JP2015183195A - 耐食性被膜、伝熱管及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】石炭火力発電のボイラー内部で発生する酸性ガスによって腐食、剥離しないだけでなく、酸性ガスの伝熱管への到達を抑制することが可能な耐食性被膜及びこれが形成された伝熱管を提供する。【解決手段】M−Cr−Al−Y系合金(MはNi、Co、Feの少なくとも1種)からなる下地層と、安定化ZrO2及び徐冷点が600〜800℃の無機ガラスを含む表層とを有する耐食性被膜を基材上に形成したことを特徴とする。【選択図】なし
Description
本発明は、石炭を燃焼し発生した高温ガスから、蒸気や空気等の流体を介して熱エネルギーを回収し発電を行う石炭火力発電等の伝熱管に用いられる耐食性被膜及びこれを形成した伝熱管に関する。
火力発電では石炭や石油、LNGをボイラーで燃焼させ、その高温ガスの熱を使い蒸気を発生させタービンを回転させることで発電を行っている。これらの燃料の石炭や石油特に石炭には多くの硫黄分が含まれ、燃焼ガスには硫化水素や硫黄酸化物のような酸性ガスが含まれる。酸性ガスが含まれる高温ガスに伝熱管が長期に曝されると、酸性ガスにより伝熱管が腐食されてしまう。
このような酸性ガスによる腐食が原因で伝熱管の劣化が起こるため、伝熱管の交換を頻繁に行うことが必要となる。伝熱管の交換は発電コストを高めることになることから、より長期間劣化の起こらない伝熱管が求められている。
特許文献1には、30〜60wt%の硼化物と40〜70wt%の金属間化合物からなり、Cr含有量が20wt%以下であることを特徴とする複合材料、また特許文献2には、下地層としてサーメットまたはセラミックスを溶射によって形成し、下地層表面に酸化物セラミックによる封孔処理を施し、さらにはガラス質被膜を形成した複合被膜が開示されている。
特許文献1によれば、高温環境下で使用する部材への表面保護用皮膜の主成分として、硼化物に着目している。硼化物は、難焼結性で結合相金属との濡れ性が悪い反面、冶金結合時には硼化物どうしが複硼化物を形成して脆化し易いという、複合化材料の成分としては致命的な欠点を有する。そのような問題を解決するために、金属間化合物に着目し、これを硼化物に添加して複合化した材料としている。しかし、特許文献1に記載の金属間化合物は、高温環境下での耐食性が十分とは言えない。
特許文献2によれば、基材がサーメットまたはセラミックスによる溶射被膜で保護され、溶射被膜は酸化物系セラミックスで封孔され、さらに表層にガラス質被膜が形成されているため、貫通気孔が無く、腐食性ガスに対して優れた耐食性を示すだけでなく、基材の使用寿命が著しく向上されるとしている。しかし、ガラス質被膜及び封孔に用いた酸化物系セラミックスは緻密であるために、運転・停止を頻繁に行う火力発電のボイラーに用いると、熱サイクルによる熱膨張、熱収縮に起因する熱応力を緩和することが難しく、被膜が容易に剥離してしまう。結果、基材を保護するのは溶射被膜だけとなる。溶射被膜には一般に気孔が存在することから、この気孔を介して酸性ガスが基材に到達し、基材が腐食してしまう。このように、封孔処理及びガラス質被膜の形成は熱サイクルにより容易に剥離することから基材の長寿命化が図れず、この点で防食効果は小さい。
本発明は上記事情を考慮して成されたものであり、火力発電、特に石炭火力発電において発生する高温の酸性ガスによって腐食、剥離しないだけでなく、酸性ガスの伝熱管への到達を抑制することが可能な耐食性被膜及びこれが形成された伝熱管を提供することを課題とする。
本発明者は鋭意検討の結果、M−Cr−Al−Y系合金(MはNi、Co、Feの少なくとも1種)からなる下地層上に、安定化ZrO2と無機ガラスとで構成される表層を設けることによって、上記課題が解決できることを見出し、本発明として提案するものである。
即ち、本発明の耐食性被膜は、M−Cr−Al−Y系合金(MはNi、Co、Feの少なくとも1種)からなる下地層と、安定化ZrO2及び無機ガラスを含む表層とを有し、前記無機ガラスの徐冷点が600〜800℃の範囲にあることを特徴とする。ここで「徐冷点」は、ASTM C336に基づいて測定される。
上記構成によれば、無機ガラスが安定化ZrO2粒子間の空隙に存在することから、緻密な表層が形成される。それゆえ、この被膜を伝熱管表面に形成すれば、石炭火力発電のボイラーで発生する酸性ガスによって被膜が腐食、剥離しないだけでなく、酸性ガスの伝熱管への到達を抑制することが可能となり、伝熱管本体の劣化を防止することができる。またM−Cr−Al−Y系合金(MはNi、Co、Feの少なくとも1種)からなる下地層が基材と表層の間に介在しているために、表層の密着性が高く、剥離し難い。
