以下、本発明の発熱体封止物の製造方法および本発明の誘導装置封止物の製造方法を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
なお、以下では、本発明の発熱体封止物の製造方法を、発熱体である誘導装置を封止する誘導装置封止物を製造する誘導装置封止物の製造方法(本発明の誘導装置封止物の製造方法)に適用した場合を一例に説明する。
まず、本発明の誘導装置封止物の製造方法を説明するのに先立って、本発明の誘導装置封止物の製造方法を適用して製造された誘導装置封止物について説明する。
<誘導装置封止物>
図1は、本発明の誘導装置封止物の製造方法を用いて製造された誘導装置封止物の実施形態を示す縦断面図、図2は、図1に示す誘導装置封止物のA−A線断面図、図3は、図1に示す誘導装置封止物の誘導装置と接合層との界面付近を部分的に拡大した部分拡大縦断面図である。なお、以下では、説明の便宜上、図1ないし図3中の上側を「上」、下側を「下」とも言う。また、各図では、誘導装置封止物およびその各部を誇張して模式的に図示しており、誘導装置封止物およびその各部の大きさおよびその比率は実際とは大きく異なる。
図1〜3に示す誘導装置封止物(昇圧コイル封止物)10は、上面(一方の面)に接合層5が形成された基板4と、駆動により発熱し、接合層5を介して基板4に支持された誘導装置(昇圧コイル)1と、接合層5および誘導装置1を覆うことで、誘導装置1を封止する封止部6とを有している。
誘導装置1は、電気エネルギーを磁気エネルギーとして蓄えることができるものであり、昇圧コンバータが備える部品の一つとして用いられ、図1、2に示すように、コア部2と、このコア部2に巻回されたコイル3とを有している。
コア部2は、本実施形態では、平面視形状が直線状をなすI型コアで構成され、図示しない、絶縁ボビンまたは絶縁紙等を介して、その外周部にコイル3が設けられている。
また、このコア部(I型コア)2は、磁性粉末を加圧成形してなる圧粉磁心で構成されており、かかる磁性粉末としては、特に限定されないが、例えば、鉄、鉄−シリコン系合金、鉄−窒素系合金、鉄−ニッケル系合金、鉄−炭素系合金、鉄−ホウ素系合金、鉄−コバルト系合金、鉄−リン系合金、鉄−ニッケル−コバルト系合金および鉄−アルミニウム−シリコン系合金等が挙げられる。
コイル3は、銅線31の表面を樹脂層32でコーティングすることで得られる線状体を、コア部2に巻回することで形成されたものであり、樹脂層32を銅線31の表面に形成することでコイル3の絶縁性が保持されている。
この樹脂層の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、およびポリウレタン樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、ポリアミドイミド樹脂であることが好ましい。これにより、銅線31の絶縁性、すなわちコイル3の絶縁性を確実に確保することができる。また、封止部6および接合層5に対する密着性を優れたものとすることができる。
また、樹脂層の厚さは、例えば、好ましくは10μm以上、50μm以下、より好ましくは20μm以上、30μm以下に設定される。これにより、銅線31の絶縁性、すなわちコイル3の絶縁性を確実に確保することができる。
また、コイル3は、前述の通り、コア部2に巻回することで形成されるが、その外周側に位置する端面(外周面)33は、図3に示すように、平坦面で構成されている。これにより、接合層5に対する接触面積を大きく確保することができるため、接合層5に対する密着性が向上する。また、接合層5の膜厚を端面33が接触する位置において、ほぼ一定に保つことが可能となるため、コイル3の基板4に対する絶縁性が確実に保持される。
基板4は、誘導装置1を支持し、誘導装置1の振動を吸収するとともに、誘導装置1で発生した熱をハウジング7の底部に伝達して逃がす放熱板としての機能を備えている。
この基板4としては、金属材料で構成される金属板が挙げられる他、シリコーンポリマー内にシリカ、アルミナ、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素化マグネシウム等の熱伝導性フィラーが混合されてなるものが用いられるが、中でも、金属板であることが好ましい。これにより、誘導装置1のコイル3における励磁により生じた熱を、接合層5および基板4を介してハウジング7の底部71側に効率よく伝達する(導く)ことができるため、誘導装置1の放熱効率の向上が図られる。
かかる金属材料としては、特に限定されないが、アルミニウムまたはアルミニウム合金、銅、銅合金、ステンレス材料などを用いるのが好ましい。これらの金属で基板4を構成することにより、基板4の熱伝導性をより優れたものとすることができる。
また、基板4の厚さは、誘導装置1を支持することができれば、特に限定されないが、例えば、5μm〜100μm程度であるのが好ましく、30μm〜60μm程度であるのがより好ましい。基板4の厚さをこのような比較的薄い数値範囲に設定することにより、誘導装置1の必要な機械的強度を確保しつつ、誘導装置1の小型化を図ることができる。さらに、コイル3における励磁により生じた熱を、接合層5および基板4を介してハウジング7の底部71に効率よく伝達することができる。
また、基板4の厚さ方向(底部71が位置する方向)に対する熱伝導率は、3W/m・K以上、500W/m・K以下であることが好ましく、10W/m・K以上、400W/m・K以下であることがより好ましい。このような基板4は、優れた熱伝導率を有する基板と言うことができ、コイル3における励磁により生じた熱を、接合層5および基板4を介してハウジング7の底部71に効率よく伝達することができる。
接合層5は、基板4と、この基板4の上側に位置する誘導装置1との間に設けられ、このものを介して基板4と誘導装置1とを接合する。
また、この接合層5は、絶縁性を有している。これにより、基板4と、誘導装置1との絶縁状態が確保される。
さらに、接合層5は、優れた熱伝導性を発揮するように構成されている。これにより、接合層5は、誘導装置1側の熱を基板4に伝達することができる。
このような接合層5の熱伝導率は、高いものが好適に用いられ、具体的には、1W/m・K以上、15W/m・K以下であることが好ましく、5W/m・K以上、10W/m・K以下であることがより好ましい。これにより、接合層5が誘導装置1側の熱を基板4に効率よく伝達される。そのため、誘導装置1のコイル3における励磁により生じた熱を、接合層5および基板4を介してハウジング7の底部71に効率よく伝達することができることから、誘導装置1の放熱効率の向上が図られる。
接合層5の平均厚さは、特に限定されないが、40μm〜300μm程度であるのが好ましく、60μm〜200μm程度であるのがより好ましい。これにより、接合層5の絶縁性を確保しつつ、誘導装置1の小型化を図ることができる。さらに、接合層5の熱伝導性を向上させることができる。そのため、コイル3における励磁により生じた熱を、接合層5および基板4を介してハウジング7の底部71に効率よく伝達することができる。
特に、コイル3の端面33に接合する位置では、接合層5の厚さは、30μm〜300μm程度であるのが好ましく、30μm〜150μm程度であるのがより好ましく、30μm〜60μm程度であるのがさらに好ましい。これにより、前記効果をより顕著に発揮させることができる。
なお、基板4と接合層5の合計の平均厚さは、例えば、60μm〜300μm程度であるのが好ましく、115μm〜270μm程度であるのがより好ましい。合計の平均厚さをこのような数値範囲に設定することにより、誘導装置1の必要な機械的強度を確保しつつ、誘導装置1の小型化を図り、かつ、コイル3における励磁により生じた熱を、接合層5および基板4を介してハウジング7の底部71により効率よく伝達することができる。
また、接合層5は、そのガラス転移温度が好ましくは100℃以上、200℃以下である。これにより、接合層5は、剛性が高まり、接合層5の反りを低減できることから、誘導装置1の基板4に対する位置ずれを抑制することができる。
なお、接合層5のガラス転移温度は、JIS C 6481に基づいて、以下のようにして計測できる。
