JP2015220285A - 光電変換素子 - Google Patents

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Abstract

【課題】意匠性に優れるとともに、逆電子移動を改善して高効率の光電変換素子を提供する。
【解決手段】半導体膜が形成された半導体電極と、対向電極と、前記電極間に保持された電解質層とを備えた光電変換素子であって、前記半導体電極に、含窒素複素芳香環化合物が半導体膜100質量部に対し0.03質量部以上吸着されており、かつ、前記電解質層が、酸化還元対としてベンゾキノン誘導体及びヒドロキノン誘導体をそれぞれ2〜100mM含有し、更に添加剤としてアンモニウム塩を4〜200mM含有する。
【選択図】図1

Description

本発明は、色素増感太陽電池用の光電変換素子に関する。
次世代の太陽電池として、低温でより低コストで製造が可能な有機太陽電池の開発が期待されている。有機太陽電池の中でも色素増感太陽電池は、製造コストを大幅に削減できる可能性があること、アモルファスシリコン太陽電池と同等な性能を持つこと、着色透明な太陽電池が作れることなど、従来の太陽電池にはない魅力を持つことから、特に注目を浴びている。
色素増感太陽電池は、一般に導電性基材上に色素を吸着した多孔質半導体からなる光電変換層を持つ半導体電極と、対向して設けられた導電性基材上に触媒層を設けた対向電極と、これら半導体電極と対向電極との間に保持された電解質層から構成されている。電解質層には、ヨウ素系酸化還元対を有機溶媒に溶かしたものが一般的に使用されている。ヨウ素系酸化還元対はイオン伝導度が高く、また酸化状態の色素を還元する速度が速く、更には、作用極の導電性ガラス表面や酸化チタン表面での反応性が低いなど、優れた性能を有している。
しかし、ヨウ素系電解質は、ヨウ素の濃色により色素の色彩性が損なわれてしまい、光電変換素子の意匠性が損なわれてしまう。そこで、本出願人も、ベンゾキノン誘導体及びヒドロキノン誘導体を酸化還元対とし、更にアンモニウム塩を添加した電解質層を備える光電変換素子を提案している(特許文献1参照)。このような電解質層により、色素の光吸収を抑えて色彩性を損なうことがなくなり、高効率で、意匠性に優れた光電変換素子が得られる。
また、色素増感太陽電池は、発電部位に光を照射することで色素中の電子が励起され、半導体、導電性基材へと電子が移動した後、負荷を通り、対向電極に移動し、電解質層中の酸化還元対を媒体として色素と電子の授受を行う発電サイクルが回る発電素子である。しかし、半導体電極の多孔質半導体は比表面積が大きく、多孔質半導体中に注入された色素中の電子が電解質層や色素に戻ってしまう「逆電子移動反応」が起こりやすく、変換効率を低下させることがよく知られている。
この逆電子移動反応を防止するために、逆電子移動防止剤として、4−tert−ブチルピリジンやトリアゾール、ピラゾール等の含窒素複素芳香環化合物を添加することも行われている(特許文献2参照)。しかし、意匠性に優れる特許文献1の電解質層に含窒素複素芳香環化合物を添加すると、アンモニウム塩の酸アニオンと化学反応を起こして逆電子移動防止効果が失活してしまうだけでなく、変換効率が大幅に低下するようなる。
特開2012−99230号公報 特開2006−134615号公報)
本発明はこのような状況に鑑みてされたものであり、意匠性に優れるとともに、逆電子移動を改善して高効率の光電変換素子を提供することを目的とする。
前記課題を解決するために、本発明は下記の光電変換素子を提供する。
(1)半導体膜が形成された半導体電極と、対向電極と、前記電極間に保持された電解質層とを備えた光電変換素子であって、
前記半導体電極に、下記一般式(IA)または(IB)で表される五員環、六員環または多環の含窒素複素芳香環化合物が半導体膜100質量部に対し0.03質量部以上吸着されており、かつ、
前記電解質層が、酸化還元対としてベンゾキノン誘導体及びヒドロキノン誘導体をそれぞれ2〜100mM含有し、更に添加剤として下記一般式(IV)で表されるアンモニウム塩を4〜200mM含有することを特徴とする光電変換素子。
