[第1実施形態]
図1において、溶液製膜設備10は、ドープ11からセルロースアシレートフィルム(以下、フィルムと称する)F1を製造する。溶液製膜設備10は、流延装置14、縦延伸装置15、サイドスリッタ16、テンタ17、乾燥室18、巻取装置19を備えている。この溶液製膜設備10を用いて、溶液製膜方法が実施される。
流延装置14は、ドープ11から溶媒を含んだ状態の湿潤したフィルムF1を形成する。この流延装置14は、流延バンド21、一対のバックアップローラ22,23、流延ダイ24、剥取ローラ25、加熱器26〜29、第1〜第3流延膜乾燥装置31〜33、これらを収容した流延室34、及び空調装置35などを備える。
流延バンド21は、環状にされた無端の支持体であり、バックアップローラ22,23に掛け渡されて、バックアップローラ22とバックアップローラ23との間が水平になっている。バックアップローラ22,23のうちの一方、例えばバックアップローラ22が駆動部(図示省略)によって駆動され、流延バンド21が循環走行する。この循環走行によって、流延バンド21は、ドープ11が流延される流延位置CPから各流延膜乾燥装置31〜33による乾燥エリアを通って、流延膜F0が剥ぎ取られる剥取位置PPに移動し、再び流延位置CPに戻る。流延バンド21は、その移動速度、すなわち流延速度が10m/min以上250m/min以下で移動できるものであることが好ましい。
流延ダイ24は、走行中の流延バンド21の流延面(外周面)にドープ11を吐出することにより、流延バンド21の流延面に流延膜F0が連続的に形成される(流延工程)。減圧チャンバ37は、流延ダイ24の吐出口から吐出されて流延バンド21の流延面に達するまでの間のドープ11の背面側を減圧することによって、そのドープ部分(ビード)の振動を抑制する。なお、流延位置CPは、流延バンド21がバックアップローラ22に巻き掛けられた位置の他に、バックアップローラ22,23の間の流延バンド21上であってもよい。流延ダイ24から押出されるドープ11の残留溶媒量は、乾燥時の質量基準(乾量基準)で300質量%以上500質量%以下であることが好ましい。また、流延ダイ24から押出されるドープの粘度(レオメーターで測定)は40Pa・s以上50Pa・s以下であることが好ましい。
流延装置14では、流延バンド21による流延膜F0の搬送中に、流延バンド21から流延膜F0を剥ぎ取ることができる程度に乾燥を進める初期乾燥を行う。この初期乾燥のために、加熱器26〜29、第1〜第3流延膜乾燥装置31〜33が設けられている。加熱器26〜29は、流延バンド21の流延面とは反対側の面に対向して配されており、流延バンド21を介して流延膜F0の温度を制御し、流延膜F0から溶媒の蒸発を促す。流延バンド21の温度は、温調機(図示省略)で温度調節された伝熱媒体を各バックアップローラ22,23の内部に供給することによっても制御される。バックアップローラ23には加温された伝熱媒体が供給され、流延膜F0から溶媒の蒸発が促される。一方のバックアップローラ22には冷却された伝熱媒体が供給され、流延膜F0を剥ぎ取った後の流延バンド21の温度上昇が抑制される。
第1〜第3流延膜乾燥装置31〜33は、流延面に対向して設けてある。第1流延膜乾燥装置31は、流延バンド21が流延位置CPからバックアップローラ23に向かう上側搬送路の上方に配してある。第2,3流延膜乾燥装置32,33は、流延バンド21がバックアップローラ23から剥取位置PPに向かう下側搬送路の下方に配してある。
第1流延膜乾燥装置31は、複数の送風セット40を備えている。各送風セット40は、流延膜F0を乾燥させるための気体(以下、乾燥気体という)を送出する給気ユニット41と、乾燥気体を吸い込む吸込ユニット42とから構成される。そして、給気ユニット41は先端に給気口41aを有し、吸込ユニット42は先端に吸込口42aを有する。これら給気口41aと吸込口42aとは対向し、給気ユニット41と吸込ユニット42とが対をなしている。各送風セット40は、流延膜F0の表面上に、流延バンド21の走行方向Xと平行、すなわち流延膜F0の表面と平行に乾燥気体を流す。乾燥気体としては、空気や不活性ガスなどが用いられる。なお、本明細書において、「平行」、「直交」、「垂直」とは、厳密な角度±5°以下の範囲内であることを意味する。厳密な角度との誤差は、±4°未満であることが好ましく、±3°未満であることがより好ましい。
第1流延膜乾燥装置31による乾燥を行う第1乾燥区間では、バックアップローラ23を回って流延バンド21の上下が反転した状態でも、流延膜F0の形状が維持できる硬さにまで乾燥を進める初期乾燥を行う(乾燥工程)。また、第1乾燥区間の流延膜F0は、流延直後であり溶媒の比率がまだ高く、乾燥気体の流れ(乾燥風)等によって流延膜F0の表面の荒れが発生しやすい区間である。このため、第1流延膜乾燥装置31は、流延バンド21と平行に乾燥気体を流して表面の荒れを抑制して乾燥を進める。
流延膜F0上を流れる乾燥気体に含まれる流延膜F0から蒸発した溶媒のガス濃度は、給気ユニット41の給気口41a(図2参照)と吸込ユニット42の吸込口42a(図2参照)の間で25%以下を維持することが好ましく、より好ましくは20%以下を、最も好ましくは5%以下を維持することである。なお、ガス濃度とは、赤外線分析法で測定される溶媒を含む乾燥気体中の蒸発溶媒成分を意味する。流延直後の流延膜F0には多量の溶媒が含有している。そのため、ガス濃度が25%を超えると、含有溶媒量が多い流延膜F0からの溶媒の蒸発が遅くなる。ガス濃度を低くするためには、給気口41aとの間隔を短くしたり、乾燥気体の流量を大きくしたりする。
乾燥気体の温度は、40℃以上140℃以下であることが好ましい。より好ましくは45℃以上110℃以下であり、最も好ましくは50℃以上100℃以下である。温度が40℃以上であると流延膜から溶媒の蒸発が進行し易くなる。また、温度が140℃以下であると、流延膜中の溶媒が急激に気化して流延膜F0が発泡するおそれも無くなる。
なお、図1では、図示の関係から、4個の送風セット40を描いてあるが、この送風セット40の個数は任意であり、適宜に設定することができる。
下側搬送路には、下流(剥取位置PP)側に向けて順番に第2流延膜乾燥装置32,第3流延膜乾燥装置33を配してある。第2,第3流延膜乾燥装置32,33を設けた第2,第3乾燥エリアでは、流延バンド21の上下が反転した状態でも流延膜F0がその形状を維持できる硬さになっているので、乾燥気体の流れの影響はあまり受けない。そこで、第2,第3流延膜乾燥装置32,33は、流延膜F0に垂直にまたは斜めに乾燥気体を吹き付けて、乾燥を効果的に進める。なお、流延膜F0の溶媒の比率が下がっているので、溶媒の急激な蒸発による発泡などの問題も生じにくいため、第2,第3流延膜乾燥装置32,33からの乾燥気体、加熱器29の温度を高めに設定してもよい。
