JP2015202980A - 立方晶窒化ホウ素複合焼結体およびその製造方法、ならびに切削工具、耐摩工具および研削工具 - Google Patents

立方晶窒化ホウ素複合焼結体およびその製造方法、ならびに切削工具、耐摩工具および研削工具 Download PDF

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Abstract

【課題】耐摩耗性および耐欠損性に優れた立方晶窒化ホウ素複合焼結体、ならびに切削工具、耐摩工具および研削工具を提供する。【解決手段】立方晶窒化ホウ素複合焼結体は、立方晶窒化ホウ素多結晶体10と、セラミックス相2とを含み、立方晶窒化ホウ素多結晶体10を80〜98体積%の範囲で含有し、立方晶窒化ホウ素多結晶体10は、平均結晶粒径が500nm以下である立方晶窒化ホウ素単結晶1と、ウルツ鉱型窒化ホウ素とを含み、立方晶窒化ホウ素多結晶体10は、ウルツ鉱型窒化ホウ素を0.01体積%以上含有する。【選択図】図1

Description

本発明は、立方晶窒化ホウ素複合焼結体およびその製造方法、ならびに該立方晶窒化ホウ素複合焼結体を備える切削工具、耐摩工具および研削工具に関する。
立方晶窒化ホウ素(cubic Boron Nitride:cBN)焼結体は、非常に高い硬度を有するとともに、熱的安定性、化学的安定性にも優れることから、切削工具や耐摩工具に利用されている。
こうしたcBN焼結体の原料には、cBN単結晶またはcBN多結晶体等が用いられている〔たとえば、特開昭47−34099号公報(特許文献1)、特開平3−159964号公報(特許文献2)、特公昭63−394号公報(特許文献3)、特開平8−47801号公報(特許文献4)、特開平11−335174号公報(特許文献5)および特開平11−335175号公報(特許文献6)を参照。〕。
特開昭47−34099号公報 特開平3−159964号公報 特公昭63−394号公報 特開平8−47801号公報 特開平11−335174号公報 特開平11−335175号公報
従来、切削工具等に用いられるcBN焼結体は、cBN粉末を焼結助剤あるいは結合材とともに4〜5GPa程度の圧力下で焼結することにより製造されている。すなわちcBN焼結体は、cBN粉末の他、窒化チタン(TiN)、炭化チタン(TiC)、コバルト(Co)等の結合材や焼結助剤を含むものである。
通常、cBN焼結体の原料となるcBN粉末は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属等の窒化物あるいはホウ窒化物等を触媒として、高温高圧下で六方晶窒化ホウ素(hexagonal Boron Nitride:hBN)をcBNに変換したcBN単結晶である。
しかしcBN焼結体は、10〜40体積%程度の結合材を含有するため、cBN単結晶と比較すると硬度や熱伝導率で劣っている。またcBN単結晶は触媒をインクルージョンとして含むため、強度が十分でなく、特に高温下で強度が低下しやすい。さらにcBN結晶には、へき開しやすいという性質もある。そのためcBN焼結体を使用した切削工具では、cBN結晶粒の破壊あるいはへき開によるマイクロチッピング等によって、工具刃先が摩耗したり欠損したりする場合がある。
そこで触媒や結合材を含有しないcBN多結晶体も提案されている(たとえば特許文献1〜特許文献4)。これらの文献では、触媒を使用せずhBNをcBNに直接変換してcBN多結晶体を製造している。
しかし特許文献1〜特許文献4に開示される方法は、出発物質として結晶性の良いhBNまたは熱分解窒化ホウ素(pyrolytic Boron Nitrde:pBN)を使用するため、出発物質からcBNへの変換に2100℃以上の高温を要している。その結果、多結晶体を構成するcBN結晶粒の結晶粒径が3〜5μm程度まで大きくなり、粒子間の結合力が弱く高温での強度も低い。
以上を踏まえて、cBN焼結体の切削性能および寿命を向上させるためには、いっそう強靭なcBN粉末(原料)が必要である。そうした原料の候補としてcBN多結晶砥粒がある。cBN多結晶砥粒は一部で研削用砥粒として使用されており、単結晶砥粒に比べて強度が改善されている。しかし従来のcBN多結晶砥粒は、多結晶を構成する一次粒子(単結晶)の粒径が数μm〜数十μmと粗く不揃いであり、強度が十分ではない。
