内燃機関を制御する際には、内燃機関の加減速状態の検出が必要になることがある。例えば、内燃機関に燃料を供給する装置として、EPI(電子式燃料噴射装置)が用いられる場合には、内燃機関が加速状態にあるか減速状態にあるかを検出し、その検出結果に基づいて吸気圧の平均値に基づく基本燃料噴射量に対して加減算を行っている。
EPIは、内燃機関の燃焼室内または吸気ポートに燃料を噴射するインジェクタ(電磁燃料噴射弁)と、インジェクタに燃料を供給する燃料ポンプと、内燃機関の所定のクランク角位置でインジェクタから所定量の燃料を噴射させるようにインジェクタを制御するECU(電子制御ユニット)とにより構成される。
また、ECUは、大気圧や内燃機関の温度等の種々の制御条件に基づいて燃料噴射量を演算する噴射量演算手段と、演算された燃料噴射量をインジェクタから噴射させるように、インジェクタに駆動信号を与える駆動回路とを備えている。そして、ECUは、所定の空燃比の混合気が内燃機関の燃焼室内に供給されるように、各種の制御条件に応じてインジェクタを制御する。
この種の燃料噴射装置においては、インジェクタから噴射させる燃料量を決定するために、内燃機関の燃焼室内に流入した吸入空気量を知る必要がある。吸入空気量を求める方法の一つとして、吸気圧と内燃機関の体積効率とから吸入空気量を推定する方法(スピード・デンシティ方式)が知られている。
また、内燃機関の吸気通路に設けられた圧力センサにより検出される吸気圧信号は、吸気行程で最低値となり、吸気弁が閉じている他の行程では大気圧と同等となるので、圧力センサの検出値に大きなリップル(脈動成分)が発生する。このため、正確な吸気圧は圧力センサの検出値のみからでは計測できない。
そこで従来の内燃機関では、吸気通路に容量の大きなサージタンク等を設けて吸気圧のリップルを緩和させたり、内燃機関の回転角を検出することで任意の行程の吸気圧を検出したり、或いは、吸気圧の検出値に大きな平滑化処理を行うことによって、正確な吸気圧を計測するようにしている。
このように、吸気圧と内燃機関の体積効率とから燃焼室内に流入した吸入空気量を推定して燃料噴射量を決定するようにした内燃機関においては、サージタンクを設けたり、吸気圧の検出値に大きな平滑化処理を行うことによって、加速状態あるいは減速状態にあるときに、応答遅れにより混合気の空燃比がリーンになったりリッチになったりすることがある。
すなわち、ドライバ(運転手)が加速するために吸気通路に設けられたスロットルバルブを急激に開いたときには、スロットルバルブの開度の変化に伴う吸気圧の変化が検出されて吸入空気量の推定値が修正されるまでに時間遅れが生じる。このため、ECUが演算する燃料噴射量が、実際に内燃機関が要求している燃料噴射量よりも少なめになり、空燃比がリーン側にずれる。
また、ドライバが減速するためにスロットルバルブを急激に閉じたときには、上記と同じ応答遅れにより、ECUが演算する燃料噴射量が、実際に内燃機関が要求している燃料噴射量よりも多めになり、空燃比がリッチ側にずれる。そのため、内燃機関の加速時および減速時の応答遅れを考慮せずに燃料噴射量を制御すると、加速時および減速時のドライバビリティが悪化したり、排気エミッションが悪化したりする。
ここで、吸気圧のリップルを緩和させて正確な吸気圧を計測するために、吸気圧の検出値に大きな平滑化処理を行った場合、加速時または減速時の吸気圧の変化が検出されて吸入空気量の推定値が修正されるまでの時間遅れが大きくなり、ドライバビリティや排気エミッションが益々悪化することにつながる。
さらに、吸気圧と内燃機関の体積効率とから燃焼室内に流入した吸入空気量を推定して燃料噴射量を決定するようにした内燃機関においては、リップルが大きい吸気圧の検出値を用いて燃料噴射量を制御すると、定常運転時の燃料噴射量が、吸気圧の脈動成分に応じて変動してしまい、定常運転時の空燃比が無駄に変動することで定常安定性のドライバビリティが悪化したり、排気エミッションが悪化したりする。
これらの問題が生じないようにするためには、定常運転時には吸気圧のリップルをなるべく緩和させて正確な吸気圧を計測しつつ、一方、加速または減速するためにスロットルバルブの急激な操作が行われたときには、その過渡状態に応じて燃料噴射量を加算または減算させる加速増量または減速減量の補正を行って、空燃比がリーン側またはリッチ側にずれるのを防ぐ必要がある。