動的粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント社製DMA/983)を用いて窒素雰囲気(200ml/分)のもと引っ張り荷重をかけて、周波数1Hz、−50℃から300℃の温度範囲を昇温速度5℃/分の条件で測定し、tanδのピーク位置よりガラス転移温度Tgを得る。
また、接合層5の25℃の弾性率(貯蔵弾性率)E’は、10GPa以上、70GPa以下であることが好ましい。これにより、接合層5の剛性が高まることから、接合層5に生じる反りを低減させることができる。その結果、誘導装置(発熱体)1と基板4との接合信頼性が維持できる。
なお、上記貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定装置で測定することができ、具体的には、貯蔵弾性率E’は、接合層5に引張り荷重をかけて、周波数1Hz、昇温速度5〜10℃/分で−50℃から300℃で測定した際の、25℃における貯蔵弾性率の値として測定される。
かかる機能を有する接合層5は、樹脂材料を主材料として構成された層内にフィラーが分散された構成をなしている。
樹脂材料は、フィラーを接合層5内に保持させるバインダーとしての機能を発揮し、フィラーは、樹脂材料の熱伝導率よりも高い熱伝導率を有している。接合層5を、かかる構成を有するものとすることにより、接合層5の熱伝導率を高めることができる。
このような接合層5は、本発明では、主として樹脂材料およびフィラーを含有する、接合層形成用樹脂組成物を固化または硬化させることにより形成される固化物または硬化物で構成される。すなわち、接合層5は、接合層形成用樹脂組成物を層状に成形した硬化物または固化物で構成されている。
以下、この接合層形成用樹脂組成物について説明する。
接合層形成用樹脂組成物は、上記の通り、主として樹脂材料およびフィラーを含んで構成されている。
樹脂材料としては、特に限定されず、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の各種樹脂材料を用いることができる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリアミド(例:ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6−12、ナイロン6−66)、熱可塑性ポリイミド、芳香族ポリエステル等の液晶ポリマー、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。
一方、熱硬化性樹脂(第2の熱硬化性樹脂)としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル(不飽和ポリエステル)樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。
これらのなかでも、接合層形成用樹脂組成物に用いる樹脂材料としては、熱硬化性樹脂を用いるのが好ましく、さらに、エポキシ樹脂を用いるのがより好ましい。これにより、得られる接合層5の耐熱性を優れたものとすることができる。また、接合層5を介して基板4と誘導装置1(コイル3)とを強固に接合することができる。そのため、得られる誘導装置封止物10の放熱性および耐久性を優れたものとすることができる。
また、エポキシ樹脂は、芳香環構造および脂環構造(脂環式の炭素環構造)の少なくともいずれか一方を有するエポキシ樹脂(A)を含むことが好ましい。このようなエポキシ樹脂(A)を使用することで、ガラス転移温度を高くするとともに、接合層5の熱伝導性をより向上させることができる。また、基板4および誘導装置1(コイル3)に対する密着性を向上させることができる。
また、芳香環あるいは脂肪環構造を有するエポキシ樹脂(A)としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂、ビスフェノールP型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、テトラフェノール基エタン型ノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂等のアリールアルキレン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、このエポキシ樹脂(A)としては、ナフタレン型エポキシ樹脂であることが好ましい。これにより、ガラス転移温度をより一層高くでき、接合層5のボイドの発生を抑制し、熱伝導性をより一層向上でき、かつ絶縁破壊電圧を向上させることができる。
なお、ナフタレン型エポキシ樹脂とは、ナフタレン環骨格を有し、かつ、グリシジル基を2つ以上有するものを呼ぶ。
また、エポキシ樹脂中におけるナフタレン型エポキシ樹脂の含有量は、エポキシ樹脂100質量%に対し、好ましくは20質量%以上、80質量%以下であり、より好ましくは40質量%以上、60質量%以下である。
ナフタレン型エポキシ樹脂としては、例えば、以下の式(5)〜(8)のうちのいずれかのものが挙げられる。
[式中、m、nはナフタレン環上の置換基の個数を示し、それぞれ独立して1〜7の整数を示す。]
なお、式(6)の化合物としては、以下のいずれか1種以上を使用することが好ましい。
[式中、Meはメチル基を示し、l、m、nは1以上の整数を示す。]
[式中、nは1以上、20以下の整数であり、lは1以上、2以下の整数であり、R
1はそれぞれ独立に水素原子、ベンジル基、アルキル基または下記式(9)で表される構造であり、R
2はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基である。]
[式中、Arはそれぞれ独立にフェニレン基またはナフチレン基であり、R
2はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基であり、mは1または2の整数である。]
式(8)のナフタレン型エポキシ樹脂は、いわゆるナフチレンエーテル型エポキシ樹脂に分類されるが、この式(8)で表される化合物は、下記式(10)で表されるものが一例として挙げられる。
[上記式(10)式において、nは1以上、20以下の整数であり、好ましくは1以上、10以下の整数であり、より好ましくは1以上、3以下の整数である。Rはそれぞれ独立に水素原子または下記式(11)で表される構造であり、好ましくは水素原子である。]
[上記式(11)式において、mは1または2の整数である。]
さらに、上記式(10)で表されるナフチレンエーテル型エポキシ樹脂は、具体的には、例えば、下記式(12)〜(16)で表されるものが挙げられる。
また、前記樹脂材料の含有量は、接合層形成用樹脂組成物全体(溶剤を除く)の、30体積%以上、70体積%以下であるのが好ましく、40体積%以上、60体積%以下であるのがより好ましい。これにより、得られる接合層5の機械的強度および熱伝導性を優れたものとすることができる。また、基板4および誘導装置1(コイル3)に対する密着性を向上させることができる。
これに対し、かかる含有量が前記下限値未満であると、樹脂材料の種類によっては、樹脂材料がフィラー同士を結合するバインダーとしての機能を十分に発揮することができず、得られる接合層5の機械的強度が低下するおそれがある。また、接合層形成用樹脂組成物の構成材料によっては、接合層形成用樹脂組成物の粘度が高くなりすぎて、接合層形成用樹脂組成物(ワニス)の濾過作業や層状成形(コーティング)が困難となったり、接合層形成用樹脂組成物のフローが小さくなりすぎて、接合層5にボイドが発生するおそれが生じる。
一方、かかる含有量が前記上限値を超えると、樹脂材料の種類によっては、接合層5の絶縁性を確保しつつ、接合層5の熱伝導性を優れたものとするのが困難となるおそれがある。
また、樹脂材料がエポキシ樹脂を含む場合、接合層形成用樹脂組成物にはフェノキシ樹脂が含まれていることが好ましい。これにより、接合層5の耐屈曲性を向上できるため、フィラーを高充填することによる接合層5のハンドリング性の低下を抑制することができる。
また、フェノキシ樹脂を含むと、粘度上昇により、プレス時の流動性が低減し、ボイド等が発生することを抑制することができる。また、接合層5と基板4および誘導装置1との密着性が向上する。これらの相乗効果により、誘導装置封止物10の絶縁信頼性および熱伝導性をより一層高めることができる。
フェノキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール骨格を有するフェノキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するフェノキシ樹脂、アントラセン骨格を有するフェノキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するフェノキシ樹脂等が挙げられる。また、これらの骨格を複数種有した構造のフェノキシ樹脂を用いることもできる。
これらの中でも、ビスフェノールA型またはビスフェノールF型のフェノキシ樹脂を用いるのが好ましい。ビスフェノールA骨格とビスフェノールF骨格を両方有するフェノキシ樹脂を用いても良い。
フェノキシ樹脂の重量平均分子量は、とくに限定されないが、4.0×104以上、8.0×104以下が好ましい。
なお、フェノキシ樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の値である。
フェノキシ樹脂の含有量は、例えば、接合層形成用樹脂組成物の全固形分100質量%に対し、好ましくは1質量%以上、15質量%以下、より好ましくは2質量%以上、10質量%以下である。
また、かかる接合層形成用樹脂組成物には、前述した樹脂材料の種類(例えば、エポキシ樹脂である場合)等によっては、必要に応じて、硬化剤が含まれる。
硬化剤としては、特に限定されず、例えば、ジシアンジアミド、脂肪族ポリアミド等のアミド系硬化剤や、ジアミノジフェニルメタン、メタンフェニレンジアミン、アンモニア、トリエチルアミン、ジエチルアミン等のアミン系硬化剤や、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、p−キシレン−ノボラック樹脂などのフェノール系硬化剤や、酸無水物類等を挙げることができる。
また、接合層形成用樹脂組成物は、さらに硬化触媒(硬化促進剤)を含んでいてもよい。これにより、接合層形成用樹脂組成物の硬化性を向上させることができる。
硬化触媒としては、例えば、イミダゾール類、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン等アミン系触媒、トリフェニルホスフィン等リン系触媒等が挙げられる。これらの中でもイミダゾール類が好ましい。これにより、特に、接合層形成用樹脂組成物の速硬化性および保存性を両立することができる。
イミダゾール類としては、例えば1−ベンジル−2メチルイミダゾール、1−ベンジル−2フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−ウンデシルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−エチル−4’メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物、2−フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−ビニル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−ビニル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物、2,4−ジアミノ−6−メタクリロイルオキシエチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−メタクリロイルオキシエチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物等が挙げられる。これらの中でも2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾールまたは2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールが好ましい。これにより、接合層形成用樹脂組成物の保存性を特に向上させることができる。
また、硬化触媒の含有量は、特に限定されないが、樹脂材料100質量部に対して0.01〜30質量部程度であるのが好ましく、特に0.5〜10質量部程度であるのがより好ましい。かかる含有量が前記下限値未満であると、接合層形成用樹脂組成物の硬化性が不十分となる場合があり、一方、かかる含有量が前記上限値を超えると、接合層形成用樹脂組成物の保存性が低下する傾向を示す。
また、硬化触媒の平均粒子径は、特に限定されないが、10μm以下であることが好ましく、特に1μm〜5μmであることがより好ましい。かかる平均粒子径が前記範囲内であると、特に硬化触媒の反応性に優れる。
また、接合層形成用樹脂組成物は、さらにカップリング剤を含むことが好ましい。これにより、フィラー、誘導装置1(コイル3)および基板4に対する樹脂材料の密着性をより向上させることができる。
かかるカップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等が挙げられる。これらの中でもシラン系カップリング剤が好ましい。これにより、接合層形成用樹脂組成物の耐熱性および熱伝導性をより向上させることができる。
このうち、シラン系カップリング剤としては、例えばビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファンなどが挙げられる。
カップリング剤の含有量は、特に限定されないが、樹脂材料100質量部に対して0.01〜10質量部程度であるのが好ましく、特に0.5〜10質量部程度であるのがより好ましい。かかる含有量が前記下限値未満であると、前述したような密着性を高める効果が不十分となる場合があり、一方、かかる含有量が前記上限値を超えると、接合層5を形成する際にアウトガスやボイドの原因になる場合がある。
また、接合層形成用樹脂組成物中のフィラーは、無機材料で構成される。これにより、フィラーは、樹脂材料の熱伝導率よりも高い熱伝導率を発揮する。したがって、このフィラーが接合層形成用樹脂組成物中に分散していることにより、接合層5の熱伝導率を高めることができる。
このようなフィラーは、無機材料で構成されるものの中でも、酸化アルミニウム(アルミナ、Al2O3)および窒化アルミニウムのうちの少なくとも1種で構成される粒状体であるのが好ましく、特に、主として酸化アルミニウムで構成された粒状体であるのが好ましい。これにより、熱伝導性(放熱性)および絶縁性に優れたフィラーとすることができる。また、酸化アルミニウムは、汎用性に優れ、安価に入手できる点から、特に好ましく用いられる。
したがって、以下では、フィラーが、主として酸化アルミニウムで構成された粒状体である場合を一例に説明する。
フィラーの含有量は、接合層形成用樹脂組成物全体(溶剤を除く)の、30体積%以上、70体積%以下であるのが好ましく、40体積%以上、60体積%以下であるのがより好ましい。かかる範囲のように接合層形成用樹脂組成物におけるフィラーの含有率を高くすることにより、接合層5の熱伝導性を優れたものとすることができる。
これに対し、かかる含有量が前記下限値未満であると、接合層5の絶縁性を確保しつつ、接合層5の熱伝導性を優れたものとするのが難しい。一方、かかる含有量が前記上限値を超えると、接合層形成用樹脂組成物の構成材料によっては、接合層形成用樹脂組成物の粘度が高くなりすぎて、ワニスの濾過作業や層状への成形(コーティング)が困難となったり、接合層形成用樹脂組成物のフローが小さくなりすぎて、得られる接合層5にボイドが発生してしまったりする場合がある。
なお、接合層形成用樹脂組成物におけるフィラーの含有率を、上記の範囲のように高く設定したとしても、接合層形成用樹脂組成物として、温度25℃、せん断速度1.0rpmの条件での粘度をA[Pa・s]とし、温度25℃、せん断速度10.0rpmの条件での粘度をB[Pa・s]としたとき、A/B(チキソ比)が1.2以上、3.0以下なる関係を満足するものを用いることにより、誘導装置封止物10の製造時に、接合層形成用樹脂組成物(ワニス)の粘度およびフロー性を適度なものとすることができる。
また、このフィラーの含水量は、0.10質量%以上、0.30質量%以下であるのが好ましく、0.10質量%以上、0.25質量%以下であるのがより好ましく、0.12質量%以上、0.20質量%以下であるのがさらに好ましい。これにより、フィラーの含有量を多くしても、より適度な粘度およびフロー性を有するものとなる。そのため、得られる接合層5中にボイドが発生するのを防止しつつ、熱伝導性に優れた接合層5を形成することができる。すなわち、優れた熱伝導性および絶縁性を有する接合層5を形成することができる。
