本願で開示する光学顕微鏡システムは、蛍光性指標を励起発光させる励起光を測定対象物に照射する光源と、前記励起光により励起された前記蛍光性指標の拡大された光像と、透過光による前記測定対象物の光像とを得ることができる拡大光学系と、前記拡大光学系で得られた前記測定対象物の光像を撮像して撮像画像データを得る撮像装置と、前記拡大光学系のフォーカス位置を調整するフォーカス制御部とを有する光学顕微鏡と、前記撮像画像データから測定対象となる細胞を選別し、選別された測定対象である細胞に対して前記蛍光性指標の観測を行い、生体細胞内の1分子の動態を計測する解析部とを備えたものである。
本開示にかかる光学顕微鏡システムでは、上記構成を備えることで、生体細胞内の1分子の動態観察を自動的に行うことができ、人手に頼らずに高いスループットで測定結果を出力することができる。
上記本開示の蛍光顕微鏡システムにおいて、前記光学顕微鏡は、前記励起光を照射する照射光学系において、前記拡大光学系の対物レンズにおける焦点位置と共役点となる位置に配置された、前記励起光の少なくとも一部を遮蔽する遮蔽部材を備え、前記解析部が、前記遮蔽部材の光像に基づいて前記対物レンズのフォーカス位置を判断し、前記フォーカス制御部により前記光学顕微鏡のオートフォーカス動作が行われることが好ましい。このようにすることで、測定対象物を直接観測して行う場合と比較して、より正確で自動化に対応可能な対物レンズのオートフォーカス動作を行うことができる。
この場合において、前記照射光学系が、全反射照明と対物レンズの光軸上からの落射照明との2つの照射方法での前記測定対象物の照射が可能であり、前記遮蔽物の光像に基づく前記光学顕微鏡のオートフォーカス動作を前記対物レンズの光軸上からの落射照明下で行い、前記測定対象物の1つの蛍光指標の動態測定のための撮像画像の取得を、全反射照明下で行うことが好ましい。このようにすることで、オートフォーカスを行うための遮蔽部材を良好に認識することができ、正確で迅速なオートフォーカス動作を行うことができる。
また、前記解析部が、前記撮像画像に対して二値化処理を行って前記撮像画像の二値化情報を取得し、前記フォーカス制御部によるフォーカス調整動作に伴う前記二値化情報の変化から前記拡大光学系におけるオートフォーカス動作が行われることが好ましい。さらに、前記解析部が、前記二値化情報を用いて前記撮像画像における前記遮蔽部材の境界部分のコントラストを数値化し、前記数値化されたコントラスト値が最も大きくなる位置が前記拡大光学系におけるフォーカス位置であると判断することが好ましい。このようにすることで、撮像画像を用いたオートフォーカス動作をより円滑に行うことができる。
また、本開示にかかる光学顕微鏡システムにおいて、前記解析部が、測定視野内に配置された、少なくとも一方向において規則性を有する光学パターンを撮像した前記撮像画像から、前記撮像画像の所定範囲内での前記光学パターンの位置間隔を求め、得られた位置間隔の平均値を用いて前記撮像倍率情報を取得することが好ましい。このようにすることで、撮像画像の正確な撮像倍率を検出することができる。
また、前記解析部が、前記撮像画像の所定範囲内での前記光学パターンの位置間隔から前記撮像画像における二次元の座標位置を特定し、前記特定された二次元の座標位置から、複数の撮像画像を並べて配置した撮像画像を取得することが好ましい。このようにすることで、より広い視野の撮像画像を容易に取得することかでできる。
さらに、前記光学顕微鏡は、光学的分光手段と前記光学的分光手段で分光されて得られた波長の異なる複数種類の光像それぞれからの撮像画像を取得可能な複数の撮像光学系を備え、前記解析部は、測定視野内に配置された、少なくとも一方向において規則性を有する光学パターンを撮像して得られた前記複数の撮像光学系による撮像画像を用いて、各撮像光学系による前記撮像画像間の位置情報の誤差を補正する補正値を取得し、前記補正値を用いて前記複数の撮像光学系により得られた撮像画像の誤差を補正することが好ましい。このようにすることで、高倍率の撮像画像における誤差を容易に補正することができ、複数種類の撮像画像について、共通した画像処理を適用することができる。
また、前記解析部が、透過光による前記測定対象物の光像から得られた撮像画像から、各ピクセルについての分散値/平均値画像であるCV画像を作成し、得られた前記CV画像に対して二値化処理を行って前記測定対象となる細胞の選別を行うことが好ましい。このようにすることで、透過光像から、測定対象となりうる細胞の位置を、容易に検出することができる。
さらに、前記解析部は、前記透過光による前記測定対象物の光像を取得する際に、前記フォーカス制御部を制御して、デフォーカス状態の撮像画像を含む複数の撮像画像を取得し、取得した複数の前記撮像画像の合成画像に基づいて前記測定対象となる細胞の選別を行うことが好ましい。
さらにまた、前記解析部が、同一の測定対象物についての全反射照明下における撮像画像と対物レンズの光軸上からの落射照明下における撮像画像とを取得し、これら2つの撮像画像の相関係数に基づいて当該撮像対象物の発現状態を判断することが好ましい。このようにすることで、測定対象の細胞分子が十分に発現しているか否かを容易に判別することができ、発現不十分な細胞分子を測定することによるロスを未然に防ぐことができる。
また、本開示にかかるスクリーニング装置は、前記本開示にかかるいずれかの光学顕微鏡システムと、それぞれに被測定物を収容可能な複数個のウェルを有するウェルプレートを移送し、各ウェルを順次前記拡大光学系の対物レンズ視野に配置可能なウェル移送手段と、前記ウェル移送手段を制御して、それぞれのウェル内の測定対象物における生体細胞1分子の動態を計測するスクリーニング制御部とを備え、各ウェル内に位置する複数の測定対象物における生体細胞1分子の自動スクリーニングを可能とする。
本開示にかかるスクリーニング装置は、上記した本開示にかかる光学顕微鏡システムにおける、生体細胞1分子の動態を自動的に測定できる機能を活かして、複数のウェル内に収容された測定対象物としての生体細胞1分子の動態を自動的にスクリーニング観測することができる。
本開示のスクリーニング装置において、前記ウェルと前記拡大光学系の対物レンズとの間の油浸オイルを供給するオイル供給装置をさらに備え、前記オイル供給装置は、前記油浸オイルを供給する一系統のオイル供給系と、前記油浸オイルを排出する二系統のオイル排出系を有し、前記二系統のオイル排出系のうち少なくとも一系統が前記油浸オイルを吸引排出するオイル排出系であることが好ましい。このようにすることで、長時間の測定や、多数のウェルを順次測定する場合でも、光学顕微鏡の対物レンズを好ましい油浸状態に維持することができる。
また、前記ウェルと前記拡大光学系の対物レンズとの間に配置されるオイルアダプタをさらに備え、前記オイルアダプタは、前記油浸オイルを前記オイルアダプタと前記対物レンズとの間の間隙部に供給する前記オイル供給系に接続されたオイル供給ケーブルと、前記供給された油浸オイルを前記オイルアダプタの上面側から吸引排出する前記オイル排出系に接続されたオイル吸引ケーブルと、前記オイルアダプタの周辺部分に形成された溝部内の前記油浸オイルを排出する前記溝部の底面に形成されたオイル排出ケーブルとを備えることが好ましい。このようなオイルアダプタを備えることで、簡単な構成ながら対物レンズの油浸状態を維持し続けることができる。
さらに、前記スクリーニング制御部は、前記光学顕微鏡から得られる前記撮像画像に基づいて、前記ウェルプレートが有する複数のウェルの中心位置を予め認識してウェル中心情報を取得し、前記ウェル中心情報に基づいて前記ウェル移送手段を制御することが好ましい。このようにすることで、それぞれのウェル内の測定対象物質を正確に切り替えて測定することができる。
また、前記ウェル内の前記測定対象物それぞれに、所定のタイミングで異なる刺激を与えることができる測定環境制御手段をさらに備えることが好ましい。このようにすることで、さまざまな条件おける生体細胞1分子の動態測定を行うことができ、より良好なスクリーニングを実現することができる。
(実施の形態)
以下、本開示にかかる光学顕微鏡システム、および、スクリーニング装置の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本実施形態にかかるスクリーニング装置は、本開示にかかる光学顕微鏡システムを備え、複数ウェル内の測定対象試料について自動的、連続的に生体細胞内の1分子についての動態測定が可能なものである。
[スクリーニング装置]
図1は、本実施形態にかかるスクリーニング装置の概略構成を説明するためのブロック図である。
図1に示すスクリーニング装置は、ウェルプレート60が備える複数のウェル60a内にそれぞれ収容された、蛍光性指標が付された生体細胞に対して、本開示にかかる光学顕微鏡システム10を用いて拡大光像を撮像した撮像画像を得、得られた撮像画像から測定対象である1つの蛍光性指標を選別してその動態の測定を行い、複数のウェル60a内のそれぞれの生体細胞1分子における動態測定結果を統計的に処理するものである。
図1において、光学顕微鏡システム10は、図1では図示しない測定対象物である試料の撮像画像を取得する光学顕微鏡20と、光学顕微鏡20により得られた撮像画像データを処理するデータ処理機能と、光学顕微鏡20で試料の拡大された光学像を撮像するために、オートフォーカス動作などの光学顕微鏡20の各部の動作を制御する制御機能とを兼ね備えた、解析部50とから構成されている。
本実施形態にかかるスクリーニング装置に用いられる光学顕微鏡20は、試料に標識されている蛍光性指標を励起発光させる光源21として、第1の励起光41を照射する第1の光源21aと、第2の励起光42を照射する第2の光源21bとの2つの光源21を備えている。このように、2つの光源21を備えることで、それぞれの光源21a、21bから照射される励起光41、42の波長や強度を異ならせることができ、異なる励起光41、42に対する蛍光性指標の反応を用いて測定を行うことができる。
光源21としては、サファイヤレーザーやYAGなどの固体レーザー、その他各種の半導体レーザーなどのレーザー光源を用いることができる。例えば第1の光源21aに波長485nmのレーザー光源を、また、第2の光源21bに波長561nmのレーザー光源を用いることができる。なお、光源21としては、上記例示したレーザー光源の他にも、水銀ランプ、キセノンランプといった高圧放電灯などの周知の発光光源を用いることができる。さらに、光源21には、音響光学素子フィルタ(Acousto-Optic Tunable Filter:AOTF」などの光量調整手段を適宜備えることが好ましい。
