以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
図1は、本発明の一側面としてのインプリント装置1の構成を示す図である。インプリント装置1は、半導体デバイスなどの製造工程で使用されるリソグラフィ装置である。インプリント装置1は、基板上のインプリント材を、パターンが形成されたパターン領域を有するモールド(原版)で成形して基板上にパターンを形成する。本実施形態では、インプリント材として樹脂を使用し、樹脂硬化法として、光(紫外線)の照射によって樹脂(紫外線硬化型樹脂)を硬化させる光硬化法を採用する。
インプリント装置1は、モールド2を保持するモールド保持部3と、基板4を保持する基板保持部5と、マーク検出系6と、変形部7と、制御部8と、基板上に樹脂を供給するためのディスペンサを含む樹脂供給部9とを有する。また、インプリント装置1は、第1温調部12と、第2温調部13と、調整部18とを有する。更に、インプリント装置1は、モールド保持部3を保持するためのブリッジ定盤(不図示)、基板保持部5を保持するためのベース定盤(不図示)なども有する。
モールド2は、基板4(の上の樹脂)に転写すべきパターンが3次元形状に形成されたパターン領域16を含む。モールド2は、基板上の樹脂を硬化させるための光やマーク検出系6で使用する光を透過する材料(例えば、石英ガラスなど)で構成される。また、モールド2、詳細には、パターン領域16には、モールド側マーク10が設けられている。本実施形態では、モールド側マーク10は、図2に示すように、パターン領域16の周囲に設けられている。
モールド保持部3は、モールド2を保持する保持機構である。モールド保持部3は、モールド2を真空吸着又は静電吸着するモールドチャック、モールドチャックを載置するモールドステージ、モールドステージを駆動する(移動させる)駆動系などを含む。かかる駆動系は、モールドステージ(即ち、モールド2)を少なくともZ軸方向(基板上の樹脂にモールド2を押印する際の押印方向)に駆動する。また、かかる駆動系は、Z軸方向だけではなく、Z軸と直交する平面内で互いに直交するX軸方向及びY軸方向やZ軸周りの回転方向であるθ方向にモールドステージを駆動する機能を備えていてもよい。
基板4は、モールド2のパターンが転写される基板であって、例えば、単結晶シリコンウエハやSOI(Silicon on Insulator)ウエハなどを含む。基板4には、樹脂供給部9によって樹脂が供給(塗布)される。また、基板上の複数のショット領域のそれぞれには、基板側マーク11が設けられている。
基板保持部5は、基板4を保持する保持機構である。基板保持部5は、基板4を真空吸着又は静電吸着する基板チャック、基板チャックを載置する基板ステージ、基板ステージを駆動する(移動させる)駆動系などを含む。かかる駆動系は、基板ステージ(即ち、基板4)を少なくともX軸方向及びY軸方向(モールド2の押印方向に直交する方向)に駆動する。また、かかる駆動系は、X軸方向及びY軸方向だけではなく、Z軸方向及びθ(Z軸周りの回転)方向に基板ステージを駆動する機能を備えていてもよい。
マーク検出系6は、モールド2に設けられたモールド側マーク10と、基板上の複数のショット領域のそれぞれに形成された基板側マーク11とを光学的に検出(観察)するスコープで構成される。また、マーク検出系6は、モールド側マーク10と基板側マーク11との相対位置を検出することができればよい。従って、マーク検出系6は、2つのマークを同時に撮像するための光学系を含むスコープで構成してもよいし、2つのマークの干渉信号やモアレなどの相乗効果による信号を検出するためのスコープで構成してもよい。また、マーク検出系6は、モールド側マーク10と基板側マーク11とを同時に検出できなくてもよい。例えば、マーク検出系6は、内部に配置された基準位置に対するモールド側マーク10及び基板側マーク11のそれぞれの位置を求めることで、モールド側マーク10と基板側マーク11との相対位置を検出してもよい。また、マーク検出系6は、後述するように、制御部8と協同して、モールド2のパターン領域16の実形状と設計形状とのずれ量や基板4に形成されている基板パターンの実形状と設計形状とのずれ量を取得する取得部として機能する。
