JP2015161860A - 調光素子、ガスクロミック調光ガラス - Google Patents

調光素子、ガスクロミック調光ガラス Download PDF

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紀仁 藤ノ木
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Abstract

【課題】透明状態の透過率が高く、スイッチング速度に優れた調光素子と、それを用いたガスクロミック調光ガラスを提供する。
【解決手段】基板上に形成された酸化タングステン層及び触媒層の少なくとも2層の薄膜層を有する調光素子であって、前記触媒層が、二酸化ケイ素と、前記二酸化ケイ素中に分散したパラジウム粒子とを含む調光薄膜材料であって、前記パラジウム粒子の粒径が1〜10nmであり、前記パラジウム粒子の一部が前記二酸化ケイ素薄膜の表面から少なくとも一部が突出している。
【選択図】図1

Description

本発明は、調光素子および調光部材に係り、特に、クロミック特性を示す酸化タングステン薄膜、及び二酸化ケイ素にパラジウム粒子を分散させた混合薄膜を用いて作製した調光素子に関するものである。更に詳しくは、本発明は、ガラスから入射する太陽光の透過を任意に制御できるガラスに用いる調光素子、当該素子を用いたガラスに関するものである。本発明は、建物や車両における太陽光の透過率を制御するための調光部材の材料技術として有用である。
一般に、建物において窓ガラス(開口部)は大きな熱の出入り場所になっている。例えば、冬の暖房時の熱が窓から流失する割合は48%程度であり、夏の冷房時に窓から熱が入る割合は71%程度にも達する。特に最近は建物の断熱性が上がってきているために、窓における不必要な熱の出入りが、冷暖房負荷を増大させる大きな要因になっている。したがって、窓ガラスにおける光・熱の出入を制御できれば、効果的にエネルギー消費を低減できる。しかし、四季の変化の大きい日本ではこの断熱に加え、夏季には外部からの日差しを効果的に遮り、逆に冬には日差しを取り入れるといったダイナミックな制御を行うことでさらに省エネルギー効果を高めることができる。光熱の出入を制御できる調光ガラスは、このような目的で開発された技術の一つである。
光学的性質や色を、物理的刺激により可逆的に変化させることのできる材料を調光材料という。調光素子は、この調光材料を、ガラス上に蒸着、もしくはガラス内に封入することで、実現することができる。物理的刺激として何を使うかによって、以下のような種類がある。1)電流・電圧の印加により可逆的に透過率の変化する材料を用いた調光素子をエレクトロクロミック素子といい、2)温度により透過率が変化する材料を用いた調光素子をサーモクロミック素子といい、また、3)雰囲気ガスの制御により透過率が変化する材料を用いた調光素子をガスクロミック素子という。この中でも、調光材料に酸化タングステン(WO)薄膜を用いたガスクロミック素子およびそれを用いた調光ガラスの研究が最も進められている。このような着色現象は、任意に透過率を変化させることができるガラス(スマートウインドウ:Smartwindow)などへ実用化を目指し、研究がなされている現状である(非特許文献1)。
一般的な調光素子は、ガラス上に厚さ約500nmの酸化タングステン薄膜からなる調光層とその上にパラジウム(Pd)薄膜からなる触媒層を積層した構造をしている。酸化タングステン薄膜は透明な状態であるが、薄い水素を含んだ雰囲気に接すると、触媒層を介して酸化タングステン内に水素が取り込まれ、濃い青色に着色する。また、薄い酸素を含む雰囲気に接すると、水素が抜けて透明状態に戻る。このような調光素子は、薄膜の構造が簡易なことから大面積にした場合もコストを抑えることができ、建物の窓などに適している。
C.Salinga, H. Weis, M.Wuttig, Thin Sohd Films 414(2002)275‐282.
