以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施例を説明する。
A.第1実施例:
A−1.回路構成の概要:
A−2.電圧切換部で電力損失が発生するメカニズム:
A−3.電圧切換部での電力損失を回避するメカニズム:
A−4.第1実施例の回路構成の詳細:
A−5.第1実施例のスイッチ駆動方法:
B.第2実施例:
B−1.第2実施例の回路構成の詳細:
B−2.第2実施例のスイッチ駆動方法:
C.第3実施例:
D.適用例:
D−1.第1の適用例:
D−2.第2の適用例:
A.第1実施例 :
A−1.回路構成の概要 :
図1は、第1実施例の電圧出力回路100の大まかな回路構成を示した説明図である。図示されるように、電圧出力回路100は、大きく分けると、電圧切換部102と、平滑フィルター104と、電圧差監視部110と、スイッチ駆動部120などから構成されている。
電圧切換部102は、プッシュ・プル接続された二つのスイッチ素子S1,S2を中心として構成されており、一方のスイッチ素子S1には電源Vddが接続され、他方のスイッチ素子S2にはグランドGNDが接続されている。尚、以下では、グランドGNDの電圧を「0」として、電源Vddが発生する電圧をVddとする。従って、電源Vddが本発明の「第1の電圧発生源」に対応し、グランドGNDが本発明の「第2の電圧発生源」に対応する。また、スイッチ素子S1が本発明の「第1のスイッチ素子」に対応し、スイッチ素子S2が本発明の「第2のスイッチ素子」に対応する。また、スイッチ素子S1,S2としては、たとえば、MOSFETやIGBTなどの素子を用いることができる。
また、スイッチ素子S1には、グランドGND側から電源Vdd側に向かって電流が流れることを許容する向きの還流ダイオードD1が並列に接続され、スイッチ素子S2にも、グランドGND側から電源Vdd側に向かって電流が流れることを許容する向きの還流ダイオードD2が並列に接続されている。従って、還流ダイオードD1が本発明の「第1のダイオード」に対応し、還流ダイオードD2が本発明の「第2のダイオード」に対応する。
電圧差監視部110は、還流ダイオードD1に掛かる電圧差、および還流ダイオードD2に掛かる電圧差を監視して、その結果を示す情報を、スイッチ駆動部120に出力する。従って、電圧差監視部110が本発明の「電圧差監視手段」に対応する。電圧差監視部110の詳細な構成については後述する。
スイッチ駆動部120は、外部から供給される制御信号Vcと、電圧差監視部110からの情報とに基づいて、スイッチ素子S1を駆動するための駆動信号Vg1、およびスイッチ素子S2を駆動するための駆動信号Vg2を出力する。そして、第1の電圧状態(以下では、「H」と表記する)の駆動信号Vg1が出力されるとスイッチ素子S1がON(導通状態)となり、第2の電圧状態(以下では、「L」と表記する)の駆動信号Vg1が出力されるとスイッチ素子S1がOFF(非導通状態)となる。スイッチ素子S2についても同様に、駆動信号Vg2が「H」になるとスイッチ素子S2がOFFになり、駆動信号Vg2が「L」になるとスイッチ素子S2がONになる。従って、スイッチ駆動部120が本発明の「スイッチ素子駆動手段」に対応する。スイッチ駆動部120が駆動信号Vg1,Vg2を出力する処理の詳細については後述する。
平滑フィルター104は、コイルおよびコンデンサーによって構成されており、コイル側が、スイッチ素子S1とスイッチ素子S2との間に接続されている。上述したように、スイッチ素子S1は電源Vddに接続されており、スイッチ素子S2はグランドGNDに接続されているから、スイッチ素子S1,S2のON/OFFを切り換えることによって、スイッチ素子S1とスイッチ素子S2とが接続されている部分の電圧(以下では、この電圧をVsと表記する)が、電源Vddの電圧(電圧Vdd)とグランドGNDの電圧(電圧0)とに切り換わる。この電圧の変動が、平滑フィルター104によって平滑化された後、出力電圧Voutとして電圧出力回路100から出力される。
図2は、平滑フィルター104から出力電圧Voutが出力される様子を例示した説明図である。スイッチ素子S1とスイッチ素子S2との間の部分の電圧Vsは、電源Vddからの電圧Vddと、グランドGNDの電圧0との間で変動する。しかし、電圧Vsが変動する周期に対して、平滑フィルター104のカットオフ周波数は十分に高い周波数に設定されているので、電圧Vsの変動は出力電圧Voutにはほとんど現れない。その代わりに、電圧Vsが変動する周期の中で電圧Vddとなる時間比率(オンデューティー比、または単にデューティー比と呼ばれる。本明細書ではデューティー比と表記する)に応じた電圧の出力電圧Voutが出力される。たとえば、電圧Vddの時間比率(デューティー比)が高い場合には高い出力電圧Voutが出力され、電圧Vddのデューティー比が低い場合には低い出力電圧Voutが出力される。従って、電圧Vsが変動する周期の中で、電圧Vddのデューティー比が適切な値となるように制御することで、所望の電圧の出力電圧Voutを出力することができる。もちろん、電圧Vddのデューティー比を連続的に変化させることによって、出力電圧Voutを連続的に変化させることも可能である。
いわゆるアナログ増幅器を用いて出力電圧Voutを生成することも可能であるが、電圧出力回路100では、電圧Vddと電圧0との間で変動する電圧Vsを生成して、得られた電圧Vsを平滑フィルター104で平滑化することによって出力電圧Voutを生成する。こうすることで、アナログ増幅器を用いて出力電圧Voutを生成した場合よりも、高い電力効率で出力電圧Voutを生成することが可能である。
A−2.電圧切換部で電力損失が発生するメカニズム :
上述したように、電圧出力回路100は、アナログ増幅器に比べて高い電力効率で電圧Vsを出力することが可能である。しかし、ある条件が成立すると、電圧出力回路100でも大きな電力損失が発生することがある。
図3は、電圧出力回路100で電力損失が発生する様子を示した説明図である。たとえば、一定の電圧を出力する場合には、電圧Vddとなるデューティー比が、デューティー比の下限付近の値まで小さくなると、急激に電力損失が増加する。同様に、電圧Vddとなるデューティー比が、デューティー比の上限付近の値まで大きくなった場合にも、急激に電力損失が増加する。本願の発明者らは、この現象が、還流ダイオードD1とD2に存在する寄生容量に起因して発生することを見いだした。尚、電力損失は還流ダイオードの寄生容量が支配的ではあるが、その他に、例えばMOSFETの場合ならば、ゲート−ソース間容量などのスイッチの寄生容量成分や、スイッチと並列に接続されるスナバー回路のような容量性の回路も電力損失の原因になりうる。
図4は、電圧出力回路100内の電圧切換部102が電圧Vsを切り換える動作を示した説明図である。図4では、還流ダイオードD1に存在する寄生容量をC1で表し、還流ダイオードD2に存在する寄生容量をC2で表している。
図4(a)は、スイッチ素子S1がOFFでスイッチ素子S2がONであるから、電圧Vsとして電圧0が出力されている状態を表している。尚、この状態(電圧Vsが電圧0である状態)が、本発明の「第2の状態」に対応する。また、図4(d)は、スイッチ素子S1がONでスイッチ素子S2がOFFであるから、電圧Vsとして電圧Vddが出力されている状態を表している。尚、この状態(電圧Vsが電圧Vddである状態)が、本発明の「第1の状態」に対応する。電圧切換部102が平滑フィルター104に対して出力電圧Voutを出力する際には、これら2つの状態が交互に切り換わる。尚、以下では、スイッチ素子S1がOFFでスイッチ素子S2がONの状態(電圧Vsとして電圧0が出力されている状態)を、「電圧Vsの出力がLの状態」と称し、逆に、スイッチ素子S1がONでスイッチ素子S2がOFFの状態(電圧Vsとして電圧Vddが出力されている状態)を、「電圧Vsの出力がHの状態」と称することがあるものとする。
また、2つのスイッチ素子S1,S2がともにONになると、電源VddからグランドGNDに向かって大きな突入電流が流れてスイッチ素子S1,S2に損傷を与える。そこで、こうしたことを回避するために、電圧Vsの出力が「H」の状態と「L」の状態とを切り換える際には、スイッチ素子S1およびスイッチ素子S2が何れもOFFとなる期間(デッドタイム期間)を経由して切り換えるようになっている。図4(b)は、電圧Vsの出力がLの状態からHの状態に切り換わる際のデッドタイム期間の状態を示しており、図4(e)は、電圧Vsの出力がHの状態からLの状態に切り換わる際のデッドタイム期間の状態を示している。尚、デッドタイム期間の状態が、本発明の「第3の状態」に対応する。
ここで、図4(a)に示した状態(電圧Vsの出力がLの状態)に着目すると、この状態では、還流ダイオードD1の寄生容量C1の一方の端子は電圧Vddに接続され、他方の端子はグランドGNDに接続されている。従って、還流ダイオードD1の寄生容量C1には電荷が蓄積(充電)される。また、還流ダイオードD2の寄生容量C2については、何れの端子もグランドGNDに接続されているので、電荷が蓄積されることはない。この状態からデッドタイム期間になると、図4(b)に示すように、スイッチ素子S2がOFFになる。