Figure 2015220285
〔(IA)及び(IB)式中、A、B、C、D、Eは炭素原子、窒素原子、酸素原子または硫黄原子であり、mは0または1である。また、R‘、R“はアルキル基またはアリール基を示しており、添字のl、nは置換基を0個以上有することを示す。〕
NH ・・・(IV)
〔(IV)式中、Xは無機アニオンまたは有機アニオンを示す。〕
(2)前記半導体電極は、増感色素を吸着させた後、前記含窒素複素芳香環化合物が吸着されていることを特徴とする上記(1)記載の光電変換素子。
(3)前記含窒素複素芳香環化合物が、t−ブチルピリジン、2,4,6−トリメチルピリジンまたは2,5−ジメチルピロールであることを特徴とする上記(1)または(2)記載の光電変換素子。
本発明の光電変換素子では、ヒドロキノン誘導体、ベンゾキノン誘導体及びアンモニウム塩を含有する電解質層が、酸化還元対として高い性能・安定性を有するだけでなく、ヨウ素系電解質層と比べて薄色で、色彩性を損なわないため意匠性に優れる。更には、含窒素複素芳香環化合物が、アンモニウム塩の酸アニオンとの間で化学反応を起こすことがなく、逆電子移動防止剤として良好に作用するため、変換効率が大きく向上する。
光電変換素子を示す断面図である。 光電変換素子の他の例を示す断面図である。 含窒素複素芳香環化合物量と開放電圧との関係を示すグラフである。
以下に、本発明の光電変換素子に関して、図面を参照して詳細に説明する。
図1は光電変換素子Aを示す断面図であるが、透明基体1の一方の面に透明導電膜2を形成し、更にその表面に半導体層3を一体化してなる半導体電極8と、電極基材7の一方の面に触媒層6を形成した対向電極9とを、透明電極膜2と触媒層6とが対向するように離間して配置し、半導体電極8と対向電極9との間に電解質層5を介在させた構成となっている。また、半導体層3には増感色素4が吸着される。下記に、各構成要素について詳説する。
〔透明基体1〕
透明基体1は、可視光を透過するものが使用でき、透明なガラスが好適に利用できる。また、透明導電膜2が形成される側の表面を加工して入射光を散乱させることで、高効率で入射光を利用することができる。また、ガラスに限らず、光を透過するものであればプラスチック板やプラスチックフィルム等も使用できる。
透明基体1の厚さは、光電変換素子Aの形状や使用条件により異なるため特に限定はされないが、例えばガラスやプラスチックなどを用いた場合では、実使用時の耐久性を考慮して1mm〜1cm程度が好ましく、フレキシブル性が必要とされ、プラスチックフィルムなどを使用した場合は、1μm〜1mm程度が好ましい。
〔透明導電膜2〕
透明導電膜2には、可視光を透過して、かつ導電性を有する材料が使用できる。このような材料としては、例えば金属酸化物が挙げられる。特に限定はされないが、例えばフッ素をドープした酸化スズ(以下、「FTO」と略記する。)や、酸化スズと酸化インジウムの混合体(以下、「ITO」と略記する。)、アンチモンをドープした酸化スズ、酸化亜鉛などが好適に用いることができる。
また、分散させるなどの処理により可視光が透過すれば、不透明な導電性材料を用いることもできる。このような材料としては炭素材料や金属が挙げられる。炭素材料としては、特に限定はされないが、例えば黒鉛(グラファイト)、カーボンブラック、グラッシーカーボン、カーボンナノチューブやフラーレンなどが挙げられる。また、金属としては、特に限定はされないが、例えば白金、金、銀、ルテニウム、銅、アルミニウム、ニッケル、コバルト、クロム、鉄、モリブデン、チタン、タンタル、およびそれらの合金などが挙げられる。
