JP2005043278A - 蛍光相関分光測定装置及び不均一系試料における拡散係数測定方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 物質の拡散係数を拡散距離の関数として求めることのできる装置を提供する。
【解決手段】 共焦点顕微鏡への入射レーザ光のビーム径をビーム径可変光学系12によって変化させることによって、試料のレーザ照射領域の大きさを変化させる。種々の入射レーザ光のビーム径、すなわち種々のレーザ照射領域半径(拡散距離)において、試料から発生される蛍光揺らぎの自己相関関数を演算し、それから各拡散距離における拡散係数を求める。
【選択図】 図4
【解決手段】 共焦点顕微鏡への入射レーザ光のビーム径をビーム径可変光学系12によって変化させることによって、試料のレーザ照射領域の大きさを変化させる。種々の入射レーザ光のビーム径、すなわち種々のレーザ照射領域半径(拡散距離)において、試料から発生される蛍光揺らぎの自己相関関数を演算し、それから各拡散距離における拡散係数を求める。
【選択図】 図4
Description
本発明は、蛍光相関分光測定装置及び不均一系試料における物質の拡散係数を測定する方法に関する。
蛍光相関分光法は、レーザ共焦点顕微鏡の附属装置として多くの利用者があり、物質から発せられる蛍光の揺らぎから物質の移動状況や拡散係数を測定できる方法であり、生体解析の主たる手段として用いられている。タンパク質、核酸、糖鎖化合物、細胞膜などを蛍光プローブ物質などで標識して、測定対象とするが、主として光学顕微鏡で直接像として捉えることのできない10nm以下の大きさの分子、あるいは巨大分子の動きを捉えることができる。測定された拡散係数を通じて、生体物質や薬剤、滋養分、抗原抗体、ホルモンなどの反応速度、膜透過速度、分子運動状態を把握することができる。
図1は、蛍光相関分光法の原理を説明する図である。図1(a)は試料中のレーザ照射領域で生じている現象を説明するための模式図であり、図1(b)は測定された蛍光強度の時間変化を表す模式図である。
蛍光励起用のレーザ光を共焦点顕微鏡に導入し、蛍光色素あるいはそれで標識された分子から発生される蛍光の時間的な揺らぎを光電子増倍管やフォトダイオードなどの光検出器で測定する。図1(a)に示すように、励起レーザ光は、顕微鏡の対物レンズによって測定試料の微小な照射領域(光学顕微鏡の解像限界程度の半径100−200nmの領域)に収束して照射される。試料中の蛍光標識分子は、拡散によってレーザ照射領域(観測視野)を出入りするので、レーザ照射領域内に存在する分子の数が揺らぎ、それによって測定される蛍光の強度が揺らぐ。このレーザ励起蛍光を単一光子計数法で測定することにより、蛍光強度の揺らぎを時系列データあるいは時間相関関数として記録する。
図1(b)に示すように、拡散係数の大きい(拡散の速い)分子からの蛍光揺らぎは速い変化を示す揺らぎであるが、拡散係数の小さい分子による揺らぎは割合遅い変化を示す揺らぎである。したがって、この時間相関関数を理論式で解析することにより、試料中における蛍光標識分子の拡散係数を定量的に求めることができる。
この手法で拡散係数を決定すると、生体試料中に於ける生体分子、生体情報分子、DNA、酵素などの動的状態や反応速度を求めることができる。例えば、酵素が基質と結合すると分子が大きくなるので、拡散が遅くなる。この方法は、DNAとその修復酵素の反応、免疫反応、情報伝達物質の反応などの反応速度決定に実際に用いられている。また、細胞質内や細胞膜内の物質透過速度、運動状態も測定できる。特に、レーザ共焦点顕微鏡を基本としているので、あらゆる生体試料に対してそのまま用いることができ、in vivo, in vitroにおける測定、臨床測定や診断などに展開されている。
