JP2015096752A - ボールねじ - Google Patents

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Abstract

【課題】外部循環方式のボールねじにおいて、ねじ溝の両縁部のR面取りとねじ軸直径との境界にボールが衝突する「外径エッジ衝突」を防止して更なる高速化を達成し得るボールねじを提供する。
【解決手段】このボールねじは、そのねじ溝11の両縁部の面取り7とねじ軸1の外径面12との境界に接するようにボール3を位置させたときに、そのボール中心がねじ溝11に沿って描くらせん軌跡を、循環路下穴41に直角な断面に投影した時の軌跡をエッジ衝突時ボール中心投影軌跡と呼ぶとき、エッジ衝突時ボール中心投影軌跡から循環路下穴中心までの距離の最小値をEmin、ボール直径をDw、循環路下穴直径をDtとしたとき、Emin−(Dt−Dw)/2>0の関係を満たしている。
【選択図】図2

Description

本発明は、ボールを戻すボール戻し路の両端部を形成する循環路下穴同士が外部循環部材によって連結されている外部循環方式のボールねじに関する。
この種のボールねじは、ねじ軸とナットと複数のボールを有する。ねじ軸はナットを貫通するように配置されている。ねじ軸とナット相互のねじ溝でボールの転動路が形成され、ナットにボールを戻すボール戻し路の両端部を形成する循環路下穴が形成され、循環路下穴同士を外部循環部材、例えばリターンチューブによって連結することによってボールを転動路の終点から始点に戻すボール戻し路が形成される。そして、転動路とボール戻し路とからなる循環経路内に複数のボールが配置され、循環経路を循環し転動路内で転動(負荷状態で回転しながら移動)するボールを介して、ねじ軸とナットとが相対移動するようになっている。
ところで、この種のボールねじでは、更なる高速化の要求に応じるために、ねじ軸のねじ溝の溝直角断面形状の工夫により、作動性の向上を図ることが行われている。ねじ軸のねじ溝の溝直角断面形状としては、図9および図10に示すものが例示できる。
図9に示す例では、ボール3が転動するねじ溝111の両縁部に沿って、直線面取り部112が比較的広範囲に形成され、その外側がねじ軸1の外周面12となっている。図10に示す例では、ボール3が転動するねじ溝111の両縁部に沿って、直線面取り部112が図9の例よりも狭い範囲に形成され、その外側がねじ軸1の外周面12となっている。以下、図9に示す溝直角断面形状を「深溝」、図10に示す溝直角断面形状を「浅溝」と称する。
ボールピッチ円直径とねじ軸の直径との差を、深溝の場合をYa、浅溝の場合をYbとすると、ボール3の直径が同じ場合、Ya<Ybとなる。大リードの(ねじ軸の直径に対するリードの比率が大きい)ボールねじでは、図10に示す「浅溝」の溝直角断面形状を採用し、ボール3がボール戻し路に出入りする際の動きをスムーズにすることにより、作動性の向上を図ることが行われている。
しかし、図9および図10に示すような溝直角断面形状であると、ボールねじの高速化に伴い、ねじ溝111と直線面取り部112との境界のエッジにボール3が衝突して、早期はくりが生じ易くなるという問題がある。
そこで、例えば特許文献1に記載の技術では、ねじ溝の両縁部に所定のR面取りを施すことによって、ボールねじの高速化を実現している。また、同文献では、ねじ軸外径(ランド部)とボールとの衝突に関し、ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差をボール直径の10%以下にすることにより、ボールの衝突を防ぎ得るとしている。
また、特許文献2に記載の技術では、ねじ溝の両縁部に、R面取りと、このR面取りの外側に滑らかに続く直線面取り部とを設け、これにより、高負荷荷重時のねじ溝開口縁の応力集中を緩和して短寿命化を回避し得るとしている。なお、同文献の例では、R面取りの曲率半径が、例えば、ボール径が19[mm]程度の場合に曲率半径が1[mm]程度(つまり、ボール直径の0.05倍程度)とされている。
特許第3325679号公報 特開2003−207015号公報
しかしながら、特許文献1記載の技術では、ねじ溝の両縁部のR面取りとねじ軸直径との境界にボールが衝突すること(以下、「外径エッジ衝突」とも称する)を避けるために、ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差を10%以下に規制するものの、(リード/軸径)比の大きいボールねじにおいては、ねじ溝の軌道のねじれが大きくなるため、リターンチューブからボールが戻るときに、ねじ溝に対して斜め上からボールが侵入する。そのため、外径エッジ衝突が生じてしまうという問題がある。この問題を避けるために、循環路下穴の掬い上げ角度を大きくするという方策もあるものの、(リード/軸径)比の設定には限界がある。また、過度に掬い上げ角度を大きくしすぎると、循環路下穴の掬い上げ部でのボール軌道変化が大きくなるので、ボールの衝突が大きくなってしまい、更なる高速化を達成するには限界があった。
また、特許文献2に記載の技術では、同文献に開示されるR面取りの目的が接触面圧のエッジロード低減であることから、開示されているような、ボール直径の0.05倍程度ではR面取りの半径が小さすぎるために、高速回転時においてはボール衝突時の面圧が高くなる。そのため、ボールあるいはR面取りに早期はくりが生じ、寿命の低下を招くことになり、更なる高速化を達成するには、未だ改善の余地が残される。
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、「外径エッジ衝突」を防止して更なる高速化を達成し得るボールねじを提供することを課題とする。
[第一態様]
