以下、本願発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明のバイオ燃料電池は、電池セル内部に、正極、負極、及び前記正極及び前記負極の間に挟持された電解質層を備える。前記正極及び前記負極の少なくとも一方は酵素電極として構成される。正極側には、正極に外気を供給する通気構造部が配設され、負極側には、負極に燃料を供給する燃料供給部が配設されている。
本発明のバイオ燃料電池は、電池セル内部の相対湿度が所定の範囲内に調整されている。好ましくは、正極側は相対湿度77〜90%、負極側は相対湿度64〜90%に調整される。特に好ましくは、電池セル内部が77〜90%の相対湿度に調整されることが好ましい。
ここで、本発明の好適実施形態のバイオ燃料電池について、当該バイオ燃料電池の電池セルを模式的に表した概念図である図1を用いて説明する。なお、以下において、「湿度」と称する場合には、「相対湿度」を表す。本発明の好適実施形態のバイオ燃料電池は、図1の各構成要素を積層することにより電池セルが構築される。ただし、本発明は、かかる実施形態に限定されると解釈されるべきではない。
図1において、外枠100a、100bの内側に外部回路によって接続された負極21と正極22が電解質層31を挟んで配置されており、負極21及び正極22の少なくとも一方は酵素電極として構成される。負極21に隣接して燃料保持部1が配設され、燃料を負極21に供給するように構成される。正極22に隣接して外気に開放される通気構造部4が配設され、外気が正極22に供給されるように構成されている。
通気構造部4は外枠100bに配設された防水膜5により外部との境界が形成され、外枠100b、正極22、及び防水膜5で囲まれた空間として形成されている。外気は防水膜5を介して電池セル内部に取り込まれる。また、燃料保持部にも防水膜6が配設され燃料保持部1からの外気への燃料液の蒸発を防いでいる。
本発明のバイオ燃料電池の電池セル内部の水分含有量が適切に調整され、所定の範囲内に湿度が維持されている。好ましくは、正極側は湿度77〜90%、負極側は湿度64〜90%に調整される。特に好ましくは、バイオ燃料電池の電池セル内部は湿度77〜90%に調整されるが好ましい。湿度の調整は、好ましくは、湿度制御機構7を介して行うように構成することができる。
負極21と外枠100aの間、及び正極22と外枠100bの間には、それぞれ集電板103a、103bが配設され、一端が端子出しのため外枠100の外に延出されて構成されている。また、ここでは図示しないが、外枠100aと集電板103aの間、集電板103aと負極21の間、正極22と集電板103bの間、及び集電板103aと外枠100bとの間に、必要に応じてスペーサーを配設することができる。
以下、本発明の各構成要素について詳細に説明する。
本発明のバイオ燃料電池は、電池セルの内部空間の水分含有量が適切に調整され、所定の範囲内に湿度が維持されている。好ましくは、正極22側は湿度77〜90%の範囲内に調整される。高湿度環境はカビの発生の誘因となり、カビの発生は正極の性能を劣化させバイオ燃料電池の出力電圧の低下を招く。しかしながら、極端な低湿度環境も好ましくない。正極側の正常な作動のためにはある程度の湿度、例えば、湿度45%以上であることが必要であると考えられる。したがって、上記範囲内に適切に湿度を調整することにより、カビの発生を抑制しつつ正極の性能を長期にわたって維持することができる。これにより、バイオ燃料電池の安定的かつ持続的な運転が可能となる。特には、湿度を平均84〜85%程度に維持することにより、正極におけるカビの発生を効果的に抑制できる。
一方、負極21側は湿度64〜90%の範囲内に調整されることが好ましい。湿度変化が負極21側に与える影響として燃料の蒸発があり、低湿度環境は燃料の蒸発を促進し、かかる燃料の蒸発も出力電圧の低下の誘因となる。例えば、平均湿度50%以下では、燃料の蒸発が顕著となり、早期の電圧低下を招く。つまり、燃料液の溶媒の蒸発により燃料液が減少若しくは枯渇する。その結果、負極への燃料供給が円滑に行えなかったり、また、燃料液が高濃度となり、負極への燃料の供給路及び負極の性能の劣化をさせる要因となる。したがって、上記範囲内に適切に湿度を調整することにより、燃料液の蒸発を防止して燃料の円滑な供給を担保しつつ、負極の性能を長期にわたって維持することができる。これにより、バイオ燃料電池の安定的かつ持続的な運転が可能となる。
電池セルの内部空間の湿度は77〜90%の範囲内に調整されることが好ましい。これにより、正極22及び負極21における上記湿度による不具合を効果的に回避し、バイオ燃料電池の安定的かつ持続的な運転を実現することができる。このうち、正極22及び負極21を含めた電池セル内部空間の相対湿度を82〜89%の範囲内に調整するのがより好ましく、さらに、湿度を平均84〜85%程度に維持することが特に好ましい。
湿度の調整は、湿度制御機構7を介して行うように構成することができる。湿度制御機構7は、電池セル内部の湿度を検出する湿度検出部と、所望の湿度に調整する湿度調整部を配設するように構成することができる。湿度検出部で湿度を検出し、検出された湿度が所定の範囲内にない場合に、湿度調整部が作動し、湿度を所定の範囲内になるよう調整できるように構成することが好ましい。ただし、バイオ燃料電池の運転状況による湿度変化を推定できるような場合には、湿度検出部を省略して湿度調整部のみとして構成してもよい。
湿度検出部は、電池セル内部の湿度を検出する。湿度の検出箇所は、電池セル内部における空間であれば、特に制限はない。正極22側については、正極22側に存在する空間であれば、特に制限はなく、負極21側についても同様である。例えば、正極22側の湿度は通気構造部4の空間の湿度を測定することにより決定され、負極21側の湿度は燃料保持部に存在する空間の湿度を測定することにより決定される。
湿度調整部は、電池セル内部の湿度を調整する、即ち電池セル内部の水分量を調整することができるものである。具体的には、加湿又は除湿機能を備えることが好ましく、特には加湿機能を備えることが好ましい。また、両方の機能を備えていてもよい。その場合には、電池セル内部の湿度に応じて、運転を切り替えできるように構成することが好ましい。
加湿機能は、電池セル内部に水分を放出する能力である。正極22では酸素の還元反応に伴い水を発生し、負極21側にも燃料液中に水分が存在する。これらの水の存在による加湿効果をもっても、電池セル内部の湿度が所定の範囲内に達しない時に加湿機能を作動させる。加湿方式としては、水噴霧方式、気化方式、蒸気式方式等の公知のものを利用することができる。具体的には、加湿用の水分を電池セル内部への添加、例えば、水滴を滴下することにより行うことができる。また、水分を含ませた基材、例えば、紙、織布、不織布等を用いて加湿することができる。加湿用の水分ではなく、燃料液を用いて湿度の調整を行うことができる。これは、燃料液中の水分の蒸発に伴い電池セル内部を加湿するものである。電池セル内部の湿度が低い場合には燃料液の蒸発が促進され、一方、湿度が十分に高い場合には燃料液の蒸発が抑えられることにより、湿度を調整することができる。この場合には、加湿の為の追加の部材を必要とせず、バイオ燃料電池の小型化及び簡便化を図ることができる。適時の燃料液の補充により湿度を所定の範囲内に保持することができる。一方、除湿機能は、電池セル内部の水分を除去する能力であり、冷却方式、圧縮方式、吸着方式、吸収方式等の公知のものを利用することができる。
湿度制御機構7は、電池セルの内部の湿度調整を行うことができる位置に配設される。例えば、通気構造部4の空間に配設することができる。通気構造部4を、外枠100b、正極22、及び防水膜5で囲まれた空間として形成した場合には、この空間に配設することができる。これにより、特に、カビの発生が問題となる正極22側の相対湿度を所定の範囲内に適切かつ簡便に維持することが可能となる。正極22は通気構造部4からの酸素を利用して還元反応を行って水を発生する。したがって、通気構造部4の空間に湿度制御機構7を配設することにより、正極22に接触する空気中の水分が正極22の性能上好適な量に調整でき、また、湿度に影響を与える水の発生を即座に反映した湿度調節を行うことができる。さらに、通気構造部4の空間に配設することは、電池セル内において構造上必要とされる空間を利用するものであるため、小型かつ簡便な構造のバイオ燃料電池を提供することができる。
また、湿度制御機構7は、燃料保持部1の空間に形成することもできる。つまり、燃料保持部1の燃料が充填されていない空間を利用するものである。さらに、湿度制御機構7を、湿度制御効果が電池セル内部に及ぶ限りにおいては電池セルの外側に配設することもできる。その場合には防水膜等により両者を一体として包み込んでもよい。ただし、湿度制御機構7は、燃料液、若しくは加湿用の水分の蒸発を防ぐことができる湿度、好ましくは湿度64%以上を保持できる密閉性を有した電池セル筐体を利用することにより、省略することができる。これにより、更に簡便な構造とすることができ、バイオ燃料電池の小型化に貢献することができる。
