以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
図1は、実施の形態に係るイオン発生装置10のアークチャンバ12および熱電子放出部14の概略構成を示す図である。
本実施の形態に係るイオン発生装置10は、傍熱型のイオン源であり、アークチャンバ12と、熱電子放出部14と、リペラー18と、サプレッション電極20と、グランド電極22と、各種電源を備える。
アークチャンバ12は、略直方体の箱型形状を有する。アークチャンバ12は、高融点材料、具体的には、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)などの高融点金属やそれらの合金、グラファイト(C)等で構成されている。これにより、アークチャンバ内が比較的高温となる環境下でも、アークチャンバを溶けにくくできる。
アークチャンバ12は、上面板12aと、下面板12bと、側壁板12cと、を含む。側壁板12cには、ソースガスを導入するガス導入口24と、イオンビームが引き出される開口部としてのフロントスリット26とが形成されている。上面板12aには、熱電子放出部14が設けられ、下面板12bにはリペラー18が挿通される。
なお、以下の説明において、上面板12aから下面板12bに向かう方向を軸方向といい、軸方向に直交する方向を径方向ということがある。また、アークチャンバ12の内部を内側、アークチャンバ12の外部を外側ともいう。
熱電子放出部14は、アークチャンバ内に熱電子を放出するものであり、フィラメント28とカソード30を有する。熱電子放出部14は、上面板12aの取付孔12dに挿入され、アークチャンバ12と絶縁された状態で固定される。
フィラメント28は、フィラメント電源34で加熱され、先端に熱電子を発生させる。フィラメント28で発生した(1次)熱電子は、カソード電源36によるカソード電界で加速され、カソード30に衝突し、その衝突時に発生する熱でカソード30を加熱する。加熱されたカソード30は(2次)熱電子40を発生し、この(2次)熱電子40が、アーク電源38によってカソード30とアークチャンバ12との間に印加されたアーク電圧によって加速され、ガス分子を電離するに十分なエネルギーを持ったビーム電子としてアークチャンバ12中に放出される。
リペラー18は、リペラープレート32を有する。リペラープレート32は、熱電子放出部14と対向する位置に設けられており、カソード30と対向してほぼ平行に設けられている。リペラープレート32は、アークチャンバ内の電子を跳ね返して、プラズマ42が生成される位置に電子を滞留させてイオン生成効率を高める。
つづいて、図2及び図3を参照しながら、熱電子放出部14の構成について詳述する。図2は、実施の形態に係る熱電子放出部14の構成を示す断面図であり、図3は、実施の形態に係る熱電子放出部14の構成を示す上面図である。
熱電子放出部14は、フィラメント28と、カソード30と、サーマルリフレクタ56と、狭隘構造60を備える。カソード30は、カソードキャップ50と、サーマルブレイク52と、カソードリテーナ54を含む。熱電子放出部14は、アークチャンバ12の上面板12aと接触しないように取付孔12dと間隔をあけて取付孔12dに挿入され、取付プレート46に固定される。カソード30およびサーマルリフレクタ56は、同電位であり、アークチャンバ12とは異なるアーク電位が印加される。
カソードキャップ50は、フィラメント28により加熱されてアークチャンバ内に熱電子を放出する部材であり、例えば、タングステン(W)やタンタル(Ta)などを含む高融点材料で構成される。カソードキャップ50は、軸方向に厚さを有する柱状形状を有し、例えば、円柱形状を有する。カソードキャップ50は、アークチャンバ12の内部空間に対する前面50aと、フィラメント28に対する背面50bと、側面50cを有する。背面50bには、側面50cから径方向外側に突出するフランジ50dが設けられる。フランジ50dは、サーマルブレイク52とカソードリテーナ54の間に挟み込まれて係止される。これにより、カソードキャップ50は、サーマルブレイク52およびカソードリテーナ54の端部に固定され、係止端部52aからアークチャンバ12の内側へ向けて突出する。
