JP2015056316A - 電気絶縁油組成物及び油含浸電気機器 - Google Patents

電気絶縁油組成物及び油含浸電気機器 Download PDF

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Abstract

【課題】 −50℃〜65℃の広範な温度範囲において絶縁破壊電圧を高く維持することができ、且つ、高温で長時間使用した場合でも絶縁破壊電圧の低下を抑制することができる電気絶縁油組成物を提供すること。
【解決手段】 1,1−ジフェニルエタンとベンジルトルエンとを含み、ベンジルトルエン中のパラ異性体の割合がベンジルトルエン全量を基準として45質量%以上である、電気絶縁油組成物。
【選択図】 なし

Description

本発明は、電気絶縁油組成物及び油含浸電気機器に関する。
コンデンサ油などの電気絶縁油に対して主に求められる性能は、絶縁破壊電圧が高いことをはじめ、水素ガス吸収性が高いこと、粘度が低いこと、融点が低いことなどのほか、コンデンサ素子を構成するパッキンや誘電体部材など各種部材への適用性が良いことが挙げられる。近年、コンデンサをはじめ、各種油入電気機器(油含浸電気機器)が世界中において使用されるに当たり、より絶縁破壊電圧の高い電気絶縁油が使用されつつある。世界経済の発展に伴って、油含浸電気機器には、これまで使用されていなかった極低温の地域での使用が求められ、それに対応できる低温特性に優れた電気絶縁油の検討が進められている。一方で、従来からのコンデンサの性能向上の過程で、高い誘電率を有するポリプロピレンフィルムが電極間の誘電体として紙に替わり使用されるようになっている。上述のような高い電気絶縁性を有する絶縁油はそれを構成する化合物が芳香族化合物であることが一般的であり、その性質ゆえに、ポリプロピレンフィルムを膨潤させ、フィルムの欠陥の拡大や、強く巻かれたコンデンサ中での機械的ストレスの増大などにより、コンデンサの絶縁破壊電圧を低下させる要因となる。この影響は特に高温時に顕著であり、屋外に設置の産業用機器においてはその使用形態ゆえに高温における電気特性も重要である。
長きに渡って、高い絶縁破壊電圧を有する電気絶縁油として、ベンジルトルエンとジベンジルトルエンの混合物が使用されている。ベンジルトルエンは分子中の芳香族炭素の比率が高く、水素ガス吸収性が高く、耐電圧特性に優れているため、電気絶縁油に広く用いられている。
また、下記特許文献1には、ベンジルトルエンとジトリルメタンで構成された電気絶縁油が記載されているが、配合する物質やその配合割合によって、性能が大きく変わっていることが分かる。すなわち、電気絶縁油は配合する物質によって、理屈では考えられないような性能を引き出すことがまれにある。
他方、1−フェニル−1−キシリルエタン或いは1−フェニル−1−エチルフェニルエタンはその製造が容易であり、絶縁破壊電圧が比較的高く、誘電損失が小さいなどの優れた特性を有していることから、電気絶縁油に広く用いられている。例えば、絶縁破壊電圧や誘電損失が優れていることに加え、酸化安定性が特に優れている電気絶縁油組成物として、1−フェニル−1−(2,4−ジメチルフェニル)エタンあるいは1−フェニル−1−(2,5−ジメチルフェニル)エタンからなる組成物が提案されている(下記特許文献2参照)。
特開昭63−64217号公報 特開昭57−50708号公報
ところで、ベンジルトルエンを用いた電気絶縁油に関する近年の研究は、低温領域における結晶析出を予防し、低温環境下でも優れた性能を有するコンデンサに供することを想定したものが主である。
しかし、大型ゆえに屋外に設置させることの多い産業用電気機器には、周辺温度が50℃程度であっても使用できる性能が求められる。言い換えれば、50℃以上での高温においても、高い性能を長期にわたり維持することがコンデンサ等の電気機器及びそれに用いられる電気絶縁油に求められる。
高温におけるコンデンサの性能低下のひとつに、コンデンサの最重要部材の一つである電極間の誘電体として使用されているポリプロピレンフィルムに対する電気絶縁油による膨潤が挙げられる。
