しかしながら、上述した従来技術では以下に述べるような問題点がある。上述のパラメトリック増幅を行う非線形光学媒質としては周期分極反転LiNbO3(PPLN)導波路に代表される二次非線形光学材料を用いる方法と、石英ガラスファイバに代表される三次非線形光学材料を用いる方法がある。
図2は、非特許文献1等に開示されているPPLN導波路を用いた従来のPSAの構成を例示する。図2に示されるPSA200は、エルビウム添加ファイバレーザ増幅器(EDFA)201と、第1及び第2の二次非線形光学素子202及び204と、第1及び第2の光分岐部203−1及び203−2と、位相変調器205と、PZTによる光ファイバ伸長器206と、偏波保持ファイバ207と、光検出器208と、位相同期ループ(PLL)回路209と、を備える。第1の二次非線形光学素子202は、第1の空間光学系211と、第1のPPLN導波路212と、第2の空間光学系213と、第1のダイクロイックミラー214と、を備え、第2の二次非線形光学素子204は、第3の空間光学系215と、第2のPPLN導波路216と、第4の空間光学系217と、第2のダイクロイックミラー218と、第3のダイクロイックミラー219と、を備える。
第1の空間光学系211は、第1の二次非線形素子202の入力ポートから入力された光を第1のPPLN導波路212に結合する。第2の空間光学系213は、第1のPPLN導波路212から出力された光を第1のダイクロイックミラー214を介して第1の二次非線形光学素子202の出力ポートに結合する。第3の空間光学系215は、第2の二次非線形光学素子204の入力ポートから入力された光を第2のダイクロイックミラー218を介して第2のPPLN導波路216に結合する。第4の空間光学系217は、第2のPPLN導波路216から出力された光を第3のダイクロイックミラー219を介して第2の二次非線形光学素子204の出力ポートに結合する。
図2に示される例では、PSA200に入射した信号光250は、光分岐部203−1によって分岐されて、一方は第2の二次非線形光学素子204に入射し、他方は励起基本波光251として位相変調器205及び光ファイバ伸長器206を介して位相制御されてEDFA201に入射する。光通信に用いられる微弱なレーザ光から非線形光学効果を得るのに十分なパワーを得るためにEDFA201は、入射した励起基本波光251を増幅し、第1の二次非線形光学素子202−1に入射する。第1の二次非線形光学素子202−1では、入射した励起基本波光251から第2高調波(以下、SH光)252が発生し、当該発生したSH光252は偏波保持ファイバ207を介して第2の二次非線形光学素子204に入射する。第2の二次非線形光学素子204では、入射した信号光250とSH光252とで縮退パラメトリック増幅を行うことで位相感応増幅を行い、出力信号光253を出力する。
PSAにおいては、信号と位相の合った光のみを増幅するために、上述のように信号光と励起光の位相が一致、もしくはπラジアンだけずれている必要がある。すなわち二次の非線形光学効果を用いる場合は、SH光に相当する波長である励起光の位相φ2ωsと、信号光の位相φωsとが以下の(式1)の関係を満たすことが必要となる。ここで、nは整数とする。
Δφ=1/2(φ2ωs−φωs)=nπ (式1)
図3は、従来の二次非線形光学効果を利用したPSAにおける、入力信号光‐励起光間の位相差Δφと、利得(dB)との関係を示すグラフである。Δφが−π、0、またはπのときに、利得が最大となっていることがわかる。
図2に示した構成においては、信号光250と励起基本波光251とを位相同期させるために、位相変調器205を用いて微弱なパイロット信号により位相変調を励起基本波光251に施した後、出力信号光253の一部を分岐して検出器208で検波する。このパイロット信号成分は、図3に示される位相差Δφが最小の位相同期が取れている状態で最小となるので、パイロット信号が最小、つまり増幅出力信号が最大となるようにPLL回路209を用いて、光ファイバ伸長器206にフィードバックを行う。励起基本波光251の位相を制御して信号光250と励起基本波光251の位相同期を達成することができる。
上記のPPLN導波路を非線形媒質として用い、信号光250とSH光252を第2の二次非線形光学素子204に入射して縮退パラメトリック増幅を行う構成においては、一旦SH光252を発生してからパラメトリック増幅を行う際に、例えばダイクロイックミラー206−1及び206−2の特性を用いて励起基本波光の成分を取り除くことにより、SH光252と信号光250のみを第2の二次非線形光学素子204のようなパラメトリック増幅媒質に入射することができる。そのため、EDFA201の発生する自然放出光の混入による雑音が防げるので、低雑音な光増幅が可能になる。
上述のようにPPLN導波路を非線形光学媒質として用い、SH光252を用いて非線形媒質を励起する構成とすることで、EDFA201が発生する雑音の影響を受けることなく低雑音な位相感応増幅を行うことができ、また直交位相成分を減衰させる特性を活かして、位相雑音を低減させることができる。
図3に示すように、上述した従来の構成法では、直交する位相成分を減衰させる特性を有しているため、通常の強度変調信号や二値の位相変調を用いるIMDD、BPSKまたはDPSK等の変調信号の増幅に用いることができる。しかし、さらに多値の変調フォーマットであるQPSK(4値)や8PSKやQAM等の信号を増幅することができないが、非特許文献2及び非特許文献3等に開示されているように非縮退のパラメトリック増幅に基づく構成を用いることで、QPSKやQAM等の多値の位相変調信号を位相感応増幅し、位相再生増幅が可能な構成をとりうることが知られている。
しかしながら、従来技術を用いて構成した位相感応光増幅器は、入力される信号光の偏波に大きく依存するため、実際の光通信システムへ適用するためには課題がある。LiNbO3に代表される、結晶に異方性を有する二次非線形光学媒質は、2つの直交する偏波に対する屈折率及び非線形定数が異なる。通常、PPLN導波路では最も高い非線形光学定数であるd33を利用できる構成を取り、その構成において位相整合を取ることができるように周期分極反転構造を設ける。例えばZカットのLiNbO3基板を用いる場合、TM偏光に対してこの条件が満たされる。一方で、直交する偏波であるTE偏光に対しては、屈折率が異なることから同一波長で位相整合を満たすことはできない。仮に何かしらの方法で位相整合を満たすことができたとしても、TE偏光に対する非線形定数はd33よりも小さい成分を使うことになるため、効率が大幅に低下する。すなわち、PPLNに代表される二次非線形媒質を用いた光パラメトリック過程は、偏波方向に大きく依存し、単一の偏波に対してのみ増幅が可能となる。つまり、従来の構成では、PPLN導波路に入射される光の偏光状態が一定でない場合は、位相感応増幅器としての増幅特性が一定ではなくなってしまう。