変形部7は、モールド2のパターン領域16を変形させて補正する補正機構である。変形部7は、モールド2の側面に力を付与してモールド2を圧縮して、パターン領域16を変形させる。本実施形態では、変形部7は、図2に示すように、モールド2の側面を把持する把持部7aと、モールド2の側面に向かう方向に把持部7aを駆動するアクチュエータ7bとで構成される。
第1温調部12は、モールド保持部3に設けられ、モールド2の温度を調整(制御)する機能を有する。第1温調部12は、制御部8の制御下において、モールド2の温度を調整してモールド2を膨張又は拡大させることで、パターン領域16を変形させる。
第2温調部13は、基板保持部5に設けられ、基板4の温度を調整(制御)する機能を有する。第2温調部13は、制御部8の制御下において、基板4の温度を調整して基板4を膨張又は拡大させることで、基板上のショット領域に形成されている基板(下地)パターンを変形させる。
調整部18は、モールド2と基板4との間の空間SPの温度を調整(制御)する機能を有する。調整部18は、制御部8の制御下において、空間SPの温度を調整することでモールド2と基板4の両方の温度を変化させる。これにより、モールド2及び基板4を膨張又は拡大させ、モールド2のパターン領域16及び基板上のショット領域に形成されている下地パターンを変形させる。調整部18は、例えば、気体を温調する温調機構14と、かかる温調機構14で温調された気体を空間SPに供給する(噴き出す)供給口15とで構成される。
制御部8は、CPUやメモリなどを含み、インプリント装置1の全体(インプリント装置1の各部)を制御する。制御部8は、本実施形態では、インプリント処理及びそれに関連する処理を制御する。例えば、制御部8は、インプリント処理を行う際に、マーク検出系6の検出結果に基づいて、モールド2と基板4とのアライメント(位置合わせ)を行う。また、制御部8は、インプリント処理を行う際に、変形部7によるモールド2のパターン領域16の変形(変形量)を制御する。また、制御部8は、インプリント処理を行う際に、第1温調部12、第2温調部13及び調整部18による温度の調整を制御する。
図3を参照して、インプリント装置1の動作、即ち、本実施形態におけるインプリント方法について説明する。かかる動作は、上述したように、制御部8がインプリント装置1の各部を統括的に制御することで行われる。ここでは、モールド2と基板4とのアライメントとして、特に、モールド2の製造誤差や基板4に形成される下地パターンの誤差などに起因するモールド2と基板4との倍率差(形状差)の補正について説明する。
S101では、モールド2のパターンの設計値に対する誤差量、即ち、モールド2のパターン領域16の実形状とパターン領域16の設計形状との第1ずれ量を取得する。例えば、モールド側マーク10をマーク検出系6で検出し、モールドステージのステージ座標でマーク検出系6の検出領域を換算することで、モールド2のパターン領域16のずれ量、即ち、第1ずれ量を取得することが可能である。この際、ずれ量は拡大や縮小などのパターン全体の大きさ(倍率)のずれを表し、パターン領域16の設計形状に対して実形状の拡大方向のずれ量を正とする。
S102では、基板4に形成されている下地パターンの設計値に対する誤差量、即ち、基板上の下地パターンの実形状と下地パターンの設計形状との第2ずれ量を取得する。例えば、基板側マーク11をマーク検出系6で検出し、基板ステージのステージ座標でマーク検出系6の検出領域を換算することで、基板上の下地パターンのずれ量、即ち、第2ずれ量を取得することが可能である。この際、ずれ量は拡大や縮小などのパターン全体の大きさ(倍率)のずれを表し、基板上の下地パターンの設計形状に対して実形状の拡大方向のずれ量を正とする。
S103では、S101で取得した第1ずれ量がS102で取得した第2ずれ量よりも大きいかどうか(第1ずれ量>第2ずれ量)、即ち、第1ずれ量と第2ずれ量との大小関係を判定する。第2ずれ量が第1ずれ量よりも大きい場合には、S104に移行し、第1ずれ量が第2ずれ量よりも大きい場合には、S105に移行する。