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係るボールねじは、ねじ軸と、ナットと、複数のボールとを有し、前記ねじ軸は前記ナットを貫通し、前記ねじ軸の外周面に形成された螺旋状のねじ溝と前記ナットの内周面に形成された螺旋状のねじ溝とにより前記ボールが転動する転動路が形成されるとともに、前記転動路の終点から始点に前記ボールを戻すボール戻し路が外部循環部材によって形成され、前記ナットに、前記外部循環部材の端部が連結される循環路下穴が前記転動路に連通するように形成されている外部循環方式のボールねじにおいて、前記ねじ軸は、前記ねじ溝の両縁部に、前記ねじ軸の外径面に滑らかに接続する面取りを有し、前記面取りと前記ねじ軸の外径面との境界に接するように前記ボールを位置させたときに、そのボール中心が前記ねじ溝に沿って描くらせん軌跡を「エッジ衝突時ボール中心軌跡」と呼び、このエッジ衝突時ボール中心軌跡を前記循環路下穴に直角な断面に投影した時の軌跡を「エッジ衝突時ボール中心投影軌跡」と呼ぶとき、前記エッジ衝突時ボール中心投影軌跡から前記循環路下穴中心までの距離の最小値をEmin、ボール直径をDw、循環路下穴直径をDtとしたとき、下記(式1)の関係を満たすことを特徴とする。
Emin−(Dt−Dw)/2>0 (式1)
本発明の一態様に係るボールねじによれば、後に詳述するように、ボール中心の取り得る範囲が、R面取りとねじ軸直径との境界よりも常にねじ溝の内側寄りに位置する。そのため、「外径エッジ衝突」が防止され、致命的な早期損傷なくボールねじを更に高速化することができる。
[第二態様]
ここで、上記第一態様において、前記面取りがR面取り(凸曲面からなる面取り)であることは好ましい。このような構成であれば、ねじ軸の外径面に滑らかに接続する面取りをR面取りとすることで、その形状が単純であり、生産が容易であるからコストを下げる上で好適である。
[第三態様]
また、上記第二態様において、ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差をボール直径の26.2%以下に設定し、前記ねじ軸のねじ溝の溝直角断面形状において前記ボールの中心軸を基準にしてねじ溝の底を0°としたときに、前記R面取りの開始角度を60°以下に設定し、前記R面取りの半径をボール直径の50%以下に設定することは好ましい。
このような構成であれば、上記(式1)の関係を満たしつつ、ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差をボール直径の26.2%まで大きくとることができる。上記特許文献1に開示された例と比較するとR面取り半径が小さいので、特許文献1ほどの高速性は期待できないものの、「外径エッジ衝突」を防止することができるので、エッジ部が剥離するという致命的な早期損傷が起きることを防ぐ上で好適である。また、ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差を大きくしたことで、ボールがリターンチューブに出入りする際の動きをスムーズにすることができるので作動性を向上させる上で好適である。
[第四態様]
また、上記第二態様において、ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差をボール直径の29.4%以下に設定し、前記ねじ軸のねじ溝の溝直角断面形状において前記ボールの中心軸を基準にしてねじ溝の底を0°としたときに、R面取りの開始角度を60°以下に設定し、前記R面取りの半径をボール直径の40%以下、若しくは34%以下に設定することは好ましい。
このような構成であれば、R面取りの開始角度を60°以下に設定し、R面取り半径をボール直径の40%以下に設定したことで、さらにねじ溝の溝幅を広く取ることができ、これにより、上記(式1)の関係を満たしつつ、ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差をボール直径の29.4%まで大きくとることができる。ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差を大きくしたことで、ボールがリターンチューブに出入りする際の動きをスムーズにすることができるので作動性を向上させる上で好適である。
[第五態様]
さらに、上記第一態様において、前記面取りが、ねじ溝側に滑らかに接続するR面取りと、このR面取りの外側から前記ねじ軸の外径面に滑らかに接続する直線面取りとから形成されていることは好ましい。
ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差が小さい場合において、前記面取りをR面取りのみから構成しようとすると、面取りがねじ軸の外径面に達せず、ねじ溝の形状として成り立たない場合があるところ、このような構成であれば、R面取りの外側を直線面取りとしたことでねじ軸の外径面に達することができ、ねじ溝の形状として成立する。また、ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差が小さい場合において、前記面取りをR面取りのみから構成する場合に比べてねじ溝の溝幅が広くなりすぎることを抑えることができ、加工時の取代を小さく抑える上で好適である。
[第六態様]
また、上記第五態様において、ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差をボール直径の21.0%以下に設定し、前記ねじ軸のねじ溝の溝直角断面形状において前記ボールの中心軸を基準にしてねじ溝の底を0°としたときに、前記R面取りの開始角度を60°以下に設定し、前記R面取りの半径をボール直径の36%以下に設定し、前記R面取りの範囲を15°以上に設定することは好ましい。
このような構成であれば、上記(式1)の関係を満たしつつ、ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差をボール直径の21.0%まで大きくとることができる。ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差を大きくしたことで、ボールがリターンチューブに出入りする際の動きをスムーズにすることができるので作動性を向上させる上で好適である。
