以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
まず図3を参照しながら、本実施形態のはんだ材料に関する原理について説明する。
図3は、本発明における実施形態のはんだ材料を説明するための、Inが添加されたSn−3.5質量%Ag−0.5質量%Biの組成を持った合金の信頼性試験結果を示すグラフである。
図3に示すグラフの横軸のIn含有率は、はんだ付け後にはんだ部に固溶している、より具体的には、Snの格子に固溶しているInについての実質的なIn含有率である。
図3に示すグラフの縦軸の試験サイクル数は、1608サイズ(1.6mm×0.8mm)のチップコンデンサが実装された、FRグレード(Flame Retardant Grade)がFR−5グレードであるFR5基板において、温度サイクル試験が−40℃/150℃の試験条件で実施された後に、はんだ部の断面観察でクラックの発生が確認されなかったサイクル数である。
自動車のエンジン近傍に搭載する車載商品の信頼性試験においては、車載基準として、2000サイクル以上のサイクル数が要求仕様において求められる。ここでは、2000サイクル以上のサイクル数の場合を熱疲労特性が十分に満たされていることとする。
図3に示すグラフによれば、はんだ付け後にはんだ部に固溶しているIn含有率が5.5質量%(2150サイクル)、6.0質量%(2300サイクル)及び6.5質量%(2200サイクル)である場合には2000サイクル以上であり、In含有率が5.0質量%以下又は7.0質量%以上である場合には2000サイクル未満であることが分かる。
さらに図3には、近似曲線が、上記の数値データを用いることによって得られる次式の二次関数のグラフとして図示されている。
したがって、車載基準である2000サイクル以上のサイクル数を確保することができるIn含有率の範囲はおよそ5.2〜6.8質量%であり、管理幅はおよそ±0.8質量%である。
そして、大量生産におけるはんだ合金のIn含有率の変動幅はおよそ±0.5質量%であるので、In含有率の中央値は5.7(=5.2+0.5)質量%以上6.3(=6.8−0.5)質量%以下であることが望ましい。
次に、図4〜図6を主として参照しながら、Niめっきに含まれるPの影響について説明する。この影響を調べるため、Au電極40及びCu電極50として、図4(a)(b)に示すような測定用に準備された試料を用いた。
図4(a)はAu電極40を示す模式的な断面図であり、図4(b)はCu電極50を示す模式的な断面図である。
図5(a)(b)は、電極3とはんだ材料1との接合後におけるIn含有率を測定する様子を示す概略説明図である。電極3はAu電極又はCu電極であり、はんだ材料1はSn−3.5質量%Ag−0.5質量%Bi−6.0質量%Inの組成を持つものである。図5(a)は電極3上に供給されたはんだ材料1を加熱する前の状態を示し、図5(b)は電極3上に供給されたはんだ材料1を加熱し、溶融してぬれ広がった後のはんだ部2の状態を示す。
一般的に使用されているAu電極40は、図4(a)に示すように、Cu電極10と、このCu電極10の上に施されたNiめっき20と、さらにこのNiめっき20の上に施されたAuフラッシュめっき30とを備えている。この場合、Cu電極10は膜厚35μmのCu箔で形成されている。Niめっき20は、膜厚1〜5μmであり、電気めっきのように通電を要しない無電解めっきとして施される。Auフラッシュめっき30は、膜厚0.03〜0.07μmである。他方、Cu電極50は、図4(b)に示すように、膜厚35μmのCu箔で形成されている。上記のようなAu電極40及びCu電極50は、電子回路基板の基板電極として使用されたり、あるいは電子部品の部品電極として使用されたりする。本明細書では、Au電極40及びCu電極50が、電子回路基板の基板電極として使用される場合、それぞれAu基板電極及びCu基板電極という場合があり、電子部品の部品電極として使用される場合、それぞれAu部品電極及びCu部品電極という場合がある。
そして、試料として準備したAu電極は2種類である。1つ目のAu電極は、Niめっきの膜厚が5μmであり、Auフラッシュめっきの膜厚が0.07μmである。これは、基板側又は部品側の一方がAu電極である場合を想定している。2つ目のAu電極は、Niめっきの膜厚が10μmであり、Auフラッシュめっきの膜厚が0.07μmである。これは、基板側と部品側の両方がAu電極であり、Pの影響が最大となる場合を想定している。はんだ付け時に、はんだ材料が溶融して液体になると、AuとNiは瞬時に拡散してはんだ材料と反応するため、Pを含むNiの厚みを2倍にすることで、基板側と部品側の両方がAu電極である場合を模擬することができる。
