JP2015047643A - 耐チッピング性にすぐれた表面被覆切削工具 - Google Patents

耐チッピング性にすぐれた表面被覆切削工具 Download PDF

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Abstract

【課題】高速断続重切削条件で行った場合でも、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮し、長期に亘ってすぐれた切削性能を示す表面被覆切削工具を提供する。
【解決手段】下部層を構成する{112}配向TiCN結晶粒と上部層を構成する(0001)配向Al結晶粒とが、エピタキシャル成長をすることで、所定の存在割合で{112}配向TiCN結晶粒と(0001)配向Al結晶粒とが膜厚方向に連続した集合組織を形成し、硬質被覆層の表面に対して平行に進展するクラックの成長を抑制し、硬質被覆層の破滅的な剥離の発生を抑制する。高熱発生を伴い、かつ、切刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する高速断続重切削条件に用いた場合でも、硬質被覆層の耐チッピング性、耐剥離性にすぐれ、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮するものである。
【選択図】図1

Description

本発明は、各種の鋼や鋳鉄などの切削加工を、高速で、かつ、切刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する高速断続重切削条件で行った場合でも、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮し、長期に亘ってすぐれた切削性能を示す表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
従来、一般に、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットで構成された基体(以下、これらを総称して工具基体という)の表面に、
(a)下部層が、Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層、
(b)上部層が、化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有する酸化アルミニウム層(以下、Al層で示す)、
前記(a)および(b)で構成された硬質被覆層を蒸着形成してなる被覆工具が知られている。
しかし、前述した従来の被覆工具は、例えば各種の鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削ではすぐれた耐摩耗性を発揮するが、これを、高速断続切削に用いた場合には、硬質被覆層の剥離やチッピングが発生しやすく、工具寿命が短命になるという問題点があった。
そこで、硬質被覆層の剥離、チッピングを抑制するために、上部層に改良を加えた各種の被覆工具が提案されている。
例えば、特許文献1には、工具基体の表面に、Ti化合物層からなる下部層およびα型Al層からなる上部層で構成された硬質被覆層を形成してなる表面被覆サーメット製切削工具において、Ti化合物層のうちの1層を電界放出型走査電子顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope; FE−SEM)を用い表面研磨面の測定範囲内に存在する立方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、表面研磨面の法線に対して、結晶粒の結晶面である{112}面の法線がなす傾斜角を測定したとき、特定傾斜角度数分布グラフを示すTiCN層で構成し、かつ、α型の結晶構造を有するAl層を表面研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に電子線を照射して、表面研磨面の法線に対して、結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定しとき、特定傾斜角度数分布グラフを示すAl層で構成することにより、高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮することが開示されている。
また、例えば、特許文献2には、表面被覆サーメット製切削工具の工具基体の表面に蒸着形成した硬質被覆層を、(a)いずれも化学蒸着形成されたTiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層、およびTiCNO層のうちの1層以上からなり、かつ、0.1〜5μmの合計平均層厚を有する密着性Ti化合物層と、2.5〜15μmの平均層厚を有する改質TiCN層からなる下部層、(b)1〜15μmの平均層厚を有し、かつ化学蒸着形成された状態でα型の結晶構造を有する改質α型Al層からなる上部層、前記(a)および(b)で構成し、前記(a)の下部層における改質TiCN層および前記(b)の改質α型Al層がそれぞれ特定な傾斜角度数分布グラフを示す層で構成することによって、高硬度鋼の高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮することが開示されている。
特開2006−116621号公報 特開2006−297517号公報
近年の切削装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は一段と高速化すると共に、高切り込み、高送り等の断続重切削等で切刃には、衝撃的・断続的な高負荷が作用する傾向にあるが、前述の従来の被覆工具においては、これを鋼や鋳鉄などの通常の条件での連続切削や断続切削に用いた場合には問題はないが、特にこれを高速断続重切削条件で用いた場合には、硬質被覆層の表面で発生した亀裂が硬質被覆層全体に進展しやすく、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者らは、前述のような観点から、工具基体表面上に形成した下部層を構成するTi化合物の結晶粒とその上に形成した上部層を構成するAlの結晶粒との間のエピタキシャル関係を制御することに着眼して鋭意研究を重ねた。
その結果、NaCl型面心立方晶の結晶構造を有する{112}面の法線方向を持つTiの炭窒化物(TiCN)層を構成する個々の結晶粒の上に最密六方晶の結晶構造を有するα−Alの結晶粒を結晶の方位分布を制御してエピタキシャル成長させることにより、工具基体表面から硬質被覆層の表層部まで連続した強固な集合組織が構成され、その集合組織が硬質被覆層の表層部で生じた亀裂の進展を阻止し、硬質被覆層の耐チッピング性が向上するという知見を得た。
本発明は、この知見に基づき、前記集合組織について鋭意研究を重ねた結果、完成に至ったものであって、
「(1) 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具において、前記硬質被覆層が化学蒸着された下部層と上部層とからなるとともに、
(a)前記下部層は、少なくとも1層のNaCl型面心立方晶の結晶構造を有するTiの炭窒化合物層を含み、かつ、3〜20μmの合計平均層厚を有する1層または2層以上からなるTi化合物層であり、
(b)前記上部層が1〜20μmの平均層厚を有するα型の結晶構造のAl層であり、
(c)前記下部層のTiの炭窒化物層および前記上部層のα型の結晶構造を有するAl層について電子後方散乱回折装置を用いて垂直断面研磨面の測定範囲内に存在する個々の結晶粒の結晶方位を解析した場合、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{112}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうちの0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで現した場合、工具基体表面の法線方向に対する前記Tiの炭窒化物層の結晶面である{112}面の法線がなす傾斜角が0〜10度の範囲内にある結晶粒の度数割合が下部層全体の15−35%の割合を示し、かつ、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうちの0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで現した場合、工具基体表面の法線方向に対する前記α型の結晶構造を有するAl層の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角が0〜10度の範囲内にある結晶粒の度数割合が上部層全体の10−25%の割合を示し、