サーマルブレイク52は、アークチャンバ12の内から外へ向けて軸方向に延在する筒状部材であり、カソードキャップ50を固定する部材である。サーマルブレイク52は、例えば、カソードキャップ50の形状に対応して円筒形状を有する。サーマルブレイク52は、例えば、タングステン(W)やタンタル(Ta)などを含む高融点材料で構成される。サーマルブレイク52は、カソードキャップ50を係止するための係止端部52aと、アークチャンバ12の外に設けられる取付プレート46に取り付けするための取付端部52bを有する。取付端部52bは、取付プレート46に直接取り付けられてもよいし、カソードリテーナ54を介して取付プレート46に間接的に取り付けられてもよい。つまり、サーマルブレイク52は、取付端部52bにおいてカソードリテーナ54に固定されてもよい。
サーマルブレイク52は、カソードキャップ50を高温状態に保つため、熱絶縁性の高い形状を有することが望ましく、例えば、軸方向に長く、肉厚の薄い形状を有する。サーマルブレイク52をこのような形状とすることにより、カソードキャップ50と取付プレート46との間の熱絶縁性が高められる。これにより、フィラメント28により加熱されるカソードキャップ50は、サーマルブレイク52を介して取付プレート46へ放冷されにくくなる。
カソードリテーナ54は、サーマルブレイク52の内側に設けられる部材であり、サーマルブレイク52に沿って軸方向に延在する筒状部材である。カソードリテーナ54は、例えば、タングステン(W)やタンタル(Ta)などを含む高融点材料で構成される。カソードリテーナ54は、カソードキャップ50を押さえるための固定端部54aと、取付プレート46に取り付けするための取付端部54bを有する。カソードリテーナ54も、サーマルブレイク52と同様に、軸方向に長く、肉厚の薄い形状とすることが望ましい。
フィラメント28は、二本のリード電極44に接続されており、アークチャンバ12の外に設けられる取付プレート46に絶縁部48を介して固定される。フィラメント28は、タングステンワイヤを螺旋ループ状に曲げて形成される。フィラメント28は、カソードキャップ50、サーマルブレイク52およびカソードリテーナ54によって区画されるカソード30の内部に設けられる。これによりフィラメント28を、アークチャンバ12の内部空間で生成されるプラズマから隔離して、フィラメント28の劣化を防ぐ。
サーマルリフレクタ56は、カソードキャップ50およびサーマルブレイク52の径方向外側に設けられ、サーマルブレイク52の外周面52cに対向して軸方向に延在する筒状形状を有する。サーマルリフレクタ56は、例えば、タングステン(W)、タンタル(Ta)、グラファイト(C)などの高融点材料で構成される。サーマルリフレクタ56は、カソードキャップ50の前面50aの近傍で径方向外側に延びる開口端部56aと、サーマルブレイク52の取付端部52bの近傍で径方向内側に延びてサーマルブレイク52に接続される接続端部56bと、を有する。
サーマルリフレクタ56は、高温状態となるカソードキャップ50からの輻射熱をカソードキャップ50へ向けて反射し、カソードキャップ50の高温を維持する。サーマルリフレクタ56は、カソードキャップ50の側面50cからの輻射熱を反射できるように、側面50cに対向する位置まで軸方向に延びることが望ましい。言いかえれば、サーマルリフレクタ56は、カソードキャップ50を係止するサーマルブレイク52よりも、アークチャンバ12の内側に向けて軸方向に延びていることが望ましい。
また、サーマルリフレクタ56は、サーマルブレイク52の取付端部52bの近傍において、サーマルブレイク52に取り付けられることが望ましい。言いかえれば、サーマルリフレクタ56は、カソードキャップ50およびサーマルブレイク52の係止端部52aから離れた位置に取り付けられることが望ましい。カソードキャップ50およびサーマルブレイク52の係止端部52aの近くにサーマルリフレクタ56を取り付けると、カソードキャップ50の熱がサーマルリフレクタ56に伝わりやすくなり、サーマルブレイク52による熱絶縁性が低下するためである。
狭隘構造60は、カソードキャップ50およびサーマルブレイク52と、サーマルリフレクタ56とに挟まれる間隙58において、間隙58の径方向の幅Wを軸方向の所定位置において小さい幅WBとするように構成される構造である。狭隘構造60は、図2に示されるように、サーマルリフレクタ56の内周面56cから径方向内側に突出する突起部62を含む。なお、狭隘構造60は、後述する図5(a)に示す変形例のように、サーマルブレイク52の外周面52cから径方向外側に突出する突起部を含んでもよいし、図6(a)、(b)に示す変形例のように、サーマルブレイク52とサーマルリフレクタ56の双方から突出する突起部を含んでもよい。
