JP2015021088A - 脂肪族ポリエステルの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】脂肪族ポリエステルを効率的に製造し、更には得られる脂肪族ポリエステルの熱安定性を向上する。【解決手段】スズ化合物触媒を用いる環状エステルの塊状開環重合に際して、スルホン酸化合物を助触媒として用いる。【選択図】 なし

Description

本発明は、グリコリドなどの環状エステルを開環重合して、熱安定性の良好な脂肪族ポリエステルを効率的に製造する方法に関する。
ポリグリコール酸やポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルは、土壌や海中などの自然界に存在する水、微生物または酵素により分解されるため、環境に対する負荷が小さい生分解性高分子材料として注目されている。また、これら脂肪族ポリエステルは、生体内分解吸収性を有しているため、手術用縫合糸や人工皮膚などの医療用高分子材料としても利用されている。 脂肪族ポリエステルの中でも、ポリグリコール酸(以下、「PGA」ということがある)は、高い融点をもち、溶融成形可能であることから、単独で、あるいは他の樹脂材料などと複合化して用途展開が図られている。
脂肪族ポリエステルは、例えば、グリコール酸や乳酸などのα−ヒドロキシカルボン酸の脱水重縮合により合成することができるが、この方法によっては、高分子量の脂肪族ポリエステルを製造することが困難である。これに対し、高分子量の脂肪族ポリエステルを効率よく製造するために、α−ヒドロキシカルボン酸の二量体環状エステルを合成し、該環状エステルを開環重合する方法が採用されている。例えば、グリコール酸の二量体環状エステルであるグリコリドを開環重合すると、ポリグリコール酸が得られる。乳酸の二量体環状エステルであるラクチドを開環重合すると、ポリ乳酸が得られる。またラクトンの開環重合によっても脂肪族ポリエステルが得られる。
これら環状エステルの開環重合による脂肪族ポリエステルの製造方法は、例えば下記特許文献1〜6などにより知られている。また本発明者らも、環状エステルを開環重合して脂肪族ポリエステルを製造するに際して、部分重合体の溶融物を二軸撹拌装置中に連続的に導入して固体粉砕状態の部分重合体を連続的に得、これを更に固相重合に付した後、生成した重合体を熱安定剤とともに溶融混練してペレット化することを特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法(特許文献7)を提案している。
これら環状エステルの開環重合による脂肪族ポリエステルの製造方法においては、アルコール類等の開始剤(分子量調節剤)が用いられる。開環重合触媒としては、例えばスズ(Sn)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、アンチモン(Sb)、ゲルマニウム(Ge)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)などの金属の酸化物、ハロゲン化物、カルボン酸塩、アルコキシドなどの化合物が用いられる。なかでも、スズ化合物は、他の金属化合物に比べて触媒活性が比較的高く、好ましく用いられる。
しかしながら、重合速度の向上は、脂肪族ポリエステルの生産性の向上に直接つながるため、重合速度のさらなる増大への期待は大きい。重合速度の増大策としてまず考えられるのは、重合温度の上昇であるが、重合温度の上昇のみによる重合速度の増大は、重合速度と解重合速度の平衡による平衡反応率の低下を招くので好ましくない。また生成ポリマーの着色という不都合も起こる。このような問題を避けるために、助触媒の使用による重合速度の向上も考えられるところである。また金属化合物触媒を用いる開環重合には、生成するポリエステル中に金属が残留して、これが解重合による熱分解を助長し、生成ポリエステルの熱安定性を阻害する傾向も見いだされる。したがって、環状エステルの開環重合において、熱安定性を阻害しないあるいは向上する助触媒が見いだされれば、きわめて望ましい。しかしながら、環状エステルの開環重合に効果的な助触媒はほとんど見出されていないのが実情である。
例えば、特許文献1は、スズ触媒と、助触媒としての有機酸との組み合わせを、乳酸の直接重合を開示し、これにより熱安定性の優れるポリ乳酸が効率的に得られたとしている。しかしながら、開環重合においては、スズ化合物触媒を用いるラクチド(乳酸の環状二量体)の開環重合によるポリ乳酸の製造において、有機酸(オクタン酸)の添加が遅延剤として作用することが報告されている(非特許文献1)。他方、非特許文献2ならびに特許文献2においては、スズ化合物触媒を用いるラクチドあるいはラクトンの開環重合において、トリフェニルホスフィンなどのルイス塩基化合物が助触媒として作用し、重合時間の短縮と生成ポリエステルの熱安定性の向上が得られるとしている。しかしながら、本発明者の研究によれば、ルイス塩基化合物の助触媒作用は未だ満足できるものではない。