(d)前記工具基体の法線方向とAl層の結晶面である(0001)面の法線方向がなす角度が10度以下のAlの結晶粒において、当該Alの結晶粒の(0001)面の法線方向との方位差の絶対値が5度以内である{112}面の法線方向を持つTi炭窒化物の結晶粒の少なくとも一部が、当該Alの結晶粒の基体表面に平行な方向の最大幅に対応する下部層の領域に存在する割合が、当該Alの結晶粒の50〜70%であることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 前記工具基体の法線方向とAl層の結晶面である(0001)面の法線方向がなす角度が10〜20度のAlの結晶粒において、当該Alの結晶粒の(0001)面の法線方向との方位差の絶対値が5度以内である{112}面の法線方向を持つTi炭窒化物の結晶粒の少なくとも一部が、当該Alの結晶粒の基体表面に平行な方向の最大幅に対応する下部層の領域に存在する割合が、当該Alの結晶粒の30〜50%であることを特徴とする(1)に記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
以下に、本発明の被覆工具の硬質被覆層の構成層について詳細に説明する。
(a)Ti化合物層(下部層):
Ti化合物層(例えば、TiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層およびTiCNO層)は、基本的にはα−Al層の下部層として存在し、自身の具備するすぐれた高温強度によって硬質被覆層が高温強度を具備するようになるほか工具基体および上部層のα−Al層のいずれにも密着し、硬質被覆層の工具基体に対する密着性を維持する作用を有する。しかしながら、その平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方、その平均層厚が20μmを越えると、特に高熱発生を伴う高速重切削・高速断続切削では熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となることから、その平均層厚を3〜20μmと定めた。
さらに、上部層と相俟って後述するようなエピタキシャル成長した集合組織を形成するために、前記TiCN層は、少なくともエピタキシャル成長した{112}面の法線方向を持つNaCl型面心立方晶の結晶構造を有するTiCN結晶粒を含む必要がある。
下部層を構成するTiCN層は、通常の化学蒸着装置を使用して、例えば、
反応ガス組成(容量%):TiCl 1.5〜3%、CHCN 0.2〜0.5%、N 20〜40%、残部H
反応雰囲気温度:870〜930℃、
反応雰囲気圧力:3〜10kPa、
の条件で目標平均層厚になるまで化学蒸着することによって形成することができる。
(b)上部層:
上部層を構成する最密六方晶の結晶構造を有するα−Al層は、すぐれた高温硬さと耐熱性を有している。しかしながら、上部層の平均層厚が1μm未満では前記特性を硬質被覆層に十分に具備せしめることができず、一方、その平均層厚が20μmを越えると、切削時に発生する高熱と切刃に作用する断続的かつ衝撃的高負荷によって、偏摩耗の原因となる熱塑性変形が発生し易くなり、摩耗が加速するようになるため好ましくない。したがって、その平均層厚は1〜20μmと定めた。
前記(c)では、エピタキシャル成長している下部層のNaCl型面心立方晶の結晶構造を有するTiCN結晶粒と上部層の最密六方晶の結晶構造を有するα−Al結晶粒のそれぞれの存在割合を規定している。ここで、下部層の炭窒化物層の結晶面である{112}面の法線がなす傾斜角が0〜10度の範囲内にある結晶粒の度数割合が下部層全体の15%以下である場合、上部層のα−Al層とエピタキシャル関係を有するTiCN層の割合が小さくなり、層間の密着性が低下するため、本発明が期待する効果が十分に奏されず、反対に下部層の炭窒化物層の結晶面である{112}面の法線がなす傾斜角が0〜10度の範囲内にある結晶粒の度数割合が下部層全体の35%以上である場合、上部層のα−Al層の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角が0〜10度の範囲内にある結晶粒の度数割合が25%以上となり、表面から深さ方向に伝播するクラックの逃げ道が少なくなるため、硬質被覆層表面に生じたクラックが工具基体まで到達しやすくなる。また、上部層のα−Al層の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角が0〜10度の範囲内にある結晶粒の度数割合が上部層全体の10%以下である場合、下部層のTiCN層とエピタキシャル関係を有するα−Al粒子の割合が小さくなり、層間の密着性が低下するため、本発明が期待する効果が十分に奏されない。そこで、下部層および上部層全体に対するエピタキシャル成長している結晶粒の存在割合を垂直断面における度数割合で表し、それぞれ、15〜35%および10〜25%と定めた。
前記(d)では、エピタキシャル成長している下部層のNaCl型面心立方晶の結晶構造を有するTiCN結晶粒の上に、エピタキシャル成長している上部層の最密六方晶の結晶構造を有するα−Al結晶粒がどれぐらい存在しているかを規定している。
