JP2015147293A - 被加工物の切断方法 - Google Patents

被加工物の切断方法 Download PDF

Info

Publication number
JP2015147293A
JP2015147293A JP2015002678A JP2015002678A JP2015147293A JP 2015147293 A JP2015147293 A JP 2015147293A JP 2015002678 A JP2015002678 A JP 2015002678A JP 2015002678 A JP2015002678 A JP 2015002678A JP 2015147293 A JP2015147293 A JP 2015147293A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
resin
workpiece
saw wire
cutting
coated saw
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP2015002678A
Other languages
English (en)
Inventor
一男 吉川
Kazuo Yoshikawa
一男 吉川
匡範 阿南
Tadanori Anami
匡範 阿南
昭典 浦塚
Akinori Urazuka
昭典 浦塚
義武 松島
Yoshitake Matsushima
義武 松島
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Kobelco Research Institute Inc
Original Assignee
Kobelco Research Institute Inc
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Kobelco Research Institute Inc filed Critical Kobelco Research Institute Inc
Priority to JP2015002678A priority Critical patent/JP2015147293A/ja
Publication of JP2015147293A publication Critical patent/JP2015147293A/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Classifications

    • BPERFORMING OPERATIONS; TRANSPORTING
    • B28WORKING CEMENT, CLAY, OR STONE
    • B28DWORKING STONE OR STONE-LIKE MATERIALS
    • B28D1/00Working stone or stone-like materials, e.g. brick, concrete or glass, not provided for elsewhere; Machines, devices, tools therefor
    • B28D1/02Working stone or stone-like materials, e.g. brick, concrete or glass, not provided for elsewhere; Machines, devices, tools therefor by sawing
    • B28D1/08Working stone or stone-like materials, e.g. brick, concrete or glass, not provided for elsewhere; Machines, devices, tools therefor by sawing with saw-blades of endless cutter-type, e.g. chain saws, i.e. saw chains, strap saws
    • B28D1/088Sawing in situ, e.g. stones from rocks, grooves in walls
    • BPERFORMING OPERATIONS; TRANSPORTING
    • B24GRINDING; POLISHING
    • B24BMACHINES, DEVICES, OR PROCESSES FOR GRINDING OR POLISHING; DRESSING OR CONDITIONING OF ABRADING SURFACES; FEEDING OF GRINDING, POLISHING, OR LAPPING AGENTS
    • B24B27/00Other grinding machines or devices
    • B24B27/06Grinders for cutting-off
    • B24B27/0633Grinders for cutting-off using a cutting wire
    • BPERFORMING OPERATIONS; TRANSPORTING
    • B28WORKING CEMENT, CLAY, OR STONE
    • B28DWORKING STONE OR STONE-LIKE MATERIALS
    • B28D5/00Fine working of gems, jewels, crystals, e.g. of semiconductor material; apparatus or devices therefor
    • B28D5/04Fine working of gems, jewels, crystals, e.g. of semiconductor material; apparatus or devices therefor by tools other than rotary type, e.g. reciprocating tools

Landscapes

  • Engineering & Computer Science (AREA)
  • Mechanical Engineering (AREA)
  • Mining & Mineral Resources (AREA)
  • Finish Polishing, Edge Sharpening, And Grinding By Specific Grinding Devices (AREA)
  • Mechanical Treatment Of Semiconductor (AREA)
  • Processing Of Stones Or Stones Resemblance Materials (AREA)
  • Polishing Bodies And Polishing Tools (AREA)

Abstract

【課題】切断途中で樹脂皮膜の磨滅および樹脂被覆ソーワイヤの断線が発生せず、切断した被加工物の算術平均粗さRaを小さくすると共に、うねりも小さくできる被加工物の切断方法を提供する。【解決手段】鋼線の表面に樹脂皮膜が被覆されている樹脂被覆ソーワイヤ4を走行させて、シリコンを除く被加工物2を切断する方法であって、前記樹脂被覆ソーワイヤ4または前記被加工物2の少なくとも一方を揺動させると共に、平均粒径が0μm超8μm以下のダイヤモンド砥粒を前記樹脂被覆ソーワイヤ4に吹き付け、前記樹脂被覆ソーワイヤ4の線速を800m/分以上とする。【選択図】図2