特開2010−77350号公報 特許第3164456号公報
Macromol. Rapid Commun., 1998,19, pp.567-572 Macromol. Symp. 1999, 144, pp.289-302
上記事情に鑑み、本発明の主要な目的は、環状エステルの開環重合における有効な助触媒を見出して、効率的な脂肪族ポリエステルの製造方法を提供することにある。
本発明の更なる目的は、残留金属触媒による生成脂肪族ポリエステルの熱安定性の低下を効果的に抑制可能な脂肪族ポリエステルの製造方法を提供することにある。
本発明者らの研究によれば、上述の目的の達成のためには、スズ化合物触媒と組み合わせて、スルホン酸化合物を助触媒として用いることが有効であることが見出された。本発明の脂肪族ポリエステルの製造方法は、叙述の知見に基づくものであり、より詳しくは、触媒としてのスズ化合物、重合開始剤および助触媒としてのスルホン酸化合物の存在下に、環状エステルを開環重合することを特徴とするものである。
(環状エステル)
本発明で用いる環状エステルとしては、α−ヒドロキシカルボン酸の二量体環状エステル及びラクトンが好ましい。二量体環状エステルを形成するα−ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、L−及び/またはD−乳酸、α−ヒドロキシ酪酸、α−ヒドロキシイソ酪酸、α−ヒドロキシ吉草酸、α−ヒドロキシカプロン酸、α−ヒドロキシイソカプロン酸、α−ヒドロキシヘプタン酸、α−ヒドロキシオクタン酸、α−ヒドロキシデカン酸、α−ヒドロキシミリスチン酸、α−ヒドロキシステアリン酸、及びこれらのアルキル置換体などを挙げることができる。
ラクトンとしては、例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなどが挙げられる。また環状エーテルエステルとしては、例えばジオキサノンなどが挙げられる。
環状エステルは、不斉炭素を有する場合は、D体、L体、及びラセミ体のいずれでもよい。これらの環状エステルは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。2種以上の環状エステルを使用すると、任意の脂肪族コポリエステルを得ることができる。環状エステルは、所望により、共重合可能なその他のコモノマーと共重合させることができる。他のコモノマーとしては、例えば、トリメチレンカーボネート、1,3−ジオキソランなどの環状モノマーなどが挙げられる。
環状エステルの中でも、グリコール酸の二量体環状エステルであるグリコリド、L−及び/またはD−乳酸の二量体環状エステルであるL−及び/またはD−ラクチド、及びこれらの混合物が好ましく、グリコリドがより好ましい。グリコリドは、単独で使用することができるが、他の環状モノマーと併用してポリグリコール酸共重合体(コポリエステル)を製造することもできる。ポリグリコール酸共重合体を製造する場合、生成コポリエステルの結晶性、ガスバリア性などの物性上の観点から、共重合体中のグリコリドの割合は、好ましくは70重量%、より好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上とすることが望ましい。また、グリコリドと共重合させる環状モノマーとしては、ラクチド、ε−カプロラクトン、トリメチレンカーボネートが好ましい。
環状エステルの製造方法は、特に限定されない。例えば、グリコリドは、グリコール酸オリゴマーを解重合する方法により得ることができる。グリコール酸オリゴマーの解重合法として、例えば、米国特許第2,668,162号明細書に記載の溶融解重合法、特開2000−119269号公報に記載の固相解重合法、特開平9−328481号公報や国際公開第02/14303A1公報に記載の溶液相解重合法等を採用することができる。K.ChujoらのDie Makromolekulare Cheme,100(1967),262−266に報告されているクロロ酢酸塩の環状縮合物として得られるグリコリドも用いることができる。
グリコリドを得るには、上記解重合法の中でも、溶液相解重合法が好ましい。溶液相解重合法では、(1)グリコール酸オリゴマーと230〜450℃の範囲内の沸点を有する少なくとも一種の高沸点極性有機溶媒とを含む混合物を、常圧下または減圧下に、該オリゴマーの解重合が起こる温度に加熱して、(2)該オリゴマーの融液相の残存率(容積比)が0.5以下になるまで、該オリゴマーを該溶媒に溶解させ、(3)同温度で更に加熱を継続して該オリゴマーを解重合させ、(4)生成した二量体環状エステル(すなわち、グリコリド)を高沸点極性有機溶媒と共に溜出させ、(5)溜出物からグリコリドを回収する。
