JP2017101957A - 神経伝達物質イメージング方法 - Google Patents
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Abstract
Description
また、神経関連の病態の多くは、神経伝達物質の異常(欠乏、過剰など)が原因であることから、これらのプロセスの解明は診断または治療に直結する。これまでの神経科学の研究の歴史の中で、電気的プロセスに関しては多くの研究がなされてきたが、一方で、化学的プロセスに関しては、それほど多くの研究がなされてきたとは言い難い。その理由として、化学的プロセスを空間的かつリアルタイムに計測する技術が確立されていないことが挙げられる。
しかしながら、これまでにシナプス間隙のような神経細胞外空間に放出された神経伝達物質それ自体を空間的、経時的にイメージングする手法は報告されていない。
本発明者らは、このような神経伝達物質に特異的に反応して蛍光を変化させる化合物を用いることで、直接、神経細胞外に放出された神経伝達物質自体を経時的かつ空間的に検出することに成功し、本発明の完成に至った。
〔1〕神経細胞から神経細胞外空間に放出された神経伝達物質のイメージング方法であって、
測定対象とする神経細胞外空間に神経伝達物質検出用蛍光試薬を投与する工程であって、前記神経細胞外空間に放出された神経伝達物質と前記神経伝達物質検出用蛍光試薬とを反応させる工程と、
前記神経伝達物質検出用蛍光試薬の蛍光を測定する工程であって、前記神経伝達物質と反応した蛍光試薬が励起する励起光を前記測定対象の神経細胞外空間に照射し、これにより生じた蛍光を測定する工程とを含み、
ここで、前記蛍光を測定する工程が、神経細胞外空間に放出される神経伝達物質を経時的、かつ、空間的にイメージングするものである、方法に関する。
ここで、本発明の方法は、一実施の形態において、
〔2〕上記〔1〕の方法において、前記神経伝達物質検出用蛍光試薬の蛍光を測定している間、神経細胞に対して刺激を加えて神経伝達物質の放出を促進または抑制する工程と、
前記刺激の前後に測定される蛍光の強度を比較する工程と
をさらに含む、ことを特徴とする。
また、本発明の方法は、一実施の形態において、
〔3〕上記〔1〕または〔2〕の方法であって、
前記神経細胞が哺乳類の神経細胞である、ことを特徴とする。
また、本発明の方法は、一実施の形態において、
〔4〕上記〔1〕〜〔3〕のいずれかの方法であって、
生体の脳に対して行われる、ことを特徴とする。
また、本発明の方法は、一実施の形態において、
〔5〕上記〔4〕の方法であって、
前記神経伝達物質検出用蛍光試薬を投与する工程が、前記神経伝達物質検出用蛍光試薬を生体の脳表面に直接添加することにより行われ、前記蛍光を測定する工程が、前記神経伝達物質検出用蛍光試薬が脳表面に直接接触している状態で行われる、ことを特徴とする。
また、本発明の方法は、一実施の形態において、
〔6〕上記〔4〕または〔5〕の方法であって、
前記脳に対して刺激電極を挿入する工程をさらに含み、前記刺激電極により電気刺激を加えることにより惹起された神経伝達物質の放出を検出する、ことを特徴とする。
また、本発明の方法は、一実施の形態において、
〔7〕上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の方法であって、
前記神経伝達物質が、ドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリン、オキシトシン、パスプレシン、グルタミン酸、γ−アミノ酪酸、ヒスタミンからなる群より選択される、ことを特徴とする。
また、本発明の方法は、一実施の形態において、
〔8〕上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の方法であって、
前記神経伝達物質がドーパミンであり、前記神経伝達物質検出用蛍光試薬がイミノ二酢酸基またはイミノ二酢酸誘導体基および水酸基を有する構造と、鉄錯体形成の有無により蛍光強度に変化を生じる構造とを有する化合物またはその鉄錯体を含むものである、ことを特徴とする。
また、本発明の別の態様によれば、
〔1〕’神経細胞から神経細胞外空間に放出された神経伝達物質のイメージング方法であって、
神経伝達物質検出用蛍光試薬が投与された神経細胞外空間に、前記神経伝達物質と反応した神経伝達物質検出用蛍光試薬が励起する励起光を照射し、これにより生じた蛍光を測定する工程を含み、
ここで、前記蛍光を測定する工程が、神経細胞より神経細胞外空間に放出される神経伝達物質を経時的、かつ、空間的にイメージングするものである、方法に関する。
このように、本発明の方法は、特定の神経伝達物質の検出を可能とするものであり、少なくともこの点において、様々な神経伝達物質の伝達の結果、発火している神経細胞を検出する電位感受性色素を用いた方法とは明確に区別される。さらに、本発明の方法は、マイクロダイアリシス法と比較して検出時の時間分解能および空間解像度が優れており、かつ、ボルタメトリー法と比較して検出時の神経伝達物質の選択性と空間解像度が優れている。
