以下に、本発明の実施の形態にかかるコイル製造装置および回転電機を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
図1は、回転電機の固定子の構成図である。図1では、毎極毎相のスロット数=2(4極24スロット)の例を示しており、同相のコイルが2スロットごとに組み込まれている。回転電機の固定子60は、固定子鉄心61と固定子巻線62を備える。固定子巻線62は、絶縁紙などで周囲が保護されて、スロット63に挿入されている。固定子巻線62は、導体線の束として予め形成されたコイルが、スロット内部に1もしくは複数配置され、コイルの端末が溶接などの方法で接続されることによって形成されている。以下の実施の形態1〜3では、このような固定子巻線62に用いられる多角形コイルの製造装置について、詳述する。
なお、固定子60の内部には、永久磁石型ロータ(図示せず)や銅などでできたかご型ロータ(図示せず)などが組みつけられ、永久磁石型回転電機や誘導型回転電機として動作する。
実施の形態1.
図2は、固定子鉄心に組み込まれるコイル(多角形コイル)の一例を示す図である。図3は、図2に示すA−A’断面図である。図4は、図2に示すB−B’断面図である。コイル101は、導体線100が複数回巻回された束として成形されている。図2に示すコイル101は、導体線100が6回巻かれた六角形形状のものである。コイル101は、スロット63の内部に組み込まれる部分(A−A’断面)も、スロット63の外部に突出する部分(コイルエンド部)(B−B’断面)も、6本の導体線100がコイル101の径方向(横方向)に1列に並んでいる。
図5は、巻枠の概略構成を示す斜視図である。巻枠200は、図2に示すコイル101を成形する製造装置に用いられる。巻枠200は、互いに対向する第1押さえプレート1aと第2押さえプレート1bとの間に複数枚(図5では6枚)の階段型プレート(角部成形プレート)2を挟み込んだ構成となっている。また、押さえプレート1a,1bの間には、複数本のスペーサ3が入っている。これらをねじ4で止めることで、巻枠200全体を固定している。コイル101を成形するときは、導体線100を階段型プレート2に引っかけながら巻き付けて角部を成形する。6枚の階段型プレート2が設けられた巻枠200では、六角形のコイル101を成形することができる。
図6は、押さえプレート1a,1bの詳細図である。押さえプレート1a,1bには、階段型プレート2を取り付けるための複数の長穴11が設けられている。また、押さえプレート1a,1bとスペーサ3とを接続するためのねじ止め用穴12や、実際に巻線作業をするときに巻枠200全体を回転させる目的の中心穴13が形成されている。
図7は、階段型プレート2の詳細図である。階段型プレート2は、はめ込み部分21と階段部分22から構成されている。はめ込み部分21は、前述した押さえプレート1の長穴11に差しこまれる部分である。階段部分22は、第1押さえプレート1a側から第2押さえプレート1b側に向かうにしたがって、中心穴13に近づく(コイル101の中心側に近づく)階段形状を呈している。コイル101を成形するときは、導体線100を階段部分22に1段ずつ引っかけながら作業を進めていく。図7に示す階段型プレート2の階段部分22は、6段となっているので、6ターンのコイル101を成形することができる。
図8は、巻枠に導体線を巻きつけて、コイルを成形する手順を示す図である。図9は、階段部分22に導体線100を引っかけている様子を拡大した図である。階段型プレート2の階段部分22のうち、最も第1押さえプレート1a側となる段、または最も第2押さえプレート1b側となる段から導体線100を巻きつけていく。導体線100を1周巻回するごとに1段ずらして階段部分22に引っかけていく作業を繰り返す。このとき、中心穴13に回転軸15を通し、巻枠200全体を回転させることで、巻線作業の作業効率が向上する。
階段部分22のすべての段に導体線100を巻きつけたあとに、巻枠200から導体線100を取り外すために、ねじ4を外して巻枠200を分解する。巻枠200を分解することで、階段型プレート2を中心穴13方向に移動させて、導体線100から離間させて導体線100を取り出すことができる。したがって、巻枠200に巻き付けられた導体線100を取り出す際に、導体線100に傷がつきにくくなる。その後、取り出した導体線100を平面上に置き、整列させると、図2に示す六角形形状のコイル101を得ることができる。