特許文献5および特許文献6は、強靭なcBN粉末の作製を指向したものである。これらの文献では、高純度、高強度で、さらに耐熱性に優れたcBN単相の多結晶体を作製し、それを粉砕して焼結体の原料とすることが開示されている。
しかしながらこの方法は、cBN多結晶砥粒を高温高圧下で合成し、さらにcBN多結晶砥粒および結合材を出発物質として再度超高圧高温下での合成を行なうものであり、製造に手間が掛かり経済的ではない。加えてこの方法で得られるcBN多結晶砥粒は、粒子間の結合力が不十分であり、耐欠損性が低く、その強度は未だ十分とはいえない。
そこで上記の課題に鑑み、耐摩耗性および耐欠損性に優れた立方晶窒化ホウ素複合焼結体、ならびに切削工具、耐摩工具および研削工具を提供することを目的とする。
本発明の一態様に係る立方晶窒化ホウ素複合焼結体は、
立方晶窒化ホウ素多結晶体と、セラミックス相とを含み、
該立方晶窒化ホウ素多結晶体を80体積%超98体積%以下の範囲で含有し、
該立方晶窒化ホウ素多結晶体は、平均結晶粒径が500nm以下である立方晶窒化ホウ素単結晶と、ウルツ鉱型窒化ホウ素とを含み、
該立方晶窒化ホウ素多結晶体は、該ウルツ鉱型窒化ホウ素を0.01体積%以上含有する。
また本発明の一態様に係る立方晶窒化ホウ素複合焼結体の製造方法は、
立方晶窒化ホウ素多結晶体を80体積%超98体積%以下の範囲で含有する立方晶窒化ホウ素複合焼結体の製造方法であって、
常圧型窒化ホウ素と、セラミックスとを混合して混合体を得る第1工程と、
圧力が8GPa以上かつ温度が1500℃以上2300℃未満の条件下において、該混合体を焼結する第2工程と、を備え、
該第2工程において、該常圧型窒化ホウ素は立方晶窒化ホウ素へと直接変換される。
上記によれば、耐摩耗性および耐欠損性に優れた立方晶窒化ホウ素複合焼結体が提供される。この立方晶窒化ホウ素複合焼結体は、切削工具、耐摩工具および研削工具に利用できる。
本発明の一態様に係る立方晶窒化ホウ素複合焼結体における焼結体組織の一例を示す平面模式図である。 参考例に係る立方晶窒化ホウ素複合焼結体における焼結体組織の一例を示す平面模式図である。 本発明の一態様に係る立方晶窒化ホウ素複合焼結体の製造方法の概略を示すフローチャートである。
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、常圧型窒化ホウ素(以下「常圧型BN」とも記す)とセラミックスとの混合体を出発物質とし、圧力が8GPa以上かつ温度が1500℃以上2300℃未満の条件で、常圧型BNをcBNに直接変換すると同時にセラミックスとともに焼結する方法によれば、高強度のcBN多結晶体を含むcBN複合焼結体が製造できることを見出し、本発明の一態様を完成させるに至った。すなわち本発明の一態様に係る立方晶窒化ホウ素複合焼結体は以下の構成を備える。
[1]立方晶窒化ホウ素複合焼結体は、立方晶窒化ホウ素多結晶体と、セラミックス相とを含み、該立方晶窒化ホウ素多結晶体を80体積%超98体積%以下の範囲で含有し、該立方晶窒化ホウ素多結晶体は、平均結晶粒径が500nm以下である立方晶窒化ホウ素単結晶と、ウルツ鉱型窒化ホウ素とを含み、該立方晶窒化ホウ素多結晶体は、該ウルツ鉱型窒化ホウ素を0.01体積%以上含有する。
上記のようにcBN多結晶体を80体積%超98体積%以下の範囲で含有する複合焼結体は、複数のcBN単結晶が連結してなるcBN多結晶体が組織の大部分を占め、該cBN多結晶体の粒界にセラミックス相が島状に散在した焼結体組織を有する。そしてこの焼結体組織では、cBN単結晶同士、ウルツ鉱型窒化ホウ素(wurtzite Boron Nitride:wBN)同士およびセラミックス同士がそれぞれ強固に結合している。さらに当該焼結体組織では、cBNとwBN、ならびにcBN多結晶体とセラミックスとが強固に結合して緻密な組織を形成している。