ここで、S102で取得した第2ずれ量(下地パターンの設計値に対する誤差量)がS101で取得した第1ずれ量(モールド2のパターンの設計値に対する誤差量)よりも大きい場合、基板側(下地パターン)が拡大された状態であることを意味する。従って、モールド2と基板4とを同じ倍率に補正して、モールド2と基板4とを正しくアライメントするためには、モールド2(パターン領域16)を拡大させるか、基板4(下地パターン)を縮小させなければならない。但し、変形部7は、上述したように、モールド2を圧縮させているため、モールド2(パターン領域16)を縮小させることはできるが、拡大させることはできない。
S104では、調整部18によって、モールド2と基板4との間の空間SPの温度を調整する(空間SPの温度を下げる)。モールド2の材料として一般的に用いられる石英ガラスは、線膨張係数が0.51ppmであるのに対して、基板4の材料として一般的に用いられるシリコンは、線膨張係数が2.6ppmである。従って、モールド2及び基板4の両方を同等に冷却すると、その温度降下に対して、基板4がモールド2の約5倍収縮する。換言すれば、基板4、即ち、基板上の下地パターンがモールド2のパターン領域16よりも収縮し、S101で取得した第1ずれ量とS102で取得した第2ずれ量との差分を補正することができる。なお、第1ずれ量をa、第2ずれ量をb、モールド2の熱膨張係数をc、基板4の熱膨張係数をdとすると、調整部18による調整温度Tは、T=−((a−b)/(c−d))で規定される。このように、S104では、モールド2と基板4との熱膨張係数差によるモールド2と基板4との変形量差によってパターン領域16の実形状と下地パターンの実形状との差が低減するように、モールド2と基板4との間の空間SPの温度を調整する。また、S104では、モールド2と基板4との間の空間SPの温度を調整する代わりに、第1温調部12によってモールド2の温度を調整し、又は、第2温調部13によって基板4の温度を調整してもよい。また、モールド2と基板4との間の空間SPの温度を調整するとともに、モールド2や基板4の温度を調整してもよい。換言すれば、モールド2、基板4、及び、モールド2と基板4との間の空間SPの少なくとも1つの温度を調整すればよい。また、モールド2や基板4の温度は、第1温調部12や第2温調部13に限らず、インプリント装置1の外部の調整部によって調整されてもよい。
一方、第1ずれ量が第2ずれ量よりも大きい場合には、モールド側(パターン領域16)が拡大された状態であることを意味する。従って、モールド2と基板4とを同じ倍率に補正して、モールド2と基板4とを正しくアライメントするためには、モールド2(パターン領域16)を縮小させる必要がある。この場合、変形部7によってモールド2を圧縮させてパターン領域16を縮小させればよい。但し、モールド2の材料である石英ガラスは、ポアソン比が小さく、圧縮によって変形させることが難しい。従って、変形部7によってモールド2のパターン領域16の変形可能な量には制限があり、その制限量よりも必要となるパターン領域16の変形量が大きい場合には、変形部7によるパターン領域16の変形だけでは足りないことがある。
S105では、変形部7によるパターン領域16の変形の制限量がS101で取得した第1ずれ量とS102で取得した第2ずれ量との差よりも大きいかどうか(制限量>第1ずれ量−第2ずれ量)を判定する。換言すれば、S105では、モールド2を圧縮することによるパターン領域16の変形の制限量と、第1ずれ量と第2ずれ量との差との大小関係を判定する。ここで、第1ずれ量と第2ずれ量との差が補正に必要となるモールド2のパターン領域16の変形量であるため、かかる変形量が制限量よりも大きい場合には、基板4を拡大させなければならない。
S106では、調整部18によって、モールド2と基板4との間の空間SPの温度を調整する(空間SPの温度を上げる)。S106でも、モールド2と基板4との熱膨張係数差によって、モールド2及び基板4の両方を同等に加熱すると、その温度上昇に対して、基板4がモールド2の約5倍拡大する。従って、補正に必要となるモールド2のパターン領域16の変形量が変形部7によるパターン領域16の変形の制限量よりも大きい場合、その不足分を調整部18による空間SPの温度調整で補填することが可能となる。このように、S106では、モールド2と基板4との熱膨張係数差によるモールド2と基板4との変形量差によってパターン領域16の実形状と下地パターンの実形状との差が低減するように、モールド2と基板4との間の空間SPの温度を調整する。
