以下、本発明の好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。本発明は、観察対象の標本に対し、光の照射と観察とを同じ対面側から行い、その観察結果を撮像する光学観察装置と光学観察方法であって、標本に対する光の入射角度を変えて複数の画像を撮像することで観察画像中の背景光を擬似的に特定し、かかる背景光を除去することで、観察像の原画像を再構築するものである。
本発明は、反射型(落射型)顕微鏡、全反射顕微鏡などの光学顕微鏡や、蛍光顕微鏡、マイクロスコープなどの、標本観察を行う光学観察装置に適用できる。
図1は、本発明の第1の実施形態の蛍光検出システム100の概要を示した概観図である。本実施形態では、生体試料を標本とし、標本表面またはその近傍に生成される生理活性物質の二次元的濃度分布(空間分布)を、蛍光にて観察でき、また、蛍光強度から濃度を測定することができるようになっている。
図1(a)にはシステム全体の概略図を示し、図1(b)には、酵素が固定された基板である透明基板10の表面部分拡大図を示している。本実施形態の蛍光検出システム100では、透明基板10上に細胞組織Sが載置され、透明基板10の裏面側から細胞組織表面の観察が行われる。ここで、細胞組織Sが生成する非蛍光性の生理活性物質を検出するために、本実施形態では、基板に固定された酵素の作用下でかかる生理活性物質を特定の蛍光元物質と反応させ、この反応過程で該蛍光元物質が蛍光物質に変換されることを利用する。つまり、非蛍光性の生理活性物質が、他の蛍光物質が発する蛍光を検出することで代用検出され、その蛍光発光の強度により、当該生理活性物質の二次元的濃度分布情報を得ることができるようになっている。
この蛍光検出システム100は、図1に示すように、細胞組織からの生理活性物質を検出するための反応場と光学系とが備えられた測定装置1と、その測定装置1を制御するとともに生理活性物質の濃度分布を画像で表示するパーソナルコンピュータ(以下、単に「PC」と略す。)20とを備えており、細胞組織上において生理活性物質がどのように分布しているか、即ち、ある面積を有する二次元平面での濃度分布(空間分布)がどのようになっているかを観察、測定するようになっている。測定装置1とPC20とはケーブル19を介して相互に接続されている。
測定装置1は、測定対象の細胞組織Sに対し酵素反応によって蛍光を生じさせる反応場を備えており、反応によって生じる蛍光物質に励起光を照射すると共に、生じた蛍光を検出(撮像)するように構成されている。この測定装置1は、光源ユニット7、透明基板10、集光レンズ11、光検出器12、CCDカメラユニット13、基板保持部16を備えている。
光源ユニット7は、透明基板10の側方に配設されており、透明基板10の端面に向けて光を照射するものである。この光源ユニット7は、非図示のハウジングを備えており、このハウジング内に光源8とLEDドライバ装置9とが収納されている。
光源8は、蛍光物質を励起する光を照射するためのものであり、発光ダイオード(LED)が用いられている。本実施形態において光源8から照射される照射光(励起紫外光)は、単色光であり、バンドパスフィルタを不要としている。光源8からの励起光の波長は、蛍光物質を励起できる波長であれば特に限定されない。一般に、蛍光物質は、吸光度が高い波長であるほど、より励起状態への遷移が生じやすく、吸光極大の波長が照射された場合に励起状態への遷移が最も活発になる。
詳細は後述するが、透明基板10の表面は酵素反応の反応場となるものであって、透明基板10の表面には酵素が固定化されており、透明基板10上にセットされた細胞組織Sから生理活性物質が放出されると、蛍光物質が生成されるようになっている。この蛍光物質を励起させる波長を有するLEDが光源8に選択されている。本実施形態では、蛍光物質は、340nmの波長に吸光極大を有する還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)または還元型ニコチンアミドジヌクレオチドリン酸(NADPH)であるので、これらの吸光極大近傍で十分に励起が可能な励起紫外光(UV360nm)を出力するLEDが用いられている。
尚、光源8は、生成される蛍光物質を励起する励起光を照射するものであれば特に限定されるものではなく、LED、水銀ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプからなる群から選択されるものの一つであれば良い。また、水銀ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプを用いる場合には、測定対象とする蛍光物質に応じて適切な励起光が照射されるように適当なフィルターが用いられる。
光源8が点灯すると、光源8からの照射光が光路L1(図1(a)において一点鎖線の矢印L1にて示す)を進行し、透明基板10の端面へ入射される。入射した光は、L1方向として示すように、透明基板10の表面の平行方向に沿って、ほぼ直線状に進行する。そして、その光によって、透明基板10上に載置された細胞組織Sの載置面(観察対象面)を照明する。つまり、光源8からの照射光は、少なくともその一部が、細胞組織Sが載置された状態で、進行方向に対して側面となる方向(透明基板10の表面の法線方向、光路L2)へ出射する側面光となって、細胞組織Sの載置面(観察対象面)を照明する。
この側面光は、直接光と同じ波長の光として扱うことができ、細胞組織Sの観察対象面への入射角を大きくすることによって細胞組織Sの観察対象面のごく浅い部分のみに到達させることができる。即ち、側面光により、細胞組織S表面の極浅い部分の光学的情報を取得することができる。
本実施形態においては、光源8には、発光ダイオード(LED)が用いられており、光源ユニット7には、第1LED8aと第2LED8bとの2つの光源が設けられている。第1LED8aおよび第2LED8bには、同じ種類のLEDが用いられている。この第1LED8aと第2LED8bとは、図示を省略しているが、上下方向に可動可能に軸支されており、非図示の調整ダイヤルを操作することにより、その操作量に応じて取付角度を変更できるようになっている。これにより各LED8a,8bからの照射光の透明基板10の表面(細胞組織Sの観察対象面)への入射角度を調整できるようになっている。
ここで、第1LED8aと第2LED8bとは、異なる取付角度で設置されており、第1LED8aからの照射光の細胞組織Sの観察対象面への入射角が、第2LED8bからの照射光の細胞組織Sの観察対象面への入射角よりも大きくなるように、取付角度は調整されている。つまり、第2LED8bからの照射光は、第1LED8aの照射光よりも、より深く、細胞組織Sへ侵入する。入射角が、ある一定の角度(臨界角)以上の場合に全反射が起こるが、第1LED8aからの照射光も、第2LED8bからの照射光も、原理的には透明基板10内で全反射し得る臨界角以上となるように、両者の取付角度は調整されている。
尚、本実施形態において、入射角とは、基板面(透明基板10)に対する法線と光の進行方向ベクトルがなす角度のこととされている。このため、この入射角が小さいほど透明基板10の表面に対し垂直近い状態で入射していることになる。
第1LED8aおよび第2LED8bは、それぞれ2の端子を備えており、一方の端子はLEDドライバ回路9の出力側と電気的に接続されており、他方の端子は、接地されている。
LEDドライバ装置9は、測定装置1のCPU2(図4参照)からの制御信号に応じてLED8a,8bを駆動させるものであって、LED8a,8bに所定の電圧を供給する回路である。各LED8a,8bのぞれぞれに対応する電源9a1,9a2と、開閉器9b1,9b2と、抵抗9c1,9c2とが各1ずつ備えられている。各電源9a1,9a2の負極側は接地されており、正極側はLEDをオンとオフとに切り替える開閉器9b1,9b2に接続されている。開閉器9b1,9b2のオンにより対応するLED8a,8bには抵抗9c1,9c2を介して電圧が供給され、接続されるLED8a,8bが発光する。また、開閉器9b1,9b2のオフにより電圧供給が停止し、接続されるLED8a,8bは消光する。
尚、各電源9a1,9a2の電源は可変電源となっている。可変電源は、可変抵抗器等を備えた一般的な回路で構成され、LED8a,8bに供給する電圧を、LED8a,8bから透明基板10端面への入射光角度に応じて調整するためのものである。透明基板10を介して細胞組織Sに到達するLEDの光量は、入射角度に応じて異なる。本実施形態では、各LED8a,8bは、異なる入射角度でそれぞれ細胞組織Sを照明するので、入射角度が異なっても15のカメラに達する蛍光の平均が同程度となるように、入射角度に応じて電圧可変回路で電圧を変更し、照射光強度が調整されるようになっているのである。具体的には、入射角度が小さくなるほど低い電圧が印加され、視野内の平均蛍光量が概ね一定となるように調整されている。