そしてデッドタイム期間が経過すると、今度はスイッチ素子S1がONになる。ここで、還流ダイオードD2の寄生容量C2のハイ側(電源Vddに近い側)の端子に着目すると、図4(a)に示した状態では、スイッチ素子S2の寄生容量C2のハイ側の端子はグランドGNDに接続されており、図4(b)の状態でもグランドGNDの電位に保たれている。一方、還流ダイオードD1の寄生容量C1には電荷が蓄えられているから、スイッチ素子S1をONにした瞬間に、寄生容量C1に蓄えられていた電荷が還流ダイオードD2の寄生容量C2に流入する。図4(c)には、寄生容量C1から寄生容量C2に向かって流れる電流を、破線の矢印で表している。このときの電流がスイッチ素子S1で抵抗損失を発生させる。また、還流ダイオードD1の寄生容量C1に蓄えられていた電荷だけでは、還流ダイオードD2の寄生容量C2のハイ側の端子電圧をVddまで上昇させることができなかった場合は、電源Vddから電荷が供給される。このときの電流もスイッチ素子S1で抵抗損失を発生させる。
このようにして還流ダイオードD2の寄生容量C2に電荷が流れ込むと、最終的には図4(d)に示した状態(電圧Vsの出力がHの状態)となる。この状態では、還流ダイオードD2の寄生容量C2のハイ側の端子は電源Vddに接続され、ロー側(ハイ側とは反対側)の端子はグランドGNDに接続されているので電荷が蓄積(充電)されている。また、還流ダイオードD1の寄生容量C1の端子は何れも電源Vddに接続されているので電荷が蓄積されることはない。
以上では、図4(a)の状態(電圧Vsの出力がLの状態)から図4(d)の状態(電圧Vsの出力がHの状態)に切り換える場合について説明したが、今度は逆に、図4(d)の状態(電圧Vsの出力がHの状態)から図4(a)の状態(電圧Vsの出力がLの状態)に切り換える場合について説明する。図4(d)の状態からデッドタイム期間になると、図4(e)に示すように、スイッチ素子S1をOFFにする。この状態では、還流ダイオードD2の寄生容量C2には電荷が蓄えられて、ハイ側の端子電圧がVddとなっている。そしてデッドタイム期間が経過するとスイッチ素子S2がONになる。すると、還流ダイオードD2の寄生容量C2のハイ側の端子がグランドGNDに接続された状態となるので、寄生容量C2に貯まっていた電荷がグランドGNDに排出される。図4(d)には、寄生容量C2からグランドGNDに向かって流れる電流を、破線の矢印で表している。このときの電流がスイッチ素子S2で抵抗損失を発生させる。
また、還流ダイオードD1の寄生容量C1のハイ側の端子は電源Vddに接続されているので、還流ダイオードD2の寄生容量C2に貯まっていた電荷がグランドGNDに排出されて、寄生容量C2のハイ側端子の電圧が低下するに従って、スイッチ素子S1の寄生容量C1には電荷が蓄積(充電)されていき、最終的には、図4(a)に示した状態となる。
以上は、電圧切換部102に平滑フィルター104が接続されていないものとして説明した。しかし、図1に示したように電圧切換部102には平滑フィルター104が接続されているので、このことによる影響も考慮する必要がある。そこで、先ず始めに、一般的な平滑フィルターに一定電圧を急に印加したときの挙動や、平滑フィルターに印加されている電圧を急に0に落としたときの挙動について検討する。
図5は、コイルとコンデンサーとによって構成される一般的な平滑フィルターに、一定周期Tで電圧Eと電圧0とに切り換わる電圧を印加した時に、一般的な平滑フィルターのコイルに流れる電流を示している。第1実施例の電圧出力回路100の出力は、電圧VddとグランドGNDの電圧とを繰り返すから、図5の電圧Eを電圧Vddと読み替えれば、本実施例の平滑フィルター104に適用することができる。
一定周期Tの中で電圧E(電圧Vddに対応)を印加している時間をtonとすると、デューティー比Dは、ton/T(パーセント表示の場合は100×ton/T)となる。また、平滑フィルター104から出力される出力電圧Voutは、ほぼ、D×Eによって決まる電圧となる。そして、このときにコイルには、電圧Eが印加されている期間では、電流がマイナス(電源側に逆流している状態)からほぼ直線的に増加してプラス(グランドGNDに向けて流れる状態)に転じ、印加される電圧が電圧0になっている期間では、プラスからほぼ直線的に減少してマイナスに転じるようなノコギリ刃状の電流が流れる。
また、電圧出力回路100によって駆動される対象が、圧電素子やコンデンサーのような容量性負荷であった場合には、平滑フィルター104の出力電圧Voutが一定の条件では、一周期の間でコンデンサーに出入りする電荷が等しいから、プラス側への振幅の最大値とマイナス側への振幅の最大値とは等しくなる。
図6には、平滑フィルター104のコイルに流れる電流Iの算出式が示されている。図6(a)は、電圧E(電圧Vddに対応)を印加している期間について示したものであり、図6(b)は、印加する電圧を電圧0に落としている期間について示したものである。電圧Eを印加している期間にコイルに流れる電流Iは、図6(a)中の回路図で示される。平滑フィルター104を構成するコイルのインダクタンスをL、コンデンサーのキャパシタンスをC、コイルに流れる初期電流(電圧E印加時に流れていた電流)をI0、コンデンサーの初期電圧(電圧Eの印加時でのコンデンサーの端子間電圧)をE0とすると、電圧Eと、電流Iとの間には、(1)式で示した微分方程式が成立し、この方程式を解くと電流Iは(2)式によって求められる。ここで、ω0は、平滑フィルター104の共振周波数(=1/√(LC))である。そして、電圧Eが印加されている時間tonは平滑フィルター104の共振周期に比べると十分に短いから、cosω0tはほぼ1とみなすことができ、sinω0tはほぼω0tとみなすことができる。すると(2)式は、(3)式で近似することができ、電流Iは時間tの経過とともに直線的に増加することが分かる。
平滑フィルター104に印加する電圧が電圧0に落とされている期間についても同様である。すなわち、印加する電圧を電圧0に落としている期間にコイルに流れる電流Iは、図6(b)中の回路図で示すことができ、印加する電圧は0であるから、電流Iは(4)式で示した微分方程式が成立する。そしてこの方程式を解くと、印加する電圧が電圧0の期間に流れる電流Iは(5)式によって求められる。また、sinω0tをω0tとみなして、cosω0tを1とみなすと、電流Iは(6)式で近似することができる。従って、印加する電圧が電圧0に落とされている期間では、電流Iは時間tの経過とともに直線的に減少することが分かる。
また、図5に示したように、電圧Eを印加した瞬間(t=0)では、電流I=−IAであるから、(3)式より、I0=−IAとなる。更に、初期電圧E0は、図5の出力電圧Vout(=D×E)に等しいから、これらを(3)式に代入して整理すると、コイルに流れる電流の振幅IAは、図7(a)に示した(7)式によって示される。(7)式に示されるように、電流の振幅IAはデューティー比Dの二次関数であり、図7(b)に示すように、D=0.5(デューティー比Dが50%)の時に最大値となる。
以上のことから次のようなことが分かる。電圧切換部102の電圧Vsを平滑フィルター104で平滑化して、一定の出力電圧Voutを負荷に印加する場合(デューティー比が一定の場合)、平滑フィルター104のコイルには、図5に示したようなノコギリ刃状の電流が流れる。電流の振幅がプラス側に最大となるのは、電圧切換部102の電圧Vsが「H」から「L」の状態に切り換わる瞬間であり、マイナス側に最大となるのは、電圧Vsが「L」から「H」の状態に切り換わる瞬間である。また、電流Iの絶対値(すなわち振幅IA)は、デューティー比Dが50%の時に最大となり、デューティー比Dが50%から小さくなるにつれて、あるいは50%から大きくなるにつれて、振幅IAは小さくなる。
電圧切換部102に平滑フィルター104を接続すると、平滑フィルター104のコイルに流れる電流Iがこのような挙動をすることを踏まえた上で、平滑フィルター104が接続された状態での電圧切換部102の動作について考える。
図8は、図4(a)の状態(電圧Vsの出力がLの状態)から、図4(d)の状態(電圧Vsの出力がHの状態)に切り換わる際のデッドタイム期間中に発生する現象を示した説明図である。図8(a)に示されるように、電圧Vsの出力がLの状態(スイッチ素子S1がOFFで、スイッチ素子S2がONの状態)では、還流ダイオードD1の寄生容量C1には電荷が蓄えられている。また、図7を用いて前述したように、電圧Vsの出力がLからHの状態に切り換わる直前には、平滑フィルター104のコイルから電圧切換部102に向かって大きさIAの電流が流れている。図8(a)では、コイルからの電流が流れる様子が、破線の矢印によって表されている。
