以下、本発明の鱗片状微粉体の製造方法について詳細に説明する。
本発明の鱗片状微粉体の製造方法は、高分子フィルムを基材とし、前記基材の表面に融点が50℃以上150℃以下のイオン性液体を設け、次いで、前記イオン性液体の表面に金属または金属化合物の薄膜を形成して積層体を得る積層工程と、前記積層体を前記イオン性液体の融点以上に加熱して、前記基材から前記イオン性液体と前記薄膜とを剥離する剥離工程と、前記イオン性液体と前記薄膜とを分離して、前記薄膜を回収する分離回収工程とを、備える構成としたものである。本発明の鱗片状微粉体の製造方法について、以下に、これらの構成および工程毎に順に説明する。
本発明の基材となる高分子フィルムとしては、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ナイロン樹脂、ビニロン樹脂、アセテート樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、オレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂、などの高分子フィルムを使用することができる。中でも、好ましくは、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等の2軸延伸ポリエステル樹脂フィルムである。特に、2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、耐熱性、機械的強度、平坦性に優れ、比較的安価な点等で好ましい。なお、基材の高分子フィルムの厚さとしては、特に制限はなく、例えば、12〜250μmのものが使用できる。
また、基材の高分子フィルムの表面には、下記のイオン性液体との濡れ性を向上させるために、予め、コロナ放電処理、プラズマ処理などの表面処理を施してもよく、共重合ポリエステル樹脂やポリウレタン樹脂等の易接着層を設けてもよい。
はじめに、本発明の鱗片状微粉体の製造方法における積層工程について説明する。本発明の積層工程においては、まず、上記の基材の高分子フィルムの表面にイオン性液体を形成し、次いで、イオン性液体の表面に金属または金属化合物の薄膜を形成して、高分子フィルム基材の表面に固体状のイオン性液体と金属または金属化合物の薄膜とを順に形成した積層体を得る。
本発明においては、金属または金属化合物の薄膜を積層する下地の剥離層として、イオン性液体を用いる。そして、本発明で用いるイオン性液体は、薄膜の形成時には固体状であることが必須であり、これにより、この固体状のイオン性液体の上に、容易に薄膜が形成できる。このため、本発明で用いるイオン性液体は、常温で固体状であることが望ましく、融点が50℃以上であることが望ましい。また、後述するように、剥離工程において、このイオン性液体を融点以上に加熱して、イオン性液体とともに薄膜を基材から剥離するので、基材の高分子フィルムの耐熱性を考慮すれば、イオン性液体の融点は150℃以下であることが望ましい。したがって、本発明で用いるイオン性液体は、融点が50℃以上150℃以下であることが望ましい。
融点が50℃以上150℃以下であるイオン性液体としては、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムメタンスルフォネート(融点75〜80℃)、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムエチルサルファート(融点67℃)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(融点80℃)、1−メチルイミダゾリウムクロライド(融点75℃)、トリブチルエチラモニウムメチルサルファート(融点62℃)、1,2,3−トリメチルイミダゾリウムメチルサルファート(融点113℃)、テトラブチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルフォニ)イミド(融点94℃)、1−アリル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(融点55℃)、1−ベンジル−3−メチルイミダゾリウムクロライド(融点70℃)、1−ブチル−1−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロクチル)イミダゾリウムヘキサフルオロフォスフォン(融点120℃)、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムクロライド(融点89℃)、1−ベンジル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロフォスフォネート(融点136℃)、1−ベンジル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(融点77℃)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムブロマイド(融点77℃)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロマイド(融点53℃)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロフォスフォネート(融点62℃)、1−メチル−3−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロクチル)イミダゾリウムヘキサフルオロフォスフォネート(融点80℃)、1−ブチルピリジミウムブロマイド(融点105℃)、1−ブチル−4−メチルピリジニムブロマイド(融点135℃)、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムクロライド(融点114℃)、テトラブチルアンモニウムベンゾネート(融点64℃)、テトラブチルアンモニウムメタンスルフォネート(融点78℃)、テトラブチルアンモニウムノナフルオロブタンスルフォネート(融点50℃)、テトラヘキシルアンモニウムテトラフルオロボレート(融点90℃)、テトラオクチルアンモニウムクロライド(融点50℃)、テトラブチルアンモニウムブロマイド(融点102℃)、テトラエチルアンモニウムトリフルオロアセテート(融点74℃)、テトラヘプチルアンモニウムブロマイド(融点89℃)、テトラヘキシルアンモニウムブロマイド(融点97℃)、テトラヘキシルアンモニウムイオダイド(融点99℃)、テトラオクチルアンモニウムブロマイド(融点95℃)、テトラブチルフォスフォニウムメタンスルフォネート(融点59℃)、テトラペンチルアンモニウムブロマイド(融点99℃)、テトラブチルフォスフォニウムテトラフルオロボレート(融点96℃)、テトラブチルフォスフォニウム−p−トルエンスルフォネート(融点54℃)、テトラブチルフォスフォニウムブロマイド(融点102℃)、テトラブチルフォスフォニウムクロライド(融点62℃)、トリブチルヘキサデシルフォスフォニウムブロマイド(融点57℃)などが、好適なイオン性液体として挙げられる。
