<本発明の実施形態に係る電動制動装置を備えた車両の全体構成>
図1は、本発明の実施形態に係る電動制動装置の車両への搭載状態を示す。この電動制動装置は、運転者の制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)の操作量に応じて、車輪に制動トルクを与えることによって車輪に制動力を発生し、走行中の車両を減速する。
蓄電池(バッテリ)BATが、車両の車体BDYに設けられる(固定される)。さらに、発電機(オルタネータ)ALTが、車体BDYに設けられる。蓄電池BATは、発電機ALTによって充電される。蓄電池BAT、及び、発電機ALTが、電源(電力源)と総称される。電源BAT(又は、ALT)によって、電子制御ユニットECUに電力が供給される。また、ECUから制動手段(ブレーキアクチュエータ)BRKに、電力線PW1〜PW4を介して、電力が供給される。ここで、電力線PW1,PW2は、後述する第1の実施形態に対応し、電力線PW3,PW4は、第2の実施形態に対応する。
電子制御ユニットECUが、車体BDYに設けられる(固定される)。電子制御ユニットECUでは、制動操作量Bpa等に基づいて電気モータMTR等の駆動信号が演算され、信号線(例えば、シリアル通信バス)SGLを介して制動手段BRKに送信される。
制動手段BRKは、ブレーキキャリパCRP、及び、そこに内蔵される制御回路CNT、駆動回路DRV、電気モータMTR等によって構成される。
制御回路CNTが、キャリパCRP内に設けられる(固定される)。制御回路CNTは、電気モータMTR、及び、駐車ブレーキ用ソレノイドSOLを制御するための電気回路である。制御回路CNTには、制動手段BRKの起動時に、初期作動診断(イニシャルチェック)を実行するための制御アルゴリズム(初期診断手段CHK)がプログラムされている。初期診断手段CHKでは、制御回路CNT(例えば、メモリ)、駆動回路DRV(例えば、スイッチング素子)、電気モータMTR、ソレノイドSOL、及び、センサ(MKA、FBA等)のうちの少なくとも1つの診断(作動確認)が実行される。
駆動回路DRVが、キャリパCRP内に設けられる(固定される)。駆動回路DRVは、電気モータMTR、及び、ソレノイドSOLへの通電状態を調整するための電気回路である。駆動回路DRVでは、制御回路CNTからの駆動信号に基づいて、電気モータMTRが制御される。また、制御回路CNTからの駆動信号に基づいて、駐車ブレーキ用のソレノイドSOLが制御される。
電力線PW1,PW2(第1の実施形態に対応)は、車体BDY側に配置される電子制御ユニットECUから、車輪WHL側に配置される制動手段BRKへ電力を供給する。具体的には、電力線PWLは、車体BDY側(例えば、ECU内)で分岐する、異なる2系統の電力線PW1,PW2にて構成される。
また、電力線PW3,PW4(第2の実施形態に対応)は、電子制御ユニットECUから、車輪WHL側に配置される制御回路CNT、及び、駆動回路DRVに、個別の電気経路にて電力を供給する。具体的には、DRVは、ECUから、PW3を介して、直接的に給電される。一方、CNTは、制動手段BRKの内部に設けられた補助電源BWH(例えば、キャパシタ)から、PW4を介して給電される。
サスペンションアーム(例えば、アッパアームUAM、ロアアームLAM)は、一方側が、車両の車体BDYに取り付けられ、他方側がナックルNKLに取り付けられている。コイルスプリングSPR、及び、ショックアブソーバSHAは、サスペンションアーム、又は、ナックルNKLに取り付けられている。コイルスプリングSPR、及び、ショックアブソーバSHAによって、車輪WHLは、車体BDYに懸架されている。サスペンションアーム、SPR、NKL、及び、SHAは、公知の懸架装置を構成する部材である。
ハブベアリングユニットHBUは、ナックルNKLに固定される。ハブベアリングユニットHBU内のハブベアリングにて、車輪WHLが支持される。車輪WHLには、回転部材(ブレーキディスク)KTBが固定され、KTBはWHLと一体となって回転される(即ち、KTBの回転軸とWHLの回転軸は同軸である)。
マウンティングブラケットMTBは、ナックルNKLに、締結部材(例えば、ボルト)TK1、TK2(図示せず)によって、固定されている。キャリパCRPが、スライドピンGD1、GD2(図示せず)を介して、MTBに取り付けられる。ブレーキキャリパCRPは、浮動型キャリパであり、2つの摩擦部材(ブレーキパッド)MSBを介して、回転部材(ブレーキディスク)KTBを挟み込むように構成される。具体的には、スライドピンGD1、GD2がマウンティングブラケットMTBに固定され、GD1、GD2に沿って、キャリパCRP内の押圧部材(ピストン)PSNが回転部材KTBに向けて、電気モータMTRによってスライドされる。
<制動手段BRKの第1実施態様>
次に、図2を参照して、本発明に係わる制動手段BRKの第1実施態様を含む電動制動手段の概要を説明する。電動制動装置は、電源(蓄電池BAT、発電機ALT)、電子制御ユニットECU、制動手段BRK、電力線PW1,PW2、信号線SGL、及び、コネクタCNB,CNCにて構成される。ここで、電源BAT,ALT、電子制御ユニットECU、及び、コネクタCNBは、車体BDYの側に設けられる。一方、制動手段BRK、及び、コネクタCNCは、車輪WHLの側に設けられる。そして、電力線PW1,PW2、及び、信号線SGLを介して、車体側と車輪側との電力供給、及び、通信が行われる。
電子制御ユニットECUでは、制動操作量Bpa等に基づいて電気モータMTR等の制御用信号が演算される。具体的には、電子制御ユニットECUの内部には、指示手段CGS(制御アルゴリズム)が、マイクロコンピュータにプログラムされている。指示手段CGSによって、制動操作部材BPの操作量Bpaに基づいて、MTRを駆動するための目標値(信号)Fbtが演算される。また、運転者による駐車スイッチMSWの操作信号Mswに基づいて、駐車ブレーキの要否判定結果FLpkが演算される。さらに、電動制動装置の初期作動診断(イニシャルチェックともいう)を実行するためのトリガ信号(初期作動診断の実行を指示する信号)FLckが演算される。
ECU内の指示手段CGSにて演算された目標押圧力(信号)Fbt、及び、制御フラグFLpk、FLckは、ECU側コネクタCNB、及び、信号線(シリアル通信バス)SGLを通じて、車輪側の制動手段BRK(具体的には、制御回路CNT)に送信される。
制動手段BRKは、制御回路CNT、駆動回路DRV、電気モータMTR、及び、駐車ブレーキ用ソレノイドSOLにて構成される。制御回路CNTは、電気モータMTR、及び、駐車ブレーキ用ソレノイドSOLを制御するための制御信号(Imt、Ds1〜Ds4、Dss)を演算する電気回路である。また、駆動回路DRVは、制御信号(Imt、Ds1〜Ds4、Dss)に基づいて、電気モータMTR、及び、ソレノイドSOLへの通電状態を調整するための電気回路である。
制御回路CNTは、制御演算手段ENZ、及び、初期診断手段CHKにて構成される。制御演算手段ENZは、制御回路CNT内のマイクロコンピュータ(プロセッサ)にプログラムされている制御アルゴリズムである。制御演算手段ENZでは、ECUからの信号Fbt、FLpkに基づいて、駆動回路DRVのスイッチング素子S1〜S4、SSを制御するための駆動信号Ds1〜Ds4(MTR用信号)、Dss(SOL用信号)が演算される。
制御回路CNTには、制動手段BRKの起動時に、初期作動診断(イニシャルチェック)を実行するための初期診断手段CHK(制御アルゴリズム)がプログラムされている。初期診断手段CHKでは、制御回路CNT(例えば、メモリ)、駆動回路DRV(例えば、スイッチング素子)、電気モータMTR、ソレノイドSOL、及び、センサ(例えば、MKA、FBA等)のうちの少なくとも1つの診断(作動確認)が実行される。