この状態から、デッドタイム期間ではスイッチ素子S1,S2を何れもOFFの状態にする。すると、平滑フィルター104のコイルには、自己誘導現象によって電流をそのまま流し続けようとする方向に起電力が発生する。しかし、スイッチ素子S2はOFFに切り換わっているので、こちらを流れることはできない。その一方で、還流ダイオードD2の寄生容量C2には電荷が全く蓄えられていないので、この寄生容量C2がコイルの逆起電力によって充電される。また、還流ダイオードD1の寄生容量C1については、コイルの逆起電力が発生する結果、寄生容量C1のロー側(電源Vddの反対側)の端子電圧が上昇するので、ハイ側の端子との端子間電圧が小さくなる。その結果、還流ダイオードD1の寄生容量C1に蓄えられていた電荷が電源Vddに回生される。図8(b)に示した破線の矢印は、還流ダイオードD2の寄生容量C2に電荷が充電され、還流ダイオードD1の寄生容量C1に蓄えられていた電荷が回生される様子を表している。
そして、図8(c)に示すように、還流ダイオードD1の寄生容量C1に蓄えられていた電荷を全て回生し、スイッチ素子S2のハイ側の端子電圧が電圧Vddに達するまで寄生容量C2に電荷を蓄えた後に、スイッチ素子S1をONにしてやる。こうすれば、図4を用いて前述したように、電圧Vsの出力をLからHの状態に切り換える際に生じる電力損失は全く生じない。すなわち、図8(a)の状態を、デッドタイム期間の間に図8(c)の状態まで持って行くことができれば、電力損失の発生を回避することができる。電圧Vsの出力をHからLの状態に切り換える場合にも、同様なことが当て嵌まる。
図9は、図4(d)の状態(電圧Vsの出力がHの状態)から、図4(a)の状態(電圧Vsの出力がLの状態)に切り換わる際のデッドタイム期間中に発生する現象を示した説明図である。図9(a)に示されるように、電圧Vsの出力がHの状態(スイッチ素子S1がONで、スイッチ素子S2がOFFの状態)では、還流ダイオードD2の寄生容量C2に電荷が蓄えられる。また、図5を用いて前述したように、電圧Vsの出力がHからLの状態に切り換わる直前には、電圧切換部102から平滑フィルター104のコイルに向かって大きさがIAの電流が流れている。図9(a)では、電圧切換部102の電源Vddからコイルに向かって電流が流れる様子が、破線の矢印によって表されている。
この状態から、デッドタイム期間ではスイッチ素子S1,S2を何れもOFFの状態にする。すると、平滑フィルター104のコイルには自己誘導現象によって、電流をそのまま流し続けようとする方向に逆起電力が発生する。しかし、スイッチ素子S1はOFFに切り換わっているので、電源Vddから電荷を供給することができず、その一方で、還流ダイオードD2の寄生容量C2には端子間電圧がVddの電荷が蓄えられているので、この電荷がコイルに向かって供給される。また、これに伴ってスイッチ素子S2のハイ側の端子電圧が低下するので、還流ダイオードD1の寄生容量C1の端子間電圧が増加し、その結果として寄生容量C1に電荷が蓄えられることになる。図9(b)に示した破線の矢印は、還流ダイオードD2の寄生容量C2に電荷が蓄えられていた電荷が回生され、スイッチ素子S1の寄生容量C1に電荷が充電される様子を表している。
そして、図9(c)に示すように、還流ダイオードD2の寄生容量C2に蓄えられていた電荷を全て回生し、スイッチ素子S1の端子間電圧が電圧Vddに達するまで寄生容量C1に電荷を蓄えた後に、スイッチ素子S2をONにしてやる。こうすれば、図4を用いて前述したように、電圧Vsの出力をHからLの状態に切り換える際に生じる電力損失は全く生じない。すなわち、図9(a)の状態を、デッドタイム期間の間に図9(c)の状態まで持って行くことができれば、電力損失の発生を回避することができる。
このように、電圧Vsの出力を切り換えたときに、平滑フィルター104のコイルで大きな逆起電力を発生させることができれば、電圧切換部102で発生する電力損失を大幅に抑制することが可能となる。また、コイルで大きな逆起電力を発生させるためには、デッドタイム期間に切り換える直前にコイルに大きな電流が流れるようにしておけばよい。そしてそのためには、図7に示したように、デューティー比が下限値付近や上限値付近に近付かないようにしておけばよい。逆に言えば、図3に示した現象、すなわちデューティー比が小さな値を取る場合や逆に大きな値を取る場合に、電圧出力回路100での電力損失が急激に増加する現象は、デューティー比が下限値に近付きすぎたか、逆に上限値に近付きすぎたために、コイルで十分な大きさの逆起電力を発生させることができなくなったために生じたものと考えられる。
A−3.電圧切換部での電力損失を回避するメカニズム :
図10には、コイルで十分な大きさの逆起電力を発生させることができる場合と、十分な大きさの逆起電力を発生させることができなかった場合とについて、電圧出力回路100の動作が切り換わる様子が示されている。図10(a)は過不足のない大きさの逆起電力が発生した場合を示し、図10(b)は必要以上に大きな逆起電力が発生した場合を、図10(c)は逆起電力の大きさが不足する場合を示している。
先ず始めに、最も単純な場合である図11(a)の場合について説明する。電圧切換部102の出力する電圧VsがLからHに切り換わるためにデッドタイム期間に移行する直前では、図5に示したようにコイルの電流Iはマイナス方向(逆流する方向)に流れている。また、電圧切換部102が出力する電圧Vsは0である。この状態を、状態[A]と呼ぶことにする。続いて、スイッチ素子S2をOFFに切り換えてデッドタイム期間に移行すると、図8(b)を用いて前述したように、コイルの逆起電力によって還流ダイオードD2の寄生容量C2が充電され、それに伴って、電圧Vsが上昇し、デッドタイム期間が終了する時に、ちょうど電圧Vddに達する。コイルの逆起電力によって還流ダイオードD2の寄生容量C2が充電されて、電圧Vsが上昇している状態を、状態[B]と呼ぶことにする。
デッドタイム期間を終了して、電圧Vsの出力がHの状態になると、図5を用いて前述したように、初めのうちはコイルにマイナス方向(コイルから電圧切換部102に向かう方向)の電流が流れているが、途中で電流の向きが逆転して、プラス方向(電圧切換部102からコイルに向かう方向)に電流が流れるようになる。電圧切換部102が出力する電圧Vsが電圧Vddで、コイルにマイナス方向の電流が流れている状態を、状態[C]と呼び、コイルの電流が逆転してプラス方向の電流が流れるようになった状態を、状態[D]と呼ぶことにする。
その後、電圧Vsの出力がHの状態から、スイッチ素子S1をOFFに切り換えてデッドタイム期間に移行すると、図9(b)を用いて前述したように、コイルの逆起電力によって還流ダイオードD2の寄生容量C2の電荷が回生され、還流ダイオードD1の寄生容量C1に電荷が充電されて、それに伴って電圧切換部102の出力する電圧Vsが低下する。そして、デッドタイム期間が終了する時に、ちょうど電圧0まで低下する。コイルの逆起電力によって還流ダイオードD1の寄生容量C2から電荷が回生されて、電圧Vsが低下している状態を、状態[E]と呼ぶことにする。
デッドタイム期間を終了して、電圧Vsの出力がLの状態になると、図5を用いて前述したように、初めのうちはコイルにプラス方向の電流が流れているが、途中で電流の向きが逆転して、マイナス方向に電流が流れるようになる。電圧Vsが電圧0で、コイルにプラス方向の電流が流れている状態を、状態[F]と呼ぶことにする。また、コイルにマイナス方向の電流が流れている状態は、前述した状態[A]である。
以上では、デッドタイム期間に移行したときに、過不足のない大きさの逆起電力がコイルで発生した場合に、電圧切換部102の動作が切り換わる様子について説明した。これに対して、コイルで発生する逆起電力が不足している場合は、電圧切換部102の動作は図10(b)に示すようにして切り換わる。電圧Vsの出力がLの状態からデッドタイム期間に移行して、デッドタイム期間が終了するまでの動作は、図10(a)を用いて前述した動作と同様である。すなわち、状態[A]から状態[B]へと切り換わる。
しかし、コイルで発生する逆起電力の大きさが不足していると、デッドタイム期間が終了しても、還流ダイオードD2の寄生容量C2への充電が完了しないので、ハイ側の端子電圧が電圧Vddに達しない。同様に、還流ダイオードD1の寄生容量C1からの電荷の回生も完了しない。このため、図4(a)の状態から図4(d)の状態に切り換えた場合と同様に、スイッチ素子S1で抵抗による電力損失が発生する。また、デッドタイム期間が終了しても電圧Vsが電圧Vddに達していないから、デッドタイム期間からスイッチ素子S1がONに切り換わった後に、電圧Vsが電圧Vddまで上昇するようになる。このような状態を、状態[G]と呼ぶ。
また、コイルで発生する逆起電力の大きさが不足していると、電圧Vsの出力をHからLに切り換える時にも同様な現象が発生する。すなわち、電圧Vsの出力がHの状態からデッドタイム期間に切り換えることに伴って、状態[D]から状態[E]に切り換わる。しかし、コイルで発生する逆起電力の大きさが不足していると、デッドタイム期間が終了しても、還流ダイオードD2の寄生容量C2からの電荷の回生が完了しないので、寄生容量C2のハイ側の端子電圧が電圧0まで低下しない。このため、図4(d)の状態から図4(a)の状態に切り換えた場合と同様に、スイッチ素子S2で抵抗による電力損失が発生する。また、デッドタイム期間が終了しても電圧Vsが電圧0まで低下していないから、デッドタイム期間からスイッチ素子S2がONに切り換わった後に、電圧Vsが電圧0まで低下するようになる。このような状態を、状態[H]と呼ぶ。このように、電圧切換部102が状態[G]あるいは状態[H]になると電力損失が発生する。そして、これらの状態は、パルス変調のキャリア周波数fcに対応する非常に高い頻度で発生するから、結果的に、たいへんに大きな電力損失を発生させることになる。