流延ダイ24と第1流延膜乾燥装置31との間には、ラビリンスシール44を先端に有する区画板45が設けてある。このラビリンスシール44によって、第1流延膜乾燥装置31等によって生じる気体の流れが流延ダイ24の吐出口と流延バンド21との間のドープ11に影響しない状態にしている。なお、図示は省略したが、ラビリンスシール44は、その他には剥取位置PPの上流側や、減圧チャンバ37の上流側などにも区画板45と共に設けられている。
剥取ローラ25は、剥取位置PPを一定に維持しながら流延膜F0を流延バンド21からフィルムF1としてから剥ぎ取るものであり、その回転軸がバックアップローラ22の回転軸と平行に配してある。フィルムF1を剥取ローラ25に巻き掛けた状態で、溶液製膜設備10の下流に向けてフィルムF1が引っ張られることにより、流延膜F0が剥取位置PPで流延バンド21から剥がされる(剥ぎ取り工程)。フィルムF1は、流延室34の外側に送り出される。
空調装置35は、流延室34内を所定の温度に保ち且つ換気する。これにより、ドープ11、流延膜F0のそれぞれから蒸発して気体となった溶媒の流延室34内での蒸気圧を下げる。この空調装置35は、気体となった溶媒を凝縮する凝縮器(コンデンサ)を内蔵しており、この凝縮器で液化された溶媒は回収装置(図示省略)に送られて回収される。
流延装置14からのフィルムF1は、縦延伸装置15に送られる。縦延伸装置15は、フィルムF1を長手方向(X方向)に延伸するものである。縦延伸装置15は、チャンバ51の内部に複数のローラ52を配した構成とされる。複数のローラ52の少なくとも2つは、駆動ローラとされており、本実施形態では、最上流のひとつと最下流のひとつとを駆動ローラとしている。駆動ローラは、それぞれ回転速度が設定される。下流側の一方の回転速度は上流側の他方の回転速度よりも大きくされる。また、チャンバ51内には乾燥空気が供給されている。乾燥空気の温度は、20℃以上250℃以下の範囲であることが好ましい。
サイドスリッタ16は変形している両側部をフィルム幅方向中央部から切除する。サイドスリッタ16は、切断刃としての上刃と下刃とを備え、これらの切断刃がフィルムF1の各側部の通過位置に配されている。
テンタ17は、フィルムF1を搬送しながら、搬送方向(X方向)と直交する幅方向(Y方向)に延伸するためのものである。テンタ17は、移動する複数のクリップ53と、エア供給部(図示無し)と、ダクト54とを備える。各クリップ53は、フィルムF1の両側部をそれぞれ把持する。複数のクリップ53は、所定の間隔で環状のチェーンに取り付けられている。チェーンは、フィルムF1の搬送路の両側に配されているレールに沿って移動自在に設けられており、その移動方向はレールによって規定される。これにより各クリップ53はレールに沿って移動する。エア供給部は、各種温度に調整した乾燥気体をダクト54に供給し、このダクト54からテンタ17内のフィルムF1に乾燥気体を吹き付ける。
なお、縦延伸装置15は省略してもよい。または、テンタ17の下流側に縦延伸装置15及びサイドスリッタ16を設けてもよい。この例では、テンタ17としてクリップテンタを用いており、クリップ53が保持部材となっている。クリップテンタに代えてピンテンタを用いてもよい。ピンテンタは、フィルムF1の側部に複数のピンを貫通して保持するピンプレートを有し、保持部材としてのこのピンプレートが移動してフィルムF1を幅方向に延伸する。
乾燥室18には、複数のローラ57が内部に配されており、加熱された乾燥空気が供給されている。巻取装置19は、フィルムF1をロール状に巻き取るためのものであり、フィルムF1が巻かれる巻芯58がセットされる。
なお、テンタ17と乾燥室18との間にも、サイドスリッタ16が配されている。このサイドスリッタ16は、クリップ53による把持跡がある側端部を切除する。また、乾燥室18と巻取装置19との間には、フィルムF1を冷却するための冷却室(図示無し)を設けてもよい。この冷却室としては、室温(例えば15℃以上35℃以下)程度の乾燥空気が供給されるものが挙げられる。
図2に示すように、第1流延膜乾燥装置31は、給気ユニット41、吸込ユニット42の他に、送風機としての送風ファン61と、吸引機としての第1排気ファン62と、第2排気ファン63と、これらを制御するコントローラ64とを有する。それぞれ1個の給気ユニット41と吸込ユニット42とによって送風セット40が構成される。
給気ユニット41と吸込ユニット42は、詳細を後述するように、いずれも流延膜F0の幅方向Y(走行方向Xに直交する方向)に幅広な角ダクトの一端を折り曲げたL字形に形成されている。給気ユニット41には、乾燥気体を送出する給気口41aが、吸込ユニット42には、流延膜F0から蒸発した溶媒を含む乾燥気体を吸い込む吸込口42aがそれぞれ形成されている。
複数の送風セット40は、所定のピッチで上側搬送路に沿って配されている。1つの送風セット40を構成する給気ユニット41と吸込ユニット42とは、互いに給気口41aと吸込口42aとを対向させた向きで、吸込ユニット42が給気ユニット41よりも走行方向Xの下流側に所定の間隔で離間して配される。各給気ユニット41は、給気口41aを流延バンド21の走行方向Xの下流側に向けており、各吸込ユニット42は、吸込口42aを流延バンド21の走行方向Xとは逆方向の上流側に向けている。また、この例では、各送風セット40における給気ユニット41と吸込ユニット42との間隔、すなわち給気口41aと吸込口42aとの間隔は同じであり、また隣接した送風セット40の上流側の吸込ユニット42の垂直な部分と下流側の給気ユニット41の垂直な部分を密着させた状態に各送風セット40を配している。
各給気ユニット41には、送風ファン61が接続されている。送風ファン61は、温調器61aで温度が調整された乾燥気体を給気ユニット41に供給する。各給気ユニット41は、それに内蔵した給気整流部67(図4参照)で乾燥気体を整流して、給気口41aから流延バンド21の走行方向Xに平行な流れとして送出する。これにより、流延バンド21の走行方向Xに平行な流れで、流延膜F0の表面の近傍に乾燥気体を流して、流延膜F0を乾燥させる。コントローラ64が、送風ファン61の駆動を制御することにより、給気口41aにおける乾燥気体の流れの速さ(以下、流速という)が所定の値に調整される。
流延膜F0の搬送速度Vf(m/min)と、流延位置CPに最も近い送風セット40の給気口41aにおける乾燥気体の相対流速Vs(m/min)とは次の条件を満たすことが好ましい。