ここでcBN多結晶体を構成するcBN単結晶は、平均結晶粒径が500nm以下の微細な結晶であるため強度、靭性に優れる。加えてcBN多結晶体に含まれるwBNは、焼結体組織において亀裂の進展を阻止し、靭性を向上させる作用を有する。そしてこれらが相俟って、cBN複合焼結体は優れた耐摩耗性および耐欠損性を示す。
なおcBN単結晶の平均結晶粒径は、後述する切断法によって測定するものとする。
[2]立方晶窒化ホウ素多結晶体は、圧縮型六方晶窒化ホウ素を0.01体積%以上0.5体積%以下の範囲でさらに含有することが好ましい。
上記体積含有率での圧縮型hBNの存在は、亀裂の進展を阻止し靭性を向上させる作用を有するからである。
[3]セラミックス相は、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)およびタングステン(W)の炭化物、窒化物、炭窒化物ならびにホウ化物の1種以上を含むことが好ましい。こうしたセラミックス相は耐摩耗性に優れるからである。
[4]セラミックス相は、アルミニウム(Al)をさらに含むことが好ましい。これにより耐摩耗性がいっそう向上するからである。
本発明の一態様はcBN複合焼結体の製造方法をも提供する。
[5]すなわち立方晶窒化ホウ素複合焼結体の製造方法は、立方晶窒化ホウ素多結晶体を80体積%超98体積%以下の範囲で含有する立方晶窒化ホウ素複合焼結体の製造方法であって、常圧型窒化ホウ素とセラミックスとを混合して混合体を得る第1工程と、圧力が8GPa以上かつ温度が1500℃以上2300℃未満の条件下において混合体を焼結する第2工程と、を備え、第2工程において、常圧型窒化ホウ素は立方晶窒化ホウ素へと直接変換される。
この製造方法によれば、上記[1]〜[4]のいずれか1つに記したcBN複合焼結体を容易に製造することができる。
なお「直接変換される」とは、無触媒の下で出発物質がcBNに直接的に変換されることを示すものである。上記製造方法はこの直接変換と同時に混合体を焼結するものであり、いわば「直接変換焼結」ともいうべき製造方法である。この直接変換焼結を経ることにより、cBN複合焼結体における粒間結合は強固なものとなる。また合成される焼結体においてcBN単結晶の平均結晶粒径を500nm以下に制御するとともに、wBNを生成することができる。
本発明の一態様は切削工具、耐摩工具および研削工具にも係わる。
[6]本発明の一態様に係る切削工具は、上記[1]〜[4]のいずれか1つに記した立方晶窒化ホウ素複合焼結体を備える。
この切削工具は、上記したcBN複合焼結体の性質に基づき、優れた耐摩耗性および耐欠損性を有する。
[7]本発明の一態様に係る耐摩工具は、上記[1]〜[4]のいずれか1つに記した立方晶窒化ホウ素複合焼結体を備える。
この耐摩工具は、上記したcBN複合焼結体の性質に基づき、優れた耐摩耗性および耐欠損性を有する。
[8]本発明の一態様に係る研削工具は、上記[1]〜[4]のいずれか1つに記した立方晶窒化ホウ素複合焼結体を備える。
この研削工具は、上記したcBN複合焼結体の性質に基づき、優れた耐摩耗性および耐欠損性を有する。
なおこれらの工具は、工具全体がcBN複合焼結体から構成されるものであってもよいし、その一部(たとえば切削工具の刃先部)がcBN複合焼結体から構成されるものであってもよい。
[本願発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の実施形態(以下「本実施形態」とも記す)について詳細に説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
<cBN複合焼結体>
本実施形態のcBN複合焼結体はcBN多結晶体とセラミックス相とを含む。図1は本実施形態のcBN複合焼結体における焼結体組織の一例を示す平面模式図である。こうした焼結体組織は、たとえば走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)によって確認できる。