また、別の事例としてのコイルを図10に示す。図10は、固定子鉄心に組み込まれるコイル102の一例を示す図である。図11は、図10に示すA−A’断面図である。図12は、図10に示すB−B’断面図である。コイル101は、導体線100が複数回巻回された束として成形されている。図10に示すコイル102は、導体線100が複数回巻回された束として成形されている。コイル102は、導体線100が6回巻かれた六角形形状が2段積みになっている。スロット内部に組み込まれる部分(A−A’断面)も、コイルエンド部分(B−B’断面)も、導体線100は横方向に6本×コイル102の径方向および周方向に垂直な方向(縦方向)に2段に並んでいる。
図13は、巻枠201の概略構成を示す斜視図である。巻枠201は、図10に示すコイル102を成形する製造装置に用いられる。巻枠201は、押さえプレート1a,1bが複数枚(図13では6枚)の階段型プレート5を挟み込んだ構成となっている。それ以外の部分は、図5と同様であるため、詳細な説明を省略する。
図14は、巻枠201を構成している階段型プレート5の詳細図である。階段型プレート5は、はめ込み部分51と階段部分52,53を有する。はめ込み部分51は、前述した押さえプレート1a,1bの長穴11に差し込まれる部分である。階段部分52は、第1押さえプレート1a側から第2押さえプレート1b側に向かうにしたがって、中心穴13に近づく(コイル102の中心側に近づく)階段形状を呈している。階段部分53は、第1押さえプレート1a側から第2押さえプレート1b側に向かうにしたがって、中心穴13から離れる(コイル102の外周側に近づく)階段形状を呈している。コイル102を成形するときは、導体線100を階段部分52,53に引っかけながら作業を進めていく。階段型プレート5の階段部分52,53は全部で12段あるので、12ターンのコイルを成形することができる。
図15は、巻枠201に導体線100を巻きつけて、コイル102を成形する手順を示す図である。階段型プレート5の階段部分52,53のうち、最も第1押さえプレート1a側となる段、または最も第2押さえプレート1b側となる段から導体線100を巻きつけていく。導体線100を1周巻回するごとに1段ずらして階段部分52,53に引っかけていく作業を繰り返す。このとき、中心穴13に回転軸15を通し、巻枠201全体を回転させることで、巻線作業の作業効率が向上する。すべての段に導体線100を巻きつけたあとは、ねじを外して巻枠201を分解し、導体線100を取り出す。取り出した導体線100を平面上に置き、整列させることで、図10の形状のコイル102を得ることができる。この階段型プレート5は、6段ずつ上下対称になっているので、取り出した導体線100において、前半6ターンと後半6ターンとで導体線100がきれいに重なる。この導体線100を整列させることで、導体線100が横方向に6本×縦方向に2段に並んだコイル102を得ることが可能になる。
このような巻枠200,201を用いると、例えばコイル101,102の寸法を変えたいときは、押さえプレート1a,1bの長穴11の位置を変えるだけで、辺の長さや角度を自由に変えたコイルを作ることが可能になる。また、長穴11の数を増やして、取り付ける階段型プレート2,5の枚数を増やせば、六角形だけでなく任意の多角形コイルを作成することができる。また、階段型プレート2,5の段数を増やすことで、コイルのターン数を増やすことが可能である。階段型プレート5のように、階段の形状をコイルの径方向に対して往復させることで、コイルの段数も自由に増やすことが可能になる。
ここで、導体線100に折り目を付け、正確な形状のコイルを得るための階段型プレートの寸法について説明しておく。図16は、コイル101の1つの折り目部分を示す図である。図17は、図16に示すA−A’断面図である。図18は、図16に示すB−B’断面図である。図19は、図16の折り目を形成するために使われる階段型プレート2の拡大図である。図20は、図19に示すA−A’断面図である。図21は、図19に示すB−B’断面図である。