また火力発電の伝熱管の温度は500〜1000℃にも達する。このような環境で使用される伝熱管及び耐食性被膜は、この温度域での熱サイクルに耐える必要がある。この熱サイクルにより、表層の安定化ZrO2と無機ガラスは膨張、収縮を繰り返し、その度に熱応力が発生する。本発明においては、徐冷点が600〜800℃である無機ガラスを採用していることから、熱応力が無機ガラスの構造緩和によって低減又は除去される結果、表層の剥離を抑制することができる。
本発明においては、無機ガラスが、質量%でSiO2 50〜65%、Al2O3 0〜5%、CaO 0〜10%、Li2O+Na2O+K2O 10〜20%、Li2O 0〜5%、Na2O 10〜20%、K2O 0〜10%、TiO2 0〜10%、ZrO2 10〜20%含有することが好ましい。ここで「Li2O+Na2O+K2O」は、Li2O、Na2O及びK2Oの合量を示している。
上記構成によれば、徐冷点が600〜800℃であり、且つ耐食性の高い表層を容易に得ることができる。
本発明においては、表層中の無機ガラスの含有割合が5〜30体積%であることが好ましい。
上記構成によれば、緻密で耐食性の高い表層を容易に得ることが可能である。
本発明の被膜は、石炭火力発電の伝熱管に好適に用いられる。
本発明の伝熱管は、上記した耐食性被膜が表面に形成されていることを特徴とする。
上記構成によれば、石炭火力発電のボイラーで発生する酸性ガスによって被膜が腐食、剥離せず、また伝熱管本体の劣化を防止することができる。しかもM−Cr−Al−Y系合金(MはNi、Co、Feの少なくとも1種)からなる下地層が基材と表層の間に介在しているために、表層の密着性が高く、剥離し難い。
本発明の耐食性被膜の製造方法は、基材上にM−Cr−Al−Y系合金(MはNi、Co、Feの少なくとも1種)からなる下地層を形成し、次いで安定化ZrO2粉末及び徐冷点が600〜800℃である無機ガラス粉末をプラズマ溶射して表層を形成することを特徴とする。
上記構成によれば、気孔率が低く緻密であり、且つ600〜1000℃の温度で使用されても剥離が起こりにくい表層を、M−Cr−Al−Y系合金からなる下地層の上に形成することができる。よってこの方法を利用すれば耐食性に優れた伝熱管を製造することができる。
本発明においては、平均粒径10〜105μmの無機ガラス粉末を使用することが好ましい。ここで「平均粒径」とは、レーザー回折散乱法によって任意の粉末の粒径を測定した際、粒子の個数基準で算出されるD50で定義されるものである。
上記構成によれば、緻密な表層を形成することが容易になる。
本発明においては、平均粒径10〜75μmの安定化ZrO2粉末を使用することが好ましい。
上記構成によれば、緻密な表層を形成することが容易になる。
本発明においては、平均粒径10〜75μmのM−Cr−Al−Y系合金(MはNi、Co、Feの少なくとも1種)粉末をガス溶射またはプラズマ溶射することよって下地層を形成することが好ましい。
上記構成によれば、緻密な下地層を形成することが容易になる。
また本発明の伝熱管の製造方法は、上記方法を用いて下地層及び表層を形成することを特徴とする。
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の耐食性被膜は、安定化ZrO2及び無機ガラスを主たる構成成分とする表層と、M−Cr−Al−Y系合金からなる下地層を有している。
本発明において、表層を構成する安定化ZrO2は、ZrO2を主成分とし、Y2O3、MgO、CaO、SiO2、CeO2、Yb2O3、Dy2O3、HfO2等から選ばれた1種類以上の安定化剤を添加したものである。具体的には、ZrO2の含有量が85質量%以上、好ましくは85〜95質量%、安定化剤の含有量が15質量%以下、好ましくは5〜15質量%であるものを意味する。ZrO2の含有量が85質量%以上であれば、表層の耐食性が確保できるとともに、プラズマ溶射後の冷却過程において1000℃付近で発生するZrO2の正方晶や立方晶から単斜晶への相転移も抑制することができる。なおZrO2の含有量が85質量%よりも少ないと、表層の耐食性が低下してしまう。
