以下、本発明の実施形態に係る車両の電動制動装置について図面を参照しつつ説明する。
<本発明の実施形態に係る車両の電動制動装置の全体構成>
図1は、本発明の実施形態に係る電動制動装置の車両への搭載状態を示す。電動制動装置は、運転者の制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)の操作量に応じて、車輪に制動トルクを与えることによって車輪に制動力を発生し、走行中の車両を減速する。
電源(蓄電池、Battery)BBDが、車体BDYに設けられる(固定される)。電源BBDは、電子制御ユニットECU、及び、制動手段(ブレーキアクチュエータ)BRKに電力を供給する。さらに、オルタネータALTが、車体BDYに設けられる。車体電源BBDは、オルタネータALTによって充電される。
電子制御ユニットECUが、車体BDYに設けられる(固定される)。電子制御ユニットECUでは、制動操作量Bpaに基づいて電気モータMTRの駆動信号(目標値)Fbt、Pstが演算され、シリアル通信バスSCBを介して駆動手段(MTRを駆動する電気回路)DRVに送信される。電気モータMTRを駆動する電力は、車体に設けられる電源BBDから、ECU、及び、車体電力線PBDを介して、DRVに供給される。
駆動手段DRVが、キャリパCPRの内部に設けられる(固定される)。駆動手段DRVは、電気モータMTRを駆動するための駆動回路(電気回路)であり、制御手段CTL、スイッチング素子(例えば、MOS−FET)にて構成されるブリッジ回路HBR、及び、ノイズ低減回路NIZ(IND等)にて構成される。DRV内のCPU(プロセッサ)にプログラムされる制御手段CTLでは、SCBを介して得られるMTRの駆動信号(例えば、目標押圧力Fbt、目標位置Pst)、及び、PBDを介して得られる電力に基づいて、スイッチング素子が駆動され、MTRの回転方向、及び、回転動力が制御される。
電力線PBDが、シリアル通信バス(通信線)SCBとしても利用される電力線通信が採用され得る。この場合には、SCBはPBDに統合され(即ち、SCBが省略され)、電気モータの駆動信号はPBDに重畳されて、DRVに送信される。ここで、電力線通信は、電力線搬送通信(PLC、Power Line Communication)とも称呼され、電源配線PBDを利用して高速なデータ通信を行う通信システムである。
サスペンションアーム(例えば、アッパアームUAM、ロアアームLAM)は、一方側が、車両の車体BDYに取り付けられ、他方側がナックルNKLに取り付けられている。コイルスプリングSPR、及び、ショックアブソーバSHAは、サスペンションアーム、又は、ナックルNKLに取り付けられている。コイルスプリングSPR、及び、ショックアブソーバSHAによって、車輪WHLは、車体BDYに懸架されている。サスペンションアーム、SPR、NKL、及び、SHAは、公知の懸架装置を構成する部材である。
ハブベアリングユニットHBUは、ナックルNKLに固定される。ハブベアリングユニットHBU内のハブベアリングにて、車輪WHLが支持される。車輪WHLには、回転部材(ブレーキディスク)KTBが固定され、KTBはWHLと一体となって回転される(即ち、KTBの回転軸とWHLの回転軸は同軸である)。
マウンティングブラケットMTBは、ナックルNKLに、締結部材(例えば、ボルト)TK1、TK2(図示せず)によって、固定されている。キャリパCPRが、スライドピンGD1、GD2(図示せず)を介して、MTBに取り付けられる。ブレーキキャリパCPRは、浮動型キャリパであり、2つの摩擦部材(ブレーキパッド)MSBを介して、回転部材(ブレーキディスク)KTBを挟み込むように構成される。具体的には、スライドピンGD1、GD2がマウンティングブラケットMTBに固定され、GD1、GD2に沿って、キャリパCRP内の押圧部材(ピストン)PSNが回転部材KTBに向けて、電気モータMTRによってスライドされる。
<電子制御ユニットECU、電源BBD、及び、制動手段BRKの全体構成>
図2に示すように、この電動制動装置を備える車両には、制動操作部材BP、電子制御ユニットECU、電源(蓄電池等)BBD、及び、制動手段(ブレーキアクチュエータ)BRKが備えられる。ここで、ECUとBRKとは、ECU側コネクタCNB、及び、BRK側コネクタCNCを介して、シリアル通信バス(シグナル線)SCB、及び、電源線(パワー線)PBDによって接続され、MTRの駆動信号、及び、電力が供給される。
制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両を減速するために操作する部材である。BPの操作量に基づいて、制動手段(ブレーキアクチュエータ)BRKが、車輪WHLの制動トルクを調整し、車輪WHLに制動力が発生され、走行中の車両が減速される。
制動操作部材BPには、制動操作量取得手段BPAが設けられる。制動操作量取得手段BPAによって、運転者による制動操作部材BPの操作量(制動操作量)Bpaが取得(検出)される。制動操作量取得手段BPAとして、マスタシリンダ(図示せず)の圧力を検出するセンサ(圧力センサ)、制動操作部材BPの操作力、及び/又は、変位量を検出するセンサ(ブレーキペダル踏力センサ、ブレーキペダルストロークセンサ)が採用される。従って、制動操作量Bpaは、マスタシリンダ圧、ブレーキペダル踏力、及び、ブレーキペダルストロークのうちの少なくとも何れか1つに基づいて演算される。制動操作量Bpaは、電子制御ユニットECUに入力される。なお、Bpaは、他の電子制御ユニットにて演算、又は、取得され、その演算値(信号)が通信バスを介して、ECUに送信され得る。
車体BDYに固定される電源BBDから、車体側に設けられる電子制御ユニットECU、及び、車輪側に設けられる制動手段BRK(特に、駆動回路DRV)に電力が供給される。電源BBDとして、充電可能な二次電池(蓄電池、又は、充電式電池とも称呼される)が採用され得る。ここで、二次電池は、物質の化学的なエネルギを化学反応によって直流の電力に変換する電池(化学電池)の1つであり、充電を行うことにより電気を蓄え、繰り返し使用され得る。具体的には、二次電池は、放電過程では内部の化学エネルギが電気エネルギに変換され、放電時とは逆方向に電流を流すことによって、電気エネルギが化学エネルギに変換されて、エネルギが蓄積される。電源BBDは、その蓄電量(蓄積エネルギ)が減少した場合には、オルタネータ(発電機)ALTによって充電される。
電子制御ユニットECUは、電気モータMTRを駆動するための目標値(駆動信号)Fbt、Pstを、駆動手段DRVに出力する。また、MTRを駆動するための電力が、ECUを経由してDRVに供給される。具体的には、ECUには、コネクタCNBが設けられ、シリアル通信バスSCB、及び、車体電力線PBDが、CNBを介して、駆動手段DRVに接続される。そして、電子制御ユニットECU内にプログラムされる目標演算手段TRGによって目標値(目標押圧状態)Fbt、Pstが演算され、Fbt、PstがSCBを通して、DRVに送信される。また、車体電源BBDからの電力(電流)が、ECU経由で車体電力線PBDを通り、駆動手段DRVに供給される。
〔目標演算手段TRG〕
制動手段BRKの目標押圧状態Fbt(目標押圧力)、Pst(目標位置)を演算するための目標演算手段(目標状態演算手段に相当)TRGが、電子制御ユニットECU内のCPU(プロセッサ)にプログラムされている。
目標演算手段TRGは、制御アルゴリズムであって、指示押圧力演算ブロックFBS、アンチスキッド制御ブロックABS、トラクション制御ブロックTCS、車両安定化制御ブロックESC、目標押圧力演算ブロックFBT、及び、引き戻し制御ブロックHMCにて構成される。目標状態演算手段TRGは、車両の車体BDYに固定され、制動操作量Bpaに基づいて、目標押圧状態として、目標押圧力Fbt、及び、目標位置Pst(例えば、Mkt)を演算する。
指示押圧力演算ブロックFBSでは、制動操作量Bpa、及び、予め設定された指示押圧力演算特性(演算マップ)CHfbに基づいて、各車輪WHLの指示押圧力Fbsが演算される。指示押圧力Fbsは、電動制動手段BRKにおいて、摩擦部材(ブレーキパッド)MSBが回転部材(ブレーキディスク)KTBを押す力である押圧力の目標値である。
アンチスキッド制御ブロックABSでは、車輪速度取得手段(図示せず)の取得結果(車輪速度)に基づいて、公知のアンチスキッド制御(Anti-skid Control)を実行するための目標押圧力Fabsが演算される。即ち、アンチスキッド制御用目標押圧力Fabsは、車輪ロックを防止するための押圧力の目標値である。
トラクション制御ブロックTCSでは、車輪速度取得手段(図示せず)の取得結果(車輪速度)に基づいて、公知のトラクション制御(Traction Control)を実行するための目標押圧力Ftcsが演算される。即ち、トラクション制御用目標押圧力Ftcsは、車輪スピン(過回転)を抑制するための押圧力の目標値である。
車両安定化制御ブロックESCでは、車両挙動取得手段(例えば、ヨーレイトセンサ、図示せず)の取得結果(ヨーレイト)に基づいて、公知の車両安定化制御(Vehicle Stability Control)を実行するための目標押圧力Fescが演算される。即ち、車両安定化制御用目標押圧力Fescは、過度な車両のアンダステア、及び/又は、オーバステアを抑制するための押圧力の目標値である。
目標押圧力演算ブロックFBTでは、指示押圧力Fbs、アンチスキッド制御用目標押圧力Fabs、トラクション制御用目標押圧力Ftcs、及び、車両安定化制御用目標押圧力Fescに基づいて、最終的な目標押圧力Fbtが演算される。具体的には、Fabs、Ftcs、及び、Fescのうちから1つが選択されて、選択されたものによってFbsが修正されてFbtが演算される。Fabs、Ftcs、及び、Fescの選択順位は、車両の走行状態、及び、車輪の状態に基づいて決定される。なお、該当する車輪が駆動車輪でない場合(ドライブトレインに接続されない場合)には、Ftscは演算されない。
引き戻し制御ブロックHMCでは、制動操作量Bpaに基づいて、ねじの引き戻し作動が行われるための目標位置Pstが演算される。ここで、ねじの引き戻し作動は、動力変換部材(ねじ部材)NJBにおける「当接状態(台形ねじの場合はフランクの接触状態であり、ボールねじの場合はボールと溝との接触状態である)」を調整するものである。引き戻し制御ブロックHMCでは、制動操作が行われていない場合(即ち、Bpa=0である状態のとき)に、電気モータMTRの逆転によって、ねじ(即ち、押圧部材PSN)の引き戻し作動が行われる。押圧部材PSNの目標位置Pstは、摩擦部材MSBと回転部材KTBとの接触が開始される位置(接触開始位置)が基準(後述する基準位置pzr)とされる。