実際の光伝送では、光送信機からの光信号は、その偏波の向きを常に同一に保つ構成を取ることは可能である。しかしながら、シングルモードファイバ(SMF)に代表される伝送路として通常用いられる光ファイバは、偏波を保持しないため、伝送後の光信号の偏波の向きは一定していない。さらに、光ファイバに加わる温度変化等の外乱により、光信号の偏波は遂次変化する。このような光信号を増幅する場合、光信号の偏波の向きに対して利得が変化するような光増幅器では、光増幅器より送り出される光信号の強度が時々刻々変化することになり、使用することができない。
さらに、近年の光通信においては、直交する2つの偏波に別々の信号を重畳して周波数利用効率を高める偏波多重(PDM)方式が用いられている。つまり、光ファイバを伝送された信号光は、2つの偏波成分を持ちかつ2つの偏波が互いに直交した状態で偏波が回転した状態であり、この偏波の回転の向きは常に変化する。このような光信号を増幅する場合、偏波方向の変化に無依存であるだけでは不十分であり、2つの偏波成分を増幅できる必要がある。しかしながら、従来の位相感応光増幅器において、これらの条件を満たすことのできる構成は示されていなかった。
偏波無依存化に向けた方法として、偏波分離素子で偏波を分離して両者をTM偏光に合わせ各々を位相感応増幅させた後に、合流させる偏波ダイバーシティ構成が考えられる。2つの偏波に対して光路を分離して偏波ダイバーシティを行うためには、少なくとも、偏波の分離・光の増幅・偏波の合成を行う間で、2つに分離した光路における遅延の一致と、2つに分離した光路間で位相の変動がないことが必須となる。
非特許文献3には、直交する偏波を持つ独立の2つの信号をそれぞれ独立に位相感応増幅した後に、偏光ビームスプリッタ(PBS)を用いて合波し、PDM信号を生成する構成が示されている。しかしながら、この構成では、位相感応増幅器がファイバ部品で構成されているため、2つの独立した光路の間で位相の変動が発生してしまう。そのため、このままの構成では、任意の偏波を持つ信号光に対するダイバーシティを実現することはできない。このため、非特許文献3の中では、2つの偏波を持つ信号を独立に取り扱うことのできる送信器用の光増幅器として適用することを想定している。
位相感応光増幅器における偏波無依存化とは異なるが、PPLN導波路を用いた波長変換器においては、PPLN導波路の持つ偏波依存性を解消するための構成がいくつか提案されている。非特許文献4には、PPLN導波路内に信号光を往復させる構成が示されている。非特許文献4に示される構成では、まず2つの直交する偏波成分を含んだ信号と片偏波の励起光をPPLN導波路に入射し、PPLN導波路中の差周波数発生により2つの直交する偏波成分の内の片方の成分の光から波長変換光が得られる。続いて、波長板を用いて信号光と変換光の偏光を回転させた後、同一のPPLN導波路に信号光を変換光と励起光と共に先ほどの入射方向とは逆方向から入射する。この時も片方の偏波成分のみから波長変換光が得られるが、偏光を回転させた後入射するため、往路で得られた偏光成分とは直交する信号光の偏波成分の変換光が得られる。最終的に、往路で得られた変換光と復路で得られた変換光との合成成分が出力の変換光として得られるため、偏波に無依存な波長変換を実現することができる。
非特許文献5には、2つの直交する偏波成分を含んだ信号をPBSでそれぞれの偏波成分に分けた後、同一のPPLN導波路の両側から入射する構成が示されている。非特許文献5に示される構成では、PBSで信号の偏波を分離した後、分離された信号がPPLN導波路に入射され、再度同一のPBSで偏波合成されるループ型の形態を取ることで、それぞれに分離された偏波成分を持つ2つの光に対して光路を等しくすることができる。そのため、非特許文献5に示される構成では、偏波分離した場合に生じる位相の変動を小さく抑えることができる特徴を有する。
このように、PPLN導波路を用いた波長変換器においては、同一のPPLN導波路を双方向で使うことで偏波依存性を解消する構成が示されている。しかしながら、これらの構成をそのままパラメトリック光増幅を用いた位相感応光増幅器のように、光の利得を得るための構成には適用することはできない。なぜならば、利得が大きくなるほど構成部品からの光反射の影響が大きくなるからである。また、位相感応光増幅器においては、相互作用する信号光と励起光との位相を同期させる必要があり、光反射が大きいと、この位相同期機構にも影響を及ぼし、安定的な増幅動作を実現することは難しい。
以下に、双方向で励起した場合の光の反射の影響による課題について、図4を用いて説明する。図4に、PPLN等の二次非線形光学材料から成る導波路デバイスに、双方向から励起光を入射した場合の反射の影響の概念図を示す。
図4に示した構成例では、ZカットのPPLN導波路を用いて、波長1560nm帯の信号光を増幅すると仮定する。この場合、波長780nm帯の励起光を用いる。この励起光波長によると、PPLN導波路の分極反転周期を適当に選択すれば、いずれの波長の信号光に対しても増幅が可能である。PBSなどを用いて信号光の内それぞれの偏波成分を分離し、偏波成分がそれぞれ異なる第1の入力信号光401及び第2の入力信号光402を得ている(この過程は図4では図示せず)。
図4に示されるように、第1の入力信号光401と第1の励起光403を誘電体多層膜によるダイクロイックミラー407を用いて合波した後、当該合波光をPPLN導波路409に入射する。この時、第1の入力信号光401及び第1の励起光403共にTM偏波に調整した後PPLN導波路409に入射する。その後、PPLN導波路409内のパラメトリック増幅過程により増幅された第1の出力信号光405を得る。この時、第1の出力信号光405の一部を分岐部410において分岐した後、光受光器で受光し、その後、PLL回路を用いて、第1の入力信号光401の位相と第1の励起光403の位相とを同期させる。
同様に、第2の入力信号光402と第2の励起光404を誘電体多層膜によるダイクロイックミラー408を用いて合波した後、当該合波光をPPLN導波路409に入射する。この時、第2の入力信号光402及び第2の励起光404共にTM偏波に調整した後PPLN導波路409に入射する。PPLN導波路409内のパラメトリック増幅過程により増幅された第2の出力信号光406を得る。この時、第2の出力信号光406の一部を分岐部411において分岐した後、光受光器で受光し、その後、PLL回路を用いて、第2の入力信号光402の位相と第2の励起光404の位相を同期させる。
図4では、光の反射の影響をPPLN導波路409の上下に示しており、第1の入力信号光401の反射成分を上に、第2の入力信号光402の反射成分を下に示している。なお、図4では、影響を簡単に説明するために、PPLN導波路409の出力端での信号光の反射のみを考える。実際の構成では、導波路の入力端での反射や、ダイクロイックミラーでの反射光も存在する。また、図4中には示していないが、実際の構成では導波路の入出力にレンズなどの光学部品を用いるため、それらの光学部品からの反射光も存在する。さらに、実際には反射された励起光と信号光の相互作用も考慮に入れる必要があるが、簡略化のため図4では示していない。また、図4では、信号光の反射回数はその影響を説明するために必要な回数(概ね2回)のみを示しているが、実際には多重に反射する。
