本発明の機械部品は、シリコンを主成分とする第1の部分と、金属を主成分とする第2の部分とを有し、所定の幅を有する機械部品であって、第1の部分は、その幅方向に、前記第2の部分を挟んで構成している。
一般にシリコンは脆性を有しており、金属は粘靭性を有している。脆性とは外部からの圧力に対して壊れやすい性質、もろさのことを言い、粘靭性とは、外部からの圧力に対して壊れにくい性質、粘り強さのことを言う。脆性材料であるシリコンを主成分とする第1の部分の内側に、粘靭性を有する金属を主成分とする第2の部分が挟み込まれることにより、機械部品はもろさが緩和され、強靭になる。
以下、本発明の機械部品について、図面を参照して詳細に説明する。
ここでは、本発明の機械部品の一例として、機械式時計の調速機に用いられるシリコン製のひげぜんまい及びてん輪を例に挙げて説明する。また、第1の部分と第2の部分との間に、第2の部分よりも膜厚の薄い金属膜を設ける例で説明する。
説明にあっては、最初に機械部品の構造を説明し、次いで製造方法を説明する。そして、機械部品の他の例の構造を説明する。
すなわち、第1の実施形態として、図1を用いて本発明の機械部品の一例であるひげぜんまいの概略の構成を説明し、次に、図2を用いてぜんまい部の更に詳細な構成について説明する。そして、このひげぜんまいの製造方法を第2の実施形態として、図3〜図9を用いて説明する。その後に、本発明の機械部品のその他の例として、ひげぜんまいの異なる構成を第3及び第4の実施形態に、ひげぜんまいと共に調速機を構成する要素のてん輪の構成を第5及び第6の実施形態として、それぞれ説明する。
説明にあっては、必要部分のみを示す模式図とし、発明に関係のない部分は省略している。また、同一の構成には同一の番号を付与するものとし、説明を省略する。
[ひげぜんまいの構成の説明:図1]
図1を用いてひげぜんまいの第1の実施形態を説明する。
図1(a)は、ひげぜんまいの平面図である。図1(b)は、ぜんまい部を拡大した図面であって、図1(a)に示す切断線A−A´における断面の様子を模式的に示す断面図である。
図1において、ひげぜんまい1は、中心部に図示しない回転軸体であるてん真と嵌合するための貫通孔3aを有するひげ玉3と、貫通孔3aを中心にしてひげ玉3に巻回されるように設計されたコイル形状のぜんまい部2と、ぜんまい部2の巻き終わりと接続しているひげ持4とから構成されている。ぜんまい部2の巻きとひげ玉3とは接続部3bで接続している。
なお、てん真は、調速機を構成するひげぜんまいとてん輪とを同軸に固定する主に円柱形状を有する軸体であり、金属で構成する場合が多い。ひげぜんまいとてん真とは、接着剤を用いて接着してもよい。
ひげぜんまい1を機械式時計に用いるとき、ひげ持4は、図示しない所定の部材(例えば、地板やフレーム)に接着剤等で固定される。
ひげ玉3の貫通孔3aは、図示しないてん真と嵌合しているため、ひげぜんまい1が伸縮運動を行うことで、てん真が回転する。ひげ持4は、このぜんまい1の動作時に、主に引っ張り力と圧縮力とを受けるが、それらの力に抗うように固定されている。
ひげぜんまい1は、第1の部分11として、シリコンを主成分とする材料から構成されており、図1(a)に示すように、金属を主成分とする第2の部分21は第1の部分11に取り囲まれるようにして構成されている。すなわち、ぜんまい部は、その幅方向に第2の部分21を第1の部分11が挟んでいる。
ひげぜんまい1を構成する第1の部分11はシリコンであるので、ひげぜんまい1の製造や加工に際して、シリコン半導体基板に対しておこなう深堀りRIE技術を用いることができ、半導体部品を製造する際と同様な公知の製造技術を用いることができる。なお、製造方法の詳細は後述する。
上述のように、ひげぜんまい1は基材となるシリコン半導体基板をドライエッチングして形成するため、図1(a)に示すように、ひげぜんまい1のぜんまい部2と、ひげ玉3と、ひげ持4とは、一体で形成されている。
ひげぜんまい1を図示しない回転軸体の軸方向から平面視したときの様子が図1(a)に示すものである。図1(b)は、切断線A−A´におけるぜんまい部2の4つの部分を拡大して示す断面図である。
ぜんまい部2は上述の通りひげ玉3及びひげ持4と一体で形成されており、ひげ玉3の周囲を巻回されているような形状を有している。切断線A−A´の部分は、ぜんまい部2の一部分である。このぜんまい部2は上述のごとく1つの構造体であるが、説明しやすいように断面で見たときのそれぞれの周回に当たる4つの部分に、ぜんまい腕201a、201b、201c、201dの名称を付与することにする。
図1(b)に示すように、ぜんまい腕201a〜201dは、シリコンを主成分とする第1の部分11a〜11dに挟まれるようにして金属を主成分とする第2の部分21a〜21dが構成されている。また、第1の部分11a〜11dと第2の部分21a〜21dのとの間には、金属膜51a〜51dが構成されている。図1(a)において、金属膜は非常に薄いため、省略している。
図1(b)に示す例では、4つのぜんまい腕201a〜201dに、それぞれに第1の部分11a〜11dと第2の部分21a〜21dとが設けてあるが、上述の説明の通り、ぜんまい腕201a〜201dは一体の構造物であるから、第1の部分11a〜11d及び第2の部分21a〜21dさらに金属膜51a〜51dも1つの連続した構造体である。
上述の通り、一体で形成されたぜんまい腕は1つの連続した構造体であるが、このぜんまい腕に設ける第2の部分は複数としてもよい。例えば、図示はしないが、1つのぜんまい腕に設ける第2の部分を複数に分断し、1つのぜんまい腕に断続的に複数の第2の部分が形成されていてもよいのである。
また、その分断された第2の部分は、図1(a)のようにぜんまい腕の一平面から見たとき(ひげぜんまい1を図示しない回転軸体の軸方向から平面視したとき)に、図示はしないが四角形や多角形、円形や楕円形などの形状を有するようにしてもよい。
本実施形態では、第1の部分11a〜11dをシリコンで形成し、第2の部分21a〜
21dをニッケル(Ni)で形成し、金属膜51a〜51dを銅(Cu)で形成した。ニッケル(Ni)は粘靱性の高い材料である。よって第2の部分21a〜21dに、ニッケル(Ni)を用いれば、第2の部分21a〜21dが補強材の役目をして、外部から衝撃が加わったとしてもひげぜんまいは破壊され難くなる。
もちろん、第2の部分に用いられる部材はニッケル(Ni)に限定されるものではない。粘靭性を有する金属であれば、いかなる部材であってもかまわない。例えば、金(Au)、銅(Cu)、ニッケルリン(Ni−P)合金、ニッケルタングステン(Ni−W)合金等を使用してもよい。
