JP2015205801A - ガラス接合材 - Google Patents

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Abstract

【課題】アルカリ金属成分を含まない(アルカリレスの)ガラス接合材を提供すること。
【解決手段】ここに開示されるガラス接合材は、母材ガラスと高熱膨張性フィラーとを含んでいる。そして、上記高熱膨張性フィラーが、次の一般式:AMSi(ここで、AはMg,Ca,SrおよびBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、MはFe,NiおよびCoからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。);で示されるアルカリレスの化合物である。好適な一態様では、前記高熱膨張性フィラーの25℃から500℃の熱膨張係数が20ppm/K以上30ppm/K以下である。
【選択図】図1

Description

本発明は、ガラス接合材に関する。詳しくは、アルカリレスのガラス接合材に関する。
金属材料やセラミック材料は、各種の産業分野において様々なデバイス、機器、装置等に幅広く使用されている。かかる材料からなる部材間の接合(例えば、金属部材間の接合や金属部材とセラミック部材の接合)には、当該部材の用途等に応じて様々な接合材が使い分けられている。例えば、高温域(例えば500℃以上の温度域)に曝され得る部位の接合では、(1) 熱膨張係数が被接合部材(金属部材やセラミック部材)と同程度かそれより若干低く、(2) 高温域(例えば500℃〜1000℃)において耐熱性や耐久性に優れる、接合材が好ましく使用されている。
上記(1)に関する先行技術文献として、特許文献1,2および非特許文献1が挙げられる。これらの文献には、母材の熱膨張係数を調整するためにリューサイト結晶(KAlSiあるいは4SiO・Al・KO)を用いる技術が開示されている。上記リューサイト結晶は、熱膨張係数が20ppm/K〜30ppm/K程度と言われており、その熱膨張係数の高さで知られている。例えば特許文献1,2では、ガラスマトリックス中に高熱膨張性のリューサイト結晶を析出させることで被接合部材と同程度の熱膨張係数を実現し、上記(1),(2)の条件を兼ね備えるガラス接合材を実現している。
特開2009−195864号公報 特開2009−199970号公報
星川武、「審美修復歯冠用の低融性リューサイト質ガラスセラミックス」、高温学会誌、2007年11月、第33巻、第6号、p.293−299
ところで近年、産業界では、低コスト化等により安価な金属材料(例えば、ステンレス鋼、銅、アルミニウム等)を被膜処理なしで使用する取組みが進められている。これに伴って、ガラス接合材に含まれるアルカリ金属成分(例えばリューサイト結晶に含まれるカリウム(K))が問題になることがあり得る。例えば、上記安価な金属材料の接合にアルカリ金属成分を含むガラス接合材を使用した場合、500℃以上の高温域において金属材料とアルカリ金属成分とが反応し、接合部の安定性低下(例えば接着性の低下や耐久性の低下)を引き起こすことがあり得る。このような事情から、アルカリ金属成分を含まない(アルカリレスの)ガラス接合材が求められている。
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、アルカリ金属成分を含有しないガラス接合材であって、金属部材やセラミック部材を良好に接合封止することができるガラス接合材を提供することにある。
ここに開示されるガラス接合材は、母材ガラスと高熱膨張性フィラーとを含み、かつアルカリレスである。そして、上記高熱膨張性フィラーが、次の一般式:AMSi(ここで、AはMg,Ca,Sr,Baから選択される少なくとも1種の元素であり、MはFe,Ni,Coから選択される少なくとも1種の元素である。);で示されるアルカリレスの化合物である。
ここに開示されるガラス接合材は、実質的にアルカリ金属成分(例えばLi,Na,K,Rb,Cs,Fr。特にはLi,Na,K。)を含有しない。そのため、例えば被膜処理されていない安価な金属材料(例えばステンレス鋼)を接合する場合にあっても、上述のような不具合を未然に防止することができる。また、かかるガラス接合材は、上記一般式(1)で示される高熱膨張性フィラーを含むことで、アルカリレス(アルカリフリー)であると同時に、高い熱膨張係数を実現することができる。その結果、例えば熱膨張係数の大きな金属部材間やセラミック部材間を強固に接合することができ、なおかつ、当該接合部に優れた耐熱性や、化学的安定性、耐久性を付与することができる。