図4中に示した、第1の入力信号光401の反射の影響の様子について述べる。PPLN導波路409の入出力端4092側から入射した第1の入力信号光401は、PPLN導波路409内でG倍されて出力される。第1の入力信号光401の入力信号強度をa1とすると、当該G倍された光の強度を図4中ではGa1と表記している。PPLN導波路409の入出力端4091では、反射率Rで第1の入力信号光401が反射される。当該反射された光の強度を図4中ではGRa1と表記している。入出力端4091で反射された光は、PPLN導波路409内を伝搬する間に、第2の励起光404との相互作用により同様にG倍される。実際は、第1の励起光403による増幅と第2の励起光404による増幅の利得は多少異なる場合もあるが、ここでは同一と近似する。つまり、第1の入力信号光401の復路でもG倍の利得が得られるため、入出力端4092側から出力される反射光が存在することになる。この1度入出力端4091で反射され、第1の入力信号光401と反対向きに戻る光の強度を図4ではG2Ra1と表記している。この反射されて戻ってきた光は、再び入出力端4092で反射され、その後第1の励起光403との相互作用によりG倍され、入出力端4091から出力される。この第1の入力信号光401と同一方向に出力される光の強度を図4ではG3R2a1と表記している。
同様に、入出力端4091側から入射した第2の入力信号光402は、PPLN導波路409内でG倍されて出力される。第2の入力信号光402の入力信号強度をb1とすると、当該G倍された光の強度を図4中ではGb1と表記している。PPLN導波路409の入出力端4092では、反射率Rで第2の入力信号光402が反射される。当該反射光の強度を図4中ではGRb1と表記している。入出力端4092で反射された光は、PPLN導波路409内を伝搬する間に、第1の励起光403との相互作用により同様にG倍される。つまり、第2の入力信号光402の復路でもG倍の利得が得られるため、入出力端4091側から出力される反射光が存在することになる。この1度入出力端4092で反射され、第2の入力信号光402と反対向きに戻る光の強度を図4ではG2Rb1と表記している。この反射されて戻ってきた光は、再び入出力端4091で反射され、その後第2の励起光404との相互作用によりG倍され、出力される。この第2の入力信号光402と同一方向に出力される光の強度を図4ではG3R2b1と表記している。
よって、第1の入力信号光401、第2の入力信号光402、第1の励起光403、第2の励起光404を双方向で同一のPPLN導波路に入射した場合、入出力端4091及び4092からの2回程度の反射を考えても、第1の出力信号光405の強度OA1及び第2の出力信号光406の強度OB1はそれぞれ以下の(式1)、(式2)のように示される。
OA1=Ga1+G2Rb1+G3R2a1+・・・ (式1)
OB1=Gb1+G2Ra1+G3R2b1+・・・ (式2)
第1の出力信号光405としては、本来、第1の入力信号光401の強度をG倍した(式1)中のGa1の項を有する光のみが出力されることが望ましい。しかしながら、図4に示した通り、G2Rb1+G3R2a1の強度を有する反射光も同時に出力されてしまうことが分かる。この反射光は、増幅された信号光と干渉し、信号品質を劣化させる雑音となってしまうという課題があることが分かる。
ここで仮に、第1の入力信号光の強度を1(a1=1)、増幅利得を20dB(G=100倍)、端面での反射率を−30dB(R=0.001)として考えると、主信号は100倍されるので強度が100となる。しかしながら、雑音成分となってしまう反射光は、それぞれG2Rb1=10、G3R2a1=1となり、この2つの成分のみを考えただけでも、増幅された主信号に対して10%以上の強度の雑音が発生することになる。実際には、多重反射のため、より反射光の影響が大きいことは明らかである。
また、図4、(式1)及び(式2)から明らかなように、単純に同一導波路を双方向から励起すると、一度の反射で、往路復路の両方で光が増幅されるため、反射光の影響が大きくなることが分かる。つまり、反射率Rが利得Gに比べ小さい場合でも、反射率Rに掛かる乗数と利得Gに掛かる乗数が異なるため、反射光が増幅された主信号成分に比べて大きく影響を及ぼすほど、強度が大きくなってしまうという課題がある。利得Gが大きくなれば、場合によっては発振してしまうなどの問題もある。
さらに、位相感応光増幅器としてこの構成を適用するためには、信号光と励起光の位相を同期させる必要があるが、雑音成分となる反射光は、増幅された主信号とは異なる位相を持っているため、出力側の一部を受光して位相同期を行う場合に、安定的に位相同期を行うことができないという課題もあった。
これらの理由から、従来の構成を用いては、偏波無依存の位相感応光増幅器を構成することはできなかった。
上記問題を鑑みて、本発明の目的は、二次非線形光学材料を用いて構成した光増幅装置において、反射光の影響を従来方法に比べて大幅に低減した光増幅装置を提供することにある。
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に記載の光増幅装置は、第1及び第2の励起光を用いた光パラメトリック増幅により信号光を増幅する光増幅装置であって、前記信号光を2つの偏波成分に分離して出力する偏波分離多重素子と、入射した光の偏光方向を90°回転して出力する第1及び第2の偏波回転子と、前記偏波分離多重素子から前記2つの偏波成分のうちの一方の偏波成分を有する信号光を入力し、前記一方の偏波成分を有する信号光と前記第1の励起光との光パラメトリック増幅により第1の増幅信号光を生成する第1の二次非線形光学素子と、前記偏波分離多重素子から前記2つの偏波成分のうちの他方の偏波成分を有する信号光を前記第2の偏波回転子を介して入力し、前記他方の偏波成分を有する信号光と前記第2の励起光との光パラメトリック増幅により第2の増幅信号光を生成する第2の二次非線形光学素子と、を備え、前記第1の二次非線形光学素子から出力された前記第1の増幅信号光は、前記第1の偏波回転子、前記第2の二次非線形光学素子、及び前記第2の偏波回転子を介して前記偏波分離多重素子に入射し、前記第2の二次非線形光学素子から出力された前記第2の増幅信号光は、前記第1の偏波回転子及び前記第1の二次非線形光学素子を介して前記偏波分離多重素子に入射し、前記偏波分離多重素子は、入射した前記第1及び第2の増幅信号光を合波して出力することを特徴とする。
本発明の請求項2に記載の光増幅装置は、本発明の請求項1に記載の光増幅装置であって、前記2つの偏波成分のうちの一方の偏波成分を有する信号光と前記第1の励起光とを合波して前記第1の二次非線形光学素子に出力する第1の合波器と、前記2つの偏波成分のうちの他方の偏波成分を有する信号光と前記第2の励起光とを合波して前記第2の二次非線形光学素子に出力する第2の合波器と、前記第1の二次非線形光学素子の出力のうち、前記第1の増幅信号光と前記第1の励起光を分離して、前記第1の増幅信号光を前記第1の偏波回転子に出力する第1の分波器と、前記第2の二次非線形光学素子の出力のうち、前記第2の増幅信号光と前記第2の励起光を分離して、前記第2の増幅信号光を前記第1の偏波回転子に出力する第2の分波器と、をさらに備えたことを特徴とする。