電極は、電解質層31を介して正極22と負極21を対向させて構築される。電極としては、燃料のもつ化学エネルギーを取出しそれを電子エネルギーに変換し得、かつ、電子伝導性を有するものであれば特に制限はない。具体的には、負極21では酸化反応を行い、正極22では還元反応を行うように構成する。燃料供給性と反応性の観点から、負極21では燃料の酸化反応を行い、正極22では酸素の還元反応を行うように電極を選択することが特に好ましい。
電極触媒としては、燃料からの化学エネルギーを電気エネルギーに変換可能な酵素を利用することができる。酵素電極は、適当な導電性基材上の少なくとも一部に酵素を含む。正極22、負極21の双方を酵素電極として構成してもよいし、負極21のみを酵素電極として、正極22を金属の触媒反応を利用する金属電極等として構成しても良い。
酵素電極として使用される酵素は、酵素の触媒反応と電極反応を共役させ得ることができる限り特に制限は無く、何れをも利用することができる。酵素は単独で、若しくは複数組み合わせて利用することができる。したがって、例えば、任意の酵素と、その酵素に共役する他の任意の酵素とを組み合わせて用いることによって、共役系を構築することもできる。例えば、酸化還元酵素、加水分解酵素、転移酵素等を利用することができる。これに限定するものではないが、酸化還元酵素の利用が好ましい。酸化還元酵素としては、脱水素酵素、オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、ヒロドキシラーゼ、又はオキシゲナーゼ等を含む。具体的には、グルコースオキシダーゼ、乳酸オキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、ピルビル酸オキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、ザルコシンオキシダーゼ、フルクトシルアミンオキシダーゼ、グルコース脱水素酵素、アルコール脱水素酵素、ピルビル酸脱水素酵素、乳酸脱水素酵素、アルコール脱水素酵素、ヒドロキシ酪酸脱水素酵素、及びピリルビンオキシダーゼ、ラッカーゼ等のマルチ銅酵素等を例示することができる。補酵素及び補因子要求性の有無についても特に制限はない。補酵素及び補因子を要求する酵素については、アポ形態、ホロ形態の別をも問わないが、電極反応に際しては活性を発現できるように構成する。したがって、アポ形態として電極上に保持された場合には、補酵素及び補因子を燃料等に封入する等、活性型に変換するための手段を設けることが必要となる。
本発明のバイオ燃料電池においては、負極21は脱水素酵素等の燃料の酸化反応を行う酵素を選択することが好ましい。また、正極22を酵素電極として構築する場合にはオキシダーゼ等の酸素の還元反応を行う酵素を選択することが好ましい。特には、負極側触媒としてグルコース脱水素酵素、正極側触媒としてビリルビンオキシダーゼが好ましい。例えば、実施例で使用した負極側触媒としてアシネトバクター・カルコアセティカス(Acinetobacter calcoaceticus)NBRC12552株由来のグルコース脱水素酵素、正極側触媒として市販のビリルビンオキシダーゼ(天野エンザイム)等を挙げることができる。
アシネトバクター・カルコアセティカスNBRC12552株由来のグルコース脱水素酵素の配列情報は、GENBANK ACCESSION No : 15871(配列番号1(塩基配列)及び配列番号2(アミノ酸配列))から取得することができる。詳細は、Cleton-Jansen,A.M., Goosen,N., Vink,K. and van de Putte,P.他著、「Cloning, characterization and DNA sequencing of the gene encoding the Mr 50,000 quinoprotein glucose dehydrogenase from Acinetobacter calcoaceticus(アシネトバクター カルコアセティカス由来のMr 50,000のキノプロテイン グルコース脱水素酵素をコードする遺伝子のクローニング、特徴付け、及びDNAシークエンシング)」、JOURNAL Mol. Gen. Genet.、第217巻、第2〜3巻、第430〜436頁、1989年)に記載されている。この酵素は、Acinetobacter細菌のペリプラズム画分に存在しており、酸化により得られた電子を呼吸鎖に渡すことでエネルギー生産に関与している。活性の発現には、PQQとカルシウムイオンが必須で、カルシウムイオンは触媒反応に関与する他にホモ2量体形成にも関係していることが知られている。この酵素は、他のグルコース酸化酵素に比べ、反応速度が非常に速く、また溶存酸素の影響を受けにくいという特徴があるため酵素電極として利用価値が非常に高い酵素である。
ビリルビンオキシダーゼは、銅イオンを活性中心に持つマルチ銅オキシダーゼであり、ビリルビンからビルベルジンへの酸化反応を触媒する酵素である。基質から取り出した電子を用いて分子状酸素を電子還元し水分子を生成する反応を触媒するという性質を有することから、燃料電池の正極触媒としての利用価値が高い。
また、酵素の由来も特に限定されない。したがって、天然に存在する細菌、酵母、及び動植物等の任意の生物体から適当なタンパク質の単離精製技術により調製された天然由来のものであってもよく、遺伝子工学的手法により組換え体として製造されたもの、あるいは化学的に合成されたものであってもよい。
遺伝子工学的手法により製造する場合には公知の方法を利用することができる。具体的には、所望の酵素遺伝子の塩基配列を基にして作成したDNAをプローブとして用いるハイブリダイゼーション法により、生物体由来のゲノムDNA、全RNAから逆転写反応によって合成したcDNA等から所望の酵素をコードする核酸分子を調製することができる。多くの酵素のアミノ酸配列及びそれをコードする遺伝子の塩基配列は公知であり、GenBank、EMBL、DDBJ等の遺伝子配列データベースから取得することができる。一例として、上述のアシネトバクター カルコアセティカス由来のグルコース脱水素酵素(GENBANK ACCESSION No : 15871)の配列情報を配列表の配列番号1(塩基配列)及び配列番号2(アミノ酸配列)に示す。また、ここで提示する配列番号3(塩基配列)及び配列番号4(アミノ酸配列)をも利用することができる。ここで用いられるプローブは、所望の酵素と相補的な配列を含むオリゴヌクレオチドであり、常法に基づいて調製することができる。例えば、ホスホアミダイト法等に基づく化学合成法、既に標的となる核酸が取得されている場合にはその制限酵素断片等が利用可能である。このようなプローブとしては、所望の酵素をコードする核酸分子の塩基配列に基づき、この塩基配列の連続する10以上、好ましくは15以上、更に好ましくは約20〜50の塩基からなるオリゴヌクレオチドが例示される。プローブは必要に応じて適当な標識が付されていてもよく、このような標識として放射線同位体、蛍光色素等が例示される。
また、所望の酵素遺伝子の塩基配列を基にして作成したプライマーとして用いるPCRによっても同様に、生物体由来のゲノムDNA、cDNAを鋳型として所望の酵素をコードする核酸分子を調製することができる。PCRを利用する場合に用いられるプライマーは、所望の酵素をコードする核酸配列と相補的な配列を含むオリゴヌクレオチドであり、常法に基づいて調製することができる。例えば、ホスホアミダイト法等に基づく化学合成法、既に標的となる核酸が取得されている場合にはその制限酵素断片等が利用可能である。化学合成法に基づきプライマーを調製する場合には、合成に先立って標的核酸の配列情報に基づいてプライマーの設計を行う。プライマーの設計は、所望の領域を増幅するように、例えばプライマー設計支援ソフト等を利用して設計することができる。プライマーは合成後、HPLC等の手段により精製される。また、化学合成を行う場合には市販の自動合成装置を利用することも可能である。このようなプライマーとしては、所望の増幅領域を挟んで設計され、10以上、好ましくは15以上、更に好ましくは約20〜50の塩基からなるオリゴヌクレオチドが例示される。
ここで、相補的とは、プローブ又はプライマーと標的核酸分子とが塩基対合則に従って特異的に結合し安定な二重鎖構造を形成できることを意味する。ここで、完全な相補性のみならず、プローブ又はプライマーと標的核酸分子が互いに安定な二重鎖構造を形成し得るのに十分である限り、いくつかの核酸塩基のみが塩基対合則に沿って適合する部分的な相補性であっても許容される。その塩基数は、標的核酸分子を特異的に認識するために十分に長くなければならないが、長すぎると逆に非特異的反応を誘発するので好ましくない。したがって、適当な長さはGC含量等の標的核酸の配列情報、並びに、反応温度、反応液中の塩濃度等のハイブリダイゼーション反応条件など多くの因子に依存して決定される。