Description

本発明は、鋼線の表面に樹脂皮膜が被覆されている樹脂被覆ソーワイヤを走行させて、シリコンを除く被加工物を切断する方法に関する。
炭化ケイ素やシリコンなどの被加工物は、ソーワイヤが取り付けられたソーマシンで切断される。ソーワイヤは、一方向または双方向(往復方向)に走行しており、このソーワイヤに被加工物を接触させることによって、被加工物を任意の厚さに切断できる。
上記被加工物の切断方式は、使用する砥粒の態様によって、鋼線からなるソーワイヤに砥粒を含むスラリーを吹き付けながら被加工物を切断する遊離砥粒方式と、鋼線からなるベースワイヤの表面に、砥粒を付着固定したメッキ層を形成した固定砥粒付きソーワイヤを用いて被加工物を切断する固定砥粒方式に大別される。上記遊離砥粒方式および固定砥粒方式において、被加工物を切断するときの様子を図1の(a)および(b)の模式図を用いて説明する。図1の(a)、(b)において、11は鋼線、12は鋼線からなるソーワイヤ、13はソーワイヤの走行方向を示す矢印、14は被加工物、15は遊離砥粒、16はメッキ層、17は固定砥粒、18は固定砥粒付きソーワイヤをそれぞれ示す。
上記遊離砥粒方式では、図1の(a)に示すように、吹き付けたスラリーに含まれる砥粒が、遊離砥粒15として被加工物14とソーワイヤ12との間に引き込まれ、被加工物14の磨耗が促されることによって被加工物14の研削加工が促進され、切断される。一方、上記固定砥粒方式では、図1の(b)に示すように、鋼線11の表面にメッキ層16を介して固定された固定砥粒17によって被加工物14の磨耗が促されることによって被加工物14の研削加工が促進され、切断される。
上記遊離砥粒方式によれば、上記固定砥粒方式に比べて切断体表面の粗さが小さくなり、切断体の品質が良好となる傾向がある。一方、上記固定砥粒方式によれば、上記遊離砥粒方式に比べて被加工物の切断速度を大きくでき、切断体の生産性を向上できる傾向がある。切断速度は被加工物などの種類によって相違するが、例えば、直径2インチの炭化ケイ素インゴットを切断する場合、上記遊離砥粒方式では切断速度はおおよそ0.05mm/分程度、切断体表面のうねりは20〜40μm程度であるのに対し、上記固定砥粒方式では切断速度を0.1mm/分程度に高めることができる反面、切断体表面のうねりは30〜50μm程度と大きくなることが知られている。また、炭化ケイ素よりも硬度の低いシリコンインゴットを切断する場合、上記遊離砥粒方式では切断速度はおおよそ0.3mm/分程度であるのに対し、上記固定砥粒方式では切断速度をおおよそ0.7mm/分程度にまで向上できると言われている。
上記遊離砥粒方式および固定砥粒方式に相当する技術として、例えば特許文献1〜3が挙げられる。具体的には、被加工物を切断する際にソーワイヤにかかる負荷を小さくし、ソーワイヤの断線を防止する技術が、例えば、特許文献1に提案されている。また、ソーワイヤを用いて切断された被加工物の厚みのバラツキを抑える技術が、例えば、特許文献2、3に提案されている。
上記特許文献1〜3には、鋼線からなるソーワイヤに砥粒を含むスラリーを吹き付けながら被加工物を切断する技術が開示されており、この技術は、上記遊離砥粒方式に相当している。一方、上記特許文献2には、鋼線の表面にめっき層を形成し、このめっき層に砥粒を固定したソーワイヤを用いて被加工物を切断する技術も開示されており、この技術は、上記固定砥粒方式に相当している。
一方、本出願人は、上記遊離砥粒方式に相当する技術として、特許文献4に、鋼線の表面に、砥粒を含有せず、且つ120℃での硬さが0.07GPa以上の樹脂皮膜が被覆されており、前記樹脂皮膜は、被加工物を切断するときに吹き付けられる砥粒が樹脂皮膜に食い込むことを抑制するように硬さを制御したソーワイヤを提案している。特許文献4の実施例には、被加工物として、炭化ケイ素より軟質の単結晶シリコンを切断するにあたり、平均粒径が5.6μmのダイヤモンド砥粒を含むスラリーを吹き付けながら、単結晶シリコンの切断速度を0.1〜0.3mm/分の範囲で変化させると共に、ソーワイヤの線速を500m/分とした例が開示されている。特許文献4に記載の樹脂被覆ソーワイヤを用いた場合は、鋼線からなるソーワイヤを用いた場合に比べ、切断後における被加工物の表面は、滑らかで表面粗さは小さくなる。具体的には、上記特許文献4には、単結晶シリコンの切断面における算術平均粗さRaを0.5μm以下に抑えられると記載されている。
特開平10−249699号公報 特開2008−229752号公報 特許第3692703号公報 特開2013−56411号公報
上記のとおり、特許文献4の実施例では被加工物としてシリコンを用いて、その効果を確認している。
近年、シリコンよりも硬度が高く加工性に乏しい炭化ケイ素、サファイア、窒化ガリウムなどの高硬度材料をソーワイヤで切断する技術が検討されており、主に切断速度の大きい固定砥粒方式が採用されている。しかし、切断体のうねりが大きくなるなど品質の低下が懸念される。そこで本出願人は、遊離砥粒方式を採用した上記特許文献4の樹脂被覆ソーワイヤを用いて、生産性向上のために樹脂被覆ソーワイヤの線速を高めて上記高硬度材料を切断することを試みた。その結果、切断体の算術平均粗さRaを0.5μm以下と小さくできるが、切断体表面にうねりが生じることが判明した。得られた切断体は、後の工程で研磨されてウエハとなる。切断体表面のうねりが大きくなると、研磨工程における研磨代が大きくなるため、一定の厚みのウエハを製造するには、切断体を厚くする必要があり、材料の歩留まりが低下し、コストが増大すると共に、生産性が低下する。
なお、上記特許文献4では120℃での硬さが硬い樹脂皮膜を有する樹脂被覆ソーワイヤを用いているが、上記の問題は、樹脂皮膜の硬さにかかわらず、樹脂皮膜を有するソーワイヤを用いたときにも同様に発生すると考えられる。
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、鋼線の表面に樹脂皮膜が被覆されている樹脂被覆ソーワイヤを用い、シリコンを除く被加工物(好ましくは、炭化ケイ素、サファイア、窒化ガリウムなどの高硬度材料)を切断するにあたり、生産性を向上させるために樹脂被覆ソーワイヤの線速を800m/分以上に高めても、切断途中で樹脂皮膜の磨滅および樹脂被覆ソーワイヤの断線が発生せず、切断した被加工物の算術平均粗さRaを小さくすると共に、うねりも小さくできる被加工物の切断方法を提供することにある。即ち、被加工物を切断して切断体を製造するときの生産性を犠牲にすることなく、切断体の品質を向上できる技術を提供することにある。
上記課題を解決することのできた本発明は、鋼線の表面に樹脂皮膜が被覆されている樹脂被覆ソーワイヤを走行させて、シリコンを除く被加工物を切断する方法であって、前記樹脂被覆ソーワイヤまたは前記被加工物の少なくとも一方を揺動させると共に、平均粒径が0μm超8μm以下のダイヤモンド砥粒を前記樹脂被覆ソーワイヤに吹き付け、前記樹脂被覆ソーワイヤの線速を800m/分以上とする点に要旨を有する。
前記ダイヤモンド砥粒の平均粒径は、0μm超5μm以下が好ましい。前記樹脂被覆ソーワイヤの線速は、1000m/分以上が好ましい。前記樹脂被覆ソーワイヤまたは前記被加工物の少なくとも一方を揺動させるとは、前記樹脂被覆ソーワイヤの法線のうち、前記被加工物の中心軸を通る法線の向きの振れ幅が0度超を意味する。前記振れ幅は、0度超7度以下が好ましい。前記樹脂皮膜は、120℃での硬さが0.07GPa以上が好ましい。前記樹脂は、ポリウレタン、ポリイミド、またはポリアミドイミドが好ましい。
本発明では、鋼線の表面に樹脂皮膜が被覆されている樹脂被覆ソーワイヤを走行させてシリコンを除く被加工物を切断するにあたり、前記樹脂被覆ソーワイヤまたは前記被加工物の少なくとも一方を揺動させると共に、平均粒径が0μm超8μm以下のダイヤモンド砥粒を前記樹脂被覆ソーワイヤに吹き付け、前記樹脂被覆ソーワイヤの線速を800m/分以上に制御している。その結果、鋼線の表面に被覆する樹脂皮膜の硬さを特段制御せず、また、被加工物の切断速度を、例えば炭化ケイ素インゴットの場合は0.1mm/分前後と高くして生産性の向上を狙っても、切断時における樹脂皮膜の磨滅を抑制でき、樹脂被覆ソーワイヤの断線を防止できるのみならず、切断した被加工物表面の算術平均粗さRaを小さくすると共に、うねりも小さくできる。
図1は、種々のソーワイヤを用いて被加工物を切断するときの様子を示す模式図である。 図2は、ソーマシンに備えられている台座に被加工物を固定し、走行する樹脂被覆ソーワイヤを揺動させつつ、被加工物と接触させて被加工物を切断するときの様子を示す模式図である。 図3は、走行する樹脂被覆ソーワイヤに対して、ソーマシンに備えられている台座に取り付けた被加工物を台座ごと揺動させながら接触させ、被加工物を切断するときの様子を示す模式図である。 図4の(a)と(b)は、切断体の断面を撮影した図面代用写真である。 図5は、切粉を走査型電子顕微鏡で撮影した図面代用写真である。 図6は、切粉を走査型電子顕微鏡で撮影した図面代用写真である。 図7は、顕微レーザーラマン分光分析装置で切粉を分析した結果を示す模式図である。
本発明は、前述した特許文献4の改良技術であり、鋼線の表面に樹脂皮膜が被覆されている樹脂被覆ソーワイヤ(但し、120℃での硬さは特に限定されない)を用い、遊離砥粒方式によって、シリコンを除く被加工物(好ましくは、炭化ケイ素、サファイア、窒化ガリウムなどの高硬度材料)を表面品質に優れ、しかも生産性良く切断する技術に関する。
本発明者らは、鋼線の表面に樹脂皮膜が被覆されている樹脂被覆ソーワイヤを走行させてシリコンを除く被加工物を切断するにあたり、樹脂被覆ソーワイヤの線速を800m/分以上と高くして生産性を向上させた場合であっても、樹脂皮膜の磨滅を防止すると共に、被加工物を切断して得られる切断体表面の算術平均粗さRaを小さく、しかもうねりも小さくするため、鋭意検討を重ねてきた。その結果、被加工物を切断する際に、上記樹脂被覆ソーワイヤの法線のうち、被加工物の中心軸を通る法線の向きが振れるように少なくとも樹脂被覆ソーワイヤまたは被加工物の一方を揺動させると共に、平均粒径が0μm超8μm以下のダイヤモンド砥粒を樹脂被覆ソーワイヤに吹き付け、前記樹脂被覆ソーワイヤの線速を800m/分以上とすれば、切断体の算術平均粗さRaおよびうねりを小さくできることを見出し、本発明を完成した。