しかしながら、触媒層にパラジウムや白金などの単金属を用いているため、透明時の透過率が低く、これが、窓ガラスへの応用を考える場合の大きな障害となっていた。これらのことから、当技術分野においては、調光材料の課題の一つとして、透明時において、無色透明で、色がついていない、窓ガラスへの応用が可能な、新しい調光材料の開発が強く要請されていた。触媒層を厚さ1nm程度に薄くすることによって、透明状態の透過率を上げることができるが、スイッチング速度が遅くなることや、耐久性が悪くなるという課題があった。本発明は、上記課題を解消するためになされたもので、透明時の透過率が高く、スイッチング速度に優れた調光素子を提供することを目的とする。さらに、本発明は、当該素子の製造方法、および当該素子を用いた調光ガラスを提供することを目的とする。
本発明者等は、鋭意検討した結果、調光素子を構成する触媒層として、パラジウム粒子を分散した二酸化ケイ素を用いることで、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち本発明は、基板上に形成された酸化タングステン層及び触媒層の少なくとも2層の薄膜層を有する調光素子であって、前記触媒層が、二酸化ケイ素と、前記二酸化ケイ素薄膜中に分散したパラジウム粒子とを含む調光薄膜材料であって、前記パラジウム粒子の粒径が1〜10nmであり、前記パラジウム粒子の一部が前記二酸化ケイ素薄膜の表面から少なくとも一部が突出していることをなることを特徴とする、調光素子である。
また、本発明の調光素子は、前記触媒層中の前記二酸化ケイ素薄膜中における前記パラジウム粒子の含有割合が40〜60mol%であることを特徴とする。
また、本発明の調光素子は、前記触媒層のパラジウム粒子の粒径が3〜6nmであることを特徴とする。
また、本発明の調光素子は、前記触媒層の膜厚が、1nm〜10nmであることを特徴とする。
また、本発明の調光部材は、調光素子の前記基板の部材が、透明部材であることを特徴とする。
また、本発明の調光部材は、前記透明部材が、アクリル、プラスチック、又は透明シートであることを特徴とする。
また、本発明の調光ガラスは、本発明の調光素子の前記基板の部材が、ガラスであることを特徴とする。
また、本発明の調光ガラスは、複層ガラスからなる調光ガラス窓であって、本発明の調光部材を複層ガラスの片側に使用したことを特徴とする。
また、本発明のガスクロミック調光ガラスは、前記複層ガラスの間隙に、水素ガス及び大気もしくは酸素ガスを導入する雰囲気制御器を有する。
本発明の調光素子は、パラジウム粒子を分散した二酸化ケイ素を触媒層として用いることで、従来報告されているパラジウムのみを用いた調光素子に比べて、触媒層透明時の透過率が高く、さらにスイッチング速度も速い、コスト的にも優れる。
なお、本発明の調光素子は、建物や車両における太陽光の透過率を制御するための調光部材および調光ガラスの材料技術として有用である。
本発明の実施の形態に係る調光素子の構成を断面で示す模式図。 本発明の実施の形態に係るガスクロミック調光ガラスの一例を示す概略構成図。 本発明の実施例1に係る調光素子の触媒層の厚さ方向に沿う断面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真。 本発明の実施例1に係る調光素子の透過率変化を示したグラフ。 本発明の実施例2に係る調光素子の透過率変化を示したグラフ。 本発明の調光素子の実施例1,2および比較例1の構成の透過率変化を示したグラフ。 本発明の調光素子の比較例2の構成を断面で示す模式図。 本発明の調光素子の比較例2の構成の透過率変化を示したグラフ。 本発明の調光素子の比較例3の構成の透過率変化を示したグラフ。
本発明を実施するための最良の形態についてさらに詳細に説明する。
本発明の実施の形態の調光素子、調光部材および調光ガラスの一構成例について、図1と図2を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る調光素子の構成を断面で示す模式図である。図2は、本発明の実施の形態に係るガスクロミック調光ガラスの一例を示す概略構成図である。
まず、第1の実施の形態の調光素子10について説明する。
実施の形態1の調光素子10は、図1に示すように、基板11上に、酸化タングステン薄膜からなる調光層12、二酸化ケイ素にパラジウムを含んでなる触媒層13と、を備えている。