これにより、対になる第1画像データと第2画像データの2枚の画像は、明るさが同程度となり、好ましい。
尚、図示を省略しているが、入射角度を調整する調整ダイヤルの値は、可変電源に設けられた可変抵抗器と連動しており、この調整ダイヤルの値に基づきLED8a,8bへの出力電圧が変更されるようになっている。よって、本実施形態では、第1LED8aに相対的に高い電圧が印加され、一方、第2LED8bには相対的に低い電圧が印加される(照射光量は減少)こととなる。
本実施形態においては、開閉器9b1,9b2は半導体からなる無接点リレーで構成されており、CPU2からの制御信号に応じて、オンとオフとが切り替えられるようになっている。また、一方のLEDの発光中には他方のLEDは発光しないように、開閉器9b1がオンの場合には開閉器9b2はオフとなり、開閉器9b1がオンの場合には開閉器9b2はオフとなるように制御信号が入力される。
かかる開閉器9b1,9b2には信号線が接続されており、開閉器9b1,9b2のオンと同期して、いずれのLEDに電圧供給がされたかを示すトリガー信号が出力されるようになっている。出力されたトリガー信号は、CCDカメラユニット13に直接入力される。
信号線とトリガー信号出力端子との間には、電気信号により開閉を切り替えるリレーが配置されている。光源点灯コマンドを受信してから、測定実行コマンドを受信するまでにタイムラグがある。この間に第1LED8aおよび第2LED8bのオンに伴ってトリガー信号がCCDカメラユニット13に入力されることを回避するために、初期状態において該リレーの接点は開放されており、CPU2からの電気信号が入力されることにより閉じ導通状態が形成される。
透明基板10は、測定対象の組織細胞Sが載置される基板であって、矩形形の板状に形成されている。基板保持部16によって保持され、CCDカメラユニット13の上方に配置されている。透明基板10は、透明性の基板であり、光源8からの照射光は全反射するため照射光の光導波路となっている。この透明基板10は高屈折材料にて形成されており、石英、ガラス(重フリントガラス)、サファイアなどの結晶やPMMA(ポリメタクリル酸メチル)などのアクリル樹脂を用いることができるが、これらに限定されるものではない。また、基板表面が導波路全長にわたってLB膜でディップコートされたものであっても良い。尚、励起光の照射により透明基板10が大きく発熱する場合には、透明基板10には耐熱性の高い石英やガラスなどが用いられる。また、透明基板10の材質としては、励起光の波長に対して吸収がないものが好ましい。本実施形態の透明基板10には石英が用いられている。
なお、基板の材料によっては低波長の光を通さない、または選択的に通すという事態が起こる。このため、必要とする波長に応じた基板材料が適宜選択される。
この透明基板10の表面および裏面は、高度な平滑性を備えており、例えば、その表面粗さが、入射光の波長と同程度以下となるように形成されている。上記したように、測定装置1においては、透明基板10の端面から入射された光は、透明基板10の表面内側で全反射して入射側とは反対側の端面から出射するように設計されている。即ち、透明基板10は導波路として構成されている。
基板保持部16は、透明基板10を略水平に保持するものであり、光路方向L1に沿って所定間隔を隔てて立設された2つの支柱16aと、当該2つの支柱16aに架設された天板16bとを、測定装置1の前面側と奥方側とに一対で備えている。天板16bは、透明基板10の表面に対し、その表面の端部近傍の狭い範囲に当接する幅で形成された板状部材である。透明基板10は、一対で設けられた天板16bに載置することで、対向する二辺側の端部が支持され、4本の支柱に架設された状態で保持される。
ここで、透明基板10の表面は酵素反応の反応場となるものであって、透明基板10の表面には、酵素が固定化されている。また、本実施形態においては、測定に際しては、透明基板10の表面に蛍光元物質となる補酵素が供給される。
蛍光元物質とは、分析対象の生理活性物質と反応することにより、蛍光物質を生成するものを意味している。蛍光元物質とは、最終生成物が蛍光物質となればよく、必ずしも1種類の物質には限られず、2種類以上の物質の混合物を含んで構成されても良い。このとき、蛍光物質に変化するものとしては、生理活性物質であっても、蛍光元物質のいずれでもよい。すなわち、生理活性物質と蛍光元物質とが反応し、その結果として生成したもの(1つの物質、或いは2つ以上の物質でもよい)の少なくとも1つが蛍光物質として励起光により蛍光を発すればよい。
この蛍光元物質としては、補酵素を用いることができる。本実施形態では、この補酵素、即ち、蛍光元物質として、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD,NAD+)またはニコチンアミドジヌクレオチドリン酸(NADP,NADP+)が好適に用いられる。このような酵素担持基板を用いると、透明基板10上にセットされた細胞組織Sから生理活性物質が放出されると、酵素が作用し、その酵素反応により共存する蛍光元物質が蛍光物質(NADH,NADPH)に変化する。このため、側面光によって励起され蛍光が発生する。
本実施形態では、発生した蛍光のうち、透明基板10の下方側(二点鎖線の矢印L3で示す方向)に向かう蛍光を検出するように測定装置1は構成されている。
尚、検出対象の生理活性物質そのものが蛍光物質である場合には、透明基板10は酵素担持基板である必要はなく、また、酵素反応によって生成される物質が蛍光物質である場合は蛍光元物質である補酵素は不要である。
集光レンズ11は、透明基板10を挟んで、光源ユニット7と反対側に配設されている。光源ユニット7から透明基板10の端面へ入射され、透明基板10内を表面の平行方向に沿って伝搬して入射側と反対側の端面から出射した励起紫外光を集光して、光検出器12に入力するためのレンズである。この集光レンズ11は、可動可能に保持されており、操作者の操作によって透明基板10の端面に対する角度を変更できるようになっている。
光検出器12は、励起紫外光L1の光路上において、集光レンズ11の後方に設置されている。光検出器12は、集光レンズ11を介して入射された入射光の強度をフォトダイオードで電気信号強度に変換して検出するものである。検出器11での検出信号は、PC20へ出力されるようになっており、操作者は、PC20にて表示される検出結果に基づいて、光源8からの照射光の入射角を調整することができる。また、光源8の正常な発光を確認することができる。
CCDカメラユニット13は、透明基板10の下方に配設されており、細胞組織Sから下方へ向かって放出される蛍光を受光し、細胞組織Sの撮像(光学的情報の取得)を行うものである。このCCDカメラユニット13は、ピンホール機能を備えたCCDカメラとして構成されている。ここでいうピンホール機能とは0.05〜0.5mm径の孔(光の導入孔)から光を導入し、焦点距離が20mm以下の小型化されうるカメラ機能を意味している。このCCDカメラユニット13は、結像レンズ14とCCD15とを備えている。結像レンズ14は、本体上面に設けられた光の導入孔の下方に配設され、更に結像レンズの下方にCCD15が配設されている。細胞組織Sから放射された蛍光は、光の導入孔から取り込まれ、結像レンズ14を介してCCD15の表面に像が結ばれる。
CCD14は光電変換素子であり、主に、光を感知する受光部(センサ)と、光電変換された電荷を垂直転送する垂直転送部(垂直レジスタ)と、水平転送する水平転送部(水平レジスタ)とから構成される一般的なものである。取り出された電荷は出力回路で電圧に変換される。
本実施形態の測定装置1では、上記したように透明基板10の下方に配設され、組織細胞Sから放出される光路L3方向の蛍光をCCDカメラユニット13にて受光する。つまり、CCDカメラユニット13は、励起光L1の光路とは重ならない位置(励起光の光路と直交する方向)に配置されており、組織細胞Sから下方に放射される光路L3の蛍光を受光する。このため、透明基板10内の光路L1を伝播する励起光とは分離して、組織細胞Sからの光学情報である蛍光をCCD15に入力することができ、ダイクロイックミラー、カットフィルタ等を不要とすることができる。CCDカメラユニット13にて取得された画像信号は、測定装置1からケーブル19を介してPC20へと出力される。
