以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
(細胞捕捉金属フィルタシート)
本実施形態に係る細胞捕捉金属フィルタシートについて説明する。図1は、細胞捕捉金属フィルタシートの平面図、図2は、図1の部分拡大図である。細胞捕捉金属フィルタシート300は、複数の細胞捕捉金属フィルタ30を効率よく生産するためのシートであって、厚さ方向に垂直な面に沿って所定の間隙Sを介して複数の細胞捕捉金属フィルタ30が配列されたものである。図1に示される細胞捕捉金属フィルタシート300は、外周枠2の内部に2枚の細胞捕捉金属フィルタ30が1×2の行列状に敷き詰められて構成されている。
それぞれの細胞捕捉金属フィルタ30は、略正方形状であり、複数の貫通孔32が厚さ方向に形成されたフィルタ領域33をその内側に有している。細胞捕捉金属フィルタ30の細部の詳細については後述する。
細胞捕捉金属フィルタ30はそれぞれ、略正方形の各辺の中央部分に、側面T側からフィルタ領域33側へ凹んだ凹部Dをそれぞれ有しており(図12も参照)、隣り合う細胞捕捉金属フィルタ30の凹部D同士が対向している。一方の細胞捕捉金属フィルタ30の凹部Dにおける外縁部からは、接続部5が連続して設けられており、この接続部5が隣り合う他方の細胞捕捉金属フィルタ30の凹部Dにおける外縁部に連続している。すなわち、接続部5は、相対向する凹部D内にそれぞれ進入する進入部5Aを両端に有し、細胞捕捉金属フィルタ30の凹部Dにおけるそれぞれの外縁部と一体的に連続することにより、隣り合う細胞捕捉金属フィルタ30同士を接続している。ここで「外縁部」とは、細胞捕捉金属フィルタ30の略正方形をなす各辺、及び、各辺からフィルタ領域33へ向って広がる各辺近傍の表面を含む領域をいう。細胞捕捉金属フィルタシート300は、後述する製造方法によって一体成形して得ることができる。
凹部D内における細胞捕捉金属フィルタ30と進入部5Aとの境界には、凹部Dの凹み方向と垂直な方向に延びるように、切離線Lが設けられている。すなわち切離線Lは、細胞捕捉金属フィルタ30の略正方形をなす辺よりもフィルタ領域33側に寄った位置に設けられている。切離線Lは、それぞれ、所定の間隔を有し、連続して配置された複数の小孔310からなる、所謂ミシン目として形成されている。そして、切離線Lが所謂ミシン目で形成されていることにより、細胞捕捉金属フィルタ30と接続部5とを一層容易に分離することができる。
なお、外周枠2と細胞捕捉金属フィルタ30とは、外周枠2から連続して設けられた接続部5によって互いに接続されている。
小孔310は、その直径を例えば0.1mm〜0.3mmとすることができる。この場合、小孔310の間隔は、0.1mm〜0.7mmであることが好ましい。このような構成にすることで、切離線Lを利用した細胞捕捉金属フィルタ30の分離を容易に行うことができる。すなわち、切離線Lに沿って細胞捕捉金属フィルタシート300を折り曲げることで、切離線Lに応力が集中するため細胞捕捉金属フィルタ30の分離をより簡便に行うことができる。
間隙Sは、隣り合う細胞捕捉金属フィルタ30同士を離間させると共に細胞捕捉金属フィルタ30の外形を規定するように縦横に線状に延びている。図1では、間隙Sは、細胞捕捉金属フィルタ30の略正方形の隣り合う二辺、又は、隣り合う細胞捕捉金属フィルタ30の一辺を当該二辺に加えた三辺を規定するように縦横に延びている。1枚の細胞捕捉金属フィルタ30の略正方形の角部、及び、2枚の細胞捕捉金属フィルタ30の略正方形の角部が集合している部分は、間隙の面積が拡張して線状ではなく平面視多角形を形成している。そして、この多角形の辺の一部は、細胞捕捉金属フィルタ30の後述する切込部35(図12)を構成している。
一方、間隙Sのうち、隣り合う細胞捕捉金属フィルタ30同士を離間させるように延びた線状部分の先端部分は、接続部5に当たる位置において二股に分岐し、隣り合う細胞捕捉金属フィルタ30、30のフィルタ領域33、33側に向って直角に折れ、接続部5の進入部5A、5Aの側面に沿って延びて切離線L、Lの端部において終端している。そして、この接続部5に対しては、隣り合う間隙Sの先端部分が接続部5の反対側から同様に延びてきており、切離線L、Lの他方の端部において終端している。すなわち、隣り合う間隙S、Sの先端部分の終端同士は、当該終端同士を結ぶ方向(つまり、凹部Dの凹み方向と垂直な方向)に延びる切離線Lにより互いに連絡されている。このように、細胞捕捉金属フィルタ30の凹部Dの形状は、一次元方向に延びる切離線Lと、間隙Sのうち進入部5Aの側面に沿って延び切離線Lの端部に連絡する部分とにより決められている。
また、間隙Sのうち、細胞捕捉金属フィルタ30同士が隣り合っていない部分(細胞捕捉金属フィルタ30が外周枠2と隣り合っている部分)において細胞捕捉金属フィルタ30の外形を規定している部分においては、その先端部分は、接続部5に当たる位置において、細胞捕捉金属フィルタ30のフィルタ領域33側のみに向って直角に折れている。
(細胞捕捉金属フィルタ及び細胞捕捉金属フィルタシートの製造方法)
次に、細胞捕捉金属フィルタシート300の製造方法について図3を用いて説明する。本実施形態に係る細胞捕捉金属フィルタシート300の製造方法は、金属箔上にフォトレジストをラミネートする工程と、フォトレジスト層の上に複数の透光部により形成された透光領域を有するフォトマスクを重ねて露光する工程と、現像してフォトレジスト層の未露光部を除去してフォトレジストパターンを形成する工程と、フォトレジストパターン間を金属めっきしてフォトレジストパターンの高さより低い金属めっきパターンを形成する工程と、金属箔を化学的溶解によって除去して、金属めっきパターンとフォトレジストパターンからなる構造物を得る工程と、構造物からフォトレジストパターンを除去して、金属めっきパターンを得る工程と、を含む。以下、各工程について説明する。
図3(a)は、キャリア層51に対して金属箔52を積層した状態を示す。図3(b)に示すラミネート工程において、金属箔52に感光性樹脂組成物からなるフォトレジスト53を形成する。続いて、図3(c)に示す露光工程において、フォトマスク54を通してフォトレジスト53に活性光線(UV光)を照射し、露光された部分を光硬化させてフォトレジストの硬化物を形成する。続いて、図3(d)に示す現像工程において、硬化物以外のフォトレジスト53を除去し、フォトレジストパターン53a及びフォトレジストパターン53bを形成する。続いて、図3(e)に示すめっき工程において、硬化物からなるフォトレジストパターン53a、53bが形成された金属箔52上にめっき層(めっきパターン)55を形成する。続いて、図3(f)に示すように、金属箔52とキャリア層51とを剥離する。続いて、図3(g)に示す溶解工程において、金属箔52を化学的溶解により除去する。この結果、フォトレジストの硬化物からなるフォトレジストパターン53a、53b及びめっき層55が残る。続いて、図3(h)に示す剥離工程において、フォトレジストの硬化物からなるフォトレジストパターン53a、53bを除去し、めっき層55からなる金属フィルタを回収する。金属フィルタには貫通孔56a、56bが形成されている。これらの貫通孔のうち、フォトレジストパターン53aに対応する貫通孔56aがフィルタ領域33の貫通孔32に相当し、フォトレジストパターン53bに対応する貫通孔56bが切離線Lの小孔310に相当する。なお、間隙Sに相当する貫通孔は、図3には描かれていない。
なお、キャリア層51に対して金属箔52を積層した積層体を用いる構成に代えて、金属製の基板を使用してもよい。この場合、図3(f)において示した金属箔52とキャリア層51とを剥離する工程が存在しない点以外は図3に示す製造方法と同様の方法により細胞捕捉金属フィルタシート300を製造することができる。ただし、金属製基板は金属箔よりも厚いため、溶解工程において基板を化学的溶解により除去する工程において用いられる化学的溶解剤と時間が、金属箔を除去する場合と比較して増加する。
以下、各工程についてより詳細に説明する。
(ラミネート工程)
まず、キャリア層51に対して金属箔52を積層させた状態を示す。金属箔52としては、エッチングによって除去可能な金属箔を用いることができ、具体的には銅、ニッケル、ニッケル・クロム合金等の箔が用いられるが、銅箔が好ましい。銅箔はケミカルエッチングで容易に除去可能であり、フォトレジストとの密着力においても他の材料に比べると優れている。銅張り積層板からなるキャリア層51に対して後の工程で剥離可能な程度に金属箔52を貼り付けたものを用いると、細胞捕捉金属フィルタシート300の製造工程途中の作業性及び取り扱い性に優れるので好ましい。上記のような構成として、具体的には、ピーラブル銅箔(日立化成(株)社製)を用いることができる。ピーラブル銅箔とは、極薄銅箔とキャリア層の少なくとも2層からなる銅箔のことである。
