JP6223193B2 - ひげぜんまい及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、時計用ひげぜんまい及びその製造方法に関する。
従来の機械式時計においては、機械の運転を規則正しく一定の速度に保つために、ひげぜんまいとてん輪(てん真付)とで構成される調速機(てんぷ)が使われている。等時性のあるひげぜんまいの伸縮によりてん輪が規則正しく往復回転運動を行う。
てんぷには、がんぎ車とアンクルとで構成される脱進機という機構が接続されており、ぜんまいからエネルギーが伝達されて、振動を持続するようになっている。
知られているひげぜんまいは、金属を加工して形成する場合が多い。このため、その加工精度のばらつきや金属が有する内部応力の影響などによって、設計通りの形状が得られない場合がある。
ひげぜんまいは規則的にてんぷを振動させる必要があるから、設計通りの形状が得られないとてん輪も等時性のある運動ができなくなり、時計の歩度ずれが生じてしまう。時計の歩度とは、一日あたりの時計の進み又は遅れの程度を示すものである。
ところで近年、シリコン基板をエッチング加工することによって時計部品を製造する試みがなされている。従来の金属部品を用いる時計部品の製造に比べ軽量にできるという利点と、安価で大量生産ができる利点とがあると言われている。これにより、小型軽量の時計を製造することができると期待されている。
シリコン基板をエッチングする際、近年ではドライエッチング技術である反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching:RIE)技術が進歩してきた。中でも、深堀りRIE(Deep RIE)技術が開発され、アスペクト比が高いエッチングが可能になってきた。
この技術によると、エッチングがフォトレジストなどでマスクした部分の下に回り込まないために、垂直深さ方向にマスクパターンを忠実に再現できるようになり、シリコン基板をエッチングする際に、時計部品を設計通りの形状で精度よく製造することが可能となってきた。
そもそもシリコンは、金属よりも温度特性がよい。従来のひげぜんまいの材料として用いられる金属よりも環境温度に対して変形しにくいという特徴がある。このことから、時計の調速機構にもこの技術を応用することが考えられている(例えば、特許文献1参照。)。
特許文献1に示した従来技術は、ひげぜんまいを平面視したときの一平面であるぜんまい部の上面に開口部を設けてひげぜんまいの質量を減少させることによって、開口部のない場合と同じ剛性を維持しつつ衝撃による影響を受け難くしたものである。
特表2011−526676号公報(第7頁、図10)
しかし、特許文献1に示した従来技術では、時計に大きな衝撃が加わった場合に、ひげぜんまいが破損してしまうことがあった。つまり、シリコンは脆性材料であるから、時計が大きな衝撃を受けたときにひげぜんまいが他の部品と当接し、その衝撃で破損してしまう恐れがあった。
ひげぜんまいはひげ玉に巻回されるコイル形状のぜんまい部があり、このぜんまい部は1つの連続した構造体であるが、巻回されるぜんまい部をある部分切り出してみたとき、そのひげ玉を中心として周回する各部分をぜんまい腕と呼ぶことにする。
ひげぜんまいの大きさは組み込まれる時計のサイズや性能によって自由に選択できるものである。例えば一般的な腕時計の場合であれば、その直径は5mm〜8mm程度である。そうすると、このような直径のひげぜんまいの場合、ぜんまい腕を構成する部分の上面の幅は数十μmとなる。そのような薄い構造体からなるぜんまい部は、破損し易いのである。
ひげぜんまいが破損すると、てん輪が規則正しく往復回転運動が行えず、時計として機能しなくなるばかりか、その破片が飛び散って時計機構に入り込むと、時計そのものに致命的な障害を起こす恐れもある。
本発明の目的は、上記従来技術の課題に鑑み、機械式時計の調速機構において、シリコン製のひげぜんまいを採用しても衝撃に強いひげぜんまい及びその製造方法を提供することである。
前述した目的を達成するための本発明におけるひげぜんまいは、以下の構成を採用する。
回転軸体と嵌合するための貫通孔を有するひげ玉と、このひげ玉と接続し、貫通孔を中心にしてひげ玉に巻回されるコイル形状のぜんまい部と、を有し、第1の材料を主成分とするひげぜんまいであって、ぜんまい部の表面の一部に、第1の材料よりも粘靱性の高い第2の材料を主成分とする緩衝剤を設けることを特徴とする。
ぜんまい部を構成するぜんまい腕の表面の一部に粘靱性の高い緩衝剤を設けることで、ひげぜんまいに衝撃が加わったとしても破壊から保護することができる。
また、第1の材料は、シリコンであると良い。
このようにすれば、シリコンは比較的軽いため、軽量のひげぜんまいを構成できる。
また、第2の材料は、樹脂であると良い。
このようにすれば、樹脂は比較的柔らかいため、衝撃を吸収しやすくなる。
ぜんまい部の表面の一部に凸形状又は凹形状の段差部を設け、緩衝剤は、段差部を覆うようにしてもよい。
このようにぜんまい部を構成するぜんまい腕に段差部を設けると、ぜんまい腕の強度を向上させることができる。また、段差部を覆うように緩衝剤を設けると、緩衝剤とぜんま
い腕との接触面積が増えるため、双方をより強く着けることができる。