透明導電膜2の厚さは、用いる材料により導電性が異なるため特には限定されないが、一般的に使用されるFTO被膜付ガラスでは、0.01μm〜5μmであり、好ましくは0.1μm〜1μmである。また、必要とされる導電性は、使用する電極の面積により異なり、広い電極ほど低抵抗であることが求められるが、一般的にシート抵抗(面抵抗率)で100Ω/□以下、好ましくは10Ω/□以下、より好ましくは5Ω/□以下である。このシート抵抗は、薄膜やフィルム状物質の電気抵抗値であり、単位はΩであるが、シートであることを示すため慣用的に「Ω/□(ohm/square)」と記述している。透明基体1及び透明導電膜2との積層体の厚さ、または透明基体1と透明導電膜2とを一体化した厚さは、上述のように光電変換素子Aの形状や使用条件により異なるため特に限定はされないが、一般的に1μm〜1cm程度である。
〔半導体層3〕
半導体層3は、増感色素4を吸着しやすいように多孔質の金属酸化物半導体からなる。金属酸化物半導体は特に限定はされないが、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズなどが挙げられ、特に二酸化チタン、さらにはアナターゼ型二酸化チタンが好適である。また、電気抵抗値を下げるため、金属酸化物の粒界は少ないことが望ましい。また、増感色素4をより多く吸着させるために、金属酸化物は比表面積の大きなものが望ましく、具体的には10〜200m/gが望ましい。
このような半導体層3は、既知の方法で透明導電膜2上に設けることができ、例として、ゾルゲル法や、分散体ペーストの塗布、また、電析や電着させる方法がある。また、半導体層3の厚さは、用いる酸化物により最適値が異なるため特には限定されないが、0.1μm〜50μm、好ましくは3〜30μmであり、より好ましくは5〜15μmである。
また、半導体層3は、図2に示すように、半導体層3の上に、より大径の金属酸化物からなる層(図中の符号3´)を積層し、入射光をこの層3´で散乱させて光路長を長くする「光封じ込め効果」を利用することもできる。この場合、半導体層3を形成する金属酸化物の平均粒径は100nm以下であることが好ましく、その上の層3´の金属酸化物の平均粒径を200nm〜700μmとすることが好ましい。尚、図の例ではこのような2層構造としているが、金属酸化物を、透明電極膜2の側から順次大径になるように積層し、より多層構造にすることもできる。この場合の半導体層の厚さは、用いる酸化物やその平均粒径により最適値が異なるが、透明電極膜2に最も小径の金属酸化物からなる層が5〜15μm、透明電極膜2から最も遠い金属酸化物からなる層が3〜10μmであることが好ましい。
〔増感色素4〕
増感色素4は半導体層3の金属酸化物に吸着、担持される。増感色素4としては、太陽光により励起されて半導体層3に電子注入できるものであればよく、一般的に光電変換素子に用いられている色素を用いることができるが、変換効率を向上させるためには、その吸収スペクトルが太陽光スペクトルと広波長域で重なっていて、耐光性が高いことが望ましい。増感色素4としては、金属錯体色素、例えば、ルテニウム錯体、鉄錯体、銅錯体などが挙げられる。さらに、シアン系色素、ポルフィリン系色素、ポリエン系色素、クマリン系色素、シアニン系色素、スクアリン酸系色素、メチン系色素、キサンテン系色素、インドリン系色素などが挙げられる。
〔逆電子移動防止剤〕
半導体層3を構成する金属酸化物は、増感色素4を吸着させた後、更に逆電子移動防止剤(図中の符号10)が吸着される。逆電子移動防止剤には、下記一般式(IA)または(1B)で表される五員環、六員環または多環の含窒素複素芳香環化合物を用いる。
Figure 2015220285
(IA)、(IB)式中、A、B、C、D、Eは炭素原子、窒素原子、酸素原子または硫黄原子であり、mは0(五員環)または1(六員環)である。尚、(IB)式で表される多環の含窒素複素芳香環化合物は、C及びDとともに形成する芳香族環が連結した芳香環化合物である。また、R‘、R“はアルキル基、アリール基を示しており、添字のl、nは置換基を0個以上有することを示す。アルキル基及びアリール基には制限はないが、分子半径が大きくなるほど吸着密度が低下し、逆電子移動防止効果が低減するため、炭素数が4以下のアルキル基、もしくは水素原子が好ましい。同様の理由から、nは0または1が好ましい。