図16に示すコイル101は、A−A’断面においても、B−B’断面においても、6本の導体線が横1列に並んだ状態を保っている。コイル101を構成する導体線100を、内側から順に導体線100a,100b,100c,100d,100e,100fとした場合、それぞれの導体線100a〜100fを折り曲げる位置は、折り曲げ位置25a,25b,25c,25d,25e,25fとなる。なお、導体線100a〜100fの線径をΦ、コイルの折れ曲がりの角度(多角形コイルの内側の角度)をθ[°]とする。
図19において、階段型プレート2の厚さをt、階段部分の1段の高さをh、階段部分の1段の幅をwとする。なお図16は、図19に示す階段型プレート2を上方向(図中C)から見た図としている。実際の導体線100a〜100fは、線径Φの幅を持っているが、図19においては、折り曲げる位置を明確に説明するために、導体線100a〜100fの内側だけをそれぞれ導体線100a’〜100f’として記載している。
まず、厚さtに関しては、任意の厚さで良い。ただし、階段型プレート2に導体線100を引っかけて折り目を付けるので、厚すぎると曲げ部分のエッジが付けにくくなり、正確な寸法のコイルが作りにくくなる。階段型プレート2の強度を保つ範囲内で、できるだけ薄いほうが好ましい。
次に、高さhに関しては、導体線100を引っかけるという観点から、少なくとも線径Φの半分以上は必要と考える。しかし、高さhが大きすぎると、成形した時のコイルが高さ方向に大きくなり、コイルを巻き終わった後、平面上に整列させたとき、寸法誤差が大きくなってしまう。したがって、高さhは、線径Φと同程度にしておくことが好ましい。
最後に、幅wであるが、導体線100a〜100fのそれぞれの折り曲げ位置25a〜25fに対応させるため、正確な寸法が必要になる。つまり、幅wの大きさは、折り曲げ位置25a〜25fの間隔に一致するよう、数式(1)のように与えられる。
w=Φ/cos((180−θ)/2) (1)
成形する多角形コイルのそれぞれの角度が異なっている場合でも、階段型プレート2の寸法を、数式(1)に基づいてそれぞれ製作し、それらを組み合わせた巻枠にすればよい。つまり、図5や図13では、同一の階段型プレート2,5を用いた説明としているが、おのおのの階段型プレート2,5の寸法を変えることで、正六角形ではない六角形形状のコイルも成形可能である。
以上、実施の形態1について説明したが、巻枠200,201を細かくばらせることにより、折り目を付けた導体線100を傷つけることなく取り出すことができ、任意の形状のコイルを成形することができる。また、階段型プレート2,5の取り付け位置や階段型プレート2,5の形状・寸法を変えるだけで、辺の長さや角度を自由に変えることが可能である。また、階段型プレート2,5の数を変えることで、多角形コイルの頂点の数を任意に変更することが可能である。
実施の形態2.
実施の形態1では、任意の形状の多角形コイルを作成するための巻枠について説明した。実施の形態2では、導体線をスロット内部とコイルエンド部とで配列変更することで、コイルエンドの高さを低く抑えることのできる巻枠について説明する。
分布巻の回転電機において、コイルエンド部の高さを低くする目的で、導体線をスロット内部とコイルエンド部とで配列変更し(配列変更部)、導体線をコイルエンド部で固定子鉄心の径方向に配置変換する(通過領域変更部)場合がある。コイルエンド部において固定子巻線が他の相の固定子巻線と干渉しにくくなり、コイルエンドの高さを低くできる。
図22は、導体線70をスロット内部とコイルエンド部とで配列変更しているコイル71の構成図である。コイル71は、近接する同相にコイルを挿入する重ね巻きとして、固定子鉄心のスロットに挿入される。コイル71は導体線70の束として形成されるが、図22ではスロット内部で2段(固定子鉄心61の径方向)×8本(固定子鉄心61の周方向)の導体線から構成されている。なお、径方向の数および周方向の数は、任意で決定すればよい。
コイル71は、スロット内部から先のコイルエンド部で、巻線配列の変更を行っている(配列変更部72a)。これによりスロット内部で2段(固定子鉄心61の径方向)×8本分(固定子鉄心61の周方向)であった導体線70の束は、コイルエンド部で1段(固定子鉄心の径方向)×16本(固定子鉄心の周方向)に整列される。