また、燃料噴射量を制御する場合に限らず、例えば、内燃機関の点火時期を制御する際にも、加速性能を良好にしたり、内燃機関の異常燃焼によるノッキングを抑制したりするために、加速状態及び減速状態を加味した制御を行うことがある。
従来の内燃機関の制御装置として、例えば特許文献1では、ドライバビリティの悪化を抑制し、排気エミッションを低減させるための提案がなされている。
特許文献1には、空気流量検出装置から、内燃機関の吸気脈動時の誤差を低減するために、計測された信号を空気量と線形の関係にある信号に変換した上で平滑化処理を行う流量平滑化処理手段を備え、流量平滑化処理を実施した信号と、吸入空気量の変化に対し応答性の良い前記流量平滑化の程度が小さい信号、若しくは、流量平滑化処理を行わない信号を用いて、内燃機関の吸入空気量を演算することを特徴とする内燃機関の制御装置が開示されている。
また、サージタンクを設けること等により発生する吸入空気量の時間遅れは、内燃機関の加減速状態を検出し、加減速時に必要十分な量の燃料噴射量の増減量補正を行うことで加減速時の運転性を向上させ、かつ、良好な排気ガス性能を得ることは公知の技術である。
以下、本発明の内燃機関の燃料噴射量制御装置の好適な実施の形態につき、図面を用いて説明する。なお、本発明における内燃機関としては、ガソリン機関のエンジンが想定されている。
本発明の理解を深めるために、本発明の実施の形態について説明する前に、図2および図3を用いて、上記の特許文献1に示す従来技術をスピード・デンシティ方式の内燃機関に置き換えた場合について説明し、その場合の問題点について、まず説明する。
図2は、上記の特許文献1の技術をスピード・デンシティ方式の内燃機関に置き換えた場合のシステム構成を示すブロック図である。
圧力センサ201は内燃機関の吸気通路に設けられ、内燃機関の燃焼室内に流入される吸入空気の吸気圧を検出する。圧力センサ201より出力される吸気圧信号は、ハードフィルタ処理部202に入力され、1次なまし処理により高周波成分のノイズが除去される。ハードフィルタ処理部202にて高周波成分が除去された吸気圧信号はECU内部のA/D変換処理部203に入力され、所定時間毎の離散信号である吸気圧Pbiに変換される。
続いて、強平滑化処理部204では、吸気圧Pbiに対して平滑化の程度が大きい1次なまし処理を実施した吸気圧Pbfsを計算する。また、弱平滑化処理部205では、吸気圧Pbiに対して平滑化の程度が小さい1次なまし処理を実施した吸気圧Pbfwを計算する。なお、弱平滑化処理部205では、1次なまし処理を実施した吸気圧Pbfwを計算せずに、吸気圧Pbi=吸気圧Pbfwとしてもよい。吸気圧Pbfwは、補正処理部206に入力される。補正処理部206は、吸気圧Pbfwに対して更に平滑化処理を施した吸気圧Pbfw´を求め、吸気圧Pbfwと吸気圧Pbfw´との偏差である吸気圧偏差ΔPbfwを計算する。
また、定常・過渡判定判別処理部207は、アクセル開度、スロットル開度、エンジン回転数等の、内燃機関の吸入空気量に影響を与えるパラメータが少なくとも1つ入力され、当該パラメータの変化量があらかじめ定められた閾値を超える場合、過渡状態と判定し(過渡判定フラグ=1)、それ以外の場合は定常状態と判定する(過渡判定フラグ=0)。
定常・過渡判定判別処理部207にて、定常状態と判定された場合は、吸気圧のリップルをなるべく緩和させて吸気圧の計測精度の高い吸気圧Pbfsを出力し、制御用Pbとして内燃機関の点火時期であるベース点火や内燃機関の燃料噴射量であるベース燃料量の演算に用いる。
一方、定常・過渡判定判別処理部207にて過渡状態と判定された場合は、吸気圧Pbfsに対し、補正処理部206で算出された吸気圧偏差ΔPbfwを加算したものを出力し、制御用Pbとしてベース点火やベース燃料量の演算に用いる。