尚、本実施形態では蛍光検出にCCDカメラを用いたが、無限焦点で近接撮影可能であればこれに限られるものではなく、例えば蛍光顕微鏡もしくはピンホール機能を備えたCMOSカメラを用いることができる。また、ピンホールを備えたカメラ構造とすることにより、結像レンズの手前(光路方向手前)の対物レンズを不要とでき、その分、カメラ本体を小型化することができる。尚、装置サイズを小型化する必要がない場合には、ピンホールに代えて対物レンズを備えたカメラ構造としても良い。
PC20は、測定装置1を制御するコンピュータであって、大容量の記憶装置であるハードディスクドライブ(HDD)24と、表示装置である液晶ディスプレイ(以下、単に「LCD」と略す。)27と、入力装置であるキーボード28とを備えている。操作者はキーボードからコマンドを入力することで測定装置1に測定を実行させることができる。測定装置1から入力した細胞組織Sの画像データにより作成された画像(蛍光画像)は、LCD27に表示される。
また、PC20は、測定装置1に生理活性物質の測定を実行させるのみならず、操作者のキーボード28からのコマンド入力に基づいて、測定装置1の光検出器12で取得した信号をLCD27に表示させることができるようになっている。このため、操作者は、LCD27に表示される表示結果を見ながら測定装置1の光源8から出射された光の光路調整を行うことができる。
図2は、本実施形態の測定装置1に用いられる透明基板10を詳細に説明する図であり、図2(a)は、透明基板10の構成を模式的に示した部分断面図である。図2(a)においては、紙面上側が透明基板10の表面側となるように図示されている。また、固定された酵素を楕円形状で模式的に示している。図2(a)に示すように、この透明基板10の表面側、即ち細胞組織Sの載置面には、酵素が全体に一様に配列されており、化学的結合によって、透明基板10表面に固定されている。
図2(b)は、図2(a)の微小領域IIの部分拡大図であって、透明基板10が、生理活性物質の1種であるアデノシン三リン酸(ATP)、アデノシン二リン酸(ADP)、アデノシンモノリン酸(AMP)等のヌクレオチド関連物質を測定することを目的に構成された酵素担持基板である場合の図である。図2(b)においては、紙面の左右方向が上下方向(透明基板10の平面に直交する方向(厚み方向))となっており、酵素としては、グリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素(以下、単に「GAPDH」と称す場合がある。)が用いられている。
GAPDHは、図2(b)に示すように透明基板10に固定されている。検出対象の生理活性物質がATPである場合、ATPは、GAPDHの作用で下記反応式に示す反応によってGAPリン酸化のリン酸供給源として消費される。
GAP+ATP→1,3−ビスホスホグリセリン酸+ADP
NAD+→NADH
この場合、蛍光元物質としては、NAD(NAD+)とNADP(NADP+)とのいずれか一方を用いても良く、両者を混合して用いても良い。発生するNADHが発する蛍光を検出することで、ATPの存在が検出されることとなる。
また、上記したGAPDHの酵素反応は、リン酸要求性である。従って、測定時に用いられる緩衝液は、リン酸を含有しないものが用いられる。このような緩衝液としては、例えば、Britton−Robinson緩衝液、Tris緩衝液、HEPES緩衝液などが例示される。
尚、このGAPDH固定化基板を用いた場合、測定対象はヌクレオチド関連化学物質となり、例えば、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチドであり、アデノシン、グアノシン、ウリジン、シチジンのいずれかのリボヌクレオシド、又はデオキシアデノシン、デオキシグアノシン、チミジン、デオキシウリジン、デオキシシチジンのいずれかのデオキシリボヌクレオシドにリン酸基が結合したものである。尚、リン酸基のないものは検出されないので、類似した構造体であるヌクレオシドの影響をうけることなく、ヌクレオチドを選択的に検出することができる。
本実施形態においては、ATP等のヌクレオチド関連物質以外に、ガンマアミノ酪酸(GABA)、グルタミン酸、乳酸、スクロース、グルコース、フルクトースの測定が可能である。また、ガンマアミノ酪酸を測定する場合には、酵素としてGABase(GABAアミノトランスフェラーゼとコハク酸セミアルデヒド脱水素酵素の混合物)を、蛍光元物質としてNADPを用いることができる。グルタミン酸である場合には、酵素としてGDH(グルタミン酸デヒドロゲナーゼ)、蛍光元物質としてNADを用いることができる。乳酸の場合には、酵素としてLDH(乳酸脱水素酵素)、蛍光元物質としてNADを用いることができる。しかしながら、これらの組み合わせに限られるものではない。
また、図2(b)に示すように、GAPDHは、その末端側においてシッフ塩基を形成してシラン化合物と結合しており、このシラン化合物を介して石英(SiO2)である透明基板10表面に固定化されている。
例えば、タンパク質である酵素の末端アミノ基(N末端)を、透明基板10に結合されたアミノシラン化合物と反応してシッフ塩基を形成し、結合を形成することができる。
シラン化合物は、いわゆるシランカップリング剤であり、脱水縮合反応によって無機化合物(石英)の表面と共有結合を形成するものである。
シッフ塩基を形成するシラン化合物としては、例えば、アミノシラン化合物が選択され、具体的には、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APTMS)、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、エチルジメチルアミノ プロピルカルボジイミド(EDC)などが例示される。尚、本実施形態においては、3−アミノプロピルトリメトキシシランが用いられている。
図2(b)には、GAPDHを例示したが、他の酵素においても、上記と同様の手法にて、透明基板10の表面に固定化することができる。また、酵素は、N末端とC末端とを備えており、N末端固定(N=N)およびC末端固定(C=N)のいずれかの様式で固定することができる。
尚、生理活性物質は、上記したものに限られるものではなく、また、生理活性物質から蛍光物質を生成できる反応系であれば、上記酵素反応系に限定されるものでもない。また、透明基板10の表面に固定する酵素は1種類に限定されるものではなく、複数種類であっても良い。
更には、蛍光元物質であるNAD、NADPをゲル化し、または透明基板10へ固定化しても良い。これによって、透明基板10に標本を載置するだけで測定を開始でき、更には、蛍光元物質の供給が不要であるため、基板と標本との位置関係が、基板上面に標本を載置することに限定されず、例えば、標本上面に透明基板10を載置し標本上側表面を観察することも可能である。上記の反応系では、生理活性物質の反応モル量と蛍光物質の生成モル量とは同じであるので、NADH(NADPH)の蛍光強度を測定すれば、生理活性物質の濃度を測定できるのである。
このように透明基板10の表面に酵素を固定することにより、透明基板10上に細胞組織Sを載置すると、透明基板10と細胞組織Sとの間に、酵素が存在することとなる。そして、酵素の作用下で、細胞組織Sから放出された生理活性物質に基づいて蛍光物質が生成されるので、かかる蛍光物質の濃度分布がLCD27に二次元の蛍光画像で示される。また、上記したような酵素反応を用いた場合、反応速度はn秒オーダーからm秒オーダー(100ms以下)で迅速に反応するため、細胞組織へのダメージを抑制でき、得られる検出結果の信頼性を向上させることができる。
更に、上記した反応は常温常圧で進行する酵素反応であるため、細胞組織に対する負荷が軽微である。このため、反応場にセットされた細胞組織が直ちに生理活性を失うといったことがなく、細胞組織からの生理活性物質放出状態の経時変化を、蛍光検出によって測定することができる。
図3は、蛍光検出システム100にて実行される画像処理の原理を説明する図であり、図3(a)は、透明基板10上に細胞組織Sを載置した場合に観察される観察光の状態を概念的に説明する図であり、図3(b)は、PC20で実行される画像処理の概要を説明する図である。
上記したように、透明基板10の端面から入射された光は、基板内をL1方向に伝搬し、透明基板10の基板界面(表面)に到達すると、基板界面で反射する。ここで、全反射する入射角θ0で進入した光は基板界面で全反射するとともに、透明基板10の表面側に僅かであるがしみ出す光が発生する。理想的には、かかる全反射によって生じる染み出し光により、細胞組織Sの表面において、極めて浅い領域のみが照明され、かかる表面層の情報を取得することが可能となる。
しかし、基板上に屈折率が大きい水分や生体組織が付着していると、図3(a)に実線矢印で示すように、入射光は細胞組織Sの内部に入射角θxで侵入する(光路L2、側面光)。通常、細胞組織内には多くの蛍光物質が内在しているため、細胞組織内に侵入した側面光によって組織内の蛍光物質が励起され、これに由来する蛍光が発生する。
