[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る電磁クラッチ装置及びその周辺部の断面図である。この電磁クラッチ装置は、例えば車両のエンジン等の駆動源の駆動力を断続可能に伝達するために用いられる。
この電磁クラッチ装置1は、第1回転部材11と第2回転部材12とをトルク伝達可能に連結する。第1回転部材11及び第2回転部材12は、回転軸線Oを共有して同軸上で相対回転可能にハウジング10に支持されている。ハウジング10は、第1ハウジング部材101及び第2ハウジング部材102からなり、第1ハウジング部材101と第2ハウジング部材102とが複数のボルト103(図1には1つのボルト103のみを示す)によって相互に固定されている。
第2回転部材12は、第1ハウジング部材101との間に配置された玉軸受16によって回転可能に支持されている。第2回転部材12は、玉軸受16に支持された軸部121と、軸部121の端部から径方向外方に張り出して形成された張り出し部122と、張り出し部122の外径端部から回転軸線Oに沿って第1回転部材11側に延在する円筒部123と、円筒部123の先端部からさらに径方向外方に張り出して形成されたフランジ部124と、フランジ部124の外周に形成されたスプライン嵌合部125とを一体に有している。
第1回転部材11は、第2ハウジング部材102に形成された開口102aから挿入されるシャフト100を挿通させる挿通孔11aが形成された円筒部110と、円筒部110の外周面から径方向外方に張り出して形成されたフランジ部111と、フランジ部111の外周に形成された第1噛合部としてのスプライン嵌合部112とを一体に有している。挿通孔11aの内面には、シャフト100の外周スプライン嵌合部100aにスプライン嵌合する内周スプライン嵌合部11bが形成されている。第1回転部材11とシャフト100とは、内周スプライン嵌合部11bと外周スプライン嵌合部100aとのスプライン嵌合により相対回転不能に連結され、かつスナップリング100cによって軸方向の相対移動が規制されている。シャフト100の外周面と第2ハウジング部材102の開口102aの内面との間は、シール部材100dによって封止されている。
第1回転部材11は、その軸方向における第2回転部材12側の端部に設けられた一端小径部110bが第2回転部材12の円筒部113の内側に配置された玉軸受17によって支持され、第2ハウジング部材102の開口102a側の端部に設けられた他端小径部110cが第2ハウジング部材102との間に配置された玉軸受18によって支持されている。一端小径部110bと他端小径部110cとの間には、一端小径部110b及び他端小径部110cよりも外径が大きい大径部110aが形成され、フランジ部111は、大径部110aにおける一端小径部110b側の端部に設けられている。第1回転部材11の外周面とハウジング10との間には、電磁クラッチ装置1が配置されている。
電磁クラッチ装置1は、第2回転部材12に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結された噛み合い部材2と、通電により磁力を発生する電磁コイル3と、電磁コイル3の磁力によって軸方向移動するアーマチャ4と、噛み合い部材2を軸方向に付勢する付勢部材7と、アーマチャ4の軸方向移動により付勢部材7の付勢力に抗して噛み合い部材2を押圧して軸方向移動させる押圧機構1aとを有している。
噛み合い部材2は、第1回転部材11の円筒部110における大径部110aに外嵌された円筒部21と、円筒部21における第1回転部材11のフランジ部111側の端部から径方向外方に張り出して形成されたフランジ部22と、フランジ部22の外径側の端部から回転軸線Oに沿って第2回転部材12側に延在する円筒部23と、円筒部23の内周に形成された第2噛合部としてのスプライン嵌合部24とを一体に有している。
噛み合い部材2のフランジ部22における第1回転部材11のフランジ部111との対向面22a、及び第1回転部材11のフランジ部111における噛み合い部材2のフランジ部22との対向面111aは、図1において回転軸線Oよりも下側に示すように、第1回転部材11と第2回転部材12との連結状態において隙間を介して軸方向に向かい合う。本実施の形態では、両対向面111a,22aが共に回転軸線Oの径方向に対して平行な平坦な面であり、後述するカム部材5の軸方向移動によって噛み合い部材2が第2回転部材12側に押圧される際に、対向面22aが対向面111aに押し付けられて摩擦摺動する。
噛み合い部材2は、そのスプライン嵌合部24が第2回転部材12に設けられたスプライン嵌合部125に常に噛み合い、第2回転部材12との相対回転が規制されている。また、噛み合い部材2は、第2回転部材12から離間する方向への軸方向移動によって、スプライン嵌合部24が第1回転部材11に設けられたスプライン嵌合部112に噛み合う。噛み合い部材2のスプライン嵌合部24が第2回転部材12のスプライン嵌合部125及び第1回転部材11のスプライン嵌合部112に共に噛み合うと、第1回転部材11と第2回転部材12とが噛み合い部材2を介してトルク伝達可能に連結される。
図1では、回転軸線Oよりも上側に噛み合い部材2のスプライン嵌合部24が第1回転部材11のスプライン嵌合部112に噛み合っていない状態(非連結状態)を示し、回転軸線Oよりも下側に噛み合い部材2のスプライン嵌合部24が第1回転部材11のスプライン嵌合部112に噛み合った状態(連結状態)を示している。
付勢部材7は、噛み合い部材2のスプライン嵌合部24が第1回転部材11のスプライン嵌合部112に噛み合う方向に噛み合い部材2を付勢する。本実施の形態では、複数の皿バネ70を回転軸線O方向に沿って配列して付勢部材7が構成されているが、付勢部材7をコイルバネやゴム等の弾性体によって構成してもよい。また、付勢部材7は、回転軸線Oに沿った軸方向の一端が第2回転部材12の円筒部123の外周に嵌合された止め輪71に当接し、かつ軸方向の他端が噛み合い部材2の円筒部23の軸方向端面23aに当接し、噛み合い部材2の円筒部23を第1回転部材11のフランジ部111側に押し付けている。
電磁コイル3は、樹脂からなるボビン31に図略のコントローラから供給される電流が流れる巻線32を巻き回してなる。この電磁コイル3は、鉄等の強磁性体からなる環状のヨーク30に保持され、ヨーク30は第2ハウジング部材102に支持されている。ヨーク30には、回転軸線Oに平行となるように配置された円柱状のピン300が嵌合する複数の穴部30aが形成され、この穴部30aにピン300の一端部が挿入されている。また、第2ハウジング部材102には、ピン300の他端部が嵌合する複数の穴部102bが形成されている。