図3(b)は金属箔52の上に感光性樹脂組成物によるフォトレジスト53を形成した状態を示す図である。フォトレジスト53としては、ネガ型及びポジ型のいずれも使用可能であるが、ネガ型フォトレジストが好ましい。ネガ型フォトレジストは、少なくとも、バインダー樹脂、不飽和結合を有する光重合性化合物、及び光重合開始剤を含むものであることが好ましい。なお、ポジ型のフォトレジストを使用する場合には、フォトレジスト層のうち、活性光線の照射により露光された部分の現像液に対する溶解性が増大するため、現像工程において、露光された部分が除去されることになる。以下、ネガ型フォトレジストを使用した場合について説明する。
最終的に得られる細胞捕捉金属フィルタシート300の厚みは、フォトレジストパターンの厚み以下となる。このため、目的とする金属フィルタの厚みに適した膜厚のフォトレジスト層を形成する必要がある。例えば、15μm未満の厚みの金属フィルタを製造する場合には膜厚15μmのフォトレジストを使用することが好ましい。また、15μmを超え25μm未満の厚みの金属フィルタを製造する場合には膜厚25μmのフォトレジストを使用することが好ましい。また、連結貫通孔の孔径が小さくなるほど膜厚の薄いフォトレジストを使用することが好ましい。
フォトレジスト53の金属箔52上への積層は、例えば、支持フィルム、フォトレジスト及び保護フィルムからなるシート状の感光性エレメントの保護フィルムを除去した後、フォトレジスト53を加熱しながら金属箔52に圧着することにより行われる。これにより、金属箔52とフォトレジスト53と支持フィルムとからなり、これらが順に積層された積層体が得られる。
この積層作業は、密着性及び追従性の見地から、減圧の雰囲気下で行うことが好ましい。一方、圧着の際のフォトレジスト53及び/又は金属箔52に対する加熱温度、圧力等の条件に特に制限はないが、70℃〜130℃の温度で行うことが好ましく、100kPa〜1000kPa程度の圧力で圧着することが好ましい。なお、フォトレジストの圧着において、積層性を向上させるために、金属箔を予熱処理してもよい。なお、支持フィルムにフォトマスクの機能を持たせてもよく、その場合には、そのまま次の工程に移ってフォトマスクとして用いてよいが、そうでない場合には、次の工程においてフォトマスクを重ねる前に支持フィルムを剥離する。
(露光工程)
続いて、露光工程について説明する。金属箔52上のフォトレジスト53の上に複数の透光部を含む透光領域を有するフォトマスク54を重ねた後、活性光線を照射し、露光された部分を光硬化させてフォトレジストの硬化物を形成する。これによりフォトレジストパターン53a、53bが得られる。
フォトマスクは、細胞捕捉金属フィルタ30のフィルタ領域33に含まれる複数の貫通孔32に対応する複数の透光部からなる第一の透光領域と、間隙に対応する複数の透光部からなる第二の透光領域と、切離線Lの小孔310に対応する第三の透光領域と、を有する。なお、第二の透光領域は、図3には描かれていない。
露光方法としては、アートワークと呼ばれるネガ又はポジマスクパターンを通して活性光線を画像上に照射する方法(マスク露光法)が挙げられる。また、LDI(Laser Direct Imaging)露光法やDLP(Digital Light Processing)露光法等の直接描画露光法により活性光線を画像状に照射する方法を採用してもよい。
活性光線の光源としては、公知の光源を用いることができ、例えば、カーボンアーク灯、水銀蒸気アーク灯、高圧水銀灯、キセノンランプ、アルゴンレーザ等のガスレーザ、YAGレーザ等の固体レーザ、半導体レーザ等の紫外線、可視光等を有効に放射するものが用いられる。
活性光線の波長(露光波長)としては、350nm〜410nmの範囲内とすることが好ましく、390nm〜410nmの範囲内とすることがより好ましい。露光は600mmHg以下の真空下で行うのが好ましい。露光量は0.01J/cm2〜10J/cm2の範囲内で行うのが好ましく、0.01J/cm2〜5J/cm2の範囲内で行うのがより好ましい。
(フォトレジストパターン形成工程)
フォトレジスト53のうち、フォトレジストの硬化物以外の部分(未硬化部)を金属箔52上から除去することにより、金属箔52上に、フォトレジストの硬化物からなるフォトレジストパターン53a、53bを形成する。フォトレジスト上に支持フィルム又はフォトマスクが存在している場合には、支持フィルム又はフォトマスクを除去してから、上記フォトレジストの硬化物以外の部分の除去(現像)を行う。現像方法には、ウェット現像とドライ現像とがあるが、ウェット現像が広く用いられている。
ウェット現像による場合、フォトレジストに対応する現像液を用いて、公知の現像方法により現像する。現像方法としては、ディップ方式、パドル方式、スプレー方式、ブラッシング、スラッピング、スクラッピング、揺動浸漬等を用いた方法が挙げられ、解像性向上の観点からは、高圧スプレー方式が最も適している。これらの現像方法のうち2種以上の方法を組み合わせて現像を行ってもよい。
現像液としては、アルカリ性水溶液、水系現像液、有機溶剤系現像液等が挙げられる。アルカリ性水溶液は、現像液として用いられる場合、安全且つ安定であり、操作性が良好である。アルカリ性水溶液の塩基としては、リチウム、ナトリウム又はカリウムの水酸化物等のアルカリ金属水酸化物;リチウム、ナトリウム、カリウム若しくはアンモニウムの炭酸塩又は重炭酸塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム等のアルカリ金属リン酸塩;ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム等のアルカリ金属ピロリン酸塩などが用いられる。
アルカリ性水溶液としては、0.1質量%〜5質量%炭酸ナトリウムの希薄溶液、0.1質量%〜5質量%炭酸カリウムの希薄溶液、0.1質量%〜5質量%水酸化ナトリウムの希薄溶液、0.1質量%〜5質量%四ホウ酸ナトリウムの希薄溶液等が好ましい。アルカリ性水溶液のpHは9〜11の範囲とすることが好ましく、その温度は、フォトレジストのアルカリ現像性に合わせて調節される。アルカリ性水溶液中には、表面活性剤、消泡剤、現像を促進させるための少量の有機溶剤等を混入させてもよい。
なお、フォトレジスト53の硬化物以外の部分を現像により除去し、金属箔52上にフォトレジストの硬化物からなるフォトレジストパターン53a、53bを形成した後、必要に応じて60℃〜250℃程度の加熱又は0.2J/cm2〜10J/cm2程度の露光を行うことにより、フォトレジストパターンを更に硬化してもよい。
フォトレジストパターンは、フォトレジストパターンの高さとその短辺の長さのアスペクト比(高さ/短辺の長さ)が、1以上10以下であることが好ましく、2以上7以下であることがさらに好ましく、3以上5以下であることが特に好ましい。アスペクト比が10以下であると、形状が安定し、フォトレジストパターンが倒れる可能性が低下するため、細胞捕捉金属フィルタとしての歩留まりが向上する。一方、アスペクト比が1以上であると、細胞捕捉金属フィルタ30としての細胞の捕捉効率が向上し、細胞捕捉金属フィルタとしての取扱い性も向上する。
(金属めっきパターン形成工程)
現像工程の後、金属箔52上に金属めっきを行い、金属めっきパターン55を形成する。めっきの方法としては、例えば、はんだめっき、ニッケルめっき、及び金めっきが挙げられる。このめっき層が最終的に金属シートとなり、後の工程でフォトレジストパターンが除去されて細胞捕捉金属フィルタシートの貫通孔になるので、フォトレジストパターンを塞いでしまわないようフォトレジストパターンの高さより低くめっきすることが重要である。
金属めっきの金属種としては金、銀等の貴金属、アルミニウム、タングステン、ニッケル、クロム等の卑金属、及びこれらの金属の合金が例示できるがこれらに限定するものではない。金属は単体で用いてもよく、機能性を付与するために他の金属との合金又は金属の酸化物として用いてもよい。これらの中でも、腐食等の発生を防止し、加工性、コスト面にも優れることから、ニッケル及びニッケルを主成分とする金属を用いることが好ましい。ここで主成分とは、材料のうち最も多くの割合を占める成分をいう。
(金属めっきパターンとフォトレジストパターンからなる構造物を得る工程)
金属めっきパターン55を形成した後、金属箔52を化学的に溶解して除去する。これにより、人手作業(手剥がし)によらずに金属フィルタとなる金属めっきパターン405とフォトレジストパターン53a、53bとからなる構造物を回収することができる。このため、シワ、折れ、キズ、カール等のダメージや、微細な連結貫通孔の変形を生じることなく、金属フィルタを製造することができる。金属箔を溶解する化学的溶解剤としては、メックブライトSF−5420B(商品名、メック株式会社製)、銅選択エッチング液−CSS(日本化学産業株式会社)等を使用することができる。
(フォトレジストパターンを除去する工程)
