JP2015120949A - 銅合金板材およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】Niを1.0〜5.0質量%、Siを0.1〜2.0質量%、並びにB、Mg、P、Cr、Mn、Fe、Co、Zn、Zr、Ag及びSnからなる群から選ばれる少なくとも1種を合計で0〜3.0質量%含有し、残部が銅及び不可避不純物からなる銅合金の板材であって、圧延面における解析で、結晶粒の短径/長径の比で表わされるアスペクト比が0.3以下の結晶粒であり、かつ、TD方向から±30°以内を向いた結晶粒について、前記結晶粒の密度が0.030個/μm2以下であり、かつ、隣接する結晶粒間のずれ角が30°以上である結晶粒界の単位面積あたりの長さが0.8μm/μm2以下である銅合金板材と、その製造方法。
【選択図】なし
Description
特許文献5には、例えば、圧延方向(RD)に向くCube方位(100)面の面積率を30%以上と制御することによって、ヤング率が110GPa以下と小さい銅合金板材が記載されている。しかし、この特許文献5は、ヤング率を低下することを課題とするものではあるが、TD方向のヤング率に着目してこれを低く制御することについては記載がない。
上記のような課題に鑑み、本発明の目的は、TD方向のヤング率が低く、かつ、TD方向に高い耐力を有し、耐疲労特性に優れた、電気・電子機器用のリードフレーム、コネクタ、端子材等、自動車車載用などのコネクタや、その他の端子材、リレー、スイッチ、ソケットなどに適した銅合金板材を提供することにある。
(1)Niを1.0〜5.0質量%、Siを0.1〜2.0質量%、並びにB、Mg、P、Cr、Mn、Fe、Co、Zn、Zr、Ag及びSnからなる群から選ばれる少なくとも1種を合計で0〜3.0質量%含有し、残部が銅及び不可避不純物からなる銅合金板材であって、
圧延面における解析で、結晶粒の短径/長径の比で表わされるアスペクト比が0.3以下の結晶粒であり、かつ、TD方向から±30°以内を向いた結晶粒について、前記結晶粒の密度が0.030個/μm2以下であり、かつ、隣接する結晶粒間のずれ角が30°以上である結晶粒界の単位面積あたりの長さが0.8μm/μm2以下であることを特徴とする銅合金板材。
(2)B、Mg、P、Cr、Mn、Fe、Co、Zn、Zr、Ag及びSnからなる群から選ばれる少なくとも1種を合計で0.1〜3.0質量%含有する(1)項に記載の銅合金板材。
(3)板材に一定の応力を加えた際の変位量を示す、引張試験で測定した、TD方向のヤング率が125GPa以下であり、たわみ試験で測定したTD方向のたわみ係数が115GPa以下、TD方向の耐力が600MPa以上である(1)又は(2)に記載の銅合金板材。
(4)板バネ疲労試験による耐疲労特性が、負荷応力500MPa以上で、繰り返し回数が106回以上である(1)〜(3)のいずれか1項に記載の銅合金板材。
(5)Niを1.0〜5.0質量%、Siを0.1〜2.0質量%、並びにB、Mg、P、Cr、Mn、Fe、Co、Zn、Zr、Ag及びSnからなる群から選ばれる少なくとも1種を合計で0〜3.0質量%含有し、残部が銅及び不可避不純物からなる銅合金板材を製造する方法であって、前記銅合金板材を与える合金成分組成から成る銅合金素材に、
鋳造[工程1]、
加工率10%以下の冷間圧延1[工程2]、
保持温度300〜700℃で保持時間1分〜5時間の予備焼鈍[工程3]、
保持温度700℃以上で5分〜20時間の均質化熱処理[工程4]、
熱間圧延[工程5]、
水焼入れ[工程6]、
面削[工程7]、
50%以上の加工率の冷間圧延2[工程8]、
昇温速度5〜15℃/秒、保持温度300〜700℃、保持時間1秒〜10時間の中間溶体化熱処理[工程9]、