これに対して、コイルで過大な大きさの逆起電力が発生した場合には、電圧切換部102の動作は図10(c)に示すように切り換わる。先ず、電圧Vsの出力がLの状態の時は、前述した状態[A]となっており、デッドタイム期間に切り換わると状態[B]、すなわち、コイルの逆起電力によって還流ダイオードD2の寄生容量C2が充電されて、電圧Vsが上昇していく。そして、コイルで十二分な大きさの逆起電力が発生している場合は、デッドタイム期間が終了する前に、還流ダイオードD2の寄生容量C2への充電が完了して、寄生容量C2のハイ側の端子電圧が電圧Vddに達し、それ以降は、還流ダイオードD1を通って、電荷が電源Vddに逆流する状態となる。このような状態を、状態[I]と呼ぶ。状態[I]では、電圧Vsは、還流ダイオードD1の電圧降下分だけ電圧Vddよりも高くなる。
その後、電圧Vsの出力がHの状態では、前述した状態[C](電圧Vsが電圧Vddで、コイルの電流がマイナスの状態)から、前述した状態[D](電圧Vsが電圧Vddで、コイルの電流がプラスの状態)へと推移した後、デッドタイム期間になると、前述した状態[E](コイルの逆起電力によって還流ダイオードD2の寄生容量C2の電荷が回生されて、電圧Vsが低下していく状態)となる。そして、この場合も、コイルで十二分な大きさの逆起電力が発生している場合は、デッドタイム期間が終了する前に、還流ダイオードD2の寄生容量C2からの電荷の回生が完了して、寄生容量C2のハイ側の端子電圧が電圧0まで低下し、それ以降は、還流ダイオードD2を介してグランドGND側から電荷を吸い出す状態となる。このような状態を、状態[J]と呼ぶ。状態[J]では、電圧Vsは、還流ダイオードD2の電圧降下分だけ、電圧0よりも低くなる。
このように、電圧VsをLからHへ切り換える時には、還流ダイオードD1の寄生容量C1に電荷が蓄えられたままスイッチ素子S1をONに切り換えると、寄生容量C1の電荷によってスイッチ素子S1での電力損失が生じ得る。しかし、LからHに切り換える時のデッドタイム期間中に、還流ダイオードD2の寄生容量C1の回生を完了させることができれば、スイッチ素子S1での電力損失の発生を回避することができる。そして、還流ダイオードD1の寄生容量C1の回生が完了すると、還流ダイオードD2の寄生容量C2への充電も完了して、還流ダイオードD2に順方向電流が流れるようになる。すなわち、還流ダイオードD2に順方向電流が流れたら、寄生容量C1の回生(寄生容量C2の充電)が完了したと判断することができる。
逆に言えば、電圧VsをLからHへ切り換える際のデッドタイム期間中に還流ダイオードD2に電流が流れ始めなかった場合は、寄生容量C1の回生(寄生容量C2の充電)が完了していないものと判断してデッドタイム期間を延長してやれば、スイッチ素子S1で電力損失が発生することを回避することが可能となる。
電圧VsをHからLへ切り換える時も同様に、還流ダイオードD2の寄生容量C2に電荷が蓄えられたままスイッチ素子S2をONに切り換えると、寄生容量C2の電荷によってスイッチ素子S2での電力損失が生じ得る。しかし、HからLに切り換える時のデッドタイム期間中に、スイッチ素子S2の寄生容量C2の回生を完了させることができれば、スイッチ素子S2での電力損失の発生を回避することができる。そして、還流ダイオードD2の寄生容量C2の回生が完了すると、還流ダイオードD1の寄生容量C1への充電も完了して、スイッチ素子S1に設けられた還流ダイオードD1に電流が流れるようになる。すなわち、還流ダイオードD1に電流が流れたら、寄生容量C2の回生(寄生容量C1の充電)が完了したと判断することができる。
逆に言えば、電圧VsをHからLへ切り換える際のデッドタイム期間中に還流ダイオードD1に電流が流れ始めなかった場合は、寄生容量C2の回生(寄生容量C1の充電)が完了していないものと判断してデッドタイム期間を延長してやれば、スイッチ素子S2で電力損失が発生することを回避することが可能となる。
第1実施例の電圧出力回路100では、このような原理を利用することによって、デューティー比が下限付近の小さな値を取る場合や、上限付近の大きな値を取る場合に、電力消費が増加することを回避している。以下、第1実施例の電圧出力回路100について、詳しく説明する。
A−4.第1実施例の回路構成の詳細 :
図11は、第1実施例の電圧出力回路100に搭載された電圧差監視部110の詳細な構成を示した説明図である。第1実施例の電圧差監視部110では、スイッチ素子S1の還流ダイオードD1の両端子間の電圧を、クランプ回路111に入力する。スイッチ素子S2についても同様に、スイッチ素子S2の還流ダイオードD2の両端子間の電圧を、クランプ回路112に入力する。クランプ回路111,112にはダイオードが挿入されており、このダイオードに順方向の電圧がかかっている間は、コンパレーター113、コンパレーター114はLow Levelを出力する。しかし、クランプ回路111,112のダイオードに逆方向の電圧がかかると(すなわち、還流ダイオードD1に電流が流れるようになると)、コンパレーター113ではHigh Levelを出力して、フォトカプラー115を介して、信号HOとしてスイッチ駆動部120に入力し、コンパレーター114ではLow Levelを出力して、フォトカプラー116を介して、信号LOとしてスイッチ駆動部120に入力する。
たとえば還流ダイオードD1に電流が流れると、コンパレーター113の出力が「H」となり、「H」の信号HOがスイッチ駆動部120に入力される。すなわち、信号HOが「H」になっている状態は、還流ダイオードD1に電流が流れていることを示している。また、還流ダイオードD2に電流が流れると、コンパレーター114の出力が「H」となり、「H」の信号LOがスイッチ駆動部120に入力される。すなわち、信号LOが「H」になっている状態は、還流ダイオードD2に電流が流れていることを示している。尚、還流ダイオードD1,D2の両端子間にかかる電圧を、クランプ回路111,112を介してコンパレーター113,114に入力しているので、コンパレーター113,114には、耐電圧が比較的低い素子を使用することが可能である。また、コンパレーター113,114の出力を、フォトカプラー115,116を介してスイッチ駆動部120に入力しているので、電圧差監視部110からのノイズによってスイッチ駆動部120が誤動作することを回避することができる。
A−5.第1実施例のスイッチ駆動方法 :
図12は、第1実施例のスイッチ駆動部120がスイッチ素子S1,S2を駆動するための行うスイッチ駆動処理のフローチャートである。第1実施例のスイッチ駆動処理では、先ず始めに、SD信号が「H」であるか否かを判断する(ステップS100)。ここでSD信号とは、スイッチ素子S1,S2を強制的にOFFにするための信号である。SD信号が「H」であると判断した場合は(ステップS100:yes)、駆動信号Vg1および駆動信号Vg2として何れも「L」を出力する(ステップS102)。ここで、図1を用いて前述したように、駆動信号Vg1はスイッチ素子S1を駆動するための信号であり、駆動信号Vg2はスイッチ素子S2を駆動するための信号である。駆動信号Vg1が「L」になるとスイッチ素子S1がOFFになり、駆動信号Vg2が「L」になるとスイッチ素子S2がOFFになる。すなわち、SD信号が「H」になっている間は、どのような制御信号Vcを受け取ったかに関わらず、スイッチ素子S1およびスイッチ素子S2が何れもOFFになる。
これに対してSD信号が「H」ではないと判断した場合は(ステップS100:no)、今度はST信号が「H」か否かを判断する(ステップS104)。ここでST信号とは、スイッチ素子S1,S2の駆動に、還流ダイオードD1および還流ダイオードD2での導通の有無を考慮するか否かを指定する信号である。ST信号が「H」とは、還流ダイオードD1,D2での導通の有無を考慮してスイッチ素子S1,S2を駆動することを示しており、ST信号が「L」とは、還流ダイオードD1,D2での導通の有無を考慮せずにスイッチ素子S1,S2を駆動することを示している。
従って、ST信号が「H」ではないと判断した場合は(ステップS104:no)、制御信号Vcが「H」か否かを判断し(ステップS106)、制御信号Vcが「H」であれば(ステップS106:yes)、駆動信号Vg1の出力を「H」、駆動信号Vg2の出力を「L」とする(ステップS108)。その結果、スイッチ素子S1がON、スイッチ素子S2がOFFとなって、電圧Vsには、電圧Vddが出力される。これに対して、制御信号Vcが「L」であれば(ステップS106:no)、駆動信号Vg1の出力を「L」、駆動信号Vg2の出力を「H」とする(ステップS110)。その結果、スイッチ素子S1がOFF、スイッチ素子S2がONとなって、電圧Vsには、電圧0が出力される。