−(0.2×Vf)≦Vs≦−(0.05×Vf)
または
+(0.05×Vf)≦Vs≦+(0.2×Vf)
これにより、流延直後の溶媒濃度が高い流延膜の表面の波立ちや荒れを抑えて、乾燥時の面荒れの発生が抑制される。特に、流延バンド21の長さが短い既存設備を用いて高速流延を実施する場合に、乾燥時の面荒れの発生が抑制される。なお、流延位置CPに最も近い送風セット40の他に、最上流側の送風セット40に隣接する次の適数個の送風セット40においても、上記条件を満たすようにしてもよい。流延位置CPに最も近い送風セット40の給気口41aに達した時の、フィルムF1の残留溶媒量は、乾燥時の質量基準(乾量基準)で300質量%以上500質量%以下であることが好ましい。
流延膜F0の搬送速度Vf(m/min)は流延バンド21の移動速度と同じである。例えば、この搬送速度Vfが100(m/min)で、乾燥気体の相対流速VsがVs=−(0.2×Vf)を満たす場合、乾燥気体の静止したものを基準とした絶対的な流速(以下、絶対流速という)は、80(m/min)である。また、Vs=+(0.2×Vf)を満たす場合、乾燥気体の絶対流速は、120(m/min)である。なお、具体的に相対流速を表すときには、絶対流速が搬送速度よりも大きい場合に正の符号を付し、小さい場合に負の符号を付す。したがって、例えば搬送速度が100(m/min)で、絶対流速が80(m/min)である場合、相対流速は−20(m/min)と表す。
流速は、例えばヘンツ(Hontzsch)社製のベーン式風速計HFA−Exを用いて測定する。図5及び図6に示すように、ダクト71,81内の流速を測定する場合には、ダクト71,81の側面に開口79を形成し、この開口79からセンサ本体80をダクト71,81内の流速測定部位へ挿入する。ベーン式風速計は、センサ本体80内に羽根車(ベーン)を有し、空気などの流体による羽根車の回転数を測定する。この回転数は図示しない風速計本体に取り込まれ、流速が演算される。ダクト71,81に設けた開口79は、計測を終了した後は、センサ本体80が開口79から引き抜かれ、開口79は図示しない蓋部材により塞がれる。なお、測定する時のみセンサ本体80を開口79に挿入する代わりに、センサ本体80を常時設置しておき、一定の流速が得られるように、センサ本体80の出力に基づき送風ファン61や第1排気ファン62の回転数を制御してもよい。
流延されたばかりの流延膜F0は、大量の溶媒を含んでいて粘度が低いため、相対流速Vsが(0.2×Vf)以下であると、流延膜F0の表面への波立ちの発生が抑えられる。また、相対流速が(0.05×Vf)以上であると、乾燥が促進され、流延膜F0を剥離する際に乾燥が十分となり、流延膜F0が切れることがなくなる。
図2に示すように、各吸込ユニット42には、第1排気ファン62が接続されている。これにより、吸込ユニット42は、対向した給気口41aから送出されて流延膜F0上を流れて蒸発した溶媒を含む乾燥気体を吸込口42aから吸い込む。このように給気ユニット41ごとに吸込ユニット42を設けることにより、流延膜F0から蒸発した溶媒を含む乾燥気体を直ぐに回収することができる。したがって、流延膜F0上に溶媒濃度が低い乾燥気体を常時流すことができ、面荒れもなく効率良く乾燥が可能になる。
給気口41aに対向させて吸込口42aを設けることにより、流延膜F0上に乾燥気体を円滑に流し、流延膜F0の表面に平行な流れを長い距離で維持することができる。吸込ユニット42を介して回収された溶媒を含む乾燥気体は、回収装置(図示せず)に送られて溶媒が回収される。なお、溶媒を回収した乾燥気体は給気ユニット41に供給して乾燥気体として循環する。
吸込ユニット42の吸込量は給気ユニット41からの風量の±20%以内、すなわち給気ユニット41からの風量を100としたときに、吸引量が80から120の範囲とすることが好ましい。この吸込ユニット42の吸引量が適切でないと、流延膜F0に沿った乾燥気体の流れが乱れてしまい、渦が発生することにより流延膜F0の面状を悪くしてしまうからである。
本実施形態では、送風機として送風ファン61を、また吸引機として第1排気ファン62を用いているが、ファン以外の送風機、吸引機を用いてもよい。送風機、吸引機としては、送出する乾燥気体の流量、吸い込む乾燥気体の流量の変動が小さいものが好ましい。
送風セット40を構成する給気ユニット41と吸込ユニット42の給気口41aと吸込口42aとの間隔は、1mよりも短いと給気ユニット41と吸込ユニット42の個数が多くなりすぎて装置が煩雑になる。また、流延膜F0表面上を覆う給気ユニット41と吸込ユニット42の割合も大きくなり、乾燥気体が流れる流延膜F0の実質的な長さが短くなってしまうので好ましくない。間隔が2mよりも長くなると、溶媒の濃度が高い乾燥気体が長い距離を流れることになって乾燥の効率が低下する。また、乾燥気体の流れが流延膜F0上で乱れやすくなり、流延膜F0の表面の荒れの原因になり易い。したがって、給気口41aと吸込口42aとの間隔をLとしたときに、1m≦L≦2mであることが好ましい。
図3に示すように、上流側の吸込ユニット42とこれに密着している下流側の給気ユニット41との境界下部には底部材68が配されている。底部材68は、その外形が各給気ユニット41と吸込ユニット42とによって形成された空間と同じであり、流延膜F0の幅方向に長い略三角柱状になっている。底部材68の底面には半円柱状の溝部68aが形成されている。溝部68aの各端部にはパイプ69が接続されている。パイプ69は図2に示すように、第2排気ファン63に接続されている。これにより、溝部68a内が負圧となって、給気ユニット41と吸込ユニット42の下方での流延膜F0上で気体の乱れが抑制され、流延膜F0の表面の荒れが防止される。
図4及び図5に示すように、給気ユニット41は、矩形筒状のダクト71と、給気整流部67とを有する。ダクト71はL字形状であり、垂直に延びた垂直ダクト部71aと、流延バンド21の走行方向Xに平行な水平ダクト部71bと、これら各ダクト部71a,71bを接続する湾曲した接続ダクト部71cとを有する。ダクト71は、流延膜F0の幅方向Yに長く形成され、流延膜F0の幅W0より給気口41aの幅W1が大きくされている。なお、図4では、流延膜F0の幅W0に対して給気口41aの高さD2を誇張して描いてある。
ダクト71には、垂直ダクト部71aの上部に送風ファン61から乾燥気体が供給される。供給された乾燥気体は、供給方向Df(ダクト71の筒心方向)に沿って流れ、接続ダクト部71cを介して水平ダクト部71bに送られる。水平ダクト部71bの先端面に流延バンド21の走行方向を向いた給気口41aが形成されている。給気口41aは、流延膜F0よりも幅広に形成されており、流延膜F0の全幅にわたって乾燥気体を送出する。