すなわち、(c)で規定したようなエピタキシャル成長している下部層のNaCl型面心立方晶の結晶構造を有するTiCNの結晶粒と上部層の最密六方晶の結晶構造を有するα−Al結晶粒とが無秩序に存在していると、それぞれの層における度数割合の最大値を掛け合わせて、0.35×0.25で0.0875、すなわち、下部層と上部層でエピタキシャル成長している結晶粒のうち、下部層と上部層で連続してエピタキシャル成長している結晶粒の存在割合は、硬質被覆層全体に対して高々8.75%である。
それに対して、本発明は、エピタキシャル成長している上部層の最密六方晶の結晶構造を有するα−Alの結晶粒の工具基体表面に平行な方向の最大幅に対応する下部層の領域にエピタキシャル成長しているNaCl型面心立方晶の結晶構造を有するTiCNの結晶粒が存在する度数割合が、当該α−Alの結晶粒全体の50〜70%である点を特徴としている。この値を硬質被覆層全体に対する度数割合に換算すると、α−Al結晶粒の下部層全体に対する存在割合が10〜25%であることから、12.5〜17.5%となる。
すなわち、前述の無秩序に存在している場合に比べ、本発明の硬質被覆層は、下部層から上部層まで連続してエピタキシャル成長している結晶粒を優先的に成長させて強固な集合組織を形成させており、それによって、硬質被覆層の表面に発生したクラックが硬質被覆層全体に進展することを抑制している。
しかしながら、工具基体の法線方向とα−Alの結晶面である(0001)面の法線方向がなす角度が10度以下のα−Al結晶粒、すなわち、エピタキシャル成長しているα−Al結晶粒の(0001)面の法線方向との方位差の絶対値が5度以内である{112}面の法線方向を持つTiCN結晶粒の工具基体表面に平行な方向の結晶幅の半分以上が、前記エピタキシャル成長しているα−Al結晶粒の工具基体表面に平行な方向の最大幅に対応する下部層の領域に存在する度数割合が、当該α−Al結晶粒全体を100%とした時に50%未満では、下部層から上部層まで連続してエピタキシャル成長している結晶粒が少ないため本発明が期待する効果が十分に奏されない。反対に、その割合が70%を超えると下部層から上部層まで連続してエピタキシャル成長している結晶粒が多すぎるため、表面から深さ方向に伝播するクラックの逃げ道が少なくなるため、硬質被覆層表面に生じたクラックが工具基体まで到達しやすくなる。そこで、前述の割合を50〜70%と定めた。
下部層から上部層まで連続してエピタキシャル成長している結晶粒の割合をこのように規定することは、本発明者らが集合組織の形成に着目して鋭意研究した結果得られた新たな知見に基づくものであり、この点について何ら考慮されていない前述した特許文献1や特許文献2に記載されているような従来技術とは明確に区別されるものである。
前述したようにエピタキシャル成長している下部層のNaCl型面心立方晶の結晶構造を有する{112}面配向TiCN結晶粒の上に、エピタキシャル成長しているα−Al結晶粒を所定の度数割合で形成させるためには、例えば、次のような方法を用いることができる。
まず、前述のように成膜した下部層としてのNaCl型面心立方晶の結晶構造を有する{112}面配向TiCN層の表面に、例えば、
反応ガス組成(容量%):CO 3〜5%、CO 3〜5%、残部H
反応雰囲気温度:980〜1040℃、
反応雰囲気圧力:5〜15kPa、
時間:2〜5min、
という条件で、COとCO混合ガスによる酸化処理を行った後、例えば、
反応ガス組成(容量%):AlCl 1〜3%、CO 1〜5%、HCl 0.3〜1.0%、残部H
反応雰囲気温度:980〜1040℃、
反応雰囲気圧力:5〜15kPa、
時間:5〜30min、
の条件でAlを初期成長させる。次いで、例えば、
反応ガス組成(容量%):AlCl 1〜3%、CO 1〜5%、HCl 0.3〜1.0%、HS 0.1〜0.3%、残部H
反応雰囲気温度:980〜1040℃、
反応雰囲気圧力:5〜15kPa、
という条件で目標とする上部層の平均層厚になるまで化学蒸着する。
すなわち、下部層上にα−Alの生成の核となるAlの初期成長工程およびそれに続く上部層成長工程の蒸着条件を変えることにより下部層のエピタキシャル成長しているTiCN結晶粒の上部にエピタキシャル成長するα−Al結晶粒の存在割合を制御することができる。