駆動回路DRVは、スイッチング素子(MOS−FET、IGBT等)にて構成されるブリッジ回路HBR、及び、駐車ブレーキ用スイッチング素子SSにて構成される。制御回路CNTからの駆動信号Ds1乃至Ds4に基づいて、スイッチング素子S1乃至S4(ブリッジ回路HBR用)が駆動され、電気モータMTRの回転方向、及び、回転動力が制御される。同様に、制御回路CNTからの駆動信号Dssに基づいて、スイッチング素子SSが駆動され、駐車ブレーキ用のソレノイドSOLが励磁される。
1つの電力線PWLを介して、蓄電池BATから電子制御ユニットECUに電力供給される。この電力線PWLは、車体BDY側で2つの系統に分かれる。具体的には、電力線PWLは、電力源BAT,ALTから一体で延び、車体BDY側の所定位置(例えば、ECUの内部の分岐点Bk1)にて、2つの電力線PW1,PW2に分岐される。換言すれば、1組の電力線PWLが、車体側に設けられた電力源BAT,ALTに接続され、且つ、車体内で、PWLが2組の電力線PW1,PW2に分岐される。第1、第2電力線PW1,PW2は、車体側から車輪側に向けて別々に延びるように構成される。また、第1、第2電力線PW1,PW2における車体BDY側の部分が、電力源BAT,ALTから別々に延びるように構成され得る。第1電力線PW1によって、電力源BAT,ALTと制御回路CNT(車輪WHL側に配置)とが接続され、第1電力線PW1とは別個の電気的経路(給電経路)である第2電力線PW2によって、電力源BAT,ALTと駆動回路DRV(車輪WHL側に配置)とが接続される。即ち、制御回路CNTと駆動回路DRVとは、異なる経路(PW1とPW2)を介して電力の供給が行われる。例えば、1つの電力線は、プラス側とマイナス側の2本で1組のケーブルであって、ツイストペアケーブル(Twisted Pair Cable、2つの対で撚り合わせた電線)が採用され得る。従って、2つの電力線として、2組のツイストペアケーブルが用いられ得る。
ここで、電力線(例えば、PW2)が、信号線(通信線)SGLとしても利用される電力線通信が採用され得る。この場合には、信号線SGLは電力線に統合され(即ち、SGLが省略され)、電気モータMTRの駆動信号は電力線に重畳されて、制御回路CNTに送信される。ここで、電力線通信は、電力線搬送通信(PLC:Power Line Communication)とも称呼され、電力線(電源配線)を利用して高速なデータ通信を行う通信システムである。
第1実施態様の特徴は、初期診断手段CHKを含む制御回路CNT、及び、電気モータMTRを直接駆動する駆動回路DRVの夫々に、車体側で分岐する電力線PW1,PW2(2つの異なる電力線)を介して、電力が供給されることである。このため、駆動回路DRVへの通電量が大となり、電圧低下が発生した場合であっても、制御回路CNTへの供給電圧は概ね一定に維持される。この結果、システムの再起動が抑制され、制御回路CNTでの不必要な初期作動診断処理の実行が回避され得る。
<第1の実施態様の詳細>
次に、図3の全体構成図を参照して、第1の実施態様について詳細に説明する。第1の実施態様を備える車両には、制動操作部材BP、電子制御ユニットECU、電源BAT(蓄電池),ALT(発電機)、駐車ブレーキ用のマニュアルスイッチMSW、通信バスCAN、及び、制動手段(ブレーキアクチュエータ)BRKが備えられる。ここで、初期作動診断用の信号(例えば、ドアの開閉信号)は、通信バスCANを介して取得される。また、電子制御ユニットECUと制動手段BRKとは、ECU側コネクタCNB、及び、BRK側コネクタCNCを介して、信号線(シグナル線)SGL、及び、電力線(パワー線)PW1,PW2によって接続され、制動手段BRKには、MTRを駆動するための信号(Fbt等)、及び、電力が供給される。
制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両を減速するために操作する部材である。制動操作部材BPの操作量に基づいて、制動手段(ブレーキアクチュエータ)BRKが、車輪WHLの制動トルクを調整し、車輪WHLに制動力が発生され、走行中の車両が減速される。
制動操作部材BPには、制動操作量取得手段BPAが設けられる。制動操作量取得手段BPAによって、運転者による制動操作部材BPの操作量(制動操作量)Bpaが取得(検出)される。制動操作量取得手段BPAとして、マスタシリンダ(図示せず)の圧力を検出するセンサ(圧力センサ)、制動操作部材BPの操作力、及び/又は、変位量を検出するセンサ(ブレーキペダル踏力センサ、ブレーキペダルストロークセンサ)が採用される。従って、制動操作量Bpaは、マスタシリンダ圧、ブレーキペダル踏力、及び、ブレーキペダルストロークのうちの少なくとも何れか1つに基づいて演算される。制動操作量Bpaは、電子制御ユニットECUに入力される。なお、Bpaは、他の電子制御ユニットにて演算、又は、取得され、その演算値(信号)が通信バスCANを介して、電子制御ユニットECUに送信され得る。
蓄電池(バッテリ)BATが、車体BDYに固定される。蓄電池BATによって、車体側に設けられる電子制御ユニットECUへの電力供給が行われる。蓄電池BATとして、充電可能な二次電池(蓄電池、又は、充電式電池とも称呼される)が採用され得る。蓄電池BATは、その蓄電量(蓄積エネルギ)が減少した場合には、発電機(オルタネータ)ALTによって充電される。ここで、蓄電池BAT、及び、発電機ALTを総称して、「電源(電力源)」と称呼する。
電子制御ユニットECUは、MTRを駆動するための目標値(信号)Fbtを、車輪側に向けて出力する。また、ECUを経由して、MTRを駆動するための電力が、車輪側に供給される。具体的には、ECUには、コネクタCNBが設けられ、シリアル通信バスSGL、及び、2つの個別の電力線PW1,PW2が、CNBを介して、車輪側に設けられる制御回路CNT、及び、駆動回路DRVに接続される。そして、電子制御ユニットECU内にプログラムされる指示手段CGSによって目標値Fbtが演算され、FbtがSGLを通して、制御回路CNTに送信される。また、蓄電池BATからの電力(電流)が、電力線PW1を介して制御回路CNTに供給され、電力線PW2を介して駆動回路DRVに、夫々、供給される。
〔指示手段CGS〕
制動手段BRKの目標値(目標押圧力Fbt)を演算するための指示手段CGS(制御アルゴリズム)が、電子制御ユニットECU内のマイクロコンピュータ(プロセッサ)CPUbにプログラムされている。指示手段CGSは、制御アルゴリズムであって、指示押圧力演算ブロックFBS、アンチスキッド制御ブロックABS、トラクション制御ブロックTCS、車両安定化制御ブロックESC、目標押圧力演算ブロックFBT、駐車ブレーキ要否判定ブロックFPK、及び、初期診断要求ブロックCKRにて構成される。
指示押圧力演算ブロックFBSでは、制動操作量Bpa、及び、予め設定された指示押圧力演算特性(演算マップ)CHfbに基づいて、各車輪WHLの指示押圧力Fbsが演算される。Fbsは、電動制動手段BRKにおいて、摩擦部材(ブレーキパッド)MSBが回転部材(ブレーキディスク)KTBを押す力である押圧力の目標値である。
アンチスキッド制御ブロックABSでは、車輪速度取得手段(図示せず)の取得結果(車輪速度)に基づいて、公知のアンチスキッド制御(Anti-skid Control)を実行するための目標押圧力Fabsが演算される。即ち、アンチスキッド制御用目標押圧力Fabsは、車輪ロックを防止するための押圧力の目標値である。
トラクション制御ブロックTCSでは、車輪速度取得手段(図示せず)の取得結果(車輪速度)に基づいて、公知のトラクション制御(Traction Control)を実行するための目標押圧力Ftcsが演算される。即ち、トラクション制御用目標押圧力Ftcsは、車輪スピン(過回転)を抑制するための押圧力の目標値である。