突起部62は、突起部62が設けられる箇所において、間隙58の径方向の幅が小さい幅WBとなるように間隙58の径方向の幅を狭くする。突起部62は、間隙58のもとの幅Wに比べて、突起部62が設けられる箇所の間隙58の幅WBが1/2以下となるようにすることが望ましい。言いかえれば、突起部62の径方向の突出幅WAを間隙58の幅WBよりも大きくすることが望ましい。また、突起部62の軸方向の長さLは、間隙58の幅WBの2倍以上とすることが望ましい。例えば、間隙58のもとの幅Wが2mm程度である場合、間隙58の幅WBを0.2mm〜1mm程度とし、軸方向の長さLを1mm〜3mm程度とすればよい。好ましくは、間隙58の幅WBを0.5mm程度とし、軸方向の長さLを1.5mm程度とすればよい。
突起部62は、軸方向に延びるサーマルリフレクタ56の内周面56cのうち、サーマルブレイク52の係止端部52aの近傍の位置に設けられる。ここで、係止端部52aの近傍の位置とは、間隙58を軸方向の位置に応じて上部領域C1、中間領域C2、底部領域C3の3領域に分けたときに、中間領域C2の範囲内に対応する位置である。上部領域C1は、アークチャンバ12の内部空間に近い領域であり、具体的には、カソードキャップ50の前面50aおよび背面50bの軸方向の中間位置を境界として、この中間位置よりも前面50aに近い領域である。底部領域C3は、アークチャンバ12の内部空間から遠い領域であり、具体的には、サーマルブレイク52の係止端部52aおよびサーマルリフレクタ56の接続端部56bの軸方向の中間位置を境界として、この中間位置よりも接続端部56bに近い領域である。中間領域C2は、上部領域C1および底部領域C3の間に位置する領域である。
突起部62を中間領域C2に設けることにより、アークチャンバ12の内部空間にて生成されるプラズマを間隙58の奥側、つまり底部領域C3へ侵入しにくくする。また、底部領域C3に突起部62を設けないことにより、間隙58の奥側における径方向の幅Wを大きくし、突起部62によって狭くなった箇所を通過したプラズマを底部領域C3において希薄化することができる。これにより、底部領域C3を区画するサーマルブレイク52やサーマルリフレクタ56が高密度プラズマに曝される影響を低減する。また、突起部62を上部領域C1に設けないことにより、カソードキャップ50の側面50cから放出される熱電子の放出を阻害しないようにすることができる。これにより、カソード30から放出される熱電子量の低減を防ぎ、イオン生成効率を高めることができる。
また、突起部62は、図3に示されるように、内周面56cに沿って周方向に連続して設けられ、サーマルブレイク52またはカソードキャップ50の外側を取り囲むようにリング状に形成される。突起部62は、間隙58の幅WBが周方向の異なる位置において一定となるように設けられる。なお、変形例においては、突起部62は、間隙58の幅WBが周方向の異なる位置において異なる幅となるように形成されてもよいし、周方向の部分的な位置にのみ形成されてもよい。
以上の構成を有するイオン発生装置10には、図1に示すように、カソード30とリペラー18を結ぶ軸方向にソース磁場コイルにより誘起される外部磁場Bが印加されている。また、ビーム電子を放出するカソード30と対向させてリペラー18が設けられているため、ビーム電子は磁場Bに沿ってカソード30とリペラー18との間を往復移動する。往復移動するビーム電子は、アークチャンバ12に導入されたソースガス分子と衝突電離してイオンを発生させ、アークチャンバ12にプラズマ42を生成する。ビーム電子は、印加磁場によってほぼ限定された範囲に存在するのでイオンはその範囲で主に生成され、拡散によりアークチャンバ12の内壁、フロントスリット26、カソード30、リペラー18に到達し、壁面で失われる。
ソースガスには、希ガスや、水素(H2)、ホスフィン(PH3)、アルシン(AsH3)等の水素化物、三フッ化ホウ素(BF3)、四フッ化ゲルマニウム(GeF4)等のフッ化物、三塩化インジウム(InCl3)等の塩化物、等のハロゲン化物が用いられる。また、ソースガスには、二酸化炭素(CO2)一酸化炭素(CO)、酸素(O2)などの酸素原子(O)を含む物質も用いられる。これらのソースガスは、アークチャンバ12にガス導入口24を通じて導入され、(2次)熱電子40によりイオン化される。励起されたイオンは、アークチャンバ12の内壁、カソード30、リペラー18に入射して衝突すると、各部の構成素材(W、Ta、Mo、グラファイト等)を、スパッタや化学的エッチングにより摩滅させる。
ソースガスがフッ化物の場合、例えば、BF3の場合、イオン化によりB+、BF+、BF2 +、F+、F2 +が生成され、これらのイオンがアークチャンバ12の内部の壁面で中性化されると、F、F2等の反応性の高いフッ素ラジカルが生成される。フッ素ラジカルは、イオン発生装置10を構成する部品の材料と化学結合し、WFx、TaFx、MoFx、CFxなどのフッ化物となる。これらフッ化物は、比較的低温でガス化し、アームチャンバ内でイオン化され、WFx +、TaFx +、MoFx +、CFx +などのイオン化物質としてアークチャンバの内壁などに流入付着する。