基材の高分子フィルムの表面にイオン性液体を形成する方法としては、一般的な湿式塗布方法が用いられ、グラビアコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法などの塗工法が使用できる。塗工時には、イオン性液体を融点以上に加熱して、イオン性液体を液状として塗布する。塗布後の硬化は、熱風乾燥ではなく、冷風による冷却によって塗膜を得ることが、一般的な湿式塗布方法との大きな違いである。また、塗布装置は、イオン性液体を液状に保つための液温管理が可能な液溜めと液循環系を有することが望ましい。
形成するイオン性液体の厚さとしては、50nm〜5000nmの範囲が好ましい。50nm未満ではイオン性液体の固体状塗膜に被覆欠陥が発生しやすく、この上に形成する金属または金属化合物の薄膜の回収率が低下し、5000nmを超えると、イオン性液体の固体状塗膜が剥離しやすくなり、同様に回収率が低下するからである。
イオン性液体の表面に形成する薄膜の材料は、本発明において製造の目的とする鱗片状微粉体の材料の種類であり、金属または金属化合物である。金属または金属化合物は、特に限定されるものではないが、金属としては、例えば、金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル、インジウム、アルミニウム、鉄、ロジウム、ルテニウム、オスミウム、コバルト、モリブデン、亜鉛、バナジウム、タングステン、チタン、マンガン、クロム、ケイ素などが挙げられる。また、金属化合物としては、例えば、ITO、In2O3、SiO2、SnO2、Ta2O5、TiO2、BaTiO3などの酸化物、ZnS、CdSなどの硫化物が挙げられる。また、これらの物質は、単体のほか複合物または積層物として形成することもできる。
金属または金属化合物の薄膜を形成する成膜方法は、目的とする鱗片状微粉体の材料の種類や厚みによって選択することが好ましく、周知の化学蒸着法(CVD法)や物理蒸着法(PVD法)などの乾式成膜法が利用できる。これらのうち、薄膜をバルク材料から比較的簡単な系で直接形成できるので、例えば、真空蒸着法やイオンプレーティング法、スパッタリング法などの物理蒸着法(PVD法)が好ましい。そして、成膜時の雰囲気の温度がイオン性液体の融点以下であれば、薄膜が得られ、回収される粉体は、鱗片状となる。成膜時の雰囲気の冷却方法としては、冷却ドラムを使って基材を冷却した状態で成膜するほか、熱交換器等で冷却したガスを基材表面に吹き付けながら成膜する方法により成膜時の輻射熱を防ぎ、基材表面の温度を低温に保つことが出来る。
成膜する薄膜の厚みは、10nm以上1000nm以下の厚みであることが本発明の趣旨から好ましい。これは、10nm以下であると、得られる微粉体が略粒状となってしまい、所望する鱗片状の微粉体を得ることができないからであり、1000nmを超えてしまうと、得られる粉体のサイズが大きくなりすぎ、微粉体により得られる種々の効果を得られないからである。
次に、本発明の鱗片状微粉体の製造方法における剥離工程について説明する。本発明の剥離工程においては、上記の積層工程で得た積層体を、イオン性液体の融点以上に加熱して、基材の高分子フィルムからイオン性液体と薄膜とを剥離する。
積層体を、イオン性液体の融点以上に加熱する方法としては、例えば、積層体に形成したイオン性液体と同種のイオン性液体を用いたイオン性液体浴を別途用意し、融点以上の温度に保持管理されたこのイオン性液体浴中に、積層体を浸漬し通過させることにより行うことができる。これにより、再溶解した下地のイオン性液体とともに、成膜した薄膜が高分子フィルムからから剥離し離脱する。また、イオン性液体の蒸気圧が低いことを利用して、酸素や水に対して活性な薄膜を真空下で剥離することもできる。
続いて、本発明の鱗片状微粉体の製造方法における分離回収工程について説明する。本発明の分離回収工程においては、イオン性液体と薄膜とを分離して、薄膜を回収する。薄膜の分離および回収は、上記の剥離工程よりイオン性液体中に分散した薄膜を、例えば、遠心分離法等によって濃縮および分離回収することができる。
以上により、純度の高い鱗片状の微粉体を高収率で生産性良く製造することができる。また、剥離工程において溶剤および樹脂等の不純物を使用しないので、剥離層として用いたイオン性液体や基材は、品質を劣化させること無く容易に回収し再利用することが可能である。
なお、本発明の鱗片状微粉体の製造方法においては、上記の剥離工程または分離回収工程の後に、薄膜を粉砕する粉砕工程を備えることが好ましい。粉砕工程では、上記の剥離工程または分離回収工程で得られた粗粉状の薄膜をさらに粉砕することにより、所望の寸法形状の鱗片状微粉体とすることができる。
本発明の製造方法により得られる鱗片状微粉体の寸法形状としては、面における最も長い端から端の長さの平均値である平均長径が0.1μm以上50μm以下であることが好ましく、上記のように厚みは10nm以上1000nm以下が好ましい。そして、平均長径および厚みがこれらの範囲であって、かつ、厚みに対する平均長径の比であるアスペクト比が20以上のものとすると、好ましい鱗片状微粉体となる。この寸法形状の鱗片状微粉体は、例えば、インクや塗料、化粧料等に含有させて使用した場合、表面に微粉体が浮き出てしまうこともなくその表面は滑らかで、塗料であれば滑らかな鏡面状の金属光沢等を付与でき、化粧料では高級ラメ感等を呈することができる。
粉砕工程における薄膜を粉砕する方法としては、一般的な機械的粉砕方法が使用でき、例えば、超音波ホモジナイザー、ジェットミル、ビーズミル等による機械的粉砕方法が挙げられる。この粉砕は、水中またはアルコール等の溶媒中で行ってもよい。
以上説明した本発明の鱗片状微粉体の製造方法により、純度の高い鱗片状の微粉体を高収率で生産性良く製造することができる。また、インクや塗料、化粧料等に含有させて使用した場合、望ましい効果が得られる形状の鱗片状微粉体を製造することができる。