第1の光源21aから照射された第1の励起光41は、適宜配置されたレンズ、フィルタなどの第1の照射光学系22a、第1の全反射ミラー23を経て合成ミラー24へと到達する。また、第2の光源21bから照射された第2の励起光42は、適宜配置されたレンズ、フィルタなどの第2の照射光学系22bを経て合成ミラー24に到達する。
合成ミラー24は、ダイクロイックミラーまたはハーフミラーなどで構成されていて、2つの光源21a、21bから照射された2つの励起光41、42の合成光、または、いずれか一方の励起光を試料に照射して、試料に付された蛍光性指標を励起発光させる照射励起光43とする。
照射励起光43は、ダイクロイックミラーであるメインミラー25で反射されて対物レンズ26へと入射する。本実施形態にかかる光学顕微鏡20では、後に詳述するように、細胞1分子の蛍光測定に有利なエバネッセント光を用いた全反射照明蛍光顕微鏡とするために、試料への入射光44は光軸からシフトされた状態で対物レンズ26に入射させることができるようになっている。なお、入射光を全反射照明光とするための手法としては、反射ミラー25の位置を対物レンズ26の光軸からずらす方法がある。また、光源としてファイバーレーザーを用いる場合には、励起光を照射する光ファイバの位置を対物レンズ26の光軸からずらして、入射光とする方法などの従来公知の方法を適宜用いることができる。
また本実施形態にかかる光学顕微鏡20は、後述するように、対物レンズ26のオートフォーカス動作時などに適宜全反射照明以外の照照射光を用いて撮像された撮像画像を用いている。このため、本実施形態にかかる光学顕微鏡では、入射光44の入射経路を調整可能な電動手段を備えることなどにより、対物レンズ26の光軸に沿って入射する励起光と、全反射条件を満たした入射光44とを切り替えて照射することができるようになっている。全反射条件を満たした入射光44は、試料が配置されているウェル60aの底面ガラスプレートの表面で反射して反射光45となる。
本実施形態にかかる光学顕微鏡20では、対物レンズ26は、一例として開口数NA=1.49以上、作動距離0.12mm以下、倍率60倍のものを用いることができる。
入射光44によって生じたエバネッセント光によって励起発光した蛍光性指標の光像は、対物レンズ26による拡大光像46となってメインミラー25を透過して第2の全反射ミラー27を経て撮像光学系に入射する。
本実施形態にかかる光学顕微鏡20では、第2のダイクロイックミラー28を用いて蛍光性指標の拡大光像46を、2つの異なる発光色に分解している。第1の発光色を備えた拡大光像47は、ダイクロイックミラー28を透過した後撮像光学系としての第1の撮像レンズ30aなどを透過して、第1の撮像装置31aにより撮像されて電子画像データに変換される。また、第2の発光色を備えた第2の拡大光像48は、ダイクロイックミラー28によって反射された後第3の全反射ミラー29で反射され、その後撮像光学系としての第2の撮像レンズ30bなどを透過して、第2の撮像装置31bにより撮像されて電子画像に変換される。
このようにすることで、蛍光性指標として例えば485nmの励起光によって500nm近傍の発光帯域を持つGFP(Green Fluoresent Protein)と、561nmの励起光によって580nm近傍の発光帯域を持つテトラメチルローダミンとの二種類の蛍光性指標を用いて、これらを同時に測定することができる。
本実施形態にかかる光学顕微鏡20では、測定対象の細胞を探す際に用いる低倍率測定では一例として10倍、また、一つの蛍光性指標を観察する高倍率測定ではトータル倍率が数百倍程度(一例として60×4の240倍)となるように拡大された拡大光学画像が用いられる。また、第1の撮像装置31aおよび第2の撮像装置31bとしては、高感度でかつ高倍率の電子像倍型CCD(EM−CCD:Electoron Multiplying CCD)を用いることができる。より具体的には、最大量子効率が90%以上、電子像倍ゲインが1200倍以上の撮像装置を用いることが好ましい。
なお、試料に標識される蛍光性指標としては、上記したGFPなどの蛍光タンパク質や、HaloTag等のタンパク質タグに有機蛍光色素を標識したものなど、従来公知のものを使用することができる。また、光学顕微鏡における光源、照射光学系などの励起光を生成、照射する機構や、撮像光学系や撮像装置などの試料の光像を撮像画像に変換する機構を、用いられる蛍光性指標の発光波長や発光強度に応じたものに適宜変換するべきことは言うまでもない。
また、上記実施形態では、光学顕微鏡として2色の励起光を生成する光源と、光源により生成された励起光を試料に照射する2種類の照射光学系、対物レンズや撮像レンズを備えた拡大光学系と撮像装置により構成されて異なる2色の蛍光性指標の発光を測定可能な2種類の撮像光学系を用いたものを例示した。しかし、本開示にかかる光学顕微鏡システムの光学顕微鏡としては、照射光学系、撮像光学系共に2種類を備えたものに限られず、それぞれ、1種類もしくは3種類以上に対応した構成を備えることができる。さらに、照射光学系の数と撮像光学系の数とが異なる構成とすることもできる。
撮像装置31(31a、31b)により得られた試料の拡大光像の撮像画像は、画像データの処理機能を備えた解析部50によって電子画像データとして試料測定の目的に応じて適宜処理される。この電子画像データの処理内容については、後に詳述する。
また、本実施形態の光学顕微鏡システム10の解析部50は、光学顕微鏡20で得られた撮像画像を電子画像データとして各種の処理を行う処理部としての機能以外に、光源21からの励起光41、42の照射タイミングや照射強度の制御、また、試料載置部分への入射光44を干渉反射像観察もしくは散乱光観察の場合の照射光と全反射照明光との間で切り替える入射角度の制御、さらに、対物レンズ26に付随して設けられている、測定対象物である試料と対物レンズ26との距離を調整するオートフォーカス機構の制御、撮像視野内の特定の部分を撮像画像中心へと移動することができる観察ステージの位置制御、異なる倍率の対物レンズへと交換するレンズ交換制御など、光学顕微鏡20において撮像画像を取得するための各種制御を行う制御部としての機能を備えている。
解析部50は、上記のような撮像画像データの処理と、その他光学顕微鏡20の動作制御を行うに十分なデータ処理能力を備えたコンピュータ装置、サーバー装置によって実現することができる。しかし、本願で開示する光学顕微鏡システムにおいて、撮像画像のデータ処理と光学顕微鏡の動作制御との両方を行う解析部を備えることは必須の要件ではない。撮像画像のデータ処理を行うデータ処理部と、光学顕微鏡の動作制御を行う制御部とをそれぞれ光学顕微鏡システムにおける別々の部材として構成し、2またはそれ以上のコンピータ装置、サーバー装置を備えることができる。また、本実施形態にかかる光学顕微鏡システムは、撮像装置によって撮像された撮像画像やデータ処理された測定画像を表示する表示モニタ部や、光学顕微鏡の動作状態を表示するパネル部などを適宜備えることができる。
本実施形態にかかる光学顕微鏡システムでは、解析部によって、光学顕微鏡の制御と光学顕微鏡により得られた試料の光像の拡大された撮像画像のデータ処理が行われることで、対物レンズの測定視野に配置された測定対象物である生体細胞の1分子に標識された蛍光性指標それぞれについての動態を自動的に測定することができる。
また、本実施形態にかかるスクリーニング装置は、上記説明した本実施形態にかかる光学顕微鏡システムによって、測定対象である生体細胞内の1分子の自動的な動態測定が可能であるという特徴を利用して、多数の試料を測定対象として、それぞれの試料に適宜必要な条件による刺激を加えた際の反応を統計的に解析したデータを取得することを可能とするものである。
本実施形態にかかるスクリーニング装置は、例えば図1に示すように、それぞれのウェル60a内に測定対象物を収容したウェルプレート60を移送(矢印61)して、各ウェル60a内の試料に所定の薬剤を所定のタイミングで供給する薬剤供給部62の所定位置に移送し、さらに薬剤供給部62で所定の薬剤が加えられた状態の試料を測定できるように光学顕微鏡20の対物レンズ26の視野に順次配置(矢印63)する移送手段と、上記した薬剤供給部62などの測定環境制御手段とを備えている。
なお、移送手段は、ウェルプレート60を所定の速度で動かして所定の位置に配置することができる、二次元(x−y)、または、三次元(x−y−z)ステージとして実現することができる。また、図1では、各ウェル60a内の試料に薬剤を供給する薬剤供給部62のみを例示したが、薬剤供給部62に付属する装置手段として、各ウェル60aへの薬剤注入後に都度注入ノズルを洗浄する洗浄手段を備えるなど、それぞれのウェル60aに対する薬剤供給条件を一定のものとする補助手段を適宜備えることができる。さらに、測定環境制御手段としては、上記例示した薬剤供給部62の他に、所定のウェルを所定の温度として測定対象物である試料に温度的な刺激を与える手段や、所定のウェル内の試料に紫外線などの光線や電磁波を照射する手段など、測定対象物をスクリーニングする上で必要な適宜の環境変化としての刺激を与える手段を用いることができる。また、これらの測定環境制御手段を複数同時に用いて、より詳細かつ複雑な測定条件を設定することができる。
また、本実施形態にかかるスクリーニング装置として、測定環境制御手段としての薬剤供給部62と、ウェルプレート60、光学顕微鏡システム10の少なくとも対物レンズ26近傍の部分を、所定の温度、湿度、滅菌状態などの所定の環境下に維持し、さらに外部からの塵埃などがウェル60a内に入り込むことを防ぐシールド部材など、スクリーニングを行う際に一定の条件を保つべき環境条件を維持確保できる各種の周辺手段を設けるべきことは言うまでもない。
また、図1に示した本実施形態にかかるスクリーニング装置では、ウェルプレートの移送や薬剤供給部62の制御などのスクリーニング装置全体の制御を、光学顕微鏡システム10の解析部50が合わせて行う構成となっている。しかし、本願で開示するスクリーニング装置において、スクリーニング装置全体の制御を行う制御部と、光学顕微鏡システムの解析部とが同じであることは必須の要件ではなく、スクリーニング装置の制御部として、解析部とは別のコンピュータ装置やサーバー装置などの制御手段を備えることができる。
[エバネッセント照明]