引き戻し制御ブロックHMCには、制御パタン記憶ブロックPTNが含まれている。制御パタン記憶ブロックPTNでは、「どの当接状態に到るまでねじ部材NJBを引き戻すか」が、複数の制御パタンとして記憶される。ここで、制御パタンは、時間経過に対応付けられた押圧部材PSNの目標位置Pstの規範モデルである。
先ず、ねじの当接状態と、各々の引き戻しの制御パタンについて説明する。ねじの当接状態には、摩擦部材MSBが回転部材KTBと接触して押圧部材PSNが摩擦部材MSBから力を受けている状態(即ち、押圧力Fbaが発生している状態で、以下、「押圧当接状態」と称呼する)、摩擦部材MSBと回転部材KTBとが丁度離れ始め、ねじの当接部がフリーとなる状態(即ち、ねじは動力伝達を全く行わない状態で、以下、「自由当接状態」と称呼する)、及び、押圧当接状態時とは異なる部位が当接し押圧部材PSNが回転部材KTBから離れていく状態(以下、「引き戻し当接状態」と称呼する)、の3つの状態が存在する。
したがって、少なくとも自由当接状態が達成される「当接解除パタン」、少なくとも引き戻し当接状態が達成される「当接切り替えパタン」、及び、ねじの螺合限界までねじが引き戻される「限界引き戻しパタン」の引き戻し量が異なる3つの制御パタン(規範モデル)が存在する。以下に、各制御パタンについて、ねじの当接状態の遷移、並びに、制御パタンの概要についてまとめる。
《当接解除パタン》
当接解除パタンでは、ねじの当接状態が、押圧当接状態から自由当接状態へ遷移する。当接解除パタンでは、ねじの第1当接部の当接(接触)が解除されて、第1当接部が自由状態となるまで、ねじが引き戻される。具体的には、第1の引き戻し位置(所定値)ps1にまで引き戻される。その後、ねじが、非制動時の待機位置psbに移動される。ここで、待機位置psbは、運転者が制動操作部材の操作を行っていない場合(非制動時)におけるねじ(即ち、PSN)の位置である。非制動時には、MSBの引き摺りを抑制するため、MSBがKTBから僅かに離れる位置に待機できるように、PSNの待機位置psbが設定される。
《当接切り替えパタン》
当接切り替えパタンでは、ねじの当接状態が、(押圧当接状態を起点に、)自由当接状態から引き戻し当接状態へ遷移する。当接切り替えパタンでは、ねじが自由当接状態を経て、押圧当接状態時とは異なる部位(第2当接部)が当接するまで、ねじが引き戻される。台形ねじの場合、押圧当接状態にて当接していたフランク(押圧時圧力側フランクであって、第1フランク)とは反対側のフランク(押圧時遊び側フランクであって、第2フランク)が当接するまで引き戻される。具体的には、第2の引き戻し位置(所定値)ps2にまで引き戻される。その後、ねじ(即ち、PSN)が、非制動時(例えば、Bpa=0の場合)の待機位置psbに移動される。
《限界引き戻しパタン》
限界引き戻しパタンでは、ねじの当接状態が、(押圧当接状態を起点に、)自由当接状態から引き戻し当接状態へ遷移する。限界引き戻しパタンでは、前記当接部が切り替えられる状態を経て、ねじの螺合可能の限界部位まで、ねじが引き戻される。例えば、ねじ部材NJBにおいて、ストッパにて動きが制限されるまで、ねじが引き戻される。具体的には、第3の引き戻し位置(所定値)ps3にまで引き戻される。その後、ねじ(即ち、PSN)が、非制動時(例えば、Bpa=0の場合)の待機位置psbに移動される。
引き戻し制御ブロックHMCでは、3つの引き戻し制御パタン(PTN内に予め記憶される)のうちで、何れか1つが選択される。制御パタンの選択は、加速操作量Apa、変速シフト位置Spa、及び、車両速度Vxaのうちの少なくとも何れか1つに基づいて決定される。加速操作量Apaは、加速操作部材(アクセルペダル)AP(図示せず)の操作量であり、加速操作量取得手段APAによって取得(検出)される。例えば、加速操作量取得手段(ストロークセンサ)APAによって、加速操作部材AP(図示せず)のストローク(変位)が、加速操作量Apaとして検出される。変速シフト位置Spaは、変速シフト部材(シフトレバー)SP(図示せず)の位置(例えば、駐車位置、前進位置、後退位置)であり、各々のシフト位置が変速シフト位置取得手段SPAによって取得(検出)される。車両速度Vxaは、車両速度取得手段VXAによって取得(検出)される。各車輪WHLに車輪速度取得手段VWAが設けられ、VWAによって取得される車輪速度(回転速度)Vwaに基づいて車両速度Vxaが演算され得る。
各制御パタンは、制動操作量Bpaが増加する場合、或いは、制動操作量Bpaが所定操作量bpa0以上の場合には選択されない。そして、何れか1つの制御パタンが、制動操作量Bpaが減少し、且つ、Bpaが所定操作量bpa0未満となる時点で選択される。制御パタン選択は、車両速度Vxa、加速操作量Apa、及び、シフト位置Spaのうちの少なくとも1つに基づいて行われる。
加速操作量Apaが第1所定操作量(予め設定される所定値)ap1以上の場合(Apa≧ap1)には、限界引き戻しパタンが選択され、加速操作量Apaが第1所定操作量ap1未満、且つ、第2所定操作量(予め設定される所定値で、ap1よりも小さい)ap2以上の場合(ap2≦Apa<ap1)には、当接切り替えパタンが選択され、加速操作量Apaが第2所定操作量ap2未満の場合(Apa<ap2)には、当接解除パタンが選択され得る。加速操作量Apaが大きい場合(即ち、車両が急加速されている場合)には、急制動される蓋然性が低いため、限界引き戻しパタンが選択され得る。一方、加速操作量Apaが小さい場合(即ち、車両が急加速されていない場合)には、運転者による急制動に備えて、当接解除パタンが選択され得る。
変速機の変速シフト位置(セレクタの操作位置)Spaが駐車位置(Pレンジ)を指示する場合には、限界引き戻しパタンが選択され得る。これは、シフト位置SpaがPレンジを示す場合には、車両は確実に停止していることに因る。
車両速度Vxaが第1所定速度(予め設定される所定値)vx1以上の場合(Vxa≧vx1)には、当接解除パタンが選択され、車両速度Vxaが第1所定速度vx1未満、且つ、第2所定速度(予め設定される所定値で、vx1よりも小さい)vx2以上の場合(vx2≦Vxa<vx1)には、当接切り替えパタンが選択され、車両速度Vxaが第2所定速度vx2未満の場合(Vxa<vx2)には、限界引き戻しパタンが選択され得る。引き戻し量が大きいほど潤滑更新の効果が大きい。一方、引き戻し量が小さいほど制動トルクの応答性が高い。このため、車両速度Vxaが小さい場合には、引き戻し量が大きい制御パタンが選択されるとともに、車両速度Vxaが大きい場合には、引き戻し量が小さい制御パタンが選択される。この結果、ねじ部材NJBの潤滑性能と、制動トルクの応答性が両立され得る。
各引き戻しの制御パタンが選択されることによって、時間経過に対する目標位置Pstの遷移パタン(時々刻々と変化するPstの値)が決定される。即ち、時系列で遷移する目標位置Pstのパタンが、当接解除パタン(第1所定位置ps1までの引き戻し作動)、当接切り替えパタン(第2所定位置ps2までの引き戻し作動)、及び、限界引き戻しパタン(第3所定位置ps3までの引き戻し作動)のうちの何れか1つに決定される。そして、選択される制御パタンに基づき、各演算周期(各制御周期)における引き戻し制御の目標位置Pstが、順次、HMCから出力される。なお、各引き戻しパタンでは、押圧部材PSNの位置(ねじ位置)は、最終的には待機位置psbにまで移動される。ここで、待機位置psbは、基準位置(PSN位置のゼロ点)pzrよりも、所定値ps0だけ引き戻される側(即ち、PSNがKTBから離れる側)に設定される。また、待機位置psbは、基準位置pzrに一致されるように設定され得る。
目標押圧力演算ブロックFBTにて演算された目標押圧力Fbt、及び、引き戻し制御演算ブロックHMCにて演算された目標位置Pstが、通信モジュールTMBに送信される。即ち、目標状態演算手段TRG内にて演算される目標押圧状態(目標値)Fbt、Pstが、TMBに入力される。通信モジュールTMBは、電子制御ユニットECUに設けられるシリアル通信を行うための要素(ECU側通信モジュール)である。目標押圧力(信号)Fbt、及び、目標位置(信号)Pstは、ECU側コネクタCNB、及び、シリアル通信バスSCBを通じて、車輪に固定される制動手段BRK(具体的には、駆動回路DRV)に送信される。
通信バス(Communication Bus)は、各手段(各モジュール)の間で、制御情報(データ、演算結果等)がやり取りされるための(情報交換用の)共通の経路(通信ライン)である。通信バスは、その経路によって、シリアル通信バスとパラレル通信バスとに分類される。シリアル通信バス(Serial Communication Bus)では、1つの通信経路(通信線)が用いられ、データが順次転送される。即ち、シリアル通信バスでは、データは、1つの経路を直列(シリアル)に、1ビットずつ順番に送信される。パラレル通信バス(Parallel Communication Bus)では、複数の通信経路(並列経路)が用いられ、それらの同期が取られながらデータが転送される。シリアル通信バスでは、1ビットずつのデータが逐次送信されるのに対して、例えば、4つの経路(信号線)が存在するパラレル通信バスでは、同時に4ビットの情報が送信可能であるが、それらの同期(Synchronization)が必要となる。本発明では、目標(状態)演算手段TRGから駆動手段DRVへの制御情報の交換に、シリアル通信バスSCBが採用される。
シリアル通信バスSCBとして、CAN(Controller Area Network)バスが採用され得る。CAN通信は、ISO(国際標準化機構、International Organization for Standardization)によって標準化されたシリアル通信であり、例えば、自動車用のネットワーク(車載ネットワーク)に採用される。自動車には複数の電子制御ユニットECUが搭載されるが、夫々のECUは、他のECUと情報(センサ信号、状態変数、制御演算結果等)を共有し、連携して作動される。CAN通信では、各ECUが、2つの通信線(CAN−H線、CAN−L線)で接続されることにより、多量の情報が少ない配線で通信され得る。具体的には、電圧の差動によって信号が送信される(平衡接続)。ここで、各ECUは、CAN通信上のデータの中から、必要とされるデータだけを選択して読み込む。
