JP2004361087A - 生体分子解析装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】複数の焦点に対応した高精度な光軸方向への焦点制御を行なうことで、対象となる試料の多様な動きや変化を捉える。
【解決手段】生体分子を含む生物学的試料(S)の少なくとも一つの観察領域に対応する3次元領域を含む画像を取得する画像取得手段(29)と、この画像取得手段で取得した試料画像中の3次元上の任意の位置に、測定点を配置する配置手段(20,25)と、この配置手段で配置された測定点から対物レンズ(5)を介して得られた被測定物質の動的情報に由来する信号を測定する測定手段(10a,10b)と、この測定手段で測定した結果を解析する解析手段(20)と、を備え、前記配置手段は、前記対物レンズの光軸上に配置された所定のレンズを光軸方向へ移動することにより、前記光軸方向の任意の位置に測定点を配置する。
【選択図】 図5
【解決手段】生体分子を含む生物学的試料(S)の少なくとも一つの観察領域に対応する3次元領域を含む画像を取得する画像取得手段(29)と、この画像取得手段で取得した試料画像中の3次元上の任意の位置に、測定点を配置する配置手段(20,25)と、この配置手段で配置された測定点から対物レンズ(5)を介して得られた被測定物質の動的情報に由来する信号を測定する測定手段(10a,10b)と、この測定手段で測定した結果を解析する解析手段(20)と、を備え、前記配置手段は、前記対物レンズの光軸上に配置された所定のレンズを光軸方向へ移動することにより、前記光軸方向の任意の位置に測定点を配置する。
【選択図】 図5
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、試料内の1箇所以上の特定部位の統計的な性質や各部位間の相互作用などを求める生体分子解析装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、試料内の特定部位を高い分解能で観察したり測定したりする装置として、共焦点光学系を用いた顕微鏡が利用されてきている。共焦点光学顕微鏡に関しては、例えば文献”Confocal Microscopy” T.Wilson(ed.) Academic press (London)に解説がある。また、主に生物試料を対象とした解説として、文献”Handbook of Biological confocal Microscopy” J.B.Pawley(ed.) Plenum Press (New York)などがある。蛍光相関分光法に関しては、例えば文献”Fluorescence correlation spectroscopy” R.Rigler, E.S.Elson (eds.) Springer (Berlin) などの解説がある。
【0003】
1990年代に入り、蛍光を用いた単一分子の検出・イメージングに関する研究が急増している。例えば単一分子の検出法として、文献P.M.Goodwin etc. ACC.Chem.Res. (1996), Vol.29, p607−613、また蛍光相関分光法(FCS)などが挙げられる。蛍光相関分光法では、共焦点顕微鏡の視野の中の所定の1個の焦点において蛍光標識したタンパク質や担体粒子の溶液中での微粒子のブラウン運動に基づく蛍光強度のゆらぎを解析して自己相関関数を求め、対象とする微粒子の数や大きさなどを推測する。この技術については、例えば、金城政孝「蛋白質核酸 酵素」(1999) Vol.44, No.9, p1431−1437に論じられている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
一方、この技術に関して、いくつか特許出願がなされている。特開2001−194303号公報の技術は、測定しようとする蛍光分子が離散的に分布している試料溶液に適用される蛍光相関分光法であり、シリンドリカル・レンズを用いて2次元的な走査を行なって、試料の撮像領域内全体に励起光が照射されるようにして試料全体を励起し、蛍光信号光検出器で2次元的に得た光強度値を総合して1個の全体的な揺らぎ情報を得ている。
【0005】
一方、回動方向が互いに直角をなすよう設定されている2個のガルバノミラー走査機構により、試料の2次元的な走査を実施する構成に加えて、Z軸方向(深さ方向)へ焦点位置の移動(走査)を行なうことにより、3次元的な走査をすることが考えられる。
【0006】
従来では、光学系のZ軸方向への焦点位置の移動を、試料ステージをモーターなどの駆動機構を用いてZ軸方向へ微小量移動させることにより、試料中の特定部位に対して測定点を位置決めしている。しかしこの方法では、複数の励起/観察点を3次元的に任意の位置に設定することが不可能である。1点の光軸方向の位置を決定すると、他の点の光軸方向の位置が決定されてしまうからである。また、モーターを試料ステージの近傍に固定しなければならず、ステージ周辺の装置が大掛かりになり、試料操作などの作業を妨害することになる。あるいは、対物レンズをモーターなどの駆動機構を用いてZ軸方向へ微小量移動させることにより、焦点位置を観察光軸の方向に沿って移動させることができる。しかしこの方法では、複数の観察光軸を用いる場合、複数の焦点が全て動いてしまう。
【0007】
また、特開平08−43739号公報、特開2000−98245号公報では、走査型光学顕微鏡において、多重染色された試料からの蛍光をそれぞれグレーティング、プリズムにより分光し、複数の光検出器により成分波長毎に検出を行なう。この方法では、一度に励起された試料の撮像領域内全体から蛍光色素毎の信号を取り出すことはできるが、試料の撮像領域内の選択された複数の微小な特定部位から発せられる蛍光信号をそれぞれ区別して取り出すことはできない。
【0008】
従来行なわれている蛍光相関分光法では、視野内に存在する蛍光分子からの蛍光強度のゆらぎを観測し、これに基づいて時系列信号を得て、自己相関関数を求める。この場合、視野内に存在する蛍光分子が1種類のみであれば、得られた蛍光強度のゆらぎをそのまま解析することにより、蛍光分子の並進拡散速度などの情報を得ることができる。また、これら蛍光分子が移動したり、運動速度を変えたりしても、これらの変化を統計的に捉えることができる。発光波長の異なる2種類以上の蛍光分子が試料内に存在する場合は、波長分離を行なうことにより、それぞれの蛍光分子の自己相関や相互相関を求めることができる。しかし、同一視野内に限定されてしまう。
【0009】
実際の生体細胞などを観測しようとする場合、細胞内外、細胞核内外での所望の分子の挙動をリアルタイムで観察することや、細胞内のシグナル伝達や物質輸送、細胞分裂などの事象について経時的な変化や局在情報を得ることが必要とされる。従来の蛍光相関分光法では、分子の集団としての状態変化や、挙動については捉えることができるが、細胞内外の所望の部位の状態変化などについて、ダイナミックに測定することが不可能であった。
【0010】
本発明の目的は、複数の焦点に対応した高精度な光軸方向への焦点制御を行なうことで、対象となる試料の多様な動きや変化を捉えることができる生体分子解析装置を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
課題を解決し目的を達成するために、本発明の生体分子解析装置は以下の如く構成されている。
【0012】
(1)本発明の生体分子解析装置は、生体分子の動的挙動を解析する生体分子解析装置であって、測定可能な状態に保持された生体分子を含む生物学的試料の少なくとも一つの観察領域に対応する3次元領域を含む画像を取得する画像取得手段と、この画像取得手段で取得した試料画像中の3次元上の任意の位置に、測定点を配置する配置手段と、この配置手段で配置された測定点から対物レンズを介して得られた被測定物質の動的情報に由来する信号を測定する測定手段と、この測定手段で測定した結果を解析する解析手段と、を具備し、前記配置手段は、前記対物レンズの光軸上に配置された所定のレンズを光軸方向へ移動することにより、前記光軸方向の任意の位置に測定点を配置する。
【0013】