一方、ST信号が「H」と判断した場合は(ステップS104:yes)、制御信号Vcだけでなく、以下に説明するように、還流ダイオードD1あるいは還流ダイオードD2での導通の有無も考慮して駆動信号Vg1、駆動信号Vg2を出力する。先ず、制御信号Vcが「H」か否かを判断する(ステップS112)。その結果、制御信号Vcが「H」であった場合は(ステップS112:yes)、還流ダイオードD1や還流ダイオードD2での導通の有無に関わらず、スイッチ素子S2についてはOFFにすべきことが確定しているので、駆動信号Vg2の出力を「L」とする(ステップS114)。
続いて、駆動信号Vg1が既に「H」になっているか否か、換言すれば、スイッチ素子S1が既にONに切り換わっているか否かを判断する(ステップS116)。後述するように、第1実施例のスイッチ駆動部120では、還流ダイオードD1に電流が流れたことが確認されるとスイッチ素子S1がONに切り換わるが、スイッチ素子S1がONに切り換わった後は還流ダイオードD1に電流が流れなくなる。従って、還流ダイオードD1に電流が流れていない場合でも、未だ電流が流れていないのではなく、既に電流が流れてスイッチ素子S1がONに切り換わっている可能性がある。そこで、還流ダイオードD1に電流が流れているか否かの判断よりも先に、駆動信号Vg1が既に「H」になっているか否かを判断するようにしている。その結果、既に駆動信号Vg1が「H」になっていた場合は(ステップS116:yes)、スイッチ素子S1が既にONに切り換わっていると判断できるので、再び先頭に戻って、SD信号の状態を確認した後(ステップS100)、上述した続く一連の処理を行う。
これに対して駆動信号Vg1が未だ「H」になっていなかった場合は(ステップS116:no)、還流ダイオードD1に電流が流れたことを示す信号HOが「H」になったか否かを判断する(ステップS118)。その結果、信号HOが未だ「H」になっていなければ(ステップS118:no)、還流ダイオードD1に電流が流れていない(すなわち寄生容量C1での回生および寄生容量C2の充電が完了していない)ことを意味しているので、駆動信号Vg1が「L」のままの状態で(従って、デッドタイム期間の状態を継続したまま)先頭に戻って、SD信号の状態を確認する(ステップS100)。
そして、SD信号が「H」にならず(ステップS100:no)、ST信号が「H」のままで(ステップS104:yes)、制御信号Vcが「L」に切り換わらない限り(ステップS112:yes)、再び、信号HOが「H」になったか否かを判断することになる(ステップS118)。こうした処理を繰り返しているうちに、やがて還流ダイオードD1に電流が流れて、信号HOが「H」になる。すると、ステップS118で「yes」と判断して、駆動信号Vg1の出力を「H」にする(ステップS120)。その結果、スイッチ素子S1がONに切り換わる。
このように、制御信号Vcが「H」になると直ちに駆動信号Vg2は「L」にするが、駆動信号Vg1は直ちに「H」にするのではなく、信号HOが「H」になったことを確認してから駆動信号Vg1を「H」にする。このため、寄生容量C1での回生および寄生容量C2の充電が完了するまではデッドタイム期間が延長され、寄生容量C1での回生および寄生容量C2の充電が完了してからスイッチ素子S1をONに切り換えることになる。その結果、寄生容量C1に蓄えられた電荷によってスイッチ素子S1で電力損失が発生することを回避することが可能となる。
以上では、制御信号Vcが「H」であった場合(ステップS112:yes)について説明した。これに対して制御信号Vcが「L」であった場合は(ステップS112:no)、スイッチ素子S1についてはOFFにすべきことが確定しているので、駆動信号Vg1の出力を「L」とする(ステップS122)。
続いて、駆動信号Vg2が既に「H」になっているか否か、換言すれば、スイッチ素子S2が既にONに切り換わっているか否かを判断する(ステップS124)。制御信号Vcが「L」で、還流ダイオードD2に電流が流れていない場合でも、未だ電流が流れていないのではなく、既に電流が流れてスイッチ素子S2がONに切り換わっている可能性がある。そこで、還流ダイオードD2に電流が流れているか否かの判断よりも先に、駆動信号Vg2が既に「H」になっているか否かを判断する。その結果、既に駆動信号Vg2が「H」になっていた場合は(ステップS124:yes)、スイッチ素子S2が既にONに切り換わっていると判断できるので、再び先頭に戻って、SD信号の状態を確認した後(ステップS100)、上述した続く一連の処理を行う。
これに対して駆動信号Vg2が未だ「H」になっていなかった場合は(ステップS124:no)、還流ダイオードD2に電流が流れたことを示す信号LOが「H」になったか否かを判断する(ステップS126)。その結果、信号LOが未だ「H」になっていなければ(ステップS126:no)、還流ダイオードD2に電流が流れていない(すなわち寄生容量C1の充電および寄生容量C2での回生が完了していない)ことを意味しているので、駆動信号Vg2が「L」のままの状態で(従って、デッドタイム期間の状態を継続したまま)先頭に戻って、SD信号の状態を確認する(ステップS100)。こうした処理を繰り返しているうちに、やがて還流ダイオードD2に電流が流れて、信号LOが「H」になる。すると、ステップS126で「yes」と判断して、駆動信号Vg2の出力を「H」にする(ステップS128)。その結果、スイッチ素子S2がONに切り換わる。
このように、制御信号Vcが「L」になると直ちに駆動信号Vg1は「L」にするが、駆動信号Vg2については、信号LOが「H」になったことを確認してから「H」にする。このため、寄生容量C1の充電および寄生容量C2での回生が完了するまではデッドタイム期間が延長され、寄生容量C1の充電および寄生容量C2での回生が完了してからスイッチ素子S2がONに切り換えられる。その結果、寄生容量C2に蓄えられた電荷によってスイッチ素子S2で電力損失が発生することを回避することが可能となる。
図13は、第1実施例のスイッチ駆動部120が信号HO,LOを考慮してスイッチ素子S1,S2を駆動する様子を示した説明図である。また、参考として、図14には、信号HO,LOを考慮せずにスイッチ素子S1,S2を駆動する様子が示されている。尚、前述したように信号HO,LOは、還流ダイオードD1,D2に電流が流れたか否かを示す信号である。従って、信号HO,LOを考慮せずにスイッチ素子S1,S2を駆動する場合とは、従来から存在する一般的な方法でスイッチ素子S1,S2を駆動する場合に相当する。また、図12のステップS104で「no」と判断した場合(ST信号が「L」の場合)は、図14のようにしてスイッチ素子S1,S2が駆動される。説明の都合上、信号HO,LOを考慮せずにスイッチ素子S1,S2を駆動した場合について説明する。
信号HO,LOを考慮しない場合(ST信号が「L」の場合)は、図14に示されるように、制御信号Vcが「L」の場合は駆動信号Vg1が「L」、駆動信号Vg2が「H」となっており、それに対応して、スイッチ素子S1はOFF、スイッチ素子S2はONの状態となっているので、電圧Vsには電圧0が出力されている。この状態から制御信号Vcが「H」になると駆動信号Vg1が「H」になり、駆動信号Vg2が「L」になる。その結果、スイッチ素子S1がON、スイッチ素子S2がOFFになって電圧Vsには電圧Vddが出力されるようになる。但し、制御信号Vcが「H」になっても直ちに駆動信号Vg1が「H」に切り換わるわけではなく、前述したデッドタイム期間が経過した後に「H」に切り換わるようになっている。図14では、デッドタイム期間に斜線を付して表示している。また、図中に示した「td」は、デッドタイム期間の継続時間である。制御信号Vcが「H」から「L」に切り換わる場合も同様に、デッドタイム期間が経過した後に、駆動信号Vg2が「L」から「H」に切り換わる。
また、デッドタイム期間中には、図8あるいは図9を用いて前述したように、寄生容量C1,C2での電荷の回生および充電が行われ、それにつれて、電圧Vsが電圧0から電圧Vddに上昇し、あるいは電圧Vddから電圧0に低下する(図10参照)。しかし、制御信号Vcのデューティー比が上限付近や下限付近となる場合のように、デッドタイム期間中に電荷の回生および充電が完了できない場合は、電圧Vsが電圧0から電圧Vddに上昇する前に駆動信号Vg1が「H」になるのでスイッチ素子S1がONとなり、このときスイッチ素子S1で電力損失が発生する(図8参照)。あるいは電圧Vddから電圧0に低下する前に駆動信号Vg2が「H」になるのでスイッチ素子S2がONとなり、このときスイッチ素子S2で電力損失が発生する(図9参照)。また、電圧Vsが電圧Vddに上昇している途中でスイッチ素子S1がONに切り換わると、電圧Vsは急激に上昇して電圧Vddに達する。同様に、電圧Vsが電圧0に低下している途中でスイッチ素子S2がONに切り換わると、電圧Vsは急激に低下して電圧0に達する。図14で黒塗りの矢印を用いて示した箇所は、このように、デッドタイム期間中に電荷の回生及び充電が完了しなかったために電力損失が発生している箇所である。
