[転写ベルト]
本実施の形態に係る転写ベルトの一例を図1Aおよび図1Bに示す。転写ベルト1の形状は、図1Aに示されるように、無端状である。転写ベルト1は、図1Bに示されるように、基層2、弾性層3および表面層4によって構成されている。弾性層3は、基層2上に配置され、表面層4は、弾性層3上に配置されている。
なお、本発明において、転写ベルトの形状は、無端状に限定されず、シート状であってもよい。また、本発明において、当該転写ベルトは、弾性層と表面層とがこの順で重なっていれば、基層のような、弾性層および表面層以外の他の層をさらに有していてもよい。
[基層]
基層2は、弾性層3および表面層4などの他の機能的な層を支持するための層である。基層2の形状は、無端ベルト状である。基層2は、単層構造を有していてもよいし、2層以上の複数層構造を有していてもよい。基層2の厚さは、機械的強度、画質、製造コストなどの観点から、50〜250μmであることが好ましい。
基層2の材料は、転写ベルトの用途や形態などに応じた、耐久性や柔軟性などの所期の物性を有する公知の材料から適宜に選ばれる。基層2の材料の例には、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合、ポリ塩化ビニル、アセテート樹脂、ABS樹脂、ポリエステルおよびポリアミドが含まれる。基層2の材料は、ポリイミドであることが、耐久性の観点から好ましい。
基層2は、導電性を有することが好ましい。導電性を有する基層2は、上記材料の樹脂中に導電剤を分散させることによって構成される。
上記導電剤は、一種でもそれ以上でもよい。導電剤の例には、イオン導電剤および電子導電剤が含まれる。イオン導電剤の例には、ヨウ化銀、ヨウ化銅、過塩素酸リチウム、過塩素酸リチウム、過塩素酸リチウム、トリフロオロメタンスルホン酸リチウム、有機ホウ素錯体のリチウム塩、リチウムビスイミド((CF3SO2)2NLi)およびリチウムトリスメチド((CF3SO2)3CLi)が含まれる。電子導電剤の例には、銀や銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、ステンレス鋼などの金属;および、グラファイトや、カーボンブラック、カーボンナノファイバーカーボンナノチューブなどの炭素化合物;が含まれる。基層2中の上記導電剤の含有量は、例えば、基層2の所期の導電性と導電剤の種類とに応じて適宜に決めることができる。
[弾性層]
弾性層3は、弾性を有する層であり、転写時における記録媒体への転写ベルト1の接触性を高める。弾性層3の厚さは、機械的強度、画質、製造コストなどの観点から、150〜500μmであることが好ましい。
弾性層3を構成する材料は、一種でもそれ以上でもよい。当該材料の例には、ゴム、エラストマーおよび樹脂が含まれる。当該材料は、ゴム材料であること好ましく、架橋系のゴム材料であることが、弾性層3の圧縮永久ひずみを十分に小さくする観点からより好ましい。上記架橋系のゴム材料の例には、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)およびエピクロルヒドリンゴム(ECO)が含まれる。
上記の材料の種類や、当該材料の架橋度などを適宜に調整することによって、弾性層3の弾性を調整することが可能である。たとえば、弾性層3のベルト硬度は、厚手の記録媒体に対しても十分な転写性を発現する観点から、40〜90°であることが好ましく40〜85°であることがより好ましい。当該ベルト硬度が低すぎると、弾性層3は変形しやすくなるが、表面層4が弾性層3と同様に十分に変形することができず、表面層4にクラックが発生することがあり、あるいは、転写ベルト1の転写性が不十分となることがある。上記ベルト硬度が高すぎると、弾性層3の変形が不十分となって、転写ベルト1の転写性が不十分となることがある。
弾性層3のベルト硬度は、例えば、高分子計器株式会社製のマイクロゴム硬度計MD−1 capaを用い、弾性層3のシートの表面をタイプAの押針により押し、JIS K6253−3で規定される方法に準じて、同規格におけるデュロメータ硬さとして、求められる。上記弾性層3のシートは、例えば転写ベルト1を溶剤に浸漬して基層2を剥がし、例えばイオンビームで表面層4が削り取って所期の厚さのシートを形成することによって得られる。測定用のサンプルには、例えば、JIS K6251で規定されているダンベル状 3号形に切り取られた弾性層3のシートが用いられる。上記溶剤の例には、上記浸漬によって弾性層3の弾性に実質的な影響を及ぼさない有機溶剤が含まれ、具体的には、テトラヒドロフラン、アセトンおよびエタノールが含まれる。
また、弾性層3の粘弾性率は、65〜90%であることが、転写ベルト1における耐クラック性および転写性向上の観点から好ましい。
上記粘弾性率は、弾性層3の、粘性ひずみと弾性ひずみとの和に対する粘性ひずみの割合(%)であり、例えば、セイコーインスツル株式会社製の粘弾性スペクトロメータ EXSTAR DMS6100を用いて測定される動的粘弾性から求められる。当該測定のための試料には、上記の測定用試料を用いることができる。
弾性層3は、本発明の効果が得られる範囲において、他の成分をさらに含有していてもよい。当該他の成分の例には、上記導電剤、離型剤および難燃剤が含まれる。
[表面層]
表面層4は、転写ベルト1の摩耗を抑制し、転写ベルト1の耐久性を高めるための層である。
表面層4の破断伸度は、7〜60%である。表面層4の破断伸度が7%よりも低いと、耐クラック性または転写性が不十分となることがあり、表面層4の破断伸度が60%を超えると、耐摩耗性が不十分となることがある。上記の範囲において、表面層4の破断伸度が低いと耐摩耗性が向上する傾向にあり、高いと耐クラック性または転写性が向上する傾向にある。
また、表面層4の引張弾性率は、100〜1000MPaである。表面層4の引張弾性率が100MPaよりも小さいと、耐摩耗性が不十分となることがあり、表面層4の引張弾性率が1000MPaを超えると、耐クラック性または転写性が不十分となることがある。上記の範囲において、表面層4の引張弾性率が高いと耐摩耗性が向上する傾向にある。
表面層4の破断伸度および引張弾性率は、例えば、後述する、表面層4に伸縮性を付与する硬化性化合物(ポリウレタン(メタ)アクリレートなど)の種類または含有量(当該硬化性化合物に由来する成分の種類または表面層4における含有量)に応じて発現される。
表面層4の破断伸度および引張弾性率は、いずれも、JIS K7161で規定されている引張試験機で測定することができる。当該引張試験機は、ISO5893に従う装置である。表面層4の破断伸度および引張弾性率の測定用の試料には、弾性層3および表面層4の積層体の上記ダンベル状 3号形に切り取られたもの、が用いられる。測定装置には、株式会社エーアンドディー製の引張試験機が用いられ、測定条件は、例えば、測定環境が23℃、50%RHであり、引張速度が2mm/分である。
表面層4の破断伸度は、下記式から算出される。
破断伸度EB(%)=(L−L0)/L0×100
上記式中、L0は、試験前の試料の長さであり、Lは、表面層4破断時の試料の長さである。表面層4破断時とは、試料を引張始めてから表面層4に亀裂が初めて入ったとき、である。
表面層4の引張弾性率ESLは、上記積層体の引張弾性率EMLから、弾性層3のシートの引張弾性率EELを引くことによって求められる。積層体の引張弾性率EMLおよび弾性層3のシートの引張弾性率EELは、いずれも、上記積層体の試料および上記弾性層3のシートの試料を用いてISO527−1によりそれぞれ測定された、引張ひずみが0.5〜2.5%間の応力−ひずみ線分の傾きである。
ESL(MPa)=EML−EEL
EML(MPa)=(ρML2.5−ρML0.5)/(εML2.5−εML0.5)
EEL(MPa)=(ρEL2.5−ρEL0.5)/(εEL2.5−εEL0.5)
上記式中、ESLは、表面層4の引張弾性率であり、EMLは、上記積層体の引張弾性層であり、EELは、上記弾性層3のシートの引張弾性率である。また、ρML2.5は、引張ひずみが2.5%のときの上記積層体における応力であり、ρML0.5は、引張ひずみが0.5%のときの上記積層体における応力であり、εML2.5は、引張ひずみが2.5%のときの上記積層体におけるひずみであり、εML0.5は、引張ひずみが0.5%のときの上記積層体におけるひずみである。さらに、ρEL2.5は、引張ひずみが2.5%のときの上記弾性層3のシートにおける応力であり、ρEL0.5は、引張ひずみが0.5%のときの上記弾性層3のシートにおける応力であり、εEL2.5は、引張ひずみが2.5%のときの上記弾性層3のシートにおけるひずみであり、εEL0.5は、引張ひずみが0.5%のときの上記弾性層3のシートにおけるひずみである。
表面層4の厚さは、機械的強度、画質、製造コストなどの観点から、1.0〜5.0μmであることが好ましい。表面層4の厚さが薄すぎると、機械的強度が不十分となることがある。表面層4の厚さが厚すぎると、製造コストが上昇し、また、機械的強度が高すぎて記録媒体への転写ベルト1の密着が不十分となり、形成される画像の画質が不十分となることがある。表面層4の厚さは、公知の手法によって測定することが可能であり、後述する表面層用の塗料の塗布方法や塗布回数などによって調整することが可能である。
表面層4の材料は、弾性層3を保護するのに十分な機械的強度と、記録媒体に対する弾性層3の変形に対応して変形するのに十分な可撓性とを有する表面層4を構成する材料から、適宜に決めることができる。このような観点から、表面層4は、硬化性組成物の硬化物によって構成されていることが好ましい。
上記硬化性組成物は、例えば、活性エネルギー線が照射されることによって、あるいは加熱によって硬化する組成物である。上記硬化物は、活性エネルギー線の照射によって硬化した成分である。たとえば、ラジカル重合性官能基を有する化合物は、上記硬化性組成物に含まれ、そのラジカル重合体は、上記硬化物である。当該硬化性組成物の例には、多官能(メタ)アクリレートおよびポリウレタン(メタ)アクリレートを含有する組成物が含まれる。
[多官能(メタ)アクリレート]
上記多官能(メタ)アクリレートは、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する。上記多官能(メタ)アクリレートは、表面層4の耐摩耗性、強靱性、密着性を発現させるのに好適である。