そして、Sn−3.5質量%Ag−0.5質量%Bi−6.0質量%Inの組成を持ったはんだ材料を、図5(a)に示すように、平面視で直径φ=5mmの円形及び厚さt=0.15mmの形状で電極3の上に供給した。この電極3は、上記の2種類のAu電極、及びCu電極である。その後、はんだ材料1が供給された電極3を240℃のホットプレートの上で30秒間加熱した後、室温で徐冷すると、はんだ材料1は図5(b)に示すような形状のはんだ部2となった。
上記のようにしてはんだ部2の試料を得た。次にこのはんだ部2の縦断面が出現するように研磨し、この縦断面の中央部を、EDX(Energy Dispersive X-ray spectroscopy)を利用する方法で分析することによって、In含有率を測定した。ここに、中央部とは、はんだ部2の厚さBの1/2の位置であって、かつ、はんだ部2のぬれ広がり幅Aの1/2の位置に対応する部分である。
図6は、Sn−3.5質量%Ag−0.5質量%Bi−6.0質量%Inの組成を持ったはんだ材料を利用して、Cu電極及び2種類のAu電極に対するはんだ付けを行った後の、それぞれのはんだ部の内部におけるIn含有率の分析結果を示すグラフである。
熱疲労特性の向上に寄与するSnの格子に固溶しているInについての実質的なIn含有率は、当初のIn含有率である6.0質量%から減少しており、Cu電極については5.9質量%であり、Niめっきの膜厚が5μmのAu電極については5.1質量%であり、Niめっきの膜厚が10μmのAu電極についても5.1質量%である。
Au電極については、Auが加熱の際にはんだ材料の内部へ拡散し、Auフラッシュめっきの下に形成されている90質量%Ni及び10質量%Pの組成を持ったNiめっきが露出する。
そうすると、はんだ材料に含まれるSnはNiと反応してNi3Sn4化合物が生成されるため、Niめっきのはんだ材料の側でNi含有率が低下してP含有率が高くなる。Pの濃化した部分では、はんだ材料と接する単位面積当たりのPが多くなるため、化合物InPの生成量が多くなり、Snの格子に固溶していたInが減少し、Au電極の場合の実質的なIn含有率はCu電極の場合と比較してより大きく減少してしまう。
このため、車載基準に対応したIn含有率の範囲は、上述のようにおよそ5.2〜6.8質量%であるので、上記のAu電極の場合は車載基準を満足しない。
なお、Niめっきの比重は7.9g/cm3であるので、Niめっきに含まれるPの質量は、Niめっきの膜厚T及びNiめっきの面積Sを利用して、7.9×T×S×0.1により算出することができ、Niめっきに含まれるPの質量はNiめっきの膜厚Tに比例して変動する。
このような現象を踏まえて、本発明者らは、InP化合物の生成量の増加の原因であるPの濃化を抑制するために、Ni3Sn4化合物の生成量を減少させることが有効であることを見出した。
Snと金属間化合物を生成する元素としてZn、Co、Mn等があるが、それらの元素の中から効果の高い元素として見出されたものが、以下で説明するように、Snと反応してCu6Sn5化合物を生成する、Cuである。
ここで、図7及び図8を参照しながら、本実施形態であるはんだ材料についてさらに具体的に説明する。
図7は、本発明における実施形態のはんだ材料を説明するための、Cuが添加されたSn−3.5質量%Ag−0.5質量%Bi−6.0質量%Inの組成を持ったはんだ材料を利用して、Niめっきの膜厚が5μmと10μmの2種類のAu電極に対するはんだ付けを行った後の、はんだ部の内部におけるIn含有率の分析結果を示すグラフである。2種類のAu電極のAuフラッシュめっきの膜厚は0.07μmである。
また図8は、本発明における実施形態のはんだ材料を説明するための、Cuが添加されたSn−3.5質量%Ag−0.5質量%Bi−6.0質量%Inの組成を持ったはんだ材料の固相線601及び液相線602を示すグラフである。
まず、図7を主として参照しながら、Cu含有率の下限について説明する。
ここでは、上述の方法と同様な方法で分析を行い、Au電極とのはんだ付けを行った後のIn含有率の測定を行った。
はんだ材料の試料は、次のようにして作製した。