車両安定化制御ブロックESCでは、車両挙動取得手段(例えば、ヨーレイトセンサ、図示せず)の取得結果(ヨーレイト)に基づいて、公知の車両安定化制御(Electronic Stability Control)を実行するための目標押圧力Fescが演算される。即ち、安定化制御用目標押圧力Fescは、過度な車両のアンダステア、及び/又は、オーバステアを抑制するための押圧力の目標値である。
目標押圧力演算ブロックFBTでは、指示押圧力Fbs、アンチスキッド制御用目標押圧力Fabs、トラクション制御用目標押圧力Ftcs、及び、安定化制御用目標押圧力Fescに基づいて、目標押圧力Fbtが演算される。具体的には、Fabs、Ftcs、及び、Fescのうちから1つが選択されて、選択されたものによってFbsが修正されてFbtが演算される。Fabs、Ftcs、及び、Fescの選択順位は、車両の走行状態、及び、車輪の状態に基づいて決定される。なお、該当する車輪が駆動車輪でない場合(ドライブトレインに接続されない場合)には、Ftscは演算されない。
駐車ブレーキ要否判定ブロックFPKでは、車両の停止状態を維持する駐車ブレーキ(パーキングブレーキともいう)が必要であるか、否かが判定される。即ち、駐車ブレーキ要否判定ブロックFPKでは、運転者によって行われる、駐車スイッチMSWの操作に基づいて、駐車ブレーキの作動、又は、駐車ブレーキの解除の判定が実行され、判定結果FLpkが演算される。具体的には、駐車ブレーキ要否判定ブロックFPKに、MSWのスイッチ信号Mswが入力され、スイッチMSWのオフ状態によって、「駐車ブレーキの不要状態(FLpk=0)」が選択され、MSWのオン状態によって、「駐車ブレーキの必要状態(FLpk=1)」が選択される。ここで、信号FLpkは、駐車ブレーキの要否を表す制御フラグである。具体的には、制御フラグFLpkは、「0」、又は、「1」で表現される。「駐車ブレーキが不要であること(不要判定)」が判定されている場合には、指示信号として、FLpk=0が出力される。また、「駐車ブレーキが必要であること(必要判定)」が判定されている場合には、指示信号として、FLpk=1が出力される。
初期診断要求ブロックCKRでは、制動装置の初期作動診断(イニシャルチェックともいう)を実行するためのトリガ信号(初期作動診断の実行を指示する信号)FLckが演算される。即ち、初期診断要求ブロックCKRでは、通信バスCANを介して受信される信号に基づいて制動装置の各機能が適正に作動し得るか、否かが診断される。例えば、通信バスCANから初期診断要求ブロックCKRで受信される信号として、スマートエントリにおける電子キーの近接信号、車両ドアの開閉信号、車両シートへの着座信号、及び、イグニッションスイッチのオン信号のうちの少なくとも1つが採用される。トリガ信号FLckは、制御フラグであって、初期作動診断の不要状態がFLck=0で表現され、初期作動診断の必要状態FLck=1で表される。
制御フラグ(トリガ信号)FLckが、「0」から「1」に遷移した時点で、初期作動診断の演算処理が開始される。具体的には、初期作動診断処理として、マイクロプロセッサCPUb、CPUwのROM/RAMの診断、信号線SGLの通信確認、各アクチュエータ(MTR、SOL等)の作動確認、及び、各センサ(FBA、IMA、MKA等)の作動確認のうちの少なくとも1つが実行される。
指示手段CGSにて演算された目標押圧力Fbt、及び、制御フラグFLpk,FLckは、ECU側コネクタCNB、及び、信号線(シリアル通信バス)SGLを通じて、車両側に固定される電子制御ユニットECUから車輪側に固定される制動手段BRK(具体的には、制御回路CNT)に送信される。
〔制動手段BRK〕
制動手段(ブレーキアクチュエータ)BRKは、ブレーキキャリパCRP、押圧部材PSN、電気モータMTR、位置検出手段MKA、減速機GSK、シャフト部材SFT、ねじ部材NJB、押圧力取得手段FBA、駐車ブレーキ用ロック機構LOK、制御回路CNT、及び、駆動回路DRVにて構成されている。
ブレーキキャリパ(単に、キャリパともいう)CRPは、例えば、浮動型キャリパであり、2つの摩擦部材(ブレーキパッド)MSBを介して、回転部材(ブレーキディスク)KTBを挟み込むように構成される。キャリパCRP内で、押圧部材PSNがスライドされ、回転部材KTBに向けて前進又は後退される。キャリパCRPには、キー溝が、シャフト部材SFTの回転軸(シャフト軸Jsf)方向に延びるように形成される。
押圧部材(ブレーキピストン)PSNは、回転部材KTBに摩擦部材MSBを押し付けて摩擦力を発生させる。キー部材が、押圧部材PSNに固定され、上記のキー溝に嵌合される。このキー構造によって、押圧部材PSNは、シャフト軸まわりの回転運動は制限されるが、シャフト軸Jsfの方向(即ち、キー溝の長手方向)の直線運動は許容される。
電気モータMTRは、回転部材KTBに摩擦部材MSBを押し付けるための動力を発生する。具体的には、電気モータMTRの出力(モータ軸Jmtまわりの回転動力)は、減速機GSKを介して、シャフト部材SFTに伝達され、SFTの回転動力(シャフト軸Jsfまわりのトルク)は、運動変換部材(例えば、ねじ部材)NJBによって、直線動力(PSNの中心軸方向の推力)に変換され、押圧部材PSNに伝達される。そして、押圧部材(ブレーキピストン)PSNが、回転部材(ブレーキディスク)KTBに向かって前進又は後退される。このPSNの移動により、摩擦部材(ブレーキパッド)MSBが、回転部材KTBを押す力(押圧力)Fbaが調整される。回転部材KTBは車輪WHLに固定されているため、摩擦部材MSBと回転部材KTBとの間に摩擦力が発生し、車輪WHLの制動力が調整され、例えば、走行中の車両が減速される。電気モータMTRとして、ブラシ付モータ、或いは、ブラシレスモータが採用される。
位置取得手段(例えば、回転角度センサ)MKAは、電気モータMTRのロータ(回転子)の位置(例えば、回転角)Mkaを取得(検出)する。位置取得手段MKAは、電気モータMTRの内部であって、回転子、及び、整流子と同軸に配置される(即ち、MTRと同軸であって、モータ軸Jmt上に設けられる)。検出された位置Mkaは、制御回路CNTに入力される。
減速機GSKは、電気モータMTRの動力において、回転速度を減じて、シャフト部材SFTに出力する。即ち、MTRの回転出力(トルク)が、減速機GSKの減速比に応じて増加され、シャフト部材SFTの回転力(トルク)が得られる。例えば、減速機GSKは、小径歯車SKH、及び、大径歯車DKHにて構成される。GSKとして、歯車伝達機構に代えて、ベルト、チェーン等の巻き掛け伝達機構、或いは、摩擦伝達機構が採用され得る。
シャフト部材SFTは、回転軸部材であって、減速機GSKから伝達された回転動力をねじ部材NJBに伝達する。シャフト部材SFTの端部は、球面状に加工され、ユニバーサル継手として機能する。このユニバーサル継手によって、摩擦部材MSBと回転部材KTBとが摺動する際に生じる押圧部材PSNの揺動(首振り運動)の影響が補償される。
ねじ部材NJBは、シャフト部材SFTの回転動力を、押圧部材PSNの直線動力に変換する動力変換部材(回転・直動変換機構)である。ねじ部材NJBは、ナット部材NUT、及び、ボルト部材BLTにて構成される。ねじ部材NJBには、可逆性があり(逆効率をもち)、双方向に動力伝達が可能である。即ち、制動トルクが増加される場合(押圧力Fbaが増加される場合)、ねじ部材NJBを通して、シャフト部材SFTから押圧部材PSNへ動力が伝達される。逆に、制動トルクが減少される場合(押圧力Fbaが減少される場合)、ねじ部材NJBを介して、押圧部材PSNからシャフト部材SFTへ動力が伝達される(逆効率が「0」よりも大きい)。