〔制動手段BRK〕
制動手段(ブレーキアクチュエータ)BRKは、ブレーキキャリパ(浮動型キャリパ)CPR、押圧部材(ブレーキピストン)PSN、電気モータ(ブラシモータ、又は、ブラシレスモータ)MTR、位置取得手段PSA(例えば、回転角検出手段MKA)、減速機GSK、シャフト部材SFT、動力変換部材(ねじ部材)NJB、押圧力取得手段FBA、及び、駆動手段(MTRの駆動回路)DRVにて構成されている。
ブレーキキャリパCPRは、浮動型キャリパであり、2つの摩擦部材(ブレーキパッド)MSBを介して、回転部材(ブレーキディスク)KTBを挟み込むように構成される。キャリパCPR内で、押圧部材PSNがスライドされ、回転部材KTBに向けて前進又は後退される。キャリパCPRには、キー溝KYMが、シャフト部材SFTの回転軸(シャフト軸Jsf)方向に延びるように形成される。
押圧部材(ブレーキピストン)PSNは、回転部材KTBに摩擦部材MSBを押し付けて摩擦力を発生させる。キー部材KYAが、押圧部材PSNに固定される。キー部材KYAが、キー溝KYMに嵌合されることによって、押圧部材PSNは、シャフト軸まわりの回転運動は制限されるが、シャフト軸の方向(キー溝KYMの長手方向)の直線運動は許容される。
電気モータMTRは、回転部材KTBに摩擦部材MSBを押し付けるための動力を発生する。即ち、電気モータMTRは、押圧部材PSNを駆動する。具体的には、電気モータMTRの出力(モータ軸Jmtまわりの回転動力)は、減速機GSKを介して、シャフト部材SFTに伝達され、SFTの回転動力(シャフト軸Jsfまわりのトルク)は、運動変換部材(例えば、ねじ部材)NJBによって、直線動力(押圧軸Jps方向の推力)に変換され、押圧部材PSNに伝達される。そして、押圧部材(ブレーキピストン)PSNが、回転部材(ブレーキディスク)KTBに向かって前進又は後退される。このPSNの移動により、摩擦部材(ブレーキパッド)MSBが、回転部材KTBを押す力(押圧力)Fbaが調整される。回転部材KTBは車輪WHLに固定されているため、摩擦部材MSBと回転部材KTBとの間に摩擦力が発生し、車輪WHLに制動力が調整され、例えば、走行中の車両が減速される。電気モータMTRとして、ブラシ付モータ、或いは、ブラシレスモータが採用される。
電気モータMTRの回転方向において、正転方向が、摩擦部材MSBが回転部材KTBに近づいていく方向(押圧力が増加し、制動トルクが増加する方向)に相当し、逆転方向が、摩擦部材MSBが回転部材KTBから離れていく方向(押圧力が減少し、制動トルクが減少する方向)に相当する。電気モータMTRの出力は、目標通電量Imtに基づいて決定される。具体的には、目標通電量Imtの符号が正符号である場合(Imt>0)には、電気モータMTRが正転方向に駆動され、Imtの符号が負符号である場合(Imt<0)には、電気モータMTRが逆転方向に駆動される。また、目標通電量Imtの大きさ(絶対値)に基づいて電気モータMTRの回転動力が決定される。即ち、目標通電量Imtの絶対値が大きいほど電気モータMTRの出力トルクが大きく、目標通電量Imtの絶対値が小さいほど出力トルクは小さい。
ねじ位置取得手段(実状態取得手段に相当し、単に、位置取得手段ともいう)PSAは、実押圧状態を表す信号として、ねじの実際の位置(ねじ位置の実際値)Psaを取得(検出)する。ねじ部材NJBは、押圧部材PSNに固定されているため、ねじ位置は、押圧部材PSNの位置と同一である。また、制動手段BRKの諸元(GSKのギア比、NJBのリード等)は、設計段階で決定される既知の値であるため、電気モータMTRの回転角から、押圧部材PSNの位置に至るまでの、位置に関する状態量を取得する手段が、位置取得手段PSAとして採用され得る。例えば、位置取得手段PSAには、電気モータMTRの回転角取得手段MKAが採用され得る。取得(検出)された実位置Psa(実回転角Mka)は、駆動手段DRV(特に、DRVに実装されるCPU)に入力される。
回転角取得手段(回転角度センサ)MKAは、電気モータMTRのロータ(回転子)の回転角Mkaを取得(検出)する。回転角取得手段MKAは、電気モータMTRの内部であって、回転子、及び、整流子と同軸に配置される(即ち、MTRと同軸であって、モータ軸Jmt上に設けられる)。
減速機GSKは、電気モータMTRの動力において、回転速度を減じて、シャフト部材SFTに出力する。即ち、MTRの回転出力(トルク)が、減速機GSKの減速比に応じて増加され、シャフト部材SFTの回転力(トルク)が得られる。例えば、GSKは、小径歯車SKH、及び、大径歯車DKHにて構成される。GSKとして、歯車伝達機構に代えて、ベルト、チェーン等の巻き掛け伝達機構、或いは、摩擦伝達機構が採用され得る。
シャフト部材SFTは、回転軸部材であって、減速機GSKから伝達された回転動力をねじ部材NJBに伝達する。シャフト部材SFTの端部は、球面状に加工され、ユニバーサル継手として機能する。このユニバーサル継手によって、MSBが摺動する際に生じるPSNの揺動(首振り運動)の影響が補償される。
動力変換部材(ねじ部材)NJBは、シャフト部材SFTの回転動力を、直線動力に変換する動力の変換部材である。即ち、NJBは、回転・直動変換機構である。例えば、NJBは、ナット部材NUT、及び、ボルト部材BLTにて構成され得る。ねじ部材NJBには、可逆性があり(逆効率をもち)、双方向に動力伝達が可能である。即ち、制動トルクが増加される場合(押圧力Fbaが増加される場合)、ねじ部材NJBを通して、シャフト部材SFTから押圧部材PSNへ動力が伝達される。逆に、制動トルクが減少される場合(押圧力Fbaが減少される場合)、ねじ部材NJBを介して、押圧部材PSNからシャフト部材SFTへ動力が伝達される(逆効率が「0」よりも大きい)。
動力変換部材NJBには、「送りねじ」が採用され得る。NJBは、「滑り」によって動力伝達が行われる滑りねじ(台形ねじ等)によって構成される。この場合には、ナット部材NUTには、めねじ(内側ねじ)MNJが設けられる。ボルト部材BLTには、おねじ(外側ねじ)ONJが設けられ、NUTのMNJと螺合される。シャフト部材SFTから伝達された回転動力(トルク)は、ねじ部材NJB(ONJとMNJ)を介して、押圧部材PSNの直線動力(推力)として伝達される。また、上記の滑りねじに代えて、ねじ部材NJBには、「転がり」によって動力伝達が行われる転がりねじ(ボールねじ等)が採用され得る。この場合、ナット部材、及び、ボルト部材には、ボール溝が設けられる。このボール溝にはめ合わされるボール(鋼球)を介して、動力伝達が行われる。なお、ねじ部材NJBに代えて、回転運動を直線運動に変換するための動力変換部材として、ボールランプ部材、回転クサビ部材、ラック&ピニオン部材等の変換機構が採用され得る。
押圧力取得手段(実状態取得手段に相当)FBAは、押圧部材PSNが摩擦部材MSBを押す力(押圧力)Fbaの反力(反作用)を、実押圧状態を表す信号として取得(検出)する。FBAには、起歪体が形成され、その歪が、歪検出素子によって検出され、Fbaが取得される。例えば、歪検出素子として、電気抵抗変化によるもの(歪ゲージ)、超音波によるもの等が用いられ得る。FBAは、シャフト部材SFTとキャリパCPRとの間に設けられ、キャリパCRPに固定されている。取得(検出)された実押圧力Fbaは、駆動手段DRV(特に、DRVに実装されるCPU)に入力される。
駆動手段DRVは、キャリパCPRの内部に固定され、目標押圧力Fbtに基づいて、電気モータMTRを駆動し、制御する。DRVは、通信モジュールTMC、制御手段CTL、ブリッジ回路HBR等にて構成される。
〔コネクタCNB、CNC、及び、配線SCB、PBD〕
コネクタCNCが、キャリパCPRの表面に設けられる。ここから、電気モータMTRの駆動電力、及び、MTRの駆動信号(目標押圧力Fbt)が、駆動手段DRVに取り込まれる。なお、目標信号Fbtは信号線SCBによって、電力は車体電力線PBDによって、BRK側コネクタ(車輪側コネクタ)CNCにまで、夫々、供給される。
駆動手段DRVと同様に、コネクタCNBが電子制御ユニットECUに設けられる。ECU側コネクタ(車体側コネクタ)CNBを介して、シリアル通信バス(信号線)SCB、及び、電力線PBDが、ECUと接続される。即ち、ECU側コネクタ(車体側コネクタ)CNB、及び、BRK側コネクタ(車輪側コネクタ)CNCによって中継される配線(信号線SCB、及び、電力線PBD)を介して、電子制御ユニットECU(車体BDYに配置)と、駆動回路DRV(車輪WHLに配置)との間で接続される。換言すれば、シリアル通信バスSCBは、コネクタCNB、CNCを介して、MTRの駆動信号(目標押圧力Fbt)をECUからDRVに送信する。また、電力線PBDは、コネクタCNB、CNCを介して、電気モータMTRを駆動する電力を、ECUからDRVに供給する。PBDとして、2本の電線がねじり合わさて形成されるツイストペアケーブル(Twisted Pair Cable)が採用され得る。
<駆動手段DRV>
次に、図3を参照して、駆動手段(駆動回路)DRVの詳細について説明する。駆動手段DRVは、目標押圧状態Fbt、Pst(Mkt)に基づいて、電気モータMTRへの通電状態(通電量の大きさと通電方向)を制御し、MTRの出力(例えば、制動手段BRKが発生する制動トルク)を調整する。図3は、電気モータMTRとして、ブラシ付モータ(単に、ブラシモータともいう)が採用される場合の駆動手段DRVの一例である。駆動手段DRVは、通信モジュール(DRV側の通信モジュール)TMC、制御アルゴリズム(制御手段CTL等)、及び、電気回路(ブリッジ回路HBR等)で構成される。
〔通信モジュールTMC〕
通信モジュールTMCが駆動回路DRVに設けられる。通信モジュールTMCによって、目標押圧状態Fbt、Pstを表す信号が受信される。通信モジュール(DRV側通信モジュール)TMCは、ECU側通信モジュールTMBと同様に、シリアル通信機能を実現するためのものである。例えば、CANバスの場合には、通信モジュールTMB、TMCは、トランシーバIC、及び、CANコントローラにて構成される。トランシーバICは、CAN−H、CAN−Lの差動信号に変換し、通信信号をCANバス上に流す。具体的には、通信モジュールTMB、TMCでは、受信時に、シリアル通信バスSCBから受け取った差動電圧が、トランシーバICによってデジタル信号に変換され、マイコン内部のCANコントローラの受信用ポート(RXポート)に送られる。逆に、送信時には、コントローラの送信用ポート(TXポート)からデジタル信号がトランシーバに送られ、トランシーバによって、この信号が差動電圧に変換された後、SCB上に送られる。