図2は、アーマチャ4を示す斜視図である。アーマチャ4は、中心部に第1回転部材11を挿通させる貫通孔4aが形成された円環板状の本体40と、貫通孔4aの内周面から本体40の中心に向かって突出する複数(本実施の形態では6つ)の押圧突起41とを一体に有している。本体40には、貫通孔4aの周囲に複数のピン300(図1に示す)を挿通させるピン挿通孔4bが複数箇所(本実施の形態では4箇所)に形成されている。押圧突起41は、後述するカム部材5の第1乃至第4の被係止部51〜54における軸方向端面51a〜54aに対向する対向面41aが、本体40の厚さ方向(回転軸線Oに平行な方向)に対して傾斜した傾斜面として形成されている。
アーマチャ4は、図1に示すように、本体40とヨーク30との間に配置された皿バネ301によって、ヨーク30から離間する方向に弾性的に押し付けられている。アーマチャ4は、電磁コイル3が非通電であるときには、皿バネ301の押し付け力によって第2ハウジング部材102の受け部102cに当接し、電磁コイル3に通電されると、その磁力によってヨーク30に引き寄せられる。また、アーマチャ4は、ピン挿通孔4bに挿通された複数のピン300によって第2ハウジング部材102及びヨーク30に対する回転が規制されている。したがって、アーマチャ4は、第2ハウジング部材102の受け部102cに当接した第1位置と、ヨーク30に接近した第2位置との間を、複数のピン300に案内されて移動する。図1では、回転軸線Oよりも上側にアーマチャ4が第2位置にある状態を示し、回転軸線Oよりも下側にアーマチャ4が第1位置にある状態を示している。
押圧機構1aは、第1回転部材11に対して軸方向移動不能かつアーマチャ4に対して相対回転不能に設けられた係止部19と、軸方向の異なる位置で係止部19に係止される複数の被係止部(後述する第1乃至第4の被係止部51〜54)が形成された円筒状のカム部材5とを有し、アーマチャ4の軸方向移動に応動して係止部19が複数の被係止部のうち軸方向の位置が異なる他の被係止部を係止するように構成されている。
カム部材5は、噛み合い部材2と共に第1回転部材11の円筒部110における大径部110aに外嵌されている。噛み合い部材2及びカム部材5は、第1回転部材11の円筒部110に隙間嵌めされ、第1回転部材11に対して軸方向移動可能かつ相対回転可能である。噛み合い部材2とカム部材5との間には、転がり軸受6が配置されている。本実施の形態では、転がり軸受6が針状スラストころ軸受からなる。噛み合い部材2は転がり軸受6よりも第2回転部材12側に、またカム部材5は転がり軸受6よりも係止部19側に、それぞれ配置されている。
カム部材5は、付勢部材7による押圧力を噛み合い部材2から転がり軸受6を介して複数の係止部19側への軸方向の付勢力として受ける。本実施の形態では、複数の係止部19が第2ハウジング部材102に一体に設けられているが、複数の係止部19は第2ハウジング部材102と別体でもよい。
カム部材5は、アーマチャ4の軸方向移動に応動し、噛み合い部材2のスプライン嵌合部24と第1回転部材11のスプライン嵌合部112との噛み合いが解除される方向に、噛み合い部材2を回転軸線Oに沿って軸方向に押圧する。
図3は、第2ハウジング部材102に設けられた複数の係止部19を示す斜視図である。
第2ハウジング部材102には、第1回転部材11を挿通させる貫通孔102dが形成され、複数の係止部19は、貫通孔102dの内周面から第1回転部材11側に向かって突出し、かつ回転軸線Oに沿ってカム部材5側に突出している。複数の係止部19は、貫通孔102dの周方向に沿って等間隔に設けられ、その個数はアーマチャ4の押圧突起41の個数と同じである。係止部19は、アーマチャ4の押圧突起41における対向面41aと同様に、後述するカム部材5の被係止部51〜54における軸方向端面51a〜54aに対向する先端面19aが、回転軸線Oに平行な方向に対して傾斜した傾斜面として形成されている。
図4は、カム部材5を示す斜視図である。このカム部材5には、軸方向の異なる位置で係止部19に係止される複数の被係止部が周方向に隣り合って形成されている。本実施の形態では、この複数の被係止部が第1乃至第4の被係止部51〜54からなる。これら第1乃至第4の被係止部51〜54は、転がり軸受6が当接する基端面5aとは反対側の端部に、周方向に沿って6組形成されている。
各組における第1乃至第4の被係止部51〜54は、カム部材5を回転軸線Oの方向から時計回りに見た場合に、第1の被係止部51に隣接して第2の被係止部52が形成され、第2の被係止部52に隣接して第3の被係止部53が形成され、第3の被係止部53に隣接して第4の被係止部54が形成されている。第4の被係止部54における第3の被係止部53とは反対側の端部には、軸方向に突出する壁部55が形成されている。
第1乃至第4の被係止部51〜54は、カム部材5の軸方向の位置が互いに異なり、第2の被係止部52は第1の被係止部51よりも基端面5aから離間し、第3の被係止部53は第2の被係止部52よりも基端面5aから離間し、第4の被係止部54は第3の被係止部53よりも基端面5aからさらに離間して形成されている。
第1乃至第4の被係止部51〜54のそれぞれの軸方向端面51a〜54aは、カム部材5の周方向に対して傾斜している。より具体的には、第1の被係止部51の軸方向端面51aは第2の被係止部52側の端部ほど基端面5aに近づくように傾斜し、第2の被係止部52の軸方向端面52aは第3の被係止部53側の端部ほど基端面5aに近づくように傾斜し、第3の被係止部53の軸方向端面53aは第4の被係止部54側の端部ほど基端面5aに近づくように傾斜し、第4の被係止部54の軸方向端面54aは壁部55側の端部ほど基端面5aに近づくように傾斜している。
壁部55は、その軸方向の端面55aが軸方向端面51a〜54aと同方向に傾斜している。また、壁部55は、その周方向における一方の側面55bが第4の被係止部54に面している。
第1乃至第4の被係止部51〜54の軸方向端面51a〜54aには、アーマチャ4の押圧突起41における対向面41a及び係止部19の先端面19aが当接する。アーマチャ4の対向面41aは、軸方向端面51a〜54aのカム部材5の径方向外側の部分に当接し、係止部19の先端面19aは、軸方向端面51a〜54aのカム部材5の径方向内側の部分に当接する。カム部材5は、付勢部材7により、軸方向端面51a〜54aがアーマチャ4の押圧突起41及び係止部19に押し付けられる軸方向の付勢力を受ける。
係止部19が第1の被係止部51を係止するとき、係止部19の先端面19aと基端面5aとの間隔は最も短くなる。また、係止部19が第4の被係止部54を係止するとき、係止部19の先端面19aと基端面5aとの間隔は最も長くなる。