なお、本明細書において「実質的にアルカリ金属成分を含まない」とは、少なくとも積極的にはアルカリ金属成分(元素)を添加しないことをいう。換言すれば、不可避的な不純物としてアルカリ金属成分(アルカリ金属元素や当該元素を含む化合物)が混入することは許容され得る。具体的には、アルカリ金属成分がガラス接合材全体の1質量%以下(例えば0.5質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下)の割合で混入することは許容され得る。
ここに開示されるガラス接合材の好適な一態様では、上記高熱膨張性フィラーの25℃から500℃の熱膨張係数が20ppm/K以上30ppm/K以下である。これにより、当該高熱膨張性フィラーを含むガラス接合材の熱膨張係数を、熱膨張係数の大きな金属部材やセラミック部材と概ね同程度に調整することができ、熱膨張係数の整合をとることができる。
なお、本明細書において「熱膨張係数」とは、25℃から500℃までの温度領域において一般的な熱機械分析装置(Thermomechanical Analysis:TMA)を用いて測定した平均線膨張係数であり、試料の初期長さに対する試料長さの変化量を温度差で割った値をいう。線熱膨張係数の測定は、JIS R 3102(1995)に準じて行うことができる。
ここに開示されるガラス接合材の好適な一態様では、上記高熱膨張性フィラーが、上記ガラス接合材全体の5体積%以上30体積%以下を占める。これにより、高い熱膨張係数を安定的に実現することができる。したがって、本願発明の効果をより高いレベルで発揮することができる。
ここに開示されるガラス接合材の好適な一態様では、上記母材ガラスが、Ba,Ca,Mg,Si,Al,Ti,Zn,B,Sn,Zr,Sb,Bi,Te,Pb,Agから選択される1種または2種以上を構成元素とする酸化物からなる。これにより、接合部の諸特性(例えば、耐熱性、耐久性、耐水性、耐薬品性、耐熱衝撃性のうち少なくとも1つ)を向上させることができ、本願発明の効果をより高いレベルで発揮することができる。
ここに開示されるガラス接合材の好適な一態様では、上記ガラス接合材の25℃から500℃の熱膨張係数が10ppm/K以上(典型的には10ppm/K〜20ppm/K)である。これによって、さらに高いレベルで被接合部材との熱膨張係数の整合をとることができる。
ここに開示されるガラス接合材の好適な一態様では、上記高熱膨張性フィラーが上記母材ガラス中に結晶体として析出している。かかる結晶体(結晶性フィラー)を含むガラス接合材は、例えば高温域において一層優れた耐久性を発揮することができる。したがって、本願発明の効果をより高いレベルで発揮することができる。
ここに開示されるガラス接合材の好適な一態様では、上記ガラス接合材が一の金属部材と一の他部材とを封止接合するためのガラス接合材である。金属部材を構成する金属材料は、総じて熱膨張係数が大きい。ここに開示されるガラス接合材を用いることで、上記熱膨張係数の大きな金属部材とも熱膨張係数の整合をとることができ、気密性に優れた接合部を好適に実現することができる。
本発明は、他の側面として、一の金属部材と、一の他部材と、両部材間を接合する接合部と、を備える接合体を提供する。上記接合部は、ここに開示されるガラス接合材によって構成されている。上述の通り、かかる接合部は耐熱性や化学的安定性、耐久性に優れる。したがって、ここに開示される接合体は、例えば高温域においても長期間に渡り安心して使用することのできる信頼性の高いものであり得る。
ここに開示される接合体の好適な一態様では、上記金属部材は、25℃から500℃の熱膨張係数が10ppm/K以上25ppm/K以下の金属材料によって構成されている。かかる金属部材としては、例えばステンレス鋼や銅、アルミニウム等が例示される。
管状部品の要部分解斜視図である。
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、ガラス接合材の構成や物性等の特徴)以外の事項であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、ガラス接合材を調製するための原料、方法および加工方法等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
≪ガラス接合材≫
ここに開示されるガラス接合材は、母材ガラスと、所定の高熱膨張性フィラー(フィラー組成物)と、を含んでいる。そして、実質的にアルカリ金属成分を含まない(アルカリレスである)ことによって特徴づけられる。したがって、その他の構成要素については特に限定されず、種々の用途に応じて任意に決定することができる。