10〜99%の加工率の冷間圧延3[工程10]、
到達温度700〜1020℃、保持時間1秒〜60秒の溶体化熱処理[工程11]、
保持温度300〜600℃、保持時間10分〜20時間の時効析出熱処理[工程12]、
酸洗[工程13]、及び
圧延加工率8〜80%の仕上げ冷間圧延[工程14]
の各工程をこの順に施すことを特徴とする銅合金板材の製造方法。
(6)B、Mg、P、Cr、Mn、Fe、Co、Zn、Zr、Ag及びSnからなる群から選ばれる少なくとも1種を合計で0.1〜3.0質量%含有する(5)項に記載の銅合金板材の製造方法。
(7)前記冷間圧延[工程14]の後で、保持温度300〜600℃、保持時間1秒〜60秒の歪取り焼鈍[工程15]を施す(5)又は(6)項に記載の銅合金板材の製造方法。
銅合金板材のTD方向(Transverse Direction。本書において、圧延垂直方向、又は単にTDともいう。)のヤング率を低下させるために、本発明者らはヤング率制御と組織の相関について詳細に調査した。その結果、板材ND方向から組織観察した際に、つまり圧延面を観察・解析した場合に、前記アスペクト比が0.3以下の比較的扁平な結晶粒の配向を制御するとともにその結晶粒の密度を低く制御することによって、TD方向のヤング率を低く制御することができることがわかった。詳細には、母相の結晶粒の長径がTD方向に向いて配列した扁平粒の密度を低く制御するとともに、粒界のずれ角が30°以上と大きい結晶粒界の単位面積あたりの長さを小さく制御することによって、TD方向のヤング率を低く制御することができることがわかった。ここで、結晶粒の長径がTD方向に向いて配列するとは、本発明で規定するところのアスペクト比が0.3以下の結晶粒がTD方向から±30°以内を向いた状態であることをいう(例えば図2(B))。
本発明において、母材の平均結晶粒径は、特に制限されるものではないが、通常10〜60μmである。ここで、平均結晶粒径とは、前記長径a(μm)の平均値である。また、短径b(μm)の平均値は、特に制限されるものではないが、通常5〜40μmである。本発明においては、長径aは短径bよりも長い。
図1に、連続繊維を含む複相材料を模式的に示す。図1(A)にType Aとして示した複相材料は、母相Mに対して、第二相Ωの形状が、図中に上下方向の矢印で示した応力軸に垂直な板状である場合を示す。一方、図1(B)にType Bとして示した複相材料は、母相Mに対して、第二相Ωの形状が、図中に上下方向の矢印で示した応力軸に平行な連続繊維状である場合を示す。
εM=σ0/EMとεΩ=σ0/EΩ・・・(1)
と見積もる。これは、Reuss近似とも言われる。このReuss近似の下での板状積層材(複相材料)(Type A、図1(A))のヤング率EA(R)は、第二相Ωの体積分率をVfとすると、
EA(R)=σ0/{VfεΩ+(1−Vf)εM}=1/[(Vf/EΩ)+{(1−Vf)/EM}]・・・(2)
となる。
σM=EMεuとσΩ=EΩεu・・・(3)
として与える。ここで、応力の分配条件
σ0=VfσΩ+(1−Vf)σM・・・(4)
を使うと、等ひずみ条件での繊維強化材(複相材料)(Type B、図1(B))のヤング率EB(v)は、
EB(v)=σ0/εu=VfEΩ+(1−Vf)EM・・・(5)
というヤング率の混合則の形式で与えられる。この等ひずみ条件はVoight(フォークト)近似とも呼ばれる。
EB(v)>EA(R)・・・(6)
となる。これより、EB(v)(Type B、図1(B))の方が、EA(R)(Type A、図1(A))よりも、ヤング率が高いことがわかった。