係止部19が第1の被係止部51を係止するとき、図1において回転軸線Oよりも下側に示すように噛み合い部材2のスプライン嵌合部24が第1回転部材11のスプライン嵌合部112に噛み合い、係止部19が第4の被係止部54を係止するとき、図1において回転軸線Oよりも上側に示すように噛み合い部材2のスプライン嵌合部24と第1回転部材11のスプライン嵌合部112との噛み合いが解除される。係止部19が第2の被係止部52又は第3の被係止部53を係止した状態では、噛み合い部材2のスプライン嵌合部24が第1回転部材11のスプライン嵌合部112の一部に噛み合う。
(押圧機構1aの動作)
次に、押圧機構1aの動作について、図5及び図6を参照して説明する。
図5(a)〜(d)は、第2ハウジング部材102における複数の係止部19以外の部分の図示を省略してアーマチャ4及びカム部材5を示す斜視図である。図6(a)〜(d)は、カム部材5をアーマチャ4の押圧突起41及び係止部19と共に径方向の外側から見た状態を示す模式図である。
図5(a)及び図6(a)は、係止部19が第1の被係止部51を係止し、アーマチャ4が第1位置にある第1状態を示している。この第1状態では、付勢部材7の付勢力により第1の被係止部51の軸方向端面51aが係止部19の先端面19aに押し付けられ、かつアーマチャ4の押圧突起41における対向面41aに対向する。また、係止部19は第1の被係止部51の周方向の側面51bに当接し、アーマチャ4の押圧突起41は側面51bからカム部材5の周方向に離間した位置で軸方向端面51aに対向する。第1の被係止部51の側面51bは、第1の被係止部51と第2の被係止部52との間に形成された段差面であり、カム部材5の軸方向に平行な平坦な面である。第1の被係止部51において、軸方向端面51aと側面51bとがなす角は鋭角である。
図5(b)及び図6(b)は、電磁コイル3に通電され、図5(a)及び図6(a)に示す第1状態からアーマチャ4が第2位置に移動した第2状態を示している。アーマチャ4は、第1状態から第2状態に移行する過程で押圧突起41の対向面41aが軸方向端面51aに当接し、押圧突起41がカム部材5を噛み合い部材2側に押圧する。また、この第2状態では、係止部19が第1の被係止部51の側面51bに当接した状態が解除され、カム部材5は、第1の被係止部51の軸方向端面51aとアーマチャ4の押圧突起41の対向面41aとの摺動により、第1所定角度だけ矢印A方向に回転する。このカム部材5の回転により、第1の被係止部51の側面51bがアーマチャ4の押圧突起41の側面41bに当接する。
つまり、アーマチャ4は、その軸方向の第1位置から第2位置への移動によってカム部材5を噛み合い部材2側に押し込む押し込み動作を行うことにより、カム部材5を噛み合い部材2側に移動させると共に、カム部材5を第1所定角度だけ回転させる。この第1所定角度は、図6(a)に示すアーマチャ4の押圧突起41と第1の被係止部51の側面51bとの間の隙間の距離d1に対応した角度である。
アーマチャ4が第2位置にあるとき、係止部19の先端面19aは、第2の被係止部52との間に隙間をあけて軸方向端面52aに対向する。つまり、アーマチャ4が第2位置に移動したとき、カム部材5が第1所定角度回転して押圧突起41が側面51bに当接し、係止部19の先端面19aが第1の被係止部51に隣り合う第2の被係止部52の軸方向端面52aに対向する。
図5(c)及び図6(c)は、電磁コイル3への通電が遮断され、アーマチャ4が第2位置から第1位置に戻る途中の第3状態を示している。この第3状態では、係止部19の先端面19aが第2の被係止部52の軸方向端面52aに当接する。この係止部19の先端面19aと第2の被係止部52の軸方向端面52aとの当接により、カム部材5には、矢印A方向への回転力が作用するが、矢印A方向への回転は、アーマチャ4の押圧突起41の側面41bと第1の被係止部51の側面51bとの当接により規制されている。
図5(d)及び図6(d)は、アーマチャ4が第1位置に戻り、カム部材5が係止部19の側面19bに第2の被係止部52の周方向の側面52bが当接するまで矢印A方向に回転した第4状態を示している。この第4状態では、付勢部材7の付勢力を受けたカム部材5の第2の被係止部52の軸方向端面52aと係止部19の先端面19aとの摺動により、カム部材5が係止部19に対して第2所定角度回転する。これにより、係止部19が第2の被係止部52を係止する。この第2所定角度は、図6(c)に示す第3状態における第2の被係止部52の側面52bと係止部19との間の距離d2に対応した角度である。つまり、アーマチャ4の第2位置から第1位置への移動によってカム部材5が第2所定角度さらに回転し、係止部19が第1の被係止部51に隣り合う第2の被係止部52を係止する。
押圧機構1aは、アーマチャ4が第1位置と第2位置との間を複数回往復することにより、カム部材5が付勢部材7の付勢力に抗して噛み合い部材2を軸方向移動させる。本実施の形態では、カム部材5に階段状に形成された4つの被係止部(第1乃至第4の被係止部51〜54)を有するので、電磁コイル3への通電及び通電遮断が3回行われ、アーマチャ4が第1位置と第2位置の間を3往復することにより、係止部19が第1の被係止部51を係止する位置から第4の被係止部54を係止する位置までカム部材5が回転する。
図6(a)に示すように、基端面5aから第1の被係止部51の軸方向端面51aまでの距離をd3とし、基端面5aから第4の被係止部54の軸方向端面54aまでの距離をd4とすると、距離d4は距離d3よりも長く、カム部材5は、この距離d4と距離をd3との差に応じた範囲で軸方向に進退移動する。
図7は、係止部19が第4の被係止部54を係止する状態から第1の被係止部51に移行する状態となり、電磁クラッチ装置1が非連結状態から連結状態に移行する際の動作を説明する模式図である。
図7(a)は、係止部19が第4の被係止部54を係止し、アーマチャ4が第1位置にある状態を示している。この状態では、係止部19が第4の被係止部54の軸方向端面54a及び壁部55の周方向の側面55bに当接する。
図7(b)は、アーマチャ4が第2位置に移動した状態を示している。アーマチャ4は、第1位置から第2位置に移動する過程で、押圧突起41が押し込み動作によってカム部材5を噛み合い部材2側に押圧して移動させる。この際、図1において回転軸線Oよりも上側に示すように、噛み合い部材2のフランジ部22における対向面22aが第1回転部材11のフランジ部111における対向面111aに軸方向に押し付けられる。これにより、第1回転部材11と第2回転部材12とが回転速度差をもって相対回転している場合には、両対向面22a,111aが摩擦摺動することにより、第1回転部材11の回転と第2回転部材12の回転とを同期させる摩擦トルクが発生する。