本発明において、表層を構成する無機ガラスは、徐冷点が600〜800℃、好ましくは600〜750℃であることが好ましい。無機ガラスの徐冷点が低すぎるとガラスの耐熱性が低下することから、ボイラー内部の熱によって軟化し、酸性ガスとの反応性が高くなり、無機ガラスの腐食速度が速くなるおそれがある。無機ガラスの徐冷点が高すぎると、構造緩和が起こりにくくなり、ボイラー内部の熱サイクルにより発生する熱応力で表層が剥離するおそれがある。
無機ガラスは、質量%でSiO2 50〜65%、Al2O3 0〜5%、CaO 0〜10%、Li2O+Na2O+K2O 10〜20%、Li2O 0〜5%、Na2O 10〜20%、K2O 0〜10%、TiO2 0〜10%、ZrO2 10〜20%含有するガラスであることが望ましい。無機ガラスを上記範囲に限定した理由を以下に示す。なお以下の説明では、特に説明のない限り「%」は質量%を意味する。
SiO2は、ガラス骨格構造を形成する主要成分である。また、ガラスの耐酸性を向上させる成分である。SiO2の含有量は50〜65%、特に55〜65%、さらには55〜61%であることが好ましい。SiO2の含有量が少なすぎると、ガラスの耐酸性が低下する。SiO2の含有量が多すぎると、ガラスの徐冷点が高くなりすぎてボイラー内部の熱サイクルにより表層に発生する熱応力を緩和することが困難になる。
Al2O3は、ガラスの化学的耐久性を高める成分である。Al2O3の含有量は0〜5%、特に0〜3%、さらには0〜1%であることが好ましい。Al2O3の含有量が多すぎると、ガラスの徐冷点が高くなりすぎてボイラー内部の熱サイクルにより表層に発生する熱応力を緩和することが困難になる。
CaOは、ガラスの徐冷点を高める成分である。CaOの含有量は0〜10%、特に0〜7%であることが好ましい。CaOの含有量が多すぎると、ガラスの徐冷点が高くなりすぎて、ボイラー内部の熱サイクルにより表層に発生する熱応力を緩和することが困難になる。
アルカリ金属酸化物であるLi2O、Na2O、K2Oはガラスの徐冷点を低くする成分である。Li2O+Na2O+K2Oの含有量は10〜20%、特に12〜20%であることが好ましい。Li2O+Na2O+K2Oの含有量が少なすぎると、ガラスの徐冷点が低くなりすぎて酸性ガスと反応しやすくなる。Li2O+Na2O+K2Oの含有量が多すぎると、ガラスの耐酸性が低下する。
Li2Oはガラスの徐冷点を低くする成分である。Li2Oの含有量は0〜5%、特に0〜3%であることが好ましい。Li2Oの含有量が多すぎると、ガラスの徐冷点が低くなりすぎて酸性ガスと反応しやすくなる。また、ガラスの耐酸性が低下する。
Na2Oはガラスの徐冷点を低くする成分である。Na2Oの含有量は10〜20%、特に10〜18%であることが好ましい。Na2Oの含有量が少なすぎると、ガラスの徐冷点が低くなりすぎて酸性ガスと反応しやすくなる。Na2Oの含有量が多すぎると、ガラスの耐酸性が低下する。
K2Oはガラスの徐冷点を低くする成分である。K2Oの含有量は0〜10%、特に0〜8%であることが好ましい。K2Oの含有量が多すぎるとガラスの耐酸性が低下する。
TiO2は、ガラスの徐冷点を低くする成分である。TiO2の含有量は、0〜10%、特に2〜9%であることが好ましい。TiO2の含有量が多すぎると、ガラスの徐冷点が低くなりすぎて酸性ガスと反応しやすくなったり、プラズマ溶射後の冷却過程でガラスから結晶が析出しやすくなる。ガラスから結晶が析出すると、ガラスの構造緩和による熱応力の低減及び除去の効果が得にくくなる。
ZrO2は、ガラスの耐酸性を向上させる成分である。ZrO2の含有量は10〜20%、特に12〜20%、さらには15〜20%であることが好ましい。ZrO2の含有量が少なすぎると、ガラスの耐酸性が低下する。ZrO2の含有量が多すぎると、プラズマ溶射後の冷却過程でガラスから結晶が析出しやすくなる。ガラスから結晶が析出すると、ガラスの構造緩和による熱応力の低減及び除去の効果が得られにくくなる。
無機ガラスは上記した成分以外にも、種々の成分を含有することができる。
例えばH2、CO2、CO、H2O、He、Ne、Ar、N2等の微量成分をそれぞれ0.1%まで含有してもよい。また、ガラス中にPt、Rh、Au等の貴金属元素を500ppmまで添加してもよい。さらに耐酸性の改善のために、B2O3、MgO、SrO、BaO、ZnO、Fe2O3、P2O5、Cr2O3、Sb2O3、SO3、MnO、SnO2、CeO2、Cl2、La2O3、WO3、Nb2O5、Y2O3等を合量で2%まで含有してもよい。