ひげぜんまいの製造方法は後述するが、金属膜51a〜51dは、導電性を有している部材から選ぶとよい。さらに望ましくは、シリコンに対して密着性が高い部材から選ばれるのがよい。また金属膜51a〜51dを積層膜にしてもよい。本実施形態では金属膜51a〜51dに銅(Cu)を用いたが、この他にニッケル(Ni)やクロム(Cr)と金(Au)の積層膜等を用いてもよい。
本実施形態において、ぜんまい腕201a〜201dは、幅が50μm、高さが100μmである。また、いずれのぜんまい腕201a〜201dにおいても第1の部分11a〜11dは19.8μmの幅であり、第1の部分11a〜11dに挟まれた第2の部分21a〜21dは10μmの幅で形成されている。
さらに、第1の部分11a〜11dと第2の部分21a〜21dとの間にある金属膜51a〜51dは0.2μmの厚さで形成されており、第2の部分21a〜21dに比べて非常に薄く形成されている。
このように幅方向に50μmしかなく非常に薄い形状のぜんまい腕201a〜201dであっても、粘靭性を有する10μm幅の第2の部分21a〜21dを設けることによって、ぜんまい部2はもろさが緩和され、強靭にすることができる。
金属膜51a〜51dは第1の部分11a〜11dと第2の部分21a〜21dの密着層としての役目をするものであり、十分な密着性が保持されていれば厚くする必要はない。本実施形態においては、強度を向上させるのが目的であり、補強材の役目をする第2の部分をできる限り厚くする方が望ましく、金属膜51a〜51dはできる限り薄く形成するのがよい。
図1(b)に示す例では、第2の部分21a〜21dを同じ幅で表現しているが、それぞれを異なる幅で形成しても構わない。つまり、ぜんまい部2の周回ごとに幅を変えてもよい。例えば、ひげ玉3からひげ持4に至って、漸次第2の部分の幅を変えるような形状にしてもよいのである。これは、ひげぜんまい1に対して欲するばね特性(例えば、ヤング率など)に鑑みて自由に選択することができる。
[ぜんまい部の形状の説明1:図2]
次に、ひげぜんまいのぜんまい部の異なる構成例を、図2を用いて説明する。説明にあっては、周回方向の1つのぜんまい腕を例にして説明する。
図2において、図2(a)はぜんまい腕の一平面側だけに第2の部分を設ける例であり、図2(b)はぜんまい腕の一平面側と対向する他平面側とのそれぞれに第2の部分を設ける例である。いずれも、ぜんまい部は、その幅方向に第2の部分を第1の部分が挟んでいる。
図2(a)に示すように、ぜんまい部のぜんまい腕202aにはその一平面2aに第2の部分22aが埋め込まれるようにして設けてある。第2の部分22aと第1の部分12aとの間には金属膜52aが形成されている。
本実施形態において、第1の部分12aはシリコンであり、第2の部分22aはニッケル(Ni)であり、金属膜52aは銅(Cu)で形成した。第2の部分22aは粘靭性を有する金属であれば、いかなる部材であってもかまわない。また金属膜52aは導電性を有している部材であれば、いかなる部材であってもかまわない。
図2(a)は周回方向の1つのぜんまい腕を示した図であるが、ぜんまい腕の位置に応じて第2の部分22aの幅や深さを異ならせてもよい。例えば、ひげ玉3からひげ持4に至って、漸次第2の部分の幅と深さを変えるような形状にしてもよい。
図2(b)に示す例は、ぜんまい部のぜんまい腕203aにはその一平面2aと対向する他平面2bとに2つの第2の部分23a、24aを、それぞれ埋め込むようにして設ける例である。第2の部分23aと第1の部分13aとの間には金属膜53aが形成されており、第2の部分24aと第1の部分13aとの間には金属膜54aが、それぞれ形成されている。
本実施形態において、第1の部分13aはシリコンであり、第2の部分23a、24aはニッケル(Ni)であり、金属膜53a、54aは銅(Cu)で形成した。第2の部分23a、24aは粘靭性を有する金属であれば、いかなる部材であってもかまわない。さらに、一平面2a側の第2の部分23aと他平面2b側の第2の部分24aとを異なる部材にしてもよい。また金属膜52aは導電性を有している部材であれば、いかなる部材であってもかまわない。さらに、一平面2a側の金属膜53aと他平面2b側の金属膜54aとを異なる部材にしてもよい。
本実施形態において、一平面2a側に形成した第2の部分23a及び対向する他平面2b側に形成した第2の部分24aの幅と深さはそれぞれ異ならせてもかまわない。また、第2の部分23aと第2の部分24aとの位置を平面的にずらして形成してもよい。それぞれの幅や深さを異ならせたり、位置をずらしたりすることでひげぜんまいとしての重量バランスを取ることができる。
図1(b)と図2(a)と図2(b)との構成の違いは、ひげぜんまいを組み込んだ時計の構造などに鑑みて自由に選択すればよく、いずれの構造であっても、本発明の目的である衝撃を受けても破壊しにくいひげぜんまいを提供することができる。
上述では、本発明の機械部品の一例として、機械式時計の調速機に用いられるシリコン製のひげぜんまいを例に挙げて説明したが、本発明はひげぜんまいに限定されるものではない。シリコンで形作られた機械部品で、衝撃を受けやすい部分に構成される部品であれば、いかなる部品においても本発明は適用可能である。詳しくは後述するが、例えば、調速機を構成するてん輪、時計部品である歯車、ガンギ車、アンクル等、文字板や文字板に設ける装飾部材(マークや時字など)、時刻等を報知するための指針にも用いることができる。
[第2の実施形態の説明:図3〜図9]
次に、第2の実施形態として機械部品の製造方法について、工程図を用いて説明する。
ここでは、本発明の機械部品の製造方法の一例として、機械式時計の調速機に用いられるシリコン製のひげぜんまいの製造方法を例に挙げて説明する。
第1の製造方法は、主に図3、図4、図5、図6を用いて説明する。第2の製造方法は
、主に図7、図8、図9を用いて説明する。
製造方法はひげぜんまい全体を形成する技術であるが、本発明の特徴である第1の部分及び第2の部分を見やすくするために、ぜんまい腕部分を拡大した図1(b)の断面図を用いて説明する。したがって、説明にあっては適宜図1(a)も参照されたい。また、本実施形態では、第1の部分はシリコン、第2の部分はニッケル(Ni)で形成した例で説明する。
[第1の製造方法の説明:図3、図4、図5、図6]
第1の製造方法は一平面から対向する他平面に縦貫する第2の部分を設けたひげぜんまいを製造する方法であり、作業性に優れ生産性が良好な製造方法である。
まず、図3(a)に示すように、少なくともひげぜんまい1が取り出せる大きさの面積と厚みとを有するSOI(Silicon On Insulatorの略)基板60を準備する。SOI基板60とは、シリコンからなる基体630とシリコンからなるシリコン活性層610との間に酸化シリコン(SiO2)からなる絶縁層620を挟んだ構造のシリコン半導体基板である。トランジスタの寄生容量を減らせるので、LSIの動作速度向上と消費電力削減を目的に、半導体部品の製造分野で広く用いられている基板である。