本発明の請求項3に記載の光増幅装置は、本発明の請求項1又は2に記載の光増幅装置であって、前記第1の二次非線形光学素子から出力された前記第1の増幅信号光を2分岐して、前記第1の増幅信号光の一方を前記偏波分離多重素子に出力する第1の光分岐部と、前記第2の二次非線形光学素子から出力された前記第2の増幅信号光を分岐して、分岐された前記第2の増幅信号光の一方を前記偏波分離多重素子に出力する第2の光分岐部と、前記第1の光分岐部で分岐された前記第1の増幅信号光の他方を受光して前記信号光と前記第1の励起光との位相同期を行う第1の位相同期回路と、前記第2の光分岐部で分岐された前記第2の増幅信号光の他方を受光して前記信号光と前記第3の励起光との位相同期を行う第2の位相同期回路と、第1の基本波光を増幅する第1の光ファイバレーザ増幅器と、当該増幅した第1の基本波光から和周波発生又は第2高調波発生過程を用いて前記第1の励起光を生成して前記第1の二次非線形光学素子に出力する第3の二次非線形光学素子と、第2の基本波光を増幅する第2の光ファイバレーザ増幅器と、当該増幅した第2の基本波光から和周波発生又は第2高調波発生過程を用いて前記第2の励起光を生成して前記第2の二次非線形光学素子に出力する第4の二次非線形光学素子と、をさらに備えたことを特徴とする。
本発明の請求項4に記載の光増幅装置は、本発明の請求項1乃至3のいずれかに記載の光増幅装置であって、前記第1及び第2の二次非線形光学素子は、前記励起光と前記信号光との間で擬似位相整合を満たす周期分極反転構造を有する、LiNbO3、KNbO3、LiTaO3、LiNbxTa1−xO3(0≦x≦1)又はKTiOPO4、或いはそれらにMg、Zn、Sc、Inからなる群から選ばれた少なくとも一種を添加物として含有している材料からなる光導波路を有することを特徴とする。
本発明の請求項5に記載の光増幅装置は、本発明の請求項1乃至4のいずれかに記載の光増幅装置であって、前記偏波分離多重素子、前記第1の二次非線形光学素子、前記第1の偏波回転子、前記第2の二次非線形光学素子及び前記第2の偏波回転子は、それぞれ光ファイバによってループ状に接続されていることを特徴とする。
本発明の請求項6に記載の光増幅装置は、本発明の請求項1乃至4のいずれかに記載の光増幅装置であって、前記偏波分離多重素子、前記第1の二次非線形光学素子、前記第1の偏波回転子、前記第2の二次非線形光学素子及び前記第2の偏波回転子は、それぞれ空間光学系によってループ状に光学的に結合されていることを特徴とする。
本発明の請求項7に記載の光増幅装置は、本発明の請求項1乃至6のいずれかに記載の光増幅装置であって、前記第1の二次非線形光学素子及び前記第2の二次非線形光学素子は、1つのチップにモノリシックに集積されていることを特徴とする請。
本発明は、2つの直交する偏波成分の信号光を同一経路で独立に増幅することが可能であり、反射光の影響を従来方法に比べて大幅に低減できるため、分離・増幅の間の位相変動の影響を抑制することができる。
以下、図面を参照しながら本発明の各実施例について詳細に説明する。
(実施例1)
本実施例1に係る光増幅装置では、任意の偏波を持つ信号光入力に無依存で増幅可能な、PPLN導波路を用いたPSAの構成を示す。本実施例1に係る光増幅装置は、任意の偏波方向に偏光した入力信号光を、偏向ビームスプリッタ(PBS)などの偏波分離多重素子を用いて2つの偏波成分に分け、それぞれの偏波成分を右回りと左回りの両方向について、光ファイバ部品を用いたループ上に伝搬させる構成を用いている。
図5は、本発明の実施例1に係る光増幅装置の構成を示す。図5には、第1及び第2のEDFA501及び502と、第1及び第2のバンドパスフィルタ503及び504と、第1乃至第4の二次非線形光学素子505乃至508と、PBS509と、偏波回転子510及び511と、第1及び第2の光分波器512及び513と、第1及び第2の偏光子514及び515と、第1及び第2の光検出器516及び517と、第1及び第2のPLL回路518及び519と、位相変調器・PZTによる第1及び第2の光ファイバ伸長器520及び521と、を備えた光増幅装置が示されている。
第1の二次非線形光学素子505は、第1及び第2の空間光学系522及び524と、第1のPPLN導波路523と、第1のダイクロイックミラー525と、を備える。第2の二次非線形光学素子506は、第3及び第4の空間光学系526及び528と、第2のPPLN導波路527と、第2のダイクロイックミラー529と、を備える。第3の二次非線形光学素子507は、第5及び第6の空間光学系530及び532と、第3のPPLN導波路531と、第3及び第4のダイクロイックミラー533及び534と、を備える。第4の二次非線形光学素子508は、第7及び第8の空間光学系535及び537と、第4のPPLN導波路536と、第5及び第6のダイクロイックミラー538及び539と、を備える。偏波回転子510及び511は、λ/2波長板のように直線偏光を90°回転させる光学素子を用いてもよいし、偏波保持ファイバを物理的に90°回転させて接続するような機構でもよい。
第1の空間光学系522は第1の二次非線形光学素子505に入力された光を第1のPPLN導波路523に結合し、第3の空間光学系526は第2の二次非線形光学素子506に入力された光を第2のPPLN導波路527に結合する。第5の空間光学系530は第3の二次非線形光学素子507に入力された光を第3のダイクロイックミラー533を介して第3のPPLN導波路531に結合し、第7の空間光学系535は第4の二次非線形光学素子508に入力された光を第5のダイクロイックミラー538を介して第4のPPLN導波路536に結合する。
第2の空間光学系524は第1のPPLN導波路523から出力された光を第1のダイクロイックミラー525を介して第1の二次非線形光学素子505の出力ポートに結合し、第4の空間光学系528は第2のPPLN導波路527から出力された光を第2のダイクロイックミラー529を介して第2の二次非線形光学素子506の出力ポートに結合する。第6の空間光学系532は第3のPPLN導波路532から出力された光を第4のダイクロイックミラー534を介して第3の二次非線形光学素子507の出力ポートに結合し、第8の空間光学系537は第4のPPLN導波路536から出力された光を第6のダイクロイックミラー539を介して第4の二次非線形光学素子508の出力ポートに結合する。
図5に示される例では、信号光と同じ波長帯の基本波光からの第2高調波発生により光増幅に用いる励起光を生成する。信号光波長を光ファイバ通信で用いられる1560nm帯として説明する。二次非線形光学効果を用いたパラメトリック増幅過程では、信号光波長の概ね半分の波長(780nm帯)の光が励起光として必要となる。信号光と位相同期可能な同一波長帯の基本波からPPLN導波路中の和周波発生もしくは第2高調波発生を用いて励起光を生成する。基本波光は、例えば光増幅装置が信号光源の近くに設置できるような場合は、信号光源から分岐された光を用いてもよいし、信号光光源からの出力を用いることができない場合は信号光の一部を光注入同期などで光増幅装置内の局発光源と同期させるような形で基本波光を生成してもよい。本実施例では、基本波光を2分岐し、それぞれ第1の基本波光1及び第2の基本波光2として用いている。また、基本波光から和周波発生もしくは第2高調波発生を用いて励起光を生成し、生成された励起光を2分岐し、それぞれを第1の励起光1及び第2の励起光としてもよい。