次に、信号HO,LOを考慮して駆動信号Vg1、Vg2を出力する場合について、図13を用いて説明する。信号HO,LOを考慮する場合は、制御信号Vcが「H」に切り換わった後、信号HOが「H」になって初めて駆動信号Vg1が「H」となる。その結果、制御信号Vcのデューティー比が上限付近や下限付近となる場合のように、標準的なデッドタイム期間内では寄生容量C1,C2での電荷の回生および充電が完了できない場合でも、電荷の回生および充電が完了するまでデッドタイム期間が延長されることになる。そして、信号HOが「H」になったら、駆動信号Vg1が「H」になってスイッチ素子S1がONに切り換わる。
尚、還流ダイオードD1に電流が流れてから信号HOを「H」にするまでには、クランプ回路111やコンパレーター113、フォトカプラー115が動作するための遅れ時間が発生する。また、信号HOが「H」に切り換わってから、スイッチ駆動部120が駆動信号Vg1を「H」に切り換えるためにも、スイッチ駆動部120の内部で遅れ時間が発生する。このため、寄生容量C1,C2での電荷の回生および充電が完了した後、しばらく立ってからスイッチ素子S1がONに切り換わるので、この間では、還流ダイオードD1を電流が流れ続けることになる。その結果、図13中に白抜きの矢印で示したように、電圧Vsは、還流ダイオードD1での電圧降下分だけ、電圧Vddよりも高い電圧となる。
制御信号Vcが「H」から「L」に切り換わる場合も同様である。以下、簡単に説明すると、制御信号Vcが「L」に切り換わった後、信号LOが「H」になって初めて駆動信号Vg2が「H」となる。その結果、制御信号Vcのデューティー比が上限付近や下限付近となる場合には、寄生容量C1,C2での電荷の回生および充電が完了するまでデッドタイム期間が延長される。そして、信号LOが「H」になったら、駆動信号Vg2が「H」になってスイッチ素子S2がONに切り換わる。また、還流ダイオードD2に電流が流れても、実際にスイッチ素子S2がONになるまでには、クランプ回路112やコンパレーター114、フォトカプラー116の動作時間や、スイッチ駆動部120での動作時間の分だけ遅くなる。このため、この時間の間は還流ダイオードD2を電流が流れ続けることになり、その結果、図13中に白抜きの矢印で示したように、電圧Vsは、還流ダイオードD2での電圧降下分だけ、電圧0よりも低い電圧となる。
以上に説明したように、第1実施例の電圧出力回路100では、制御信号Vcが「L」から「H」になった場合には、信号HOが「H」になったことを確認してから駆動信号Vg1を「H」に切り換えている。同様に、制御信号Vcが「H」から「L」になった場合には、信号LOが「H」になったことを確認してから駆動信号Vg2を「H」に切り換えている。このため、たとえ制御信号Vcのデューティー比が上限付近や下限付近となる場合でも、寄生容量C1,C2での電荷の回生や充電が完了してからスイッチ素子S1,S2を切り換えることができるので、スイッチ素子S1あるいはスイッチ素子S2で電力損失が発生することを回避することが可能となる。
尚、以上の説明では、制御信号Vcのデューティー比が上限付近や下限付近となる条件で、デッドタイム期間が延長される場合について説明した。しかし、上述した第1実施例では、制御信号Vcが「H」になった後、信号HOが「H」になったら駆動信号Vg1が「H」に切り換わる。同様に、制御信号Vcが「L」になった後、信号LOが「H」になったら駆動信号Vg2が「H」に切り換わる。従って、たとえば、制御信号Vcのデューティー比が50%付近の値となる場合のように、平滑フィルター104のコイルで大きな逆起電力が発生する結果、寄生容量C1、C2での電荷の回生および充電が短時間で完了する場合には、デッドタイム期間が短縮される場合も起こり得る。寄生容量C1、C2での電荷の回生および充電が完了した後に、還流ダイオードD1や還流ダイオードD2を流れる電流は、無駄に流れる電流であって電力損失を発生させるので、このような電流は少ない方がよい。従って、制御信号Vcのデューティー比が50%付近となる場合などのように、寄生容量C1、C2での電荷の回生および充電が短時間で完了する条件では、デッドタイム期間を短縮してやれば、電力損失を更に抑制することが可能となる。
B.第2実施例 :
上述した第1実施例では、還流ダイオードD1あるいは還流ダイオードD2に電流が流れる条件になったこと(還流ダイオードD1あるいは還流ダイオードD2に順方向の電圧がかかったこと)を確認して、信号HOあるいは信号LOを「H」にするものとして説明した。しかし、還流ダイオードD1あるいは還流ダイオードD2に電流が流れる条件になったことを確認してから信号HOあるいは信号LOを「H」にしたのでは、クランプ回路111,112や、コンパレーター113,114、フォトカプラー115,116、更にはスイッチ駆動部120での動作時間の分だけ、スイッチ素子S1あるいはスイッチ素子S2をONに切り換えるのが遅くなる。その結果、還流ダイオードD1あるいは還流ダイオードD2に無駄な電流が流れて電力損失を発生させる。そこで、動作遅れに相当する時間だけ、早めに信号HOあるいは信号LOを「H」に切り換えるようにしても良い。以下では、このような第2実施例について説明する。尚、第2実施例では、前述した第1実施例と異なる構成についてのみ説明し、同様な構成については説明を省略する。
B−1.第2実施例の回路構成の詳細 :
図15は、第2実施例の電圧出力回路100に搭載された電圧差監視部110の詳細な構成を示した説明図である。図11を用いて前述した第1実施例の電圧差監視部110では、電圧Vsと電圧Vddとをクランプ回路111に入力し、電圧Vsと電圧0(グランドGND)とをクランプ回路112に入力していた。これに対して第2実施例の電圧差監視部110では、クランプ回路111には、電圧Vddを抵抗分圧した電圧と、電圧Vsとが入力されている。また、クランプ回路112には、電圧Vsと、グランドGNDよりも高い電圧Eとが入力されている。
このためコンパレーター113では、電圧Vddよりも低い電圧と、電圧Vsとを比較することになる。このため、制御信号Vcが「L」から「H」に切り換わる際には、電圧Vsが電圧Vddまで上昇するよりも前に、信号HOが「H」に切り換わる。従って、電圧Vddを抵抗分圧する値を適切に設定しておけば、還流ダイオードD1にちょうど電流が流れ始めるタイミングで、スイッチ素子S1をONに切り換えることができる。
また、コンパレーター114では、電圧0(グランドGND)よりも高い電圧Eと、電圧Vsとを比較している。このため、制御信号Vcが「H」から「L」に切り換わる際には、電圧Vsが電圧0まで低下するよりも前に、信号LOが「H」に切り換わる。従って、電圧Eを適切に設定しておけば、還流ダイオードD2にちょうど電流が流れ始めるタイミングで、スイッチ素子S2をONに切り換えることができる。
その結果、第2実施例では、寄生容量C1,C2での電荷の回生や充電が完了してから、スイッチ素子S1あるいはスイッチ素子S2がONに切り換わるまでの間に、還流ダイオードD1あるいは還流ダイオードD2に無駄な電流が流れて電力損失が発生することを回避することが可能となる。尚、電圧Vddを抵抗分圧して発生させた電圧が、本発明の「第1の電圧」に対応し、グランドGNDの電圧よりも高い電圧Eが、本発明の「第2の電圧」に対応する。
また、第2実施例では、コンパレーター113は、電圧Vddを抵抗分圧した電圧と、電圧Vsとを比較しているので、スイッチ素子S1がONに切り換わった後は、スイッチ素子S1がOFFとなってスイッチ素子S2がONになるまで、信号HOが「H」の状態で維持される。この点で、スイッチ素子S1がONに切り換わると信号HOが「H」から「L」に切り換わってしまう第1実施例とは異なっている。また、コンパレーター114は、グランドGNDよりも高い電圧Eと、電圧Vsとを比較しているので、スイッチ素子S2がONに切り換わった後は、スイッチ素子S2がOFFとなってスイッチ素子S1がONになるまでは、信号LOが「H」の状態で維持される。この点で、スイッチ素子S2がONに切り換わると信号LOが「H」から「L」に切り換わってしまう第1実施例とは異なっている。
B−2.第2実施例のスイッチ駆動方法 :
図16は、第2実施例のスイッチ駆動部120がスイッチ素子S1,S2を駆動するために行うスイッチ駆動処理のフローチャートである。第2実施例のスイッチ駆動処理も、図12を用いて前述した第1実施例のスイッチ駆動処理とほぼ同様であるが、第2実施例の信号HOあるいは信号LOは、スイッチ素子S1あるいはスイッチ素子S2がONに切り換わった後も「H」のままで維持されるので、これに関連する部分の処理が異なっている。以下では、この相違点を中心として第2実施例のスイッチ駆動処理について説明する。