このようなハロゲン化物で構成される付着物は、熱電子放出部14を構成するサーマルブレイク52などにも付着する。カソード30を構成するサーマルブレイク52などは、イオン発生装置10の稼働中において高温状態となるため、熱分解により堆積物に含まれるFなどのハロゲンが解離し、W、Ta、Mo、C等の熱伝導性の比較的高い物質として堆積される。そうすると、サーマルブレイク52の厚さが増大して、堆積物の増加とともにサーマルブレイク52の熱絶縁性が低下していく。そうすると、カソードキャップ50の温度を維持するためにフィラメント28への投入電力を大きくしなければならなくなる。
また、フィラメント電源34の電源容量には一般に上限があるため、サーマルブレイク52の熱絶縁性が低下すると、上限値まで投入電力を引き上げてもカソードキャップ50を必要とする温度に維持できなくなるおそれがある。カソードキャップ50の温度が維持できないとすると、熱電子放出部14により生成される熱電子の量が目標値に到達せず、イオン生成効率ないしイオン生成量が低減してしまうかもしれない。そうすると、イオン発生装置10から目標とする電流量のイオンビームを引き出すことができなり、熱絶縁性を回復するためにカソード30を交換するなどしてメンテナンスする必要が生じる。メンテナンスの頻度が高まると、イオン発生装置10の稼働率が低下し、イオン注入装置を用いる工程の生産性が低下してしまう。また、カソード30の交換頻度が増加すると、メンテナンスコストも増大する。
ソースガスとして酸素原子を含む物質を用いる場合、アークチャンバ内において酸素ラジカルが発生し、発生した酸素ラジカルは、イオン発生装置10を構成する各部の構成素材(W、Ta、Mo、グラファイト等)を蝕耗させる。特に、高温となるカソード30の周辺では、酸素ラジカルによる蝕耗の度合いが大きい。サーマルブレイク52やサーマルリフレクタ56の肉厚の薄い部分が蝕耗されてしまうと、これらの部品が外れてしまうおそれが生じる。そうすると、安定的なプラズマ生成が困難となり、損傷した部品のメンテナンスが必要となってしまう。メンテナンスの頻度が高まると、イオン発生装置10の稼働率が低下し、イオン注入装置を用いる工程の生産性が低下するとともに、メンテナンスコストが増大する。
このような課題について、図4に示す比較例を参照しながら詳述する。図4は、比較例に係る熱電子放出部114を示す模式図である。熱電子放出部114は、実施の形態に係る熱電子放出部14において狭隘構造60を構成する突起部62が設けられない点を除いて、実施の形態に係る熱電子放出部14と同様の構成を有する。
比較例では、狭隘構造60が設けられないため、矢印Xで示されるように、アークチャンバ12の内部空間で生成されるプラズマないしイオン化物質が間隙158の奥側(取付端部52bや接続端部56bの近傍)まで流入しやすい。カソード30の近傍は高温に保たれるため、イオン化物質に起因する堆積物が堆積しやすく、プラズマによる蝕耗の度合いが大きい。例えば、サーマルブレイク52の外周面52cに金属材料が多量に堆積すると、サーマルブレイク52の熱絶縁性が大きく低下することとなる。また、サーマルブレイク52の取付端部52bや、サーマルリフレクタ56の接続端部56bの近傍が蝕耗されてしまうと、これらの部材の取付強度が低下してしまう。したがって、イオン発生装置を安定的に稼働させるために、熱電子放出部114を構成する部品を頻繁にメンテナンスしなければならなくなる。
一方、本実施の形態では、熱電子放出部14に狭隘構造60が設けられるため、サーマルブレイク52とサーマルリフレクタ56とに挟まれた間隙58に流入するプラズマ量を減らし、間隙58におけるプラズマを希薄化することができる。これにより、間隙58を区画するサーマルブレイク52の外周面52cに堆積される堆積物の量を低減して、サーマルブレイク52の熱絶縁性の低下を抑制することができる。また、間隙58を区画するサーマルブレイク52やサーマルリフレクタ56が蝕耗される度合いを低減し、これらの部材の損傷を抑制することができる。これにより、熱電子放出部14を構成する部品のメンテナンス頻度を低下させて、生産性の高いイオン発生装置10および熱電子放出部14とすることができる。また、突起部62が設けられる位置においてサーマルブレイク52とサーマルリフレクタ56を接触させず、双方の間に隙間を設けることで、サーマルブレイク52の熱的絶縁性を維持できる。これにより、熱電子放出量の低下を防ぎ、イオン発生装置10および熱電子放出部14を安定的に稼働させることができる。