また、ひげぜんまいが他部材と衝突したとしても、緩衝剤がぜんまい部よりも先に当たることもでき、ぜんまい部にかかる衝撃を和らげ、ひげぜんまいの破損を防止できる。
さらにまた、ひげぜんまいのぜんまい腕同士が衝突したとしても、緩衝剤がぜんまい腕の段差部にあることで、衝撃が緩和され、ひげぜんまいの破損を防止できる。
前述した目的を達成するための本発明におけるひげぜんまいは、以下の製造方法を採用する。
第1の材料を主成分とするひげぜんまいのぜんまい部の表面の一部に、第1の材料よりも粘靱性の高い第2の材料を主成分とする緩衝剤を設けるひげぜんまいの製造方法であり、基板をエッチングし、所定の形状のひげぜんまいを形成するエッチング工程と、ぜんまい部の表面の一部に第2の材料の緩衝剤を形成する緩衝剤形成工程と、を有することを特徴とする。
このような製造方法によれば、ぜんまい部を構成するぜんまい腕の表面の一部に緩衝剤を設けるひげぜんまいを簡単に製造することができる。
ぜんまい部の表面の一部に凸形状又は凹形状の段差部を形成する段差部形成工程を有し、 緩衝剤形成工程は、段差部を覆うように緩衝剤を設けるようにしてもよい。
このような製造方法によれば、段差部を有するぜんまい腕に緩衝剤を簡単に形成できる。
緩衝剤形成工程は、緩衝剤の元になる素材をぜんまい部の表面の一部に滴下して形成するようにしてもよい。
このような製造方法によれば、ぜんまい部の表面の一部に所望の量だけ緩衝剤を形成できる。また、樹脂の形成をひげぜんまいと非接触で行える。
緩衝剤形成工程は、緩衝剤の元になる素材を浸み込ませたシートの上に基板を載置することでぜんまい部の表面の一部に緩衝剤を形成するようにしてもよい。
このような製造方法によれば、ぜんまい腕に緩衝剤を簡単に形成できる。
緩衝剤形成工程は、緩衝剤の元になる素材を入れた槽に基板を浸漬することでぜんまい部の表面の一部に緩衝剤を形成するようにしてもよい。
このような製造方法によれば、ぜんまい腕に緩衝剤を簡単に形成できる。
ひげぜんまいを構成するぜんまい部が強靭になるので、時計が強い衝撃を受けたとしてもひげぜんまいが破壊しにくくなる。
本発明の第1の実施形態であるひげぜんまいの構成を説明する平面図及び断面図である。 本発明の第1の実施形態であるひげぜんまいのぜんまい部を詳細に説明する拡大断面図である。 本発明の第2の実施形態であるひげぜんまいの第1の製造方法を説明する断面図である。 本発明の第2の実施形態であるひげぜんまいの第2の製造方法を説明する断面図であって、基板に段差部を形成するまでの工程を説明する図である。 本発明の第2の実施形態であるひげぜんまいの第2の製造方法を説明する断面図であって、緩衝剤を設ける工程までを説明する図である。 本発明の第2の実施形態であるひげぜんまいの第3の製造方法を説明する断面図である。 本発明の第2の実施形態であるひげぜんまいの第4の製造方法を説明する断面図である。 本発明の第2の実施形態であるひげぜんまいの第5の製造方法を説明する断面図である。
本発明のひげぜんまいは、ひげ玉に巻回されるコイル形状のぜんまい部を第1の材料で構成し、ぜんまい部の表面の一部に第1の材料よりも粘靱性の高い第2の材料の緩衝剤を設ける。
粘靭性とは、外部からの圧力に対して壊れにくい性質、粘り強さのことを言う。
ぜんまい部の表面の一部に、粘靱性の高い緩衝剤を設けることにより、ぜんまい部はもろさが緩和され、強靭にすることができる。
以下、本発明のひげぜんまいについて、図面を参照して詳細に説明する。まず、第1の実施形態として、図1を用いて本発明のひげぜんまいの概略の構成を説明し、次に、図2を用いてぜんまい部の更に詳細な構成について説明する。そして、第2の実施形態として図3〜図7を用いて、製造方法を説明する。
[ひげぜんまいの構成の説明:図1]
図1を用いてひげぜんまいの第1の実施形態を説明する。
図1(a)は、ひげぜんまいの平面図である。図1(b)は、ぜんまい部を拡大した図面であって、図1(a)に示す切断線A−A´における断面の様子を模式的に示す断面図である。
図1において、ひげぜんまい1は、中心部に図示しない回転軸体であるてん真と嵌合するための貫通孔3aを有するひげ玉3と、貫通孔3aを中心にしてひげ玉3に巻回されるように設計されたコイル形状のぜんまい部2と、ぜんまい部2の巻き終わりと接続しているひげ持4とから構成されている。ぜんまい部2の巻き始めとひげ玉3とは接続部3bで接続している。
ひげぜんまい1は、第1の材料としては、水晶、セラミックス、シリコン、シリコン酸化膜などを主成分とする材料から構成することができる。第1の材料をシリコンとすれば、軽いひげぜんまいを構成できて便利である。
ひげぜんまい1を構成する第1の材料がシリコンであるとすると、ひげぜんまい1の製造や加工に際して、シリコン半導体基板に対して行う深堀りRIE技術を用いることができ、半導体装置を製造する際と同様な公知の製造技術を用いることができる。
以後の説明にあっては、第1の材料を、軽く加工しやすいという特徴を有するシリコン
とする場合を例にして説明する。
上述のように、ひげぜんまい1は基材となるシリコン半導体基板をドライエッチングして形成するため、図1(a)に示すように、ひげぜんまい1のぜんまい部2と、ひげ玉3と、ひげ持4とは、一体で形成されている。
ひげぜんまい1を図示しない回転軸体の軸方向から平面視したときの様子が図1(a)に示すものである。図1(b)は、切断線A−A´におけるぜんまい部2の4つの部分を拡大して示す断面図である。