本第1の製造方法では、このSOI基板60のシリコン活性層610を利用してひげぜんまい1を製造する。したがって、ひげぜんまい1の厚みよりも厚いシリコン活性層610を有するSOI基板60を準備するなど、製造するひげぜんまい1の厚みにあわせて、シリコン活性層610の厚みを選択する。
しかし、シリコン活性層610の厚みが得たいひげぜんまい1の厚みと同じであるSOI基板60とすれば、シリコン活性層610を切削や研磨するなどしてひげぜんまい1の厚みと同じにする工程が省略できる。
本実施形態では100μmの厚みのひげぜんまいを製造するために100μmの厚みのシリコン活性層610を有するSOI基板60を用意した。また絶縁層620の厚みは2μmで、基体630の厚みは500μmである。基体630は後述する製造方法においては基台となる部分であるので、その厚みは厚い方が好ましい。
なお、ひげぜんまい1の生産性を考慮に入れれば、ひげぜんまい1が多数個取り出せる大きさのSOI基板60である方が好ましい。
次に、図3(b)に示すように、SOI基板60のシリコン活性層610上に、ひげぜんまい1の第2の部分21a〜21dを形成するためにこの第2の部分21a〜21dに相当する形状で開口したマスク80を形成する。マスク80の形成は、半導体部品の製造分野で一般に用いられているフォトリソグラフィ技術で形成する。マスク80は、例えばシリコン酸化膜である。特に限定しないが、このマスク80は1μmの膜厚で形成する。
その後、図3(c)に示すように、処理時間を管理しながら混合ガス30(SF6+C4F8)を用いて、シリコン活性層610をRIE技術でドライエッチングすることにより、所定の幅と深さの溝部70a〜70dがシリコン活性層611に加工される。シリコン活性層611自体はすでに説明したシリコン活性層610そのものであるが、加工された形状であるため、便宜上、別符号を付与することにする。
このとき、酸化シリコンからなる絶縁層620はシリコンに比べてドライエッチングされ難いため、エッチング防御層の役目をなし、下層のシリコンからなる基体630まではドライエッチングされない。
その後に、マスク80のみを除去することで、図4(a)に示すような、溝部70a〜70dがシリコン活性層611に加工されたSOI基板60を得る。このマスク80の除去は、例えば、SOI基板60をフッ化水素酸を主成分とする公知のエッチング液に浸漬しておこなう。
マスク80を除去するときに、シリコンからなるシリコン活性層611と基体630はエッチングされないが、マスク80と同じ酸化シリコンからなる絶縁層620はエッチング液に接触する部分が多少エッチングされる。図4(a)に示すように、溝部70a〜70dの底部の絶縁層620の膜厚が薄くなっているのはそのためである。
しかしながら、絶縁層620が部分的にエッチングされたとしても、第1の製造方法においては問題にはならない。後述するように、この絶縁層620は除去してしまうためである。したがって、この絶縁層620は、エッチング防御層として多少厚く形成してもよい。
次に、図4(b)に示すように、SOI基板60の溝部70a〜70dが加工されたシリコン活性層611の表面及び溝部70a〜70dの内面(内壁と底部)に導電性の金属膜50を成膜する。本実施形態では金属膜50として銅(Cu)を真空成膜法の1つであるスパッタリング法で0.2μmの厚さで成膜した。
金属膜50は銅(Cu)に限定されるものでなく、導電性を有しておりシリコン活性層611と密着性が良好であれば、いかなる部材を選んでもかまわない。また、単層膜である必要もなく、積層膜であってもよい。例えばニッケル(Ni)や、クロム(Cr)と金(Au)との積層膜であってもかまわない。
また、金属膜50の成膜方法もスパッタリング法に限定されるものではない。シリコン活性層611の表面及び溝部70a〜70dの内面に成膜することができれば、いかなる成膜法を利用してもかまわない。例えば蒸着法、溶射法、インクジェット法、無電解メッキ法等が利用可能である。
その後、溝部70a〜70dを覆うように、SOI基板60の上部に第2の部分20となる金属膜を、真空成膜法の1つであるスパッタリング法で成膜する。もちろん、これは一例であって、その他の知られている成膜技術を用いてもよい。
もちろん、第2の部分20を構成する金属膜の形成方法は、上述のスパッタリング法に代表されるような成膜技術とは異なる技術を用いてもよい。
例えば、図4(c)に示すように、金属膜50を電極として利用し、メッキ液の浴中で金属膜50に電界を印加し、所定の金属イオンを金属膜50上に電着させて第2の部分20を形成するのである。金属膜50は溝部70a〜70dの内面にも成膜されているので、溝部70a〜70dの内側にも第2の部分20は形成され、最終的に第2の部分20は溝部70a〜70dの内側に充填される。このように電解メッキによって構造体を形成する方法を一般に電鋳法と称する。
本実施形態では、スルファミン酸ニッケルメッキ液を用いて電鋳することで、溝部70a〜70dの内面にニッケル(Ni)をメッキ成長させ、ニッケル(Ni)からなる第2の部分20を形成した。
第2の部分20はニッケル(Ni)に限定されるものではなく、電鋳法によって形成することができれば、いかなる部材であってもかまわない。例えば金(Au)、銅(Cu)
、ニッケルリン(Ni−P)合金、ニッケルタングステン(Ni―W)合金等が形成可能である。
このように、電鋳法を用いて第2の部分20を形成するときは、下地の金属膜50を電極として用いることができる。この場合、図示はしないがシリコン活性層611上の金属膜50の形状を、メッキ液の浴中に電界を印加する端子が金属膜50に接触しやすいような面積の広いランド形状などにすると好ましい。
その後に、シリコン活性層611の平面上に形成された第2の部分20と金属膜50とを除去することで、図5(a)に示すようなシリコン活性層611に第2の部分21a〜21dが金属膜51a〜51dを介して埋め込まれた状態のSOI基板60を得る。
この金属膜51a〜51dは、図4に示す金属膜50から加工されたものであるが、図5(a)以降は、溝部70a〜70dに対応した部分ごとに、金属膜51a〜51dの番号を付与することにする。
このシリコン活性層611の平面上に形成された第2の部分20と金属膜50との除去は、例えば、研磨加工によっておこなう。このようにすれば、ぜんまい腕の高さ方向に第1の部分及び第2の部分を露出させるようにでき、ぜんまい腕の幅方向にのみ第1の部分が第2の部分を挟むような構成にできる。
研磨加工は、第2の部分20と金属膜50とを除去するだけでなく、シリコン活性層611の高さを調整したり、シリコン活性層611の平面を鏡面化したりすることができる。これにより、寸法精度の高いひげぜんまい1を製造できる。