具体的には、(IA)式で表される含窒素複素芳香環化合物としては、ピロール環やピリジン環のような窒素元素を1個含む5〜6員環の複素芳香環化合物、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環のような窒素元素を2個以上含む5〜6員環の複素芳香環化合物が挙げられる。また、窒素元素以外に、硫黄原子や酸素原子を併せて持つ複素芳香環化合物としてはオキサゾール環、イソオキサゾール環、オキサジアゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、チアジアゾール環等を挙げることができる。
また、(IB)式で表される多環の含窒素複素芳香環化合物としては、キノリン環、イゾキノリン環、キナゾリン環、フタラジン環、プテリジン環、インドール環、ベンゾイミダゾール環、プリン環、アクリジン環、フェノキサジン環、フェノチアジン環等が挙げられる。
これらの中では、半導体層3への吸着性能や入手性の容易さから、ピロール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピラゾール環、イミダゾール環等が好ましい。
また、逆電子移動防止剤の吸着量は、半導体層3を形成する金属酸化物半導体100質量部に対し、0.03質量部以上、好ましくは0.1質量部以上である。この吸着量が0.03質量部未満では、逆電子移動防止効果が殆ど得られず、変化効率の向上が殆ど見られない。尚、上限については、効果が飽和することから0.2質量部が適当である。
逆電子移動防止剤は、適当な溶剤に溶解した溶液に、増感色素吸着後の半導体電極8を浸漬し、乾燥して得られる。溶剤としては逆電子移動防止剤を溶解でき、かつ、増感色素4を半導体膜から脱離させないものであれば制限はないが、非プロトン性有機溶剤や常温溶融塩が好ましい。例えば、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、パレロニトリル、3−メトキシプロピオニトリル等のニトリル化合物、γ−ブチルラクトンやパレロラクトン等のラクトン化合物、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネート等のカーボネート化合物、ジオキサンやジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、低重合度ポリエチレングリコール等のエーテル類、更にはメチルホルムアミドやイミダゾール類等が挙げられ、中でもアセトニトリル、パレロニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、プロピレンカーボネート、低重合度ポリエチレングリコール等を好適に用いることができる。
溶液中の逆電子移動防止剤の濃度は、高濃度になりすぎると増感色素4が脱離するようになり、低くなりすぎると、上記の吸着量を満足することができないため、溶剤に対して1.0〜1000mM、好ましくは10〜300mMとし、上記の吸着量となるように浸漬時間を調整する。浸漬時間は、半導体層3のより内部にまで浸透することを考慮すると、12時間以上が好ましいが、溶液濃度により適宜変更することができる。
〔電解質層5〕
電解質層5は、酸化還元対としてヒドロキノン誘導体及びベンゾキノン誘導体を用い、添加剤としてアンモニウム塩を含有する。
ヒドロキノン誘導体としては、下記一般式(II)で表される基本骨格を有するものが好適である。
Figure 2015220285
式中、Rはアルキル基、アリール基を示しており、添字のnは置換基を0個以上有することを示す。アルキル基、アリール基の種類に関しては特別限定されないが、有機溶媒への溶解性、共役長が伸びることで可視光の吸収が起こることを考慮すると、アルキル基のほうが好ましい。