[第七態様]
また、上記第五態様において、ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差をボール直径の26.2%以下に設定し、前記ねじ軸のねじ溝の溝直角断面形状において前記ボールの中心軸を基準にしてねじ溝の底を0°としたときに、R面取りの開始角度を60°以下に設定し、前記R面取り半径をボール直径の36%以下に設定し、前記R面取りの範囲を18°以上に設定することは好ましい。
このような構成であれば、上記(式1)の関係を満たしつつ、ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差をボール直径の26.2%まで大きくとることができる。ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差を大きくしたことで、ボールがリターンチューブに出入りする際の動きをスムーズにすることができるので作動性を向上させる上で好適である。
[第八態様]
また、上記第五態様において、ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差をボール直径の29.4%以下に設定し、前記ねじ軸のねじ溝の溝直角断面形状において前記ボールの中心軸を基準にしてねじ溝の底を0°としたときに、R面取りの開始角度を60°以下に設定し、前記R面取り半径をボール直径の31%以下に設定し、前記R面取りの範囲を20°以上に設定することは好ましい。
このような構成であれば、上記(式1)の関係を満たしつつ、ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差をボール直径の29.4%まで大きくとることができる。ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差を大きくしたことで、ボールがリターンチューブに出入りする際の動きをスムーズにすることができるので作動性を向上させる上で好適である。
上述のように、本発明によれば、「外径エッジ衝突」を防止して更なる高速化を達成し得るボールねじを提供することができる。
本発明の一態様に係るボールねじの一実施形態を示す断面図である。 ねじ軸のねじ溝の溝直角断面(図3(a)でのA−A線断面)形状の一実施形態を示す断面図である。 図1のボールねじに設定する座標系を説明する図であり、同図(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は右側面図である。 本発明の一態様に係るボールねじの一実施形態を説明する図であり、同図は、ねじ軸のねじ溝の溝直角断面X’Y平面を示している。 ねじ軸直径との境界に接するボール中心が描くらせん軌跡等を説明する図である。 変数Hを変化させたときの、X(H)とE(H)−(Dt−Dw)/2との関係を示すグラフである。 ねじ軸のねじ溝の溝直角断面(図3(a)でのA−A線断面)形状の他の実施形態を示す断面図である。 本発明の一態様に係るボールねじの他の実施形態を説明する図であり、同図は、ねじ軸のねじ溝の溝直角断面X’Y平面を示している。 ねじ軸のねじ溝の溝直角断面形状の従来例(深溝)を示す断面図である。 ねじ軸のねじ溝の溝直角断面形状の従来例(浅溝)を示す断面図である。
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。なお、本実施形態の例は、上記[課題を解決するための手段]での[第一態様]および[第二態様]に対応する例である。
このボールねじは、ボールを戻すボール戻し路がリターンチューブによって形成されているチューブ式のボールねじであって、図1に示すように、ねじ軸1とナット2と複数のボール3を有する。ねじ軸1はナット2を貫通するように配置されている。ねじ軸1のねじ溝11とナット2のねじ溝21とでボール3の転動路が形成されている。ナット2には、循環部品として略U字状のリターンチューブ4が装着されている。リターンチューブ4の両端は、転動路に連通して形成されたチューブ装着穴31に取り付けられており、ボール3を転動路の終点から始点に戻すボール戻し路41が形成されている。チューブ装着穴31は、不図示であるが、径方向外側の大径部と、径方向内側の小径部とを同軸に有し、この小径部が上記ボール戻し路41と実質的に同径とされた循環路下穴となっている。複数のボール3は、ねじ溝11,21で形成される転動路と、循環路下穴を含むボール戻し路41とからなる循環経路内に配置される。そして、循環経路を循環し転動路内で転動(負荷状態で回転しながら移動)する複数のボール3を介して、ねじ軸1とナット2とが相対移動するようになっている。
ねじ軸1のねじ溝11の溝直角断面(図3(a)でのA−A線断面)の形状を図2に示す。
同図に示すように、このボールねじは、ねじ溝11の外側(両縁部)に、ねじ軸1の外径面12に滑らかに接続するR面取り7が施されている。そして、このボールねじは、このR面取り7とねじ軸1の外径面12との境界Kに接するようにボール3を位置させたときに(図4に符号3Kで示す位置参照)、そのボール中心Oがねじ溝11に沿って描くらせん軌跡を「エッジ衝突時ボール中心軌跡」と呼び、このエッジ衝突時ボール中心軌跡を循環路下穴に直角な断面に投影した時の軌跡を「エッジ衝突時ボール中心投影軌跡」と呼ぶとき、「エッジ衝突時ボール中心投影軌跡」から上記循環路下穴中心までの距離の最小値をEmin[mm]、上記ボール3のボール直径をDw[mm]、上記循環路下穴の循環路下穴直径をDt[mm]としたとき、下記(式1)の関係を満たすように形成されている。
Emin−(Dt−Dw)/2>0 (式1)
以下、本発明の実施例を例にして、上記(式1)の関係を満たすように、「エッジ衝突時ボール中心軌跡」を形成する理由について詳しく説明する。