本実施形態において研磨加工の方法は限定はしない。例えば、公知のCMP(Chemical Mechanical Polishing:化学機械研磨)法を用いることができる。
次に、図5(b)に示すように、SOI基板60のぜんまい部2となるぜんまい腕201a〜201dの幅に相当する部分を覆うようにマスク81を知られているフォトリソグラフィ技術で形成する。上述の通りこのマスク81は図示しないがひげぜんまい1の全体を形作る形状である。マスク81は、例えばシリコン酸化膜である。特に限定しないが、このマスク81は、SOI基板60のシリコン活性層611の表面より2μmの膜厚となるように形成する。
その後に、図6(a)に示すように、混合ガス30(SF6+C4F8)を用いて、SOI基板60のシリコン活性層611を深堀りRIE技術でドライエッチングする。これにより、シリコン活性層611は第1の部分11a〜11dの形状に加工され、絶縁層620上に第1の部分11a〜11dで第2の部分21a〜21dを挟んだ構造のひげぜんまい1の形状を得る。この状態では、図示はしないが、ひげ玉3の貫通孔3aも絶縁層620まで貫通している。
その後に、マスク81と絶縁層620と金属膜51a〜51dの絶縁層620側の一部とを除去することで、図6(b)に示すようにひげぜんまい1を基体630から分離して完成に至る。マスク81及び絶縁層620は、いずれも酸化シリコンからなるので、同時に除去することができ、例えば、SOI基板60をフッ化水素酸を主成分とする公知のエッチング液に浸漬しておこなう。このような手法を一般的にリフトオフと称する。
図6(b)に示す金属膜51a〜51dの形状は、ひげぜんまい1を基体630から分
離した後に、基体630側の金属膜51a〜51dをエッチングすることができるエッチング液に浸漬させることで得られる。本実施形態では金属膜51a〜51dを銅(Cu)で形成したので、塩化第二鉄系のエッチング液で除去した。この金属膜の除去は、上述のリフトオフと連続して行ってもよい。
もちろん、CMP法を用いて研磨することで、基体630側の金属膜51a〜51dを除去することができるが、その場合は、研磨中にひげぜんまい1が伸縮するなどしないように固定する必要がある。研磨中にひげぜんまい1が動いてしまうと、研磨に係る力で破壊が生じてしまいかねないからである。
本実施形態では、最後に金属膜51a〜51dの一部分をエッチングしてぜんまい腕の基体630側の平面から金属膜を除去したが、その平面に金属膜を残しても構わない。
その場合は、ぜんまい腕201a〜201dに対応するように残留させた金属膜以外の部分の除去を行ってから、深堀りRIE技術によりSOI基板60をドライエッチングすればよい。
以上説明した第1の製造方法は、SOI基板60をドライエッチングして形成したシリコン活性層610を貫通する溝部70a〜70dに、スパッタリング法や電鋳法によって第2の部分21a〜21dを充填し、リフトオフにより基体から分離するという手法である。
この第1の製造方法によれば、SOI基板60の一平面だけを加工するので、作業工程が少なく、生産性が良好であるというメリットがある。また、非常に薄い形状のひげぜんまい1を製造しようとした場合でも、シリコン活性層610の厚みを薄くするだけでよく、基台となる厚みの厚い基体630は加工されずに最終工程まで残るので、SOI基板60を製造工程区画間で移動させるときに、作業性が良好であるというメリットもある。
[第2の製造方法の説明:図2、図7、図8、図9]
次に、第2の製造方法を説明する。この製造方法は、図2(b)に示す、ひげぜんまいの一平面2aと対向する他平面2bとにそれぞれ異なる第2の部分23a、24aを設けるものである。安価な単層の基板を利用できるので、ひげぜんまいのコストダウンに貢献できるというメリットがある。
まず、図7(a)に示すように、少なくともひげぜんまい1が取り出せる大きさの面積と厚みとを有するシリコンのバルク基板63を準備する。一般に第1の製造方法で用いた絶縁層を内挿した積層構造のSOI基板に対して、シリコン単体からなる単層のシリコン半導体基板をバルク基板と称する。ひげぜんまいの生産性を考慮に入れれば、ひげぜんまい1が多数個取り出せる大きさのバルク基板63である方が好ましい。
次に、図7(b)に示すように、バルク基板63の一平面6aとそれに対向する他平面6bとに、ひげぜんまい1の第2の部分23a、24aを形成するために、この第2の部分23a、24aに相当する形状で開口したマスク82a、82bを形成する。
マスク82a、82bの形成は、半導体部品の製造分野で一般に用いられているフォトリソグラフィ技術で形成する。マスク82a、82bは、例えばシリコン酸化膜である。特に限定しないが、このマスク82a、82bはそれぞれ1μmの膜厚で形成する。
マスク82aとマスク82bとは必ずしも同時に形成する必要はない。まず一平面6a側のマスク82aを形成してから、次に他平面6b側のマスク82bを形成してもよい。最終的に、図7(b)に示すように一平面6aと他平面6bとにマスク82aとマスク8
2bとがそれぞれ形成されればよい。
また本実施形態ではマスク82aの開口部とマスク82bの開口部がバルク基板63の厚さ方向に位置ずれなく同じ位置に形成されているが、それぞれの開口部をずれた位置関係で形成してもかまわない。さらにマスク82aの開口部とマスク82bの開口部との幅を異ならせてもかまわない。このようにするとぜんまい腕の断面は矩形ではなくなるが、多角形にすることができるため、製造しようとするひげぜんまい1に対して欲するばね特性(例えば、ヤング率など)を鑑みて自由に選択することができる。
そして次に、図7(c)に示すように、処理時間を管理しながら混合ガス30(SF6+C4F8)を用いて、バルク基板63をRIE技術でドライエッチングすることにより、バルク基板63の一平面6a側に所定の幅と深さの溝部71a〜71dを、対向する他平面6b側に所定の幅と深さの溝部72a〜72dを形成する。
バルク基板63の一平面6a側の溝部71a〜71dと他平面側の溝部72a〜72dとは必ずしも同時に形成する必要はない。まず一平面6a側の溝部71a〜71dを形成してから次に他平面6b側の溝部72a〜72dを形成してもよい。最終的に、図7(c)に示すように一平面6aと他平面6bとに溝部71a〜71dと溝部72a〜72dとがそれぞれ形成されればよい。
その後に、マスク82a、82bを除去することで、図8(a)に示す一平面6a側に溝部71a〜71dが設けられ、対向する他平面6b側に溝部72a〜72dが設けられたバルク基板63を得る。このマスク82a、82bの除去は、例えば、バルク基板63をフッ化水素酸を主成分とする公知のエッチング液に浸漬することで、同時におこなうことができる。