続いて、フォトレジストパターン53a、53bを、例えば現像に用いたアルカリ性水溶液より更に強アルカリ性の水溶液により除去する。この強アルカリ性の水溶液としては、例えば、1質量%〜10質量%水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液を用いることが好ましく、1質量%〜5質量%水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液を用いることがより好ましい。レジストパターン(フォトレジストの硬化物)を除去することにより、金属めっきパターン55のみを回収することができる。この金属めっきパターン55が金属フィルタとなる。レジストパターンの除去方式としては、浸漬方式、スプレー方式、超音波を用いる方式等が挙げられ、これらは単独で用いても併用してもよい。
以上の工程を経ることにより、一体成形された細胞捕捉金属フィルタシート300が得られる。
上記の製造方法で得られた細胞捕捉金属フィルタシート300の一部を細胞捕捉金属フィルタ30として使用する場合には、細胞捕捉金属フィルタシート300を切離線Lに沿って切り離し、細胞捕捉金属フィルタ30の個片とすることで使用する。この場合、切離線Lが、小孔が連続して設けられた所謂ミシン目線により構成されている場合には、細胞捕捉金属フィルタシート300を折り曲げることで細胞捕捉金属フィルタ30を容易に分離することができる。特に、所謂ミシン目が一次元方向に延びたものである場合は、一方向へ折り曲げるのみで細胞捕捉金属フィルタ30を容易に分離することができる。
(細胞捕捉デバイス)
図4は、本発明の実施形態に係る細胞捕捉デバイスの構成を説明する概略斜視図である。図1に示す細胞捕捉デバイス1は、内部に設けられたフィルタにより、体液中の特定の細胞を捕捉する機能を有する。特に好適な例として、CTCと呼ばれる循環癌細胞を含む血液中から、血液中に含まれる赤血球、血小板及び白血球(以下、これらを総称して「血球成分」とする)を通過させる一方で、CTCを捕捉する機能を有する。フィルタにより捕捉された細胞は、内部に洗浄液、染色液等を導入することにより染色処理が施された後、顕微鏡等による観察が行われる。
図4に示す細胞捕捉デバイス1は、筐体10と、筐体10の内部に設けられて被検液を通過させるフィルタとを備える。ここで、被検液とは、細胞が分散した液である。また、筐体10は、蓋部材100と収納部材200とを含んで構成され、後述する蓋部材側ガイド部又は収納部材側ガイド部によって囲まれる部分の寸法及び形状としては、作業性及び観察性の観点から、平面視における一辺の長さが10mm〜100mmの略正方形であることが好ましい。また、その一辺の長さは、15mm〜70mmであることがより好ましく、20mm〜30mmであることが更に好ましい。また、筐体10の厚さは、観察機器の高さ方向の可動範囲の観点から、2mm〜20mmであることが好ましく、3mm〜15mmであることがより好ましく、5mm〜10mmであることが更に好ましい。
蓋部材100と収納部材200は、これらが重ね合わされた方向(フィルタと交差する方向)の両側から四つの固定部材60(60A〜60D)により挟まれて、互いに固定されている。四つの固定部材60は、細胞捕捉金属フィルタ30を囲うように、筐体10の周縁部に配置されている。
蓋部材100及び収納部材200の材料としては、剛性の比較的高いものを選定することが好ましい。これにより、細胞捕捉デバイス1を組み立てて固定する際の加圧による変形を抑制することができる。ただし、剛性が高すぎると嵌合部に応力がかかったときに細胞捕捉金属フィルタ30を傷付けることになる。ここで、材料の剛性は、例えばヤング率で表すことができる。したがって蓋部材100及び収納部材200の材料としては、室温におけるヤング率で0.1GPa〜100GPaのものが好ましく、1GPa〜10GPaのものがより好ましい。ヤング率は、一般的に知られるユーイング法によって測定できる。
更に、蓋部材100は、観察対象の細胞を検出する時に使用する波長の光、特に可視光領域の光に対して透光性を有する材料からなることが好ましい。蓋部材100の材料としては、ガラス、石英ガラス、プラスチック(特にアクリル樹脂)、ポリジメチルシロキサン等の高分子が挙げられるがこれらに限定されない。蓋部材100と収納部材200とは必ずしも同一材料である必要はないが、組み立て時に嵌合部にかかる応力が蓋部材側と収納部材側に均等にかかる観点から同一材料であることが好ましい。蓋部材100及び収納部材200の材料としては、デバイスの量産が可能であることから、低自家蛍光性のアクリル樹脂が好ましく、ポリメチルメタクリレートが特に好ましい。一般的に、癌細胞等を観察する場合には、対象となる細胞に蛍光試薬による染色処理を行った後、波長が300nm〜800nmの紫外光又は可視光領域の光を照射して、蛍光観察を行う。そのため、蓋部材100としては、前記波長域の光の照射時に材料自体が発しないように、自家蛍光が低い材料を選定することが好ましい(これを「低自家蛍光性」と呼ぶ。)。一般的に、芳香環を有する有機高分子、例えばポリスチレン、ポリカーボネート等の樹脂は、自家蛍光性が強く、上記の目的に適さない場合が多い。
蓋部材100は、観察対象の細胞が含まれる被検液及びフィルタ上に捕捉された細胞の染色処理等を行うための処理液を内部に導入するための導入流路101、102を有する(図5も参照)。また、収納部材200は、被検液を内部から外部へ排出するための排出流路201を有する。なお、以下の説明においては導入流路101、102が取り付けられる方向をX軸方向とし、X軸に対して直交する水平方向をY軸方向とし、X軸及びY軸に直交する垂直方向をZ軸方向とする。
次に、細胞捕捉デバイス1の構成について詳細に説明する。まず蓋部材100、収納部材200、固定部材60及びフィルタの構成についてそれぞれ説明した後に、これらを組み立てた細胞捕捉デバイスについて説明する。
(蓋部材)
まず蓋部材100について説明する。図5〜7は、蓋部材100の構成を説明する図であり、図5は、蓋部材100についての上方からの概略斜視図であり、図6は、蓋部材100についての下方からの概略斜視図であり、図7は、図5のVII−VII断面の矢視図である。
図5〜7に示すように、蓋部材100は、略正方形状の板部材からなる本体部110に対して、本体部110の側縁からX軸方向に沿って外部に突出するように2つの流路部105、106が取り付けられる。流路部105、106は、X軸方向から蓋部材100を見たときに互いに異なる位置となるように、Y軸方向に沿って中心からずれた位置に取り付けられている。ここでは、図7に示す流路部106について説明するが、流路部105においても同様の構成とされている。
蓋部材100には、細胞捕捉金属フィルタ30を被検液が通過するための凹型の空隙からなる導入領域120が設けられる。導入領域120は、細胞捕捉デバイス1を上方から見たときに、蓋部材100と収納部材200の間に取り付けられた細胞捕捉金属フィルタ30のうち貫通孔32が設けられる領域(フィルタ領域33)を含むように、フィルタ領域33の上方に設けられる。導入領域120の角部には、接続用の穿孔109、113を介して導入流路101、102が接続される。導入領域120は、導入流路101、102から導入された被検液又は処理液を細胞捕捉金属フィルタ30の貫通孔32に対して誘導するための空間となる。
ここで、図7を用いて、導入流路102について更に説明する。流路部106には、その内部において、X軸に沿って延びる導入流路102が設けられる。導入流路102は、導入口102Aと、導入口102Aから内部に伸びる流路102Bと、流路102Bに接続して流路102Bよりも口径が小さい流路102Cとを含んで構成される。更に、流路102Bと流路102Cとの間には、流路部106を垂直方向(Z軸方向)に貫通する穿孔111が設けられる(他方、流路部105については穿孔107が設けられる)。この穿孔111には、流路開閉弁(流路開閉機構)として機能する穿孔が設けられたバルブが挿通される。これにより、流路102Bの開閉がこのバルブにより行われる。更に、導入領域120と導入流路102とを接続する穿孔113が導入流路102の本体部110側の端部に導入流路102と連通するように設けられる。これにより、導入口102Aから導入される液(被検液又は処理液)は、流路102B、流路102C及び穿孔113を経て、導入領域120へ送られる。