続いて、ΔPbf処理部208では、強平滑化処理部204から出力される吸気圧Pbfsに対し、1燃焼間隔前からの吸気圧変化量ΔPbfsを計算し、ベース燃料量に対して燃料の増減量補正を行うか否かを判定する加減速判定に用いる。加減速判定としては吸気圧変化量ΔPbfsがあらかじめ定められた加減速判定閾値を超える場合に燃料の増減量補正を実施し(加減速補正フラグ=1)、それ以外の場合は燃料の増減量補正を実施しない(加減速補正フラグ=0)。
次に、加減速判定が成立し、燃料の増減量補正を行う場合には、ΔPbi処理部209にて、吸気圧Pbiに対して1燃焼間隔前からの吸気圧変化量ΔPbiを計算し、燃料の増減量補正量の演算に用いる。
前記演算により、定常運転時の燃料噴射量の安定性と、過渡運転時の燃料噴射量の応答性と、の両立を図っている。
図3は、図2に示す上記特許文献1の技術をスピード・デンシティ方式の内燃機関に置き換えた場合の、加速時における吸気圧、燃料噴射量、点火時期、及び空燃比の挙動を示すチャート図である。より具体的には、(a)〜(h)として、以下の挙動を示している。
(a)過渡判定フラグ
(b)スロットル開度
(c)吸気圧
(d)ベース燃料量
(e)ベース点火
(f)吸気圧変化量ΔPbfs
(g)加速増量補正量
(h)空燃比
図3(a)に示す過渡判定フラグは、図3(b)に示すスロットル開度が変化することで、成立/不成立(=1/0)を切り替える。具体的には、図3(b)に示すスロットル開度が、あらかじめ定められた閾値を超えたとすると、図3(a)に示す過渡判定フラグは、定常状態(過渡判定フラグ=0)から、過渡状態(過渡判定フラグ=1)に移行する。図3においては、タイミングt1の時点で、図3(b)に示すスロットル開度が、あらかじめ定められた閾値を超えるので、その時点で、過渡判定フラグが成立する(過渡判定フラグ=1)。なお、ここでは、定常・過渡判定判別に用いる、内燃機関の吸入空気量に影響を与えるパラメータとして、スロットル開度を用いる場合を例としているが、その場合に限らず、アクセル開度、エンジン回転数等、内燃機関の吸入空気量に影響を与えるパラメータであれば、他のパラメータを用いるようにしてもよい。
こうして、過渡判定フラグが成立する(過渡判定フラグ=1)と、図3(c)に示す制御用Pb(吸気圧)は、定常運転時の吸気圧Pbfsに対し吸気圧偏差ΔPbfwを加算したものに切り替わる。この制御用Pbにより、図3(d)に示すベース燃料量や、図3(e)に示すベース点火を演算すると、過渡判定フラグ成立中は吸気圧のリップルに応じた脈動成分を含むが、燃料噴射量の応答性としては時間遅れを少なく抑えることができる。
また、図2の構成では設けられていないが、サージタンクを設けた構成にした場合には。当該サージタンクを設けたことで発生する吸気圧の時間遅れにより、図3(h)に破線で示すような空燃比のリーンが発生する。その場合には、図3(f)に示す吸気圧変化量ΔPbfsが加速増量判定閾値を上回る。そのため、図3に図示しない加減速補正フラグが成立するので、図3(g)に示す燃料の加速増量補正を行うことによって、空燃比がリーン側にずれることなく好適に制御することができる。
一方、図3(a)において過渡判定フラグが成立から不成立に戻るタイミングt2においては、制御用Pbとしてそれまで吸気圧Pbfsに対し吸気圧偏差ΔPbfwを加算していたのに対し、t2のタイミングで加算を禁止するため、制御用Pbに段差が生じてしまう。
また、過渡運転終盤の実際の吸気圧がほぼ収束安定している状態であるt2直前のタイミングでは、不要に吸気圧偏差ΔPbfwを加算していることで平均吸気圧の計測誤差が大きくなり、図3(h)の囲い部αのように空燃比のリッチが発生してしまう。
これらの過渡判定フラグが成立から不成立に戻るまでの、吸気圧のリップルが大きく制御用Pbに脈動成分が反映されてしまう運転ポイント(期間)では、気筒間の燃焼トルク差が拡大してドライバビリティが悪化したり、空燃比がリーン側またはリッチ側にずれて排気エミッションが悪化するという問題点がある。