また、酸化アルミニウムは、通常、水酸化アルミニウムを焼成することにより得られる。得られる酸化アルミニウムの粒状体は、複数の一次粒子で構成されるが、その一次粒子の平均粒径は、その焼成の条件に応じて設定することができる。
また、その焼成後に何ら処理されていない酸化アルミニウムは、一次粒子同士が固着により凝集した凝集体(二次粒子)で構成されている。
そのため、その一次粒子同士の凝集を粉砕により必要に応じて解くことにより、最終的なフィラーが得られる。最終的なフィラーの平均粒径は、その粉砕の条件(例えば時間)に応じて設定することができる。
その粉砕の際、酸化アルミニウムは極めて高い硬度を有するため、一次粒子同士の固着が解かれていくだけで、一次粒子自体は殆ど破壊されず、一次粒子の平均粒径は粉砕後においてもほぼ維持されることとなる。
したがって、粉砕時間が長くなるに従い、フィラーの平均粒径は、一次粒子の平均粒径に近づくことになる。そして、粉砕時間が所定時間以上となると、フィラーの平均粒径は、一次粒子の平均粒径に等しくなる。すなわち、フィラーは、粉砕時間を短くすると主として二次粒子で構成され、粉砕時間を長くするにしたがって一次粒子の含有量が多くなり、最終的に所定時間以上とすると、主として一次粒子で構成されることとなる。
また、例えば、前述したように水酸化アルミニウムを焼成することにより得られた酸化アルミニウムの一次粒子は、球形ではなく、鱗片状のような平坦面を有する形状をなしている。そのため、フィラー同士の接触面積を大きくすることができる。その結果、得られる接合層5の熱伝導性を高めることができる。
さらに、フィラーは、平均粒子径が異なる3成分(大粒径、中粒径、小粒径)の混合系であり、さらに、大粒径成分が球状であり、中粒径成分および小粒径成分が多面体状であることが好ましい。
より具体的には、フィラーは、平均粒子径が5.0μm以上、50μm以下、好ましくは5.0μm以上、25μm以下の第1粒径範囲に属し、かつ、円形度が0.80以上、1.0以下、好ましくは0.85以上、0.95以下である大粒径アルミナと、平均粒子径が1.0μm以上、5.0μm未満の第2粒径範囲に属し、かつ、円形度が0.50以上、0.90以下、好ましくは0.70以上、0.80以下である中粒径酸化アルミニウムと、平均粒子径が0.1μm以上、1.0μm未満の第3粒径範囲に属し、かつ、円形度が0.50以上0.90以下、好ましくは0.70以上、0.80以下ある小粒径酸化アルミニウムと、の混合物であることが好ましい。
なお、フィラーの粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置SALD−7000を用いて、水中に酸化アルミニウムを1分間超音波処理することにより分散させ、測定することができる。
これにより、大粒径成分の隙間に中粒径成分が充填され、さらに中粒径成分の隙間に小粒径成分が充填されるため、酸化アルミニウムの充填性が高められ、酸化アルミニウム粒子同士の接触面積をより大きくすることができる。その結果、接合層5の熱伝導性をより一層向上できる。さらに、接合層5の耐熱性、耐屈曲性、絶縁性をより一層向上できる。
また、このようなフィラーを用いることにより、接合層5と基板4および誘導装置1との密着性をより一層向上できる。
これらの相乗効果により、誘導装置封止物10の絶縁信頼性および放熱信頼性をより一層高めることができる。
なお、接合層形成用樹脂組成物は、上述した成分に加え、レベリング剤、消泡剤等の添加剤が含まれていてもよい。
また、接合層形成用樹脂組成物は、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、トルエン、ジメチルホルムアルデヒド等の溶剤を含む。これにより、接合層形成用樹脂組成物は、樹脂材料等が溶剤に溶解することにより、ワニスの状態となる。
なお、このようなワニス状をなす接合層形成用樹脂組成物は、例えば、必要に応じて樹脂材料と溶剤とを混合してワニス状にした後、さらに、フィラーを混合することで得ることができる。
また、混合に用いる混合機としては、特に限定されないが、例えば、ディスパーザー、複合羽根型撹拌機、ビーズミルおよびホモジナイザー等が挙げられる。
封止部6は、接合層5を介して基板4上に配置された誘導装置1を、基板4(接合層5)とともに覆うことで封止(モールド)する。
これにより、誘導装置1は、基板4上の接合層5と封止部6とで取り囲まれるようにして封止され、誘導装置封止物10における誘導装置1の封止性が確保される。
また、このように封止部6と接合層5とにより誘導装置1を取り囲むようにして誘導装置1を封止する構成とすることにより、接合層5と封止部6との間での熱線膨張係数の差を小さく設定することができる。これにより、誘導装置1のコイル3における励磁時には、誘導装置1自体が発熱し接合層5および封止部6が加熱されることとなるが、接合層5と封止部6との間で反りが生じ、これに起因して、これら同士の間で剥離が生じてしまうのを的確に抑制または防止することができる。
この封止部6は、本発明では、熱硬化性樹脂(第1の熱硬化性樹脂)を含有する封止部形成用樹脂組成物の硬化物で構成される。
以下、この封止部形成用組成物について説明する。
熱硬化性樹脂は、特に限定されないが、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア(尿素)樹脂、メラミン樹脂のようなトリアジン環を有する樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド(BMI)樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂、シアネートエステル樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、フェノール樹脂は、流動性が良好であるため、封止部形成用樹脂組成物の流動性を向上させることができることから、封止部6の形成時において、誘導装置1の形状(特に、コイル3の形状)に依存することなく、誘導装置1を封止することができることから、好ましく用いられる。また、誘導装置1および基板4に対する密着性を向上させることができる。
また、フェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールA型ノボラック樹脂、アリールアルキレン型ノボラック樹脂のようなノボラック型フェノール樹脂、ジメチレンエーテル型レゾール樹脂、メチロール型レゾール樹脂等の未変性のレゾールフェノール樹脂、桐油、アマニ油、クルミ油等で変性した油変性レゾールフェノール樹脂のようなレゾール型フェノール樹脂等が挙げられる。
また、ノボラック型フェノール樹脂を用いる場合、封止部形成用樹脂組成物には硬化剤が含まれるが、通常、この硬化剤としては、ヘキサメチレンテトラミンが使用される。さらに、ヘキサメチレンテトラミンを用いる場合、その含有量は、特に限定されないが、ノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して、10重量部以上、30重量部以下含有することが好ましく、さらに15重量部以上、20重量部以下含有することが好ましい。ヘキサメチレンテトラミンの含有量を上記範囲とすることで、封止部形成用樹脂組成物の硬化物すなわち封止部6の機械的強度および成形収縮量を良好なものとすることができる。
このようなフェノール樹脂の中でも、レゾール型フェノール樹脂を用いるのが好ましい。ノボラック型フェノール樹脂を主成分として用いた場合、上記の通り、硬化剤として通常ヘキサメチレンテトラミンが使用され、ノボラック型フェノール樹脂の硬化時にアンモニアガス等の腐食性ガスが発生する。そのため、これに起因して、誘導装置1が備えるコア部2およびコイル3が腐食するおそれがあることから、ノボラック型フェノール樹脂に比較して、レゾール型フェノール樹脂が好ましく用いられる。
また、レゾール型フェノール樹脂とノボラック型フェノール樹脂とを併用するようにすることもできる。これにより、封止部6の強度を高めることができるとともに、靭性をも高めることができる。