また、一般式(II)の構造として単環式の芳香環のみならず、多環式芳香族のヒドロキノン誘導体も適用できる。多環式芳香族の種類に関しては特別限定されないが、有機溶媒への溶解性や、共役長が伸びることで可視光の吸収が起こることを考慮すると、縮合環数として3以下のものが好ましいと考えられる。縮合環数が3以下の化合物には、例えば、2つの環が縮合したナフトヒドロキノン誘導体や、3つの環が縮合したアントラヒドロキノン誘導体が挙げられる。
ベンゾキノン誘導体としては下記一般式(III)で表される基本骨格を有するものが好適である。
Figure 2015220285
式中、Rはアルキル基、アリール基を示しており、添字のnは置換基を0個以上有することを示す。アルキル基、アリール基の種類に関しては特別限定されないが、有機溶媒への溶解性、共役長が伸びることで可視光の吸収が起こることを考慮すると、アルキル基のほうが好ましい。
また、一般式(III)の構造として単環式の芳香環のみならず、多環式芳香族のヒドロキノン誘導体も適用できる。多環式芳香族の種類に関しては特別限定されないが、有機溶媒への溶解性や、共役長が伸びることで可視光の吸収が起こることを考慮すると、縮合環数として3以下のものが好ましいと考えられる。縮合環数が3以下の化合物には、例えば、2つの環が縮合したナフトキノン誘導体や、3つの環が縮合したアントラキノン誘導体が挙げられる。
また、ヒドロキノン誘導体、ベンゾキノン誘導体の組合せは、一般式(II)、(III)中のRnが同じである組合せが好ましい。
アンモニウム塩は、下記一般式(IV)で表される基本骨格を有する。
NH ・・・(IV)
式中、Xは無機アニオンまたは有機アニオンを示すが、無機アニオンとしては塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、ホウ酸イオン等が挙げられ、有機アニオンとしては酢酸イオン、プロピオン酸イオン、安息香酸イオン等に代表されるカルボン酸イオン等が挙げられる。
また、電解質層中のヒドロキノン誘導体の濃度は、溶剤に対して2〜100mMである。濃度が2mMより小さい場合、添加効果がほとんど得られなくなり、変換効率の向上はほとんど見られない。一方、濃度を100mMより大きくしても、変換効率の向上はほとんど見られないだけではなく、ヒドロキノン誘導体の溶解度の問題から、ヒドロキノン誘導体が溶液中で析出してしまう虞がある。好ましい濃度は、50〜100mMである。
電解質中のベンゾキノン誘導体の濃度は、溶剤に対して2〜100mMである。濃度が2mMより小さい場合、添加効果がほとんど得られなくなり、変換効率の向上はほとんど見られない。一方、濃度を100mMより大きくしても、変換効率の向上はほとんど見られないだけではなく、ベンゾキノン誘導体の溶解度の問題から、ベンゾキノン誘導体が溶液中で析出してしまう虞がある。好ましい濃度は、50〜100mMである。
電解質中のアンモニウム塩の濃度は、溶剤に対して4〜200mMである。濃度が4mMより小さい場合、添加効果がほとんど得られなくなり、変換効率の向上はほとんど見られない。一方、濃度を200mMより大きくしても、変換効率の向上はほとんど見られないだけではなく、溶解度の問題から、含窒素複素芳香環化合物塩が溶液中で析出してしまう虞がある。好ましい濃度は、100〜200mMである。
更に、ヒドロキノン誘導体、ベンゾキノン誘導体及びアンモニウム塩は、上記濃度の範囲で、ヒドロキノン誘導体量をxmM、ベンゾキノン誘導体量をymM、アンモニウム塩量をxmMとするとき、下記(A)、(B)式を満足することが好ましい。
0.05≦x/y≦20・・・(A)
0.5≦(x+y)/s≦2.0・・・(B)
上記酸化還元対を溶解させる溶媒としては、酸化還元対を溶解できる化合物であれば特に制限はなく、非水性有機溶媒、常温溶融塩、プロトン性有機溶媒などから任意に選択できるが、アンモニウム塩を溶解させるためには、これらの有機溶媒にカルボン酸を添加することが好ましい。