高沸点極性有機溶媒としては、例えば、ジ(2−メトキシエチル)フタレートなどのフタル酸ビス(アルコキシアルキルエステル)、ジエチレングリコールジベンゾエートなどのアルキレングリコールジベンゾエート、ベンジルブチルフタレートやジブチルフタレートなどの芳香族カルボン酸エステル、トリクレジルホスフェートなどの芳香族リン酸エステル、ポリエチレンジアルキルエーテルなどのポリアルキレングリコールエーテル等を挙げることができ、該オリゴマーに対して、通常、0.3〜50倍量(重量比)の割合で使用する。高沸点極性有機溶媒と共に、必要に応じて、該オリゴマーの可溶化剤として、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを併用することができる。グリコール酸オリゴマーの解重合温度は、通常、230℃以上であり、好ましくは230〜320℃である。解重合は、常圧下または減圧下に行うが、0.1〜90.0kPa(1〜900mbar)の減圧下に加熱して解重合させることが好ましい。
≪脂肪族ポリエステルの製造≫
本発明法においては、上記した環状エステルを、スズ化合物触媒、開始剤(分子量調節剤)および助触媒としてのスルホン酸化合物の存在下に塊状開環重合させることにより、脂肪族ポリエステルを製造する。
(触媒)
本発明においては、従来より環状エステルの開環重合触媒として広く用いられている金属化合物の中でも、重合活性、安全性、モノマーへの溶解性等の点で優れるスズ化合物が用いられる。スズ化合物の例としては、二塩化スズ、四塩化スズ等のハロゲン化スズ;オクタン酸スズ、酢酸スズ等の有機酸スズ;エトキシスズ、ブトキシスズ、等のアルコキシスズ化合物;等があげられる。中でも、活性、モノマーへの溶解性等の観点で、二塩化スズ、四塩化スズ等のハロゲン化スズおよびオクタン酸スズ、酢酸スズ等の有機酸スズが好ましく、特に二塩化スズあるいはその水和物が最も好ましく用いられる。必要に応じて酸化等により、2価スズの一部を4価状態に変化させたものも好ましく用いられる。
スズ化合物触媒は、一般に環状エステルに対して、重量基準で、水和水を除いて、300ppm以下、好ましくは1〜100ppm、より好ましくは10〜60ppmの割合で用いられる。過少であると、助触媒を添加しても重合速度が遅くなり、過剰であると生成ポリエステルの熱安定性が低下する。
(開始剤)
開始剤(分子量調節剤)としては、水、ブタノール、ドデシルアルコール(ラウリルアルコール)等の一価アルコール、好ましくは一価の高級アルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、グリセリンなどの多価アルコール等が用いられる。
これら開始剤化合物は、開始剤効果に加えて、生成する脂肪族ポリエステルの分子量を調節(低下)する効果を有し、生成ポリエステルの所望分子量に応じて、一般に、環状エステルに対するモル基準で、0.1〜0.5mol%、好ましくは0.15〜0.3mol%の範囲から選択された量比で用いられる。
(スルホン酸化合物)
本発明においては、スズ化合物触媒と組み合わせて、助触媒として、スルホン酸化合物を用いる。スルホン酸化合物の例としては、ベンゼンスルホン酸、n−ブチルベンゼンスルホン酸、n−オクチルベンゼンスルホン酸、n−ドデシルベンゼンスルホン酸、ペンタデシルベンゼンスルホン酸、2,5−ジメチルベンゼンスルホン酸、2,5−ジブチルベンゼンスルホン酸、o−アミノベンゼンスルホン酸、m−アミノベンゼンスルホン酸、p−アミノベンゼンスルホン酸、3−アミノ−4−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、5−アミノ−2−メチルベンゼンスルホン酸、3,5−ジアミノ−2,4,6−トリメチルベンゼンスルホン酸、2,4−ジニトロベンゼンスルホン酸、p−クロルベンゼンスルホン酸、 2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸、クメンスルホン酸、キシレンスルホン酸、o−クレゾールスルホン酸、m−クレゾールスルホン酸、p−クレゾールスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、1−ナフタレンスルホン酸、イソプロピルナフタレンスルホン酸、ドデシルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、1,5−ナフタレンジスルホン酸、2,7−ナフタンレンジスルホン酸、4,4−ビフェニルジスルホン酸、アントラキノン−2−スルホン酸、m−ベンゼンジスルホン酸、2,5−ジアミノ−1,3−ベンゼンジスルホン酸、 