(2)本発明の生体分子解析装置は上記(1)に記載の装置であり、かつ前記所定のレンズは一対のレンズからなり、該一対のレンズの間の距離が可変である。
【0014】
(3)本発明の生体分子解析装置は上記(1)に記載の装置であり、かつ前記所定のレンズは凹レンズからなる。
【0015】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の実施の形態に係る生体分子解析装置の基本構成を示す図である。本発明では、従来から用いられているレーザー走査型共焦点光学顕微鏡をベースにしている。レーザー走査型共焦点光学顕微鏡については、例えば特開平10−206742号公報に記述されている。本発明では、微小な測定領域をレーザー共焦点光学系により実現する。微小な共焦点領域の形成のために、NA(開口数)1.0程度の大きさの開口数の対物レンズを用いる。これにより得られる共焦点領域は、直径0.6μm程度、長さ2μm程度の大きさの略円筒状となる。
【0016】
この測定領域に存在する生物学的試料(細胞)S内の蛍光分子を、レーザー光源1からのレーザー光により対物レンズ5を介して励起し、蛍光信号(フォトンパルス)を得る。得られた蛍光信号、すなわち、蛍光の強度ゆらぎは、同じ光学系を通過してダイクロイックミラー7を透過し、光検出器10に到達する。これによりフォトンパルスが光電流パルスに変換され、信号処理装置に導かれて波形整形、2値化処理などが行なわれ、コンピューターにより自己相関関数、相互相関関数などが求められ、これから蛍光分子の並進拡散速度などが得られる。
【0017】
画像の取得には第1の走査系S1を用いる。X軸走査スキャナとY軸走査スキャナからなるサーボ方式のガルバノスキャナー(ガルバノミラー)を用いてレーザー光をXY走査し、ステージST上に測定可能な状態で保持された試料Sからの反射光および蛍光を光検出器10で受光し(光学的信号の強度の測定)、画像処理装置にてコントラスト向上、輪郭強調などの画像処理を行なった後、コンピューターに導き、TVモニター上に2次元画像を得る。
【0018】
試料S内の蛍光分子の自己相関関数の取得には第2の走査系S2を用いる。図1に示すようにガルバノスキャナー6を用いてレーザー光をXY走査し、蛍光分子からの蛍光の強度ゆらぎを光検出器10で受光し、相関解析装置に導き、蛍光相関分光法(FCS)で自己相関関数を得る。ここで得られた自己相関関数から蛍光分子の並進拡散運動の速度などの統計的な性質が求められる。なお、レーザー光をXY走査するために、ガルバノスキャナーに限らず、音響光学偏光素子(AOD)やポリゴン鏡などを用いても良い。
【0019】
図2は、図1に示した生体分子解析装置の走査光学系の基本構成を示す図である。図2において図1と同一な部分には同符号を付してある。以下、走査光学系の動作について図2を基に説明する。
【0020】
レーザー光源1から出射したレーザー光は第1レンズ2によりフォーカスされる。フォーカス位置には、照明光用ピンホール3が配置されている。また、第2レンズ4のフォーカス位置に照明光用ピンホール3の位置を合わせており、対物レンズ5までコリメート光(平行光)を導く。対物レンズ5の焦点位置に試料面を合わせている。
【0021】
レーザー光源1から照射されたレーザー光は、互いに走査方向が直交しているX軸走査スキャナ61とY軸走査スキャナ62により、それぞれX軸走査とY軸走査が行なわれ、レーザー光が試料面内で2次元走査される。試料S内の蛍光分子からの蛍光信号は、照射されたレーザー光と同じ光路を通って、第2レンズ4と照明光用ピンホール3の間に配置されたダイクロイックミラー7で反射される。この反射光は、第2レンズ4の焦点位置に配設された受光用ピンホール8を通過して、受光用レンズ9に導かれる。ダイクロイックミラー7は、照射されたレーザー光(励起光)を反射し、蛍光分子から発せられた蛍光を透過させるスペクトル特性を持っている。受光用レンズ9の焦点位置に受光用ピンホール8が位置している。蛍光は、受光用レンズ9を通って光検出器(受光器)10に到達する。光検出器10としては、画像取得用のCCDカメラなどの2次元光検出器を用いる。蛍光の強度ゆらぎの測定には、APD(アバランシェフォトダイオード)、あるいは光電子増倍管などを用いる。
【0022】
図3の(a),(b),(c)は、光軸方向(Z軸方向)の焦点移動のための第1のZ軸走査光学系の構成を示す図である。図3の(a),(b),(c)において図2と同一な部分には同符号を付してある。
【0023】
この第1のZ軸走査光学系では、励起光路と観察光路を兼ねた光路上の対物レンズ5の前側(光源側)に、凸レンズ31と凸レンズ32からなるレンズ対が配置されている。凸レンズ31は、図示しない圧電素子またはステッピングモータ等によるレンズ駆動機構により、対物レンズ5の光軸方向へ移動する。凸レンズ32は、不動の状態となるよう固定されている。そして、凸レンズ31と凸レンズ32の間の距離を可変することにより、凸レンズ31から対物レンズ5ヘの励起光の光束の拡がり角度が制御される。これにより、対物レンズ5を通過した照射レーザー光(励起光)の焦点位置を光軸方向に適量移動させることができる。
【0024】
例えば、図3の(a)に示す凸レンズ31と凸レンズ32の間の距離aに比べて、図3の(b)に示す凸レンズ31と凸レンズ32の間の距離bは長い。このため図3の(b)では、図3の(a)に比べて対物レンズ5から焦点位置までの距離が短くなる。また、図3の(a)に示す凸レンズ31と凸レンズ32の間の距離aに比べて、図3の(c)に示す凸レンズ31と凸レンズ32の間の距離cは短い。このため図3の(c)では、図3の(a)に比べて対物レンズ5から焦点位置までの距離が長くなる。
【0025】
このような光学系により、凸レンズ31を光軸方向へ移動させ凸レンズ31と凸レンズ32の間の距離を可変することにより、光軸(Z軸)方向の焦点移動を行なうことができる。これにより、3次元走査を行なうことが可能になると共に、試料内の任意の3次元的位置に対して、照射レーザー光のフォーカスを試料の深さ方向に合わせられ、深さ方向に分布した所望の蛍光分子を励起することができる。また、この光学系を共焦点光学系へ適用することにより、観察光学系の光軸方向の焦点の位置制御も可能である。
【0026】
なお、凸レンズ31と凸レンズ32の間の距離を可変できれば、凸レンズ31を不動とし凸レンズ32を可動としても、または凸レンズ31と凸レンズ32の双方を可動としても、上述したと同様に光軸方向の焦点移動を行なうことができる。
【0027】
図4の(a),(b)は、光軸方向(Z軸方向)の焦点移動のための第2のZ軸走査光学系の構成を示す図である。図4の(a),(b)において図2と同一な部分には同符号を付してある。
【0028】
この第2のZ軸走査光学系では、凹レンズ41と対物レンズ5(凸レンズ)との組み合わせにより、第1のZ軸走査光学系と同様に光軸方向の焦点移動を行なう。励起光路と観察光路を兼ねた光路上の対物レンズ5の前側(光源側)に、凹レンズ41が配置されている。凹レンズ41は、図示しない圧電素子またはステッピングモータ等によるレンズ駆動機構により、対物レンズ5の光軸方向へ移動する。
【0029】
図4の(a),(b)に示すような凹レンズと凸レンズとの組み合わせによる合成の焦点距離(f)は、一方のレンズの焦点距離をf1、他方のレンズの焦点距離をf2とし、双方のレンズの間の距離をtとすると、
1/f=1/f1+1/f2−t(f1×f2)
で与えられる。よって、凹レンズ41と対物レンズ5の間隔を調整することにより、凹レンズ41から対物レンズ5ヘの励起光の光束の拡がり角度が制御される。これにより、対物レンズ5を通過した照射レーザー光(励起光)の焦点位置を光軸方向に適量移動させることができる。
【0030】
例えば、図4の(a)に示す凹レンズ41と対物レンズ5の間の距離に比べて、図4の(b)に示す凹レンズ41と対物レンズ5の間の距離は短い。このため図4の(b)では、図4の(a)に比べて対物レンズ5から焦点位置までの距離が長くなる。
【0031】
このような光学系でも、凹レンズ41を光軸方向へ移動させることで、光軸(Z軸)方向の焦点移動を行なうことができる。