次に、図8(b)に示すように、バルク基板63の一平面6aと溝部71a〜71dの内面とに導電性の金属膜501を、一方、バルク基板63の他平面6bと溝部72a〜72dの内面とに導電性の金属膜502を成膜する。両面を同時に成膜することができる両面スパッタリング装置を利用すれば、金属膜501と金属膜502とを同時に成膜することができ、効率よく成膜できる。本実施形態では、いずれも銅(Cu)を0.2μmの厚さで成膜した。
バルク基板63の一平面6a側に成膜される金属膜501と、他平面6b側に成膜される金属膜502とは必ずしも同時に成膜する必要はない。まず一平面6a側の金属膜501を成膜してから、次に他平面6b側の金属膜502を成膜してもよい。最終的に、図8(b)に示すように一平面6aに金属膜501が成膜され、他平面6bに金属膜502が成膜されればよい。
さらに、金属膜501、502は銅(Cu)に限定されるものでなく、導電性を有しておりシリコンからなるバルク基板63と密着性が良好であれば、いかなる部材を選んでもかまわない。また、単層膜である必要もなく、積層膜であってもよい。例えばニッケル(Ni)や、クロム(Cr)と金(Au)の積層膜であってもかまわない。
また、金属膜501、502の成膜方法もスパッタリング法に限定されるものではない。バルク基板64の一平面6aと、対向する他平面6bと、溝部71a〜71dの内面と、溝部72a〜72bとに成膜することができれば、いかなる成膜法を利用してもかまわない。例えば蒸着法、溶射法、インクジェット法、無電解メッキ法等も利用可能である。
その後、すでに説明した第1の実施形態と同様に、溝部71a〜71d及び溝部72a
〜72dを埋めるように、第2の部分20a、20bをスパッタリング法などの成膜技術を用いて形成する。
もちろん、電鋳法を用いてもよく、その場合は、図8(c)に示すように、金属膜501、502を電極として利用し、メッキ液の浴中で金属膜501、502に電界を印加し、所定の金属イオンを金属膜501、502上に電着させて第2の部分20a、20bを形成する。
金属膜501は溝部71a〜71dの内面にも成膜されているので、溝部71a〜71dの内側にも第2の部分20aは形成され、一方、金属膜502は溝部72a〜72dの内面にも成膜されているので、溝部72a〜72dの内側にも第2の部分20bは形成される。その結果、最終的には溝部71a〜71d、72a〜72dの内側に第2の部材20a、20bが充填されるのである。
本実施形態では、バルク基板63をスルファミン酸ニッケルメッキ液中に浸漬させて、で金属膜501、502に同時に電解を印加して電鋳することで、金属膜501、502上に同時にニッケル(Ni)をメッキ成長させ、ニッケル(Ni)からなる第2の部分20a、20bを形成した。第2の部分20a、20bは同時に形成しなくてはならないわけではなく、別々に形成しても何ら問題はない。
また、第2の部分20a、20bはニッケル(Ni)に限定されるものではなく、電鋳法によって形成することができれば、いかなる部材であってもかまわない。例えば金(Au)、銅(Cu)、ニッケルリン(Ni−P)合金、ニッケルタングステン(Ni―W)合金等が利用可能である。
その後に、バルク基板63の一平面6a上に形成された第2の部分20a及び金属膜501と、対向する他平面6b上に形成された第2の部分20b及び金属膜502とを除去することで、図9(a)に示すような、一平面6aに第2の部分23a〜23dが金属膜53a〜53dを介して埋め込まれ、他平面6bに第2の部分24a〜24dが金属膜54a〜54dを介して埋め込まれたバルク基板64を得る。この第2の部分20a、20bと金属膜501、502との除去は、例えば、研磨加工によっておこなう。
なお、図9(a)以降は、この金属膜501、502は、溝部71a〜71d及び溝部72a〜72dにそれぞれ対応した部分に、金属膜53a〜53d、金属膜54a〜54dの番号を付与することにする。
本実施形態においても研磨加工の方法は限定はしないが、例えば、公知のCMP法を用いることができる。本実施形態では、一平面6aと他平面6bとを研磨することで、それら平面の金属膜501、502を除去したが、すでに説明した第1の実施形態と同様に、その平面に金属膜を残しても構わない。その場合は、ぜんまい腕203a〜203dに対応するように残留させた金属膜以外の部分の除去を行ってから、後述する深堀りRIE技術によるバルク基板63のドライエッチングを行えばよい。
次に、図9(b)に示すように、バルク基板63のぜんまい部2となるぜんまい腕203a〜203dの幅に相当する部分を覆うように、バルク基板63の一平面6aにマスク83を一般に知られているフォトリソグラフィ技術で形成する。このマスク83は図示しないがひげぜんまい1の全体を形作る形状である。マスク83は、例えばシリコン酸化膜である。特に限定しないが、このマスク83は、バルク基板63の一平面6aより2μmの膜厚となるように形成する。
その後に、図9(c)に示すように、混合ガス30(SF6+C4F8)を用いて、バルク基板63を深堀りRIE技術でドライエッチングする。これにより、バルク基板63は第1の部分13a〜13dの形状に加工され、これにより、バルク基板63からぜんまい腕203a〜203dを離断する。この状態では、図示はしないが、ひげぜんまい1はバルク基板63から独立して切り出されており、ひげ玉3の貫通孔3aも貫通している。
その後に、マスク83を除去することで、図2(b)に示すような、ぜんまい腕の一平面2aと対向する他平面2bとに2つの第2の部分23a、24a埋め込むようにして設けられたひげぜんまい1が完成する。マスク83の除去は、例えばバルク基板63をフッ化水素酸を主成分とする公知のエッチング液に浸漬しておこなう。
本実施形態では図2(b)に示すぜんまい腕203aの一平面2aと対向する他平面2bに2つの第2の部分23a、24a埋め込むようにして設けられたひげぜんまい1の製造方法を示したが、バルク基板63の一平面6aだけを加工すれば、図2(a)に示すぜんまい腕202aの一平面2aのみに第2の部分22aが設けられたひげぜんまい1も同様にして製造できる。
以上説明した第2の製造方法は、シリコンからなるバルク基板63をドライエッチングして形成した溝部71a〜71d、72a〜72dにスパッタリング法や電鋳法によって第2の部分23a〜23d、24a〜24dを充填する手法である。
この第2の製造方法によれば、安価な単層のバルク基板63を用いて製造することができるので、衝撃を受けても破壊しにくいひげぜんまいの製造にかかるコストを削減することができるというメリットがある。
以上説明した実施形態では、機械部品及びその製造方法の一例として、機械式時計の調速機に用いられるシリコン製のひげぜんまいを例に挙げて説明したが、もちろん、機械部品はひげぜんまいに限定されるものではない。