ぜんまい部2は上述の通り一体で形成されており、ひげ玉3の周囲を巻回されているような形状を有している。切断線A−A´の部分は、ぜんまい部2の外周部分である。このぜんまい部2は上述のごとく1つの構造体であるが、説明しやすいように断面で見たときのそれぞれの周回に当たる4つの部分に、ぜんまい腕20a、20b、20c、20dの名称を付与することにする。
図1(b)に示すように、ぜんまい部2の表面の一部2aには、第2の材料を主成分とする緩衝剤6a〜6dが設けてある。ぜんまい腕20a〜20dは一体の構造物であるから、緩衝剤6a〜6dも1つの構造体である。
第2の材料は、第1の材料よりも粘靱性の高い材料である。第1の材料をシリコンとすれば、第2の材料は樹脂とすることができる。例えば、エポキシ樹脂とすることができる。
近年、エポキシ樹脂はさまざまな改良がなされており、柔軟鎖を持つポリマー(ゴム、エラストマー)を添加することで、内部応力を低下させて靭性を向上させるものもあり、シリコンに対して粘靱性を有するようにすることができる。
ひげぜんまいの製造方法は後述するが、緩衝剤6a〜6dは、例えば、ぜんまい腕の表面の一部2aに設ける時点では粘度が低くなっており、その後に適宜硬化処理を施して適度の硬さに硬化させることができる、紫外線硬化型又は熱硬化型の樹脂を用いることができる。
特に限定するものではないが、1つのぜんまい腕は、例えば、幅は60μm、高さは100μmである。
このように幅方向に薄いぜんまい腕であっても、表面の一部2aに緩衝剤を設けることによって、ぜんまい部はもろさが緩和され、強靭にすることができる。
図1(b)に示す例では、形成する緩衝剤6a〜6dは、同じ膜厚で形成する例を示したが、それぞれのぜんまい腕ごとに膜厚を異ならせるようにしても構わない。
そのような構成は、例えば、ひげ玉3からひげ持4に至って、漸次緩衝剤の幅や膜厚を減らしたり増やしたりしてもよいのである。
これは、ひげぜんまい1に対して欲するばね特性(例えば、ヤング率など)に鑑みて自由に選択することができる。
[ぜんまい部の形状の説明1:図2]
次に、ひげぜんまいのぜんまい部の異なる構成例を、図2を用いて説明する。この構成は、ぜんまい腕に段差部を設ける構成と、その段差部をさらに深くすることでぜんまい腕を貫通させ、ぜんまい腕に貫通孔を有する構成の例である。説明にあっては、周回方向の
1つのぜんまい腕を例にして説明する。
図2において、図2(a)〜図2(e)は、ぜんまい腕の表面の一部に段差部を有する例である。図2(a)、図2(b)は、ぜんまい腕から突出する凸形状の段差部の例であり、図2(c)〜図2(e)は、ぜんまい腕から凹む凹形状の段差部の例である。図2(f)は、ぜんまい腕に設ける段差部を深堀りすることでぜんまい腕を貫通する貫通孔を有する例である。
そして、図2(g)は、ぜんまい腕から凹む凹形状の段差部に緩衝剤が埋め込まれている例である。また、図2(h)は、ひげぜんまいを複合基板で形成した例を説明する図である。
図2(a)、図2(b)に示すように、ぜんまい部のぜんまい腕21aには、その表面の一部2aに凸形状の段差部70aを設けてある。この段差部70aを覆うように、それぞれ緩衝剤16a、26aが形成されている。
図2(a)に示す例と図2(b)に示す例との違いは、緩衝剤の形状である。図2(a)に示す緩衝剤16aはその頭頂部が平坦であり、図2(b)に示す緩衝剤26aはドーム形状である。
このように段差部を設けることにより、ぜんまい腕の強度を向上させることができる。特にねじれる方向に対する強度が向上する。また、段差部により緩衝剤とぜんまい腕との接触面積が増えるため、双方をより強く着けることができる。
また、このような構成にすると、例えば、衝撃を受けてひげぜんまいがぜんまい腕21aの表面の一部2aの方向に動き、図示しない他の部材と接したときでも、ぜんまい部21aよりも先に突出した緩衝剤16a、26aが他の部材と当接するので、ひげぜんまいを保護することができる。つまり、粘靱性の高い緩衝剤がクッションとなり、ひげぜんまいに衝撃を伝達しにくくすることで、破壊から保護するのである。
また、図2(a)のような構成では、衝撃を受けてひげぜんまいが他の部材と接したとき、ひげぜんまいが伸縮運動をしていたとしても、ぜんまい腕の表面の一部2aにおいて頭頂部が平坦な緩衝剤16aにより、他の部材との当接後にその平坦部分ですべりを生じさせ、衝突した力を受け流すことができる。このため、さらにひげぜんまいを保護することができる。
図2(c)〜図2(e)に示すように、ぜんまい部のぜんまい腕22aには、その表面の一部2aに凹形状の段差部70bが設けてある。この段差部70bを覆うように、それぞれ緩衝剤36a、46a、56aが形成されている。これらの緩衝剤の形状も、上述の例と同じく時計機構の形状などに鑑みて選択できる。
そして、このような凹形状の段差部であっても、緩衝剤とぜんまい腕との接触面積が増えるため、双方がより強く着くことに加え、緩衝剤の粘靱性によりひげぜんまいを保護できる。
また、図2(f)に示すように、ぜんまい腕を貫通するような貫通孔70cを設けてもよい。すなわち、ぜんまい部のぜんまい腕23aには、その表面の一部2aと対向する他の表面2bとを貫通する貫通孔70cを設けるのである。
このような貫通孔70cは、表面の一部2aに設けた凹形状の段差部と他の表面2bに
