JP2017101957A - 神経伝達物質イメージング方法 - Google Patents

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慎也 山本
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和明 長坂
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Ichiro Takashima
一郎 高島
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Abstract

【課題】 本発明は、生体における脳の神経伝達物質の放出を、経時的かつ空間的にイメージング可能な方法の提供を課題とする。【解決手段】 神経細胞から神経細胞外空間に放出された神経伝達物質のイメージング方法であって、測定対象とする神経細胞外空間に神経伝達物質検出用蛍光試薬を投与する工程であって、前記神経細胞外空間に放出された神経伝達物質と前記神経伝達物質検出用蛍光試薬とを反応させる工程と、前記神経伝達物質検出用蛍光試薬の蛍光を測定する工程であって、前記神経伝達物質と反応した蛍光試薬が励起する励起光を前記測定対象の神経細胞外空間に照射し、これにより生じた蛍光を測定する工程とを含み、ここで、前記蛍光を測定する工程が、神経細胞外空間に放出される神経伝達物質を経時的、かつ、空間的にイメージングするものである、方法。【選択図】なし

Description

本発明は、神経伝達物質イメージング方法に関する。
脳は無数の神経細胞が互いの信号を伝達しあうことによって、複雑な情報処理を実現している。各々の神経細胞が電気的に発火すると、軸索を伝わり次の神経細胞に向けて、電気的に信号を伝達する。そして、電気的に伝えられた信号は、シナプスを介して次の神経細胞に化学的に信号を伝達することになる。このように、脳の情報処理は、電気的プロセスと化学的プロセスの繰り返しによって実現している。脳の情報処理を神経回路レベルで解明するためには、空間情報とともにリアルタイムにこれらの2種類の信号伝達を計測することが望まれる。
また、神経関連の病態の多くは、神経伝達物質の異常(欠乏、過剰など)が原因であることから、これらのプロセスの解明は診断または治療に直結する。これまでの神経科学の研究の歴史の中で、電気的プロセスに関しては多くの研究がなされてきたが、一方で、化学的プロセスに関しては、それほど多くの研究がなされてきたとは言い難い。その理由として、化学的プロセスを空間的かつリアルタイムに計測する技術が確立されていないことが挙げられる。
近年、バイオイメージング装置の分野の研究は精力的に推し進められており、国際的な競争が進んでいる。例えば、i)細胞内電位、ii)pH、iii)血流、iv)カルシウム濃度などをイメージングする方法が報告されている。同様に、神経伝達物質の動態を計測・画像化することができれば、様々な神経関連疾患の原因の解明や診断・手術サポートに貢献し、また、脳神経科学における基盤的な解明につながるブレークスルーを期待することができる。
しかしながら、これまでにシナプス間隙のような神経細胞外空間に放出された神経伝達物質それ自体を空間的、経時的にイメージングする手法は報告されていない。
生体の脳における神経伝達物質を計測するという意味においては、マイクロダイアリシス法やボルタメトリー法という手法が知られている。マイクロダイアリシス法は、計測のためのプローブを脳内へ挿入して浸透圧を用いて物質を回収する方法であるが、この技術はプローブを挿入している1地点のみにおける神経伝達物質を計測する技術であり、すなわち、複数地点における神経伝達物質の挙動や空間情報を確認することはできない。また、マイクロダイアリシス法は時間方向の解像度が悪く、定量性も高くない。また、ボルタメトリー法は、酸化還元電位を用いた方法により、神経伝達物質を計測する手法である。例えば、腹側被蓋野(ventral tegmental area; VTA)のドーパミンニューロンは前頭前皮質(Prefrontal cortex; PFC)に投射していることが解剖学的に知られているが(非特許文献1)、非特許文献2は、ボルタメトリー法を用いることで前頭前皮質にドーパミンが放出されることを明らかにしている。しかしながら、ボルタメトリー法も、計測のための電極を挿入している1地点のみにおける神経伝達物質を計測する技術であり、すなわち、複数地点における神経伝達物質の挙動や空間情報を確認することはできない。また、酸化還元電位が近い物質に関しては、物質の同定性が悪いという問題点を有していた(例えばドーパミンとセロトニンとの酸化還元電位は近いためそれぞれの物質の同定が困難であった)。
その他、神経細胞の膜電位の変化をイメージングする手法として、電位感受性色素(voltage- sensitive dye;VSD)を用いたオプティカルレコーディング法が知られている。電位感受性色素は、神経細胞の細胞膜に結合し、神経細胞の膜電位の変化に反応して蛍光強度を変化させる色素であり、当該色素を用いることで神経細胞の活動を観察する技術である。しかしながら、電位感受性色素を用いた方法は、様々な神経伝達物質の入力による結果としての神経細胞の発火を反映したもので、細胞集団の活動をポピュレーションで観察したものである。そのため、その発火を惹起させる原因となった神経伝達物質を特定することが困難であった。また、そもそも電位感受性色素は神経細胞の電位の変化を測定するものであり、神経細胞外の空間に放出される神経伝達物質を検出するものではなかった。
Frankle WG, Laruelle M, Haber SN: Prefrontal cortical projections to the midbrain in primates: evidence for a sparse connection. Neuropsychopharmacology 31: 1627-1636, 2006. Garris PA, Collins LB, Jones SR, Wightman RM: Evoked extracellular dopamine in vivo in the medial prefrontal cortex. J Neurochem 61: 637-647, 1993. Seto D, Maki T, Soh N, Nakano K, Ishimatsu R, Imato T: A simple and selective fluorometric assay for dopamine using a calcein blue−Fe2+ complex. Talanta 94: 36-43, 2012 Watanabe Y, Kajiwara R, Takashima I: Optical imaging of rat prefrontal neuronal activity evoked by stimulation of the ventral tegmental area. Neuroreport 20: 875-880, 2009. Mercuri N, Calabresi P, Stanzione P, Bernardi G: Electrical stimulation of mesencephalic cell groups (A9-A10) produces monosynaptic excitatory potentials in rat frontal cortex. Brain Res 338: 192-195, 1985.