〔制御手段CTL〕
制御手段CTLは、目標押圧力(目標押圧状態の1つ)Fbt、及び、目標位置(目標押圧状態のもう1つ)Pstに基づいて、電気モータMTRへの実際の通電量(最終的には電流の大きさと方向)を制御する。制御手段CTLは、制御アルゴリズムであり、これは、駆動回路DRVの電気基板に実装されるCPU(Central Processing Unit、中央演算処理装置)にプログラムされる。CTLは、指示通電量演算ブロックIST、補正演算ブロックHSI、押圧力フィードバック制御ブロックIFT、位置フィードバック制御ブロックIPT、通電量調整演算ブロックIMT、パルス幅変調ブロックPWM、及び、スイッチング制御ブロックSWTにて構成される。
指示通電量演算ブロックISTは、目標押圧力Fbt(目標状態演算手段TRGから送信される目標押圧状態)、及び、予め設定された指示通電量の演算特性(演算マップ)CHs1、CHs2に基づいて、指示通電量Istを演算する。指示通電量Istは、電動制動手段BRKが目標押圧力Fbtを達成するための、電気モータMTRへの通電量の目標値である。Istの演算マップは、電動制動手段BRKのヒステリシスを考慮して、2つの特性CHs1、CHs2で構成される。特性CHs1は押圧力を増加する場合に対応し、特性CHs2は押圧力を減少する場合に対応する。そのため、特性CHs2に比較して、特性CHs1は相対的に大きい指示通電量Istを出力するように設定されている。
ここで、通電量とは、電気モータMTRの出力トルクを制御するための状態量(変数)である。電気モータMTRは電流に概ね比例するトルクを出力するため、通電量の目標値として電気モータMTRの電流目標値が用いられ得る。また、電気モータMTRへの供給電圧を増加すれば、結果として電流が増加されるため、目標通電量として供給電圧値が用いられ得る。さらに、パルス幅変調(PWM、Pulse Width Modulation)におけるデューティ比によって供給電圧値が調整され得るため、このデューティ比が通電量として用いられ得る。
補正演算ブロックHSIでは、押圧力取得手段FBA(例えば、押圧力センサ)、及び、位置取得手段PSA(例えば、MTRの回転角取得手段MKA)のゼロ点補正が行われる。補正演算ブロックHSIには、FBAからの信号(押圧力Fba)、及び、PSAからの信号(実際位置Psa)が入力され、ゼロ点の補正が行われて、補正後の実押圧力(修正押圧力)Fbc、及び、補正後の実位置(修正位置)Pscが出力される。ここで、ゼロ点とは、押圧力取得手段FBAの場合には、実際に押圧力(MSBがKTBを押し付ける力)が発生していない状態での検出値(取得値)を表し、位置取得手段PSAの場合には、MSBとKTBとの間で押圧力が発生するか否かの境目(即ち、MSBとKTBとが接触するか否かのさかい)である基準位置pzrを表す。ここで、FBAの出力値のゼロ点からの偏差(ズレ)をゼロ点ドリフトと称呼する。即ち、FBAのゼロ点ドリフトは、実際には押圧力が発生していない状況での偏差(値「0」からのズレ)である。
押圧力フィードバック制御ブロックIFTは、目標押圧力(目標押圧状態)Fbt、及び、実際の押圧力(ゼロ点補正後の実押圧状態)Fbcに基づいて、押圧力フィードバック通電量Iftを演算する。指示通電量Istは目標押圧力Fbtに相当する値として演算されるが、電動制動手段BRKの効率変動により目標押圧力Fbtと実押圧力(修正押圧力)Fbcとの間に誤差(定常的な誤差)が生じる場合がある。押圧力フィードバック通電量Iftは、目標押圧力Fbtと実押圧力Fbcとの偏差(押圧力偏差)ΔFb、及び、予め設定される演算特性(演算マップ)CHfに基づいて演算され、上記の誤差を減少するように決定される。即ち、押圧力フィードバック制御は、車体側のECU内では実行されず、車輪側の駆動回路DRV内(具体的には、DRVに実装されるCPU内)にて実行される。押圧力フィードバック制御は駆動手段DRV内で完結されため、シリアル通信バスSCBの通信負荷が抑制され得る。なお、実押圧力Fbcは、押圧力取得手段(実状態取得手段)FBAによって取得(検出)される。
位置フィードバック制御ブロックIPTは、目標位置(目標状態演算手段TRGから送信される目標押圧状態)Pst、及び、実際の位置(ゼロ点補正後の実押圧状態)Pscに基づいて、位置フィードバック通電量Iptを演算する。ねじの位置(即ち、PSNの位置)が目標位置Pstに一致するように、位置フィードバック通電量Iptが演算される。具体的には、Iptは、目標位置Pstと実位置(修正位置)Pscとの偏差(位置偏差)ΔPs、及び、予め設定される演算特性(演算マップ)CHpに基づいて演算され、偏差ΔPsを減少するように決定される。即ち、位置フィードバック制御は、車体側のECU内では実行されず、車輪側の駆動回路DRV内(具体的には、DRVに実装されるCPU内)にて実行される。位置フィードバック制御は駆動手段DRV内で完結されため、シリアル通信バスSCBの通信負荷が抑制され得る。なお、実位置Pscは、位置取得手段(実状態取得手段)PSA(例えば、電気モータの回転角取得手段MKA)によって取得(検出)される。
通電量調整演算ブロックIMTは、電気モータMTRへの最終的な目標値である目標通電量Imtを演算する。通電量調整演算ブロックIMTでは、先ず、指示通電量Istが押圧力フィードバック通電量Iftによって調整される。具体的には、指示通電量Istに対して、フィードバック通電量Iftが加えられて、この結果が目標通電量Imsとして演算される(Ims=Ist+Ift)。また、通電量調整演算ブロックIMTには、位置フィードバック制御ブロックIPTから位置フィードバック通電量Iptが送信される。そして、通電量調整演算ブロックIMT内の選択手段SNTによって、Ims及びIptのうちでいずれか一方が選択される。具体的には、運転者によって制動操作が行われている場合(例えば、Bpa>0の場合)には、目標通電量Imsが、最終的な目標通電量Imtとして採用される。一方、制動操作が行われていない場合(例えば、Bpa=0の場合)には、位置フィードバック通電量Iptが、最終的な位置フィードバック通電量Imtとして出力される。そして、目標通電量Imtの符号(値の正負)に基づいて電気モータMTRの回転方向(押圧力が増加する正転方向、又は、押圧力が減少する逆転方向)が決定され、目標通電量Imtの大きさに基づいて電気モータMTRの出力(回転動力)が制御される。なお、制動操作の有無は、しきい値bp0(「0」よりも大きい所定値)を用いて判定され得る。具体的には、制動操作量Bpaが所定値bp0以上の場合に「操作あり」が判定され、Bpaがbp0未満である場合に「操作なし」が判定される。或いは、制動操作の有無は、制動操作部材BPにストップスイッチ(ON/OFFスイッチ)が設けられ、その信号Stpに基づいて判定され得る。具体的には、StpがON状態を示す場合に「操作あり」が判定され、StpがOFF状態を示す場合に「操作なし」が判定される。
パルス幅変調ブロックPWMは、目標通電量Imtに基づいて、パルス幅変調(PWM、Pulse
Width Modulation)を行うための指示値(目標値)を演算する。具体的には、パルス幅変調ブロックPWMは、目標通電量Imt、及び、予め設定される特性(演算マップ)に基づいて、パルス幅のデューティ比Dut(ON/OFFの時間の割合)を決定する。併せて、PWMは、Imtの符号(正符号、或いは、負符号)に基づいてMTRの回転方向を決定する。例えば、電気モータMTRの回転方向は、正転方向が正(プラス)の値、逆転方向が負(マイナス)の値として設定される。入力電圧(電源電圧)、及び、デューティ比Dutによって最終的な出力電圧が決まるため、PWMでは、MTRの回転方向と、MTRへの通電量(即ち、MTRの出力)が決定される。
パルス幅変調ブロックPWMでは、所謂、電流フィードバック制御が実行され得る。この場合、通電量取得手段IMAの検出値(電気モータMTRへの実際の通電量で、例えば、実電流値)Imaが、PWMに入力される。そして、目標通電量Imtと、実際の通電量Imaとの偏差ΔImに基づいて、デューティ比Dutが修正(微調整)される。この電流フィードバック制御によって、高精度なモータ制御が達成され得る。
スイッチング制御ブロックSWTは、デューティ比(目標値)Dutに基づいて、ブリッジ回路HBRを構成するスイッチング素子(S1〜S4)に駆動信号を出力する。この駆動信号は、各スイッチング素子が、通電状態とされるか、非通電状態とされるか、を指示する。具体的には、デューティ比Dutに基づいて、電気モータMTRが正転方向に駆動される場合には、S1及びS4が通電状態(ON状態)、且つ、S2及びS3が非通電状態(OFF状態)にされるとともに、Dutに対応する通電時間(通電周期)で、S1及びS4の通電/非通電の状態が切替られる。同様に、MTRが逆転方向に駆動される場合には、S1及びS4が非通電状態(OFF状態)、且つ、S2及びS3が通電状態(ON状態)に制御され、S2及びS3の通電状態(ON/OFFの切替周期)が、デューティ比Dutに基づいて調整される。そして、Dutが大きいほど、単位時間当りの通電時間が長くされ、より大きな電流がMTRに流される。例えば、Dut=100%が指示される場合には、該当するスイッチング素子は常時通電され、Dut=0%が指示される場合には非通電状態とされる。
〔ブリッジ回路HBR、及び、ノイズ低減回路NIZ〕
スイッチング素子S1乃至S4は、電気回路の一部をON(通電)/OFF(非通電)できる素子である。例えば、スイッチング素子として、MOS-FET、IGBTが用いられる。スイッチング素子S1乃至S4によって、ブリッジ回路HBRが構成される。ここで、ブリッジ回路は、双方向の電源を必要とすることなく、単一の電源で電気モータへの通電方向を可変にでき、電気モータの回転方向(正転方向、又は、逆転方向)を制御できる回路である。このブリッジ回路は、Hブリッジ回路、或いは、フルブリッジ回路とも称呼される。スイッチング素子S1〜S4は、制御手段CTL(SWTからの信号)によって駆動される。夫々のスイッチング素子の通電/非通電の状態が切り替えられることによって、電気モータMTRの回転方向(正転方向、逆転方向)と出力トルク(通電量の大きさ)とが調整される。ここで、MTRの正転方向は、MSBをKTBに近づかせ、制動トルクが増加され、走行中の車両の減速度が増加される回転方向であり、MTRの逆転方向は、MSBをKTBから引き離し、制動トルクが減少され、走行中の車両の減速度が減少される回転方向である。