【0032】
本実施の形態では、特に生体物質からなる試料Sの測定を行ないながら測定位置を移動させるように3次元走査をするので、測定位置で所定時間だけ共焦点を一旦停止させるステップを含んでいる。すなわち、この走査は間欠移動を伴なうので、画像取得のために通常行なうような連続的移動と異なり、走査機構の位置決め速度が比較的遅くてもよい。よって、上述したようにレンズ対を相対的に移動し、レンズ間隔を精密に調整するのに適している。このようにレンズ対の間の距離を調整することにより、励起点と観察点の位置を光軸方向に制御することができる。
【0033】
図5は、本発明の実施の形態に係る生体分子解析装置の具体的な構成を示す図である。以下、生体分子解析装置の動作について図5を基に説明する。
【0034】
レーザー走査顕微鏡により試料の2次元、あるいは3次元画像をTVモニター上に得る。2次元画像を得るためのXYスキャナー21として、例えばガルバノスキャナーを用いてXY走査を行なう。これを、例えば第一走査系P1とする。もう一方のXYスキャナー22として第一走査系P1と同じガルバノスキャナーを用い、これを例えば第二走査系P2とする。
【0035】
2つのXYスキャナー21,22は、互いに直交する方向に走査されるように配置されており、コンピューター20によって制御されるXYスキャナー駆動装置23,24により、走査運動が精確に制御される。XYスキャナー駆動装置23,24には走査位置検出機構25が装備されており、走査位置がリアルタイムで精度良く検知され、コンピューター20にフィードバック制御される。すなわち、試料S内をランダムにスキャンして、試料S内の所望の位置に存在する蛍光分子からの蛍光信号を2つ同時に測定することができる。なお、コンピューター20がXYスキャナー駆動装置23,24を制御することにより、試料S内の同一の位置から時間の異なる複数の蛍光信号を取得することもできる。
【0036】
励起光としてのレーザーは、波長488nmのアルゴンレーザー、633nmのHe・Neレーザーを用いる。試料Sの細胞内の所望の箇所を標識する蛍光色素は、ローダミン・グリーン(RhG)、サイファイヴ(Cy5)を用いる。ローダミン・グリーン(RhG)は、レーザー光源1aからの波長488nmのアルゴンレーザーで励起する。サイファイヴ(Cy5)は、レーザー光源1bからの波長633nmのHe・Neレーザーで励起する。所望の箇所の蛍光色素分子からの蛍光は励起光と同じ光路を通り、それぞれの色素の発光波長に合わせて光学的に調整されたダイクロイックミラー26,27により、入射光路から分離されて光検出器10a,10bで受光される。
【0037】
光検出器10a,10bに入射した光強度信号は電気信号に変換され、信号処理装置28で波形整形され、on−offの2値化パルスに変換されて、コンピューター20に導かれる。コンピューター20に入力された2値化パルス信号は相関演算が行なわれ、自己相関関数が求められる。さらに得られた自己相関関数から、蛍光分子の並進拡散速度や測定領域中の蛍光分子の数の変化などが求められる。光検出器10a,10bに入射する光強度信号が比較的大きい場合は、光検出器10a,10bから出力される電気信号は時系列信号となる。この場合は信号処理装置28でA/D変換し、デジタル信号に変換した後、波形整形を行ない、先と同様に2値化パルス信号に変換する。この2値化パルス信号をコンピューター20に導くことによって相関演算が行なわれ、自己相関関数が求められる。あるいは、デジタル化された時系列信号をそのままコンピューター20に導いて相関演算を行なってもよい。
【0038】
顕微鏡画像については、例えば第1走査系P1のXY走査により、細胞内にレーザー光を照射し、反射光、蛍光を受光器で受光し、信号処理装置28で波形整形された後、画像処理装置29で2次元画像を生成し、TVモニター30上に出力させる。また、図3または図4に示したZ軸走査光学系により、レーザー光のフォーカス位置を光軸方向に沿って上下させることができる。これにより、3次元画像をTVモニター30上に生成させることができる。
【0039】
観察画像上でのスキャンニングポイントの指定は、以下のように行なう。観察者は、TVモニター30上の観察画像を見ながら所望のポイントの指定をコンピュータ20の指定手段(キーボード、マウスポインタ等)を用いて行なう。次に、コンピュータ20は、画面上に指定された1個以上の点でXYスキャナー21,22の走査ミラーのスキャンとZ軸走査光学系による焦点移動とを停止するように、走査ミラー駆動機構25と上記レンズ駆動機構とを調整する。また、Z軸上のポイントについても、XYスキャナ21,22と上述した第1または第2のZ軸走査光学系との連動によるZ軸方向の画像に基づく指定が行なわれ、これにより、試料Sの3次元上の任意の位置に測定点が配置される。このときの走査ミラーの角度は走査位置検出機構25によって精度よく求められる。
【0040】
図6は、多数のレーザー光源と多数の光検出器(受光器)を用いた走査光学系の構成を示す図である。以下、多数のレーザー光源と多数の光検出器を用いた測定について図6を基に説明する。
【0041】
波長488nmのアルゴンレーザー、波長514.5nmのアルゴンレーザー、波長632.8nmのヘリウムネオンレーザーを光源として用いる。蛍光色素としては、ローダミングリーン(RhG)、テトラメチルローダミン(TMR)、サイファイヴ(Cy5)を用いる。波長488nmのアルゴンレーザーによりローダミングリーン(RhG)を励起する。波長514.5nmのアルゴンレーザーによりテトラメチルローダミン(TMR)を励起する。波長632.8nmのヘリウムネオンレーザーによりサイファイヴ(Cy5)を励起する。各蛍光色素は細胞内の所望の目的分子、例えばDNAを構成する塩基やコレステロールを標識する。これにより細胞内に取り込まれたときのコレステロールの凝集などの構造変化に関する情報を得る。
【0042】
図6の構成は、1走査光学系、1観察光学系の場合と基本的に同様である。図6に示すように、三つのレーザー光源1a,1b,1cと四つの光検出器10a,10b,10c,10dを備えている。図6では、レーザー光源のひとつを走査光学系、観察光学系として共有している。これはさらにレーザー光源を1個増やして4本として、そのうち1本を観察光学系として試料画像の取得に用い、他の3本を蛍光励起用に用いても良い。またレーザー光源はこれに限ることなく、5本以上としても良い。
【0043】
2個のXYスキャナー21,22を用いて、それぞれ互いに直交する方向に走査を行なう。本実施の形態ではXYスキャナー2個を各レーザー光源1a,1b,1cで共有して、同じ方向にレーザー光を走査する構成になっているが、これに限ることなく、XYスキャナーを4個、あるいは6個用いて、それぞれのレーザー光について、別々な方向に走査しても良い。
【0044】
また、走査位置検出機構によりXYスキャナーの角度を検知し、その位置でXYスキャナーを固定して、試料の目的分子の位置にレーザー光を照射し、目的分子からの蛍光信号を検出する。蛍光分子から発せられる蛍光信号をそれぞれ別々の光検出器10a,10b,10c,10dで受光する。得られた時系列パルス信号を信号処理装置で波形整形、2値化処理を行なって、コンピューターに導き、相関演算を行なって、それぞれ自己相関関数を求める。
【0045】
本実施の形態により、同一細胞内の異なる蛋白質などの目的分子の挙動を同時にリアルタイムで捉えることができる。また、異なる目的分子の相互相関についても情報を得ることができる。
【0046】
本発明では、蛍光色素分子の励起用光源として、複数の連続発振レーザーあるいはパルスレーザーを測定点に応じて選択して(レーザーの波長を選択して)用い、細胞内領域で複数の所望の点を励起し、その蛍光強度のゆらぎを測定して、複数の種類の蛍光分子の並進拡散運動を解析することができる。この方法では、細胞核内外、細胞質内外で複数の目的分子をターゲットとして捉えることができ、細胞内のシグナル伝達や物質輸送、細胞分裂といった動的な変化を3次元的にリアルタイムで観察、記録しながら、解析を行なうことができる。また、細胞核内外における転写制御反応や情報伝達システムが明らかにされ得るので、ゲノム創薬研究において有益な情報を提供することができる。これらは従来の蛍光相関分光測定法では実現できなかったことである。