更に、常法のホスホルアミダイト法等のDNA合成法を利用して、所望の酵素をコードする核酸分子を化学的に合成することができる。
得られた核酸分子用いて、当業者に公知の遺伝子組換え技術により所望の酵素を製造することができる。
具体的には、所望の酵素をコードする核酸分子を適当な発現ベクター中に挿入し、これを宿主に導入することによって形質転換体を作製する。ここで、利用可能なベクターとしては、外来DNAを組み込め、かつ宿主細胞中で自律的に複製可能なものであれば特に制限はない。したがって、ベクターは、外来遺伝子を挿入できる少なくとも1つの制限酵素部位の配列を含むものである。例えば、プラスミドベクター(pEX系、pUC系、及びpBR系等)、ファージベクター(λgt10、λgt11、及びλZAP等)、コスミドベクター、ウイルスベクター(ワクシニアウイルス、及びバキュロウイルス等)等が包含される。ベクターは、外来遺伝子がその機能を発現できるように組み込まれ、機能発現に必要な他の既知の塩基配列が含まれていてもよい。例えば、プロモータ配列、リーダー配列、シグナル配列、並びにリボソーム結合配列等が挙げられる。プロモータ配列としては、例えば、宿主が大腸菌の場合にはlacプロモータ、trpプロモータ等が好適に例示される。しかしながら、これに限定するものではなく既知のプロモータ配列を利用できる。更に、宿主において表現型選択を付与することが可能なマーキング配列等をも含ませることができる。このようなマーキング配列としては、薬剤耐性、栄養要求性などの遺伝子をコードする配列等が例示される。具体的には、カナマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子等が例示される。
ベクターへの外来遺伝子の挿入は、例えば、適当な制限酵素で所望の酵素をコードする核酸分子を切断し、適当なベクターの制限酵素部位、又はマルチクローニング部位に挿入して連結する方法などを用いることができるが、これに限定されない。連結に際しては、DNAリガーゼを用いる方法等、既知の方法を利用できる。また、DNA Ligation Kit(タカラバイオ社)等の市販のライゲーションキットを利用することもできる。
形質転換体の作製に際して宿主となる細胞としては、外来遺伝子を効率的に発現できる宿主細胞であれば、特に制限はない。原核生物細胞を好適に利用でき、特には大腸菌を利用することができる。その他、枯草菌、バシラス属細菌、シュードモナス属細菌等をも利用できる。大腸菌としては、例えば、E.coli DH5α、E.coli BL21、E.coli JM109等を利用できる。更に、原核生物に限定されず真核生物細胞を利用することが可能である。例えば、サッカロマイセス・セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等の酵母、Sf9細胞等の昆虫細胞、CHO細胞、COS-7細胞等の動物細胞等を利用することも可能である。形質転換法としては、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソームフェクション法、マイクロインジェクション法等を既知の方法を利用することができる。
続いて、得られた形質転換体を、導入された核酸分子の発現を可能にする条件下で適切な栄養培地中で培養し、所望の酵素を製造する。培養は、常法に準じて行うことができ、宿主細胞の栄養生理学的性質を勘案して、培養条件を選択すればよい。使用される培地としては、宿主細胞が資化し得る栄養素を含み、形質転換体におけるタンパク質の発現を効率的に行えるものであれば特に制限はない。したがって、宿主細胞の生育に必要な炭素源、窒素源その他必須の栄養素を含む培地であることが好ましく、天然培地、合成培地の別を問わない。例えば、炭素源として、グルコース、デキストラン、デンプン等が、また、窒素源としては、アンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、ペプトン、カゼイン等が挙げられる。他の栄養素としては、所望により、無機塩類、ビタミン類、抗生物質等とを含ませることができる。宿主細胞が大腸菌の場合には、LB培地、M9培地等が好適利用できる。また、培養形態についても特に制限はないが、大量培養の観点から液体培地が好適に利用できる。
所望の組換えベクターを保持する宿主細胞の選別は、例えば、マーキング配列の発現の有無により行なうことができる。例えば、マーキング配列として薬剤耐性遺伝子を利用する場合には、薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤含有培地で培養することによって行うことができる。
形質転換体の培養物から、所望の酵素を単離精製するには、通常のタンパク質の単離、精製法を用いることができる。精製は、上記形質転換体の培養物から、所望の酵素の存在する画分に応じて、一般的なタンパク質の単離精製方法に準じた手法を適用すればよい。具体的には、所望の酵素が宿主細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離、濾過等の手段により宿主細胞を除去して培養上清を得る。続いて、培養上清に、公知のタンパク質精製方法を適宜選択することにより、単離精製することができる。例えば、硫酸アンモニウム沈殿、透析、SDS-PAGE電気泳動、ゲル濾過、疎水、陰イオン、陽イオン、アフィニティークロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィー等の公知の単離精製技術を単独、又は適宜組み合わせて適用することができる。特にアフィニティークロマトグラフィーを利用する場合、所望の酵素をヒスチジンタグ(His Tag)等のタグペプチドとの融合タンパク質として発現させて、かかるタグペプチドに対する親和性を利用することが好ましい。また、所望の酵素が宿主細胞内で産生される場合には、培養物を遠心分離、濾過等の手段により宿主細胞を回収する。続いて、リゾチーム処理などの酵素的破砕方法、又は超音波処理、凍結融解、浸透圧ショック等の物理的破砕方法等により、宿主細胞を破砕する。破砕後、遠心分離、濾過等の手段により可溶化画分を収集する。得られた可溶化画分を、前述の細胞外に生産できる場合と同様に処理することにより単離精製することができる。
また、アミノ酸配列が公知である酵素については、化学的合成技術によっても製造することができる。例えば、所望の酵素のアミノ酸配列の全部、又は一部を、ペプチド合成機を用いて合成し、得られるポリペプチドを適当な条件の下で、再構築することにより調製することもできる。
本発明で使用する酵素はさらに、天然由来の酵素に人為的に変異を施した改変体であってもよい。ここで、改変体とは、天然由来の酵素の特定のアミノ酸に改変が生じている改変部位を有するアミノ酸配列を含むものを意味する。改変とは、改変の基礎となるタンパク質のアミノ酸配列のうち、1又は複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入および付加の少なくとも1つからなる改変が生じていることを意味する。「1又は複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び付加の少なくとも1つからなる改変」とは、改変の基礎となるタンパク質をコードする遺伝子に対する公知のDNA組換え技術、点変異導入方法等によって、欠失、置換、挿入又は付加することができる程度の数のアミノ酸が、欠失、置換、挿入又は付加されることを意味し、これらの組み合わせをも含む。例えば、このような改変体は、アミノ酸レベルで70 %以上、好ましくは80 % 以上、更に好ましくは90 %以上の相同性を保持するものとすることができる。
このような改変体は、公知の変異導入技術を利用することにより作製できる。例えば、部位特異的突然変異誘発法、PCR等を利用して点変異を導入するPCR突然誘発法、あるいは、トランスポゾン挿入突然変異誘発法などの公知の変異導入技術を利用することができる。市販の変異導入用キット(例えば、QuikChange(登録商標)Site-directed Mutagenesis Kit(Stratagene社製)等を利用してもよい。また、常法のホスホルアミダイト法等のDNA合成法を利用して、所望の改変を施した酵素をコードする核酸分子を構築することによって行なうことができ、これを、上記した当業者に公知の遺伝子組換え技術により所望の酵素を製造することができる。