本発明における上記扁平粒、結晶粒界の観察と解析には、EBSD法を用いる。EBSDとは、Electron BackScatter Diffractionの略で、走査電子顕微鏡(SEM)内で試料に電子線を照射したときに生じる反射電子菊池線回折を利用した結晶方位解析技術のことである。本発明ではEBSD法を、結晶方位ではなく、結晶粒の平均面積と形状(アスペクト比)とを解析するために用いる。本発明におけるEBSD測定では、結晶粒を200個以上含む、100μm×200μmの試料面積に対し、0.1μmステップでスキャンし、結晶粒の平均面積と形状、結晶粒界の長さを解析する。前記測定面積及びスキャンステップは、試料の結晶粒の大きさに応じて決定すればよく、本発明では100×200μm、0.1μmとする。測定後の結晶粒の解析には、TSL社製の解析ソフトOIM Analysis(商品名)を用いる。
ここで、結晶粒の向きのTDに対するずれとは、個々の結晶粒の長径を通る直線を結晶の向きとする場合、その向きがTDから何度ずれているかをいう。
本発明においては、結晶粒の向きのTDに対するずれを、±30°以内とする。
本発明の銅合金への必須添加元素の含有量とその作用について示す。
Niは、後述するSiとともに含有されて、時効析出熱処理で析出したNi2Si相を形成して、銅合金板材の強度の向上に寄与する元素である。Niの含有量は1.0〜5.0質量%であり、好ましくは1.5〜4.7質量%であり、さらに好ましくは2.0〜4.5質量%である。
Niの含有量を前記範囲とすることによって、前記Ni2Si相を適正に形成させ、銅合金板材の引張強さを高めることができる。また、導電率も高い。また、熱間圧延加工性も良好である。
Siは、前記Niとともに含有されて、時効析出熱処理で析出したNi2Si相を形成して、銅合金板材の強度の向上に寄与する。Siの含有量は0.1〜2.0質量%であり、好ましくは0.2〜1.8質量%であり、さらに好ましくは0.6〜1.5質量%である。Siの含有量は化学量論比でNi/Si=4.2とするのが最も導電率と強度のバランスがよい。そのためSiの含有量は、Ni/Siが2.5〜7.5の範囲となるようにするのが好ましく、より好ましくは3.0〜6.5である。
Siの含有量を前記範囲とすることによって、銅合金板材の引張強さを高くすることができる。この場合、過剰なSiが銅のマトリックス中に固溶して、銅合金板材の導電率を低下させることがない。また、鋳造時の鋳造性や、熱間及び冷間での圧延加工性も良好であり、鋳造割れや圧延割れが生じることもない。
次に本発明の銅合金への副添加元素の含有量とその作用について示す。好ましい副添加元素としては、B、Mg、P、Cr、Mn、Fe、Co、Zn、Zr、Ag、Snが挙げられる。これらの元素は総量で3.0質量%以下の含有量であれば、導電率を低下させる弊害を生じることなく、以下に各元素について述べる種々の特性を改善することができるために、本発明の銅合金板材に添加・含有させてもよい。添加効果を充分に活用し、かつ導電率を低下させないための含有量としては、これらの副添加元素の少なくとも1種を総量で、0.1〜3.0質量%含有することが好ましく、0.3〜1.5質量%がさらに好ましく、0.5〜1.0質量%であることがより好ましい。以下に、各元素の添加の作用効果を示す。
Mg、Sn、Znは、添加・含有させることで耐応力緩和特性を向上する。それぞれを単独で添加した場合よりも併せて添加した場合に相乗効果によって更に耐応力緩和特性が向上する。また、半田脆化が著しく改善する効果がある。
Mn、Ag、B、Pは添加・含有させると熱間加工性を向上させるとともに、強度を向上する。
Cr、Zr、Feは、化合物や単体として微細に析出し、析出硬化に寄与する。また、化合物として50〜500nmの大きさで析出し、粒成長を抑制することによって結晶粒径を微細にする効果があり、曲げ加工性を良好にする。