【0047】
また、細胞内の所望の2種類の分子に対して、相互相関を測定したい場合、それぞれを異なる蛍光色素で標識し、蛍光信号を並列に同時に検出して、蛍光強度ゆらぎの時系列信号(分子の動的情報に由来する信号)の解析を行なう。これにより、両者の相関が明確になると共に、遊離している分子の数、結合している分子の数などの情報も得ることができる。また、蛋白質と蛍光物質とを遺伝的に融合させたGFP、YFP等を使用してもよい。
【0048】
同じ細胞内でも、核付近の深部と外界に近い細胞膜の近傍では、PH、イオン濃度勾配、酸素濃度の違いや蛋白質の分布の偏在など、さまざまな違いが予想される。特に核内では、転写因子などの蛋白質の流入や流出、転写複合体の形成や解離などが起こり、時々刻々ダイナミックに変化している。このような細胞内の離散的な複数箇所の変化を、本発明によりリアルタイムに画像化するだけでなく、その挙動をそれぞれ統計的に解析し、動きの変化を解明することができる。また、互いの相関性についての情報も得ることができる。
【0049】
以上のように本実施の形態によれば、共焦点走査型光学顕微鏡をベースにし、視野内の特定の部位が蛍光標識された生物学的試料にレーザー光を照射し、試料画像を観察、記録しながら、試料内の複数の特定部位からの蛍光の強度ゆらぎを相関解析し、該部位の統計的な性質や各部位間の相互作用などを求める。
【0050】
すなわち、試料中に離散的に存在する所望の蛍光分子を認識し、視野内の2次元あるいは3次元画像を観察、記録すると共に、試料画像上での位置を検知しながら、蛍光分子からの蛍光強度のゆらぎを同時あるいは別々に検出する。そして、各々の蛍光分子の強度ゆらぎ(系列信号)の自己相関関数を解析するとともに、所望の異なる蛍光分子間の相互相関解析を行ない、測定点間の時間的、空間的な関連性を解析することができる。
【0051】
このように、同一の細胞内の複数の部位について、これを同定して観察、記録しながら、それぞれの部位からの蛍光信号を個々に受光して相関解析を行ない、各部位の統計的な性質(拡散速度、粒子密度など)や異なる部位間の相関などを求める。これにより、従来解析できなかった、同一細胞内の3次元領域に分布する複数の所望の部位からのダイナミックな挙動や統計的性質の変化を求めることができる。
【0052】
本発明によれば、以下の生体分子解析装置を構成する。
【0053】
(1).生体分子の動的挙動を解析する生体分子解析装置であって、
測定可能な状態に保持された生体分子を含む生物学的試料の少なくとも一つの観察領域に対応する画像を取得する画像取得手段と、
この画像取得手段で取得した画像上の任意の点を指定する指定手段と、
この指定手段で指定された点に対応する試料上の位置に測定点を配置する配置手段と、
この配置手段で配置された測定点から被測定物質の動的情報に由来する信号を測定する測定手段と、
この測定手段で測定した結果を解析する解析手段と、
を具備したことを特徴とする生体分子解析装置。
【0054】
(2).前記画像取得手段で取得する画像は3次元領域を含む画像であり、
前記配置手段は、測定点を3次元上の任意の位置に配置することを特徴とする上記(1)に記載の生体分子解析装置。
【0055】
(3).前記測定手段は、同一の測定点から時間の異なる複数の信号を取得し、
前記解析手段は、前記測定点間の出力を比較し演算することを特徴とする上記(1)に記載の生体分子解析装置。
【0056】
(4).前記測定手段は、光学的信号の強度を測定することを特徴とする上記(1)に記載の生体分子解析装置。
【0057】
(5).前記解析手段は、蛍光強度のゆらぎを測定することを特徴とする上記(1)に記載の生体分子解析装置。
【0058】
(6).前記解析手段は、蛍光相関分光法で前記蛍光強度のゆらぎを測定することを特徴とする上記(5)に記載の生体分子解析装置。
【0059】
(7).前記画像取得手段は、レーザー走査型共焦点方式からなることを特徴とする上記(1)に記載の生体分子解析装置。
【0060】
(8).前記画像取得手段は、ガルバノスキャナーを用いて前記試料を走査することを特徴とする上記(5)に記載の生体分子解析装置。
【0061】
(9).前記測定手段は共焦点光学系からなることを特徴とする上記(1)に記載の生体分子解析装置。
【0062】
(10).前記画像取得手段は、試料上の測定点に応じて波長を選択可能であることを特徴とする上記(1)に記載の生体分子解析装置。
【0063】
(11).前記解析手段は、異なる前記被測定物質を自己相関と相互相関により相関解析することを特徴とする上記(1)に記載の生体分子解析装置。
【0064】
(12).前記相関解析に用いる走査光学系は、前記画像取得手段の走査光学系と同じであることを特徴とする上記(11)に記載の生体分子解析装置。
【0065】
(13).前記相関解析に用いる走査光学系は、前記画像取得手段の走査光学系と異なることを特徴とする上記(11)に記載の生体分子解析装置。
【0066】
(14).前記走査光学系を少なくとも二つ設け、そのうち少なくとも一つを画像取得に用い、その他を前記相関解析に用いることを特徴とする上記(11)に記載の生体分子解析装置。
【0067】
なお、本発明は上記実施の形態のみに限定されず、要旨を変更しない範囲で適宜変形して実施できる。例えば、上述した実施の形態では、蛍光相関分光法を用いた測定を例に説明したが、本発明はこれに限定されない。すなわち本発明は、測定対象としての試料の特定部位または特定領域に限定して種々の光学特性(偏光、散乱、電気化学発光、共鳴エネルギー転移、プラズモン共鳴等)を測定する任意の微小光学測定に適用可能である。また、試料について取得する2次元乃至3次元画像は、静止画像でもビデオ画像でもよい。また、試料の保持手段も、細胞その他の任意の材料について自然の姿をなるべく保つ程度の容量を保持できれば、いかなる形状のものでも構わない。
【0068】
【発明の効果】
本発明によれば、複数の焦点に対応した高精度な光軸方向への焦点制御を行なうことで、対象となる試料の多様な動きや変化を捉えることができる生体分子解析装置を提供できる。
【0069】
すなわち本発明によれば、細胞内の離散的に存在する複数の微小領域の目的分子を顕微鏡観察、記録しながら、生体分子の動的挙動、数などについての情報や、所望の異なる分子間の相関を得ることができる。これにより、細胞内のシグナル伝達や物質移送、細胞分裂などの多彩な生命活動をリアルタイムで捉え、解析することができる。
【0070】
また、本発明により測定点すなわち焦点が可変となり、この可変機構を生体細胞や分子の蛍光相関解析装置に適用することにより、簡易かつ安価な機構で、複数の焦点に対応した高精度な光軸方向への励起光の焦点位置制御を行なうことができる。また、観察光学系の焦点位置についても同様に、高精度な制御を行なえる。これにより、細胞内外の所望の微小な部位の3次元画像を記録、観察することができると共に、細胞内外に3次元的に分布する所望の分子の蛍光相関解析を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係る生体分子解析装置の基本構成を示す図。
【図2】本発明の実施の形態に係る生体分子解析装置の走査光学系の基本構成を示す図。
【図3】本発明の実施の形態に係る光軸方向の焦点移動のための第1のZ軸走査光学系の構成を示す図。
【図4】本発明の実施の形態に係る光軸方向の焦点移動のための第2のZ軸走査光学系の構成を示す図
【図5】本発明の実施の形態に係る生体分子解析装置の具体的な構成を示す図。
【図6】本発明の実施の形態に係る多数のレーザー光源と多数の光検出器を用いた走査光学系の構成を示す図。
【符号の説明】
1、1a〜1c…レーザー光源
2…第1レンズ
3…照明光用ピンホール
4…第2レンズ
5…対物レンズ
6…ガルバノスキャナー
61…X軸走査スキャナ
62…Y軸走査スキャナ
7…ダイクロイックミラー
8…受光用ピンホール
9…受光用レンズ