第1の基本波光1は、第1のEDFA501に入射して増幅されて、第1の二次非線形光学素子505に入射する。第1の二次非線形光学素子505内の第1のPPLN導波路523中の第2高調波発生により第1の基本波光1が波長780nm帯の第1の励起光4に変換される。第1の二次非線形光学素子505では、第1のダイクロイックミラー525を用いて、変換されずに残った第1の基本波光1のみを反射して第1の励起光4のみを透過することにより、2つの波長の光を分離する。第1の二次非線形光学素子505から出力された第1の励起光4は、第3の二次非線形光学素子507に入射する。
同様に、第2の基本波光2は、第2のEDFA502に入射して増幅されて、第2の二次非線形光学素子506に入射する。第2の二次非線形光学素子506内の第2のPPLN導波路527中の第2高調波発生により第2の基本波光2が波長780nm帯の第2の励起光5に変換される。第2のダイクロイックミラー529を用いて、変換されずに残った第2の基本波光2のみを反射して第2の励起光5のみを透過することにより、2つの波長の光を分離する。第2の二次非線形光学素子506から出力された第2の励起光5は、第4の二次非線形光学素子508に入射する。
ここで、本実施例で用いたPPLN導波路の作製方法を以下に例示する。まず、Znを添加したLiNbO3上に周期が約17μmの周期的な電極を形成した。次に、電界印加法により上記の電極パターンに応じた分極反転グレーティングをZn:LiNbO3中に形成した。次に、この周期分極反転構造を有するZn:LiNbO3基板をクラッドとなるLiTaO3上に直接接合を行い、500℃で熱処理を行うことにより両基板を強固に接合した。次に、コア層を研磨により5μm程度まで薄膜化し、ドライエッチングプロセスを用いてリッジ型の光導波路を形成した。この導波路はペルチェ素子により温調が可能であり、導波路の長さは、50mmとした。このようにして形成されたPPLN導波路を有する二次非線形光学素子は、1.5μm帯の偏波保持ファイバで光の入出力が可能なモジュールとした。ここで、本実施例では、Znを添加したLiNbO3を用いたが、それ以外の非線形材料である、KNbO3、LiTaO3、LiNbxTa1−xO3(0≦x≦1)若しくはKTiOPO4、又はそれらにMg、Zn、Sc、Inからなる群から選ばれた少なくとも一種を添加物として含有している材料を用いてもよい。
任意の偏光方向に傾いた状態である1560nm帯の信号光3は、PBS509に入射され、PBS509において2つの直交する偏波成分に分離される。信号光3の内のTM偏光成分はPBS509で反射され、縦偏波成分の信号光として図5に示されるループ内の左回り方向に導入され、第3の二次非線形光学素子507に入射する。
第3の二次非線形光学素子507内に入射した第1の励起光4及び縦偏波成分の信号光3は、第3のダイクロイックミラー533により特定の波長で波長合波された後に、第3のPPLN導波路507に入射される。第3のPPLN導波路507中のパラメトリック増幅過程により、第1の励起光4からのエネルギーの移項が起こり、信号光3が増幅されて第1の増幅信号光6が生成される。その後、第4のダイクロイックミラー534を用いて、第1の励起光4のみを反射して、第1の増幅信号光6のみを透過することにより、2つの波長の光を分離する。
第3の二次非線形光学素子507から出力された縦偏波成分の第1の増幅信号光6は、偏波回転子510により偏光方向を90°回転されてTE偏光となる。このTE偏光の縦偏波成分の第1の増幅信号光6は、第4の二次非線形光学素子508に入力される。第1の増幅信号光6は、第2の励起光5が第1の増幅信号光6とは逆向きに伝搬していること及び第1の増幅信号光6が相互作用の起こさないTE偏光で入力されていることから、第4の二次非線形光学素子508においてパラメトリック増幅等の非線形過程を受けることはない。第4の二次非線形光学素子508は、TE偏光の縦偏波成分の第1の増幅信号光6に対しては単純に線形損失媒体となるため、第1の増幅信号光6が変換されずに第4の二次非線形光学素子508から出力される。
第4の二次非線形光学素子508から出射されたTE偏光の縦偏波成分の第1の増幅信号光6は、第1の光分波器512により一部が分岐され、第1の偏光子514を透過して、第1の光検出器516で受光される。その後、第1の光検出器516の出力に基づいて、第1のPLL回路518を用いて第1の励起光4と縦偏波成分の信号光3との間の位相同期を行う。これは、実際の位相感応な増幅動作においては、各光学部品を接続する光ファイバの伸び縮みによる光路長の変動による位相変動の影響を抑圧するためであり、第1のPLL回路518を介して位相変調器・PZTによる第1の光ファイバ伸長器520にフィードバックを行い、安定的な動作を実現している。
その後、TE偏光の縦偏波成分の第1の増幅信号光6は、偏光回転子511を用いて偏光方向を90°回転されてTM偏光となり、PBS509に入射する。TM偏光の縦偏波成分の第1の増幅信号光6は、PBS509で反射されて後述する第2の増幅信号光7と合波され、当該合波光が出力ポートから出力光8として取り出される。
同様に、信号光3の内のTE偏光成分は、PBS509を透過し、横偏波成分の信号光3として図5に示されるループ内の右回り方向に導入される。横偏波成分の信号光3は、偏波回転子511を用いて偏光方向を90°回転された後、第4の二次非線形光学素子508に入射する。偏波回転子511により、横偏波成分の信号光3はTM偏光となる。
第4の二次非線形光学素子508内に入射したTM偏光の横偏波成分の信号光3及び第2の励起光5は、第5のダイクロイックミラー538により波長合波された後に第4のPPLN導波路536に入射される。第4のPPLN導波路536中のパラメトリック増幅過程により、第2の励起光5からのエネルギーの移項が起こり、TM偏光の横偏波成分の信号光3が増幅されて第2の増幅信号光7が生成される。その後、第6のダイクロイックミラー539を用いて第2の励起光5のみを反射して第2の増幅信号光7のみを透過して、2つの波長の光を分離する。
第4の二次非線形光学素子508から出力された第2の増幅信号光7は、偏波回転子510を用いて偏光方向を90°回転されてTE偏光となる。このTE偏光の横偏波成分の第2の増幅信号光7は、第3の二次非線形光学素子507に入力される。第2の増幅信号光7は、第1の励起光4が第2の増幅信号光7とは逆向きに伝搬していること及び第2の増幅信号光7が相互作用の起こさないTE偏光で入力されていることから、第3の二次非線形光学素子507においてパラメトリック増幅等の非線形過程を受けることはない。第3の二次非線形光学素子507は、TE偏光の横偏波成分の第2の増幅信号光7に対しては、単純に線形損失媒体となるため、第2の増幅信号光7が変換されずに第3の二次非線形光学素子507から出力される。