Coは、合金中でSiとともに、Co2Siの金属間化合物の析出物を形成して析出強化による強度向上に寄与する。
次に、本発明の銅合金板材の好ましい製造条件について説明する。
従来の製造方法では、銅合金素材を溶解・鋳造[工程1−1]して鋳塊を得て、これを均質化熱処理[工程1−2]し、熱間圧延[工程1−3]、水冷[工程1−4]、酸化スケール除去のために面削[工程1−5]、冷間圧延[工程1−6]をこの順に行い薄板化し、700〜1000℃の温度範囲で中間溶体化熱処理[工程1−7]を行って溶質原子を再固溶させた後に、時効析出熱処理[工程1−8]と仕上げ冷間圧延[工程1−9]によって必要な強度(但し、低いヤング率ではない)を満足させるものである。
また、前記扁平粒の形成と配向の制御の点では、鋳造[工程1]後の、冷間圧延1[工程2]と予備焼鈍[工程3]の2つの工程によって、銅合金内の等軸晶、柱状晶それぞれの結晶内に扁平粒の核を形成させていると考えられる。
本発明においては、前記[工程1]から[工程15]の全ての工程をこの順に施すことが好ましい。
また、必要に応じて、中間焼鈍[工程9]と冷間圧延3[工程10]を適宜(好ましくは1回〜5回)各々前記条件で繰り返して行ってもよい。
また、低温焼鈍[工程15]を省略してもよい。
さらに、溶体化熱処理[工程11]の後で冷間圧延4[工程11’]を行ってもよい。この冷間圧延4[工程11’]は、例えば、前記冷間圧延3[工程10]と同様の条件で行うことができる。
少なくともNiを1.0〜5.0質量%及びSiを0.1〜2.0質量%含有し、他の副添加元素については必要により適宜含有するように各元素を配合し、残部がCuと不可避不純物から成る合金素材を高周波溶解炉により溶解し、これを鋳造[工程1]して鋳塊を得る。鋳造[工程1]での鋳造条件は、0.1〜100℃/秒の冷却速度とすることが好ましい。この鋳塊を、例えば大型冷間圧延機を用いて、合計加工率10%以下となるよう冷間圧延1[工程2]を行う。この冷間圧延1[工程2]は複数回の圧延パス(好ましくは1回〜10回)で行ってもよいが、(合計)圧延率が0%を超えるように必ず1回は冷間圧延を施す。
次に、300〜700℃で1分〜5時間の予備焼鈍[工程3]では、冷間圧延1[工程2]で導入した加工ひずみを開放し、扁平な結晶粒の核を抑制する。
熱間圧延[工程5]では、均質化熱処理温度(700℃以上1100℃以下)から800℃までの温度域で、動的再結晶による結晶粒の微細化のための加工を行う。
冷間圧延2[工程8]では、所定の板厚となるまで加工を施す。
その後の中間焼鈍[工程9]では、熱間圧延[工程5]にて微細化した結晶粒と、不均一な歪を加えた組織を、部分的に再結晶させる。また、中間焼鈍[工程9]は、冷間圧延2[工程8]で導入した加工ひずみの部分的な開放により、扁平粒の核を低減しつつ、隣り合う結晶粒との角度が30°以上の高角粒界の密度を維持する、精密な熱処理である。
溶体化熱処理[工程11]では、添加元素を固溶させる。このとき、到達温度が高すぎると、扁平な結晶粒が成長してしまい、目的の組織が得られなくなるため、到達温度を精密に制御する。
予備焼鈍[工程3]では、保持温度は好ましくは350〜650℃、より好ましくは400〜600℃である。また、その保持時間は好ましくは5分間〜4時間、より好ましくは10分〜3時間である。
熱間圧延[工程5]では、好ましくは1010℃以下、より好ましくは1000℃以下で、数〜数十パスの圧延を施す。
冷間圧延2[工程8]では、好ましくは55%以上、より好ましくは60%以上の圧延加工を施す。
溶体化熱処理[工程11]では、到達温度は好ましくは750℃〜1000℃、より好ましくは800〜980℃である。また、その保持時間は好ましくは3秒〜50秒、より好ましくは6秒〜40秒である。