10、10a〜10d…光検出器
11…可動レンズ
20…コンピューター
21、22…XYスキャナー
23、24…XYスキャナー駆動装置
25…走査位置検出機構
26、27…ダイクロイックミラー
28…信号処理装置
29…画像処理装置
30…TVモニター
31,32…凸レンズ
41…凹レンズ
S…試料
【発明の属する技術分野】
本発明は、試料内の1箇所以上の特定部位の統計的な性質や各部位間の相互作用などを求める生体分子解析装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、試料内の特定部位を高い分解能で観察したり測定したりする装置として、共焦点光学系を用いた顕微鏡が利用されてきている。共焦点光学顕微鏡に関しては、例えば文献”Confocal Microscopy” T.Wilson(ed.) Academic press (London)に解説がある。また、主に生物試料を対象とした解説として、文献”Handbook of Biological confocal Microscopy” J.B.Pawley(ed.) Plenum Press (New York)などがある。蛍光相関分光法に関しては、例えば文献”Fluorescence correlation spectroscopy” R.Rigler, E.S.Elson (eds.) Springer (Berlin) などの解説がある。
【0003】
1990年代に入り、蛍光を用いた単一分子の検出・イメージングに関する研究が急増している。例えば単一分子の検出法として、文献P.M.Goodwin etc. ACC.Chem.Res. (1996), Vol.29, p607−613、また蛍光相関分光法(FCS)などが挙げられる。蛍光相関分光法では、共焦点顕微鏡の視野の中の所定の1個の焦点において蛍光標識したタンパク質や担体粒子の溶液中での微粒子のブラウン運動に基づく蛍光強度のゆらぎを解析して自己相関関数を求め、対象とする微粒子の数や大きさなどを推測する。この技術については、例えば、金城政孝「蛋白質核酸 酵素」(1999) Vol.44, No.9, p1431−1437に論じられている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
一方、この技術に関して、いくつか特許出願がなされている。特開2001−194303号公報の技術は、測定しようとする蛍光分子が離散的に分布している試料溶液に適用される蛍光相関分光法であり、シリンドリカル・レンズを用いて2次元的な走査を行なって、試料の撮像領域内全体に励起光が照射されるようにして試料全体を励起し、蛍光信号光検出器で2次元的に得た光強度値を総合して1個の全体的な揺らぎ情報を得ている。
【0005】
一方、回動方向が互いに直角をなすよう設定されている2個のガルバノミラー走査機構により、試料の2次元的な走査を実施する構成に加えて、Z軸方向(深さ方向)へ焦点位置の移動(走査)を行なうことにより、3次元的な走査をすることが考えられる。
【0006】
従来では、光学系のZ軸方向への焦点位置の移動を、試料ステージをモーターなどの駆動機構を用いてZ軸方向へ微小量移動させることにより、試料中の特定部位に対して測定点を位置決めしている。しかしこの方法では、複数の励起/観察点を3次元的に任意の位置に設定することが不可能である。1点の光軸方向の位置を決定すると、他の点の光軸方向の位置が決定されてしまうからである。また、モーターを試料ステージの近傍に固定しなければならず、ステージ周辺の装置が大掛かりになり、試料操作などの作業を妨害することになる。あるいは、対物レンズをモーターなどの駆動機構を用いてZ軸方向へ微小量移動させることにより、焦点位置を観察光軸の方向に沿って移動させることができる。しかしこの方法では、複数の観察光軸を用いる場合、複数の焦点が全て動いてしまう。
【0007】
また、特開平08−43739号公報、特開2000−98245号公報では、走査型光学顕微鏡において、多重染色された試料からの蛍光をそれぞれグレーティング、プリズムにより分光し、複数の光検出器により成分波長毎に検出を行なう。この方法では、一度に励起された試料の撮像領域内全体から蛍光色素毎の信号を取り出すことはできるが、試料の撮像領域内の選択された複数の微小な特定部位から発せられる蛍光信号をそれぞれ区別して取り出すことはできない。
【0008】
従来行なわれている蛍光相関分光法では、視野内に存在する蛍光分子からの蛍光強度のゆらぎを観測し、これに基づいて時系列信号を得て、自己相関関数を求める。この場合、視野内に存在する蛍光分子が1種類のみであれば、得られた蛍光強度のゆらぎをそのまま解析することにより、蛍光分子の並進拡散速度などの情報を得ることができる。また、これら蛍光分子が移動したり、運動速度を変えたりしても、これらの変化を統計的に捉えることができる。発光波長の異なる2種類以上の蛍光分子が試料内に存在する場合は、波長分離を行なうことにより、それぞれの蛍光分子の自己相関や相互相関を求めることができる。しかし、同一視野内に限定されてしまう。
【0009】
実際の生体細胞などを観測しようとする場合、細胞内外、細胞核内外での所望の分子の挙動をリアルタイムで観察することや、細胞内のシグナル伝達や物質輸送、細胞分裂などの事象について経時的な変化や局在情報を得ることが必要とされる。従来の蛍光相関分光法では、分子の集団としての状態変化や、挙動については捉えることができるが、細胞内外の所望の部位の状態変化などについて、ダイナミックに測定することが不可能であった。
【0010】
本発明の目的は、複数の焦点に対応した高精度な光軸方向への焦点制御を行なうことで、対象となる試料の多様な動きや変化を捉えることができる生体分子解析装置を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
課題を解決し目的を達成するために、本発明の生体分子解析装置は以下の如く構成されている。
【0012】
(1)本発明の生体分子解析装置は、生体分子の動的挙動を解析する生体分子解析装置であって、測定可能な状態に保持された生体分子を含む生物学的試料の少なくとも一つの観察領域に対応する3次元領域を含む画像を取得する画像取得手段と、この画像取得手段で取得した試料画像中の3次元上の任意の位置に、測定点を配置する配置手段と、この配置手段で配置された測定点から対物レンズを介して得られた被測定物質の動的情報に由来する信号を測定する測定手段と、この測定手段で測定した結果を解析する解析手段と、を具備し、前記配置手段は、前記対物レンズの光軸上に配置された所定のレンズを光軸方向へ移動することにより、前記光軸方向の任意の位置に測定点を配置する。
【0013】
(2)本発明の生体分子解析装置は上記(1)に記載の装置であり、かつ前記所定のレンズは一対のレンズからなり、該一対のレンズの間の距離が可変である。
【0014】
(3)本発明の生体分子解析装置は上記(1)に記載の装置であり、かつ前記所定のレンズは凹レンズからなる。
【0015】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の実施の形態に係る生体分子解析装置の基本構成を示す図である。本発明では、従来から用いられているレーザー走査型共焦点光学顕微鏡をベースにしている。レーザー走査型共焦点光学顕微鏡については、例えば特開平10−206742号公報に記述されている。本発明では、微小な測定領域をレーザー共焦点光学系により実現する。微小な共焦点領域の形成のために、NA(開口数)1.0程度の大きさの開口数の対物レンズを用いる。これにより得られる共焦点領域は、直径0.6μm程度、長さ2μm程度の大きさの略円筒状となる。
【0016】
この測定領域に存在する生物学的試料(細胞)S内の蛍光分子を、レーザー光源1からのレーザー光により対物レンズ5を介して励起し、蛍光信号(フォトンパルス)を得る。得られた蛍光信号、すなわち、蛍光の強度ゆらぎは、同じ光学系を通過してダイクロイックミラー7を透過し、光検出器10に到達する。これによりフォトンパルスが光電流パルスに変換され、信号処理装置に導かれて波形整形、2値化処理などが行なわれ、コンピューターにより自己相関関数、相互相関関数などが求められ、これから蛍光分子の並進拡散速度などが得られる。