例えば有機溶媒として、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、パレロニトリル、3−メトキシプロピオニトリル等のニトリル化合物、γ−ブチルラクトンやパレロラクトンなどのラクトン化合物、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネートなどのカーボネート化合物、ジオキサンやジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、低重合度ポリエチレングリコール等のエーテル類、メタノール、エタノール等のアルコール類、さらにはジメチルホルムアミドやイミダゾール類等が挙げられ、中でもアセトニトリル、パレロニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、プロピレンカーボネート、低重合度ポリエチレングリコール等を好適に用いることができる。
カルボン酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸を代表とする飽和カルボン酸、アクリル酸、メタクリル酸、2−エチルプロペン酸を代表とする不飽和カルボン酸、安息香酸、フタル酸等を代表とする、芳香族カルボン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸等のヒドロキシ酸等が例として挙げられる。
溶媒の組成は、アンモニウム塩を溶解することができればよいが、カルボン酸成分の添加量が多くなるほど変換効率が低下する傾向があるため、カルボン酸成分の添加量は可能な限り少ないことが好ましい。
更に、電解質層5には、支持電解質として、リチウム塩やイミダゾリウム塩、4級アンモニウム塩、常温溶融塩等を添加することができる。これらの添加剤は電解質層の特性を損ねない程度に添加することができる。
〔触媒層6〕
触媒層6としては、電解質層5のベンゾキノン誘導体(酸化体)をヒドロキノン誘導体(還元体)に還元する還元反応を速やかに進行させることが可能な電極特性を有するものであれば特に制限されないが、塩化白金酸を塗布、熱処理したものや、白金を蒸着した白金触媒電極、活性炭やグラッシーカーボン、カーボンナノチューブのような炭素材料、塩化コバルト等の無機硫黄化合物、ポリチオフェンやポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等を使用できるが、中でも白金触媒電極、導電性高分子が好ましい。
また、触媒層6の厚さは、10nm〜5μmが適当であり、特に好ましくは20nm〜2μmである。
〔電極基材7〕
電極基材7は、触媒層6の支持体兼集電体として用いられるため、表面部分に導電性を有していることが好ましく、例えば、金属として白金、金、銀、ルテニウム、銅、アルミニウム、ニッケル、コバルト、クロム、鉄、モリブデン、チタン、タンタル、およびそれらの合金や、炭素材料として、例えば黒鉛(グラファイト)、カーボンブラック、グラッシーカーボン、カーボンナノチューブ、フラーレン等、金属酸化物として、FTO、ITO、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化アンチモン等を用いることができる。また、表面が導電性を有するように処理すれば、ガラスやプラスチック等の絶縁体も用いることができる。
以下、実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
(光電変換素子の作製)
以下のようにして、図1に示す構造の光電変換素子を作製した。
〔半導体電極の作製〕
DYESOL社製のFTO膜付きガラス「TEC8」を必要なサイズに切り出し、ガラス洗浄剤で洗い、洗浄剤を純水で洗い流した後、アセトン、ヘキサン、アセトン、純水、純水の順番で各5分ずつ超音波洗浄を行った。乾燥後、UVオゾン洗浄機を用いて10分間仕上洗浄を行った後、70℃の四塩化チタン水溶液(和光純薬(株)製)中に30分間浸漬した。浸漬後、純水で洗浄し、よく乾燥させた。そして、FTO膜表面に、酸化チタンDYESOL社製「DSL 18NR−T」ペーストをKコントロールコーター(松尾製作所製)で50μm程度の厚さに塗布し、30分程静置、乾燥させた。
〔増感色素の吸着〕