S107では、変形部7によって、モールド2のパターン領域16の実形状と下地パターンの実形状との差が低減するように、モールド2を圧縮してパターン領域16を変形させる。
S108では、モールド2のパターン領域16の形状と下地パターンの形状との差が許容範囲内であるかどうかを判定する。モールド2のパターン領域16の形状と下地パターンの形状との差が許容範囲内でない場合には、S109に移行する。モールド2のパターン領域16の形状と下地パターンの形状との差が許容範囲内である場合には、S110に移行する。
S109では、モールド2のパターン領域16の形状と下地パターンの形状との差が許容範囲内でない、即ち、インプリント処理を行うことができない旨のエラーを通知する。
S110では、インプリント処理を行う。インプリント処理では、まず、樹脂供給部9によって供給された基板上の樹脂にモールド2を接触させる。そして、かかる状態で、モールド2を介して樹脂に光を照射し、かかる樹脂を硬化させる。次いで、基板上の硬化した樹脂からモールド2を剥離する。これにより、基板上のショット領域に、モールド2のパターンに対応する3次元形状の樹脂のパターンが形成される。これらの工程(インプリント処理)を、基板上のショット領域を変更しながら繰り返すことで、基板4の全面、即ち、基板4の全てのショット領域に樹脂のパターンを形成することができる。
インプリント装置1によれば、基板4が拡大した場合であっても、モールド2と基板4との間の空間SPの温度を調整することで、モールド2のパターン領域16の形状と基板4に形成されている下地パターンの形状との差を低減させることができる。また、変形部7によるモールド2のパターン領域16の変形の制限量よりも必要となるパターン領域16の変形量が大きい場合には、モールド2と基板4との間の空間SPの温度を調整することで、変形部7で補正しきれない変形量を補填することができる。従って、インプリント装置1は、基板4(下地パターン)に対してモールド2(パターン領域16)の形状を高い精度で補正することができ、高精度な重ね合わせを実現することができる。
また、本実施形態では、インプリント装置1において、マーク検出系6を用いてモールド2のパターンや基板4に形成されている下地パターンの設計値に対する誤差量を求めている。但し、インプリント装置1の外部の装置(計測装置など)によってモールド2のパターンや基板4に形成されている下地パターンの設計値に対する誤差量を求め、かかる誤差量をインプリント装置1(制御部8)が取得するようにしてもよい。更には、調整部18によって調整すべきモールド2と基板4との間の空間SPの温度もインプリント装置1の外部の装置(情報処理装置など)によって求めるようにしてもよい。
インプリント処理においては、モールド2と基板4との間にインプリント材である樹脂が存在するため、モールド2と基板4との間の空間SPの温度を調整する際には、かかる樹脂の温度も空間SPの温度と同じ温度に調整するとよい。この場合、樹脂供給部9に樹脂の温度を調整する温調機構を設け、制御部8の制御下において、樹脂供給部9から基板4に供給される樹脂の温度を調整する。樹脂供給部9から基板4に供給される樹脂の温度を調整することで、かかる樹脂がモールド2及び基板4に接触する際の温度変化を低減させることができるため、重ね合わせ精度を更に向上させることができる。
物品としてのデバイス(半導体デバイス、磁気記憶媒体、液晶表示素子等)の製造方法について説明する。かかる製造方法は、インプリント装置1を用いてパターンを基板(ウエハ、ガラスプレート、フィルム状基板等)に形成する工程を含む。かかる製造方法は、パターンを形成された基板を処理する工程を更に含む。当該処理ステップは、当該パターンの残膜を除去するステップを含みうる。また、当該パターンをマスクとして基板をエッチングするステップなどの周知の他のステップを含みうる。本実施形態における物品の製造方法は、従来に比べて、物品の性能、品質、生産性及び生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。