前記(a)の下部層に含まれるNaCl型面心立方晶の結晶構造を有するTiCN結晶粒および上部層のα−Al結晶粒について、電子線後方散乱回折装置を用い、図1に示される通り、その垂直断面研磨面の測定範囲内に存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有するTiCN結晶粒およびα−Al結晶粒の個々に電子線を照射する。そして、前記工具基体の表面の法線に対して、NaCl型面心立方晶の結晶構造を有するTiCN結晶粒の結晶面である{112}面の法線がなす傾斜角およびα−Al結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角をそれぞれ測定し傾斜角度数分布グラフを求めた。そして、前記傾斜角が0〜10度の範囲内にある結晶粒の度数全体に対する度数割合を求めた。
その結果、測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで表した場合、図2および図3に例示される通り、傾斜角区分の特定位置にシャープな最高ピークが現れ、試験結果によれば、各層の形成時の化学蒸着装置における反応雰囲気圧力を、前述の通り、それぞれ、3〜10kPaおよび5〜15kPaの範囲内で変化させると、前記シャープな最高ピークの現れる位置が傾斜角区分の0〜10度の範囲内で変化すると共に、前記0〜10度の範囲内に存在する度数の合計は、傾斜角度数分布グラフにおける度数全体の10〜25%の割合を占めるようになる。
さらに、工具基体の表面の法線に対して(0001)面の法線がなす傾斜角が10度以下のα−Al結晶粒の個々に対して、α−Al結晶粒の(0001)面の法線が{112}面の法線方向との方位差が5度以内であるTiCN結晶粒の少なくとも一部が、前記α−Alの結晶粒の工具基体表面に平行な方向の最大幅に対応する下部層の領域に存在する度数割合を次のような方法で求めた。
電子線後方散乱回折装置を用い、電子線を照射したTiCN結晶粒およびα−Al結晶粒個々に対する、TiCN結晶粒の結晶面である{112}面の法線がなす傾斜角およびα−Al結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角の値、工具基体表面に平行な方向の結晶幅を算出する。上部層のα−Alの結晶粒と下部層TiCN結晶粒が隣接するというのは、上部層α−Alの一結晶粒の工具基体表面に平行な方向の結晶幅に対し、下部層TiCN結晶粒の一結晶粒の工具基体表面に平行な方向の結晶幅の半分以上が隣接関係にある場合をいう。その隣接関係にある粒子それぞれの法線がなす傾斜角を算出し、観察範囲全域での角度差の分布を作成する。その分布全体の中で、α−Al結晶粒の(0001)面の法線が{112}面の法線方向との方位差が5度以内である度数割合を算出し、この値を(0001)面の法線がなす傾斜角が10度以下のα−Al結晶粒の中で上記を満足する結晶粒の度数割合とした。
本発明は、前述のように下部層の{112}面配向を示すTiCN結晶粒の上に(0001)面配向のα−Al結晶粒を成長させることにより、TiCNとAlの集合組織ができ、その結果、クラックの進展を抑制するものである。そのエピタキシャル成長の状態を電子線後方散乱回折装置による結晶方位の解析結果に基づき定義しているが、実際のエピタキシャル成長は、{112}面配向を示すTiCNと(0001)面配向のα−Alの傾斜角はある程度の幅(ぶれ)を持っていても前述したような集合組織を形成する。そのため、前述の規定に加えて、工具基体の法線方向とα−Al層の結晶面である(0001)面の法線方向がなす角度が10〜20度のα−Alの結晶粒において該結晶粒の(0001)面の法線方向との方位差の絶対値が5度以内であるTiCN{112}面の法線方向を持つTiCNの結晶粒の工具基体表面に平行な方向の結晶幅の半分以上が、前記α−Alの結晶粒の工具基体表面に平行な方向の最大幅に対応する下部層の領域に存在する度数割合が、当該α−Alの結晶粒全体の30〜50%であるという条件を満足することにより、いっそうクラックの進展を抑制することができる。
本発明の被覆工具は、硬質被覆層は、NaCl型面心立方晶の結晶構造を有する{112}面の法線方向を持つTiCN結晶粒の上に最密六方晶の結晶構造を有するα−Al結晶粒を結晶の方位分布を制御してエピタキシャル成長させることにより、工具基体表面から硬質被覆層の表層部まで連続した強固な集合組織が構成され、その集合組織が硬質被覆層の表層部で生じた亀裂の進展を抑制し、硬質被覆層の耐チッピング性が向上し、長期の使用にわたって切削性能を発揮するものである。
硬質被覆層の膜構成を示す概略説明図である。 本発明被覆工具1の硬質被覆層の下部層を構成するTiCN結晶粒の{112}面の傾斜角度数分布グラフである。 本発明被覆工具1の硬質被覆層の上部層を構成するα−Al結晶粒の(0001)面の傾斜角度数分布グラフである。