上記課題を鑑み、本発明は、神経細胞外空間に放出された特定の神経伝達物質の放出を、経時的かつ空間的にイメージングする方法の提供を課題とする。
上記課題を解決するため、本発明者は、鋭意検討の結果、神経伝達物質特異的に反応し蛍光を発することのできる蛍光物質を利用して、神経細胞外空間に放出された神経伝達物質をイメージングする手法を着想するに至った。神経伝達物質特異的な蛍光物質としては、例えば、ドーパミン特異的蛍光物質としてカルセインブルー鉄錯体が知られている(非特許文献3)。非特許文献3は、カルセインブルー鉄錯体がin vitroにおいてドーパミンと特異的に反応し、反応後の化合物が紫外線により励起され蛍光を発することを報告している。このような蛍光物質がin vivoの試料においても、in vitroと同様に神経伝達物質と反応し、かつ、反応後の蛍光物質の蛍光を測定することが可能となれば、神経伝達物質自体を経時的かつ空間的にイメージングすることが可能となる。しかしながら、このような蛍光物質が、生体内の神経細胞間まで浸透するのか、また、生体内に浸透した蛍光物質が神経細胞外空間において神経伝達物質と反応し、in vitroの条件と同様に検出可能な蛍光を生じるのか、さらに、検出された蛍光が生体内の神経細胞による神経伝達物質の放出活動を正しく反映しているのか否かについては不明であり、これらの蛍光物質を利用したイメージング方法について報告がなかった。
本発明者らは、このような神経伝達物質に特異的に反応して蛍光を変化させる化合物を用いることで、直接、神経細胞外に放出された神経伝達物質自体を経時的かつ空間的に検出することに成功し、本発明の完成に至った。
すなわち、本発明は、
〔1〕神経細胞から神経細胞外空間に放出された神経伝達物質のイメージング方法であって、
測定対象とする神経細胞外空間に神経伝達物質検出用蛍光試薬を投与する工程であって、前記神経細胞外空間に放出された神経伝達物質と前記神経伝達物質検出用蛍光試薬とを反応させる工程と、
前記神経伝達物質検出用蛍光試薬の蛍光を測定する工程であって、前記神経伝達物質と反応した蛍光試薬が励起する励起光を前記測定対象の神経細胞外空間に照射し、これにより生じた蛍光を測定する工程とを含み、
ここで、前記蛍光を測定する工程が、神経細胞外空間に放出される神経伝達物質を経時的、かつ、空間的にイメージングするものである、方法に関する。
ここで、本発明の方法は、一実施の形態において、
〔2〕上記〔1〕の方法において、前記神経伝達物質検出用蛍光試薬の蛍光を測定している間、神経細胞に対して刺激を加えて神経伝達物質の放出を促進または抑制する工程と、
前記刺激の前後に測定される蛍光の強度を比較する工程と
をさらに含む、ことを特徴とする。
また、本発明の方法は、一実施の形態において、
〔3〕上記〔1〕または〔2〕の方法であって、
前記神経細胞が哺乳類の神経細胞である、ことを特徴とする。
また、本発明の方法は、一実施の形態において、
〔4〕上記〔1〕〜〔3〕のいずれかの方法であって、
生体の脳に対して行われる、ことを特徴とする。
また、本発明の方法は、一実施の形態において、
〔5〕上記〔4〕の方法であって、
前記神経伝達物質検出用蛍光試薬を投与する工程が、前記神経伝達物質検出用蛍光試薬を生体の脳表面に直接添加することにより行われ、前記蛍光を測定する工程が、前記神経伝達物質検出用蛍光試薬が脳表面に直接接触している状態で行われる、ことを特徴とする。
また、本発明の方法は、一実施の形態において、
〔6〕上記〔4〕または〔5〕の方法であって、
前記脳に対して刺激電極を挿入する工程をさらに含み、前記刺激電極により電気刺激を加えることにより惹起された神経伝達物質の放出を検出する、ことを特徴とする。
また、本発明の方法は、一実施の形態において、
〔7〕上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の方法であって、
前記神経伝達物質が、ドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリン、オキシトシン、パスプレシン、グルタミン酸、γ−アミノ酪酸、ヒスタミンからなる群より選択される、ことを特徴とする。
また、本発明の方法は、一実施の形態において、
〔8〕上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の方法であって、
前記神経伝達物質がドーパミンであり、前記神経伝達物質検出用蛍光試薬がイミノ二酢酸基またはイミノ二酢酸誘導体基および水酸基を有する構造と、鉄錯体形成の有無により蛍光強度に変化を生じる構造とを有する化合物またはその鉄錯体を含むものである、ことを特徴とする。
また、本発明の別の態様によれば、
〔1〕’神経細胞から神経細胞外空間に放出された神経伝達物質のイメージング方法であって、
神経伝達物質検出用蛍光試薬が投与された神経細胞外空間に、前記神経伝達物質と反応した神経伝達物質検出用蛍光試薬が励起する励起光を照射し、これにより生じた蛍光を測定する工程を含み、
ここで、前記蛍光を測定する工程が、神経細胞より神経細胞外空間に放出される神経伝達物質を経時的、かつ、空間的にイメージングするものである、方法に関する。
本発明の方法によれば、神経細胞外空間に放出された特定の神経伝達物質を、経時的かつ空間的にイメージングすることができる。