即ち、上記遊離砥粒方式、固定砥粒方式にかかわらず、一般に、砥粒の平均粒径を小さくするほど、切断体表面の算術平均粗さRaおよびうねりは小さくなり、切断体の品質は向上する。しかし砥粒の平均粒径が小さくなるほど研削性が劣化するため、被加工物の切断速度は低下することが知られている。そのため従来では、被加工物の切断速度を高めるために、比較的大きな砥粒を用いる必要があった。その一方で、用いる砥粒を大きくすると、切断体表面の算術平均粗さRaおよびうねりが大きくなることも知られている。即ち、切断速度やソーワイヤの線速などで表される生産性と、Raやうねりなで表される切断体表面の品質とは、トレードオフの関係にあり、これらを両立させることは困難であると考えられていた。そのため従来では、被加工物の切断速度を高めて生産性を高めるために、切断体の品質は許容できる範囲で犠牲になっていた。
これに対し本発明では、鋼線の表面に樹脂が被覆されている樹脂被覆ソーワイヤを用いてシリコンを除く被加工物を切断するにあたり、樹脂被覆ソーワイヤまたは被加工物の少なくとも一方を揺動させ、且つ、平均粒径が0μm超8μm以下という比較的小さなダイヤモンド砥粒を用いているため、樹脂被覆ソーワイヤと被加工物を揺動させずに切断するときとは異なるメカニズムで被加工物が切断されることが実証された。その結果、固定砥粒方式を採用したときのように高い切断速度を保つことができ、切断速度を犠牲にすることなく、即ち生産性を犠牲にすることなく、ウエハの品質、即ち算術平均粗さRaおよびうねりを向上させることができる。こうした効果はソーワイヤの線速を高めることで一層顕著に得られる。以下、本発明を完成するに至った経緯について説明する。
樹脂被覆ソーワイヤを用いて被加工物を切断する際は、樹脂被覆ソーワイヤと被加工物との隙間に遊離砥粒を介在させるために、樹脂被覆ソーワイヤに砥粒を含むスラリーを吹き付ける。吹き付けられたスラリーに含まれる砥粒は、図1の(c)に示すように、遊離砥粒15として、樹脂被覆ソーワイヤ20と被加工物14との隙間に供給される。隙間に引き込まれた遊離砥粒15は、継続的に樹脂皮膜19に保持され、鉋をかけるように被加工物14を研削する。樹脂皮膜19に保持された遊離砥粒15は、被加工物の端部に到達すると、21で示すように樹脂皮膜から容易に脱離する。そのため、被加工物14を切断した後の樹脂被覆ソーワイヤの表面には、遊離砥粒15は殆ど付着していない。
このように、被加工物を切断する際は、被加工物と樹脂被覆ソーワイヤとの隙間に遊離砥粒が介在する必要があり、この遊離砥粒が多くなるほど、被加工物の研削が進むと考えられる。遊離砥粒方式において、ダイヤモンド砥粒を用いる場合の砥粒濃度は一般に30〜50質量%程度である。しかし、本発明者らが種々実験を繰り返したところ、本発明では鋼線の表面に樹脂皮膜が被膜されている樹脂被覆ソーワイヤを用いるため、樹脂皮膜の磨滅を防止するには、砥粒濃度を大幅に下げる必要があることが判明した。樹脂皮膜に抱え込まれる遊離砥粒の量には限界があり、上記隙間に存在するが、被加工物の研削に寄与しない遊離砥粒の量が増加すると、この余分な遊離砥粒によって樹脂皮膜が研削され、磨滅することが分かった。遊離砥粒の中で研削に寄与する砥粒は全体のごく一部であると考えられ、この有効な砥粒のみを被加工物と樹脂被膜ソーワイヤの間に引き込み、樹脂磨滅を招く余分な砥粒は引き込まない切断方式が有効であるとの考えに至った。
そこで、本発明者らは、上記樹脂被覆ソーワイヤを用いて被加工物を切断するにあたり、樹脂被覆ソーワイヤまたは被加工物の少なくとも一方を揺動させて切断すれば、研削に寄与する砥粒の引き込みを妨害することなく、樹脂磨滅を発生させる余分な砥粒の引き込みを防止できると考えた。またこの余分な砥粒数を減らすことにより切断速度を犠牲にすることなく切断後の切断体表面における算術平均粗さRaを小さくできると共に、うねりも低減できると考えた。うねりを低減することによって、後工程における研磨代を小さくできるため、材料の歩留まりが向上し、生産性が高められ、材料コストを低減できる。
そして、種々検討したところ、このとき用いる砥粒は、平均粒径が0μm超8μm以下のダイヤモンド砥粒とし、樹脂被覆ソーワイヤの線速は800m/分以上とする必要があることも明らかになった。
なお、本発明では、鋼線の表面に樹脂皮膜が被覆されているソーワイヤを用いればよく、好ましくは上記特許文献4のように、鋼線の表面に被覆する樹脂皮膜の硬さを制御すればよい。本発明では被加工物を切断するときに、樹脂被覆ソーワイヤまたは被加工物の少なくとも一方を揺動させているため、鋼線の表面に被覆する樹脂皮膜が、例えば、120℃での硬さが0.07GPaを下回る軟らかいものであっても、切断時に樹脂皮膜の磨耗は殆ど見られなかったからである。
樹脂皮膜の磨滅に関し、従来技術との相違点について更に詳しく説明すると、上述した遊離砥粒方式で用いている鋼線からなるソーワイヤでは、鋼線の表面に樹脂皮膜を被覆していないため、ソーワイヤと被加工物との隙間に遊離砥粒が多量に供給されても、樹脂皮膜が磨滅するという問題は発生しない。また、固定砥粒方式で用いている固定砥粒付きソーワイヤにおいても鋼線の表面に樹脂皮膜は被覆していないし、そもそも、被加工物の切断時に、砥粒を含むスラリーは吹き付けないため、樹脂皮膜が磨滅するという問題は発生しない。
また、本発明によれば、上記樹脂被覆ソーワイヤまたは上記被加工物の少なくとも一方を揺動させればよく、例えば、上記特許文献3に開示されているように、被加工物を切断する途中で揺動角を変化させる必要はない。即ち、インゴットの切断開始部分や切断終了部分においては、砥粒が切断溝に入り易く、インゴットの切断溝の溝幅が大きくなる傾向がある。そこで、上記特許文献3では、インゴットの切断開始部分や切断終了部分におけるインゴットの切断溝の溝幅が大きくならないように、ワイヤ列とインゴットとの接触長に応じて、ワイヤ列の揺動角を制御し、砥粒の入り込み量を調整している。これに対し、本発明では、ソーワイヤとして、鋼線の表面に樹脂皮膜が被覆されたものを用いているため、被加工物の切断開始部分や切断終了部分のみならず、切断途中においても、遊離砥粒は、樹脂皮膜に引き込まれて樹脂被覆ソーワイヤと被加工物との隙間に供給される。その結果、被加工物の切断ムラは抑制されるため、被加工物の切断途中で樹脂被覆ソーワイヤや、被加工物の揺動角度を変更する必要はない。よって、本発明によれば、ソーマシンの構成を単純化できる。
以下、本発明に係る被加工物の切断方法について、詳細に説明する。
本発明に係る被加工物の切断方法は、鋼線の表面に樹脂皮膜が被覆されているソーワイヤを走行させて、シリコンを除く被加工物を切断する工程を有しており、前記樹脂被覆ソーワイヤまたは前記被加工物の少なくとも一方を揺動させると共に、平均粒径が0μm超8μm以下のダイヤモンド砥粒を前記樹脂被覆ソーワイヤに吹き付け、前記樹脂被覆ソーワイヤの線速を800m/分以上とするところに特徴がある。
まず、本発明を特徴づける樹脂被覆ソーワイヤまたは被加工物の揺動について説明する。
本発明では、上記樹脂被覆ソーワイヤまたは上記被加工物の少なくとも一方を揺動させることが重要である。樹脂被覆ソーワイヤまたは被加工物の少なくとも一方を揺動させることによって、被加工物を切断する際に、樹脂被覆ソーワイヤと被加工物との間に被加工物の研削に寄与しない砥粒を引き込まないことが可能となる。その結果、被加工物の切断を促進でき、被加工物を切断した切断体表面の算術平均粗さRaを小さくでき、しかもうねりの発生も抑制できる。
上記樹脂被覆ソーワイヤまたは被加工物を揺動させるとは、樹脂被覆ソーワイヤの法線のうち、被加工物の中心軸を通る法線の向きの振れ幅を0度超とすることを意味する。即ち、樹脂被覆ソーワイヤを走行させて被加工物を切断する際に、樹脂被覆ソーワイヤも、被加工物も、揺動させない場合は、樹脂被覆ソーワイヤの法線のうち、被加工物の中心軸を通る法線の向きは常に一定となり、上記振れ幅は0度となる。これに対し、少なくとも樹脂被覆ソーワイヤまたは被加工物のいずれか一方を揺動させると、樹脂被覆ソーワイヤと被加工物の接点は変動するため、樹脂被覆ソーワイヤの法線のうち被加工物の中心軸を通る法線の向きも変化する。その結果、上記振れ幅は0度超となる。
上記振れ幅の下限は、例えば、好ましくは0.2度以上、より好ましくは0.3度以上、更に好ましくは0.4度以上である。
上記振れ幅は、最大値が7度以下であることが好ましい。本発明者らが種々実験を繰り返して検討したところ、上記振れ幅の最大値が7度を超えると、樹脂被覆ソーワイヤと被加工物との隙間に介在する遊離砥粒が過剰となり、被加工物の切断途中で樹脂皮膜が過剰に磨滅し、ベースワイヤが露出し、磨耗、損傷して樹脂被覆ソーワイヤの断線が発生しやすくなることが分かった。上記振れ幅の最大値は、より好ましくは3度以下であり、更に好ましくは2度以下である。
なお、ソーマシンの振動防止の観点からは、上記振れ幅は、0.2〜2度とすることが好ましい。
上記樹脂被覆ソーワイヤまたは被加工物の少なくとも一方を揺動させ、上記振れ幅を0度超に制御する方法としては、次の方法が挙げられる。
(1)ソーマシンに備えられている台座に被加工物を固定し、樹脂被覆ソーワイヤを揺動させつつ、被加工物と接触させ、このときの振れ幅を制御する方法。
(2)樹脂被覆ソーワイヤは揺動させずに、例えば、水平方向に走行させており、この樹脂被覆ソーワイヤに対して、台座に取り付けた被加工物を台座ごと揺動させながら接触させ、このときの振れ幅を制御する方法。
上記(1)、(2)について、図面を用いて具体的に説明する。
図2は、上記(1)の方法を説明するための模式図である。1は台座、2は被加工物、3は被加工物の中心軸、4は樹脂被覆ソーワイヤ、5a、5bは樹脂被覆ソーワイヤの法線のうち、上記中心軸3を通る法線の向き、θは振れ幅、を夫々示している。
図2では、台座1に被加工物2を固定し、樹脂被覆ソーワイヤ4を走行させつつ、振れ幅をθとして、上下方向に揺動させている。即ち、図2では、水平方向に走行している樹脂被覆ソーワイヤ4が、一点鎖線で示す4aの位置と、点線で示す4bの位置を往復するように、上下方向に揺動させている。
樹脂被覆ソーワイヤが、一点鎖線で示す4aの位置にあるときは、この樹脂被覆ソーワイヤ4aの法線のうち、上記中心軸3を通る法線の向きは5aとなる。一方、樹脂被覆ソーワイヤが、点線で示す4bの位置にあるときは、この樹脂被覆ソーワイヤ4bの法線のうち、上記中心軸3を通る法線の向きは5bとなる。図2においては、法線の向き5aと法線の向き5bがなす角度を振れ幅θとし、本発明では、この振れ幅θが0度超、好ましくは7度以下となるように、樹脂被覆ソーワイヤ4を揺動させればよい。上記振れ幅θは、4aの位置にあるときの樹脂被覆ソーワイヤと4bの位置にあるときの樹脂被覆ソーワイヤがなす角度に対応している。