ねじ部材NJBは、「滑り」によって動力伝達が行われる滑りねじ(台形ねじ等)によって構成される。この場合には、ナット部材には、めねじ(内側ねじ)が設けられる。ボルト部材には、おねじ(外側ねじ)が設けられ、ナット部材のめねじと螺合される。シャフト部材SFTから伝達された回転動力(トルク)は、ねじ部材NJBを介して、押圧部材PSNの直線動力(推力)として伝達される。また、上記の滑りねじに代えて、ねじ部材NJBには、「転がり」によって動力伝達が行われる転がりねじ(ボールねじ等)が採用され得る。この場合、ナット部材、及び、ボルト部材には、ボール溝が設けられる。このボール溝にはめ合わされるボール(鋼球)を介して、動力伝達が行われる。なお、ねじ部材NJBに代えて、回転運動を直線運動に変換するための変換部材として、ボールランプ部材、回転クサビ部材、ラック&ピニオン部材等の変換機構が採用され得る。
押圧力取得手段FBAは、押圧部材PSNが摩擦部材MSBを押す力(押圧力)Fbaの反力(反作用)を取得(検出)する。FBAには、起歪体が形成され、その歪が、歪検出素子によって検出され、Fbaが取得される。FBAは、シャフト部材SFTとキャリパCRPとの間に設けられる。押圧力取得手段FBAはキャリパCRPに固定され、検出された押圧力Fbaは、制御回路CNTに入力される。
駐車ブレーキ用ロック機構(単に、ロック機構ともいう)LOKは、車両の停止状態を維持するブレーキ機能(所謂、駐車ブレーキ)のため、電気モータMTRが逆転方向に回転しないように、その動き(回転)を拘束(ロック)する。この結果、押圧部材PSNが回転部材KTBに対して離れる方向に移動することが妨げられ、摩擦部材MSBによる回転部材KTBの押圧状態が維持される。ロック機構LOKは、電気モータMTRと減速機GSKとの間に設けられ得る。
ロック機構LOKは、ラチェット歯車(つめ歯車ともいう)RCH、つめ部材(掛けつめともいう)TSU、及び、駐車ブレーキ用ソレノイド(単に、ソレノイドともいう)SOLにて構成されている。ラチェット歯車RCHは、電気モータMTRと同軸に固定される。ラチェット歯車RCHは、一般的な歯車(例えば、平歯車)とは異なり、歯が方向性をもつ。ソレノイドSOLによって、つめ部材TSUが、ラチェット歯車RCHの方向に押され、つめ部材TSUがラチェット歯車RCHに向けて移動される。そして、つめ部材TSUがラチェット歯車RCHに咬み合わされることによって、押圧部材PSNの動きが拘束され、駐車ブレーキとして機能する。
制御回路CNTは、指示手段CGSから送信される目標押圧力Fbt、駐車ブレーキ用制御フラグFLpk、及び、初期診断用制御フラグFLckに基づいて、電気モータMTRを駆動するための信号(モータ駆動信号)Ds1〜Ds4、及び、ソレノイドSOLを駆動するための信号(ソレノイド駆動信号)Dssを演算し、駆動回路DRVに出力する。また、制御回路CNTには、初期診断手段CHKが含まれる。初期診断手段CHKでは、制御回路CNTが起動した直後(即ち、CNTへの供給電圧が所定値未満から所定値以上の状態に切り替わった後)に、初期診断要求フラグFLckに基づいて、制御回路CNT内のプロセッサCPUwのメモリ、駆動回路DRV内のスイッチング素子、電気モータMTR、ソレノイドSOL、押圧力取得手段FBA、及び、位置取得手段MKAのうちの少なくとも1つの初期作動診断(機能が正常に作動し得るか、否かの判断)が実行される。
駆動回路DRVは、制御回路CNTから送信されるモータ駆動信号Ds1乃至Ds4に基づいて、ブリッジ回路を形成するスイッチング素子S1乃至S4を制御することによって、電気モータMTRの回転方向と動力(出力)とを調整する。また、駆動回路DRVは、制御回路CNTからのソレノイド駆動信号Dssに基づいて、ソレノイドSOLを励磁することによって、駐車ブレーキ用のロック機構LOKを制御する。
ここで、制御回路CNT、及び、駆動回路DRVは、キャリパCRP内に(即ち、車輪WHLの側に)固定されている。そして、制御回路CNTへの給電は電力線PW1によって行われ、駆動回路DRVへの給電は電力線PW2によって行われる。なお、電源BAT、ALTからの電気経路において、電力線PW1と電力線PW2とは、車体BDYの内部(例えば、ECUの内部)で分岐されている。
<制御回路CNT>
次に、図4を参照して、制御回路CNTについて説明する。制御回路CNTは、信号線SGLを介して、電子制御ユニットECUの指示手段CGBから、目標押圧力Fbt、駐車ブレーキ指示信号FLpk、及び、初期診断指示信号FLckを受信する。また、制御回路CNTは、電気モータの回転角取得手段MKA、及び、押圧力取得手段FBAからの信号である、回転角Mka(実際値)、及び、押圧力Fba(実際値)を取り込む。そして、これらの信号に基づいて、電気モータMTR等を制御する。制御回路CNTは、制御演算手段ENZ、及び、初期診断手段CHKにて構成される。制御演算手段ENZ、及び、初期診断手段CHKは、制御アルゴリズムであり、制御回路CNTに内蔵されるプロセッサ(マイクロコンピュータ)CPUwにプログラムされている。
制御演算手段ENZでは、目標押圧力Fbt、及び、実押圧力Fbaに基づいて、電気モータMTRへの通電状態(最終的には電流の大きさと方向)を調整し、電気モータMTRの出力と回転方向を制御する。また、駐車ブレーキの要否判定結果FLpkに基づいて、電気モータMTR、及び、ソレノイドSOLへの通電状態を調整し、ロック機構LOKの咬み合い作動を制御する。具体的には、ENZでは、Fbt、FLpkに応じて、各スイッチング素子S1乃至S4、SSについての駆動信号Ds1乃至Ds4、Dssが演算される。制御演算手段ENZの詳細については後述する(図6を参照)。
後述するように、駆動回路DRVには、スイッチング素子S1〜S4にて構成されるブリッジ回路HBR、ソレノイド用スイッチング素子SS、電気モータ用の通電量取得手段IMA、及び、ソレノイド用の通電量取得手段ISAが含まれている。駆動回路DRVでは、駆動信号Ds1乃至Ds4に基づいて、電気モータMTRの出力と回転方向が制御されるとともに、駆動信号Dssに基づいて、駐車ブレーキ用ロック機構LOKのソレノイドSOLが駆動される。
初期診断手段CHKでは、制御回路CNT自身の診断(例えば、メモリ診断)、駆動回路DRV、電気モータMTR、ソレノイドSOL、MTR用通電量取得手段IMA、SOL用通電量取得手段ISA、回転角取得手段MKA、及び、押圧力取得手段FBAのうちの少なくとも1つの診断(作動確認)が実行される。具体的には、制御回路CNTに供給される電圧が、所定電圧vl0未満の状態から、所定電圧vl0以上の状態に遷移した時点において、初期作動診断のトリガ信号FLckに基づいて、上記の各機能のうちの少なくとも1つの作動診断が実行される。なお、制御回路CNTにおける供給電圧が値vl0未満から値vl0以上に遷移する時点が、起動時と称呼される。
トリガ信号(制御フラグ)FLckは、例えば、通信バスCANから受信される信号に基づいて、初期診断要求ブロックCKRにて形成される。受信される信号として、スマートエントリにおける電子キーの近接信号、車両ドアの開閉信号、車両シートへの着座信号、及び、イグニッションスイッチのオン信号のうちの少なくとも1つが採用される。ここで、スマートエントリは、機械的な鍵を使用せずに車両のドア等の施錠・開錠、エンジンの始動が可能な自動車の機能のことである。スマートエントリでは、運転者の持つ鍵(携帯機)と、車両に搭載されている電子制御ユニット(コンピュータ)との間で通信が行われ、通信が成立する場合にドアの施錠・開錠が行われる。
初期診断手段CHKでは、制御回路CNTの起動時であって、FLck=1の状態である場合に初期作動診断が開始される。FLck=1の状態は、運転者が車両に近接している状態、車両ドアが開かれた後に閉じられた状態、運転者が車両シートに着座した状態、及び、イグニッションスイッチがオンされた状態のうちの少なくとも1つである。