<高熱膨張性フィラー>
高熱膨張性フィラーは、ガラス接合材の熱膨張係数を向上させるための成分である。
ここに開示される技術では、高熱膨張性フィラーが、次の一般式(1):
AMSi (1); で示されるアルカリレスの化合物である。
なお、上記一般式(1)において、Aは、第2族元素、すなわち、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)のうちの少なくとも1種の元素である。また、Mは、いわゆる鉄族元素、すなわち、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)のうちの少なくとも1種の元素である。
ここに開示されるガラス接合材は、熱膨張係数を高める効果のあるアルカリ金属成分を含有しないかわりに、上記一般式(1)で示される化合物を含んでいる。これにより、高い熱膨張係数を具備し、一般的なガラスにおいてトレードオフの関係にある高い熱膨張係数と耐熱性とを両立することができる。
一般式(1)で示される化合物において、ケイ素(Si)は当該化合物の骨格を構成する元素である。ケイ素を含むことで、優れた高温耐久性や耐薬品性、耐熱衝撃性等を実現することができる。
また、A元素とM元素は、熱膨張係数を高める効果がある。したがって、所望の熱膨張係数を実現するよう、用途等に応じて適宜選択するとよい。なかでも、M元素の選択は熱膨張係数に大きく影響を与え得る。本発明者の検討によれば、A元素が同じであれば、M元素にコバルトを含む場合に最も熱膨張係数が高くなり、次にニッケルを含む場合に熱膨張係数が高くなる。また、M元素に鉄を含む場合に相対的に最も熱膨張係数が低くなる。一般式(1)で示される化合物はまた、A元素を含むことで優れた物理的安定性や熱的安定性を実現することができる。さらに、M元素を含むことで、被接合部材(例えば金属部材)との物理化学的性状の整合をとることができ、なおかつ高温域において高い耐熱性や耐久性を実現することができる。
ここに開示される高熱膨張性フィラーは、実質的にアルカリ金属成分を含まない。具体的にはアルカリ金属元素(典型的にはLi,Na,K,Rb,Cs,Fr、特にはLi,Na,K)および当該元素を含む化合物を含まない。これにより、上述のようなガラス接合材の安定性低下を未然に防止することができる。
ここに開示される高熱膨張性フィラーは、アルカリレス(アルカリフリー)であって、なおかつ高い熱膨張係数を有する。好適な一態様では、25℃から500℃の熱膨張係数が18ppm/K以上(典型的には20ppm/K以上、例えば22ppm/K以上、敢えて言えば23ppm/K以上)であって、40ppm/K以下(典型的には30ppm/K以下、例えば28ppm/K以下)である。これにより、熱膨張係数の大きな被接合部材(例えば金属部材)と高いレベルで熱膨張係数の整合をとることができ、気密でなおかつ耐久性等の諸特性に優れる接合部を実現することができる。
なお、アルカリ金属成分(アルカリ金属元素)を含まず、かつ比較的高い熱膨張性や耐熱性を示し得るフィラーとしては、酸化マグネシウム(MgO)、ランタンストロンチウム鉄酸化物(LaSrFeO)、イットリウム系超伝導体(YBCO、YBaCu)等が既に知られている。しかしながら、これらのフィラーは熱膨張係数が最大でも15ppm/K程度と、ここに開示されるフィラー組成物に比べて相対的に低い。このため、上述のような熱膨張係数のガラス接合材を実現するためには、当該フィラーをガラス接合材中に大量に添加する必要がある。したがって、ガラス本来の機能性(例えば耐久性や化学的安定性)を低下させることがあり得る。
ここに開示される高熱膨張性フィラーは、ほぼ全て(例えば一般式(1)で示される高熱膨張性フィラー全体の90質量%以上)が結晶体(結晶性フィラー)として存在していてもよく、あるいは一部のみが結晶体として存在していてもよく、あるいはほぼ全てが非晶質(アモルファス、すなわち非結晶性フィラー)として存在していてもよい。
好適な一態様では、上記高熱膨張性フィラーが母材ガラス中に結晶体として析出している。例えば、アルカリレスのアモルファスガラス中に当該結晶性フィラーを析出させることで、高熱膨張性であってなおかつ高温域における耐熱性や耐久性に一層優れるアルカリレスのガラス接合材を実現することができる。