なお、蛍光相関分光については、例えば、R.Rigler, E.S.Elson eds., "Fluorescence Correlation Spectroscopy Theory and Applications", Springer-Verlag (2002)に記載されている。また、特開2002−272463号公報、特開2001−275699号公報、特開2001−269199号公報、特開2001−269198号公報には、蛍光相関分光の塩基配列解析への応用について記載され、特開2001−272404号公報には、抗原抗体反応への応用について記載されている。特開2002−272346号公報には、パルス光源を用いて蛍光相関分光を行う装置が記載され、特開2001−194305号公報にはレーザ顕微鏡と組み合わせた走査型蛍光相関分光装置について記載され、特開平9−113448号公報にはレーザ2光子励起による蛍光相関分光法について記載されている。
R.Rigler, E.S.Elson eds., "Fluorescence Correlation Spectroscopy Theory and Applications", Springer-Verlag (2002)
特開2002−272463号公報
特開2001−275699号公報
特開2001−269199号公報
特開2001−269198号公報
特開2001−272404号公報
特開2002−272346号公報
特開2001−194305号公報
特開平9−113448号公報
従来の蛍光相関分光法は、試料中の注目物質の拡散係数を拡散距離や観察時間に依存しない「定数」として捉えている。均一系においては拡散係数を定数として扱っても問題はないが、生体試料のような不均一系においては、物質の実際の拡散係数は、拡散距離や拡散時間に応じて大きく変化するために、拡散係数を定数とすると測定系について誤った情報を与えることになる。特に、細胞外マトリックスを構成するようなネットワーク高分子媒体(例、ヒアルロン酸、コラーゲン、フィブリン、フィブロネクチンなど)内の拡散では、拡散係数が拡散距離に依存する傾向が著しいが、現在のところ、この効果は拡散係数の測定において全く考慮されていない。
細胞外マトリックスとは、下等動物から高等動物までのありとあらゆる動物において、その体の中の、細胞外のさまざまな場所に存在する媒体の総称である。筋肉、皮膚、骨関節、眼球の硝子体などがその代表であるが、卵細胞、胚細胞、ガン細胞などの周りの細胞外マトリックスは、細胞との接着作用を通じてその動的な生体作用に大きく関わっていると言われている。すなわち、ガン転移、ガン浸潤、ガン細胞の無害化、発生、組織の再生、細胞の分化など数多くの研究対象、及びそれに関係する診断、治療対象に細胞外マトリックスが関係しているのにも関わらず、現在の蛍光相関分光が誤った情報を与えることが問題点である。
本発明は、物質の拡散係数を拡散距離の関数として求めることのできる装置を提供することを目的とする。また、本発明は、不均一系試料、特に細胞外マトリックス中の拡散係数に関してより正確な情報を取得するための測定方法を提供することを目的とする。
試料中におけるレーザ照射領域の大きさを変化させることにより、拡散する分子の拡散距離を変えた蛍光相関分光測定が可能となる。理論的な考察から、拡散距離とレーザ照射領域の半径をほぼ同一視してよい。このような考察に基づき、本発明においては、励起レーザ光のビーム径を変更しながら、各ビーム径において通常の蛍光相関分光測定を行い、試料中の注目物質の拡散係数を拡散平均距離の関数として求める。本発明の蛍光相関分光測定装置は、通常のレーザ共焦点顕微鏡にわずかな変更を加えるだけで実現することができるので、細胞外マトリックスに関係するあらゆる生体測定試料について、基礎研究、臨床測定、診断、治療モニタ機器として用いることが可能である。
細胞外マトリックスは一般に不均一系で、拡散距離を変えると拡散係数の測定値が変化する。したがって、この新しい測定情報により、拡散距離の関数としての拡散係数が正しく求まるので、正確な拡散状況(輸送現象の状況)が把握できる。この原理を応用すると、実際に細胞外マトリックスに接触している細胞や組織についての蛍光相関分光測定が可能となり、情報伝達物質の拡散係数が正確に求まる。具体的には、細胞接着、発生、再生、脳神経、癌細胞などの細胞レベルの研究、医療の研究、診断などにこの手法が応用できる。