酵素電極とする場合、酵素は導電性基材上に保持される。好ましくは、酵素は導電性基板上に固定化される。酵素の固定化は、公知の方法の何れをも利用して行うことができる。例えば、共有結合、物理的吸着、イオン結合、抗体等の生物化学的特異的結合による担体結合法、2以上の官能基をもつ試薬による架橋法、ゲル内に封入する包括法等によって固定化することができる。また、これらを組み合わせてもよく、各々の酵素に最適化な酵素固定化法を適宜選択することが望ましい。包括法としては、種々の天然高分子や合成系高分子等の網目状の三次元構造を持つゲル内に封入する格子型を利用することができる。ゲル化剤としては、ゲル燃料の支持体として上記で例示したものを好適に利用することができ、親水性のポリマーの利用が好ましい。また。透析膜等の半透性膜によって封入するマイクロカプセル型、リン脂質のような液体膜によって封入するリポソーム型等を利用することができる。更に、酵素は結晶状態で固定化してもよく、予め調製した酵素結晶を導電性基板上に固定化しても、また導電性基板上で酵素結晶を調製することにより固定化してもよい。
導電性基材としては、外部回路に接続可能で電子を伝達できる基材であれば特に制限はない。グラファイト、グラッシーカーボン、カーボンペーパー、カーボンフェルト、カーボンクロス等のカーボン材、アルミニウム、銅、金、白金、銀、ニッケル、パラジウム等の金属又は合金、SnO2、In2O3、WO3、TiO2等の導電性酸化物等が例示できるが、これらに限定するものではない。従来公知の材質の導電性基材を使用することができる。また、これを単層又は2種以上の積層構造をもって構成してもよい。また、導電性向上のため、市販のケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭粉末等の導電性カーボン微粒子を基材に塗布してもよい。導電性基材の大きさ及び形状等は特に限定されるものではなく、使用目的に応じて適宜調整することができる。特に本発明の酵素結晶固定化電極は、マイクロメートルオーダーに電極面積を小さくした微小電極として構成することができる。
燃料保持部1には、その内部に燃料が充填され、内部に充填された燃料を負極21に接触可能に送液できるように構成される。そのため、燃料保持部1は、負極21に燃料を送液するための燃料送液口と、外部から燃料保持部1に燃料を供給するための燃料供給口を有して構成することができる。燃料保持部1は、外枠100aを貫通して形成された空間内に配設することができ、また、外枠100aを燃料保持部1としての機能を有するように構成してもよい。燃料保持部1と外枠100aとを別部材で構成する場合には、好ましくは、外枠100aの外部に開放される開口と燃料保持部1の燃料供給口の位置を合わせて構成する。また、外枠100aの開口及び燃料保持部1の燃料供給口の何れか一方、若しくは双方が、選択的に外部に開放、及び外部から遮断できる開閉式として構成することもできる。燃料保持部1には、燃料保持部1からの燃料の外部への蒸発を防ぐため、防水膜6を配設することができる。更に、必要に応じて、負極21との接触後の燃料溶液を回収するための廃液収納部を設けてもよい。
燃料としては、電極上で進められる酸化還元反応により電子を放出可能な物質であれば特に制限はない。したがって、燃料は、電極触媒の種類に応じて適宜選択することができる。好ましくは、バイオマス燃料である。バイオマスとは生物由来の資源を意味し、これら自体でもよいが、これらを加工したものが好ましい。例えば、糖類としては、単糖類、二糖類、多糖類などを使用することができる。単糖類としては、炭素数4のエリトロース、トレオース、エリトルロース、炭素数5のアラビノース、キシロース、リボース、リキソース、リブロース、炭素数6のグルコース、ガラクトース、タロース、マンノース、ソルボース、フルクトース、タガソース、ソルボース等が挙げられる。二糖類としては、マルトース、ラクトース、スクロース等を、また、多糖類としては、デンプン、グリコーゲン、セルロース等を例示できる。糖類以外にも、ピルビン酸、オキサロ酢酸、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、グルタル酸、グルコン酸、フタル酸、乳酸、マロン酸、酢酸、プロピオン酸、グルコース−6−リン酸、フルクトース-6-リン酸、フルクトース-1,6-ビスリン酸、グリセルアルデヒド−3−リン酸、1,3-ビスホスホグリセリン酸、3-ホスホグリセリン酸、2-ホスホグリセリン酸等の有機酸、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、脂肪類、ペプチド、タンパク質等のポリアミノ酸類、アミン類等を用いることができる。
燃料は水等の適当な溶媒に溶解若しくは懸濁させた燃料液として構成することが好ましい。燃料液は、燃料の他に、電極触媒と燃料との酸化還元反応の場として至適な環境を与えるため緩衝物質を含有して構成されていてもよく、緩衝物質により酵素が機能しやすいpH付近に制御することができる。このとき、緩衝物質は、公知の緩衝物質を使用することができる。更に、燃料液に、電子メディエーターを含ませて構成してよい。電子メディエーターとしては、電極触媒による触媒反応と電極との間の電子授受を媒介できるものであれば特に限定されない。例えば、フェロセン、フェリシアン化物、キノン類、シトクロム類、ビオロゲン類、フェナジン類、フェノキサジン類、フェノチアジン類、フェレドキシン類およびその誘導体等が例示されるが、電極触媒の種類に応じて最適な物質を選択すればよい。更に、負極21の電極触媒として補酵素要求性酵素を利用する場合には、燃料に補酵素を添加することが好ましい。ただし、補酵素が酵素から容易に脱離しない場合には、補酵素の添加は不要、若しくは低濃度でよい。例えば、酵素と補酵素をポリマーで封入した場合、酵素に補酵素の脱離を防止する改変を施した場合などが想定される。
通気構造部4は、外気に開放され、外気が正極22に供給されるように構成されている。通気構造部4は、外枠100bを貫通して形成された空間として形成することができ、別途、当該空間内に適切な部材を用いて構築してもよい。通気構造部4には防水膜5を配設することができ、電池セル内部からの水分の外部への蒸発を防ぐ。この場合には、通気構造部4は、外枠100bに配設された防水膜5により外部との境界が形成され、外枠100b、正極22、及び防水膜5で囲まれた空間として形成される。また、通気構造部4の外部への開口が、選択的に外部に開放、及び外部から遮断できる開閉式として構成してよい。
負極21側に配設される防水膜6は、電池セル内部から外気への水分の蒸発を防ぐ性質を有する素材で形成されることが好ましい。つまり、水蒸気等の気体態様を含めた水分子を透過させない素材であることが好ましい。ここで、水分子を透過させないとは、水分子が全く透過しないことの他、一定の湿度以上となった場合には水分子の透過率が上昇するものであってもよい。燃料保持部1を含めた負極21側は、内部空間内での燃料液の気化に伴い湿度が上昇し、上記した所定の湿度範囲を超えることが想定される。この場合には、水分子は、防水膜6を透過し外気に放出されることが好ましい。ここで、上記所定の湿度範囲は64〜90%であり、例えば、湿度90%を超えるような場合には水分子の透過が促され、湿度64%未満となる場合には水分子の透過を完全に遮断するか、透過しても僅かな水分子の透過のみに透過率を低減できるものであることが好ましい。
更に、負極21側に配設される防水膜6は、燃料の酸化反応によって発生する二酸化炭素を透過できる性質を併せ持つことが好ましい。しかしながら、発生した二酸化炭素を適宜、抜き取るような構成とした場合には、二酸化炭素透過性を有しなくてもよい。防水膜6として二酸化炭素を透過できる素材を利用する場合には、二酸化炭素透過性/水透過性が1に近いか1より大きなものが好ましい。そのような素材は、アズワン社が公開している「プラスチックのガス透過性」データ(http://www.as-1.co.jp/academy/17/17-4.html)を参照して選択することができる。具体的には、ブチルゴム、ポリエチレン、シリコーンゴム等が例示できる。
負極21側の防水膜6は、電池セル内部、特には、負極21側の空間の湿度を所定の範囲内に維持できる限り、何れの位置に配設されていてもよい。例えば、燃料保持部1と外気の接触面を被覆するように配設してもよいし、若しくは、燃料保持部1の外気との直接的な接触を遮断できるように外枠100aの開口を被覆するように配設してもよい。また、燃料保持部1の外表面上の、その内部と連通可能な領域のみを被覆するように配設してもよい。例えば、上記した燃料供給口を被覆するように配設してもよい。しかしながら、燃料保持部1を外気と完全に遮断して構成した場合等には、負極21側の防水膜6を省略してもよい。
正極22側に配設される防水膜5は、大気中の酸素を透過できる性質を有すると共に、電池セル内部から外気への水分の蒸発を防ぐ性質を有する素材で形成されることが好ましい。つまり、水分に関しては、水蒸気等を含めた気体態様を含めた水分子を透過させないことが好ましい。ここで、水分子を透過させないとは、上記した通りである。例えば、通気構造部4に隣接する正極22では外気から取り込んだ酸素の還元反応に伴い水が発生するが、この水が内部空間内で気化することにより正極22及び通気構造部4を含めた正極22側の湿度が上昇し、上記所定の湿度範囲を超えることが想定される。この場合に、水分子が防水膜5を透過し外気に放出されることが好ましい。ここで、上記所定の湿度範囲は、好ましくは正極側で湿度77〜90%であり、例えば、湿度90%を超えるような場合には水分子の透過が促され、一方で、湿度77%未満となる場合には水分子の透過を遮断するか、透過しても僅かな水分子の透過のみに透過率を低減できるものであることが好ましい。
