以下、一実施形態のレーザ加工方法及びレーザ加工プログラム作成装置について、添付図面を参照して説明する。一実施形態で加工の対象とする鋼材はアングルまたはチャンネルである。アングルは、等辺のアングルでも不等辺のアングルでもよい。
まず、図1に示すレーザ加工システムを用いて、鋼材を所定の形状の製品(部品)に加工する全体的な流れについて説明する。CAD10は、機能的な構成として、製品形状データ作成部11と、展開図データ作成部12とを有する。
製品形状データ作成部11は、鋼材を加工して生成しようとする製品の形状データを作成する。製品形状データ作成部11は、製品の形状データを、3次元(3D)CADモデルとして作成することができる。
展開図データ作成部12は、製品の形状データに基づいて、製品を平面状に展開した展開図データを作成する。製品の展開図データについては後に詳述する。CAD10は、コンピュータプログラムを実行させることによって、製品の形状データ及び展開図データを作成することができる。
展開図データ作成部12によって作成された製品の展開図データは、レーザ加工プログラム作成装置20に入力される。レーザ加工プログラム作成装置20は、CAMによって構成することができる。
レーザ加工プログラム作成装置20にCAD10の機能を持たせて、レーザ加工プログラム作成装置20が製品の展開図データを作成してもよい。CAD10とレーザ加工プログラム作成装置20とが一体化されていてもよい。
レーザ加工プログラム作成装置20は、機能的な構成として、切断軌跡・加工順決定部21と、切断条件保持部22と、割付けデータ作成部23とを有する。レーザ加工プログラム作成装置20は、コンピュータプログラムを実行させることによって、切断軌跡・加工順決定部21と割付けデータ作成部23との機能を実現することができる。
切断軌跡・加工順決定部21は、展開図データに基づいて、製品を形成するために鋼材をどのような切断軌跡で切断するか、どのような加工順で切断するのかを決定する。切断軌跡・加工順決定部21は、隣接面に切り込みが発生せず、板厚領域に切り残しが発生しない切断軌跡及び加工順を決定する。
切断条件保持部22は、切断軌跡・加工順決定部21で決定した切断軌跡に従って鋼材を切断する際に使用される複数の切断条件を保持する。切断条件とは、レーザ光の出力、周波数、デューティ、レーザヘッドの移動速度のうちの少なくとも1つを示すパラメータである。
レーザ光の出力、周波数、デューティ、レーザヘッドの移動速度のうちの少なくとも1つを変化させると、鋼材に対して与える単位長さ当たりの熱量を変化させることができる。切断条件は、鋼材に対して与える単位長さ当たりの熱量を決めるパラメータということができる。
切断条件保持部22は、鋼材をレーザ光によって切断する際に鋼材に与える単位長さ当たりの熱量が異なる複数の切断条件を保持する。切断条件保持部22は、単位長さ当たりの熱量を第1の熱量とする第1の切断条件と、第1の熱量より小さい第2の熱量とする第2の切断条件との少なくとも2つの切断条件を保持する。切断条件保持部22は、さらに多くの切断条件を保持してもよい。
レーザ加工プログラム作成装置20は、レーザ光の出力、周波数、デューティ、レーザヘッドの移動速度それぞれのパラメータを適宜に設定して、複数の切断条件の中からいずれかの切断条件を選択可能とすればよい。
割付けデータ作成部23は、切断軌跡・加工順決定部21で決定した切断軌跡及び加工順に基づいて鋼材を加工する際の割付けを決定し、それぞれの割付けに対して切断条件保持部22に保持されている切断条件を対応付けた割付けデータを作成する。加工の割付けは、鋼材を切断する軌跡の座標値を示す。割付けデータは、複数の割付けをどのような順で加工するかの情報を含む。
レーザ加工プログラム作成装置20は、割付けデータ作成部23が作成した割付けデータを、鋼材を加工するための加工プログラムとしてNC装置30に転送する。加工プログラム(割付けデータ)は、機械制御コードであるNCデータである。NC装置30は、加工プログラムに基づいてレーザ加工機40における鋼材の加工を制御する。
NC装置30には、加工プログラムが示す切断条件のパラメータに対応させて、レーザ光の出力、周波数、デューティ、レーザヘッドの移動速度を具体的にどのような数値とするかが設定されている。NC装置30は、パラメータに応じてレーザ加工機40を動作させる際の具体的な数値を選択し、加工プログラムが示す割付けに従って鋼材を切断するよう制御する。
切断条件保持部22が保持するパラメータは、レーザ光の出力、周波数、デューティ、レーザヘッドの移動速度の値を直接的に示す数値であってもよい。切断条件保持部22が保持するパラメータがレーザ光の出力、周波数、デューティ、レーザヘッドの移動速度の値を直接的に示す数値である場合には、NC装置30は加工プログラムに含まれている直接的な数値に基づいてレーザ加工機40を制御すればよい。
図2,図3を用いて、CAD10が作成する展開図データについて説明する。図2において、(a)はアングルA1の端面平面図、(b)はアングルA1の展開図AD1を示している。アングルA1は、図2の(a)における垂直方向のフランジA11と、水平方向のウェブA12とが略90度の角度で連結した形状である。
このように、アングルA1における水平方向の面をウェブ、垂直方向の面をフランジと称することとする。アングルA1の内面角部はいわゆる内Rと称されている曲面部A1iRとなっている。