高熱膨張性フィラーの形状は特に限定されず、例えば、板状、小片状、粒子状(パウダー状、粉末状)、針状等であり得る。好適な一態様では、概ね球形、やや歪んだ球形等である。具体的には、当該粒子の最も長い辺の長さと最も短い辺の長さ(典型的には厚み)の比(いわゆるアスペクト比)が、1以上であって、5以下(典型的には2以下、好ましくは1.5以下)であり得る。なお、「粒子形状」は、一般的な粒子画像分析装置、例えばフロー式の粒子像分析装置によって測定することができる。
高熱膨張性フィラー粒子の平均粒径は特に限定されないが、通常0.1μm〜10μm(典型的には1μm〜5μm)程度であるとよい。これにより、ガラス接合材中に均質に分散させることができ、一層高気密で高品質な接合部を実現することができる。なお、本明細書において「平均粒径」とは、一般的な走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)観察に基づく算術平均の粒径(D50粒径)をいう。具体的には、先ず、少なくとも30個(例えば30個〜100個)の高熱膨張性フィラー粒子を観察する。次に、各々の粒子画像について外接する最小の長方形を描き、かかる長方形の短辺の長さ(例えば厚み)と長辺の長さの平均を求め、粒径とする。そして、所定個数の粒子の粒径を算術平均することにより、求めた値を平均粒径とする。
ガラス接合材全体に占める高熱膨張性フィラーの割合は特に限定されないが、通常5質量%〜30質量%(例えば5質量%〜15質量%)程度とするとよい。ここに開示される高熱膨張性フィラーは、アルカリレスでありながら非常に高い熱膨張係数を有する。このため、少ない添加量でガラス接合材の熱膨張係数を向上させることができる。これにより、10ppm/K以上(例えば10ppm/K〜20ppm/K、典型的には10ppm/K〜15ppm/K)程度の熱膨張係数を有するガラス接合材を好適に実現することができる。かかる性状のガラス接合材は、熱膨張係数の大きな被接合部材(例えば金属部材)を封止接合するために好ましく用いることができる。
<高熱膨張性フィラーの製造方法>
このようなアルカリレスの高熱膨張性フィラーは、従来と同様の手法(例えば固相反応法)を用いて製造することができる。好適な一態様では、以下の工程:
(S10:混合物の調製)A元素供給源とM元素供給源とシリカとを所定の比率で混合すること、ここで、上記混合物は実質的にアルカリ金属元素を含まない;および、
(S20:混合物の焼成)上記混合物を焼成すること;を包含する。
混合物の調製(S10)では、先ず、原料としてのA元素供給源とM元素供給源とシリカ(SiO)とを準備する。A元素供給源としては、A元素を含む塩または錯体を好ましく使用し得る。A元素を含む塩としては、A元素の硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、硫化物等を用いることができる。また、A元素を含む錯体としては、A元素含有のアンミン錯体、ヒドロキシ錯体、シアノ錯体、ハロゲノ錯体等を用いることができる。また、M元素供給源としては、M元素を含む塩を好ましく使用し得る。M元素を含む塩としては、M元素の硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、過塩素酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、硫化物等を用いることができる。好適な一態様では、水和物の形態のものを用いる。
次に、これらの原料を、A元素とM元素とSi元素との比が1:1:2となるように秤量、調合し、必要に応じて添加物等を加えて調製する。これを従来公知の撹拌・混合手段(例えばボールミル)によって均質に混合し、原料混合物を得る。
混合物の焼成(S20)では、得られた原料混合物を乾燥した後、溶融炉等で適切な温度(例えば1400℃〜1600℃)にまで加熱した後、冷却する。これによって、上記一般式(1)で表される化合物(高熱膨張性フィラー)を得ることができる。なお、焼成は1回であってもよく、例えば冷却(降温)を挟んで2回以上繰り返し行うこともできる。好適な一態様では、上記得られた組成物を粉砕や篩いがけ(分級)によって、カレット状またはパウダー状等の形態に調製する。これにより、一層高気密で高品質な接合部を実現することができる。
好適な他の一態様では、加熱後の焼成物を室温まで降温させた後、適当な粒径(典型的には1μm〜10μm)となるよう粉砕する。そして、この粉砕品を適切な温度(例えば1000℃〜1200℃)で再び加熱処理(結晶化処理)することにより、結晶体(結晶性フィラー)を好適に得ることができる。
<母材ガラス>