設けた凹形状の段差部とが繋がったものであり、それぞれの表面に形成する段差部の加工時に、その段差をさらに深く掘り下げる(エッチングする)ことにより容易に形成できる。そして、その貫通孔及び表面の一部2a、他の表面2bを覆うように緩衝剤66aが設けてある。
このような構成にするとき、貫通孔70cに入り込む緩衝剤66aの量を自由に設定できるから、そうすると、ぜんまい部2の硬さなどを自由に選ぶことができて便利である。
また、図2(g)に示すように、ぜんまい部のぜんまい腕22aには、その表面の一部2aに凹形状の段差部70bが設けてあり、この段差部70bを埋めるように緩衝剤76aを設けてもよい。
このような構成とすることで、例えば、ひげぜんまいに不測の衝撃が加わり、ぜんまい腕同士が当たったとしも、ぜんまい腕に緩衝剤が埋め込まれているために、衝撃を緩和し、ぜんまい腕の破壊を防止することができる。
特に限定はしないが、図2(a)、図2(c)、図2(d)、図2(f)、図2(g)に示す例は、図2(b)や図2(e)に示す例のように緩衝剤をドーム状形成した後に、その頭頂部を平坦に削るなどすれば容易に形成できる。
ひげぜんまいは、第1の材料を主成分としており、この例では前述の通りシリコンである。図2(h)に示すように、例えば、ひげぜんまいを断面で見たときに、その高さ方向にシリコン24a1とシリコン酸化膜24a2とを積層した複合基板とし、このシリコンを主成分とする複合基板を基にしてひげぜんまいを構成してもよい。
そのようなシリコンを主成分とする複合基板は、シリコンにシリコン酸化膜をCVD等の公知の成膜技術を用いれば簡単に形成できる。
図2(h)に示す例では、シリコン24a1の表面の一部2aには凸形状の段差部70aを設け、シリコン酸化膜24a2の他の表面2bには凹形状の段差部70bを設けている。そして、段差部70aにはそれを覆うように緩衝剤16aを、段差部70bにはそれを覆うように緩衝剤46aを、それぞれ設けている。
また、図2(h)に示す例では、シリコン24a1とシリコン酸化膜24a2とに設ける凸形状の段差部70aと凹形状の段差部70bとは、表面の一部2aと他の表面2bとにおいてその中心位置をずらして設けている。すなわち、図2(h)の図面上、段差部70aはやや右に、段差部70bはやや左に、少々オフセットして設けている例を示した。
このようにそれぞれの段差部をオフセットする理由は、ぜんまい腕のねじれの矯正である。ひげぜんまい1が伸縮運動する際にぜんまい腕がねじれるような場合がある。そのようなときであっても、ぜんまい腕に対して段差部や緩衝剤の位置をずらすことにより、ぜんまい腕の重心位置がずれ、そのねじれが矯正できる場合がある。
もちろん、ぜんまい腕のねじれが問題にならないほど軽微なときや、ねじれても時計の動作に影響がない場合、ぜんまい腕の幅や厚さの影響でそもそもねじれが生じない場合などは、それぞれの段差部は、互いの中心位置が一致するように設けてもよい。
ところで、ひげぜんまいを積層基板で構成する例は、図2(h)に示す例に限定しない。例えば、シリコン24a1とシリコン酸化膜24a2とで同じ凸形状の段差部を設けたり、凹形状の段差部を設けるようにしてもよい。
このような事情から、図2(a)〜図2(e)、図2(g)に示す構成も上述の複合基板を用いてもよく、その場合、凸形状の段差部や凹形状の段差部をシリコンとシリコン酸化膜とのどちらに形成してもよいことは無論である。
もちろん、図2(f)に示す貫通孔の形成にあっても積層基板を用いることができる。そのときは、シリコンやシリコン酸化膜に選択性のあるエッチング用の混合ガスやエッチング液などを用いる公知のエッチング技術を用いれば、所定の直径や形状の貫通孔を容易に形成することができる。
なお、図2に示す各構成や複合基板を用いるか否かは、ひげぜんまいを組み込んだ時計の構造などに鑑みて、自由に選択すればよい。
次に、第2の実施形態としてひげぜんまいの製造方法について、工程図を用いて説明する。第1の製造方法は、図3を用いて説明する。第2の製造方法は、図4、図5を用いて説明する。第3の製造方法は、主に図6を用いて説明する。第4の製造方法は、主に図7を用いて説明する。第5の製造方法は、主に図8を用いて説明する。
なお、製造方法はひげぜんまい全体を形成する技術であるが、本発明の特徴である緩衝剤を設けた構成を見やすくするために、ぜんまい腕部分を拡大した図1(b)の断面図を用いて説明する。したがって、説明にあっては適宜図1(a)も参照されたい。また、第1の材料はシリコン、第2の材料は靭性を向上させたエポキシ樹脂の例で説明する。
[第1の製造方法の説明:図3]
図3(a)に示すように、少なくともひげぜんまい1が取り出せる大きさの面積と厚みとを有するシリコンの基板200を準備する。ひげぜんまいの生産性を考慮に入れれば、ひげぜんまい1が多数個取り出せる大きさの基板200である方が好ましい。
同じく図3(a)に示すように、基板200のぜんまい部2となるぜんまい腕20a〜20dの幅に相当する部分を覆うようにマスク9を知られているフォトリソグラフィ技術で形成する。上述の通りこのマスク9は図示しないがひげぜんまい1の全体を形作る形状である。マスク9は、例えばシリコン酸化膜である。特に限定しないが、このマスク9は、基板200の表面より2μmの膜厚となるように形成する。