本発明の実施の形態においては、このような問題点を解決するために、定常運転時には吸気圧のリップルをなるべく緩和させて正確な吸気圧を計測し、加速時や減速時のような過渡運転時には、その過渡状態に応じて燃料噴射量を加算または減算させる加速増量または減速減量の補正を行うことで空燃比がリーン側またはリッチ側にずれるのを防ぎつつ、かつ、定常運転と過渡運転の状態境目においても空燃比がリーン側またはリッチ側にずれるのを防ぐことが出来る内燃機関の燃料噴射量制御装置について説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る内燃機関(エンジン1)およびその周辺の構成を概略的に示した構成図である。図1に示すように、エンジン1の吸気系の上流には、吸入空気量を調整するために電子的に制御される電子制御式スロットルバルブ2が設けられている。また、電子制御式スロットルバルブ2の開度を測定するために、スロットル開度センサ3が設けられている。
電子制御式スロットルバルブ2の下流のエンジン1側には、サージタンク4が設けられている。サージタンク4には、サージタンク4内の圧力を測定するための吸気圧センサ5と、吸気温度を測定するための吸気温センサ6とが設けられている。
サージタンク4の下流の吸気ポート7には、燃料を噴射するためのインジェクタ8が設けられている。なお、インジェクタ8は、エンジン1の燃焼室内に直接噴射できるように設けられてもよい。
吸気ポート7の下流端部には、吸気ポート7とエンジン1の燃焼室との間を開閉するための吸気バルブ9が設けられており、この吸気バルブ9が燃焼室内に吸入される混合気の量を規制する。また、吸気バルブ9の開弁特性を変更可能とする可変動弁装置(図1には図示せず)が設けられていてもよい。
さらに、エンジン1に対し、エンジン1の燃焼室内の混合気に点火するための点火コイル10、および、点火プラグ11が設けられている。また、エンジン1の回転速度やクランク角位置を検出するために、クランク軸に設けられたプレートのエッジを検出するためのクランク角センサ12が、エンジン1に対し設けられている。
また、エンジン1の下流の排気ポート13と燃焼室との間を開閉する排気バルブ14が設けられている。また、排気ポート13の下流には、排気ガスの酸素濃度を測定するO2センサ15が設けられている。そのさらに下流には、排気ガスを浄化する触媒16が設けられている。触媒16としては、例えば、三元触媒、NOX触媒等が用いられる。
吸気圧センサ5で測定された吸気圧と、スロットル開度センサ3で測定された電子制御式スロットルバルブ2の開度と、吸気温センサ6で測定された吸気温度と、クランク角センサ12より出力されるクランク軸に設けられたプレートのエッジに同期したパルスと、O2センサ15により測定された排気ガスの酸素濃度のそれぞれは、電子制御ユニット18(以下、「ECU18」と称す)に入力される。
なお、ECU18は、マイクロコンピュータを主体に構成されるユニットであり、上記各センサの出力信号に加え、図1に図示しないバッテリの出力電圧、スタータスイッチのオン/オフ信号、水温センサで測定された冷却水温度の信号、大気圧センサで測定された大気圧の信号、可変動弁装置で測定された吸気カム17の位置(角度)の信号が入力される。
また、ECU18は、入力された各種信号に応じて、点火コイル10へ通電/遮断信号を出力することにより、点火時期(点火ベース)を進遅角制御する点火時期制御装置を備えている。さらに、ECU17は、前記以外の各種アクチュエータへの指示信号も出力する。
また、ECU18は、入力された各種信号に応じて、適切な燃料噴射量を求め、インジェクタ8へ出力することにより、適切な燃焼噴射量をインジェクタ8から噴射させる燃料噴射量制御装置も備えている。
次に、本実施の形態1に係る内燃機関の燃料噴射量制御装置のシステム構成について、図4を参照しながら詳細に説明する。なお、図4において、図1の構成に対応するものは、同一符号を付して示している。
本実施の形態1に係る内燃機関の燃料噴射量制御装置は、図4に示すように、車両に搭載された内燃機関の吸気通路に設けられたスロットルバルブ下流側の吸気圧を検出する吸気圧センサ5と、吸気圧センサ5の出力信号を所定時間毎にサンプリングし、吸気圧と線形関係にある圧力信号に変換した上で平滑化処理を行う平滑化処理部50と、平滑化処理部50により平滑化された圧力信号を、燃焼間隔毎に平均化処理することで吸気圧平均値を算出し、内燃機関に供給する基本燃料噴射量を算出する基本燃料噴射量演算部51と、平滑化処理部50により平滑化された圧力信号に対して燃焼間隔毎の変化量を算出することで平滑化後吸気圧の変化量を算出し、当該変化量に基づいて車両が加速状態であるか否かを判定する加速状態検出部52と、加速状態検出部52により加速状態にあると判定される場合に、基本燃料噴射量を増量補正する加速燃料補正部53とを備えている。