実施の形態1の調光層11として、その膜厚が50〜2000nmの範囲が好ましい。この膜厚が薄い場合、透明時と着色時の透過率差が不足する。一方、膜厚が2000nmを超える場合、透明時と着色時の透過率差はほぼ変わらず、更には調光層12を構成する材料の使用量の節約に起因するコスト削減効果も低減する。調光層12は、化学堆積法や物理堆積法等の薄膜形成方法によって形成することができる。物理堆積法等としては、スパッタリング法やパルスレーザをターゲットに照射して堆積を行うPLD法等を使用することができる。化学堆積法等としては、化学気相蒸着法(CVD)、塗布熱分解法等を使用することができる。好適には、スパッタリング法、PLD法、塗布熱分解法のいずれかにより作製するのがよい。しかし、これらの方法に制限されるものではない。
実施の形態1の触媒層13は、二酸化ケイ素薄膜14の中に略均一なパラジウム粒子15が分散されている。触媒層13における二酸化ケイ素に対するパラジウムの含有割合が40〜60mol%であることが好ましく、たとえば50mol%で優れた調光特性を示す。一般的な傾向としては、後述する実施例2に具体的に記載したように、パラジウムの成分が多くなるほど、着色化におけるスイッチング速度は速くなるが、透明時の透過率は、低くなる傾向があるため、用途に応じて、これらの傾向を考慮して、パラジウムの好適な組成を選択することが望ましい。
触媒層13のパラジウム粒子15の粒子径は1〜10nmであり、更には、3〜6nmであることが好ましい。たとえば5nmで優れた調光特性を示す。また触媒層13は、図1に示すように、パラジウム粒子15の一部が二酸化ケイ素薄膜14の表面から少なくとも一部が突出させるようにしたものである。二酸化ケイ素でパラジウム粒子15をすべて被覆してしまうと、反応ガスとパラジウムとの反応が低下させてしまう。そのため、パラジウム粒子15の少なくとも一部を突出させることで、パラジウムが触媒として作用し易くなり、調光素子10のスイッチング速度を速くすることができる。後述する比較例2に具体的に記載したように、二酸化ケイ素でパラジウム粒子15をすべて被覆すると、スイッチング速度が著しく低下してしまう。
触媒層13の膜厚としては、1nm〜10nmであることを好ましい。この膜厚が1nm未満の場合、触媒としての効果が不足し、スイッチング速度が低下する。一方、膜厚が10nmを超える場合、後述する実施例5に具体的に記載したように、調光素子10の透明時の透過率が低下し、更にはパラジウムの使用量の節約に起因するコスト削減効果も低減する。触媒層14は、化学堆積法や物理堆積法等の薄膜形成方法によって形成することができる。物理堆積法等としては、スパッタリング法やパルスレーザをターゲットに照射して堆積を行うPLD法等を使用することができる。好適には、スパッタリング法、PLD法のいずれかにより作製するのがよい。しかし、これらの方法に制限されるものではない。
また、パラジウム粒子15を分散する材料としては、二酸化ケイ素が最も優れた調光特性を示し、後述する実施例5に具体的に記載したように、水素の透過性が高いとされる窒化アルミニウムなどでは、透明時の透過率が低いか、または応答性が低下してしまうという傾向がある。
実施の形態1の調光素子10の基板11としては、調光層12ならびに触媒層13が形成し得る材料であれば良く、更には、透明部材に形成することにより、調光部材ないし調光ガラスが得られる。具体的には、アクリル、プラスチック、透明シート、ガラスなどの透明性を有する材料を適用することができる。しかし、これらに限らず、これらと同効のものであれば同様に使用することができる。
上記調光素子10のガスによるスイッチングを行う場合、成膜した酸化タングステン薄膜から成る調光層12は、酸化物であり、成膜した状態で、無色透明になっていたが、この薄膜に、水素を含む雰囲気を当てると、酸化タングステン薄膜は、水素イオンと結合し、着色化する。この着色化した薄膜に、酸素を含む雰囲気に当てると、酸化タングステンと結合していた水素イオンが抜け、透明状態に戻る。本発明の調光素子10は、この変化を繰り返し、行うことができる。