図3は、上記(2)の方法を説明するための模式図である。上記図2と重複する部分には同じ符号を付した。図3の(a)において、6は台座、7はバネ、8はエアシリンダー、9は回転軸、を夫々示している。図3の(b)は、図3の(a)に示した法線の向き5aと法線の向き5bがなす角度を説明するための図である。
図3の(a)では、台座6に、バネ7とエアシリンダー8が、台座1を揺動させるための回転軸9を挟んで設けられており、エアシリンダー8を動作させることにより、台座1に固定された被加工物2は、回転軸9を中心として、左右方向に揺動させている。即ち、図3の(a)では、樹脂被覆ソーワイヤ4が水平方向に走行しており、この樹脂被覆ソーワイヤ4の走行方向に、被加工物2を、一点鎖線で示す2aの位置と、点線で示す2bの位置を往復するように、左右方向に揺動させている。
上記被加工物2が、一点鎖線で示す2aの位置にあるときは、樹脂被覆ソーワイヤ4の法線のうち、被加工物2aの中心軸3aを通る法線の向きは5aとなる。一方、上記被加工物2が、点線で示す2bの位置にあるときは、樹脂被覆ソーワイヤ4の法線のうち、被加工物2bの中心軸3bを通る法線の向きは5bとなる。
なお、図3の(a)では、被加工物2と台座1が、左右方向に揺動していることを一点鎖線と点線で示したが、バネ7とエアシリンダー8は、台座1と台座6との隙間の幅に合わせて伸縮している。また、図3の(a)では、台座1と台座6とを接続すると共に、台座6を揺動させる手段として、バネ7とエアシリンダー8を用いた例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、バネ7の代わりに、エアシリンダー8とは別のエアシリンダーを用いて台座6を揺動させても構わない。また、エアシリンダー8の代わりに、油圧式のシリンダーなどを用いても構わない。
図3の(a)、(b)においては、法線の向き5aと法線の向き5bがなす角度を振れ幅θとし、本発明では、この振れ幅θが0度超、好ましくは7度以下となるように、被加工物2を揺動させればよい。上記振れ幅θは、被加工物が2aの位置にあるときの中心軸3aと回転軸9の中心とを結ぶ直線と、被加工物が2bの位置にあるときの中心軸3bと回転軸9の中心とを結ぶ直線との成す角度に対応している。
なお、本発明では、上記振れ幅θが所定の範囲となるように、例えば、上記(1)、(2)を併用し、樹脂被覆ソーワイヤと、被加工物を固定した台座の両方を揺動させても構わない。
次に、本発明で用いるダイヤモンド砥粒について説明する。
上記樹脂被覆ソーワイヤで被加工物を切断する際は、該樹脂被覆ソーワイヤに砥粒を吹き付けながら被加工物を切断する。この砥粒としては、ダイヤモンド砥粒を用いる。本発明では、シリコンを除く被加工物を対象としており、好ましくは、炭化ケイ素などの硬質材料を対象とするため、使用される砥粒にも高い硬度が必要となるからである。
上記ダイヤモンド砥粒の平均粒径は0μm超8μm以下とすることが重要である。上述したように、被加工物の切断時に、樹脂被覆ソーワイヤまたは被加工物の少なくとも一方を揺動させれば、粒径が比較的小さいダイヤモンド砥粒を用いても、後述するように樹脂被覆ソーワイヤの線速を800m/分以上に高めることによって、被加工物を切断できる。このとき粒径が比較的小さい砥粒を用いているため、切断体表面の算術平均粗さRaを小さくでき、うねりも低減できる。本発明では、できるだけ小さいダイヤモンド砥粒を用いることが推奨され、上記ダイヤモンド砥粒の平均粒径は、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下である。
上記ダイヤモンド砥粒の平均粒径は、例えば、日機装株式会社製のマイクロトラックHRA(装置名)で測定できる。
上記ダイヤモンド砥粒としては、例えば、住石マテリアルズ株式会社製の「SCMファインダイヤ(商品名)」を用いることができる。ダイヤモンド砥粒としては、多結晶タイプまたは単結晶タイプを用いることができるが、切削時に破壊され難いため、単結晶タイプを用いることが好ましい。
上記ダイヤモンド砥粒の吹き付けには、通常、ダイヤモンド砥粒を加工液に分散させてスラリーとしたものを用いる。
上記加工液としては、水溶性の加工液または油性の加工液を用いることができる。上記水溶性の加工液としては、例えば、ユシロ化学工業株式会社製のエチレングリコール系加工液「H4(商品名)」、三洋化成工業株式会社製のプロピレングリコール系加工液「ハイスタットTMD(商品名)」などを用いることができる。上記油性の加工液としては、例えば、ユシロ化学工業株式会社「ユシロンオイル(商品名)」などを用いることができる。
上記スラリーにおけるダイヤモンド砥粒の濃度は、例えば、0.5〜20質量%のものを用いることができる。砥粒の濃度を低くすれば砥粒の量を減らすことができるが、砥粒の濃度を一定に保つには0.5質量%程度が限界であり、これを超えて砥粒の濃度を低くすると砥粒濃度を一定に保つことが難しくなる。上記ダイヤモンド砥粒の濃度は、好ましくは1〜10質量%、より好ましくは1〜6質量%である。
上記スラリーの温度は、例えば、10〜30℃であればよい。上記スラリーの温度の好ましい下限は20℃であり、好ましい上限は25℃である。
次に、走行させる樹脂被覆ソーワイヤの線速について説明する。
本発明では、上記樹脂被覆ソーワイヤの線速を800m/分以上として走行させる必要がある。線速が800m/分を下回ると、樹脂被覆ソーワイヤまたは被加工物の少なくとも一方を揺動させ、所定の大きさのダイヤモンド砥粒を吹き付けても、研削性が不足し、切断体表面にうねりが発生する。従って、本発明では、上記樹脂被覆ソーワイヤの線速は、800m/分以上とする。上記線速は、好ましくは1000m/分以上、より好ましくは1300m/分以上である。線速の上限は、ソーマシンの能力によるが、例えば、2000m/分以下である。上記線速は、平均線速を意味する。
一方、被加工物の切断速度は、0.1〜0.35mm/分とすればよい。
以上、本発明を特徴付ける樹脂被覆ソーワイヤまたは被加工物の揺動、ダイヤモンド砥粒、樹脂被覆ソーワイヤの線速について説明した。
本発明で用いる樹脂被覆ソーワイヤは、鋼線の表面に樹脂皮膜が被覆されたものであり、おおむね上記特許文献4を参照できる。
即ち、ベースワイヤとなる上記鋼線としては、例えば、引張強度が3000MPa以上の鋼線を用いることが好ましい。引張強度が3000MPa以上の鋼線としては、例えば、Cを0.5〜1.2質量%含有する高炭素鋼線を用いることができる。高炭素鋼線としては、例えば、JIS G3502に規定されているピアノ線材を用いることができる。
上記鋼線の直径は、切断時に付与される荷重に耐えられる範囲でできるだけ小さくするのがよく、例えば、好ましくは130μm以下、より好ましくは110μm以下、更に好ましくは100μm以下である。鋼線の直径を小さくすることによって、切断代を小さくでき、切断体の生産性を向上できる。但し、上記鋼線の直径が小さくなる過ぎると、断線の危険性が増すため、鋼線の直径は、例えば、50μm以上とすることが望ましい。
上記樹脂皮膜を構成する樹脂としては、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を用いることができる。こうした樹脂のなかでもフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、イミド系樹脂、ホルマールなどの熱硬化性樹脂、塩化ビニル、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、ポリエステル、ポリアミドイミド、アミド系樹脂などの熱可塑性樹脂を好適に用いることができる。特に、ポリウレタン、ポリイミド、またはポリアミドイミドは、樹脂皮膜を被覆するときの成形性と、高温での硬さの保持性に優れているため好適に用いることができる。これらのなかで最も好ましくはポリアミドイミドである。
上記樹脂皮膜は、上記鋼線の表面に、例えば市販されているワニスを塗布し、加熱することによって形成できる。ワニスとは、樹脂を乾性油や有機溶剤などに溶解した塗料である。
上記ワニスは、数回〜数十回に分けて繰返し塗布しても良く、これにより、樹脂皮膜の厚みを調節できる。
上記ワニスとしては、例えば、東特塗料株式会社や宇部興産株式会社などから市販されているエナメル線用ワニスや、京セラケミカル株式会社から市販されている電線用ワニスなどを使用できる。
上記エナメル線用ワニスとしては、例えば次のものを使用できる。
(a)ポリウレタンワニス(「TPU F1」、「TPU F2−NC」、「TPU F2−NCA」、「TPU 6200」、「TPU 5100」、「TPU 5200」、「TPU 5700」、「TPU K5 132」、「TPU 3000K」、「TPU 3000EA」など;東特塗料株式会社製の商品)
(b)ポリアミドイミドワニス(「Neoheat AI−00C」など;東特塗料株式会社製の商品)
(c)ポリイミドワニス(「U−ワニス」など;宇部興産株式会社製の商品)
(d)ポリエステルワニス(「LITON 2100S」、「LITON 2100P」、「LITON 3100F」、「LITON 3200BF」、「LITON 3300」、「LITON 3300KF」、「LITON 3500SLD」、「Neoheat 8200K2」など;東特塗料株式会社製の商品)
(e)ポリエステルイミドワニス(「Neoheat 8600A」、「Neoheat 8600AY」、「Neoheat 8600」、「Neoheat 8600H3」、「Neoheat 8625」、「Neoheat 8600E2」など;東特塗料株式会社製の商品)
上記電線用ワニスとしては、例えば、耐熱ウレタン銅線用ワニス(「TVE5160−27」など、エポキシ変性ホルマール樹脂)、ホルマール銅線用ワニス(「TVE5225A」など、ポリビニルホルマール樹脂)、耐熱ホルマール銅線用ワニス(「TVE5230−27」など、エポキシ変性ホルマール樹脂)、ポリエステル銅線用ワニス(「TVE5350シリーズ」、ポリエステル樹脂)など(いずれも京セラケミカル株式会社製の商品。)を使用できる。