初期作動診断処理(イニシャルチェック)においては、初期診断手段CHKからブリッジ回路HBR、及び、スイッチング素子SSに向けて、診断用の駆動信号(Ds1〜Ds4、Dss)が送信される。そして、その結果として、通電量取得手段IMA,ISA、回転角取得手段MKA、及び、押圧力取得手段FBAの取得結果(各センサの検出結果)のうちの少なくとも1つの変化が、初期診断手段CHKにて受信される。この受信結果(Ima、Isa、Mka、Fba)に基づいて、駆動回路DRV(スイッチング素子S1〜S4)、電気モータMTR、ソレノイドSOL、通電量取得手段IMA,ISA、回転角取得手段MKA、及び、押圧力取得手段FBAのうちの少なくとも1つの機能が、正常に作動し得る状態であるか、否かが診断される。万一、機能に不都合が存在する場合には、予め設定される処置(例えば、運転者への報知と作動の制限又は停止)が行われる。
本発明が課題としている不必要なイニシャルチェックは、車両が走行している最中に、制御回路CNTが再起動されることが原因となる。具体的には、再起動は、制御回路CNT(特に、内蔵されるマイクロコンピュータ)への供給電圧が、イグニッションスイッチがオンの状態で所定電圧vl0未満に低下した後に、所定電圧vl0未満の状態から所定電圧vl0以上の状態に復帰(遷移)することによって発生し得る。ここで、イグニッションスイッチは、車両の動力源(例えば、エンジン)を始動するスイッチである。イグニッションスイッチは、動力源を停止した状態から、ロック位置、アクセサリ位置、イグニッションのオン位置、スタート位置の順になっている。
<駆動回路DRV、電気モータMTR、及び、ロック機構LOK>
次に、図5を参照して、駆動回路DRV、電気モータMTR、及び、ロック機構LOKについて説明する。駆動回路DRVは、電気モータの駆動信号Ds1〜Ds4に基づいて、電気モータMTRへの通電状態を制御し、MTRの出力(即ち、BRKが発生する制動トルク)を調整する。加えて、駆動回路DRVは、ソレノイドの駆動信号Dssに基づいて、駐車ブレーキ用ロック機構LOKのソレノイドSOLへの通電状態を調整し、駐車ブレーキの作動を制御する。ここでは、電気モータMTRとして、ブラシ付モータ(単に、ブラシモータともいう)が採用される場合の駆動回路DRVが例示されている。
駆動回路DRVは、複数のスイッチング素子(パワートランジスタ)S1〜S4で形成されるブリッジ回路HBR、ノイズ低減回路NIZ、電気モータMTR用の通電量取得手段IMA、ソレノイド用のスイッチング素子SS、及び、ソレノイドSOL用の通電量取得手段ISAで構成される。
電気モータMTRとして、ブラシ付モータが採用される。ブラシ付モータは、整流子電動機(Commutator Motor)とも称呼され、該電気モータでは、電機子(巻線による電磁石)に流れる電流が、機械的整流子(コミュテータ)CMT、及び、ブラシBLCによって、回転位相に応じて切り替えられる。即ち、整流子CMT、及び、ブラシBLCによって、機械的な回転スイッチが構成され、巻線回路への電流が交互に反転される。ブラシ付モータでは、固定子(ステータ)側が永久磁石で、回転子(ロータ)側が巻線回路(電磁石)で構成される。そして、巻線回路(回転子)に電力が供給されるように、ブラシBLCが整流子CMTに当接されている。ブラシBLCは、ばね(弾性体)によって、整流子CMTに押し付けられ、CMTが回転することにより電流が転流される。
ここで、通電量とは、電気モータMTRの出力トルクを制御するための状態量(変数)である。電気モータMTRは電流に概ね比例するトルクを出力するため、通電量の目標値として電気モータMTRの電流目標値が用いられ得る。また、電気モータMTRへの供給電圧を増加すれば、結果として電流が増加されるため、目標通電量として供給電圧値が用いられ得る。さらに、パルス幅変調(PWM、Pulse Width Modulation)におけるデューティ比によって供給電圧値が調整され得るため、このデューティ比が通電量として用いられ得る。
電気モータMTRが正転方向に駆動される場合には、スイッチング素子S1及びS4が通電状態(ON状態)、且つ、スイッチング素子S2及びS3が非通電状態(OFF状態)にされる。同様に、電気モータMTRが逆転方向に駆動される場合には、スイッチング素子S1及びS4が非通電状態(OFF状態)、且つ、スイッチング素子S2及びS3が通電状態(ON状態)に制御される。
〔ブリッジ回路HBR、ノイズ低減回路NIZ、及び、通電量取得手段IMA〕
ブリッジ回路HBRが、スイッチング素子S1乃至S4にて構成される。ここで、スイッチング素子S1乃至S4は、電気回路の一部をON(通電)/OFF(非通電)できる素子である。例えば、スイッチング素子として、MOS-FET、IGBTが用いられる。
ブリッジ回路HBRによって、双方向の電源を必要とすることなく、単一の電源で電気モータMTRへの通電方向が変更され、その回転方向(正転方向、又は、逆転方向)が制御される。「ブリッジ回路」は、Hブリッジ回路、或いは、フルブリッジ回路とも称呼される。
ブリッジ回路HBRを形成するスイッチング素子S1〜S4は、制御回路CNT(制御演算手段ENZ)からの駆動信号Ds1〜Ds4によって駆動される。例えば、ブリッジ回路HBRには電圧Vdrが加えられ、夫々のスイッチング素子の通電/非通電の状態が、デューティ比に基づいて切り替えられることによって、電気モータMTRの回転方向(正転方向、逆転方向)と出力トルク(通電量の大きさ)とが調整される。ここで、MTRの正転方向は、MSBをKTBに近づかせ、車輪の制動トルクが増加され、走行中の車両の減速度が増加される回転方向であり、MTRの逆転方向は、MSBをKTBから引き離し、車輪の制動トルクが減少され、走行中の車両の減速度が減少される回転方向である。
電気モータMTRが正転方向に駆動される場合には、スイッチング素子S1,S4が通電状態にされ、スイッチング素子S2,S3が非通電状態にされる。即ち、制動トルクが増加される、電気モータMTRの正転駆動では、電流が、「S1→MTR(BLC/CMT)→S4」の順で流される。逆に、電気モータMTRが逆転方向に駆動される場合には、スイッチング素子S1,S4が非通電状態にされ、スイッチング素子S2,S3が通電状態にされる。即ち、制動トルクが減少される、電気モータMTRの逆転駆動では、電流が、「S2→MTR(BLC/CMT)→S3」の順で、正転駆動とは逆方向に流される。
ノイズ低減回路(安定化回路ともいう)NIZは、駆動回路DRVに設けられ、ブリッジ回路HBR等への供給電力を安定化する(即ち、電圧変動を低減する)。ノイズ低減回路NIZは、所謂、LC回路(LCフィルタともいう)であり、少なくとも1つのインダクタ(コイル)IND、及び、少なくとも1つのコンデンサ(キャパシタ)CNDの組み合わせによって構成される。例えば、ノイズ低減回路NIZとして、π型ローパスフィルタ(ラインに並列な2つのコンデンサCND1、CND2と、1つの直列インダクタとで構成)が採用される。また、ノイズ低減フィルタNIZとして、π型ローパスフィルタに代えて、T型ローパスフィルタ(2つの直列インダクタ、及び、1つの並列コンデンサにて構成)が採用され得る。
電気モータMTR用の通電量取得手段(例えば、電流センサ)IMAが、駆動回路DRVに設けられる。通電量取得手段IMAは、電気モータMTRへの実際の通電量(実際値)Imaを取得する。例えば、モータ電流センサIMAによって、Imaとして、実際に電気モータMTRに流れる電流値が検出され得る。
〔ソレノイド用のスイッチング素子SS、及び、通電量取得手段ISA〕
スイッチング素子SSは、ソレノイドSOLへの通電状態を制御する。具体的には、スイッチング素子SSは、電気回路の一部をオン(通電)/オフ(非通電)できる素子であり、制御回路CNT(制御演算手段ENZからの駆動信号Dss)によって駆動され、スイッチング素子SSの通電/非通電の状態が切り替えられる。これによって、ソレノイドSOLの吸引力の発生/解除が切り替えられる。例えば、スイッチング素子SSとして、MOS−FET、IGBT、又は、リレーが用いられ得る。