なお、本発明のイメージング方法は、一実施の形態において、神経細胞から神経細胞外空間に放出された神経伝達物質の測定および/または検出方法である。
本発明の方法による神経伝達物質の検出は、麻酔下にある動物の脳の神経細胞に対して行うこともできるし、脳もしくは他の臓器、もしくは、その一部(組織、細胞)を生体より取り出したもの、または、それらを培養したものに含まれる神経細胞に対して行うこともできる。また、幹細胞等から培養により分化した神経細胞や幹細胞等の培養により形成した組織(例えば、脳(様)組織)に含まれる神経細胞に対して行うこともできる。
本発明の対象となる神経細胞の由来となる生物は、ヒト、マウス、ラット、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、サル、イヌ、ネコ、フェレット等の哺乳類、もしくは、鳥類、爬虫類、両生類、魚類等の脊椎動物を挙げることができ、特に制限されない。また、神経細胞の由来となる生物は、上述のように、無脊椎動物等を含む真正後正動物であってもよい。
なお、好ましい一形態として、イミノ二酢酸基またはイミノ二酢酸誘導体基と水酸基とは、ベンゼン環の側鎖として、互いにオルト位に結合している構造を挙げることができる。このような形態においては、当該ベンゼン環に対して、さらに、鉄錯体形成の有無により蛍光強度に変化を生じる構造が連結する。このようなドーパミンを特異的に検出可能な蛍光化合物としては、以下に限定されないが、例えば、カルセインブルー鉄錯体、(E)-2,2'-(5-(2-(4-(dicyanomethylene)-6-methyl-4H-pyran-2-yl)vinyl)-2-hydroxybenzyl azanediyl)diacetic acidの鉄錯体、および、(E)-4-(3-((bis(carboxymethyl)amino)methyl)-4-hydroxystyryl)-1-undecylpyridinium bromideの鉄錯体等を挙げることができる。また、これらの具体的な化合物において、蛍光を生じる構造部分が、上記に列挙した他の蛍光を生じる環芳香族化合物や複素環化合物の構造と置換されたものも使用することができる。
(E)-2,2'-(5-(2-(4-(dicyanomethylene)-6-methyl-4H-pyran-2-yl)vinyl)-2-hydroxybenzyl azanediyl)diacetic acidの鉄錯体は、25℃の条件下、450nmに極大励起波長、560nm近傍に極大蛍光波長を持つ蛍光スペクトルを有する。また、(E)-4-(3-((bis(carboxymethyl)amino)methyl)-4-hydroxystyryl)-1-undecylpyridinium bromideの鉄錯体は、444nmに極大励起波長、560nmにおいて極大蛍光波長を有する。
また、これらの化合物は、種々のアミン類やカテコールアミン類(例えば、Dopamine, Cadaverine, Cysteine, GABA, Glutamic acid, Glutathione, Glycine, Histamine, Histidine, Putrescine, Serotonin, Ascorbic acid, L-DOPA, DOPAC, Adrenaline, HVA, 3-MT, Noradrenaline, Phenylalamine, p-Tyramine, m-Tyramine, Tyrosine)の存在下では蛍光に変化を生じず、ドーパミン特異的に蛍光の変化を生じるものである。
イミノ二酢酸ジエチル1.9g (10.0mmol)、パラホルムアルデヒド1.3g、イソプロピルアルコール30mL、水50mLを混合し、窒素気流下80°Cで45分間加熱して反応溶液を得る。4-ヒドロキシベンズアルデヒド1.0g (8.2mmol)をイソプロピルアルコール20mLに溶解し、これを上記反応溶液に加え、24時間還流する。イソプロピルアルコールを減圧留去後、フラスコを氷浴につける。オレンジ色のオイル状化合物を分取後、クロロホルムに溶解し水で洗浄する。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去しカラムクロマトグラフィー(SiO2, クロロホルム : メタノール = 200:3v/v)で精製し、中間体化合物1(Diethyl 2,2'-(5-formyl-2-hydroxybenzylazanediyl)diacetateを得る。