上記樹脂皮膜は、120℃で測定したときの硬さが0.07GPa以上が好ましい。上記硬さを調整することによって、樹脂皮膜表面に食い込む砥粒の個数を20個/(50μm×200μm)以下に抑えることができ、切断体に形成される加工変質層の深さを浅く、また切断体表面における算術平均粗さRaを0.5μm以下にできる。上記硬さは、より好ましくは0.1GPa以上である。しかし、樹脂皮膜を硬くし過ぎると、樹脂皮膜が被加工物切断時の切断面に密着し難くなり、樹脂被覆ソーワイヤと被加工物の切断面との間に砥粒が引き込まれ、切断面に加工変質層が深く形成されやすくなる。従って、上記硬さは、例えば、0.5GPa以下とすることが好ましい。上記硬さは、より好ましくは0.4GPa以下である。
上記樹脂皮膜の硬さは、例えば、ナノインデンテーション法で測定できる。
上記樹脂皮膜の膜厚は、例えば、好ましくは2〜15μmとすればよい。上記樹脂皮膜が薄過ぎると、鋼線の表面に樹脂皮膜を均一に形成することが困難となる。また、上記樹脂皮膜が薄過ぎると切断初期の段階で樹脂皮膜が磨滅するため、素線となる鋼線が露出し、素線が磨耗して断線し易くなる。従って、上記樹脂皮膜の膜厚は、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上とする。しかし、上記樹脂皮膜が厚過ぎると、樹脂被覆ソーワイヤの直径が大きくなるため、切断代が大きくなり、切断体の生産性が劣化する。また、樹脂被覆ソーワイヤ全体に占める樹脂の割合が大きくなり過ぎるため、樹脂被覆ソーワイヤ全体の強度が低下する。そのため、切断体の生産性を上げようとしてワイヤの線速度を大きくすると断線し易くなる傾向がある。従って、上記樹脂皮膜の膜厚は、好ましくは15μm以下、より好ましくは13μm以下、特に好ましくは10μm以下とする。
上記樹脂被覆ソーワイヤの直径は特に限定されないが、通常、100〜300μm程度であり、好ましくは100〜150μmである。
上記樹脂被覆ソーワイヤで切断対象とする被加工物は、シリコン以外のものであれば特に限定されない。上記被加工物は、例えば、セラミックス、ガラス、酸化物、または窒化物などが挙げられる。上記セラミックスとしては、例えば、炭化ケイ素を含むものであってもよく、単結晶炭化ケイ素であってもよい。上記酸化物としては、Alの酸化物であるサファイアが例示できる。上記窒化物としては、シリコンの窒化物、ガリウムの窒化物が例示できる。好ましいのは、炭化ケイ素、サファイア、窒化ガリウムなどの高硬度材料である。
次に、上記樹脂被覆ソーワイヤを用いて被加工物を切断して切断体を製造するときの条件について説明する。
樹脂被覆ソーワイヤにかける張力(N)は、上記特許文献4に開示しているように、樹脂皮膜を被覆する前の鋼線である素線の抗張力に基づいて算出される下記式(1)の範囲を満足するように設定することが好ましい。
抗張力×0.5−5.0≦張力≦抗張力×0.7−5.0 ・・・(1)
上記樹脂被覆ソーワイヤまたは上記台座に取り付けた被加工物を台座ごと揺動させるときの揺動速度は特に限定されないが、例えば、140〜200度/分とすることが好ましい。上記揺動速度は、より好ましくは160〜180度/分である。
上記被加工物の切断代は、樹脂被覆ソーワイヤの直径に対して、好ましくは、おおよそ1〜1.10倍、より好ましくは1〜1.05倍、更に好ましくは1〜1.04倍、更により好ましくは1〜1.03倍に抑制されている。これにより切断体の生産性を向上できる。
上記樹脂被覆ソーワイヤで被加工物を切断して得られる切断体は、表面性状に極めて優れたものである。即ち、上記切断体表面の算術平均粗さRaは、好ましくは0.5μm以下、より好ましくは0.4μm以下、更に好ましくは0.3μm以下に制御されている。また、上記切断体表面のうねりは、好ましくは30μm以下、より好ましくは25μm以下、更に好ましくは20μm以下、特に好ましくは15μm以下に制御されている。
上記算術平均粗さRaおよびうねりは、JIS B0601(1994年)に規定されており、切断体表面の算術平均粗さRaおよびうねりは、例えば、株式会社ミツトヨ製「CS−3200(装置名)」を用いて測定できる。測定長さは、少なくとも20mmとすればよい。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限を受けるものではなく、前記および後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
鋼線の表面に樹脂皮膜が被覆されている樹脂被覆ソーワイヤを用い、この樹脂被覆ソーワイヤが取り付けられたソーマシンにより被加工物を切断した。上記ソーマシンとしては、タカトリ製の「NWS21」を用いた。
上記樹脂被覆ソーワイヤの製造手順は、次の通りである。
まず、JIS G3502に規定される「SWRS 82A」に相当する線材を、直径φ100μmに引き抜き加工して鋼線を製造した後、脱脂処理した。脱脂処理後の鋼線の引張強度は、3000MPa以上であった。
次に、上記鋼線の表面にポリアミドイミドワニスを、膜厚が3.0〜10.0μmとなるように塗布し、これを300℃に加熱して硬化させて樹脂被覆ソーワイヤを製造した。上記ワニスとしては、東特塗料株式会社製のエナメル線用ワニス「Neoheat AI−00C(商品名)」を用いた。得られた樹脂被覆ソーワイヤの直径はφ110μmであった。下記表1に、樹脂皮膜の膜厚を示す。
得られた樹脂被覆ソーワイヤについて、樹脂皮膜の硬さをナノインデンテーション法で測定した。硬さの測定は、室温(23℃)および120℃の両方で行った。具体的な測定条件は次の通りである。
《室温および120℃で共通の測定条件》
測定装置 :Agilent Technologies製「Nano Indenter XP/DCM」
解析ソフト:Agilent Technologies製「Test Works 4」
インデンターヘッド:XP
歪速度 :0.05/秒
測定点間隔:30μm
標準試料 :フューズドシリカ
《室温での測定条件》
測定モード :連続剛性測定法(Continuous Stiffness Measurment;CSM)
励起振動周波数:45Hz
励起振動振幅 :2nm
押込深さ :450nm
測定点 :15点
測定環境 :空調装置内で室温23℃
室温での硬さは、樹脂皮膜の最表面からの押し込み深さが450nmの位置において測定した。15点測定した結果を平均したところ、硬さは0.31GPaであった。なお、硬さの測定に当たっては、下記事項を基本として行なうが、本実施例では、このような異常値はなかった。
測定結果のうち、平均値に対して3倍以上または1/3以下となる異常値があった場合はこれを除去し、新たに測定した結果を加えて測定点の合計が15点となるように調整する。
《120℃での測定条件》
測定モード:負荷除去測定法
押込深さ :450nm
測定点 :10点
測定環境 :抵抗加熱ヒータでサンプルトレイを120℃に保持
120℃での硬さは、樹脂皮膜の最表面からの押し込み深さが450nmの位置において測定した。即ち、サンプルを加熱しながら硬さを測定する場合には、室温で硬さを測定するときのように連続剛性測定法を採用できないため、測定位置が、最表面からの押込み深さが450nm位置となるように荷重を調整してこの位置における硬さを測定した。加熱のために、上記樹脂被覆ソーワイヤをセラミック系接着剤で金属製のナノインデンテーション用サンプルトレイに貼り付け、抵抗加熱ヒータでサンプルトレイを加熱し、120℃に保持しながら硬さを測定した。
10点測定した結果を平均したところ、硬さは0.28GPaであった。なお、硬さの測定に当たっては、下記事項を基本として行なうが、本実施例では、このような異常値はなかった。
測定結果のうち、平均値に対して3倍以上または1/3以下となる異常値があった場合はこれを除去し、新たに測定した結果を加えて測定点の合計が10点となるように調整する。
上記被加工物としては、炭化ケイ素の単結晶インゴットを用いた。大きさは、φ2インチの円柱状であった。
上記被加工物は、図2の模式図に基づいて切断した。即ち、上記被加工物2の下方に樹脂被覆ソーワイヤ4を這わせ、該被加工物2と樹脂被覆ソーワイヤ4とを当接させて被加工物2の切断を行った。このとき、樹脂被覆ソーワイヤ4には、ダイヤモンド砥粒を加工油に懸濁させたスラリーを吹き付けた。上記スラリーとしては、住石マテリアルズ株式会社製の「SCMファインダイヤ(商品名)」を、ユシロ化学工業株式会社製の「エチレングリコール系加工液H4(商品名)」に懸濁させたものを用いた。上記「SCMファインダイヤ(商品名)」は、ダイヤモンド砥粒である。ダイヤモンド砥粒の平均粒径を下記表1に示す。
上記被加工物2の切断は、切断速度を0.1mm/分とし、樹脂被覆ソーワイヤ4の線速を500〜1300m/分とした。下記表1に平均線速を示す。
また、No.2〜16では、上記被加工物2を切断する際は、樹脂被覆ソーワイヤ4を揺動させた。樹脂被覆ソーワイヤ4の揺動速度は、170度/分とした。樹脂被覆ソーワイヤ4の法線のうち、被加工物2の中心軸3を通る法線の向きの振れ幅の最大値を下記表1に示す。
また、比較対象として、上記樹脂被覆ソーワイヤ4を揺動させずに、該被加工物2を切断した結果を下記表1のNo.1に示す。No.1の上記振れ幅は0度である。
上記被加工物2を切断した後、樹脂被覆ソーワイヤの表面を目視観察および光学顕微鏡観察し、樹脂皮膜の磨滅の有無を調べた。樹脂皮膜が磨滅し、目視観察にて樹脂皮膜の少なくとも一部が消失しているか、光学顕微鏡観察にて鋼線の少なくとも一部が露出した場合を「磨滅有り」と評価した。樹脂皮膜が磨滅せず、鋼線の露出が認められなかった場合を、「磨滅無し」と評価した。評価結果を下記表1に示す。
また、樹脂被覆ソーワイヤ4を走行させて被加工物2を切断したときに、樹脂被覆ソーワイヤの断線の有無を調べた。結果を下記表1に示す。
次に、上記被加工物2を切断した後、樹脂皮膜の磨滅が認められなかったNo.1〜5、9〜16については、被加工物2を切断して得られた切断体表面の算術平均粗さRaとうねりを測定した。切断体表面の算術平均粗さRaとうねりの測定は、JIS B0601(1994年)に基づき、ソーマークと呼ばれる研削痕と直角方向である切断方向にて行った。切断体表面の算術平均粗さRaとうねりの測定には、株式会社ミツトヨ製の「CS−3200(装置名)」を用い、測定長さは、いずれも25mmとした。測定結果を下記表1に示す。上記算術平均粗さRaは、0.5μm以下の場合を合格と評価し、0.5μmを超える場合を不合格と評価した。上記うねりは、30μm以下の場合を合格と評価し、30μmを超える場合を不合格と評価した。なお、下記表1において、「−」は、測定していないことを意味している。