表層に占める無機ガラスの含有割合は、体積%で5〜30%、特に5〜20%、さらには10〜20%であることが好ましい。無機ガラスの含有割合が低すぎると、無機ガラスの量が少なすぎて、安定化ZrO2粒子間に無機ガラスを十分に分散させることが難しくなり、無機ガラスの存在による気孔率低減効果が得難くなる。一方、無機ガラスの含有割合が高すぎると、相対的に安定化ZrO2の含有割合が低くなることから、表層の耐食性が低下するおそれがある。
表層の気孔率は5%以下、特に4%以下であることが好ましい。表層を緻密にすることによって、酸性ガスが被膜を透過することによって生じる基材の腐食を防止することが可能になる。表層の気孔率が5%よりも高いと、酸性ガスの透過抑制が困難になる。ここで「気孔率が5%以下」とは、表層の断面を走査型電子顕微鏡により倍率1000倍で観察した際に、観察画面の面積に対する表層の割れや空隙の総面積の割合が5%以下であることを意味する。
表層の膜厚は10〜500μm、特に50〜400μm、さらには100〜300μmであることが好ましい。表層の膜厚が小さすぎると、酸性ガスの透過抑制が困難になり易い。一方、表層の膜厚が大きすぎると、ボイラー内部の熱サイクルによって発生する熱応力が大きくなり、表層が剥離しやすくなる。なお表層の気孔率は、溶射粉末(安定化ZrO2粉末や無機ガラス粉末)の粒径を変えることによって調整することができる。
本発明において、下地層を構成するM−Cr−Al−Y系合金(M=Ni、Co、Fe)は、耐高温酸化性や耐高温腐食性に優れた性質を有するNiあるいはCoを主成分とし、Cr、Al及びYを添加した合金である。この種の合金は、伝熱管及び表層の双方に密着し易いという特徴がある。
下地層の気孔率は1%以下であることが好ましい。下地層の気孔率が高いと、酸性ガスの透過抑制が困難になり易い。
下地層の膜厚は10〜500μm、特に50〜400μm、さらには100〜300μmであることが好ましい。下地層の膜厚が薄いと、酸性ガスの透過抑制が困難になり易い。また下地層は、一般に伝熱管と表層の界面に生じる熱膨張特性の相違に起因した熱応力を緩和する効果を有するが、下地層の膜厚が小さすぎると熱応力の緩和効果を得難くなる。一方、下地層の膜厚が大きすぎると、ボイラー内部の熱サイクルによって発生する熱応力が大きくなり、下地層が剥離し易くなる。なお下地層の気孔率は、溶射するM−Cr−Al−Y系合金粉末の粒径を変えることによって調整することができる。
なお本発明の耐食性被膜は、既述の通り、表層及び下地層を有するが、表層及び下地層の間に1層又は2層以上の中間層を設けてもよい。
また本発明の耐食性被膜は、石炭の高温燃焼ガスから、蒸気や空気等の流体を介して熱エネルギーを回収し発電を行う石炭火力発電の伝熱管の保護膜として用いられることが好ましい。ただしこれらに限定されるものでない。例えば、石炭ガス化複合発電、石油火力発電、廃棄物発電、地熱発電等の伝熱管や、ガスタービン、各種エンジン等などにも好適に用いられる。
本発明の伝熱管は、上述の耐食性被膜が形成されていることが好ましい。尚、伝熱管本体の材料としては、Fe、Ni、Co、Crの少なくとも1つを主成分とする金属材料が好ましい。また下地層は伝熱管本体上に直接形成されることが好ましいが、密着性等を向上させる目的で、伝熱管本体と下地層の間に別の層を設けても差し支えない。
次に本発明の耐食性被膜の製造方法を説明する。なお以下の説明において、基材として伝熱管本体を構成する金属管を用いれば、伝熱管を作製することができる。
本発明の方法は、基材上にM−Cr−Al−Y系合金からなる下地層を形成する工程と、下地層の上に安定化ZrO2及び無機ガラスを含む表層を形成する工程を含む。
下地層の形成は、特に制限されるものではないが、高速フレーム溶射(HVOF)のようなガス溶射によって形成されることが好ましい。高速フレーム溶射を用いることで、伝熱管との密着性が良く、気孔率も低い下地層が得られやすくなる。またこの際に用いる溶射粉末には、M−Cr−Al−Y系合金からなる粉末を使用することが好ましい。M−Cr−Al−Y系合金については既述の通りであり、ここではその説明を省略する。また溶射粉末の平均粒径は10〜75μm、10〜53μm、特に10〜45μmであることが好ましい。溶射粉末の粒径が大きいと、ガス溶射によって形成される下層の気孔率が高くなり、酸性ガスの透過抑制が困難になり易い。また溶射粉末の粒径が小さいと溶射粉末をガスあるいはプラズマに供給する、ポートと呼ばれる噴出口の詰まりが発生しやすくなり、任意の膜厚の溶射被膜の形成に時間がかかり、結果的に溶射コストが高くなり易い。