近年のポリプロピレンフィルムは絶縁の欠陥が少ないフィルムであるが、絶縁破壊をより確実に防ぐために電極間に2枚のフィルムを挿入し、絶縁の欠陥部分が重ならない限り、絶縁の欠陥に起因するコンデンサの絶縁破壊が起きないように工夫されている。しかしながら、ポリプロピレンフィルムは膨潤により体積が膨張するため密度の低下が生じ、非含浸時は絶縁の欠陥とは言えなかった程度の軽微な欠陥が膨潤により明らかな絶縁の欠陥になるまで広げられ、絶縁破壊に至る場合がある。この問題は、コンデンサが高温に曝される時間が長くなるほど顕著に生じる。
特に油含浸コンデンサの素子は、アルミ電極間にポリプロピレンフィルムを挟んだ後に巻回し、それを巻回の直径方向から圧力をかけて潰してケースに入れられる。そのため、巻回されたポリプロピレンフィルムは外周から内周にかけて曲率半径が変化するとともに、同一周においても平面部分と曲面部分が生じ、特に曲面部分においては、油含浸前の段階であってもある程度のストレスがかかった状態となる。その曲面部分に電気絶縁油を含浸した場合、平面部分よりも膨潤の影響を多く受けるため、曲面部分に欠陥の生成が起こりやすく、絶縁破壊に至る場合がある。
よって、ポリプロピレンフィルムを用いたコンデンサへの油の選定においては、ポリプロピレンフィルムに対する膨潤性を検討し、より膨潤性の低い電気絶縁油を使用するべきである。この膨潤性の低い電気絶縁油の開発が、高温環境下において優れた性能を有するコンデンサ等の電気機器を提供することにつながる。
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、−50℃〜65℃の広範な温度範囲において絶縁破壊電圧を高く維持することができ、且つ、高温で長時間使用した場合でも絶縁破壊電圧の低下を抑制することができる電気絶縁油組成物及び油含浸電気機器を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明は、1,1−ジフェニルエタンとベンジルトルエンとを含み、上記ベンジルトルエン中のパラ異性体の割合が上記ベンジルトルエン全量を基準として45質量%以上である、電気絶縁油組成物を提供する。
上記本発明の電気絶縁油組成物を開発するために、本発明者らは鋭意研究を重ね、以下の検討を行った。すなわち、ベンジルトルエン(以下、場合により「BT」と略す)の各異性体について、ポリプロピレンフィルムの膨潤性について検討を行ったところ、実験による膨潤性の調査は難しいことがわかった。具体的には、フィルムの膜厚が非常に薄い(20μm以下)こと、及び、フィルム表面に付着した余剰油の除去が難しいことなどから、油含浸後のフィルムの重量変化等により膨潤性を正確に評価することは難しいことがわかった。そこで、理論的な指針を探るべく、検討を行ったところ、ハンセンの溶解度パラメータを適用するに至った。ベンジルトルエンの各異性体とポリプロピレンとの溶解度パラメータ値(SP値)を比較し、ポリプロピレンフィルムへの膨潤性の指標とした。ポリプロピレンとベンジルトルエンの各異性体とのハンセンのSP値の距離を比較すると、o−BTは5.61、m−BTは5.80、p−BTは6.00と計算された。SP値距離は大きいほど相溶性が低いと言える評価であるが、本検討においてはそれをSP値距離は大きいほど膨潤性が低いと解釈した。
しかしながら、ベンジルトルエンの各異性体の膨潤性及びSP値距離のみでは、電気絶縁油組成物の高温における性能を必ずしも評価できるわけではない。また一方で、高温での膨潤抑制だけでなく、低温における性能の維持も電気絶縁油組成物には求められており、そのため凝固点降下を利用した低温での固化防止及び低粘度化についても研究を重ねた。その結果、1,1−ジフェニルエタンとベンジルトルエンとを併用し、且つ、ベンジルトルエン中のパラ異性体(p−BT)の割合を所定の割合以上とすることで、上述した低温及び高温での特性をバランスさせ、低温で使用可能であり且つ高温における耐久性を有する本発明の電気絶縁油組成物を完成させた。かかる本発明の電気絶縁油組成物によれば、上記構成を有することにより、−50℃〜65℃の広範な温度範囲において絶縁破壊電圧を高く維持することができ、且つ、高温で長時間使用した場合でも絶縁破壊電圧の低下を抑制することができる。