図2に、ガスクロミック調光ガラス16の構造を示す。本発明の調光素子10を、実際のガスクロミック調光ガラス16として用いる場合には、ガラス17を構成する二重ガラスの内側に、本発明の触媒層13を薄くコーティングした調光層12が来るようにして、シール18し、アルゴンガスなどで満たしておく。そして、これらの二重ガラスの間隙の空間に、水を電気分解して水素を発生して、送り込んだり、空気もしくは水の電気分解で得られる酸素を送り込んだりする機能を付けたユニット(雰囲気制御器19)を取り付ける。この雰囲気制御器19から、二枚のガラスの間の空間に、水素を送り込むことで、着色状態し、また、空気もしくは酸素を送り込むことで、透明状態にすることができる。
現在、住宅における複層ガラス(二重ガラス)の普及が進んで来ており、新築の家では、二重ガラスを使うことが主流になりつつある。本発明の調光素子10のような調光ガラス用コーティングは、二重ガラスの内側に施すことで、内部の空間をスイッチング用の水素ガスの導入空間として利用することができるため、非常に有利である。
(実施例)
次に、本発明を実施例に基づいて、図3から図9を用いて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
[実施例1]
高周波マグネトロンスパッタリング装置を用い、ガラス基板上に、図1に示す調光素子10を作製した。先ず、高周波マグネトロンスパッタリング装置内に、タングステンターゲットと、大きさ10mm四方のパラジウムチップ16枚をその上面に載置した二酸化ケイ素ターゲットとを配置した。基板としては、厚さ1mmのガラス基板を用い、これを、洗浄した後、真空装置の中にセットし、真空排気を行い、装置内を2×10−6Pa程度まで減圧にした。成膜に当たっては、装置内にアルゴンガスと酸素ガスを導入して、タングステンを反応性スパッタにより、ガラス基板に厚み140nmの酸化タングステン薄膜を作製した。スパッタ中のアルゴンガスと酸素ガスは容積比1:1であり、混合ガスの圧力は1.3Paとした。また、タングステンターゲットには100Wのパワーを加えてスパッタを行った。
その後、再び装置内を2×10−6Pa程度まで減圧した後、装置内にアルゴンガスを導入し、パラジウムチップをその上面に載置した二酸化ケイ素をスパッタして、酸化タングステン薄膜上に厚み10nmの触媒層13を作製した。スパッタ中のアルゴンガス圧は0.13Paとし、100Wのパワーを加えてスパッタを行った。作製した触媒層13の組成比は、電子線マイクロアナライザ(EPMA)分析で解析した結果、二酸化ケイ素に対するパラジウムの含有割合が約50mol%であった。また、作製した触媒層13の断面を透過型電子顕微鏡法で観察した結果、図3に示すように、二酸化ケイ素内にパラジウム粒子が3〜6nmの粒子径で均一に分散されたものであり、また、パラジウム粒子の一部が二酸化ケイ素薄膜の表面から少なくとも一部が突出されたものであった。
この触媒層13をベースとした調光素子10のスイッチング特性の評価を行った。評価装置のセル内に調光素子10を設置し、セルの空間に、アルゴンガスで2%に希釈した水素ガスと、アルゴンガスで2%に希釈した酸素ガスの導入を切り替えることで、スイッチングを行った。透過率の測定には、波長635nmの半導体レーザから出射された光を、調光素子に入射し、透過した光を、シリコンフォトダイオードを用いて光の強度を計測することで、測定した。図4に、作製した調光素子10の透過率の変化を測定した結果のグラフを示す。着色状態と透明状態で、透過率が大きく変化しており、ガスクロミック特性を示すことが分かる。このとき、透明時の透過率は75%であり、従来の触媒層にパラジウムのみを用いた場合よりも非常に高い透過率を示すことが分かる。
[実施例2]
調光層12として、酸化タングステン薄膜の厚みを660nmとし、その上に触媒層13として、二酸化ケイ素薄膜14内にパラジウム粒子15が均一に分散された厚み4nmの薄膜を形成した以外は、実施例1と同様に測定した。なお、作製した触媒層13は、二酸化ケイ素に対するパラジウムの含有割合が約50mol%であり、二酸化ケイ素内にパラジウム粒子15が3〜6nmの粒子径で均一に分散されたものであった。
図5に、作製した調光素子10の透過率の変化を測定した結果のグラフを示す。実施例1に対して、調光層12である酸化タングステン薄膜の膜厚を厚くしたことで、着色状態と透明状態で、透過率差が大きくなりなっていることが分かる。このとき、透明時の透過率は80%であり、着色化におけるスイッチング速度は7秒と、従来の触媒層にパラジウムのみを用いた場合と同等の速度を示した。
[実施例3]