次に、本実施形態にかかる光学顕微鏡システムにおける、測定対象物である生体細胞に標識した蛍光性指標を励起させる励起光の照射について説明する。上記したように、本実施形態の光学顕微鏡システムの光学顕微鏡は、生体細胞内の1分子計測に好適な全反射照明におけるエバネッセント光によって試料の蛍光性指標を励起発光させる、全反射蛍光顕微鏡としての動作が可能となっている。
図2は、全反射蛍光顕微鏡としての構成を説明するための図であり、本実施形態にかかる光学顕微鏡システムの対物レンズ近傍を拡大した断面図である。
図2に示すように、全反射蛍光顕微鏡では、試料1に対して、対物レンズ26の光軸73に対して所定の距離74離れた位置から励起光としての入射光44を照射し、この際に励起された蛍光性指標の発光75を測定する。入射光44は、試料1と試料1が載置されているガラスプレート71との界面で全反射して反射光45となる。なお、全反射蛍光顕微鏡を構成する上では、対物レンズ26とガラスプレート71との間にカップリング剤としてのオイル72が必要となる。
本実施形態にかかるスクリーニング装置の場合には、測定対象物としての試料1がウェルプレート60のそれぞれのウェル60a内に収容された蛍光性指標で標識された生体細胞であり、ウェル60aの底面プレートが図2におけるガラスプレート71に相当する。また、本実施形態のスクリーニング装置では、ウェルプレート60が適宜移送されて、試料1が収容されたウェル60aの底面が光学顕微鏡20の対物レンズ26上に順次位置するようになっている。なお、本実施形態にかかるスクリーニング装置では、対物レンズ26のレンズ面周辺を覆うようにして後に詳述するオイルアダプタが配置され、ウェル60aの底面プレートと対物レンズ26との間に、常に所定量のオイル72を供給可能として光学的カップリングを維持することで、連続した複数ウェル60a内の生体細胞内の1分子計測を可能としている。
図3は、励起光を全反射方式で照射した場合と、対物レンズの光軸に沿っていわゆる落射方式で照射した場合との、試料に対する励起光の照射度合いの違いを説明する図である。図3(a)が全反射方式で励起光を照射した状態を示し、図3(b)が対物レンズの光軸に沿って落射方式で励起光を照射した場合を示す。
図3(a)として示す全反射方式では、ガラスプレート71と試料1との界面近傍部分のみにエバネッセント場77が生じ、測定対象試料1である生体細胞内のガラスプレートに近接した基底面の蛍光性指標1aのみを励起発光させ、細胞深部に位置する蛍光性指標1bは励起しないようにすることができる。一方、図3(b)として示す対物レンズの光軸に沿って照射された場合は、ガラスプレート71を貫通して上方まで励起光76が照射されるため、ガラスプレート71上の試料1の全体部分にまで励起光76が作用する領域78が広がる。このため、ガラスプレート71近傍ののみならず細胞深部に位置するものまで、細胞内の蛍光性指標1c全てを励起発光させてしまう。さらに、細胞内に含まれる蛍光性発光物質によるいわゆる自家発光をも生じさせてしまい、これらの発光が背景光となって、細胞内の1分子を標識する蛍光性指標それぞれを光像として捉えることが困難となる。
図4は、励起光を全反射方式で照射した場合と落射方式で対物レンズの光軸に沿って照射した場合との、同じ細胞における蛍光性指標の発光度合いを撮像画像として取得して比較したものである。図4(a)が全反射方式で励起光を照射した状態の撮像画像を示し、図4(b)が対物レンズ光軸に沿って落射方式で励起光を照射した場合の撮像画像を示している。
図4(a)に示す全反射方式で励起光を照射した場合には、細胞内での蛍光性指標の発光が、ガラスプレート71に相当するウェル60a底面近傍のエバネッセント場内に位置するものに限られているため、撮像画像内における蛍光性指標の輝点が少なく、それぞれの輝点を区別しやすい。一方、図4(b)に示す対物レンズ光軸に沿って励起光を照射した場合には、細部内のウェル60a底面近傍以外の深部の蛍光性指標の発光や、細胞自体が有する蛍光発光性物質の発光が観測され、細胞全体に多くの基点が重なり合った状態となっていて、この撮像画像から1つの蛍光性指標の発光を分離測定することは困難な状態となっている。
本実施形態の光学顕微鏡システムでは、撮像装置によって撮像された光像の撮像画像に基づいて解析部が蛍光性指標の光点を一つ一つ認識することが、解析部による撮像画像データ処理の前提となる。このため、本実施形態にかかる光学顕微鏡システムにおいて、撮像画像を自動的に処理して生体細胞内の1分子の蛍光観察を実現するためには、測定対象物である試料としての生体細胞において光像として得られる蛍光性指標の発光個数をある程度の個数以下に抑えることが重要となる。したがって、本実施形態にかかる光学顕微鏡システムにおける測定対象物である生体細胞への励起光の照射方法としては、上記した全反射方式を採用することが好ましい。
なお、一例を挙げると、蛍光性指標の発光中心波長が580nmの場合には、生体分子1個に由来する輝点は600nm程度の広がりを持ち、さらにその輝点が移動することになる。このため蛍光性指標の発光個数としては、一つの輝点を分解観察するためには、1〜数μm四方程度の空間に1個程度となる濃度が好ましいと判断できる。
また、蛍光性指標の動きとしては、計測の時間分解能内で半径にして数十ピクセル程度に収まることが基準となる。撮像素子1ピクセルのシグナルレベルが大きくないため、蛍光性指標の移動速度が速く広がりが大きい場合、一つの輝点として認識しづらくなる。このため、細胞膜近傍の蛍光性指標は、動きが遅いため比較的測定しやすいが、細胞質の蛍光性指標は認識しづらいものが多い。
なお、本実施形態にかかる光学顕微鏡システムにおける励起光の照射方法は、全反射方式には限定されない。例えば、測定対象物である生体細胞内の蛍光性指標の数がもともと一定数以下に限定されていて、さらに、細胞が自家発光性物質等を有していない場合など、細胞内全体の蛍光性指標の発光を光像として捉えた場合でもその輝点の個数が限定される条件下であれば、測定対象物への励起光の照射を対物レンズの光軸に沿って照射する方式で行うことも可能である。
[光学顕微鏡システムでの自動処理]
本実施形態の光学顕微鏡システムでは、撮像装置により撮像された試料に標識された蛍光性指標の拡大光像の撮像画像に基づいて、例えば測定対象である蛍光性指標の輝点について、経時的な位置変化から細胞分子の動きを求め、輝度変化から細胞分子の状態を判定することで、生体細胞内の1分子の動態を測定するものである。これら撮像画像データの具体的な処理・解析内容は、測定したい動態の種類によって異なるものである。例えば、分子が複数の拡散係数間を遷移するとして、各観測時刻にどの状態にあるか推定することができる。また、細胞膜(および膜タンパク質)に対して、結合解離するタンパク質を観測する場合には、結合から解離までの時間を統計的に調べることで、解離した分子がどの状態であったかを推定することができる。一方、輝度変化から細胞分子の状態を調べるケースとしては、分子の数が増えたことを検出すること、偏光計測やFRET計測によって細胞の構造変化を検出すること、環境感受性色素を使ったpH等の環境変化の計測を行うことなどができる。
そこで、本実施形態にかかる光学顕微鏡システムでは、測定対象である輝点が存在する生体細胞部分への光学顕微鏡のオートフォーカス動作、拡大光像として得られた撮像画像の倍率の特定、異なる撮像光学系からの撮像画像を同様に処理するためのデータ補正、さらに、撮像画像データから解析対象となりうる細胞の認識と、測定対象細胞の選別を、いずれも自動的に行うことで生体細胞内の1分子の動態測定を容易に実現可能とするものである。
以下、それぞれの自動化処理の内容について、図面を用いて説明する。
[オートフォーカス動作]
まず、本実施形態にかかる光学顕微鏡システムにおける自動化処理としての、オートフォーカス動作について説明する。
本実施形態の光学顕微鏡システムでは、照射光学系における対物レンズの焦点位置と共役の位置に視野絞りを配置し、落射照明光による表面反射干渉観察によってこの視野絞りの像を測定し、視野絞りの像のコントラストが最も高くなる時の対物位置を対物レンズのフォーカス位置としている。
図5は、本実施形態にかかる光学顕微鏡の照射光学系における照射光の光路を説明する図である。
本実施形態にかかる光学顕微鏡では、一例として、図5において両方向矢印で示した位置82、83、85、86に照射光学系のレンズが配置されている。これら位置82〜86に配置されたレンズは、図1において22として示した照射光学系を構成するレンズである。また、対物レンズ26は、光路に対する影響を与えるレンズという観点から、レンズ30とともに撮像光学系のレンズとしても機能するとともに、照射光学系の最終段のレンズとして機能する。なお、図5において、点線で示す位置84は、レンズ83の焦点位置でありこの位置84は、レンズ85の焦点位置を兼ねている。また、位置87は、レンズ86の焦点位置に相当する。この位置87は、対物レンズ26の手前側の焦点位置に相当する。位置88が対物レンズ26の焦点位置、すなわち測定対象物である試料が配置されている位置である。また、図1に示したように、本実施形態の光学顕微鏡では、照射光学系から照射された励起光や照射光を、ダイクロイックミラー25で反射させて試料に照射し、蛍光性指標の発光76の対物レンズ26による拡大光像46を、ダイクロイックミラー25を透過させて撮像光学系30を介して撮像装置31で撮像する。
図5に示す照射光学系では、試料を照射する光源をファイバービームとして例示していて、全反射照明で試料を照射する場合に実線で示す位置にレーザー光源21が配置され、落射照明での反射干渉測定を行う場合は点線で示す位置80に、ファイバー導入された水銀ランプからの照射光が配置される。同様に、図5では、全反射照明を行う場合の照射光を実線で、落射照明で反射干渉観察を行う場合の照射光を点線で、それぞれ示している。
なお、落射照明で反射干渉観察を行う場合の光源位置80は、照射光学系の各レンズ82〜88に共通する光軸上に位置している。励起光の照射光源としてファイバービームを用いる場合には、マイクロメータなどの移動距離を測定可能な機構を用いてファイバービームの位置を、全反射照明位置である図5中の光源21の位置と、干渉反射測定を行う場合の位置80との間で移動可能とすることができる。
図5に示す照射光学系は、位置80に水銀ランプからの照射光を導入して試料を照射する場合の光学系において、対物レンズ26に対してその焦点である試料の配置位置88の共役点の位置に、光源(21、80)からの照射光の照射範囲を規制する視野絞り81が配置されている。共役点の位置に配置されている視野絞り81は、試料面88に像81‘を結ぶことで、試料に対する光源からの照射光の照射範囲が調整可能となる。同時に、対物レンズ焦点の共役点の位置に配置された視野絞りは、照射光学系における迷光が試料に照射されないように遮る作用を果たす。
