JP2015168905A - ステンレス鋼金属繊維、及びステンレス鋼金属繊維の製造方法 - Google Patents
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切削加工法では、切削バイトの状態によっては良好な金属繊維が得られないため、切削バイトを頻繁に交換する必要があり製造効率が低いという課題があった。
さらには、とりわけ切削加工法において、母材の切削性を向上させるために添加する硫黄は硫化物を形成する。硫化物は孔食や粒界腐食の要因とされており、耐食性の低下が懸念される。
したがって、従来製品ではステンレス鋼製の金属繊維であっても耐食性を発揮できない場合があり、優れた耐食性を有するステンレス鋼金属繊維が望まれている。
また、本発明に係るステンレス鋼金属繊維は、前記フェライト粒の腐食生成物が繊維表面に付着していてもよい。
また、本発明に係るステンレス鋼金属繊維は、前記腐食生成物が、クロム酸化物、モリブテン酸化物、素材製造中に生成する窒化物やオーステナイト相とフェライト相の界面に形成されるFeCrのうち何れか1つ又は2つ以上の組み合わせであってもよい。
また、本発明に係るステンレス鋼金属繊維は、繊維形状が、針状又は板状の部分を有していてもよい。
また、本発明に係るステンレス鋼金属繊維の製造方法は、前記還元性の酸が、塩酸、希硫酸、又はこれらの混合溶液であってもよい。
また、本発明に係るステンレス鋼金属繊維の製造方法は、前記還元性の酸が、濃度5質量%以上、15質量%以下の塩酸であってもよい。
また、本発明に係るステンレス鋼金属繊維の製造方法は、前記塑性加工が、棒材の引抜加工であり、前記引抜加工により前記オーステナイト粒及び前記フェライト粒を針形状のファイバー状組織とするものであってもよい。
また、本発明に係るステンレス鋼金属繊維の製造方法は、前記塑性加工が、圧延加工であり、前記圧延加工により前記オーステナイト粒及び前記フェライト粒を板形状のファイバー状組織とするものであってもよい。
図1に本実施形態のステンレス鋼金属繊維1の模式図を示す。このステンレス鋼金属繊維1の製造方法は、二相ステンレス鋼を塑性加工し結晶粒をファイバー状組織とし、前記ファイバー状組織とした二相ステンレス鋼を還元性の酸に浸漬してフェライト相を腐食させオーステナイト相の繊維を得るものである。
二相ステンレス鋼は、オーステナイト相とフェライト相とを有するステンレス鋼である。二相ステンレス鋼の金属組織は、オーステナイト相及びフェライト相がそれぞれの結晶粒であるオーステナイト粒とフェライト粒として混在した状態となっている。
また、二相ステンレス鋼は、オーステナイト相とフェライト相の比率はほぼ等しいものが一般的に知られている。しかしながら、オーステナイト相とフェライト相の比率は、限定されるものではなく、オーステナイト相の比率を高めたものを用いても良い。オーステナイト相の比率を高めた二相ステンレス鋼は、ステンレス鋼金属繊維1の製造にあたって、腐食させるフェライト相の比率が相対的に低いために、還元性の酸を浸漬させる時間を短縮することができる。オーステナイト相とフェライト相の比率は、ステンレス鋼の成分と熱履歴によって決まる。したがって、含有される元素の比率や熱処理の条件を調整することで、オーステナイト相とフェライト相の比率を調整することができる。
二相ステンレス鋼の組織は、所定の範囲の結晶粒径を有する不定形のオーステナイト粒とフェライト粒が、多数隣接し混在した状態となっている。このような二相ステンレス鋼に対し塑性加工を行うと、加工方向に沿って結晶粒(オーステナイト粒及びフェライト粒)が変形し結晶粒形状がファイバー状(繊維形状)となる。ただし、このように形成された結晶粒形状は、途中板状となったりいびつな形状となったりと、必ずしも一定の繊維形状を維持していない。即ち、本実施形態の結晶粒形状は、概ね繊維形状であるが、局所的にはいびつな形状を有している。
本実施形態では、塑性加工として棒材の延伸加工を行うものとする。この場合には、それぞれの結晶粒の形状が針のように断面が略円形であり先端が尖鋭な針形状となる。