[第3の実施形態(異なるひげぜんまいの構成)の説明:図10]
次に、図10を用いて、第3の実施形態として、すでに説明した第1の実施形態のひげぜんまいとは異なる構成のひげぜんまいを説明する。
第3の実施形態の特徴は、第1の部分に挟まれた第2の部分を延長し、第2の部分によってひげぜんまいの構造の一部を構成する例である。説明にあっては、その構造の一部をひげ持とする例で説明する。
図10(a)は、ひげぜんまいの平面図である。図10(b)は、ぜんまい部を拡大した図面であって、図10(a)に示す切断線B−B´における断面の様子を模式的に示す断面図である。図10(c)は、ぜんまい部のひげ持近傍の部分を拡大した図面であって、図10(a)に示す切断線C−C´における断面の様子を模式的に示す断面である。
図10(a)に示すように、ひげぜんまい100は、第1の実施形態のひげぜんまい1と同様に、中心部に図示しない回転軸体であるてん真と嵌合するための貫通孔3aを有するひげ玉3と、貫通孔3aを中心にしてひげ玉3に巻回されるように設計されたコイル形状のぜんまい部2と、ぜんまい部2の巻き終わりと接続しているひげ持41とから構成されている。ぜんまい部2の巻きとひげ玉3とは接続部3bで接続している。ひげ持41には貫通孔41aが形成されている。
図10(a)に示すように、ひげぜんまい100は、第1の部分15として、シリコンを主成分とする材料から構成されており、図10(b)に示すように、そのぜんまい部は
、幅方向に金属を主成分とする第2の部分25を第1の部分15が挟んでいる。
そして、その第2の部分25を延長するようにしてひげ持41を形成している。すなわち、図10(c)に示すように、ひげ持41は、第1の部分15がなく第2の部分25で構成している。
図10(b)、図10(c)に示すように、第1の部分15と第2の部分25との間には、金属膜55a、55dが構成されている。金属膜55a、55dは、すでに説明した第1の実施形態と同様に第1の部分15と第2の部分25との密着層としての役目をする。また、第2の実施形態で説明した通り、第2の部分を電鋳法を用いて形成するときは、下地の電極として用いることができる。なお、図10(a)においては、この金属膜は非常に薄いため、省略している。
ひげぜんまいを機械式時計に用いるとき、すでに説明したように、ひげ持は、図示しない所定の部材(例えば、地板やフレーム)に固定される。その固定は、例えば接着剤を用いた接着で成すが、第3の実施形態のひげぜんまい100は、ひげ持41が金属で構成しているため、その他の手法も用いることができる。
例えば、貫通孔41aに金属部材を嵌合させるなどして固定できる。また、この貫通孔41aを用いて所定の部材にねじ止めしてもよい。いずれにしても、ひげ持41と所定の部材とは、より強く固定することができる。
ひげ持41は金属であり強度も高いから、機械式時計の組み立て時に、固定のために力が加わっても破壊されにくくなる。加えて、機械式時計を運用するときに、予期せぬ大きな衝撃(例えば、落下)が加わっても、ひげ持41と所定の部材とが離断しにくくなるのである。したがって、第3の実施形態のひげぜんまい100は、衝撃に強い機械式時計を構成することができるのである。
また、第3の実施形態のひげぜんまい100は、ひげ持41が金属で構成しているため、機械式時計は、調速機に公知の緩急針機構を用いることができるようにもなる。
緩急針機構とは、てん輪の回転周期を調整するための機構である。調整針に接続されたひげ棒やひげ受とひげぜんまいのひげ持との接続位置を、調整針を操作することで変更する。そうすると、ひげぜんまいのぜんまい部の有効長を可変することができ、てん輪の回転周期を変更することができるという機構である。
すでに説明しているように、シリコンでひげぜんまいを構成すると、設計通りの形状が得られることや、環境温度に対して変形しにくいことから、金属でひげぜんまいを構成する場合に比べ、歩度ずれが起きにくくなる。
しかし、製造工程における、いわゆるプロセスばらつきにより、ひげぜんまいが設計した形状にならない場合がある。例えば、深堀りRIEの工程で、予期せぬオーバーエッチングやアンダーエッチングのようなエッチングむらが発生する場合や、エッチング用のマスクが剥離できず僅かに残ってしまう場合などである。そうすると、ひげぜんまいの形状がわずかに変わるため、設計通りの伸縮運動を行えず、結果として機械式時計の歩度がずれてしまうのである。
そのような不測の事態があっても、緩急針機構を搭載できれば、そのプロセスばらつきによる歩度のずれを調整することができるのである。
緩急針機構は、構成する殆どの部品が金属で構成している。ひげ持をシリコンで構成す
ると、シリコンは脆性材料であるから、調整針を操作してひげ棒やひげ受とひげ持との接続箇所を変更しようとしても、双方の当たり部分でシリコンが破損してしまう。
しかし、このようにひげ持を金属で構成すれば、公知の緩急針機構を用いても破損がなく、歩度の調整ができるようになるのである。
以上、図10を用いて説明した例では、第1の部分15により第2の部分25が挟まれている部分は、ひげ持41の近傍のみであるが、もちろんそれに限定されない。図1に示すように、ぜんまい部(巻回されるぜんまい腕の部分)に亘って第2の部分25を設けてもよい。
なお、第3の実施形態のひげぜんまい100を構成する第1の部分15、第2の部分25、金属膜55a、55bは、すでに説明した第1の実施形態の第1の部分11、第2の部分21、金属膜51a〜51dと同じ材料を用いることができるため、それぞれ対応する材料についての説明は省略する。
また、第3の実施形態のひげぜんまい100の製造方法については、すでに説明した第2の実施形態と同様であるため、説明は省略する。
[第4の実施形態(異なるひげぜんまい変形例の構成)の説明:図11]
次に、図11を用いて、第4の実施形態として、すでに説明した第3の実施形態のひげぜんまいの変形例を説明する。
第4の実施形態の特徴は、第3の実施形態と同様に、第1の部分に挟まれた第2の部分を延長し、第2の部分によってひげぜんまいの構造の一部を構成する例であり、その構造の一部をひげ玉とする構成である。
図11に示すように、ひげぜんまい101は、第1の部分16として、シリコンを主成分とする材料から構成されており、そのぜんまい部(図11では接続部3bの近傍)は、幅方向に金属を主成分とする第2の部分26を第1の部分16が挟んでいる。
そして、その第2の部分26を延長するようにしてひげ玉31を形成している。すなわち、ひげ玉31は、第1の部分16がなく第2の部分26で構成している。
すでに説明した第1及び第3の実施形態と同様に、第1の部分16と第2の部分26との間には、金属膜が構成されているが、図11においては、この金属膜は非常に薄いため、省略している。