本実施形態のcBN複合焼結体は、cBN多結晶体を80体積%超98体積%以下の範囲で含有する。かかる範囲でcBN多結晶体を含有するcBN複合焼結体では、図1に示すように複数のcBN単結晶1が連結してなるcBN多結晶体10が組織の大部分を占めており、cBN多結晶体10の粒界にセラミックス相2が島状に散在した状態となっている。こうしたcBN複合焼結体を切削工具に適用した場合、被削材を切削する役割を担うのは専らcBN多結晶体10であり、セラミックス相2は組織の変形を吸収する緩衝材としての役割を有する。このcBN多結晶体は高硬度であるため、難削材の加工に適している。したがって上記体積含有率でcBN多結晶体を含有するcBN複合焼結体は、たとえば焼結合金用や鋳鉄用の切削工具として特に有用である。なおcBN多結晶体の体積含有率の範囲は、より好ましくは85体積%以上98体積%以下であり、特に好ましくは85体積%以上95体積%以下である。
(cBN多結晶体)
cBN多結晶体10は、平均結晶粒径が500nm以下であるcBN単結晶1から構成される。このようにcBN単結晶1が微細であるため、cBN多結晶体10は強度、靭性に優れる。図2は参考例(従来)の焼結体組織の一例を示す平面模式図である。この焼結体組織では、結晶粒径が大きいcBN単結晶11同士が互いに接触してマトリックスを構成し、該マトリックス内にセラミックス相12が分散した状態となっている。こうした組織では切削時にcBN単結晶11が破壊されたり、へき開したりするため、強度および靭性が十分ではない。これに対して本実施形態のように微細なcBN単結晶1から構成されるcBN多結晶体10は、一部でcBN単結晶1の破壊等が起こっても、破壊の進展をcBN多結晶体10内で食い止めることができる。また微細なcBN単結晶1はそれ自体が破壊され難く高強度を有する。したがって本実施形態のcBN複合焼結体は、図2に示すcBN焼結体と比較して耐摩耗性および耐欠損性に優れる。
なお本明細書では、図1のように微細なcBN単結晶1が連結してcBN多結晶体10を構成し、cBN多結晶体10の粒界にセラミックス相2が分散した組織を有するものを「cBN複合焼結体」と称し、図2に示すように結晶粒径が大きいcBN単結晶11同士が互いに接触してなるマトリックス内にセラミックス相12が分散した組織を有するものを「cBN焼結体」と称するものとする。
(平均結晶粒径)
本実施形態においてcBN単結晶の平均結晶粒径は、500nm以下であることを要する。かかる平均結晶粒径は、好ましくは483nm未満であり、より好ましくは445nm以下であり、特に好ましくは201nm以下である。強度の観点から平均結晶粒径は小さいほど望ましく下限値は特に制限されないが、生産性を考慮するとその下限は20nm程度であることが好ましい。
(平均結晶粒径の測定方法)
cBN単結晶の平均結晶粒径は切断法によって測定するものとする。測定の手順は次の通りである。まず焼結体組織をSEMで撮像してSEM画像を得る。次にSEM画像において円を描き、さらに円の中心から8本の直線を放射状に円の外周まで引く(このとき隣り合う2つの直線のなす角は45°である。)。次に円の中で各直線が結晶粒界(すなわちcBN単結晶同士の境界)を横切る回数を計数する。そして直線の長さを横切る回数で除することにより平均切片長さを求め、さらに平均切片長さに1.128を乗ずることにより平均結晶粒径を算出できる。
測定に際して、SEMの撮像倍率は30000倍とすることが望ましい。30000倍未満とすると、画像内に含まれる結晶粒の数が多くなって粒界の判別が容易ではなくなり、30000倍を超えると、画像内に含まれる結晶粒の数が過度に少なくなって正確な平均結晶粒径を算出できないからである。
より正確を期すため、SEM画像を複数(たとえば別々の3箇所)準備し、それぞれの画像において平均結晶粒径を算出し、それらの平均値を平均結晶粒径とすることも望ましい態様である。
円の大きさ(円の直径)は、円内に含まれるcBN単結晶の数を考慮して決定される。すなわち1本の直線が横切る結晶粒界の数が10個以上となるように円を描くものとする。1本の直線が横切る結晶粒界の数は多いほど、測定の信頼性の観点から望ましい。しかし作業の煩雑さを避けるため、1本の直線が横切る結晶粒界の数の上限は、たとえば50個程度とすることができる。