図3に、上記ボールねじに設定する座標系を示す。同図に示すように、ねじ軸1の長手方向をX、循環路下穴の軸方向をZ、循環路下穴の軸に直角な方向をYとし、掬い上げ角度をγとする。このとき、X方向原点は、ねじ線SLにおいて、掬い上げ角度γ=0°のねじ線位置であり、Y,Z方向の原点はねじ軸1の中心軸上にある。また、ボールピッチ円直径をDm[mm]、ボールねじリードをL[mm]、リード角をβとする。リード角βは下記の(式2)の関係にある。
tan(β)=L/(π×Dm) (式2)
XYZ座標系を、Y軸を軸にリード角βだけ回転させた座標系をX’YZ’座標系とする。すると、ボールピッチ円直径におけるねじ線SLに直角な断面で切断したねじ溝11の溝直角断面形状はX’Y平面において定義される。
図4に示すように、溝直角断面X’Y平面において、R面取り7とねじ軸1の外径面12(ねじ軸直径)との境界Kの座標を境界座標(Sk1,Rk1)、境界Kを与える角度をμk1とする。なお、境界Kを与える角度μk1は、境界Kに接するボール3の中心と境界Kとを結ぶ線分とY軸とのなす角である。境界座標(Sk1,Rk1)及び境界Kを与える角度μk1は、ボールねじの溝直角断面(X’Y平面)において形状測定を行った結果から求めてもよく、また、下記の方法によって設計値から算出してもよい。
ここで、ボール直径をDw[mm]、ボール溝11の転走部半径をR[mm]、ボール接触角をα、R面取り開始角度をθa(ボール3の中心軸CLを基準にしてねじ溝11の底を0°とするときに、R面取り開始点Pに接するボール3の中心とR面取り開始点Pとを結ぶ線分が中心軸CL(Y軸)となす角)、R面取り半径をRr[mm]とすると、ねじ溝とR面取りが滑らかに接続するためには、R面取り7の中心座標(Sp,Rp)は、下記の(式3)によって与えられる。なお、(式3)の複合上段がマイナス側の溝を表し、下段がプラス側の溝を表す(以下同様)。
Sp=±{(R−Dw/2)×sin(α)−(R+Rr)×sin(θa)}
Rp=Dm/2+(R−Dw/2)×cos(α)−(R+Rr)×cos(θa)
(式3)
R面取り上の任意の点(Sq1,Rq1)は「μ」を用いて、下記の(式4)によって与えられる。
Sq1=Sp±Rr×sin(μ)
Rq1=Rp+Rr×cos(μ) (式4)
R面取り7とねじ軸1の外径面12(ねじ軸直径)との境界Kにおいては、ねじ軸直径をD[mm]とすると、下記の(式5)を満足する。
{Sq1×sin(β)}+Rq1=(D/2) (式5)
よって、式(5)に式(4)を代入した時の解μがμk1であり、R面取りとねじ軸直径との境界座標(Sk1,Rk1)は下記の(式6)によって与えられる。
Sk1=Sp±Rr×sin(μk1)
Rk1=Rp+Rr×cos(μk1) (式6)
以上のように、R面取りとねじ軸直径との境界座標(Sk1,Rk1)を、形状測定を行った結果または設計値から算出して求め、次にR面取り7とねじ軸1の外径面12との境界KにおいてR面取り7に接するボール3の中心が描くらせん軌跡(以下、「エッジ衝突時ボール中心軌跡」とも称する)の循環路下穴に直角な断面への投影線(以下、「エッジ衝突時ボール中心投影軌跡」とも称する)を求める。
上記溝直角断面X’Y平面において、R面取りとねじ軸直径との境界KにおいてR面取り7に接するボール3の中心座標(Sb1,Rb1)は下記の(式7)によって与えられる。
Sb1=Sk1±(Dw/2)×sin(μk1)
Rb1=Rk1+(Dw/2)×cos(μk1) (式7)
X’YZ’座標系でのボール中心(Sb1,Rb1,0)からXYZ座標系のボール中心(Xb,Yb,Zb)への座標変換は、下記の(式8)によって与えられる。
Xb=Sb1×cos(β)
Yb=Rb1
Zb=−Sb1×sin(β) (式8)
R面取りとねじ軸直径との境界Kは、ねじ軸1のねじ溝11のらせんに沿って存在するから、「外径エッジ衝突」時のボール中心(Xb,Yb,Zb)もねじ軸1のねじ溝11のらせんに従ってらせん軌跡を描く。つまり、「エッジ衝突時ボール中心軌跡」は、変数Hを用いて(式8)を用いて下記の(式9)によって与えられる。
X(H)=Xb+H×L/2/π
=Sb1×cos(β)+H×L/2/π
Y(H)=Yb×cos(H)−Zb×sin(H)
=Rb1×cos(H)+Sb1×sin(β)×sin(H)
Z(H)=Yb×sin(H)+Zb×cos(H)
=Rb1×sin(H)−Sb1×sin(β)×cos(H) (式9)
「エッジ衝突時ボール中心軌跡」の循環路下穴に直角な断面への投影線は、上記(式9)のX(H)、Y(H)である。なお、XY平面における循環路下穴中心(Xt,Yt)は形状測定を行った結果から求めてもよく、また、下記の方法に設計値から算出してもよい。つまり、循環路下穴中心(Xt,Yt)は下記の(式10)によって与えられる。
Xt=γ×L/(2π)
Yt=Dm/2×cos(γ) (式10)
ここで、「エッジ衝突時ボール中心投影軌跡」と循環路下穴中心との距離をE(H)[mm]とすると、E(H)は下記の(式11)によって与えられる。
E(H)=√{(X(H)−Xt)+(Y(H)−Yt)} (式11)
ここで、具体的な計算例を実施例に基づき説明する。表1に実施例(および比較例)の具体的数値を示す。ここでは、上記[第二態様]の対応例である、表1中の実施例1−1のボールねじを例に説明する。
Figure 2015096752
表1中の実施例1−1のボールねじは、形状測定の結果、境界座標(Sk1,Rk1)=(±2.575,12.485)、また、境界Kを与える角度μk1=33.543°、を得ることができた。同結果、並びに他の実施例(および比較例)の結果について表2に示す。
Figure 2015096752
この形状測定の結果を上記の(式7)、(式9)を用いて、ねじ軸直径との境界Kに接するボール3の中心が描くらせん軌跡を描くと図5のようになる。また、図5には(式10)から求めた循環路下穴中心(Xt,Yt)=(1.111,12.333)を中心とした、循環路下穴、ボール3、及び半径が(Dt−Dw)/2=0.269の円をそれぞれ図示している。ここで、循環路下穴直径(あるいは循環路下穴内径)はDt[mm]である。