また、このときに、所定の角度(図22では120°)で折り曲げられている。このようにコイルエンド部において、コイルを平たくすることによって、他の相の固定子巻線と干渉しないようにできる。またコイルエンド部の頂点部分73でも、コイルは所定の角度(図22では120°)で折り曲げられている。
その後、再びコイルエンド部からスロット内部に戻るときに、巻線配列の変更が行なわれている(配列変更部72b)。これによりコイルエンド部で1段(固定子鉄心61の径方向)×16本(固定子鉄心61の周方向)であった導体線70の束は、スロット内部で2段(固定子鉄心61の径方向)×8本(固定子鉄心61の周方向)に整列される。
また、このときにも、所定の角度(図22では120°)で折り曲げられている。以上のようにすることで、コイルエンド部のコイル形状は略三角形状になっている。また、説明は省略するが、コイル71の下半分も同じように構成されているので、全体として略六角形状となっている。
このようなコイル71が複数個、図1における固定子鉄心61のスロット63に挿入され、回転電機が構成されている。導体線70をスロット内部とコイルエンド部とで配列変更することで、コイルエンド部の高さを低く抑えることが可能である。
図23は、配列変更しているコイルの1つの折り曲げ部分の一例を示す図である。図24は、図23に示すA−A’断面図である。図25は、図23に示すB−B’断面図である。図23は、成形したコイル70を真上から見た図である。A−A’断面では、3本の導体線が縦に積まれている。この部分はスロット内部に格納される。B−B’断面では、配列変更されたことにより、3本の導体線が横に並んでいる。この部分はコイルエンド部に位置する部分である。
コイルの最内周を通る導体線110aは、折り曲げ位置31aで折り曲げられ、同様に導体線110bは折り曲げ位置31b、導体線110cは折り曲げ位置31cの位置で折り曲げられている。導体線110a〜110cの線径をΦ、コイルの折れ曲がりの角度(多角形コイルの内側の角度)をθ1[°]とする。
図26は、図23で示した折り目を形成するために使われる階段型プレート41の拡大図である。図27は、図26に示すA−A’断面図である。図28は、図26に示すB−B’断面図である。図23に示す配列変更をしたコイルは、図26に示す階段型プレート41を使用することで作成できる。階段型プレート41の厚さをt1、階段部分の1段の高さをh1、階段部分の1段の幅をw1とする。なお、図23は、図26の階段型プレート41を上方向(図中C)から見た図としている。導体線110a〜110cは、線径Φの幅を持っているが、図26においては、折り曲げる位置を明確に説明するために、導体線110a〜110cの内側だけをそれぞれ導体線110a’〜110c’として記載している。
まず、厚さt1に関しては、任意の厚さで良い。ただし、階段型プレート41に導体線を引っかけて折り目を付けるので、厚すぎると曲げ部分のエッジが付けにくくなり、正確な寸法のコイルが作りにくくなる。階段型プレート41の強度を保つ範囲内で、できるだけ薄いほうが好ましい。
次に、高さh1に関しては、導体線を引っかけるという観点から、少なくとも線径Φの半分以上は必要と考える。しかし高さhを大きくしすぎると、成形した時のコイルが高さ方向に大きくなり、コイルを巻き終わった後、平面上に整列させたとき、寸法誤差が大きくなってしまう。したがって、高さhは、線径Φと同程度にしておくことが好ましい。
最後に、幅w1であるが、導体線110a〜110cのそれぞれの折り曲げ位置31a〜31cに対応させるため、正確な寸法が必要になる。つまり、幅w1の大きさは、折り曲げ位置31a〜31cの間隔に一致するように数式(2)で与えられる。
w1=Φ/cos(θ1−90) (2)
このように配列変更しているコイルにおいても、巻枠に導体線を巻きつけていき、1周巻回するごとに1段下の階段部分に引っかけていく作業を繰り返す。最下段まで導体線を巻きつけたあとは、ねじを外して巻枠を分解し、取り出した導体線を平面上に置き、整列させることで、図23に示す折り曲げ部分を持ったコイルを得ることができる。
図29は、階段型プレート41を用いた巻枠の概略構成を示す斜視図である。図23に示すように、階段型プレート41の手前で導体線110a〜110cの延びる方向と階段型プレート41のプレート面とを平行にしている。そのため、配列の変更が行われる折り曲げ部分を形成する階段型プレート41同士は、図29に示すように、プレート面同士が平行となるように、巻枠200に固定される。