第2実施例のスイッチ駆動処理でも、先ず始めに、SD信号が「H」であるか否かを判断し(ステップS200)、SD信号が「H」であれば(ステップS200:yes)、駆動信号Vg1および駆動信号Vg2として何れも「L」を出力する(ステップS202)。これに対して、SD信号が「H」ではない場合は(ステップS200:no)、ST信号が「H」か否かを判断する(ステップS204)。その結果、ST信号が「H」ではなかった場合は(ステップS204:no)、制御信号Vcが「H」か否かを判断し(ステップS206)、制御信号Vcが「H」であれば(ステップS206:yes)、駆動信号Vg1の出力を「H」、駆動信号Vg2の出力を「L」とする(ステップS208)。また、制御信号Vcが「L」であった場合は(ステップS206:no)、駆動信号Vg1の出力を「L」、駆動信号Vg2の出力を「H」とする(ステップS210)。
一方、ST信号が「H」であった場合は(ステップS204:yes)、制御信号Vcが「H」であるか否かを判断する(ステップS212)。その結果、制御信号Vcが「H」であった場合は(ステップS212:yes)、駆動信号Vg2の出力を「L」とする(ステップS214)。続いて、信号HOが「H」になっているか否かを判断し(ステップS216)、信号HOが「H」になっていれば(ステップS216:yes)、駆動信号Vg1を「H」にする(ステップS218)。逆に、信号HOが「H」になっていなければ(ステップS216:no)、駆動信号Vg1を「L」とする(ステップS220)。上述したように第2実施例では、信号HOが「H」になった後は、制御信号Vcが「L」に切り換わらない限り「H」の状態が維持される。このため、制御信号Vcが「H」の場合には、信号HOの出力を確認するだけで直ちに駆動信号Vg1の出力を決定することができる。
以上では、制御信号Vcが「H」であった場合(ステップS212:yes)について説明した。これに対して制御信号Vcが「L」であった場合は(ステップS212:no)、駆動信号Vg1の出力を「L」とする(ステップS222)。続いて、信号LOが「H」になっているか否かを判断し(ステップS224)、信号LOが「H」になっていれば(ステップS224:yes)、駆動信号Vg2を「H」にする(ステップS228)。逆に、信号LOが「H」になっていなければ(ステップS224:no)、駆動信号Vg2を「L」とする(ステップS226)。上述したように第2実施例では、信号LOが「H」になった後は、制御信号Vcが「H」に切り換わらない限り「H」の状態が維持されるので、制御信号Vcが「H」の場合には、信号LOの出力を確認するだけで直ちに駆動信号Vg2の出力を決定することができる。以上のようにして駆動信号Vg1、Vg2を出力したら、処理の先頭に戻って、再びSD信号を確認した後(ステップS200)、上述した続く一連の処理を繰り返す。
以上に説明したように、第2実施例においても上述した第1実施例と同様に、制御信号Vcが「L」から「H」に切り換わっても直ちには駆動信号Vg1を「H」にはせずに、信号HOが「H」になったことを確認してから、駆動信号Vg1を「H」にする。また、制御信号Vcが「H」から「L」に切り換わった場合には、信号LOが「H」になったことを確認してから、駆動信号Vg2を「H」にする。このため、寄生容量C1の充電および寄生容量C2での回生が完了するまではデッドタイム期間が延長されるので、寄生容量C1,C2での電荷の回生および充電が完了してからスイッチ素子S1あるいはスイッチ素子S2がONに切り換えられる。その結果、寄生容量C1あるいは寄生容量C2に蓄えられた電荷によって、スイッチ素子S1あるいはスイッチ素子S2で電力損失が発生することを回避することが可能となる。
図17は、第2実施例のスイッチ駆動部120が信号HO,LOを考慮してスイッチ素子S1,S2を駆動する様子を示した説明図である。第2実施例のスイッチ駆動部120でも、制御信号Vcが「H」に切り換わった後、信号HOが「H」になって初めて駆動信号Vg1が「H」となる。その結果、図13を用いて前述した第1実施例と同様に、寄生容量C1,C2での電荷の回生や充電が完了する前に、スイッチ素子S1あるいはスイッチ素子S2がONに切り換わることがない。このため、寄生容量C1や寄生容量C2に蓄えられていた電荷によって、スイッチ素子S1あるいはスイッチ素子S2で電力損失が発生することを回避することができる。
また、図17に示した第2実施例では、図13を用いて前述した第1実施例とは異なって、還流ダイオードD1や還流ダイオードD2に電流が流れ始めるより前に(寄生容量C1,C2での電荷の回生や充電が完了する前に)、コンパレーター113、コンパレーター114の出力をHigh Levelに切り換えている。このため、還流ダイオードD1や還流ダイオードD2に電流が流れ始めるタイミング(寄生容量C1,C2での電荷の回生や充電が完了するタイミング)で、スイッチ素子S1あるいはスイッチ素子S2をONに切り換えることができる。その結果、還流ダイオードD1あるいは還流ダイオードD2を無駄に流れる電流をほとんど無くすことができるので、より一層電力損失を抑制することが可能となる。
尚、以上に説明した第2実施例においても、制御信号Vcが「H」になった後、信号HOが「H」になったら駆動信号Vg1が「H」に切り換わる。同様に、制御信号Vcが「L」になった後、信号LOが「H」になったら駆動信号Vg2が「H」に切り換わる。従って、たとえば、制御信号Vcのデューティー比が50%付近の値となる場合のように、平滑フィルター104のコイルで大きな逆起電力が発生する結果、寄生容量C1、C2での電荷の回生および充電が短時間で完了する場合には、デッドタイム期間が短縮される場合も起こり得る。従って、制御信号Vcのデューティー比が50%付近となる場合などのように、寄生容量C1、C2での電荷の回生および充電が短時間で完了する条件では、デッドタイム期間を短縮することによって、電力損失を更に抑制することも可能となる。
C.第3実施例 :
上述した第1実施例および第2実施例では、電圧差監視部110が、クランプ回路111,112や、コンパレーター113,114、フォトカプラー115,116などによって構成されているものとして説明した。しかし、ADコンバーター117や、デジタルコンパレーター118などを用いて電圧差監視部110を構成しても良い。尚、第3実施例では、前述した実施例と異なる構成についてのみ説明し、同様な構成については説明を省略する。
図18は、第3実施例の電圧出力回路100に搭載された電圧差監視部110の詳細な構成を示した説明図である。第3実施例の電圧差監視部110では、電源Vddの発生する電圧Vddと、電圧Vsと、グランドGNDの電圧0とが、ADコンバーター117に入力されている。そして、電圧Vddをデジタル化したデータDVddと、電圧Vsをデジタル化したデータDVsと、グランドGNDの電圧0をデジタル化したデータDGNDとが、デジタルコンパレーター118に入力される。そして、デジタルコンパレーター118は、DVsとDVddとを比較してDVsの方が大きければ、信号HOを「H」にする。また、DVsとDGNDとを比較して、DGNDの方が大きければ、信号LOを「H」にする。スイッチ駆動部120は、このようにしてデジタルコンパレーター118から出力された信号HO,LOを受け取ると、前述した第1実施例と同様にして駆動信号Vg1、Vg2を出力する。このようにすれば、前述した第1実施例と同様の効果を得ることができる。尚、ADコンバーター117でアナログ信号をデジタルデータに変換する際、あるいはデジタルコンパレーター118で信号HO,LOを出力する際には時間遅れが発生するが、前述した第1実施例あるいは第2実施例の電圧差監視部110においても、クランプ回路111,112や、コンパレーター113,114、フォトカプラー115,116で時間遅れが発生している。従って、第3実施例では、前述した第1実施例あるいは第2実施例と比較して、特に時間遅れが増加するわけではない。
あるいは、デジタルコンパレーター118では、DVddから一定値を減算して、その減算値とDVsとを比較した結果に応じて、信号HOを出力しても良い。同様に、DGNDに一定値を加算して、その加算値とDVsとを比較した結果に応じて、信号LOを出力しても良い。このようにしてデジタルコンパレーター118から出力された信号HO,LOに基づいて、前述した第2実施例のスイッチ駆動部120と同様にして駆動信号Vg1,Vg2を出力しても良い。こうすれば、前述した第2実施例と同様の効果を得ることができる。また、デジタルコンパレーター118を用いて信号HO,LOを出力する場合、DVddから減算する値や、DGNDに加算する値を容易に変更することができる。このため、ADコンバーター117でアナログ信号をデジタルデータに変換するために発生する時間遅れや、スイッチ駆動部120で駆動信号Vg1、Vg2を出力するために生じる時間遅れに合わせて、減算する値や加算する値を調整することで、ちょうど寄生容量C1,C2での電荷の回生および充電が完了したタイミングで、スイッチ素子S1あるいはスイッチ素子S2がONに切り換わるようにすることが可能となる。
D.適用例 :
上述した第1実施例ないし第3実施例の電圧出力回路100は、制御信号Vcのデューティー比によらず、高い電力効率で出力電圧Voutを出力することができる。このため、圧電素子などの容量性負荷に対して駆動信号COMを印加するための容量性負荷駆動回路200に組み込んで、好適に使用することができる。
D−1.第1の適用例 :