増感色素として和光純薬(株)製「N719」(ビス(テトラブチルアンモニウム)〔シス−ジ(チオシアナト)−ビス(2,2´−ビピリジル−4−カルボキシラート−4´−カルボン酸)−ルテニウム(II)〕)を用い、アセトニトリル/t−ブチルアルコール(体積比1:1)の混合溶媒に溶解し、0.5mM色素溶液とした。そして、色素溶液に上記の半導体電極を浸漬し、遮光下40℃程度で24時間静置した。その後、同アセトニトリル/t−ブチルアルコールで余分な増感色素を洗浄し、風乾した。
次いで、逆電子移動防止剤として、何れも東京化成工業(株)製のt−ブチルピリジン、2,4,6−トリメチルピリジン、2,5−ジメチルピロールを用いて、それぞれの100mMアセトニトリル溶液に遮光下、室温で浸漬した。その後、アセトニトリルで余分な逆電子移動防止剤を洗浄、乾燥して逆電子移動防止剤を更に吸着させた。
尚、逆電子移動防止剤の吸着量は、上記のように逆電子移動防止剤を吸着させた半導体電極を5mLのアセトンに浸漬し、15分間、28kHzの超音波を照射した後、アセトン溶液を遠心分離機にかけて上澄み1μLをGC−MS装置にて分析し、各化合物の対応するピークの積分値と、予め作成した検量線から吸着量を求めた。
・GC−MS装置:Varian社製「320GCMS/MS」
・GC測定条件:カラム(Agrilent J&W GC Columns社製
「VF−5ms」)
100℃→320℃(20℃/min)
・MS測定条件:イオン化法(EI法)
イオン化電圧(70eV)
〔対向電極の作製〕
実施例1〜8及び比較例1〜3では、ガラス基板上に導電性高分子膜(PEDOT)を形成し、実施例9では白金膜を形成した。
導電性高分子膜の形成に当り、モノマー溶液を調製した。先ず、乾燥させた100mLメスフラスコに3,4−ジオキシチオフェンを284mL(2mmol)入れ、凍結脱気したアセトニトリルを50mL程度加えて溶解させた。そこへ、過塩素酸リチウムをエタノールで再結晶したものを1.06g(10mmol)加え、固体が溶けるまで振り混ぜた後、最後に全量が100mLになるようにアセトニトリルを加えてモノマー溶液を調整した。
また、DYESOL社製のFTO膜付きガラス「TEC8」を必要なサイズに切り出し、ガラス洗浄剤でよく手洗いした後、洗浄剤を純水で洗い流し、アセトン、ヘキサン、アセトン、純水、純水の順で各5分ずつ超音波洗浄を行った。
そして、モノマー溶液に、作用極として4cmの面積を有するFTO膜付きガラス、10cmの面積を有する白金薄膜電極を対極、参照電極として第一銀イオン電極を導入し、Bio Logic社製ポテンシオスタット「SP−150」を用いて40μAで定電流電解重合を行った。重合後の作用極をアセトニトリルで洗浄した後、70℃で30分間乾燥し、FTO膜付き電極上に導電性高分子膜(PEDOT膜)を形成した。
また、実施例9では、ガラス基板上に白金膜を形成した。白金膜は、真空蒸着法により作製し、得られた白金膜の厚さは約200nmであった。
〔電解質層〕
溶剤として冷凍脱気したアセトニトリルを用い、その他の試薬はアルゴン置換された乾燥容器内で保管したものを用いた。尚、試薬はいずれも和光純薬工業(株)製を用いた。そして、乾燥させた10mLフラスコに、安息香酸アンモニウムを入れ、酢酸を所定量加えた。そこへ、少量のアセトニトリルを加え、固体が溶けきるまで振り混ぜた後、2,5−ジ−t−ブチルベンゾキノン、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノンを加えた後、全量が10mLになるようにアセトニトリルを加えて電解質層とした。尚、各化合物の濃度は表1に示すとおりである。
〔光電変換素子の組立〕
半導体電極と、対向電極との間に電解質層を介在させ、側面をエポキシ系接着剤でシールした。尚、この作業はアルゴン置換されたグローブボックス内にて行った。
また、比較例4として、ヨウ素系電解質層を備える光電変換素子を用いた。
〔光電変換素子の評価〕