次に、下記表1に示すNo.1とNo.3については、切断体の表面性状を観察するために、切断体の表面にスパッタリング法にて保護膜として炭素皮膜を形成し、断面を露出させて透過型電子顕微鏡で観察した。No.1の断面を撮影した図面代用写真を図4の(a)に示し、No.3の断面を撮影した図面代用写真を図4の(b)に示す。図4において、22は保護膜、23は転位、24は回復層をそれぞれ示している。
下記表1および図4に基づいて次のように考察できる。
No.2〜5、9〜12、14〜16は、本発明で規定する要件を満足する例である。走行する樹脂被覆ソーワイヤを揺動させると共に、平均粒径が0μm超8μm以下のダイヤモンド砥粒を樹脂被覆ソーワイヤに吹き付け、樹脂被覆ソーワイヤの線速を800m/分以上とした結果、樹脂皮膜の磨滅は認められず、被加工物の切断時に樹脂被覆ソーワイヤの断線も発生しなかった。また、切断して得られた切断体は、表面の算術平均粗さRaが小さく、しかもうねりも小さく、高品質であった。
詳細には、No.2〜5は、ダイヤモンド砥粒の平均粒径を3.0μm、樹脂被覆ソーワイヤの線速を1000m/分に固定し、樹脂被覆ソーワイヤの振れ幅を変化させた例である。No.2〜5における切断体表面の算術平均粗さRaおよびうねりは殆ど変化せず、ほぼ一定の値となった。これは、上記振れ幅の最大値を本発明で推奨する上限値まで大きくし、被加工物と樹脂被覆ソーワイヤとの隙間に引き込む砥粒の数を多くしても、被加工物の切断に寄与する砥粒の数は実質的に変動しなかったためと考えられる。
No.9〜12は、樹脂被覆ソーワイヤの振れ幅を1度、樹脂被覆ソーワイヤの線速を1000m/分に固定し、ダイヤモンド砥粒の平均粒径を変化させた例である。これらの結果から明らかなように、ダイヤモンド砥粒の平均粒径を小さくするほど、切断体表面の算術平均粗さRaおよびうねりは小さくなることが分かった。特に、用いるダイヤモンド砥粒の平均粒径を1.8μmとすることにより、切断体表面の算術平均粗さRaを0.17μm、うねりを13μmに低減できる。
No.14〜16は、樹脂被覆ソーワイヤの振れ幅を1度、ダイヤモンド砥粒の平均粒径を1.8μmに固定し、樹脂被覆ソーワイヤの線速を変化させた例である。これらの結果から明らかなように、樹脂被覆ソーワイヤの線速を大きくするほど、切断体表面の算術平均粗さRaおよびうねりは小さくなることが分かった。特に、樹脂被覆ソーワイヤの線速を1300m/分とすることにより、切断体表面の算術平均粗さRaが0.11μm、うねりが10μmという従来では決して得られなかった画期的に良好な品質の切断体が得られた。
前述したとおり、本発明で規定する要件を満足するNo.2〜5、9〜12、14〜16では、いずれも被加工物の切断速度が0.1mm/分と一定である。一般的に砥粒の粒径が小さくなるほど研削性は劣化し、切断速度が低下することが常識であるが、本発明では用いる砥粒の粒径を小さくしても高い切断速度を維持しており、しかも切断体表面の算術平均粗さRaおよびうねりを大幅に改善できている。従って本発明によれば、用いる砥粒の粒径を小さくしても被加工物の研削性を向上できるという常識外れの効果が得られる。
これに対し、No.1、8、13は、本発明で規定する要件を満足しない例である。
これらのうち、No.1は、樹脂被覆ソーワイヤ4を揺動させずに切断した例であり、上記振れ幅は0度である。下記表1に示すように、No.1では、切断後においても樹脂皮膜の磨滅は観察されず、被加工物の切断時に樹脂被覆ソーワイヤの断線も発生せず、切断体表面は、算術平均粗さRaが小さく0.5μm以下となった。しかし、切断体表面には、大きなうねりが認められた。
No.8は、平均粒径が本発明で規定する範囲を超えるダイヤモンド砥粒を用いた例であり、上記被加工物を切断することにより上記樹脂皮膜の磨滅が認められた。
No.13は、樹脂被覆ソーワイヤの線速が本発明で規定する範囲を下回る例であり、切断体表面にうねりが認められた。
No.6、7は、参考例であり、樹脂被覆ソーワイヤ4を過剰に揺動させた例である。これらのうち、No.6は、上記振れ幅の最大値を、本発明で推奨する範囲を超えて10.0度とした。その結果、上記被加工物を切断しても樹脂被覆ソーワイヤの断線は見られなかったが、切断後の樹脂被覆ソーワイヤ表面には樹脂皮膜の磨滅が観察された。No.7は、上記振れ幅の最大値を、No.6の2倍の20.0度とした。その結果、被加工物の切断途中で、樹脂被覆ソーワイヤの断線が認められた。また、断線後の樹脂被覆ソーワイヤ表面に樹脂皮膜の磨滅が観察された。
図4の(a)によれば、樹脂被覆ソーワイヤ4を揺動させず、上記振れ幅を0度として被加工物を切断した場合は、切断時に導入された転位の一部が回復し、回復層を形成していることが分かる。即ち、回復層は、切断時の温度上昇によって形成されたもので、揺動させずに振れ幅を0度として切断した場合には切断性が不充分で、回復層が形成される程度の温度上昇はあったものの以下に説明する酸化までは至らず切断性が不充分であったと考えられる。この切断性が不充分であったことが、切断体表面におけるうねりを大きくした原因であると考えられる。
これに対し、図4の(b)に示すように、樹脂被覆ソーワイヤ4を揺動させつつ被加工物を切断した場合は、切断体表面に回復層は殆ど観察されなかった。また、上記振れ幅を0度として切断した上記図4の(a)と比較すると、転位の深さも半分以下となっており、樹脂被覆ソーワイヤの揺動により切断性が向上したことが分かる。その結果、切断体表面のうねりを小さくできたと考えられる。
次に、本発明者らは、樹脂被覆ソーワイヤの揺動の有無と切断体表面に形成される回復層との関係について調べるために、上記被加工物を切断したときに発生する切粉の形状に着目し、切粉を走査型電子顕微鏡で観察した。具体的には、下記表1に示すNo.1とNo.3について、上記被加工物を切断したときに発生した切粉を走査型電子顕微鏡で観察した。No.1で発生した切粉を撮影した図面代用写真を図5に示し、No.3で発生した切粉を撮影した図面代用写真を図6に示す。図5および図6において31はダイヤモンド砥粒を示している。
図5に示すように、樹脂被覆ソーワイヤを揺動させずに被加工物を切断した場合に発生する切粉32は、バルキーな粒状になっていた。これに対し、図6に示すように、樹脂被覆ソーワイヤを揺動させて被加工物を切断した場合に発生する切粉33は、細い糸状でカールしていた。
そこで、No.3で発生した切粉の形状が細い糸状でカールしたものになった原因を調べるために、この切粉の顕微ラマン分光分析を行なった。顕微ラマン分光分析には、堀場製作所製の顕微レーザーラマン分光分析装置「LabRAM HR−800」を用いた。分析条件は次の通りである。分析結果を図7に示す。図7において、矢印AはSi−O結合の存在を示すピーク位置、矢印BはSi−C結合の存在を示すピーク位置をそれぞれ示している。
《分析条件》
レーザー波長 :514.5nm
レーザーパワー :0.2mW
レーザー照射範囲:約1μm
露光時間 :120秒
積算回数 :8回
回折格子 :600gr/mm
共焦点ホール径 :100μm
図7から明らかなように、No.3では、単結晶の炭化ケイ素を切断しているにもかかわらず、この単結晶炭化ケイ素を切断して発生した切粉からは、Si−O結合の存在を示すピークは認められるものの、Si−C結合の存在を示すピークは観察されなかった。この結果から明らかなように、切粉は炭化ケイ素ではなく、酸化シリコンであることが明らかとなった。樹脂被覆ソーワイヤを揺動させることによって、ダイヤモンド砥粒の切先で炭化ケイ素を研削する際に大きな温度上昇があり、このため炭化ケイ素が酸化してSiCOとなり、最終的にSiO2とCO2に変化したのではないかと考えられる。
即ち、上記図4の(a)に示すように、樹脂被覆ソーワイヤを揺動させずに被加工物を切断した場合は、切断体表面に回復層が認められ、切断時に大きな温度上昇があったと考えられる。この切断時に発生する切粉は、上記図5に示すように、バルキーな粒状であり、被加工物である単結晶炭化シリコンが削られたため、このような形状になったと考えられる。この場合、切断体表面のうねりは大きくなった。
これに対し、上記図6に示すように、樹脂被覆ソーワイヤを揺動させつつ被加工物を切断した場合に発生する切粉は、細い糸状でカールした形状であった。この切粉は、図7に示すように酸化物であった。これは、樹脂被覆ソーワイヤを揺動させずに被加工物を切断したときよりも、揺動させて被加工物を切断したときの方が、更に温度が上昇したことを示しており、この更なる温度上昇により被加工物の表面が酸化し、この酸化膜を削ることによって見かけ上、被加工物の切断が進んでいると考えられる。即ち、本発明に係る切断方法によれば、被加工物の研削と酸化が同時に進行することによって、スムースな切断が実現しており、結果として切断速度を低下させなくても、切断体表面の算術平均粗さRaおよびうねりが大幅に改善されたと考えられる。
樹脂被覆ソーワイヤを揺動させることによって切断時の温度が一段と上昇する理由は、平均粒径が小さいダイヤモンド砥粒を用いると共に、樹脂被覆ソーワイヤの線速を高めているからと考えられる。即ち、下記表1では、ダイヤモンド砥粒の濃度を5質量%に固定しているため、No.9〜12に示すように、用いるダイヤモンド砥粒の平均粒径が小さくなるほど、スラリーに含まれるダイヤモンド砥粒の数は多くなる。そのため、平均粒径が小さいダイヤモンド砥粒を用いるほど、ダイヤモンド砥粒の切先の数が多くなり、切断時の温度が一段と高くなると考えられる。また、樹脂被覆ソーワイヤの線速を高めることによっても切断時の温度が一段と高くなっている。
以上の通り、走行する樹脂被覆ソーワイヤを揺動させると共に、平均粒径が0μm超8μm以下のダイヤモンド砥粒を樹脂被覆ソーワイヤに吹き付け、樹脂被覆ソーワイヤの線速を800m/分以上とすることによって、研削と酸化が同時に進行し、結果として切断速度を犠牲にすることなく従来になく品質が良好な切断体を得ることができる。
1、1a、1b 台座
2、2a、2b 被加工物
3、3a、3b 中心軸
4、4a、4b 樹脂被覆ソーワイヤ
5a、5b 被加工物の中心軸を通る法線の向き
6 台座
7 バネ
8 エアシリンダー
9 回転軸
11 鋼線
12 鋼線からなるソーワイヤ
13 ソーワイヤの走行方向
14 被加工物
15 遊離砥粒
16 メッキ層
17 固定砥粒
18 固定砥粒付きソーワイヤ
19 樹脂皮膜
20 樹脂被覆ソーワイヤ
21 脱落した遊離砥粒
22 保護膜
23 転位
24 回復層
31 ダイヤモンド砥粒
32 切粉
33 切粉
θ 振れ幅