より具体的には、摩擦トルクは、アーマチャ4の押し込み動作に伴うカム部材5の軸方向移動によって、第1回転部材11のフランジ部111における対向面111aに、噛み合い部材2のフランジ部22における対向面22aが押し付けられることにより発生する。つまり、アーマチャ4は、係止部19が第1の被係止部51を係止する前にカム部材5を押し込む押し込み動作を行うことにより、摩擦トルクを発生させて第1回転部材11と第2回転部材12とが回転速度差を小さくする。
また、この押し込み動作によって係止部19が壁部55の周方向の側面55bに当接した状態が解除されることにより、カム部材5が矢印A方向に第1所定角度だけ回転する。
第1回転部材11のフランジ部111における対向面111aは、本発明の「第1回転部材側の第1摩擦面」の一態様であり、噛み合い部材2のフランジ部22における対向面22aは、本発明の「第2回転部材側の第2摩擦面」の一態様である。ここで、「第1回転部材側の第1摩擦面」は、第1回転部材11に形成された摩擦面の他、第1回転部材11と一体に回転するように設けられた部材に形成された摩擦面も含むものとし、「第2回転部材側の第2摩擦面」は、第2回転部材12に形成された摩擦面の他、第2回転部材12と一体に回転するように設けられた部材(噛み合い部材2)に形成された摩擦面も含むものとする。例えば、第1回転部材11と相対回転不能に設けられた部材に形成された第1摩擦面と第2回転部材12に形成された第2摩擦面とが摩擦摺動することにより摩擦トルクを発生させてもよい。
図7(c)は、アーマチャ4が第2位置から第1位置に戻る途中の状態を示している。この状態では、係止部19の先端面19aが壁部55の軸方向の端面55aに当接し、カム部材5には、矢印A方向への回転力が作用する。
図7(d)は、アーマチャ4が第1位置に戻り、係止部19が第1の被係止部51を係止するまで矢印A方向に回転した状態を示している。図7(c)に示す状態から図7(d)に示す状態まで移行する過程で、カム部材5は距離d3と距離をd4との差に応じた範囲の全体に亘って軸方向に大きく変位し、噛み合い部材2のスプライン嵌合部24が第1回転部材11のスプライン嵌合部112に噛み合う。
このように、アーマチャ4が磁力によって軸方向移動する方向と反対側にカム部材5が軸方向移動したときに、付勢部材7の付勢力によって噛み合い部材2のスプライン嵌合部24が第1回転部材11のスプライン嵌合部112に噛み合う。より具体的には、噛み合い部材2は、係止部19が第1乃至第4の被係止部51〜54のうち噛み合い部材2から最も遠い位置に形成された第4の被係止部54との係止が解除されて噛み合い部材2に最も近い位置に形成された第1の被係止部51を係止するとき、付勢部材7の付勢力によってスプライン嵌合部24が第1回転部材11のスプライン嵌合部112に噛み合い、第1回転部材11と第2回転部材12とがトルク伝達可能に連結された連結状態となる。
(第1の実施の形態の作用及び効果)
以上説明した実施の形態によれば、次に述べる作用及び効果が得られる。
(1)噛み合い部材2は、アーマチャ4の第1位置から第2位置への軸方向移動に伴って軸方向に移動し、第2回転部材12と噛み合うので、例えば電動モータ及び減速機をクラッチ装置を作動させるアクチュエータとして用いた場合に比較して、連結状態と非連結状態との切り換えを速やかに行うことができる。すなわち、切り換え応答性が向上する。
(2)電磁クラッチ装置1は、第1回転部材11と第2回転部材12とが非連結状態から連結状態に移行する過程で、噛み合い部材2のフランジ部22における対向面22aが第1回転部材11のフランジ部111における対向面111aに軸方向に押し付けられ、第1回転部材11の回転と第2回転部材12の回転とを同期させる摩擦トルクが発生するので、この摩擦トルクが発生しない場合に比較して、噛み合い部材2のスプライン嵌合部24と第1回転部材11のスプライン嵌合部112との噛み合わせが円滑に行われる。これにより、非連結状態から連結状態への切り換えを速やかに行うことが可能となり、非連結状態から連結状態への切り換え応答性が高まる。
(3)カム部材5は、第1乃至第4の被係止部51〜54の軸方向端面51a〜54aが周方向に対して傾斜しているので、アーマチャ4の第1位置から第2位置への軸方向移動によって押圧突起41の対向面41aを軸方向端面51a〜54aが摺動し、カム部材5が第1所定角度回転する。また、カム部材5は、軸方向端面51a〜54aの傾斜により、アーマチャ4の第2位置から第1位置への軸方向移動によってカム部材5が第2所定角度回転する。つまり、アーマチャ4の軸方向移動によってカム部材5が回転するので、カム部材5を回転させるモータ等の回転駆動機構を要することなく、係止部19が第1乃至第4の被係止部51〜54のそれぞれを係止した状態を順次切り替えることが可能となる。これにより、電磁クラッチ装置1を小型化及び低コスト化することができる。
(4)付勢部材7は、第2回転部材12と噛み合い部材2との間に配置され、その付勢力によって噛み合い部材2を第1回転部材11側に付勢すると共に、転がり軸受6を介してカム部材5を係止部19及びアーマチャ4の押圧突起41側に押し付ける。これにより、係止部19が第1の被係止部51を係止する際に速やかに噛み合い部材2のスプライン嵌合部24を第1回転部材11のスプライン嵌合部112に噛み合わせることができ、かつ第1乃至第4の被係止部51〜54の軸方向端面51a〜54a及び壁部55の軸方向の端面55aと押圧突起41の対向面41a及び係止部19の先端面19aとの摺動により、カム部材5を回転させることができる。
(5)噛み合い部材2は、係止部19がカム部材5の第1の被係止部51を係止し、電磁コイル3への通電が遮断された状態で第1回転部材11に噛み合うので、連結状態において電磁コイル3への通電を継続する必要がない。このため、電磁クラッチ装置1の作動時における消費電力や発熱を低減することが可能となる。
(6)カム部材5は、軸方向の異なる位置に第1乃至第4の被係止部51〜54を有し、噛み合い部材2から最も遠い位置に形成された第4の被係止部54と最も近い位置に形成された第1の被係止部51との軸方向の距離に応じた範囲で軸方向移動可能であるので、噛み合い部材2のスプライン嵌合部24と第1回転部材11のスプライン嵌合部112とが噛み合う軸方向の長さを長くすることができる。これにより、例えば車両の駆動力等の大きなトルクを伝達することが可能となる。