導入領域120の周縁には、導入領域120に導入された液が外側に漏出することを防ぐための第1の突出部125が本体部110から下方に伸びるように設けられる。第1の突出部125は、蓋部材100を下方から見たときに、図6に示すように、XY平面において、略四角形形状をなすと共に2枚羽の風車のように導入流路101、102に通じる穿孔109、113に接続する領域だけ四角形形状の外周から突出した形状をなしている。ここで、第1の突出部125と、後述する細胞捕捉金属フィルタ30との接触面の幅は、狭すぎると十分な平面が得られず、一方、幅が広すぎると面圧が低くなりすぎて液封止の効果が得られない。したがって、第1の突出部125の幅は0.1mm〜2mmが好ましく、0.5mm〜1mmがより好ましい。また、第1の突出部125の高さは、高いと細胞捕捉金属フィルタ30を挟み込む時の圧力を高くすることができ、液の滲出防止効果がより高くなる。ただし、この壁が高過ぎると、細胞捕捉デバイス1の全体の厚さが増し、細胞捕捉デバイスの観察操作に支障を生じる恐れがあるため、0.05mm〜1mmが好ましく、0.1mm〜0.8mmがより好ましい。
また、第1の突出部125と離間して設けられ第1の突出部125の周縁を囲むように四角形形状の凸部からなる第1の嵌合部130が形成されている。第1の嵌合部130のX軸方向又はY軸方向の一辺の長さとしては、蓋部材100の強度及び細胞捕捉金属フィルタ30の嵌合性の観点から、8mm〜30mmが好ましく、10mm〜25mmがより好ましく、15mm〜20mmが更に好ましい。また、第1の嵌合部130の各辺を構成する凸部の幅は、1mm〜5mmが好ましく、1mm〜3mmがより好ましく、1.5mm〜2mmが更に好ましい。なお、図7に示すように第1の嵌合部130の高さは第1の突出部125よりも高い。更に、本体部110の外縁のうちY軸方向に沿って延びる側に対してのみ、下方(図6において上方)に突出する位置合わせ壁135が流路部105、106と接続するように設けられている。これは、細胞捕捉デバイス1を組み立てる際に蓋部材100と収納部材200との位置合わせ及び方向合わせを行うために用いられる。
図5に示すように、略正方形状をなす本体部110において、組み立てた際に上面となる面の四辺の周縁部には、それぞれ端部(角部)付近を始点としそれぞれの周縁部に沿って、平面視反時計回りとなる向きに延びる蓋部材側ガイド部151(151A〜151D)が設けられている。蓋部材側ガイド部151は、蓋部材100の上方に向って突出する突起であり、これに後述する固定部材60の爪が係合することにより固定部材60がスライドする方向を規定するものである。四つの周縁部のうち、側縁に流路部105、106が取り付けられている周縁部においては、流路部105、106により分断されている周縁部のうち、距離が長い側に蓋部材側ガイド部151A、151Bがそれぞれ設けられている。すなわち、蓋部材側ガイド部151A及び蓋部材側ガイド部151Bは、平面視において本体部110の中心に関して対角となる位置に設けられている。一方、流路部105、106が取り付けられていない残りの周縁部においては、本体部110をY軸方向から見たときに、流路部105、106のうち手前側に位置する流路部が取り付けられている側に蓋部材側ガイド部151C、151Dがそれぞれ設けられている。すなわち、蓋部材側ガイド部151C及び蓋部材側ガイド部151Dは、平面視において本体部110の中心に関して対角となる位置に設けられている。なお、図5に示すように、蓋部材側ガイド部151A〜151Dの始点と本体部110の上面との段差部分は、斜めに面取りされている。
蓋部材側ガイド部151(151A〜151D)は、本体部110の各周縁部において本体部110の端部付近を始点として略中央部まで延びており、略中央部からは、蓋部材側ストッパ152(152A〜152D)が連設され、引き続き周縁部に沿って延びている。蓋部材側ストッパ152A〜152Dは、蓋部材側ガイド部151A〜151Dよりも高い高さを有する突起であり、後述する固定部材60が蓋部材側ガイド部151A〜151Dに沿ってスライドする限界位置を規定するものである。蓋部材側ストッパ152A〜152Dは、各周縁部における蓋部材側ガイド部151A〜151Dの始点とは反対側の端部付近にまで延びている。流路部105、106が取り付けられている周縁部における蓋部材側ストッパ152A、152Bは、一部が流路部105、106の付け根部分と一体化している。
なお、蓋部材側ガイド部151A、151B及び蓋部材側ストッパ152A、152BのX軸方向の幅は、蓋部材側ガイド部151C、151D及び蓋部材側ストッパ152C、152DのY軸方向の幅よりも大きくされている。この理由については後述する。
(収納部材)
次に、収納部材200について説明する。図8〜10は、収納部材200の構成を説明する図であり、図8は、収納部材200についての上方からの概略斜視図であり、図9は、収納部材200についての下方からの概略斜視図であり、図10は、図8のX−X断面の矢視図である。
図8〜10に示すように、収納部材200は、略正方形状の板部材からなる本体部210に対して、本体部210の側縁からY軸方向に沿って外部に突出する流路部205が取り付けられる。流路部205は、本体部210の側縁の中央に取り付けられる。
収納部材200には、細胞捕捉金属フィルタ30を通過した被検液が通過する凹型の空隙からなる排出領域220が設けられる。排出領域220は、細胞捕捉デバイス1を上方から見たときに、収納部材200に取り付けられた細胞捕捉金属フィルタ30のうち貫通孔が設けられる領域を含むように、細胞捕捉金属フィルタ30が取り付けられる領域の下方に設けられる。排出領域220は、接続用の穿孔209を介して排出流路201に接続され、排出流路201を経て被検液を外部に排出する空間となる。
ここで、図10を用いて、排出流路201について更に説明する。流路部205には、その内部において、Y軸に沿って延びる排出流路201が設けられる。排出流路201には、排出口201Aと、排出口201Aから内部に伸びる流路201Bと、流路201Bに接続して流路201Bよりも口径が小さい流路201Cとを含んで構成される。更に、流路201C上には、流路部201を垂直方向(Z軸方向)に貫通する穿孔207が設けられる。この穿孔207には、流路開閉弁として機能する穿孔が設けられたバルブが挿通される。これにより、流路201Cの開閉がこのバルブにより行われる。更に、排出領域220と排出流路201とを接続する穿孔209が排出流路201の本体部210側の端部に排出流路201と連通するように設けられる。これにより、細胞捕捉金属フィルタ30を経て排出領域220に到達した液(被検液又は処理液)は、穿孔209、流路201C及び流路201Bを経て、排出口201Aへ送られる。
排出領域220の周縁には、細胞捕捉金属フィルタ30のXY平面における高さばらつきを抑制し、平坦化するための第2の突出部225が本体部210から上方に伸びるように設けられる。第2の突出部225は、収納部材200を上方から見たときに、図8に示すように、XY平面において、略四角形形状をなすと共に2枚羽の風車のような形状をなしていて、これは、蓋部材100の第1の突出部125と対応する形状とされている。ここで、第2の突出部225と、後述する細胞捕捉金属フィルタ30との接触面の幅は、狭すぎると十分な平面が得られず、一方、幅が広すぎると面圧が低くなりすぎて液封止の効果が得られない。したがって、第2の突出部225の幅は0.1mm〜3mmが好ましく、0.5mm〜2mmがより好ましい。また、第2の突出部225の高さは、高いと細胞捕捉金属フィルタ30を挟み込む時の圧力を高くすることができ、液の滲出防止効果がより高くなる。ただし、この壁が高過ぎると、細胞捕捉デバイス1の全体の厚さが増し、細胞捕捉デバイスの観察操作に支障を生じる恐れがあるため、0.05mm〜1mmが好ましく、0.1mm〜0.8mmがより好ましい。
また、第2の突出部225と離間して設けられ第2の突出部225の周縁を囲むように四角形形状の凹部からなる第2の嵌合部230が形成されている。この第2の嵌合部230は、蓋部材100の第1の嵌合部130と対応するように設けられている。第2の嵌合部230のX軸方向又はY軸方向の一辺の長さとしては、第1の嵌合部130の収容性の観点から、第1の嵌合部130よりも広めであることが求められ、9mm〜31mmが好ましく、16mm〜26mmがより好ましく、16mm〜21mmが更に好ましい。また、第2の嵌合部230の各辺を構成する凹部の幅は、1.1mm〜6mmが好ましく、1.1mm〜4mmがより好ましく、1.6mm〜3mmが更に好ましい。なお、本実施形態では、第1の嵌合部130が凸部で第2の嵌合部230が凹部である例を説明しているが、これらが逆の構成であってもよい。
収納部材200の第2の嵌合部230及び蓋部材100の第1の嵌合部130との寸法の差は、細胞捕捉金属フィルタ30の厚さを考慮して定めることが好ましい。第2の嵌合部230の内側と第1の嵌合部130の内側との差(部材中心からみて嵌合部の内側の差)は0.005mm〜0.3mmが好ましく、0.005mm〜0.2mmがより好ましく、0.005mm〜0.1mmが更に好ましい。第2の嵌合部230の内側と第1の嵌合部130の内側との差が細胞捕捉金属フィルタ30の厚さよりも小さい場合は、細胞捕捉金属フィルタ30の厚さよりも隙間がなくなるが、蓋部材と収納部材がプラスチック製であると、比較的弾性があり、細胞捕捉金属フィルタ30を嵌合したときの固定力が増すので好ましい。