このように、本発明の方法は、特定の神経伝達物質の検出を可能とするものであり、少なくともこの点において、様々な神経伝達物質の伝達の結果、発火している神経細胞を検出する電位感受性色素を用いた方法とは明確に区別される。さらに、本発明の方法は、マイクロダイアリシス法と比較して検出時の時間分解能および空間解像度が優れており、かつ、ボルタメトリー法と比較して検出時の神経伝達物質の選択性と空間解像度が優れている。
図1Aは、下記実施例1において、腹側被蓋野への電気刺激により誘発された前頭前皮質における局所フィールド電位の例を示す(アンプ倍率:200倍)。図1A中、0ミリ秒は、電気刺激のタイミングを示す。図1Bは、腹側被蓋野を同定したラットの脳の冠状面スライスの組織染色結果を示す。 図2は、下記実施例2に記載の神経伝達物質検出用蛍光試薬を用いたオプティカルレコーディング法であって、腹側被蓋野への電気刺激を加えた際の前頭前皮質における蛍光を観察した画像(図2(a))および計測した結果のグラフ(図2(b)〜(d))を示す。0ミリ秒を電気刺激のタイミングとした。
本発明の方法は、神経細胞から神経細胞外空間に放出された神経伝達物質のイメージング方法に関するものであり、当該方法は、(a)測定対象とする神経細胞外空間に神経伝達物質検出用蛍光試薬を投与する工程であって、前記神経細胞外空間に放出された神経伝達物質と前記神経伝達物質検出用蛍光試薬とを反応させる工程と、(b)前記神経伝達物質検出用蛍光試薬の蛍光を測定する工程であって、前記神経伝達物質と反応した蛍光試薬が励起する励起光を前記測定対象の神経細胞外空間に照射し、これにより生じた蛍光を測定する工程とを含み、蛍光を測定する工程が、神経細胞外空間に放出される神経伝達物質を経時的、かつ、空間的にイメージングするものである。
なお、本発明のイメージング方法は、一実施の形態において、神経細胞から神経細胞外空間に放出された神経伝達物質の測定および/または検出方法である。
ここで、本明細書において、「神経細胞」は、神経伝達物質を放出する神経細胞に加えて、化学伝達物質を放出する細胞も含む。ここで、化学伝達物質を放出する細胞とは、本発明の方法に使用される神経伝達物質検出用蛍光試薬により検出可能な化学伝達物質を放出する細胞を意味し、例えば、中脳ドーパミン細胞、視床下部オキシトシン細胞、副腎皮質細胞等を含む。また、本発明の対象となる神経細胞は、脳、副腎、心臓、四肢等、脊椎動物一個体のうちのいずれの部位に存在する神経細胞も含まれる。また、脊椎動物に限らず、神経系を有する真正後生動物(例えば、線虫など)であれば、当該生物由来の神経細胞も本発明の方法の適用対象とすることができる。
本発明の方法による神経伝達物質の検出は、麻酔下にある動物の脳の神経細胞に対して行うこともできるし、脳もしくは他の臓器、もしくは、その一部(組織、細胞)を生体より取り出したもの、または、それらを培養したものに含まれる神経細胞に対して行うこともできる。また、幹細胞等から培養により分化した神経細胞や幹細胞等の培養により形成した組織(例えば、脳(様)組織)に含まれる神経細胞に対して行うこともできる。
本発明の対象となる神経細胞の由来となる生物は、ヒト、マウス、ラット、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、サル、イヌ、ネコ、フェレット等の哺乳類、もしくは、鳥類、爬虫類、両生類、魚類等の脊椎動物を挙げることができ、特に制限されない。また、神経細胞の由来となる生物は、上述のように、無脊椎動物等を含む真正後正動物であってもよい。
本明細書において、神経伝達物質とは、神経細胞よりシナプス間隙を含む神経細胞外の空間に放出され、神経細胞外空間において細胞間の情報伝達を介在する物質である。ここで、神経細胞外の空間とは、神経細胞から神経伝達物質が放出される空間のことを意味し、このような空間としてはシナプス間隙に限定されない。例えば、神経細胞は、軸索部位においても神経伝達物質を放出することが知られており、本発明の方法は軸索部位より放出される神経伝達物質も検出可能なものである。本明細書において、神経伝達物質の具体例としては、以下に限定されないが、例えば、ドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリン、アドレナリン、ヒスタミン、バソプレシン、グルタミン酸、γ−アミノ酪酸(gamma-aminobutyric acid: GABA)、グリシン、オキシトシン、アセチルコリンなどを挙げることができる。