その後に、混合ガス(SF+C)を用いて、基板200を深堀りRIE技術でドライエッチングする。これにより、基板200からぜんまい腕20a〜20dを離断する。この状態では、図示はしないが、ひげぜんまい1は基板200から独立して切り出されており、ひげ玉3の貫通孔3aも貫通している。
その後に、マスク9のみを除去することで、図3(b)に示すようにひげぜんまい1の形状を得る。このマスク9の除去は、例えば、基板200をフッ化水素酸を主成分とする公知のエッチング液に浸漬して行う。
次に、ぜんまい腕に緩衝剤を形成する方法について説明する。
初めにひげぜんまい1をX方向やY方向に可動できる可動台に置くなどする。その後に、図3(c)に示すように、緩衝剤6a〜6dとなる、例えば液状の樹脂6が満たされたディスペンサー10を用いて、可動台を所定の方向に可動させるなどしてぜんまい腕20a〜20dに、緩衝剤の元になる素材である適量の樹脂6を順次滴下する。
ディペンサー10がX方向やY方向に可動できる機構を有する場合は、ひげぜんまい1を稼働しない基台等に乗せて樹脂を滴下させることもできる。
その後、図3(d)に示すように、樹脂6を硬化させて、欲する粘靱性の緩衝剤6a〜6dを形成する。樹脂6の硬化にあっては、用いる樹脂6によりその手法が異なるが、例えば、熱硬化型の樹脂6を用いる場合は、規定の温度と熱印加時間とにより熱硬化させればよく、紫外線硬化型の樹脂6を用いる場合は、規定の波長の紫外線と照射時間とにより硬化させればよい。
用いる樹脂6の種類によりその粘度も異なるため、ディスペンサー10からの滴下により、ぜんまい腕の表面の一部に樹脂6がドーム状に形成される場合もある。その際は、樹脂6の硬化後に、ドームの頭頂部を研磨手段等により研磨することで、図3(d)に示すような平坦な形状にすることができる。
以上説明した第1の製造方法は、ぜんまい部2のぜんまい腕を基板200から切り出した後、つまり基板200よりひげぜんまい1をエッチングにより独立させた後に樹脂6を滴下する手法である。
この第1の製造方法によれば、ぜんまい部の表面の一部に所望の量だけ緩衝剤を形成できるというメリットがある。
また、この第1の製造方法によれば、樹脂の充填をひげぜんまいと非接触で行えるから、充填作業にかかる製造工程中に、ひげぜんまいの表面が他の物体と接触することにより生じる表面の汚染が発生しないという利点もある。
[第2の製造方法の説明:図4、図5]
次に、ぜんまい腕に段差部を有するひげぜんまいの製造方法を説明する。説明にあっては、凹形状の段差部を形成する場合で説明する。
図4(a)に示すように、少なくともひげぜんまい1が取り出せる大きさの面積と厚みとを有するシリコンの基板200を準備する。ひげぜんまいの生産性を考慮に入れれば、ひげぜんまい1が多数個取り出せる大きさの基板200である方が好ましいのは、第1の製造方法と同様である。
次に、図4(b)に示すように、基板200に、ひげぜんまい1のぜんまい部2に段差部7a〜7dを形成するために、この段差部に相当する部分が開口したマスク8を知られているフォトリソグラフィ技術で形成する。マスク8は、例えばシリコン酸化膜である。特に限定しないが、このマスク8は1μmの膜厚で形成する。
そして、処理時間を管理しながら混合ガス(SF+C)を用いて、基板200をRIE技術でドライエッチングすることにより、所定の幅と深さの段差部7a〜7dが形成される。
この段差部7a〜7dは、後述するぜんまい腕20a〜20dにそれぞれ設ける段差部である。
その後に、マスク8のみを除去することで、図4(c)に示す基板200を得る。このマスク8の除去は、例えば、基板200をフッ化水素酸を主成分とする公知のエッチング液に浸漬して行う。
次に、図5(a)に示すように、基板200のぜんまい部2となるぜんまい腕20a〜
20dの幅に相当する部分(段差部は覆われている)を覆うようにマスク9を知られているフォトリソグラフィ技術で形成する。上述の通りこのマスク9は図示しないがひげぜんまい1の全体を形作る形状である。マスク9は、例えばシリコン酸化膜である。特に限定しないが、このマスク9は、基板200の表面より2μmの膜厚となるように形成する。
その後に、混合ガス(SF+C)を用いて、基板200を深堀りRIE技術でドライエッチングする。これにより、基板200からぜんまい腕20a〜20dが離断され、図示はしないがひげぜんまい1も基板200から独立して切り出されている。
その後に、マスク9のみを除去することで、図5(b)に示すようにひげぜんまい1の形状を得る。このマスク9の除去は、例えば、基板200をフッ化水素酸を主成分とする公知のエッチング液に浸漬して行う。
次に、ぜんまい腕に緩衝剤を形成する方法を説明する。これにより、段差部7a〜7dも緩衝剤6a〜6dで覆われる。
初めにひげぜんまい1をX方向やY方向に可動できる可動台に置くなどする。その後に、図5(c)に示すように、緩衝剤6a〜6dの元になる素材、例えば液状の樹脂6が満たされたディスペンサー10を用いて、可動台を所定の方向に可動させるなどして段差部7a〜7dに適量の樹脂6を順次滴下する。
ディペンサー10がX方向やY方向に可動できる機構を有する場合は、ひげぜんまい1を稼働しない基台等に乗せて樹脂を滴下させることもできる。
その後、図5(d)に示すように、樹脂6を硬化させて、欲する粘靱性の緩衝剤6a〜6dを形成する。樹脂6の硬化にあっては、すでに説明している通り、用いる樹脂6によりその手法が異なる。熱硬化型、紫外線硬化型の樹脂に合わせた硬化処理を行えばよい。