Claims (7)

  1. 鋼線の表面に樹脂皮膜が被覆されている樹脂被覆ソーワイヤを走行させて、シリコンを除く被加工物を切断する方法であって、
    前記樹脂被覆ソーワイヤまたは前記被加工物の少なくとも一方を揺動させると共に、
    平均粒径が0μm超8μm以下のダイヤモンド砥粒を前記樹脂被覆ソーワイヤに吹き付け、
    前記樹脂被覆ソーワイヤの線速を800m/分以上とすることを特徴とする被加工物の切断方法。
  2. 前記ダイヤモンド砥粒の平均粒径が0μm超5μm以下である請求項1に記載の切断方法。
  3. 前記樹脂被覆ソーワイヤの線速を1000m/分以上とする請求項1または2に記載の切断方法。
  4. 前記樹脂被覆ソーワイヤの法線のうち、前記被加工物の中心軸を通る法線の向きの振れ幅を0度超とする請求項1〜3のいずれかに記載の切断方法。
  5. 前記振れ幅を0度超7度以下とする請求項4に記載の切断方法。
  6. 前記樹脂皮膜は、120℃での硬さが0.07GPa以上である請求項1〜5のいずれかに記載の切断方法。
  7. 前記樹脂は、ポリウレタン、ポリイミド、またはポリアミドイミドである請求項1〜6のいずれかに記載の切断方法。
JP2015002678A 2014-01-09 2015-01-08 被加工物の切断方法 Pending JP2015147293A (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2015002678A JP2015147293A (ja) 2014-01-09 2015-01-08 被加工物の切断方法