素材の性質は、例えば、単位時間当たり、単位面積当たりの酸素透過率(g/m2/24時間)、水蒸気透過率(g/m2/24時間)等で定義することができる。水蒸気透過率は低く、かつ酸素透過率/水蒸気透過率の比率が大きい素材が好ましい。特に、水蒸気透過率が100g/m2/24時間以下、かつ酸素透過率/水分透過率の比率が0.1以上であることが好ましい。素材としては、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂(ポリフッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン(Poly(vinylidene fluoride-hexafluoropropylene))、フッ化エチレンプロピレン共重合体(Fluorinated ethylene-propylene copolymer)等)、ポリ塩化ビニル等を挙げることができるが、好ましくは、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレンであり、特に好ましくは、低密度ポリエチレンを使用できる。なお、ポリエチレンはエチレンが重合した高分子であるが、重合法によって、分子量、構造、結晶性、密度が異なることから、低密度ポリエチレン及び高密度ポリエチレンに分類される。低密度ポリエチレンとは、高温、高圧条件下で反応させて製造されることから、短くランダムに分岐した構造を有する。したがって、結晶化度が低く、密度が好ましくは約0.91〜0.93程度のものを指す。低密度ポリエチレンとして、市販のジップロック(登録商標)等を使用することもできる。一方、高密度ポリエチレンとは、金属酸化物、アルキルアルミニウム等を触媒として、常圧またはわずかな加圧下でエチレンを重合させることにより製造されるものであり、密度が好ましくは0.94〜0.96程度のものを指す。
正極22側の防水膜5は、正極22への酸素の供給と、電池セル内部、特には正極側の空間の湿度を所定の範囲内に維持できる限り、何れの位置に配設されていてもよい。例えば、通気構造部4が、外枠100bを貫通して構築された空間として形成した場合には、当該外枠100bの外部への開口を被覆するように配設することができる。別部材を用いて通気構造部4を形成した場合にも、通気構造部の外気取り込みのための開口を被覆するように配設することができる。
上記した通り、負極側21側の防水膜6及び正極22側の防水膜5は、電池セル内部、特には、燃料液等からの外気への水分の蒸発を防げ、かつ正極22への酸素の供給との目的を達成することができる限り、何れの部位に配設されていてもよい。したがって、両者を一体として電池セルの全体を包み込むように形成してもよい。
このように防水膜5、6を設けることにより、電池セル内部の湿度を適切に制御することが可能となる。つまり、電池セルの内部から外気への水分の蒸発による乾燥を防ぐことができ、燃料液の蒸発防止にも効果的である。これにより、酵素電極への燃料液等の供給が安定的かつ持続的に行われ、酵素電極が安定的かつ持続的にその機能を発現できる環境を維持でき、バイオ燃料電池の耐久性を向上させることができる。特に、正極22側の防水膜5として、外気への水分の蒸発を防ぐ性質を有すると共に、大気中の酸素を透過できる性質を有する素材を選択することにより、正極22の反応に必要な酸素を十分に供給した上で、水分蒸発による乾燥を防ぐことができる。つまり、これにより、高い発電効率を維持しつつ、更なる耐久性の向上を図ることができる。
電解質層31は、水素イオン透過性を有するが、電子透過性を有しない素材により形成される限り、特に制限はない。更に、メディエーター透過性を有しない素材であることが望ましい。本発明のバイオ燃料電池は、発電機構は、まず、負極21での燃料の酸化反応で電子と水素イオンが発生する。電子は外部回路を経て、水素イオンは電解質層31を透過して正極22に移動し、正極22で、この酸素と電子、外気から取り込んだ酸素を使用して還元反応を起こすものである。したがって、電解質層31は、かかる発電機構に適合するものであることが必要であり、水素イオン透過性を有するが、電子透過性を有しないものであることが好ましい。特に、バイオ燃料電池の出力する電流は水素イオンの電解質層31の透過速度に比例する。そのため、電解質層31の選択はバイオ燃料電池の出力を左右する重要な構成要素となる。
電解質層31としては、液体及び固体の別を問わないが、例えば、固体電解質膜を利用することができる。固体電解質膜は、ポリマーの高分子主鎖に酸性基が側鎖として高密度に結合した構造を有し、隣り合う酸性基に順次水素イオンを伝達することにより、負極側から正極側に水素イオンを透過させることができる。このような固体電解質膜として、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基等の酸性基を持つポリマー膜等を利用することができる。ここで、好適な固体電解質膜として、パーフルオロカーボン系ポリマー膜、ベンゾイミダゾール系ポリマー膜等のイオン交換膜が例示される。パーフルオロカーボン系ポリマー膜として疎水性テフロン骨格とスルホン酸基を持つパーフルオロ側鎖から構成されるパーフルオロスルホン酸系ポリマー膜の一種であるナフィオン(登録商標)膜を利用でき、ベンゾイミダゾール系ポリマー膜としてポリベンゾイミダゾール/H3PO4(PBI/ H3PO4)膜(愛産研ニュース11月号(2008.11)を参照のこと)を利用することができる。
また、電解質層31として、細孔フィリング電解質膜を利用することができる。細孔フィリング電解質膜とは、多孔質基材のサブミクロンサイズの微細孔中に電解質ポリマーを充填した電解質膜であり、基材及びポリマーの設計によりイオン伝達速度の制御を行うことができるというものである。例えば、ポリオレフィン系多孔質基材に2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(ATBS)系のポリマーを充填したもの(東亞合成グループ研究年報TREND2006第7号等を参照のこと)を利用することができる。
電解質層31として、固体電解質膜等のように酸性基による水素イオン透過作用を利用する場合には、その酸性基を不活性化させることが好ましい。酸性基を不活性化することにより、酵素電極の失活を抑制若しくは緩和することができる。ここで、酸性基の不活性化とは、酸性基が、電離した水素イオンの代わりにプラスに帯電している原子や分子等で置換されている状態を意味する。例えば、ナトリウムイオンやカリウムイオン、リチウムイオン等のアルカリ金属イオンやその他の金属イオン、分子イオン等で置換されることを意味する。不活性化処理としては、酸性基をこれらのイオンに接触させることにより行うことができる。接触は公知の手段により行うことができるが、例えば、これらイオンを含む水溶液に固体電解質膜を浸漬させることにより、また固体電解質膜に当該水溶液を滴下若しくは噴霧すること等によって行うことができる。
酸性基の不活性化は、固体電解質膜上の酸性基の一部若しくは全部を対象とする。このとき、全ての酸性基が不活性化され上記イオンにより置換されたとしても、酸性基とイオンの間は解離反応と結合反応が平衡状態にある。したがって、負極における燃料の酸化反応により生じた水素イオン濃度が高くなるに従って、酸性基が水素イオンにより再置換され、負極21側から正極22側に水素イオンを順次伝達していくことができる。つまり、不活性化の程度は水素イオン透過性の面からは特に制限はない。
このように電解質層31として電解質膜を設けることにより、負極21から正極22への水素イオンの円滑な伝達を達成できるだけなく、負極メディエーター分子の負極21から正極22への漏出、又は正極メディエーター分子の正極22から負極21への漏出による電池セル内部の反応妨害をも防げるとの利点を有する。また、電極酵素の離脱を防止できるとの利点も有する。更に、酵素要求性酵素を電極触媒として利用する場合にも利点がある。つまり、酵素電極からの補酵素の拡散を防止することができ、酵素電極が安定的かつ持続的にその機能を発現できる。
ここで、電解質膜として、一定の大きさ以下の分子又はイオンのみを透過することができる素材、いわゆる半透膜の使用も想定されるが、本発明においては適当ではない。例えば、セルロース膜は500Da程度以下の物質を透過させることができる。したがって、これを利用することにより、水素イオンを透過させることができるが、100時間程度経過すると、メディエーター分子等の拡散による対極の反応妨害が問題となり、好ましくない。