電気モータMTRに大出力が要求される場合には、スイッチング素子S1乃至S4に大電流が流される。このとき、スイッチング素子S1〜S4には発熱が生じるため、放熱板(ヒートシンク)が、S1〜S4に設けられ得る。具体的には、熱伝導のよい金属板(例えば、アルミニウム板)が、S1〜S4に固定され得る。
駆動回路DRVには、供給電力を安定化する(即ち、電圧変動を低減する)ためのノイズ低減回路(安定化回路)NIZが設けられる。ノイズ低減回路NIZは、所謂、LC回路(LCフィルタともいう)であり、少なくとも1つのインダクタ(コイル)IND、及び、少なくとも1つのコンデンサ(キャパシタ)CNDの組み合わせによって構成される。例えば、NIZとして、第1、第2コンデンサCND1、CND2、及び、インダクタINDが組み合わされてローパスフィルタ(π型フィルタ)が形成される。具体的には、π型ローパスフィルタは、ラインに並列な2つのコンデンサCND1、CND2と、1つの直列インダクタとで構成されるフィルタで、所謂、チェビシェフ・ローパスLCフィルタである。一般的に、インダクタは、コンデンサ(キャパシタ)よりも高価であるため、π型フィルタが採用されることで、部品コストが抑制され、良好な性能が得られる。また、ノイズ低減フィルタNIZとして、π型ローパスフィルタに代えて、T型ローパスフィルタ(2つの直列インダクタ、及び、1つの並列コンデンサにて構成)が採用され得る。
駆動回路DRVには、通電量取得手段(例えば、電流センサ)IMAが設けられる。通電量取得手段IMAは、電気モータMTRへの実際の通電量(例えば、実際に電気モータMTRに流れる電流)Imaを取得(検出)する。
〔電気モータMTR〕
電気モータMTRとして、ブラシ付モータ(単に、ブラシモータともいう)が採用される。ブラシ付モータは、整流子電動機(Commutator Motor)とも称呼され、該電気モータでは、電機子(巻線による電磁石)に流れる電流が、機械的整流子(コミュテータ)CMT、及び、ブラシBLCによって、回転位相に応じて切り替えられる。即ち、整流子CMT、及び、ブラシBLCによって、機械的な回転スイッチが構成され、巻線回路への電流が交互に反転される。ブラシ付モータでは、固定子(ステータ)側が永久磁石で、回転子(ロータ)側が巻線回路(電磁石)で構成される。そして、巻線回路(回転子)に電力が供給されるように、ブラシBLCが整流子CMTに当接されている。ブラシBLCは、ばね(弾性体)によって、整流子CMTに押し付けられ、CMTが回転することにより電流が転流される。MTR内には、回転子の位置(実位置、実際の回転角)Mkaを取得(検出)する回転角取得手段MKAが設けられる。
電気モータMTRとして、ブラシ付モータに代えて、ブラシレスモータが採用され得る。ブラシレスモータは、無整流子電動機(ブラシレスDCモータ、Brushless Direct Current Motor)とも称呼され、該電気モータでは、ブラシ付モータの機械式整流子CMTに代えて、電子回路によって電流の転流が行われる。ブラシレスモータでは、回転子(ロータ)が永久磁石に、固定子(ステータ)が巻線回路(電磁石)とされる構造で、ロータの回転位置(回転角)Mkaが検出され、Mkaに合わせてスイッチング素子が切り替えられることによって、供給電流が転流される。回転子の位置Mkaは、電気モータMTRの内部に設けられる回転角取得手段MKAによって検出される。
ブラシレスモータが採用される場合、駆動手段DRVのブリッジ回路HBRは、6つのスイッチング素子によって構成される。ブラシ付モータの場合と同様に、パルス幅変調ブロックPWMが決定するデューティ比(目標値)Dutに基づいて、ブリッジ回路HBRを構成するスイッチング素子の通電状態/非通電状態が制御される。
ブラシレスモータでは、回転角取得手段MKAによって、電気モータMTRのロータ位置(回転角)Mkaが取得される。そして、スイッチング制御ブロックSWTでは、実際の位置Mkaに基づいて、3相ブリッジ回路を構成する6つのスイッチング素子が制御される。スイッチング素子によって、ブリッジ回路のU相、V相、及びW相のコイル通電量の方向(即ち、励磁方向)が順次切り替えられて、MTRが駆動される。ブラシレスモータの回転方向(正転、或いは、逆転方向)は、ロータと励磁する位置との関係によって決定される。
<補正演算ブロックHSI>
次に、図4の機能ブロック図を参照して、補正演算ブロックHSIの実施形態について説明する。補正演算ブロックHSI(制御アルゴリズム)は、駆動手段DRV内にプログラムされている。補正演算ブロックHSIでは、ねじ位置取得手段(即ち、押圧部材の位置取得手段であり、単に、位置取得手段ともいう)PSA、及び、押圧力取得手段FBA(例えば、押圧力センサ)のゼロ点の補正が行われる。位置取得手段PSAのゼロ点は、MSBとKTBとの間で押圧力が発生するか否かの境目(即ち、MSBとKTBとが接触するか否かの境界位置)に相当する基準位置pzrである。基準位置pzrは、押圧力Fbaが減少する場合(電気モータMTRが逆転される場合)に、ねじの当接状態が、押圧当接状態から自由当接状態に切り替わる位置でもある。押圧力取得手段FBAのゼロ点は、実際に押圧力(MSBがKTBを押し付ける力)が発生していない状態を表す値である。ここで、FBAのゼロ点からの偏差(ズレ、オフセット)をゼロ点ドリフトと称呼する。BRKの諸元(GSKのギア比、NJBのリード等)は既知であるため、位置取得手段PSAとして、回転角取得手段(MTRの回転角センサ)MKAが採用され得る。
補正演算ブロックHSIは、位置変化量演算ブロックPSH、押圧力変化量演算ブロックFBH、剛性値演算ブロックGCQ、候補位置/候補力演算ブロックPFK、基準位置演算ブロックPZR、位置補正演算ブロックPSC、補正押圧力演算ブロックFZR、及び、押圧力補正演算ブロックFBCにて構成される。
位置変化量演算ブロックPSHでは、ねじの実際の位置Psaに基づいて位置変化量Pshが演算される。具体的には、Psaの過去値(過去の演算周期での値)psa[k]が記憶され、Psaの現在値(今回の演算周期での値)psa[g]と比較され、その偏差が位置変化量Pshとして演算される。即ち、Psh=psa[k]−psa[g] に従って、位置変化量Pshが演算される。ここで、過去値psa[k]は、演算周期において、現在(今回)に対して1周期、又は、複数周期前の演算値であり、現在値(今回値)psa[g]よりも所定時間(所定値)th0だけ以前の演算値である。即ち、演算周期において、過去値psa[k]から現在値psa[g]までは、所定周期(予め設定される固定値)が経過している。
押圧力変化量演算ブロックFBHでは、押圧力実際値Fbaに基づいて押圧力変化量Fbhが演算される。具体的には、各演算周期において、Psaの過去値psa[k]に対応したFbaの過去値fba[k]と、Psaの現在値psa[g]に対応したFbaの現在値fba[g]とが比較され、その偏差が押圧力変化量Fbhとして演算される。即ち、Fbh=fba[k]−fba[g] に従って、押圧力変化量Fbhが演算される。psa[k]とfba[k]とは同一演算周期における値であり、psa[g]とfba[g]とは同一演算周期における値である。
剛性値演算ブロックGCQでは、位置変化量Psh、及び、押圧力変化量Fbhに基づいて剛性値Gcqが演算される。具体的には、位置の変化量Pshに対する押圧力の変化量Fbhが、剛性値Gcq(=Fbh/Psh)として演算される。剛性値Gcqは、キャリパCPR、及び、摩擦部材MSBの直列ばねのばね定数に相当する値である。このため、押圧力変化量(例えば、押圧力の時間変化量)Fbhが、位置変化量(例えば、位置の時間変化量)Pshによって除算されて、剛性値Gcqが演算される。
候補位置/候補力演算ブロックPFKでは、電気モータMTRが逆回転される(即ち、Bpaが減少される)場合に、実位置Psa、実押圧力Fba、及び、剛性値Gcqに基づいて、ねじの位置(回転角)の基準となる位置(基準位置pzr)の候補(候補位置)Pkk、及び、押圧力を補正するための候補(候補力fzr)Fkkが演算される。具体的には、剛性値Gcqが所定値gcqx以上の状態(1演算周期前の状態)から、gcqx未満の状態に遷移した時点(今回の演算周期)のPsa、及び、Fbaが、候補位置Pkk、及び、候補力Fkkとして夫々記憶される。即ち、Gcqの演算周期において、前回値(1つ前の演算周期での演算値)gcq[g-1]がgcqx以上であり、今回値(現在の演算周期での演算値)gcq[g]がgcqx未満となる場合に、ねじ位置(即ち、PSN位置)の今回値psa[g]が候補位置Pkkとして演算され、押圧力の今回値fba[g]が候補力Fkkとして演算されて、記憶される。したがって、候補位置Pkkに対応する押圧力が、候補力Fkkとして記憶される。
基準位置演算ブロックPZRでは、ねじの実位置Psa、剛性値Gcq、及び、候補位置Pkkに基づいて基準位置pzrが決定される。具体的には、基準位置演算ブロックPZRでは、候補位置Pkkが決定された時点から、剛性値Gcqが所定値gcqx未満(Gcq<gcqx)であるか、否かが監視される。「Gcq<gcqx」の状態が、Psaにおいて、動力伝達部材GSK等の隙間に相当する変位(隙間相当値)skhを超えて継続された時点で(即ち、該当する演算周期において)、候補位置Pkkが基準位置pzrに決定される。しかし、「Gcq<gcqx」の状態が、隙間相当値(変位)skhを超えては継続されない場合、Gcqがgcqx以上となった時点で、Pkkは忘却(リセット)される。
基準位置演算ブロックPZRでは、候補位置Pkkによって、新たに基準位置pzrが更新されるまでは、前回の制動時における値が、基準位置pzrとして設定されている。ここで、隙間相当値skhは、BRKの動力伝達経路(MTRからPSNまでの動力伝達部材)における機械的な隙間に相当する値であり、設計値として予め設定されるしきい値である。
位置補正演算ブロックPSCでは、PSAによって取得されたPsaが、基準位置pzrによって補正されて、補正後のねじ位置(修正位置)Pscが演算される。基準位置pzrとして設定された時点のPsaがゼロ点とされて、修正位置Pscが演算される。換言すると、補正後のねじ位置(補正後のPSN位置)Pscでは、MSBとKTBとの間で押圧力が発生するか否かの境目である基準位置pzrが、位置取得手段(例えば、回転角センサMKA)PSAのゼロ点位置とされる。