アングルA1の外面角部P0を展開図AD1における展開補助線USL1とする。ウェブA12の内面A12iと曲面部A1iRとの接続部P4からフランジA11の外面A11oまで伸ばした垂線が外面A11oと交差する交差部P1を、板厚線MTL1とする。フランジA11の内面A11iと曲面部A1iRとの接続部P3からウェブA12の外面A12oまで伸ばした垂線が外面A12oと交差する交差部P2を、板厚線MTL2とする。
展開補助線USL1と板厚線MTL1とに挟まれた部分、及び、展開補助線USL1と板厚線MTL2とに挟まれた部分がアングルA1における板厚領域である。
フランジA11内の板厚線MTL1の位置は、展開補助線USL1からウェブA12の板厚に相当する距離だけフランジA11の側面側に離れた位置である。よって、展開補助線USL1と板厚線MTL1との間の距離は、ウェブA12の板厚によって決まる。
ウェブA12の板厚線MTL2の位置は、展開補助線USL1からフランジA11の板厚に相当する距離だけウェブA12の側面側に離れた位置である。よって、展開補助線USL1と板厚線MTL2との間の距離は、フランジA11の板厚によって決まる。
図3において、(a)はチャンネルC1の端面平面図、(b)はチャンネルC1の展開図CD1を示している。チャンネルC1は、図3の(a)における垂直方向のフランジC11,C12とウェブC13とを連結した形状である。
フランジC11の内面C11iとウェブC13の内面C13iとの内面角部は内Rの曲面部C1iR1となっている。フランジC12の内面C12iとウェブC13の内面C13iとの内面角部も内Rの曲面部C1iR2となっている。内面C11i,C12iは、所定のテーパ角度を有している。
チャンネルC1の一方の外面角部P01を展開図CD1における展開補助線USL1とする。チャンネルC1のもう一方の外面角部P02を展開図CD1における展開補助線USL2とする。
ウェブC13の内面C13iと曲面部C1iR1との接続部P14からフランジC11の外面C11oまで伸ばした垂線が外面C11oと交差する交差部P11を、板厚線MTL1とする。フランジC11の内面C11iと曲面部C1iR1との接続部P13からウェブC13の外面C13oまで伸ばした垂線が外面C13oと交差する交差部P12を、板厚線MTL2とする。
ウェブC13の内面C13iと曲面部C1iR2との接続部P24からフランジC12の外面C12oまで伸ばした垂線が外面C12oと交差する交差部P21を、板厚線MTL4とする。フランジC12の内面C12iと曲面部C1iR2との接続部P23からウェブC13の外面C13oまで伸ばした垂線が外面C13oと交差する交差部P22を、板厚線MTL3とする。
展開補助線USL1と板厚線MTL1とに挟まれた部分、展開補助線USL1と板厚線MTL2とに挟まれた部分、展開補助線USL2と板厚線MTL3とに挟まれた部分、展開補助線USL2と板厚線MTL4とに挟まれた部分がチャンネルC1における板厚領域である。
フランジC11内の板厚線MTL1の位置と、フランジC12の板厚線MTL4の位置は、展開補助線USL1,USL2からウェブC13の板厚に相当する距離だけフランジC11,C12の側面側に離れた位置である。よって、展開補助線USL1と板厚線MTL1との間の距離と、展開補助線USL2と板厚線MTL4との間の距離は、ウェブC13の板厚によって決まる。
ウェブC13内の板厚線MTL2の位置は、展開補助線USL1からフランジC11の板厚に相当する距離だけフランジC11の側面とは反対側に離れた位置である。板厚線MTL3の位置は、展開補助線USL2からフランジC12の板厚に相当する距離だけフランジC12の側面とは反対側に離れた位置である。
よって、展開補助線USL1と板厚線MTL2との間の距離はフランジC11の板厚によって決まり、展開補助線USL2と板厚線MTL3との間の距離はフランジC12の板厚によって決まる。
図4A,図4Bを用いて、アングルA1の面ごとの加工順を説明する。アングルA1の加工順は、図4Aに示すパターン1または図4Bに示すパターン2とのいずれかである。図4A,図4Bにおいて、AglはアングルA1の角度を示す。
図4Aにおいて、(a)に示す角度Aglが0度の位置を基準位置として、90度回転させたときの加工面が90度面であり、180度回転させたときの加工面が180度面である。よって、フランジA11が90度面、ウェブA12が180度面である。
図4Aに示すパターン1においては、レーザ加工機40は、(a)の状態のアングルA1を90度回転させて(b)の状態とし、まずフランジA11を加工する。
レーザ加工機40は、レーザヘッド40H(以下、単にヘッド40Hと称す)をフランジA11の側面側の端部に配置してレーザ光の照射を開始し、(c)に示すように、ヘッド40Hを矢印で示すようにウェブA12方向へと移動させていく。レーザ加工機40は、フランジA11をウェブA12の板厚に到達するまで(即ち、板厚線MTL1まで)加工する。
ここでは、レーザ加工機40は、フランジA11をウェブA12の板厚に到達するまで加工するとしたが、板厚線MTL1の少し手前まででフランジA11の加工を終了することもある。
レーザ加工機40は、ヘッド40Hを一旦退避させて、(c)の状態のアングルA1をさらに90度回転させて(d)の状態とし、ウェブA12を加工する。
レーザ加工機40は、ヘッド40HをウェブA12の側面側の端部に配置してレーザ光の照射を開始し、(e)に示すように、ヘッド40Hを矢印で示すようにフランジA11方向へと移動させていく。レーザ加工機40は、ウェブA12を、フランジA11とウェブA12との外面角部に到達するまで(即ち、展開補助線USL1まで)加工するよう、ヘッド40Hを、外面角部を越えるまで移動させる。