【0017】
画像の取得には第1の走査系S1を用いる。X軸走査スキャナとY軸走査スキャナからなるサーボ方式のガルバノスキャナー(ガルバノミラー)を用いてレーザー光をXY走査し、ステージST上に測定可能な状態で保持された試料Sからの反射光および蛍光を光検出器10で受光し(光学的信号の強度の測定)、画像処理装置にてコントラスト向上、輪郭強調などの画像処理を行なった後、コンピューターに導き、TVモニター上に2次元画像を得る。
【0018】
試料S内の蛍光分子の自己相関関数の取得には第2の走査系S2を用いる。図1に示すようにガルバノスキャナー6を用いてレーザー光をXY走査し、蛍光分子からの蛍光の強度ゆらぎを光検出器10で受光し、相関解析装置に導き、蛍光相関分光法(FCS)で自己相関関数を得る。ここで得られた自己相関関数から蛍光分子の並進拡散運動の速度などの統計的な性質が求められる。なお、レーザー光をXY走査するために、ガルバノスキャナーに限らず、音響光学偏光素子(AOD)やポリゴン鏡などを用いても良い。
【0019】
図2は、図1に示した生体分子解析装置の走査光学系の基本構成を示す図である。図2において図1と同一な部分には同符号を付してある。以下、走査光学系の動作について図2を基に説明する。
【0020】
レーザー光源1から出射したレーザー光は第1レンズ2によりフォーカスされる。フォーカス位置には、照明光用ピンホール3が配置されている。また、第2レンズ4のフォーカス位置に照明光用ピンホール3の位置を合わせており、対物レンズ5までコリメート光(平行光)を導く。対物レンズ5の焦点位置に試料面を合わせている。
【0021】
レーザー光源1から照射されたレーザー光は、互いに走査方向が直交しているX軸走査スキャナ61とY軸走査スキャナ62により、それぞれX軸走査とY軸走査が行なわれ、レーザー光が試料面内で2次元走査される。試料S内の蛍光分子からの蛍光信号は、照射されたレーザー光と同じ光路を通って、第2レンズ4と照明光用ピンホール3の間に配置されたダイクロイックミラー7で反射される。この反射光は、第2レンズ4の焦点位置に配設された受光用ピンホール8を通過して、受光用レンズ9に導かれる。ダイクロイックミラー7は、照射されたレーザー光(励起光)を反射し、蛍光分子から発せられた蛍光を透過させるスペクトル特性を持っている。受光用レンズ9の焦点位置に受光用ピンホール8が位置している。蛍光は、受光用レンズ9を通って光検出器(受光器)10に到達する。光検出器10としては、画像取得用のCCDカメラなどの2次元光検出器を用いる。蛍光の強度ゆらぎの測定には、APD(アバランシェフォトダイオード)、あるいは光電子増倍管などを用いる。
【0022】
図3の(a),(b),(c)は、光軸方向(Z軸方向)の焦点移動のための第1のZ軸走査光学系の構成を示す図である。図3の(a),(b),(c)において図2と同一な部分には同符号を付してある。
【0023】
この第1のZ軸走査光学系では、励起光路と観察光路を兼ねた光路上の対物レンズ5の前側(光源側)に、凸レンズ31と凸レンズ32からなるレンズ対が配置されている。凸レンズ31は、図示しない圧電素子またはステッピングモータ等によるレンズ駆動機構により、対物レンズ5の光軸方向へ移動する。凸レンズ32は、不動の状態となるよう固定されている。そして、凸レンズ31と凸レンズ32の間の距離を可変することにより、凸レンズ31から対物レンズ5ヘの励起光の光束の拡がり角度が制御される。これにより、対物レンズ5を通過した照射レーザー光(励起光)の焦点位置を光軸方向に適量移動させることができる。
【0024】
例えば、図3の(a)に示す凸レンズ31と凸レンズ32の間の距離aに比べて、図3の(b)に示す凸レンズ31と凸レンズ32の間の距離bは長い。このため図3の(b)では、図3の(a)に比べて対物レンズ5から焦点位置までの距離が短くなる。また、図3の(a)に示す凸レンズ31と凸レンズ32の間の距離aに比べて、図3の(c)に示す凸レンズ31と凸レンズ32の間の距離cは短い。このため図3の(c)では、図3の(a)に比べて対物レンズ5から焦点位置までの距離が長くなる。
【0025】
このような光学系により、凸レンズ31を光軸方向へ移動させ凸レンズ31と凸レンズ32の間の距離を可変することにより、光軸(Z軸)方向の焦点移動を行なうことができる。これにより、3次元走査を行なうことが可能になると共に、試料内の任意の3次元的位置に対して、照射レーザー光のフォーカスを試料の深さ方向に合わせられ、深さ方向に分布した所望の蛍光分子を励起することができる。また、この光学系を共焦点光学系へ適用することにより、観察光学系の光軸方向の焦点の位置制御も可能である。
【0026】
なお、凸レンズ31と凸レンズ32の間の距離を可変できれば、凸レンズ31を不動とし凸レンズ32を可動としても、または凸レンズ31と凸レンズ32の双方を可動としても、上述したと同様に光軸方向の焦点移動を行なうことができる。
【0027】
図4の(a),(b)は、光軸方向(Z軸方向)の焦点移動のための第2のZ軸走査光学系の構成を示す図である。図4の(a),(b)において図2と同一な部分には同符号を付してある。
【0028】
この第2のZ軸走査光学系では、凹レンズ41と対物レンズ5(凸レンズ)との組み合わせにより、第1のZ軸走査光学系と同様に光軸方向の焦点移動を行なう。励起光路と観察光路を兼ねた光路上の対物レンズ5の前側(光源側)に、凹レンズ41が配置されている。凹レンズ41は、図示しない圧電素子またはステッピングモータ等によるレンズ駆動機構により、対物レンズ5の光軸方向へ移動する。
【0029】
図4の(a),(b)に示すような凹レンズと凸レンズとの組み合わせによる合成の焦点距離(f)は、一方のレンズの焦点距離をf1、他方のレンズの焦点距離をf2とし、双方のレンズの間の距離をtとすると、
1/f=1/f1+1/f2−t(f1×f2)
で与えられる。よって、凹レンズ41と対物レンズ5の間隔を調整することにより、凹レンズ41から対物レンズ5ヘの励起光の光束の拡がり角度が制御される。これにより、対物レンズ5を通過した照射レーザー光(励起光)の焦点位置を光軸方向に適量移動させることができる。
【0030】
例えば、図4の(a)に示す凹レンズ41と対物レンズ5の間の距離に比べて、図4の(b)に示す凹レンズ41と対物レンズ5の間の距離は短い。このため図4の(b)では、図4の(a)に比べて対物レンズ5から焦点位置までの距離が長くなる。
【0031】
このような光学系でも、凹レンズ41を光軸方向へ移動させることで、光軸(Z軸)方向の焦点移動を行なうことができる。
【0032】
本実施の形態では、特に生体物質からなる試料Sの測定を行ないながら測定位置を移動させるように3次元走査をするので、測定位置で所定時間だけ共焦点を一旦停止させるステップを含んでいる。すなわち、この走査は間欠移動を伴なうので、画像取得のために通常行なうような連続的移動と異なり、走査機構の位置決め速度が比較的遅くてもよい。よって、上述したようにレンズ対を相対的に移動し、レンズ間隔を精密に調整するのに適している。このようにレンズ対の間の距離を調整することにより、励起点と観察点の位置を光軸方向に制御することができる。
【0033】
図5は、本発明の実施の形態に係る生体分子解析装置の具体的な構成を示す図である。以下、生体分子解析装置の動作について図5を基に説明する。
【0034】
レーザー走査顕微鏡により試料の2次元、あるいは3次元画像をTVモニター上に得る。2次元画像を得るためのXYスキャナー21として、例えばガルバノスキャナーを用いてXY走査を行なう。これを、例えば第一走査系P1とする。もう一方のXYスキャナー22として第一走査系P1と同じガルバノスキャナーを用い、これを例えば第二走査系P2とする。
【0035】