つぎに、本発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも2〜4μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr粉末、TiN粉末、TaN粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO・CNMG120412に規定するインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A〜Eをそれぞれ製造した。
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比でTiC/TiN=50/50)粉末、MoC粉末、ZrC粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1540℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO規格・CNMG120412のインサート形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体a〜eを形成した。
ついで、これらの工具基体A〜Eおよび工具基体a〜eのそれぞれを通常の化学蒸着装置に装入し、
(a)まず、表3に示される本発明条件にて、表7に示される目標層厚のNaCl型面心立方晶の結晶構造を有するTiCN層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成し、(b)ついで、前記TiCN層の表面を、表4に示される本発明条件にて、COとCO混合ガスによる酸化処理を行い、(c)ついで、表5に示される本発明条件にてα−Alの初期成長を行った後、(d)表6に示される本発明条件にて、表7に示される目標層厚のα−Al層を硬質被覆層の上部層として蒸着形成することにより本発明被覆工具1〜13をそれぞれ製造した。
また、比較の目的で、工具基体A〜Eおよび工具基体a〜eのそれぞれを通常の化学蒸着装置に装入し、
(e)表3に示される比較品条件にて、表8に示される目標層厚のTiCN層を蒸着形成し、(f)ついで、表4に示される比較品条件にて、COとCO混合ガスによる酸化処理を行い、(g)ついで、表5に示される比較品条件にてα−Alの初期成長を行うか、あるいは、これを行うことなく、(h)表6に示される比較品条件にて、表8に示される目標層厚のα−Al層を硬質被覆層の上部層として蒸着形成することにより表8に示す比較品被覆工具1〜13を製造した。
そして、本発明被覆工具1〜13および比較品被覆工具1〜13の硬質被覆層を以下の方法により評価した。
まず、硬質被覆層の下部層のTiCN層について、{112}配向TiCN結晶粒の度数割合を、電界放出型走査電子顕微鏡を用いて測定した。
すなわち、前述の本発明被覆工具1〜13、比較品被覆工具1〜13の下部層の厚さ方向へ0.3μm、工具基体表面と平行方向に50μmの断面研磨面の測定範囲(0.3μm×50μm)を、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、それぞれの前記研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、0.3×50μmの測定領域を0.1μm/stepの間隔で、前記研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{112}面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角が0〜10度である結晶粒の度数割合を測定することによって求めた。
ついで、硬質被覆層の上部層のAl層について、(0001)配向Al結晶粒の度数割合を、電界放出型走査電子顕微鏡を用いて測定した。
すなわち、前述の本発明被覆工具1〜13、比較品被覆工具1〜13の上部層の厚さ方向へ0.3μm、工具基体表面と平行方向に50μmの断面研磨面の測定範囲(0.3μm×50μm)を、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、それぞれの前記研磨面の測定範囲内に存在する六方晶結晶格子を有する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、0.3×50μmの測定領域を0.1μm/stepの間隔で、前記研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、この測定結果に基づいて、前記測定傾斜角が0〜10度である結晶粒の度数割合を測定することによって求めた。
表7、表8にこれらの値を示す。