本発明による蛍光相関分光測定装置は、試料を保持する試料保持部と、入射されたレーザ光をビーム径が異なるレーザ光に変換するビーム径可変光学系と、ビーム径可変光学系の制御量と試料のレーザ照射領域の大きさとの関係を記憶した記憶部と、記憶部に記憶された関係を用いて、試料のレーザ照射領域が所望の大きさとなるようにビーム径可変光学系の制御量を制御する制御部と、ビーム径可変光学系から出射されたレーザ光を試料保持部に保持された試料に収束して照射する対物レンズと、レーザ光照射によって試料から発生された蛍光を、対物レンズを介して集光する蛍光集光光学系と、蛍光集光光学系によって、対物レンズによるレーザ光の収束点と共役な位置に集光された蛍光を検出する光検出器と、光検出器の出力の揺らぎの自己相関関数を演算する演算部とを含む。
ビーム径可変光学系はコリメート光を出射する光学系とすることができ、ズームレンズを備えてもよい。レーザ光の収束点と共役な位置に可変ピンホール又は径の異なる光ファイバーを配置し、光検出器に入射する蛍光を制限しながら、その解像度を調整できるようにすると、試料のレーザビーム照射領域可変の自由度を更に増すことができる。また、演算部は、自己相関関数から拡散係数を更に演算することも可能である。
本発明による不均一系試料における拡散係数の測定方法は、不均一系試料に蛍光標識をつけた被検物質を導入するステップと、所望の大きさのレーザ照射領域が実現されるように共焦点顕微鏡から試料に照射されるレーザ光を制御するステップと、共焦点顕微鏡を用いて、試料のレーザ照射領域から発生される蛍光を検出するステップと、検出された蛍光の揺らぎから自己相関関数を演算するステップと、求めた自己相関関数から試料中における被検物質の拡散係数を演算するステップとを含み、所望の大きさのレーザ照射領域を複数設定し、各大きさのレーザ照射領域に対応する拡散係数を求めることを特徴とする。
本発明によると、拡散係数を拡散距離の関数として正確に把握することが可能となる。そのため、拡散係数に関する情報量が大幅に増え、例えば、生体内における情報伝達物質の移動状況をより正確に判断することができるようになる。
図2は、本発明による蛍光相関分光顕微鏡の原理図である。この蛍光相関分光顕微鏡は、レーザ共焦点顕微鏡の励起レーザ光11の光路中にビーム径可変光学系12を挿入し、励起光ビームの直径を連続的に変化させることができるようにしたものである。また、光検出器18の前に可変ピンホール17を配置した。可変ピンホール17は、ピンホール径が連続あるいは不連続に可変できるピンホールを備える。励起レーザ光11はビーム径可変光学系12によってビーム径を変えられ、ビーム径可変光学系12を出たレーザ光は、ビームスプリッタ13で反射された後、対物レンズ14によって測定試料に集光される。測定試料のレーザ照射領域から発生された蛍光15は、再び対物レンズ14によって集光され、結像レンズ16によって可変ピンホール17に結像され、ピンホール17を通った蛍光は光検出器18によって検出される。
このメカニズムを用いると、対物レンズ14で測定試料に集光されるレーザ光の直径を、ビーム径可変光学系12によって連続的に可変にできるので、レーザ光で励起する試料の領域の半径(レーザ照射領域と呼ぶ)を変化させることができる。励起レーザ光のビーム径が変化することによって、レーザ照射領域の直径が変化する様子を図3に示す。図3(a)は励起レーザ光11aのビーム径(2r)が大きい状態を示し、レーザ照射領域19aの半径は比較的小さい。また、図3(b)は励起レーザ光11bのビーム径が小さい状態を示し、レーザ照射領域19bの半径は比較的大きい。このように、励起レーザ光のビーム径が大きくなるとレーザ照射領域が小さくなる。可視領域の励起レーザ光に対しては、この方法によりレーザ照射領域を半径数100nmから1000nm程度まで可変することができる。