また、収納部材200には、第2の嵌合部230とは別に本体部210の外縁のうち排出流路201が設けられる外縁の延びる方向(X軸方向)と直交する方向、すなわち、Y軸方向に沿って延びる側に対してのみ、位置合わせ溝235が設けられている。これは、細胞捕捉デバイス1を組み立てる際に蓋部材100と収納部材200との位置合わせ及び方向合わせを行うために用いられる。また、本体部210の外縁のうち排出流路201が設けられる外縁が延びる方向と同じ方向(X軸方向)には、上方に向けて延びて蓋部材100の側部を覆う覆い部250が設けられている。
図9に示すように、略正方形状をなす本体部210において、組み立てた際に下面(表に露出する面)となる面の四辺の周縁部には、それぞれ端部(角部)付近を始点としそれぞれの周縁部に沿って延びる収納部材側ガイド部251(251A〜251D)が設けられている。収納部材側ガイド部251A〜251Dは、収納部材200の下方(図9において上方)に向って突出する突起であり、これに後述する固定部材60の爪が係合することにより固定部材60がスライドする方向を規定するものである。各収納部材側ガイド部251A〜251Dは、収納部材200と蓋部材100とを組み立てた際に蓋部材側ガイド部151A〜151Dのそれぞれと筐体10の厚さ方向において対応する位置に設けられている。例えば、流路部205が取り付けられている周縁部においては、図9における本体部210を流路部205を手前としてY軸方向から見たときに、図示右側となる側に収納部材側ガイド部251Cが設けられている。なお、図9に示すように、収納部材側ガイド部251A〜251Dの始点と本体部210の上面との段差部分は、斜めに面取りされている。
収納部材側ガイド部251(251A〜251D)は、本体部210の各周縁部において本体部210の端部付近を始点として略中央部まで延びており、略中央部からは、収納部材側ストッパ252(252A〜252D)が連設され、引き続き周縁部に沿って延びている。収納部材側ストッパ252A〜252Dは、収納部材側ガイド部251A〜251Dよりも高い高さを有する突起であり、後述する固定部材60が収納部材側ガイド部251A〜251Dに沿ってスライドする限界位置を規定すると共に、細胞捕捉デバイス1の使用時及び観察時には細胞捕捉デバイス1の脚として機能するものである(図10参照)。収納部材側ストッパ252A〜252Dは、各周縁部における収納部材側ストッパ252A〜252Dの始点とは反対側の端部付近にまで延びている。流路部205が取り付けられている周縁部における収納部材側ストッパ252Cは、一部が流路部205の付け根部分と一体化している。
なお、上記の蓋部材100及び収納部材200がアクリル樹脂等のプラスチック製である場合には射出成形によって製造することができる。ただし、蓋部材100及び収納部材200の製造方法は上記に限定されない。
(固定部材)
次に、固定部材60について説明する。図11(A)は固定部材60の斜視図であり、図11(B)は固定部材60の正面図である。固定部材60は、横断面が略四角形の筒状体の側部の一面が開放された形状(すなわち、横断面U字形)をなす一体成形された部材であり、蓋部材100及び収納部材200を、これらが重ね合わされた方向(細胞捕捉金属フィルタ30と交差する方向)の両側から押圧するように挟んで固定するものである。
固定部材60は、U字形の内面部分且つU字形の先端部分において、蓋部材100及び収納部材200を挟むべき方向に互いに対向して突出する爪61、61を有しており、この爪61、61は、上記「略四角形の筒状体」の高さに相当する方向に延びている。すなわち、爪61、61は、固定部材60が筐体10の周縁部に配置されるにあたって蓋部材100及び収納部材200の周縁部に沿う方向に延びており、蓋部材側ガイド部151及び収納部材側ガイド部251に係合することにより蓋部材側ガイド部151及び収納部材側ガイド部251に沿ってスライド可能となる。ここで、固定部材60のスライド方向の長さは、より均一に押圧させる観点から、3mm〜20mmが好ましく、4mm〜15mmがより好ましく、5mm〜10mmが更に好ましい。当該長さは、当該固定部材60を装着する筐体10の周縁部の一辺の長さに対する割合としては、0.2〜0.4が好ましい。
筐体10の周縁部を均一な荷重で押圧して固定する観点からは、用いる複数の固定部材60としては同質のものを用いることが好ましい。例えば、同形状且つ同サイズのもの、又は押圧力のばらつきの小さいものを用いることが好ましい。
固定部材60の材料としては、適度な弾性(ヤング率として2GPa〜5GPa)を有し、引張り強度にも優れ(500kg/cm2以上)、且つ伸び率が10%〜100%の範囲の材質が好ましく、ポリカーボネートまたはポリアセタール樹脂が好ましい。
(細胞捕捉金属フィルタ)
次に蓋部材100と収納部材200との間に設けられる細胞捕捉金属フィルタ30について図12を用いて説明する。
細胞捕捉金属フィルタ30は、細胞捕捉金属フィルタシート300を切離線Lに沿って折り曲げることで細胞捕捉金属フィルタシート300から分離させて得られる。図12に示すように、細胞捕捉金属フィルタ30は、略正方形状の金属シート31の中央付近に、厚さ方向に複数の貫通孔32が形成されているフィルタ領域33が形成されたものである。貫通孔32の形状は、長方形の角が面取りされた所謂角丸長方形である。図12では、説明のために、細胞捕捉金属フィルタ30の主面に沿ったXY座標軸を記載している。細胞捕捉金属フィルタ30では、複数の貫通孔32の長辺がそれぞれX軸方向に沿って形成されている。
細胞捕捉金属フィルタ30ではフィルタ領域33の外側においてフィルタ領域33を囲うように、細胞捕捉のための貫通孔32が形成されていない外周領域34が形成されている。
細胞捕捉金属フィルタ30を形成する金属シート31の材質は、金属が主成分である。ここで、主成分とは金属シート31を形成する材料のうち最も割合の多い成分をいう。細胞捕捉金属フィルタ30のシートの材質の主成分として金属を用いることによって、貫通孔32のサイズのばらつきが少なく高い分離精度で細胞を分離、濃縮できる。また、金属はプラスチック等の他の材料と比べて剛直であるため、外部から力が加わってもそのサイズ又は形状が維持されやすい。このため、貫通孔32の孔径よりも若干大きな血液成分(特に白血球)を変形させて通過させ、高精度の分離、濃縮が可能になると考えられる。白血球の中には分離、濃縮の対象となる細胞と同じ程度のサイズを有するものが存在し、サイズの違いだけでは対象の細胞のみを高濃度で区別できない場合がある。しかしながら、白血球は上記細胞よりも変形能が大きいため、吸引又は加圧等による外部の力により、白血球自身より小さな孔を通過することができ、上記細胞と白血球を分離、又は、上記細胞を濃縮することが可能になると考えられる。ここで、「濃縮」とは、被検液を細胞捕捉デバイスに通液する前後において、白血球の数に対する分離、濃縮の対象となる細胞の数の存在割合が高まることを意味する。
金属シート31に用いられる金属の材質は、金、銀、銅、アルミニウム、タングステン、ニッケル、クロム及びこれらの金属の合金が例示できるが、これらに限定するものではない。また、金属は単体で用いてもよく、機能性を付与するために他の金属との合金又は金属の酸化物として用いてもよい。価格又は入手の容易さの観点から、ニッケル、銅、金及びこれらを主成分とする金属を用いることが好ましく、特にニッケルを主成分とする金属が用いられることが好ましい。また、金属シート31がニッケルを主成分とする材料から形成される場合、ニッケルの表面に金めっきがされていることが好ましい。金めっきによって、細胞捕捉金属フィルタ30の表面の酸化を防止できるため、細胞及び血球成分の細胞捕捉金属フィルタ30に対する付着性が一様となり、データの再現性を高めることができる。
細胞捕捉金属フィルタ30の厚さは、3μm〜100μmであることが好ましく、より好ましくは10μm〜30μmである。膜厚を上記の範囲とした場合、細胞捕捉金属フィルタ30の取り扱いが容易であり、精密加工にも適している。また、細胞捕捉金属フィルタ30のフィルタ領域33の平面の高低差は顕微鏡でフィルタ表面の端部と中央部の合計5箇所を観察したときの焦点距離の最大と最小の差にして16μm以下であることが好ましい。
また細胞捕捉金属フィルタ30のサイズの大きさは、細胞捕捉デバイス1の大きさに依存するが、細胞捕捉金属フィルタ30のうち貫通孔32が設けられて、被検液を通過させるフィルタ領域33の大きさは、25mm2〜1000mm2が好ましい。また、フィルタ領域33の大きさは、25mm2〜225mm2がより好ましく、25mm2〜100mm2が更に好ましい。フィルタ領域33のサイズが1000mm2以下である場合には、デッドスペースを減らすことができる。また、25mm2以上とすることで、処理時間を短縮することができる。