(7)噛み合い部材2のスプライン嵌合部24は、アーマチャ4が磁力によって軸方向移動する方向と反対側にカム部材5が軸方向移動したときに、第1回転部材11のスプライン嵌合部112に噛み合う。つまり、付勢部材7が噛み合い部材2を付勢する方向と皿バネ301がアーマチャ4を付勢する方向とが同じであるので、付勢部材7の付勢力によって噛み合い部材2のスプライン嵌合部24を第1回転部材11のスプライン嵌合部112に噛み合わせる際に、皿バネ301の付勢力が噛み合い部材2の移動を妨げない。これにより、非連結状態から連結状態への切り換え応答性を高めることができる。
なお、本実施では、カム部材5の軸方向の異なる位置に4つの被係止部(第1乃至第4の被係止部51〜54)を有する場合について説明したが、軸方向における少なくとも3つの異なる位置に複数の被係止部が形成されていれば、本実施の形態の作用及び効果を得ることができる。
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について、図8を参照して説明する。図8は、第2の実施の形態に係る噛み合い部材2、第1回転部材11、及び第2回転部材12の要部を拡大した拡大図である。なお、図8では、図1と同様に回転軸線Oよりも上側に非連結状態を示し、回転軸線Oより下側に連結状態を示している。また、第2の実施の形態において、第1の実施の形態について説明したものと共通する機能を有する構成要素については、同一の又は対応する符号及び名称を付してその説明を省略する。
本実施の形態では、第1回転部材11、第2回転部材12、及び噛み合い部材2の形状が第1の実施の形態と異なっている。
本実施の形態に係る第1回転部材11のフランジ部111には、フランジ部111の外径側の端部から回転軸線Oに平行な方向の第2回転部材側に向かって突出する鍔部113が形成されており、この鍔部113の外周にスプライン嵌合部112が形成されている。また、フランジ部111の外周面111bは、回転軸線Oに平行な方向に対して傾斜し、噛み合い部材2のフランジ部22側からスプライン嵌合部112側に向かって徐々に外径が拡大するテーパ面として形成されている。
また、本実施の形態に係る第2回転部材12には、第1回転部材11の鍔部113の内側でフランジ部111に向かって突出し、円筒部123よりも外径が小さく形成された円筒状の小径筒部126が形成されている。
またさらに、本実施の形態に係る噛み合い部材2は、その円筒部23の形状が第1の実施の形態と異なり、円筒部23のフランジ部22側の端部に径方向内方に向かって膨出した膨出部231が形成されている。この膨出部231における内周面231aは、第1回転部材11のフランジ部111の外周面111bと平行に向かい合うように回転軸線Oに対して傾斜したテーパ面として形成されている。
本実施の形態では、第1の実施の形態において図7を参照して説明した非連結状態から連結状態に移行する過程で、アーマチャ4がカム部材5を噛み合い部材2側に押し込む押し込み動作を行うと、カム部材5の軸方向移動によって第1回転部材11のフランジ部111の外周面111bに噛み合い部材2の膨出部231における内周面231aが押し付けられて摩擦摺動し、摩擦トルクが発生する。この摩擦トルクによって第1回転部材11の回転と第2回転部材12の回転とが同期する。第1回転部材11のフランジ部111の外周面111bは、本発明の第1摩擦面の一態様であり、噛み合い部材2の膨出部231における内周面231aは、本発明の第2摩擦面の一態様である。
なお、本実施の形態では、第1回転部材11のフランジ部111の外周面111bと噛み合い部材2の膨出部231における内周面231aとが摩擦摺動する際、第1回転部材11のフランジ部111における対向面111aと噛み合い部材2のフランジ部22における対向面22aとは接触しない。つまり、アーマチャ4の押し込み動作による押圧力は、噛み合い部材2の膨出部231の内周面231aが第1回転部材11のフランジ部111の外周面111bに当接することによって受け止められる。
(第2の実施の形態の作用及び効果)
第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の作用及び効果に加え、互いに摩擦摺動する第1回転部材11のフランジ部111の外周面111b及び噛み合い部材2の膨出部231における内周面231aがテーパ面であるので、第1の実施の形態に比較して、第1回転部材11のフランジ部111の外周面111b(第1摩擦面)が噛み合い部材2の膨出部231における内周面231a(第2摩擦面)から受ける面圧が高くなる。これにより、摩擦トルクをより大きくすることができ、非連結状態から連結状態への切り換え応答性をさらに高めることが可能となる。
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について、図9を参照して説明する。図9は、第3の実施の形態に係る噛み合い部材2、第1回転部材13、及び第2回転部材12の要部を拡大した拡大図である。なお、図9では、図1及び図8と同様に、回転軸線Oよりも上側に非連結状態を示し、回転軸線Oより下側に連結状態を示している。また、第3の実施の形態において、第1又は第2の実施の形態について説明したものと共通する機能を有する構成要素については、同一の又は対応する符号及び名称を付してその説明を省略する。
第3の実施の形態に係る第1回転部材13は、その構成が第2の実施の形態に係る第1回転部材11の形状と異なり、円筒状の固定部材130と、第1回転部材13の外周面から径方向外方へ向かって突出した移動部材131とを有して構成されている。移動部材131は、固定部材130に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に設けられており、第2回転部材12に対しても回転軸線Oに沿って軸方向に移動可能である。
固定部材130の内周面には、シャフト100の外周スプライン嵌合部100aにスプライン嵌合する内周スプライン嵌合部130aが形成されている。固定部材130は、内周スプライン嵌合部130aがシャフト100の外周スプライン嵌合部100aとスプライン嵌合して相対回転が規制され、かつスナップリング100cによって軸方向の相対移動が規制されてシャフト100に固定されている。
また、固定部材130の外周面には、外周スプライン嵌合部130bが回転軸線Oに沿って形成されている。この外周スプライン嵌合部130bには、その軸方向の1箇所に、移動部材131の軸方向への移動範囲を制限する係止突起130cが形成されている。