光検出器18を設置した受光側にはピンホールを置くか、あるいはそれに代わる光ファイバーの入射口を置き、その位置をXYZステージによって精密に調整して、結像した光信号を取得するが、ピンホール又は光ファイバー入射口の直径を適宜交換することにより、レーザ照射領域の大きさの変化範囲をさらに広げることができる。測定試料のどの部分を光検出器18に結像させるかは、対物レンズ14の上下位置で調整した後、光ファイバーやピンホール17を設置したXYZステージで微調整する。
図4は、本発明による蛍光相関分光顕微鏡の具体的な構成例を示す図である。図4に示した装置の構成は、ほぼ図2の原理図に示した通りであるが、ビーム径可変光学系として電動ズームレンズを用いてコンピュータ制御を行っている点、レーザ光輸送部と受光部に光ファイバーを用いている点が図2の原理図と異なる。光検出器の前に設置するピンホールの代わりに光ファイバーの開口端を用いているので、光ファイバー23を交換することによりピンホール径を変化させるのと同等の効果を得ることができる。ここでは、直径50μm、100μm、200μmの3種類の光ファイバーを用いた。
図5は、ビーム径可変光学系の構成例を示す概略説明図である。本例のビーム径可変光学系は2組のレンズ、すなわち固定焦点距離f1を持つレンズL1と可変焦点距離f2を持つレンズL2からなる。可変焦点距離を持つレンズとして、バリフォーカルレンズとズームレンズがあるが、前者は焦点距離を変えると幾何学的な焦点位置が一般に変化する。それに対して、ズームレンズは焦点距離を変えても幾何学的な焦点位置は変化しない。レンズL1とレンズL2の焦点位置を一致させて設置し、コリメート(平行光にすること)されたレーザ光をレンズL1に入射する。このとき、もちろんレンズL1,L2とレーザビームの光軸は一致させる必要がある。入射レーザビームの半径をr1とすると、レンズL1によって、このビームは収束角θで焦点位置に収束する。その後、このビームは同じく発散角θで発散し、レンズL2へ入射し、コリメートされる。その結果、得られるレーザビームの半径r2は次式で与えられる。
r2=r1(f2/f1)
実際に用いたレンズは、テレビカメラ用のレンズである。これらのレンズは複数のレンズを組み合わせて1つのレンズを構成している。これは、種々の波長に対して、焦点距離が変わらないようにするためである。すなわち、色消しレンズとなっている。レンズL1として、焦点距離f1=8mmの固定焦点レンズを用いた。カメラレンズには焦点合わせのための調節リングがついており、これを回すと、少しではあるが、焦点距離が変わるようになっている。カタログ値の焦点距離はこの焦点合わせのリングを無限大(∞)に合わせたときの値である。レンズL2には、焦点距離f2=8mm〜96mmまでの12倍のズーム比を持つレンズを使用した。その結果、本例のビーム径可変光学系では入射レーザビームの直径を1〜12倍に変換することができる。本例のビーム径可変光学系を用いても、顕微鏡へ入射するレーザ光は平行光のままで、しかも、入射光と同じ光軸を持つため、顕微鏡対物レンズ14によってできる照明スポットの位置は変化しない。なお、ここでは対物レンズ14に入射する励起光がコリメート光の場合について説明したが、もちろんこれは、対物レンズ14が無限遠系の場合であり、有限系の対物レンズも当然使用することができる。その場合には、ズームレンズから射出されるレーザ光は対物レンズの後ろ側焦点に集光されるようにする必要がある。
実際に用いたレンズは、テレビカメラ用のレンズである。これらのレンズは複数のレンズを組み合わせて1つのレンズを構成している。これは、種々の波長に対して、焦点距離が変わらないようにするためである。すなわち、色消しレンズとなっている。レンズL1として、焦点距離f1=8mmの固定焦点レンズを用いた。カメラレンズには焦点合わせのための調節リングがついており、これを回すと、少しではあるが、焦点距離が変わるようになっている。カタログ値の焦点距離はこの焦点合わせのリングを無限大(∞)に合わせたときの値である。レンズL2には、焦点距離f2=8mm〜96mmまでの12倍のズーム比を持つレンズを使用した。