補正押圧力演算ブロックFZRでは、FBAによって取得されたFbaのゼロ点ドリフトに相当する補正押圧力fzrが、実位置Psa、剛性値Gcq、及び、候補力Fkkに基づいて演算される。基準位置pzrの決定方法と同様に、剛性値Gcqが所定値gcqx以上の状態(1演算周期前の状態)から、gcqx未満の状態に遷移した時点(今回の演算周期)の実押圧力Fbaが、候補力(補正押圧力の候補)Fkkとして記憶され、「Gcq<gcqx」の状態が、Psaにおいて隙間相当値skhを超えて継続された時点で、候補力Fkkが、補正押圧力fzrとして採用される。したがって、基準位置pzr、及び、補正押圧力fzrは、同時に(同じ演算周期において)決定される。したがって、基準位置pzrに対応する押圧力が、補正押圧力fzrとして決定される。「Gcq<gcqx」の状態が、隙間相当値skhを超えては継続されない場合、Gcqがgcqx以上となった時点で、補正候補力Fkkは、一旦忘却(リセット)される。
押圧力補正演算ブロックFBCでは、補正押圧力fzrに基づいて実押圧力Fbaが補正され、補正後の押圧力(修正押圧力)Fbcが演算される。補正押圧力fzrが、押圧力取得手段FBAのゼロ点ドリフトに相当するため、実押圧力Fbaから補正押圧力fzrが差し引かれることによって誤差補償が行われ、修正押圧力Fbcが演算される。
また、時間と電気モータの変位との間には相互関係(電気モータの速度が一定の場合には、比例関係)が存在するため、隙間相当値として、変位のしきい値skhに代えて、時間のしきい値sktが採用され得る。即ち、隙間相当値に関する条件にて、「Gcq<gcqx」の状態が時間sktを超えて継続されたか、否かが判定される。
剛性値Gcq(BRKのばね定数に相当)が所定値gcqx未満になった時点で、直ちに基準位置pzrが判定されるのではなく、この状態(Gcq<gcqxの状態)が隙間相当値skh、sktを超えて継続されて、始めて基準位置pzrが決定される。このため、減速機等の動力伝達部材の隙間に起因する無効変位が存在しても、正確に基準位置pzrが決定され得る。また、剛性値(実際値)Gcqは、位置変化量Pshに対する押圧力変化量Fbhの比率として演算されるため、取得手段(センサ)の誤差(特に、FBAのゼロ点ドリフト)の影響が補償され得る。なお、動力伝達部材の隙間(クリアランス)は、例えば、歯車のバックラッシュ、継手の隙間、軸受の隙間に因る。さらに、これらの隙間は、経年摩耗によって拡大され得る。このため、隙間相当値skh、sktは、経年摩耗を含む動力伝達部材の隙間を見込んだ値(予め設定された所定値)とされ得る。
「力」の検出は、起歪体の歪(力を受けた場合に生じる変位)が計測されることによって行われる。この歪検出においては、検出値のドリフト(オフセット)が課題となる。候補位置Pkkでの実押圧力Fbaが記憶され、隙間相当値の条件が満足されて、基準位置pzrが決定される時点の実押圧力Fbaに基づいて、ゼロ点ドリフト値fzrが決定される。このため、FBAのゼロ点ドリフトの補償が確実に行われ得る。
補正演算ブロックHSIでは、取得手段PSA、FBAからの信号Psa、Fbaが利用されて、各取得手段のゼロ点pzr、fzrが演算される。補正演算ブロックHSIは、駆動手段DRV内(特に、プロセッサ)にプログラムされるため、信号(実押圧状態)Psa、Fbaが電子制御ユニットECUに送信される必要がない。即ち、実状態取得手段FBA、PSA(MKA)のゼロ点補正演算は、駆動手段DRV内で完結される。このため、シリアル通信バスSCBの通信負荷の増加が抑制され得る。
<引き戻し制御の時系列パタン>
次に、図5を参照して、引き戻し制御ブロックHMC内の制御パタン記憶ブロックPTNに、予め格納されている引き戻し制御の時系列パタンについて説明する。各制御パタン(時系列における目標位置Pstの推移)では、「どの当接状態に到るまでねじ部材NJBを引き戻すか」が異なる。ねじの当接状態として、MSBがKTBと接触してPSNがMSBから力を受けている状態(押圧当接状態)、MSBとKTBとが丁度離れ始め、ねじの当接部がフリーとなる状態(自由当接状態)、及び、押圧当接状態時とは異なる部位が当接しPSNがKTBから離れていく状態(引き戻し当接状態)、の3つの状態が存在する。したがって、PTNには、3つの制御パタンが記憶される。
先ず、押圧当接状態から自由当接状態へ遷移する「当接解除パタン」について説明する。当接解除パタンでは、ねじの第1当接部(第1フランク)の接触が解除されて、第1当接部が自由状態となるまで、ねじが引き戻される。具体的には、基準位置pzrから、押圧部材PSNの速度(PSNの位置の時間変化、所定値)dps1にて、第1の引き戻し位置(所定値)ps1にまで引き戻される(時点t1)。そして、位置ps1にて、所定時間thjだけ保持された後、ねじ速度(所定値)−dps2にて、ねじが非制動時の待機位置psbに移動される(時点t3)。
待機位置psbは、運転者が制動操作部材の操作を行っていない場合(非制動時)におけるねじ(即ち、押圧部材PSN)の位置である。非制動時には、MSBの引き摺りを抑制するため、MSBがKTBから僅かに離れる位置(基準位置pzrから値ps0だけ離れる位置)に待機できるように、ねじの待機位置psbが設定される。ここで、値ps0は「ゼロ」に設定され得る。この場合、待機位置psbは、基準位置pzrに一致する。
次に、(押圧当接状態を起点に、)自由当接状態から引き戻し当接状態へ遷移する「当接切り替えパタン」について説明する。当接切り替えパタンでは、ねじが自由当接状態を経て、押圧当接状態時とは異なる部位(第2当接部)が当接するまで、ねじが引き戻される。台形ねじの場合、押圧当接状態にて当接していたフランク(押圧時圧力側フランクであって、第1フランク)とは反対側のフランク(押圧時遊び側フランクであって、第2フランク)が当接するまで引き戻される。具体的には、基準位置pzrから、押圧部材PSNの速度(PSN位置の時間変化、所定値)dps1にて、第2の引き戻し位置(所定値)ps2にまで引き戻される(時点t4)。同様に、位置ps2にて、所定時間thjだけ保持された後、ねじ速度(所定値)−dps2にて、ねじが待機位置psbに移動される(時点t6)。
最後に、(押圧当接状態を起点に、)自由当接状態から引き戻し当接状態へ遷移し、さらに、ねじの螺合可能の限界部位まで引き戻される「限界引き戻しパタン」について説明する。限界引き戻しパタンでは、前記当接部が切り替えられる状態を経て、ねじの螺合可能の限界部位まで、ねじが引き戻される。例えば、ねじ部材NJBにおいて、ストッパにて動きが制限されるまで、ねじが引き戻される。具体的には、基準位置pzrから、PSNの速度(PSN位置の時間変化、所定値)dps1にて、第3の引き戻し位置(所定値)ps3にまで引き戻される(時点t7)。同様に、位置ps3(例えば、ストッパ位置)にて、所定時間thjだけ保持された後、ねじ速度(所定値)−dps2にて、ねじが待機位置psbに移動される(時点t9)。
引き戻し制御においては、引き戻し量(pzrからps1、ps2、ps3までの距離)と潤滑状態の更新代との間にトレードオフが存在する。引き戻し量が大きい当接切り替えパタン(位置ps2に対応)、及び、限界引き戻しパタン(位置ps3に対応)では、潤滑状態の更新効果が大であるが、引き戻し制御の途中で、制動が開始される場合には、制動トルクの発生までに時間を要する。逆に、引き戻し量が小さい当接解除パタン(位置ps1に対応)では、潤滑状態の更新効果は限定的ではあるが、引き戻し制御の途中で、制動が開始される場合には、直ちに制動トルクが発生され得る。各引き戻し制御のパタンは、加速操作量Apa、車両速度Vxa等に基づいて、状況に応じて選択されため、上記のトレードオフが満足され得る。
<制動手段BRKの実施形態>
次に、図6を参照しながら、制動手段(ブレーキアクチュエータ)BRKの実施形態について説明する。この図6は、図2に対応する。図6において、電気モータMTR、減速機GSK、押圧部材(ブレーキピストン)CPR等は、図2と同一であるため、これらの記載が省略されている。
入力部材INPは、減速機GSKの出力軸(例えば、大径歯車DKHの回転軸)に固定される。入力部材INPは、自在継手UNVを介して、シャフト部材SFTと当接する。具体的には、入力部材INPの端部(GSKに固定される部位とは反対側)に、球面(例えば、凹状球面)が形成され、この端部が自在継手UNVの一部として機能し得る。
押圧力取得手段FBAは、キャリパCPRに固定され、押圧部材PSNが摩擦部材MSBを押す力(押圧力)Fbaの反力(反作用)を取得(検出)する。押圧力取得手段FBAは、入力部材INPに設けられ、Fbaを出力する。
自在継手UNVが、入力部材INPとシャフト部材SFTとの間に設けられる。具体的には、入力部材INPとシャフト部材SFTとの間に球面部材(半径rqの凹型球面を有する部材)QMBが設けられるとともに、シャフト部材SFTの端面が球面形状(半径rqの凸球面形状)とされる。シャフト部材SFTと球面部材QMBとが摺動することによって、自在継手UNVとして機能する。自在継手UNVは、入力部材INPの軸Jinと、シャフト部材SFTの軸Jsfとの間の偏心(軸ズレ)を吸収して動力伝達を行う。なお、上記の軸ズレは、浮動型キャリパCPRの撓み、及び、摩擦部材MSBの偏摩耗に因る。
押圧部材PSNは、キャリパCPR内にて、PSNの軸方向(Jsp方向、即ち、SFTの軸方向Jsf)に摺動し、摩擦部材MSBを回転部材KTBに押し付ける。キー部材KYAとキー溝KYMとによって、押圧部材PSNの動きは、キャリパCPRに対する回転運動が制限されて、シャフト軸方向(キー溝KYMの長手方向)に行われる。自在継手UNVによって、Jin及びJsfの偏心が吸収されるため、シャフト部材SFTの軸(シャフト軸)Jsfと、押圧部材PSNの軸(押圧軸)Jpsとは同軸である。
押圧部材PSNは、カップ形状を有する。具体的には、押圧部材PSNは、円筒形(シリンダ形)であり、軸方向(Jps方向)において、一方が閉じられ、他方が開いている形状を有する。押圧部材PSNの内側(内周側)には、第1筒部(内壁)Et1が形成される。第1筒部Et1は、その面が直線で構成され(即ち、面が直線の集合体で形成され、母線をもって構成され)、滑らかである。ここで、直線の移動によって曲面が描かれるときに、各位置における直線が曲面の母線である。
押圧部材PSNの一方の端部は、密閉壁(隔壁)Mp1が設けられて、第1筒部Et1が閉め切られる(塞がれる)。押圧部材PSNの他方の端部(密閉壁Mp1の反対側)は、開口部(PSNの一部位)Kk1とされ、第1筒部Et1は、開いた状態となっている。