時効析出熱処理[工程12]では、保持温度は好ましくは350〜600℃、より好ましくは400〜600℃である。また、その保持時間は好ましくは30分〜15時間、より好ましくは1時間〜10時間である。
時効析出熱処理[工程12]後の材料表面の酸化スケール除去には、酸洗[工程13]を施す。
加工率(%)={(t1−t2)/t1}×100
式中、t1は圧延加工前の厚さを、t2は圧延加工後の厚さをそれぞれ表わす。
本発明の銅合金板材の板厚は、特に制限されるものではないが、通常、0.05〜0.5mmである。
本発明の銅合金板材の板幅は、特に制限されるものではないが、通常、10〜750mmである。また、条材としては、条幅は、特に制限されるものではないが、通常、1.0〜300mmである。
上記内容を満たすことで、例えばコネクタ用銅合金板材に要求される特性を満足することができる。本発明において、銅合金板材は下記の特性を有することが好ましい。各特性の詳細な測定条件は、特に断らない限り以下の実施例に記載のとおりとする。
・TD方向のたわみ係数が115GPa以下であることが好ましい。より好ましくは、113GPa以下である。さらに好ましくは、110GPa以下である。
・TD方向の0.2%耐力が600MPa以上であることが好ましい。より好ましくは750MPa以上、さらに好ましくは800MPa以上である。
・耐疲労特性が、板材への負荷応力500MPa、繰り返し回数106回の条件にて破断しないことが好ましい。
・導電率が20%IACS以上であることが好ましい。さらに好ましくは25%以上である。
・耐応力緩和特性として、150℃で1000時間保持後の応力緩和率(SR)が20%以下であることが好ましい。さらに好ましくは15%以下である。
実施例1〜実施例16について、表1に示す組成となるように、主原料Cuと必須添加元素NiとSiに、必要により各種の副添加元素を配合し、残部がCuと不可避不純物からなる合金素材(合金原料)を得た。各合金原料を高周波溶解炉により溶解し、それぞれ0.1〜100℃/秒の冷却速度で鋳造[工程1]して鋳塊を得た。各鋳塊を、合計加工率10%以下で冷間圧延1[工程2]を施し、保持温度300〜700℃、保持時間1分〜5時間で予備焼鈍[工程3]を行った。次に、再熱して保持温度700〜1100℃で5分〜20時間保持する均質化熱処理[工程4]し、1020℃以下で熱間圧延[工程5]を行った。熱間圧延[工程5]の終了温度は400℃とした。その後、水焼入れ[工程6]と、引続いて、酸化スケールを除去するために面削[工程7]した後、加工率50%以上99%以下の冷間圧延2[工程8]を施した。この面削された加工材に、大型の焼鈍炉(例えばBEL炉)にて昇温速度5〜15℃/秒、保持温度300〜700℃、保持時間1秒〜10時間にて中間焼鈍[工程9]を行った。その後、加工率10〜99%で冷間圧延3[工程10]を行った。その後、到達温度700〜1020℃、保持時間1〜60秒で溶体化熱処理[工程11]を施した後、到達温度300〜600℃、保持時間10分〜20時間の時効析出熱処理[工程12]を行った。その後、表面の酸化膜を除去する為に、酸洗[工程13]し、加工率8〜80%の仕上冷間圧延[工程14]を行い、最後に保持温度300〜600℃で、保持時間1秒〜60秒の低温焼鈍[工程15]を施し、各供試材とした。
比較例2では、冷間加工での合計加工率が大きすぎて冷間圧延1[工程2]が規定の範囲外であり、また、保持温度が低すぎて、かつ、保持時間も短すぎて予備焼鈍[工程3]も規定の範囲外であった。
比較例3、13では、冷間加工での合計加工率が大きすぎて冷間圧延1[工程2]が規定の範囲外であった。