得られた各光電変換素子の光電変換特性を、三永電気製作所(株)製のソーラーシミュレーター「XES−40S1」を用いて評価した。擬似太陽光は、AM1.5条件下で100mW/cmの光を用い、開放電圧、短絡電流、フィルファクターから変換効率を算出することで行った。
また、光照射1000時間後に再度変換効率を測定し、組立て直後の変換効率との相対比から耐久性を評価した。更に、電解質層及び素子の外観(色相)を目視にて観測した。
それぞれの結果を表1及び表2に併記する。また、図2に、実施例の開放電圧(●)及び比較例1の開放電圧(▲)を示す。
Figure 2015220285
Figure 2015220285
実施例の光電変換素子は何れも、半導体層が逆電子移動防止剤を規定量吸着し、ベンゾキノン誘導体及びヒドロキノン誘導体からなる酸化還元対と、アンモニウム塩とを規定量含有する電解質層を備えている。そして、実施例1、2、5と、比較例1とを比較例すると、逆電子移動防止剤を特定量吸着させることにより、開放電圧が大きく向上し、変換効率も向上している。また、実施例1、2のように、キノン系酸化還元対の濃度が高くなるほど、変換効率も高まっている。
また、電解質層中のキノン系酸化還元対の濃度が規定量より低い比較例2や、アンモニウム塩の濃度が規定量より低い比較例3では、変換効率が低くなっている。但し、比較例3のようにキノン系酸化還元対及びアンモニウム塩の濃度が規定量より高くなりすぎると、溶解しなくなり電解質層を形成することができなくなる。
更に、実施例4では2,4,6−トリメチルピリジン、実施例5では2,5−ジメチルピロールを吸着させ、実施例7ではアンモニウム塩の対イオンを酢酸とし、実施例7では2,5−ジアミル基を有するキノン誘導体を用い、実施例9では対極材に白金を用いているが、何れも他の実施例と光電変換特性に大きな差はなない。
比較例4はヨウ素系電解質層を備え、変換効率は実施例よりも高くなっているが、外観が濃褐色に変化して意匠性が大きく損なわれている。これに対し実施例の光電変換素子は、透明性を有し、外観が鮮やかな赤色であり意匠性にも優れている。
以上のように、本発明の光電変換素子は、半相対層に逆電子移動防止剤を吸着させ、ベンゾキノン誘導体、ヒドロキノン誘導体及びアンモニウム塩を含有する電解質層を備えることにより、光電変換特性に優れ、意匠性にも優れることがわかる。
A 光電変換素子
1 透明基体
2 透明導電膜
3,3´ 半導体層
4 増感色素
6 触媒層
7 電極基材
8 半導体電極
9 対向電極
10 逆電子移動防止剤

Claims (3)

  1. 半導体膜が形成された半導体電極と、対向電極と、前記電極間に保持された電解質層とを備えた光電変換素子であって、
    前記半導体電極に、下記一般式(IA)または(IB)で表される五員環、六員環または多環の含窒素複素芳香環化合物が半導体膜100質量部に対し0.03質量部以上吸着されており、かつ、
    前記電解質層が、酸化還元対としてベンゾキノン誘導体及びヒドロキノン誘導体をそれぞれ2〜100mM含有し、更に添加剤として下記一般式(IV)で表されるアンモニウム塩を4〜200mM含有することを特徴とする光電変換素子。
    Figure 2015220285
    〔(IA)及び(IB)式中、A、B、C、D、Eは炭素原子、窒素原子、酸素原子または硫黄原子であり、mは0または1である。また、R‘、R“はアルキル基またはアリール基を示しており、添字のl、nは置換基を0個以上有することを示す。〕
    NH ・・・(IV)
    〔(IV)式中、Xは無機アニオンまたは有機アニオンを示す。〕
  2. 前記半導体電極は、増感色素を吸着させた後、前記含窒素複素芳香環化合物が吸着されていることを特徴とする請求項1記載の光電変換素子。
  3. 前記含窒素複素芳香環化合物が、t−ブチルピリジン、2,4,6−トリメチルピリジンまたは2,5−ジメチルピロールであることを特徴とする請求項1または2記載の光電変換素子。
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