図30は、配列変更しているコイルの1つの折り曲げ部分を示した別の一例である。図31は、図30に示すA−A’断面図である。図32は、図30に示すB−B’断面図である。図30は、成形したコイルを真上から見た図である。A−A’断面は、2本の導体線が横に並んでいるものが、縦に3段積まれている状態である。この部分は、スロット内部に格納される。B−B’断面は、配列変更されたことにより、3本の導体線が横に並んでいるものが、縦に2段分積まれている状態である。この部分は、コイルエンド部に位置する部分である。
コイルの最内周を通る導体線120aは、折り曲げ位置32aで折り曲げられ、同様に導体線120bは折り曲げ位置32bで折り曲げられ、導体線120cは折り曲げ位置32cで折り曲げられ、導体線120dは折り曲げ位置32dで折り曲げられ、導体線120eは折り曲げ位置32eで折り曲げられ、導体線120fは折り曲げ位置32fの位置で折り曲げられている。導体線120a〜120fの線径をΦ、コイルの折れ曲がりの角度(多角形コイルの内側の角度)をθ2[°]とする。
図33は、折り曲げ部分を形成するために使われる階段型プレートの拡大図である。図34は、図33に示すA−A’断面図である。図35は、図33に示すB−B’断面図である。図30に示す配列変更をしたコイルは、図33に示すように、コイルの径方向の外側に向けて突出する突部43が形成された階段型プレート42を組み合わせて使うことで作成できる。階段型プレート42の厚さをt21、突部43の厚さをt22、階段部分の1段の高さ(突部43同士の高さ方向のずれ)をh21、階段形状部分と突部43との高さ方向のずれをh22、階段部分の1段の幅(コイルの周方向への突部45同士のずれ)をw21、階段形状部分のうち導体線を折り曲げる部分と、突部43のうち導体線を折り曲げる部分とのコイルの周方向へのずれをw22とする。
なお、図30は、図33の階段型プレート42を上方向(図中C)から見た図としている。導体線120a〜120fは、線径Φの幅を持っているが、図33においては、折り曲げる位置を明確に説明するために、導体線120a〜120fの内側だけをそれぞれ120a’〜120f’として記載している。
厚さt21に関しては、これまでの説明と同様で、階段型プレート42,43の強度を保つ範囲内で、できるだけ薄いことが好ましい。このケースの配列変更するコイルでは、突部43の形成されていない階段型プレート42だけでは、導体線に折り目が付けられる部分が限られてしまう。階段型プレート42に突部43を形成することにより、導体線に折り目が付けられる部分を増やしている。折り目を正確につけるため、厚さt22は数式(3)で与えられる。
t22=Φ (3)
次に、階段部分の高さh21は、これまでの説明と同様で、導体線を引っかけるという観点から、線径Φと同程度にしておくことが好ましい。高さh21は、線径Φの2倍程度にしておくのが良い。また、ずれh22は、線径Φと同程度にしておくことが好ましい。
最後に、幅w21であるが、階段型プレート42で付けられる折り曲げ位置32a,32c,32eの間隔、並びに突部43で付けられる折り曲げ位置32b,32d,32fの間隔と同じ寸法にしておく必要がある。したがって、数式(4)で与えられる。
w21=Φ/cos(θ2−90) (4)
また、ずれw22は、数式(5)で与えられる。
w22=Φ/tan(θ2−90) (5)
このような配列変更しているコイルにおいても、巻枠に導体線を巻きつけていき、1周巻回するごとに1段下の階段部分に引っかけていく作業を繰り返す。階段型プレート42に突部43を形成することで、折り目の位置を1巻回ごとに容易にずらすことが可能である。最下段まで導体線を巻きつけたあとは、ねじを外して巻枠を分解し、取り出した導体線を平面上に置き、整列させることで、図30に示す折り曲げ部分を持ったコイルを得ることができる。