本実施形態にかかる光学顕微鏡システムでは、試料に対して落射照明で位置80からの光を照射した際に、撮像光学系30を介して撮像装置31で撮像された撮像画像を測定しながら、撮像画像に映り込んでいる視野絞り81の像81’のコントラストが最大となるように対物レンズ26の位置を調整することで、対物レンズ26の焦点位置を試料の配置位置88と一致させることができる。
図6は、本実施形態にかかる光学顕微鏡システムにおいて、落射照明における試料干渉反射光像を用いてオートフォーカス動作を行う手法を説明する図である。
図6(a)に示す試料の反射干渉画像は、上記図5を用いて説明した照射光学系において、位置80に水銀ランプからの照射光を導入して試料を照射することで取得された撮像画像である。
この、図6(a)で示した撮像画像について、全てのピクセル(一例として512×512)における輝度の値を求め、これを横軸が輝度値とするヒストグラムに表したものが図6(b)である。
図6(b)に示すように、図6(a)の撮像画像の各ピクセルでの輝度分布は、図中左側、すなわち輝度の低い側に現れている比較的少量でかつ急峻な分布と、図中右側である輝度の高い側に現れている、輝度値に一定のばらつきがある比較的大きな分布との、大きく2つの分布として現れている。なお、これら2つの分布は共にガウス近似が可能な分布形状となっている。この2つの輝度分布うち、図6(b)中に示した直線Aを境界線として、左側に位置する輝度が低い部分の輝度分布が図6(a)において下側に見えている、視野絞り81の像81’部分のピクセルの輝度分布であり、直線Aの右側に位置する輝度が高い部分の輝度分布が、視野絞りの像81’以外の試料細胞を撮像している部分のピクセルの輝度分布であると考えることができる。
本実施形態にかかる光学顕微鏡システムでは、図6(a)に示す落射照明下における反射干渉画像において、視野絞り像81’の境界部分に、一例として50〜70ピクセル角程度の境界領域Bを設定し、この境界領域B内におけるピクセル全てについて、図6(a)と同様に輝度値を横軸としてヒストグラムを作成する。このとき得られた、図6(c)として示したヒストグラムは、図6(b)に示した顕微鏡の視野全体のピクセルを対象としたヒストグラムと同じ位置に分布のピークを有している。
図6(b)と図6(c)とにおいて、同じ輝度値を示すピクセルは同様の部分を撮像したピクセルであると考えることができる。また、図6(c)に示すヒストグラムは、視野絞り81’と試料画像との境界部分の境界領域Bにおけるピクセルのみを選択して表したものであるため、視野絞り81’部分の輝度を示す、左側の低輝度側のピークに対して、試料部分の輝度を示す右側の高輝度側のピークが相対的に低くなって、低輝度側と高輝度側のそれぞれのピクセルの数はほぼ等しい状態となる。なお、図6(c)においても、輝度分布を示すヒストグラムの2つのピークは、いずれもガウス近似可能な形状となっている。また、図6(c)に示す、境界領域Bにおける各ピクセルの輝度分布を示すヒストグラムにおいて、直線Cとして示す2つの輝度分布のピークの中間部分の分布値が最も小さくなる状態が、撮像画像における視野絞り部分のコントラストが最も大きくなった状態となる。
以上を踏まえて、本実施形態の光学顕微鏡システム10では、図示しないフォーカス調整機構を動作させて対物レンズ26と試料1との間隔を調整しながら試料の反射干渉画像を取得し、設定された境界領域Bの各ピクセルの輝度値のヒストグラムを作成して、視野絞り81’部分と試料が撮像されている部分とのコントラストが最大となる対物レンズ26位置を特定することで対物レンズ26のオートフォーカス動作を行っている。
視野絞り81’部分と試料が撮像されている部分とのコントラストが最大となることを検出する方法としては、例えば、図6(c)に例示した境界領域Bの各ピクセルの輝度値のヒストグラムにおいて、視野絞り81’部分の輝度分布と試料部分の輝度分布とをそれぞれガウス関数で近似し、フィッティングしたガウス関数の標準偏差の和が最小となる状態が、最大コントラストの状態として判別することができる。本実施形態の光学顕微鏡システム10では、解析部50において撮像画像の画像データ処理を行いながら対物レンズ26の位置を変化させて、最大コントラスト状態であると判断された位置に対物レンズ26を配置することでオートフォーカス動作を行っている。
なお、図6(d)は、図6(a)において直線Aとして示される部分よりも低輝度側の部分、すなわち、図6(a)における左側の輝度分布に相当する部分のみを2値化して明暗を反転させて示した図である。図6(d)に示される図が、試料の配置位置に映った視野絞り81の像81’を示すことになる。
境界領域Bの撮像画像において視野絞り部分と試料撮像部分とのコントラストが最も高くなる対物レンズ位置の判別方法としては、上記した、ヒストグラムからガウス関数を求めて標準偏差が最小となる位置を求める方法以外にも、例えば、それぞれの輝度分布の平均値間の距離が最大となる状態をコントラストが最大として判定することなど、適宜の方法を使用することができる。
なお、上記実施形態では、撮像画像における視野絞り像を明瞭に判別するため、照射光源であるファイバーレーザーの位置、または、光源からの照射光を導入するファイバの配置位置を照射光学系の各レンズの光軸位置に一致させて、落射照明における反射干渉画像を取得したが、本実施形態の光学顕微鏡では図5で示した照射光学系を用いているため、視野絞り像は全反射射照明における試料測定画像上にも落射照明の場合と同様に現れる。このため、全反射照明におけるエバネッセント光を用いた試料撮像画像から視野絞り像を判別して、図6に例示したような撮像画像の輝度分布のヒストグラムを作成するデータ処理等を行うことで、全反射照明による撮像画像を用いて対物レンズのオートフォーカス動作を行うことも可能である。この場合、全反射照明下における撮像画像における視野絞り部分の判別は落射照明下の反射干渉画像を用いた場合における視野絞り像の判別よりも困難となり、撮像画像の画像処理に工夫が必要となるが、照射光学系のレンズ中心の位置に光源を位置させる必要が無くなるため、光学顕微鏡における照射照明系の機構を簡素化することができる。
このように、本実施形態にかかる光学顕微鏡システムでは、対物レンズの試料焦点位置に対する共役点の位置に視野絞りを配置し、対物レンズ位置を調整しながら視野絞りの撮像画像のコントラストが最大となる位置を検出して対物レンズのオートフォーカス動作を行う。エバネッセント照明の照射範囲は、ガラス界面から数百nm程度であるため、全反射方式の励起光による蛍光性指標の発光測定におけるフォーカス調整は一般に困難である。また、細胞膜上のタンパク質の動態観測は、膜近傍の領域(数十nm程度)の測定に限られるため、焦点範囲が狭い。このため、測定対象物である蛍光性指標の発光の撮像画像自体からは極めて困難である光学顕微鏡の対物レンズのオートフォーカス動作を、本実施形態にかかる光学顕微鏡システムでは、解析部を用いて自動的に行うことができる。
なお、上記オートフォーカス制御方法によって対物レンズのフォーカス位置調整を行った後は、従来光学顕微鏡システムに採用されている顕微鏡の拡大光学系におけるフォーカス位置を維持する各種方法を用いることで、上記方法で初期設定がされた対物レンズのフォーカス調整を、振動や温度条件の変化などの環境変化に関わらず維持することができる。
また、上記の実施形態では、オートフォーカス動作を行うために照射光学系における対物レンズの焦点位置と共役点の位置に、撮像範囲を規制する視野絞りを配置した例を示した。しかし、対物レンズの焦点位置と共役点の位置に配置する部材は、視野絞りには限られず、光学顕微鏡の照射光学系において照射光を遮る遮蔽部材として、その像が試料と同じ位置にあるとして撮像画像から認識することができるものであればよい。このような遮蔽部材としては、顕微鏡や望遠鏡の視野の傾きを示すために配置されるワイヤゲージなどを用いることができる。
[測定倍率(スケール)の検出]
本実施形態にかかる光学顕微鏡システムでは、光学顕微鏡の撮像光学系により得られた撮像画像を用いて、当該撮像画像の拡大倍率を見積もるアルゴリズムを採用している。以下、光学顕微鏡において顕微鏡の測定倍率である測定視野のスケール換算を行う方法について、図7を用いて説明する。
図7は、本実施形態にかかる光学顕微鏡システムにおいて、撮像画像から撮像視野の撮像倍率を求める手法を説明する図である。図7(a)が、撮像倍率を求める指標として用いたマイクロメータの撮像画像、図7(b)が、図7(a)に示した撮像画像をトリミング処理後に2値化した処理画像、図7(c)が、マイクロメータの撮像画像をデータ処理することで得られたマイクロメータの格子間の各部分のラベル化像を示している。
本実施形態にかかる光学顕微鏡システムでは、撮像画像の倍率検出のために規則化されたパターンを有する部材を実際に光学顕微鏡で撮像し、その撮像画像データのデータ処理を行っている。
撮像画像の倍率検出のための規則化されたパターンとしては、撮像画像の画像処理から位置検出を行いやすいという理由から、格子状のパターンを有するマイクロメータ画像を用いている。なお、撮像倍率の検出のためには、二方向、または少なくとも一方向に、規則性を持つ従来周知の各種パターンを用いることができ。このため、以下で例示する格子状パターン以外でも、例えば縦横等間隔に配置されたドットパターンなどを用いることができる。
図7(a)は、撮像画像の倍率検出操作に用いられるマイクロメータの撮像画像である。図7では、レンズ倍率10倍の対物レンズを用いて、格子間隔が縦横いずれも10μmピッチのマイクロメータを透過光観察により撮像したものを示している。なお、60倍の対物レンズにおいて拡大倍率の検出を行う場合には、例えば1μmピッチのマイクロメータを用いることができる。なお、後述するように、本実施形態の光学顕微鏡における撮像倍率の検出では、それぞれの格子の中心位置を求めてこれを計測に使っているため、例えば部分部分で格子の太さが異なっていた場合でも測定結果に影響はない。
なお、上記のように、撮像画像の倍率を検出するためにマイクロメータの画像を撮像する際に、落射照明による散乱光を用いることも可能ではあるが、ダイクロイックミラーの代わりにハーフミラーを用いることとなるため、光学顕微鏡の照射撮像光学系が複雑となる。これに比べて、透過光を用いる場合には、落射光学系との共存が容易であり、光学顕微鏡の構成を簡素化できる。