Applications Claiming Priority (3)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2014002740 2014-01-09
JP2014002740 2014-01-09
JP2015002678A JP2015147293A (ja) 2014-01-09 2015-01-08 被加工物の切断方法

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JP2015147293A true JP2015147293A (ja) 2015-08-20

Family

ID=53523999

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2015002678A Pending JP2015147293A (ja) 2014-01-09 2015-01-08 被加工物の切断方法

Country Status (4)

Country Link
US (1) US20160325466A1 (ja)
JP (1) JP2015147293A (ja)
CN (1) CN105873723A (ja)
WO (1) WO2015105175A1 (ja)

Families Citing this family (5)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP6819621B2 (ja) * 2018-01-25 2021-01-27 信越半導体株式会社 ワークの切断方法及びワイヤソー
CN110871505B (zh) * 2018-08-30 2022-02-08 洛阳阿特斯光伏科技有限公司 一种晶体硅棒的复合切割方法
JP6969579B2 (ja) * 2019-01-15 2021-11-24 信越半導体株式会社 ワークの切断方法及びワイヤソー
TWI786740B (zh) * 2020-07-27 2022-12-11 環球晶圓股份有限公司 晶碇切割裝置及晶碇切割方法
CN112428463B (zh) * 2020-11-19 2022-01-07 上海中欣晶圆半导体科技有限公司 一种晶棒线切割加工过程中断线复旧的方法

Citations (6)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPH10264143A (ja) * 1997-03-27 1998-10-06 Mitsubishi Materials Shilicon Corp ワイヤソーおよびインゴット切断方法
JPH10296719A (ja) * 1997-04-25 1998-11-10 Mitsubishi Materials Shilicon Corp ワイヤソーおよびそのインゴット切断方法
JP2000117726A (ja) * 1998-10-20 2000-04-25 Toray Eng Co Ltd ワイヤソー
JP2010087486A (ja) * 2008-09-08 2010-04-15 Sumitomo Electric Ind Ltd 基板、エピタキシャル層付基板およびそれらの製造方法
JP2011173195A (ja) * 2010-02-23 2011-09-08 Kobelco Kaken:Kk 切断体の製造方法
JP2012091319A (ja) * 2010-02-23 2012-05-17 Kobelco Kaken:Kk 切断体の製造方法

Family Cites Families (13)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
DE2922000C2 (de) * 1979-05-30 1986-12-11 Steinbearbeitungs-Maschinenfabrik Carl Meyer, 8590 Marktredwitz Steinsäge
JPS61182760A (ja) * 1985-02-07 1986-08-15 Sumitomo Metal Ind Ltd ワイヤによる切断方法
JPH0469155A (ja) * 1990-07-09 1992-03-04 Kobe Steel Ltd 研磨用ワイヤソー
JPH10202499A (ja) * 1997-01-14 1998-08-04 Tokyo Seimitsu Co Ltd ワイヤソー
JP3692703B2 (ja) * 1997-03-28 2005-09-07 三菱住友シリコン株式会社 ワイヤソーおよびインゴット切断方法
US6279564B1 (en) * 1997-07-07 2001-08-28 John B. Hodsden Rocking apparatus and method for slicing a workpiece utilizing a diamond impregnated wire
CH697024A5 (fr) * 2000-09-28 2008-03-31 Hct Shaping Systems Sa Dispositif de sciage par fil.
JP4820108B2 (ja) * 2005-04-25 2011-11-24 コマツNtc株式会社 半導体ウエーハの製造方法およびワークのスライス方法ならびにそれらに用いられるワイヤソー
JP2008229752A (ja) * 2007-03-19 2008-10-02 Sumitomo Metal Mining Co Ltd ワイヤソーによる切断方法
JP5475772B2 (ja) * 2008-07-11 2014-04-16 サンーゴバン アブレイシブズ,インコーポレイティド ワイヤスライシングシステム
CN102225593B (zh) * 2011-04-29 2014-03-05 桂林创源金刚石有限公司 金刚石线锯装置
JP5588483B2 (ja) * 2011-08-18 2014-09-10 株式会社コベルコ科研 樹脂被覆ソーワイヤおよび切断体
MY183892A (en) * 2012-10-15 2021-03-17 Toyo Advanced Tech Co Ltd Wire saw apparatus and cut-machining method

Patent Citations (6)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPH10264143A (ja) * 1997-03-27 1998-10-06 Mitsubishi Materials Shilicon Corp ワイヤソーおよびインゴット切断方法
JPH10296719A (ja) * 1997-04-25 1998-11-10 Mitsubishi Materials Shilicon Corp ワイヤソーおよびそのインゴット切断方法
JP2000117726A (ja) * 1998-10-20 2000-04-25 Toray Eng Co Ltd ワイヤソー
JP2010087486A (ja) * 2008-09-08 2010-04-15 Sumitomo Electric Ind Ltd 基板、エピタキシャル層付基板およびそれらの製造方法
JP2011173195A (ja) * 2010-02-23 2011-09-08 Kobelco Kaken:Kk 切断体の製造方法
JP2012091319A (ja) * 2010-02-23 2012-05-17 Kobelco Kaken:Kk 切断体の製造方法

Also Published As

Publication number Publication date
CN105873723A (zh) 2016-08-17
WO2015105175A1 (ja) 2015-07-16
US20160325466A1 (en) 2016-11-10

Similar Documents

Publication Publication Date Title
WO2015105175A1 (ja) 被加工物の切断方法
JP4730844B2 (ja) 複数の半導体ウェハを同時に両面研磨する方法および半導体ウェハ
JP5135623B2 (ja) 半導体インゴットの切断方法
JP2008229752A (ja) ワイヤソーによる切断方法
JP4605237B2 (ja) 固定砥粒ワイヤソーを用いた高硬度材料の切断方法
JP6245833B2 (ja) ワイヤソーの製造方法
JP2006007387A (ja) 超砥粒ワイヤソー
TWI478782B (zh) Design method of resin covered wire saws
JP2001287146A (ja) ソーワイヤ及びソーワイヤの製造方法
JP5588483B2 (ja) 樹脂被覆ソーワイヤおよび切断体
Barmouz et al. Influence of bond thermal and mechanical properties on the additively manufactured grinding wheels performance: Mechanical, wear, surface integrity, and topography analysis
JP2015131353A (ja) 被加工物の切断方法
JP2005193332A (ja) ソーワイヤ
JP5137601B2 (ja) キャプスタンロールおよび伸線機
JP5537577B2 (ja) 切断体の製造方法
JP2011173195A (ja) 切断体の製造方法
KR20030054729A (ko) 가공면이 우수한 소우 와이어
JP2005074542A (ja) マグネシウム帯板用面削装置
JP6145596B2 (ja) 研磨装置および研磨装置に用いられるアタッチメント
JP5962614B2 (ja) ワークの切断方法及びワイヤソー
JP4899088B2 (ja) 半導体インゴットの切断方法
Tso et al. Study on thin diamond wire slicing with Taguchi method
JP2014128878A (ja) 薄刃ブレード
JP2005219162A (ja) ダイヤモンドの加工方法
JP2011173193A (ja) 被覆ソーワイヤ

Legal Events

Date Code Title Description
RD02 Notification of acceptance of power of attorney

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A7422

Effective date: 20170222

RD04 Notification of resignation of power of attorney

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A7424

Effective date: 20170322

A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20170614

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20180403

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20180330

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20180531

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20180911

A02 Decision of refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02

Effective date: 20190402