本発明の電気絶縁油組成物において、上記1,1−ジフェニルエタン及び上記ベンジルトルエンの合計の含有量は、電気絶縁油組成物全量を基準として80質量%以上であることが好ましい。これにより、−50℃〜65℃の広範な温度範囲において絶縁破壊電圧をより高く維持することができ、且つ、高温で長時間使用した場合でも絶縁破壊電圧の低下をより抑制することができる。
本発明の電気絶縁油組成物は、さらにエポキシ化合物を、電気絶縁油組成物全量を基準として0.01〜1.0質量%含有することが好ましい。これにより、電気絶縁油組成物中の塩素等の極性物質分による性能の悪化を抑制することができる。その結果、電気絶縁油組成物の性能の悪化が抑制され、−50℃〜65℃の広範な温度範囲において絶縁破壊電圧をより高く維持することができ、且つ、高温で長時間使用した場合でも絶縁破壊電圧の低下をより抑制することができる。
本発明の電気絶縁油組成物は、塩素分が50質量ppm以下であることが好ましい。これにより、電気絶縁油組成物の性能の悪化が抑制され、−50℃〜65℃の広範な温度範囲において絶縁破壊電圧をより高く維持することができ、且つ、高温で長時間使用した場合でも絶縁破壊電圧の低下をより抑制することができる。
本発明はまた、上記本発明の電気絶縁油組成物が含浸されている油含浸電気機器を提供する。また、上記油含浸電気機器は、誘電体として少なくとも一部にポリプロピレンフィルムを用いた油含浸コンデンサであることが好ましい。これらの油含浸電気機器は、本発明の電気絶縁油組成物を用いているため、−50℃〜65℃の広範な温度範囲において絶縁破壊電圧を高く維持することができ、且つ、高温で長時間使用した場合でも絶縁破壊電圧の低下を抑制することができる。
本発明によれば、−50℃〜65℃の広範な温度範囲において絶縁破壊電圧を高く維持することができ、且つ、高温で長時間使用した場合でも絶縁破壊電圧の低下を抑制することができる電気絶縁油組成物及び油含浸電気機器を提供することができる。本発明の電気絶縁油組成物は、上記のように低温で使用可能な電気絶縁油組成物であるだけでなく、例えばコンデンサ部材への高温における影響が少なく、それゆえに高温におけるコンデンサ性能の劣化を顕著に抑制できる電気絶縁油組成物である。よって、本発明の電気絶縁油組成物は、コンデンサの誘電体としてポリプロピレンフィルムの使用が盛んな現在、実用的に極めて優れた電気絶縁油組成物である。
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
本実施形態に係る電気絶縁油組成物は、1,1−ジフェニルエタンとベンジルトルエンとを配合したジアリールアルカン混合物を含むものであり、上記ベンジルトルエン中のパラ異性体の割合が、ベンジルトルエン全量を基準として45質量%以上であるものである。
1,1−ジフェニルエタン及びベンジルトルエンの入手方法には特に制限はなく、市販品を用いてもよいし、自ら製造してもよい。ベンジルトルエンについては、パラ異性体の割合が上記範囲となるように製造方法を調整してもよいし、各異性体を別々に製造して所望の割合で混合してもよい。
ベンジルトルエン中のパラ異性体の割合はベンジルトルエン全量(全異性体の合計量)を基準として45質量%以上であるが、高温で長時間使用した場合の絶縁破壊電圧の低下をより一層抑制する観点から、50質量%以上であることが好ましく、52質量%以上であることがより好ましく、55質量%以上であることが更に好ましい。一方、低温での性能と高温での性能をバランス良く向上させる観点から、ベンジルトルエン中のパラ異性体の割合は、ベンジルトルエン全量を基準として、80質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることが更に好ましい。
ベンジルトルエン中のパラ異性体以外の異性体の割合は特に限定されないが、低温における結晶化及び流動性(粘度)の低下による絶縁性能の低下の抑制という観点から、メタ異性体の割合が、ベンジルトルエン全量を基準として、5質量%以上であることが好ましく、8質量%以上であることがより好ましい。