このように、ファイバー状組織とした二相ステンレス鋼を、還元性の酸に浸漬することで、図1に示すステンレス鋼金属繊維1を製造できる。ファイバー状組織とされたオーステナイト相及びフェライト相の結晶粒は、それぞれ隣接して配置されている。二つの相のうち、フェライト相は、還元性の酸に対して耐食性が低いため、還元性の酸に浸漬させると、フェライト相の結晶粒は腐食する。腐食が進むと、フェライト相の結晶粒が徐々に消失し、オーステナイト相の結晶粒のみが残留する。この残留したオーステナイト相の結晶粒は、塑性加工により形成されたファイバー状組織を有しているため、このファイバー状組織に由来するステンレス鋼金属繊維1が表出する。
塩酸の濃度を高くすることで腐食を促進させることができ、濃度が5質量%以上の塩酸を用いることでフェライト相を腐食させることができる。しかしながら、塩酸の濃度が10質量%を超えると、腐食の形態が全面腐食に遷移し、15質量%を超えると全面腐食が支配的となるため腐食の進行が遅くなる。塩酸の濃度を15質量%以下とすることで、腐食の形態を局部腐食として、腐食を促進させることができる。
したがって、塩酸の濃度は、15質量%以下とすることが望ましく、10質量%以下とすることがより望ましい。これにより、効果的に繊維を抽出することができる。
なお、濃度15質量%を超える塩酸は取り扱いに細心の注意が必要であるため、製造設備に必要なコストが高くなる。係る観点からも、塩酸の濃度は15質量%以下とすることが好ましい。
このように形成したステンレス鋼金属繊維1は、二相ステンレスのオーステナイト相が残留したものであるため、オーステナイト相が主体となっている。
また、このステンレス鋼金属繊維1の繊維表面には、完全に腐食せずに残留したフェライト相と、フェライト相を腐食させることにより生成される腐食生成物2が付着している。
即ち、本実施形態の金属繊維の繊維表面には、クロム酸化物、モリブテン酸化物、素材製造中に生成する窒化物やオーステナイト相とフェライト相の界面に形成されるFeCrのうち何れか1つ又は2つ以上の組み合わせ腐食生成物2が付着したものとなる。
また、この腐食生成物2は、ステンレス鋼金属繊維1を電解研磨するなどして、除去することもできる。
また、各繊維の長さ、断面形状及び断面積も一定とはならない。母材の2相ステンレス鋼の結晶粒サイズを、可能な範囲で均一にしておくことで、断面積をある程度そろえることができる。
一例として繊維の直径を10μm以上、15μm以下とすることができる。
まず、二相ステンレス鋼として、SUS329J4L合金からなり、塑性加工として冷間引抜加工を行った直径14mmの丸棒を用意した。
この二相ステンレス鋼丸棒の横断面をとった際の金属組織の写真を図2(a)に示し、縦断面をとった際の金属組織の写真を図2(b)に示す。
図2(a)、(b)において、暗い色(灰色)で示された部分が、フェライト相の結晶粒(フェライト粒)であり、明るい色(白色)で示された部分がオーステナイト相の結晶粒(オーステナイト粒)である。これらの写真からわかるように、フェライト相及びオーステナイト相からなる結晶粒は、長手方向に引き伸ばされてファイバー状組織となっている。フェライト相とオーステナイト相の各結晶粒組織は隣接して配置されている。また、ファイバー状の各結晶粒は、各ファイバーが加工方向にそろって配向した組織となっている。
なお、腐食度は、以下の式によって求めることができる。
(腐食度)={(腐食減量)/ (表面積)}/(浸漬時間)
また、硫酸(希硫酸、サンプルNo.5)、硝酸(サンプルNo.6)、クエン酸水溶液(サンプルNo.7)に浸漬した場合は、二相ステンレス鋼の腐食度は、比較的低い値(8.6×10−1μg./cm2/h以下)となっており、腐食の進行は遅いことが分かった。
これらの試薬(サンプルNo.1、2及びサンプルNo.5〜11)では、二相ステンレス鋼の腐食が極微量であり、試料の金属表面には浸漬前後で変化は認められなかった。
ステンレス鋼のうち、マルテンサイト系、フェライト系、二相系(オーステナイト・フェライト系)のステンレス鋼は、磁石に付く強磁性材料であることが一般的に知られている。これに対して、オーステナイト系は磁石に付かない非磁性材料である。
10質量%塩酸に浸漬させることで表出した繊維が非磁性材料であることから、この繊維は、フェライト相が腐食しオーステナイト相が残ったものであることが確認された。
残渣は、試薬に浸漬する前の二相ステンレス鋼の内部において腐食する部分の間に挟まれた腐食しなかった部分である。この残渣が、オーステナイト相であることから、浸漬前の二相ステンレス鋼においてフェライト相の間に挟まれており、かつ十分な長さのファイバー状組織となっていなかったオーステナイト相の結晶粒が、フェライト相の腐食により滑落し残渣になっていると考えられる。オーステナイト相の残渣が溶液中から見つかったことからも、表出した繊維は、オーステナイト相の金属繊維であることが確認された。