まず、セラミック製のるつぼ内に89.5gのSnを投入し、温度が500℃に調整されている電気式ジャケットヒータの中に上記のるつぼを静置した。
次にSnが溶融したことを確認した後に6.0gのInを上記のるつぼに投入し、3分間の撹拌を行った。
次に0.5gのBiを上記のるつぼに投入し、3分間の撹拌をさらに行った。
次に3.5gのAgを上記のるつぼに投入し、3分間の撹拌をさらに行った。
次に所定量のCuを上記のるつぼに投入し、3分間の撹拌をさらに行った。
なお、ここで使用しているSn、Bi、Ag、Cu各々の元素には、ごく微量の不純物が含まれている。
その後、上記のるつぼを電気式ジャケットヒータの中から取り出して、25℃の水が満たされた容器に浸漬し、冷却を行った。
図7において、Niめっきの膜厚が5μmのAu電極の場合のプロットを「△」で示す。Niめっきの膜厚が5μmのAu電極に対してはんだ付けを行った後のIn含有率は、(1)Cu含有率がゼロである場合は5.1質量%であるが、(2)Cu含有率が増大すると、Inの減少が抑制されるので増大していき、(3)Cu含有率が0.4質量%である場合は5.2質量%となり、そして(4)Cu含有率が0.9質量%になると5.99質量%になる。このように、Cu含有率がゼロから0.9質量%まで変化する場合、In含有率は5.1質量%から5.99質量%まで変化する。
図7において、Niめっきの膜厚が10μmのAu電極の場合のプロットを「○」で示す。Niめっきの膜厚が10μmのAu電極に対してはんだ付けを行った後のIn含有率は、(1)Cu含有率がゼロである場合は5.1質量%であるが、(2)Cu含有率が増大すると、Inの減少が抑制されるので増大していき、(3)Cu含有率が0.5質量%である場合は5.21質量%となり、そして(4)Cu含有率が0.9質量%になると5.83質量%になる。このように、Cu含有率がゼロから0.9質量%まで変化する場合、In含有率は5.1質量%から5.83質量%まで変化する。
Niめっきの膜厚が5μmである場合と10μmである場合とを比較すると、基板電極と部品電極の両方がAu電極であることを想定したNiめっきの膜厚が10μmの方がIn含有率の変化量が大きいため、Cu含有率の下限値は、Niめっきの膜厚が10μmである場合の数値で算出することが望ましい。
Cu含有率が0.5質量%から0.9質量%であるときの数値を用いて、Niめっきの膜厚が10μmである場合の数値で近似直線を描くと、次式で表される一次関数のグラフが得られる。
したがって、車載基準をAu電極との組み合わせにおいても満足するために必要な5.2質量%以上のIn含有率を確保するためには、Cu含有率が0.50質量%以上であることが望ましい。Cu含有率が0.50質量%以上であれば、Au電極との組み合わせにおいても、はんだ付け後のIn含有率が5.2質量%以上となり、車載基準の信頼性を満たすことができる。
以上においては、Sn−3.5質量%Ag−0.5質量%Bi−6.0質量%Inの組成を持ったはんだ材料が利用される場合について説明したが、Cu含有率が0.50質量%である場合のIn含有率の変化量は0.8質量%であるため、例えば、Sn−3.5質量%Ag−0.5質量%Bi−5.5質量%Inの組成を持ったはんだ材料が利用される場合は、はんだ付け後のIn含有率が4.7質量%となり、車載基準の信頼性を満たすことができない。このように、Cu含有率とIn含有率との間には相関関係がある。すなわち、図7に示すように、Cu含有率が0.5質量%以上であり、1.0質量%以下である場合には上記の近似直線で示される相関があるが、Cu含有率が0.5質量%未満の場合及び1.0質量%を超える場合には相関がない。
図2に本発明のはんだ材料におけるCu含有率とIn含有率との関係を示す。以下では、はんだ材料におけるAg、Bi、Cu、Inの含有率(質量%)をそれぞれ[Ag]、[Bi]、[Cu]、[In]という場合がある。
In含有率の下限値は、Cu含有率の範囲を3つに分け、各範囲ごとに定まる。
すなわち、0<[Cu]<0.5の範囲では、6.0≦[In]である。
また、0.5≦[Cu]≦1.0の範囲では、5.2+(6−(1.55×[Cu]+4.428))≦[In]である。
また、1.0<[Cu]の範囲では、5.2≦[In]である。
他方、In含有率の上限値も、Cu含有率の範囲を3つに分け、各範囲ごとに定まる。
すなわち、0<[Cu]<0.5の範囲では、[In]≦7.6である。