ひげぜんまいを機械式時計に用いるとき、すでに説明したように、ひげ玉は、その貫通孔にて図示しない回転軸体であるてん真と嵌合する。その固定は、例えば接着剤を用いた接着でもよい。てん真は、金属で構成する場合が多いから、その場合、第4の実施形態のひげぜんまい101は、ひげ玉31が金属で構成しているため、双方が同じ材料同士であるから、より強固に固定することができる。
ひげ玉をシリコンで構成すると、シリコンは脆性材料であるので、てん真を挿入した際に、双方の当たり部分でシリコンが破損してしまうことがある。しかし、ひげ玉を金属で構成すれば、その破損を防ぐことができる。
また、てん真をひげ玉13の貫通孔3aに圧入してもよい。圧入しても金属同士であるから破損することがなく強固に固定することができる。その際には、接着剤の塗布を省略することもできる。
てん真は、図示しないが地板やクレームに設けた軸受け機構を介して固定されている。機械式時計を運用するときに、予期せぬ大きな衝撃(例えば、落下)が加わると、てん真がその軸受け機構内で暴れてしまい、てん真の回転軸が歪むことがある。ひげ玉を脆性材料のシリコンで構成すると、ひげ玉との嵌合部に予期せぬ方向の力が加わり、破損してしまうことがある。
しかし、第4の実施形態のひげぜんまい101のひげ玉31は、粘靭性を有する金属で構成しているため、てん真の回転軸の歪みに対しても、粘るため耐性を有するのである。したがって、第4の実施形態のひげぜんまい101は、衝撃に強い機械式時計を構成することができるのである。
ところで、ひげ玉をシリコンで構成したとき、図示はしないが、ひげ玉の貫通孔の内壁を覆うように金属製のスリーブを嵌め込むこともある。そうすると、てん真とスリーブとは同じ金属同士であるから強固に固定できるというメリットがある。
しかし、スリーブを用いると部品数が増加し、スリーブを挿入する製造工程も増加する。スリーブはサイズも小さく加工精度も要求される部品であるから、コストアップに繋がるという問題がある。
このような問題は、第4の実施形態のひげぜんまい101を用いれば解決する。スリーブが不要になっても、ひげ玉はスリーブを用いるときと同等の強度を有するので、コストダウンに貢献できる。
以上、図11を用いて説明した例では、第1の部分16により第2の部分26が挟まれている部分は、ひげ玉31の近傍のみであるが、もちろんそれに限定されない。図1に示すように、ぜんまい部(巻回されるぜんまい腕の部分)に亘って第2の部分26を設けてもよい。
なお、第4の実施形態のひげぜんまい101を構成する第1の部分16、第2の部分26、これらの間に設ける図示しない金属膜は、すでに説明した第1の実施形態の第1の部分11、第2の部分21、金属膜51a〜51dと同じ材料を用いることができるため、それぞれ対応する材料についての説明は省略する。
また、第4の実施形態のひげぜんまい101の製造方法についても、すでに説明した第2の実施形態と同様であるため、説明は省略する。
[第5の実施形態(てん輪の構成)の説明:図12]
次に、図12を用いて、第5の実施形態として、ひげぜんまいと共に時計機構の調速機を構成する、てん輪について説明する。
第5の実施形態の特徴は、てん輪を第1の部分で構成し、そのリムに第1の部分に挟まれた第2の部分を設ける構成である。
図12(a)は、てん輪の平面図である。図12(b)は、図12(a)に示す切断線D−D´における断面の様子を模式的に示す断面図である。
図12(a)に示すように、てん輪5は、中心部に図示しない回転軸体であるてん真と嵌合するための貫通孔8を有するアーム7と、その周囲に設ける円周形状のリム6とで構成している。リム6の中心が貫通孔8となるように、アーム7はリム6の内周と接続する、所謂スポーク形状を有している。
図12(a)に示すように、てん輪5は、第1の部分17として、シリコンを主成分とする材料から構成されており、図12(b)に示すように、そのリム6は、幅方向に金属を主成分とする第2の部分27を第1の部分17が挟んでいる。
図12(b)に示すように、第1の部分17と第2の部分27との間には、金属膜56が構成されている。金属膜56は、すでに説明した第1及び第3の実施形態と同様に、第1の部分17と第2の部分27との密着層としての役目をする。また、第2の実施形態で説明した通り、第2の部分を電鋳法を用いて形成するときは、下地の電極として用いることができる。なお、図12(a)においては、この金属膜は非常に薄いため、省略している。
てん輪は、ひげぜんまいの伸縮運動により往復回転運動を行うが、てん輪の外径や質量が大きいほど、慣性モーメントが大きくなり、機械式時計に組み込んだ後、機械式時計に加わる外乱(落下の衝撃など)に対する耐性が向上することが知られている。つまり、歩度ずれが起きにくい時計とすることができるのである。
しかし、機械式時計が小型である場合や腕時計の場合などは、てん輪の大型化には制限がある。そこで、リム6において第1の部分17がその幅方向に第2の部分27を挟んでいる構成とすることで、てん輪5の慣性モーメントを増加させているのである。第1の部分17の主成分であるシリコンに比べ、第2の部分27の主成分である金属の方が、その比重が重いためである。
てん輪5のリム6にあっては、第1の部分17と第2の部分27との幅方向の厚みは、略同じとしているが、もちろんこれに限定するものではない。てん輪5に欲する慣性モーメントを付与するように、第2の部分27の幅や材質を自由に選ぶことができる。
ところで、機械式時計に落下などの不測の衝撃が加わると、てん輪に他の部材(例えば、ひげぜんまい)が当たってしまうことがある。しかし、そのような事態になっても、第5の実施形態のてん輪5であれば、リム6が第2の部分27を有しているために強度があり、リム6やアーム7の破断を防止することができる。
このような第5の実施形態のてん輪5は、てん輪5の大部分を、シリコンを主成分とする第1の部分17で構成することで設計通りの形状にできること、シリコンを主成分とすることで環境温度に対して変形しにくいということ、リム6の一部に金属を主成分とする第2の部分27を設けることで慣性モーメント及び強度が向上すること、などのメリットを有するのである。そして、そのようなてん輪5を用いた機械式時計は、歩度ずれが起きにくく、外乱に強くなるのである。
以上、図12を用いて説明した例では、第1の部分17により第2の部分27が挟まれている部分はリム6であるが、もちろんそれに限定されない。図示はしないが、アーム7や貫通孔8の周囲にも、第1の部分17で第2の部分27を挟む構成を設けてもよい。
なお、第5の実施形態のてん輪5を構成する第1の部分17、第2の部分27、金属膜56は、すでに説明した第1の実施形態の第1の部分11、第2の部分21、金属膜51a〜51dと同じ材料を用いることができるため、それぞれ対応する材料についての説明は省略する。