多官能(メタ)アクリレートの数平均分子量は、より高い密度の硬化した樹脂を形成し、高い強度の表面層4を得る観点から、1,000以下であることが好ましく、200〜600であることがより好ましい。多官能(メタ)アクリレートの数平均分子量は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography(GPC))法により測定される。
上記硬化性組成物中の多官能(メタ)アクリレートの含有量は、20〜60質量%であることが好ましい。多官能(メタ)アクリレートは、一種でもそれ以上でもよい。
上記多官能(メタ)アクリレートの例には、2官能単量体および3官能以上の多官能単量体が含まれる。上記多官能(メタ)アクリレートが上記多官能単量体を含むことは、表面層4の機械的強度を高める観点から好ましい。
上記2官能単量体の例には、ビス(2−アクリロキシエチル)−ヒドロキシエチル−イソシアヌレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、およびウレタンアクリレートが含まれる。
上記多官能単量体の例には、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、ウレタンアクリレート、および、多価アルコールと多塩基酸および(メタ)アクリル酸とから合成されるエステル化合物(例えばトリメチロールエタン/コハク酸/アクリル酸=2/1/4モルから合成されるエステル化合物)が含まれる。
[ポリウレタン(メタ)アクリレート]
上記ポリウレタン(メタ)アクリレートは、ウレタン結合を有し、かつ、1分子中に1個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する高分子化合物である。ポリウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、主鎖にウレタン結合を有し、1個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基が主鎖の末端に結合し、または主鎖から分枝している高分子化合物である。上記ポリウレタン(メタ)アクリレートは、表面層4に伸縮性を付与する硬化性化合物の一種であり、弾性層3の変形に対応する適度な可撓性(伸縮性)を表面層4に付与するのに好適である。
上記ポリウレタン(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、表面層4の可撓性の観点から、3000以上であることが好ましい。一方、上記ポリウレタン(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、その効果が頭打ちになる観点、および、製造時における硬化性組成物の取り扱いの容易さの観点から、30000以下であることが好ましい。
上記ポリウレタン(メタ)アクリレートの数平均分子量は、10000以上であることが好ましく、10000〜20000であることがより好ましい。
上記ポリウレタン(メタ)アクリレートの重量平均分子量および数平均分子量は、いずれも、GPCにより測定することが可能である。
上記ポリウレタン(メタ)アクリレートの破断伸度は、転写ベルト1の耐クラック性の観点から、40%以上であることが好ましく、150%以上であることがより好ましい。一方、上記ポリウレタン(メタ)アクリレートの破断伸度は、その効果が頭打ちになる観点、および、表面層4の機械的強度の低下を抑制する観点から、350%以下であることが好ましい。
上記ポリウレタン(メタ)アクリレートの引張強度は、転写ベルト1の耐摩耗性の観点から、4MPa以上であることが好ましく、40MPa以上であることがより好ましい。一方、上記ポリウレタン(メタ)アクリレートの引張強度は、その効果が頭打ちになる観点、および、表面層4の可撓性の観点から、100MPa以下であることが好ましい。
また、上記ポリウレタン(メタ)アクリレートの伸び率は、250%以上であることが好ましく、250〜400%であることがより好ましい。
上記の物性を有する上記ポリウレタン(メタ)アクリレートは、表面層4に上記可撓性および耐傷性の両方を付与するのに好適である。上記ポリウレタン(メタ)アクリレートの破断伸度および引張強度は、いずれも、JIS K6251で規定される方法に準じて求められる。上記ポリウレタン(メタ)アクリレートの伸び率は、例えば、厚み30±10μm、幅15mmのポリウレタン(メタ)アクリレート単体の試料を用いて、「オートグラフAGS−J」(株式会社島津製作所製)によって測定される。
上記硬化性組成物中の上記ポリウレタン(メタ)アクリレートの含有量は、20〜50質量%であることが好ましい。上記ポリウレタン(メタ)アクリレートは、一種でもそれ以上でもよい。
上記ポリウレタン(メタ)アクリレートの例には、UV−2000B、UV−2750B、UV−3000B、UV−3300BおよびUV−7510B(日本合成化学株式会社)が含まれる。
[低表面エネルギー基を有する重合性化合物]
上記硬化性組成物は、低表面エネルギー基を有する重合性化合物をさらに含有することが、例えば転写ベルトのトナーに対するクリーニング性を高める観点から好ましい。
上記低表面エネルギー基を有する重合性化合物は、低表面エネルギー基と重合性官能基とを有する。低表面エネルギー基は、表面層4の表面自由エネルギーを低減する機能を有する官能基である。上記低表面エネルギー基を有する重合性化合物は、例えば、シリコーン変性またはフッ素変性された(メタ)アクリレートであり、上記低表面エネルギー基は、例えば、当該(メタ)アクリレートにおけるシリコーン変性またはフッ素変性された部位である。
上記重合性官能基は、例えば、炭素間二重結合などのラジカル重合性二重結合である。上記低表面エネルギー基を有する重合性化合物は、表面層4の表面エネルギーを小さくし、転写ベルト1のクリーニング性を高めるのに好適である。上記低表面エネルギー基がシリコーン変性された部位である上記低表面エネルギー基を有する重合性化合物は、表面層4がシランカップリング剤などのケイ素化合物の表面処理剤で表面処理された金属酸化物微粒子をさらに含有する場合に、当該金属酸化物微粒子を表面層4中に均一に分散させるのにより好適である。
上記シリコーン変性された部位の例には、ジメチルポリシロキサンまたはメチルハイドロジェンポリシロキサンから一つ以上の置換基が除かれた一価または多価の基が含まれる。上記フッ素変性された部位には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)またはテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)から一つ以上の置換基が除かれた一価または多価の基が含まれる。
上記低表面エネルギー基を有する重合性化合物の例には、1つ以上のポリオルガノシロキサン鎖またはポリフルオロアルキル鎖、および、3つ以上のラジカル重合性官能基を有する、数平均分子量5000〜100000の化合物(以下、「重合性高分子化合物」ともいう。)が含まれる。
上記重合性高分子化合物の数平均分子量が5000未満であると、重合性高分子化合物が結晶化しやすくなり、当該重合性高分子化合物の生産性が低下することがある。上記重合性高分子化合物の数平均分子量が100000を超えると、表面層4の硬度が低下し、転写ベルト1の転写性が不十分となることがある。上記重合性高分子化合物の数平均分子量は、例えば、GPCにより測定される。
上記重合性高分子化合物は、例えば、ビニル重合体(A)と化合物(B)とを反応させることによって得られる。上記ビニル重合体(A)は、ラジカル重合性二重結合とポリオルガノシロキサン基またはポリフルオロアルキル基とを有する単量体(a)と、ラジカル重合性二重結合および第1の反応性官能基を有する、単量体(a)以外の単量体(b)と、をラジカル重合させることによって得られる。上記化合物(B)は、上記第1の反応性官能基と反応可能な第2の反応性官能基とラジカル重合性二重結合とを有する。すなわち、上記重合性高分子化合物は、上記第1の反応性官能基と上記第2の反応性官能基とが反応してなる化合物である。
上記ビニル重合体(A)のラジカル重合させるべき原料は、単量体(a)および単量体(b)以外の、ラジカル重合性二重結合を有する単量体(c)をさらに含んでいてもよい。
または、上記重合性高分子化合物は、上記単量体(a)と、ラジカル重合性二重結合を2つ以上有する単量体(c’)とラジカル重合させることによって得られる。この場合も、ラジカル重合させるべき原料は、上記単量体(c)をさらに含んでいてもよい。上記単量体(c’)の使用量を少なくすると、上記重合性高分子化合物の生成時におけるゲル化を防止することが可能となる。また、単量体(c’)のラジカル重合性二重結合の一部を保護基で保護すると、上記ゲル化を抑制することが可能となる。
[単量体(a)]
上記単量体(a)は、ラジカル重合性二重結合とポリオルガノシロキサン基またはポリフルオロアルキル基とを有する上記単量体(a)は、表面層4の表面自由エネルギーを低くするのに好適である。単量体(a)は、一種でもそれ以上でもよい。当該単量体(a)のうち、ラジカル重合性二重結合とポリオルガノシロキサン基とを有する単量体(a)の例には、下記式(1)で表される化合物が含まれる。
式(1)中、R1は、CH2=CHCH2−COO−(CH2)m−、CH2=C(CH3)−COO−(CH2)m−、CH2=CH−(CH2)m−、または、CH2=C(CH3)−(CH2)m−、(mは、それぞれ0〜10の整数)を示す。R2は、水素原子、メチル基、またはR1と同じ官能基を示す。R3、R4、R5、R6、R7およびR8は、それぞれ、炭素数1〜5のアルキル基またはフェニル基を示す。nは正の整数を示す。R1〜R8中の水素原子は、本発明の効果が得られる範囲で、水素原子以外の公知の置換基に置換されていてもよい。
市販されている上記単量体(a)の例には、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製のTSL9705などの片末端ビニル基含有ポリオルガノシロキサン化合物、および、JNC株式会社製のサイラプレーンFM−0711、FM−0721、FM−0725などの片末端(メタ)アクリロキシ基含有ポリオルガノシロキサン化合物、が含まれる。なお、「サイラプレーン」は、JNC株式会社の登録商標である。