また、0.5≦[Cu]≦1.0の範囲では、[In]≦6.8+(6−(1.55×[Cu]+4.428))である。
また、1.0<[Cu]の範囲では、[In]≦6.8である。
以上、Au電極を含む組み合わせについて述べてきたが、Cu電極の場合はInと反応する化合物が存在しないため、In含有率は低下しない。図13(a)は、電子回路基板200のCu基板電極220と、電子部品のCu部品電極320とのはんだ付け前の様子を模式的に示す断面図である。このときCu基板電極220とCu部品電極320との間に、Sn−Ag−Bi−In−Cuの組成を持ったはんだ材料100が介在されている。図13(b)は、電子回路基板200のCu基板電極220と、電子部品のCu部品電極320とのはんだ付け後の様子を模式的に示す断面図である。このときCu基板電極220とはんだ部110との間にCu6Sn5化合物120が生成される。同様の化合物120がCu部品電極320とはんだ部110との間にも生成される。このCu6Sn5化合物120の生成にInは関与しないため、はんだ材料100中のIn含有率の低下は発生しない。なお、図13(a)(b)において電子部品は図示省略している。
上記のように、Au電極を含まない組み合わせに、本発明のはんだ材料を用いると、In含有率が低下しないため、Cu含有率が1.0質量%以下では、In含有率が車載基準の6.8質量%を超える場合が発生する。したがって、Au電極を含む組み合わせと、含まない組み合わせの両方に本発明のはんだ材料を使用できるようにするためには、Cu含有率が1.0質量%以下の範囲で、In含有率を6.8質量%以下に制限する必要がある。
次に、図8を主として参照しながら、Cu含有率の上限について説明する。
すなわち、Cu含有率が大きすぎると、液相線602の温度が上昇するので、はんだ材料の溶融性が低下してぬれ広がり性が悪くなりやすい。
より具体的に説明すると、固相線601によって表される固相線温度は199〜201℃の範囲にあって安定しているが、液相線602によって表される液相線温度は、Cu含有率が0.7質量%を超えると上昇し、Cu含有率が1.2質量%である場合は216℃であり、Cu含有率が1.4質量%である場合は228℃である。
ここに、固相線温度は、固体の状態から加熱されたはんだ合金が溶け始める温度であり、液相線温度は、固体の状態から加熱されたはんだ合金がすべて溶け終わる温度である。
表1は、Cuが添加されたSn−3.5質量%Ag−0.5質量%Bi−6.0質量%Inの組成を持ったはんだ材料において、Cu含有率とぬれ広がりとの関係を示している。具体的には、Cu含有率が0.2質量%、0.5質量%、0.7質量%、1.0質量%、1.2質量%、1.4質量%、1.7質量%である場合について、Au電極上でのぬれ広がりの評価を行った。
上述のように、Niめっきに含まれるPの質量はNiめっきの膜厚Tに比例して変動する。ここでは、Niめっきの膜厚が下限に接近してPの含有率は最小であり、ぬれ広がり性はこの観点からは良好でないと想定されている。よって、Niめっきの膜厚が1μmであるように作製した試料について、JIS Z 3197「はんだ付用フラックス試験方法」において規定されている広がり試験方法でぬれ広がり率の測定を行った。
表1において、ぬれ広がりの評価に関しては、「○」はぬれ広がり率が90%以上であることを示しており、「△」はぬれ広がり率が85%以上で90%未満であることを示しており、「×」はぬれ広がり率が85%未満であることを示している。
したがって、良好なはんだ付けにとって重要な90%以上のぬれ広がり率を保証するためには、Cu含有率が1.2質量%以下であることが望ましい。
図1は、図2にCu含有率の上限値である1.2質量%を追加し、本発明のはんだ材料のCu含有率とIn含有率との関係を示している。すなわち、図1において、斜線部分の領域が、本発明のはんだ材料のCu含有率とIn含有率とを満たしている。ただし、斜線部分の領域は、実線を含み、破線及び白点(○)は含まない。
表2は、Au基板電極とAu部品電極との組み合わせにおける、はんだ付け前のはんだ材料の各種組成と、はんだ付け後におけるはんだ材料のIn含有率変化との関係を実施例1、2、参考例3、実施例4〜8、参考例9、実施例10〜13及び比較例1〜4について示し、信頼性判定及び強度判定の結果も示している。