アニリン−2,4−ジスルホン酸、アントラキノン−1,5−ジスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸などの芳香族スルホン酸;メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1−プロパンスルホン酸、n−オクチルスルホン酸、ペンタデシルスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリクロロメタンスルホン酸、1,2−エタンジスルホン酸、1,3−プロパンジスルホン酸などの脂肪族スルホン酸;シクロペンタンスルホン酸、シクロヘキサンスルホン酸およびカンファースルホン酸などの脂環式スルホン酸などが挙げられる。なかでも、活性、熱安定性等の理由により、p−トルエンスルホン酸、等の芳香族スルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸等の脂肪族スルホン酸が、好ましく用いられる。
これらスルホン酸化合物は、スズ化合物触媒1モルに対して、0.1〜3モル、特に0.5〜2モルの割合で用いることが好ましい。過少であると、助触媒効果が乏しく、3モルを超えて添加量を増やしすぎると、重合系内の酸濃度が上昇し、非特許文献1で見られるように、酸による重合速度低下を招くため好ましくない。
(その他の助剤)
上記した、スズ化合物触媒、重合開始剤およびスルホン酸化合物は、それぞれ単独で重合系に添加することもできるが、重合系への均一分散を促進するために、予め特に触媒に対する溶解能を有する適宜の有機溶媒より、希釈したのち重合系に添加することも好ましい。本発明の環状エステルの開環重合は、回分系あるいは連続系のいずれによっても実現可能であるが、連続系の場合には、特に有機溶媒による希釈液の添加が好ましい。有機溶媒としては、保管中ならびに重合装置への供給条件で揮発による触媒の濃度変化を起さないよう沸点が50℃以上のものが好ましい。このような有機溶媒の例としては、酢酸メチル(沸点56.9℃)、酢酸エチル(沸点77℃)などのエステル系溶媒;ジオキサン(沸点101.1℃)などのエーテル系溶媒;アセトン(沸点56.5℃)、メチルエチルケトン(沸点79.5℃)などのケトン系溶媒;などが挙げられる。
例えばスズ化合物触媒濃度としては、製品ポリマーへの残存量を低減するために比較的低濃度で用いられ、一般に0.1g/ml以下、より好ましくは0.05g/ml以下、更に好ましくは0.001〜0.02g/ml程度とされる。
また有機溶媒としては、ドデシルアルコールなどの二塩化スズ触媒を溶解する作用を有する液体開始剤も用いられ、その分子量調節作用との関連で目的とする製品ポリマー分子量に応じて触媒との量比が制約される難点があるが、追加の有機溶媒を用いないため製品ポリマー中への溶媒の残存が避けられる、プロセスを簡略化できる等の利点が得られる。
すなわち、本発明の脂肪族ポリエステルの製造方法における環状エステルの開環重合は、溶液重合として実施できないことはないが、重合装置の容積効率、生成脂肪族ポリエステルの特性等の観点で、触媒等の助剤の補助的に使用される溶媒以外の溶媒はほとんど使用しない実質的に塊状重合として実施することが好ましい。また重合後期のポリマーを固体粉砕状態で回収し、更に固相重合に付して残留モノマーを0.2重量%以下、更には0.1重量%以下に低減したのち、熱安定剤とともに溶融混練してペレット化することも好ましい(そのような塊状重合の一例はWO2007/08563A1明細書に開示されている。)
熱安定剤の好ましい例としては、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシル)ホスファイト等のペンタエリスリトール骨格構造を有するリン酸エステル;モノ−またはジ−ステアリルアシッドホスフェートあるいはこれらの混合物等の、炭素数が好ましくは8〜24のアルキル基を有するリン酸アルキルエステルまたは亜リン酸アルキルエステル;炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム等の炭酸金属塩;更には一般に重合触媒不活性剤として知られる、ビス[2−(2−ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジン]ドデカン酸、N,N′−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジンなどの−CONHNH−CO−単位を有するヒドラジン系化合物;3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール系化合物、更には、トリアジン系化合物などが挙げられる。これら熱安定剤の構造は、必要であれば、WO2003/037956A1公報に示されている。これら熱安定剤は、脂肪族ポリエステル100重量部に対して、好ましくは3重量部以下、より好ましくは0.003〜1重量部、最も好ましくは0.01〜0.05重量部の割合で用いられる。