さらに、図36は、配列変更しているコイルの1つの折り曲げ部分を示した別の一例である。図37は、図36に示すA−A’断面図である。図38は、図36に示すB−B’断面図である。図36は、成形したコイルを真上から見た図である。A−A’断面では、2本の導体線が横に並んでいるものが、縦に3段積まれている。この部分は、スロット内部に格納される。B−B’断面では、配列変更されたことにより、6本の導体線が横に並んでいる。この部分は、コイルエンド部に位置する部分である。
コイルの最内周を通る導体線130aは、折り曲げ位置33aで折り曲げられる。同様に、導体線130bは折り曲げ位置33bで折り曲げられ、導体線130cは折り曲げ位置33cで折り曲げられ、導体線130dは折り曲げ位置33dで折り曲げられ、導体線130eは折り曲げ位置33eで折り曲げられ、導体線130fは折り曲げ位置33fで折り曲げられている。導体線130a〜130fの線径をΦ、コイルの折れ曲がりの角度(多角形コイルの内側の角度)をθ3[°]とする。
図39は、折り曲げ部分を形成するために使われる階段型プレート44の拡大図である。図40は、図39に示すA−A’断面図である。図41は、図39に示すB−B’断面図である。図36に示す配列変更をしたコイルは、突部45を形成した階段型プレート44を使うことで作成できる。階段型プレート44の厚さをt31、突部45の厚さをt32、階段部分の1段の高さ(突部45同士の高さ方向のずれ)をh31、階段型プレート44と突部45の高さ方向のずれをh32、階段部分の1段の幅(コイルの周方向への突部45同士のずれ)をw31、折り曲げる部分と、突部45のうち導体線を折り曲げる部分とのコイルの周方向へのずれをw32とする。
なお、図36は、図39の階段型プレート44を上方向(図中C)から見た図としている。導体線130a〜130fは、線径Φの幅を持っているが、図39においては、折り曲げる位置を明確に説明するために、導体線130a〜130fの内側だけをそれぞれ130a’〜130f’として記載している。
厚さt31に関しては、これまでの説明と同様で、階段型プレート44,45の強度を保つ範囲内で、できるだけ薄いことが好ましい。このケースの配列変更するコイルでは、1枚の階段型プレート44だけでは、折り目が付けられる部分が折り曲げ位置33a,33c,33eに限られてしまう。そこで、突部45を形成することで、折り曲げ位置33b,33d,33fを増やしている。折り目を正確につけるため、厚さt32は数式(6)で与えられる。
t32=Φ (6)
次に、高さh31は、これまでの説明と同様で、導体線を引っかけるという観点から、線径Φと同程度にしておくことが好ましい。高さh31は、線径Φの2倍程度にしておくのが良い。ずれh32は、線径Φと同程度にしておくことが好ましい。
最後に、幅w31であるが、階段型プレート44の階段形状部分で付けられる折り曲げ位置33a、33c、33eの間隔、並びに突部45で付けられる折り曲げ位置33b、33d、33fの間隔と同じ寸法にしておく必要がある。したがって、幅wは数式(7)で与えられる。
w31=2×Φ/cos(θ3−90) (7)
また、ずれw32は、数式(8)で与えられる。
w32=Φ/tan((180−θ)/2) (8)
このような配列変更しているコイルにおいても、巻枠に導体線を巻きつけていき、1周巻回するごとに1段下の階段部分に引っかけていく作業を繰り返す。階段型プレート44に突部45を形成することで、折り目の位置を1巻回ごとに容易にずらすことが可能である。最下段まで導体線を巻きつけたあとは、ねじを外して巻枠を分解し、取り出した導体線を平面上に置き、整列させることで、図36に示す折り目部分を持ったコイルを得ることができる。
導体線をスロット内部とコイルエンド部とで配列変更するようなコイルに関して、3つのケースにおける最適な巻枠形状について説明してきた。配列変更については、スロット内部でm段(mは2以上)に縦方向に積まれた導体線をコイルエンド部でn段(nは1以上)に縦方向に積まれるように変更する場合、n/m≦1/2の範囲であれば良い。階段型プレートに形成される突部の数を変更したり、階段部分の段数やずらす位置を変更することで様々な段数の変更に対応することが可能である。
以上、実施の形態2について説明したが、1箇所の折り目部分に対して、階段型プレートに突部が形成された巻枠を備えるコイル製造装置を用いることで、導体線をスロット内部とコイルエンド部とで配列変更するようなコイルを容易に作成することができるという効果が得られる。
実施の形態3.