本発明に使用される神経伝達物質検出用蛍光試薬とは、神経細胞より神経細胞外空間に放出された神経伝達物質と反応することで蛍光の有無や蛍光強度に変化が生じ、神経伝達物質を検出することを可能とする試薬である。このような試薬はそれぞれの神経伝達物質と特異的に反応して蛍光に変化を生じる蛍光化合物を含む。当該蛍光化合物としては、検出したい神経伝達物質ごとに適宜選択することができる。例えば、神経伝達物質としてドーパミンを検出したい際には、イミノ二酢酸基またはイミノ二酢酸誘導体基および水酸基を構造の一部に有する蛍光化合物であって、当該構造と鉄イオン(II)とが錯体を形成可能である蛍光化合物またはその鉄錯体を蛍光物質として使用することができる。ここで、イミノ二酢酸またはその誘導体および水酸基は、鉄イオンの存在下で鉄錯体を形成する。一方で、ドーパミンの存在下では特異的に鉄イオンの脱離が生じ、鉄錯体の形成は阻害される。このような、イミノ二酢酸またはその誘導体と水酸基との構造における鉄錯体の形成の変化により、当該構造と連結している蛍光を生じる構造からの蛍光に変化が生じ、ドーパミンを特異的に検出することができる。すなわち、当該蛍光化合物は、イミノ二酢酸基またはイミノ二酢酸誘導体基および水酸基を有する構造と、当該構造における鉄錯体形成の有無により蛍光強度に変化を生じる構造とを有する。ここで、イミノ二酢酸誘導体基とは、例えば、−N(C24CO2H)2、−N(C36CO2H)2等を挙げることができる。また、鉄錯体形成の有無により蛍光強度に変化を生じる構造とは、例えば、ナフタレン、アントラセン、ピレン、ビフェニル、クマリン、ベンゾチアゾ−ル、フルオレセイン、ローダミン、ビピリジン、キノリン、フェナントロリン、シアノピラニル、ピリジンなどの多環芳香族化合物、複素環化合物の構造を挙げることができる。また、イミノ二酢酸基またはイミノ二酢酸誘導体基および水酸基を有する構造と、鉄錯体形成の有無により蛍光強度に変化を生じる構造とはリンカー(−C22−等)により連結していてもよい。
なお、好ましい一形態として、イミノ二酢酸基またはイミノ二酢酸誘導体基と水酸基とは、ベンゼン環の側鎖として、互いにオルト位に結合している構造を挙げることができる。このような形態においては、当該ベンゼン環に対して、さらに、鉄錯体形成の有無により蛍光強度に変化を生じる構造が連結する。このようなドーパミンを特異的に検出可能な蛍光化合物としては、以下に限定されないが、例えば、カルセインブルー鉄錯体、(E)-2,2'-(5-(2-(4-(dicyanomethylene)-6-methyl-4H-pyran-2-yl)vinyl)-2-hydroxybenzyl azanediyl)diacetic acidの鉄錯体、および、(E)-4-(3-((bis(carboxymethyl)amino)methyl)-4-hydroxystyryl)-1-undecylpyridinium bromideの鉄錯体等を挙げることができる。また、これらの具体的な化合物において、蛍光を生じる構造部分が、上記に列挙した他の蛍光を生じる環芳香族化合物や複素環化合物の構造と置換されたものも使用することができる。
なお、(E)-2,2'-(5-(2-(4-(dicyanomethylene)-6-methyl-4H-pyran-2-yl)vinyl)-2-hydroxybenzyl azanediyl)diacetic acidの鉄錯体、および、(E)-4-(3-((bis(carboxymethyl)amino)methyl)-4-hydroxystyryl)-1-undecylpyridinium bromideの鉄錯体は、カルセインブルー鉄錯体と同様に、ドーパミン特異的に複合体を形成し、蛍光の変化を生じる。
(E)-2,2'-(5-(2-(4-(dicyanomethylene)-6-methyl-4H-pyran-2-yl)vinyl)-2-hydroxybenzyl azanediyl)diacetic acidの鉄錯体は、25℃の条件下、450nmに極大励起波長、560nm近傍に極大蛍光波長を持つ蛍光スペクトルを有する。また、(E)-4-(3-((bis(carboxymethyl)amino)methyl)-4-hydroxystyryl)-1-undecylpyridinium bromideの鉄錯体は、444nmに極大励起波長、560nmにおいて極大蛍光波長を有する。
また、これらの化合物は、種々のアミン類やカテコールアミン類(例えば、Dopamine, Cadaverine, Cysteine, GABA, Glutamic acid, Glutathione, Glycine, Histamine, Histidine, Putrescine, Serotonin, Ascorbic acid, L-DOPA, DOPAC, Adrenaline, HVA, 3-MT, Noradrenaline, Phenylalamine, p-Tyramine, m-Tyramine, Tyrosine)の存在下では蛍光に変化を生じず、ドーパミン特異的に蛍光の変化を生じるものである。
なお、(E)-2,2'-(5-(2-(4-(dicyanomethylene)-6-methyl-4H-pyran-2-yl)vinyl)-2-hydroxybenzyl azanediyl)diacetic acidの合成は、例えば、以下のようにして行うことができる。
イミノ二酢酸ジエチル1.9g (10.0mmol)、パラホルムアルデヒド1.3g、イソプロピルアルコール30mL、水50mLを混合し、窒素気流下80°Cで45分間加熱して反応溶液を得る。4-ヒドロキシベンズアルデヒド1.0g (8.2mmol)をイソプロピルアルコール20mLに溶解し、これを上記反応溶液に加え、24時間還流する。イソプロピルアルコールを減圧留去後、フラスコを氷浴につける。オレンジ色のオイル状化合物を分取後、クロロホルムに溶解し水で洗浄する。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去しカラムクロマトグラフィー(SiO2, クロロホルム : メタノール = 200:3v/v)で精製し、中間体化合物1(Diethyl 2,2'-(5-formyl-2-hydroxybenzylazanediyl)diacetateを得る。