表層は、プラズマ溶射法によって形成される。プラズマ溶射法としては大気圧プラズマ溶射法、真空プラズマ溶射法等の種々の方法を用いることが可能である。またこの際に用いる溶射粉末には、安定化ZrO2粉末及び無機ガラス粉末の混合粉末を使用する。安定化ZrO2及び無機ガラスについては既述の通りであり、ここではその説明を省略する。溶射粉末の平均粒径は、安定化ZrO2粉末については10〜75μm、10〜53μm、特に10〜45μmであることが好ましく、無機ガラス粉末については10〜105μm、10〜75μm、10〜53μm、特に10〜32μmであることが好ましい。これらの溶射粉末の粒径が大きいと、プラズマ溶射によって形成される表層の気孔率が高くなり、酸性ガスの透過抑制が困難になる。また溶射粉末の粒径が小さいと溶射粉末をプラズマに供給する噴出口(ポート)の詰まりが発生しやすくなり、任意の膜厚の溶射被膜の形成に時間がかかり、結果的に溶射コストが高くなり易い。
このようにして基材上に本発明の耐食性被膜を形成することができる。なお密着性等を向上させる目的で、基材と下地層の間、及び/又は下地層と表層の間に他の層を形成しても良い。
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。
表1〜3は本発明の実施例(試料No.1〜8)及び比較例(試料No.9)を示している。
まず、SUS310S基材を脱脂、洗浄後、ブラスト処理を行った。次いで表に示す溶射粉末を用いて高速フレーム溶射し、基材上にCo−Ni−Cr−Al−Y合金からなる下地層を均一な厚みで形成した。なお膜厚の調整は、まず溶射装置を基材と平行に移動させて溶射し、一回あたりにどの程度の膜厚が得られるかを後述の膜厚計を用いて測定し、これを基に溶射の回数を調節することにより行った。
次に、試料No.1〜8については、表に示す溶射粉末を用いて大気圧プラズマ溶射し、下地層の上に8%Y2O3−ZrO2及び無機ガラスからなる表層を均一な厚みで形成した。試料No.9については、同様にして、8%Y2O3−ZrO2からなる表層を形成した。なお膜厚の調整はCo−Ni−Cr−Al−Y合金を溶射する際と同様の方法で行った。また使用した無機ガラスは、質量%でSiO2 57%、Al2O3 0.2%、CaO 0.7%、Li2O 1%、Na2O 12%、K2O 5%、TiO2 5%、ZrO2 19%、Fe2O3 0.1%含有し、徐冷点が620℃であるものを使用した。
このようにして得られた被膜について、気孔率を測定した。結果を表1〜3に示す。
表1〜3から明らかなように、表層材料として無機ガラス粉末を併用した本発明の実施例では、気孔率の小さい表層が形成されており、比較例の被膜に比べ、酸性ガスの透過抑制に優れたものであることが分かる。また表層に含まれる無機ガラスの徐冷点が620℃であることから、ガス温度が600〜1000℃となるようなボイラー内で使用されても、熱応力に起因する表層の剥離が生じ難いと考えられる。
なお無機ガラス粉末は以下のようにして作製した。まず上記組成となるように、天然原料、化成原料等の各種原料を秤量、混合してガラスバッチを作製した。次に、このガラスバッチを白金ロジウム合金製坩堝に投入した後、間接加熱電気炉内で1500℃、5時間加熱して溶融ガラスを得た。なお均質な溶融ガラスを得るために、加熱時に、耐熱性攪拌棒を用いて溶融ガラスを複数回攪拌した。続いて、得られた溶融ガラスを耐火性鋳型内に流し出し、板状のガラスに成形した後、徐冷炉内で650℃で30分保持し、その後室温まで3℃/分で降温した。このようにして得られた試料について、ASTM C336に基づいて徐冷点を測定した。また試料を容量2リットルのボールミルに入れ、アルミナボールと混合粉砕し、篩によって所定の粒度に分級した。
溶射粉末の平均粒径はレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所製 SALD−2000J)で測定した際、粒子の個数基準で算出されるD50の値により確認した。
表層及び下地層の膜厚は、渦電流式の膜厚計(サンコウ電子製 SWT−8000II)で測定することにより確認した。