この第2の製造方法によれば、図2(d)、図2(e)に示す形状を簡単に製造することができる。緩衝剤として用いる樹脂を選ぶことによりどちらの形状にも形成できる。例えば、粘性の低い樹脂を用いれば緩衝剤の頭頂部は平坦になりやすく、そのような樹脂を用いることで容易に図2(d)に示す形状にすることができる。
また、緩衝剤の頭頂部を平坦にするには、図2(e)に示す形状にしてから研磨手段を用いて緩衝剤の頭頂部を研磨することで図2(d)に示す形状にすることもできる。その場合、樹脂の粘性に関わらないから、所望の樹脂を選択できるというメリットもある。
以上の説明は、ぜんまい腕に凹形状の段差部を有する例であるが、段差部が凸形状であっても同様な製造方法を用いることができる。すなわち、その凸形状を形成するためにぜんまい腕を覆うマスクの形状を変えればよい。例えば、図4(b)に示すマスク8の形状を、突出させる部分を覆い、他の部分を開口するような形状とすればよいのである。
[第3の製造方法の説明:図6]
次に、第3の製造方法を説明する。この製造方法も、ぜんまい腕に凹形状の段差部を有するひげぜんまいの製造方法に関するものであって、凹んだ段差部にのみ緩衝剤を設ける製造方法である。
第3の製造方法は、図2(g)に示すような複数の凹形状の段差部にのみ同時に緩衝剤を設けることができる。複数の凹形状の段差部に同量の緩衝剤を設けることができるというメリットもあり、生産性を向上したい場合に適している製造方法である。なお、基板200に段差部7a〜7dを設けるまでの製造方法は、図4を用いてすでに説明した例と同
様であるから、その説明は省略する。
この製造方法は、凹んだ段差部に毛細管現象を用いて緩衝剤を充填させる点が特徴的部分である。
図6(a)に示すように、凹形状の段差部7a〜7dを形成した基板200を、図4(c)に示す向きと上下を反転させた状態で樹脂6を浸み込ませた布製のシート11の上に載置する。すると、樹脂6は毛細管現象によって段差部7a〜7dに充填される。
その後、基板200をシート11より剥がし、樹脂6を前述のような手法で硬化処置を施す。これにより段差部7a〜7dには緩衝剤6a〜6dが充填されるが、後にぜんまい腕20a〜20dの表面の一部2aとなる部分にも樹脂が付着している場合がある。その付着した樹脂を除去する必要があるときは、図6(b)に示すように、基板200の表面を研磨手段13で研磨する。
研磨手段13は、所定の表面粗さを有する所定形状の鑢などを用いることができる。また、基板200の表面の研磨にあっては、研磨手段13による研磨に限定はしない。例えば、公知のCMP(Chemical Mechanical Polishing:化学機械研磨)法を用いてもよい。
次に、図6(c)に示すように、基板200のぜんまい部2となるぜんまい腕20a〜20dの幅に相当する部分(段差部は覆われている)を覆うようにマスク14を知られているフォトリソグラフィ技術で形成する。上述の通りこのマスク14は図示しないがひげぜんまい1の全体を形作る形状である。マスク14は、例えば、シリコン酸化膜であり、基板200の表面より2μmの膜厚となるように形成する。
その後に、混合ガス(SF+C)を用いて、基板200を深堀りRIE技術でドライエッチングする。これにより、基板200からぜんまい腕20a〜20dを離断する。その後に、マスク14を例えば、基板200をフッ化水素酸を主成分とする公知のエッチング液に浸漬して除去する。
以上の製造工程によって、図2(g)に示すようなぜんまい腕に設けた段差部に緩衝剤を埋め込んだような構成を得ることができる。
この第3の製造方法によれば、マスク14の除去に際してひげぜんまいの表面が洗浄されるという利点もあり、万が一、それまでの製造工程でひげぜんまいの表面が汚染されていたとしても、何ら問題はない。
[第4の製造方法の説明:図7]
次に、第4の製造方法を説明する。この製造方法も、第3の製造方法と同様に、図2(g)に示すような複数の段差部に同時に同量の緩衝剤を充填できるというメリットがある。なお、基板200に段差部7a〜7dを設けるまでの製造方法は、図4を用いてすでに説明した例と同様であるから、その説明は省略する。
この製造方法は、緩衝剤の元になる素材である樹脂6を入れた槽に基板200を浸漬させることで緩衝剤を形成させる点が特徴的部分である。
図7(a)に示すように、段差部7a〜7dを形成した基板200を、樹脂6を入れた図示しない槽に浸漬させ、取り出す。そうすると、樹脂6が基板200の表面全体に付着する。もちろん、段差部7a〜7dにも充填される。
図7(a)に示す例では、基板200の全面に一様に樹脂6が付着しているように記載
しているが、重要なことは樹脂6を段差部7a〜7dに充填するということであるから、他の部分に樹脂6が均一に付着していなくても構わない。
ところで、樹脂6が入った図示しない槽から基板200を取り出すとき、図7に示すような図中の上下方向に引き上げれば、基板200の側面は垂直面となるから、その面に付着する樹脂6を少なく(薄く)することもできる。
その後、樹脂6を前述のような手法で硬化処置を施す。これにより段差部7a〜7dには緩衝剤6a〜6dが形成される。なお、ぜんまい腕20a〜20dの表面及び裏面に(基板200の側面にも)付着している樹脂6もまた硬化される。