第3の二次非線形光学素子507から出射されたTE偏光の横偏波成分の第2の増幅信号光7は、第2の光分波器513により一部が分岐され、第2の偏光子515を透過して、第2の光検出器517で受光される。その後、第2の光検出器517の出力に基づいて、第2のPLL回路519を用いて第1の励起光と横偏波成分の信号光3との間の位相同期を行う。これは、第2のPLL回路519を介して位相変調器・PZTによる第2の光ファイバ伸長器521にフィードバックを行い、安定的な動作を実現している。
その後、TE偏光の横偏波成分の第2の増幅信号光7は、PBS509に再度入射して透過してTM偏光の縦偏波成分の増幅信号光6と合波され、当該合波光が出力ポートから出力光8として取り出される。
図5に示した構成では、ループ状の構成とすることで2つの直交する偏波成分を同一経路で独立に増幅することが可能であり、分離・増幅の間の位相変動の影響を抑制することができる。さらに、反射光の影響も従来方法に比べて大幅に低減できる。また本実施例では、第1の光分波器512を第4の二次非線形光学素子508の出力後に設置しているが、第3の二次非線形光学素子507の出力後であればループ内のいずれの場所で構わない。同様に第2の光分波器513は第3の二次非線形光学素子507の出力後に設置しているが、第4の二次非線形光学素子508の出力後であればループ内のいずれの場所で構わない。例えば、第1の光分波器512および第2の光分波器513を第3の二次非線形光学素子507と第4の二次非線形光学素子508の間に配置してもよい。この場合、光分波器が光増幅された光の光路にしか入らないため、より増幅器としての雑音特性が向上する。さらに、第1の光分波器512および第2の光分波器513を第3の二次非線形光学素子507と第4の二次非線形光学素子508の間に配置する場合、例えば2入力2出力の光分波器を用いれば第1の光分波器512および第2の光分波器513を一つの光学素子で構成することが可能であり部品点数を減らすことができる。
図6に、本発明の実施例1に係る光増幅装置における反射光の影響の概念図を示す。PBSを用いて信号光3をそれぞれの偏波成分を分離し、それぞれ縦偏波成分の信号光3A及び横偏波成分の信号光3Bの光を得ている(この過程は図示せず)。図6では、光の反射の影響をPPLN導波路の上下に示しており、縦偏波成分の信号光3Aの反射成分を上に、横偏波成分の信号光3Bの反射成分を下に示している。また、図6では、簡略化のため図5に示した空間光学系等は図示を省略している。
図6では、反射光の影響を簡単に説明するために、導波路の出力端での信号光の反射のみを考える。実際の構成では、導波路の入力端での反射や、ダイクロイックミラーでの反射光も存在する。また、図6中には示していないが、実際の構成では導波路の入出力にレンズなどの光学部品を用いるため、それらの光学部品からの反射光も存在する。さらに、実際には反射された励起光と信号光の相互作用も考慮に入れる必要があるが、図6では示していない。また、信号光の反射回数はその影響を説明するために必要な回数(概ね2回)のみを示しているが、実際には多重に反射する。
図6を用いて、本発明の実施例1に係る光増幅装置における縦偏波成分の信号光3Aの反射の影響様子について述べる。第3のPPLN導波路531の端部601から入射した強度aを有する縦偏波成分の信号光3Aは、第3のPPLN導波路531内でG倍されて第1の増幅信号光6として出力される。図6中では、第1の増幅信号光6の強度をGa(TM)と表記している。
第3のPPLN導波路531の端部602では、反射率Rで信号光3Aが反射される。信号光3Aの反射光の強度を図6中ではGRa(TM)と表記している。逆方向には励起光が存在しないため、信号光3Aの反射光が第3のPPLN導波路531内を伝搬する間に増幅されることはない。
縦偏波成分の第1の増幅信号光6は、偏波回転子510を通過してTE偏光に変換された後、第4のPPLN導波路536の端部603から入射する。この時も伝搬方向と同一方向には励起光が存在しないため、第4のPPLN導波路536中を伝搬する間に第1の増幅信号光6が増幅されることはない。励起光が存在しないだけでなく、偏光が相互作用を起こさないTE偏光であるため、たとえ反射された励起光などがあっても増幅されることはない。これにより、第1の増幅信号光6は、第4のPPLN導波路536中を伝搬した後には、単純に線形損失Lを受けた後に出力される。線形損失Lを受けた後の第1の増幅信号光6の強度を図6中ではGLa(TE)と表記している。
第4のPPLN導波路536の端部604では、反射率Rで、縦偏波成分の第1の増幅信号光6が反射される。第4のPPLN導波路536内では、第2の励起光5が反射された縦偏波成分の第1の増幅信号光6と同じ向きで存在するが、偏光が直交するため相互作用を起こさず、ここでも反射光が増幅されることはない。端部604で反射され、第4のPPLN導波路536を伝搬した後出力された第1の増幅信号光6の反射光は、偏波回転子510を通過してTM偏光に変換された後、第3のPPLN導波路531に端部602から入射する。ここでも、第1の増幅信号光6は、同一方向に励起光が存在しないため、増幅過程は起きず、線形損失Lを受けた後、第3のPPLN導波路531から出力される。この時の第1の増幅信号光6の反射光の強度を図6中ではGL2Ra(TE)と表記している。
同様に、端部604から第4のPPLN導波路536に入射する横偏波成分の信号光3Bに対する反射光も考慮して、第3のPPLN導波路531の端部601及び第4のPPLN導波路536の端部604から出力される光の強度をそれぞれOA、OBとすると、以下の(式3)、(式4)で示される。
OA=GLa(TE)+GRb(TM)+GL2Rb(TM)+G2LR2a(TE)+G2L3R2a(TE)+・・・(式3)
OB=GLb(TE)+GRa(TM)+GL2Ra(TM)+G2LR2b(TE)+G2L3R2b(TE)+・・・(式4)
強度OAとしては、本来G倍された信号a(式中でのGLa)のみが出力されることが望ましいが、図6に示した通り、反射光も同時に出力されてしまう。しかし、この反射光は本発明の構成を用いていることで、従来のような二次非線形光学媒質において単純に双方向で励起する構成に比べその影響が大幅に低減できている。
ここで仮に、入力信号強度を1(a=1)、増幅利得を20dB(G=100倍)、端面での反射率を−30dB(R=0.001)、線形損失4dB(L=0.4)として考えてみる。主信号は、40倍されるので強度が40となる。雑音成分となってしまう反射光は、それぞれGRb(TM)=0.1、GL2Rb(TM)=0.016、G2LR2a(TE)=0.004、G2L3R2a(TE)=0.00064となり、この4つの成分を全て考えても、増幅された主信号に対して0.3%程度の強度の雑音しか発生しないことになる。これは、(式3)からも分かる通り、従来の双方向励起の構成とは異なり、反射率Rに掛かる乗数よりも利得Gに掛かる乗数の方が大きいということがないことから、反射光が大きく増幅されることがないためである。これは、それぞれの偏波成分に対する増幅過程を独立に行う本発明の構成によるものである。図6では、2回程度の反射を考えており、実施例1に係る光増幅装置では実際には多重反射が存在するが、従来の双方向励起の構成とは異なり、反射を繰り返すたびに強度が低下するため多重反射の影響は極めて小さい。