なおcBN単結晶の平均結晶粒径が500nm以下の場合、30000倍の倍率で撮像されたSEM画像の中心を円の中心として、画像内に収まるように可能な限り大きな円を描けば、1本の直線が横切る結晶粒界の数は通常10個以上となる。また上記の手順で測定される結晶粒径の分布は、通常、平均値(平均結晶粒径)を中心として左右対称な釣鐘型の分布(正規分布)に近いものとなる。したがって本明細書における平均結晶粒径とは、正規分布を前提とした平均値といえる。
(ウルツ鉱型窒化ホウ素)
本実施形態のcBN複合焼結体は、wBNを0.01体積%以上含有する。wBNを含有することにより、亀裂の進展が抑制され靭性が向上する。wBNの含有量は多いほど好ましく上限値は特に制限されないが、組織の均一性を考慮すると、その上限は60体積%程度とすることが好ましい。wBNの含有量は、より好ましくは0.2体積%以上であり、特に好ましくは1.0体積%以上であり、最も好ましくは2.0体積%以上である。
なお、cBN、wBN、および後述する圧縮型hBNの体積含有率は、従来公知の方法、たとえばX線回折法によって測定できる。
(圧縮型六方晶窒化ホウ素)
cBN多結晶体は、圧縮型hBNを0.01体積%以上0.5体積%以下の範囲で含有できる。圧縮型hBNとは、周囲の物質(たとえばcBN等)から応力が加わり圧縮されているhBNである。たとえば、圧縮型hBNの(002)面の面間隔は通常のhBN(常圧型hBN)の面間隔(0.333nm)よりも短い。
0.01体積%以上0.5体積%以下である圧縮型hBNの存在は、cBN複合焼結体の強度に影響を及ぼさない。そればかりか、むしろ亀裂の進展を阻止し靭性を向上させる作用をもたらす。また圧縮型hBNの存在を許容することで、広い温度範囲で焼結が可能となり、生産性が向上する。ただし圧縮型hBNが0.5体積%を超えると、圧縮型hBNでの応力集中が大きくなり強度が低下する場合もある。したがってcBN複合焼結体が圧縮型hBNをさらに含む場合、その上限は0.5体積%である。圧縮型hBNの体積含有率は、より好ましくは0.01体積%以上0.1体積%以下であり、特に好ましくは0.05体積%以上0.1体積%以下である。
(セラミックス相)
セラミックス相は、1種以上のセラミックスから構成される。セラミックス相は、Ti、Hf、ZrおよびWの炭化物、窒化物、炭窒化物ならびにホウ化物の1種以上を含むことが好ましい。これらの化合物を含むことにより、耐摩耗性が向上するからである。こうした化合物の具体例としては、たとえば、TiC、TiN、TiCN、TiB2、HfC、HfN、HfCN、HfB2、ZrC、ZrN、ZrCN、ZrB2、WC、W2C、WB2等を例示できる。cBN複合焼結体におけるセラミックス相の体積含有率の範囲は、たとえば2体積%以上20体積%未満であり、好ましくは2体積%以上15体積%以下であり、より好ましくは5体積%以上15体積%以下である。
なお本明細書において、上記のように化合物を化学式で表わす場合、原子比を特に限定しない場合は従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のものに限定されない。たとえば「TiN」と記す場合、「Ti」と「N」の原子比は50:50の場合のみに限られず、従来公知のあらゆる原子比が含まれるものとする。
セラミックス相は、Alをさらに含むことができる。これにより耐摩耗性がいっそう向上するからである。セラミックス相内においてAlは、たとえば、AlN、AlB2のように窒化物やホウ化物等を構成していてもよいし、TiAlNのようにTi等との複合化合物を構成していてもよい。
<cBN複合焼結体の製造方法>
上記したcBN複合焼結体は以下に説明する方法によって製造できる。図3は本実施形態の製造方法の概略を示すフローチャートである。図3を参照して当該製造方法は、第1工程(S101)および第2工程(S102)を備える。以下、各工程について説明する。
(第1工程)
第1工程(S101)では、常圧型BNとセラミックスとを混合して混合体を得る。第1工程では、まず常圧型BN粉末(たとえばhBN粉末)とセラミックス粉末とを準備する。