強度判定に関しては、はんだ材料の引張強度を基準として、「○」は60MPa以上を満たしており、0.9mm×0.8mmまでのチップ部品に使えることを、「◎」は65MPa以上を満たしており、QFP(Quad Flat Package)、BGA(Ball Grid Array)等の大型半導体部品に使えることを、「◎◎」は70MPa以上を満たしており、アルミ電解コンデンサ、モジュール部品等の大型部品に使えることを、「◎◎◎」は75MPa以上を満たしており、コイル、トランス等の重量部品に使えることを示している。なお、引張強度は、JIS Z 2201の4号試験片で測定している。
In含有率が変化した後の残量については、Au電極に対するはんだ付けを行った後の、はんだ部の内部におけるIn含有率の分析を、EDXを利用して行うことにより測定した。
In含有率変化についての判定に関しては、「○」ははんだ付けを行った後のIn含有率が5.2〜6.8質量%の範囲に含まれていることを示しており、「×」はIn含有率が5.2質量%未満の範囲であることを示している。
信頼性判定に関しては、車載商品の信頼性試験において、温度サイクル試験のサイクル数が2000サイクル以上又は2250サイクル以上の要求仕様を満たしていることを基準として、「○」は基準を満足していることを示しており、「×」は基準を満足していないことを示している。
実施例1、2、参考例3、実施例4〜8、参考例9、実施例10〜13の信頼性判定の結果から、Sn−Ag−Bi−Inの組成を持ったはんだ材料に所定量のCuが含有されることにより、In含有率の減少が抑制されたことが分かる。よって、実施例1、2、参考例3、実施例4〜8、参考例9、実施例10〜13はいずれも、2000サイクル以上の要求仕様を満たすことが確認された。
比較例1〜4においては、In含有率の減少を抑制するために有効な元素の添加を行っていないので、はんだ付け後のIn含有率が4.7〜5.1質量%(In含有率変化は−0.8質量%)であったことから、2000サイクル以上の要求仕様を満たさないことが確認された。
次に表3は、Au基板電極とCu部品電極との組み合わせにおける、はんだ付け前のはんだ材料の各種組成と、はんだ付け後におけるはんだ材料のIn含有率変化との関係を実施例14、15、参考例16、実施例17〜21、参考例22、実施例23〜26及び比較例5〜8について示し、信頼性判定及び強度判定の結果も示している。各種判定に関しては、上述の表2と同様である。
実施例14、15、参考例16、実施例17〜21、参考例22、実施例23〜26の信頼性判定の結果から、Sn−Ag−Bi−Inの組成を持ったはんだ材料に所定量のCuが含有されることにより、In含有率の減少が抑制されたことが分かる。よって、実施例14、15、参考例16、実施例17〜21、参考例22、実施例23〜26はいずれも、2000サイクル以上の要求仕様を満たすことが確認された。実施例14、15、参考例16、実施例17〜21、参考例22、実施例23〜26は、Au基板電極とCu部品電極との組み合わせであるが、Cu基板電極とAu部品電極との組み合わせについても、同様の結果が得られるものと考えられる。
比較例5〜8においては、In含有率の減少を抑制するために有効な元素の添加を行っていないので、はんだ付け後のIn含有率が4.7〜5.1質量%(In含有率変化は−0.8質量%)であったことから、2000サイクル以上の要求仕様を満たさないことが確認された。
次に表4は、Au基板電極とAu部品電極との組み合わせにおける、Biを含有していないはんだ材料の各種組成とIn含有率変化との関係を実施例27、参考例28、実施例29〜31、参考例32、実施例33〜38、参考例39について示し、信頼性判定及び強度判定の結果も示している。各種判定に関しては、上述の表2と同様である。
表4の実施例27、参考例28、実施例29〜31、参考例32、実施例33〜38、参考例39においては、信頼性判定の結果が全て2000サイクル以上の基準を満足しているから、はんだ材料にBiが含有されていなくとも、In含有率の変化に影響を与えないことが分かる。Biは、はんだ材料の溶融温度を調整するために加えられており、はんだ材料の熱疲労特性にBiの含有率は大きな影響を与えない。
表2〜表4の実施例1、2、参考例3、実施例4〜8、参考例9、実施例10〜15、参考例16、実施例17〜21、参考例22、実施例23〜27、参考例28、実施例29〜31、参考例32、実施例33〜38、参考例39に示す信頼性判定の結果から、Au電極及びCu電極に対するはんだ付けにおいて、車載商品の信頼性評価を満足するためには、はんだ付け前のSn−Ag−Bi−Inの組成を持ったはんだ材料は、次の関係を満たしている。