二酸化ケイ素ターゲットの上面に載置したパラジウムチップの枚数を4枚に変え、触媒層13の二酸化ケイ素に対するパラジウムの含有割合を変えた以外は、実施例1と同様の調層素子10を用いて、実施例1と同様に、スイッチング特性を評価した。
作製した触媒層の組成比は、二酸化ケイ素に対するパラジウムの含有割合が約11mol%であった。また、二酸化ケイ素内にパラジウム粒子が1〜2nmの粒子径で均一に分散されたものであり、パラジウム粒子の一部が二酸化ケイ素薄膜の表面から少なくとも一部が突出されたものであった。図6と表1に、スイッチング特性を測定した結果を示した。
作製した調光素子10は、着色状態と透明状態で、透過率が変化しており、ガスクロミック特性を示すことが分かる。ただ、透過率と着色化におけるスイッチング速度は、透過率が向上するが、着色時のスイッチング速度が遅くなる傾向が見られた。ただ、透明化時のスイッチング速度は、組成に対して、大きな依存性を持たなかった。
[実施例4]
二酸化ケイ素ターゲットの上面に載置したパラジウムチップの枚数を8枚に変え、触媒層12の二酸化ケイ素に対するパラジウムの含有割合を変えた以外は、実施例1と同様の調層素子10を用いて、実施例1と同様に、スイッチング特性を評価した。図6と表1に、スイッチング特性を測定した結果を示した。
作製した触媒層13の組成比は、二酸化ケイ素に対するパラジウムの含有割合が約24mol%であった。また、二酸化ケイ素内にパラジウム粒子が2〜3nmの粒子径で均一に分散されたものであり、パラジウム粒子の一部が二酸化ケイ素薄膜の表面から少なくとも一部が突出されたものであった。作製した調光素子10は、着色状態と透明状態で、透過率が変化しており、ガスクロミック特性を示すことが分かる。ただ、透過率と着色化におけるスイッチング速度は、透過率が向上するが、着色時のスイッチング速度が遅くなる傾向が見られた。ただ、透明化時のスイッチング速度は、組成に対して、大きな依存性を持たなかった。
[比較例1]
二酸化ケイ素ターゲットの上面に載置したパラジウムチップの枚数を36枚に変え、触媒層13の二酸化ケイ素に対するパラジウムの含有割合を変えた以外は、実施例1と同様の調層素子10を用いて、実施例1と同様に、スイッチング特性を評価した。
作製した触媒層13の組成比は、二酸化ケイ素に対するパラジウムの含有割合が約74mol%であった。また、二酸化ケイ素内にパラジウム粒子が11〜12nmの粒子径で均一に分散されたものであり、パラジウム粒子の一部が二酸化ケイ素薄膜の表面から少なくとも一部が突出されたものであった。図6と表1に、スイッチング特性を測定した結果を示した。
作製した調光素子10は、着色状態と透明状態で、透過率が変化しており、ガスクロミック特性を示すことが分かる。ただ、透過率と着色化におけるスイッチング速度は、透過率が減少し、着色時のスイッチング速度は変わらない傾向が見られた。ただ、透明化時のスイッチング速度は、組成に対して、大きな依存性を持たなかった。
[比較例2]
図7は、本発明の調光素子の比較例2の構成を断面で示す模式図である。図8は、本発明の調光素子の比較例2の構成の透過率変化を示したグラフである。
触媒層21の上に、パラジウムを含まない厚み10nmの二酸化ケイ素薄膜20をさらに形成した以外は、図1に実施例1と同様の調層素子を用いて、実施例1と同様に、スイッチング特性を評価した。図8と表1に結果を示す。作製した調光素子20は、着色化におけるスイッチング速度は、触媒層21の上に二酸化ケイ素薄膜を形成しなかった調光素子10と比較して、120秒と非常に遅く、また、透明化におけるスイッチング速度も遅くなった。これは、二酸化ケイ素薄膜14の表面から一部突出したパラジウム粒子が、その上に形成した二酸化ケイ素薄膜20により完全に被覆されたため、触媒としての性能が落ちたためであり、すなわち、本発明において、触媒層13のパラジウム粒子15が二酸化ケイ素薄膜14の表面から少なくとも一部が突出している構造を有していることが重要である。
[実施例5]
触媒層の13の厚みを15nmに変えた以外は、実施例1と同様の調層素子10を用いて、実施例1と同様に、スイッチング特性を評価した。表1に、スイッチング特性を測定した結果を示した。作製した調光素子10は、着色状態と透明状態で、透過率が変化しており、ガスクロミック特性を示した。着色化におけるスイッチング速度は変わらないが、透明状態の透過率は、触媒層13の厚みが増したことにより、70%まで低下した。
[比較例3]