概念を簡単に説明するため、光軸(L1)方向に進行する平面波(光源8からの入射光)が透明基板10と細胞組織Sとの界面(点P0)に入射するものとする。観察者が所望する観察されるべき蛍光は透明基板10上の酵素担持面である界面内で発生する。これを標的光とする。
一方、細胞組織S内において、蛍光物質は奥行方向の至る処に分布しており、Z軸(図3(a)において紙面上下方向)上の各点Pkに入射した平面波の強度と各点Pkの蛍光物質分布により各点Pkの蛍光強度が決定される。座標点(x,y)における細胞組織S内の蛍光強度は、Z軸上の各点からの蛍光を、減衰を考慮してZ軸方向に積分した値となる。これは本来観測されるべきでない蛍光であり、画像上ではノイズとなる。これを背景光とする。
従って、透明基板10の裏面側から観察される点Pの実際の観察画像(測定装置1による撮像画像)は、標的光によって可視化される界面の蛍光像と、背景光によって可視化される細胞組織S内部の蛍光像とが重なりあった画像F1となる。
ここで、平面波の入射角が変わると、標的光の強度が変わる。さらに、背景光についても、入射光が蛍光物質に至る経路が変わるので、入射光の減衰量が変化する。即ち、透明基板10の下方に設置したCCDカメラユニット13が観測する蛍光強度は、標的光と背景光の強度の和となるが、両者の比率は光の入射角度に依存する。言い換えれば、入射角が変化すると標的光と背景光の混合比が変化する。
実際には界面に入射する光束は、フーリエ光学の原理によって異なる角度で入射する平面波に分解される。平面波成分の入射角は光軸角の周辺に分布し、通常は光軸と同じ角度をもつ平面波の成分が最も大きい。この場合、各平面波成分に対する蛍光を合成して得られる光強度が観測されるが、光の入射角の変化によって標的光と背景光の混合比が変化することに変わりはない。
図3(b)に示すように、例えば、光の入射角θ1およびθ2を設定し、それぞれにて観測される観察画像をF1およびF2とする。観察画像F1およびF2は、実際に観察して得られる画像データ(第1画像データ、第2画像データ)であり、各座標(x,y)の蛍光強度を示す画素値の集合F1(xi, yj)およびF2(xi, yj)で形成される。
ここで、励起光が達する範囲内で蛍光物質の分布は奥行方向(z方向)に一様であると仮定すると、酵素担持面(界面)内の蛍光物質の分布(標的光の画像)および細胞組織S内部の蛍光物質の分布(背景光の画像)は、それぞれf1およびf2と表わすことができる。標的光画像f1および背景光画像f2は、それぞれ、各座標の蛍光強度を示す画素値の集合f1(x,y)およびf2(x,y)で形成することができる。
蛍光物質の分布と画像強度の関係は、式(3)にて表すことができる。
a11,a12,a21,a22は定数である。即ち、標的光画像f1と背景光画像f2は、それぞれ未知であるが、観察画像F1は、ある割合a11の標的光画像f1と、ある割合a12の背景光画像f2とが合算されたものであり、同様に観察画像F2は、ある割合a21の標的光f1画像と、ある割合a22の背景光画像f2とが合算されたものとすることができる。これを簡略化した行列を用いて、F=A・fと表現すると、行列Aの逆行列A−1を求めてFに乗じることにより、酵素担持面内と細胞組織S内部の蛍光強度を分離することが可能となる。つまり、この割合a11,a12を求めることができれば、目的の標的光画像f1は、取得した観察画像F1から導出できることとなる。
実用上は標的光の絶対値ではなくコントラストが得られればよいので、行列A−1は、以下の数4のように書き変えてもよい。
これにより、上記の数1の行列式が導かれる。すなわち、光軸の角度を変化させることにより標的光と背景光の混合比率を変化させた2枚の画像F1およびF2を取得すれば、αとβを適当に選択することにより、標的光画像f1と背景光画像f2の情報を分離することが可能となる。
尚、本実施形態では、画素値は正負の値をとれるように構成される。仮にデータ取り込みが符号なし1バイト整数でも、一旦浮動小数点数に変換してしまえば、画素値が最大値(255)を超えても問題なく処理することができる。実際には、αとβは負の値となり、状況によっては復元された画像が「ネガ」表示になることがあるが、実用上は標的光の絶対値ではなくコントラストが得られればよいので、形成された画像が「ネガ」表示であっても反転されてみれば正しい「ポジ」画像表示となる。
ここで、背景光の影響が小さくなるほど(背景光の画像情報が除去されるほど)得られる画像は鮮鋭化される。従って、取得した観察画像F1,F2を元に、αとβとを任意の値に設定して標的光画像f1、背景光画像f2を擬似的に形成させ、その表示結果を確認しながら、手動操作によりαとβとを選択、調整すれば、現実の細胞組織S表面の蛍光像に近似する標的光画像f1’と背景光画像f2’とを導き出すことができる。尚、本実施形態では、目的の観察対象面は細胞組織S表面であるので、βは任意の値(デフォルト値)とし、αのみを選択、調整し、標的光画像f1’を形成するように構成されている。
図4は、蛍光検出システム100の電気的構成を示すブロック図である。蛍光検出システム100は、測定装置1とPC20とを備え、両者はケーブル19によって相互に接続されている。
測定装置1は、上記したように、細胞組織Sから放出された生理活性物質を検出するための装置であり、演算装置であるCPU2と、そのCPU2により実行される各種の制御プログラムや固定値データを記憶した不揮発性のメモリであるROM3と、各種のデータ等を一時的に記憶するためのメモリであるRAM4と、入出力ポート6と、光源ユニット7と、光検出器12と、CCDカメラユニット13と、インターフェース17とを備えている。図7に示すフローチャートのプログラムは、制御プログラムの一部としてROM3に記憶されている。
CPU2、ROM3、RAM4は、バスライン5を介して互いに接続されており、バスライン5は、また、入出力ポート6にも接続されている。この入出力ポート6は光源ユニット7と、光検出器12と、CCDカメラユニット13と、インターフェース18とにそれぞれ接続されている。
CPU2は、PC20から送信されたコマンドを解読し、コマンドに応じて測定装置1の各部を制御する。PC20から送信されたコマンドが、光源点灯コマンドである場合には、CPU2は光源ユニット7のLEDドライバ装置9に制御信号を出力して、光源8を点灯させる。測定開始に際しては、PC20から、測定実行を指示する測定実行コマンドと、測定条件(測定時間、タイムラプス、撮影フレーム数等)とが送信される。この測定実行コマンドを受信すると、CPU2は、設定された撮影フレーム数と測定時間とに基づいて撮像画像のサンプリングタイムを設定する。
ここで、サンプリングタイムは撮像画像を取得(撮影)する間隔であるが、本実施形態では、標的の撮像画像を得るために入射角度の異なる複数の(2つの)画像の撮影を要する。かかる2つの撮像画像は対であり、極力同じタイミングで撮像されることが望ましい。このため、本実施形態においてサンプリングタイムは、対で撮影される2の画像を1回のサンプリングとしてカウントする態様で、サンプリングタイムが設定される。このため、サンプリングタイムに従って画像取得を図ると共に、1のサンプリングタイムの間に、一方の画像を撮像してから直ちに他方の画像の撮影ができるように、開閉器9b1のオンおよびオフ、開閉器9b2のオンおよびオフを指示する制御信号を生成し、測定時間中、継続して、所定のタイミングで、LEDドライバ装置9へ出力する。
更に、CPU2は、開閉器オンオフの制御信号の入力を契機とし、CCDカメラユニット13での撮像のトリガーとなるトリガー信号の出力を、LEDドライバ装置9に開始させる。また、撮像開始と共に、内蔵されるタイマ回路にて測定時間の計測を行い、測定時間終了時に画像信号の取得を停止させる電気信号をLEDドライバ装置9へ出力する。
CCDカメラユニット13は、CCD15とA/Dコンバータ16とを備え、細胞組織Sの蛍光画像の撮像を行うものであって、制御部14によってその動作が制御される。CCD15にて取得された各画素の信号(撮像信号)は、それぞれアンプにて増幅された後、電圧値に変換され、更にA/Dコンバータ16によってデジタルデータに変換される。CCD15の全画素の一群の画素データにて、1フレームの画像データが構成される。制御部14は、LEDドライバ装置9からのトリガー信号の受信を契機として撮像を実行し、得られた画像データは、トリガー信号が示す入射角に対応つけて撮像メモリ17bに記憶され蓄積される。撮像メモリ17bに記憶された画像データは、測定終了を示す信号を受信することによりインターフェース18を介してPC20へ出力される。