上記ビニル重合体(A)中の当該単量体(a)に由来する構造単位の含有量は、表面層4の表面自由エネルギー、上記硬化性組成物に含まれる他の成分との相溶性、弾性層3に対する表面層4の密着性、表面層4の強靭性などの、表面層4の性能および上記ビニル重合体(A)の溶媒への溶解性などの観点から、総量で、1〜80質量%であることが好ましく、5〜50質量%であることがより好ましく、10〜45質量%であることがさらに好ましい。
上記単量体(a)のうち、ラジカル重合性二重結合とポリフルオロアルキル基とを有する単量体(a)の例には、パーフルオロアルキルエチル(メタ)アクリレートなどのフッ素変性(メタ)アクリレートが含まれる。
上記フッ素変性(メタ)アクリレートは、例えば、フッ素樹脂またはその単量体とポリ(メタ)アクリル酸の単量体とが、ラジカル重合性官能基が保存された状態で反応した生成物の構造を有する。フッ素樹脂の単量体の例には、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニルエーテルなどのフッ素化オレフィンモノマーが含まれる。上記ポリ(メタ)アクリル酸の単量体には、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル、および、グリシジル(メタ)アクリレート、が含まれる。
上記(メタ)アクリル酸のアルキルエステルにおけるアルキル基の例には、エチル、ブチル、オクチルおよびドデシルが含まれる。上記(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステルにおける上記ヒドロキシアルキル基の例には、ヒドロキシエチルおよびヒドロキシブチルが含まれる。
上記フッ素変性(メタ)アクリレートは、低エネルギー成分であるフッ素を表面層4の表面からある程度の深さまで導入することができる。したがって、表面層4の表面がある程度の深さまで摩耗しても所期の低表面エネルギー特性が発現される。このような安定した低表面エネルギー特性を得る観点から、上記フッ素変性(メタ)アクリレートは、フッ素化オレフィンモノマーとしてテトラフルオロエチレンおよびヘキサフルオロプロピレンを用いた、数平均分子量が10000以上の上記フッ素変性(メタ)アクリレートであることが好ましい。
上記ビニル重合体(A)中における当該フッ素変性(メタ)アクリレートに由来する構造単位の含有量は、上記の安定した低表面エネルギー特性を得る観点から、10〜40質量%であることが好ましく、20〜30質量%であることがより好ましい。当該含有量が10質量%未満であると、上記の安定した低表面エネルギー特性が不十分となることがある。上記含有量が40質量%を超えると、表面層4の硬さなどの機械的強度が不十分となることがあり、また、後述する硬化性組成物の塗布性が不十分となることがある。
[単量体(b)]
上記単量体(b)は、上記ラジカル重合性二重結合と第1の反応性官能基とを有する、上記単量体(a)以外の化合物である。単量体(b)は、一種でもそれ以上でもよい。単量体(b)におけるラジカル重合性二重結合の数、および、単量体(b)における第1の反応性官能基の数は、それぞれ、単数でも複数でもよい。単量体(b)は、上記ビニル重合体(A)にラジカル重合性二重結合を導入する起点となる。上記ビニル重合体(A)に導入されたラジカル重合性二重結合は、活性エネルギー線の照射によって互いに架橋する。当該架橋により、表面層4からの当該ビニル重合体(A)のブリードがより一層抑制され、より一層強靭な表面層4が構成される。
上記第1の反応性官能基は、単量体(a)に含まれるいずれかの基と反応して化学的に結合する。たとえば、第1の反応性官能基は、上記式(1)のR1〜R8のいずれかと反応する基である。第1の反応性官能基の例には、ヒドロキシ基、カルボキシル基、イソシアネート基およびエポキシ基が含まれる。
ヒドロキシ基を有する単量体(b)の例には、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、1−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレートおよびヒドロキシスチレンが含まれる。
カルボキシル基を有する単量体(b)の例には、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸およびシトラコン酸などが挙げられる。
イソシアネート基を有する単量体(b)の例には、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルオキシプロピルイソシアネート、および、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとポリイソシアネートとの反応生成物、が含まれる。当該ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの例には、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートおよび4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが含まれる。当該ポリイソシアネートの例には、トルエンジイソシアネートおよびイソホロンジイソシアネートが含まれる。
エポキシ基を有する単量体(b)の例には、グリシジルメタクリレート、グリシジルシンナメート、グリシジルアリルエーテル、グリシジルビニルエーテル、ビニルシクロヘキサンモノエポキサイドおよび1,3−ブタジエンモノエポキサイドが含まれる。
上記ビニル重合体(A)中の当該単量体(b)に由来する構造単位の含有量は、表面層4の耐擦傷性、硬度、表面自由エネルギーなどの観点から、総量で、10〜90質量%であることが好ましく、30〜90質量%であることがより好ましく、40〜85質量%であることがさらに好ましい。
[単量体(c)]
上記単量体(c)は、上記ラジカル重合性官能基を有する、上記単量体(a)および上記単量体(b)以外の化合物である。単量体(c)は、一種でもそれ以上でもよい。単量体(c)中のラジカル重合性官能基の数は、単数でも複数でもよい。上記ビニル重合体(A)が単量体(c)に由来する構造単位を含むことは、上記硬化性組成物中の他の成分に対する相溶性を向上させる観点や、表面層4の硬度、強靭性、耐擦傷性などの物性を付与しまたは高める観点などから、好適である。
上記単量体(c)の例には、(メタ)アクリル酸誘導体、芳香族ビニル単量体、オレフィン系炭化水素単量体、ビニルエステル単量体、ビニルハライド単量体およびビニルエーテル単量体が含まれる。
上記(メタ)アクリル酸誘導体の例には、(メタ)アクリロニトリル、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレートおよびベンジル(メタ)アクリレートが含まれる。
上記芳香族ビニル単量体の例には、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、クロロスチレン、モノフルオロメチルスチレン、ジフルオロメチルスチレンおよびトリフルオロメチルスチレンなどのスチレン類が含まれる。
上記オレフィン系炭化水素単量体の例には、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソブチレン、イソプレンおよび1,4−ペンタジエンが含まれる。
上記ビニルエステル単量体の例には、酢酸ビニルが含まれる。
上記ビニルハライド単量体の例には、塩化ビニルおよび塩化ビニリデンが含まれる。
上記ビニルエーテル単量体の例には、ビニルメチルエーテルが含まれる。
上記ビニル重合体(A)中の当該単量体(c)に由来する構造単位の含有量は、上記相溶性の向上の観点から、総量で、0〜89質量%から決められる。
上記ビニル重合体(A)は、公知の方法、例えば、溶液重合で合成することができる。重合時の溶媒は、一種でもそれ以上でもよい。当該溶媒の例には、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエチル類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメンなどの芳香族類、および、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、が含まれる。重合時の溶媒の仕込み量は、重合反応に供される組成物において、0〜80質量%から決められる。
上記重合時には、重合開始剤を用いてもよい。重合開始剤は、一種でもそれ以上でもよい。当該重合開始剤の例には、重合開始剤として通常使用される過酸化物およびアゾ化合物が含まれる。当該過酸化物の例には、過酸化ベンゾイル、ジ−t−ブチルペルオキシド、t−ブチルペルベンゾエート、t−ブチルペルオクトエートおよびクメンヒドロキシペルオキシドが含まれる。当該アゾ化合物の例には、アゾイソブチルバレノニトリルおよびアゾビスイソブチロニトリルが含まれる。
重合温度は、好ましくは50〜140℃、さらに好ましくは70〜140℃である。
上記ビニル重合体(A)の好ましい数平均分子量は、5000〜100000である。
[化合物(B)]
上記化合物(B)は、上記ラジカル重合性官能基と第2の反応性官能基とを有する化合物である。化合物(B)は、一種でもそれ以上でもよく、化合物(B)中のラジカル重合性官能基の数、および、化合物(B)中の上記第2の反応性官能基の数は、ぞれぞれ、単数でも複数でもよい。
上記第2の反応性官能基は、前述した第1の反応性官能基と反応する基である。第1の反応性官能基および第2の反応性官能基の組み合わせ、当該第2の反応性官能基を有する化合物(B)、および、当該化合物(B)および上記ビニル重合体(A)からの上記重合性高分子化合物の合成は、例えば、以下の通りである。
第1の反応性官能基がヒドロキシ基である場合、第2の反応性官能基の例には、酸ハロゲン基およびイソシアネート基が含まれる。当該第2の反応性官能基を有する化合物(B)の例には、(メタ)アクリル酸クロライドおよび(メタ)アクリロキシエチルイソシアネートが含まれる。