次いで、0.3g(1.6mmol)の中間体化合物1、Piperidine 0.2g(1.7mmol)、EtOH 40mLを混合後、窒素気流下、還流する。得られた溶媒を減圧留去後、残渣をCHCl3に溶解し水で洗浄する。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、カラムクロマトグラフィー(SiO2, n-ヘキサン:酢酸エチル=1.5 : 1 v/v)で精製後、さらにカラムクロマトグラフィー(SiO2, クロロホルム)で精製し、中間体化合物2((E)-diethyl2,2'-(5-(2-(4-(dicyanomethylene)-6-methyl-4H-pyran-2-yl)vinyl)-2-hydroxybenzyl azanediyl)diacetate)を得る。
0.2g (0.3mmol)の中間体化合物2、1N KOH水溶液5.0mL、エタノール25mLを混合し、室温で12時間撹拌する。エタノールを減圧留去後、1N HClを加えpH7に調製する。酢酸エチルで抽出後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧留去することで(E)-2,2'-(5-(2-(4-(dicyanomethylene)-6-methyl-4H-pyran-2-yl)vinyl)-2-hydroxybenzyl azanediyl)diacetic acidを得ることができる。
また、(E)-4-(3-((bis(carboxymethyl)amino)methyl)-4-hydroxystyryl)-1-undecylpyridinium bromideの合成は、例えば、以下のようにして行うことができる。
4-methyl pyridine 1.0g (10.74mmol)、1-bromoundecane 2.8g (11.8mmol)、トルエン50mLを混合し、N2気流下、24時間還流する。溶媒を減圧留去後、残渣にヘキサンを加え、析出したオイル状化合物を分取する。さらにヘキサンで洗浄後、減圧乾燥することで中間体化合物3(4-methyl-1-undecylpyridinium bromide)を得る。
次いで、0.30g (0.96mmol)の中間体化合物3、0.31g (0.96mmol)の中間体化合物1、piperidine 0.10g (1.05mmol)、エタノール50mLを混合し、N2気流下、12時間還流した。溶媒を減圧留去後、残渣をクロロホルムに溶解し、水で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、カラムクロマトグラフィー(Al2O3, クロロホルム:メタノール=10:1v/v)で精製し中間体化合物4((E)-4-(3-((bis(2-ethoxy-2-oxoethyl)amino)methyl)-4-hydroxystyryl)-1-undecylpyridinium bromide)を得る。
0.11g(0.17mmol)の中間体化合物4、1N NaOH 2.0mL、エタノール10mLを加え、室温で12時間撹拌する。溶媒を減圧留去後、残渣に水を加えpH7.0にする。析出した褐色物質を分取後、クロロホルムで洗浄する。さらにトルエンで共沸後、減圧乾燥し、(E)-4-(3-((bis(carboxymethyl)amino)methyl)-4-hydroxystyryl)-1-undecylpyridinium bromideを得ることができる。
また、当業者であれば、上記の合成例に基づき、鉄錯体形成の有無により蛍光強度に変化を生じる構造を、上記に列挙する他の蛍光を生じる多環芳香族化合物や複素環化合物の構造に置換した化合物も製造することができる。
また、(E)-2,2'-(5-(2-(4-(dicyanomethylene)-6-methyl-4H-pyran-2-yl)vinyl)-2-hydroxybenzyl azanediyl)diacetic acid、および、(E)-4-(3-((bis(carboxymethyl)amino)methyl)-4-hydroxystyryl)-1-undecylpyridinium bromideは、例えば、当該化合物のいずれかとFeCl2とをそれぞれ5μMとなるように20.0mM HEPES(pH7.2)に溶解することで鉄錯体を調製することができる。
このような化合物を神経伝達物質検出用蛍光試薬に含有させる際には、使用する化合物や投与方法等により、適宜濃度を設定することができる。例えば、ドーパミン検出用の蛍光化合物としてカルセインブルー鉄錯体を使用する場合には、カセインブルー鉄錯体を生理食塩水に添加することで、ドーパミン検出用蛍光試薬を調製することができる。なお、カセインブルー鉄錯体の添加の濃度は、10〜500μMの範囲とすることができ、好ましくは10〜100μMの範囲である。神経伝達物質検出用蛍光試薬に使用する溶媒も生理食塩水に限定されず、投与方法や対象等により適宜好ましい溶媒を用いることができる。また、神経伝達物質検出用蛍光試薬は、神経伝達物質と蛍光化合物との反応による蛍光の変化を阻害しない限りにおいて、投与方法等により上記化合物加えて適宜好ましい成分をさらに含んでも良い。