給気整流部67は、ダクト71に流れる乾燥気体を整流することによって、給気口41aから送出される乾燥気体の流れの流延膜F0に垂直な成分を抑制する。この例では、給気整流部67は、整流ネット73、整流格子74、ガイドベーン75、整流フィン76を備える。
整流ネット73、整流格子74は、垂直ダクト部71aに設けてある。整流ネット73は、細かい目を有する網状の部材であり、ダクト71内の実効開口面積を制限することによって下流側の圧力(流速)分布を均一化する。整流格子74は、整流ネット73よりも供給方向Dfの下流側に設けてある。整流格子74は、供給方向Dfに貫通したセル74aが複数形成されている。この整流格子74に乾燥気体を通すことにより、乱れた乾燥気体の流れを供給方向Dfに整える。この例では、整流格子74は、セル74aが6角形に開口したハニカムタイプのものを用いている。セル74aの開口形状は、6角形に限らない。例えば、セル74aの開口が矩形であってもよい。なお、セル74aを構成する隔壁は薄いものが、乾燥気体の流れを乱さないので好ましい。
ガイドベーン75は、接続ダクト部71cに複数設けられている。各ガイドベーン75は、幅方向に長く、取り付け位置に応じた曲率で湾曲した薄板から構成されており、接続ダクト部71cで乾燥気体の流路が曲げられる際に乾燥気体の流れが乱れないようにする。整流フィン76は、幅方向に長い薄板から構成されており、水平ダクト部71bに設けられ、乾燥気体を整流した状態で給気口41aから送出する。
給気整流部67の構成は一例であり、例えば、整流格子74、ガイドベーン75、整流フィン76を省略し、整流ネット73のみを用いて良い。また、整流ネット73に、整流格子74、ガイドベーン75、整流フィン76のいずれか一つまたは複数個を組み合わせて用いてもよい。給気整流部67は、給気口41aから送出される乾燥気体に含まれる流れ成分のうち流延膜F0に垂直な成分を抑制する。これにより、流延膜F0の表面の荒れが防止される。この乾燥気体の流れ成分のうち流延膜F0に垂直な成分は、0.5m/s以下とすることが好ましい。垂直な成分が0.5m/s以下であると流延膜F0の表面に波立ち(面の乱れ)が発生することがなくなる。
また、給気整流部67により、給気口41aから送出される乾燥気体に含まれる流れ成分のうち、流延膜F0の表面と平行な面内の流れ成分は、流延膜F0の搬送方向に対して45°以下の傾斜角度範囲内とすることが好ましく、特に好ましくは30°以下の傾斜角度範囲内である。乾燥気体の流れの面内での向きが流延膜の移動方向に対して平行な面内である場合には、風が移動する流延膜の表面から流延バンド21の外側まで流れ出すことがなくなる。特に、45°以下の傾斜角度範囲内にすると、風の回収側の吸込口42aを広げることなく、流延バンド21の両端から外に吹き出した風を回収することができる。そして、流延バンド21端部から流延バンド21面の制約のない開放空間に流れ出した風の乱れが抑えられるため、流延膜の表面に波紋が生じることが無くなり、製品品質が向上する。
給気口41aの幅はW1であり、ダクト71の内部の幅と同じである。接続ダクト部71cの内部の供給方向Dfに直交する断面サイズは、幅W1を維持しつつ、幅と直交する長さ(以下、縦寸法という)を水平ダクト部71bに向かって小さくすることで漸減している。すなわち、接続ダクト部71cの縦寸法は、垂直ダクト部71a側では垂直ダクト部71aのものと同じ長さD1であり、この長さD1から漸減されて水平ダクト部71b側では水平ダクト部71bのものと同じ長さD2となる。このように断面サイズを漸減することにより、乾燥気体の流れを圧縮し、より効果的に流速分布を均一にし、また乾燥気体の流れの乱れを抑制する。給気口41aの高さは水平ダクト部71bの縦寸法と同じD2である。
水平ダクト部71bの天板77は、底板78よりも長くしてあり、搬送方向に突出した庇部77aを有している。これにより、給気口41aから送出された乾燥気体が、その流れの上方の気体を巻き込んで乱れることを抑制する。
給気ユニット41により、流延膜F0に垂直な成分が抑制され、流延膜F0の表面に平行な乾燥気体を給気口41aから送出するため、乾燥効率を高くしながら、流延膜F0の表面の荒れが防止される。このように乾燥効率が高いため、第1乾燥エリアが短い場合でもまた生産効率を上げるために流延バンド21の走行速度を高くしている場合にも、流延膜F0の表面の荒れを防止しつつ必要とする初期乾燥が可能になる。
図6に示すように、吸込ユニット42は、吸込部としてのダクト81と吸込整流部82とを備える。ダクト81は、給気ユニット41のものと同様に、角ダクトの下部を折り曲げたL字形状であり、垂直ダクト部81aと、水平ダクト部81bと、接続ダクト部81cとを有する。また、このダクト81は、流延膜F0の幅方向に長くなっている。水平ダクト部81bの先端面には、吸込口42aが形成されており、この吸込口42aが流延バンド21の走行方向と逆方向を向いている。ダクト81は、第1排気ファン62(図2参照)によって上部から気体が吸い出されることによって、吸込口42aから流延膜F0上の流延膜F0から蒸発した溶媒を含む乾燥気体を吸い込む。吸込口42aは、流延膜F0よりも幅広に形成されており、流延膜F0の全幅にわたって気体を吸い込む。なお、図6では、流延膜F0の幅に対して吸込口42aの高さを誇張して描いてある。
給気口41aから送出された乾燥気体の流れは、吸込口42aに向かって進むにしたがって幅方向に広がる。そこで、吸込口42aの近辺での乾燥気体の流れの乱れを極力抑えるために、広がった平行流をできるだけ回収することが好ましい。このため、流延膜F0の幅よりも広い吸込口42aを用いて乾燥気体を吸い込み、吸込口42aの近辺において流延膜F0上での乾燥気体の流れの乱れを極力抑えている。
水平ダクト部81bの底板83は、天板84よりも長くされている。これにより、底板83と流延膜F0との間の気体の吸込みを低減し、流延膜F0上での気体の乱れを抑制する。また、吸込口42aの高さD3を、給気口41aの高さD2よりも大きくして、流延膜F0の上方の乾燥気体を効果的に吸い込んでいる。
吸込整流部82は、水平ダクト部81bの内部に設けてある。吸込整流部82としては、複数の整流フィン82aを用いている。この吸込整流部82により、吸込口42aから吸い込む気体の流れの乱れの発生を抑制し、流延膜F0の表面の荒れを防止する。なお、整流フィン82aは、吸込口42aの近傍に設けてあればよく、水平ダクト部81bの外側でもよい。