移動部材131は、固定部材130の外周スプライン嵌合部130bにスプライン嵌合する内周スプライン嵌合部132aが形成された円筒部132と、円筒部132の第2回転部材12側の端部から径方向外方に向かって延出された円環板状の円板部133と、円板部133の外径側の端部から回転軸線Oに平行な方向の第2回転部材12側に向かって突出する鍔部134と、鍔部134の外周に形成されたスプライン嵌合部135とを一体に有している。
移動部材131は、内周スプライン嵌合部132aと固定部材130の外周スプライン嵌合部130bとのスプライン嵌合により、固定部材130に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能である。また、移動部材131は、円筒部132が係止突起130cに係止されることで、カム部材5側への軸方向移動が制限される。
第1回転部材13は、移動部材131のスプライン嵌合部135が噛み合い部材2のスプライン嵌合部125にスプライン嵌合することで、第2回転部材12とトルク伝達可能に連結される。
円板部133の外周面133bは、回転軸線Oに平行な方向に対して傾斜し、噛み合い部材2のフランジ部22側からスプライン嵌合部135側に向かって徐々に外径が拡大するテーパ面として形成されている。また、鍔部134の内周面134aは、回転軸線Oに平行な方向に対して傾斜し、円板部133側ほど内径が小さくなるテーパ面として形成されている。
また、本実施の形態では、第2回転部材12の小径筒部126の外周面126aが移動部材131の鍔部134における内周面134aと平行に向かい合うテーパ面として形成されている。
本実施の形態では、第1の実施の形態において図7を参照して説明した非連結状態から連結状態に移行する過程で、アーマチャ4がカム部材5を噛み合い部材2側に押し込む押し込み動作を行うと、噛み合い部材2の軸方向移動によって膨出部231における内周面231aが円板部133の外周面133bに押し付けられる。また、円板部133の外周面133bがこの押し付け力を受けることによって移動部材131が第2回転部材12側に軸方向移動し、鍔部134の内周面134aが第2回転部材12の小径筒部126の外周面126aに押し付けられる。
これにより、第1回転部材11と第2回転部材12とが回転速度差をもって相対回転しているときにアーマチャ4が押し込み動作を行うと、噛み合い部材2の膨出部231における内周面231aと移動部材131の円板部133における外周面133b、及び移動部材131の鍔部134における内周面134aと第2回転部材12の小径筒部126の外周面126aが摩擦摺動することにより、第1回転部材11の回転と第2回転部材12の回転とを同期させる摩擦トルクが発生する。
移動部材131の円板部133における外周面133b、及び鍔部134における内周面134aは、本発明の第1摩擦面の一態様である。また、噛み合い部材2の膨出部231における内周面231a、及び第2回転部材12の小径筒部126における外周面126aは、本発明の第2摩擦面の一態様である。
(第3の実施の形態の作用及び効果)
第3の実施の形態によれば、第2の実施の形態と同様の作用及び効果に加え、移動部材131の鍔部134における内周面134aと第2回転部材12の小径筒部126における外周面126aとの間でも摩擦トルクが発生するので、第2の実施の形態に比較して、さらに摩擦トルクをより大きくすることができ、非連結状態から連結状態への切り換え応答性をさらに高めることが可能となる。
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態について、図10乃至図14を参照して説明する。図10乃至図14において、第1の実施の形態について説明した構成要素と実質的に共通する機能を有する部材又は部分については、同一の符号を付してその重複した説明を省略する。
図10は、本実施の形態に係る電磁クラッチ装置1B及びその周辺部の断面図である。第1乃至第3の実施の形態では、シャフト100に第1回転部材11,13が相対回転不能にスプライン嵌合し、電磁クラッチ装置1によって第2回転部材12と第1回転部材11,13とをトルク伝達可能に連結していたが、本実施の形態では、シャフト100に第2回転部材14が相対回転不能にスプライン嵌合し、この第2回転部材14に噛み合い部材2Bが軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結されている。電磁クラッチ装置1Bは、第2回転部材14と、この第2回転部材14に同軸上で相対回転可能にハウジング10に支持された第1回転部材15とをトルク伝達可能に連結する。
また、第1乃至第3の実施の形態では、第1回転部材11,13と第2回転部材12とが直接的に接触していたが、本実施の形態では、噛み合い部材2Bと第1回転部材15との間にリング状の摩擦部材8が配置され、この摩擦部材8が噛み合い部材2Bに所定範囲で弾性的に係合する複数のキー9を介して第1回転部材15側への押し付け力を受け、第1回転部材15との間に摩擦トルクを発生させる。噛み合い部材2Bは、後述する第2回転部材14のフランジ部143との間に配置された複数のコイルバネ200によって軸方向に付勢され、複数のキー9は、キースプリング900によって噛み合い部材2Bに弾性的に押し付けられている。以下、これらの各部材の構成について、詳細に説明する。
第1回転部材15は、第1ハウジング部材101との間に配置された玉軸受16によって回転可能に支持されている。第1回転部材15は、玉軸受16に支持された軸部151と、軸部151における第2回転部材14側の端部から径方向外方に突出して形成されたフランジ部152と、フランジ部152の外周に形成された第1噛合部としてのスプライン嵌合部153と、フランジ部152における第2回転部材14側(軸部151とは反対側)の軸方向端部からさらに第2回転部材14側に延出された円筒部154とを一体に有している。
円筒部154の外径は、フランジ部152の外径よりも小さく形成され、その外周面154aは、摩擦部材8と摩擦摺動して第1回転部材15の回転と第2回転部材14の回転とを同期させる摩擦トルクを発生させる。すなわち、本実施の形態では、第1回転部材15の円筒部154における外周面154aが本発明の第1摩擦面に相当する。
噛み合い部材2Bは、第1回転部材15のスプライン嵌合部153に噛み合う第2噛合部としてのスプライン嵌合部251が内周面に形成された円筒部25と、円筒部25の軸方向の一端部に内方に突出して形成された環状の被押圧部26とを一体に有している。噛み合い部材2Bの軸方向における被押圧部26の一方の端面には転がり軸受6が当接し、他方の端面には複数のコイルバネ200が当接する。コイルバネ200は、噛み合い部材2Bをカム部材5側に付勢し、カム部材5は、アーマチャ4の軸方向移動に応動して、コイルバネ200の付勢力に抗して噛み合い部材2Bを第1回転部材15側に軸方向移動させる。