その結果、本例のビーム径可変光学系では入射レーザビームの直径を1〜12倍に変換することができる。本例のビーム径可変光学系を用いても、顕微鏡へ入射するレーザ光は平行光のままで、しかも、入射光と同じ光軸を持つため、顕微鏡対物レンズ14によってできる照明スポットの位置は変化しない。なお、ここでは対物レンズ14に入射する励起光がコリメート光の場合について説明したが、もちろんこれは、対物レンズ14が無限遠系の場合であり、有限系の対物レンズも当然使用することができる。その場合には、ズームレンズから射出されるレーザ光は対物レンズの後ろ側焦点に集光されるようにする必要がある。
図4に戻り、レーザ光源21から出射した励起レーザ光11は、励起光輸送用光ファイバー22を介して電動式のビーム径可変光学系12に導入される。電動式のビーム径可変光学系12は、制御部であるコンピュータ26によって制御される。コンピュータ26は、ビーム径可変光学系の制御量、例えばズームレンズ焦点距離と測定試料のレーザ照射領域半径の関係をテーブルあるいは近似式の形で記憶しており、所望のレーザ照射領域半径が実現されるようにビーム径可変光学系12を制御する。ビーム径可変光学系12によって所望のビーム径とされたレーザ光は、ビームスプリッタ13で反射されて光路を曲げられ、対物レンズ14によって収束されて、試料保持部20に保持された測定試料に照射される。測定試料のレーザ照射領域から発生された蛍光15は、対物レンズ14によって集光され、結像レンズ16によって収束されて、XYZステージによって精密に位置制御される受光用光ファイバー23の開口端に入射される。受光用光ファイバー23の他端はフォトンカウンティングモジュール24に接続され、フォトンカウンティングモジュール24の出力は相関信号処理ボード25に入力されて処理される。相関信号処理ボード25からの出力信号はコンピュータ26に入力され、コンピュータ26では入力信号に対して演算処理を行って拡散係数等を算出し、結果をCRTや液晶パネル等の表示部27に表示する。
レーザ光源21としては、ヘリウムネオンレーザ、アルゴンイオンレーザ、半導体レーザ励起の固体CWレーザが望ましく、ここでは波長488nmのレーザ光を出力するアルゴンイオンレーザを用いた。単一光子計測の条件を達成するには測定試料中の蛍光分子の数をできるだけ少なくし、高速度の光検出器を用いる必要がある。そのために光検出器には、アバランシェフォトダイオード、光電子増倍管、マルチチャンネルプレートつき光電子増倍管などを用いることが望ましい。ここでは、光検出器として、光のパルスをそのまま規格化された電気パルス信号に変換することのできる市販のフォトンカウンティングモジュールを用いた。このモジュールの受光部はアバランシェフォトダイオードである。この電気パルス信号をそのまま解析できる、これも市販の相関信号処理ボードに導いてデータを積算する。測定は、ビーム径可変光学系12の焦点距離をコンピュータ26で制御し、各焦点距離で実現されるレーザ照射領域において測定試料から得られる蛍光信号の揺らぎの相関信号を積算し、蛍光揺らぎの自己相関関数として記録する。その揺らぎの自己相関関数を適当な理論式でフィッティングし、それぞれのレーザ照射領域半径(拡散距離)に対する、測定試料中で揺らいでいる蛍光分子あるいは蛍光標識した分子の拡散係数を決定する。なお、自己相関関数は、ソフトウェアによる信号処理によって求めることも可能である。
具体的なフィッティング関数としては、測定条件によって様々なものが用いられるが、以下に例を示す。拡散による蛍光揺らぎの時間相関関数G(τ)を下記の式(1)を用いて解析する。
ここで、τは相関時間、wとzはラグビーボール型の照射領域体積のそれぞれ水平方向と垂直方向の軸の長さ(図1参照)、Nは照射体積内の蛍光分子の数である。蛍光寿命τTをもつ蛍光寿命成分の比率fを含めて線形を回帰分析して、τD,τT,f,(z/w)を決定し(非線形最小2乗法などを用いる)、次式(2)により拡散係数Dを得る。
D=w2/4τD …(2)
D=w2/4τD …(2)