比較例7では、冷間圧延1[工程2]は行わなかった。
比較例8〜11では、冷間圧延1[工程2]と予備焼鈍[工程3]のいずれも行わなかった。
比較例12では、冷間加工での合計加工率が大きすぎて冷間圧延1[工程2]が規定の範囲外であり、また、保持温度が低すぎて予備焼鈍[工程3]も規定の範囲外であった。
比較例14では、予備焼鈍[工程3]は行わなかった。
比較例16〜21では、NiとSiのそれぞれもしくはいずれも、含有量が多すぎたか又は少なすぎた。
各供試材の圧延面におけるEBSD測定にて、100μm×200μmの範囲で、スキャンステップ0.1μmの条件で測定を行った。測定結果の解析において、測定範囲中の全結晶粒から、アスペクト比が0.3以下の結晶粒(扁平粒)を抽出した。その扁平粒から長軸がTD方向に対して±30°以内に配向している結晶粒をさらに抽出した。その抽出した扁平粒について、密度、平均結晶粒面積を算出した。
前記EBSD測定にて、各結晶粒界の長さを測定した。測定結果の解析において、隣接する結晶粒間のずれ角が30°以上である結晶粒界の単位面積あたりの長さを求めた。表2−1〜表2−2中には、「≧30°の結晶粒界の単位面積あたりの長さ[μm/μm2]」と示した。
試験片は、各供試材の圧延垂直方向(圧延方向(RD)に垂直な方向(TD))から、幅20mm、長さ200mmの短冊状試験片を採取し、試験片の長さ方向(つまりTD)に引張試験機により応力を付与し、歪と応力の比例定数を求めた。降伏するときの歪量の80%の歪量を最大変位量とし、その変位量までを10分割した変位を与え、その10点での測定値から歪と応力の比例定数をTD方向のヤング率として求めた。
試験片は、各供試材の圧延方向に垂直な方向(TD)に幅0.25mm、長さ1.5mmとなるようにプレスによる打ち抜きで加工した。片持ち梁にて試験片の表裏を10回ずつ測定し、下式で計算されるたわみ係数E[GPa]を、表裏10回ずつの測定の平均値で示した。
E=4a/b×(L/t)3
式中、a:変位fと応力wの傾き、b:供試材の幅、L:固定端と荷重点の距離、t:供試材の板厚である。ここで、傾きaは、変位fと応力wが比例関係にある弾性領域について傾き(接線)を求めた。
たわみ係数測定において、各試験片の弾性限界までの押し込み量(変位)から耐力[MPa]を算出して、強度つまりTD方向の耐力とした。
耐力[MPa] YS={(3E/2)×t×(fmax/L)×1000}/L
式中、E:前記たわみ係数、t:前記板厚、L:前記固定端と荷重点の距離、fmax:弾性限界までの変位(押込み深さ)である。
耐疲労特性は、JCBA T308;2001(銅及び銅合金薄板条の疲労特性試験方法)に準拠し、前記各実施例及び比較例の試料から、圧延方向に平行な方向(つまりRD)と圧延方向に垂直な方向(つまりTD)から供試材を切り出して、それら各々について測定を行った。図3に、試験片を図の上方に振幅させた状態を平面視で示した説明図を示す(板バネ疲労試験)。1は試験片、2はナイフエッジ、3は固定具である。試験片幅は、10mm±0.2mm、試験片の固定トルクは、下部2N・m、上部3N・mである。試験片の負荷応力値(σ)は、下記の式(a)にて求めた。
500MPaの負荷応力にて両振りで片振幅2.0mmで繰り返し試験を行い、材料が破断するまでの繰り返し回数を求めた。
破断までの繰り返し回数が、圧延平行方向(RD)と圧延垂直方向(TD)で切り出した各供試材のいずれも106回以上であった場合を「良」、圧延平行方向と圧延垂直方向で切り出した各供試材のいずれかもしくはいずれも106回未満であった場合を「不良」とした。
σ=(3×E×t×δ)/(2×l2)・・・(a)