また、エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型のようなビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型のようなノボラック型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型、臭素化フェノールノボラック型のような臭素化型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中でも、比較的分子量の低いビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。これにより、封止部6の形成時における作業性や成形性をさらに良好なものにすることができる。また、封止部6の耐熱性の面からフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂が好ましく、特に、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂が好ましい。
トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂を用いる場合、その数平均分子量は、特に限定されないが、500〜2000であることが好ましく、700〜1400であることがさらに好ましい。
また、エポキシ樹脂を用いる場合、封止部形成用樹脂組成物中には、硬化剤が含まれることが好ましい。硬化剤としては、特に限定されないが、例えば、脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン、ジシアミンジアミドのようなアミン化合物、脂環族酸無水物、芳香族酸無水物などの酸無水物、ノボラック型フェノール樹脂のようなポリフェノール化合物や、イミダゾール化合物等が挙げられる。中でも、ノボラック型フェノール樹脂が好ましい。これにより、封止部形成用樹脂組成物の取り扱い、作業性が向上するとともに、封止部形成用樹脂組成物を環境面に優れたものとすることができる。
特に、エポキシ樹脂としてフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂を用いる場合には、硬化剤として、ノボラック型フェノール樹脂を用いることが好ましい。これにより、封止部形成用樹脂組成物から得られる硬化物の耐熱性を向上させることができる。なお、硬化剤の添加量は特に限定されないが、エポキシ樹脂に対する理論当量比1.0からの許容幅を±10重量%以内にして配合することが好ましい。
また、封止部形成用樹脂組成物は、上記硬化剤とともに必要に応じて硬化促進剤を含有するものであってもよい。硬化促進剤としては、特に限定されないが、例えば、イミダゾール化合物、三級アミン化合物、有機リン化合物等が挙げられる。硬化促進剤の含有量は、特に限定されないが、エポキシ樹脂100重量部に対して0.1〜10重量部であることが好ましく、3〜8重量部であることがより好ましい。
また、封止部形成用樹脂組成物は、充填材として機能する繊維強化材を含むことが好ましい。これにより、封止部6自体の機械的強度と剛性を優れたものとすることができる。
繊維強化材としては、特に限定されないが、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維(芳香族ポリアミド)、ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、ポリビニルアルコール(PVA)繊維、ポリエチレン(PE)繊維、ポリイミド繊維のようなプラスチック繊維、バサルト繊維のような無機繊維およびステンレス繊維のような金属繊維等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
さらに、これらの繊維強化材には、熱硬化性樹脂との接着性を向上させることを目的に、シランカップリング剤による表面処理が施されていてもよい。シランカップリング剤としては、特に限定されないが、例えば、アミノシランカップリング剤、エポキシシランカップリング剤、ビニルシランカップリング剤等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの繊維強化材のうち、カーボン繊維またはアラミド繊維を用いることが好ましい。これにより、封止部6の機械強度をさらに向上させることができる。特に、カーボン繊維を用いることにより、高負荷における耐摩耗性をさらに向上させることができる。なお、封止部6のさらなる軽量化を図るという観点からは、アラミド繊維等のプラスチック繊維であることが好ましい。さらに、封止部6の機械強度を向上させる観点からは、繊維強化材として、ガラス繊維やカーボン繊維等の繊維基材を用いることが好ましい。
硬化物中における繊維強化材の含有量は、硬化物全量に対して、例えば、10体積%以上であり、好ましくは20体積%以上であり、さらに好ましくは25体積%以上である。また、硬化物全量に対する繊維強化材の含有量の上限値は、特に限定されないが、好ましくは80体積%以下とされる。これにより、封止部6の機械強さを確実に向上させることができる。
さらに、封止部形成用樹脂組成物は、充填材として、繊維強化材以外のものを含んでいてもよく、かかる充填材としては、無機充填材および有機充填材のいずれであってもよい。
無機充填材としては、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、シリカ、炭酸カルシウム、炭化ホウ素、クレー、マイカ、タルク、ワラストナイト、ガラスビーズ、ミルドカーボン、グラファイト等から選択される1種以上が用いられる。なお、無機充填材としては、酸化チタン、酸化ジルコニウム、シリカのような金属酸化物が含まれていることが好ましい。これにより、金属酸化物が備える酸化皮膜が不動態化膜としての機能を発揮し、硬化物全体としての耐酸性を向上させることができる。
また、有機充填材としては、ポリビニールブチラール、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、パルプ、木粉等から選択される1種以上が用いられる。なお、アクリロニトリルブタジエンゴムとしては、部分架橋またはカルボキシ変性タイプの何れであっても良い。これらのうち、硬化物の靭性を向上させる効果がさらに高まるという観点からは、アクリロニトリルブタジエンゴムが好ましい。
なお、封止部形成用樹脂組成物には、以上に説明した成分の他にも、離型剤、硬化助剤、顔料等の添加剤が添加されていてもよい。
また、上述したような構成の誘導装置1において、コイル3は、銅線31と樹脂層32とからなる線状体を、コア部2に巻回することで設けられたものであるが、図3に示すように、隣接する線状体同士の間には間隙35が形成される。
このような間隙35において、コイル3の端面33が接合層5に接合する領域に対応する位置では、間隙35に接合層5が埋入(充填)されている。これにより、接合層5とコイル3との接触面積が大きくなることから、接合層5と誘導装置1との密着性、誘導装置1から接合層5への熱伝達性を向上させることができる。また、この場合、端面33が接合層5に対向する位置では、接合層5の厚さは、その平均厚さと比較して薄くなるが、10μm以上、50μm以下であることが好ましく、20μm以上、30μm以下であることがより好ましい。これにより、コイル3と基板4との間における絶縁性を確実に確保することができる。
また、端面33が接合層5に接合する領域に対応する位置を除く領域、すなわち、間隙35の接合層5が埋入していない領域では、間隙35には封止部6が充填されている。これにより、封止部6とコイル3との接触面積が大きくなることから、誘導装置1の封止部6による封止を、より優れた密着性をもって行うことができる。また、コイル3における励磁により生じる振動を低減させることができるため、コイル3の励磁時における騒音を軽減させることができるとともに、誘導装置封止物10の耐久性を向上させることができる。