セラミックス粉末は、目的とするセラミックス相の組成に合わせて選択される。たとえば、TiN0.6粉末、TiC粉末、HfN粉末、ZrN粉末、WC粉末等を使用できる。これらとともにAl粉末を混合してもよい。
次にこれらの粉末原料を混合する。混合に際して各原料の配合は、最終的に得られるcBN複合焼結体において、cBN多結晶体の体積含有率が80体積%超98体積%以下となるように調整される。混合には、たとえばボールミル、アトライタ等の混合装置を使用できる。混合時間は、たとえば5時間以上24時間以下程度である。
こうして得られた混合体では、hBN粉末が混合中に表面酸化の影響で生成される酸化ホウ素や水分等の吸着ガスを含み得る。これらの不純物はcBNへの直接変換を阻害し、あるいは触媒となって粒成長を引き起こしcBN単結晶同士の結合を弱化させる。そこで高温精製処理を行なって不純物を除去することが好ましい。たとえば、窒素ガス中2050℃以上の条件、または真空中1650℃以上の条件等で熱処理して酸化ホウ素や吸着ガスを除去する。こうして得られた混合体は不純物が非常に少なく、直接変換焼結に適する。
(第2工程)
第2工程(S102)では、圧力が8GPa以上かつ温度が1500℃以上2300℃未満の条件下において混合体を焼結する。このとき常圧型BNはcBNへと直接変換される。すなわちhBNの変換と同時に混合体を焼結する。焼結時の圧力(以下「合成圧力」とも記す)は8GPa以上である限り、cBNが熱力学的に安定な範囲で自由に設定できる。ただし工程上の負担を考慮すると、合成圧力の上限は、たとえば20GPa程度であり、好ましくは16GPa程度である。
cBNが合成可能である焼結温度の範囲は合成圧力によって変化する。たとえば合成圧力が10GPaである場合、焼結温度は1900℃以上2300℃未満が適当であり、合成圧力が20GPaである場合、焼結温度は1500℃以上2300℃未満が適当である。これらの下限温度を下回るとcBNへの変換が不十分となり得る。またいずれの場合も焼結温度が2300℃以上になると、wBNが生成されなくなる。したがって焼結温度の範囲は、少なくとも1500℃以上2300℃未満であることを要する。焼結温度の範囲は1800℃以上2200℃以下が好ましく、1900℃以上2100℃以下がより好ましい。
以上の工程を実行することにより、cBN単結晶同士あるいはcBN多結晶体とセラミックス相との結合力、さらにはcBN単結晶の結晶粒径を適切に制御することが可能であり、本実施形態のcBN複合焼結体を容易に製造することができる。
<切削工具、耐摩工具および研削工具>
本実施形態のcBN複合焼結体は、前述のように優れた耐摩耗性および耐欠損性を有するため、切削工具、耐摩工具および研削工具に利用できる。
本実施形態のcBN複合焼結体は、従来公知の切削工具、耐摩工具および研削工具に幅広く適用可能である。こうした工具としては次のようなものを例示できる。切削工具としては、たとえば、切削バイト、ドリル、エンドミル、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切り工具、リーマまたはタップ等を例示できる。また耐摩工具としては、たとえば、ダイス、スクライバー、スクライビングホイールまたはドレッサー等を例示できる。さらに研削工具としては、たとえば研削砥石等を例示できる。
本実施形態のcBN複合焼結体は、これらの工具の全体を構成していてもよいし、一部を構成するものであってもよい。ここで「一部を構成する」とは、たとえば切削工具の場合に、超硬合金製の基材の所定位置にcBN複合焼結体をロウ付けして刃先部とする態様等を示している。
以下、実施例を用いて本実施形態をより詳細に説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
〔cBN複合焼結体の製造〕
以下のようにしてNo.1〜No.9、No.11、No.12ならびにNo.16〜No.18に係るcBN複合焼結体を製造した。またNo.13〜No.15に係るcBN焼結体を調達した。ここでNo.1〜No.9が実施例に相当し、その他が比較例に相当する。