電気絶縁油組成物中の1,1−ジフェニルエタン(1,1−DPE)とベンジルトルエン(BT)との比(1,1−DPE/BT)は特に限定されないが、低温での性能をより向上させる観点から、質量比で0.50以上であることが好ましく、0.55以上であることがより好ましく、0.58以上であることが更に好ましい。また、上記比は、電気絶縁油組成物中のp−BTの濃度を十分に高くし、高温での絶縁破壊電圧をより向上させる観点から、質量比で2.5以下であることが好ましく、2.2以下であることがより好ましく、2.0以下であることが更に好ましく、1.3以下であることが特に好ましい。
また、電気絶縁油組成物中のp−BTの含有量については特に限定されないが、高温で長時間使用した場合の絶縁破壊電圧の低下をより一層抑制する観点から、電気絶縁油組成物全量を基準として、13質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、18質量%以上であることが更に好ましく、20質量%以上であることが特に好ましい。一方、低温での性能と高温での性能をバランス良く向上させる観点から、電気絶縁油組成物中のp−BTの含有量は、電気絶縁油組成物全量を基準として、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましい。
電気絶縁油組成物は、1,1−ジフェニルエタン及びベンジルトルエン以外の成分を含有することができるが、1,1−ジフェニルエタン及びベンジルトルエンの合計の含有量が、電気絶縁油組成物全量を基準として80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが更に好ましい。1,1−ジフェニルエタン及びベンジルトルエンの合計の含有量を上記範囲内とすることにより、広範な温度範囲における絶縁破壊電圧をより高く維持することができる。
電気絶縁油組成物は、1,1−ジフェニルエタン及びベンジルトルエン以外に、炭素数12〜18のアルキルベンゼン、シクロアルキルベンゼン、1,2−ジフェニルエタンやジフェニルメタンなどの2環の芳香族化合物、アルキルナフタレンなどの多環芳香族化合物等の他の炭化水素を含んでいてもよい。
ベンジルトルエンは通常、ベンジルクロライドとトルエンとを反応させて製造されるため、電気絶縁油組成物中には塩素分が含まれることとなる。しかし、塩素分は電気絶縁油組成物の性能を悪化させることが分かっている。このため電気絶縁油組成物中の塩素分は、50質量ppm以下であることが好ましく、30質量ppm以下であることがより好ましく、10質量ppm以下であることが更に好ましい。塩素分の含有量を上記範囲に抑えることにより、電気絶縁油組成物の性能の悪化を抑制することができる。電気絶縁油組成物は、白土処理を行うことにより電気絶縁油組成物の性能に悪影響を及ぼす極性物質が除去されるが、有機塩素分は白土処理での除去が難しいため、ベンジルトルエンの製造段階で塩素濃度を低くすることが望ましい。
電気絶縁油組成物の性能は、水や極性物質の含有により誘電正接が高くなるが、誘電正接が高いと絶縁性が低くなるため、電気絶縁油組成物としての性能は悪化する。これらを回避するために、電気絶縁油組成物を活性白土と接触させて水や極性物質を除去すると、誘電正接が低減し性能が良化する。このとき使用する活性白土は、特に限定されない。活性白土の形状としては、特に限定されないが、実用上の観点から成型体の方が好ましい。塩素分については必ずしも活性白土で除去できないため、好ましくは塩化水素のトラップ剤としてエポキシ化合物を添加する。このエポキシ化合物は、活性白土と接触させることによってある程度除去されることから、電気絶縁油組成物が白土処理された後にエポキシ化合物を添加することが望ましい。