さらに、接合層5と封止部6とが互いに接触して界面が形成されるまで、間隙35に空隙が形成されることなく封止部6が充填されている。そして、この接合層5と封止部6との界面では、接合層5に含まれるフィラーが、封止部6側に分散していることが好ましい。これにより、接合層5と封止部6との界面において、接合層5と封止部6とが混在した状態が形成されていると言え、接合層5と封止部6との密着性の向上が図られる。そのため、誘導装置封止物10の耐久性を優れたものとすることができる。また、接合層5と封止部6との間の熱伝導性が向上することから、コイル3における励磁により生じた熱のハウジング7の底部71への伝達を、接合層5および基板4を介してより効率よく行うことができる。
かかる構成の誘導装置封止物10が、本実施形態では、放熱性を備える台座として機能する底部71と、底部71の縁部で立設する枠体72とを備えるハウジング7内に、それぞれが備えるコア部2が平行となるように並んで2つ配置されている(図2参照。)。このように誘導装置封止物10において、誘導装置1が接合層5および封止部6で取り囲まれることで封止された構成をなしているため、単に、ハウジング7内に配置するだけで誘導装置1の封止性が確保される。すなわち、ハウジング7に対するウレタン樹脂等を含有する液状材料のポッティングを経ることなく、誘導装置1の封止性を確保することができる。さらに、底部71に接する基板4が優れた放熱性を有しているため、誘導装置1で発生した熱を、接合層5と基板4とを介して、底部71に伝達することができる。
また、底部71と枠体72とは、ともに、優れた放熱性を発揮し得るように、絶縁性のアルミニウムやその合金等で構成される。
なお、本実施形態では、コイル3の端面33が平坦面で構成される場合について説明したが、端面33が接合層5に対向する位置において、端面33が基板4に接触しなければ、端面33は、円状や長円状をなす湾曲面等で構成されていてもよい。
以上のような誘導装置封止物10は、前述した液状材料の流し込み工程を経ることなく、本発明の誘導装置封止物の製造方法を適用することにより製造することができるが、以下、その製造方法について説明する。
<誘導装置封止物の製造方法>
図4、5は、本発明の誘導装置封止物の製造方法を説明するための図である。なお、以下では、説明の便宜上、図4、5中の上側を「上」、下側を「下」とも言う。また、誘導装置封止物およびその各部を誇張して模式的に図示しており、誘導装置封止物およびその各部の大きさおよびその比率は実際とは大きく異なる。
本発明の誘導装置封止物の製造方法は、基板4の一方の面に、接合層形成用層5Aを形成する第1の工程[1]と、誘導装置1を基板4上の接合層形成用層5Aに貼り合わせる第2の工程[2]と、接合層形成用層5Aから接合層5を形成するとともに、接合層5および誘導装置1を覆うことで誘導装置1を封止する封止部6を形成する第3の工程[3]とを有する。
以下、これらの工程について、順次説明する。
[1]
まず、基板4を用意し、その後、図4(a)に示すように、基板4上に接合層形成用層5Aを形成する(第1の工程)。
この接合層形成用層5Aは、前述したワニス状をなす接合層形成用樹脂組成物を基板4上に供給して層状とした後、乾燥させることにより得ることができる。
そして、この接合層形成用層5Aは、後述する工程[2]および工程[3]を経ることで、硬化または固化することにより接合層5となるものである。
接合層形成用樹脂組成物の基板4への供給は、例えば、コンマコーター、ダイコーター、グラビアコーター等を用いて行うことができる。
この接合層形成用樹脂組成物は以下のような粘度挙動を有することが好ましい。
すなわち、動的粘弾性測定装置を用いて、この接合層形成用樹脂組成物を60℃から昇温速度3℃/min、周波数1Hzで溶融状態まで昇温したときに、初期は溶融粘度が減少し、最低溶融粘度に到達した後、さらに上昇するような特性を有し、かつ、最低溶融粘度が1×103Pa・s以上1×105Pa・s以下の範囲内であることが好ましい。
最低溶融粘度が上記下限値以上であると、樹脂材料とフィラーとが分離し、樹脂材料のみが流動してしまうことを抑制でき、工程[2]および工程[3]を経ることにより、より均質な接合層5を得ることができる。
また、最低溶融粘度が上記上限値以下であると、接合層形成用樹脂組成物の基板4への濡れ性を向上でき、接合層5と基板4との密着性をより一層向上できる。また、コイル3が備える樹脂層32に対して優れた流動性を示すことから、工程[2]において、コイル3の間隙35内に接合層形成用層5Aを確実に埋入させることができる。
これらの相乗効果により、誘導装置封止物10の放熱性および絶縁破壊電圧をより一層向上できる。さらに、誘導装置封止物10のヒートサイクル特性をより一層向上させることができる。
また、接合層形成用樹脂組成物は、最低溶融粘度に到達する温度が60℃以上、100℃以下の範囲内であることが好ましく、75℃以上、90℃以下の範囲内であることがより好ましい。
さらに、接合層形成用樹脂組成物は、フロー率が15%以上、60%未満であることが好ましく、25%以上、50%未満であることがより好ましい。
なお、このフロー率は、以下の手順で測定することができる。すなわち、まず、本実施形態の接合層形成用樹脂組成物により形成された樹脂層を有する金属箔を所定のサイズ(50mm×50mm)に裁断後5〜7枚積層し、その重量を測定する。次に、内部温度を175℃に保持した熱盤間で5分間プレスした後冷却し、流れ出た樹脂を丁寧に落として再び重量を測定する。フロー率は次式(I)により求めることができる。
フロー率(%)=(測定前重量−測定後重量)/(測定前重量−金属箔重量) (I)
このような粘度挙動を有すると、接合層形成用樹脂組成物を加熱硬化して接合層5を形成する際に、接合層形成用樹脂組成物中に空気が侵入するのを抑制できるとともに、接合層形成用樹脂組成物中に溶けている気体を十分に外部に排出できる。その結果、接合層5に気泡が生じてしまうことを抑制でき、接合層5から基板4へ確実に熱を伝えることができる。また、気泡の発生が抑制されることにより、誘導装置封止物10の絶縁信頼性を高めることができる。また、接合層5と基板4との密着性を向上できる。
これらの相乗効果により、誘導装置封止物10の放熱性をより一層向上でき、その結果、誘導装置封止物10のヒートサイクル特性をより一層向上させることができる。
このような粘度挙動を有する接合層形成用樹脂組成物は、例えば、前述した樹脂材料の種類や量、フィラーの種類や量、また、樹脂材料にフェノキシ樹脂が含まれる場合には、その種類や量を適宜調整することにより得ることができる。特に、エポキシ樹脂として、ナフタレン型エポキシ樹脂等の流動性の良いものを用いることにより、上記のような粘度特性が得られ易くなる。
[2]
次に、誘導装置1を用意し、その後、図4(b)に示すように、基板4と誘導装置1とが、接合層形成用層5Aを介して互いに接近するように加圧するとともに、接合層形成用層5Aを加熱する(第2の工程)。
これにより、接合層形成用層5Aに誘導装置1が貼り合わされる(図4(c)参照。)。
また、この際、コイル3の端面33が接合層形成用層5Aに接合する領域に位置する間隙35において、接合層形成用層5Aが充填される。その結果、接合層形成用層5Aに誘導装置1がより強固に貼り合わされる。
ここで、接合層形成用層5Aは、接合層形成用層5Aが熱硬化性を示す場合には、好ましくは未硬化または半硬化する条件、より好ましくは半硬化する条件で加熱および加圧される。また、接合層形成用層5Aが熱可塑性を示す場合には、加熱および加圧により溶融した後、冷却により固化する条件で、加熱および加圧される。これにより、接合層形成用層5Aに誘導装置1を確実に貼り合わせすることができる。
この加熱および加圧の条件は、例えば、接合層形成用層5Aに含まれる接合層形成用樹脂組成物の種類によっても若干異なるが、以下のように設定される。
すなわち、加熱温度は、好ましくは80〜200℃程度、より好ましくは170〜190℃程度に設定される。
また、加圧する圧力は、好ましくは0.1〜3MPa程度、より好ましくは0.5〜2MPa程度に設定される。
さらに、加熱および加圧する時間は、10〜90分程度であるのが好ましく、30〜60分程度であるのがより好ましい。
これにより、コイル3の端面33が接合層形成用層5Aに接合するとともに、コイル3の端面33が接合層形成用層5Aに接合する領域に位置する間隙35において、接合層形成用層5Aが充填される。その結果、接合層形成用層5Aに誘導装置1がより強固に貼り合わされる。