図4Bに示すパターン2においては、レーザ加工機40は、(a)の状態のアングルA1を180度回転させて(b)の状態とし、まずウェブA12を加工する。
レーザ加工機40は、ヘッド40HをウェブA12の側面側の端部に配置してレーザ光の照射を開始し、(c)に示すように、ヘッド40Hを矢印で示すようにフランジA11方向へと移動させていく。レーザ加工機40は、ウェブA12をフランジA11の板厚に到達するまで(即ち、板厚線MTL2まで)加工する。
ここでは、レーザ加工機40は、ウェブA12をフランジA11の板厚に到達するまで加工するとしたが、板厚線MTL2の少し手前まででウェブA12の加工を終了することもある。
レーザ加工機40は、ヘッド40Hを一旦退避させて、(c)の状態のアングルA1をさらに270度回転させて(d)の状態とし、フランジA11を加工する。
レーザ加工機40は、ヘッド40HをフランジA11の側面側の端部に配置してレーザ光の照射を開始し、(e)に示すように、ヘッド40Hを矢印で示すようにウェブA12方向へと移動させていく。レーザ加工機40は、フランジA11を、フランジA11とウェブA12との外面角部に到達するまで(即ち、展開補助線USL1まで)加工するよう、ヘッド40Hを、外面角部を越えるまで移動させる。
このように、レーザ加工機40によってアングルA1を加工する際の加工順は、90度面、180度面の順のパターン1と、180度面、90度面の順のパターン2とのいずれかである。
パターン1とパターン2とのうち、アングルA1を切断する形状に応じて、隣接面に切り込みが発生せず、板厚領域に切り残しが発生しない方のパターンが選択される。隣接面とは、フランジA11を加工しているときにはウェブA12、ウェブA12を加工しているときにはフランジA11である。
図5A,図5Bを用いて、チャンネルC1の面ごとの加工順を説明する。チャンネルC1を加工する際の複数の加工順のうち、図5Aに示すパターン1と図5Bに示すパターン2との2つのパターンを選択して、それぞれのパターンにおける加工順を説明する。
図5Aにおいて、(a)に示す角度Aglが0度の位置を基準位置として、90度回転させたときの加工面が90度面であり、180度回転させたときの加工面が180度面、270度回転させたときの加工面が270度面である。よって、フランジC11が90度面、ウェブC13が180度面、フランジC12が270度面である。
図5Aに示すパターン1においては、レーザ加工機40は、(a)の状態のチャンネルC1を90度回転させて(b)の状態とし、まずフランジC11を加工する。
レーザ加工機40は、ヘッド40HをフランジC11の側面側の端部に配置してレーザ光の照射を開始し、(c)に示すように、ヘッド40Hを矢印で示すようにウェブC13方向へと移動させていく。レーザ加工機40は、フランジC11を、ウェブC13の板厚に到達するまで(即ち、板厚線MTL1まで)加工する。
同様に、レーザ加工機40は、板厚線MTL1の少し手前まででフランジC11の加工を終了することもある。
レーザ加工機40は、ヘッド40Hを一旦退避させて、(c)の状態のチャンネルC1をさらに180度回転させて(d)の状態とし、フランジC12を加工する。
レーザ加工機40は、ヘッド40HをフランジC12の側面側の端部に配置してレーザ光の照射を開始し、(e)に示すように、ヘッド40Hを矢印で示すようにウェブC13方向へと移動させていく。レーザ加工機40は、フランジC12を、ウェブC13の板厚に到達するまで(即ち、板厚線MTL4まで)加工する。
同様に、レーザ加工機40は、板厚線MTL4の少し手前まででフランジC12の加工を終了することもある。
レーザ加工機40は、(e)の状態のチャンネルC1を逆方向に90度回転させて(f)の状態とし、ウェブC13を加工する。
レーザ加工機40は、ヘッド40HをウェブC13の側面側の端部に配置してレーザ光の照射を開始し、(g)に示すように、ヘッド40Hを矢印で示すようにフランジC12方向へと移動させていく。レーザ加工機40は、ウェブC13を、フランジC12とウェブC13との外面角部に到達するまで(即ち、展開補助線USL2まで)加工するよう、ヘッド40Hを、外面角部を越えるまで移動させる。
図5Bに示すパターン2においては、レーザ加工機40は、(a)の状態のチャンネルC1を180度回転させて、(b)の状態とし、まずウェブC13を加工する。
レーザ加工機40は、(c)に示すように、ヘッド40Hを、フランジC11を過ぎた位置(即ち、板厚線MTL2)からフランジC12の板厚に到達するまで(即ち、板厚線MTL3まで)の間を移動して、ウェブC13に対して開口を形成するようにウェブC13を加工する。
レーザ加工機40は、ヘッド40Hを一旦退避させて、(c)の状態のチャンネルC1をさらに90度回転させて(d)の状態とし、フランジC12を加工する。
レーザ加工機40は、ヘッド40HをフランジC12の側面側の端部に配置してレーザ光の照射を開始し、(e)に示すように、ヘッド40Hを矢印で示すようにウェブC13方向へと移動させていく。レーザ加工機40は、フランジC12を、フランジC12とウェブC13との外面角部に到達するまで(即ち、展開補助線USL2まで)加工するよう、ヘッド40Hを、外面角部を越えるまで移動させる。
レーザ加工機40は、(e)の状態のチャンネルC1を180度回転させて(f)の状態とし、フランジC11を加工する。