上記のように、本発明は、(a)測定対象とする神経細胞外空間に神経伝達物質検出用蛍光試薬を投与する工程であって、前記神経細胞外空間に放出された神経伝達物質と前記神経伝達物質検出用蛍光試薬とを反応させる工程を含む。
ここで、試薬の投与方法は、例えば、生体の脳を試料とする場合、露出させた脳表面や脳組織等に直接神経伝達物質検出用蛍光試薬を浸せばよい。より具体的に麻酔下にある動物の脳に対して蛍光試薬を投与する場合には、例えば、神経伝達物質の計測を行いたい部位の頭蓋骨および硬膜を取り除き、脳表面を露出させる。そして、露出した脳表面の周囲を囲むようにデンタルセメント等でチャンバを作製し、当該チャンバの中に蛍光試薬を添加することで行うことができる。なお、蛍光が検出できる限りにおいて、蛍光試薬は脳表面に浸した状態で、すなわち蛍光試薬を除去する工程を経ずに蛍光を観察することができる。
なお、試薬の投与方法は、上記に限られず、神経伝達物質検出用試薬が測定したい神経細胞外空間へ到達し、当該神経細胞外空間に放出された神経伝達物質と蛍光試薬とが反応できる方法であればよい。例えば、脳などの試料に対して神経伝達物質検出用試薬を注入しても良い。なお、ヒト個体を対象とする場合には、好ましい形態として、神経伝達物質検出用試薬の投与方法は組織等に物理的な損傷が生じない方法により行われる。
神経伝達物質検出用試薬の投与に際し、温度、時間等の条件は、投与方法や使用する化合物等により適宜設定することができる。なお、例えば、ラットの生体の脳においてドーパミンを検出するために、ドーパミン検出用試薬としてカルセインブルー鉄錯体を含む生理食塩水を用いる際は、試薬を脳表面に添加後、室温で遮光下した状態で30分程度、静置すればよい。
また、本発明は、(b)前記神経伝達物質検出用蛍光試薬の蛍光を測定する工程であって、前記神経伝達物質と反応した蛍光試薬が励起する励起光を前記測定対象の神経細胞外空間に照射し、これにより生じた蛍光を測定する工程を含む。
蛍光の測定は、公知の方法および装置を用いることができ、好適にはオプティカルレコーディングに使用される装置を用いることができる。また、蛍光の測定は、神経伝達物質と反応して蛍光を変化する化合物ごとに適当な励起光を選択・照射し、生じた蛍光の変化を検出することで、蛍光の変化を経時的かつ空間的に画像化することができる。励起光の波長も、当業者であれば、使用する蛍光化合物により適宜設定することができる。
なお、測定する蛍光の変化は、神経伝達物質の検出または測定をできる限り制限されず、蛍光強度の増加の他、蛍光強度の減少等も含む。
なお、蛍光を測定する工程は、好ましい形態において、神経伝達物質検出用蛍光試薬を試料に添加した状態で、すなわち、投与した神経伝達物質検出用蛍光試薬を除去する工程を有さずに蛍光を測定する。例えば、従来の電位感受性色素法を用いたオプティカルレコーディング法では、露出させた脳表面を色素で染色した後、蛍光を測定する前に、染色液を洗い流す工程を必要としていた。しかしながら、本発明の一実施の形態においては、神経伝達物質検出用蛍光試薬を被検対象に添加した状態で蛍光を測定することができる。具体的な実施形態の例としては、生体において頭蓋骨および硬膜を除去して脳表面を露出させ、また、脳表面を囲むようにデンタルセメント等でチャンバを形成する。そしてチャンバ内に神経伝達物質検出用蛍光試薬を満たした状態で蛍光を計測する。このように、神経伝達物質検出用蛍光試薬を被検対象に添加した状態で蛍光を測定することで、実験手順を簡素化することができ、また、細胞環境への外乱を最小限とすることができ、好ましい。
また、本発明の方法によれば、神経細胞の細胞外である空間に放出された神経伝達物質と直接反応することにより変化した蛍光を検出するものである。すなわち、従来の電位感受性色素を用いた膜電位の変化から神経伝達物質の放出を推測する方法とは異なり、特定の神経伝達物質の放出を直接、定量的に測定可能とするものである。
また、本発明の方法は、神経伝達物質検出用蛍光試薬の蛍光を測定している間、神経細胞に対して刺激を加えて神経伝達物質の放出を促進または抑制する工程をさらに含むことができる。
神経細胞に対する刺激としては、以下の態様に限定されないが、例えば、刺激電極による電気刺激や、視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚・前庭覚のような感覚器への刺激を挙げることができる。刺激電極による電気刺激を加える例としては、例えば、測定したい部位の神経細胞へ活動電位が伝わる神経細胞が存在する脳に刺激電極を挿入し、刺激電極により電気刺激を加えることで、測定したい部位の神経細胞の神経伝達物質の放出を促進させることができる。
また、本発明の方法は、上記神経細胞に対して刺激を加えて神経伝達物質の放出を促進または抑制する工程とともに、当該刺激の前後に測定される蛍光の強度を比較する工程をさらに含むことができる。
このように、刺激の前後で蛍光の強度を比較することにより、当該刺激による神経細胞の神経伝達物質の放出への影響を確認することができる。