(メタ)アクリル酸クロライドを用いる上記重合性高分子化合物の合成の例には、上記ビニル重合体(A)の溶液に触媒を添加し、(メタ)アクリル酸クロライドをされに添加し、加熱すること、が含まれる。当該溶液に含まれる溶媒の例には、2−ブタノン、メチルイソブチルケトンおよびシクロヘキサノンなどのケトン、酢酸エチル、酢酸プロピルおよび酢酸ブチルなどのエステル、および、エチレングリコールジメチルエーテルおよびジオキソランなどのエーテル、が含まれる。上記触媒の例には、トリエチルアミンおよびジメチルベンジルアミンが含まれる。上記の合成における当該触媒の量は、例えば、反応に供される組成物の固形分に対して0.1〜1質量%である。当該合成反応は、ゲル化抑制の観点から、空気下で行うことが好ましく、反応温度は、例えば80〜120℃であり、反応時間は、例えば1〜24時間である。
(メタ)アクリロキシエチルイソシアネートを用いる上記重合性高分子化合物の合成の例には、上記ビニル重合体(A)の溶液に触媒を添加し、加熱下、(メタ)アクリロキシエチルイソシアネートをさらに添加すること、が含まれる。当該溶液に含まれる溶媒は、例えば上記の溶媒である。上記触媒の例には、オクチル酸スズ、ジブチルジラウリン酸錫、オクチル酸亜鉛などの金属化合物、および、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルベンジルアミンなどの3級アミン、が含まれる。上記の合成における当該触媒の量は、例えば、0.05〜1PHR(Per Hundred Resin)である。
第1の反応性官能基がエポキシ基である場合、第2の反応性官能基の例には、カルボキシル基が含まれる。当該第2の反応性官能基を有する化合物(B)の例には、(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトールトリアクリレート無水コハク酸付加物および(メタ)アクリロキシエチルフタレートが含まれる。
例えば、当該化合物(B)として(メタ)アクリル酸を用いる上記重合性高分子化合物の合成の例には、上記ビニル重合体(A)の溶液に触媒を添加し、(メタ)アクリル酸をさらに添加して加熱すること、が含まれる。当該合成は、前述した第1の反応性官能基がヒドロキシ基である場合と同様に行うことが可能である。当該合成における触媒は、3級アミンが好ましい。
第1の反応性官能基がイソシアネート基である場合、第2の反応性官能基の例には、ヒドロキシ基が含まれる。当該第2の反応性官能基を有する化合物(B)の例には、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、および、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン付加物、が含まれる。当該合成は、前述した第1の反応性官能基がヒドロキシ基である場合と同様の条件で行うことが好ましい。
前述のように、上記ビニル重合体(A)に上記化合物(B)を反応させることにより、上記重合性高分子化合物が得られる。
化合物(B)は、ビニル重合体(A)が有する第1の反応性官能基の数に対し、化合物(B)の数が100%となる量で、ビニル重合体(A)と反応させることが好ましい。十分な光反応性が得られる範囲であれば、当該数の割合が100%未満となる量で、化合物(B)をビニル重合体(A)と反応させてもよい。
上記重合性高分子化合物中の上記単量体(a)に由来する構造単位の含有量は、上記硬化性組成物の固形分に対して、0.01〜10質量%とすることができる。上記重合性高分子化合物は、上記硬化性組成物が弾性層3に塗布された時に表面に濃縮される性質がある。このため、表面層4は、上記硬化性組成物の上記単量体(a)の量が少なくても、十分に低い表面自由エネルギーを発現することができる。
[単量体(c’)]
単量体(c’)は、ラジカル重合性二重結合を2つ以上有する化合物である。単量体(c’)と上記単量体(a)とをラジカル重合させることによっても、ビニル重合体(A)を得ることが可能である。単量体(c’)は、一種でもそれ以上でもよい。単量体(c’)は、前述した単量体(a)〜(c)および化合物(B)の中から選ぶことが可能である。また、当該単量体(c’)を用いるビニル重合体(A)の合成は、前述した条件のうちのいずれかの条件によって行うことが可能である。
上記重合性高分子化合物は、市販品であってもよい。当該市販品の例には、「メガファック」(DIC株式会社製)および「フルシェード」(東洋インキ株式会社製)が含まれる。なお、「メガファック」は、DIC株式会社の登録商標であり、「フルシェード」は、東洋インキSCホールディングス株式会社の登録商標である。
上記低表面エネルギー基を有する重合性化合物の上記硬化性組成物中における含有量は、1〜30質量%であることが好ましい。
表面層4中における、上記多官能(メタ)アクリレートに由来する構造単位の含有量は、20〜60質量%であることが好ましく、上記ポリウレタン(メタ)アクリレートに由来する構造単位の含有量は、20〜50質量%であることが好ましく、上記低表面エネルギー基を有する重合性化合物に由来する構造単位の含有量は、1〜30質量%であることが好ましい。
[金属酸化物微粒子]
表面層4は、表面処理剤で表面処理された金属酸化物微粒子をさらに含有していてもよい。表面層4に当該金属酸化物微粒子が含有されていることは、表面層4の強靱性を高め、表面層4の耐久性を高める観点から好適である。当該金属酸化物微粒子は、金属酸化物微粒子(以下、表面処理されていない金属酸化物微粒子を特に「未処理金属酸化物微粒子」とも言い、表面処理された金属酸化物微粒子を単に「金属酸化物微粒子」とも言う)を、表面処理剤によって表面処理することにより得ることができる。
上記未処理金属酸化物微粒子は、金属の酸化物であればよい。当該金属は、遷移金属を含む。当該金属の酸化物の例には、シリカ(酸化ケイ素)、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉛、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化インジウム、酸化ビスマス、酸化イットリウム、酸化コバルト、酸化銅、酸化マンガン、酸化セレン、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化ゲルマニウム、酸化錫、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化モリブデンおよび酸化バナジウムが含まれる。中でも、酸化チタン、アルミナ、酸化亜鉛および酸化錫がより好ましく、アルミナおよび酸化錫が特に好ましい。
上記未処理金属酸化物微粒子は、気相法、塩素法、硫酸法、プラズマ法、電解法などの一般的な製造法で作製される。
上記未処理金属酸化物微粒子の数平均一次粒径は、1〜300nmであることが好ましく、3〜100nmであることがより好ましい。当該数平均一次粒径が小さすぎると、表面層4の耐摩耗性が不十分となることがある。また、当該数平均一次粒径が大きすぎると、表面層4を光硬化によって作製する際の光が金属酸化物微粒子によって遮られ、硬化不足によって表面層4の耐摩耗性が不十分となることがある。
上記未処理金属酸化物微粒子の数平均一次粒径は、例えば、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製)により10000倍の拡大写真を撮影し、ランダムに300個の粒子をスキャナにより取り込んだ写真画像(凝集粒子は除いた)を、自動画像処理解析装置LUZEX AP(株式会社ニレコ)ソフトウェアバージョン Ver.1.32を使用して処理することによって求めることが可能である。
上記表面処理剤は、例えば、ラジカル重合性官能基を有する化合物(D)である。当該化合物(D)は一種でもそれ以上でもよい。当該ラジカル重合性官能基の例には、アクリロイル基およびメタクリロイル基((メタ)アクリロイル基)が含まれる。また、上記表面処理剤は、例えば、シリコーンオイルやポリフルオロアルキル基を有する撥液性の化合物(E)である。当該化合物(E)は、表面層4に低表面エネルギー性を付与する観点から好適である。当該シリコーンオイルの例には、ストレートシリコーンオイル(例えばメチルハイドロジェンポリシロキサン(MHPS)など)および変性シリコーンオイルが含まれる。
上記金属酸化物微粒子は、その表面に少なくとも上記ラジカル重合性官能基および低表面エネルギー官能基のいずれかが導入されていることが好ましい。ここで、低表面エネルギー官能基とは、上記化合物(E)によって導入された撥液性の官能基であって、例えば、シランカップリングされたシリコーンオイル基やポリフルオロアルキル基などである。ラジカル重合性官能基および低表面エネルギー官能基の両者を上記金属酸化物微粒子の表面に導入する場合のラジカル重合性官能基と低表面エネルギー官能基との比率は、2:1〜1:2であることが好ましい。
上記化合物(D)は、炭素間二重結合などのラジカル重合性官能基と、未処理金属酸化物微粒子の表面のヒドロキシ基とカップリングするアルコキシ基などの極性基とを同一分子中に有する化合物であることが好ましい。
上記化合物(D)は、紫外線や電子線などの活性エネルギー線の照射により重合(硬化)して、ポリスチレンやポリ(メタ)アクリレートなどの樹脂となることが好ましい。中でも、少ない光量または短い時間での硬化が可能であることから、化合物(D)は、(メタ)アクリロイル基を有するシラン化合物であることがより好ましい。
上記化合物(D)の例には、下記式(2)で表される化合物が含まれる。
式(2)中、R9は、独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数1〜10のアラルキル基を表し、R10は、ラジカル重合性官能基を含む有機基を表し、Xは、独立して、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシロキシ基、アミノキシ基またはフェノキシ基を表し、mは、1〜3の整数を表す。
上記式(2)で表される化合物(D)の例には、下記式S−1〜S−30で表される化合物が含まれる。
また、上記化合物(D)は、上記式(2)で表される化合物以外の化合物であってもよい。このような化合物(D)の例には、下記式S−31〜S−33で表される化合物が含まれる。