図19は、本実施例の電圧出力回路100を組み込んで構成した容量性負荷駆動回路200の回路構成を示した説明図である。図示されているように容量性負荷駆動回路200は、駆動信号COMの基準となる駆動波形信号(以下、WCOM)を出力する駆動波形信号発生回路210と、駆動波形信号発生回路210から受け取ったWCOMと後述する帰還信号(以下、dCOM)とに基づいて誤差信号(以下、dWCOM)を出力する演算回路220と、演算回路220からのdWCOMをパルス変調して変調信号(以下、MCOM)に変換する変調回路230と、上述した本実施例の電圧出力回路100とを備えている。容量性負荷駆動回路200に組み込まれた電圧出力回路100は、変調回路230からのMCOMを、前述した制御信号Vcとして受け取り、出力電圧Voutを駆動信号COMとして出力する。そして、出力されたCOMは、後述する圧電素子316に印加される。また、COMは、位相進み補償回路260で、位相を進ませる補償(位相進み補償)が加えられた後、dCOM(帰還信号)として、演算回路220に負帰還される。
図19に例示した容量性負荷駆動回路200では、COMに対して位相進み補償を加えたdCOMを負帰還させているが、負帰還させない構成とすることも可能である。この場合は、演算回路220や位相進み補償回路260が不要となる。その結果、変調回路230は、dWCOMではなく、WCOMに対してパルス変調を行うことになる。
容量性負荷駆動回路200に組み込まれた駆動波形信号発生回路210は、WCOMをデジタルデータとして記憶している波形メモリーや、D/A変換器を備えており、波形メモリーから読み出したデータをD/A変換器でアナログ信号に変換することによって、WCOM(駆動波形信号)を生成する。演算回路220では、こうして出力されたWCOMからdCOMを減算した信号を、dWCOM(誤差信号)として出力する。
変調回路230では、dWCOMを一定周期(変調周期)の三角波と比較することによって、パルス波状のMCOM(変調信号)を生成(パルス変調)する。そして、変調回路230によって得られたMCOMは、前述した制御信号Vcとして電圧出力回路100に入力される。その結果、電圧出力回路100からは、WCOMに対応する出力電圧VoutがCOMとして出力される。
このような構成では、COMの成分に、電圧出力回路100内に含まれる平滑フィルター104の共振周波数付近の成分が存在すると、共振を起こしてCOMを歪ませる恐れがあるが、COMを負帰還しているので、共振によってCOMが歪むことを回避することができる。また、平滑フィルター104によって位相が遅れたCOMを負帰還させると、制御系が不安定になり易いが、コンデンサーと抵抗とによって構成された位相進み補償回路260を通して位相を進ませる補償(位相進み補償)を行ってから負帰還させているので、制御が不安定になることもない。
図20は、上述した容量性負荷駆動回路200を、流体噴射装置300の圧電素子を駆動するために適用した例が示されている。例示した流体噴射装置300は、大きく分けると、液体を噴射するための脈動発生部310と、脈動発生部310に向けて流体を供給する流体供給手段320(供給ポンプ)と、脈動発生部310および流体供給手段320の動作を制御する制御部330などから構成されている。流体噴射装置300は、パルス状の液体を脈動発生部310から噴射することによって、生体組織を切除または切開することに使用する手術具としてのウォータージェットメスの一例である。
脈動発生部310は、金属製の第2ケース313に、同じく金属製の第1ケース314を重ねてネジ止めした構造となっており、第2ケース313の前面には円管形状の流体噴射管312が立設され、流体噴射管312の先端にはノズル311が挿着されている。第2ケース313と第1ケース314との合わせ面には、薄い円板形状の流体室315が形成されており、流体室315は、流体噴射管312を介してノズル311に接続されている。また、第1ケース314の内部には、積層型の圧電素子316が設けられている。脈動発生部310と制御部330とは配線ケーブル350によって接続されており、制御部330内の容量性負荷駆動回路200からは、配線ケーブル350を介して駆動信号COMが圧電素子316に供給される。また、配線ケーブル350はコネクターによって脈動発生部310に取り付けられている。
流体供給手段320は、噴射しようとする液体(水、生理食塩水、薬液など)が貯められた流体容器323から、第1接続チューブ321を介して液体を吸い上げた後、第2接続チューブ322を介して脈動発生部310の流体室315内に供給する。このため、流体室315は液体で満たされた状態となっている。そして、制御部330から駆動信号を圧電素子316に印加すると、圧電素子316が伸張して流体室315が押し縮められ、その結果、流体室315内に充満していた液体が、ノズル311からパルス状に噴射される。
前述した第1実施例ないし第3実施例の電圧出力回路100は、高い電力効率で出力電圧Vout(すなわち、COM)を出力することができる。そして、このような電圧出力回路100を組み込んで構成した容量性負荷駆動回路200は、精度の良いCOMを出力することができる。このため、圧電素子316を適切に駆動して、所望の特性のパルス状の液体を、ノズル311から噴射することが可能となる。
D−2.第2の適用例 :
上述した第1の適用例では、流体噴射装置300の圧電素子316を駆動するものとして説明した。インクジェットプリンターでインクを噴射する噴射ノズルは、アクチュエーターとして圧電素子を利用しているので、噴射ノズルの圧電素子を駆動する容量性負荷駆動回路200としても好適に適用することができる。
図21は、インクジェットプリンターに搭載された噴射ヘッド400の大まかな内部構造を示した説明図である。噴射ヘッド400の底面(印刷媒体2に向いている面)には、インクを噴射する複数の噴射ノズル402が設けられている。噴射ノズル402はそれぞれインク室404に接続されており、インク室404には、図示しないインクカートリッジから供給されたインクが満たされている。インク室404の上には圧電素子406が設けられており、圧電素子406にCOM(駆動信号)を印加すると、圧電素子406が変形してインク室404を加圧することによって、噴射ノズル402からインクが噴射される。
COM(駆動信号)は、インクジェットプリンターに搭載されたプリンター制御回路450の制御の下で容量性負荷駆動回路200によって生成される。また、生成されたCOMは、ゲートユニット460を介して圧電素子406に供給される。ゲートユニット460は、複数のゲート素子462が並列に接続された回路ユニットであり、ゲート素子462は、プリンター制御回路450からの制御の下で、個別に導通状態または切断状態とすることが可能である。従って、容量性負荷駆動回路200から出力されたCOMは、プリンター制御回路450によって予め導通状態に設定されたゲート素子462だけを通過して、対応する圧電素子406に印加され、その噴射ノズル402からインクが噴射される。
ここで、圧電素子406に印加されるCOMは、図22に示すような波形の信号が用いられる。すなわち、インクを噴射する前には、圧電素子406を初期状態から一旦収縮させるために、COMの電圧が上昇し、その後、圧電素子406を大きく伸張させるために、COMが大きく低下する。その結果、初期状態の電圧(初期電圧)よりも低くなった後、再び上昇して、初期電圧に戻る波形となっている。このような波形となっている関係上、噴射ヘッド400がインクを噴射していない待機状態でも、圧電素子406には比較的低い初期電圧(すなわち、制御信号Vcのデューティー比が小さな値となる電圧)のCOMが印加されている。従って、このようなCOMを出力する容量性負荷駆動回路200に、上述した第1実施例ないし第3実施例の電圧出力回路100を適用すれば、待機状態中にも電力損失が発生することを回避することが可能となる。
以上、各種の実施例の電圧出力回路100、および電圧出力回路100の適用例について説明したが、本発明は上記すべての実施例や適用例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。例えば、薬剤や栄養剤を内包するマイクロカプセルを形成することに用いる流体噴射装置など、医療機器を含む様々な電子機器を駆動するための容量性負荷駆動回路に対しても、本発明の電圧出力回路100を好適に適用することができ、上述したように、スイッチ素子の切り換えにともなう電力損失の発生を抑制することが可能であるため、電力を高効率に使用する流体噴射装置を提供することができる。
尚、上述した実施例では、スイッチS1と還流ダイオードD1、スイッチS2と還流ダイオードD2はそれぞれ異なる素子の場合の説明をしたが、ひとつの素子がスイッチと還流ダイオードを含んでいる場合においても適用することができる。例えば、スイッチとしてMOSFETを用いた場合には、MOSFETに内蔵される寄生ダイオードが還流ダイオードの役割を果たすので、MOSFETはひとつの素子でスイッチと還流ダイオードの二つの機能を有する。この場合は、スイッチの他に還流ダイオードを別途設ける必要がないので、本発明においても好適である。