給気ユニット41、吸込ユニット42の水平ダクト部71b、81bの底面は、気流が乱れないようにするため流延膜F0と接触しない範囲で可能限り流延膜F0に近づけることが好ましい。
溶液製膜設備10では、広幅のセルロースエステルフィルム等を製造することができる。特に幅1.3m以上4.0m以下のものが好ましく用いられ、特に好ましくは1.4m以上2.0m以下である。フィルムの幅が4.0mを超えると搬送が困難となる。また、セルロースエステルフィルムの厚さは、使用目的によって異なるが、液晶表示装置の薄型化の観点からは、仕上がりフィルムとして10μm以上200μm以下、好ましくは10μm以上150μm以下、更に好ましくは15μm以上80μm以下の範囲が好ましい。
なお、上記実施形態では、ダクト71の端部の給気口41aから直接に吹き出すタイプで説明したが、例えば乾燥気体を通すダクトとは別に箱状の給気部を設け、この給気部に乾燥気体を供給するダクトを接続し、上記同様の給気口を設けた構成としてもよい。同様に溶媒を含む乾燥気体を通すダクトに箱状の吸込部を接続し、この吸込部に上記同様の吸込口を設けてもよい。
ドープ11は、ポリマーを溶媒に溶解したものである。この実施形態では、透明な熱可塑性ポリマーとしてのセルロースアシレートを溶媒に溶解したものをドープ11としている。セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(1)〜(3)を満たすようなTAC(セルローストリアセテート)を用いる場合に、本発明は特に有効である。式(1)〜(3)において、A及びBは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表し、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数が3〜22のアシル基の置換度である。なお、セルロースアシレートの総アシル基置換度は、A+Bで求める値である。
(1) 2.7≦A+B≦3.0
(2) 0≦A≦3.0
(3) 0≦B≦2.9
また、TACに代えて、または加えて、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(4)を満たすようなDAC(セルロースジアセテート)を用いる場合にも、本発明は特に有効である。
(4)2.0≦A+B<2.7
レタデーションの波長分散性の観点から、式(4)を満たしながらも、DACのアセチル基の置換度A、及び炭素数3以上22以下のアシル基の置換度の合計Bは、下記式(5)及び(6)を満たすことが、好ましい。
(5) 1.0<A<2.7
(6) 0≦B<1.5
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位及び6位に遊離の水酸基(ヒドロキシル基)を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化の場合を置換度1とする)を意味する。
位相差機能を備えたフィルムF1を製造する場合のポリマーとしては、セルロースアシレートに代えて、他の透明な熱可塑性のポリマーであってもよい。例えば、セルロースエステル、ポリカーボネート系ポリマー、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマーなどが挙げられる。
溶媒としては、例えば、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。これらの中でも炭素原子数1以上7以下のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。
溶媒は、混合物であってもよく、ポリマーがセルロースアシレートであり、溶媒の主成分がジクロロメタンである場合には、ジクロロメタンに炭素原子数1以上5以下のアルコールを1種ないし数種類混合した混合物であることが好ましい。この場合のアルコールの含有量は、溶媒全体に対し2質量%以上25質量%以下が好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が挙げられ、本実施形態も後述の実施例に記載のように複数のアルコールをジクロロメタンに混ぜて、これらの混合物を溶媒として用いている。
溶媒について環境保護の観点を考慮する場合には、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合物を用いてもよい。これらのエーテル、ケトン,エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶媒の成分として用いることができる。
次に上記構成の作用について説明する。流延ダイ24にドープ11が供給され、吐出口から走行する流延バンド21に向けて吐出される。これにより、バックアップローラ22で冷却された流延バンド21上に流延膜F0が形成される。流延ダイ24からドープ11の吐出が連続的に行われ、流延バンド21が走行を続けるから連続的に流延膜F0が形成される。
形成された流延膜F0は、流延バンド21の走行にともなって搬送される。この搬送中では、バックアップローラ23と加熱器26〜29とによって加温された流延バンド21により流延膜F0が温められて溶媒が蒸発する。
一方、第1流延膜乾燥装置31では、送風ファン61から各給気ユニット41に温度が調整された乾燥気体が供給されている。乾燥気体は、給気整流部67によって整流されてから、流延バンド21の走行方向に平行な方向に給気口41aから送出される。また、給気口41aに対向した吸込ユニット42の吸込口42aによって吸込みが行われている。したがって、各送風セット40の給気口41aと吸込口42aとの間には、流延バンド21の走行方向に平行な流れで、流延膜F0が移動する方向に乾燥気体が流れた状態になっている。そして、この乾燥気体の流れは、給気整流部67、突出させた天板77、更には吸込整流部82によって、乱れが少なく、流延膜F0の表面に垂直な成分が極めて良好に抑制された、流延膜F0の表面に平行な流れとなっている。
搬送が進み、流延膜F0が第1流延膜乾燥装置31による第1乾燥エリアに入り、各送風セット40の給気口41aと吸込口42aとの間を搬送されている間では、乾燥気体が流延膜F0の表面近傍を流れる。これにより、流延膜F0からの溶媒の蒸発が促されて乾燥が効果的に進む。