図7(a)に示すように、マイクロメータの格子状パターンの撮像画像は高いコントラストを備えた画像として取得される。このため、Otsu法などの代表的な画像データ処理アルゴリズムに従って、好適に二値化された画像データを得ることができる。
図7(b)は、図7(a)に示したマイクロメータ画像をOtsu法によって二値化処理を施した撮像画像データである。なお、マイクロメータの像面以外の像が結像する場合があるため、図7(a)においてDとして表すようなマイクロメータの格子状パターン以外の異物等の写り込みが少ない部分を適宜選択(トリミング)した後に、二値化処理を行うことが好ましい。
トリミングされた二値化処理後の画像データ図7(b)を、例えばウォーターシェッド法(watershed法)などの領域分割手法を用いて画像データ上の領域を分割し、格子で囲まれた略正方形の部分を選択してラベル化する。なお、図7(b)に示すように、撮像画像を二値化処理した画像データにおいて周辺部分に位置する格子は、格子もしくは格子で囲まれた略正方形部分の少なくとも一部が欠けた状態となるためにその中心位置を正確に求めることができないため統計には用いず、ラベル化の対象から除外している。
図7(c)は、ウォーターシェッド法による領域分割処理後にラベル化されたそれぞれの格子間部分を、xy座標上に配置して示した図である。
図7(c)においては、それぞれの格子間の略正方形部分をその推定中心位置の点として表しいている。そして、図中左下に位置する原点に最も近い格子の推定中心位置を基準点O(0,0)とし、基準点Oと、基準点Oからx方向の最近点x1(1,0)と再遠点xn(n,0)、さらに、y方向への最近点y1(0,1)と最遠点yn(0,y)とから、x軸方向とy軸方向の格子数と各方向への基本ベクトルとを決める。このようにすることで、基準点Oからラベル化された各格子の推定中心位置への移動ベクトルは、x、y二方向への基本ベクトルの整数線形和として表すことができ、これを用いて各格子に番地を割り振ることができる。
さらに、求めた基本ベクトルを用いて各格子の推定中心位置を定め、推定中心位置の最近計測点を格子中心とする。また同時に、各格子の番地を基にそれぞれの格子間距離を求めて、格子間距離の統計を行う。一例として、データ処理から求められた各格子間距離の平均値を、撮像したマイクロメータの実際の格子間距離と対応付けて、撮像装置における1ピクセルあたりのスケールを求めることができる。
このようにすることで、本実施形態にかかる光学顕微鏡システムでは、光学顕微鏡における設定上の各倍率の画像1ピクセルあたりの空間スケール[nm/ピクセル]と、1視野サイズの見積もりをマイクロメータなどの規則性パターンの撮像画像を用いて自動的に行うことができる。
従来、光学顕微鏡の拡大視野スケールの見積は、サイズが既知の人工物を視野内に置いて特徴点間の距離を計測することで、たとえば、対物マイクロメータを用いる場合には、格子中心間の距離の計測より行われていた。このように特徴点の決定を目視で行った場合には、処理の煩雑性が大きく、また、作業者の癖などによって特徴点間距離が異なる場合が生じるなど、再現性の検証に困難を伴うことが多い。
また、測定対象物である生体細胞内の1分子測定においては、測定対象物が蛍光性指標1つであるなど高倍率での観測が基本となるが、測定対象となる蛍光性指標を選別する際には、一旦低倍率での撮像画像を取得して高倍率で実際に測定する細胞の分子を特定する必要があるなど、測定画像に基づいて別の倍率での観測時の移動量を決定するといった幾つかの倍率を横断する計測が行われる場合がある。さらに、撮像画像と光学顕微鏡ステージの機械原点および現在位置との対応付けが必要とされる場合や、また、光学顕微鏡システムを用いてマルチウェルプレート等を用いたスクリーニングを行う際には、各観測チャンバーの中心等の情報を測定関係情報として統合的に扱う必要があるなど、測定された撮像画像の実際の倍率を検出してその後のデータ処理等に活用する機会が多くなる。
本実施形態の光学顕微鏡システムでは、上記説明した顕微鏡視野スケールの自動取得アルゴリズムを備えていることで、光学顕微鏡における各倍率の画像1ピクセルあたりの空間スケールと1視野サイズの見積もりが頻繁に行われる場合に、特に有用である。
なお、1分子イメージングを行う上では、回折限界のために直径にして数nm程度の発光物でも、結像時は発光波長の半分程度の光の広がりを持つ。例えば、発光波長600nmの場合は、300nm程度となる。このため、1分子測定を行うための測定装置の要件として、1ピクセルあたり数百nm程度のスケールの測定であれば1分子測定が可能であると判断できる。また、数十から数百ピクセルを使った輝点像の解析から回折限界による制限を超えて輝点の位置を求める事が可能である。
512×512ピクセルの撮像装置を用いた場合、撮像視野内に1細胞(直径にして10−20μm)が収まる程度の撮像を考えると、1ピクセルあたりのスケールは数十nmとなる。この場合には、実際に測定される1つの輝点は、数十ピクセルの像となる。一方、細胞の密度は比較的低い状態で測定する場合も多い。この場合、視野の中心に細胞の中心を合わせるステージ移動操作が必要になるが、高倍率で細胞の位置を探索することは効率が悪いため、たとえば、視野が200×200μm程度の低倍率画像から個々の細胞の中心を見積もり、ステージの移動量ベクトルを決めることが好ましい。そして、低倍率測定により測定対象となる細胞を決定した後、その細胞に対する1分子測定を行う高倍率測定に切り替えて動態測定を行うことになる。この場合には、低倍率測定を基に求めた移動ベクトルを使ってステージを移動させて、対物レンズ上に測定対象となる細胞を位置させた状態で、1分子測定を行うことになる。
このように、測定対象となる細胞の位置を検出する場合など低倍率での観察を行う場合には、撮像された撮像画像を複数枚、一例として5×5の25枚をタイル状に貼り合わせたより広視野角の画像を作成して、その広視野角の撮像画像に基づいて測定対象の細胞を検出するデータ処理を行うことがある。本実施形態にかかる光学顕微鏡システムでは、マイクロメータなどの規則性パターンを実際に撮像した撮像画像を用いて撮像倍率の検出と、撮像画像内における規則性パターン位置のラベル化を行っているため、撮像画像データを貼り合わせてより広い観察対象範囲の画像データを作成する際にも、正しいタイリング処理が行われているか否かを、ラベル化された規則性パターンの配置位置を用いて検証することができる。
以上のとおり本実施形態の光学顕微鏡では、低倍率撮像画像での観測と高倍率撮像画像での観測との切り替え頻繁に行われる場合であっても、極めて高い正確性を持った画像処理を行うことができる。
[多波長同時測定時の相互補正]
図1に示したように、本実施形態にかかる光学顕微鏡では、撮像光学系と撮像装置を2系統備え、異なる発光色の蛍光性指標の発光を同時に観測することができる。このような2色の蛍光性指標を同時に観測することが可能な光学系を備えた光学顕微鏡では、拡大光像の波長選択を行うためのダイクロイックミラー等の測定波長分離手段、拡大レンズやミラーなどの拡大光学系を構成する光学部品の配置位置、さらに、撮像装置の取付けなどに極めて高い精度が要求される。また、実際の光学顕微鏡では、これらの光学部材それぞれについて、撮像画像を見ながら微調整が可能なようになっていて、異なる撮像画像系で得られた撮像画像相互のズレを解消することができる。
しかし、本実施形態の光学顕微鏡システムで行われる生体細胞の1分子測定などの場合には、高い拡大倍率で撮像画像を取得することが必要となり、実際の光学顕微鏡における撮像光学系ごとの配置精度が必ずしも十分ではない場合があり、撮像画像に基づいた微調整ではその誤差の解消が困難な場合がある。
本実施形態にかかる光学顕微鏡システムでは、上記説明した顕微鏡視野スケールの自動取得アルゴリズムを用いることで、異なる測定波長におけるマイクロメータの撮像画像において、同じ測定点に同じ番号でのラベル化を行うことができる。しかし、異なる測定波長により得られた撮像画像間の誤差が解消できない場合には、マイクロメータを撮像した画像から求めたラベル化後の各格子の推定中心位置のズレとなって現れてしまう。
以下、本実施形態にかかる光学顕微鏡システムが備える、2波長以上の多波長での同時測定を行う場合のラベル化された格子中心の推定位置の自動補正方法について、図8、図9を用いて説明する。
図8および図9は、本実施形態にかかる光学顕微鏡システムにおいて、異なる撮像装置により撮像されたマイクロメータの撮像画像から求めた格子中心位置の補正の様子を示す図である。
図8(a)は、異なる2つの撮像装置で撮像されたマイクロメータの撮像画像から、それぞれ推定して求めた格子中心位置を示している。
図8(a)において、図中左側に位置するCh1は、例えば図1において第1の撮像装置31aにより撮像された第1の測定波長における撮像光学系により得られたマイクロメータの格子状パターンから、各格子の中心位置を推定したデータに基づいて、適宜選択された3つの座標1(x1,y1)、2(x2,y2)、3(x3,y3)の位置を示したものである。また、図8(a)において、図中右側に位置するCh2は、例えば図1において第2の撮像装置31bにより撮像された第2の測定波長における撮像光学系により得られたマイクロメータの格子状パターンから、各格子の中心位置を推定したデータに基づいて、同様に選択された対応する3つの座標1(x1,y1)、2(x2,y2)、3(x3,y3)の位置を示したものである。
Ch1、Ch2それぞれの撮像画像データから推定された格子中心点1、2、3は、例えば以下のような3次元行列pkとして表すことができる。
図8(b)は、Ch1として得られたマイクロメータの撮像画像データに基づいて得られた3つの格子中心位置p1と、Ch2として得られたマイクロメータの撮像画像から求められた3つの格子中心位置p2とをそのまま重ね合わせた状態を示している。図8(b)において、Ch1では、Ch1で得られた格子中心位置p1を実線で表し、Ch2で得られた格子中心位置p2を点線で表している。一方、Ch2においては、Ch2で得られた格子中心位置p2を実線で表し、これにCh1で得られた格子中心位置p1を点線で示して重ね合わせている。
図8(b)より、Ch1で得られた画像に基づいて推計した格子中心の位置が、Ch2で得られた画像に基づいて推計した格子中心の位置よりも左側にずれていることがわかる。また、Ch1で得られた格子中心位置とCh2で得られた格子中心位置とを比較すると、それぞれの画像において3つの点1、2、3の間隔はほぼ同じとなっていて、Ch1とCh2とから得られた格子中心位置間には、平行なズレと回転のズレのみが生じていて、各格子中心の推定位置間での線形の伸びによるズレは生じていないことがわかる。