図5(a)は、変形例1に係る熱電子放出部14を示す断面図である。変形例1は、狭隘構造60を構成する突起部として、サーマルリフレクタ56の内周面56cに設けられる突起部62の代わりに、サーマルブレイク52の外周面52cに設けられる突起部64を有する点で上述の実施の形態と異なる。突起部64は、突起部62と同様に、軸方向の位置が中間領域C2に含まれる位置となるように配置される。突起部64を設けることにより、間隙58の奥側へ流入するプラズマ量を減らし、熱電子放出部14を構成する部品のメンテナンス頻度を低下させることができる。
図5(b)は、変形例2に係る熱電子放出部14を示す断面図である。変形例2は、狭隘構造60を構成する突起部として、径方向に突起する幅WAが軸方向の位置に応じて異なるように形成される突起部66を有する点で上述の実施の形態と異なる。突起部66は、アークチャンバの内部空間から離れるほど径方向に突起する幅WAが徐々に小さくなる形状を有する。このような形状とすることにより、アークチャンバの内部空間からのプラズマの流入を効果的に抑制するとともに、底部領域C3における間隙58の容積を大きくして底部領域C3におけるプラズマ密度を希薄化できる。このような効果を奏するには、底部領域C3の範囲において突起部66の突起する幅WAを十分に小さくするか、底部領域C3の範囲に突起部66を形成しない構成とすることが望ましい。なお、図5(b)では、サーマルリフレクタ56に突起部66を設ける構成としているが、さらなる変形例として、突起する幅WAが軸方向に変化する突起部66をサーマルブレイク52に設ける構成としてもよい。
図6(a)は、変形例3に係る熱電子放出部14を示す断面図である。変形例3は、狭隘構造60を構成する突起部として、サーマルリフレクタ56に設けられる第1突起部68aと、サーマルブレイク52に設けられる第2突起部68bを有する点で上述の実施の形態と異なる。第1突起部68aおよび第2突起部68bは、軸方向に重なる位置に設けられ、例えば、軸方向に同じ位置かつ同じ範囲に設けられる。第1突起部68aの径方向に突出する幅WA1および第2突起部68bの径方向に突出する幅WA2は、その合計値WA1+WA2が第1突起部68aと第2突起部68bの間の径方向の幅WBよりも大きくなるような値とすることが望ましい。これにより、間隙58の奥側へ流入するプラズマの量を減らして、間隙58の底部領域C3におけるプラズマ密度を希薄化することができる。
図6(b)は、変形例4に係る熱電子放出部14を示す断面図である。変形例4は、狭隘構造60を構成する突起部として、サーマルリフレクタ56に設けられる第1突起部69aと、サーマルブレイク52に設けられる第2突起部69bを有する点で上述の実施の形態と異なる。第1突起部69aおよび第2突起部69bは、軸方向に重ならない位置に設けられ、軸方向に互い違いとなる位置に設けられる。第1突起部69aの径方向に突出する幅WA1は、第1突起部69aとサーマルブレイク52の間の径方向の幅WB1よりも大きい。同様に、第2突起部69bの径方向に突出する幅WA2は、第2突起部69bとサーマルリフレクタ56の間の径方向の幅WB2よりも大きい。したがって、第1突起部69aおよび第2突起部69bは、その一部が径方向に重なるように配置される。このような構造とすることにより、間隙58の奥側へプラズマを侵入させにくくすることができ、間隙58の底部領域C3においてプラズマ密度を希薄化することができる。
図7は、他の実施の形態に係る熱電子放出部214の構成を示す断面図である。本実施の形態に係る熱電子放出部214は、カソードキャップ50およびサーマルブレイク52の径方向外側に配置されるサーマルリフレクタ56が設けられない点で上述の実施の形態と異なる。
本実施の形態において、狭隘構造260を構成する突起部264は、サーマルブレイク52の外周面52cに設けられる。狭隘構造260は、サーマルブレイク52と、サーマルブレイク52の外周面52cに対向する上面板12aの取付孔12dとに挟まれる間隙258において、間隙258の径方向の幅WBをもとの幅Wに対して部分的に小さくする。これにより、間隙258を通じてアークチャンバの内部から外部へ流出するプラズマの量を低減し、アークチャンバ12の外に設けられるサーマルブレイク52に対する堆積や蝕耗の影響を低減することができる。なお、本実施の形態において、突起部264は、アークチャンバ12の取付孔12dに設けられてもよい。
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。