また、細胞捕捉金属フィルタ30では、外周領域34の外側の外縁部の四隅(各角)に、それぞれ切込部35が形成されている。切込部35は、略正方形状をなす細胞捕捉金属フィルタ30の隣接する2辺によって挟まれる角部に設けられ、当該角部を挟む2辺からそれぞれ切り込んだ2つの切込辺35A、35Bにより形成される。
四隅の切込部35の大きさ及び形状は共通とされ、切込辺35AはY軸に平行であり、切込辺35Aと交差する切込辺35Bは、X軸に対して傾斜している。このため、切込辺35Aと切込辺35Bとのなす角は直角ではない。そして切込部35が設けられることで、切込部35が形成されている領域から外側に、X軸に沿って延びる折り曲げ領域37Aと、Y軸に沿って延びる折り曲げ領域37Bとが形成される。折り曲げ領域37A、37Bは、それぞれ、切込部35が設けられたことで形成された折り曲げ線38と、折り曲げ線38と平行な金属シートの外縁部39と、切込部35の切込辺35A又は切込辺35Bと、によって形成される。
ここで、折り曲げ領域37にはそれぞれ、細胞捕捉金属フィルタ30の略正方形の各辺の中央部分に、側面T側からフィルタ領域33側へ凹んだ凹部Dを有している。そして、凹部Dにおける側面であって、接続部5が連続していた部分には、細胞捕捉金属フィルタ30と接続部5とを分離した際に生じた凹凸Bが形成されている。
切込辺35AはY軸に沿って延びていることから、切込辺35Aを含んで構成される折り曲げ領域37Aは、凹部Dの部分を無視した場合に略長方形状となる。一方、切込辺35BはX軸に対して交差する方向に延びている。このため、Y軸に沿って延びる外縁部39及び折り曲げ線38と、2つの切込辺35Bと、を含んで構成される折り曲げ領域37Bは、凹部Dの部分を無視した場合に略長方形状にならず、略台形状となる。この結果、細胞捕捉金属フィルタ30の使用者は、折り曲げ領域37の形状に基づいて、細胞捕捉金属フィルタ30の特定の方向を認識することができる。すなわち、この切込辺35Aと、切込辺35Aの始点となる辺とのなす角、及び、切込辺35Bと、切込辺35Bの始点となる辺とのなす角、が互いに異なっている。この切込部35が、細胞捕捉金属フィルタ30におけるフィルタ領域33の方向を識別するための識別部として機能する。
本実施形態に係る細胞捕捉金属フィルタ30の場合、フィルタ領域33における貫通孔32の形状がX軸方向とY軸方向とで異なり、具体的には、貫通孔32の長辺がX軸に沿って延びている。そこで、貫通孔32の延在方向の端部に相当する折り曲げ領域37Bが略台形状となるように切込部35が加工されている。これにより、フィルタ領域33の特定の方向(例えば、貫通孔32の延在方向)を識別することができる。
細胞捕捉金属フィルタ30に設けられる貫通孔32の形状については、図12に示すように、角丸長方形状(端部の角が丸められている長方形)とすることができる。この、角丸長方形状(以下、これと長方形状を総称して「略長方形状」とする)をなす貫通孔の場合、略長方形状の単孔の短辺側の長さの範囲はおおよそ5.0〜15.0μmとすることができる。一方、長辺側の長さは、細胞捕捉金属フィルタ30の大きさに応じて適宜変更することができ、その範囲はおおよそ10μm〜5mmである。なお、細胞捕捉金属フィルタ30に設けられる貫通孔32の孔径は、捕獲対象とする細胞のサイズに応じて変更される。ここで、貫通孔の孔径は、それぞれの貫通孔32を通過できる最も大きい球の直径をいう。例えば、図12における貫通孔32の孔径は、単孔の短辺の長さとすることができる。
なお、貫通孔32の形状については、他の形状に変更することができる。貫通孔の形状についての変形例として代表的なものは、図13で示すように、(A)長方形、(B)角丸長方形(図12のものとは角部の曲率が異なるもの)、(C)角丸長方形(長方形の短辺が円弧状となっている)等が挙げられる。なお、貫通孔の形状は図13で示す例に限定されず、例えば、円形でもよいし、角丸長方形の単孔が連結した波形状としてもよいし、角丸長方形ではなく角が丸められていない長方形の単孔を複数個連結した形状の連結貫通孔としてもよい。
また、細胞捕捉金属フィルタ30における貫通孔の開口率は5%〜50%であることが好ましく、5%〜40%がより好ましく、5%〜30%がさらに好ましい。開口率とは細胞捕捉金属フィルタ30においてフィルタとして機能する領域の面積に対する貫通孔が占める面積の割合であり、分光光度計等を用いて計測して算出することができる。ここで、フィルタとして機能する領域の面積は、複数の貫通孔32と当接すると共に貫通孔を全て含むように形成された矩形のうち最も小さい領域を指す。開口率は、目詰まり防止の観点から大きいほど好ましいが、50%を超えるとフィルタ領域33の強度が低下する可能性がある。また、5%よりも小さいと目詰まりが発生しやすくなり、フィルタ領域33としての性能が低下する場合がある。
(細胞捕捉デバイスの組み立て方法)
次に、図14〜図19を用いて、細胞捕捉デバイス1の組み立て方法について説明する。図14は細胞捕捉デバイス1の構成を説明する分解斜視図であり、図15は蓋部材100、細胞捕捉金属フィルタ30、シール部材(ガスケット)40及び収納部材200を組み立てる前の断面を模式的に示し、図4のXV−XV断面の矢視図の一部に相当する図であり、図16は図15のうちの左側部分のみ拡大した図であり、図17は蓋部材100、細胞捕捉金属フィルタ30、シール部材40及び収納部材200を組み立てた後の図であって図15に対応する図であり、図18は図17のうちの左側部分のみ拡大した図であって図16に対応する図であり、図19は固定部材の装着方法を示す図である。
細胞捕捉デバイス1の組み立て方法の概略としては、図14〜図16に示すように、収納部材200、シール部材40B、細胞捕捉金属フィルタ30、シール部材40A及び蓋部材100をこの順に重ね合わせた後、図17及び図18に示すように、収納部材200と蓋部材100とを嵌合させる。そして、蓋部材100と収納部材200とが嵌合してなる筐体10に固定部材60を装着することにより、蓋部材100と収納部材200とが互いに固定されると共に、細胞捕捉デバイス1の組み立てが完了する。
まず、図14に示すように、Z軸に沿って上方から下方に向かって蓋部材100、蓋部材側シール部材40A、細胞捕捉金属フィルタ30、収納部材側シール部材40B、収納部材200の順に重ねることで、細胞捕捉デバイス1が組み立てられる。このとき、蓋部材100と収納部材200とが一対の位置合わせ壁135と位置合わせ溝235とが対向するような向きとすることで、蓋部材100の流路部105、106はX軸方向に延びる向きとされ、収納部材200の流路部205はY軸方向に延びる向きとされる。これにより、流路部105、106、205が互いに異なる方向に突出する構成となる。
なお、シール部材40(40A、40B)は、蓋部材100の第1の突出部125と細胞捕捉金属フィルタ30との間、及び、収納部材200の第2の突出部225と細胞捕捉金属フィルタ30との間に挟まれる部材である。シール部材40は、第1の突出部125及び第2の突出部225が存在する全ての領域に配置され、且つ、フィルタ領域33を覆わないように、中央がフィルタ領域33の形状に打ち抜かれた環形状とされている。シール部材40の材質としては、弾性を有し筐体10の液密性を保つことができるものであれば特に制限されず、例えばシリコーンゴムが用いられる。また、シール部材40の厚さは0.05μm〜0.3μmが好ましい。
そして、これらを組み立てた後に流路開閉弁として機能するバルブ401、402、403がそれぞれ穿孔107、111、207へ挿入される。これらのバルブ401、402、403には、それぞれ水平方向に伸びる穿孔である流路孔401A、402A、403Aが設けられ、穿孔107、111、207にバルブを挿入した際に、バルブの流路孔がそれぞれ導入流路101、102及び排出流路201に対応する。そして、バルブを回転させることで流路孔と導入流路(又は排出流路)の開閉を切り替えることができる。また、使用時には、ストッパ411、412、413がそれぞれ穿孔109、113、209へ挿入されることで、液の漏出を防ぎ、液の導入及び排出を適切な方向に導く。
ここで、図15〜図18を用いて、細胞捕捉デバイス1を組み立てる際の内部の構成について説明する。
まず、図15及び図16に示すように、収納部材側シール部材40Bを、収納部材200の第2の突出部225の上方となる位置に配置する。
次に、細胞捕捉金属フィルタ30を収納部材200の排出領域220、第2の突出部225、及び第2の嵌合部230の上方となる位置に配置する。
また、このとき、細胞捕捉金属フィルタ30については、切込部35の形状に基づいて、フィルタ領域33の貫通孔32の長手方向がX軸に沿って延びるように配置される。このように、フィルタ領域33の貫通孔32が非常に小さく肉眼では貫通孔32の延在方向が確認できなくても、識別部たる切込部35の形状に基づいて、細胞捕捉金属フィルタ30の載置方向を決定することで、載置方向の再現性を高めることができる。