エポキシ化合物としては、例えば、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシシクロヘキサン)カルボキシレート、ビニルシクロヘキセンジエポキサイド、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル(3,4−エポキシ−6−メチルヘキサン)カルボキシレートなどの脂環式エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、オルソクレゾールノボラック型エポキシ化合物などのビスフェノールAのジグリシジルエーテル型エポキシ化合物等が例示される。エポキシ化合物の添加量としては、電気絶縁油組成物全量を基準として0.01〜1.0質量%であることが好ましく、0.3〜0.8質量%であることがより好ましい。添加量が0.01質量%未満では塩素分をトラップする効果が十分に発揮されない傾向があり、1.0質量%を超えると電気絶縁油組成物の電気特性が低くなり、コンデンサ内部で誘電損失となって発熱しコンデンサの性能を損ねる傾向がある。
本実施形態の電気絶縁油組成物は、油含浸電気機器に好適に用いられ、特にプラスチックフィルムを絶縁材料又は誘電体材料の少なくとも一部に使用した油含浸コンデンサに含浸させるために好適に用いられる。
プラスチックフィルムとしては、ポリエステルフィルム、ポリフッ化ビニリデンフィルムなどの他、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルムなどのポリオレフィンフィルム等を用いることができるが、その中でもポリオレフィンフィルムが好適である。特に好適なポリオレフィンフィルムはポリプロピレンフィルムである。
本実施形態において好適な油含浸コンデンサは、導体としてアルミニウムなどの金属箔と、上記絶縁材料又は誘電体材料としてのプラスチックフィルムとを、必要に応じて絶縁紙などの他の材料と共に巻回し、常法により電気絶縁油組成物を含浸させることにより製造される。あるいは、油含浸コンデンサは、上記絶縁材料又は誘電体材料としてのプラスチックフィルム上に、アルミニウム、亜鉛などの導体としての金属層を蒸着などの方法により形成した金属蒸着プラスチックフィルム(メタライズド・フィルム)を、必要に応じてプラスチックフィルムあるいは絶縁紙と共に巻回し、常法により電気絶縁油組成物を含浸させることによっても製造される。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
表1に示すように、1,1−ジフェニルエタン(1,1−DPE)35質量%及びベンジルトルエン(BT)60質量%を含む電気絶縁油組成物を調製した。ここで、1,1−DPEは、有効成分濃度(1,1−DPE濃度)が85質量%以上のDPE留分として配合し、DPE留分に含まれていた1,1−DPE以外の成分は、表1中、その他成分として示した。また、表1に示したその他成分の含有量は、後述するエポキシ化合物0.65質量%も含めた量である。ベンジルトルエンは、特公平8−8008号公報に記載の参考製造例を追試することにより製造したベンジルトルエンを、蒸留により各異性体に精密に分離し、その後留分の混合により異性体比をオルソ体(o−BT)3質量%、メタ体(m−BT)51質量%、パラ体(p−BT)46質量%としたものを用いた。また、その他成分には、1,1−ジフェニルエタン及びベンジルトルエン以外のジフェニルメタン、1,2−ジフェニルエタンなどの2環芳香族化合物、アルキルナフタレンなどの多環芳香族化合物、炭素数12〜18のアルキルベンゼン類、並びに、シクロアルキルベンゼンが含まれる。表1中の数値の単位は、塩素分については質量ppm、他はいずれも質量%である。
(実施例2〜12及び比較例1〜6)
1,1−DPE含有量、BT含有量、その他成分含有量及びBT異性体比を表1に示す値に変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2〜12及び比較例1〜6の電気絶縁油組成物を調製した。BT異性体比は、実施例1と同様にして製造したベンジルトルエンの各異性体の混合割合を変えることで調整した。
(比較例7〜8)
1,1−DPEに代えてフェニルキシリルエタン(PXE)を表1に示す量で使用したこと、BT含有量、その他成分含有量及びBT異性体比を表1に示す値に変更したこと以外は実施例1と同様にして、比較例7〜8の電気絶縁油組成物を調製した。BT異性体比は、実施例1と同様にして製造したベンジルトルエンの各異性体の混合割合を変えることで調整した。