平滑化処理部50は、平滑化処理として、平滑化の程度が異なるものを2つ有している。2つの平滑化の程度のうち、平滑化の程度が小さい方を「第1のレベル」と呼び、「第1のレベル」よりも平滑化の程度が大きい方を「第2のレベル」と呼ぶこととする。平滑化処理部50は、後述するA/D変換処理部503から出力される吸気圧Pbiに対して「第1のレベル」の平滑化処理を行う弱平滑化処理部504と、「第2のレベル」の平滑化処理を行う強平滑化処理部506とを備えている。弱平滑化処理部504および強平滑化処理部506における平滑化処理はいずれも例えばフィルタ処理等で行えばよい。平滑化の程度の差は適宜決定すればよいが、図5の(c)に示されるように、強平滑化処理を行った吸気圧(Pbfs)は、吸気圧のリップルに応じた脈動成分を含まない緩やかな曲線になっているが、弱平滑化処理を行った吸気圧(Pbfw)は脈動成分を含んでいる。なお、当然であるが、弱平滑化処理を行った吸気圧(Pbfw)が含む脈動成分は、A/D変換処理部503から出力される吸気圧Pbiの脈動成分よりも小さい。すなわち、弱平滑化処理では、吸気圧Pbiの脈動成分を低減させており、強平滑化処理では、吸気圧Pbiの脈動成分を除去している。本実施の形態1に係る内燃機関の燃料噴射量制御装置は、「第1のレベル」の平滑化処理を行った弱平滑圧力信号を基に基本燃料噴射量演算部51による基本燃料噴射量を算出し、「第1のレベル」よりも平滑化の程度が大きい「第2のレベル」の平滑化処理を行った強平滑圧力信号を基に加速状態検出部52による加減速判定を行う。
吸気圧センサ5は、圧力センサ501とハードフィルタ処理部502とから構成されている。圧力センサ501は、エンジン1の吸気通路に設けられ、スロットルバルブ2下流側の吸気圧を検出する。ハードフィルタ処理部502は、圧力センサ501より出力される吸気圧信号が入力され、1次なまし処理により高周波成分のノイズを除去する。
基本燃料噴射量演算部51は、相加平均処理部505から構成されている。相加平均処理部505は、弱平滑化処理部504で「第1のレベル」の平滑化処理が行われた吸気圧Pbfwが入力される。相加平均処理部505では、入力された吸気圧Pbfwに対し、1燃焼間隔毎に相加平均処理を実施し、過去1燃焼間隔での吸気圧平均値である制御用Pbを演算する。この制御用Pbを用いて、エンジン1の点火時期であるベース点火やエンジン1の燃料噴射量であるベース燃料量の演算を行う。
なお、ベース点火の演算方法としては、例えば、ルックアップテーブル(マップ)を用いて、ベース点火、すなわち、点火時期を算出する。当該ルックアップテーブル(マップ)は、エンジン回転数と制御用Pbを軸とし、エンジン回転数と制御用Pbとの格子点に対して、最適なエンジン1の点火時期が設定されているものである。従って、このルックアップテーブルに、入力パラメータとしてエンジン回転数と制御用Pbとを入力すると、当該エンジン回転数および制御用Pbに対応する最適なエンジン1の点火時期がルックアップテーブルから検索され出力される。
また、ベース燃料の演算方法としては、例えば、制御用Pbに対して、予め設定された燃料量変換係数を乗算して1行程の燃料量を演算する。
加速状態検出部52は、ΔPbf処理部507から構成されている。ΔPbf処理部507は、強平滑化処理部506で「第2のレベル」の平滑化処理が行われた吸気圧Pbfsが入力される。ΔPbf処理部507では、入力された吸気圧Pbfsに対し、1燃焼間隔前からの吸気圧変化量ΔPbfsを計算し、吸気圧変化量ΔPbfsを用いて、ベース燃料量に対して燃料の増減量補正を行うか否かを判定する加減速判定を行う。加減速判定においては、吸気圧変化量ΔPbfsがあらかじめ定められた加減速判定閾値を超える場合に、車両が加速状態または減速状態であると判定し、燃料の増減量補正を実施し(加減速補正フラグ=1)、それ以外の場合は、車両が加速状態および減速状態のいずれでもないと判定し、燃料の増減量補正を実施しない(加減速補正フラグ=0)。なお、この場合に限らず、加速か否かの判定だけを行うようにしてもよい。その場合には、吸気圧変化量ΔPbfsに対し、あらかじめ定められた加速判定閾値を設定しておき、当該閾値を超える場合に、車両が加速状態であると判定し、燃料の増量補正を実施し(加減速補正フラグ=1)、それ以外の場合は、車両が加速状態でないと判定し、燃料の増量補正を実施しない(加減速補正フラグ=0)ようにする。