〔測定例1〕
ビーム径可変光学系12の焦点距離をある値にしたときのレーザ照射領域の大きさを直接的に測定する方法はない。そこで、蛍光相関分光測定を利用して、レーザ照射領域の大きさを決定する。すなわち、拡散係数に距離依存性のないことがわかっている均一系で、拡散係数が既知の分子を用いて、本発明の蛍光相関分光顕微鏡による測定を行い、上式(1)及び(2)からレーザ照射領域半径wを未知数として求める。
ビーム径可変光学系12の焦点距離をある値にしたときのレーザ照射領域の大きさを直接的に測定する方法はない。そこで、蛍光相関分光測定を利用して、レーザ照射領域の大きさを決定する。すなわち、拡散係数に距離依存性のないことがわかっている均一系で、拡散係数が既知の分子を用いて、本発明の蛍光相関分光顕微鏡による測定を行い、上式(1)及び(2)からレーザ照射領域半径wを未知数として求める。
拡散係数が既知である標準蛍光色素(ローダミン123)溶液を用いて、細胞外マトリックスを用いない通常の純水(逆浸透水)溶液で、ビーム径可変光学系12の焦点距離を変化させながら測定を行った。また、受光部の光ファイバー23として、直径50μm、100μm、200μmの3種類のものを交換して用いた。本測定では、純水中のローダミン123の拡散係数Dがレーザ照射領域半径の大きさに依存せず、その拡散係数Dが別法で既知であるので、上式(2)によりレーザ照射領域半径wを独立に決定することができる。
ビーム径可変光学系12を作動させ、励起レーザ光のビーム径を変化させて測定を行い、それぞれのビーム径に対して上式(1)からτDを求めた。それを式(2)に当てはめて求めたレーザ照射領域半径wを、ビーム径可変光学系12のズームレンズ焦点距離に対してプロットしたのが図6である。図6の横軸はビーム径可変光学系の焦点距離の逆数であり、縦軸は式(2)より求めたレーザ照射領域半径wである。受光側の光ファイバー23の直径を変化させると、光ファイバー23に入るレーザ照射領域の結像エリアが変化するので、観測している領域の径も変わる。
図6に示した測定結果は、ビーム径可変光学系12の焦点距離の逆数がレーザ照射領域半径wと完全に比例関係にあることを示している。すなわち、ビーム径可変光学系12の焦点距離に応じて励起領域の大きさ(レーザ照射領域半径w)が変化し、なおかつ蛍光相関分光により観測される相関関数が、式(1)を通じて励起領域の大きさを正しく反映していることがわかる。この結果、ビーム径可変光学系12の焦点距離を変化させることによって測定試料中のレーザ照射領域半径wを300nmから1000nmの範囲において可変できたことがわかった。
以上示したように、この測定方法により、本装置のレーザ照射領域の大きさを定量的に決定することができる。そこで、この測定によって求められたビーム径可変光学系12の焦点距離とレーザ照射領域半径wの関係をコンピュータ26に記憶し、測定試料中のレーザ照射領域半径wの制御のために用いた。
〔測定例2〕
細胞外マトリックスを構成する典型的な物質であるヒアルロン酸(分子量30万)水溶液(0.5wt%/20mMリン酸緩衝液)中で、色素分子であるAlexa488(Alexa Fluor 488 Molecular Probes, Inc.)の拡散係数の照射領域依存性を測定した。
細胞外マトリックスを構成する典型的な物質であるヒアルロン酸(分子量30万)水溶液(0.5wt%/20mMリン酸緩衝液)中で、色素分子であるAlexa488(Alexa Fluor 488 Molecular Probes, Inc.)の拡散係数の照射領域依存性を測定した。
図7に、その結果を通常の純水(逆浸透水)中の測定結果と比較して示す。図7中の黒丸は、試料水溶液中のレーザ照射領域半径を280nm〜380nmの間で変化させたときの、細胞外マトリックス物質中のAlexa488の拡散係数の測定結果を示しており、白丸は比較のために純水中での測定結果を示している。