更に、熱安定剤に加えて、カルボキシル基封止剤を加えることにより、得られるペレット状脂肪族ポリエステルの耐水性(耐加水分解性)を向上することもできる。
カルボキシル基封止剤としては、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルの耐水性向上剤として知られているものを一般に用いることができ、例えば、N,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドなどのモノカルボジイミドおよびポリカルボジイミド化合物を含むカルボジイミド化合物、2,2′−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2−フェニル−2−オキサゾリン、スチレン・イソプロペニル−2−オキサゾリンなどのオキサゾリン化合物;2−メトキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジンなどのオキサジン化合物;N−グリシジルフタルイミド、シクロへキセンオキシド、トリグリシジルイソシアヌレートなどのエポキシ化合物などが挙げられる。なかでもカルボジイミド化合物やエポキシ化合物が好ましい。これらカルボキシル基封止剤は、必要に応じて2種以上を併用することが可能であり、脂肪族ポリエステル100重量部に対して、0.01〜10重量部、更には0.1〜2重量部、特に0.2〜1重量部の割合で配合することが好ましい。
上述した脂肪族ポリエステル粉砕物および熱安定剤、更には必要に応じて加えるカルボキシル基封止剤、を脂肪族ポリエステルの融点+5〜+60℃、例えば脂肪族ポリエステルがポリグリコール酸(PGA)の場合、好ましくは230〜280℃、より好ましくは、240〜270℃の温度範囲に加熱して溶融(混合)する。溶融(混合)手段は基本的には任意であり、撹拌機、連続式混練機等も用いられるが、短時間処理が可能であり、その後の冷却工程への移行も円滑に行われる押出機(たとえば、同方向回転二軸混練押出機)中での加熱溶融(混合)が好ましい。
脂肪族ポリエステルに、機械的強度、その他の特性を付与するために、充填材を使用することが可能であり、その種類は特に限定されるものではないが、繊維状、板状、粉末状、粒状などの充填材を使用することができる。具体的には、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、キチン・キトサン、セルロース、綿などの天然繊維、芳香族ポリアミド繊維などの有機合成繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、ほう酸アルミニウムウイスカー、窒化ケイ素ウイスカーなどの繊維状あるいはウイスカー状充填材;マイカ、タルク、カオリン、シリカ、砂などの天然無機鉱物、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、モンモリロナイト、酸化チタン、酸化亜鉛、ポリ燐酸カルシウム、グラファイトなどの粉状、粒状あるいは板状の充填材が挙げられる。ガラス繊維の種類は、一般に樹脂の強化に用いられるものなら特に限定はなく、たとえば長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバーなどから選択して用いることができる。また上記の充填材は2種以上を併用することもできる。上記の充填材は、その表面を公知のカップリング剤(たとえばシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理して用いることもできる。またガラス繊維は、エチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆あるいは集束されていてもよい。充填材の添加量は、脂肪族ポリエステル100重量部に対して0.1〜100重量部、特に好ましくは1〜50重量部である。
以下、脂肪族ポリエステルとして、ポリグリコ−ル酸(PGA)およびポリ乳酸(PLA)を製造する実施例により、本発明を更に具体的に説明する。以下の記載を含めて、本明細書中に記載した物性(値)は、以下の方法による測定値に基づく。