2つのXYスキャナー21,22は、互いに直交する方向に走査されるように配置されており、コンピューター20によって制御されるXYスキャナー駆動装置23,24により、走査運動が精確に制御される。XYスキャナー駆動装置23,24には走査位置検出機構25が装備されており、走査位置がリアルタイムで精度良く検知され、コンピューター20にフィードバック制御される。すなわち、試料S内をランダムにスキャンして、試料S内の所望の位置に存在する蛍光分子からの蛍光信号を2つ同時に測定することができる。なお、コンピューター20がXYスキャナー駆動装置23,24を制御することにより、試料S内の同一の位置から時間の異なる複数の蛍光信号を取得することもできる。
【0036】
励起光としてのレーザーは、波長488nmのアルゴンレーザー、633nmのHe・Neレーザーを用いる。試料Sの細胞内の所望の箇所を標識する蛍光色素は、ローダミン・グリーン(RhG)、サイファイヴ(Cy5)を用いる。ローダミン・グリーン(RhG)は、レーザー光源1aからの波長488nmのアルゴンレーザーで励起する。サイファイヴ(Cy5)は、レーザー光源1bからの波長633nmのHe・Neレーザーで励起する。所望の箇所の蛍光色素分子からの蛍光は励起光と同じ光路を通り、それぞれの色素の発光波長に合わせて光学的に調整されたダイクロイックミラー26,27により、入射光路から分離されて光検出器10a,10bで受光される。
【0037】
光検出器10a,10bに入射した光強度信号は電気信号に変換され、信号処理装置28で波形整形され、on−offの2値化パルスに変換されて、コンピューター20に導かれる。コンピューター20に入力された2値化パルス信号は相関演算が行なわれ、自己相関関数が求められる。さらに得られた自己相関関数から、蛍光分子の並進拡散速度や測定領域中の蛍光分子の数の変化などが求められる。光検出器10a,10bに入射する光強度信号が比較的大きい場合は、光検出器10a,10bから出力される電気信号は時系列信号となる。この場合は信号処理装置28でA/D変換し、デジタル信号に変換した後、波形整形を行ない、先と同様に2値化パルス信号に変換する。この2値化パルス信号をコンピューター20に導くことによって相関演算が行なわれ、自己相関関数が求められる。あるいは、デジタル化された時系列信号をそのままコンピューター20に導いて相関演算を行なってもよい。
【0038】
顕微鏡画像については、例えば第1走査系P1のXY走査により、細胞内にレーザー光を照射し、反射光、蛍光を受光器で受光し、信号処理装置28で波形整形された後、画像処理装置29で2次元画像を生成し、TVモニター30上に出力させる。また、図3または図4に示したZ軸走査光学系により、レーザー光のフォーカス位置を光軸方向に沿って上下させることができる。これにより、3次元画像をTVモニター30上に生成させることができる。
【0039】
観察画像上でのスキャンニングポイントの指定は、以下のように行なう。観察者は、TVモニター30上の観察画像を見ながら所望のポイントの指定をコンピュータ20の指定手段(キーボード、マウスポインタ等)を用いて行なう。次に、コンピュータ20は、画面上に指定された1個以上の点でXYスキャナー21,22の走査ミラーのスキャンとZ軸走査光学系による焦点移動とを停止するように、走査ミラー駆動機構25と上記レンズ駆動機構とを調整する。また、Z軸上のポイントについても、XYスキャナ21,22と上述した第1または第2のZ軸走査光学系との連動によるZ軸方向の画像に基づく指定が行なわれ、これにより、試料Sの3次元上の任意の位置に測定点が配置される。このときの走査ミラーの角度は走査位置検出機構25によって精度よく求められる。
【0040】
図6は、多数のレーザー光源と多数の光検出器(受光器)を用いた走査光学系の構成を示す図である。以下、多数のレーザー光源と多数の光検出器を用いた測定について図6を基に説明する。
【0041】
波長488nmのアルゴンレーザー、波長514.5nmのアルゴンレーザー、波長632.8nmのヘリウムネオンレーザーを光源として用いる。蛍光色素としては、ローダミングリーン(RhG)、テトラメチルローダミン(TMR)、サイファイヴ(Cy5)を用いる。波長488nmのアルゴンレーザーによりローダミングリーン(RhG)を励起する。波長514.5nmのアルゴンレーザーによりテトラメチルローダミン(TMR)を励起する。波長632.8nmのヘリウムネオンレーザーによりサイファイヴ(Cy5)を励起する。各蛍光色素は細胞内の所望の目的分子、例えばDNAを構成する塩基やコレステロールを標識する。これにより細胞内に取り込まれたときのコレステロールの凝集などの構造変化に関する情報を得る。
【0042】
図6の構成は、1走査光学系、1観察光学系の場合と基本的に同様である。図6に示すように、三つのレーザー光源1a,1b,1cと四つの光検出器10a,10b,10c,10dを備えている。図6では、レーザー光源のひとつを走査光学系、観察光学系として共有している。これはさらにレーザー光源を1個増やして4本として、そのうち1本を観察光学系として試料画像の取得に用い、他の3本を蛍光励起用に用いても良い。またレーザー光源はこれに限ることなく、5本以上としても良い。
【0043】
2個のXYスキャナー21,22を用いて、それぞれ互いに直交する方向に走査を行なう。本実施の形態ではXYスキャナー2個を各レーザー光源1a,1b,1cで共有して、同じ方向にレーザー光を走査する構成になっているが、これに限ることなく、XYスキャナーを4個、あるいは6個用いて、それぞれのレーザー光について、別々な方向に走査しても良い。
【0044】
また、走査位置検出機構によりXYスキャナーの角度を検知し、その位置でXYスキャナーを固定して、試料の目的分子の位置にレーザー光を照射し、目的分子からの蛍光信号を検出する。蛍光分子から発せられる蛍光信号をそれぞれ別々の光検出器10a,10b,10c,10dで受光する。得られた時系列パルス信号を信号処理装置で波形整形、2値化処理を行なって、コンピューターに導き、相関演算を行なって、それぞれ自己相関関数を求める。
【0045】
本実施の形態により、同一細胞内の異なる蛋白質などの目的分子の挙動を同時にリアルタイムで捉えることができる。また、異なる目的分子の相互相関についても情報を得ることができる。
【0046】
本発明では、蛍光色素分子の励起用光源として、複数の連続発振レーザーあるいはパルスレーザーを測定点に応じて選択して(レーザーの波長を選択して)用い、細胞内領域で複数の所望の点を励起し、その蛍光強度のゆらぎを測定して、複数の種類の蛍光分子の並進拡散運動を解析することができる。この方法では、細胞核内外、細胞質内外で複数の目的分子をターゲットとして捉えることができ、細胞内のシグナル伝達や物質輸送、細胞分裂といった動的な変化を3次元的にリアルタイムで観察、記録しながら、解析を行なうことができる。また、細胞核内外における転写制御反応や情報伝達システムが明らかにされ得るので、ゲノム創薬研究において有益な情報を提供することができる。これらは従来の蛍光相関分光測定法では実現できなかったことである。
【0047】
また、細胞内の所望の2種類の分子に対して、相互相関を測定したい場合、それぞれを異なる蛍光色素で標識し、蛍光信号を並列に同時に検出して、蛍光強度ゆらぎの時系列信号(分子の動的情報に由来する信号)の解析を行なう。これにより、両者の相関が明確になると共に、遊離している分子の数、結合している分子の数などの情報も得ることができる。また、蛋白質と蛍光物質とを遺伝的に融合させたGFP、YFP等を使用してもよい。
【0048】
同じ細胞内でも、核付近の深部と外界に近い細胞膜の近傍では、PH、イオン濃度勾配、酸素濃度の違いや蛋白質の分布の偏在など、さまざまな違いが予想される。特に核内では、転写因子などの蛋白質の流入や流出、転写複合体の形成や解離などが起こり、時々刻々ダイナミックに変化している。このような細胞内の離散的な複数箇所の変化を、本発明によりリアルタイムに画像化するだけでなく、その挙動をそれぞれ統計的に解析し、動きの変化を解明することができる。また、互いの相関性についての情報も得ることができる。
【0049】
以上のように本実施の形態によれば、共焦点走査型光学顕微鏡をベースにし、視野内の特定の部位が蛍光標識された生物学的試料にレーザー光を照射し、試料画像を観察、記録しながら、試料内の複数の特定部位からの蛍光の強度ゆらぎを相関解析し、該部位の統計的な性質や各部位間の相互作用などを求める。