図11は、第2回転部材14を示し、(a)は第2回転部材14を回転軸線Oに沿って第1回転部材15側から見た軸方向端面図、(b)は(a)のA−A線断面図、(c)は第2回転部材14を回転軸線Oに沿って第1回転部材15とは反対側(第2ハウジング部材102の開口102a側)から見た軸方向端面図である。
第2回転部材14は、中心部にシャフト100の一端を収容するシャフト収容孔14aが形成された有底円筒状であり、シャフト収容孔14aの内面には、シャフト100の外周スプライン嵌合部100aにスプライン嵌合する内周スプライン嵌合部14bが形成されている。第2回転部材14とシャフト100とは、内周スプライン嵌合部14bと外周スプライン嵌合部100aとのスプライン嵌合により相対回転不能に連結され、かつスナップリング100cによって軸方向の相対移動が規制されている。
第2回転部材14は、シャフト収容孔14aが形成された円筒部140と、シャフト収容孔14aの軸方向の底面14cを有する底部141と、底部141における底面14cとは反対側の面から軸方向に突出するボス部142と、円筒部140の外周面140aから径方向外方に突出して形成されたフランジ部143と、フランジ部143の外周に形成されたスプライン嵌合部144とを一体に有している。
円筒部140は、カム部材5が外嵌される大径部140aと、底部141とは反対側の端部に形成され、玉軸受18に支持される小径部140bとを有している。フランジ部143は、大径部140aの径方向外方に突出して形成され、カム部材5は、大径部140aにおけるフランジ部143よりも小径部140b側に外嵌される。カム部材5は、円筒部140の大径部140aに隙間嵌めされ、第2回転部材14に対して軸方向移動可能かつ相対回転可能である。
フランジ部143には、複数のコイルバネ200のそれぞれの一端部を収容する複数のバネ収容孔143aが小径部140b側に開口して形成されている。また、フランジ部143には、キースプリング900を収容する環状のキースプリング収容部143bがボス部142側に開口して形成されている。またさらに、フランジ部143には、その外周面から径方向内方に窪んで形成された複数のキー収容溝143cが形成されている。それぞれのキー収容溝143cには、キー9の端部が収容される。
キースプリング収容部143bは、第2回転部材14の周方向に沿ってフランジ部143の全周に形成されている。キー収容溝143cは、キースプリング収容部143bに連通し、キー収容溝143cに一端部が収容されたキー9が、キースプリング900から第2回転部材14の径方向外方への付勢力を受けるように構成されている。
本実施の形態では、フランジ部143に3つのキー収容溝143cが周方向に等間隔に形成され、これら3つのキー収容溝143cの間に9つのバネ収容孔143aが形成されている。つまり、周方向に隣り合う一対のキー収容溝143cの間にそれぞれ3つのバネ収容孔143aが形成されている。
また、本実施の形態では、キースプリング収容部143bに複数(2つ)のキースプリング900が収容されている。それぞれのキースプリング900は、例えばC字状のバネ鋼からなる弾性部材であり、複数のキー9によって縮径するように弾性変形した状態でキースプリング収容部143bに収容されている。
第2回転部材14のスプライン嵌合部144には、噛み合い部材2Bのスプライン嵌合部251がスプライン嵌合する。このスプライン嵌合により、噛み合い部材2Bは、第2回転部材14に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結されている。
図12は、摩擦部材8を示し、(a)は摩擦部材8を回転軸線Oに沿って第2回転部材14のフランジ部143側から見た軸方向端面図、(b)は(a)のB−B線断面図、(c)は摩擦部材8の外周の一部をフランジ部143側から見た拡大斜視図を示している。
摩擦部材8は、第1回転部材15の円筒部154に外嵌されたリング状であり、その内周面8aが第1回転部材15の円筒部154における外周面154aに対向する。この外周面154aは、円筒部154における軸方向の先端側ほど外径が縮小するように、回転軸線Oに平行な軸方向に対して傾斜して形成されたテーパ面であり、摩擦部材8の内周面8aは、円筒部154の外周面154aに平行となるように形成されたテーパ面である。
摩擦部材8は、第1回転部材15に対して軸方向移動可能であり、その内周面8aが円筒部154の外周面154aに軸方向に押し付けられることにより、第1回転部材15との間に摩擦トルクを発生させる。すなわち、本実施の形態では、摩擦部材8の内周面8aが本発明の第2摩擦面に相当する。
また、摩擦部材8には、キー9の端部が収容されるキー収容溝8bが形成されている。本実施の形態では、第2回転部材14のフランジ部143に形成された3つのキー収容溝143cのそれぞれに対応するように、3つのキー収容溝8bが周方向に等間隔に形成されている。またさらに、摩擦部材8の外周には、複数のスプライン歯811が設けられたスプライン嵌合部81が形成されている。スプライン歯811は、回転軸線Oと平行な軸方向におけるキー収容溝8b側の歯面中央部を頂点として左右対称に傾斜する一対のチャンファ面811aが形成されている。
図13は、キー9を示し、(a)は側面図、(b)はキー9をカム部材5側から見た軸方向端面図、(c)は斜視図である。
キー9は、直方体状の基部90と、噛み合い部材2Bの円筒部21に対向する基部90の外面90aから噛み合い部材2Bの円筒部21側に突出するように形成された凸部91とを一体に有している。凸部91は、その突出方向の先端面91aが基部90の外面90aと平行な平坦面として形成されている。また、回転軸線Oに平行なキー9の長手方向における凸部91の両端部において、凸部91の先端面91aと基部90の外面90aとの間が傾斜面91b,91cによって接続されている。傾斜面91b,91cと基部90の外面90aとがなす角は鈍角であり、凸部91は、図13(a)に示す側面視において山型に形成されている。
キー9は、基部90の長手方向における一端面90dが摩擦部材8のキー収容溝8bにおける軸方向の底面8cに対向し、基部90の長手方向における他端面90eが噛み合い部材2Bの被押圧部26に対向するように配置される。凸部91における傾斜面91bは先端面91aよりも一端面90d側に形成され、傾斜面91cは先端面91aよりも他端面90e側に形成されている。