さらに、本発明被覆工具1〜13、比較品被覆工具1〜13の硬質被覆層の上部層を構成し工具基体の法線方向と(0001)面の法線方向がなす角度が10度以下のAl結晶粒の法線方向との方位差の絶対値が5度以内である{112}配向TiCNの結晶粒の少なくとも一部が、前記Al結晶粒の基体表面に平行な方向の最大幅に対応する下部の領域に存在する度数割合を、以下の方法により測定した。
電子線後方散乱回折装置を用い、電子線を照射したTiCN結晶粒およびα−Al結晶粒個々に対する、TiCN結晶粒の結晶面である{112}面の法線がなす傾斜角およびα−Al結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角の値、工具基体表面に平行な方向の結晶幅を算出する。上部層のα−Alの結晶粒と下部層TiCN結晶粒が隣接するというのは、上部層α−Alの一結晶粒の工具基体表面に平行な方向の結晶幅に対し、下部層TiCN結晶粒の一結晶粒の工具基体表面に平行な方向の結晶幅の半分以上が隣接関係にある場合をいう。その隣接関係にある粒子それぞれの法線がなす傾斜角を算出し、TiCN結晶粒およびα−Al結晶粒の観察範囲(0.3×50μmの測定領域)全域での角度差の分布を作成する。その分布全体の中で、α−Al結晶粒の(0001)面の法線が{112}面の法線方向との方位差が5度以内である度数割合を算出し、この値を(0001)面の法線がなす傾斜角が10度以下のα−Al結晶粒の中で上記を満足する結晶粒の度数割合とした。
これらの値を表7、表8に上部層と下部層とのエピタキシャル成長割合1(%)として示す。
さらに、本発明被覆工具1〜13、比較品被覆工具1〜13の硬質被覆層の上部層を構成し工具基体の法線方向と(0001)面の法線方向がなす角度が10度を超え20度未満のAl結晶粒の法線方向との方位差の絶対値が5度以内である{112}配向TiCNの結晶粒の少なくとも一部が、前記Al結晶粒の基体表面に平行な方向の最大幅に対応する下部の領域に存在する度数割合を、以下の方法により測定した。
電子線後方散乱回折装置を用い、電子線を照射したTiCN結晶粒およびα−Al結晶粒個々に対する、TiCN結晶粒の結晶面である{112}面の法線がなす傾斜角およびα−Al結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角の値、工具基体表面に平行な方向の結晶幅を算出する。上部層のα−Alの結晶粒と下部層TiCN結晶粒が隣接するというのは、上部層α−Alの一結晶粒の工具基体表面に平行な方向の結晶幅に対し、下部層TiCN結晶粒の一結晶粒の工具基体表面に平行な方向の結晶幅の半分以上が隣接関係にある場合をいう。その隣接関係にある粒子それぞれの法線がなす傾斜角を算出し、観察範囲全域での角度差の分布を作成する。その分布全体の中で、α−Al結晶粒の(0001)面の法線が{112}面の法線方向との方位差が5度以内である度数割合を算出し、この値を(0001)面の法線がなす傾斜角が10度を超え20度未満のα−Al結晶粒の中で上記を満足する結晶粒の度数割合とした。
これらの値を表7、表8に上部層と下部層とのエピタキシャル成長割合2(%)として示す。
また、本発明被覆工具1〜13および比較品被覆工具1〜13の硬質被覆層の上部層および下部層の厚さを、走査型電子顕微鏡を用いて測定(縦断面測定)したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均層厚(5点測定の平均値)を示した。
つぎに、前述の本発明被覆工具1〜13、比較品被覆工具1〜13の各種の被覆工具について、いずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、
被削材:JIS・SCM440の長さ方向等間隔4本縦溝入り棒材、
切削速度:400m/min、
切り込み:1.5mm、
送り:0.3mm/rev、
切削時間:7分、
の条件(切削条件Aという)での合金鋼の湿式高速断続重切削試験(通常の切削速度、切り込み、送りは、それぞれ、200m/min,1.5mm,0.3mm/rev.)、
被削材:JIS・SNCM439の長さ方向等間隔4本縦溝入り棒材、
切削速度:300m/min、
切り込み:2.0mm、
送り:0.3mm/rev、
切削時間:7分、
の条件(切削条件Bという)でのニッケルクロムモリブデン合金鋼の乾式高速断続重切削試験(通常の切削速度、切り込み、送りは、それぞれ、200m/min,1.5mm,0.25mm/rev.)、
被削材:JIS・FC300の長さ方向等間隔4本縦溝入り棒材、
切削速度:400m/min、
切り込み:2.0mm、
送り:0.4mm/rev、
切削時間:7分、
の条件(切削条件Cという)での鋳鉄の乾式高速断続重切削試験(通常の切削速度、切り込み、送りは、それぞれ、250m/min,1.5mm,0.3mm/rev.)