このような、2つの撮像装置において得られた格子間中心位置のズレを補正するために、まず図8(b)に矢印E、Fで示すように、最も原点に近い格子中心位置である点1を重ね合わせるベクトルを選んで平行移動を行う。
図9(a)は、Ch1として得られた第1の撮像装置による撮像画像から求められた格子中心位置と、Ch2として得られた第2の撮像装置による撮像画像から求められた格子中心位置の画像を、一つの格子中心(格子中心1)が一致するようにそれぞれベクトルE、Fを用いて平行移動した状態を示している。
具体的には、Ch1において、Ch2のデータを格子中心1同士が重なるようなベクトルEによって平行移動させ、Ch2において、Ch1のデータを格子中心1同士が重なるように逆向きのベクトルFによって平行移動する。この平行移動は、平行移動行列Sklに基づいて以下の行列Sを用いて表すことができる。
平行移動を完了した状態では、図9(a)に示すように、格子中心1の位置は一致しているが、2つめの格子中心2と3つめの格子中心3とがずれた状態となっている。次にこのズレを、格子中心1を回転軸とする回転移動で補正する。
図9(b)は、Ch1においてCh2により得られた格子中心を矢印Gのように回転させ、Ch2においてCh1により得られた格子中心を矢印Hのように回転させて、それぞれが一致した状態を示している。矢印Gと矢印Hとは互いに逆向きの同じ角度での回転を表している。回転補正における回転角の絶対値は内積より、また、回転方向は外積より求めることができる。
Ch1におけるCh2データの回転と、Ch2におけるCh1により得られたデータの回転とは、いずれも回転行列Rklとして表すことができ、補正後のそれぞれの座標は、以下の式による補正が行われたものとなる。
以上の変換に用いた行列を位置補正の行列として、それぞれのChから得られた撮像画像から推定された格子中心点に適用することで、異なる画像撮像系により撮像されたマイクロメータの撮像画像を処理して得られた、全ての格子中心点をほぼ一致させることができ、測定波長が異なる2つの撮像装置により得られた撮像データの誤差を実質的に解消することができる。
なお、上記説明では、説明の簡略化のために2つの撮像装置より得られたCh1とCh2との2つの画像が、平行移動と回転移動のみで補正できる状態について説明したが、例えば、3つの格子中心点同士の間隔が異なるなど倍率が変化するような線形のズレがある場合には、上記平行移動と回転移動による補正と同様に、アフィン変換によって補正することができる。また、像のズレがアフィン変換により補正しきれないような場合には、格子点を用いた補完方法などを使用して、異なる波長により観測された複数のデータ間相互のズレを補正することができる。
このように、異なる撮像画造形により得られた複数の撮像画像間の相互の位置ずれを、撮像画像の倍率の検出時に用いた方法を応用して補正することで、撮像倍率の検出と相互間補正とを同じ撮像画像データを用いて同時に処理することができる。このような撮像画造形相互間の誤差補正を最初に行うことで、以後の画像処理において撮像画像系の差異を考慮することなく同様の処理で対応することができ、測定精度の向上とともに処理速度の迅速化を実現することができる。特に本実施形態の光学顕微鏡システムを用いたスクリーニング装置を構成して、多数の測定対象に対する統計的データ処理を行う場合には、撮像画像の段階で相互のズレを補正することができることによって、データ処理の共通化によるスクリーニング速度のさらなる迅速化が期待できる。
[撮像画像のデータ処理]
上記の処理によって、撮像倍率を検出して撮像光学系間のデータ補正を行った後に、撮像画像データを用いて生体細胞内の1分子測定が行われる。
画像処理を行う上では、撮像画面内に複数個存在する蛍光性指標を示す輝点を認識するために、まず二値化処理を行うことになる。本実施形態の光学顕微鏡システムでは、撮像画像データから、それぞれのピクセルの時空間の偏差/平均であるCV画像を求めた後その画像データを二値化処理している。より具体的には、撮像画像中の1つのピクセルについて、その周囲の例えば隣接する8つのピクセルでの輝度値全体の分散値と平均値を求め、分散値/平均値の値をそれぞれのピクセルのCV値とし、このCV値を用いて撮像画像のCV画像を作成して、これを二値化処理の基準データとしている。なお、分散値と平均値を求める領域は、上記した隣接する8つのピクセルを用いる1ピクセル近傍の他に、25ピクセルの値を用いる2ピクセル近傍とする場合や、格子状ではなく円形状近傍のデータを用いるなど、各種の方法を使用することかできる。
図10は、本実施形態の光学顕微鏡により撮像された試料の透過光像により得られた撮像画像について、二値化処理の差を説明する図である。
図10(a)が透過光像から得られたCV画像(=分散値/平均値画像)であり、図10(b)は、図10(a)で得たCV画像に対し二値化処理を行ったものである。
一方、図10(c)は、撮像装置により得られた透過光像そのままを示したものであり、図10(d)は、図10(c)の透過光像をそのまま用いて二値化処理を行ったものである。なお、二値化手段は、従来からの細胞測定に用いられている代表的な手法であるOtsu法を用いて決定した閾値に基づいている。
照射光による照明ムラがある場合や、位相差像のような特殊なコントラストを持つ場合は、図10(d)として示された画像のように、細胞と背景の切り分けがうまくいかず、測定対象である蛍光性指標の輝点のみを画像データとして分離できていない。
これに対し、図10(b)として示される、本実施形態にかかる光学顕微鏡システムで得られた細胞像は、二値化処理によって個々の細胞を正しく分離できていることがわかる。
なお、測定対象物である細胞の種類によっては、その透明度が高く、焦点近傍での通常の透過光計測では細胞の形態を認識しにくい場合がある。これは画像処理においても同様であり、透明な細胞を撮像した画像データはラベル化しにくいという問題がある。
そこで、本実施形態の光学顕微鏡システムでは、透過光像による細胞像の撮像に際して、敢えて対物レンズの位置をシフトさせて焦点位置をずらした画像を複数種類撮像して、得られた複数枚の撮像画像データを重ね合わせて使用することで、細胞の形態を認識する手法を用いている。
図11は、対物レンズの焦点位置をずらして得られた複数枚の撮像画像を統合してデータ処理する状況を説明するための図である。
図11に示すように、上述したオートフォーカス判別手法により得られたフォーカス点での画像図11(b)に対し、手前側に焦点をシフトした画像図11(a)と、奥側に焦点をシフトした画像図11(c)とを重ね合わせて処理することで、図11(d)として示した撮像画像を得ることができる。
図11(d)の画像は、図11(a)、図11(b)、図11(c)それぞれの画像と比べて、各細胞の境界領域が明確に現れていることがわかる。
このように、本実施形態にかかる光学顕微鏡システムでは、撮像時における微妙な焦点ズレから細胞のコントラストが変化することを利用してその情報を重ね合わせて細胞像の画像処理を行うことで、測定対象試料である細胞の透明度が高い場合であっても、細胞の領域を良好に検出して、以降のデータ処理を行うことができる。
なお、位相差照明等を用いてコントラストを上げた場合、人間の目では認識は容易になる。しかし、細胞の境界は特殊なコントラストを持つので、撮像画像を用いて二値化処理を行う手法においては、撮像画像から細胞だけを分解することに困難が伴う。本実施形態の光学顕微鏡システムでは、細胞のデフォーカス像と細胞のCV画像とを用いて二値化処理を行うことで、撮像画像から測定対象となる細胞の切り分け処理を良好に行うことができる。
[測定対象細胞の特定]
測定対象となる細胞の位置は、低倍率の透過光計測によって決定するため、透過光像を効率よく二値化するための画像解析技術が必要になる。
以下、本実施形態にかかる光学顕微鏡システムにおける、透過光像から細胞を特定するための二値化処理について詳細に説明する。
図12は、本実施形態にかかる光学顕微鏡システムにおいて、得られた撮像画像を二値化処理する作業の流れを示すフローチャートである。また、図13は、図12に示したフローチャートによる二値化処理を行う課程での、データ処理された画像例を示すものである。
図12に示すように、本実施形態の光学顕微鏡システムでは、光学顕微鏡による透過光の拡大画像(図13(a))から、各ピクセルでの輝度データに基づいてCV画像(図13(b))を作成する(ステップS01)。
CV画像は、上記[撮像画像のデータ処理]欄で説明した方法と同じ方法で取得できる。
得られたCV画像について、Otsu法(ステップS02)、または、Gauss fitting法(ステップS03)などの従来用いられている閾値決定方法によって、二値化処理の基準となる閾値を決定して、二値化処理を行う(ステップS04)。
図13(b)に示すCV画像に対して、Otsu法により得られた閾値で二値化処理(ステップS04)が行われた画像を、図13(c)に示す。
さらに、得られた二値化画像をより精度の高いものとするために、得られた画像データの状況に応じて適宜それぞれ必要な手法による処理が選択されて適用される。
例えば、図13(c)のOtsu法による二値化画像に対して、必要に応じて画像データ中に含まれる不所望なデータを微分フィルターによる判別除去するフィルタ処理(ステップS05)を行い、さらに、例えば半径rの円を構造化要素として用いるクローズ処理などの、モフォロジー処理を行う(ステップS06)。図13(d)は、図13(c)の画像に、ステップS06のモフォロジー処理を行ったものである。
また、明るいピクセルで囲まれた暗いピクセル部分(ホール:穴あき部分)の塗りつぶし処理(ステップS07)を行った画像が、図13(e)である。
また、撮像されたが細胞が、画像周囲の境界部分にある場合には、正確な観察対象とすることが困難となるおそれがあるため、これを除外する境界処理(ステップS08)を行うと共に、観察対象の細胞の所定の大きさに満たない小さな光点を除外するため指定ピクセル以下のエリアを除去する処理(ステップS09)を行って、図13(f)に示す、より正確な二値化画像を得る。
なお、これらの二値化画像を得る一連の処理については、一例を示したものであり、これら全てを適用すべきであるというものではない。また、図12を用いて説明した上記の各種画像処理以外の画像処理を適宜必要に応じて用いることも含め、細胞の透過光像から測定対象細胞を選別化する上で有用な各種のデータ処理を適宜選択して行うことが好ましい。