その後、基板200に付着した余剰な樹脂を除去する。例えば、図7(b)に示すように、基板200の表面を研磨手段13で研磨する。図7(b)に示す例は、2つの研磨手段13を用いて研磨する手法を図示しているが、1つの研磨手段13を用いてもよいことは無論である。また、CMP法を用いて、表面と裏面とのそれぞれを研磨してもよい。
次に、図7(c)に示すように、基板200のぜんまい部2となるぜんまい腕20a〜20dの幅に相当する部分(段差部は覆われている)を覆うようにマスク14を知られているフォトリソグラフィ技術で形成する。その後、混合ガスを用いて、基板200を深堀りRIE技術でドライエッチングする。
このときのマスク14は、シリコン酸化膜で、基板200の表面より2μmの膜厚となるように形成する。深堀りRIE技術に用いるガスも、混合ガス(SF+C)を用いる。
深堀りRIE技術によるドライエッチングにより、基板200よりひげぜんまい1は切り離されるので、図7(c)に示すように基板200の側面に樹脂6が硬化した状態で存在していても、何ら問題はない。
また、この製造方法によれば、ひげ玉3の貫通孔3aの内部にも樹脂6が入り込むが、回転軸体であるてん真の径は段差部よりも大きいため貫通孔3aの径も大きく、その内部がすべて樹脂6で埋められることはないため、多少の樹脂6が監修項3aの内壁に残っていても、問題はない。
貫通孔3aの内壁に残る樹脂6を少なくすることもできる。例えば、上述のごとく樹脂6が入った槽からの基板200の引き上げる際の向きを工夫し、貫通孔3aの内壁が垂直面となるように引き上げれば、貫通孔3aの内壁に付着する樹脂6を少なくすることができる。そのような薄く残った樹脂6は、てん真を貫通孔3aに挿入する際に剥がれ落ちる。
また、貫通孔3aの内壁に意図的に樹脂6を残留させてもよい。例えば、粘度の高い樹脂を用いる。そうすれば、てん真とひげ玉3との間に樹脂6が介在することになる。その樹脂が粘靱性が高ければ、クッション材とすることができる。ひげ玉3にてん真を挿入するときに粘靱性の高い樹脂6が力を緩和し、ひげ玉3の破壊を防止することもできる。
もちろん、貫通孔3aの内壁に樹脂6を付着させないようにすることもできる。例えば、樹脂6を紫外線硬化型の樹脂とし、硬化の際に貫通孔3aの部分のみを遮光すれば硬化が起こらず、樹脂6を簡単に除去できる。
以上の製造工程によって、図2(g)に示すようなぜんまい腕に設けた段差部に緩衝剤を埋め込んだような構成を得ることができる。
この第4の製造方法も、マスク14の除去に際してひげぜんまいの表面が洗浄されるという利点がある。
[第5の製造方法の説明:図8]
次に、第5の製造方法を説明する。この製造方法は、図2(c)に示すような構成を製造する方法である。ぜんまい腕の表面の一部に緩衝剤を設けると共に、第2及び第3の製造方法と同様に、複数の段差部に同時に同量の緩衝剤を充填できるというメリットがある。なお、基板200に段差部7a〜7dを設け、基板200の全面に樹脂6を形成するまでの製造方法は、図4及び図7(a)を用いてすでに説明した例と同様であるから、その説明は省略する。
この製造方法は、フォトレジストをマスクにして深堀りRIE技術を行う点が特徴的部分である。
図8(a)に示すように、すでに説明した製造方法を用いて、段差部7a〜7dを形成した基板200の全面に、緩衝剤の元になる素材である樹脂6を形成する。このとき、後の製造工程によりひげぜんまい1の表面の一部2aとなる面2a´の上部の樹脂6の膜厚が「t」となるようにする。「t」は、例えば1μmである。その後、樹脂6を前述のような手法で硬化処置を施す。
次に、基板200のぜんまい部2となるぜんまい腕20a〜20dの幅に相当する部分(段差部は覆われている)を覆うようにフォトレジストマスク16を知られているフォトリソグラフィ技術で形成する。このとき、その膜厚が「2t」となるようにする。つまり、樹脂6の膜厚「t」の2倍である。例えば、2μmである。フォトレジストマスク16は、半導体装置を製造する際に用いる公知のフォトレジストを用いることができる。
次に、図8(b)に示すように、フォトレジストマスク16をマスクにして、混合ガス(O+CF)を用いて、基板200の表面(表面の一部2a´のある面)の樹脂6のみ除去する。
この混合ガスによる樹脂6のエッチングにより、フォトレジストマスク16の表面もエッチングされ、膜減りを起こす。図8(b)においては膜減りしたフォトレジストマスクは16aという番号を付与している。そして、そのとき残った膜厚は「t」であり、樹脂6と同じ膜厚であり、例えば、1μmである。
後述する製造工程により、基板200よりひげぜんまい1を深堀りRIE技術により切り離すのであるが、その際に、基板200の裏面に樹脂6が存在するとこの樹脂6がエッチングされず、正常に切り離しができない。そこで図8(c)に示すように、基板200の裏面を研磨手段13で研磨して樹脂6を除去する。この基板200の裏面の樹脂の除去は、CMP技術を用いてもよい。
次に、樹脂6(緩衝剤6a〜6d)とフォトレジストマスク16aとをマスクとして、深堀りRIE技術で基板200をドライエッチングする。深堀りRIE技術に用いるガスは、すでに説明したものと同じ混合ガス(SF+C)を用いる。