また、上記化合物(D)は、エポキシ系化合物であってもよい。このような化合物(D)の例には、下記式S−34〜S−36で表される化合物が含まれる。
上記金属酸化物微粒子の製造方法は、例えば、未処理金属酸化物微粒子100質量部、表面処理剤0.1〜200質量部および溶媒50〜5000質量部を、湿式メディア分散型装置で混合する方法である。
また、上記金属酸化物微粒子の製造方法は、例えば、未処理金属酸化物微粒子および表面処理剤を含むスラリー(固体粒子の懸濁液)を攪拌する方法である。当該攪拌により、未処理金属酸化物微粒子の凝集体が解砕されると同時に、未処理金属酸化物微粒子の表面処理が進行する。その後、溶媒を除去して金属酸化物微粒子が取り出されるので、表面処理剤により均一でより微細に表面処理された金属酸化物微粒子を得ることが可能である。
表面処理剤の表面処理量(未処理金属酸化物微粒子における表面処理剤の被覆量)は、金属酸化物微粒子に対し0.1〜60質量%であることが好ましい。特に好ましくは、5〜40質量%である。
上記表面処理剤の表面処理量は、例えば、金属酸化物微粒子を550℃で3時間熱処理し、その強熱残分を蛍光X線にて定量分析し、上記表面処理剤に由来する元素の量、例えばSi量、を上記表面処理剤の分子量に換算することによって求めることが可能である。
上記湿式メディア分散型装置は、容器内にメディアとしてビーズを充填し、さらに回転軸と垂直に取り付けられた撹拌ディスクを高速回転させることにより、金属酸化物微粒子の凝集粒子を砕いて粉砕・分散することができる装置である。当該湿式メディア分散型装置の構成は、未処理金属酸化物微粒子に表面処理を行う際に未処理金属酸化物微粒子を十分に分散させ、かつ表面処理できる構成であれば問題ない。当該構成の例には、縦型、横型、連続式、回分式など、種々の様式が含まれる。上記湿式メディア分散型装置の例には、サンドミル、ウルトラビスコミル、パールミル、グレンミル、ダイノミル、アジテータミルおよびダイナミックミルが含まれる。
上記湿式メディア分散型装置において、上記メディアは、衝撃圧壊、摩擦、剪断、ズリ応力などにより微粉砕や分散などを行う。当該メディアの例には、ボールおよびビーズが含まれる。当該ビーズの例には、ガラス、アルミナ、ジルコン、ジルコニア、スチール、フリント石などを原材料としたボールが含まれる。特にジルコニア製やジルコン製のボールが好ましい。また、上記ビーズの直径は、通常は1〜2mm程度であるが、本発明では0.3〜1.0mm程度であることが好ましい。
上記攪拌ディスクや上記容器の材料は、例えば、ステンレス鋼、ナイロン、セラミックなどである。本発明では、上記攪拌ディスクや上記容器の材料は、セラミックであることが好ましい。当該セラミックの例には、ジルコニアおよびシリコンカーバイドが含まれる。
上記分散の終点は、例えば、分散液を、PETフィルム上にワイヤーバーで塗布した液を自然乾燥後、405nmの光透過率の1時間前との変化率が3%以下となること、より好ましくは1%以下になること、によって確認することができる。
前述した湿式処理により、表面処理剤で表面処理された金属酸化物微粒子を得ることができる。上記硬化性組成物中の上記金属酸化物微粒子の含有量は、5〜25質量%であることが好ましい。また、表面層4中の上記金属酸化物微粒子の含有量は、5〜25質量%であることが好ましい。
[その他の添加剤]
表面層4は、他の添加剤をさらに含有していてもよい。当該他の添加剤は、例えば、上記硬化性組成物に添加することによって、表面層4に適宜に添加される。当該他の添加物は、硬化性組成物に、表面層4の製造に適当な物性を付与するために添加されてもよい。当該他の添加剤の例には、重合開始剤、有機溶剤、光安定剤、紫外線吸収剤、触媒、着色剤、帯電防止剤、滑剤、レベリング剤、消泡剤、重合促進剤、酸化防止剤、難燃剤、赤外線吸収剤、界面活性剤および表面改質剤が含まれる。
上記重合開始剤の例には、アセトフェノン系化合物、ベンゾインエーテル系化合物およびベンゾフェノン系化合物などのカルボニル化合物、硫黄化合物、アゾ化合物、パーオキサイド化合物およびホスフィンオキサイド系化合物が含まれる。重合開始剤は、一種でもそれ以上でもよい。
上記カルボニル化合物の例には、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、アセトイン、ブチロイン、トルオイン、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、α,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、4,4’−ビス(ジメチルアミノベンゾフェノン)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オンおよび1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが含まれる。
上記硫黄化合物の例には、テトラメチルチウラムモノスルフィドおよびテトラメチルチウラムジスルフィドが含まれる。
上記アゾ化合物の例には、アゾビスイソブチロニトリルおよびアゾビス−2,4−ジメチルバレロが含まれる。
上記パーオキサイド化合物の例には、ベンゾイルパーオキサイドおよびジ−t−ブチルパーオキサイドが含まれる。
上記重合開始剤は、光安定性、光開裂の高効率性、表面硬化性、硬化樹脂との相溶性、低揮発性および低臭気性が得られるという観点から、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オンまたは1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オンであることが好ましい。
上記硬化性組成物中の上記重合開始剤の含有量は、1〜10質量%であることが好ましく、十分な硬度と弾性層への高い密着性との両方を有する表面層が得られる観点から、2〜8質量%であることがより好ましく、3〜6質量%であることがさらに好ましい。
上記有機溶剤は、上記硬化性組成物の均一溶解性、分散安定性、表面層4の弾性層3への密着性、当該硬化性組成物の塗膜の平滑性、当該硬化性組成物の均一性などの観点から、当該硬化性組成物中に添加される。上記有機溶剤は、例えば、上記性能を満足する成分が選ばれる。上記有機溶剤の例には、アルコール系、炭化水素系、ハロゲン化炭化水素系、エーテル系、ケトン系、エステル系、多価アルコール誘導体などの有機溶剤が含まれる。上記有機溶剤の具体例には、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチルおよび酢酸ブチルが含まれる。
[転写ベルトの製造方法]
転写ベルト1は、基層2、弾性層3および表面層4の順で、前者の層の上に後者の層を形成することによって作製される。基層2は、円筒状の金型などの適当な基体の表面に形成される。各層は、画像形成装置を構成する部材に含まれる層を形成するための公知の方法を利用して作製することが可能である。
基層2は、例えば、円筒状基体の周面に基層用の塗料を塗布し、成膜化する公知の方法によって製造することが可能である。基層用の塗料は、例えば、基層2を構成するための樹脂を有機溶剤に溶解または分散した液体である。たとえば、ポリイミド製の基層2は、ポリアミド酸溶液の管状の塗膜を乾燥し、さらに加熱処理してポリアミド酸をイミドに転化することによって、製造される。当該管状の塗膜を形成する方法の例には、ポリアミド酸溶液に円筒状の金型を浸漬する方法、円筒状の金型の内周面に当該ポリアミド酸溶液を塗布する方法、および、形成された塗膜にさらに遠心力を作用させる方法、が含まれる。
弾性層3は、例えば、円筒状基体の周面上に形成された基層2に、弾性層用の塗料を塗布し、成膜化する公知の方法によって製造することが可能である。弾性層用の塗料は、例えば、弾性層3を構成するための樹脂を有機溶剤に溶解または分散した液体である。弾性層用の塗料の塗布方法の例には、ノズルによるスパイラル塗布方法が含まれる。弾性層3には、表面を粗す適当な処理がさらに施されてもよい。
表面層4は、例えば、円筒状基体の周面上の基層2上の弾性層3に、表面層用の塗料を塗布し、成膜化する公知の方法によって製造することが可能である。当該表面層用の塗料の塗布方法の例には、浸漬塗布方法およびスプレー塗布方法が含まれる。表面層用の塗料は、例えば、硬化性組成物、その溶液、またはその分散液である。
上記硬化性組成物の粘度は、上記表面層要の塗料をスプレー塗布方法で弾性層3上に塗布する場合には、10〜100cP(0.01〜0.1Pa秒)であることが好ましい。また、上記硬化性組成物の固形分濃度は、3〜10質量%であることが好ましい。当該固形分は、例えば、前述した金属酸化物微粒子、多官能(メタ)アクリレート、ポリウレタン(メタ)アクリレートおよび低表面エネルギー基を有する重合性化合物、である。
表面層4は、例えば、硬化性組成物の塗膜に活性エネルギー線を照射することにより、作製することができる。あるいは、表面層は、当該塗膜を加熱することにより、作製することができる。
上記活性エネルギー線は、当該硬化性組成物を硬化させる電磁波であり、例えば、紫外線、電子線またはγ線である。当該活性エネルギー線は、紫外線または電子線であることがより好ましく、取り扱いが簡便で高エネルギーが容易に得られるという観点から紫外線であることがさらに好ましい。紫外線の光源の例には、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ArFエキシマレーザ、KrFエキシマレーザ、エキシマランプおよびシンクロトロン放射光が含まれる。
上記電子線の例には、電子線加速器から放出される、50〜1000keVのエネルギーを有する電子線が含まれる。当該エネルギーは、100〜300keVであることがより好ましい。上記電子線加速器の例には、コックロフトワルトン型、バンデグラフ型、共振変圧型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型などの各種電子線加速器が含まれる。
上記活性エネルギー線の照射光量は、上記硬化性組成物の硬化ムラ、硬度、硬化時間、硬化速度などの観点から、100mJ/cm2以上であることが好ましく、120〜200mJ/cm2であることがより好ましく、150〜180mJ/cm2であることがさらに好ましい。照射光量は、例えば、UIT250(ウシオ電機株式会社製)で測定することが可能である。