尚、本実施形態では、CCDカメラユニット13は、光の強度(輝度)を検出するものであり、画素値はモノクロデータとなっている。尚、PC20の処理によって輝度値から模擬的にカラー画像データ(RGBデータ)を形成することが可能となっている。
PC20は、上記したように、測定装置1での各処理を制御するものであり、演算装置であるCPU21と、ROM22と、RAM23と、ハードディスクドライブ(以下「HDD」と称す)24と、入出力ポート26と、表示装置であるLCD27と、入力装置であるキーボード28と、インターフェース29とを備えている。
CPU21、ROM22、RAM23、HDD24は、バスライン25を介して互いに接続されており、バスライン25は、また、入出力ポート26にも接続されている。この入出力ポート26は、LCD27と、キーボード28と、インターフェース29とにそれぞれ接続されている。
CPU21は演算装置であり、ROM22やHDD24に記憶されるプログラムを実行するものである。
ROM22は、CPU21により実行される各種の制御プログラムや固定値データを記憶した不揮発性のメモリである。
RAM23は、各種のデータ等を一時的に記憶するための書換可能なメモリであり、CPU21が各種プログラムを実行する際、変数などを一時記憶するワークエリアや、後述するHDD24の測定装置制御プログラムに記憶される制御プログラムの実行時にその制御プログラムが一時的にロードされるロードエリアを有している。また、RAM23は、設定値メモリ23aと、変数メモリ23bと、第1画像メモリ23cと、第2画像メモリ23dと、補正画像メモリ23eとを備えている。
設定値メモリ23aは、測定条件を記憶するためのメモリである。蛍光検出システム100は、操作者の入力に基づいて測定装置1に実行させる測定条件を任意に設定することができるようになっている。操作者によって入力される測定条件は、測定時間、タイムラプス、撮影フレーム数、アンプゲインである。後述する測定処理にて操作者から測定条件が入力されると、入力された項目の値がこの設定値メモリ23aに書き込まれ、先に記憶される値が更新される。CPU21は後述する測定処理が実行される際に、この設定値メモリ23aを参照し、記憶されている測定条件にて測定装置1に測定の実行を指示する。
変数メモリ23bは、後述する画像補正処理(S11)において用いられる変数α、βを記憶するメモリである。αは、操作者の入力操作によって設定される値であり、キーボード28から数値入力される値である。尚、本実施形態では、αの入力は、キーボード28にて行うものとしたが、αの値の入力は、これに限られるものではなく、例えば、LCD27にボリュームを表示し、かかるボリュームをマウスやジョイスティック等で操作することで連続的にαの値を変更できるように構成しても良い。本実施形態においては、βは、HDD24の初期値メモリ24bに記憶されているデフォルト値であり、画像補正処理が実行される際に、この変数メモリ23bにHDD24から読みだされて書込まれる。
以下、実施形態が2つあるため、第1実施形態および第2実施形態として説明を行う。第1実施形態では、αの値が入力されると、変数メモリ23bにそのαが記憶され、先の値が更新される。そして、この変数メモリ23bに記憶されるα、βが用いられて、画像データが算出され、画像が形成されてLCD27に表示される。
第1画像メモリ23cおよび第2画像メモリ23dは、撮像された画像(観察画像)の内、鮮鋭化を行う(標的光を分離する処理を行う対象の)1フレームの画像データを記憶するためのメモリであり、第1画像メモリ23cは、第1LED8aからの入射光で照射された際に撮像された画像の画像データを記憶するものであり、第2画像メモリ23dは、第2LED8bからの入射光で照射された際に撮像された画像の画像データを記憶するものである。
補正画像メモリ23eは、第1画像メモリ23cに記憶された観察画像の画像データから標的光の画像として作成された(背景光を差分した)画像データを記憶するメモリである。CPU21は、画像補正処理(S11)において、新たに補正画像メモリ23eに画像データが書き込まれると、その画像データをLCD27に出力して表示する。
HDD24は、書換可能な大容量のメモリであり、電源断後も記憶されるデータを保持する不揮発性のメモリである。このHDD24には、図示しないオペレーティングシステムの他、測定装置1に画像撮影を実行させ取得した画像の処理を実行するための測定制御プログラム24aと、初期値メモリ24b、原画像メモリ24c、処理画像メモリ24dとを備えている。図5〜図6のフローチャートに示すプログラムは測定制御プログラム24aの一部として、HDD24内に記憶されている。HDD24に記憶される各種のプログラムは、必要に応じてRAM23にロードされ、CPU21により実行される。
初期値メモリ24bは、測定装置1に生理活性物質の測定を実行させる際の測定条件(測定時間(露光時間)、タイムラプス、撮影フレーム数、アンプゲイン)や、その他必要な値をデフォルトで記憶するメモリである。PC20にて測定処理が開始されると、この初期値メモリ24bに記憶される測定条件が設定値メモリ23aに書き込まれて記憶される。従って、操作者にて任意の測定条件が入力されなかった場合には、初期値メモリ24bにデフォルトで記憶されている測定条件に従って、測定装置1で測定が実行されることとなる。また、操作者によって測定条件が入力されると、入力された項目については、その入力された値に基づいて測定が実行されることとなる。
原画像メモリ24cは、測定装置1から送信される画像データを記憶するためのメモリである。PC20から測定装置1に対し測定実行コマンドが送信された後、測定が終了すると測定装置1から画像データが送信される。この画像データを受信すると、受信された画像データは、RAM23のバッファに一時的に格納された後、この原画像メモリ24cに、撮影されたフレーム順に書き込まれる。受信した画像データは、各座標における画素値(輝度)で構成される一群の情報であるので、1フレームごとに、座標(x,y)と共に記憶される。また、測定装置1からは、各画像データについて、1フレームの画像データ毎に、入射角の情報が付加された状態で送信される。原画像メモリ24cには、この入射角の情報、即ち、第1LED8aによる照明によって撮像された第1画像データか、第2LED8bによる照明によって撮像された第2画像データかを示す情報が、各画像データに付加された状態で記憶される。
次に、図5〜図7のフローチャートを参照して、上記のように構成された蛍光検出システム100で実行される処理について説明する。図5は、PC20で実行される測定処理を示したフローチャートである。測定処理は、操作者の入力操作に基づいて、測定装置1に細胞組織Sにおける生理活性物質の濃度分布測定を実行させる処理である。この測定処理は、操作者が所定の入力操作により、PC20に測定の実行を要求することで開始される。
図5に示すように、この測定処理では、まず、光源点灯コマンドを測定装置1に送信する(S1)。これにより、測定装置1においては、光源8が点灯し、照射光(励起紫外光)が透明基板10の端面へ入射される。光源8が正常に動作しているかは、光検出器12によって検出することができ、その信号を測定装置1から受信することでCPU21は、光源8の安定な出力を確認することができる。
次に、初期値メモリ24bの値(デフォルトで記憶されている測定条件)を設定値メモリ23aに書き込み(S2)、操作者から入力に基づいて処理を実行するための各種コマンドが表示されたメイン画面をLCD27に表示する(S3)。続いて、メイン画面に表示されたコマンドが所定の入力操作によって入力されると、PC20は、入力されたコマンドに従って処理を実行する。このため、コマンドが操作者によって入力されたかを確認し(S4)、コマンド入力がなければ(S4:No)、コマンドの入力を待機する。一方、コマンドが入力されれば(S4:Yes)、入力されたコマンドは何かを確認し(S5)、入力されたコマンドが終了コマンドであれば(S5:終了コマンド)、測定の終了要求であるので、光源8を消灯する光源消灯コマンドの測定装置1への送信と、PC20での処理を終了するべく、RAMクリアやデータ保存、出力画面の消去などを行う終了処理を実行して(S6)、測定処理を終了する。
また、S5の処理で確認した結果、入力されたコマンドが測定実行コマンドであれば(S5:測定実行コマンド)、測定の実行要求であるので、測定実行コマンドと設定値メモリ23aに記憶される測定条件(測定時間(露光時間)、タイムラプス、撮影フレーム数、アンプゲイン)とを測定装置1に出力する(S7)。これにより、測定装置1では、設定された測定時間、CCDカメラユニット13において撮像信号の取り込みが実行される。