Figure 2015056316



<試験A:モデルコンデンサによる試験油の評価>
試験に用いたコンデンサは次の通りである。誘電体として厚み12.7μm(重量法)の信越フィルム(株)製のインフレーション法ポリプロピレンフィルムを2枚重ねたものを使用し、電極としてアルミニウム箔を使用した。これらを常法に従って、巻回、積層することにより、油含浸用のモデルコンデンサ素子を作製した。
この素子は0.2〜0.3μFの静電容量を有している。この素子をブリキ製の缶に入れた。缶は絶縁体が低温で収縮したときに充分に対応できるように柔軟な構造にした。また、電極の端部はスリットしたままで折り曲げていない状態とした。電極から端子までを結線する方法として、高周波用コンデンサに用いられる方法と同じく、電極の一端をそれぞれポリプロピレンフィルムからはみ出した構造で巻き、はみ出した部分をまとめてリード線とスポット溶接する構造にした。
このようにして準備した缶型のコンデンサを、常法に従って真空乾燥した後、同じ真空下で試験油(実施例1〜12及び比較例1〜8の電気絶縁油組成物)を含浸し、封口した。なお、含浸にあたっては各試験油を予め活性白土で処理してから用いた。すなわち、水沢化学工業(株)製の活性白土ガレオナイト#036を試験油(下記エポキシ化合物の添加前のもの)に10質量%添加し、液温25℃で30分間撹拌した後、濾過した。濾過後、塩素捕獲剤としてエポキシ化合物(脂環式エポキシド、商品名:セロキサイド2021P、ダイセル化学工業(株)製)を、電気絶縁油組成物全量を基準として0.65質量%となるように添加し、得られた電気絶縁油組成物を試験油として、含浸に用いた。
次に、コンデンサ内部での含浸状況を均一にして安定化するために、恒温槽中、80℃で2昼夜熱処理を施した。その後、コンデンサを室温で5日間静置した後、AC1270V(50V/μmに相当)にて30℃の恒温槽で16時間課電処理をした後に試験に供した。これを予備課電と称する。
次に、これら油含浸コンデンサを所定の温度下で所定の方法で交流電圧を課電して、コンデンサが絶縁破壊を起こした電圧と時間から下記式(1)により絶縁破壊電圧を求めた。なお、所定の温度は、−50℃及び80℃とした。高温側においては、実際には65℃での性能が要求されるが、本試験ではより厳しい条件である80℃にて評価を行った。所定の課電方法とは、電位傾度50v/μmから、24時間毎に10v/μmの割合で段階的に課電電圧を上昇させる方法である。結果を表2に示す。
絶縁破壊電圧(v/μm)=V+S×(T/1440) …(1)
式(1)中、Vは絶縁破壊時の課電電圧(v/μm)を、Sは24時間毎の上昇電圧(v/μm)を、Tは課電電圧上昇後、絶縁破壊までの経過時間(分)をそれぞれ示す。
<試験B:耐久性試験>
試験Aに供したコンデンサと同じコンデンサを作製し、予備課電まで実施したものを用意した。これらのモデルコンデンサに対して、試験Aにおいて得られた80℃における絶縁破壊電圧の90%の電位傾度を60℃において1000時間印加した。1000時間に至るまでに絶縁破壊したものはその時間を、1000時間まで破壊が起こらなかったものについては、その段階から試験Aと同様の絶縁破壊試験を80℃にて実施し、60℃で長時間の課電後におけるコンデンサの性能評価(耐久性試験)を実施した。また、性能低下率を、下記式(2)により求めた。結果を表2に示す。
性能低下率(%)={(試験Aでの80℃絶縁破壊電圧−試験Bでの1000時間後の80℃絶縁破壊電圧)/試験Aでの80℃絶縁破壊電圧}×100 …(2)
Figure 2015056316


表2に示した結果から分かるように、実施例では試験A及び試験Bの両方で良好な結果が得られた。これにより実施例の電気絶縁油組成物は、低温での高い性能を有するだけでなく、高温領域においても高い耐久性を有する高性能な電気絶縁油組成物であることが確認された。一方、比較例1及び7では、試験Bにおいて1000時間後の性能低下率が大きく、比較例2〜6及び8では、試験Bにおいて1000時間以内に絶縁破壊が発生した。また、試験B実施後のモデルコンデンサについて、コンデンサ素子表面に露出したポリプロピレンフィルムを観察したところ、ポリプロピレンフィルムの体積膨張を示すフィルム表面の皺が、比較例1〜8では顕著であり、一方で実施例1〜12においてはその数及び皺の程度が小さかった。
本発明の電気絶縁油組成物は、低温領域での必要な性能を有するだけでなく、ポリプロピレンフィルムの膨潤性を抑制したことにより、高温領域においても優れた電気特性を有しており、コンデンサ含浸用等として実用的に極めて有用である。

Claims (6)

  1. 1,1−ジフェニルエタンとベンジルトルエンとを含み、前記ベンジルトルエン中のパラ異性体の割合が前記ベンジルトルエン全量を基準として45質量%以上である、電気絶縁油組成物。
  2. 前記1,1−ジフェニルエタン及び前記ベンジルトルエンの合計の含有量が、電気絶縁油組成物全量を基準として80質量%以上である、請求項1に記載の電気絶縁油組成物。
  3. さらにエポキシ化合物を、電気絶縁油組成物全量を基準として0.01〜1.0質量%含有する、請求項1又は2に記載の電気絶縁油組成物。
  4. 塩素分が50質量ppm以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電気絶縁油組成物。
  5. 請求項1〜4のいずれか一項に記載の電気絶縁油組成物が含浸されている油含浸電気機器。
  6. 誘電体として少なくとも一部にポリプロピレンフィルムを用いた油含浸コンデンサである、請求項5記載の油含浸電気機器。

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