この測定結果(黒丸)から、細胞外マトリックス中でレーザ照射領域半径wを変化させると、本発明の方法で求めた拡散係数が変化することがわかる。白丸で示した純水中の測定では、拡散係数はレーザ照射領域半径wを変化させても変化しないので、本発明の測定方法が細胞外マトリックス中の分子の拡散係数について新しい測定情報を与えることが示された。
11:励起レーザ光、12:ビーム径可変光学系、13:ビームスプリッタ、14:対物レンズ、15:蛍光、16:結像レンズ、17:可変ピンホール、18:光検出器、19a,19b:レーザ照射領域、20:試料保持部、21:レーザ光源、22:励起光輸送用光ファイバー、23:受光用光ファイバー、24:フォトンカウンティングモジュール、25:相関信号処理ボード、26:コンピュータ、27:表示部
Claims (8)
- 試料を保持する試料保持部と、
入射されたレーザ光をビーム径が異なるレーザ光に変換するビーム径可変光学系と、
前記ビーム径可変光学系から出射されたレーザ光を前記試料保持部に保持された試料に収束して照射する対物レンズと、
前記ビーム径可変光学系の制御量と試料のレーザ照射領域の大きさとの関係を記憶した記憶部と、
前記記憶部に記憶された関係を用いて、試料のレーザ照射領域が所望の大きさとなるように前記ビーム径可変光学系の制御量を制御する制御部と、
レーザ光照射によって試料から発生した蛍光を、前記対物レンズを介して集光する蛍光集光光学系と、
前記蛍光集光光学系によって、前記対物レンズによる前記レーザ光の収束点と共役な位置に集光された蛍光を検出する光検出器と、
前記光検出器の出力の揺らぎの自己相関関数を演算する演算部と
を含むことを特徴とする蛍光相関分光測定装置。 - 請求項1記載の蛍光相関分光測定装置において、前記ビーム径可変光学系はコリメート光を出射することを特徴とする蛍光相関分光測定装置。
- 請求項1又は2記載の蛍光相関分光測定装置において、前記ビーム径可変光学系はズームレンズを備えることを特徴とする蛍光相関分光測定装置。
- 請求項1〜3のいずれか1項記載の蛍光相関分光測定装置において、前記レーザ光の収束点と共役な位置に配置され、前記光検出器に入射する蛍光を制限するピンホール又は光ファイバーを備えることを特徴とする蛍光相関分光測定装置。
- 請求項1〜4のいずれか1項記載の蛍光相関分光測定装置において、前記演算部は、前記演算された自己相関関数をもとに拡散係数を更に演算することを特徴とする蛍光相関分光測定装置。
- 不均一系試料における拡散係数の測定方法において、
前記不均一系試料に蛍光標識をつけた被検物質を導入するステップと、
所望の大きさのレーザ照射領域が実現されるように共焦点顕微鏡から試料に照射されるレーザ光を制御するステップと、
前記共焦点顕微鏡を用いて、試料のレーザ照射領域から発生された蛍光を検出するステップと、
前記検出された蛍光の揺らぎから自己相関関数を求めるステップと、
求めた自己相関関数から試料中における前記被検物質の拡散係数を演算するステップとを含み、
前記所望の大きさのレーザ照射領域を複数設定し、各大きさのレーザ照射領域に対応する拡散係数を求めることを特徴とする不均一系試料における拡散係数の測定方法。 - 請求項6記載の不均一系試料における拡散係数の測定方法において、前記レーザ光を制御するステップでは、前記共焦点顕微鏡の対物レンズに入射されるコリメートされたレーザ光のビーム径を制御することを特徴とする不均一系試料における拡散係数の測定方法。
- 請求項6又は7記載の不均一系試料における拡散係数の測定方法において、前記不均一系は細胞外マトリックスであることを特徴とする不均一系試料における拡散係数の測定方法。
Priority Applications (1)
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JP2003279130A JP2005043278A (ja) | 2003-07-24 | 2003-07-24 | 蛍光相関分光測定装置及び不均一系試料における拡散係数測定方法 |
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