<No.1〜No.12>
(第1工程)
まず出発物質(原料)として、平均粒子径10μmのhBN粉末と、表1に示す各種セラミックスとを準備した。表1に示す質量比でセラミックスを配合し、さらにボールミルを使用してhBNとセラミックスとを5時間に亘って混合した。これにより混合体を得た。そして混合体を窒素雰囲気下2050℃の温度で熱処理して不純物を除去した(高温精製処理)。
(第2工程)
高温精製処理を経た混合体を高融点金属からなるカプセルに入れ、超高圧高温発生装置を使用して表1に示す圧力および温度条件下で20分間保持して、出発物質であるhBNをcBNへと直接変換させた。なお混合段階においてhBN粉末およびセラミックス粉末の配合量は、hBNをcBNに変換した際に複合焼結体におけるcBN多結晶体の体積含有率が表1に示す値となるように調整した。
Figure 2015202980
表1に示す通り、こうして得られた各cBN複合焼結体にはcBNの他、wBN等の高圧相BNと、セラミックスとBNとの反応により生成された窒化物、ホウ化物等が含まれていた。
各cBN複合焼結体に含まれるBNの組成(すなわちcBN、wBNおよび圧縮型hBNの体積含有率)ならびにセラミックス相の組成は、X線回折装置を使用して同定した。このときX線の線源はCuとし、特性X線はKα線(波長:1.54Å)とした。
表1に示すcBN単結晶の平均結晶粒径は前述のように切断法によって測定した。この際SEM画像の倍率は30000倍とした。また本実験では1つの試料について、別々の3箇所においてSEM画像を撮影し、それぞれのSEM画像から切断法によって平均結晶粒径を求め、さらに、そうして得られた3つの値の算術平均値を平均結晶粒径とした。
SEM観察の際、各cBN複合焼結体において複数のcBN単結晶が連結してcBN多結晶体を構成しており、セラミックス相はcBN多結晶体の粒間に分散して存在している様子が確認された。
<No.13〜No.15>
No.13〜No.15として、市販のcBN焼結体からなる切削加工用チップを調達した。これらの試料は、平均粒子径が1000〜2000nmであるcBN単結晶(粉末)とセラミックス粉末とを原料として製造されたものである。これらの試料におけるセラミックス相の組成、cBN単結晶の含有率およびcBN単結晶の平均結晶粒径を表2に示す。表2中の平均結晶粒径およびセラミックス相の組成は、前述の方法で測定、同定したものである。
Figure 2015202980
<No.16〜No.18>
No.16〜No.18は次のようにして製造した。まず出発物質として平均粒子径が2〜4μmであるcBN多結晶粉末と各種セラミックス粉末とを準備した。このcBN多結晶粉末は、平均結晶粒径が500nm以下である微細なcBN単結晶が凝集した多結晶体(二次粒子)からなる粉末である。使用したセラミックス粉末の組成は表3に示す通りである。これらの原料を、ボールミルを使用して5時間に亘って混合して混合体を得た。得られた混合体は真空中1000℃の温度で熱処理して、粉末表面に付着した水分等の吸着ガスを除去した(高精製処理)。
高精製処理を経たcBN多結晶体とセラミックスとの混合体を高融点金属からなるカプセルに入れ、超高圧高温装置を使用して表3に示す圧力および温度条件下で20分間保持した。これによりcBN複合焼結体を得た。これらの試料におけるcBN多結晶体の含有率およびセラミックス相の組成を表3に示す。表3中のBNおよびセラミックス相の組成は、前述の方法で同定したものである。
Figure 2015202980
〔切削工具の製造および切削性能の評価〕
No.1〜No.12ならびにNo.16〜No.18に係るcBN複合焼結体を切削加工用チップに加工した。これらの切削加工用チップ、ならびにNo.13〜No.15に係る切削加工用チップ(cBN焼結体)を使用して、次の切削条件Aで切削試験を行なって耐摩耗性を評価した。結果を表4に示す。
(切削条件A)
切削方式:湿式切削
被削材:焼結合金SMF4040(硬さ:HRB70)の丸棒
切削速度:100mm/min
切り込み量:0.3mm
送り:0.15mm/rev.