すなわち、0.3≦[Ag]≦4.0のAgと、
0≦[Bi]≦1.0のBiと、
0<[Cu]≦1.2のCuとを含んでいる。
そして、0<[Cu]<0.5の範囲内では、
6.0≦[In]≦6.8の範囲内のInを含み、
0.5≦[Cu]≦1.0の範囲内では、
5.2+(6−(1.55×[Cu]+4.428))≦[In]≦6.8の範囲内のInを含み、
1.0<[Cu]≦1.2の範囲内では、
5.2≦[In]≦6.8の範囲内のInを含み、
残部は、87質量%以上のSnのみであれば、はんだ付け後の信頼性判定の基準(2000サイクル以上)を満足することが可能となる。
また、実施形態におけるはんだ材料を構成するAgの含有率は、以下の理由により決定している。既に説明しているが、熱疲労特性は、Snに対するInの固溶作用により向上しているため、In含有率によって熱疲労特性は大きく変化する。しかしながら、AgはSnに固溶しないため、熱疲労特性は大きく変化しない。
またAg含有率は、はんだ材料の融点に影響を与えることから、Ag含有率が4質量%を超えると融点が235℃以上になり、はんだ付け時のぬれ広がりが悪くなるため使用できない。よって、Ag含有率の最大値は4質量%とした。またAg含有率が小さくなると、Ag3SnのSn相への析出量が少なくなり、機械的強度の特性が低下するため、Ag含有率の最小値は0.3質量%とした。
次に、実施形態におけるはんだ材料を構成するBiの含有率は、以下の理由により決定している。最小値は、表4で説明したように、はんだ材料の熱疲労特性に影響を与えないことからゼロも可能である。またBiははんだ合金内部で偏析する性質を持つことから1質量%を超えると偏析量が多くなり、合金が脆くなるため使用できない。よって、Bi含有率の最大値は1質量%とした。
以上から、Ag及びBiははんだ材料の熱疲労特性に大きな影響を与えないため、Sn−Ag−Bi−Inの組成を持ったはんだ材料でのIn含有率の効果は、Sn−Ag−InやSn−Bi−Inの組成を持ったはんだ材料でも同様に扱うことができると考える。ただし、Sn−Bi−Inの組成を持ったはんだ材料では、Ag含有率がゼロであるので機械的強度が低下するおそれがある。
以上の説明から明らかであるように、本発明のはんだ材料は、Pを含むNiめっきを有するAu電極のはんだ付けに好適に用いることができる。この場合のAu電極は、Au基板電極でもAu部品電極でもいずれでもよい。またNiめっきは、3〜15質量%のP、好ましくは5〜10質量%のP、残部はNiの組成を持っている。
また上記のはんだ材料は、
0.3≦[Ag]≦4.0のAgと、
0≦[Bi]≦1.0のBiと、
0<[Cu]≦1.2のCuとを含んでいる。
そして、0<[Cu]<0.5の範囲内では、
6.0≦[In]≦6.8の範囲内のInを含み、
0.5≦[Cu]≦1.0の範囲内では、
5.2+(6−(1.55×[Cu]+4.428))≦[In]≦6.8の範囲内のInを含み、
1.0<[Cu]≦1.2の範囲内では、
5.2≦[In]≦6.8の範囲内のInを含み、
残部は、87質量%以上のSnのみである。
上記のはんだ材料をCu電極のはんだ付けに用いる場合には、In含有率が低下しない。そのため、上記のはんだ材料は、Cu基板電極とCu部品電極との組み合わせにも好適に使用することができる。このように、本発明のはんだ材料によれば、電子回路基板と電子部品とをはんだ付けにより接合する際にAu電極とCu電極とが混在していても、良好な熱疲労特性を有するはんだ部を形成することが可能である。
Cu含有率の下限値は、電極のCu喰われ防止のため微量のCuが含有されていればよいが、QFP、BGA等の大型半導体部品が使える、引張強度が65MPa以上を満たす0.5質量%以上が好ましい。
特に、0.5〜3.8質量%のAgと、
0.2〜1.0質量%のBiと、
6.0〜6.8質量%のInと、
0.2〜1.2質量%のCuとを含み、
残部は、87.2質量%以上のSnのみであるはんだ材料が好ましい。
このはんだ材料の具体例としては、例えば、表2の実施例2、参考例3、実施例5〜8、11が挙げられる。これらのはんだ材料は、より厳しい信頼性判定の基準(2250サイクル以上)を満足している。
また、1.8〜3.8質量%のAgと、