リターンチューブを含む循環部内ではボール3は循環路下穴の中で動き、前記半径(Dt−Dw)/2の円の中にボール中心を取り得る。つまり、前記半径(Dt−Dw)/2[mm]の円よりも「エッジ衝突時ボール中心投影軌跡」が外側にあれば、リターンチューブを含む循環部からねじ溝11にボール3が侵入する際にボール3がねじ軸直径との境界Kに接触することはない。つまり、言い換えると、「エッジ衝突時ボール中心投影軌跡」と循環路下穴中心との距離E(H)の最小値をEmin[mm]とすると、ボール中心の取り得る範囲が、R面取りとねじ軸直径との境界Kよりも常に内側寄りに位置する条件は、下記に再掲する(式1)によって与えられる。
Emin−(Dt−Dw)/2>0 (式1)
図6には、上記変数Hを変化させたときのE(H)−(Dt−Dw)/2を縦軸に、X(H)を横軸に示している。このときの最小値Emin−(Dt−Dw)/2=0.330(表2参照)であるから、(式1)の条件を満たしている。したがって、本実施形態、並びに実施例1−1のボールねじでは、「外径エッジ衝突」が生じない。よって、このボールねじは、致命的な早期損傷なく更に高速化することができる。また、本実施形態、並びに実施例1−1のボールねじでは、滑らかに接続する面取り7を「R面取り」としたことで、その形状が単純であり、生産が容易であるからコストを下げることができる。なお、面取りをR面取り以外、例えば直線部を含む面取りとすることもできるが、滑らかに接続する面取りをR面取りとすれば、形状を単純として生産を容易としコストを下げる上で好適である。
次に、上記[第三態様]に対応する例である、表1,2中の実施例1−2に基づき、[第三態様]での数値限定の意義について、表1,2中の比較例1−1と対比して説明する。ここで、ボールピッチ円直径−ねじ軸直径=Yとする。実施例1−2及び比較例1−1は、Y/Dw=26.2%,R面取りの開始角度θa=60°に設定し、R面取り7の半径を変化させた。
R面取り7の開始角度θaに関しては、式(3)よりθaが大きくなるほどR面取り7の中心座標Spの絶対値が小さくなる。これは、言い換えると、R面取り7とねじ軸直径との境界Kである外径エッジがねじ溝11の内側に狭まる方向であるから、「エッジ衝突時ボール中心投影軌跡」と循環路下穴中心との距離E(H)の軌跡が、より循環路下穴中心に寄ることが明らかである。つまり、R面取り7の開始角度θaが小さくなるほどEmin−(Dt−Dw)の値は大きくなる。以下に説明する他の実施例においてもθa=60°で「外径エッジ衝突」しなければ、θaが60°以下であれば「外径エッジ衝突」することはない。
実施例1−1と同様に、Emin−(Dt−Dw)/2の値を求めて判定した結果、実施例1−2と比較例1−1の比較によって、R面取り7の開始角度を60°以下に設定し、R面取り半径をボール直径の50%以下に設定することにより、ねじ溝11の溝幅を広く取ることができる。これにより、ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差をボール直径の26.2%まで大きくとることができる。この条件であると、上記特許文献1の例と比較するとR面取り半径が小さいので、特許文献1ほどの高速性は得られないものの、「外径エッジ衝突」は防止される。よって、エッジ部が剥離するという致命的な早期損傷が起きることは防ぐことができる。ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差を大きくしたことで、ボール3がリターンチューブ4に出入りする際の動きをスムーズにすることができるので作動性を向上させることができる。
ここで、表1,2中の実施例2−1、実施例2−2及び比較例2−1について説明する。これらの例では、上記実施例1−1に比べて、ボールピッチ円直径Dmが小さくなっており、Y/Dw=21.0%、R面取りの開始角度θa=60°に設定し、R面取り半径を変化させた。
実施例1−1と同様に、Emin−(Dt−Dw)/2の値を求めて判定した結果、ボールピッチ円直径Dmを小さくし、Y/Dw=21.0%程度にしたことで、R面取り半径をボール直径の69%にしても「外径エッジ衝突」しないことがわかる(表2参照)。よって、エッジ部が剥離するという致命的な早期損傷が起きることは防ぐことができる。
上記特許文献1ではR面取りの開始角度や下穴径に関しては述べられていなかった。表1,2中の従来例1、従来例2では、Y/Dw=8.4%、Dt=5.5[mm]、θa=65°であり、L=15(L/D=0.6)のときは「外径エッジ衝突」しないものの、比較的大リードのL=20(L/D=0.8)の場合は「外径エッジ衝突」が生じている。これに対し、実施例2−1、実施例2−2では、Y/Dw=21.0%とし、L=20(L/D=0.8)であっても「外径エッジ衝突」が生じない。その理由は、R面取り7の開始角度θaを60°以下に設定し、さらに循環路下穴直径DtをDt=5.3[mm]と小さく設定したことによる。
次に、上記[第四態様]に対応する実施例に基づき、[第四態様]での数値限定の意義について比較例と対比して説明する。
表1,2中の実施例3−1、実施例3−2及び比較例3−1、実施例4−1及び比較例4−1、実施例5−1及び比較例5−1、実施例6−1及び比較例6−1は、Y/Dw=29.4%、R面取り7の開始角度θa=60°に設定し、L=20(L/D=0.8)のときは掬い上げ角度γ=20°、L=25(L/D=1.0)のときは掬い上げ角度γ=27°に設定し、循環路下穴直径Dt=5.3[mm]、5.5[mm]の場合においてR面取り半径を変化させた。
実施例1−1と同様に、Emin−(Dt−Dw)/2の値を求めて判定した結果、実施例3−2と比較例3−1との比較、実施例4−1及び比較例4−1との比較から、R面取りの開始角度θaを60°以下に設定し、R面取り半径をボール直径の40%以下に設定したことで、さらにねじ溝11の溝幅を広く取ることができ、これにより、ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差をボール直径の29.4%まで大きくとることができる。ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差を大きくしたことで、ボール3がリターンチューブ4に出入りする際の動きをスムーズにすることができるので作動性が向上する。