触媒層13として、二酸化ケイ素の代わりに窒化アルミニウムを用いて形成した以外は、実施例1と同様の調層素子10を用いて、実施例1と同様に、スイッチング特性を評価した。図9と表1に結果を示す。透明状態の透過率は、61%と低く、着色化におけるスイッチング速度は、二酸化ケイ素薄膜を用いた場合と比較して、98秒と非常に遅く、また、透明化におけるスイッチング速度も遅くなった。
Figure 2015161860
表1に示すとおり、透明時の透過率およびスイッチング速度は、実施例1と2において優れた調光特性を示した。
本発明は上述した実施形態及び実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形、変更が可能である。例えば、調光層や触媒層は、触媒層の透過性やスイッチング特性に応じて様々な材料を選定することができる。
以上詳述したように、本発明は、調光特性に優れた調光素子と、これを用いた調光部材、調光ガラス、およびガスクロミック調光ガラスに係るものであり、本発明により、酸化タングステンを調光層とし、さらに、パラジウム粒子を分散した二酸化ケイ素を触媒層として用いた調光素子を提供することができる。従来報告されている触媒層にパラジウムのみを用いたものより、透明状態の透過率が高く、スイッチング速度も速く、優れた調光特性を示す。
本発明の調光素子は、例えば、2重ガラスの内側に施すことで、内部の空間をスイッチング用の水素ガスの導入空間として利用することができるため、非常に有利である。本発明の酸化タングステン薄膜を用いた調光素子は、安価なタングステンと、それに、ごく微量のパラジウムなどをコーティングすることで作製することが可能であり、コスト的に非常に有利である。本発明は、上記ガラス材料だけでなく、あらゆる種類の物品にも広く用いることができ、それにより、例えば、プライバシー保護を目的とした遮蔽物や、透明状態と着色状態に変わることを利用した装飾物及び玩具などに調光機能を付加することができる新しい調光薄膜を提供するものとして有用である。
調光素子の別の応用先として水素センサがある。調光素子は、水素を含んだ雰囲気に接すると、光学変化するため、逆にこの変化を測定することで、水素の検知を行うことができる。また、もっと単純な用い方として、調光素子を蒸着したシートは、水素にあたると色が変わるため、リトマス試験紙のように簡便な検知が行えると共に、水素の拡散を直接日で見ることもできる。
10,20.調光素子
11.基板
12.調光層
13,21.触媒層
14,20.二酸化ケイ素薄膜
15.パラジウム粒子
16.ガスクロミック調光ガラス
17.ガラス
18.シール
19.雰囲気制御器

Claims (9)

  1. 基板上に形成された酸化タングステン層及び触媒層の少なくとも2層の薄膜層を有する調光素子であって、
    前記触媒層が二酸化ケイ素薄膜と、
    前記二酸化ケイ素中に分散したパラジウム粒子とを含み、
    前記パラジウム粒子の粒径が1〜10nmであり、かつ、
    前記パラジウム粒子の一部が前記二酸化ケイ素薄膜の表面から少なくとも一部が突出してなることを特徴とする、調光素子。
  2. 前記触媒層中の前記二酸化ケイ素薄膜中における前記パラジウム粒子の含有割合が40〜60mol%であることを特徴とする請求項1に記載の調光素子。
  3. 前記触媒層のパラジウム粒子の粒径が3〜6nmであることを特徴とする請求項1または2に記載の調光素子。
  4. 前記触媒層の膜厚が、1nm〜10nmである請求項1から3のいずれかに記載の調光素子。
  5. 前記基板の部材が、透明部材であることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の調光素子。
  6. 前記透明部材が、アクリル、プラスチック、又は透明シートであることを特徴とする請求項5に記載の調光素子。
  7. 請求項1から4のいずれかに記載の調光素子の前記基板の部材が、ガラスであることを特徴とする調光素子。
  8. 複層ガラスからなる調光ガラス窓であって、請求項4に記載の調光部材を複層ガラスの片側に使用したことを特徴とするガスクロミック調光ガラス。
  9. 前記複層ガラスの間隙に、水素ガス及び大気もしくは酸素ガスを導入する雰囲気制御器を有する請求項8に記載のガスクロミック調光ガラス。
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