次いで、0.3g(1.6mmol)の中間体化合物1、Piperidine 0.2g(1.7mmol)、EtOH 40mLを混合後、窒素気流下、還流する。得られた溶媒を減圧留去後、残渣をCHCl3に溶解し水で洗浄する。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、カラムクロマトグラフィー(SiO2, n-ヘキサン:酢酸エチル=1.5 : 1 v/v)で精製後、さらにカラムクロマトグラフィー(SiO2, クロロホルム)で精製し、中間体化合物2((E)-diethyl2,2'-(5-(2-(4-(dicyanomethylene)-6-methyl-4H-pyran-2-yl)vinyl)-2-hydroxybenzyl azanediyl)diacetate)を得る。
0.2g (0.3mmol)の中間体化合物2、1N KOH水溶液5.0mL、エタノール25mLを混合し、室温で12時間撹拌する。エタノールを減圧留去後、1N HClを加えpH7に調製する。酢酸エチルで抽出後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去することで(E)-2,2'-(5-(2-(4-(dicyanomethylene)-6-methyl-4H-pyran-2-yl)vinyl)-2-hydroxybenzyl azanediyl)diacetic acidを得ることができる。
4-methyl pyridine 1.0g (10.74mmol)、1-bromoundecane 2.8g (11.8mmol)、トルエン50mLを混合し、N2気流下、24時間還流する。溶媒を減圧留去後、残渣にヘキサンを加え、析出したオイル状化合物を分取する。さらにヘキサンで洗浄後、減圧乾燥することで中間体化合物3(4-methyl-1-undecylpyridinium bromide)を得る。
次いで、0.30g (0.96mmol)の中間体化合物3、0.31g (0.96mmol)の中間体化合物1、piperidine 0.10g (1.05mmol)、エタノール50mLを混合し、N2気流下、12時間還流した。溶媒を減圧留去後、残渣をクロロホルムに溶解し、水で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、カラムクロマトグラフィー(Al2O3, クロロホルム:メタノール=10:1v/v)で精製し中間体化合物4((E)-4-(3-((bis(2-ethoxy-2-oxoethyl)amino)methyl)-4-hydroxystyryl)-1-undecylpyridinium bromide)を得る。
0.11g(0.17mmol)の中間体化合物4、1N NaOH 2.0mL、エタノール10mLを加え、室温で12時間撹拌する。溶媒を減圧留去後、残渣に水を加えpH7.0にする。析出した褐色物質を分取後、クロロホルムで洗浄する。さらにトルエンで共沸後、減圧乾燥し、(E)-4-(3-((bis(carboxymethyl)amino)methyl)-4-hydroxystyryl)-1-undecylpyridinium bromideを得ることができる。
また、当業者であれば、上記の合成例に基づき、鉄錯体形成の有無により蛍光強度に変化を生じる構造を、上記に列挙する他の蛍光を生じる多環芳香族化合物や複素環化合物の構造に置換した化合物も製造することができる。
また、(E)-2,2'-(5-(2-(4-(dicyanomethylene)-6-methyl-4H-pyran-2-yl)vinyl)-2-hydroxybenzyl azanediyl)diacetic acid、および、(E)-4-(3-((bis(carboxymethyl)amino)methyl)-4-hydroxystyryl)-1-undecylpyridinium bromideは、例えば、当該化合物のいずれかとFeCl2とをそれぞれ5μMとなるように20.0mM HEPES(pH7.2)に溶解することで鉄錯体を調製することができる。
ここで、試薬の投与方法は、例えば、生体の脳を試料とする場合、露出させた脳表面や脳組織等に直接神経伝達物質検出用蛍光試薬を浸せばよい。より具体的に麻酔下にある動物の脳に対して蛍光試薬を投与する場合には、例えば、神経伝達物質の計測を行いたい部位の頭蓋骨および硬膜を取り除き、脳表面を露出させる。そして、露出した脳表面の周囲を囲むようにデンタルセメント等でチャンバを作製し、当該チャンバの中に蛍光試薬を添加することで行うことができる。なお、蛍光が検出できる限りにおいて、蛍光試薬は脳表面に浸した状態で、すなわち蛍光試薬を除去する工程を経ずに蛍光を観察することができる。
なお、試薬の投与方法は、上記に限られず、神経伝達物質検出用試薬が測定したい神経細胞外空間へ到達し、当該神経細胞外空間に放出された神経伝達物質と蛍光試薬とが反応できる方法であればよい。例えば、脳などの試料に対して神経伝達物質検出用試薬を注入しても良い。なお、ヒト個体を対象とする場合には、好ましい形態として、神経伝達物質検出用試薬の投与方法は組織等に物理的な損傷が生じない方法により行われる。