また、実施例5−1と比較例5−1との比較、実施例6−1及び比較例6−1との比較から、循環路下穴直径Dtが比較的大きい場合を考慮し、Dt=5.5(Dt/Dw=1.15)の場合でも「外径エッジ衝突」が生じないよう、R面取り半径をボール直径の34%以下に設定することが望ましい。なお、循環路下穴直径Dtが比較的大きい場合とは、ボールねじの製造における加工誤差を考慮した場合も含まれる。つまり、ボールねじ毎に循環路下穴中心位置や実際の循環路下穴直径にはばらつきがあり、循環路下穴直径Dtは、下記(式12)と同等にふるまう。ここで、(式12)において、循環路下穴直径設計値あるいは循環路下穴直径測定結果:Dt’、循環路下穴直径公差:ΔDt、循環路下穴中心位置度幾何公差:ΦZt、である。
Dt=Dt’+ΔDt+ΦZt (式12)
例えば、循環路下穴直径測定結果Dt’=5.3[mm]であったとしても、製造のばらつきがΔDt+ΦZt=0.2[mm]であった場合には実施例5−1のようにDt=5.5[mm]となる。
ところで、掬い上げ角度γを大きくすることで「外径エッジ衝突」を回避する手法は従来から用いられた手法である。ここで、掬い上げ角度γ=27°、Y/Dwを10%以下とした場合、表1,2中の従来例3に示すように、R面取り半径がボール直径の50%以上の場合には、L=20(L/D=0.8)では「外径エッジ衝突」が生じないが、従来例4のようにL=25(L/D=1.0)では「外径エッジ衝突」が生じる。また、R面取り半径がボール直径の100%に近い場合には従来例5に示すようにL=15(L/D=0.6)においても「外径エッジ衝突」が生じる。
これに対し、実施例6−1と従来例4とを比べると、比較的大リード(L=25)のボールねじにおいて、リードL、掬い上げ角度γ、循環路下穴直径Dtが同じであっても、実施例6−1のみ「外径エッジ衝突」しないのは、R面取りの開始角度を60°以下に設定し、さらにR面取り半径をボール直径の34%以下に設定したことによる。
次に、上記[第五態様]に対応する例(表1,2中の実施例7−1)、つまり、ねじ溝11の両縁部に設けられてねじ軸1の外径面12に滑らかに接続する面取りが、R面取りと直線面取りとからなる例について説明する。
実施例7−1のボールねじは、図7に示すように、ねじ軸1の外径面12に滑らかに接続する面取りが、ねじ溝11側に滑らかに接続するR面取り7と、このR面取り7の外側からねじ軸1の外径面12に滑らかに接続する直線面取り8とから形成されている点が、上記実施形態ないし実施例で説明した例と異なっている。
このような構成であると、ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差が小さい場合において、R面取りのみでは面取りがねじ軸直径に達せず、ねじ溝11が形状として成り立たない場合があるが、R面取り7の外側を直線面取り8としたことでねじ軸直径に達することができ、ねじ溝11が形状として成立する。また、ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差が小さい場合において、R面取りのみに比べて溝幅が広くなりすぎることを抑えることができ、加工時の取代を小さく抑えることができる。
ここで、図8に示すように、実施例7−1のボールねじでの溝直角断面X’Y平面において、直線面取り8とねじ軸直径との境界座標を(Sk2,Rk2)とする。この境界座標(Sk2,Rk2)はボールねじの溝直角断面において形状測定を行った結果から求めてもよく、また、下記の方法によって設計値から算出してもよい。
R面取り7の中心座標(Sp,Rp)は上記(式2)によって与えられる。R面取り7と直線面取り8との境界座標(Sc,Rc)は下記の(式13)によって与えられる。
Sc=Sp±Rr×sin(θc)
Rc=Rp+Rr×cos(θc) (式13)
ここで、R面取り範囲:θb、直線面取りの面取り角度:θc、であり、これらは下記の(式14)の関係にある。ただし、R面取り範囲θbは、ねじ溝直角断面視にて、R面取り7の中心に対してR面取りの開始点と直線面取りの開始点を結ぶ二つの線分のなす角度であり、直線面取りの面取り角度θcは、ねじ軸1の外径面12の稜線と直線面取り8の稜線とのなす角度である。
θc=θa−θb (式14)
直線面取り上の任意の点(Sq2,Rq2)のRq2はSq2を用いて、下記の(式15)によって与えられる。
Rq2=Rc+abs(Sq2−Sc)×tan(θc) (式15)
ここで、abs(Sq2−Sc)は(Sq2−Sc)の絶対値を表す。直線面取り8とねじ軸直径との境界Kにおいては、下記の(式16)を満足する。
{Sq2×sin(β)}+Rq2=(D/2) (式16)
よって、(式16)に(式15)を代入した時の解Sq2がSk2であり、直線面取り8とねじ軸直径との境界座標(Sk2,Rk2)は下記の(式17)によって与えられる。
Sk2=Sq2
Rk2=Rc+abs(Sq2−Sc)×tan(θc) (式17)
以上のように、直線面取り8とねじ軸直径との境界Kを、形状測定を行った結果または設計値から算出して求め、次に直線面取り8とねじ軸直径との境界Kにおいて直線面取りに接するボール3の中心が描くらせん軌跡(「エッジ衝突時ボール中心軌跡」)の循環路下穴に直角な断面への投影線(「エッジ衝突時ボール中心投影軌跡」)を求める。
溝直角断面X’Y平面において、直線面取り8とねじ軸直径との境界Kにおいて直線面取りに接するボール中心の座標(Sb2,Rb2)は下記の(式18)によって与えられる。
Sb2=Sk2±(Dw/2)×sin(θc)
Rb2=Rk2+(Dw/2)×cos(θc) (式18)