加速燃料補正部53は、ΔPbi処理部508から構成されている。ΔPbi処理部508は、加速状態検出部52からの加減速判定結果が入力されるとともに、A/D変換処理部503から吸気圧Pbiが入力される。ΔPbi処理部508は、加速状態検出部52により車両が加速状態または減速状態にあると判定された場合に、吸気圧Pbiに対して1燃焼間隔前からの吸気圧変化量ΔPbiを計算し、吸気圧変化量ΔPbiに基づいて基本燃料噴射量を増減補正するための増減量補正量の演算を行う。なお、上述したように、加速状態検出部52で加速か否かの判定のみを行う場合には、ΔPbi処理部508は、加速状態検出部52により車両が加速状態にあると判定された場合に、吸気圧Pbiに対して1燃焼間隔前からの吸気圧変化量ΔPbiを計算し、吸気圧変化量ΔPbiに基づいて基本燃料噴射量を増量補正するための増量補正量の演算を行う。
なお、増減量補正量の演算方法としては、例えば、吸気圧変化量ΔPbiに対して予め設定された補正量変換係数を乗算し、さらにエンジン回転速度や水温などの運転状態に応じた補正係数を乗算して求めるようにすればよい。
次に、本実施の形態1に係る内燃機関の燃料噴射量制御装置の動作について図4を用いて説明する。
圧力センサ501は、エンジン1の吸気通路に設けられ、スロットルバルブ2下流側の吸気圧を検出する。圧力センサ501より出力される吸気圧信号はハードフィルタ処理部502に入力され、1次なまし処理により、高周波成分のノイズが除去される。ハードフィルタ処理部502にて高周波成分が除去された吸気圧信号は、ECU18内部のA/D変換処理部503に入力され、所定時間毎の離散信号である吸気圧Pbiに変換される。
続いて、弱平滑化処理部504では、吸気圧Pbiに対して、平滑化の程度が小さい「第1のレベル」の1次なまし処理を実施して吸気圧Pbfwを計算する。さらに、相加平均処理部505では、吸気圧Pbfwに対し、1燃焼間隔毎に相加平均処理を実施し、過去1燃焼間隔での吸気圧平均値である制御用Pbを演算する。さらに、相加平均処理部505は、この制御用Pbを用いて、内燃機関の点火時期であるベース点火や内燃機関の燃料噴射量である基本燃料噴射量(ベース燃料量)を演算する。
本実施の形態1では、このようなシステム構成とすることで、平滑化の程度が大きい1次なましをかけることなくベース点火やベース噴射量を演算できるため、過渡運転時の応答性がよく、加速時の点火遅れによるノッキングの悪化や、加速時のベース噴射量の遅れによる空燃比のずれを小さく抑えることができる。
一方、強平滑化処理部506では、吸気圧Pbiに対して、平滑化の程度が大きい「第2のレベル」の1次なまし処理を実施して吸気圧Pbfsを計算する。次に、ΔPbf処理部507では、強平滑化処理部506から出力される吸気圧Pbfsに対し、1燃焼間隔前からの吸気圧変化量ΔPbfsを計算し、吸気圧変化量ΔPbfsを用いて、ベース燃料量に対して燃料の増減量補正を行うか否かを判定する加減速判定を行う。加減速判定としては吸気圧変化量ΔPbfsがあらかじめ定められた加減速判定閾値を超える場合に燃料の増減量補正を実施し(加減速補正フラグ=1)、それ以外の場合は燃料の増減量補正を実施しない(加減速補正フラグ=0)。