深堀りRIE技術によるドライエッチングにより、フォトレジストマスク16aは無くなり、基板200よりひげぜんまい1は切り離されるので、図8(d)に示すような形状になる。この形状は、図2(c)に示す形状と同じである。
その後、段差部のみに緩衝剤が埋め込まれた形状にするには、公知のドライエッチング
技術を用いてひげぜんまい1の表面(表面の一部2a)をドライエッチングすればよい。その際は、O(酸素)プラズマを用いた異方性のドライエッチングを用いれば、ひげぜんまい1の表面の一部2aにある緩衝剤を図中上下方向に垂直に除去するため、段差部のみ緩衝剤を残すことができる。
以上説明した第5の製造方法は、基板200に対して深堀りRIE技術によるドライエッチングでのひげぜんまい1の切り離しに際して、そのエッチングガスである混合ガス(SF+C)に対して、樹脂系のフォトレジストであるフォトレジストマスク16及び樹脂6が耐性を保つような膜厚「t」を有するようにする点が重要である。
つまり、シリコンを主成分とする基板200の深堀りRIE技術によるドライエッチングに対して選択性の高い樹脂系の膜をマスクとして用い、そのマスクの膜厚「t」を、シリコンを主成分とする基板200が貫通エッチングされるまで耐える膜厚とすることが重要である。
このようなことから、基板200の厚さや使用する混合ガスの種類によって、この膜厚「t」は自由に選択することができる。
以上、第2の実施形態としてひげぜんまいの5つの製造方法について説明したが、本発明のひげぜんまいの製造方法については、説明した内容に限定するものではない。
例えば、第3の製造方法は、樹脂6を浸み込ませた布製のシート11に基板200を載せることで段差部に樹脂6が充填されると説明したが、もちろん、段差部がない場合であってもこの製造方法により基板の表面の一部に樹脂を形成することができる。特に粘性の高い樹脂を使えば、布製のシートに基板を載置した際に樹脂の流れ出しが少なく、シートとの接触面に所望の厚さで樹脂を形成できる。
第4、第5の製造方法も同様である。これらの製造方法は、樹脂6を入れた図示しない槽に基板200を浸漬することで基板200の全面及び段差部に樹脂6が充填されると説明したが、もちろん、段差部がない場合であってもこの製造方法により基板の表面の一部に樹脂を形成することができる。
本発明は、ひげぜんまいの強度を向上させることができるから、特に腕時計のような可搬型の機械式時計のような、不測の衝撃が印加される機会がある時計のひげぜんまいに好適である。
1 ひげぜんまい
2 ぜんまい部
2a 表面の一部
2b 他の表面
3 ひげ玉
3a 貫通孔
3b 接続部
4 ひげ持
6 樹脂
6a〜6d、16a、26a、36a、46a、56a、66a、76a 緩衝剤
70a、70b 段差部
70c 貫通孔
8、9、14 マスク
10 ディスペンサー
11 シート
13 研磨手段
16 フォトレジストマスク

Claims (9)

  1. 回転軸体と嵌合するための貫通孔を有するひげ玉と、前記ひげ玉と接続し、前記貫通孔を中心にして前記ひげ玉に巻回されるコイル形状のぜんまい部と、を有し、第1の材料を主成分とするひげぜんまいであって、
    前記ぜんまい部の表面の一部に、前記第1の材料よりも粘靱性の高い第2の材料を主成分とする緩衝剤を設ける
    ことを特徴とするひげぜんまい。
  2. 前記第1の材料は、シリコンである
    ことを特徴とする請求項1に記載のひげぜんまい。
  3. 前記第2の材料は、樹脂である
    ことを特徴とする請求項1又は2に記載のひげぜんまい。
  4. 前記ぜんまい部の表面の一部に凸形状又は凹形状の段差部を設け、
    前記緩衝剤は、前記段差部を覆う
    ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載のひげぜんまい。
  5. 第1の材料を主成分とするひげぜんまいのぜんまい部の表面の一部に、前記第1の材料よりも粘靱性の高い第2の材料を主成分とする緩衝剤を設けるひげぜんまいの製造方法であり、
    基板をエッチングし、所定の形状のひげぜんまいを形成するエッチング工程と、
    前記ぜんまい部の表面の一部に前記第2の材料の緩衝剤を形成する緩衝剤形成工程と、
    を有することを特徴とするひげぜんまいの製造方法。
  6. 前記ぜんまい部の表面の一部に凸形状又は凹形状の段差部を形成する段差部形成工程
    を有し、
    前記緩衝剤形成工程は、前記段差部を覆うように前記緩衝剤を設ける
    を有することを特徴とする請求項5に記載のひげぜんまいの製造方法。
  7. 前記緩衝剤形成工程は、前記緩衝剤の元になる素材を前記ぜんまい部の表面の一部に滴下して形成する
    ことを特徴とする請求項5又は6に記載のひげぜんまいの製造方法。
  8. 前記緩衝剤形成工程は、前記緩衝剤の元になる素材を浸み込ませたシートの上に前記基板を載置することで前記ぜんまい部の表面の一部に前記緩衝剤を形成する
    ことを特徴とする請求項5又は6に記載のひげぜんまいの製造方法。
  9. 前記緩衝剤形成工程は、前記緩衝剤の元になる素材を入れた槽に前記基板を浸漬することで前記ぜんまい部の表面の一部に前記緩衝剤を形成する
    ことを特徴とする請求項5又は6に記載のひげぜんまいの製造方法。
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