給気口41aから送出され流延膜F0から蒸発した溶媒を含んだ乾燥気体は、吸込口42aで吸い込んでいるため、乾燥気体が吸込口42aの下流に流れることを防止する。このため、上流側で蒸発した溶媒が乾燥気体と共に下流側に流れて、乾燥気体に含まれる溶媒の濃度を上昇させることがない。これにより、流延膜F0の上に流れる乾燥気体が溶媒の濃度の低い状態を維持して乾燥がより効果的に進む。
第1乾燥エリアに搬送されてくる流延膜F0は、溶媒の比率が高く乾燥気体の流れの乱れによって表面の荒れが生じやすい。しかし、各送風セット40の給気ユニット41と吸込ユニット42との間では、流延膜F0の表面に垂直な成分が極めて良好に抑制された流延膜F0の表面に平行な流れであるため、流延膜F0の表面が荒れることがない。また、送風セット40間の境界部分においても、底部材68の溝部68aを負圧にしているから流延膜F0の表面の気体の流れが乱れることがないので、流延膜F0の表面が荒れることがない。
第1流延膜乾燥装置31を通過した流延膜F0は、バックアップローラ23を回って下側搬送路に移動する。流延膜F0は、上下が反転した状態でも形状が維持できる硬さにまで乾燥が進められている。
下側搬送路の搬送中に、バックアップローラ23と加熱器29による流延バンド21の加熱と、第2,第3流延膜乾燥装置32,33からの乾燥気体の吹き付けにより、流延膜F0は、流延バンド21から剥ぎ取り可能な状態にまで更に乾燥が進められる。
流延膜F0が流延バンド21から剥がされてフィルムF1として剥取ローラ25に巻き掛けた状態となっている。そして、溶液製膜設備10の下流に向けてフィルムF1が引っ張られることにより、流延膜F0が剥取位置PPで流延バンド21から剥がされる。フィルムF1は、流延室34の外側に送り出され、縦延伸装置15へ送られる。
縦延伸装置15では、フィルムF1は、2つの駆動ローラを含む複数のローラ52に順番に巻き掛けられて搬送されながら、回転速度が前述のように異なる2つの駆動ローラにより長手方向に延伸されて伸ばされる。また、フィルムF1は、乾燥空気が供給されているチャンバ51内を通過する間に更に乾燥される。
フィルムF1は、縦延伸装置15からサイドスリッタ16に連続的に案内され、両側部が切除される。両側部が切り離されたフィルムF1は、テンタ17へ送られる。テンタ17では、フィルムF1の両側部がそれぞれクリップ53で把持され、クリップ53を搬送方向に移動しながら、対向するクリップの間隔を大きくすることによって、フィルムF1は幅方向に延伸される。テンタ17ではフィルムF1を幅方向に0.5%以上300%以下に拡げることが好ましい。また、フィルムF1はダクト54からの乾燥気体より、加熱または冷却される。
テンタ17によって延伸されたフィルムF1は、乾燥室18に送られる。フィルムF1は、乾燥空気が供給されている乾燥室18内を各ローラ57に巻き掛けられて通過する間に、更に乾燥される。乾燥されたフィルムF1は、乾燥室18から巻取装置19に送られて巻芯58に巻き取られる。乾燥室18と巻取装置19との間に冷却室を設けた場合には、フィルムF1は、冷却室内を通過することにより温度が下げられてから巻取装置19に案内される。
以上のように製造されたフィルムF1は、流延直後に流延膜F0に垂直な流れ成分を抑制した流延バンド21の走行方向に平行に乾燥気体を流しているので、表面の荒れが十分に抑えられている。
[第2実施形態]
第2実施形態は、上流側の給気ユニットよりも下流側の給気ユニットから送出する乾燥気体の流速(風量)を大きくしたものである。なお、以下に説明する他は、第1実施形態と同じであり、同じ構成部材には同一の符号を付してその説明を省略する。
図7に示すように、第1流延膜乾燥装置31は、第1〜第7送風セット86a〜86gを有している。第1〜第7送風セット86a〜86gは、それぞれ給気ユニット41、吸込ユニット42に流量調整器87、88が設けられている他は、送風セット40と同様である。流量調整器87は、送風ファン61から給気ユニット41に供給される乾燥気体の流量を調整し、流量調整器88は、吸込ユニット42から第1排気ファン62に吸い込まれる乾燥気体の流量を調整する。
搬送路の上流側の給気ユニット41よりも下流側の給気ユニット41から送出される乾燥気体の流速を大きくした状態に各流量調整器87を調整してある。この例では、下流に配される給気ユニット41ほど送出する乾燥気体の流速を大きくしている。すなわち、給気口41aから送出される乾燥気体の流速は、最上流の第1送風セット86aの給気ユニット41のものが最も小さく、この第1送風セット86aよりも第2送風セット86bから送出される乾燥気体の流速が大きい。また、第2送風セット86bよりも第3送風セット86cから送出される乾燥気体の流速が大きい。そして、最下流の第7送風セット86gの給気ユニット41から送出される乾燥気体の流速が最も大きい。なお、この場合でも、最上流の第1送風セット86aの給気ユニット41の流速は、相対流速Vs(m/min)、流延膜F0の搬送速度Vf(m/min)が上述の条件を満たすことが好ましい。
一方、流量調整器88は、吸込ユニット42の吸込口42aからの吸込量を、対応する給気ユニット41の給気口41aから送出される乾燥気体の流量に応じたものに調整している。これにより、吸込口42aからの吸込量は、第1送風セット86aのものが最も小さく、最下流の第7送風セット86gのものが最も大きくなるように下流のものほど大きくなっている。
なお、各流量調整器87、88によって各給気ユニット41、各吸込ユニット42の流量が相対的に調整される場合には、送風ファン61、第1排気ファン62による流量の調整をあわせて行い、絶対的な流量を調整すればよい。
各流量調整器87、88は、乾燥気体の流量を調整して、送風セット40ごとに異なった流量の乾燥気体を流延膜F0の表面に平行に流し、下流に搬送されるほど流延膜F0の表面に流れる乾燥気体の流速を大きくしている。
この実施形態によれば、第1〜第7送風セット86a〜86gによって流延膜F0の表面に流される乾燥気体の流速は、流延膜F0が搬送されるにしたがって漸増する。このため、流延膜F0が下流に向けて搬送されるほど、乾燥の効率が高くなる。流延膜F0は、下流に搬送されるほど乾燥が進み、乾燥気体の流れに対する表面の荒れの影響を受けにくくなる。したがって、表面の荒れを防止しながらより効率的に乾燥を進めることができ乾燥時間を短くすることができる。
また、本実施形態によれば、乾燥時間の短縮化により、流延装置14における搬送長、すなわち流延バンド21の短縮化が図れる。更に、本実施形態は、既設の流延装置などのように、第1乾燥エリアの長さが決まっており、流延直後の乾燥気体の流速だけでは、必要とする硬さにまで乾燥を進めることができない場合にも有用である。