次に、得られた二値化画像に対して、ウォーターシェッド(watershed)法などの領域分割のアルゴリズムを用いて、それぞれが細胞を示すと考えられる輝点領域を分割して、一つ一つの細胞を区別する(ステップS10)。このようにして、細胞ごとに分割された画像を、図13(g)として示す。
なお、繋がっている輝点領域を分割する手法としては、上記ウォーターシェッド(watershed)法以外の一般的な領域分割手法を用いることができる。
最後に、それぞれの細胞ごとに分割された輝点情報を区分(ラベリング)する(ステップS11)。それぞれの細胞について、異なる色を付与したカラリングによるラベル化を行ったものが、図13(h)である。
図14は、図12に示したフローチャートによって、低倍率の透過光像から測定対象の細胞を選択した状態を示す図である。図14では、測定対象となりうる細胞として認識されたものに、四角形の枠Iを付与してこれを認識可能としてする。
本実施形態の光学顕微鏡システムでは、上記のように低倍率の透過光像から、画像データ処理によって測定対象となる細胞の位置を特定することができる。そして、特定された細胞について、高倍率の全反射照明における蛍光観察を行うことで、生体細胞1分子の動態計測を行うことができる。
なお、本実施形態の光学顕微鏡システムにおいては、撮像倍率の検出課程で、撮像画像内における規則性パターン位置のラベル化を行っているため、撮像画像データを貼り合わせてより広い観察対象範囲の画像データを作成するタイリング処理を正確に行うことができる。このため、例えば複数の高倍率画像をタイリングすることで低倍率画像を得、この低倍率画像を用いて測定対象となる細胞の位置を検出、特定することも可能である。
[発現(データ取得細胞)の認識]
本実施形態にかかる光学顕微鏡システムでは、測定対象の細胞を選択して高倍率での全反射蛍光測定によって細胞1分子の動態測定を行う。このとき、測定対象の細胞は同じクローンであっても、タンパク質の発現率が異なる場合がある。このため、同じ条件で蛍光性指標を付与した場合でも、1分子観察が可能な場合と、そうでない場合とが生じうる。以下、本実施形態にかかる光学顕微鏡システムにおいて、測定対象の1分子細胞が、十分に発現して観察対象となるのか否かを判別する手法の一例について図15および図16を用いて説明する。
図15は、測定対象細胞が十分に発現している場合を、図16は、測定対象細胞が十分に発現していない場合をそれぞれ示している。
図15および図16において、それぞれの図中左側に示す(a)〜(d)が、全反射蛍光観察による1分子の輝点の積算像であり、図中右側に示す(e)〜(f)が、落射照明における干渉反射像である。
まず、それぞれの照明下において取得された細胞の拡大画像を図15(a)、(e)、図16(a)、(e)として示す。
この画像を、上述した方法によってC/V画像としたものを、図15(b)、(f)、図16(b)、(f)と、さらにOtsu法によって二値化した画像を、それぞれ図15(c)、(g)、図16(c)、(g)として示す。
さらに、それぞれの二値化像について、図12で示したモフォロジー処理(ステップS06)、ホールの塗りつぶし(ステップS07)を行ったものが、図15(d)、(h)、図16(d)、(h)である。なお、図15(a)、図16(a)は、全反射照明における細胞内の1分子細胞画像の時間平均ないしは積算画像に相当する。
このとき、上記の画像処理の結果得られた画像同士の相関係数を求めると、図15で示す細胞1分子の場合には0.5584という高い値が得られるのに対し、図16で示す細胞1分子の場合には、相関係数が−0.0425と低い値となっている。
このように、画像処理をした1分子細胞の画像について相関係数を算出することで、相関係数の大小から測定対象細胞が十分に発現しているか否かを判別することができる。
本実施形態の光学顕微鏡システムでは、1分子細胞の拡大光像を取得した段階で、その測定対象となる1分子細胞が十分に発現しているか否かを判断できるようにすることで、例えば、十分な発現が認められない観察対象については以降の動態測定を中止することで、もともと発現が不足しているために十分良好なデータを測定できない可能性がある観察対象物を長時間測定してしまうという時間のロスを事前に回避することも可能となる。特に、本実施形態にかかる光学顕微鏡システムを、多数のウェル内の細胞について順次動態測定を行うスクリーニング装置に用いる場合には、測定開始の比較的早い段階で測定対象としている細胞が十分に発現しておらず不適切なものであることが判断できることにより、大きな時間的ロスが生じることを回避することができる。
なお、測定対象の細胞1分子が十分に発現していると判断できるか否かの基準としては、例えば0.5以上の相関係数が得られた対象試料を引き続き測定可能な資料と判断するなど、得られる画像データに基づいて適宜設定することが好ましい。
以上説明したように、本実施形態で説明した、本開示にかかる光学顕微鏡システムでは、測定対象物である生体細胞1分子の動態測定について、エバネッセント光を用いる全反射照明下における光学顕微鏡のオートフォーカス動作を行うことができ、また、拡大光像として得られた撮像画像の倍率の特定と撮像画像中の座標位置を特定することで、撮像画像の正確な倍率を検出可能とすると共に、複数の高倍率画像の貼り合わせから低倍率画像を生成して、これら高倍率画像と低倍率画像間に渡る画像データ処理を円滑、かつ、正確に行うことができるものである。
また、多色照射光源下の場合に特に有効な、異なる発光色の蛍光指標を同時に観察可能とする複数の撮像光学系からの撮像画像を同様に処理するためのデータの相互補正を行い、さらに、撮像画像データから解析対象となりうる細胞を自動的に認識すると共に、測定対象である生体細胞1分子が十分に発現していて引き続き観察を続けることが好ましいもものか否かの選別を自動的に行うことができる。
このように本開示にかかる光学顕微鏡システムでは、人手に頼らずに高いスループットで、生体細胞1分子の動態を測定結果として出力することができる。この結果、例えば、従来は場合によっては1−2日必要となっていた生体細胞1分子の動態観察を、数十分程度以下で行うことができるなど、測定時間の大幅な短縮を実現することができる。また従来は、測定データの取得を人手に頼らざるを得ないが故に、測定者に一定上の経験やスキルが必要となることや、測定者ごとの癖などによって取得されたデータの客観性が不十分となる場合も生じるなどしていた問題点を解決することができる。
このような本開示にかかる光学顕微鏡は、大量のデータをより共通した条件下で取得して、得られたデータを統計的に処理するスクリーニング装置に適用することで、その特徴をさらに有効に活かすことができる。
[スクリーニング装置]
以下、上記実施形態で説明した光学顕微鏡をスクリーニング装置として用いる場合に、光学顕微鏡システムに加えられる構成とデータ処理方法について、スクリーニング装置の実施形態として説明する。
本実施形態で説明するスクリーニング装置では、上記説明した本実施形態の光学顕微鏡システムを用いて、例えば複数のウェルを備えたウェルプレートに対して、それぞれのウェル内の測定対象物である生体細胞の1分子動態測定を行うものである。
上記説明したように、本実施形態にかかる光学顕微鏡システムでは、撮像画像データを用いて、生体細胞の1分子測定が可能である。このためスクリーニングを行う上では、光学顕微鏡システムに加えて、測定対象であるウェルプレートのそれぞれのウェルを、光学顕微鏡の対物レンズ上に自動的に載置し、測定を行う上でのシステムが必要となる。
[ウェル中心位置の設定]
まず、本実施形態にかかるスクリーニング装置として、測定対象のウェルプレートにおける各ウェルの中心位置の設定を行う。なお、以下の説明において、スクリーン具装置全体の構成については、既に説明した図1を適宜参照する。
図17は、本実施形態にかかるスクリーニング装置における、ウェル中心位置の自動的な設定方法を説明する図面である。
まず、図17(a)に示すように、ウェル60aの中心に人工物の指標を配置する。具体的には、ウェルプレート60の製造時に、それぞれのウェル60aの中心位置のガラス面に凹凸やマークを印刷したものを用意することができる。また、より簡易的には、予めペン等を用いてウェル60aの中心に点を描くなどの方法を用いることもできる。
次に、光学顕微鏡システムで説明した、撮像画像から撮像倍率を検出した手法を応用して作成されたタイル画像である低倍率画像を用いて、光学顕微鏡で測定されたウェル60a中央の人工物の指標をラベル化し、その中心点をウェルの中心点として制御部50のメモリに登録する。例えば指標として、ペンを用いて直径が600μm程度のマークを付けた場合には、図17(b)に示すように、5×5のタイル画像を用いることで、指標の一を正確に特定することができる。
このように、タイル画像として得られた低倍率画像を用いて指標のラベル化を行う方法を採用することで、人工物の指標が、高倍率画像での一視野以上の大きさの場合でも対応することができる。なお、この、人工物の指標をラベル化する作業においても、タイル化して得られた低倍率画像を用いずに、対物レンズを交換して低倍率の画像を直接取得する方法を採用することも可能である。
このようにして設定された各ウェル60aの中心位置の情報に基づいて、ウェルプレート60を移送する(図1における矢印63)。この場合において、図17(c)に示すように、例えば各ウェル60aの配置ピッチpが7mmの場合には、ウェルプレート60の移送手段である二次元(x−y)、または、三次元(x−y−z)ステージを、当該ピッチpだけ移動させることで、それぞれのウェル60aのほぼ中心点近傍を光学顕微鏡20の対物レンズ26上部に配置することができる。
次に、設定した中心周辺領域で測定対象となる細胞の探索をする。細胞の検索は、上記光学顕微鏡システムの実施形態で説明したように、透過光での撮像画像をタイル画像として用いることができる。
一例として、96ウェルプレートの場合各ウェルの直径は7mm程度であるため、低倍率での観察画像1視野が200×200μmの光学顕微鏡20の場合、1視野あたり直径20μmの細胞が10%のコンフルエント(confluent)状態である場合でも、1つの視野内に10個程度の細胞が存在すると考えることができる。このため、1視野が200×200μmの場合には、5×5のタイル画像を作成して視野として1×1mmの観測領域を設定することによって、数百の細胞を観測するが可能となる。例えば、膜上タンパク質の拡散を計測する場合は、1細胞上のタンパク質の動態を観測するために、数百から数千の膜タンパク質のサンプリングができる。このため、本実施形態にかかる光学顕微鏡システムを用いたスクリーニング装置の場合では、上記の観察条件で数百の細胞が観察可能であるため、細胞1分子の動態測定を行う上で必要な数千から1万分子の観察を行うことができ、スクリーニングを行う統計解析のデータ量としては十分な量を取得することができる。