評価方法:4km切削した際の逃げ面摩耗量(単位:mm)。
また上記切削加工用チップを使用して、次の切削条件Bで切削試験を行なって耐欠損性を評価した。結果を表4に示す。
(切削条件B)
切削方式:湿式切削
被削材:焼結合金SMF4040の丸棒(外周面に軸方向に沿った垂直な溝が等間隔に6本形成されたもの)
切削速度:100mm/min
切り込み量:0.2mm
送り:0.1mm/rev.
評価方法:外周面の加工を1パスとし、刃先が欠損するか、または最大逃げ面摩耗量が0.1mmを超えるまでの切削時間(単位:分)。
Figure 2015202980
〔結果と考察〕
表1〜表4より、wBNを含まないcBN複合焼結体(No.11およびNo.12)、あるいはcBN単結晶を出発物質(原料)として焼結されたcBN焼結体(No.13〜No.15)は、十分な耐摩耗性および耐欠損性を有していないことが分かる。
これに対して、cBN多結晶体とセラミックス相とを含み、cBN多結晶体を80体積%超98体積%以下の範囲で含有し、cBN多結晶体は平均結晶粒径が500nm以下であるcBN単結晶と、wBNとを含み、cBN多結晶体はwBNを0.01体積%以上含有する、cBN複合焼結体(No.1〜No.9)は、耐摩耗性および耐欠損性に優れていることが分かる。
また同結果から、常圧型BNとセラミックスとを混合して混合体を得、該混合体を焼結すると同時に常圧型BNをcBNに直接変換することにより製造されたcBN複合焼結体(No.1〜No.9)は、単にcBN多結晶体を原料として焼結されたcBN複合焼結体(No.16〜No.18)よりも耐摩耗性および耐欠損性に優れることが実証できたといえる。この理由は、直接変換焼結を経ることにより、wBNが生成されるとともに、cBN単結晶およびcBN多結晶体とセラミックス相との粒間結合が強固になるためであると考えられる。
なお今回の実験では切削工具を以って評価を行なったが、以上の結果に鑑みれば耐摩工具あるいは研削工具であっても同様の結果が得られるものと推測される。
以上、本実施形態および実施例について説明したが、今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1,11 cBN単結晶
10 cBN多結晶体
2,12 セラミックス相

Claims (8)

  1. 立方晶窒化ホウ素多結晶体と、セラミックス相とを含み、
    前記立方晶窒化ホウ素多結晶体を80体積%超98体積%以下の範囲で含有し、
    前記立方晶窒化ホウ素多結晶体は、平均結晶粒径が500nm以下である立方晶窒化ホウ素単結晶と、ウルツ鉱型窒化ホウ素とを含み、
    前記立方晶窒化ホウ素多結晶体は、前記ウルツ鉱型窒化ホウ素を0.01体積%以上含有する、立方晶窒化ホウ素複合焼結体。
  2. 前記立方晶窒化ホウ素多結晶体は、圧縮型六方晶窒化ホウ素を0.01体積%以上0.5体積%以下の範囲でさらに含有する、請求項1に記載の立方晶窒化ホウ素複合焼結体。
  3. 前記セラミックス相は、Ti、Hf、ZrおよびWの炭化物、窒化物、炭窒化物ならびにホウ化物の1種以上を含む、請求項1または請求項2に記載の立方晶窒化ホウ素複合焼結体。
  4. 前記セラミックス相は、Alをさらに含む、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の立方晶窒化ホウ素複合焼結体。
  5. 立方晶窒化ホウ素多結晶体を80体積%超98体積%以下の範囲で含有する立方晶窒化ホウ素複合焼結体の製造方法であって、
    常圧型窒化ホウ素とセラミックスとを混合して混合体を得る第1工程と、
    圧力が8GPa以上かつ温度が1500℃以上2300℃未満の条件下において前記混合体を焼結する第2工程と、を備え、
    前記第2工程において、前記常圧型窒化ホウ素は立方晶窒化ホウ素へと直接変換される、立方晶窒化ホウ素複合焼結体の製造方法。
  6. 請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の立方晶窒化ホウ素複合焼結体を備える、切削工具。
  7. 請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の立方晶窒化ホウ素複合焼結体を備える、耐摩工具。
  8. 請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の立方晶窒化ホウ素複合焼結体を備える、研削工具。
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