実施の形態2において、導体線をスロット内部とコイルエンド部とで配列変更することで、コイルエンドの高さを低く抑えることのできるコイルを作成するための巻枠形状について説明した。実施の形態3では、さらにコイルエンドの高さを下げるために、コイルエンド部の三角形状の頂点を導体線の1巻回ごとに横にずらしたコイルを説明する。また、コイルエンド部の三角形状の頂点を導体線の1巻回ごとに横にずらしたコイルを作成するための巻枠形状について説明する。
図42は、導体線をスロット内部とコイルエンド部とで配列変更し、さらにコイルエンド部の頂点を導体線の1巻回ごとに横にずらしたコイルの構成図である。コイル81は、近接する同相にコイルを挿入する重ね巻きとして、固定子鉄心61のスロット63に挿入される。コイル81は導体線80の束として形成されるが、図42ではスロット内部で2段(固定子鉄心の径方向)×8本(固定子鉄心の周方向)の導体線から構成されている。実際には、段方向の数および周方向の数は、任意で決定すればよい。
コイル81は、スロット内部から先のコイルエンド部で、巻線配列の変更を行っている(配列変更部82a)。これによりスロット内部で2段(固定子鉄心の径方向)×8本分(固定子鉄心の周方向)であった導体線の束は、コイルエンド部で1段(固定子鉄心の径方向)×16本分(固定子鉄心の周方向)に整列される。またこのときに、所定の角度(図42では120°)で折り曲げられている。このようにコイルエンド部において、コイルを平たくすることによって、他の相の固定子巻線と干渉しないようにできる。またコイルエンド部の頂点部分83でも、コイルは所定の角度(図42では120°)で折り曲げられている。
なおコイルエンド部の頂点部分83は、固定子鉄心61の周方向に対し決められた距離でずらして配置されており、配列変更部82a側で一番下にあった導体線が配列変更部82b側で一番上にくるようになっている。このようにすることで、頂点の位置が周方向に揃っている図22のコイルと比較して、さらにコイルエンド部の高さを低く抑えることができる。
その後、再びコイルエンド部からスロット内部に戻るときに、巻線配列の変更が行なわれている(配列変更部82b)。これによりコイルエンド部で1段(固定子鉄心の径方向)×16本分(固定子鉄心の周方向)であった導体線の束は、スロット内部で2段(固定子鉄心の径方向)×8本分(固定子鉄心の周方向)に整列される。またこのときにも、所定の角度(図42では120°)で折り曲げられている。以上のようにすることで、コイルエンド部のコイル形状は略三角形状になっている。また、説明は省略するが、コイル81の下半分も同じように構成されているので、全体として略六角形状となっている。
このようなコイル81が複数個、図1における固定子鉄心61のスロット63に挿入され、回転電機が構成されている。導体線をスロット内部とコイルエンド部とで配列変更し、コイルエンド部の三角形状の頂点を導体線の1巻回ごとに横にずらしていることで、さらにコイルエンド部の高さを低く抑えることが可能である。
図43は、図42に示すコイルを成形するための巻枠構成を示す図である。巻枠203は、両端の押さえプレート1a,1bが複数枚(図43では4枚)の階段型プレート2と、2枚の斜め型プレート(角部成形プレート)6を挟み込んだ構成となっている。なお、斜め型プレート6を挟んで両側に設けられる階段型プレート2同士では、階段の傾斜方向が逆になっている。これにより、配列変更部82a側で一番下を通過する導体線を配列変更部82b側で一番上を通過させることができる。すなわち、階段型プレート2の傾斜方向を逆にすることで、斜め型プレート6での折り曲げの前後での導体線の配列の変更に対応することができる。