一連の測定の終了後は、撮像された画像データが測定装置1からPC20へと送信される。従って、PC20においては、測定装置1から画像データを受信したかを確認し(S8)、未受信であれば(S8:No)、受信を待機し、受信した場合には(S8:Yes)、受信した画像データをRAM23のワークエリアに設けられたバッファに一旦格納した後、原画像メモリ24cに記憶する(S9)。ここで、受信した画像データには、第1LED8aの照明に対応する第1画像データであるか、第2LED8bの照明に対応する第2画像データであるかを示す情報が付加されているので、かかる情報と共に各画像データは原画像メモリ24cに記憶される。その後、必要な各処理を実行し(S15)、その処理をS4に移行する。この場合の各処理(S15)においては、例えば、画像データの格納が終了したことを示す情報をLCD27に出力すること等が実行される。
更に、S5の処理で確認した結果、入力されたコマンドが画像処理実行コマンドであれば(S5:画像処理実行コマンド)、原画像メモリ24cに記憶される画像データについての画像処理の要求であるので、初期値メモリ24bに記憶されるβの値を変数メモリ23bにデフォルト値として書込み(S10)、その後の処理を行うために、非図示のステップにて画像データの補正を実行するための入力画面を表示して画面表示を更新した後、画像補正処理を実行する(S11)。画像補正処理(S11)の終了後は、各処理(S15)を経て、S4の処理に移行する。
更に、S5の処理で確認した結果、入力されたコマンドが条件設定コマンドであれば(S5:条件設定コマンド)、操作者からの測定条件の変更要求であるので、測定条件の入力画面を表示する(S12)。この入力画面においては、操作者によるキーボードからの入力に基づいて、任意の測定条件を入力できる入力欄が設けられると共に、操作者が測定条件の入力完了を示すコマンドを入力できるように構成されている。CPU21は、この入力画面において測定条件の入力完了を示すコマンドが入力されたかを監視し(S13)、測定条件の入力完了を示すコマンドが入力されていなければ(S13:No)、その入力を待機し、一方、測定条件の入力完了を示すコマンドが入力されていれば(S13:Yes)、入力欄に入力された測定条件を設定値メモリ23aに書き込み(S14)、先に記憶される対応する値を更新する。そして、各処理を実行した後(S15)、その処理をS4の処理に移行する。
S14の処理の後に実行される各処理(S15)においては、LCD27の表示画面をメイン画面に切り替える処理を実行される。また、例えば、入力欄に入力された値が測定装置1にて実行できる範囲を超えていた場合には、エラーメッセージを表示するといった処理が実行される。
加えて、S5の処理で確認した結果、入力されたコマンドが終了コマンド、測定実行コマンド、画像処理実行コマンド、条件設定コマンド以外のその他のコマンドであれば(S5:その他)、入力されたコマンドに応じた処理を各処理(S15)において実行し、その処理をS4の処理に移行する。尚、その他のコマンドとしては、測定装置1のキャリブレーションを実行するコマンドなどである。キャリブレーションが要求された場合には、CPU21は光検出器12の検出信号を測定装置1に要求し、受信した検出信号をLCD27に表示する。これにより、操作者は光源8の状態を確認でき、LCD27に表示される検出データを視認しつつ、光源8(LED8a,8b)の入射角調整などを実行できる。
図6は、図5の測定処理の中で実行される画像補正処理(S11)のフローチャートである。この画像補正処理(S11)では、まず、HDD24の原画像メモリ24cに記憶される画像データのうち入力画面から指定された画像データに対し、サムネイル画像を生成しLCD27に所定の書式で表示する(S21)。原画像メモリ24cには、1の測定毎に画像データが記憶されており、ここでの画像データの指定は、1回の測定にて取得された一群の画像データが指定される。また、正規の画像データは膨大な情報量を有するため、一群の画像データに含まれる各画像データ(1フレームの画像データ)は、それぞれサムネイル画像に変換されてLCD27に表示される。また、本実施形態では、LCD27に表示されるサムネイル画像は、第1画像データのサムネイル画像とする。
そして、表示されたサムネイル画像の選択または終了コマンドの入力を監視し(S22,S33)、画像の選択がなされた場合には(S22:Yes)、選択されたサムネイル画像に対応する第1および第2画像データを原画像メモリ24cから読みだして、第1画像データを第1画像メモリ23cに書き込み、第2画像データを第2画像メモリ23dに書込む(S23)。続いて、第1画像メモリ23c、第2画像メモリ23dに記憶される第1画像データおよび第2画像データをLCD27に出力して、表示画面を更新する。
第1実施形態の画像補正処理(S11)では、標的光の画像を形成するために必要な値であるα(未知の値)を、操作者による入力によって設定する。このため、画面上にはαの入力要求が表示され、その入力をCPU21によって監視する(S25)。そして、操作者による所定の入力操作によってαの値が入力された場合には(S25:Yes)、変数メモリ23bに入力されたαを記憶する(S26)。
この後、第1画像メモリ23cに記憶される第1画像データ(F1)および第2画像メモリに記憶される第2画像データ(F2)と、変数メモリ23bに記憶されるα,βとに基づき、数1式に従って表示画像f1’,f2’を作成してLCD27に出力する(S27)。
これによって、第1画像データ(F1)から背景光がある程度除去された画像(f1’)と、第2画像データ(F2)から標的光がある程度除去された画像(f2’)がLCD27に表示される。このため、操作者は、表示画像を視認して補正結果を確認することができる。そして、確定コマンドが入力されたかを確認する(S28)。確定コマンドは操作者の入力操作に基づいて入力されるコマンドであり、表示された画像データを確定するコマンドである。即ち、S28の確定コマンドの入力は、S27の処理で形成された画像が、観察対象面の真の像の近似画像に至ったとして補正の完了を操作者が判断したタイミングである。故に、この確定コマンドが入力されていれば(S28:Yes)、原画像メモリ24cに記憶されるS21の処理で指定された画像データについて、変数メモリ23bに記憶されるαを用い、全フレームの画像データに対して、夫々f1’を算出する(S29)。これにより、1回の測定で取得された一群の画像について、全フレームの画像データの補正が行われ、表示処理(S30)により、補正後の画像データをLCD27に表示する処理を実行する。具体的には、補正後の画像によって各フレームのサムネイル画像が作成されて表示画面が更新される。尚、表示されるサムネイル画像は、インデックスとして表示されるものであり、任意のサムネイル画像が指定されると、対応する元画像(縮小元の正規の画像)が表示される。
表示処理(S30)による画像データの表示後は、再処理コマンドおよび終了コマンドの入力が受付可能となっており、CPU21にて再処理コマンドおよび終了コマンドの入力が監視される(S31,S32)。そして再処理コマンドの入力がなく(S31:No)、終了コマンドが入力された場合には(S32:Yes)、この画像補正処理(S11)を終了する。一方、S31の処理において確認した結果、再処理コマンドの入力であれば(S31:Yes)、その処理をS22の処理に移行し、新たな画像の指定を待機する。再処理コマンドおよび終了コマンドのいずれの入力もなければ(S31:No、S32:No)、再処理コマンドおよび終了コマンドのいずれかのコマンド入力を待機する。
また、S22の処理で確認した結果、画像の選択がなく(S22:No)、終了コマンドの入力もなければ(S33:No)、S22の処理に移行して画像の選択を待機し、終了コマンドの入力が確認されれば(S33:Yes)、この画像補正処理(S11)を終了する。
更に、S25の処理において確認した結果、αの入力がなければ(S25:No)、終了コマンドが入力されたかを確認し(S34)、終了コマンドが入力された場合には(S34:Yes)、この画像補正処理(S11)を終了する。また、終了コマンドが入力されていなければ(S34:No)、αが入力済みであるかを確認し(S35)、αが入力済みであれば(S35:Yes)、その処理をS28に移行する。また、αが入力済みでなければ(S35:No)、αは値がないため、エラーとなることを回避すべく、その処理をS25の処理に移行してαの入力を待機する。
尚、必要な画像は、観察対象面(細胞組織Sの表面)の画像であるので、本実施形態では、βをデフォルト値とし、観察対象面の標的光の画像f1’(観察面の真の画像の近似画像)のみを算出するものとした。これに代えて、βの値も入力によって任意に設定できるものとし、背景光のf2’画像(背景光の真の画像)を得るものとしてもよい。