活性エネルギー線の照射時間は、0.5秒間から5分間であることが好ましく、上記硬化性組成物の硬化効率や作業効率などの観点から、3秒間から2分間であることがより好ましい。
上記硬化性組成物に活性エネルギー線を照射するときの雰囲気中の酸素濃度は、上記硬化性組成物の硬化ムラや硬化時間などの観点から、5%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。当該酸素濃度は、例えば、当該雰囲気への窒素ガスの導入によって調整することが可能である。上記酸素濃度は、例えば、雰囲気ガス管理用酸素濃度計「OX100」(横河電機株式会社製)によって促成することが可能である。
弾性層3に塗布された上記硬化性組成物は、乾燥されることが好ましい。当該乾燥により、当該硬化性組成物の塗膜から溶剤が除去される。当該乾燥は、上記硬化性組成物中のラジカル重合性成分の重合の前後、およびその重合中のいずれに行われてもよい。当該乾燥は、上記塗膜の流動性がなくなる程度までの一次乾燥と、上記ラジカル重合性成分の重合後に、さらに表面層中の揮発性物質の量を規定量にするために二次乾燥と、であることが好ましい。上記乾燥の方法は特に限定されない。乾燥温度は、例えば40〜100℃であることが好ましく、より好ましくは60℃程度である。乾燥時間は、例えば1〜5分間であることが好ましく、より好ましくは3分間程度である。
[画像形成装置]
本実施の形態に係る画像形成装置は、感光体に形成されたトナー画像を記録媒体に転写するための転写ベルトとして、上記転写ベルトを有する。上記画像形成装置は、例えば、感光体、感光体を帯電させる帯電装置、帯電した感光体に光を照射して静電潜像を形成する露光装置、静電潜像が形成された感光体にトナーを供給して静電潜像に応じたトナー画像を形成する現像装置、静電潜像に形成されたトナー画像を記録媒体に転写するための中間転写ベルトを含む転写装置、および、トナー画像を記録媒体に定着させる定着装置、を有する。上記転写ベルトは、電子写真方式の画像形成装置における上記中間転写ベルトとして好適に用いることができる。なお、「トナー画像」とは、トナーが画像状に集合した状態を言う。
上記画像形成装置は、例えば、図2に示されるように、複数組の画像形成ユニット20Y、20M、20C、20Bkと、中間転写部10と、定着装置30とを有する。
画像形成ユニット20Y、20M、20C、20Bkは、静電潜像担持体である感光体11Y、11M、11C、11Bkと、感光体11Y、11M、11C、11Bkの表面に一様な電位を与える帯電装置23Y、23M、23C、23Bkと、一様に帯電された感光体11Y、11M、11C、11Bk上に所望の形状の静電潜像を形成する露光装置22Y、22M、22C、22Bkと、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(Bk)の各色トナーを感光体11Y、11M、11C、11Bk上に搬送して上記静電潜像を顕像化する現像装置21Y、21M、21C、21Bkと、感光体11Y、11M、11C、11Bkの表面における、後述する一次転写ローラに対向する部分と、上記帯電装置に対向する部分との間において、感光体11Y、11M、11C、11Bk上に残留したトナーを回収するためのクリーニング装置25Y、25M、25C、25Bkと、を有する。
中間転写部10は、感光体11Y、11M、11C、11Bkに当接可能に配置された中間転写ベルト16と、感光体11Y、11M、11C、11Bkに対向して配置されている一次転写ローラ13Y、13M、13C、13Bkと、中間転写ベルト16の、中間転写ベルト16の駆動方向における上記感光体よりも上流側の表面に残留したトナーを回収するためのクリーニングブレード12と、を有する。
クリーニングブレード12は、例えばゴム製の弾性ブレードである。クリーニングブレード12は、中間転写ベルト16の回転方向に対して対向する方向に突出するように配置され、中間転写ベルト16の幅方向に沿って、クリーニングブレード12の突端縁で中間転写ベルト16に当接している。
中間転写ベルト16の形状は、無端ベルト状である。中間転写ベルト16は、複数のローラにより張架され、回動可能に支持されている。中間転写ベルト16は、本実施形態に係る転写ベルトであり、例えば、転写ベルト1である。
一次転写ローラ13Y、13M、13C、13Bkは、中間転写ベルト16を上記感光体に当接させて、一次転写ニップ部を形成する。
定着装置30は、例えば、加熱ローラと、当該加熱ローラに当接して定着ニップ部を形成する加圧ローラと、を有する。
また、上記画像形成装置は、二次転写ローラ17と、レジストローラ46と、搬送ベルト47と、を有している。二次転写ローラ17は、中間転写ベルト16に当接して二次転写ニップ部を形成する。
レジストローラ46は、画像支持体Pを上記二次転写ニップ部に搬送する。搬送ベルト47は、画像支持体Pを上記二次転写ニップ部から上記定着ニップ部に搬送する。画像支持体Pは、所期のトナー画像を最終的に担持する、いわゆる記録媒体である。画像支持体Pの例には、薄紙から厚紙までの普通紙、上質紙、アート紙やコート紙などの塗工された印刷用紙、市販されている和紙、はがき用紙、OHP用のプラスチックフィルムおよび布が含まれる。
厚手の画像支持体Pは、通常のコピー用紙に比べて、厚さや表面形状などが異なる。本実施の形態は、画像支持体Pが厚手の記録媒体であるときに、特に有利である。このような画像支持体Pは、例えば凹凸紙である。
また、上記現像装置に収容される現像剤は、磁性または非磁性のトナーによる一成分現像剤であってもよいし、トナーとキャリアとが混合された二成分現像剤であってもよい。上記トナーは、特に限定されないが、例えば、体積基準のメジアン径が3〜9μmであり、重合法によって得られた、いわゆる重合トナーが好ましい。重合トナーを用いることにより、高い解像度および安定した画像濃度を有する画像が得られると共に、画像カブリの発生が極力抑制される。
上記キャリアは、特に限定されないが、例えば、体積基準のメジアン径が30〜65μmであり、磁化量が20〜70emu/gであるフェライトキャリアが好ましい。上記メジアン径が30μm未満であると、キャリア付着による白抜け画像が生じることがある。上記メジアン径が65μmよりも大きいと、画像濃度にムラが生じることがある。
上記画像形成装置による画像の形成を説明する。
感光体11Y、11M、11C、11Bkは、それぞれ、帯電装置23Y、23M、23C、23Bkによって一様に帯電される。帯電した感光体11Y、11M、11C、11Bkには、露光装置22Y、22M、22C、22Bkから、例えばレーザー光が照射され、各色に対応した所期の画像の静電潜像が感光体11Y、11M、11C、11Bkに形成される。静電潜像が形成された感光体11Y、11M、11C、11Bkには、現像装置21Y、21M、21C、21Bkからトナーが供給され、各色のトナー画像が感光体11Y、11M、11C、11Bkに担持される。一次転写ローラ13Y、13M、13C、13Bkは、トナー画像を担持する感光体11Y、11M、11C、11Bkに接近して中間転写ベルト16を当接させ、一次転写ニップ部を形成する。
一次転写ローラ13Y、13M、13C、13Bkは、一次転写ニップ部に、上記感光体の表面のトナー画像を中間転写ベルト16に転写させる電界を発生させる。画像形成ユニット20Y、20M、20C、20Bkにより形成された各色のトナー画像は、一次転写ニップにおいて、一次転写ローラ13Y、13M、13C、13Bkにより、回動する中間転写ベルト16上に逐次転写される。この一次転写によって、各色トナー画像が重ねられたフルカラーのトナー画像が中間転写ベルト16上に形成される。一次転写後の感光体11Y、11M、11C、11Bkの表面に残留するトナーは、クリーニング装置25Y、25M、25C、25Bkによって感光体11Y、11M、11C、11Bkから除去される。
画像支持体Pは、給紙カセットから給紙搬送手段によりレジストローラ46を経て二次転写ローラ17に搬送される。二次転写ローラ17は、二次転写ニップ部に、中間転写ベルト16の表面のトナー画像を画像支持体Pに転写させる電界を発生させる。上記二次転写ニップ部において、中間転写ベルト16から画像支持体Pへ、トナー画像が転写される。
中間転写ベルト16は、前述したRzおよびαの両方を満足する表面形状を有することから、通常のコピー用紙のみならず、それ以外の画像支持体P(凹凸紙)の凸凹な表面にも十分に密着する。このため、上記画像形成装置は、画像支持体Pに対しても良好な転写性を示す。
トナー画像を担持した画像支持体Pは、搬送ベルト47によって定着装置30へ搬送され、定着装置30による加熱加圧処理によって、トナー画像が画像支持体Pに定着される。その後、画像支持体Pは、排紙ローラに挟持されて機外の排紙トレイ上に載置される。
なお、二次転写ローラ17により画像支持体Pにトナー画像を転写した後の中間転写ベルト16に残留するトナーは、クリーニングブレード12により、中間転写ベルト16から除去される。
中間転写ベルト16の表面層は、適切な破断伸度および引張弾性率を呈することから、摩耗に対する十分な強度を有するともに、弾性層と同等に変形する程度の十分な可撓性を有する。このため、中間転写ベルト16は、画像形成プロセスにおいて、転写材が凹凸紙などの厚手の記録媒体であっても、転写材に対して十分に密着し、かつ使用に伴う摩耗や損傷が抑制される。
上記画像形成装置は、本実施の形態に係る転写ベルトを中間転写ベルトとして有する。当該中間転写ベルトは、優れた転写機能を有するとともに、優れたクリーニング性を有する。このため、上記画像形成装置は、長期間にわたって画像品質の高い画像を形成することができる。
本実施の形態に係る転写ベルト1は、弾性層3と表面層4とがこの順で重なって構成される。表面層4の破断伸度は、7〜60%であり、表面層4の引張弾性率は、100〜1000MPaである。このため、転写ベルト1の耐久使用における摩耗が防止され、かつ転写ベルト1の、通常のコピー用紙のみならず厚手の記録媒体に対する良好な転写性および良好な耐クラック性が示される。
また、表面層4が多官能(メタ)アクリレートおよびポリウレタン(メタ)アクリレートを含む硬化性組成物の硬化物によって構成されていることは、表面層4の破断伸度および引張弾性率をより容易に調整する観点から、より一層効果的である。