以降、「エッジ衝突時ボール中心軌跡」の循環路下穴に直角な断面への投影線X(H)、Y(H)、「エッジ衝突時ボール中心投影軌跡」と循環路下穴中心との距離E(H)、を求めるまでの過程は、上述した(式8)、(式9)、(式10)、(式11)において、Sb1→Sb2,Rb1→Rb2と置き換えたものに同じである。
ここで、具体的な計算例に基づき説明する。
表1,2中の実施例7−1のボールねじは、形状測定の結果、直線面取り8とねじ軸直径との境界座標(Sk2,Rk2)=(±2.749,12.483)を得ることができた。また、上記(式10)から求めた循環路下穴中心は、(Xt,Yt)=(1.111,12.216)である。これを(式9)、(式11)、(式18)を用いてE(H)を求め、E(H)の最小値Eminを求めると、Emin−(Dt−Dw)/2=0.316(表2参照)である。これは上記(式1)の条件を満たしており、「外径エッジ衝突」が生じない。よって、致命的な早期損傷なくボールねじを高速化することができる。
次に、上記[第六態様]に対応する実施例に基づき、[第六態様]での数値限定の意義について比較例と対比して説明する。
表1,2中の実施例7−2及び比較例7−1のボールねじにおいて、θa=60°、Rr/Dw=31%に設定し、R面取り範囲を変化させた。また、表1,2中の実施例8−1、実施例8−2及び比較例8−1のボールねじにおいて、θa=60°、Rr/Dw=36%に設定し、R面取り範囲を変化させた。比較例8−2ではθa=60°、Rr/Dw=38%に設定し、R面取り範囲を15°に設定した。
実施例7−1と同様に、Emin−(Dt−Dw)/2の値を求めて判定した結果、実施例7−2と比較例7−1との比較から、R面取り7の開始角度を60°以下、R面取り半径をボール直径の31%に設定し、R面取り7の範囲を15°以上に設定すれば、ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差をボール直径の21%程度まで大きくとれることがわかる。また、実施例7−2、実施例8−2及び比較例8−2の比較から、R面取り半径をボール直径の36%以下とすれば、ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差をボール直径の21%程度まで大きくとることができることがわかる。
これら実施例では、特許文献1に開示された例と比較するとR面取り半径が小さいので、特許文献1ほどの高速性は期待できないものの、「外径エッジ衝突」を防止することができる。よって、エッジ部が剥離するという致命的な早期損傷が起きることは防ぐことができる。また、ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差を大きくしたことで、ボール3がリターンチューブ4に出入りする際の動きをスムーズにすることができるので作動性が向上する。
次に、上記[第七態様]に対応する実施例に基づき、[第七態様]での数値限定の意義について比較例と対比して説明する。表1,2中の実施例9−1、実施例9−2及び比較例9−1のボールねじにおいて、θa=60°、Rr/Dw=31%,36%に設定し、R面取り範囲を変化させた。
実施例7−1と同様に、Emin−(Dt−Dw)/2の値を求めて判定した結果、実施例9−1と実施例9−2からR面取りの開始角度を60°以下、R面取り半径をボール直径の36%以下に設定し、また、実施例9−2と比較例9−1の比較からR面取りの範囲を18°以上に設定したときに、ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差をボール直径の26.2%程度まで大きくとることができる。ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差を大きくしたことで、ボール3がリターンチューブ4に出入りする際の動きをスムーズにすることができるので作動性が向上する。
次に、上記[第八態様]に対応する実施例に基づき、[第八態様]での数値限定の意義について比較例と対比して説明する。表1,2中の実施例10−1及び比較例10−1、実施例11−1及び比較例11−1のボールねじにおいて、Y/Dw=29.4%において、L=20(L/D=0.8)のときは掬い上げ角度γ=20°、L=25(L/D=1.0)のときは掬い上げ角度γ=27°とし、R面取り範囲を変化させた。
実施例7−1と同様に、Emin−(Dt−Dw)/2の値を求めて判定した結果、実施例10−1と比較例10−1との比較、実施例11−1及び比較例11−1との比較から、R面取り7の開始角度を60°以下に設定し、R面取り半径をボール直径の31%以下に設定し、R面取りの範囲を20°以上に設定したときに、ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差をボール直径の29.4%程度まで大きくとることができる。ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差を大きくしたことで、ボール3がリターンチューブ4に出入りする際の動きをスムーズにすることができるので作動性が向上する。
以上説明したように、上記実施形態および各実施例に示したチューブ式のボールねじによれば、「外径エッジ衝突」を防止して更なる高速化を達成することができる。なお、本発明に係るボールねじは、上記実施形態および各実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能であることは勿論である。
例えば、上記実施形態では、ねじ溝11の両縁部に、ねじ軸1の外径面12に滑らかに接続する面取りとして、面取りがR面取り7のみである例、および変形例として、面取りが、ねじ溝11側に滑らかに接続するR面取り7と、このR面取り7の外側からねじ軸1の外径面12に滑らかに接続する直線面取り8とから形成されている例を示して説明したが、これに限定されない。例えば、当該箇所の面取りとして、徐々に曲率が変化していく複合円弧の面取りを用いても、Emin−(Dt−Dw)/2>0を満たせば「外径エッジ衝突」しないので、同様の効果が期待できる。