0.2〜1.0質量%のBiと、
6.0〜6.7質量%のInと、
0.8〜1.2質量%のCuとを含み、
残部は、87.3質量%以上のSnのみであるはんだ材料がより好ましい。
このはんだ材料の具体例としては、例えば、表2の実施例5、6、8、11が挙げられる。これらのはんだ材料は、より厳しい信頼性判定の基準(2250サイクル以上)を満足し、かつ、引張強度も70MPa以上を満たしている。
また、3.5〜3.8質量%のAgと、
0.6〜1.0質量%のBiと、
6.0〜6.1質量%のInと、
1.1〜1.2質量%のCuとを含み、
残部は、87.9質量%以上のSnのみであるはんだ材料がさらに好ましい。
このはんだ材料の具体例としては、例えば、表2の実施例5、11が挙げられる。これらのはんだ材料は、より厳しい信頼性判定の基準(2250サイクル以上)を満足し、かつ、引張強度も75MPa以上を満たしている。
またBiを含まない場合には、
0.5〜3.2質量%のAgと、
6.0〜6.8質量%のInと、
0.6〜1.1質量%のCuとを含み、
残部は、88.9質量%以上のSnのみであるはんだ材料が好ましい。
このはんだ材料の具体例としては、例えば、表4の実施例30、参考例32、実施例34、37、38が挙げられる。これらのはんだ材料は、より厳しい信頼性判定の基準(2250サイクル以上)を満足している。
またBiを含まない場合には、
2.8〜3.2質量%のAgと、
6.0〜6.2質量%のInと、
0.85〜1.1質量%のCuとを含み、
残部は、89.5質量%以上のSnのみであるはんだ材料がより好ましい。
このはんだ材料の具体例としては、例えば、表4の実施例30、34、38が挙げられる。これらのはんだ材料は、より厳しい信頼性判定の基準(2250サイクル以上)を満足し、かつ、引張強度も70MPa以上を満たしている。
本発明の接合構造体は、基板電極を有する電子回路基板と、部品電極を有する電子部品とを備えている。ここで、電子回路基板としては、例えば、各種のFRグレード(Flame Retardant Grade)の絶縁基板にパターン形成されたものが挙げられる。また電子部品としては、例えば、チップ部品や、QFP(Quad Flat Package)、BGA(Ball Grid Array)等の大型半導体部品や、アルミ電解コンデンサ、モジュール部品等の大型部品や、コイル、トランス等の重量部品などが挙げられる。
上記の接合構造体において、基板電極と部品電極のうちの少なくとも一方はAu電極である。例えば、基板電極がAu電極(Au基板電極)、部品電極がCu電極(Cu部品電極)の場合、基板電極がCu電極(Cu基板電極)、部品電極がAu電極(Au部品電極)の場合、基板電極がAu電極(Au基板電極)、部品電極がAu電極(Au部品電極)の場合が挙げられる。
そして、上記の接合構造体において、基板電極と部品電極とが、本発明のはんだ材料によって接合されている。本発明のはんだ材料は、上述のように、表2〜表4の実施例1、2、参考例3、実施例4〜8、参考例9、実施例10〜15、参考例16、実施例17〜21、参考例22、実施例23〜27、参考例28、実施例29〜31、参考例32、実施例33〜38、参考例39に示す信頼性判定の結果から、Au電極及びCu電極に対するはんだ付けにおいて、車載商品の信頼性評価を満足している。したがって、電子回路基板と電子部品とをはんだ付けにより接合する際にAu電極とCu電極とが混在していても、良好な熱疲労特性を有するはんだ部を形成することが可能である。なお、はんだ材料に含まれているCuの含有率は、Au電極のNiめっきが含むPの含有率に応じて適宜変更することが可能である。
図9に本発明における実施形態の接合構造体700の模式的な断面図を示す。接合構造体700は、Au基板電極731、732を有する電子回路基板730と、Cu部品電極721を有する電子部品720及びAu部品電極741を有する電子部品740とが、はんだ付けによって接合されている。この接合構造体700において、電子回路基板730のAu基板電極731と、電子部品720のCu部品電極721とは、はんだ部711によって接合されている。また、電子回路基板730のAu基板電極732と、電子部品740のAu部品電極741とは、はんだ部712によって接合されている。そして、上記のはんだ部711、712は、Sn−Ag−Bi−In−Cu又はSn−Ag−In−Cuの組成を持つ、本発明のはんだ材料によって形成されている。表2〜表4の実施例1、2、参考例3、実施例4〜8、参考例9、実施例10〜15、参考例16、実施例17〜21、参考例22、実施例23〜27、参考例28、実施例29〜31、参考例32、実施例33〜38、参考例39に示す信頼性判定の結果からも明らかなように、上記の接合構造体700は、車載商品の信頼性試験の要求仕様を満たすものである。上記の接合構造体700において、Au基板電極731、732がCu基板電極であってもよい。