ここで、加減速判定に用いる吸気圧としては、吸気圧のリップルが大きい内燃機関、または運転状態では平滑化の程度が大きい1次なましを行わなければ、吸気圧変化量が脈動成分により大きくなってしまい、適切に加減速判定閾値をあらかじめ定めることが困難になる。適切に加減速判定閾値を設定できないと、燃料の増減量補正の誤補正や過補正、もしくは補正不足を招き、好適に空燃比を制御することができない。つまり、定常運転時には加減速判定閾値を超えることなく、かつ、過渡運転時には加減速判定閾値を超えて燃料の増減量補正を実施するためには、吸気圧に対して平滑化の程度が大きい1次なましを行うことが必要となる。従って、本実施の形態においては、平滑化の程度が大きい1次なましを行った吸気圧Pbfsを用いて、加減速判定を行っている。
次に、加減速判定が成立し、燃料の増減量補正を行う場合には、ΔPbi処理部508にて、吸気圧Pbiに対して、1燃焼間隔前からの吸気圧変化量ΔPbiを計算し、吸気圧変化量ΔPbiに基づいて、燃料の増減量補正量を演算する。
本実施の形態1においては、このようなシステム構成とすることで、吸気圧の脈動成分が大きい場合においても適切に脈動成分を除去することが可能となり、過渡運転時の燃料増減量補正を適切に行うことで空燃比を好適に制御することができる。
次に、本実施の形態1による、加速時における吸気圧、燃料噴射量、点火時期、及び空燃比の挙動について、図5を参照しながら詳細に説明する。より具体的には、(a)〜(h)として、以下の挙動を示している。
(a)過渡判定フラグ
(b)スロットル開度
(c)吸気圧
(d)ベース燃料量
(e)ベース点火
(f)吸気圧変化量ΔPbfs
(g)加減速補正量
(h)空燃比
図5(a)に示すように、本実施の形態1においては、図3(a)に示すような、過渡判定フラグは存在せず、定常運転時と過渡運転時とで制御用Pbを切り替えるといった構成は不要である。図5(b)に示すスロットル開度等の内燃機関の吸入空気量に影響を与えるパラメータの値が変化しても、図5(c)に示す制御用Pbは、弱平滑化後の吸気圧Pbfwに対し1燃焼間隔毎の相加平均処理を実施することで得られる。
この制御用Pbにより図5(d)に示すベース燃料量や図5(e)に示すベース点火を演算することで、応答性としては時間遅れを少なく抑えられる結果、加速時の点火遅れによるノッキングやベース噴射量の遅れによる空燃比のずれを最小限に抑えることができる。また、定常運転時の安定性としては吸気圧Pbfwに対する相加平均処理により計測誤差を小さく維持することができる。
また、サージタンクを設けることで発生する吸気圧の時間遅れにより、図5(h)に破線で示すような空燃比のリーンが発生する場合には、図5(f)に示す強平滑化後の吸気圧の変化量ΔPbfsが加速増量判定閾値を上回ることでt1のタイミングで図5に図示しない加減速補正フラグが成立し、図5(g)に示す燃料の加速増量補正を行うことによって空燃比がリーン側にずれることなく好適に制御することができる。
ここで、加速増量補正量としては、図3に示す従来技術での切り替わりのある制御用Pbを使用した場合と比較して大きくなるが、補正量の適合により、図3に示す従来技術での空燃比挙動と同等にすることは可能である。
また、過渡運転が収束しつつあるタイミングt2においては、図3に示す従来技術のような制御用Pbの切り替えを行っていないため、図5(d)に示すベース燃料量や図5(e)に示すベース点火に切り替えに伴う段差は発生しない。
更に、過渡運転終盤の実際の吸気圧がほぼ収束安定している状態であるタイミングt2の直前においても、脈動成分が大きく含まれた制御用Pbを用いることによる、気筒間の燃焼トルク差が拡大してドライバビリティが悪化したり、空燃比がリーン側またはリッチ側にずれて排気エミッションが悪化するといった従来の課題を解消することができる。その結果として、図5(h)の囲い部βのように、空燃比を好適に制御することができる。
以上の結果をまとめると、本願の実施の形態1は、以下のような効果を得ることができる。
(効果1):平滑化処理として、平滑化の程度が異なるものを2つ有し、平滑化の程度が小さい弱平滑化後の吸気圧を基に基本燃料噴射量(ベース燃料量)を算出し、平滑化の程度が大きい強平滑化後の吸気圧を基に燃料の加速増量補正を行うか否かを判定することで、定常運転時には吸気圧脈動のリップルの影響をなるべく緩和させて正確な吸気圧を演算することで安定性を保ちつつ、過渡運転時には吸気圧の時間遅れをなるべく抑えつつ必要十分な量の燃料の加速増量補正を行うことで、点火遅れによるノッキングを抑え、空燃比を好適に制御することができる。その結果として、ドライバビリティの悪化や排気エミッションの悪化を抑制することができる。