また、キー9の基部90における外面90aの裏側の内面90bには、外面90aに向かって窪んで形成された窪み部90cが形成されている。この窪み部90cには、図10に示すように、複数のキースプリング900が嵌入される。
噛み合い部材2Bのスプライン嵌合部251には、図10に示すように、キー9の凸部91が弾性的に係合する凹部250が形成されている。この凹部250は、噛み合い部材2Bのスプライン嵌合部251を構成する複数のスプライン山部251bの径方向の高さが軸方向の一部において低くなることにより形成されている。
複数のキー9は、噛み合い部材2Bの軸方向移動範囲のうち、スプライン嵌合部251が第1回転部材15のスプライン嵌合部153に噛み合わない所定範囲で噛み合い部材2Bに弾性的に係合する。より具体的には、係止部19がカム部材5の第1の被係止部51を係止した状態でキー9の凸部91が噛み合い部材2Bの凹部250に弾性的に係止し、係止部19がカム部材5の第3の被係止部53又は第4の被係止部54を係止した状態では、噛み合い部材2Bの軸方向移動によって複数のキー9が第2回転部材14の径方向内方へ移動し、凸部91が噛み合い部材2Bの凹部250から離脱する。つまり、噛み合い部材2Bのスプライン嵌合部251が第1回転部材15のスプライン嵌合部153に噛み合わない所定範囲から両スプライン嵌合部251,153が互いに噛み合う位置への噛み合い部材2Bの軸方向移動によってキー9の凸部91が噛み合い部材2Bの凹部250から離脱する。
摩擦部材8は、係止部19がカム部材5の第1の被係止部51を係止する第1状態(図6(a)参照)からアーマチャ4がカム部材5を噛み合い部材2B側に押し込む第2状態となったときに、内周面8aが第1回転部材15の円筒部154における外周面154aに軸方向に押し付けられ、第1回転部材15の回転と第2回転部材14の回転とを同期させる摩擦トルクを発生させる。つまり、第1回転部材15の回転速度と第2回転部材14の回転速度との間に回転速度差がある場合でも、この摩擦トルクによって回転速度差が小さくなり、噛み合い部材2Bのスプライン嵌合部251と第1回転部材15のスプライン嵌合部153とのスプライン嵌合が円滑に行われる。
(電磁クラッチ装置1Bの動作)
図14(a)〜(c)は、電磁クラッチ装置1Bの動作を説明する動作説明図である。
図14(a)は、噛み合い部材2Bが、その軸方向移動範囲のうち、スプライン嵌合部251が第1回転部材15のスプライン嵌合部153に噛み合わない所定範囲にあり、第1回転部材15と第2回転部材14とが相対回転可能な非連結状態を示している。この非連結状態では、噛み合い部材2Bの凹部250にキー9の凸部91が嵌合している。噛み合い部材2Bの凹部250には、凸部91の先端面91aに対向する底面250aと、凸部91の一方の傾斜面91bに対向する傾斜面250bと、凸部91の他方の傾斜面91cに対向する傾斜面250cとが形成されている。
図14(b)は、非連結状態においてアーマチャ4がカム部材5を噛み合い部材2B側に押し込み、キー9の凸部91と噛み合い部材2Bの凹部250との嵌合によってキー9の基部90における長手方向の一端面90dが摩擦部材8のキー収容溝8bにおける底面8cに押し付けられた状態を示している。
摩擦部材8は、アーマチャ4による軸方向の押し付け力を複数のキー9を介して受けることにより、内周面8aが第1回転部材15の円筒部154における外周面154aに押し付けられ、摩擦トルクを発生させ、噛み合い部材2Bがさらに軸方向に移動するとアーマチャ4による軸方向の押し付け力をチャンファ面81aで受けることで摩擦トルクを増大させる。その後、摩擦部材8のスプライン嵌合部81に噛み合い部材2Bのスプライン嵌合部251がスプライン嵌合する。摩擦部材8のキー収容溝8bは、キー収容溝8bにキー9の一端部が収容された状態でスプライン嵌合部81に噛み合い部材2Bのスプライン嵌合部251がスプライン嵌合となるように、摩擦部材8の周方向におけるキー収容溝8bの幅w1が同方向におけるキー9の基部90の幅w2よりも広く、キー収容溝8bの幅w1(図12(a)参照)とキー9の基部90の幅w2(図13(b)参照)との差は、スプライン嵌合部81におけるスプラインピッチの半位相分に相当する。
図14(c)は、噛み合い部材2Bがさらに軸方向に第1カム部材15側に移動し、スプライン嵌合部251が第1回転部材15のスプライン嵌合部153に噛み合った第1回転部材15と第2回転部材14との連結状態を示している。
図14(b)に示す状態から図14(c)に示す状態に移行する過程で、キー9が摩擦部材8のキー収容溝8b及び噛み合い部材2Bのキー収容溝143cの内部において噛み合い部材2Bの円筒部25から離間するように径方向内方に移動し、キー9の凸部91が噛み合い部材2Bの凹部250から離脱する。つまり、キー9は、凸部91における傾斜面91cと噛み合い部材2Bの凹部250における傾斜面251cとの当接により、キースプリング900の付勢力に抗して径方向内方に移動する。
また、図14(c)に示す連結状態からさらにアーマチャ4が第1位置と第2位置との間を往復し、係止部19がカム部材5の第1の被係止部51を係止した状態となると、コイルバネ200の付勢力によって噛み合い部材2Bが係止部19側に軸方向移動し、噛み合い部材2Bのスプライン嵌合部251と第1回転部材15のスプライン嵌合部153との噛み合いが解除され、第1回転部材15と第2回転部材14とが非連結状態となる。
(第4の実施の形態の作用及び効果)
以上説明した第4の実施の形態によれば、摩擦部材8の内周面8aが複数のキー9を介して第1回転部材15の円筒部154における外周面154aに軸方向に押し付けられて摩擦トルクを発生させるので、第1回転部材15の回転と第2回転部材14の回転とを同期させた後に噛み合い部材2Bのスプライン嵌合部251と第1回転部材15のスプライン嵌合部153との噛み合わせを行うことができる。これにより、第1回転部材15と第2回転部材14とが回転速度差をもって相対回転している場合でも、非連結状態から連結状態に円滑に移行することが可能となる。
また、複数のキー9は、摩擦部材8と第1回転部材15との間に摩擦トルクを発生させた後、噛み合い部材2Bのさらなる第1回転部材15側への移動によって噛み合い部材2Bの凹部250から離脱するので、噛み合い部材2Bの軸方向移動を妨げることなく、噛み合い部材2Bのスプライン嵌合部251と第1回転部材15のスプライン嵌合部153とを噛み合わせることができる。
以上、本発明の電磁クラッチ装置1を実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。例えば、電磁クラッチ装置1を、車両の駆動力を伝達する用途以外の用途に用いることも可能である。