母材ガラス(アモルファスガラス)としては、アルカリレスのものの中から適宜選択して使用することができる。一好適例として、Si,Al,および少なくとも1種の第2族元素(Ba,Sr,Ca,Mg)を含み、かつ、実質的にアルカリ金属成分を含まないガラスが挙げられる。
ケイ素成分(典型的には、酸化ケイ素(SiO))は、ガラスの骨格を構成する成分である。母材ガラス全体に占めるケイ素成分の割合は、酸化物換算の質量比で、凡そ10質量%以上(例えば12質量%以上)であって、25質量%以下(例えば20質量%以下)であるとよい。これにより、母材ガラスの軟化点が高くなりすぎることを防止することができ、比較的低い温度で接合を行うことができる。さらに、当該ガラス接合材を用いてなる接合部の耐水性、耐薬品性、耐熱衝撃性のうちの少なくとも1つを向上させることができる。
アルミニウム成分(典型的には、酸化アルミニウム(Al))は、ガラス溶融時の流動性を制御し、付着安定性に関与する成分である。母材ガラス全体に占めるアルミニウム成分の割合は、酸化物換算の質量比で、凡そ3質量%以上(例えば5質量%以上)であって、20質量%以下(例えば15質量%以下)であるとよい。これにより、被接合部材を安定的に(均質に)接合することができる。また、当該ガラス接合材を用いてなる接合部の耐薬品性を向上させることができる。
第2族元素成分(典型的には、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バリウム(BaO))は、母材ガラスの熱的安定性を向上させるための成分である。また、熱膨張係数を調整する成分でもある。さらに、カルシウム成分(CaO)はガラスの硬度を高めて、接合部の耐摩耗性を向上させ得る成分でもある。また、マグネシウム成分(MgO)は、ガラス溶融時の粘度を調整する成分でもある。母材ガラス全体に占める第2族元素成分の割合は、酸化物換算の質量比で、凡そ45質量%以上(例えば50質量%以上)であって、80質量%以下(例えば75質量%以下)であるとよい。
また、Siおよび第2族元素を含むことで、上記高熱膨張性フィラーとの物理化学的性状の整合を高める効果もある。
なかでも、Ba,Ca,Mg,Si,Al,Ti,Zn,B,Sn,Zr,Sb,Bi,Te,Pb,Agから選択される少なくとも1種を構成元素とする酸化物からなるガラスの使用が好ましい。具体的には、例えば、RO−SiO−Al−TiO系ガラス(ここで、ROは第2族元素の酸化物を指す。以下同様。)、RO−SiO−Al−B系ガラス、RO−SiO−Al−Bi系ガラス、RO−SiO−Al−TiO−B系ガラス、RO−SiO−Al−ZnO−SnO系ガラス、RO−SiO−Al−PbO系ガラス、SnO−P−SiO−Al系ガラス、B−SiO−ZnO系ガラス、B−SiO−Bi系ガラス、Bi−B−ZnO系ガラス、PbO−SiO−B系ガラス等が挙げられる。ここで、上述したガラス成分は当該ガラス成分の主体を成す成分として特徴づけられる。例えば上記RO−SiO−Al−TiO系ガラスは、R,Si,Al,Tiの酸化物がガラスの主成分を構成していることを意味しており、その他の構成元素の存在を否定するものではない。
例えば、RO−SiO−Al−TiO系ガラスの場合、酸化物換算の質量比で、以下に示す成分の合計がガラス全体の90質量%以上(例えば95質量%以上)のものを好ましく用いることができる。
MgO、CaO、BaOのうちの少なくとも1種 60〜80質量%(例えば70〜75質量%)
SiO 10〜25質量%(例えば15〜20質量%)
Al 1〜15質量%(例えば5〜10質量%)
TiO 1〜5質量%(例えば1〜3質量%)
また、例えば、RO−SiO−Al−B系ガラスの場合、酸化物換算の質量比で、以下に示す成分の合計がガラス全体の90質量%以上(例えば95質量%以上)のものを好ましく用いることができる。
MgO、CaO、BaOのうちの少なくとも1種 45〜80質量%(例えば50〜75質量%)
SiO 10〜25質量%(例えば12〜20質量%)
Al 1〜15質量%(例えば5〜12質量%)
1〜15質量%(例えば5〜10質量%)
また、例えば、RO−SiO−Al−Bi系ガラスの場合、酸化物換算の質量比で、以下に示す成分の合計がガラス全体の90質量%以上(例えば95質量%以上)のものを好ましく用いることができる。
MgO、CaO、BaOのうちの少なくとも1種 45〜60質量%(例えば50〜55質量%)
SiO 10〜25質量%(例えば15〜20質量%)
Al 5〜20質量%(例えば10〜15質量%)
Bi 1〜20質量%(例えば5〜15質量%)
また、例えば、RO−SiO−Al−TiO−B系ガラスの場合、酸化物換算の質量比で、以下に示す成分の合計がガラス全体の90質量%以上(例えば95質量%以上)のものを好ましく用いることができる。