式中、σ:最大曲げ応力(N/mm2)、E:前記たわみ係数(N/mm2)、t:前記試験片厚さ(mm)、δ:たわみ量(mm)、l:試験片セット長さ(mm)である。
20℃(±0.5℃)に保たれた恒温槽中で四端子法により比抵抗を計測して導電率(%IACS)を算出した。なお、端子間距離は100mmとした。
旧日本電子材料工業会標準規格(EMAS−3003)に準じ、以下に示すように、150℃×1000時間の条件で測定した。片持ち梁法により耐力の80%の初期応力を負荷した。
図4は耐応力緩和特性の試験方法の説明図であり、図4(a)は熱処理前、図4(b)は熱処理後の状態である。図4(a)に示すように、試験台14に片持ちで保持した試験片11に、耐力の80%の初期応力を付与した時の試験片11の位置は、基準からδ0の距離である。これを150℃の恒温槽に1000時間保持し、負荷を除いた後の試験片12の位置は、図4(b)に示すように基準からHtの距離である。13は応力を負荷しなかった場合の試験片であり、その位置は基準からH1の距離である。この関係から、応力緩和率(%)は(Ht−H1)/δ0×100と算出した。
また、その金属組織が、前記扁平な結晶粒の平均面積が3.0μm2以下であった場合には、さらに良好な特性を示した。
その結果、表2−2に示すように、全ての比較例の試料について少なくともいずれか1つの特性が劣る結果となった。
比較例2は、実施例1、3と同じ組成であって合金組成は本発明の規定を満たす。しかし、その製造方法は、冷間圧延1[工程2]も予備焼鈍[工程3]も本発明で規定する条件を外れていた。比較例2は、組織中の扁平粒の制御が不十分であって、組織中の扁平粒の密度と、粒界のずれ角が大きい結晶粒界の長さのいずれも制御が不十分で大きすぎたため、TD方向のヤング率、たわみ係数が劣った。比較例2は、耐応力緩和特性にも劣った。
比較例4〜6は、いずれも合金組成は本発明の規定を満たす。しかし、その製造方法は、冷間圧延1[工程2]も予備焼鈍[工程3]も本発明で規定する条件を外れていた。比較例4〜6は、いずれも組織中の扁平粒の制御が不十分であって、組織中の扁平粒の密度と、粒界のずれ角が大きい結晶粒界の長さのいずれも制御が不十分で大きすぎたため、TD方向のヤング率、たわみ係数が劣った。比較例4〜5は、TD方向の耐力にも劣った。比較例5、6は、耐応力緩和特性にも劣った。
比較例7は、実施例4と同じ組成であって合金組成は本発明の規定を満たす。しかし、その製造方法は、冷間圧延1[工程2]は行わなかった。比較例7は、組織中の扁平粒の制御が不十分であって、組織中の扁平粒の密度と、粒界のずれ角が大きい結晶粒界の長さのいずれも制御が不十分で大きすぎたため、TD方向のヤング率、たわみ係数、耐疲労特性が劣った。
比較例11は、実施例5と同じ組成であって合金組成は本発明の規定を満たす。しかし、その製造方法は、冷間圧延1[工程2]と予備焼鈍[工程3]のいずれも行わなかった。比較例11は、組織中の扁平粒の制御が不十分であって、組織中の扁平粒の密度と、粒界のずれ角が大きい結晶粒界の長さのいずれも制御が不十分で大きすぎたため、TD方向のヤング率、たわみ係数、耐疲労特性が劣った。比較例11は、耐応力緩和特性にも劣った。
比較例14は、合金組成は本発明の規定を満たす。しかし、その製造方法は、予備焼鈍[工程3]は行わなかった。比較例14は、組織中の扁平粒の制御が不十分であって、粒界のずれ角が大きい結晶粒界の長さの制御が不十分で大きすぎたため、TD方向のヤング率、たわみ係数、耐疲労特性が劣った。比較例14は、導電性にも劣った。
比較例16〜21は、冷間圧延1[工程2]と予備焼鈍[工程3]を含む製造方法は、本発明の規定を満たしているが、NiとSiのいずれかもしくは両方の含有量が多すぎ又は少なすぎて合金組成が本発明例の規定を満たさず、得られた組織の内、扁平粒の密度が高すぎて本発明の規定を満たさず、また、TDの耐力、耐疲労特性、導電率、耐応力緩和特性の内で1つ以上の特性が劣った。