さらに、本発明では、偏波依存性を利用して反射光の影響を低減できるように構成されている。(式3)から分かる通り、小さい雑音成分の中でも比較的大きい反射光成分である(式3)の第2項GRb(TM)及び第3項GL2Rb(TM)は、増幅された主信号強度GLa(TE)とは直交する偏波を持っている。つまり、主信号が図5中の偏波回転子511を通過してTM偏光に変換され、PBS509で反射されて出力される一方で、反射光は図5中の偏波回転子511を通過してTE偏光に変換されるため、PBS509を通過し出力ポートには入射されない構成となっている。このため、雑音がPBS509でフィルタリングされるため、出力光8には(式3)の第2項GRb(TM)及び第3項GL2Rb(TM)による雑音が重畳されることはない。これにより、主信号に対する反射光の漏れ込みは、(式3)の第4項G2LR2a(TE)及び第5項G2L3R2a(TE)のような主信号と同じ偏波成分のみとなり、これらの合計は主信号に対して0.01%程度であり、極めて小さい。
位相同期を行うための光検出器においても反射光が存在すると、反射光が雑音として影響するが、ここでも同様に反射光のうち偏波の異なる成分に関しては、偏光子などの単一偏波成分を透過して直交位相を透過させない光学デバイスを用いてフィルタリングすれば、反射光の影響を極めて小さくすることができる。
図5に示した本実施例に係る光増幅装置に、偏波が45°の直線偏光のCW信号光を入力した。ループにおける右回りの信号光と左回りの信号光とで同一の利得となるように、それぞれ第1及び第2の励起光強度を調整して位相感応増幅を試みた。その結果、出力として増幅された45°の直線偏光の信号が得られた。
次に、信号光を2値の位相変調(BPSK)フォーマットで変調した後、偏波をランダムに回転させる偏波スクランブルを施し、本実施例1に係る光増幅装置に入射した。入力と出力のビットエラーレートを測定したところ、出力信号に対するビットエラーレートは入力信号に対するビットエラーレートと同等で、パワーペナルティなく増幅されていることが確認され、本実施例1に係る光増幅装置が任意の偏波の入力に対して増幅可能で、偏波に対して無依存で動作できていることを確認した。
次に、2つの直交する偏波の光の両方に変調信号を用いる偏波多重信号を、本実施例1に係る光増幅装置に入力した。偏波多重信号は、同一光源から生成した光をそれぞれの偏波の光に用いた。この場合、PBS509を通過及び反射した光は2つの偏波成分がそれぞれ混ざった形となる。しかしながら、同一光源から多重信号を生成しているため、励起光との位相同期が可能で、両方の偏波成分に対して増幅が可能であった。
本実施例では、位相同期の必要な位相感応型光増幅装置を構成した例を示したが、位相不感応な光パラメトリック増幅を用いても本発明の効果が失われることはない。本発明を用いれば位相不感応な光パラメトリック増幅器を偏波無依存の状態で動作させることもできる。
(実施例2)
以下、本発明の実施例2に係る光増幅装置について説明する。図7は、本発明の実施例2に係る光増幅装置を示す。図7には、第1乃至第4の空間光学系701乃至704と、第1及び第2のダイクロイックミラー705及び706と、第1及び第2のPPLN導波路707及び708と、第1及び第2の波長分波器709及び710と、偏波回転子711及び712と、PBS713とを備えた光増幅装置が示されている。
実施例1では、PBSで信号光を分離した後のループの構成部分に光ファイバ部品を用いていたが、光増幅装置をより小型に安定的に動作させるために、実施例2では、ループ構成部分を位相変動の少ない空間光学系で構成し、空間光学系によって各構成要素を光学的に結合した。図7では、励起光の生成部分と位相同期のための機構に関しては簡略化のため図示しないが、実施例2では実施例1と同様な方法で位相同期動作が可能である。
任意の偏光方向に傾いた状態である信号光13は、第3の空間光学系703を介してPBS713に入射され、PBS713において2つの直交する偏波成分に分離される。信号光13の内のTM偏光成分はPBS713で反射され、縦偏波成分の信号光13は第1のダイクロイックミラー705に入射する。第1のダイクロイックミラー705内に入射した第1の励起光11及び縦偏波成分の信号光13は、波長合波された後に、第1のPPLN導波路707に入射する。第1のPPLN導波路707中のパラメトリック増幅過程により、第1の励起光11からのエネルギーの移項が起こり、信号光13が増幅されて第1の増幅信号光14が生成される。その後、第1の波長分波器709により2つの波長の光を分離して、第1の増幅信号光14のみを第4の空間光学系704に通じる出力ポートから出力する。
第1のPPLN導波路707から出力された縦偏波成分の第1の増幅信号光14は、偏波回転子711により偏光方向を90°回転されてTE偏光となる。このTE偏光の縦偏波成分の第1の増幅信号光14は、第4の空間光学系704を介して第2のPPLN導波路708に入力される。第1の増幅信号光14は、第2の励起光12が第1の増幅信号光14とは逆向きに伝搬していること及び第1の増幅信号光14が相互作用の起こさないTE偏光で入力されていることから、第2のPPLN導波路708においてパラメトリック増幅等の非線形過程を受けずに出力される。第2のPPLN導波路708から出射されたTE偏光の縦偏波成分の第1の増幅信号光14は、第2の空間光学系702を介して第2のダイクロイックミラー706に入射して、一部が偏波回転子712に入射し、他の一部が信号光13と第1の励起光11との位相同期に用いられる。偏光回転子712に入射した第1の増幅信号光14は、偏光方向が90°回転されてTM偏光となり、PBS713に入射する。TM偏光の第1の増幅信号光14は、PBS713で反射されて後述する第2の増幅信号光15と合波され、当該合波光が第3の空間光学系703を介して出力光16として取り出される。
同様に、信号光13の内のTE偏光成分は、空間光学系703を介してPBS713を透過し、横偏波成分の信号光13として偏波回転子712に入射する。横偏波成分の信号光13は、偏波回転子712により偏光方向が90°回転されてTM偏光となり、第2のダイクロイックミラー706に入射する。第2のダイクロイックミラー706内に入射したTM偏光の横偏波成分の信号光13及び第2の励起光12は、波長合波された後、第2のPPLN導波路708に入射する。第2のPPLN導波路708中のパラメトリック増幅過程により、第2の励起光12からのエネルギーの移項が起こり、TM偏光の横偏波成分の信号光13が増幅されて第2の増幅信号光15が生成される。その後、第6のダイクロイックミラー539を用いて第2の励起光12のみを反射して第2の増幅信号光7のみを透過して、2つの波長の光を分離する。その後、第2の波長分波器710により2つの波長の光を分離して、第2の増幅信号光15のみを第4の空間光学系704に通じる出力ポートから出力する。
