al−Cr系軟磁性合金のアトマイズ粉を用い、上述の750℃の熱処理温度を含む温度範囲で熱処理条件を変えて圧粉磁心を作製し、その表面の色彩色差測定を行った。使用したFe−Al−Cr系軟磁性合金粉の組成は、質量百分率でFe−5.0%Al−4.0%Cr(組成A)とFe−5.0%Al−4.0%Cr−0.4%Zr(組成B)の二種類であり、No1の磁心に用いたFe−Al−Cr系軟磁性合金粉と同様の不可避不純物も含有していた。平均粒径(メジアン径d50)はそれぞれ、10.6μm、9.8μmであった。なお、造粒は、上記PVAの添加量を固形分で1.0重量部の割合とし、スプレードライヤ(熱風乾燥造粒機)による噴霧乾燥によって行った。造粒粉の平均粒径は、約65μmであった。
成形はNo1と同様に0.74GPaの成形圧で行った。色彩色差測定および耐食性評価用として、組成Aについては外径Φ6mm、高さ5mm、柱状部の径φ3mm、鍔部の厚さ1mmのドラム型磁心を作製し、組成Bについては外径Φ14mm、高さ3.5mmの円柱状の磁心を作製した。また、組成AおよびBとも、磁気特性等の評価用として上述のNo1の評価と同様の磁心も作製した。熱処理は、700〜800℃の保持温度、1〜4時間の保持時間で行った。その他の作製条件は上記No1の磁心の場合と同様とした。
磁心表面の色彩色差測定は、コニカミノルタ社製の分光測色計 CM−3500dを用い、観察光源:D65光源、光学系:d/8、測定方法:反射測定(SCE)、観察視野:2°視野、測定径をΦ8mm(またはΦ3mm)の条件で、L 表色系のL(D65)、a(D65)、b(D65)を評価した。また、JIS Z2371(2000)に基づいて、5%NaCl水溶液を使用し、35℃、24時間の条件で磁心を晒して塩水噴霧試験を行った。かかる塩水噴霧試験後の錆の発生の有無で耐食性を評価した。これらの評価結果を、トロイダル形状の磁心で行った磁気特性等の評価結果とともに表3に示す。また、a(D65)およびb(D65)と、塩水噴霧試験結果(錆びの発生の有無)との関係を図8に示す。なお、ドラム型磁心であるNo3〜5のa等については、ランダムに配置して熱処理した5つの磁心の各一対の鍔部(計10面)に対して色彩色差測定を行い、その平均を算出した。
表3に示すように、熱処理条件、中でも特に熱処理温度が変化すると、a(D65)およびb(D65)が変化した。700〜800℃の保持温度、1〜4時間の保持時間の条件で熱処理して作製した圧粉磁心は、いずれも圧環強度、初透磁率、コアロスが良好であった。一方、No3〜13の磁心は1.0×10Ω・m以上の比抵抗が確保されていたが、800℃での保持時間が長いNo14の磁心では、導通してしまい、1.0×10Ω・m以上の比抵抗は確保されなかった。
また、熱処理温度が800℃以上に高くなると、圧環強度等は良好であるものの、塩水噴霧試験において錆が発生した。No3〜No14の磁心は、いずれも通常の使用条件・放置環境では十分な耐食性を示すが、No3〜No11のようにa(D65)が−3.0〜1.0であること、b(D65)が−7.0〜1.0であること、のうち少なくとも一方を満たされることで、特に耐食性に優れる磁心が得られることがわかった。このうち特にa(D65)がマイナス(0.0未満)で、b(D65)が−7.0〜6.0の範囲であるNo5、8〜11の磁心は、170MPa以上の、いっそう良好な圧環強度を示した。
なお、表3に示すNo3〜5の圧粉磁心のa(D65)およびb(D65)は、上述のように10面で測定した平均値であるが、No3〜5の全ての測定面でb(D65):−7.0〜1.0を満足し、No4および5の全ての測定面でa(D65):−3.0〜1.0を満たしていた。
(実施例2)
次に、熱処理時の配置方法以外は、上述の実施例1のNo3の磁心と同様の条件でドラム型磁心を作製した。熱処理は、一方の平面(第1の平面)を平板状治具への載置面とする配置(No15)と、円板状の鍔部の外周面(曲面)を下にした配置、すなわち外周面が平板状の治具に線接触する配置(No16)とで行った。前記第1の平面と、他方の鍔部の外側の平面(第2の平面)に対して上述の実施例1と同様にして色彩色差測定を行った。結果を表4に示す。なお、No16の磁心は、ドラム形状の軸を平板治具の平面と平行になるように配置され、第1の平面と第2の平面は処理条件上区別はないため、その表記は便宜的なものである。
実施例1と同様の塩水噴霧試験においても錆の発生は確認されなかった。表4に示すように、鍔部の平面を載置面として熱処理したNo15の磁心では、該載置面(第1の平面)と自由面(第2の平面)とで、a(D65)の差と、b(D65)の差がともにやや大きくなった。これに対して、No16の磁心では、a(D65)の差の絶対値と、b(D65)の差の絶対値は、ともに0.5以下であり、ばらつきが非常に小さくなった。すなわち、成形体を線で支持して熱処理することが、磁心の表面状態のばらつき低減に特に効果があることが明らかとなった。
1:磁心 2:Fe基軟磁性合金粒 3:酸化物層 4:柱状部 5:鍔部

Claims (4)

  1. Fe基軟磁性合金粒が分散した組織を有する磁心であって、
    前記Fe基軟磁性合金粒がAl及びCrを含み、
    前記Fe基軟磁性合金粒同士が、該粒の表面に形成された酸化物層を介して結合されており、
    表面の色彩色差測定において、L 表色系のa(D65)が−3.0〜1.0であること、b(D65)が−7.0〜1.0であること、の少なくとも一方を満たすことを特徴とする磁心。
  2. 前記磁心の比抵抗が1.0×10Ω・m以上であることを特徴とする請求項1に記載の磁心。
  3. 前記磁心は、一方向の両端の表面に、互いに平行な二つの平面を有し、
    前記二つの平面の前記a(D65)の差の絶対値が0.5以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁心。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の磁心と、前記磁心に巻装されたコイルとを有することを特徴とするコイル部品。
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