レーザ加工機40は、ヘッド40HをフランジC11の側面側の端部に配置してレーザ光の照射を開始し、(g)に示すように、ヘッド40Hを矢印で示すようにウェブC13方向へと移動させていく。レーザ加工機40は、フランジC11を、フランジC11とウェブC13との外面角部に到達するまで(即ち、展開補助線USL1まで)加工するよう、ヘッド40Hを、外面角部を越えるまで移動させる。
レーザ加工機40によってチャンネルC1を加工する際の加工順の複数のパターンの中から、チャンネルC1を切断する形状に応じて、隣接面に切り込みが発生せず、板厚領域に切り残しが発生しないいずれかのパターンが選択される。隣接面とは、フランジC11またはC12を加工しているときにはウェブC13、ウェブC13を加工しているときにはフランジC11またはC12である。
図4A,図4Bにおいて、レーザ加工機40がヘッド40Hを移動させてフランジA11またはウェブA12を加工する際に、鋼材に対して与える単位長さ当たりの熱量は、切断する面内の位置や面の板厚によって異ならせる必要がある。図5A,図5Bにおいて、フランジC11,C12またはウェブC13を切断する場合も同様である。
図6及び図7を用いて、アングルA1を加工する場合に鋼材に対して与える単位長さ当たりの熱量の例を説明する。図6に示すように、TA〜TDで示す板厚(距離)が、TA<TB、TC<TDであるとする。図6は、レーザ加工機40がフランジA11の板厚に到達する少し手前でウェブA12の切断を終了する場合を示している。
図6は、アングルA1を図4Bに示すパターン2で加工する場合を示している。板厚TAと板厚TCとは同じである。
図7の(a)は、フランジA11またはウェブA12の面に対して与える単位長さ当たりの熱量h1〜h4(比較例)を示している。熱量h1〜h3は、h1≒h3>h2の関係である。フランジA11またはウェブA12の切断を開始するときには、比較的大きな熱量が必要となる。フランジA11またはウェブA12の切断が進行すると、さほど大きな熱量は必要なくなるため、熱量h2は熱量h1よりも小さくてよい。
フランジA11またはウェブA12の板厚領域の近傍は、板厚TBが比較的厚く熱量h2では切断することができないため、熱量h1と同程度の熱量h3とすることが必要となる。
ところが、図7の(a)に示す比較例の加工方法では、フランジA11を側面側の端部から外面角部へと切断していく際に、板厚領域の切断のときに熱がこもって製品が部分的に溶けてしまうことがある。
そこで、本実施形態においては、図7の(b)に示すように、フランジA11の切断を進行させていき、鋼材と製品とを切り離すように板厚領域を切断して、ヘッド40Hを鋼材より退出させていくときに、h3>h4の関係にある熱量h4とする。h4>h2であり、熱量h1〜h4は、h1≒h3>h4>h2の関係である。
熱量h3から熱量h4へと下げる位置は、フランジA11の側面側の端部(外面角部とは反対側の端部)から外面角部へと切断していくときに、板厚領域近傍であり、板厚領域に到達する直前の所定位置か、板厚領域内の所定位置でよい。この所定位置は、後述する切断条件の変更位置Psである。図7の(b)は、板厚領域内の所定位置を、熱量h3から熱量h4へと下げる位置とした例を示している。
図8及び図9を用いて、チャンネルC1を加工する場合に鋼材に対して与える単位長さ当たりの熱量の例を説明する。図8に示すチャンネルC1は、フランジC11,C12の板厚が側面側の端部からウェブC13の方向に向かうに従って厚くなっている形状を有する。図8に示すように、TA〜TDで示す板厚(距離)が、TA<TB、TC<TDであるとする。板厚TCは板厚TAよりも薄い。
図8は、レーザ加工機40がウェブC13の板厚に到達する少し手前でフランジC11,C12の切断を終了する場合を示している。図8は、チャンネルC1を図5Aに示すパターン1で加工する場合を示している。
図9の(a)は、フランジC11,C12の面に対して与える単位長さ当たりの熱量h11〜h14と、ウェブC13の面に対して与える単位長さ当たりの熱量h11,h14,h15(比較例)を示している。熱量h11〜h15は、h11≒h14>h13>h12>h15の関係である。
アングルA1の場合と同様に、フランジC11,C12の切断を開始するときには、比較的大きな熱量が必要となる。切断を開始した後はさほど大きな熱量は必要なくなるため、熱量h12は熱量h11よりも小さくてよい。フランジC11,C12の切断が進行すると、板厚が順に厚くなるため、熱量h13を熱量h12より大きくすることが必要となる。
フランジC11,C12の切断がさらに進行すると、板厚領域の近傍は、板厚TBが比較的厚く熱量h13では切断することができないため、熱量h11と同程度の熱量h14とすることが必要となる。
ところが、図9の(a)に示す比較例の加工方法では、ウェブC13をフランジC11側の端部(一方の外面角部)からフランジC12側の端部(他方の外面角部)へと切断していく際に、フランジC12側の板厚領域の切断のときに熱がこもって製品が部分的に溶けてしまうことがある。
そこで、本実施形態においては、図9の(b)に示すように、ウェブC13の切断を進行させていき、鋼材と製品とを切り離すように板厚領域を切断して、ヘッド40Hを鋼材より退出させていくときに、h14>h16の関係にある熱量h16とする。h16>h15であり、熱量h11,h14〜h16は、h11≒h14>h16>h15の関係である。