駐車ブレーキが作動される場合(LOKのロック作動が実行される場合)には、先ず、押圧力Fbaが所定値fbxに到達するまで、電気モータMTRが正転方向に駆動される。その後、押圧力が保持された状態で、スイッチング素子SSが通電状態にされる。これによって、ソレノイドSOLがつめ部材TSUをラチェット歯車RCH(歯形状において方向性を有する歯車)に押し付ける。その後、電気モータMTRへの通電が停止される。そして、つめ部材TSUとラチェット歯車RCHとの咬み合いが確認された後に、スイッチング素子SSが非通電状態にされて、ソレノイドSOLへの通電が停止される。
駐車ブレーキが解除される場合(LOKのロックが解除される場合)には、押圧力Fbaが所定値fby(>fbx)に到達するまで、電気モータMTRが正転方向に駆動される。つめ部材TSUは、ラチェット歯車RCHから離れる方向に弾性体(例えば、コイルばね)によって押されているため、TSUとRCHとの咬み合いが解消される。つめ部材TSUとラチェット歯車RCHとが咬み合っていないことが確認された後に、電気モータMTRへの通電が停止される。駐車ブレーキが解除される場合には、スイッチング素子SSは非通電状態にされたままである。
ソレノイドSOL用の通電量取得手段(例えば、電流センサ)ISAが、駆動回路DRVに設けられる。通電量取得手段ISAは、ソレノイドSOLへの通電量(実際値)Isaを取得する。例えば、ソレノイド電流センサISAによって、Isaとして、実際にソレノイドSOLに流れる電流値が検出され得る。
〔電気モータMTRとしてブラシレスモータが採用される場合〕
電気モータMTRとして、ブラシ付モータに代えて、ブラシレスモータが採用され得る。ブラシレスモータは、無整流子電動機(ブラシレスDCモータ:Brushless Direct Current Motor)とも称呼され、該電気モータでは、ブラシ付モータの機械式整流子CMTに代えて、電子回路によって電流の転流が行われる。ブラシレスモータでは、回転子(ロータ)が永久磁石に、固定子(ステータ)が巻線回路(電磁石)とされる構造で、ロータの回転位置Mkaが検出され、Mkaに合わせてスイッチング素子が切り替えられることによって、供給電流が転流される。回転子の位置Mkaは、電気モータMTRの内部に設けられる位置取得手段MKAによって検出される。
ブラシレスモータが採用される場合、駆動回路DRVのブリッジ回路HBRは、6つのスイッチング素子によって構成される。ブラシ付モータの場合と同様に、制御回路CNT(具体的には、制御演算手段ENZ)が決定する各素子の駆動信号に基づいて、ブリッジ回路HBRを構成するスイッチング素子の通電状態/非通電状態が制御される。
ブラシレスモータでは、位置取得手段MKAによって、電気モータMTRにおけるロータ位置(回転角)Mkaが取得される。そして、実際の位置Mkaに基づいて、3相ブリッジ回路を構成する6つのスイッチング素子が制御される。これらのスイッチング素子によって、ブリッジ回路のU相、V相、及びW相のコイル通電量の方向(即ち、励磁方向)が順次切り替えられて、MTRが駆動される。ブラシレスモータの回転方向(正転、或いは、逆転方向)は、ロータと励磁する位置との関係によって決定される。
<制御演算手段ENZ>
次に、図6の機能ブロック図を参照して、制御回路CNTのプロセッサCPUwにプログラムされている制御演算手段ENZについて説明する。制御演算手段ENZは制御アルゴリズムであり、目標押圧力Fbtに基づいて、電気モータMTRへの通電状態(最終的には電流の大きさと方向)を調整し、電気モータMTRの出力と回転方向を制御する。また、駐車ブレーキの要否判定結果FLpkに基づいて、電気モータMTR、及び、ソレノイドSOLへの通電状態を調整し、ロック機構LOKの咬み合い作動を制御する。具体的には、ENZでは、Fbt、FLpkに応じて、各スイッチング素子S1乃至S4,SSについての駆動信号Ds1乃至Ds4,Dssが演算される。
制御演算手段ENZは、指示通電量演算ブロックIST、押圧力フィードバック制御ブロックIBT、通電量調整演算ブロックIMT、パルス幅変調ブロックPWM、スイッチング制御ブロックSWT、駐車ブレーキ制御ブロックIPK、及び、ソレノイド制御ブロックSCTにて構成される。
制御演算手段ENZには、通常ブレーキ、及び、駐車ブレーキの2つの機能を発揮させるための制御が存在する。ENZでは、2つの機能のうちで何れか一方が、IMT内の選択手段SNTによって選ばれる。このため、2つの機能が同時に作動されることはない。具体的には、運転者による制動操作部材BPの操作がある場合には通常ブレーキ機能が選択され、その操作がない場合には駐車ブレーキ機能が選択される。
〔通常ブレーキ機能が選択される場合〕
先ず、通常ブレーキに係る各演算ブロックについて説明する。ここで、通常ブレーキは、走行中の車両の減速、車両停止状態の維持等、運転者の制動操作部材BPの操作に応じたブレーキ機能である。通常ブレーキ機能は、指示通電量演算ブロックIST、押圧力フィードバック制御ブロックIBT、通電量調整演算ブロックIMT、パルス幅変調ブロックPWM、及び、スイッチング制御ブロックSWTにて構成される。
指示通電量演算ブロックISTは、制動操作量Bpaに基づいて決定された目標押圧力Fbt、及び、予め設定された演算特性(演算マップ)CHs1、CHs2に基づいて、指示通電量Istを演算する。指示通電量Istは、目標押圧力Fbtが達成されるための、電気モータMTRへの通電量の目標値である。指示通電量Istの演算マップは、制動手段BRKのヒステリシスを考慮して、2つの特性CHs1、CHs2で構成されている。
ここで、通電量とは、電気モータMTRの出力トルクを制御するための状態量(変数)である。電気モータMTRは電流に概ね比例するトルクを出力するため、通電量の目標値として電気モータMTRの電流目標値が用いられ得る。また、電気モータMTRへの供給電圧を増加すれば、結果として電流が増加されるため、目標通電量として供給電圧値が用いられ得る。さらに、パルス幅変調におけるデューティ比によって供給電圧値が調整され得るため、このデューティ比が通電量として用いられ得る。
押圧力フィードバック制御ブロックIBTは、目標押圧力(目標値)Fbt、及び、実押圧力(実際値)Fbaに基づいて、押圧力フィードバック通電量Ibtを演算する。押圧力フィードバック通電量Ibtは、目標押圧力Fbtと実押圧力Fbaとの偏差(押圧力偏差)ΔFb、及び、予め設定される演算特性(演算マップ)CHibに基づいて演算される。指示通電量Istは目標押圧力Fbtに相当する値として演算されるが、制動手段BRKの効率変動により目標押圧力Fbtと実押圧力Fbaとの間に誤差が生じる場合がある。そこで、Istが、上記の誤差を減少するように決定される。
通電量調整演算ブロックIMTは、電気モータMTRへの最終的な目標値である目標通電量Imtを演算する。通常ブレーキの場合、通電量調整演算ブロックIMTでは、指示通電量Istが押圧力フィードバック通電量Ibtによって調整され、目標通電量Imtが演算される。具体的には、指示通電量Istに対して、フィードバック通電量Ibtが加えられて、目標通電量Imsが演算される。そして、選択手段SNTにおいてIms(通常ブレーキ用の目標値)が選択されて、最終的な目標通電量Imtとして出力される。
目標通電量Imtの符号(値の正負)に基づいて電気モータMTRの回転方向が決定され、目標通電量Imtの大きさに基づいて電気モータMTRの出力(回転動力)が制御される。具体的には、目標通電量Imtの符号が正符号である場合(Imt>0)には、電気モータMTRが正転方向(押圧力の増加方向)に駆動され、Imtの符号が負符号である場合(Imt<0)には、電気モータMTRが逆転方向(押圧力の減少方向)に駆動される。また、目標通電量Imtの絶対値が大きいほど電気モータMTRの出力トルクが大きくなるように制御され、Imtの絶対値が小さいほど出力トルクが小さくなるように制御される。