上記第1の実施形態においては、αの値を入力して形成される画像がLCD27に出力されるが、この出力画像f1’は、背景光の影響が小さくなるほど(背景光の画像情報が除去されるほど)得られる画像は鮮鋭化される。つまり、本実施形態では、この出力される画像f1’そのものが分離がどの程度行われたかを評価する評価手法であり、画像f1’をLCD27に出力するS27の処理が請求項記載の評価手段に該当する。
図7は、測定装置1で実行される測定実行処理のフローチャートである。測定実行処理は、測定装置1に測定を実行させる、即ち、組織細胞Sの表面に存在する生理活性物質の二次元濃度分布を蛍光画像で撮影するための処理である。この測定実行処理は、PC20からの測定実行コマンドを受信したことを契機として開始される。尚、この測定実行処理 に先立って、PC20から測定装置1には、光源点灯コマンドが送信されており、既に光源8は点灯している。
この測定実行処理では、まず、測定実行コマンドと共に受信した測定条件をRAM4に書き込み(S41)、次いで、RAM4に記憶される測定条件(測定時間と撮影フレーム数)とからサンプリングタイム(撮影間隔)を算出する(S42)。そして、CPU2に内蔵されるタイマ(図示せず)による計時を開始する(S43)。続いて、制御信号出力処理を実行する(S44)。
制御信号出力処理(S44)では、測定の開始に伴い、開閉器9b1,9b2のオンオフを行うための制御信号と、開閉器9b1,9b2のオンに対応してトリガー信号をCCDカメラユニット13に入力するための電気信号を生成し、LEDドライバ装置9に出力するための処理である。
具体的には、まず、第1LED8aに対応する開閉器9b1とトリガー信号出力端子との接点を接続する電気信号と、開閉器9b1をオンする制御信号と、開閉器9b2をオフする制御信号とをLEDドライバ装置9に出力する。これにより、開閉器9b1に繋がる信号線とトリガー信号出力端子との接点がオン、開閉器9b1がオン、開閉器9b2がオフされる(第1画像データ撮像状態)。そして、所定の撮像時間経過後、直ちに開閉器9b1をオフする制御信号と、開閉器9b2をオンする制御信号と、第2LED8bに対応する開閉器9b2とトリガー信号出力端子との接点を接続する電気信号とを、LEDドライバ装置9に出力する(第2画像データ撮像状態)。これにより、開閉器9b1がオフ、開閉器9b2がオンされる。開閉器9b1に繋がる信号線とトリガー信号出力端子との接点は継続してオンのままであるが、開閉器9b1がオフとなるため(回路が開放され)、対応するトリガー信号は発生しない(CCDカメラユニット13に入力されない)。一方で、第2LED8bに対応する開閉器9b2とトリガー信号出力端子との接点が接続されるので、その対応するトリガー信号がCCDカメラユニット13に出力される。
続いて、再度、所定の撮影時間経過後、開閉器9b2がオフされる。これにより、入射角を変更した1回の撮影が完了し、一対の第1画像データと第2画像データが取得される。
続いて、S43の処理によって計時が開始されたタイマの示す値が、予め規定されているタイムアウト時間(測定時間)を超えたかを確認し、タイムアウト時間以内であれば、サンプリングタイムの到来を契機として、同様の開閉器9b1,9b2のオンオフ動作を行わせる制御信号の出力を行う。そして、タイムアウト時間が到来すると、開閉器9b1,9b2を共にオフする信号(即ち、画像信号の取得を停止させる電気信号、測定終了を示す信号)をLEDドライバ装置9に出力してから制御信号出力処理(S44)を終了する。
そして、CCDカメラユニット13に記憶される一群の画像データを、PC20へと送信する(S45)。続いて、トリガー信号出力端子と開閉器9b1,9b2との間を断する電気信号をLEDドライバ装置9に出力して(S46)、その接続を開放し、この測定実行処理を終了する。
このように、本実施形態の検出システム100では、標本である細胞組織Sの表面において存在する生理活性物質を蛍光発光によって検出し蛍光画像を取得すると共に、その取得した蛍光画像について、標的光と背景光とを分離する処理を行うことにより、目的の蛍光像(真の蛍光像)により近似する蛍光画像を取得することができる。即ち、従来の観察画像では、観察対象の組織内部に存在する蛍光体からの蛍光が、観測画像に重畳されたものとなっているので、本来観測されるべき像が暈けたように見えていた。この暈けは光学的な暈けではないので、収差補正等の光学的手法で補正することはできない。更には、汎用的な画像処理は、取得された画像に対してフィルター処理を行うものであり、画像内の対象画素と周辺画素との関係で鮮鋭化が行われるので、背景光の影響が含まれたままで画像処理を行われるため、真の画像に向かう補正がなされているか信頼性に乏しかった。しかし、本実施形態の検出システム100では、背景光を分離する処理を行うことで画像の鮮鋭化を行うものであるため、得られた画像の信頼性を向上させることができる。また、画像補正処理(S11)では、操作者が表示される画像処理結果を視認しながら、背景光と標的光の分離に必要なαの設定と調整を行うという手法であるので、αが未知の値であっても、確実に処理を実行することができるのである。
次に、図8及び図9を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。第1実施形態の検出システム100は、観察画像における標的光と背景光との割合(未知の値)を、操作者の入力操作によって入力された値αで設定し、当該αの値と、1つの観察画像に対応する第1画像データ、第2画像データに基づいて画像生成を行い、生成された画像から、αの妥当性を操作者が判断するように構成されている。これに代えて、第2実施形態においては、αの妥当性を判断する判断手段を備えており、その判断結果に基づいて、標的光の画像が形成されるように構成されている。尚、上記した第1の実施形態と同じ部分については同じ符号を伏して、その説明を省略する。
図8は、第2実施形態の蛍光検出システム100にて実行される画像処理の原理を説明する図である。図3にて述べたように、蛍光物質の分布と画像強度の関係は、上述の式(3)にて表すことができ、即ち、標的光画像f1と背景光画像f2は混合比は未知であるが、観察画像F1は、ある割合a11の標的光画像f1と、ある割合a12の背景光画像f2とが合算されたものであり、同様に観察画像F2は、ある割合a21の標的光f1画像と、ある割合a22の背景光画像f2とが合算されたものとすることができる。
観察画像F1と観察画像F2との2枚の画像において、混合比がわかっていれば、その逆行列をかけると元の画像が得られる。混合比が同じであれば、逆行列が存在しないので、画像は復元できない。通常混合比はわからないので、分離された画像の独立性を基準に分離が正しく行われたかどうかを判断する。分離された標的光の画像と、背景光の画像とが互いに及ぼし合う影響が強い場合には、独立性は低下する。つまり、分離が不十分と判断できる。即ち、標的光の画像の独立性が高ければ、背景光の影響が小さく、真の蛍光画像により近似していることを示す。
ここで、独立成分分析の理論によると、n個の信号源が発する信号強度の確率分布が互いに独立であり、その分布が正規分布に従っていない場合は、観測信号は元の信号に分離できる。なお分布が正規分布に従う場合は、主成分分析を用いることもできる。以下の数5に示す確率変数が、それぞれ独立である場合、以下の数6のようになる。
ただし、p(y1,y2・・・yn)は、それぞれの確率変数がy1,y2・・・ynとなる確率を示す同時確率であり、p(yn)は、n番目の確率変数がynとなる確率を示す周辺確率である。
独立性の指標となるような評価関数の一例として、次式で定義されるKullback−Leibler情報量(以下、「KL情報量」と称す。)が用いられる。全ての確率変数について独立が成立するとき、ゼロとなるKL情報量を以下の数7に示す。
ただし、yはn個の確率変数からなるベクトルy=(y1,y2・・・yn)である。
本実施形態の場合、分離された画像は2枚ある(n=2)。また、観察画像F1(第1画像データ)と観察画像F2(第2画像データ)がそれぞれ座標(x,y)に対応する各画素値で構成されていることから、確率変数となる輝度(画素値)を、離散化してy1i,y2j、確率密度分布p(y1i),p(y2j)とすれば、以下の数8によりKL情報量が求められる。そして、求められたKL情報量を評価関数とし、同時分布密度関数を周辺分布密度関数に近づけるように(即ち、KL情報量を最小化するように)前記α、βを求めてゆけばよい。,