熱量h14から熱量h16へと下げる位置は、ウェブC13の一方の外面角部から他方の外面角部へと切断していくときに、板厚領域近傍であり、板厚領域に到達する直前の所定位置か、板厚領域内の所定位置でよい。この所定位置は、後述する切断条件の変更位置Psである。図9の(b)は、板厚領域内の所定位置を、熱量h14から熱量h16へと下げる位置とした例を示している。
図7の(b),図9の(b)で説明した板厚領域に到達する直前の位置か板厚領域内の所定位置で単位長さ当たりの熱量を下げること以外、それぞれの面を切断する際の単位長さ当たりの熱量の大小関係は単なる例である。
加工しようとする面に隣接する先に加工した面がある場合、加工しようとする面を切断する際に必要となる熱量は、先に加工した面をどのように切断したかによって異なる。具体的には、先に加工した面の開口の有無、開口の大小、切断した方向等によって、先に加工した面に隣接する次に加工しようとする面を切断する際に必要となる熱量は異なる。
次に、アングルA1を加工して図10に示す製品A10を形成する場合を例として、本実施形態のレーザ加工方法、及び、本実施形態のレーザ加工プログラム作成装置による加工プログラムの作成処理を具体的に説明する。
図11は、加工前のアングルA1の展開図AD1に、図10に示す製品A10の展開図AD10を割り当てた状態を示している。展開図AD10の左側外形線をA10L、右側外形線をA10Rとする。図11の左側がアングルA1の先端側、右側がレーザ加工機40によってチャッキングされる後端側である。
アングルA1を加工して製品A10を形成するには、図12に示すように、切断軌跡Ls1,Ls2によって左側外形線A10Lを切断し、切断軌跡Ls3,Ls4によって右側外形線A10Rを切断すればよい。切断軌跡Ls1,Ls2による切断は、図4の(a)で説明したパターン1である。切断軌跡Ls3,Ls4による切断は、図4の(b)で説明したパターン2である。
切断軌跡・加工順決定部21は、製品A10を形成するための切断軌跡をLs1〜Ls4とし、切断軌跡Ls1〜Ls4による加工順をLs1,Ls2,Ls3,Ls4の順とすることを決定する。
切断軌跡Ls1は、フランジA11を、側面側の端部から板厚線MTL1まで切断する軌跡を示す。切断軌跡Ls2は、ウェブA12を、側面側の端部からフランジA11とウェブA12との外面角部である展開補助線USL1まで切断する軌跡を示す。展開補助線USL1と板厚線MTL1との間の板厚領域は、展開補助線USL1と板厚線MTL2との間の板厚領域の切断と併せて切断される。
切断軌跡Ls3は、ウェブA12を、側面側の端部から板厚線MTL2まで切断する軌跡を示す。切断軌跡Ls4は、フランジA11を、側面側の端部から展開補助線USL1まで切断する軌跡を示す。展開補助線USL1と板厚線MTL2との間の板厚領域は、展開補助線USL1と板厚線MTL1との間の板厚領域の切断と併せて切断される。
切断軌跡Ls2によって展開補助線USL1と板厚線MTL1,MTL2との間の板厚領域を切断するとき、先に加工されているフランジA11には切断軌跡Ls1によって切断されたスリットが形成されているのみである。
切断軌跡Ls4によって展開補助線USL1と板厚線MTL1,MTL2との間の板厚領域を切断するとき、先に加工されているウェブA12には切断軌跡Ls3によって切断されたスリットが形成されているのみである。
よって、左側外形線A10Lと右側外形線A10Rそれぞれで、鋼材と製品A10とを切り離すために板厚領域を切断するとき、板厚領域に熱がこもって、製品A10の板厚領域とその近傍が溶けてしまうことがある。
そこで、割付けデータ作成部23は、次のように切断条件を設定して、アングルA1を切断して製品A10を形成するための割付けデータを生成する。
図13に示すように、割付けデータ作成部23は、板厚領域を切断する切断軌跡Ls2,Ls4に対して、展開補助線USL1から所定の距離Dsだけ切断方向手前側の位置を変更位置Psとする。変更位置Psは、板厚領域の近傍または板厚領域内に設定する。
割付けデータ作成部23は、切断軌跡Ls2に対して、側面側の端部から変更位置Psまでの範囲に、図7の(b)で説明したような所定の切断条件を設定する。割付けデータ作成部23は、図7の(b)で説明したように、変更位置Ps以降、変更位置Psの少なくとも直前の部分と比較して、単位長さ当たりの熱量を下げた切断条件を設定する。
同様に、割付けデータ作成部23は、切断軌跡Ls4に対して、側面側の端部から変更位置Psまでの範囲に、図7の(b)で説明したような所定の切断条件を設定する。割付けデータ作成部23は、図7の(b)で説明したように、変更位置Ps以降、変更位置Psの少なくとも直前の部分と比較して、単位長さ当たりの熱量を下げた切断条件を設定する。
変更位置Psの直前の部分における切断条件を、単位長さ当たりの熱量を第1の熱量とする第1の切断条件とし、変更位置Ps以降の破線で示す部分における切断条件を、単位長さ当たりの熱量を第2の熱量とする第2の切断条件とする。第2の熱量は第1の熱量よりも小さい。
割付けデータ作成部23が切断軌跡Ls1,Ls3に対して割付ける切断条件は特に限定されないが、例えば図7の(b)で説明した切断条件とすればよい。
即ち、割付けデータ作成部23は、アングルA1を次の(1)〜(4)の順で加工するための割付けデータを作成する。
(1)フランジA11を切断軌跡Ls1に対応させて所定の切断条件で切断
ここで、切断軌跡Ls1は、一方の側面側の端部(フランジA11における外面角部とは反対側の第1の端部)から、展開補助線USL1からウェブA12の板厚に相当する距離だけ第1の端部側に離れた位置(板厚線MTL1)までの範囲に割付けられた切断軌跡である。