蛍光の測定は、公知の方法および装置を用いることができ、好適にはオプティカルレコーディングに使用される装置を用いることができる。また、蛍光の測定は、神経伝達物質と反応して蛍光を変化する化合物ごとに適当な励起光を選択・照射し、生じた蛍光の変化を検出することで、蛍光の変化を経時的かつ空間的に画像化することができる。励起光の波長も、当業者であれば、使用する蛍光化合物により適宜設定することができる。
なお、測定する蛍光の変化は、神経伝達物質の検出または測定をできる限り制限されず、蛍光強度の増加の他、蛍光強度の減少等も含む。
また、本発明の方法によれば、神経細胞の細胞外である空間に放出された神経伝達物質と直接反応することにより変化した蛍光を検出するものである。すなわち、従来の電位感受性色素を用いた膜電位の変化から神経伝達物質の放出を推測する方法とは異なり、特定の神経伝達物質の放出を直接、定量的に測定可能とするものである。
神経細胞に対する刺激としては、以下の態様に限定されないが、例えば、刺激電極による電気刺激や、視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚・前庭覚のような感覚器への刺激を挙げることができる。刺激電極による電気刺激を加える例としては、例えば、測定したい部位の神経細胞へ活動電位が伝わる神経細胞が存在する脳に刺激電極を挿入し、刺激電極により電気刺激を加えることで、測定したい部位の神経細胞の神経伝達物質の放出を促進させることができる。
このように、刺激の前後で蛍光の強度を比較することにより、当該刺激による神経細胞の神経伝達物質の放出への影響を確認することができる。
本実施例では、腹側被蓋野(ventral tegmental area; VTA)の電気刺激による前頭前皮質(Prefrontal cortex; PFC)における電気的活動を計測するために、以下のようにして、電気刺激のターゲットとする腹側被蓋野の電気刺激位置を同定した。
腹側被蓋野のドーパミンニューロンは、前頭前皮質に投射していることが、解剖学的に知られている(非特許文献1)。また、腹側被蓋野の電気刺激により、前頭前皮質にドーパミンが放出されることは、ボルタメトリー法を用いた研究によってもこれまでに明らかにされている(非特許文献2)。よって、これらの先行研究を基に、腹側被蓋野を電気刺激し前頭前皮質におけるドーパミン量の計測を行うことで、好ましい腹側被蓋野の電気刺激部位を同定した。
実験動物としてWistar系ラットを用いた。イソフルラン(3%)をラットに導入し、次いで、ケタミン(80 mg/kg)とキシラジン(10mg/kg)を腹腔内に投与することによって麻酔した。麻酔下にあるラットは、36℃に設定したサーモプレートを使用して体温の低下を防ぐと共に、麻酔の状態を把握し、追加の必要がある場合は、状態に合わせケタミンとキシラジンを追加した。後ろ脚をピンセットでつまみ、回避行動が出現しないことを確認し、脳定位固定装置(Narishige社製ステレオフレーム)にラットを固定して、開頭手術を行った。頭皮を切開後、頭蓋骨を露出させ、電動ドリルによって頭蓋骨を除去した。頭蓋骨の除去は、神経伝達物質の光計測を行う前頭葉領域(以下、光計測領域と呼ぶ)と電気刺激を加える腹側被蓋野の直上の部位の2箇所について行った。光計測領域では、約5×4.5mm(ブレグマから吻側方向に0〜5mm、正中から外側に0.5〜4.5mm)の範囲を開頭した。また、電気刺激部位である腹側被蓋野は脳深部にあるためその直上の頭蓋骨を、約4×4mm (ブレグマから尾側方向へ5.8〜6.2mm)の範囲で開頭した。なお、光計測領域については、脳表面の硬膜を顕微鏡下で慎重に除去し、開頭領域の周囲にデンタルセメントによるチャンバを作成した。硬膜除去後は、脳表の乾燥を防ぐために、チャンバ内に生理食塩水を満たした。光計測時には光計測時のノイズを低減する目的で、チャンバ上にスライドガラスを置き、脳表の動きを低減させた。
ここで、刺激電極の刺入位置および深度を変えつつ上記の要領で電気刺激を行い、短潜時(約20ms)の神経応答を確認することによって、腹側被蓋野を同定した。このとき、ボール電極における局所フィールド電位が最も大きく観察された挿入深度を特定し、刺激位置とした(なお、実験後、組織学的な手法により、刺激部位が腹側被蓋野であることを再確認した)。すなわち、当該刺激位置に挿入された刺激電極により腹側被蓋野の神経細胞を刺激することにより、前頭前皮質に存在する神経細胞のドーパミンの放出を促すことができる。なお、図2に電気刺激(電流サイズ150μA、持続時間300μs)によって誘発された局所フィールド電位(図2A)と、実験後にマーキングした電極位置(図2B)の例を示す。