(1)重合反応率:
反応混合物中のモノマー含有量を測定し、重合反応率として算出した。またモノマー含有量測定のために、サンプル約50mgに、内部標準物質の4−クロロベンゾフェノンを0.2g/lの濃度で溶解したジメチルスルホキシド(DMSO)2gを加え、160℃で約3分間加熱して溶解させ、室温まで冷却した後、濾過を行った。その濾液を1μl採取し、ガスクロマトグラフィー(GC)装置に注入して測定した。
<GC条件>
装置:(株)島津製作所製「GC−2010」
カラム:「TC−17」、0.25mmφ×30m
カラム温度:150℃5分間保持、20℃/分で270℃まで昇温、270℃3分間保持
気化室温度:180℃
検出器:FID(水素炎イオン化検出器)、温度:300℃。
(2)初期反応率、反応終了時間および反応速度定数
重合が進行し、ほぼ反応物が粘性を持ち始める時点(重合開始からグリコリドについては60分、L−ラクチドについては6時間)の重合反応率を初期反応率とし、この時点から30分毎に重合反応率を測定し、反応率が変化しなくなる重合開始からの時間を、反応終了時間として記録した。
他方、重合初期、反応物が粘性を持ち始める前の領域においては、停止反応が起こらず、反応中心の数(開始剤分子および触媒分子の数によって決定されると仮定した)が一定であると仮定して得られる以下の一次式(1)から、反応速度定数k(単位:「1/s」)を求めた。
−d[M]/dt=k[M] (1)
より具体的には、反応開始からグリコリドについては15分まで、L−ラクチドについては60分までの期間に数回のサンプリングを行い、測定モノマー濃度[M]に基づいて、反応時間に対する―ln([M]/[M])(ここで[M]:初期モノマー濃度)をプロットし、そのプロットの傾きより(初期)反応速度定数kを求めた。
(3)分子量:
サンプル約10mgをDMSO0.5mlで160℃において加熱溶解し、室温まで冷却した。その溶液をヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)で10mlにメスアップし、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置に注入して分子測定した。測定された分子量分布に基づき、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)を求めた。
<GPC条件>
装置:昭和電工(株)製「ShodexGPC−104」
カラム:「HFIP−606M」(2本)、プレカラム:「HFIP−G」(1本)を直列接続
カラム温度:40℃
溶離液:5mMトリフルオロ酢酸ナトリウム/HFIP中溶液
流速:0.6ml/min
検出器:RI(示差屈折率検出器)
分子量決定基準物質:標準ポリメタクリル酸メチル(昭和電工(株)製、分子量195.0万、65.9万、21.8万、5.0万、2.1万、0.7万及び0.2万)。
(4)熱安定性:
サンプル樹脂10mgを熱重量分析装置(TGA)に入れ、窒素を40cc(標準状態)/分の割合で流しながら260℃で、60分間保持した前後の重量変化により、下式により熱重量保持率(%)を計算し、評価した。
熱重量保持率(%)=(加熱後重量/加熱前重量)×100。
なお、重合後の経時変化による測定結果のばらつきを避けるために、(3)分子量及び(4)熱安定性、の測定には重合後、温度23±1℃且つ露点−50℃以下の低湿度環境下で保存し、測定直前に取り出したサンプル樹脂を使用した。
(実施例1)
グリコリド100重量部に対して、 触媒として二塩化スズ0.015重量部、重合開始剤としてエチレングリコール0.1重量部、助触媒としてパラトルエンスルホン酸を触媒に対してモル比0.1の量で重合容器に仕込んだ。仕込み内容物を、170℃の加熱条件下で保持し、前述の方法により、60分後反応率および最終反応時間ならびに(初期)反応速度定数を求めた。
結果を以下の実施例、比較例の結果とまとめて、後記表1に示す。
(実施例2)
助触媒/触媒モル比を0.5に変更する以外は、実施例1の操作を繰り返した。
(実施例3)
助触媒/触媒モル比を1に変更する以外は、実施例1の操作を繰り返した。
(実施例4)
助触媒/触媒モル比を2に変更する以外は、実施例1の操作を繰り返した。
(参考例1)
助触媒/触媒モル比を5に変更する以外は、実施例1の操作を繰り返した。
(実施例5)
助触媒としてメタンスルホン酸を用いる以外は、実施例3の操作を繰り返した。
(実施例6)
触媒としてオクタン酸スズ(II)0.0027重量部を用いる以外は、実施例3の操作を繰り返した。
(比較例1)
助触媒を用いない以外は、実施例1の操作を繰り返した。