を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。
表9にこの測定結果を示した。
表7、8、9に示される結果から、本発明被覆工具1〜13は、いずれも、下部層を構成する{112}配向TiCN結晶粒と上部層を構成する(0001)配向のAl結晶粒とが、エピタキシャル成長をすることで、界面の整合性が増し、密着密度が向上する。特に硬質被覆層中で所定の存在割合で{112}配向TiCN結晶粒と(0001)配向のAl結晶粒とが膜厚方向に連続した集合組織を形成することにより、硬質被覆層の表面に対して平行に進展するクラックの成長を抑制することができ、硬質被覆層の破滅的な剥離の発生を抑制することができることから、高熱発生を伴い、かつ、切刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する高速断続重切削条件に用いた場合でも、硬質被覆層の耐チッピング性、耐剥離性にすぐれ、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮し、使用寿命の一層の延命化を可能とするものである。
これに対して、比較品被覆工具1〜13では、高速断続重切削加工においては、硬質被覆層の剥離発生、チッピング発生により、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
本発明の被覆工具は、各種鋼や鋳鉄などの通常の条件での連続切削や断続切削は勿論のこと、切刃に断続的・衝撃的負荷な高負荷が作用する高速断続重切削という厳しい切削条件下でも、硬質被覆層の剥離、チッピングが発生することはなく、長期の使用に亘ってすぐれた切削性能を発揮するものであるから、切削装置の高性能化並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。

Claims (2)

  1. 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具において、前記硬質被覆層が化学蒸着された下部層と上部層とからなるとともに、
    (a)前記下部層は、少なくとも1層のNaCl型面心立方晶の結晶構造を有するTiの炭窒化合物層を含み、かつ、3〜20μmの合計平均層厚を有する1層または2層以上からなるTi化合物層であり、
    (b)前記上部層が1〜20μmの平均層厚を有するα型の結晶構造のAl層であり、
    (c)前記下部層のTiの炭窒化物層および前記上部層のα型の結晶構造を有するAl層について電子後方散乱回折装置を用いて垂直断面研磨面の測定範囲内に存在する個々の結晶粒の結晶方位を解析した場合、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である{112}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうちの0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで現した場合、工具基体表面の法線方向に対する前記Tiの炭窒化物層の結晶面である{112}面の法線がなす傾斜角が0〜10度の範囲内にある結晶粒の度数割合が下部層全体の15−35%の割合を示し、かつ、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうちの0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分すると共に、各区分内に存在する度数を集計してなる傾斜角度数分布グラフで現した場合、工具基体表面の法線方向に対する前記α型の結晶構造を有するAl層の結晶面である(0001)面の法線がなす傾斜角が0〜10度の範囲内にある結晶粒の度数割合が上部層全体の10−25%の割合を示し、
    (d)前記工具基体の法線方向とAl層の結晶面である(0001)面の法線方向がなす角度が10度以下のAlの結晶粒において、当該Alの結晶粒の(0001)面の法線方向との方位差の絶対値が5度以内である{112}面の法線方向を持つTi炭窒化物の結晶粒の少なくとも一部が、当該Alの結晶粒の基体表面に平行な方向の最大幅に対応する下部層の領域に存在する割合が、当該Alの結晶粒の50〜70%であることを特徴とする表面被覆切削工具。
  2. 前記工具基体の法線方向とAl層の結晶面である(0001)面の法線方向がなす角度が10〜20度のAlの結晶粒において、当該Alの結晶粒の(0001)面の法線方向との方位差の絶対値が5度以内である{112}面の法線方向を持つTi炭窒化物の結晶粒の少なくとも一部が、当該Alの結晶粒の基体表面に平行な方向の最大幅に対応する下部層の領域に存在する割合が、当該Alの結晶粒の30〜50%であることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
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