押圧部材PSN(具体的には、密閉壁Mp1)には、おねじONJを有するボルト部材BLTが固定される。第1筒部(PSNの内壁)Et1、密閉壁(PSNの隔壁)Mp1、キャップ部材(蓋)CAP、及び、第2筒部(SFTの外壁)Et2にて仕切られる貯蔵室Hchが形成される。貯蔵室Hchの内部には、気体が混入されることなく、固体潤滑剤が含有されたグリスGRSが充填される。貯蔵室HchからのグリスGRSの出入りが発生する箇所は、ねじ部材NJB(特に、ねじの隙間)、及び、キャップ部材CAP(特に、Et1、Et2との隙間)に限定される。
ねじ部材NJBは、シャフト部材SFTの回転動力を、押圧部材PSNの直線動力に変換する(即ち、回転・直動変換部材である)。ねじ部材NJBは、ボルト部材BLT、及び、ナット部材NUTにて構成されている。ボルト部材BLTは、押圧部材PSNの密閉壁Mp1に固定される。ボルト部材BLTには、おねじ(外側ねじ)ONJが形成されている。ナット部材NUTは、シャフト部材SFTに固定される。ナット部材NUTには、めねじ(内側ねじ)MNJが形成され、めねじMNJとおねじONJとが螺合される。ねじ部材NJBには、グリスGRSが塗布される。具体的には、おねじONJとめねじMNJとの隙間に、気体が可能な限り除かれて、固体潤滑剤を含有するグリスGRSが充填されている。
シャフト部材SFTは、入力部材INPの回転動力をねじ部材NJBに伝達する。入力部材INPに当接するシャフト部材SFTの端部には球面(例えば、凸状球面)が設けられ、球面部材QMBと摺動可能にて当接し、自在継手UNVの一部として機能する。
シャフト部材SFTは、入力部材INPに当接する部位とは反対側に、第1筒部Et1よりも小径のカップ形状を有する。シャフト部材SFTのカップ形状において、外側に第2筒部Et2、内側に第3筒部Et3が形成される。第2筒部Et2は、その面が直線で構成され(即ち、母線をもって構成され)、滑らかである。第3筒部Et3の一方の端部は、密閉壁Mp3が設けられてEt3が閉め切られる。第3筒部Et3の他方の端部(密閉壁Mp3の反対側)は、開口部(SFTの一部位)Kk3とされ、Et3は開いた状態となっている。
シャフト部材SFTは、押圧部材PSNの第1筒部Et1(例えば、円筒形状をもつPSN内周部)の内側に挿入される。このため、押圧部材PSNの第1筒部Et1と、シャフト部材SFTの第2筒部Et2(例えば、円筒形状をもつSFT外周部)とがオーバラップ部(重なり合う部分)Ovpをもつ。第3筒部Et3には、めねじMNJを有するナット部材NUTが固定される。第3筒部Et3(例えば、円筒形状をもつSFT内周部)、密閉壁(SFTの隔壁)Mp3、及び、ナット部材NUTにて仕切られる密閉室Hmp(外部とは隔離され、閉じられた空間)が形成される。密閉室Hmpの内部には、気体が混入されることなく(気体が可能な限り取り除かれて)、グリスGRSが充填されている。密閉室からのグリスの出入りが発生する箇所は、ねじ部材NJB(特に、ねじの隙間)に限られる。
キャップ部材CAPは、グリスGRSが貯蔵室Hch(例えば、位置Pb3)から外部位置Pb4に流出することを防止するとともに、気体(空気)が、外部位置Pb4から貯蔵室Hch(例えば、位置Pb3)に流入することを防止するための蓋(キャップ)である。具体的には、キャップ部材CAPは、中央に穴をもつ円盤形状であり、その外周部にて第1筒部Et1と摺接し、その内周部にて第2筒部Et2と摺接する。キャップ部材CAPは、押圧部材PSN、及び、シャフト部材SFTに対して軸方向への相対移動(軸に平行な方向の直線移動であって、Jps方向、及び、Jsf方向への移動)が可能である。また、押圧部材PSN、及び、シャフト部材SFTのうちで少なくとも一方に対して、軸まわりに相対回転(軸まわりの回転運動であって、Jpsまわり、及び、Jsfまわりのうちの少なくとも1つの軸まわりの相対回転移動)が可能である。ここで、押圧部材PSNの軸Jpsと、シャフト部材SFTの軸Jsfとは同じである。
動力変換部材であるねじ部材NJBの効率低下は、グリスGRSの枯渇(グリス切れ)に因るところが大である。具体的には、グリスGRSの枯渇は、グリスGRSによって潤滑されている界面に気体(空気)が入り込むことによって生じ得る。このため、ねじ部材NJB内、及び、その周辺部にグリスGRSが充填され、気体(例えば、空気)が存在する部位(気体部)から、これらの部位が遠ざけられる(隔離される)ことによって、ねじ部材NJBの潤滑状態が良好に維持され得る。
ねじ部材NJBの一方の端部(位置Pb1)には密閉室Hmpが形成され、この内部には、固体潤滑剤入りのグリスGRSが満充填されている。即ち、ねじ部材NJBの一方端に、壁で区画された行き止まりのチャンバ(密閉室)Hmpが設けられ、この内部の気体があり得る範囲で取り除かれた上で、グリスGRSによって満たされている。このため、ねじ部材NJBの一方端の位置Pb1から気体が流入することはない。ねじ部材NJBの他方の端部(位置Pb2)には貯蔵室Hchが形成され、この内部にもグリスGRSが満充填されている。即ち、Hch内においても、できる限り気体が取り除かれて、GRSが満たされている。気体が貯蔵室Hchへ流入する経路は、開口部Kk1からであるが、該経路はキャップ部材CAPによって蓋がされており(塞がれており)、この部位からの気体の流入が抑制される。この実施形態では、キャップ部材CAPが摺接する第1筒部Et1、及び、第2筒部Et2は、その摺接面(摺動面)の形状が直線(直線の集合体)にて形成される。従って、気体の流入、グリスGRSの流出が効果的に防止され得る。
更に、押圧部材PSN、及び、シャフト部材SFTにおいては、直径が異なる大小のカップ形状を有する2つの円筒形の部材が、夫々の開口部Kk1、Kk3で互いに向き合って、重なり合うように構成されている。従って、少なくともオーバラップ部分Ovp(PSNの内部空間)に亘って、貯蔵室Hch(グリスGRSが充填されているチャンバ)が形成されている。即ち、ねじ部材NJBの端部Pb2から、気体が存在する部分Pb4に到る近傍部位に亘って、グリスGRSが存在する。このオーバラップ構造によって、BRK全体の軸方向長さが伸ばされることなく、ねじ部材NJB(位置Pb2)から位置Pb4までの気体が通る道のりが十分に確保され得る。ねじ部材NJBに対して、グリスGRSが充填されている区間が長く設定されることによって、気体部(位置Pb4)と隔離されるため、ねじ部材NJBへの気体流入が効果的に抑制され得る。
おねじONJ、及び、めねじMNJのねじ形状において、ねじの隙間(山頂隙間、及び、フランク隙間)がグリスGRSの流路となり得る。押圧部材PSNの移動(回転部材に対する前進、或いは、後退)によって、密閉室Hmpには体積変化が生じる。具体的には、押圧部材PSNが回転部材KTBに向けて前進する場合(押圧力Fbaが増加し、制動トルクが増加する場合)には、密閉室Hmpの体積は、ボルト部材BLTが前進する分だけ増加する。逆に、押圧部材PSNが回転部材KTBから後退する場合(押圧力Fbaが減少し、制動トルクが減少する場合)には、密閉室Hmpの体積は、ボルト部材BLTが後退する分だけ減少する。ねじ部材NJB、及び、密閉室Hmpには、グリスGRSが満充填されている(即ち、気体が混入されていない)ため、この体積変化は、グリスGRSが、ねじ部材NJBの隙間を通って貯蔵室Hchに移動することで吸収され得る。
ねじ部材NJBの効率低下の原因の1つは、グリスGRSに含まれる固体潤滑剤において、常に同一部分が接触していることである。具体的には、グリスGRS内の固体潤滑剤の接触部(即ち、動力伝達部)が変化せず、限られた部分が常に動力伝達をしていることに因る。グリスGRSの移動によってねじ部材NJB内のグリスGRSが更新されるとともに、固体潤滑剤が回転され、接触部(動力伝達部)が変化されるため、潤滑状態が適正に維持され得る。
自在継手UNVは、押圧部材PSNとシャフト部材SFTとの間に設けられ得る。しかしながら、この構成が採用された場合には、第1筒部Et1(押圧部材PSNの一部であり、内周部分)と、第2筒部Et2(シャフト部材SFTの一部であり、外周部分)との平行度合が不十分であるため、キャップ部材CAPが傾き、キャップ部材CAPの軸方向の動きが阻害され得る。これに対し、この実施形態では、入力部材INPとシャフト部材SFTとの間に自在継手UNVが設けられるため、第1筒部Et1と第2筒部Et2との平行度合が維持され、キャップ部材CAPの円滑な摺動が確保され得る。
<ねじ部材(動力変換部材)>
次に、図7を参照しながら、動力変換部材である、ねじ部材NJBの詳細について説明する。NJBは、送りねじであり、めねじMNJと、おねじONJとで構成される。
図7(a)は、ねじ部材NJBにおける各部位の名称を定義して説明するためのものである。めねじ(内側ねじ)MNJの形状は、めねじの山部Ymnと、めねじの谷部(溝部)Tmnとで構成される。具体的には、めねじの山頂Scm、めねじのフランクFmn、及び、めねじの谷底Tzmにて構成される。同様に、おねじ(外側ねじ)ONJの形状は、おねじの山部Yonと、おねじの谷部(溝部)Tonとで構成される。具体的には、おねじの山頂Sco、おねじのフランクFon、及び、おねじの谷底Tzoにて構成される。ここで、山頂Scm、Scoは、ねじの山部の頂で平坦な部分であり、谷底Tzm、Tzoは、ねじの谷部の底で平坦な部分である。そして、フランクFmn、Fonは、山頂Scm、Scoと、谷底Tzm、Tzoと、を連絡する面である。Fmn、Fonは、ねじの回転軸線を含む断面では直線になっている。めねじMNJのフランクFmnと、おねじONJのフランクFonとの圧接によって動力の伝達が行われる。
図7(b)は、動力変換部材NJBを介して、回転運動を直線運動に変換する場合の、めねじMNJとおねじONJとの螺合状態を説明するためのものである。ここで、めねじMNJ(即ち、ナットNUT)の回転運動が、おねじONJ(ボルトBLT)の直線運動に変換される。図7(b)は、めねじの山部Ymn、及び、おねじの谷部Tonと、めねじの谷部Tmn、及び、おねじの山部Yonとがかみ合い、めねじMNJがおねじONJを押し付けている状態(図中では、矢印の方向に、めねじMNJがおねじONJを押圧している状態)を示している。めねじMNJ、及び、おねじONJにおいて、力が作用している側(荷重を受ける側)のフランクを、圧力側フランク(Pressure Flank)と称呼し、圧力側フランクの反対側のフランクであって、力が作用していない側のフランクを、遊び側フランク(Clearance Flank)と称呼する。