(比較例2)
助触媒として、特許文献2で用いられるトリフェニルホスフィンを用いる以外は、実施例3の操作を繰り返した。
(比較例3)
助触媒を用いない以外は、実施例6の操作を繰り返した。
上記実施例1〜6、参考例1及び比較例1〜3の結果をまとめて次表1に示す。
Figure 2015021088
上記表1を見ると、次のことがわかる。二塩化スズ触媒に加えて、助触媒としてパラトルエンスルホン酸(芳香族スルホン酸化合物)を加えると、助触媒を加えない比較例1との対比において、助触媒/触媒モル比が0.1の場合(実施例1)であっても、反応終了時間の若干の短縮が認められ助触媒効果が認められる。さらに、助触媒/触媒モル比を増大させると(実施例2〜4)、反応速度定数、60分後の重合反応率および反応終了時間のいずれの点においても顕著な助触媒効果が認められるが、助触媒/触媒モル比が5とさらに増大すると(参考例1)、助触媒を用いない場合(比較例1)と比べて重合速度はむしろ低下する。二塩化スズ触媒に対する助触媒効果は、メタンスルホン酸(脂肪族スルホン酸化合物)においても認められる。オクタン酸スズ触媒に対し、助触媒としてパラトルエンスルホン酸を使用した場合(実施例6)、助触媒を使用しない場合(比較例3)と比べて、初期反応速度定数は若干低下しているが、60分後の反応率の増大、反応終了時間の短縮で分かるように、反応の中期以降における顕著な助触媒効果が認められる。
モノマーとして、グリコリドの代わりにL−ラクチドを用いて、以下の重合試験を行った。
(実施例7)
L-ラクチド100重量部に対して、 触媒としてオクタン酸スズ0.054重量部、重合開始剤としてエチレングリコール0.1重量部、助触媒としてパラトルエンスルホン酸を触媒に対してモル比1の量で重合容器に仕込んだ。仕込み内容物を、180℃の加熱条件下で保持して重合を進め、前記の方法により、初期反応速度定数、6時間後反応率および最終反応時間を求めた。
(比較例4)
助触媒を用いない以外は、実施例7の操作を繰り返した。
上記実施例7及び比較例4の結果をまとめて、次表2に示す。
Figure 2015021088
上記表2を見ると、グリコリドの場合(前記表1の実施例6と比較例3)と同様に、L-ラクチドをモノマーに用いても、オクタン酸スズ触媒に対し、助触媒としてパラトルエンスルホン酸を使用した場合、助触媒を使用しない場合と比べて、初期反応速度定数は若干低下しているが、6時間後の反応率の増大、反応終了時間の短縮で分かるように、反応の中期以降における顕著な助触媒効果が認められる。
(分子量測定及び熱安定性試験)
上記実施例3及び比較例1で反応終了後に得られたポリマーについて、それぞれ上記した方法により初期分子量測定ならびに熱安定性試験(熱重量保持率測定)を行った。結果をまとめて次表3に示す。
Figure 2015021088
助触媒としてパラトルエンスルホン酸を加えた実施例3において、助触媒を加えない比較例1との対比において、重合後に得られたポリマーの分子量に差は無いのにも関わらず、熱重量保持率には明らかな差異が観測された。これより、パラトルエンスルホン酸を加えたことによる顕著な熱安定性(熱重量保持率)の向上効果が認められる。
(参考例2)
実施例3および5のいずれにおいても、二塩化スズを用いずに助触媒のみを用いた場合には、重合はほとんど進行しなかった。
(参考例3)
触媒として、二塩化スズの代わりに塩化亜鉛(II)を用いる以外は、助触媒を用いずに、比較例1の操作を繰り返した。
(参考例4)
触媒として、二塩化スズの代わりに塩化亜鉛(II)を用いる以外は、実施例3の操作を繰り返した。
(参考例5)
触媒として、二塩化スズの代わりに塩化ジルコニウム(II)を用いる以外は、助触媒を用いずに、比較例1の操作を繰り返した。
(参考例6)
触媒として、二塩化スズの代わりに塩化ジルコニウム(II)を用いる以外は、実施例3の操作を繰り返した。
(参考例7)
触媒として、二塩化スズの代わりにジルコニウム(II)アセチルアセトナートを用いる以外は、助触媒を用いずに、比較例1の操作を繰り返した。
(参考例8)
触媒として、二塩化スズの代わりにジルコニウム(II)アセチルアセトナートを用いる以外は、実施例3の操作を繰り返した。
上記参考例3〜8において7時間後の重合反応率を測定した。比較例1及び3の結果とまとめて、次表4に示す。
Figure 2015021088
上表4に示す結果は、スルホン酸化合物の助触媒効果は、スズ化合物触媒に対して特異的に認められるものであり、環状エステルの開環重合触媒として知られる他の金属化合物触媒との組合わせで一様に認められるものではないことを示す。