図10(a)は、電子回路基板200のAu基板電極210と、電子部品のCu部品電極320とのはんだ付け前の様子を模式的に示す断面図である。Au基板電極210は、電子回路基板200の側から、Cu電極211、Niめっき212、Auフラッシュめっき213とを備えている。このときAu基板電極210とCu部品電極320との間に、Sn−Ag−Bi−In−Cuの組成を持ったはんだ材料100が介在されている。図10(b)は、電子回路基板200のAu基板電極210と、電子部品のCu部品電極320とのはんだ付け後のはんだ部110の様子を模式的に示す断面図である。Au基板電極210は、Pを含むNiめっき212を有しているが、はんだ付け後にAu基板電極210とはんだ部との間には、(Cu0.7,Ni0.3)6Sn5等の(Cu,Ni)Sn化合物130が生成される。この(Cu,Ni)Sn化合物130がはんだ材料100中のIn含有率の低下を防ぐことに役立つ。他方、Cu部品電極320とはんだ部110との間には、Cu6Sn5化合物120が生成される。このCu6Sn5化合物120の生成にInは関与しないため、はんだ材料100中のIn含有率の低下は発生しない。なお、図10(a)(b)において電子部品は図示省略している。
図11(a)は、電子回路基板200のCu基板電極220と、電子部品のAu部品電極310とのはんだ付け前の様子を模式的に示す断面図である。Au部品電極310は、電子部品の側から、Cu電極311、Niめっき312、Auフラッシュめっき313とを備えている。このときCu基板電極220とAu部品電極310との間に、Sn−Ag−Bi−In−Cuの組成を持ったはんだ材料100が介在されている。図11(b)は、電子回路基板200のCu基板電極220と、電子部品のAu部品電極310とのはんだ付け後のはんだ部110の様子を模式的に示す断面図である。Au部品電極310は、Pを含むNiめっき312を有しているが、はんだ付け後にAu部品電極310とはんだ部110との間には、(Cu0.7,Ni0.3)6Sn5等の(Cu,Ni)Sn化合物130が生成される。この(Cu,Ni)Sn化合物130がはんだ材料100中のIn含有率の低下を防ぐことに役立つ。他方、Cu基板電極220とはんだ部110との間には、Cu6Sn5化合物120が生成される。このCu6Sn5化合物120の生成にInは関与しないため、はんだ材料100中のIn含有率の低下は発生しない。なお、図11(a)(b)において電子部品は図示省略している。
図12(a)は、電子回路基板200のAu基板電極210と、電子部品のAu部品電極310とのはんだ付け前の様子を模式的に示す断面図である。Au基板電極210は、電子回路基板200の側から、Cu電極211、Niめっき212、Auフラッシュめっき213とを備えている。Au部品電極310は、電子部品の側から、Cu電極311、Niめっき312、Auフラッシュめっき313とを備えている。このときAu基板電極210とAu部品電極310との間に、Sn−Ag−Bi−In−Cuの組成を持ったはんだ材料100が介在されている。図12(b)は、電子回路基板200のAu基板電極210と、電子部品のAu部品電極310とのはんだ付け後のはんだ部110の様子を模式的に示す断面図である。Au基板電極210は、Pを含むNiめっき212を有しているが、はんだ付け後にAu基板電極210とはんだ部110との間には、(Cu0.7,Ni0.3)6Sn5等の(Cu,Ni)Sn化合物130が生成される。同様に、Au部品電極310は、Pを含むNiめっき312を有しているが、はんだ付け後にAu部品電極310とはんだ部110との間には、(Cu0.7,Ni0.3)6Sn5等の(Cu,Ni)Sn化合物130が生成される。この(Cu,Ni)Sn化合物130がはんだ材料100中のIn含有率の低下を防ぐことに役立つ。なお、図12(a)(b)において電子部品は図示省略している。