なお、接合層形成用層5Aが熱硬化性を示す場合、接合層形成用層5Aを未硬化または半硬化とするかの選択は、例えば、本工程[2]における、接合層形成用層5Aに対する誘導装置1の貼り合わせを優先する際には、接合層形成用層5Aを半硬化の状態とし、次工程[3]における、接合層5と封止部6との界面における密着性を向上させることを優先する際には、接合層形成用層5Aを未硬化の状態とするようにすれば良い。
[3]
次に、基板4上の接合層形成用層5Aと誘導装置1とを覆うように封止部6を形成する。
さらに、この際、接合層形成用層5Aが熱硬化性を示す場合には、接合層形成用層5Aが硬化することにより接合層5が形成され、また、接合層形成用層5Aが熱可塑性を示す場合には、溶融後、再度、固化することにより接合層5が形成される(第3の工程)。
封止部6を形成する方法としては、本発明では、封止部形成用樹脂組成物を溶融させた状態で、接合層形成用層5Aおよび誘導装置1を覆うように基板4の上面側に供給した後、この溶融状態の封止部形成用樹脂組成物を圧縮成形して、封止部形成用樹脂組成物を硬化させることで封止部を得る方法が用いられる。かかる方法によれば、誘導装置1を基板4の上側において容易かつ高密度に封止部6で封止することができる。
以下、かかる方法を用いて、封止部6を形成する方法について詳述する。
なお、封止部形成用樹脂組成物としては、顆粒状(ペレット状)シート状、短冊状、または、タブレット状をなすものの何れであっても良いが以下では、タブレット状をなすものを用いる場合を一例に説明する。
[3−1]まず、成形金型100が備える上型110と下型120とを重ね合わせることにより形成されるキャビティ(収納空間)121に、基板4上に接合層形成用層5Aを介して接合された誘導装置1を、誘導装置1が上側になるようにして、収納した後、上型110と下型120との型締めを行う。
そして、タブレット状をなす封止部形成用樹脂組成物130を、上型110が備えるポット111内に収納する。
[3−2]次に、成形金型100を加熱してポット111内の封止部形成用樹脂組成物130を加熱溶融しつつ、プランジャー112をポット111内に挿入することで、封止部形成用樹脂組成物130に加圧する。
これにより、溶融状態とされた封止部形成用樹脂組成物130が供給路113を介して、キャビティ121内に移送される。
[3−3]次に、プランジャー112をポット111内に挿入することにより、キャビティ121内に収納された基板4を加熱および加圧された状態で、溶融した封止部形成用樹脂組成物130が接合層形成用層5Aと誘導装置1とを覆うようにキャビティ121内に充填される。
そして、溶融した封止部形成用樹脂組成物130を硬化させることにより封止部6を形成することで、誘導装置1が封止される。
また、この際、前記工程[2]において間隙35に接合層形成用層5Aが埋入された領域を除く領域では、間隙35には封止部6が充填されて形成される。これにより、封止部6とコイル3との接触面積が大きくなることから、誘導装置1の封止部6による封止が、より優れた密着性をもって行われる。
さらに、この加熱および加圧により、接合層形成用層5Aが熱硬化性を示す場合には、このものが硬化することにより接合層5が形成され、接合層形成用層5Aが熱可塑性を示す場合には、このものが溶融した後、冷却して再度固化することにより接合層5が形成される。
なお、接合層形成用層5Aが熱硬化性を示す場合、前記工程[2]において、未硬化または半硬化の接合層形成用層5Aを形成することで、本工程[3]において、接合層形成用層5Aが硬化する際に、接合層5に含まれるフィラーを、封止部6側に分散させることができる。これにより、接合層5と封止部6との界面を、接合層5と封止部6とが混在した状態で形成することができる。その結果、接合層5と封止部6との密着性の向上が図られるため、得られる誘導装置封止物10は、優れた耐久性を備えるものとなる。
かかる工程における加熱および加圧の条件は、特に限定されないが、例えば、以下のように設定される。
すなわち、加熱温度は、好ましくは80〜200℃程度、より好ましくは170〜190℃程度に設定される。
また、加圧する圧力は、好ましくは2〜10MPa程度、より好ましくは3〜7MPa程度に設定される。
さらに、加熱および加圧する時間は、1〜60分程度であるのが好ましく、3〜15分程度であるのがより好ましい。
かかる条件に設定することにより、接合層5と封止部6との界面において、接合層5に含まれるフィラーが封止部6側に分散して接合層5と封止部6とが混在した状態で、接合層5と封止部6とが形成されるため、接合層5と封止部6との密着性を向上させることができる。
また、封止部形成用樹脂組成物130の溶融粘度は、175℃において、10〜3000Pa・s程度であるのが好ましく、30〜2000Pa・s程度であるのがより好ましい。これにより、接合層5と封止部6とで取り囲むようにして誘導装置1をより確実に封止することができる。さらに、コイル3が備える樹脂層32に対して優れた流動性を示すことから、コイル3の間隙35内にも封止部6をより確実に充填することができる。
なお、175℃における溶融粘度は、例えば、島津製作所製の熱流動評価装置(フローテスタ)により測定することができる。
また、プランジャー112をポット111内に挿入することにより生じる圧力により、基板4は、下型120が備えるキャビティ121の底面に押し付けられるのが好ましい。これにより、溶融した封止部形成用樹脂組成物130の基板4の下面に対する回り込みが防止される。その結果、基板4の下面における封止部6の形成が的確に抑制または防止される。よって、基板4の下面おいて封止部6が形成されることに起因する基板4の熱伝導性の低下を的確に抑制または防止することができる。
以上のような工程を経て、誘導装置封止物10が製造される。
なお、本実施形態では、工程[2]と、工程[3]との別工程で行うこととしたが、これに限定されず、例えば、ポット111内への封止部形成用樹脂組成物130の装填を省略して状態で、プランジャー112をポット111内に挿入することで、誘導装置1の基板4に対する押圧を実施することが可能であれば、工程[2]と工程[3]とを、キャビティ121内で一括して実施するようにしてもよい。
かかる構成の誘導装置封止物10は、ハウジング7内に配置された状態で、例えば、ハイブリット自動車や、電気自動車等に、これらが備える昇圧コンバータの一部品として搭載される。
以上、本発明の発熱体封止物の製造方法および本発明の誘導装置封止物の製造方法を図示の実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
例えば、本発明の発熱体封止物の製造方法および本発明の誘導装置封止物の製造方法は、任意の目的で、工程[1]の前工程、各工程[1]〜[3]同士の間に存在する中間工程、または工程[3]の後工程を追加するようにしてもよい。
また、本発明の発熱体封止物の製造方法および本発明の誘導装置封止物の製造方法を用いてそれぞれ形成される発熱体封止物および誘導装置封止物を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
また、本発明の発熱体封止物の製造方法で製造されるものは、前述した実施形態のものに限定されるもの、すなわち、本発明の誘導装置封止物に限定されるものでないことはいうまでもなく、発熱体としてのサーミスタのような抵抗、トランス、コイル、スイッチなどのリレー素子、コンデンサー、ダイオードパワーMOSFET、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)のようなパワートランジスタ、および、これらを組み合わせたパワーモジュール、レギュレーター(整流器)、LED(発光ダイオード)、LD(レーザダイオード)、有機EL素子のような発光素子、LSI、CPUのような集積回路素子、温度センサ、ならびに、モータ、バッテリーパック等を封止する発熱体封止物に適用することができる。
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
1. 試験片の製造
以下のようにして試験片を製造した。
(実施例1A)
1.1 接合層形成用樹脂組成物(ワニス)の調製