なお、本明細書において、工程を特定するために(a)または(b)のような表現を使用するが、当該記載は便宜的に工程を特定するために使用したに過ぎず、各工程の順序は、神経伝達物質を検出可能な限りにおいて制限されない。すなわち、(b)の工程の後に(a)の工程を行う態様も本発明に含まれる。
(実施例1.電気刺激のターゲットとなる腹側被蓋野の特定)
本実施例では、腹側被蓋野(ventral tegmental area; VTA)の電気刺激による前頭前皮質(Prefrontal cortex; PFC)における電気的活動を計測するために、以下のようにして、電気刺激のターゲットとする腹側被蓋野の電気刺激位置を同定した。
腹側被蓋野のドーパミンニューロンは、前頭前皮質に投射していることが、解剖学的に知られている(非特許文献1)。また、腹側被蓋野の電気刺激により、前頭前皮質にドーパミンが放出されることは、ボルタメトリー法を用いた研究によってもこれまでに明らかにされている(非特許文献2)。よって、これらの先行研究を基に、腹側被蓋野を電気刺激し前頭前皮質におけるドーパミン量の計測を行うことで、好ましい腹側被蓋野の電気刺激部位を同定した。
なお、非特許文献4および5には、腹側被蓋野の電気刺激により、前頭前皮質に電気的活動が観察されることが報告されている。当該非特許文献3および4における電気的活動の観察は、ドーパミンニューロンがco-releaseするグルタミン酸によるものと考えられているが、本実施例では非特許文献4および5に記載の方法に基づいて、電気刺激のターゲットである腹側被蓋野の位置を同定することとした。
具体的な試験方法は以下のようにして行った。
実験動物としてWistar系ラットを用いた。イソフルラン(3%)をラットに導入し、次いで、ケタミン(80 mg/kg)とキシラジン(10mg/kg)を腹腔内に投与することによって麻酔した。麻酔下にあるラットは、36℃に設定したサーモプレートを使用して体温の低下を防ぐと共に、麻酔の状態を把握し、追加の必要がある場合は、状態に合わせケタミンとキシラジンを追加した。後ろ脚をピンセットでつまみ、回避行動が出現しないことを確認し、脳定位固定装置(Narishige社製ステレオフレーム)にラットを固定して、開頭手術を行った。頭皮を切開後、頭蓋骨を露出させ、電動ドリルによって頭蓋骨を除去した。頭蓋骨の除去は、神経伝達物質の光計測を行う前頭葉領域(以下、光計測領域と呼ぶ)と電気刺激を加える腹側被蓋野の直上の部位の2箇所について行った。光計測領域では、約5×4.5mm(ブレグマから吻側方向に0〜5mm、正中から外側に0.5〜4.5mm)の範囲を開頭した。また、電気刺激部位である腹側被蓋野は脳深部にあるためその直上の頭蓋骨を、約4×4mm (ブレグマから尾側方向へ5.8〜6.2mm)の範囲で開頭した。なお、光計測領域については、脳表面の硬膜を顕微鏡下で慎重に除去し、開頭領域の周囲にデンタルセメントによるチャンバを作成した。硬膜除去後は、脳表の乾燥を防ぐために、チャンバ内に生理食塩水を満たした。光計測時には光計測時のノイズを低減する目的で、チャンバ上にスライドガラスを置き、脳表の動きを低減させた。
ラットの脳内の腹側被蓋野が存在する部位及び当該部位の鉛直上方向の脳表面を公知の情報を基に特定し(ブレグマから尾側方向に6.0mm、正中から外側に1.0mm)、刺激電極(同心円電極)を刺入した。刺激電極の刺入は、マニピュレータ―にセットした刺激電極を、特定した脳表面に対して鉛直下方向に刺入することにより行った。他方、前頭葉領域に局所細胞外電位(Local field potential: LFP)を記録するためのボール電極(先端を丸く加工した銀線)を設置した。目的の腹側被蓋野領域を特定するために、刺激電極から単相性の単発電気刺激(パルス幅: 300μs)を加え、前頭葉領域で局所細胞外電位(Local field potential: LFP) を記録した。
ここで、刺激電極の刺入位置および深度を変えつつ上記の要領で電気刺激を行い、短潜時(約20ms)の神経応答を確認することによって、腹側被蓋野を同定した。このとき、ボール電極における局所フィールド電位が最も大きく観察された挿入深度を特定し、刺激位置とした(なお、実験後、組織学的な手法により、刺激部位が腹側被蓋野であることを再確認した)。すなわち、当該刺激位置に挿入された刺激電極により腹側被蓋野の神経細胞を刺激することにより、前頭前皮質に存在する神経細胞のドーパミンの放出を促すことができる。なお、図2に電気刺激(電流サイズ150μA、持続時間300μs)によって誘発された局所フィールド電位(図2A)と、実験後にマーキングした電極位置(図2B)の例を示す。
(実施例2.前頭前皮質において放出された神経伝達物質の検出)
本実施例では、上記実施例1で特定した腹側被蓋野の電気刺激位置に刺激電極が刺入された、麻酔下にあるラットを用いた。なお、試験に用いられたラットは、前頭前皮質近傍にデンタルセメントによりチャンバが形成されている。当該チャンバ内の生理食塩水を、カルセインブルー鉄錯体(50μM)含有蛍光試薬(カルセインブルー鉄錯体を50μMで含有する生理食塩水)に置換し、遮光した状態で約30分浸した後、ラットを蛍光顕微鏡の下へ配置した。
腹側被蓋野に電気刺激を加えると同時に、CMOSイメージセンサーを搭載した高速・高感度カメラシステム(MiCam02, Brain Vision社製)を用いて、前頭葉の信号変化を計測した。なお、神経細胞より神経細胞外空間に放出されたドーパミンは、カルセインブルー鉄錯体と反応することにより蛍光を発する化合物が生じるため、信号の増加がドーパミンの放出と相関すると考えられる。