よって、組織中の扁平粒の密度、隣接する結晶粒界のずれ角が30°以上の結晶粒界の長さの2つを適正に制御した組織とすることで、TD方向のヤング率、耐疲労特性などの所望の特性を満たすことができることが分かる。
2 ナイフエッジ
3 固定具
11 試験片(片持ちで保持した状態)
12 試験片(除荷後の状態)
13 試験片(応力を負荷しなかった状態)
14 試験台
Claims (7)
- Niを1.0〜5.0質量%、Siを0.1〜2.0質量%、並びにB、Mg、P、Cr、Mn、Fe、Co、Zn、Zr、Ag及びSnからなる群から選ばれる少なくとも1種を合計で0〜3.0質量%含有し、残部が銅及び不可避不純物からなる銅合金板材であって、
圧延面における解析で、結晶粒の短径/長径の比で表わされるアスペクト比が0.3以下の結晶粒であり、かつ、TD方向から±30°以内を向いた結晶粒について、前記結晶粒の密度が0.030個/μm2以下であり、
かつ、隣接する結晶粒間のずれ角が30°以上である結晶粒界の単位面積あたりの長さが0.8μm/μm2以下であることを特徴とする銅合金板材。 - B、Mg、P、Cr、Mn、Fe、Co、Zn、Zr、Ag及びSnからなる群から選ばれる少なくとも1種を合計で0.1〜3.0質量%含有する請求項1に記載の銅合金板材。
- 板材に一定の応力を加えた際の変位量を示す、引張試験で測定した、TD方向のヤング率が125GPa以下であり、たわみ試験で測定したTD方向のたわみ係数が115GPa以下、TD方向の耐力が600MPa以上である請求項1又は2に記載の銅合金板材。
- 板バネ疲労試験による耐疲労特性が、負荷応力500MPa以上で、繰り返し回数が106回以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の銅合金板材。
- Niを1.0〜5.0質量%、Siを0.1〜2.0質量%、並びにB、Mg、P、Cr、Mn、Fe、Co、Zn、Zr、Ag及びSnからなる群から選ばれる少なくとも1種を合計で0〜3.0質量%含有し、残部が銅及び不可避不純物からなる銅合金板材を製造する方法であって、前記銅合金板材を与える合金成分組成から成る銅合金素材に、
鋳造[工程1]、
加工率10%以下の冷間圧延1[工程2]、
保持温度300〜700℃で保持時間1分〜5時間の予備焼鈍[工程3]、
保持温度700℃以上で5分〜20時間の均質化熱処理[工程4]、
熱間圧延[工程5]、
水焼入れ[工程6]、
面削[工程7]、
50%以上の加工率の冷間圧延2[工程8]、
昇温速度5〜15℃/秒、保持温度300〜700℃、保持時間1秒〜10時間の中間溶体化熱処理[工程9]、
10〜99%の加工率の冷間圧延3[工程10]、
到達温度700〜1020℃、保持時間1秒〜60秒の溶体化熱処理[工程11]、
保持温度300〜600℃、保持時間10分〜20時間の時効析出熱処理[工程12]、
酸洗[工程13]、及び
圧延加工率8〜80%の仕上げ冷間圧延[工程14]
の各工程をこの順に施すことを特徴とする銅合金板材の製造方法。 - B、Mg、P、Cr、Mn、Fe、Co、Zn、Zr、Ag及びSnからなる群から選ばれる少なくとも1種を合計で0.1〜3.0質量%含有する請求項5に記載の銅合金板材の製造方法。
- 前記冷間圧延[工程14]の後で、保持温度300〜600℃、保持時間1秒〜60秒の歪取り焼鈍[工程15]を施す請求項5又は6に記載の銅合金板材の製造方法。
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