また、R面取りの開始角度を60°に設定した実施例に関して述べたが、R面取りの開始角度は60°以上であってもよい。この場合、R面取りの半径を小さく設定することや、ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差を大きく設定することでEmin−(Dt−Dw)/2>0を満たせば、比較的大リードのボールねじでも「外径エッジ衝突」しない。しかし、過度にR面取りの半径を小さくすると高速回転において支障がでることから、R面取りの半径は、およそボール直径の0.2倍以上に設定することが望ましい。
また、ボール直径Dw[mm]やねじ軸直径D[mm]の寸法についても、表1に例示した実施例以外を採用してもよく、Y/Dw、Rr/Dw、が本発明の各態様に規定する範囲内であれば同様の効果が期待できる。なお、Dt/Dwは本発明に係る実施例に示すように、Dt/Dw=1.11〜1.15付近が望ましい。また、上記実施例の説明中にも述べたように、L/Dwが比較的大きい場合に「外径エッジ衝突」は生じやすいものの、Emin−(Dt−Dw)/2>0を満たせばL/Dwが0.8未満の場合であっても同様の効果ができる。
また、上記実施形態および各実施例に示した例では、外部循環部材としてリターンチューブを用いたチューブ式ボールねじに関して述べたが、外部循環部材はリターンチューブに限定されない。循環経路の軌跡が同等、つまり、掬い上げ点において掬い上げ角度を有し、ねじ軸と直角の方向に掬い上げる循環方式であれば、同様の効果が期待できる。例えば、外部循環方式のボールねじの他の例として、外部循環部材を樹脂成形してナット径方向から挿入するキャップタイプであっても本発明が適用可能である。
1 ねじ軸
2 ナット
3 ボール
4 リターンチューブ
7 R面取り
8 直線面取り
11 ねじ軸のねじ溝
12 ねじ軸の外径面
21 ナットのねじ溝
31 チューブ装着穴
41 ボール戻し路、循環路下穴

Claims (8)

  1. ねじ軸と、ナットと、複数のボールとを有し、前記ねじ軸は前記ナットを貫通し、前記ねじ軸の外周面に形成された螺旋状のねじ溝と前記ナットの内周面に形成された螺旋状のねじ溝とにより前記ボールが転動する転動路が形成されるとともに、前記転動路の終点から始点に前記ボールを戻すボール戻し路が外部循環部材によって形成され、前記ナットに、前記外部循環部材の端部が連結される循環路下穴が前記転動路に連通するように形成されている外部循環方式のボールねじにおいて、
    前記ねじ軸は、前記ねじ溝の両縁部に、前記ねじ軸の外径面に滑らかに接続する面取りを有し、
    前記面取りと前記ねじ軸の外径面との境界に接するように前記ボールを位置させたときに、そのボール中心が前記ねじ溝に沿って描くらせん軌跡を「エッジ衝突時ボール中心軌跡」と呼び、このエッジ衝突時ボール中心軌跡を前記循環路下穴に直角な断面に投影した時の軌跡を「エッジ衝突時ボール中心投影軌跡」と呼ぶとき、
    前記エッジ衝突時ボール中心投影軌跡から前記循環路下穴中心までの距離の最小値をEmin、ボール直径をDw、循環路下穴直径をDtとしたとき、下記(式1)の関係を満たすことを特徴とするボールねじ。
    Emin−(Dt−Dw)/2>0 (式1)
  2. 前記面取りがR面取りである請求項1に記載のボールねじ。
  3. ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差をボール直径の26.2%以下に設定し、
    前記ねじ軸のねじ溝の溝直角断面形状において前記ボールの中心軸を基準にしてねじ溝の底を0°としたときに、前記R面取りの開始角度を60°以下に設定し、
    前記R面取りの半径をボール直径の50%以下に設定した請求項2に記載のボールねじ。
  4. ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差をボール直径の29.4%以下に設定し、
    前記ねじ軸のねじ溝の溝直角断面形状において前記ボールの中心軸を基準にしてねじ溝の底を0°としたときに、R面取りの開始角度を60°以下に設定し、
    前記R面取りの半径をボール直径の40%以下、若しくは34%以下に設定した請求項2に記載のボールねじ。
  5. 前記面取りが、ねじ溝側に滑らかに接続するR面取りと、このR面取りの外側から前記ねじ軸の外径面に滑らかに接続する直線面取りとから形成されている請求項1に記載のボールねじ。
  6. ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差をボール直径の21.0%以下に設定し、
    前記ねじ軸のねじ溝の溝直角断面形状において前記ボールの中心軸を基準にしてねじ溝の底を0°としたときに、前記R面取りの開始角度を60°以下に設定し、
    前記R面取りの半径をボール直径の36%以下に設定し、
    前記R面取りの範囲を15°以上に設定した請求項5に記載のボールねじ。
  7. ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差をボール直径の26.2%以下に設定し、
    前記ねじ軸のねじ溝の溝直角断面形状において前記ボールの中心軸を基準にしてねじ溝の底を0°としたときに、R面取りの開始角度を60°以下に設定し、
    前記R面取り半径をボール直径の36%以下に設定し、
    前記R面取りの範囲を18°以上に設定した請求項5に記載のボールねじ。
  8. ボールピッチ円直径とねじ軸直径との差をボール直径の29.4%以下に設定し、
    前記ねじ軸のねじ溝の溝直角断面形状において前記ボールの中心軸を基準にしてねじ溝の底を0°としたときに、R面取りの開始角度を60°以下に設定し、
    前記R面取り半径をボール直径の31%以下に設定し、
    前記R面取りの範囲を20°以上に設定した請求項5に記載のボールねじ。
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