このように位置合わせを行うことによって、細胞捕捉金属フィルタ30を精度よく配置するだけでなく、細胞捕捉デバイス1を組み立てる際に、細胞捕捉金属フィルタ30の貫通孔の向きを所定の向きに常に同じ向きに配置することを容易に行うことができ、細胞捕捉の再現性をより向上させることができる。
次に、蓋部材側シール部材40Aを細胞捕捉金属フィルタ30の上方となる位置に配置する。そして、蓋部材100を、第1の突出部125と第2の突出部225とが対応する位置に配置し、第1の嵌合部130と第2の嵌合部230とが対応する位置に配置し、これを上下方向に近接させる。
すると、図17及び図18に示すように、第1の突出部125と第2の突出部225がそれぞれ蓋部材側シール部材40A及び収納部材側シール部材40Bを介して細胞捕捉金属フィルタ30を挟む位置まで蓋部材100と収納部材200とを近接させることができる。この時点で、第1の嵌合部130と第2の嵌合部230とはその一部が嵌合した状態で止まる。このとき、細胞捕捉金属フィルタ30は、第1の突出部125と第2の突出部225とによって挟み込まれることにより、支持されると共に、更に外側では第1の嵌合部130と第2の嵌合部230とに挟まれる。この結果、主に蓋部材100の押し下げにより細胞捕捉金属フィルタ30の折り曲げ領域37が下方に折り曲げられる。そして、細胞捕捉金属フィルタ30の内側の中心部から外側に向かって周囲から押し付けられるように挟み込まれることで、中央から周囲に向かって引っ張られる力がかかり、張力をかけた状態で細胞捕捉金属フィルタ30が蓋部材100と収納部材200との間に嵌合される。これによって、フィルタ表面の高さばらつきが抑制され、細胞捕捉金属フィルタ30の平坦性が優れるものとなる。
なお、細胞捕捉金属フィルタ30を蓋部材100及び収納部材200により挟み込む際の力が不均一になると、歪みが生じて細胞捕捉金属フィルタ30にしわが入る又はたるみが生じる恐れがある。したがって収納部材200の第2の嵌合部230及び蓋部材100の第1の嵌合部130は細胞捕捉金属フィルタ30の外縁側全周に設け、細胞捕捉金属フィルタ30を均一に挟み込むように嵌合することが好ましい。ただし、このとき第1の突出部125と第2の突出部225とで細胞捕捉金属フィルタ30を挟むことによって、周方向にも若干の張力が作用してしわになることがある。これに対して、細胞捕捉金属フィルタ30の四隅に設けられた切込部35が、しわの逃げ部として機能する。
また、治具を用いて収納部材200と細胞捕捉金属フィルタ30との位置合わせをした後においては、蓋部材100と収納部材200を重ね合わせる前に治具は取り除いておく。即ち、細胞捕捉金属フィルタ30は、収納部材200に対して位置合わせはされたが、位置は固定されていない状態にある。このため、細胞捕捉金属フィルタ30は筐体10内部に最終的に固定されるまでは引っ張り力等に対して物理的な障害がなく位置変化に対応できるため、細胞捕捉金属フィルタ30が蓋部材100と収納部材200との間に固定される際に、しわ等が一層発生しにくい。
次に、固定部材60の装着方法について説明する。図19に示すように、蓋部材側ガイド部151C及びこれに対応する収納部材側ガイド部251Cの始点に対して、固定部材60Cを、U字形の開放部を筐体10側に向けた状態でX軸方向から接近させて、爪61、61を蓋部材側ガイド部151C及び収納部材側ガイド部251Cにそれぞれ係合させる。そして、X軸方向に固定部材60Cをスライドさせることで、固定部材60Cの装着が完了する。このとき、固定部材60Cの側部が蓋部材側ストッパ152Cの側部及び収納部材側ストッパ252Cの側部に当たるまで固定部材60Cをスライドさせてもよいし、当てさせないで途中でスライドを止めてもよい。
同様に、固定部材60Bを筐体10に装着するには、蓋部材側ガイド部151B及びこれに対応する収納部材側ガイド部251Bの始点である端部に対して、固定部材60Bを、U字形の開放部を筐体10側に向けた状態でY軸方向から接近させて、爪61、61を蓋部材側ガイド部151B及び収納部材側ガイド部251Bに係合させる。そして、Y軸方向に固定部材60Bをスライドさせることで、固定部材60Bの装着が完了する。なお、固定部材60のU字形の内面間の距離に対して、固定部材60が挟む部分の筐体10の厚さ即ち蓋部材側ガイド部151及び収納部材側ガイド部251の外表面間の距離のほうが大きい。筐体10のうち、固定部材60のU字形の内面間の距離よりも厚い部分を挟み込むことによって、細胞捕捉金属フィルタ30を平坦に張った状態で固定することができる。シール部材を挿入する場合には、蓋部材側ガイド部151及び収納部材側ガイド部251の外表面間の距離は、収納部材200、シール部材40B、細胞捕捉金属フィルタ30、シール部材40A及び蓋部材100をこの順に重ね合わせたときの距離となる。固定部材60のU字形の内面間の距離と蓋部材側ガイド部151及び収納部材側ガイド部251の外表面間の距離の差は、0mm〜0.3mmが好ましく、0mm〜0.25mmがより好ましく、0.005mm〜0.2mmが更に好ましい。
蓋部材側ガイド部151B及び151Cの幅に着目すると、収納部材200の覆い部250の厚さの分だけ、蓋部材側ガイド部151BのX軸方向の幅が、蓋部材側ガイド部151CのY軸方向の幅よりも大きくなっている。上述のように蓋部材側ガイド部151B及び蓋部材側ストッパ152BのX軸方向の幅が、蓋部材側ガイド部151C及び蓋部材側ストッパ152CのY軸方向の幅よりも大きくされていることで、筐体10の外縁と蓋部材側ガイド部151B、151Cの固定部材60の爪61が係合する部分との距離が等しくなっている。すなわち、同形状及び同サイズの固定部材60を筐体10の各周縁部に装着することが可能となっている。このように同形状及び同サイズの固定部材60を用いることができることは、押圧力の揃った同質の固定部材60を用いることができることを意味し、筐体10の周縁部を均一な荷重で押圧して固定する観点から好ましい。
図19では図示を省略しているが、固定部材60A、60Dについても上記と同様にして筐体10に装着することができる。このようにして四つの固定部材60A〜60Dを装着することにより、細胞捕捉金属フィルタ30を囲うように筐体10の周縁部に固定部材60を配置することができる。
(細胞捕捉システム)
次に、上記の細胞捕捉デバイス1を用いた細胞捕捉システムについて説明をする。図20は細胞捕捉システムの構成を説明するブロック図である。図20に示すように、細胞捕捉システム700は、細胞捕捉デバイス1と、細胞捕捉デバイス1に含まれる2つの導入流路をそれぞれ介して供給される被検液と処理液とを貯留する被検液供給容器71(被検液供給手段)及び処理液供給容器72(処理液供給手段)と、被検液供給容器71と細胞捕捉デバイス1とを接続する被検液供給流路73(被検液供給手段)と、処理液供給容器72と細胞捕捉デバイス1とを接続する処理液供給流路74(処理液供給手段)と、細胞捕捉デバイス1に含まれる排出流路に接続されて排出流路から外部に排出された排液を流すための排液流路75と排液流路75に接続されて排液を回収する排液回収容器76と、細胞捕捉デバイス1に対して供給する液を被検液及び処理液から選択し、流路切り替え等の制御を行う制御部77(選択手段)と、を含んで構成される。
なお流路の切り替え等の制御は制御部77により行われるが、流路の切り替えの具体的な方法としては、例えば、細胞捕捉デバイス1の流路開閉弁の開閉を行う等の方法がある。また、細胞捕捉システム700における送液としては、例えば蠕動ポンプ等を流路に取り付けて行うことが好ましい。また処理液が1種類である例を示したが、複数の処理液供給容器72を設けて、どの処理液を細胞捕捉デバイス1に対して供給するかについても制御部77により制御する構成とすることもできる。
このように、細胞捕捉システム700では、制御部77により、細胞捕捉デバイス1に対して供給する液を選択し、その結果に基づいて、被検液又は処理液を細胞捕捉デバイス1に供給する構成を有することで、従来と比較して被検液中の細胞の捕捉作業を効率よく進めることが可能となる。また、上記細胞捕捉デバイスを用いた細胞捕捉システム700では、細胞の捕捉作業後、細胞捕捉デバイスを分解することなくそのまま顕微鏡の観察台に載せて細胞の有無を作業性よく観察することが可能となる。
(作用及び効果)
本実施形態の細胞捕捉金属フィルタシート300では、シート状の複数の細胞捕捉金属フィルタ30が所定の間隙Sを介して配列されており、当該所定の間隙Sにより、細胞捕捉金属フィルタ30の外形寸法が規定されている。そして、細胞捕捉金属フィルタ30は、接続部との分離を可能とする切離線Lが、細胞捕捉金属フィルタ外縁部における側面T側からフィルタ領域側へ凹んだ凹部D内において設けられている。このため、細胞捕捉金属フィルタ30と接続部5とを分離した場合には、切離しによるバリ等は当該凹部D内に発生するため、細胞捕捉金属フィルタ30の外形寸法には影響しない。従って、細胞捕捉金属フィルタシート300は、細胞捕捉金属フィルタ30の量産に適し、且つ細胞捕捉金属フィルタ30の寸法安定性にも優れている。