[1]まず、ビスフェノールF/ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(三菱化学製、4275、重量平均分子量6.0×104、ビスフェノールF骨格とビスフェノールA骨格の比率=75:25)40.0質量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC製、850S、エポキシ当量190)55.0質量部、2−フェニルイミダゾール(四国化成製2PZ)3.0質量部、シランカップリング剤としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン製KBM−403)2.0質量部を秤量し、これらをシクロヘキサノン400質量部に溶解・混合させ、高速撹拌装置を用い撹拌することで、樹脂材料を含むワニスを得た。
[2]次に、アルミナ(日本軽金属製、平均粒径A3.2μm、一次粒径B3.6μm、平均粒径A/一次粒径B=0.9の市販品(Lot No.Z401))800gを秤量し、純水1300mLが収納されたプラスチック製容器内に投入した後、直径50mmの羽根を備えるディスパーザー(特殊機化工業社製、「R94077」)を用いて、回転数5000rpm×攪拌時間15分間の条件で撹拌することにより、アルミナを水洗した。
その後、15分間静置し、スポイトで採取した上澄液50mLのろ過液のpHを測定し、そのpH値が7.0となるまで、上澄液をデカンテーションで除去した後に、前記水洗を複数回行なった。
[3]次に、水洗が施されたアルミナを、20分間放置した後に、上澄液をデカンテーションで除去し、その後、アセトン1000mLを投入して、前記ディスパーザーを用いて、回転数800rpm×攪拌時間5分間の条件で撹拌した。
そして、12時間放置した後に、上澄液を除去した。
[4]次に、上澄液が除去された後のアルミナをステンレスバットに広げ、これを、全排気型箱型乾燥機(タバイ社製、「PHH−200」)を乾燥温度40℃×乾燥時間1時間の条件で乾燥することで洗浄アルミナ(フィラー)を得た。
その後、この洗浄アルミナを、200℃×24時間の条件で乾燥させた後、85℃×85%RHの条件で放置することで、洗浄アルミナの含水率を0.18質量%とした。
なお、このアルミナの含水量は、示差熱天秤装置(TG−DTA)を用いて測定した25℃と500℃における質量の差により計算した。
[5]次に、前記工程[1]で予め用意した樹脂材料を含むワニスに、洗浄アルミナ(505.0質量部)を、ディスパーザー(特殊機化工業社製、「R94077」)を用いて、回転数1000rpm×攪拌時間120分間の条件で混合することにより、アルミナの樹脂固形分比83.5重量%(60.0体積%)の接合層形成用樹脂組成物を得た。
1.2 基板上への接合層形成用層の成膜
幅260mm、厚さ35μmのロール状銅箔(日本電解製、YGP−35)を用い、その銅箔の粗化面に、上記1.1で得られた接合層形成用樹脂組成物をコンマコーターにて塗布し、100℃で3分、150℃で3分加熱乾燥することで、基板上に厚さ100μmの接合層形成用層を形成した。
なお、かかる条件で接合層形成用樹脂組成物を乾燥させることにより、接合層形成用層は、半硬化の状態となっている。これを縦65mm×横100mmにカットして基板とした。
1.3 タブレット状をなす封止部形成用樹脂組成物の調製
ジメチレンエーテル型レゾール樹脂(住友ベークライト製R−25)30部、メチロール型レゾール樹脂(住友ベークライト製 PR−51723)7部、ノボラック型樹脂(住友ベークライト製 A−1084)4部、水酸化アルミニウム15部、ガラス繊維(日東紡績製)10部、焼成クレー12部、有機質充填材、硬化促進剤、離型剤、顔料他22部を配合し、加熱ロールにより混練し、冷却後粉砕して得られた粉砕物をタブレット化することにより、タブレット状をなす封止部形成用樹脂組成物を得た。
なお、レゾール型フェノール樹脂としては、還流コンデンサー撹拌機、加熱装置、真空脱水装置を備えた反応釜内に、フェノール(P)とホルムアルデヒド(F)とをモル比(F/P)=1.7で仕込み、これに酢酸亜鉛をフェノール100重量部に対して0.5重量部添加し、この反応系のpHを5.5に調整し、還流反応を3時間行い、その後、真空度100Torr、温度100℃で2時間水蒸気蒸留を行って未反応フェノールを除去し、さらに、真空度100Torr、温度115℃で1時間反応させることにより得られた、数平均分子量800のジメチレンエーテル型のもの(固形)を主成分として用いた。
1.4 接合層上への封止部の形成
まず、成形金型100が備えるキャビティ121に、接合層形成用層が形成された基板を、接合層形成用層が上側になるように収納するとともに、ポット111内にタブレット状をなす封止部形成用樹脂組成物を収納する。
次に、ポット111内の封止部形成用樹脂組成物を加熱溶融しつつ、プランジャー112をポット111内に挿入する。これにより、加熱および加圧された状態で、溶融した封止部形成用樹脂組成物が接合層形成用層を覆うようにキャビティ内に充填させる。
そして、溶融した封止部形成用樹脂組成物と、接合層形成用層とを硬化させることにより、基板に、接合層と封止部とがこの順で積層された実施例1Aの試験片を得た。
なお、封止部形成用樹脂組成物および接合層形成用層を硬化させる際の条件は、以下のように設定した。
・加熱温度 : 175℃
・加圧時の圧力 : 5.0MPa
・加熱/加圧時間: 3分
(実施例2A〜7A)
前記1.2において成膜する接合層形成用層の硬化の状態、前記1.4において封止部を形成する際の条件を表1に示すように変更したこと以外は、前記実施例1Aと同様にして、実施例2A〜7Aの試験片を得た。
2.試験片の評価
各実施例の試験片について、それぞれ、その厚さ方向に沿って切断し、得られた切断面の接合層と封止部との界面付近を、電子顕微鏡を用いて観察した。
この電子顕微鏡による観察により得られた、各実施例の試験片における前記界面付近の電子顕微鏡写真を図7〜13に示す。
図7〜13に示す電子顕微鏡写真から明らかなように、各実施例では、接合層と封止部との界面において、空隙が形成されることなく、接合層と封止部とが優れた密着性をもって接合されていた。
特に、接合層形成用層を半硬化状態とした実施例1A〜5Aでは、接合層5に含まれるフィラーが封止部6側に分散しており、接合層と封止部とがより優れた密着性をもって接合される結果となった。
なお、加圧時の圧力を2.5MPaとした実施例2A、4A、7Aでは、接合層5中に若干のボイドの発生が認められた。
3.誘導装置封止物の製造
以下のようにして誘導装置封止物を製造した。
(実施例1B)
3.1 接合層形成用樹脂組成物(ワニス)の調製
前記実施例1Aと同様にして、接合層形成用樹脂組成物を調製した。
3.2 基板上への接合層形成用層の成膜
前記実施例1Aと同様にして、基板上に接合層形成用層を成膜した。
3.3 基板上の接合層形成用層への誘導装置の貼り合わせ
コア部とコイルとを有する誘導装置(図1参照)を用意し、この誘導装置と基板とが、接合層形成用層を介して互いに接近するように加圧するとともに加熱することで、接合層形成用層に誘導装置を貼り合わせた。
なお、接合層形成用層に誘導装置を貼り合わせる際の条件は、以下のように設定した。
・加熱温度 : 180℃
・加圧時の圧力 : 1MPa
・加熱/加圧時間: 60分
3.4 タブレット状をなす封止部形成用樹脂組成物の調製
前記実施例1Aと同様にして、ブレット状をなす封止部形成用樹脂組成物を調製した。
3.5 誘導装置封止物の形成
圧縮成形金型100が備えるキャビティ121に、接合層形成用層を介して基板上に貼り合わせられた誘導装置を、誘導装置および接合層形成用層が上側になるように収納したこと以外は、前記実施例1Aと同様にして、図1に示す構成をなす誘導装置封止物を得た。
4.誘導装置封止物の評価
実施例1Bの誘導装置封止物について、基板の厚さ方向に沿って切断し、得られた切断面を、電子顕微鏡等を用いて観察した。
この電子顕微鏡等による観察により得られた、実施例1Bの誘導装置封止物における切断面の写真を図14に示す。
図14に示す電子顕微鏡写真等から明らかなように、実施例1Bの誘導装置封止物では、線状体同士の間に形成される間隙において、コイルの端面が接合層に接合する領域に対応する位置では、間隙に接合層が埋入していた。
また、間隙の接合層が埋入していない領域では、間隙には封止部が充填されていた。
さらに、コイルの端面が接合層に接合する領域では、接合層がコイルの端面により、接合層の厚さ方向において分断されることなく、基板と端面との間には接合層が存在している結果となった。