(2)ウェブA12及び板厚領域を切断軌跡Ls2に対応させて、次のような切断条件で切断
ここで、切断軌跡Ls2は、他方の側面側の端部(ウェブA12における外面角部とは反対側の第2の端部)から展開補助線USL1までの範囲に割付けられた切断軌跡である。
切断軌跡Ls2のうち、第2の端部から変更位置Psまでの範囲を、少なくとも変更位置Psに隣接する部分で、レーザ光が鋼材に与える単位長さ当たりの熱量を第1の熱量とする第1の切断条件とする。切断軌跡Ls2のうち、変更位置Ps以降を、レーザ光が鋼材に与える単位長さ当たりの熱量を第1の熱量より小さい第2の熱量とする第2の切断条件とする。
(3)ウェブA12を切断軌跡Ls3に対応させて所定の切断条件で切断
ここで、切断軌跡Ls3は、一方の側面側の端部(ウェブA12における外面角部とは反対側の第1の端部)から、展開補助線USL1からフランジA11の板厚に相当する距離だけ第1の端部側に離れた位置(板厚線MTL2)までの範囲に割付けられた切断軌跡である。
(4)フランジA11及び板厚領域を切断軌跡Ls4に対応させて、次のような切断条件で切断
ここで、切断軌跡Ls4は、他方の側面側の端部(フランジA11における外面角部とは反対側の第2の端部)から展開補助線USL1までの範囲に割付けられた切断軌跡である。
切断軌跡Ls4のうち、第2の端部から変更位置Psまでの範囲を、少なくとも変更位置Psに隣接する部分で、レーザ光が鋼材に与える単位長さ当たりの熱量を第1の熱量とする第1の切断条件とする。切断軌跡Ls4のうち、変更位置Ps以降を、レーザ光が鋼材に与える単位長さ当たりの熱量を第1の熱量より小さい第2の熱量とする第2の切断条件とする。
距離Dsは例えば1〜10mmである。図14に示すように、距離Dsを展開補助線USL1と板厚線MTL1との間の板厚領域(または展開補助線USL1と板厚線MTL2との間の板厚領域)の距離より長くしてもよい。変更位置Psを板厚領域の外側に設定してもよく、板厚領域の近傍であればよい。
変更位置PsをフランジA11またはウェブA12の板厚が厚くなるほど展開補助線USL1から離れた位置として、距離Dsを板厚に応じた距離とするのがよい。フランジA11とウェブA12との板厚が異なる場合には、図13の切断軌跡Ls2における距離Dsと、切断軌跡Ls4における距離Dsとは異なっていてもよい。
図15に示すように、距離Dsを展開補助線USL1と板厚線MTL1との間の板厚領域(または展開補助線USL1と板厚線MTL2との間の板厚領域)の距離としてもよい。即ち、変更位置Psを板厚線MTL1,MTL2上に設定してもよい。
NC装置30は、以上のように作成された割付けデータ(加工プログラム)に従ってレーザ加工機40によるアングルA1の加工を制御する。よって、アングルA1は、まず、隣接する2つの面のうちの一方の面が側面側の端部から板厚線MTL1,MTL2までスリット状に切断され、次に、他方の面が側面側の端部から外面角部(展開補助線USL1)まで切断される。
他方の面を側面側の端部から外面角部まで、板厚領域を切り離すように切断するとき、鋼材に対して与える単位長さ当たりの熱量を小さくすることができる。これにより、板厚領域に熱がこもって、製品A10の板厚領域やその近傍が溶けてしまうという不具合の発生を低減させることができる。
さらに、チャンネルC1を加工して図16に示す製品C10を形成する場合を例として、本実施形態のレーザ加工方法、及び、本実施形態のレーザ加工プログラム作成装置による加工プログラムの作成処理を具体的に説明する。
図17は、加工前のチャンネルC1の展開図CD1に、図16に示す製品C10の展開図CD10を割り当てた状態を示している。展開図CD10の左側外形線をC10L、右側外形線をC10Rとする。図17の左側がチャンネルC1の先端側、右側がレーザ加工機40によってチャッキングされる後端側である。
チャンネルC1を加工して製品C10を形成するには、図18に示すように、切断軌跡Ls1,Ls2,Ls3によって左側外形線C10Lを切断し、切断軌跡Ls4,Ls5,Ls6によって右側外形線C10Rを切断すればよい。切断軌跡Ls4は、ウェブC13にピアスP4を開けて矩形状に切断する切断軌跡である。
切断軌跡Ls1〜Ls3による切断は、図5の(a)で説明したパターン1である。切断軌跡Ls4〜Ls6による切断は、図5の(b)で説明したパターン2である。
切断軌跡・加工順決定部21は、製品C10を形成するための切断軌跡をLs1〜Ls6とし、切断軌跡Ls1〜Ls6による加工順をLs1,Ls2,Ls3,Ls4,Ls5,Ls6の順とすることを決定する。
切断軌跡Ls1は、フランジC11を、側面側の端部から板厚線MTL1まで切断する軌跡を示す。切断軌跡Ls2は、フランジC12を、側面側の端部から板厚線MTL4まで切断する軌跡を示す。切断軌跡Ls3は、ウェブC13を、フランジC11側の端部からフランジC12とウェブC13との外面角部である展開補助線USL2まで切断する軌跡を示す。
展開補助線USL1と板厚線MTL1との間の板厚領域は、展開補助線USL1と板厚線MTL2との間の板厚領域の切断と併せて切断される。展開補助線USL2と板厚線MTL4との間の板厚領域は、展開補助線USL2と板厚線MTL3との間の板厚領域の切断と併せて切断される。
切断軌跡Ls4は、ウェブC13にピアスP4を開け、ピアスP4から後端側に切断した後にウェブC13の板厚線MTL2,MTL3間を矩形状に切断する軌跡を示す。切断軌跡Ls5は、フランジC12を、側面側の端部から展開補助線USL2まで切断する軌跡を示す。切断軌跡Ls6は、フランジC11を、側面側の端部から展開補助線USL1まで切断する軌跡を示す。