気孔率は、本発明の実施例及び比較例の断面を走査型電子顕微鏡(日立S−3400 typeII)により観察・断面写真を撮影し、各々の断面写真を画像解析して撮影場所の総面積に対する各層の割れや空隙の総面積の割合として算出した。断面写真の撮影にあたっては、観察モードを二次電子像、倍率を1000倍とし、下地層と表層の任意の3点における画像を取得した。表1に記載の気孔率はこれら3点における気孔率の平均値である。
本発明の耐食性被膜及び伝熱管は、石炭を燃焼し発生した高温ガスから、蒸気や空気等の流体を介して熱エネルギーを回収し発電を行う石炭火力発電等の伝熱管に用いられる耐食性被膜及びこれを形成した伝熱管として有用である。
Claims (10)
- M−Cr−Al−Y系合金(MはNi、Co、Feの少なくとも1種)からなる下地層と、安定化ZrO2及び無機ガラスを含む表層とを有し、前記無機ガラスの徐冷点が600〜800℃の範囲にあることを特徴とする耐食性被膜。
- 無機ガラスが、質量%でSiO2 50〜65%、Al2O3 0〜5%、CaO 0〜10%、Li2O+Na2O+K2O 10〜20%、Li2O 0〜5%、Na2O 10〜20%、K2O 0〜10%、TiO2 0〜10%、ZrO2 10〜20%含有することを特徴とする請求項1に記載の耐食性被膜。
- 表層中の無機ガラスの含有割合が5〜30体積%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐食性被膜。
- 石炭火力発電の伝熱管に用いられることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の耐食性被膜。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の耐食性被膜が表面に形成されていることを特徴とする伝熱管。
- 基材上にM−Cr−Al−Y系合金(MはNi、Co、Feの少なくとも1種)からなる下地層を形成し、次いで安定化ZrO2粉末及び徐冷点が600〜800℃である無機ガラス粉末をプラズマ溶射して表層を形成することを特徴とする耐食性被膜の製造方法。
- 平均粒径10〜105μmの無機ガラス粉末を使用することを特徴とする請求項6に記載の耐食性被膜。
- 平均粒径10〜75μmの安定化ZrO2粉末を使用することを特徴とする請求項6又は7に記載の耐食性被膜の製造方法。
- 平均粒径10〜75μmのM−Cr−Al−Y系合金(MはNi、Co、Feの少なくとも1種)粉末をガス溶射またはプラズマ溶射することよって下地層を形成することを特徴とする請求項6〜8の何れかに記載の耐食性被膜。
- 請求項6〜9の何れかの方法を用いて耐食性被膜を形成することを特徴とする伝熱管の製造方法。
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CN108396278A (zh) * | 2018-05-14 | 2018-08-14 | 北方工业大学 | 长寿命MCrAlY涂层、制备方法和在热端部件的应用 |
JP2018161883A (ja) * | 2016-12-11 | 2018-10-18 | ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ | 低い熱伝導率を有する遮熱コーティング |
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2014
- 2014-03-20 JP JP2014057646A patent/JP2015183195A/ja active Pending
Cited By (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JP2018161883A (ja) * | 2016-12-11 | 2018-10-18 | ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ | 低い熱伝導率を有する遮熱コーティング |
JP7154752B2 (ja) | 2016-12-11 | 2022-10-18 | ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ | 低い熱伝導率を有する遮熱コーティング |
CN108396278A (zh) * | 2018-05-14 | 2018-08-14 | 北方工业大学 | 长寿命MCrAlY涂层、制备方法和在热端部件的应用 |
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