MgO、CaO、BaOのうちの少なくとも1種 40〜60質量%(例えば50〜55質量%)
SiO 10〜25質量%(例えば15〜20質量%)
Al 1〜20質量%(例えば5〜15質量%)
TiO 1〜5質量%(例えば1〜3質量%)
5〜20質量%(例えば10〜15質量%)
なお、母材ガラスは、それぞれ上記の主要構成成分のみから構成されていてもよく、あるいは上記以外の任意の成分を含むものであってもよい。そのような添加成分としては、酸化物の形態で、例えば、ZnO,ZrO,V,Nb,Sb,Te,PbO,AgO,FeO,Fe,Fe,CuO,CuO,SnO,SnO,P,La,CeO等が挙げられる。これら構成成分の合計割合は、酸化物換算の質量比で、母材ガラス全体の凡そ10質量%以下(例えば5質量%以下)とするとよい。
母材ガラスの好ましい一態様では、アルカリ成分に加えて、ホウ素(B)成分、砒素(As)成分、鉛(Pb)成分のうち1つ以上の成分をも実質的に含まない。例えば、ホウ素成分は、高温域(例えば700℃以上の温度域)で飛散が生じ易く、これによって熱膨張係数が変化したり、接合部の機械的強度が低下したりすることがあり得る。このため、かかる高温域での使用を考慮すべき場合には、長期耐久性(特には長期高温耐久性)を維持する観点から好ましくない。また、ヒ素成分や鉛成分は、人体や環境に対して悪影響となり得るため、環境性や作業性、安全性の観点から必要最小限の使用とすることが好ましい。かかる観点からは、上記RO−SiO−Al−TiO系ガラスや上記RO−SiO−Al−Bi系ガラスを好適に用いることができる。
ガラス接合材全体に占める母材ガラスの割合は特に限定されないが、通常70質量%〜95質量%(例えば85質量%〜95質量%)程度とするとよい。これにより、ガラス本来の特性(耐熱性、化学的安定性、耐久性等)を高いレベルで兼ね備える接合部を好適に実現することができる。
なお、ここに開示されるガラス接合材は、上記主要構成成分(母材ガラスと所定の高熱膨張性フィラー)に加えて、接合部の諸特性(例えば機械的強度や化学的耐久性)の向上を目的として各種の添加剤成分を含み得る。そのような成分の一例としては、上記一般式(1)で示される化合物以外の無機フィラー、着色剤(顔料、染料等)、安定化剤等が挙げられる。
ここに開示されるガラス接合材は、25℃から500℃の熱膨張係数が10ppm/K以上(典型的には10ppm/K以上であって上記高熱膨張性フィラーの熱膨張係数未満、例えば10ppm/K以上20ppm/K以下、より詳しくは10ppm/K以上15ppm/K以下)であり得る。かかるガラス接合材は、上記一般式(1)で表される高熱膨張性フィラーを含むことで、アルカリレスであっても高い熱膨張係数を具備する。
このような特徴を具備することから、かかるガラス接合材は、例えば熱膨張係数の大きな一の金属部材と一の他部材との接合(例えば、金属部材同士の接合や金属部材とセラミック部材との接合)に好適に用いることができる。あるいは、一のセラミック部材と一の他部材との接合(例えば、セラミック部材同士の接合やセラミック部材と金属部材との接合)に広く使用することができる。
≪接合体≫
ここに開示される技術によれば、被接合部材(接合対象)と接合部とを備える接合体が提供される。そして、上記接合部は、ここに開示されるガラス接合材によって構成されている。被接合部材としては、各種の金属材料、セラミック材料、ガラス材料、有機材料等からなる部材を考慮することができる。具体的な金属材料としては、鉄および鉄合金(ステンレス鋼(SUS))、アルミニウムおよびアルミニウム合金、銅および銅合金等の一般的な金属材料、コバールに代表される特殊金属材料、低熱膨張合金等が挙げられる。また、具体的なセラミック材料としては、アルミナ、ムライト、ステアタイト、フォルステライト、チタニア、イットリア、クロミア、ジルコニア、部分安定化ジルコニア等が挙げられる。
被接合部材の熱膨張係数は、上記ガラス接合材と同程度か、それよりも若干高いものであり得る。かかる部材の熱膨張係数は、おおよその目安として、25℃から500℃までの熱膨張係数が10ppm/K〜25ppm/K程度であり得る。
なかでも金属材料は、例えばステンレス鋼(SUS)が凡そ10ppm/K〜15ppm/K、銅が凡そ17ppm/K、アルミニウムが凡そ23ppm/Kと、総じて熱膨張係数が大きい。したがって、ここに開示されるガラス接合材がより効果を発揮する。すなわち、ここに開示されるガラス接合材を用いることで、熱膨張係数の高い金属部材と熱膨張係数の整合をとることができ、気密性に優れた接合部を実現することができる。