【0050】
すなわち、試料中に離散的に存在する所望の蛍光分子を認識し、視野内の2次元あるいは3次元画像を観察、記録すると共に、試料画像上での位置を検知しながら、蛍光分子からの蛍光強度のゆらぎを同時あるいは別々に検出する。そして、各々の蛍光分子の強度ゆらぎ(系列信号)の自己相関関数を解析するとともに、所望の異なる蛍光分子間の相互相関解析を行ない、測定点間の時間的、空間的な関連性を解析することができる。
【0051】
このように、同一の細胞内の複数の部位について、これを同定して観察、記録しながら、それぞれの部位からの蛍光信号を個々に受光して相関解析を行ない、各部位の統計的な性質(拡散速度、粒子密度など)や異なる部位間の相関などを求める。これにより、従来解析できなかった、同一細胞内の3次元領域に分布する複数の所望の部位からのダイナミックな挙動や統計的性質の変化を求めることができる。
【0052】
本発明によれば、以下の生体分子解析装置を構成する。
【0053】
(1).生体分子の動的挙動を解析する生体分子解析装置であって、
測定可能な状態に保持された生体分子を含む生物学的試料の少なくとも一つの観察領域に対応する画像を取得する画像取得手段と、
この画像取得手段で取得した画像上の任意の点を指定する指定手段と、
この指定手段で指定された点に対応する試料上の位置に測定点を配置する配置手段と、
この配置手段で配置された測定点から被測定物質の動的情報に由来する信号を測定する測定手段と、
この測定手段で測定した結果を解析する解析手段と、
を具備したことを特徴とする生体分子解析装置。
【0054】
(2).前記画像取得手段で取得する画像は3次元領域を含む画像であり、
前記配置手段は、測定点を3次元上の任意の位置に配置することを特徴とする上記(1)に記載の生体分子解析装置。
【0055】
(3).前記測定手段は、同一の測定点から時間の異なる複数の信号を取得し、
前記解析手段は、前記測定点間の出力を比較し演算することを特徴とする上記(1)に記載の生体分子解析装置。
【0056】
(4).前記測定手段は、光学的信号の強度を測定することを特徴とする上記(1)に記載の生体分子解析装置。
【0057】
(5).前記解析手段は、蛍光強度のゆらぎを測定することを特徴とする上記(1)に記載の生体分子解析装置。
【0058】
(6).前記解析手段は、蛍光相関分光法で前記蛍光強度のゆらぎを測定することを特徴とする上記(5)に記載の生体分子解析装置。
【0059】
(7).前記画像取得手段は、レーザー走査型共焦点方式からなることを特徴とする上記(1)に記載の生体分子解析装置。
【0060】
(8).前記画像取得手段は、ガルバノスキャナーを用いて前記試料を走査することを特徴とする上記(5)に記載の生体分子解析装置。
【0061】
(9).前記測定手段は共焦点光学系からなることを特徴とする上記(1)に記載の生体分子解析装置。
【0062】
(10).前記画像取得手段は、試料上の測定点に応じて波長を選択可能であることを特徴とする上記(1)に記載の生体分子解析装置。
【0063】
(11).前記解析手段は、異なる前記被測定物質を自己相関と相互相関により相関解析することを特徴とする上記(1)に記載の生体分子解析装置。
【0064】
(12).前記相関解析に用いる走査光学系は、前記画像取得手段の走査光学系と同じであることを特徴とする上記(11)に記載の生体分子解析装置。
【0065】
(13).前記相関解析に用いる走査光学系は、前記画像取得手段の走査光学系と異なることを特徴とする上記(11)に記載の生体分子解析装置。
【0066】
(14).前記走査光学系を少なくとも二つ設け、そのうち少なくとも一つを画像取得に用い、その他を前記相関解析に用いることを特徴とする上記(11)に記載の生体分子解析装置。
【0067】
なお、本発明は上記実施の形態のみに限定されず、要旨を変更しない範囲で適宜変形して実施できる。例えば、上述した実施の形態では、蛍光相関分光法を用いた測定を例に説明したが、本発明はこれに限定されない。すなわち本発明は、測定対象としての試料の特定部位または特定領域に限定して種々の光学特性(偏光、散乱、電気化学発光、共鳴エネルギー転移、プラズモン共鳴等)を測定する任意の微小光学測定に適用可能である。また、試料について取得する2次元乃至3次元画像は、静止画像でもビデオ画像でもよい。また、試料の保持手段も、細胞その他の任意の材料について自然の姿をなるべく保つ程度の容量を保持できれば、いかなる形状のものでも構わない。
【0068】
【発明の効果】
本発明によれば、複数の焦点に対応した高精度な光軸方向への焦点制御を行なうことで、対象となる試料の多様な動きや変化を捉えることができる生体分子解析装置を提供できる。
【0069】
すなわち本発明によれば、細胞内の離散的に存在する複数の微小領域の目的分子を顕微鏡観察、記録しながら、生体分子の動的挙動、数などについての情報や、所望の異なる分子間の相関を得ることができる。これにより、細胞内のシグナル伝達や物質移送、細胞分裂などの多彩な生命活動をリアルタイムで捉え、解析することができる。
【0070】
また、本発明により測定点すなわち焦点が可変となり、この可変機構を生体細胞や分子の蛍光相関解析装置に適用することにより、簡易かつ安価な機構で、複数の焦点に対応した高精度な光軸方向への励起光の焦点位置制御を行なうことができる。また、観察光学系の焦点位置についても同様に、高精度な制御を行なえる。これにより、細胞内外の所望の微小な部位の3次元画像を記録、観察することができると共に、細胞内外に3次元的に分布する所望の分子の蛍光相関解析を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係る生体分子解析装置の基本構成を示す図。
【図2】本発明の実施の形態に係る生体分子解析装置の走査光学系の基本構成を示す図。
【図3】本発明の実施の形態に係る光軸方向の焦点移動のための第1のZ軸走査光学系の構成を示す図。
【図4】本発明の実施の形態に係る光軸方向の焦点移動のための第2のZ軸走査光学系の構成を示す図
【図5】本発明の実施の形態に係る生体分子解析装置の具体的な構成を示す図。
【図6】本発明の実施の形態に係る多数のレーザー光源と多数の光検出器を用いた走査光学系の構成を示す図。
【符号の説明】
1、1a〜1c…レーザー光源
2…第1レンズ
3…照明光用ピンホール
4…第2レンズ
5…対物レンズ
6…ガルバノスキャナー
61…X軸走査スキャナ
62…Y軸走査スキャナ
7…ダイクロイックミラー
8…受光用ピンホール
9…受光用レンズ
10、10a〜10d…光検出器
11…可動レンズ
20…コンピューター
21、22…XYスキャナー
23、24…XYスキャナー駆動装置
25…走査位置検出機構
26、27…ダイクロイックミラー
28…信号処理装置
29…画像処理装置
30…TVモニター
31,32…凸レンズ
41…凹レンズ
S…試料
Claims (3)
- 生体分子の動的挙動を解析する生体分子解析装置であって、
測定可能な状態に保持された生体分子を含む生物学的試料の少なくとも一つの観察領域に対応する3次元領域を含む画像を取得する画像取得手段と、
この画像取得手段で取得した試料画像中の3次元上の任意の位置に、測定点を配置する配置手段と、
この配置手段で配置された測定点から対物レンズを介して得られた被測定物質の動的情報に由来する信号を測定する測定手段と、
この測定手段で測定した結果を解析する解析手段と、を具備し、
前記配置手段は、前記対物レンズの光軸上に配置された所定のレンズを光軸方向へ移動することにより、前記光軸方向の任意の位置に測定点を配置することを特徴とする生体分子解析装置。 - 前記所定のレンズは一対のレンズからなり、該一対のレンズの間の距離が可変である請求項1に記載の生体分子解析装置。
- 前記所定のレンズは凹レンズからなる請求項1に記載の生体分子解析装置。
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