なお、スクリーニング装置におけるウェルプレート60の移送量の制御においては、隣り合うウェル60aを観察対象として順次対物レンズ26上に配置するように制御する方法の他に、測定結果に基づいて、もしくは、予め設定された制御条件に基づいて、測定環境制御手段としての薬剤供給部62で所定の薬剤が供給されたウェル60aの観察を行うなど、所定のウェル60aを適宜対物レンズ上に配置するような移送制御を行う場合がある。図17(c)は、一例としてウェル60aの配置位置として4行6列目のウェルD6から、8行12列目のウェルH12を対物レンズ上に移送する場合を示している。本実施形態にかかるスクリーニング装置の場合には、上記のように各ウェル60aの中心位置を予め観察設定しておくことによって、このように離れたウェル60aへの移動も正確に行うことができる。
また、例えば測定対象として96個のウェル60aを備えたウェルプレート等の多ウェルプレート60を用いる計測の場合、ウェル60aの壁面周辺の底面は湾曲しているため、高倍率かつ高解像度での全反射蛍光観察による1分子動態測定には向かない。このため、本実施形態にかかるスクリーニング装置のように、多数あるウェル60aの中心位置を予めスクリーニング装置の制御部50に自動的に登録して、ウェルプレートの移送時の移動距離の制御を正確に行うことで、各ウェル60aの中心近傍での計測を確実に行うことができる。なお、ウェル60aの中心位置の設定は、スクリーニング装置においてウェルプレート60を交換する都度を行うこともでき、また、同じ種類のウェルプレートを連続して測定対象とする場合には、ウェルプレート60に対する観察を所定回数行うごとに、ウェル60aの中心位置の設定を行ってもよい。いずれにしても、本実施形態のスクリーニング装置では、ウェル60aの中心位置の登録を自動的に行うことができるため、複数個のウェル60aを備えたウェルプレート60を用いるスクリーニング測定を、容易、かつ、正確に、さらに短時間で行うことができる。
[オイル自動供給]
本実施形態のスクリーニング装置では、大量の試料を網羅的に測定するためにマルチウェルプレートを使用する。また、上述したとおり、全反射照明での測定を行う際には、対物レンズと、試料が載置されたガラスプレートとしてのウェルの底面との間に光学的カップリング材としてのイマージョンオイルなどのオイル部材が充填された、油浸対物レンズが必要となる。
このため、本実施形態のスクリーニング装置では、光学顕微鏡の対物レンズ上にオイルアダプタを設けて、複数のウェルを順次このアダプタの上に載置することによって、それぞれのウェル内に収容された測定対象試料としての生体細胞について、全反射照明における動態測定を可能としている。
図18は、本実施形態にかかるスクリーニング装置における、対物レンズ上に配置されたオイルアダプタの構成を説明する図である。図18(a)がオイルアダプタの斜視図を、また、図18(b)が、オイルアダプタの対物レンズの光軸を通る面で切断した状態の断面図を示す。
図18(a)、図18(b)にその構成を示す、本実施形態にかかるスクリーニング装置に用いられるオイルアダプタ90は、対物側を上方に向けて配置された対物レンズ26の上面全体と側面の少なくとも上面側の端部を覆うレンズ被覆部91と、対物レンズ26の側面を覆うレンズ被覆部91のさらに外周側に配置された周囲部92とから構成され、対物レンズ26の対物側を覆うカバー部材となっている。
また、オイルアダプタ90のレンズ被覆部91の中心には、対物レンズ26のレンズ光軸と同軸となるように形成された開口部94が形成されている。
カバー部材90のレンズ被覆部91と対物レンズ26との間には、所定の間隙部93が形成されていて、この間隙部93内に、オイル供給系としてのオイルケーブル96から、図示しないペリスタルリティックポンプなどの所定量のオイル供給が可能なポンプを用いてオイルが供給される。オイルケーブル96の先端は、カバー部材90のレンズ被覆部91を貫通して間隙部93に到達しているため、図18(b)にドット部分として示すイマージョンオイル72が、間隙部93の全体に充填される。さらに、間隙部93に充填されたイマージョンオイル72は、オイルアダプタ90の開口部94から対物レンズ26のレンズ前方側に染みだして、図18(b)では図示を省略しているウェル60aの底面プレートとの間に充填される。
オイルアダプタ90のレンズ被覆部91の試料側には、レンズ被覆部91の上部のイマージョンオイル72を積極的に吸引する第1のオイル排出系としてのオイル吸引ケーブル97が配置されている。なお、オイルの吸引にも、オイル供給と同様にペリスタティック方式のポンプなどの所定量のオイルを供給できる供給装置を、オイルアダプタ90側をオイル供給元側として使用することができる。
また、本実施形態のスクリーニング装置で用いられるオイルアダプタ90では、レンズ被覆部91とそのさらに外周側に配置された周囲部92との間に溝部95が形成されている。オイルアダプタ90のレンズ被覆部91における対物レンズ26の上方側部分は、対物レンズ26の上面の形状と同様に中央部が高く周辺部が低くなる湾曲面、もしくは傾斜面形状となっていて、オイル吸引ケーブル97で吸引しきれなかった余剰分のオイルが、溝部95に流れ込む構成となっている。溝部95の底面には、溝部95内のイマージョンオイル72の量が一定量以上となってあふれ出すことを防止するための、第2のオイル排出系であるオイル排出ケーブル98が配置されている。
本実施形態のスクリーニング装置では、このように、オイルアダプタ90と対物レンズ26との間の間隙部93にイマージョンオイルを供給すると共に、オイルアダプタ90のレンズ被覆部91上からイマージョンオイルを積極的に吸引することで、オイルアダプタ90と対物レンズ26との間の間隙部93から、対物レンズ26の前方に供給されるオイル量を一定に保つことができる。
本実施形態のスクリーニング装置のオイルアダプタは、上記のようにオイルを供給する一系統のオイル供給系と、オイルを排出する二系統のオイル排出系を有し、そのうち一系統のオイル排出系であるオイル吸引ケーブルから積極的にオイルを排出する構成としているため、オイルアダプタ90の開口部94部分からガラスプレートに相当するウェル60aのウェルプレートとの間の部分に、常に略一定量のオイルを存在させることができる。
このため、例えば光学顕微鏡システムにおける測定対象物である生体細胞の1分子計測に時間がかかった場合であっても、対物レンズ26の油浸状態を維持することができる。また、本実施形態にかかるスクリーニング装置では、オイルアダプタ90の間隙部93に供給されたイマージョンオイル72をレンズ被覆部91の上面側から積極的に排出する構成としている。このため、複数のウェルを切り替えて対物レンズ上に配置して測定対象物の測定を行う際に、粘度の高いイマージョンオイルが測定が終了したウェルの底面に付着したままウェルプレートが移動してしまい、対物レンズ26の上面部分のイマージョンオイル量が必要量よりも少なくなってしまうという不測の事態を回避することができる。
このように、本実施形態にかかるスクリーニング装置に用いられる、油浸対物レンズを実現するためのオイル供給システムとしてのオイルアダプタでは、一つの測定が長時間にわたった場合や、また、数多くのウェル内の測定対象試料である生体細胞について連続して測定を行って統計的なスクリーニング処理を行う場合に対応可能なものである。このため、本実施形態のスクリーニング装置では、生体細胞1分子の自動的な動態測定が可能な本実施形態にかかる光学顕微鏡システムを用いた、長時間かつ多数の測定試料に対して統計的処理を行うスクリーニングを実現することができる。
なお、本実施形態のスクリーニング装置では、オイルアダプタ90の材料としては、耐オイル性の観点から真鍮性のものを使用しているが、ステンレスやアルミニウムなどのオイル耐性の高い、各種の金属材料または硬質樹脂材料等を用いることができる。
また、オイル供給系およびオイル排出系としてのケーブル96〜98には、一例としてのシリコンチューブなど、オイル詰まりが生じ難い各種のチューブ部材を用いることができる。
なお、本実施形態にかかるスクリーニング装置では、オイル供給系におけるオイル流量として、ポンプ流量の設定を一例として1mL/分、10分間隔で10秒間動作の繰り返しとすることができる。また、オイル排出系におけるオイル流量として、2mL/分の連続作動とすることができる。
上記実施形態において、オイルアダプタ内にイマージョンオイルを供給するオイル供給ポンプとして、ペリスタルティク方式のようなチューブポンプを例示した。このようにチューブポンプを採用することで、オイルに異物が入りにくくなって光学顕微鏡のレンズ視野を確保する上で有利となる。ただし、本実施形態のスクリーニング装置において、オイルアダプタに油浸観測のためのオイルを供給するポンプとして特別な制約はなく、光学顕微鏡での測定の障害とならない清浄度を確保できる前提で、かつ、イマージョンオイルなどの粘度の高いオイルを所定の流量で供給または吸引することができる範囲において、羽根ポンプや軸ポンプなどの通常のオイルポンプを用いることもかのうである。
以上、本実施形態のスクリーニング装置によって、複数のウェルを備えたウェルプレートを用いて、各ウェルに適宜異なる刺激を加えた異なる条件下の測定対象物細胞を配置し、その動態を自動的に順次測定することができる。また、対物レンズとウェル底面との間の油浸状態を維持することができるオイルアダプタを用いることで、自動的に測定対象のウエルを切り替えながら、長時間連続したスクリーニング測定を行うことができる。
以上それぞれの実施形態について説明した、本開示にかかる光学顕微鏡システム、を用いることで、従来は自動測定が困難であった、自然免疫系シグナル伝達の可視化としてのリガンド、レセプタ、アダプタなどの1分子可視化や、細胞走性のメカニズム解明などの測定を自動的に行うことができる。
また、上記生体細胞の1分子の動態測定が可能な光学顕微鏡システムを用いて、多数のウェルを備えたウェルプレートを用いたスクリーニングを自動的に行うことができ、これら自然免疫系シグナル伝達の可視化と細胞膜におけるシグナル伝達との解析を組み合わせることで、新薬の細胞1分子への働きかけ度合いについて、統計的なデータの取得と処理に基づく、広範囲のスクリーニングを行うことができ、新薬の特性検出を短時間で、かつ、正確に把握することができる。