本実施例では、上記実施例1で特定した腹側被蓋野の電気刺激位置に刺激電極が刺入された、麻酔下にあるラットを用いた。なお、試験に用いられたラットは、前頭前皮質近傍にデンタルセメントによりチャンバが形成されている。当該チャンバ内の生理食塩水を、カルセインブルー鉄錯体(50μM)含有蛍光試薬(カルセインブルー鉄錯体を50μMで含有する生理食塩水)に置換し、遮光した状態で約30分浸した後、ラットを蛍光顕微鏡の下へ配置した。
腹側被蓋野に電気刺激を加えると同時に、CMOSイメージセンサーを搭載した高速・高感度カメラシステム(MiCam02, Brain Vision社製)を用いて、前頭葉の信号変化を計測した。なお、神経細胞より神経細胞外空間に放出されたドーパミンは、カルセインブルー鉄錯体と反応することにより蛍光を発する化合物が生じるため、信号の増加がドーパミンの放出と相関すると考えられる。
励起光の照射には、365nmのLED光源(Mic-LED-365、Prizmatix社製)を用いた。また、励起光側のフィルターとして、365nmの波長を中心透過帯とするバンドパスフィルター(Semrock製、Hg01-365-25)を用いた。ダイクロイックミラーとしては、405nm以下を反射さるものダイクロ一イックミラーを用いた(Semrock社製、Di02-R405)。また、蛍光光側のフィルターとして、450nmの波長を中心透過帯とするバンドパスフィルター(Edmund optics社製、#84-794)を用いた。カルセインブルー鉄錯体による、脳組織からの蛍光は、ロングパスフィルターを通し、CMOS撮像素子にて蛍光量変化を検出した。
なお、1トライアル期間中に取得したデータの解析において、蛍光変化のベースラインがドリフトする現象を排除するために、各ピクセル・各時刻の信号強度は計測開始時の各ピクセルにおける信号強度で規格化し(ΔF/F)、近傍49ピクセルの4試行の平均を計算した。
その結果、図2に示すように、前頭前皮質の3点において、電気刺激より約200ミリ秒後に信号の増加を検出した。この結果は、腹側被蓋野の電気刺激によって惹起されたドーパミンニューロンの活動増加により、前頭前皮質に存在する神経細胞から神経細胞外空間に放出されたドーパミンの増加をモニタリングできたことを示す。
Claims (8)
- 神経細胞から神経細胞外空間に放出された神経伝達物質のイメージング方法であって、
測定対象とする神経細胞外空間に神経伝達物質検出用蛍光試薬を投与する工程であって、前記神経細胞外空間に放出された神経伝達物質と前記神経伝達物質検出用蛍光試薬とを反応させる工程と、
前記神経伝達物質検出用蛍光試薬の蛍光を測定する工程であって、前記神経伝達物質と反応した蛍光試薬が励起する励起光を前記測定対象の神経細胞外空間に照射し、これにより生じた蛍光を測定する工程とを含み、
ここで、前記蛍光を測定する工程が、神経細胞外空間に放出される神経伝達物質を経時的、かつ、空間的にイメージングするものである、方法。 - 請求項1に記載の方法であって、
前記神経伝達物質検出用蛍光試薬の蛍光を測定している間、神経細胞に対して刺激を加えて神経伝達物質の放出を促進または抑制する工程と、
前記刺激の前後に測定される蛍光の強度を比較する工程と
をさらに含む方法。 - 請求項1または2に記載の方法であって、前記神経細胞が哺乳類の神経細胞である方法。
- 請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法であって、生体の脳に対して行われる方法。
- 請求項4に記載の方法であって、
前記神経伝達物質検出用蛍光試薬を投与する工程が、前記神経伝達物質検出用蛍光試薬を生体の脳表面に直接添加することにより行われ、前記蛍光を測定する工程が、前記神経伝達物質検出用蛍光試薬が脳表面に直接接触している状態で行われる、方法。 - 請求項4または5に記載の方法であって、
前記脳に対して刺激電極を挿入する工程をさらに含み、前記刺激電極により電気刺激を加えることにより惹起された神経伝達物質の放出を検出する、方法。 - 請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法であって、
前記神経伝達物質が、ドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリン、オキシトシン、パスプレシン、グルタミン酸、γ−アミノ酪酸、ヒスタミンからなる群より選択される、方法。 - 請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法であって、
前記神経伝達物質がドーパミンであり、前記神経伝達物質検出用蛍光試薬がイミノ二酢酸基またはイミノ二酢酸誘導体基および水酸基を有する構造と、鉄錯体形成の有無により蛍光強度に変化を生じる構造とを有する化合物またはその鉄錯体を含むものである、方法。
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