また、ここに開示される技術によれば、一の金属部材と一の他部材と両部材間を接合する接合部とを備える接合体が提供される。
図1は、自動車や各種装置に用いられる管状部品1の要部分解斜視図である。この実施態様において、管状部品1は、金属部材10とセラミック部材10Aとを備える。
金属部材10は、フェライト系のステンレス鋼(SUS430、熱膨張係数:11.5ppm/K)から構成されている。また、セラミック部材10Aは、純度99.8%以上のアルミナ焼結体(熱膨張係数:7.0ppm/K)から構成されている。そして、金属部材10とセラミック部材10Aとは、両部材の端部同士がいわゆる嵌め合い構造により嵌合されているとともに、ここに開示されるガラス接合材20によって気密に接合され、一体化されている。
金属部材10とセラミック部材10Aとの接合に際しては、例えば、ここに開示される接合材20をペースト状に調製して用いることで、簡便な接合を実現することができる。すなわち、先ず、ここに開示されるガラス接合材20を液状の分散媒体に十分に分散させて、ペースト状のガラス接合材20を調製する。次に、このペースト状のガラス接合材20を、金属部材10のオスコネクタ12の外周面に塗布した後、かかるオスコネクタ12にセラミック部材10Aのメスコネクタ14を嵌め合わせる。次に、この複合体を乾燥後、母材ガラスの軟化点以上の温度域(典型的には600℃以上、例えば1000℃〜1200℃)で焼成する。すると、ガラス接合材20から分散媒体が除去されるとともに、ガラス成分の硬化が進行し、接合部が形成される。これにより、ガラス接合材20からなる接合部を介して金属部材10とセラミック部材10Aとが接合され、管状部品1が構築される。かかる管状部品1は、両部材間が強固に(高気密に)接合され、なおかつ、優れた耐熱性や、化学的安定性、耐久性を具備するものであり得る。したがって、例えば室温〜高温のヒートサイクルを繰り返す用途であっても、長期に渡り安定的に使用することができる。
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
[無機フィラーの準備]
先ず、下表1に示す計5種類の無機フィラー(S1〜S5)を作製した。具体的には、表1に示す原料を合成結晶の欄に示す組成となるよう混合し、それぞれ1500℃で溶融した後、冷却した。これを粉砕して、平均粒径が凡そ1μm〜5μmの無機フィラー(S1〜S5)を作製した。また、比較例として従来公知の無機フィラー(S6〜S8)を準備した。
Figure 2015205801
[熱膨張係数の測定]
上記作製した無機フィラー(S1〜S5)および参考例の無機フィラー(S6〜S8)を、それぞれ7mm×7mm×50mmの角柱状にプレス成形し、1000℃で仮焼きした。仮焼き後の焼成物を、ダイヤモンドカッターでΦ5mm×10〜20mm程度の円柱状に切り出して、測定用の試験片とした。そして、熱機械分析装置(株式会社リガク製、TMA8310)を用いてこの試験片の線膨張係数を評価した。具体的には、室温(25℃)から500℃まで10℃/分の一定速度で昇温し、試験片と標準試料の熱膨張量の差から熱膨張係数を算出した。得られた線熱膨張係数を表1に示す。
表1に示すように、S7の酸化マグネシウムやS8のYSZでは、線熱膨張係数が9ppm/K〜14ppm/Kと相対的に低い値を示した。これに対して、S1〜S6のフィラー組成物は、線熱膨張係数が20ppm/K〜30ppm/Kと相対的に高い値を示した。なかでも、ここに開示される発明に係るS1〜S5のフィラー組成物は、アルカリ金属成分を含まずに高い熱膨張性(例えば線熱膨張係数が23ppm/K〜28ppm/K)を実現することができた。
[ガラス接合材の準備]
次に、アモルファスガラスとして、表2に示す組成のガラス原料粉末(G1〜10、平均粒径:1μm〜3μm)を準備した。
そして、上記ガラス原料粉末(G1〜10)と上記無機フィラー(S1〜S8)とを、表3に示す組み合わせで、質量比が90:10となるよう配合して混合した。かかる混合物を1500℃で溶融した後、冷却して焼成物を得た。得られた焼成物を粉砕して、平均粒径が凡そ1μm〜5μmのガラス接合材(例1〜例12)を作製した。
Figure 2015205801
[線熱膨張係数の測定]
上記作製したガラス接合材(例1〜例12)について、上記無機フィラーの場合と同様にして熱膨張係数を測定した。得られた線熱膨張係数を表3に示す。
表3に示すように、例11および例12のガラス接合材は、線熱膨張係数が7ppm/K〜9ppm/Kと相対的に低かった。