また、ここでは図示しないが、電解質層31と酵素電極の間に保護層を配設することができる。保護層は、酵素を電解質層31として電解質膜を利用した場合等に、電解質膜の酸性基等の活性基から電極触媒である酵素を保護するものである。電解質膜として、例えば固体電解質膜のナフィオン(登録商標)を利用した場合には、スルホン酸基のような酸性基による酵素の失活が問題となり、特に200時間程度経過した後にその問題が顕著になる。保護層を電解質層31と酵素電極との間に配設することにより、電解質層31と酵素電極の直接的な接触がなくなり、電極触媒である酵素が、安定的かつ持続的にその触媒機能を発現できるようになる。
上記酵素の保護機能を発現するため、保護層は酵素の働きを阻害するものではないことが必要である。つまり、酵素の働きを阻害しない温和な化学的性質が要求される。したがって、化学的に活性な官能基を有さず、中性付近のpHを有し、かつ疎水性が強くないことが要求される。更に、保護層は、バイオ燃料電池の正常な作動のために電解質層31の働きを阻害するものであってはならず、かつ保護層自体も水素イオンを透過させることができるものあることが必要である。具体的には、水素イオンが通過できるサイズの細孔を有するものであることが必要である。つまり、溶媒もしくは水素イオンサイズの物質を通過させるが、高分子の溶質を透過させることができない半透膜を利用することができる。
好適な保護層としては、セルロース、アラミド、ガラス、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリエチレン、ゴム、シリコーンゴムのような素材を利用して形成することができ、紙、織布、不織布、フィルム等の形態とすることができる。更に、保護層は酵素電極が電解質層に直接接触することを防ぐものであるので、かかる目的を達成できる限り、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)パンチングシート、金網の細かな金属メッシュ、発泡金属板等も使用することができる。
保護層は、電解質層31と酵素電極の間に配設される。したがって、正極22及び負極21の双方を酵素電極として構築する場合には、保護層は固体電解質膜等の電解質層31を挟み込むように正極22側及び負極21側の双方に配設することが好ましい。また、正極22及び負極21の何れか一方のみを酵素電極として構築する場合には、電解質層31の酵素電極側のみに配設すればよい。したがって、正極22をPt触媒電極などの金属電極とした場合には、正極22側には保護層を設ける必要はない。ただし、この場合にも双方に設けることを妨げるものではない。
このように保護層を配設することにより、電解質層31と酵素電極の直接的な接触を防ぐことができる。特に、電解質層31として電解質膜を利用した場合等に、当該の電解質膜の酸性基等による酵素の変性を抑制及び緩和することができる。特に、保護層を、水素イオンを透過させる細孔を有し、かつ酵素の失活を招かない温和な化学的性質を有する素材で形成することにより、バイオ燃料電池の出力に大きな影響を与える水素イオンの伝達機能を損なわずに、酵素を変性から防御することができる。つまり、バイオ燃料電池の出力を維持しつつ、耐久性をも向上させることが可能となる。更に、上述の電解質膜の酸性基の不活性化と相俟って、酵素の変性による失活を効果的に抑えることができる。これにより、酵素電極が安定的かつ持続的にその機能を発現でき、バイオ燃料電池の耐久性を向上させることができる。なお、保護層の素材の選択により、完全に電解質膜と酵素電極との直接的な接触を遮断できる場合には、上記した電解質膜の酸性基の不活性化は不要あるいは緩和できる。
電解質層31として電解質膜を採用した場合には、水素イオン透過性の面からは電解質膜は薄い方が望ましい。しかしながら、薄すぎた場合は機械的強度が低いため破断等によるメディエーター分子の溶出や負極21と正極22の接触の原因となるため、好適には10〜200μmの膜厚のものが使用される。保護層も同様の理由により、好適には10〜200μmの膜厚のものが使用される。
なお、電解質層31と保護層は、負極21及び正極22を隔てることから、隔膜3と総称する場合がある。
本発明の電池セル内部に含まれる液体は、公知の緩衝物質を含んで構成されることが好ましい。本発明のバイオ燃料電池は電極触媒として酵素を使用するが、酵素の本体はタンパク質であり、酵素の働きはタンパク質の立体構造に依存する。タンパク質の立体構造は溶液の温度、pHの変化に対して非常に敏感である。そのため、それぞれの酵素反応には最適の温度やpHが存在する。その範囲から僅かにずれると、タンパク質が変性により活性部位の立体構造が変わり、基質が酵素に結合できなくなり酵素が失活してしまう場合がある。したがって、酵素の触媒能力を十分に発現するためにはpH変化を抑える緩衝作用を有する緩衝物質により、pHを一定に保持することが必要となる。ここで、緩衝物質とは、溶液中の水素イオンの濃度をできるだけ一定に保とうとする能力(緩衝能)を有する物質を意味し、つまり、溶液に酸又は塩基を加えたり、溶液を薄めたときに生じる溶液中の水素イオン濃度の変化を少なくする作用を有する物質を意味する。
緩衝物質としては、上記性質を有する限り特に制限はなく、水性環境下において酸または塩基と反応する無機および有機化合物であってよい。例えば、イミダゾール系化合物、炭酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)、4−(2−ヒドロキシエチル)−ピペラジン−1−エタン スルホン酸(HEPES)、3−モルフォリノプロパン スルホン酸(MOPS)等を例示することができ、2種以上の緩衝物質を組みあわてもよい。
ここで、緩衝物質を含む液体としては、燃料液が例示される。更に、酵素電極を構築する際に、適当な導電性基材に酵素を固定化する際に用いる酵素溶液等も緩衝物質を含んで調製される。
集電板103a、103bは、導電性部材で形成され、例えば、チタン、SUS鋼等の金属を利用することができる。集電板103a、103bは、一端が端子出しのため外枠100a、100bの外に延出されて構成されている。
必要に応じて配設されるスペーサー(図示せず)は、水も空気も透過させない素材を用いて形成される。例えば、シリコンシート等を利用することができる。スペーサーは、各構成要素間の接合材及び空気や燃料液等の漏出を防ぐためのシール材としての役割を果たす。これにより、空気や燃料液等が通過可能な開口が形成されている。
外枠100a、100bは、水も空気も透過させない素材を用いて構成される。外枠100a及び外枠100bは、負極21、正極22、電解質層31等の上記構成要素を挟持し、これら各構成要素を固定する。そのため適当な硬質材料で形成されるものであり、例えば、アクリル板等を利用することができる。なお、外枠100a、100bは、箱型形状等のように全体を覆うように構成することもできる。このとき、必要に応じて、通気や燃料供給のための開口が形成されている。外枠100a、100bは電池セル内の密閉性を有する構成とすることが好ましく、これにより外部からのカビ胞子の混入を防ぐことができ、上記した正極22でのカビ発生による電力低下の問題を効果的に回避することができる。カビ胞子の混入防止の観点から、上記構成要素を滅菌処理した後、無菌環境下で組み立てることも効果的である。
本発明の好適実施形態のバイオ燃料電池の発電機構について図1に従って説明する。負極21では、燃料の酸化反応に伴い電子と水素イオンが生じる。生じた水素イオンは、電解質層31を介して正極22側に移動する。一方、電子は、正極22と負極21を接続する外部回路を介して正極22側に移動する。正極22では、通気構造部4を介して外気を取り込む。外気中の酸素と、負極21側から移動してきたイオンと電子とを利用して還元反応が行われる。この一連の電気化学的反応により、電子が外部回路を移動する際に電気エネルギーが取り出される。
以上のように構成することにより、安定的かつ持続的に機能し得る高耐久性のバイオ燃料電池を構築することができる。本発明のバイオ燃料電池は2個直列で繋いだ場合に乾電池互換の電圧を長時間発電できるものである。したがって、卓上電卓等の携行型機器等の小型電子機器の電源等への応用が可能であり、高耐久性を示すことから幅広い分野に応用することができる。
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
比較例1.従前のバイオ燃料電池の耐久性
本比較例では、本発明者らが従前に開発し、特願2013-251177号で報告したバイオ燃料電池の耐久性を検証した。
(方法)
1.バイオ燃料電池の構築
1−1.バイオ燃料電池の構成