また、上記硬化性組成物が低表面エネルギー基を有する重合性化合物をさらに含むことは、転写ベルト1のトナーに対する離型性を高める観点から、より一層効果的である。
また、上記ポリウレタン(メタ)アクリレートにおける、重量平均分子量が3000以上であり、破断伸度が40%以上であり、引張強度が4MPa以上であることは、
転写ベルト1における耐クラック性および耐摩耗性の観点からより一層効果的である。
また、表面層4が表面処理剤で表面処理された金属酸化物微粒子をさらに含有することは、表面層4の機械的強度を高め、転写ベルト1の耐久性を高める観点から、より一層効果的である。
また、弾性層3が熱架橋系のゴム材料を含有し、弾性層3のベルト硬度が40〜90°であり、弾性層3の粘弾性率が65〜90%であることは、転写ベルト1における耐クラック性および転写性の向上の観点からより一層効果的である。
そして、画像形成装置は、上記転写ベルトを、感光体に形成されたトナー画像を記録媒体に転写するための上記中間転写ベルトとして有することから、厚手の記録媒体に対しても良好な転写性と中間転写ベルトの高い耐久性とを実現することができる。このため、当該画像形成装置は、長期にわたって高品質の画像を形成することができる。
(1)無端ベルト状基層の作製
「U−ワニス−S(固形分18質量%)」(宇部興産株式会社製)に、乾燥した酸化処理カーボンブラック「SPECIAL BLACK4」(Degussa社製、pH3.0、揮発分:14.0%)を、上記ワニス中の固形分100質量部に対して23質量部添加し、混合して、カーボンブラック入りポリアミド酸溶液を得た。
「ユーワニスS」は、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)とp−フェニレンジアミン(PDA)とからなるポリアミド酸のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液である。また、上記ワニスと上記カーボンブラックとの混合には、衝突型分散機「GeanusPY」(株式会社ジーナス社製)を用いた。混合条件は、圧力が200MPa、混合物の通路の最小面積が1.4mm2、当該混合物を当該通路に通過させる回数が5回、であった。
上記カーボンブラック入りポリアミド酸溶液を、円筒状金型の内周面に、ディスペンサーを介して0.5mmに塗布し、当該金型を150rpmで15分間回転させて、上記溶液の均一な厚みを有する展開層を形成した。次いで、上記金型を250rpmで回転させながら、金型の外側より60℃の熱風を30分間に上記金型にあてた。次いで、上記金型を150℃で60分間加熱した。次いで、上記金型を360℃まで2℃/分の昇温速度で加熱し、さらに360℃で30分間加熱して、上記展開層から溶媒および脱水閉環に伴い発生した水を除去し、および上記展開層におけるイミド転化反応を完結させた。
次いで、上記金型を室温に戻し、上記イミド転化反応によって形成されたポリイミド層を上記金型から剥離することにより、厚み0.1mmの無端ベルト状の基層を得た。
(2)弾性層の作製
30質量部のファーネスブラック(旭カーボン社製)と100質量部のクロロプレンゴム(電気化学社製)とを混錬し、得られた混練物を、固形分濃度が20質量%となるよう、トルエンに溶解、分散させることにより、弾性層用の塗料を調製した。
上記基層を、円筒状の回転自在な金型の外周面に被せ、当該金型を、その中心軸を回転軸として回転させながら、上記基層の外周面上に、ノズルから、スパイラル塗布により上記弾性層用の塗料を塗布し、乾燥させて、乾燥膜厚が200μmの弾性層を作製した。弾性層の厚さは200μmであり、ベルト硬度は85°であり、粘弾性は80%であった。
なお、弾性層のベルト硬度は、高分子計器株式会社製のマイクロゴム硬度計MD−1 capaを用い、基層と弾性層の積層体を溶剤(エタノール)に浸漬することによって基層から剥離した弾性層のシートの表面をタイプAの押針により押し、JIS K6253−3で規定されるデュロメータ硬さである。また、弾性層の粘弾性は、粘弾性スペクトロメータ EXSTAR DMS6100(セイコーインスツル株式会社製)にて、周波数50Hz、温度30℃で測定した。
(3)低表面エネルギー基を有する重合体の合成
(3−1)IPDIアダクトの合成
222質量部のイソホロンジイソシアネート(IPDI)を、空気下、1Lの4つ口フラスコ内で80℃に加熱後、116質量部の2−ヒドロキシエチルアクリレートおよび0.13質量部のハイドロキノンを2時間かけて滴下し、次いで80℃で3時間反応させて、イソシアネート基1個とビニル基1個を有する化合物(IPDIアダクト)を得た。
(3−2)重合体1の合成
15質量部の片末端メタクリロキシ基含有ポリシロキサン化合物(JNC株式会社製「サイラプレーンFM−0721」)、70質量部の2−ヒドロキシエチルメタクリレート、15質量部のブチルメタクリレート、および、200質量部のメチルエチルケトン(MEK)部を、冷却管、攪拌装置、温度計を備えた4つ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら80℃まで昇温し、3質量部のアゾビスイソブチロニトリルを加えて2時間重合反応を行い、さらに1質量部のアゾビスイソブチロニトリルを加えて2時間重合を行った。次いで、204質量部のIPDIアダクトと1質量部のオクチル酸錫を20質量部のメチルエチルケトン(MEK)で溶解した溶液とを約10分間で滴下し、滴下後2時間反応させた。得られた溶液に、不揮発分が10質量%となるようにシクロヘキサノンを添加して、重合体1の溶液を得た。重合体1の重量平均分子量は約20000であった。
(4)表面処理された金属酸化物微粒子の調製
100体積部の、平均粒子径34nmのアルミナ微粒子に、15体積部の片末端カルビノール変性シリコーンオイル(X−22−170DX、信越化学工業株式会社製)と、400体積部の溶媒(トルエン:イソプロピルアルコール=1:1(体積比)の混合溶媒)を、湿式メディア分散型装置を使用して混合、分散し、溶媒を除去し、得られた粉体を150℃で30分間乾燥して、表面処理されたアルミナ微粒子である金属酸化物微粒子1を得た。
(5)ポリウレタン(メタ)アクリレート(UA)および多官能(メタ)アクリレート(PA)の準備
本実施例で使用するポリウレタン(メタ)アクリレート(UA)として、下記表2に記載のUA1〜4を用意した。
なお、上記UAの重量平均分子量(Mw)、破断伸度(EBUA)および引張強度(σB)は、該当する製品のカタログに記載されていた数値である。
また、本実施例で使用する多官能(メタ)アクリレート(PA)として、下記表3に記載のPA1〜3を用意した。
[実施例1]
以下に示す成分を以下に示す量で、固形分濃度が10質量%となるよう、プロプレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)中に溶解、分散させて、表面層用の塗料1を調製した。
ポリウレタン(メタ)アクリレート1 50体積部
多官能(メタ)アクリレート1 50体積部
上記弾性層の外周面上に、上記表面層用の塗料1を、浸漬塗布方法によって塗布した。当該塗布には、表面層用の塗料が浸漬槽に循環供給される塗布装置を用い、当該塗料の浸漬槽への供給量が1L/分の条件で、表面層用の塗料1の乾燥膜厚が2μmとなるように、表面層用の塗料1を弾性層の外周面上に塗布した。
弾性層1上における表面層用の塗料1の塗膜に、活性エネルギー線である紫外線を、下記の照射条件で照射することにより、上記塗膜を硬化させて表面層1を作製した。こうして、基層、弾性層および表面層1をこの順に重ねてなる無端ベルト状の転写ベルト1を得た。
(照射条件)
光源の種類:高圧水銀ランプ「H04−L41」(アイグラフィックス株式会社製)
照射口から塗膜の表面までの距離:100mm
照射光量:1J/cm2
塗膜の移動(回転)速度:60mm/秒
照射時間(金型を回転させている時間):240秒間
転写ベルト1における表面層1の破断伸度(EB)と引張弾性率(E)を測定した。表面層1の破断伸度EBを、前述したように、株式会社エーアンドディー製の引張試験機にて、23℃、50%RHの環境中、2mm/分の引張速度で上記積層体のダンベル型の試料を引っ張って測定したところ、表面層1の破断伸度EBは、10%であった。また、表面層1の引張弾性率(E)は、前述したように、上記引張試験器を利用して求めた上記積層体のダンベル型試料の引張弾性率から、同様に求めた上記弾性層のシートのダンベル型試料の引張弾性率を引くことによって求めたところ、150MPaであった。
[実施例2]
以下に示す成分を以下に示す量で、固形分濃度が10質量%となるよう、プロプレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)中に溶解、分散させて、表面層用の塗料2を調製した。
ポリウレタン(メタ)アクリレート2 30体積部
多官能(メタ)アクリレート1 65体積部
重合体1 5体積部
表面層用の塗料1に代えて表面層用の塗料2を用いる以外は実施例1と同様にして、表面層2を有する転写ベルト2を得た。転写ベルト2における表面層2の破断伸度EBは、7%であり、表面層2の引張弾性率Eは、950MPaであった。
[実施例3]
以下に示す成分を以下に示す量で、固形分濃度が10質量%となるよう、プロプレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)中に溶解、分散させて、表面層用の塗料3を調製した。
ポリウレタン(メタ)アクリレート2 60体積部
多官能(メタ)アクリレート2 35体積部
重合体1 5体積部
表面層用の塗料1に代えて表面層用の塗料3を用いる以外は実施例1と同様にして、表面層3を有する転写ベルト3を得た。転写ベルト3における表面層3の破断伸度EBは、52%であり、表面層3の引張弾性率Eは、120MPaであった。
[実施例4]
以下に示す成分を以下に示す量で、固形分濃度が10質量%となるよう、プロプレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)中に溶解、分散させて、表面層用の塗料4を調製した。
ポリウレタン(メタ)アクリレート2 50体積部