パルス幅変調ブロックPWMは、目標通電量Imtに基づいて、パルス幅変調(PWM、Pulse Width Modulation)を行うための指示値(目標値)を演算する。具体的には、パルス幅変調ブロックPWMは、目標通電量Imt、及び、予め設定される特性(演算マップ)に基づいて、パルス幅のデューティ比Dut(周期に対するオン時間の割合)を決定する。併せて、パルス幅変調ブロックPWMは、目標通電量Imtの符号(正符号、或いは、負符号)に基づいて、電気モータMTRの回転方向を決定する。例えば、電気モータMTRの回転方向は、正転方向が正(プラス)の値、逆転方向が負(マイナス)の値として設定される。入力電圧(電源電圧)、及び、デューティ比Dutによって最終的な出力電圧が決まるため、PWMでは、電気モータMTRの回転方向と、電気モータMTRへの通電量(即ち、電気モータMTRの出力)が決定される。
さらに、パルス幅変調ブロックPWMでは、所謂、電流フィードバック制御が実行され得る。この場合、通電量取得手段IMAの検出値(例えば、実際の電流値)Imaが、パルス幅変調ブロックPWMに入力される。そして、目標通電量Imtと、実際の通電量Imaとの偏差ΔImに基づいて、デューティ比Dutが修正(微調整)される。この電流フィードバック制御によって、高精度なモータ制御が達成され得る。
スイッチング制御ブロックSWTは、デューティ比(目標値)Dutに基づいて、ブリッジ回路HBRを構成するスイッチング素子S1〜S4に駆動信号Ds1〜Ds4を出力する。この駆動信号Ds1〜Ds4は、各スイッチング素子が、通電状態とされるか、非通電状態とされるか、を指示する。具体的には、デューティ比Dutに基づいて、電気モータMTRが正転方向に駆動される場合には、S2及びS3が非通電状態(オフ状態)にされるとともに、Dutに対応する通電時間(通電周期)で、S1及びS4の通電/非通電の状態が切替られる。同様に、電気モータMTRが逆転方向に駆動される場合には、S1及びS4が非通電状態(オフ状態)にされ、S2及びS3の通電状態(オン/オフの切替周期)が、デューティ比Dutに基づいて調整される。そして、Dutが大きいほど、単位時間当りの通電時間が長くされ、より大きな電流が電気モータMTRに流される。
〔駐車ブレーキ機能が選択される場合〕
次に、駐車ブレーキに係る各演算ブロックについて説明する。駐車ブレーキでは、運転者が制動操作部材BPを操作していない場合に車両の停止状態が維持される。駐車ブレーキには、駐車ブレーキの非作動状態から作動状態に切り替えられる「開始作動」、及び、作動状態から非作動状態に遷移する「解除作動」の2つの作動が存在する。開始、及び、解除は、指示信号FLpkの変化(0→1、又は、1→0)に基づいて決定される。駐車ブレーキ機能は、駐車ブレーキ制御ブロックIPK、通電量調整演算ブロックIMT、パルス幅変調ブロックPWM、スイッチング制御ブロックSWT、及び、ソレノイド制御ブロックSCTにて構成される。以下、上記の通常ブレーキ機能の各演算ブロックと異なるものについて説明する。
駐車ブレーキ制御ブロックIPKでは、駐車ブレーキの要否を表す制御フラグFLpk、押圧力(実際値)Fba、及び、電気モータMTRの回転角(実際値)Mkaに基づいて、駐車ブレーキ用目標通電量Ipk、及び、ソレノイド用通電指示信号FLsが演算される。
駐車ブレーキ制御ブロックIPKでは、駐車ブレーキの作動開始指令(判定結果FLpkにおける「0」から「1」への切り替え)を受けて、電気モータMTRを制御するための駐車ブレーキ用目標通電量Ipk、及び、ソレノイドSOLへの通電を指示するソレノイド指示信号FLsが出力される。ここで、Ipkは、駐車ブレーキ制御における電気モータMTRの通電量の目標値であって、予め設定された特性に従って決定される。また、信号FLsは、制御フラグであって、「FLs=0」がソレノイドSOLへの非通電、「FLs=1」がソレノイドSOLへの通電を指示する。
通電量調整演算ブロックIMTでは、通常ブレーキ用の目標通電量Imsと、駐車ブレーキ用の目標通電量Ipkとが調整される。IMTには、選択手段SNTが設けられ、Ims及びIpkのうちで、何れか一方が選択され、最終的な目標通電量Imtが出力される。具体的には、SNTによって、ImsとIpkとのうちで、大きい方の値が、Imtとして選択される。選択手段SNTによって、通常ブレーキの目標通電量Imsと、駐車ブレーキの目標通電量Ipkとの干渉が抑制され得る。
目標通電量Imtに基づいて、パルス幅変調ブロックPWM、及び、スイッチング制御ブロックSWTにて、スイッチング素子S1〜S4の駆動信号Ds1〜Ds4が演算され、出力される。
ソレノイド制御ブロックSCTでは、ソレノイド駆動指令信号(制御フラグ)FLsに基づいて、スイッチング素子SSの通電/非通電を切り替えるための駆動信号Dssが決定される。具体的には、「FLs=0」に基づいて、スイッチング素子SSが非通電状態とされる駆動信号Dssが出力される。また、「FLs=1」に基づいて、スイッチング素子SSが通電状態とされる駆動信号Dssが出力される。
<制動手段BRKの第2実施態様>
次に、図7を参照して、本発明に係わる制動手段BRKの第2実施態様を含む電動制動手段について説明する。なお、第1の実施態様と同じ記号を付されたものは同一機能であるため、説明は省略される。
電動制動装置の第2の実施態様は、電源(蓄電池BAT、発電機ALT)、電子制御ユニットECU、制動手段BRK、電力線PW3,PW4、補助電源BWH、信号線SGL、及び、コネクタCNB,CNCにて構成される。
第1の実施態様では、電源BATから2つの異なる電力線PW1,PW2(2組の配線)を介して、制御回路CNT、駆動回路DRVの夫々に電力供給されるが、第2の実施態様では、1つの電力線PW3を介して、制動手段BRKに電力供給される。そして、制動手段BRKの内部には、補助電源BWHが設けられ、少なくとも制御回路CNTへの電圧低下が生じる場合には、電力線PW4を介して、補助電源BWHから制御回路CNTへの電力供給が行われる。
電力線PW3は、車体側の電子制御ユニットECUから車輪WHL側の制動手段BRKに電力供給する。第1の実施態様と同様に、電力線PW3として、プラス側とマイナス側の一対で撚り合わされるツイストペアケーブル(Twisted Pair Cable)が採用され得る。電力線PW3は、駆動回路DRVに接続される。換言すれば、駆動回路DRVへの給電は、電力線PW3を介して、蓄電池BATから行われる。
電力線PW4が、制動手段BRK(即ち、キャリパCRP)の内部において、電力線PW3から分岐される。電力線PW4は、制御回路CNT、及び、補助電源BWHに接続されている。換言すれば、制御回路CNTへの給電は、電力線PW4を介して、補助電源BWHから行われ得る。具体的には、補助電源BWHが、電力線PW3,PW4を介して、蓄電池BATから充電され、制御回路CNTへの給電が、常時、補助電源BWHから行われる。また、制御回路CNTへ給電は、通常は、電力線PW3を介して、蓄電池BATから行われ、PW3の給電電圧が低下した場合に限って、CNTへの給電がBWHから行われ得る。制御回路CNTと駆動回路DRVとは、異なる経路(PW3とPW4)を介して電力の供給が行われる。
ここで、補助電源BWHとして、電気2重層キャパシタ(単に、キャパシタともいう)が採用される。キャパシタは、2次電池(蓄電池)に比べ、内部抵抗が低いため、短時間で充電され得る。また、電力線PW4として、バスバーが採用され得る。バスバーの採用によって、複雑な端子処理が不要で、組み付けが容易になり得る。また、第2の実施態様においても、電力線通信が採用され得る。この場合、信号線SGLは省略され、電気モータMTR等の制御用信号(Fbt等)は電力線PW3,PW4に重畳されて、制御回路CNTに送信される。