なお、第2の部分27は、慣性モーメントを増加する目的もあるから、高密度な材料を用いる方がより好ましい。例えば、金(Au)、銅(Cu)、ニッケルリン(Ni−P)合金、ニッケルタングステン(Ni−W)合金等が挙げられる。
また、第5の実施形態のてん輪5の製造方法については、すでに説明した第2の実施形態と同様な加工方法を用いることができるため、その説明は省略する。
[第6の実施形態(てん輪の他の構成)の説明:図13]
次に、図13を用いて、第6の実施形態として、ひげぜんまいと共に時計機構の調速機を構成する、てん輪の他の構成について説明する。
第6の実施形態の特徴は、てん輪を第1の部分で構成し、その中心に位置する貫通孔の近傍を、第1の部分に挟まれた第2の部分とする構成である。そして、第1の部分に挟まれた第2の部分を延長し、第2の部分によっててん輪の中心部を構成する例である。
図13(a)は、てん輪の平面図である。図13(b)は、図13(a)に示す切断線E−E´における断面の様子を模式的に示す断面図である。
図13(a)に示すように、てん輪150は、中心部に図示しない回転軸体であるてん真と嵌合するための貫通孔88を有するアーム77と、その周囲に設ける円周形状のリム66とで構成している。リム66の中心が貫通孔88となるように、アーム77はリム66の内周と接続する、所謂スポーク形状を有している。
図13(a)に示すように、てん輪150は、第1の部分18として、シリコンを主成分とする材料から構成されており、図13(b)に示すように、そのリム66は、幅方向に金属を主成分とする第2の部分28を第1の部分18が挟んでいる。
そして、その第2の部分28を延長するようにしてアーム77の貫通孔88を含む構造体を形成している。すなわち、てん輪150の中心部は、第1の部分18がなく第2の部分28で構成している。
図13(b)に示すように、第1の部分18と第2の部分28との間には、金属膜57が構成されている。金属膜57は、すでに説明した第1、第3、第5の実施形態と同様に、第1の部分18と第2の部分28との密着層としての役目をする。また、第2の実施形態で説明した通り、第2の部分を電鋳法を用いて形成するときは、下地の電極として用いることができる。なお、図13(a)においては、この金属膜は非常に薄いため、省略している。
てん輪を機械式時計に用いるとき、その中心部の貫通孔にて図示しない回転軸体であるてん真と嵌合する。その固定は、例えば接着剤を用いた接着でもよい。てん真は、金属で構成する場合が多いから、その場合、第6の実施形態のてん輪150は、貫通孔88を有する中心部分が金属で構成しているため、双方が同じ材料同士となり、より強固に固定することができる。
てん輪の中心部分をシリコンで構成すると、シリコンは脆性材料であるので、貫通孔にてん真を挿入した際に、双方の当たり部分でシリコンが破損してしまうことがある。しかし、金属で構成すれば、その破損を防ぐことができる。
また、てん真をてん輪150の貫通孔88に圧入してもよい。圧入しても金属同士であるから破損することがなく強固に固定することができる。その際には、接着剤の塗布を省略することもできる。
すでに説明したように、機械式時計を運用するときに、予期せぬ大きな衝撃(例えば、落下)が加わると、てん真がその軸受け機構内で暴れてしまい、てん真の回転軸が歪むこ
とがある。てん輪の中心部分を脆性材料のシリコンで構成すると、その嵌合部に予期せぬ方向の力が加わり、破損してしまうことがある。
しかし、第6の実施形態のてん輪150の中心部分の貫通孔88部分は、粘靭性を有する金属で構成しているため、てん真の回転軸の歪みに対しても、粘るため耐性を有するのである。したがって、第6の実施形態のてん輪150は、衝撃に強い機械式時計を構成することができるのである。
また、すでに説明したように、ひげぜんまいの場合、そのひげ玉の貫通孔の内壁を覆うように金属製のスリーブを嵌め込み、てん真と固定することがある。てん輪も同様であって、シリコンでてん輪を構成するとき、その中心部分の貫通孔に金属製のスリーブを設けることもある。しかし、スリーブを用いると部品数が増加し、スリーブを挿入する製造工程も増加する。
このような問題も、第6の実施形態のてん輪150を用いれば解決する。スリーブが不要になっても、てん輪150はスリーブを用いるときと同等の強度を有するので、コストダウンに貢献できる。
以上、図13を用いて説明した例では、第1の部分18により第2の部分28が挟まれている部分はアーム77及びてん輪150の中心部分の貫通孔88を含む部分であるが、もちろんそれに限定されない。図示はしないが、アーム77やリム66にも、第1の部分18で第2の部分28を挟む構成を設けてもよい。
なお、第6の実施形態のてん輪150を構成する第1の部分18、第2の部分28、金属膜57は、すでに説明した第1の実施形態の第1の部分11、第2の部分21、金属膜51a〜51dと同じ材料を用いることができるため、それぞれ対応する材料についての説明は省略する。
また、第6の実施形態のてん輪150の製造方法については、すでに説明した第2の実施形態と同様な加工方法を用いることができるため、その説明は省略する。
なお、説明した第1、第3〜第6の実施形態の構成については、互いに組み合わせて用いてもよい。例えば、第1の実施形態のひげぜんまいと第3及び第4の実施形態のひげぜんまいとの構成を組み合わせ、ひげ玉、ぜんまい部、ひげ持において、シリコンを主成分とする第1の部分が金属を主成分とする第2の部分を幅方向に挟む構成としてもよいのである。
また、第5の実施形態のてん輪と第6の実施形態のてん輪との構成を組み合わせ、リム、アーム、てん輪の中心部分において、シリコンを主成分とする第1の部分が金属を主成分とする第2の部分を幅方向に挟む構成としてもよいのである。
そして、もちろん、第1、第3及び第4の実施形態のひげぜんまいと、第5及び第6の実施形態のてん輪と、を組み合わせた調速機を構成してもよいのである。
以上、本発明の機械部品について、ひげぜんまいとてん輪とを例示して説明した。しかし、シリコンを主成分とする機械部品で、衝撃を受けやすい部分に用いられる部品であれば、いかなる部品においても本発明は適用可能である。例えば、機械式時計の部品では、歯車、ガンギ車、アンクル等にも適用できる。また、電気機械変換器の可動部品、さらに、小型軽量の板ばねなど、弾性力を有する機械部品にも適用できる。
また、本発明の機械部品は、軽量化と強度とを兼ね備えた部品にも用いることができる。例えば、時計の文字板や文字板に設ける装飾部材(マークや時字など)、時刻等を報知するための指針などにも用いることができる。指針においては、第4、第6の実施形態にて説明したように、指針を固定する軸体との嵌合部である貫通孔を含む部分を第2の金属で構成すれば、強度も増して好ましい。