励起光の照射には、365nmのLED光源(Mic-LED-365、Prizmatix社製)を用いた。また、励起光側のフィルターとして、365nmの波長を中心透過帯とするバンドパスフィルター(Semrock製、Hg01-365-25)を用いた。ダイクロイックミラーとしては、405nm以下を反射さるものダイクロ一イックミラーを用いた(Semrock社製、Di02-R405)。また、蛍光光側のフィルターとして、450nmの波長を中心透過帯とするバンドパスフィルター(Edmund optics社製、#84-794)を用いた。カルセインブルー鉄錯体による、脳組織からの蛍光は、ロングパスフィルターを通し、CMOS撮像素子にて蛍光量変化を検出した。
カルセインブルー−鉄錯体による蛍光シグナル変化の光計測に際し、電気刺激として、高頻度刺激 (パルス幅:100μs、刺激頻度:100Hz、刺激時間:1s)を与えた。フレーム毎に光信号(蛍光量変化)を計算し、パソコンに取得した画像データを転送後、蛍光変化を画像化した。また、撮像範囲は、前頭前皮質が中心となるよう、光学系レンズの倍率を調節した。
なお、1トライアル期間中に取得したデータの解析において、蛍光変化のベースラインがドリフトする現象を排除するために、各ピクセル・各時刻の信号強度は計測開始時の各ピクセルにおける信号強度で規格化し(ΔF/F)、近傍49ピクセルの4試行の平均を計算した。
その結果、図2に示すように、前頭前皮質の3点において、電気刺激より約200ミリ秒後に信号の増加を検出した。この結果は、腹側被蓋野の電気刺激によって惹起されたドーパミンニューロンの活動増加により、前頭前皮質に存在する神経細胞から神経細胞外空間に放出されたドーパミンの増加をモニタリングできたことを示す。
本発明の方法は、脳外科や神経内科等の診断・手術において応用することができる。また、神経関連の病態の解明や、その治療法・診断・手術装置の開発における研究開発段階においても使用することができる。また、本発明の方法は、病態を対象とした研究のみならず、神経科学分野全般において重要な役割を果たすことが期待される。現在バイオイメージング研究は世界的に盛んであり、本方法を実施するための研究機器の改良についても重要性が大きいと期待される。

Claims (8)

  1. 神経細胞から神経細胞外空間に放出された神経伝達物質のイメージング方法であって、
    測定対象とする神経細胞外空間に神経伝達物質検出用蛍光試薬を投与する工程であって、前記神経細胞外空間に放出された神経伝達物質と前記神経伝達物質検出用蛍光試薬とを反応させる工程と、
    前記神経伝達物質検出用蛍光試薬の蛍光を測定する工程であって、前記神経伝達物質と反応した蛍光試薬が励起する励起光を前記測定対象の神経細胞外空間に照射し、これにより生じた蛍光を測定する工程とを含み、
    ここで、前記蛍光を測定する工程が、神経細胞外空間に放出される神経伝達物質を経時的、かつ、空間的にイメージングするものである、方法。
  2. 請求項1に記載の方法であって、
    前記神経伝達物質検出用蛍光試薬の蛍光を測定している間、神経細胞に対して刺激を加えて神経伝達物質の放出を促進または抑制する工程と、
    前記刺激の前後に測定される蛍光の強度を比較する工程と
    をさらに含む方法。
  3. 請求項1または2に記載の方法であって、前記神経細胞が哺乳類の神経細胞である方法。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法であって、生体の脳に対して行われる方法。
  5. 請求項4に記載の方法であって、
    前記神経伝達物質検出用蛍光試薬を投与する工程が、前記神経伝達物質検出用蛍光試薬を生体の脳表面に直接添加することにより行われ、前記蛍光を測定する工程が、前記神経伝達物質検出用蛍光試薬が脳表面に直接接触している状態で行われる、方法。
  6. 請求項4または5に記載の方法であって、
    前記脳に対して刺激電極を挿入する工程をさらに含み、前記刺激電極により電気刺激を加えることにより惹起された神経伝達物質の放出を検出する、方法。
  7. 請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法であって、
    前記神経伝達物質が、ドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリン、オキシトシン、パスプレシン、グルタミン酸、γ−アミノ酪酸、ヒスタミンからなる群より選択される、方法。
  8. 請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法であって、
    前記神経伝達物質がドーパミンであり、前記神経伝達物質検出用蛍光試薬がイミノ二酢酸基またはイミノ二酢酸誘導体基および水酸基を有する構造と、鉄錯体形成の有無により蛍光強度に変化を生じる構造とを有する化合物またはその鉄錯体を含むものである、方法。
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