第2のPPLN導波路708から出力された横偏波成分の第2の増幅信号光15は偏波回転子711により偏光方向を90°回転されてTE偏光となる。このTE偏光の横偏波成分の第2の増幅信号光15は、第4の空間光学系704を介して第1のPPLN導波路707に入力される。第2の増幅信号光15は、第1の励起光11が第2の増幅信号光15とは逆向きに伝搬していること及び第2の増幅信号光15が相互作用の起こさないTE偏光で入力されていることから、第1のPPLN導波路707においてパラメトリック増幅等の非線形過程を受けずに出力される。第1のPPLN導波路707から出射されたTE偏光の横偏波成分の第2の増幅信号光15は、第1の空間光学系701を介して第1のダイクロイックミラー705に入射して、一部がPBS713に入射し、他の一部が信号光13と第1の励起光11との位相同期に用いられる。PBS713に入射した第2の増幅信号光15は、PBS713を透過して第1の増幅信号光14と合波され、当該合波光が第3の空間光学系703を介して出力光16として取り出される。
図7に示した構成は、実施例1に示した構成と同様に、2つのPPLN導波路707及び708を用いてその間で偏波回転子711により増幅信号光に偏波回転を加えることで、同一のループ内を伝搬する2つの直交した偏波成分に対する増幅を独立に行うことができる。PBS713で信号光13の2つの偏波成分を分離した後は、全て空間光学系のレンズや偏波回転子(例えばλ/2板)などを用いているため、より安定的に動作可能である。本実施例では、信号光と励起光との分離のための第1及び第2の波長分波器709及び710として、多モード干渉(MMI)を用いた導波路型デバイスを用いた。このMMI波長分波器は、PPLN導波路にモノリシックに集積されているため、光学部品点数を減らすことができている。
(実施例3)
以下、本発明の実施例3に係る光増幅装置について説明する。図8は、本発明の実施例3に係る光増幅装置を示す。図8には、空間光学系801乃至808と、ダイクロイックミラー809乃至812と、PBS813と、λ/2板などの偏波回転子814及び815と、二次非線形光学素子820とを備えた光増幅装置が示されている。二次非線形光学素子820は、第1及び第2のPPLN導波路821及び822を含む。
実施例1及び2では、2つの別々のチップ上に形成されたPPLN導波路を用いていたが、位相整合波長は個別の温調により制御することで調整可能であるが、素子の変換効率や導波路の損失などにはバラツキがあった。実施例3では、よりそれぞれのPPLN導波路中での光パラメトリック増幅特性を同一化するために、2つのPPLN導波路が1つのチップにモノリシックに集積した。さらに、安定性を考慮して、PBSで分離した後の光路を全て空間光学系で構築した。また、図8では、図7と同様に、励起光生成部分と位相同期機構は簡略化のため図示していない。
信号光23は、空間光学系802を介してPBS813に入射し、PBS813で2つの偏波成分に分離される。その後、PBS813で分離された縦偏波成分の信号光23は、ダイクロイックミラー809に入射して反射される。この時、第1の励起光21も空間光学系801を介してダイクロイックミラー809に入射して透過し、縦偏波成分の信号光13と合波されて二次非線形光学素子820の第1のPPLN導波路821に入射する。第1のPPLN導波路821に入射した縦偏波成分の信号光23は、TM偏光であるため、第1のPPLN導波路821中の光パラメトリック増幅過程により増幅されて第1の増幅信号光24が生成される。第1のPPLN導波路821からの出力光は、空間光学系808を介してダイクロイックミラー812に入射して、第1の増幅信号光24と第1の励起光21とに分離され、第1の増幅信号光24のみが偏波回転子815に入射する。縦偏波成分の第1の増幅信号光24は、偏波回転子815を通過することでTE偏光に変換されて、ダイクロイックミラー811及び空間光学系807を介して二次非線形光学素子820の第2のPPLN導波路822に入射する。第2のPPLN導波路822では、第2のPPLN導波路822を透過する間に縦偏波成分の第1の増幅信号光24が増幅されることはない。第2のPPLN導波路822から出力された第1の増幅信号光24は、空間光学系805及びダイクロイックミラー810を介して偏波回転子814に入射し、偏波回転子814により再度偏波を回転されてPBS813に入射する。第1の増幅信号光24は、PBS813によって反射されて後述する第2の増幅信号光25と合波され、当該合波光が空間光学系803を介して出力ポートから出力光26として出射される。
同様に、PBS813で2つの偏波成分に分離された信号光23の内、PBS813を透過した横偏波成分の信号光23は、偏波回転子814により偏波が回転されてTM偏光となり、ダイクロイックミラー810に入射する。横偏波成分の信号光23は、ダイクロイックミラー810を透過する際に、空間光学系804を介してダイクロイックミラーに入射した第2の励起光22と合波されて、空間光学系805を介して二次非線形光学素子820の第2のPPLN導波路822に入射する。第2のPPLN導波路822に入射した横偏波成分の信号光23はTM偏光であるため、第2のPPLN導波路822中の光パラメトリック増幅過程により増幅されて第2の増幅信号光25が生成される。第2のPPLN導波路822からの出力光は、空間光学系807を介してダイクロイックミラー811に入射して、第2の増幅信号光25と第2の励起光22とに分離され、第2の増幅信号光25のみが偏波回転子815に入射する。横偏波成分の第2の増幅信号光25は、偏波回転子815を通過することでTE偏光に変換されて、ダイクロイックミラー812及び空間光学系807を介して二次非線形光学素子820の第1のPPLN導波路821に入射する。第1のPPLN導波路821では、第1のPPLN導波路821を透過する間に横偏波成分の第2の増幅信号光25が増幅されることはない。第1のPPLN導波路821から出力された第2の増幅信号光25は、空間光学系806及びダイクロイックミラー809を介してPBS813に入射して透過して第1の増幅信号光24と合波され、当該合波光が空間光学系803を介して出力ポートから出力光26として出射される。
このように、PBS813で分離された信号光23における2つの直交する偏波成分は、ループ状に同じ光路を伝搬した後、再度PBS813を通過して出力ポートから出射される。つまり、2つの光路の間の位相や時間遅延はまったく同一になる。それゆえ、実施例3では、構成内に2つの光路の間の遅延などを調整するような機構なしで動作が可能となる。
実施例1で示した構成では、位相同期のための光検出器を2つ用意し、それぞれの偏波成分を独立に受光して位相同期を行っていたが、本実施例の構成では、光路長の変動が極めて小さいため、PBS813で合波された後の出力光の一部を受光し、その光強度が最大になるようにフィードバックを行うだけで、両方の偏波成分に対して位相同期を行うことが可能である。これにより、本実施例では、受光部分の光学部品点数が減るのと同時に、ループ構成内に光分波器を設置しなくてよいため、信号光の損失を小さく抑えることができた。もちろん、実施例1と同様の手法でも位相同期動作が可能である。
また、実施例3では、空間光学系を用いて各構成要素を光学的に結合した構成としたが、実施例1のように、光ファイバを用いて各構成要素を接続するように構成してもよい。