また、切離線Lが、所定の間隔を有して配置された複数の小孔310から構成されているため、細胞捕捉金属フィルタシート300を切離線Lに沿って折り曲げることで細胞捕捉金属フィルタ30と接続部5とを容易に分離することができる。
また、凹部Dの形状は、一次元方向に延びる切離線Lと、間隙Sのうち進入部5Aの側面に沿って延び切離線Lの端部に連絡する部分とにより決められている。このように切離線Lが一次元方向に延びている場合、二次元方向に延びている場合と比べて、1回の折曲げで細胞捕捉金属フィルタ30と接続部5とを分離することができる。
また、細胞捕捉金属フィルタ30は略正方形状であり、外縁部39のうち、略正方形を構成する隣接する2辺により挟まれる角部のそれぞれには、角部を挟む2辺からそれぞれ切り込んだ2つの切込辺により形成される切込部35が設けられている。この切込部35は、細胞捕捉金属フィルタ30を細胞捕捉デバイス1に適用する場合に、細胞捕捉デバイス1の蓋部材100と収納部材200との嵌合時に細胞捕捉金属フィルタ30にしわが寄らないための逃げとして機能する。
そして、切込部35は、2つの切込辺と切込辺の始点となる辺とのなす角が互いに異なっているため、フィルタ領域33に形成された貫通孔32を肉眼で見ることができない場合でも、フィルタ領域33の特定の方向を識別することができる。
本実施形態の細胞捕捉デバイス1では、寸法安定性に優れた細胞捕捉金属フィルタ30を使用するため、捕捉性能の再現性が高い。
また、細胞捕捉デバイス1では、蓋部材100の第1の突出部125と収納部材200の第2の突出部225とにより細胞捕捉金属フィルタ30を固定し、更にその外側の第1の嵌合部130と第2の嵌合部230とを嵌合させながら細胞捕捉金属フィルタ30の外周領域34を挟みこむ。これにより、細胞捕捉金属フィルタ30の中心から外側に向けて引っ張られながら細胞捕捉金属フィルタ30が蓋部材100と収納部材200との間に固定されるため、細胞捕捉金属フィルタ30にしわ等が発生せず、内部のフィルタ領域33を通過する被検液に含まれる細胞を好適に捕捉することができる。更に、外周領域34において細胞捕捉金属フィルタ30が第1の突出部125及び第2の突出部225によって両側から挟み込まれるため、細胞捕捉デバイス1の内部に液(被検液又は処理液)を導入した場合に、液の流路は外部から遮蔽されると共に細胞捕捉金属フィルタ30等を伝ってデバイス内での液の拡散を防ぐことができ、外側への液の滲出を防止することができ、フィルタ領域33にて被検液中の細胞を捕捉し、捕捉した細胞をデバイスを解体することなく簡便に且つ精度よく観察することが可能となる。また、第1の突出部125及び第2の突出部225によって、細胞捕捉金属フィルタ30が嵌合して固定されるため、細胞捕捉金属フィルタ30表面の高さのばらつきを低減した状態で固定することが可能となるので、細胞の顕微鏡観察の際の作業性が向上する。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、種々の変更を行うことができる。以下では上記実施形態の変形例について説明する。
(細胞捕捉金属フィルタシートの変形例)
図21は、細胞捕捉金属フィルタシートの変形例の平面図である。細胞捕捉金属フィルタシート300Bは、細胞捕捉金属フィルタシート300とは異なり、凹部Dが略正方形状の細胞捕捉金属フィルタ30Bの各辺の中央付近に設けられているのではなく、細胞捕捉金属フィルタ30Bの4つの角部に設けられている。そして、細胞捕捉金属フィルタ30Bの角部が集合している部分に接続部5Bを有し、接続部5Bが、細胞捕捉金属フィルタ30の凹部Dに進入する進入部を有して複数の細胞捕捉金属フィルタ30Bを互いに接続している。
細胞捕捉金属フィルタシート300Bを切離線Lに沿って折り曲げ、細胞捕捉金属フィルタ30Bと接続部5Bとを切り離した場合、切離しによるバリ等は当該凹部内に発生するため、細胞捕捉金属フィルタ30Bの外形寸法には影響しない。従って、細胞捕捉金属フィルタシート300Bは、細胞捕捉金属フィルタ30Bの量産に適し、且つ細胞捕捉金属フィルタ30Bの寸法安定性にも優れている。
(細胞捕捉デバイスの変形例)
次に、細胞捕捉デバイス1の変形例について説明する。例えば、上記実施形態では、細胞捕捉デバイスとして、固定部材60により支持する構成について説明したが、これに限定されず、例えば、蓋部材100と収納部材200とを溶着により固定する構成とすることもできる。
また、蓋部材100と収納部材200とが重なり合う部分についても変更することができる。例えば、図16、図18等に示されているような第1の突出部125、第2の突出部225、第1の嵌合部130及び第2の嵌合部230を設けなくてもよい。この場合、これらに代えて、図22に示すように、蓋部材100及び収納部材200のいずれも、重なり合う部分を平坦な形状として、細胞捕捉金属フィルタ30を支持する態様としてもよい。なお、図22に示した態様ではガスケットを用いていないが、ガスケットを用いた態様とすると、液密性が優れるのでより好ましい。その際には、蓋部材100及び収納部材200にそれぞれ図15に示すような第1の突出部及び第2の突出部を設けると、液密性がより優れるので更に好ましい。
また、図23に示すように、細胞捕捉デバイス1において第2の嵌合部230が形成されている部分を、細胞捕捉金属フィルタ30との交差方向に深さをもつ溝部230Aとして、これに収容可能な形状である環状の支持部材70を収容した態様としてもよい。ここでは、図18に示す細胞捕捉デバイス1と比べて、第1の嵌合部130の長さは、支持部材70の高さが占める分だけ短くされている。そして、収納部材200に収容された支持部材70が、フィルタ領域33より外周側となる位置(外周領域34)で細胞捕捉金属フィルタ30を収納部材200の溝部230A側に押圧することで、細胞捕捉金属フィルタ30が支持される。
この場合、溝部230AのX軸方向又はY軸方向の寸法(溝の幅)としては、第1の嵌合部130及び支持部材70が収容される収容性の観点から、1.1mm〜6mmが好ましく、1.1mm〜4mmがより好ましく、1.6mm〜3mmが更に好ましい。また、支持部材70のX軸方向又はY軸方向の寸法(一辺を構成する部分の幅)としては、溝部230Aに収容可能な寸法であればよいが、支持部材70と第1の嵌合部130との弾性を利用した反発力によって固定する観点から、支持部材70と溝部230Aとが同寸、又は、支持部材70の方が僅かに溝部230Aよりも大きいことが好ましい。具体的には、支持部材70と溝部230Aとの寸法差が0mm〜0.20mmであることが好ましく、0mm〜0.15mmであることがより好ましく、0mm〜0.10mmであることが更に好ましい。また、支持部材70の厚さ(溝部230Aの深さ方向の長さ)は、0.5mm〜2.0mmであることが好ましく、1.0mm〜1.5mmであることがより好ましい。
上記の態様では、細胞捕捉金属フィルタ30の支持が蓋部材100と収納部材200との嵌合によらず、蓋部材100が開放されても細胞捕捉金属フィルタ30は依然として支持部材70と溝部230Aとの間に挟まれた状態を維持するので、筐体10の解体時に細胞捕捉金属フィルタ30が動くことが一層抑制され、細胞捕捉金属フィルタ30に捕捉された細胞が飛び散るおそれが一層小さい。なお、細胞捕捉デバイス1の第2の嵌合部230は、第2の突出部225の周縁を囲むように四角形形状(すなわち環状)とされているが、図23に示す変形例の溝部230Aは、必ずしも連続した環状に形成されている必要はなく、細胞捕捉金属フィルタ30の折り曲げ領域37の形状に応じて、例えば環の途中が分断された形状に形成されていてもよい。また、支持部材70は、弾性を有する部材からなることが好ましい。具体的には、支持部材70は、ヤング率が0.2GPa〜2GPaの弾性を有し、且つ伸び率が50%〜100%である材料を用いることが好ましく、そのような材料としては、ポリエチレン又はポリプロピレンが好ましい。
また、支持部材70を用いる上記態様では、第1の嵌合部130を完全になくした態様としてもよく、更に、図24に示すように第1の突出部125及び第2の突出部225もなくした態様とすることもできる。なお、図24に示した態様ではガスケットを用いていないが、ガスケットを用いた態様としてもよい。ガスケットを用いた態様とすると、液密性が優れるのでより好ましい。その際には、蓋部材100及び収納部材200にそれぞれ図15に示すような第1の突出部及び第2の突出部を設けると、液密性がより優れるので更に好ましい。また、上記態様では溝部230Aが収納部材200に設けられている例を用いて説明したが、溝部230Aは蓋部材100に設けられていてもよい。