展開補助線USL1と板厚線MTL2との間の板厚領域は、展開補助線USL1と板厚線MTL1との間の板厚領域の切断と併せて切断される。展開補助線USL2と板厚線MTL3との間の板厚領域は、展開補助線USL2と板厚線MTL4との間の板厚領域の切断と併せて切断される。
切断軌跡Ls3によって展開補助線USL2と板厚線MTL3,MTL4との間の板厚領域を切断するとき、先に加工されているフランジC12には切断軌跡Ls2によって切断されたスリットが形成されているのみである。よって、鋼材と製品C10とを切り離すために板厚領域を切断するとき、板厚領域に熱がこもって、製品C10の板厚領域とその近傍が溶けてしまうことがある。
切断軌跡Ls6によって展開補助線USL1と板厚線MTL1,MTL2との間の板厚領域を切断するとき、先に加工されているウェブC13には切断軌跡Ls4によって矩形状の開口が形成されている。
よって、鋼材と製品C10とを切り離すために、展開補助線USL1と板厚線MTL1,MTL2との間の板厚領域を切断するときには板厚領域に熱はこもらず、製品C10の板厚領域とその近傍が溶けることはない。
そこで、割付けデータ作成部23は、次のように切断条件を設定して、チャンネルC1を切断して製品C10を形成するための割付けデータを生成する。
図19に示すように、割付けデータ作成部23は、板厚領域を切断する切断軌跡Ls3に対して、展開補助線USL2から所定の距離Dsだけ切断方向手前側の位置を変更位置Psとする。変更位置Psは、板厚領域の近傍または板厚領域内に設定する。
割付けデータ作成部23は、切断軌跡Ls3に対して、フランジC12とウェブC13との外面角部(展開補助線USL2)とは反対側の端部から変更位置Psまでの範囲に、図9の(b)で説明したような所定の切断条件を設定する。割付けデータ作成部23は、図9の(b)で説明したように、変更位置Ps以降、変更位置Psの少なくとも直前の部分と比較して、単位長さ当たりの熱量を下げた切断条件を設定する。
変更位置Psの直前の部分における切断条件を、単位長さ当たりの熱量を第1の熱量とする第1の切断条件とし、変更位置Ps以降の破線で示す部分における切断条件を、単位長さ当たりの熱量を第2の熱量とする第2の切断条件とする。第2の熱量は第1の熱量よりも小さい。
割付けデータ作成部23が切断軌跡Ls1,Ls2に対して割付ける切断条件は特に限定されないが、例えば図9の(b)で説明した切断条件でよい。割付けデータ作成部23が切断軌跡Ls4〜Ls6に対して割付ける切断条件も、適宜設定すればよい。
即ち、割付けデータ作成部23は、チャンネルC1を次の(1)〜(6)の順で加工するための割付けデータを作成する。
(1)フランジC11を切断軌跡Ls1に対応させて所定の切断条件で切断
(2)フランジC12を切断軌跡Ls2に対応させて所定の切断条件で切断
ここで、切断軌跡Ls2は、側面側の端部(フランジC12における外面角部とは反対側の第1の端部)から、展開補助線USL2からウェブC13の板厚に相当する距離だけ第1の端部側に離れた位置(板厚線MTL4)までの範囲に割付けられた切断軌跡である。
(3)ウェブC13及び板厚領域を切断軌跡Ls3に対応させて、次のような切断条件で切断
ここで、切断軌跡Ls3は、ウェブC13におけるフランジC12とウェブC13との外面角部とは反対側の第2の端部から展開補助線USL2までの範囲に割付けられた切断軌跡である。
切断軌跡Ls3のうち、第2の端部から変更位置Psまでの範囲を、少なくとも変更位置Psに隣接する部分で、レーザ光が鋼材に与える単位長さ当たりの熱量を第1の熱量とする第1の切断条件とする。切断軌跡Ls3のうち、変更位置Ps以降を、レーザ光が鋼材に与える単位長さ当たりの熱量を第1の熱量より小さい第2の熱量とする第2の切断条件とする。
(4)ウェブC13を切断軌跡Ls4に対応させて所定の切断条件で切断
(5)フランジC12を切断軌跡Ls5に対応させて所定の切断条件で切断
(6)フランジC11を切断軌跡Ls6に対応させて所定の切断条件で切断
右側外形線C10Rに沿った切断において、ウェブC13にスリットではなく比較的面積の広い開口が形成されているために、切断軌跡Ls6によって板厚領域を切断する際の切断条件を変更する必要はない。
しかしながら、切断軌跡Ls3での切断と同様に、切断軌跡Ls6上に変更位置Psを設定してもよい。そして、切断軌跡Ls6によって板厚領域を切断するときに、変更位置Psの少なくとも直前の部分で第1の切断条件として、変更位置Ps以降で第2の切断条件へと変更しても構わない。
チャンネルC1の加工においても、距離Dsを板厚に応じた距離とするのがよい。図19に示す切断軌跡Ls3では、変更位置Psを板厚線MTL3上に設定して、距離Dsを展開補助線USL2と板厚線MTL3との間の板厚領域の距離としている。
NC装置30は、以上のように作成された割付けデータ(加工プログラム)に従ってレーザ加工機40によるチャンネルC1の加工を制御する。レーザ加工機40が左側外形線C10Lの切断軌跡Ls3に従って板厚領域を切り離すように切断するとき、鋼材に対して与える単位長さ当たりの熱量を小さくすることができる。
これにより、板厚領域に熱がこもって、製品C10の板厚領域やその近傍が溶けてしまうという不具合の発生を低減させることができる。