上記各実施形態では、各送風セット40は、給気口と吸込口の間隔Lが同じであるが、上流側の送風セットの間隔Lよりも下流側の送風セットの間隔Lを大きくしてもよい。なお、以下の図8、図9、図11では、第1〜第4の4個の送風セット89a〜89dとして説明しているが、送風セット89a〜89dの個数は適宜増減してよい。図8に示す第1流延膜乾燥装置31は、第1〜第4送風セット89a〜89dを有しており、給気口41aからの流速が大きいほど、第1〜第4送風セット89a〜89dの給気口41aと吸込口42aとの間隔が大きくなっている(L1<L2<L3<L4)。すなわち、上流側の送風セットのものよりも下流側の送風セットのものを大きくしてある。
給気口41aから送出される乾燥気体の流速が大きくなると、乾燥気体の流れを維持できる距離も大きくなるので、給気口41aから送出される乾燥気体の流速が大きくなるほど給気口41aと吸込口42aとの間隔を大きくしてある。
搬送路の上流においては流延膜F0が軟らかいため、流延膜F0の表面上に大きな相対流速で乾燥気体を流すことができないので、流延膜F0の表面近傍では蒸発した溶媒が拡散し難く、溶媒の蒸気圧が上がりやすい。そして、流延膜F0の表面近傍の溶媒の蒸気圧が高いと、流延膜F0の表面から溶媒が蒸発し難くなり、乾燥が促進されにくい状態になる。しかし、この例では、上流側の送風セット40の間隔は短くして、流延膜F0の表面近傍に常に溶媒の蒸気圧の低い新鮮な乾燥気体を流すことによって、流延膜F0の表面の荒れを抑制しながら、乾燥が促進されにくい状態を抑制して乾燥を効率的に進めている。下流側においては、流延膜F0の粘度が上がっており、大きな相対流速で乾燥気体を流すことができるため、送風セットの間隔を広くしながら溶媒の蒸発を効率的に行うことができる。これは、装置の簡素化やコストダウン、流延膜F0の表面性状の観察、例えば観察用カメラなどの設置ができるなどの利点がある。
図8に示す実施形態では、流量調整器88を用いて乾燥気体の流速を調整しているが、例えば各給気ユニット41にそれぞれ送風ファンを、また各吸込ユニット42にそれぞれ排気ファンを設けて、各ファンの送風量、排気量を調整することによって乾燥気体の流速を調整してもよい。また、流量調整器88を用いて、給気口41aから送出される乾燥気体の流速を調整する代りに、各給気ユニット41への乾燥気体の供給量を同じにしながら、図9に示すように、流速を大きくするものほど給気口41aの高さを小さくしてもよい。この例では、第1〜第4送風セット89a〜89dの各給気ユニット41の給気口41aは、下流のものほど高さが小さくなっており、高さが小さい給気口ほど送出される乾燥気体が圧縮されるため流速が大きくなる。なお、水平ダクト部の縦寸法を給気口の高さと同じにすることが好ましい。
また、上記各実施形態では、各送風セットの送出する乾燥気体の流速を下流に向かうにしたがって漸増しているが、各送風セットを2以上のグループに分けて、同じグループ内の各送風セットでは送出する乾燥気体の流速を同じにし、グループ間では下流のものほど流速を大きくすることも好ましい。例えば、第1流延膜乾燥装置の各送風セットを前半グループと後半グループとに分けて、後半グループ内の各送風セットの給気ユニットから送出する乾燥気体の流速を前半グループ内の各送風セットのものよりも大きくすることも好ましい。
上記各実施形態では、給気整流部の整流格子を給気ユニットの垂直ダクト部内に設けているが、乱れが少ない乾燥気体を送出する点からは、整流格子を給気口に近い位置に配することが好ましい。図10に示す例では、給気整流部67を整流格子91だけで構成し、この整流格子91を水平ダクト部71b内に設けている。なお、整流格子91の背後(図中右側)に整流ネットを配したり、接続ダクト部71cにガイドベーンを設けたりしてもよい。給気口から送出された乾燥気体を給気整流部としての整流格子を通って流延膜F0上に送り出してもよい。
また、流延膜は、下流に搬送されるほど乾燥が進み、表面の荒れについては乾燥気体の流れによる影響を受けにくくなるから、下流側に配される給気ユニット内の給気整流部を上流側のものに比べて簡素化したり、図11に示す整流格子92a〜92dのように、下流側のものほど長さを短くしたりしてもよい。
上記実施形態では、流延膜F0を乾燥して固化させる乾燥流延における乾燥に本発明を実施したが、流延膜を冷却固化させて自己支持性を付与するいわゆる冷却流延において乾燥風を吹き付ける場合に本発明を実施してもよい。この場合には、例えば温調機から冷却した伝熱媒体をバックアップローラ22,23に供給することにより、流延バンド21を冷却し流延膜F0の流動性が低下させる。
(実施例1)
(ドープの組成)
セルローストリアセテート(置換度2.84、 粘度平均重合度306、含水率0.2質量%、ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度 315mPa・s、平均粒子径1.5mmであって標準偏差0.5mmである粉体) 100質量部
ジクロロメタン(第1溶媒) 320質量部
メタノール(第2溶媒) 83質量部
1−ブタノール(第3溶媒) 3質量部
可塑剤A(トリフェニルフォスフェート) 7.6質量部
可塑剤B(ジフェニルフォスフェート) 3.8質量部
UV剤a:2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾ
トリアゾール 0.7質量部
UV剤b:2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)−5−
クロルベンゾトリアゾール 0.3質量部
クエン酸エステル混合物(クエン酸、モノエチルエステル、ジエチルエステル、トリエチ
ルエステル混合物) 0.006質量部
微粒子(二酸化ケイ素(平均粒径15nm)、モース硬度 約7) 0.05質量部
(装置及び条件)
流延ダイ24は、幅が1.1mであり、吐出口からのドープの流延幅を1000mmとした。ドープ11の温度を36℃に維持し、流延ダイ24から押し出されるドープ11の粘度を45Pa・sとした。また、ラビリンスシール44によって流延ダイ24近傍の静圧変動を±1Pa以下に抑制した。なお、溶媒含有率は、サンプリング時におけるフィルム質量をx、そのサンプリングフィルムを乾燥した後の質量をyとするとき{(x−y)/y}×100で算出される乾量基準の値である。
流延バンド21は、幅1.2mで長さが70mのステンレス製のものをバックアップローラ22,23に巻き掛けた。上側搬送路の長さは約25mであった。バックアップローラ22,23は、流延バンド21の温度調整を行うことができるように、内部に伝熱媒体を送液できるものを用いた。流延ダイ24側のバックアップローラ22には5℃の伝熱媒体を流し、他方のバックアップローラ23には乾燥のために40℃の伝熱媒体を流した。流延直前の流延バンド21の幅方向の中央部の表面温度は16℃であり、その両側端との温度差は5℃以下であった。