ここで構築したバイオ燃料電池の電池セルの構成の模式図を図2に示す。図2の電池セルは、厚さ10mmアクリル板100a、厚さ5mmのアクリル板100bに10mm×10mmの角穴を開けたものを使用した。角穴の4辺には、ねじ止め穴を開けた。正極22|隔膜3|負極21|燃料保持部1の順番で重ね四方をネジ止めし組み立てた。燃料液は、アクリル板100の中央部に角穴を開けたアクリル製型枠に配設した燃料保持部1に充填し装着した。隔膜3は、電解質層31であるナフィオン膜(登録商標:Aldrich Nafion 115)を、保護層32であるセルロース膜で挟み込んだもの(32a、32b)を使用した。なお、集電板としてチタンメッシュ103(Alfa Aesar 40921)を10mm×40mm、0.4mm厚SUS網10メッシュ102を14mm×14mm、スペーサーとして0.5 mm厚のシリコンシート101a(アズワン等)に14mm×14mmの角穴をあけたもの、及び1mm厚のシリコンシート101bに14mm×14mmの角穴をあけたものを使用した。これらを図2の順番通りに積層した後、四辺をネジ止めした。電池セルの構築の後、水を含ませたペーパータオルと共に、電池セル全体を防水膜で被覆した。
1−2.構成要素の調製
正極22、負極21、燃料液、隔膜3、及び防水膜は以下の通り調製した。
a.正極22の調製
正極22としては、カーボンクロスにビリルビンオキシダーゼを固定した酵素電極を使用した。
a−1.酵素溶液の調製
ビリルビンオキシダーゼ(Bilirubin Oxidase:天野エンザイム、BOアマノ3、以下「BOD」と略する。)を適当量の1Mの Sodium phosphate Bufferに溶解し、280 nm吸光度測定から吸光度1=1.0 mg/mlと換算して100 mg/mlとなるように濃度調整した。ここで、水は全てミリポア社製超純水製造装置Direct-Q UVで精製したものを使用した。また、リン酸水素二ナトリウム(無水)(和光純薬197-02865)284 gを水に溶解、1 Lにメスアップして、2 M リン酸水素二ナトリウム水溶液とした。リン酸二水素ナトリウム二水和物(和光純薬192-02815)312 gを水に溶解、1 Lにメスアップして、2 Mリン酸二水素ナトリウム水溶液とした。これら水溶液を25 ℃でpH 7.0となるよう混合し、その後、蒸気加熱滅菌(121 ℃、20分)処理を行い、2 M Sodium phosphate Bufferとした。イミダゾール(和光純薬 099-00013)68 gを滅菌水に溶解、10Nの硫酸にて25 ℃でpH 7.0となるように調整し、200 mLにメスアップして、5 Mイミダゾール水溶液とした。
a−2.導電性基材への酵素の固定
カーボンクロスを1.0 cm×1.0 cmにカッターで切断した。活性炭粉末、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、1-メチル-2-ピロリジノン(NMP)を乳鉢で混合の後、適当量をスパチュラでカーボンクロス両面に塗抹して60 ℃で8時間以上乾燥させた。続いて、カーボンクロス1枚毎にBOD 100mg/ml、50 mMフェリシアン化カリウム(K3Fe(CN)6)、1M Imidazole Buffer pH7.0、若しくは1M Sodium Phosphate Buffer pH7.0とした溶液51μlを含浸させることで、酵素を固定化し、直ぐに使用した。
b.負極21の調製
負極21としては、グルコース脱水素酵素を固定した酵素電極を用いた。
b−1.酵素溶液の調製
グルコース脱水素酵素として、アシネトバクター・カルコアセティカス(Acinetobacter calcoaceticus)NBRC12552株由来のグルコース脱水素酵素(以下、「AcGDH」と略する)を以下の通り調製した。AcGDH遺伝子(GeneID:X15871)をベクターpET-22b(+)のマルチクローニング部位(NdeI/BamHI)に挿入した。AcGDH遺伝子を挿入したpET-22b(+)ベクターを用いて大腸菌BL21(DE3)株をトランスフォーメーションし、コロニーをLB/Amp(含アンピシリン50 μg/ml)培地300 mlに接種し、37 ℃で一晩培養した。つぎにジャーファーメンターにLB/Amp培地を20 L仕込み、前培養液200 mlを加え、37℃で約1時間(O.D.=0.1になるまで)培養し、0.01 mM IPTGを加えてタンパク発現誘導をかけ、28 ℃で一晩振盪培養した。ここで発現させたタンパク質の塩基配列を配列表の配列番号3に、また該塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列表の配列番号4に示す。培養液を遠心、上清を除去した沈殿を−80 ℃で凍結保存した。凍結保存されたタンパク質発現菌体5 gをPBSバッファー15 mlに懸濁した。氷上で、超音波破砕機XL2000(MISONIX)を用いて15 Wで15秒間破砕を10回行なった。破砕した液は4 ℃、5000 rpmで20分間遠心分離し、分取した上清をCellulose Acetate 0.45um filter (ADBANTEC)でフィルタリングしたものをサンプルとした。オープンカラム(Bio-Rad)にヒスチジンタグ精製用レジン:TALON(Clontech)を10 ml充填し、ベッドボリュームの5倍量の平衡化バッファー(PBS + 50 mM NaCl)で平衡化した。前処理を行なったサンプルをカラムにアプライし、ベッドボリュームの5倍量の洗浄バッファー(PBS + 50 mM NaCl + 10 mM imidazol)で洗浄後、ベッドボリュームの3倍量の溶出バッファー(PBS + 50 mM NaCl + 150 mM imidazol)で溶出した。回収した溶出液をAmicon Ultra-4 (Millipore)を用いて濃縮し、微量透析装置 低速タイプおよび透析カップMWCO1200(共にBio-Tec)を用いて、透析バッファー(10 mM Tris-HCl(pH 7.5)+ 0.1 mM CaCl2)を1時間ごとに交換し合計に時間透析した。透析サンプルは4 ℃、15000 rpmで5分間遠心分離し、分取した上清を20 mg/ml以上になるように再度濃縮した。これを酵素溶液として用いた。
b−2.導電性基材への酵素の固定
カーボンクロスを1.0 cm×1.0 cmにカッターで切断した。上記で調製したAcGDH溶液に1 mM CaCl2、0.8 mM PQQとなるよう添加し4℃でインキュベートした。続いて、AcGDH 10mg/ml、30mM mPMS、1M Imidazole Buffer pH7.0、若しくは1M Sodium Phosphate Buffer pH7.0とした溶液51μlにカーボンクロスを含浸させ、直ぐに使用した。
c.燃料液の調製
1M D-Glucose、0.4mM PQQ、1M Imidazole Buffer pH7.0、若しくは1M Sodium Phosphate Buffer pH7.0に調製し、燃料保持部1に充填した。
d.隔膜3の調製
電解質膜31としてナフィオン膜を使用した。ナフィオン膜を適当な大きさに切断し、3%H2O2中で1時間煮沸、水中で1時間煮沸、1M硫酸中で1時間煮沸、水中で1時間煮沸することにより、ナフィオン膜のスルホン酸基を活性化した。活性化処理後に、1M Sodium Phosphate Buffer pH7.0に数時間浸漬させて、スルホン酸基を不活性化し、保護層32a、32bであるセルロース膜で挟み込んだ状態で電池セルに組み込んだ。ここで、使用した水は、全てミリポア社製超純水製造装置Direct-Q UVで精製した超純水である。
e.防水膜の調製
防水膜として、ポリエチレンを袋状に加工したジップロック(登録商標)を使用し、これに電池セルを封入した。
2.電圧測定
構築した電池セルを、水を含ませたペーパータオルと共にポリエチレン袋中に封入し、500KΩの抵抗(手帳電卓レベル負荷μA)を接続して電圧の経時変化を記録することにより耐久性を評価した。電極及び燃料等のバイオ燃料電池の構築及び運転時に使用する緩衝剤としては、生体親和性が良好である1M Sodium Phosphate Buffer pH7.0、若しくは1M Imidazole Buffer pH7.0を使用して、4℃若しくは22℃のインキュベータ中での電圧を測定した。
(結果)
結果を図3のグラフに示す。グラフは、電池セルの電圧の経時変化を示し、縦軸は電圧(mV)、横軸は時間(時)を示す。400mV以上の電圧を保持できる時間を耐久時間と定義すると、1M Sodium Phosphate Buffer pH7.0を使用した22℃での運転では、耐久時間は2500 時間に向上した。しかしながら、耐久性の向上により試験期間が長くなったことで正極電極にカビの発生が認められ、これが電圧低下の要因となっていた。このとき、電池セル内部の湿度はほぼ100%であると推定され、かかる極端な高湿度環境がカビ発生を促進していることが考えられた。したがって、カビの発生を抑えることにより耐久時間を更に向上できるとの見解を得、特に湿度に着目し以下の実施例の実験を行った。