多官能(メタ)アクリレート2 25体積部
重合体1 25体積部
金属酸化物微粒子1 5体積部
表面層用の塗料1に代えて表面層用の塗料4を用いる以外は実施例1と同様にして、表面層4を有する転写ベルト4を得た。転写ベルト4における表面層4の破断伸度EBは、21%であり、表面層4の引張弾性率Eは、300MPaであった。
[実施例5]
以下に示す成分を以下に示す量で、固形分濃度が10質量%となるよう、プロプレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)中に溶解、分散させて、表面層用の塗料5を調製した。
ポリウレタン(メタ)アクリレート2 50体積部
多官能(メタ)アクリレート2 25体積部
重合体1 25体積部
表面層用の塗料1に代えて表面層用の塗料5を用いる以外は実施例1と同様にして、表面層5を有する転写ベルト5を得た。転写ベルト5における表面層5の破断伸度EBは、35%であり、表面層5の引張弾性率Eは、150MPaであった。
[実施例6]
以下に示す成分を以下に示す量で、固形分濃度が10質量%となるよう、プロプレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)中に溶解、分散させて、表面層用の塗料6を調製した。
ポリウレタン(メタ)アクリレート3 70体積部
多官能(メタ)アクリレート2 25体積部
重合体1 5体積部
表面層用の塗料1に代えて表面層用の塗料6を用いる以外は実施例1と同様にして、表面層6を有する転写ベルト6を得た。転写ベルト6における表面層6の破断伸度EBは、8%であり、表面層6の引張弾性率Eは、100MPaであった。
[比較例1]
以下に示す成分を以下に示す量で、固形分濃度が10質量%となるよう、プロプレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)中に溶解、分散させて、表面層用の塗料C1を調製した。
ポリウレタン(メタ)アクリレート4 10体積部
多官能(メタ)アクリレート1 90体積部
金属酸化物微粒子1 10体積部
表面層用の塗料1に代えて表面層用の塗料C1を用いる以外は実施例1と同様にして、表面層C1を有する転写ベルトC1を得た。転写ベルトC1における表面層C1の破断伸度EBは、10%であり、表面層C1の引張弾性率Eは、1500MPaであった。
[比較例2]
以下に示す成分を以下に示す量で、固形分濃度が10質量%となるよう、プロプレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)中に溶解、分散させて、表面層用の塗料C2を調製した。
ポリウレタン(メタ)アクリレート1 80体積部
多官能(メタ)アクリレート3 10体積部
重合体1 10体積部
金属酸化物微粒子1 5体積部
表面層用の塗料1に代えて表面層用の塗料C2を用いる以外は実施例1と同様にして、表面層C2を有する転写ベルトC2を得た。転写ベルトC2における表面層C2の破断伸度EBは、45%であり、表面層C2の引張弾性率Eは、90MPaであった。
[比較例3]
以下に示す成分を以下に示す量で、固形分濃度が10質量%となるよう、プロプレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)中に溶解、分散させて、表面層用の塗料C3を調製した。
ポリウレタン(メタ)アクリレート2 10体積部
多官能(メタ)アクリレート1 90体積部
金属酸化物微粒子1 10体積部
表面層用の塗料1に代えて表面層用の塗料C3を用いる以外は実施例1と同様にして、表面層C3を有する転写ベルトC3を得た。転写ベルトC3における表面層C3の破断伸度EBは、5%であり、表面層C3の引張弾性率Eは、1200MPaであった。
[比較例4]
以下に示す成分を以下に示す量で、固形分濃度が10質量%となるよう、プロプレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)中に溶解、分散させて、表面層用の塗料C4を調製した。
ポリウレタン(メタ)アクリレート2 10体積部
多官能(メタ)アクリレート1 90体積部
表面層用の塗料1に代えて表面層用の塗料C4を用いる以外は実施例1と同様にして、表面層C4を有する転写ベルトC4を得た。転写ベルトC4における表面層C4の破断伸度EBは、6%であり、表面層C4の引張弾性率Eは、800MPaであった。
[比較例5]
以下に示す成分を以下に示す量で、固形分濃度が10質量%となるよう、プロプレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)中に溶解、分散させて、表面層用の塗料C5を調製した。
ポリウレタン(メタ)アクリレート1 100体積部
表面層用の塗料1に代えて表面層用の塗料C5を用いる以外は実施例1と同様にして、表面層C5を有する転写ベルトC5を得た。転写ベルトC5における表面層C5の破断伸度EBは、185%であり、表面層C5の引張弾性率Eは、4MPaであった。
[評価]
(1)摩耗
転写ベルト1〜6およびC1〜C5のそれぞれを、画像形成装置「bizhub PRO C 6000」(コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社製)の改造機に中間転写ベルトとして搭載し、凹凸紙(レザック紙)を用いて、シアントナーおよびマゼンタトナーによるトナー濃度100%青色画像(ベタ画像)を100枚出力する耐久試験を行った。当該画像形成装置は、レーザー露光装置、反転現像装置および中間転写ベルトを含むタンデムカラー複合機であり、当該改造機は、中間転写ベルトの評価のために上記画像形成装置を改造した装置である。
上記耐久試験後の転写ベルト1〜6およびC1〜C5のそれぞれの表面を光学顕微鏡 VHX−600(株式会社キーエンス製)で観察し、算術平均粗さ(Ra)を求め、以下の基準により評価した。「◎」および「○」は、実用上問題ないことを意味する。
◎:Raが0μm以上0.5μm未満
○:Raが0.5μm以上1.0μm未満
△:Raが1.0μm以上2.0μm未満
×:Raが2.0μm以上
(2)クラック
上記耐久試験後の転写ベルト1〜6およびC1〜C5のそれぞれの表面を光学顕微鏡 VHX−600(株式会社キーエンス製)で観察し、クラックの発生数を求め、以下の基準により評価した。「◎」および「○」は、実用上問題ないことを意味する。
◎:傷の発生なし
○:傷の数が1以上5以下
△:傷の数が6以上10以下
×:傷の数が11以上
(3)凹凸紙に対する転写性
上記耐久試験で得られたベタ画像をスキャナでデジタル情報化し、画像編集、加工ソフト「フォトショップ」(アドビ システムズ社製)を用い、画像処理により各ベタ画像の画像濃度の平均値を求めた。そして、各ベタ画像における、当該平均値の90%以下の領域の面積率を求め、当該面積率の転写ベルトごとの平均値を算出し、各転写ベルトの画像濃度90%以下の面積率(AR90)とした。求められた当該面積率を下記の基準により評価した。「○」および「△」は、実用上問題ないことを意味する。なお、「フォトショップ」は、アドビ システムズ社の登録商標である。
○:AR90が3%以下
△:AR90が3%超5%以下
×:AR90が5%超
転写ベルト1〜6およびC1〜C5における表面層の組成と物性、および当該転写ベルトの評価結果を表4に示す。
表4から明らかなように、転写ベルト1〜6は、いずれも、耐摩耗性、耐クラック性および凹凸紙に対する転写性において良好であった。これは、転写ベルト1〜6のそれぞれの表面層が、凹凸紙へのトナー画像の転写における弾性層の変形に応じて変形可能な範囲の破断伸度と、当該転写における摩耗を抑制する範囲の引張弾性率Eとを有することから、耐久性と高画質性とが両立するため、と考えられる。
特に、表面層の破断伸度が20〜60%では、転写ベルトの耐クラック性がより高まる傾向が見られ、表面層の引張弾性率が200以上では、転写ベルトの耐摩耗性がより高まる傾向が見られた。また、表面層が金属酸化物微粒子をさらに含有することにより、表面層の機械的強度がさらに向上し、転写ベルトの耐摩耗性および耐クラック性の両方が向上する傾向が見られた。さらに、表面層における低表面エネルギー基を有する重合体1の含有量の増加に応じて、転写ベルトの凹凸紙に対する転写性がより向上する傾向が見られた。
以上より、弾性層と表面層とがこの順で重なって構成され、表面層の破断伸度が7〜60%であり、表面層の引張弾性率が100〜1000MPaである転写ベルトは、厚手の記録媒体に対する転写性、耐摩耗性および耐クラック性に優れていることが分かる。
また、UA2の破断伸度(EBUA)は、UA3のEBUAに比べるとやや高く、UA2を用いた転写ベルト3では、UA3を用いた転写ベルト6に比べて、表面層の破断伸度EBがより高まり、耐クラック性がより向上している。以上より、UAの重量平均分子量が3000以上であり、UAの破断伸度が40%以上であり、UAの引張強度が4MPa以上であることは、転写ベルトの表面層における適度な破断伸度および引張弾性率を実現する観点からより効果的であることが分かる。
一方、転写ベルトC1は、凹凸紙に対する転写性が不十分であった。これは、表面層の引張弾性率が高すぎて、表面層が硬すぎ、凹凸紙の表面の凹凸に対応して表面層が十分に変形できなかったため、と考えられる。
また、転写ベルトC2は、耐摩耗性が不十分であった。これは、表面層の引張弾性率が低すぎて表面層が摩耗しやすかったため、と考えられる。
また、転写ベルトC3は、耐クラック性が不十分であった。これは、表面層の破断伸度が低すぎるとともに表面層の引張弾性率が高すぎて、表面層が変形しにくくなるとともに表面層の機械的強度が不十分となったため、と考えられる。
また、転写ベルトC4、耐クラック性が不十分であった。これは、表面層の破断伸度が低すぎて表面層の変形が不十分となり、弾性層と同等には表面層が変形せず、表面層にクラックが発生したため、と考えられる。
また、転写ベルトC5は、耐摩耗性および凹凸紙に対する転写性が不十分であった。これは、表面層の引張弾性率が低すぎて転写ベルトの耐摩耗性が不十分となったため、および、表面層の破断伸度が高すぎて、表面層が変形するものの、その形状の復元が耐久試験における画像形成速度よりも遅すぎ、その結果、転写不良を引き起こしたため、と考えられる。