第2の実施態様の特徴は、車輪側の制動手段BRKに補助電源BWHが設けられ、制御回路CNTへの給電が、電力線PW4(制動手段BRKの内部で、電力線PW3から分岐される配線)を介して、補助電源BWHから行われることである。このとき、駆動回路DRVへの給電は、電力線PW3を介して行われる。なお、補助電源BWHは、蓄電池BATから、電力線PW3,PW4を介して、適宜充電される。具体的には、BWHは、車輪側において電力線PW3の途中から分岐する電力線を介して充電される(分岐点Bk2)。また、PW3に接続された駆動回路DRVを介して充電され得る。
電気モータMTRを駆動する駆動回路DRVへは、蓄電池BATから電力線PW3を通して、直接給電される。一方、初期診断手段CHKを含む制御回路CNTへは、補助電源BWH、及び、電力線PW4を通して電力が供給される。このため、駆動回路DRVへの通電量が大となり、電圧低下が発生した場合であっても、第1の実施態様と同様に、制御回路CNTへの供給電圧は概ね一定に維持される。この結果、システムの再起動が抑制され、制御回路CNTでの不必要な初期作動診断処理の実行が回避され得る。
補助電源BWHでは、その充電状態(蓄電状態)を表す状態量(充電状態量)Jdaが取得(検出)され得る。例えば、補助電源BWHの電圧が、充電状態量Jdaとして取得される。そして、充電状態量Jdaに基づいて、補助電源BWHが充電される。BWHの蓄電量は、自己放電によって、電気が時間の経過にともなって失われる。このため、運転者が制動操作部材BPを操作していない場合(例えば、制動操作量Bpaが所定値bpx未満の状態で判定)に、BAT(又は、ALT)からBWHに電流を流し、BWHが充電される。
<本発明の作用・効果>
以下、図8の時系列線図を参照して、本発明の作用・効果について説明する。駆動回路DRVにおいて、最も電圧低下が発生し得る条件の1つは、電気モータMTRが高速回転している場合に、MTRの反転(回転方向が逆になること)が指示されることである。この様な状況は、車輪WHLのロックを抑制するために、アンチスキッド制御が開始される瞬間に発生し得る。電気モータMTRが回転運動しているときには、逆起電力(回路を貫く磁束の変化を妨げるように生じる起電力)が発生する。このとき、ブリッジ回路HBRにおける通電は、「S1→MTR→S4」の順である。この状態において、HBRでの切り替えによって、電気モータMTRへの通電方向が反転されると、電源に対する電気モータMTRの接続方向が逆になる。従って、HBRにおける通電の順は、「S2→MTR→S3」となる。HBRによる通電方向の切り替えによって、電気モータMTRが発電機として作用し、電力線の電流が増大され、電圧低下が大きくなる。
この電圧低下を抑制するため、電力線を太くすること(ケーブルの断面積を増大すること)も考えられ得るが、電力線の屈曲性が低下し、疲労強度が懸念され得る。また、アンチスキッド制御の開始直後の電圧低下を抑制するために、電気モータMTRへの通電量を制限することも考え得る。しかし、電気モータMTRを利用する電動制動装置においては、電気モータMTRの慣性(回転子の慣性モーメント等)が、相対的に大きいため、アンチスキッド制御の開始直後において電気モータMTRへの通電量が制限される場合、制動トルクの減少(即ち、押圧力の減少)に関する応答性を確保することが非常に困難となる。
以下、アンチスキッド制御が作動する場合の例における本発明の効果について説明する。電気モータMTRの回転方向において、摩擦部材MSBが回転部材KTBに近づいていく方向(押圧力が増加し、制動トルクが増加する方向)が「正転」に相当し、摩擦部材MSBが回転部材KTBから離れていく方向(押圧力が減少し、制動トルクが減少する方向)が「逆転」に相当する。目標通電量Imtの符号が正符号である場合(Imt>0)には、通電方向はS1、MTR、S4の順であり、電気モータMTRが正転方向に駆動される。Imtの符号が負符号である場合(Imt<0)には、通電方向はS2、MTR、S3の順となり、電気モータMTRが逆転方向に駆動される。
時点t0にて、運転者が制動操作部材BPを操作し始め、制動操作量Bpaが「0」から増加し始める。このとき、電気モータMTRは正転方向に駆動されるため、駆動信号Ds1、Ds4がスイッチング素子S1、S4の「通電状態」を指示し、駆動信号Ds2、Ds3がスイッチング素子S2、S3の「非通電状態」を指示する。運転者の制動操作が急である場合には、電気モータMTRの慣性モーメントを補償するため、目標通電量Imtが増大される(時点t1)。
時点t2にて、アンチスキッド制御の開始条件(例えば、車輪スリップが所定値以上の条件)が満足され、アンチスキッド制御の実行が開始される。この時点t2にて、目標通電量Imtが反転方向の駆動を指示するため、値−imx(<0)に急速に減少される。例えば、値−imxの大きさは、ブリッジ回路HBRにおいて「フル通電(例えば、Dut=100%)」に対応する値に設定され得る。ここで、フル通電に対応する値は、スイッチング素子S1〜S4が通電し得る最大電流値(短時間許容電流)に基づいて決定される。駆動信号Ds1,Ds4がスイッチング素子S1,S4の「非通電状態」を指示し、駆動信号Ds2,Ds3がスイッチング素子S2,S3の「通電状態」を指示する。即ち、時点t2において、スイッチング素子S1,S4は「通電状態」から「非通電状態」に切り替えられるとともに、スイッチング素子S2,S3は「非通電状態」から「通電状態」に切り替えられる。この瞬間、電気モータMTRは高速で回転しているため、MTRが発電機として機能し、MTRの逆転方向に対応する方向(S2→MTR→S3)の電流が増大される。電圧の降下量は、電流量と抵抗値との積で決まるため、電流の増大によって、駆動回路DRV(即ち、ブリッジ回路HBR)の電圧低下が顕著となる。ここで、上記の抵抗値は、電力線、コネクタの接触抵抗、スイッチング素子の内部抵抗である。
駆動回路DRVとは異なる電気経路を介して、制御回路CNTへ電力が供給される。例えば、電力線が、車体BDYの内部で、1組の電力線PWLから2組の電力線PW1,PW2に分岐される。2組の電力線PW1,PW2の一方の端部が車体側に設けられる蓄電池BAT、発電機ALTに接続される。ここで、電源BAT,ALTから分岐までの電力線PWLは、十分な通電量を確保し得る太さのものが採用される。2組の電力線PW1,PW2の夫々の端部が、直接、電源BAT,ALTに接続され得る。電力線(2組の電力線PW1,PW2)の他方の端部が、夫々、キャリパCRPの内部で、制御回路CNT、及び、駆動回路DRVに接続される。従って、制御回路CNT、及び、駆動回路DRVへは、独立した2つの電気経路にて給電が行われるため、駆動回路DRVの電圧低下が発生する場合であっても、制御回路CNTの電圧は一定に維持される。結果、制御回路CNTの内部の初期診断手段CHKが、不必要に再起動されることが抑制される。
また、車輪WHLの側に設けられる制動手段BRK(即ち、キャリパCRP)の内部に補助電源BWHが設けられる。駆動回路DRVは、車体側の蓄電池BATから直接、電力線PW3を介して給電される。一方、制御回路CNTは、車輪側の補助電源BWHから、電力線PW4を介して給電される。電力線PW4は、制動手段BRKの内部にて、電力線PW3から分岐される。補助電源BWHは、電力線PW3、及び、電力線PW4を介して蓄電池BATに接続される。そして、補助電源BWHは、その蓄電量が低下した場合には、蓄電池BATからの電力によって充電される。上記の2系統の異なる電力線PW1,PW2が採用される場合と同様に、駆動回路DRVの電圧低下が発生する場合であっても、制御回路CNTは別系統の電気経路(BWHとPW4)にて給電されるため、その電圧は一定に維持される。上記同様、制御回路CNTの内部の初期診断手段CHKが、不必要に再起動されることが抑制される。なお、補助電源BWHから制御回路CNTへは、常時、給電が行われ得る。また、駆動回路DRVの供給電圧が低下していない場合には、蓄電池BATから制御回路CNTへ給電が行われ、供給電圧の低下が発生する場合に、補助電源BWHから制御回路CNTへ給電が行われ得る。