これに対して、例1〜例10のガラス接合材では、線熱膨張係数が10ppm/K〜12ppm/Kと相対的に高い値を示した。なかでもここに開示される発明に係る例1〜例9のガラス接合材では、アルカリ金属成分を含まずに(アルカリレスで)高い熱膨張性(線熱膨張係数が10ppm/K以上を実現することができた。
[ステンレス基板との接合性評価]
上記作製したガラス接合材(例1〜例12)を、それぞれΦ15mm×2.5mmの円盤状にプレス成形し、ペレット状のサンプルを作製した。これを、ステンレス(線熱膨張係数:10ppm/K〜15ppm/K)製の基板の上に載せ、大気中、1300℃で凡そ5分間焼成することで、ペレットと基板との接合を試みた。
その後、それぞれの積層体について、接合が実現されているか否か、接合が実現されている場合には気密な接合部となっているか否かを確認した。具体的には、先ず、ピンセットを用いてペレットが基板から剥がせるかどうかを確認し、機械的に接合されているか否かを評価した。接合が確認できた接合体については、さらに浸透探傷検査を行い、クラックの有無を確認した。
結果を、表3に示す。なお、表3において「○」は両者が機械的に接合され、かつ、クラックが確認されなかったことを、「×」は両者が機械的に接合されていなかった、または浸透探傷検査において接合部にクラックが認められたことを表している。
Figure 2015205801
表3に示すように、無機フィラーとして酸化マグネシウムを添加した例11およびYSZを添加した例12では、ステンレス基板との接合部にクラックが認められた。
これに対し、無機フィラーとして一般式:AMSi(AはMg,Ca,Sr,Baから選択される少なくとも1種の元素であり、MはFe,Ni,Coから選択される少なくとも1種の元素である。)を含むフィラー組成物を添加した例1〜例9、および、無機フィラーとしてリューサイト結晶を添加した例10では、接合部の気密性が高く、基板と良好な接合が実現されていた。
以上の結果から、ここに開示されるガラス接合材を用いることによって、アルカリ金属成分を含まずとも金属部材(ここではステンレス)と同程度の熱膨張係数を有し、被接合部材との接合性が良好な接合部を形成できるとわかった。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
1 管状部品
10 金属部材
10A セラミック部材
12 オスコネクタ
14 メスコネクタ
20 ガラス接合材

Claims (9)

  1. 母材ガラスと高熱膨張性フィラーとを含む、アルカリレスのガラス接合材であって、
    前記高熱膨張性フィラーが、以下の一般式(1):
    AMSi (1)
    (ここで、AはMg,Ca,SrおよびBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、MはFe,NiおよびCoからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。);
    で示されるアルカリレスの化合物である、ガラス接合材。
  2. 前記高熱膨張性フィラーの25℃から500℃の熱膨張係数が20ppm/K以上30ppm/K以下である、請求項1にガラス接合材。
  3. 前記高熱膨張性フィラーが、前記ガラス接合材全体の5体積%以上30体積%以下を占める、請求項1または2に記載のガラス接合材。
  4. 25℃から500℃の熱膨張係数が10ppm/K以上である、請求項1から3のいずれか1項に記載のガラス接合材。
  5. 前記母材ガラスが、Ba,Ca,Mg,Si,Al,Ti,Zn,B,Sn,Zr,Sb,Bi,Te,PbおよびAgからなる群から選択される1種または2種以上を構成元素とする酸化物からなる、請求項1から4のいずれか1項に記載のガラス接合材。
  6. 前記高熱膨張性フィラーが前記母材ガラス中に結晶体として析出している、請求項1から5のいずれか1項に記載のガラス接合材。
  7. 前記ガラス接合材が、一の金属部材と一の他部材とを封止接合するためのガラス接合材である、請求項1から6のいずれか1項に記載のガラス接合材。
  8. 一の金属部材と、一の他部材と、両部材間を接合する接合部と、を備え、
    前記接合部が、請求項1〜7のいずれか1項に記載のガラス接合材により構成される、接合体。
  9. 前記一の金属部材は、25℃から500℃の熱膨張係数が10ppm/K以上25ppm/K以下の金属材料によって構成されている、請求項8に記載の接合体。
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