(効果2):燃料の加速増量補正を行うか否かを判定する加減速判定閾値を有し、加速判定閾値は平滑化の程度が大きい強平滑化後の吸気圧の変化量に基づいてあらかじめ設定し、吸気圧変化量が加速判定閾値を上回った場合に燃料の加速増量補正を行うことで、加速増量補正の誤補正や過補正、または補正不足を招くことなく、好適に空燃比を制御することができる。
以上のように、本実施の形態1においては、エンジン1の吸気通路に設けられたスロットルバルブ2の下流側の吸気圧を検出する吸気圧センサ5と、吸気圧センサ5の出力信号を所定時間毎にサンプリングし、吸気圧と線形関係にある圧力信号に変換した上で平滑化処理を行う平滑化処理部50と、平滑化処理部50により平滑化された圧力信号をエンジン1の燃焼間隔毎に平均化処理することで吸気圧平均値を算出し、吸気圧平均値に基づいてエンジン1に供給する基本燃料噴射量を算出する基本燃料噴射量演算部51と、平滑化処理部50により平滑化された圧力信号に対して燃焼間隔毎の変化量を算出することで平滑化後吸気圧の変化量を算出し、平滑化後吸気圧の変化量に基づいて加速状態であるか否かを判定する加速状態検出部52と、加速状態検出部52により加速状態であると判定された場合に、吸気圧センサ5の出力信号に基づいて基本燃料噴射量を増量補正する加速燃料補正部53とを備えている。また、平滑化処理部50は、平滑化処理の平滑化の程度として第1のレベルと第1のレベルより平滑度の程度が大きい第2のレベルとを有し、吸気圧センサ5の出力信号に対して第1のレベルの平滑化処理を行った圧力信号を第1の平滑圧力信号(弱平滑圧力信号)として出力し、吸気圧センサ5の出力信号に対して第2のレベルの平滑化処理を行った圧力信号を第2の平滑圧力信号(強平滑圧力信号)として出力し、基本燃料噴射量演算部51は、平滑化された圧力信号として第1の平滑圧力信号を用いて基本燃料噴射量を算出し、加速状態検出部52は、平滑化された圧力信号として第2の平滑圧力信号を用いて加速状態であるか否かの判定を行う。これにより、定常運転時には吸気圧のリップルをなるべく緩和させて正確な吸気圧を計測し、加速時や減速時のような過渡運転時には、その過渡状態に応じて燃料噴射量を加算または減算させる加速増量または減速減量の補正を行うことで空燃比がリーン側またはリッチ側にずれるのを防ぎつつ、かつ、定常運転と過渡運転の状態境目においても空燃比がリーン側またはリッチ側にずれるのを防ぐことが出来る。
なお、実施の形態1においては、加速時のみを考慮している場合を説明した。しかしながら、本発明は、これに限定されず、減速時にも考慮するような構成としてもよい。
本発明は、内燃機関の吸気通路に設けられたスロットルバルブ下流側の吸気圧を検出する吸気圧センサと、前記吸気圧センサの出力信号を所定時間毎にサンプリングし、吸気圧と線形関係にある圧力信号に変換した上で平滑化処理を行う平滑化処理部であって、前記平滑化処理として、第1のレベルの平滑化処理と前記第1のレベルより平滑度の程度が大きい第2のレベルの平滑化処理とを有し、前記吸気圧センサの出力信号に対して前記第1のレベルの平滑化処理を行った圧力信号を第1の平滑圧力信号とし、前記吸気圧センサの出力信号に対して前記第2のレベルの平滑化処理を行った圧力信号を第2の平滑圧力信号として、前記第1の平滑圧力信号と前記第2の平滑圧力信号とを出力する、平滑化処理部と、前記平滑化処理部により平滑化された前記第1の平滑圧力信号を前記内燃機関の燃焼間隔毎に平均化処理することで吸気圧平均値を算出し、前記吸気圧平均値に基づいて前記内燃機関に供給する基本燃料噴射量を算出する基本燃料噴射量演算部と、前記平滑化処理部により平滑化された前記第2の平滑圧力信号に対して前記燃焼間隔毎の変化量を算出することで平滑化後吸気圧の変化量を算出し、前記平滑化後吸気圧の変化量に基づいて加速状態であるか否かを判定する加速状態検出部と、前記加速状態検出部により加速状態であると判定された場合に、前記吸気圧センサの出力信号に基づいて前記基本燃料噴射量を増量補正する加速燃料補正部とを備えた内燃機関の燃料噴射量制御装置である。