次に、二相ステンレス鋼として、SUS329J4L合金からなり、丸棒形状に塑性加工した後、板状に切出した平板を用意して、様々な濃度の塩酸の試薬による浸漬を行った。
試薬として、3質量%、5質量%、10質量%、36質量%の塩酸を用い、上述した二相ステンレス鋼の平板をこの試薬に100時間浸漬させた。これにより、繊維形状が板形状の金属繊維を形成した。
試薬として3質量%の塩酸を用いた場合では試験片の表面が灰白色に変化したのみで、金属繊維は形成されなかった。これは、浸漬時間に対して塩酸の濃度が低く、腐食させる能力が不足しているためであると考えられる。
試薬として5質量%および10質量%の塩酸を用いた場合では繊維状の腐食生成物が試験片表面に形成された。
試薬として36質量%の塩酸を用いた場合には、二相ステンレス鋼には繊維状の腐食生成物は生成されず、試験片表面に僅かな凹凸が確認された。これは、二相ステンレス鋼を濃度36質量%の塩酸に浸漬させた場合に腐食の形態が全面腐食となり、腐食の進行が遅くなるためであると考えられる。
図5に、X線回折装置を用いて分析したステンレス鋼金属繊維と二相ステンレス鋼のXRDプロファイル結果を示す。
ステンレス鋼金属繊維からはフェライト相(FCC)やオーステナイト相(BCC)とともに窒化クロム、クロムおよびモリブデンの酸化物、さらにはFeCrの金属間化合物のXRDプロファイルが得られた。また、オーステナイト相(BCC)の強度はフェライト相(FCC)と比較してXRDプロファイルの強度が低いことが分かる。
一方、母合金ではわずかにフェライト相(FCC)の強度が高いものの、フェライト相(FCC)とオーステナイト相(BCC)とがほぼ同程度存在する二相組織であることが分かる。
ステンレス鋼金属繊維が多相であるのはオーステナイト相(BCC)やフェライト相(FCC)とオーステナイト相(BCC)の界面に形成されていた窒化物や金属間化合物相が、オーステナイト相(BCC)が溶解することで顕在化したためであると考えられる。
ステンレス鋼金属線に窒化クロム、クロムおよびモリブデンの酸化物、さらにはFeCrが含まれるのは、塩酸とフェライト相との反応によってこれらが生成され、繊維表面に付着しているためであると考えられる。
Claims (9)
- 塑性加工により、オーステナイト粒とフェライト粒とをファイバー状組織とした二相ステンレス鋼に対して、前記フェライト粒を選択的に腐食させ除去することで得られたオーステナイト相を主体とするステンレス鋼金属繊維。
- 前記フェライト粒の腐食生成物が繊維表面に付着している請求項1に記載のステンレス鋼金属繊維。
- 前記腐食生成物が、クロム酸化物、モリブテン酸化物、素材製造中に生成する窒化物やオーステナイト相とフェライト相の界面に形成されるFeCrのうち何れか1つ又は2つ以上の組み合わせである請求項2に記載のステンレス鋼金属繊維。
- 繊維形状が、針状又は板状の部分を有する請求項1〜3の何れか一項に記載のステンレス鋼金属繊維。
- オーステナイト粒とフェライト粒とが混在された組織を有する二相ステンレス鋼を塑性加工し前記オーステナイト粒及び前記フェライト粒をファイバー状組織とし、
前記ファイバー状組織とした二相ステンレス鋼を還元性の酸に浸漬して前記フェライト粒を腐食させ除去しオーステナイト相を主体とする金属繊維を得るステンレス鋼金属繊維の製造方法。 - 前記還元性の酸が、塩酸、希硫酸、又はこれらの混合溶液である請求項5に記載のステンレス鋼金属繊維の製造方法。
- 前記還元性の酸が、濃度5質量%以上、15質量%以下の塩酸である請求項5に記載のステンレス鋼金属繊維の製造方法。
- 前記塑性加工が、棒材の引抜加工であり、前記引抜加工により前記オーステナイト粒及び前記フェライト粒を針形状のファイバー状組織とするものである請求項5〜7の何れか一項に記載のステンレス鋼金属繊維の製造方法。
- 前記塑性加工が、圧延加工であり、前記圧延加工により前記オーステナイト粒及び前記フェライト粒を板形状のファイバー状組織とするものである請求項5〜7の何れか一項に記載のステンレス鋼金属繊維の製造方法。
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