第1流延膜乾燥装置31としては、図7に示す流量調整器87,88を設けた給気ユニット41,吸込ユニット42を備えた7個の送風セット86a〜86gを上側搬送路に沿って配した。給気ユニット41は、図4に示すように、整流ネット73、整流格子74、ガイドベーン75、整流フィン76を有する給気整流部67を備える。また、吸込ユニット42は図6に示すように、吸込整流部82を備えている。各送風セット86a〜86gでは、給気口41aは、幅W1が1200mm、高さD2が50mmの矩形形状とし、幅方向において給気口41aの中心と流延膜F0の中心とを合致させ、流延膜F0と給気ユニット41の底面との間隔を5mmとした。また、吸込ユニット42の吸込口42aは、幅が1300mm、高さD3が50mmの矩形形状とし、幅方向において、やはり吸込口42aの中心と流延膜F0の中心とを合致させ、流延膜F0と吸込ユニット42の底面との間隔を5mmとした。
各送風セットにおける給気口41aから吸込口42aまでの間隔L(以下、単に間隔Lと称する)は、表1のように、各実施例1〜7で変えた。V1は給気口41aにおける乾燥気体の吸気速度であり、V2は吸込口42aにおける乾燥気体の吸込速度であり、Vs1はV1−Vfであって、流延膜に対する乾燥気体の相対流速である。なお、給気口41aにおける給気速度V1は、図5のダクト71内に設けたセンサ本体80により測定した。同様にして吸込口42aにおける吸込速度V2は図6のダクト81内に設けたセンサ本体80により測定した。
乾燥気体としては、空気を用い、給気口41aからの送出直後の温度を40℃に調整した。また、第1送風セット86aの給気口41aに達した時の流延膜F0中の溶媒比率は乾量基準で400質量%になるようにした。
下側搬送路では、第2,第3流延膜乾燥装置32,33によって流延膜F0の表面に乾燥風気体を垂直に吹付け、また加熱器29によって乾燥を進め、流延膜F0中の溶媒比率が乾量基準で30質量%になった時点で流延バンド21から剥取ローラ25で支持しながら湿潤したフィルムF1として剥ぎ取った。第2,第3流延膜乾燥装置32,33では、乾燥気体として空気を用い、給気口からの送出直後の温度が50℃に調整した。また、加熱器29によって、流延バンド21を50℃に加熱した。また、第2,第3流延膜乾燥装置32,33からの乾燥気体の流速は10m/s(600m/min)とした。
縦延伸装置15による縦延伸は、次のような条件で行った。延伸装置の入り口と出口に配されるフィルムをニップするローラはその表面温度を30℃とし、その間に単独で配されるローラの表面温度は、入り口側を50℃に設定し、出口側を80℃に設定した。その間のローラの表面温度は70℃とし、入り口側と出口側のニップローラの周速差により、縦方向に1.1倍の延伸を行った。
縦延伸の後、サイドスリッタ16によって、フィルムF1の変形している両側部を切り落としてからテンタ17に送った。テンタ17では、フィルムF1を搬送しながら、次のような条件で幅方向に延伸を行った。テンタ内温度を130℃、フィルムの幅方向の拡張角度を+3度として幅方向に1.2倍の延伸を実施した。
幅方向の延伸後、乾燥室18で140℃、10分間の乾燥を行い、溶媒含有量を0.5%とした。この後に、巻取装置19で、フィルムF1をロール状に巻き取った。
(評価)
製造されたフィルムF1の表面性状の評価では、膜厚の均一性を膜厚の最大高低差で評価した。フィルムF1の膜厚の最大高低差(P−V値)は、FUJINON製の縞解析装置(FX−03)により測定した。この時、測定面積は直径が60mmの範囲とし、この範囲内における最大高低差を測定した。入力する屈折率の値としては、セルロースアシレートの平均屈折率1.48を用いた。測定した最大高低差の大きさを次の基準によりA〜Dで評価した。
(評価基準)
A:膜厚の最大高低差が2.0μm以下。
B:膜厚の最大高低差が2.0μmを超えて3.0μm以下。
C:膜厚の最大高低差が3.0μmを超えて5.0μm以下。
D:膜厚の最大高低差が5.0μmを超える。
CやDの品質では製品として出荷することはできない。
(実施例2)
表1に示すように、流延膜F0の搬送速度Vfを60m/minとし、各送風セットの給気速度V1、吸込速度V2を変更して相対流速Vs1を実施例1と同じ条件とした以外は、実施例1と同じ条件にした。実施例2では、面状評価はAであった。このように流延膜F0の搬送速度Vfを変更しても、同様にして面状の良いフィルムが得られることが判る。
(実施例3)
表1に示すように、製品厚みを20μmとした以外は実施例1と同じ条件とした。面状評価はAであった。このように、製品厚みが20μmと薄いフィルムに対しても、同様にして面状の良いフィルムが得られることが判る。
(実施例4)
表1に示すように、実施例2の第3送風セットを無くして送風セットの総数を6とし、第1及び第2送風セットの間隔Lを変更した以外は実施例2と同じ条件とした。面状評価はBであった。このように、送風セットの総数を減少したり、各送風セットの間隔Lを変更したりしても、同様に面状の良いフィルムが得られることが判る。
(実施例5)
表1に示すように、実施例4に対して、第1〜第3送風セットの間隔Lが上流側から順に次第に大きくなるように変更した以外は、実施例4と同じ条件とした。面状評価はAであった。このように、各送風セットの間隔Lを上流側から順に次第に大きくすることにより、面状の良いフィルムが得られることが判る。
(実施例6)
表1に示すように、実施例4に対して、第2〜第6送風セットを無くして第1送風セットのみとした以外は、実施例4と同じ条件とした。面状評価はBであった。このように、送風セットを一つとしても、面状の良いフィルムが得られることが判る。
(実施例7)
表1に示すように、実施例4に対して、第1〜第6送風セットにおける相対流速Vs1が上流側から順に次第に大きくなるように変更した以外は、実施例4と同じ条件とした。面状評価はAであった。このように、各送風セットにおける相対流速Vs1を上流側から順に次第に大きくすることにより、面状の良いフィルムが得られることが判る。
(比較例1)
送風セットを用いることなく、従来のように流延膜に対し垂直の乾燥風を当てる方式で流延膜を乾燥した以外は実施例1と同じ条件とした。面状評価はDであった。
(比較例2)
送風セットの吸込ユニットを無くして給気ユニットのみとした以外は実施例2と同じ条件とした。面状評価はCであった。