図20,図21を用いて、アングルA1を加工する場合を例として、本実施形態のレーザ加工方法を実施する場合と実施しない場合とを比較する。図20は本実施形態のレーザ加工方法によって加工する場合、図21は本実施形態のレーザ加工方法を実施せず、比較例のレーザ加工方法によって加工する場合を示している。
まず、本実施形態のレーザ加工方法を実施する場合について説明する。図20において、(a)に示すアングルA1を90度回転させて、(b)の状態とする。レーザ加工機40は、ヘッド40HをフランジA11の側面側の端部に配置してレーザ光の照射を開始する。
レーザ加工機40は、フランジA11をウェブA12の板厚に到達するまで所定の切断条件で切断し、(c)に示すように、フランジA11にスリットCs1を形成する。ここでは、フランジA11の側面側の端部から斜め方向に切断して、その後、アングルA1の先端面と平行に切断して形成したスリットCs1としている。
アングルA1をさらに90度回転させて、(d)の状態とする。レーザ加工機40は、ヘッド40HをウェブA12の側面側の端部に配置してレーザ光の照射を開始する。
レーザ加工機40は、ウェブA12を側面側の端部から変更位置Psに到達するまで(フランジA11の板厚に到達するまで)切断する。このとき、少なくとも変更位置Psの直前の変更位置Psに隣接する部分では、ウェブA12を第1の切断条件で切断する。これによって、レーザ加工機40は、(e)に示すように、ウェブA12にスリットCs2を形成する。
レーザ加工機40は、変更位置Ps以降、第2の切断条件とすることによって単位長さ当たりの熱量を低下させて、(f)に示すように、板厚領域を切断する。
本実施形態のレーザ加工方法によれば、(f)に示すように、製品の板厚領域及びその近傍が溶けてしまうことはほとんどない。
次に、比較例のレーザ加工方法を実施する場合について説明する。図21において、(a)〜(d)は図20の(a)〜(d)と同じであり、説明を省略する。比較例のレーザ加工方法においては、レーザ加工機40は、(e),(f)に示すように、ウェブA12を側面側の端部から例えば図7の(a)で説明したような切断条件で切断して、ウェブA12にスリットCs2を形成する。レーザ加工機40は、板厚領域を切断する際、単位長さ当たりの熱量を小さくすることなく、同じ切断条件を維持する。
従って、比較例のレーザ加工方法では、(f)に示すように、製品には、板厚領域及びその近傍が溶けて凹んだ領域Rmtが形成されてしまうことがある。
図20,図21ではアングルA1を加工する場合を例として説明したが、チャンネルC1を加工する場合も同様に、本実施形態のレーザ加工方法を実施しない場合には板厚領域及びその近傍が溶けてしまうことがある。チャンネルC1を加工する場合においても、本実施形態のレーザ加工方法を実施することにより、板厚領域及びその近傍が溶けてしまうという不具合の発生を低減させることができる。
図22に示すフローチャートを用いて、本実施形態のレーザ加工プログラム作成装置で実行される全体的な処理を説明する。図22において、鋼材を加工するための加工プログラムを作成する処理が開始されると、レーザ加工プログラム作成装置20は、ステップS101にて、展開図データを読み込む。
レーザ加工プログラム作成装置20(切断軌跡・加工順決定部21)は、ステップS102にて、展開図データに切断軌跡を割付けて、ステップS103にて、最適な加工順を決定する。
レーザ加工プログラム作成装置20は、ステップS104にて、溶け防止の切断条件を適用する設定がされているか否かを判定する。図20で説明した溶け防止の切断条件を適用するレーザ加工方法と、図21で説明した溶け防止の切断条件を適用しないレーザ加工方法とは、設定によって予め選択可能であるとする。
溶け防止の切断条件を適用する設定がされていれば(YES)、レーザ加工プログラム作成装置20(割付けデータ作成部23)は、ステップS105にて、板厚領域の切断条件を変更する割付けデータを作成して、処理を終了させる。
溶け防止の切断条件を適用する設定がされていなければ(NO)、レーザ加工プログラム作成装置20(割付けデータ作成部23)は、ステップS106にて、板厚領域の切断条件を変更しない比較例の割付けデータを作成して、処理を終了させる。
以上説明したように、本実施形態のレーザ加工方法及びレーザ加工プログラム作成装置によれば、先に加工した面の開口がスリットのように幅が狭くても、製品が溶けてしまうという不具合の発生を低減させることができる。
本実施形態のレーザ加工方法及びレーザ加工プログラム作成装置によれば、次のような副次的な効果も奏する。前述のように、図18に示す切断軌跡Ls4〜Ls6に基づく割付けでは、ウェブC13に比較的広い面積の開口が形成されるため、製品C10は右側外形線C10R側ではほとんど溶けることはない。
レーザ加工機40が左側外形線C10Lを切断するときも同様に、ウェブC13に予め比較的広い面積の開口を形成しておけば、板厚領域で切断条件を変更しなくても、製品C10は左側外形線C10L側でもほとんど溶けることはない。
しかしながら、図18において、ウェブC13に左側外形線C10Lに沿って広い面積の開口を形成すると、チャンネルC1に開口を形成するための余分の長さが必要となるため、歩留まりが悪化してしまう。本実施形態のレーザ加工方法及びレーザ加工プログラム作成装置によれば、歩留まりを向上させることができるという副次的な効果も奏する。
本発明は以上説明した本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。本実施形態のレーザ加工方法及びレーザ加工プログラム作成装置で加工の対象とする材料は、金属の種類が限定されるものではない。