また、この図では、スペーサ3やねじ4を省略しているが、図5と同じように押さえプレート1a,1bの間に複数本のスペーサ3を入れ、これらをねじ4で止めることで、装置全体を固定している。コイル81を成形するときは、導体線を階段型プレート2に引っかけ、またコイルエンド部の頂点は、斜め型プレート6で折り目を付けながら作業を進めていく。この作業によって、図43の巻枠203では六角形のコイル81を成形することができる。
図44および図45は、巻枠203を構成している斜め型プレート6,6‘の詳細図である。斜め型プレート6は、はめ込み部分91と巻線を折り曲げる折り曲げ部分92とから構成されている。はめ込み部分91は、押さえプレート1a,1bの長穴11に差しこまれる部分である。コイル81の頂点部分83を成形するときは、導体線を折り曲げ部分92に引っかけながら作業を進めていく。なお、図44のように折り曲げ部分92が平面状でも問題ないが、より精度良いコイルを成形ために、図45の斜め型プレート6’のように折り曲げ部分92’に導体線を引っかけるための溝を設けてもよい。図45の溝は6本あるので、6ターンのコイルを成形することができる。
図46は、巻枠に導体線を巻きつけて、コイルを成形する手順を示す図である。斜め型プレート6から導体線100を巻きつけていき、1周巻回するごとに階段型プレート2の1段下に引っかけていく作業を繰り返す。このとき、中心穴13に回転軸(図示せず)を通し、巻枠203全体を回転させることで、巻線作業の作業効率の向上を図ることができる。
階段部分の最下段まで導体線100を巻きつけたあとは、巻枠203から導体線100を取り外すために、ねじを外して巻枠203を分解する。巻枠203を細かくばらせることにより、折り目を付けた導体線100を取り外す際に、導体線100に傷をつけにくくすることができる。取り出した導体線100を平面上に置き、整列させると、図42の形状のコイルを得ることができる。
ここで、導体線100に折り目を付け正確な形状のコイル81を得るための斜め型プレート6の寸法について説明しておく。図47は、コイルエンドの頂点部分を示した図であり、成形したコイルを真上から見た状態を示す図である。
図47の左側においてコイルの最内周を通る導体線140aは、折り曲げ位置93aで折り曲げられ、図47の右側においてはコイルの最外周を通る。同様に、導体線140bは折り曲げ位置93bで折り曲げられ、導体線140cは折り曲げ位置93cで折り曲げられている。導体線140a〜140cの線径をΦ、図47において左右部分のコイル折れ曲がりの角度(多角形コイルの内側の角度)をθ4[°]とする。
頂点部分に折り目を付ける斜め型プレート6の厚さ(図44におけるt4)は、任意の厚さで良い。ただし、斜め型プレート6に導体線100を引っかけて折り目を付けるので、厚すぎると曲げ部分のエッジが付けにくくなり、正確な寸法のコイルが作りにくくなる。斜め型プレート6の強度を保つ範囲内で、できるだけ薄いほうが好ましい。
斜め型プレート6に、図45で示したような導体線100を引っかけるための溝を設ける場合、その溝の間隔Xは数式(9)で与えられる。
X=Φ/−cosθ4 (9)
以上、実施の形態3について説明したが、コイルエンド部の頂点部分を成形するために、斜め型プレート6を用いた巻枠203を備えるコイル製造装置によってコイル81を作成することで、コイルエンド部の三角形状の頂点が導体線の1巻回ごとに横にずれ、コイルエンド部の高さをさらに低く抑えることが可能になる。
なお、実施の形態3は、実施の形態2で示した導体線をスロット内部とコイルエンド部とで配列変更するコイルに対して説明を行ってきたが、本技術は実施の形態1で示した導体線をスロット内部とコイルエンド部とで配列変更しないコイルに対しても適用することが可能である。
以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。