すなわち数8に従い、KL情報量を逐次計算しながらその値が最も小さくなるように、α、βを導出すれば良いこととなる。これにより、分離された信号(標的光の画像情報と背景光の画像情報)の独立性が最も大きくなるように、α、βが調整されることとなる。
本第2実施形態では、最小値の判定は、α、βの微小変動に対し、KL情報量の変化が予め決められた値より小さくなることを以て最小値が得られたと判断する。これは最急下降法のアルゴリズムの一部である。尚、最小値の判定は、算出されたα、βを基に逐次KL情報量を算出し、比較することでKL情報量を最小化するα、βを求めるように構成しても良い。
更には、上述した第1の実施形態と組み合わせ、表示画像を操作者が視認しつつ手動でα,βを調整する際に、KL情報量を表示することで、そのKL情報量を参照しながら、操作者がα,βを調整できるようにしても良い。
第2の実施形態の検出システム100では、第1の実施形態と同様にPC20にて測定処理が実行される。ここで、第2の実施形態では、初期値メモリ24bには、αおよびβの値が予め記憶されており、測定処理のS11の処理において、初期値メモリ24bに記憶されるαおよびβの値が変数メモリ23bに書込まれる。そして、この測定処理において、第1の実施形態では画像補正処理(S12)が行われたが、これに代えて、第2の実施形態では、初期値メモリ24bに記憶されるβの値を変数メモリ23bにデフォルトとして書込む画像補正処理(S120)が実行される。
図9は、第2の実施形態の検出システム100に備えられるPC20での画像補正処理(S120)を示したフローチャートである。この画像補正処理(S120)では、第1の実施形態の画像補正処理(S12)と同様にS21〜S26の処理を実行した後、LCD27に表示された標的光画像f1’、背景光画像f2’の画素値(輝度)についての対応する確立密度分布(p(y1i), p(y2j),p(y1i,y2j))を求め、数6に従ってKL情報量を算出する(S121)。
次いで、S121の処理で算出されたKL情報量が最小値であるかを判断するとともに、KL情報量の最小値を導出するKL情報量最小化処理を実行する(S122)。そして、α、βの少なくとも一方について変更が必要であるかを確認する。KL情報量最小化処理(S122)にてKL情報量の最小値が導出されていればα、βのいずれも変更不要であるので(S122:No)、変数メモリ23bに記憶されるαを用いて標的光の画像を形成して表示する処理(S29,S30)を第1の実施形態同様に実行する(S29,S30)。尚、第2の実施形態では、CPU21の演算処理によってα,βが最適化されるため再処理は不要となり、第1の実施形態に備えられた再処理コマンドの入力を待機するS31の処理は不要となる。よって、終了コマンドの入力をCPU21は監視し、終了コマンドが入力されると(S32:Yes)、この画像補正処理S120を終了する。また、S32の処理で確認した結果、終了コマンドの入力がされていなければ(S32:No)、その入力が確認されるまで、S30の表示処理において表示された画面表示を継続する。
また、S123の処理で確認した結果、KL情報量の最小値が導出されていなければ、α、βの少なくとも一方について変更が必要である(S123:Yes)。このため、α,βの値を変更する、α,β変更処理を実行し(S124)、変更後のα,βに基づき、再度KL情報量を導出するために、その処理をS26の処理に移行する。尚、算出されたKL情報量が、最小値にいたったか否かは、予め定めた判定方法に従って判断される。尚、初回の算出の場合は、KL情報量の変化が存在しないので、S123の処理において、必ず、「Yes」と判断される。本実施形態において最小値の判定は、α、βの微小変動に対し、KL情報量の変化が予め決められた値より小さくなることを以て最小値が得られたと判断する。これは最急下降法のアルゴリズムの一部である。尚、最小値の判定は、最急加工法に限られるものではなく、例えば、算出されたKL情報量がその時点までの最小値より小さければ、その値を新しい最小値とし、対応するα、βと共に記憶するという処理を所定回数繰り返すことで実行しても良い。
上記各実施形態において測定される細胞組織Sは、生体試料であり、例えば生物から切開や穿刺によって取得した組織片、細胞、微小生物などが例示されるが、これらに限定されるものではない。
また、蛍光検出システム100は、穿刺や切り出しによって得られる細胞組織Sを外部に(生体外に)設置された透明基板10に載置して測定を行うように構成されたが、透明基板10をプローブ状の光ファイバの一部分に形成すると共に、GAPやNAD+を供給するラインや、光ファイバを介して透明基板10に対向する位置にCCDを設けたカテーテルとし、生体内に挿入された状態で測定を行う構成としても良い。
尚、請求項に記載の光学観察方法としては、上記実施形態において説明した蛍光検出システム100を利用して実行させた生理活性物質を検出する一連の工程、即ち、上記各実施形態において、透明基板10に載置した細胞組織Sに向かって、光源ユニット7から照射角度の異なる励起光を照射してCCDカメラユニット13で撮像した第1、第2画像データを記憶する工程と、少なくともαの値を手動、または自動で求め、そのαと、複数の撮影画像(第1画像データ(観察画像)、第2画像データ(比較画像)とを用いて、標的光とした画像情報を分離し、観察対象の本来の観察像(近似像)の画像を形成して表示する一連の工程が該当する。
更に、上記各実施形態は、2の入射角にて取得した画像比較して、観察対象面の観察像を取得するものであったが、これに代えて、3以上の入射角に対応する画像を撮影し、順次、画像補正処理を行うことで断層写真の鮮鋭化を行うものとしてもよい。
また、入射角の異なる入射光を得るために、異なる角度でセットされた複数のLED8を設けたが、これに代えて、例えば、ピエゾ素子などを用いて角度変更を自動で行うことができるものとし、1のLEDで複数入射光の画像を撮影するものとしても良い。
次に、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
実施例においては、図1に示した検出システムを用いて、小脳皮質細胞からのガンマアミノ酪酸放出の空間分布を測定した。
生後一週間の新生仔ラットを用意し、70%エタノールにて全身の消毒を行い、滅菌下にて断頭した。小脳を傷付けないように、延髄側より頭皮及び頭蓋骨を切り、切開した。その後、全脳を先曲ピンセットにて持ち上げ摘出し、生理食塩水内で血液等を洗浄した。この後に全脳をシャーレ上に移し、スカルペルナイフによって延髄及び大脳や間脳を切り離し、小脳を摘出した。小脳に付着したクモ膜及び血管を、先細ピンセットを用いて剥がし取り、再度生理食塩水にて洗浄した後、単離した小脳をロータリースライサーもしくはクリオスタット等にてサジタル方向に200μmにスライスした。これらのスライスの内、小脳虫部を選別し、充分な酸素供給下のPBSにおいて1時間浸し、断面表層の組織処理を行った。
このサンプル組織を広口スポイトですくい取り、本実施形態の装置上に乗せ、余分な水分を吸い取とった後、測定装置の基板上に載置した。試料を載置する基板である石英ガラスの表面には、GABA分解酵素GABaseを固定化し、蛍光元物質にNADPを添加した。そして、基板側方に設けた照射角度の異なる2のLED(紫外波長のLED(日亜化学NSHU550B(紫外発光LED)、発光スペクトルのピークは365nm)からUV励起光を交互に照射すると共に、前記基板の下方から、515nmバンドパスフィルター及びピンホール機能を有するCCDカメラを装備した倒立型蛍光顕微鏡にて観察を行った。なお、基板としては、石英ガラス板(25mmx25mmx1mm)を用いた。
そして、ピンホール機能を備えたCCDカメラで、側面光の作用で発生した蛍光を撮像した。図10に観察結果を示す。
この例では分子層および顆粒層と呼ばれる層からGABAが放出されることが知られている。図10(a)は、石英基板の表面に照準をあてて励起光を照射して得られた画像データである。輝度の強い2重の層(図10(a)中、白く表示される部位)がこれに相当している。しかしながらその周辺にも輝度の強い部分があり、暈けた画像となっている。
図10(b)は、僅かにタイムラグを経て、入射角を深くして撮影された同じサンプルの画像データである。おぼろげながら、輝度の強い2重の層が確認できる。即ち、暈けの様相が異なる2枚目の画像を得ることができた。
図10(c)は、図10(a),(b)に示した画像の画像データを用い、第1の実施形態で説明した手法でαを設定して、両画像の混合比を調整することにより、形成された画像である。図9(c)から解るように、暈けのない画像、すなわち酵素担持面(サンプル表面)からの蛍光がクリアに検出されており、分子層および顆粒層と呼ばれる層からGABAが放出されている様子が鮮明に観察された。