遊び側フランクにおいて、めねじMNJの遊び側フランクと、おねじONJの遊び側フランクとの隙間(ピッチ線上の距離)が、フランク隙間Cfkと称呼される。ピッチ線Pchは、ねじの有効径を定義するために用いる仮想的な円筒の母線(Generatrix)である。即ち、おねじ山の幅Wyoと、めねじ山の幅Wymとが等しくなる円筒の母線であるとともに、おねじ谷幅(おねじ溝の幅)Wtoと、めねじ谷幅(めねじ溝の幅)Wtmとが等しくなる円筒の母線ともいえる。
ねじ隙間には、固体潤滑剤を含むグリスGRSが注入されている。ねじ隙間は、ねじの断面形状において、a-b-c-d-e-f-g-hで示される部分にて表され、めねじMNJの山頂隙間Csm、おねじONJの山頂隙間Cso、及び、フランク隙間Cfkにて形成される。ここで、めねじMNJの山頂隙間(おねじの谷底隙間でもある)Csmは、めねじの山頂Scmと、おねじの谷底Tzoとの隙間である。具体的には、互いに同心にはまり合うめねじMNJとおねじONJとの断面形状(ねじの回転軸Jps、Jsfを含む断面)において、めねじの山頂(ねじ山の両側のフランクを連絡する面)を連ねる直線と、おねじの谷底(ねじ溝の両側のフランクを連絡する面)を連ねる直線との間の隙間である。同様に、おねじONJの山頂隙間(めねじの谷底隙間でもある)Csoは、おねじの山頂Scoと、めねじの谷底Tzmとの隙間である。具体的には、互いに同心にはまり合うめねじMNJとおねじONJとの断面形状(ねじの回転軸Jps、Jsfを含む断面)において、めねじの谷底を連ねる直線と、おねじの山頂を連ねる直線との間の隙間である。そして、フランク隙間Cfkは、めねじMNJのフランクFmnと、おねじONJのフランクFonとの隙間である。
押圧部材PSNの動き(移動)に応じて、密閉室Hmpの体積変化が発生されるため、ねじ隙間が密閉室Hmpと貯蔵室Hchとの間の、グリスGRSの移動経路となる。詳細には、押圧力Fbaが増加される場合は密閉室Hmpの体積が増加し、Fbaが減少される場合はHmpの体積が減少する。密閉室Hmpには、固体潤滑剤入りのグリスGRSが満たされているため、この体積変化は、グリスGRSがねじ隙間を通って移動することによって吸収される。換言すれば、密閉室Hmpの体積が減少する場合には、密閉室Hmp内のグリスGRSがねじ部材NJBに排出される。逆に、密閉室Hmpの体積が増加する場合には、グリスGRSがねじ部材NJBから密閉室Hmp内に吸引される。このグリスGRSの移動によって、動力変換部材の内部にある固体潤滑剤が移動されて、潤滑状態が適正に維持され得る。
ねじ隙間(山頂隙間Csm、Cso、及び、フランク隙間Cfk)がグリスGRSの流路となる場合、グリスGRSの流動抵抗(粘性抵抗)が制動手段BRKの効率に影響を及ぼす。従って、ねじ隙間の断面積がグリスGRSの粘度(ちょう度)に基づいて設定される。そして、無負荷の状態(押圧力がゼロの状態)において、グリスGRSの流動に必要な電気モータMTRの回転動力(即ち、グリスGRS移動に起因するトルク損失)が所定値以下となるように、ねじ隙間の断面積が決定され得る。ここで、ねじ隙間の断面積は、ねじの回転軸(Jps、Jsf)を含む断面におけるCsm、Cso、及び、Cfkの総面積であって、図7(b)に示す例では、上記の(a)乃至(h)にて囲まれた部分の面積である。
電気モータMTRの回転動力を押圧力に変換する部位は、ねじのフランクであるため、グリスGRSの移動はフランク隙間に対して行われることが望ましい。ねじ部材NJBのねじ形状において、少なくともフランク隙間CfkがグリスGRSの流路となるように、ねじのピッチ線Pchにおいて、ねじ溝(ねじの谷)の幅Wtm、Wtoが、ねじ山の幅Wym、Wyoよりも大きく(広く)設定される。この隙間(フランク隙間Cfk)を介して、密閉室Hmpと貯蔵室Hchとの間で、グリスGRSが移動される。ねじが螺合する場合にはある程度のバックラッシュが必要であるが、フランク隙間Cfkは、ねじ規格にて定められる標準バックラッシュよりも大きい値に設定され得る。また、フランク隙間Cfk(線分bcと線分fgとの距離)は、めねじMNJの山頂隙間Csm(線分cdと線分efとの距離)、及び、おねじONJの山頂隙間Cso(線分abと線分ghとの距離)のうちの少なくとも何れか一方よりも大きく(広く)なるように設定される。
<引き戻し制御によるグリスGRSの移動>
次に、図8を参照して、引き戻し制御によって、ねじ部材NJB内で生じる、グリスGRSの移動について説明する。図8は、図6に対応している。従って、図8において、図6に示す部材と同じ、或いは、同等の機能を発揮する部材については、図6と同じ記号が付されている。
図8(a)は、ねじの実位置Psa(即ち、押圧部材PSNの実際の位置)が基準位置pzrと一致している状態を示す。引き戻し制御によって、押圧部材PSNの実際位置(ねじの実際位置)Psaが、位置ps1、ps2、又は、ps3にまで後退される(即ち、KTBから離れる方向に移動される)。最終的には、図8(b)に示すように、実位置Psaは、位置ps1、ps2、又は、ps3から、待機位置psbにまで前進される(即ち、KTBに近づく方向に移動される)。ここで、待機位置psbは、非制動時におけるPSNの位置であり、基準位置pzrからps0(微小な所定値)だけ離れた位置である。PSNが待機位置psbに維持されることによって、通常走行時のMSBの引き摺り(MSBとKTBとが僅かに接触し、摩擦が生じている状態)が防止され得る。
カップ形状(Jps軸方向において、一方が閉じられ、他方が開いている形状)の押圧部材(ピストン)PSN内側に、おねじONJを有するボルト部材BLTが固定される。貯蔵室Hchは、PSNの内周部と隔壁、キャップ部材CAP、及び、SFTの外周部によって仕切られて形成されている。
回転動力をねじ部材NJBに伝達するシャフト部材SFTは、カップ形状(Jps軸方向において、一方が閉じられ、他方が開いている形状)を有する。そして、PSNの開口部とSFTの開口部とが向い合うように、SFTはPSNの内側に挿入される。即ち、押圧部材PSNの内周部と、シャフト部材SFTの外周部とが重なり合う部分をもって構成されている。シャフト部材SFTの内側には、めねじMNJを有するナット部材NUTが固定され、NUTは、ボルト部材BLTのおねじONJと螺合されている。密閉室Hmp(外部とは隔離され、閉じられた空間)は、SFTの内周部と隔壁、NUT、及び、BLTによって仕切られている。
ねじ部材NJB、貯蔵室Hch、及び、密閉室Hmpには、気体が混入されることなく(気体が可能な限り取り除かれて)、固体潤滑剤が含有されたグリスGRSが充填されている。即ち、貯蔵室HchからのグリスGRSの流入・流出は、ねじ部材NJB(特に、台形ねじの隙間)、及び、キャップ部材CAPとPSN内周部(或いは、SFT外周部)との隙間に限定され、密閉室Hmpからのグリスの出入りは、ねじ部材NJB(特に、ねじの隙間)に限られる。
制動トルクが、徐々に減少される場合(車両減速度が減少される場合)を想定する。電気モータMTRが逆回転されて、押圧部材PSNが回転部材KTBから後退される(基準位置pzrに向けて移動される)。この場合、密閉室Hmpの体積が減少されるが、グリスGRSは、ねじ隙間を通して(位置Pb1から位置Pb2に向けて)移動し、密閉室Hmpから貯蔵室Hchに流出される。Hch内のGRSの体積は増加するが、キャップ部材CAPがKTBから遠ざかる方向(右方向)に移動されて、この体積変化が吸収される。PSNが、基準位置pzrに到達すると、制動トルクはゼロになる。
引き戻し制御によって、矢印(1)にて示されるように、押圧部材PSNの位置(即ち、ねじ位置)が基準位置pzrから、さらに引き戻される(MSBがKTBから離され始める)。当接解除パタンに基づく引き戻し制御(位置ps1までの引き戻し)が選択される場合には、PSN位置が、自由当接状態となるまで後退される。PSN位置が自由当接状態まで戻されるため、接触していた第1当接部(第1フランク)が離れ始め、ここにグリスGRSが入り込む。このため、ねじ部材NJBの潤滑が向上され得る。
当接切り替えパタンに基づく引き戻し制御(位置ps2までの引き戻し)が選択される場合には、PSN位置が、自由当接状態から、さらに、引き戻し当接状態となるまで後退される。PSN位置が引き戻し当接状態まで戻されるため、押圧当接状態にて当接していた部位(押圧時圧力側部位であって、例えば、第1フランク)とは反対側の部位(押圧時遊び側部位であって、第2フランク)が当接するまで引き戻される。このとき、第1当接部(第1フランク)間は最大限に隔離し、ここにグリスGRSが充填される。限界引き戻しパタンに基づく引き戻し制御(位置ps3までの引き戻し)が選択される場合にも、同様に、第1当接部(第1フランク)間は最大限に隔離し、ここにグリスGRSが満たされる。
引き戻し制御では、最終的な目標位置ps1、ps2、ps3に到達後に、その位置が所定時間tsjに亘って維持される。その後、矢印(2)に示されるように、電気モータMTRが正回転されて、押圧部材PSNが待機位置psbに向けて前進される。この場合、密閉室Hmpの体積が増加されるが、グリスGRSは、ねじ隙間を通して(位置Pb2から位置Pb1に向けて)移動し、貯蔵室Hchから密閉室Hmpに流入される。Hch内のGRSの体積は減少するが、キャップ部材CAPがKTBに近づく方向(左方向)に移動されて、この体積変化が吸収される。
ねじ部材NJBの効率低下は、グリスGRSの枯渇(グリス切れ)、及び、グリスGRSに含まれる固体潤滑剤の同一部分の連続接触が原因である。グリスGRSの枯渇は、グリスGRSによって潤滑されている界面に気体(空気)が入り込むことによって生じる。Hmp、及び、Hchが形成されることによって、気体(例えば、空気)が存在する部位(気体部)から、グリスGRSが充填される部位(ねじ部材NJB内、及び、その周辺部)が遠ざけられる(隔離される)ことによって、ねじ部材NJBの潤滑状態が良好に維持され得る。また、グリスGRS内の固体潤滑剤の接触部(即ち、動力伝達部)が変化せず、限られた部分が常に動力伝達をしていることは、GRSが移動されないことによって生じ得る。引き戻し制御(即ち、PSNの基準位置pzrからの後退移動)によって、ねじ部材NJB内のグリスGRSが移動するため、GRSが更新されるとともに固体潤滑剤が回転され、接触部(動力伝達部)の状態が刷新され、潤滑状態が適正に維持され得る。
非制動時には、押圧部材PSNは待機位置psbに維持される。待機位置psbは、基準位置pzrよりも距離ps0だけ、回転部材KTBから離れる方向に存在する。したがって、非制動時には、回転部材KTBと摩擦部材MSBとの間には隙間が存在する。これによって、MSBの引き摺り(KTBとの摩擦による動力損失)が抑制され得る。