実施例1.湿度による耐久性への影響の検証(予備検証)
本実施例では、バイオ燃料電池、特に正極電極におけるカビ発生を防ぎ、電圧低下を防ぐ方策を検証した。特には、バイオ燃料電池の電池セル内部の湿度に着目した。
比較例1にて、正極電極におけるカビ発生により電圧低下を招くことが判明した。比較例1のバイオ燃料電池は、充分量の水分を含ませたペーパータオルを含ませたことから湿度がほぼ100%の状態にある。かかる高湿度の環境がカビの発生の誘因となっていると考えた。一方で、湿度が低くなり過ぎると燃料液の蒸発が促進され燃料電池の耐久性が低下することが知られている。そこで、湿度が、カビ発生及び電圧低下に与える影響を検証した。
(方法)
本実施例では、加湿用の水分を全く加えない場合の電圧及び湿度変化を検証した。バイオ燃料電池の電池セルの構成は、比較例1の電池セルの構成と同じであり、緩衝液として1M Sodium Phosphate Buffer pH7.0を使用した。電池セルを、防水膜の代わりに約1.3l容量のアクリル製デシケータ内に設置して蓋をし、500KΩの抵抗と共に電圧測定用の電圧ロガーを接続した。デシケータ内には、湿度を測定するための湿度計も設置した。この試験装置の概略を模式的に図4に示す。なお、図中のペーパータオルはデシケータ内部の壁面に固定されてあり、試験開始時には水分を含ませなかった。電池セルの電圧とデシケータ内の湿度の経時変化を記録することにより、湿度が耐久性に与える影響を評価した。
(結果)
結果を図5のグラフに示す。グラフは、電池セルの電圧とデシケータ内の湿度の経時変化を示し、左縦軸が電圧(mV)、右縦軸が湿度(%)、横軸が時間(時)である。この時、湿度は49〜69%の範囲内で変動し、その平均湿度は58%であった。その結果、湿度は試験開始後に燃料液の蒸発に伴い上昇したが、その後は徐々に低下した。これは、燃料液の水分がデシケータ内での加湿要素となったものである。その後、燃料液の蒸発、外部への水分の蒸発によりデシケータ内の湿度の低下が促進され、電圧降下も速くなった。これに対して、蒸発した分の燃料液を新たに補充すると、電圧は試験開始当初の値近くまで上昇し、湿度も同様に上昇した。このとき、湿度は約64%程度まで上昇した。このことから、湿度が64%以上であれば燃料液の蒸発をある程度抑え、電圧を安定的に維持できることが理解される。また、比較例1で問題となったカビの発生も認められなかった。
続いて、燃料液は残っているが、湿度及び電圧が低下した時点で、壁面に固定したペーパータオルに水を1ml含ませた。これにより、湿度は87%にまで上昇し電圧も同様に上昇した。かかる結果より、湿度を適切に制御することで、バイオ燃料電池の耐久性を向上できることが理解でき、更に、以下の実験により、湿度が耐久性に与える影響を詳細に検証した。
実施例2.湿度による耐久性への影響の明確化
本実施例では、実施例1に続き、バイオ燃料電池、特に正極電極におけるカビ発生を防ぎ、電圧低下を防ぐ方策を検証した。特には、バイオ燃料電池の電池セル内部の湿度を適切に制御することによる耐久性の向上を目指した。
比較例1にて、正極電極におけるカビ発生により電圧低下を招くことが判明すると共に、実施例1の予備検証により、湿度が出力電圧に影響を及ぼすことが判明した。そこで、湿度が、カビ発生及び電圧低下に与える影響を詳細検証し、かかる影響の明確化を図った。
(方法)
本実施例では、湿度が電圧に与える影響について詳細検証した。湿度の調整は水分量を調節することにより行い、湿度と電圧の経時変化を記録した。
電池セルは、実施例1で使用した電池セルと同じものを使用し1.3lのデシケータ内に設置し、水分は壁面に固定したペーパータオルに含ませた。緩衝液は、1M Sodium Phosphate Buffer pH7.0を使用した。詳細には、試験開始時には、水1ml又は2mlをペーパータオルに含ませた。試験中、湿度の低下が認められた場合には、湿度を保持するための水分を添加した。
(結果)
結果を図6及び図7のグラフに示す。図6は水を2ml、図7は水を2ml加えた時の結果である。グラフは、電池セルの電圧とデシケータ内の湿度の経時変化を示し、左縦軸に電圧(mV)、右縦軸に湿度(%)、横軸に時間(時)である。
水2mlをペーパータオルに含ませたとき(図6)、湿度は84〜97%の範囲で変動し、平均湿度は92%であった。電圧の低下は認められたが、緩やかであった。2880時間で正極電極にカビの発生が確認され、カビの発生と前後して電圧の低下傾向が強まった。湿度を保持するための水分を加えると湿度は上昇したが、電圧の上昇は認められなかった。なお、湿度は88%以上であれば、湿度が電圧に影響を与えることはなかった。400mV以上の電圧を保持できる時間を耐久時間と定義すると、5520時間で560mVであるので、耐久性が向上したことが理解できる。
次に、水1mlをペーパータオルに含ませたとき(図7)、湿度は77〜90%の範囲で変動し、平均湿度は84%であった。電圧の低下の度合いは、図6の水2mlの場合よりも大きかったが、湿度を保持するための水分を加えると湿度及び電圧共に上昇した。つまり、84%以下の湿度であれば、湿度と電圧の変動に相関関係が得られるものと理解できる。湿度の変動に伴い、電圧も変動したが5520時間を経過しても正極側に目視で確認できるカビの発生はなかった。耐久性についても5520時間で電圧が675mVであったので、図6の水2mlの場合よりも耐久性が向上したことが理解できる。さらに、カビの発生が認められなかったことから、上記範囲に湿度を調整することにより、耐久性が保持できることが判明した。
実施例3.カビ防止方策の検証
本実施例では、バイオ燃料電池、特に正極電極におけるカビ発生を防ぎ、電圧低下を防ぐ方策を検証した。特には、湿度制御以外の方策による耐久性の向上を検証した。
比較例1にて、正極電極におけるカビ発生により電圧低下を招くことが判明すると共に、実施例1及び2により、湿度を適切に制御することにより電圧低下を招かず、バイオ燃料電池の耐久性を向上できることが判明した。本実施例では、湿度以外の要素によるカビ発生及び電圧低下に与える影響を検証した。
(方法)
比較例1で示した通り、耐久性の向上による長期運転に伴い、従前のバイオ燃料電池の正極電極でカビの発生が確認された。これにより電圧低下を招き、耐久性に影響を与えていることが判明した。そこで、カビ発生を防ぎ、電圧低下を防ぐ方策を検討した。
ここでは、具体的には、以下の3つの方策を検討した。
1.防腐剤としてアジ化ナトリウム0.02%を正極電極へ添加した(防腐剤の添加)。
2.電池セル部材及び使用する溶液等を滅菌処理し、無菌操作で電池セルを作製しカビの混入を防止した(無菌操作)。
3.正極側の緩衝液をカビの発生し易いリン酸からイミダゾール緩衝液に変更した(イミダゾール緩衝液)
電池セルは、上記実施例1で使用した電池セルと同じものを使用し、特記事項を除けば、実施例1及び2に準じてバイオ燃料電池を構築し、運転を行った。そして、上記3つの条件での耐久時間、カビ発生の有無、及びカビが発生した場合にはカビ発生までの時間を検証した。実験に用いた電池セルの構成は比較例1の構成と同じであり、比較例1と同様に電池セルを、水を含ませたペーパータオルと共にポリエチレン袋に封入した。なお、400mV以上の電圧を保持できる時間を耐久時間と定義した。カビ発生の有無は、目視で確認できるようになった程度の少量のカビが正極上に発生をもって判定した。
(結果)
結果を表1に要約する。なお、表1には、実施例2(図7)の結果をも含めた。
実施例2の結果では、湿度を制御することで観察時間内でのカビの発生を抑えることができた。しかしながら、本実施例で検討した方策1〜3の何れの方策においてもカビの発生を抑えることはできなかったが、カビ発生までの時間を遅らせることで耐久時間が向上した。方策1〜3のなかでは、方策2の無菌操作が効果的であった。したがって、湿度を適切に制御すると共に、無菌操作で電池セルを構築することで、更なる耐久性の向上が図れることが判明した。
実施例4.制限された範囲内の湿度による耐久性への影響
実施例1、及び2で確認したカビ発生防止効果を有し、かつ電圧に影響を与えない範囲内に湿度を調整し、湿度と電圧の変化を検証した。
(方法)
電池セルは、実施例1及び2で使用した電池セルと同じものを使用し1.3Lのデシケータ内に設置し、水分は壁面に固定したペーパータオルに含ませた。緩衝液は、1M Sodium Phosphate Buffer pH7.0を使用した。詳細には、試験開始時に水1mlを加え、湿度が84%を下回ると水0.2mlを加えて湿度の調整を行った。
(結果)
結果を図8のグラフに示す。グラフは、電池セルの電圧とデシケータ内の湿度の経時変化を示し、左縦軸に電圧(mV)、右縦軸に湿度(%)、横軸に時間(時)である。
湿度は82〜89%の範囲で変動し、平均湿度は85%であった。電圧の低下は認められたが、緩やかであった。湿度を保持するための水分を加えると湿度は上昇したが、電圧の上昇は認められなかった。