上記表1〜3の結果で示されるように、本発明に従い、スズ化合物触媒を用いる環状エステルの塊状開環重合に際して、スルホン酸化合物を助触媒として用いることにより、熱安定性の向上した脂肪族ポリエステルが効率的な製造方法が提供される。
本発明は、グリコリドなどの環状エステルを開環重合して、熱安定性の良好な脂肪族ポリエステルを効率的に製造する方法に関する。
ポリグリコール酸やポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルは、土壌や海中などの自然界に存在する水、微生物または酵素により分解されるため、環境に対する負荷が小さい生分解性高分子材料として注目されている。また、これら脂肪族ポリエステルは、生体内分解吸収性を有しているため、手術用縫合糸や人工皮膚などの医療用高分子材料としても利用されている。 脂肪族ポリエステルの中でも、ポリグリコール酸(以下、「PGA」ということがある)は、高い融点をもち、溶融成形可能であることから、単独で、あるいは他の樹脂材料などと複合化して用途展開が図られている。
脂肪族ポリエステルは、例えば、グリコール酸や乳酸などのα−ヒドロキシカルボン酸の脱水重縮合により合成することができるが、この方法によっては、高分子量の脂肪族ポリエステルを製造することが困難である。これに対し、高分子量の脂肪族ポリエステルを効率よく製造するために、α−ヒドロキシカルボン酸の二量体環状エステルを合成し、該環状エステルを開環重合する方法が採用されている。例えば、グリコール酸の二量体環状エステルであるグリコリドを開環重合すると、ポリグリコール酸が得られる。乳酸の二量体環状エステルであるラクチドを開環重合すると、ポリ乳酸が得られる。またラクトンの開環重合によっても脂肪族ポリエステルが得られる。
これら環状エステルの開環重合による脂肪族ポリエステルの製造方法は、例えば下記特許文献1〜6などにより知られている。また本発明者らも、環状エステルを開環重合して脂肪族ポリエステルを製造するに際して、部分重合体の溶融物を二軸撹拌装置中に連続的に導入して固体粉砕状態の部分重合体を連続的に得、これを更に固相重合に付した後、生成した重合体を熱安定剤とともに溶融混練してペレット化することを特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法(特許文献7)を提案している。
これら環状エステルの開環重合による脂肪族ポリエステルの製造方法においては、アルコール類等の開始剤(分子量調節剤)が用いられる。開環重合触媒としては、例えばスズ(Sn)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、アンチモン(Sb)、ゲルマニウム(Ge)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)などの金属の酸化物、ハロゲン化物、カルボン酸塩、アルコキシドなどの化合物が用いられる。なかでも、スズ化合物は、他の金属化合物に比べて触媒活性が比較的高く、好ましく用いられる。
しかしながら、重合速度の向上は、脂肪族ポリエステルの生産性の向上に直接つながるため、重合速度のさらなる増大への期待は大きい。重合速度の増大策としてまず考えられるのは、重合温度の上昇であるが、重合温度の上昇のみによる重合速度の増大は、重合速度と解重合速度の平衡による平衡反応率の低下を招くので好ましくない。また生成ポリマーの着色という不都合も起こる。このような問題を避けるために、助触媒の使用による重合速度の向上も考えられるところである。また金属化合物触媒を用いる開環重合には、生成するポリエステル中に金属が残留して、これが解重合による熱分解を助長し、生成ポリエステルの熱安定性を阻害する傾向も見いだされる。したがって、環状エステルの開環重合において、熱安定性を阻害しないあるいは向上する助触媒が見いだされれば、きわめて望ましい。しかしながら、環状エステルの開環重合に効果的な助触媒はほとんど見出されていないのが実情である。
例えば、特許文献8は、スズ触媒と、助触媒としての有機酸との組み合わせを、乳酸の直接重合を開示し、これにより熱安定性の優れるポリ乳酸が効率的に得られたとしている。しかしながら、開環重合においては、スズ化合物触媒を用いるラクチド(乳酸の環状二量体)の開環重合によるポリ乳酸の製造において、有機酸(オクタン酸)の添加が遅延剤として作用することが報告されている(非特許文献1)。他方、非特許文献2ならびに特許文献9においては、スズ化合物触媒を用いるラクチドあるいはラクトンの開環重合において、トリフェニルホスフィンなどのルイス塩基化合物が助触媒として作用し、重合時間の短縮と生成ポリエステルの熱安定性の向上が得られるとしている。しかしながら、本発明者の研究によれば、ルイス塩基化合物の助触媒作用は未だ満足できるものではない。
特開平7−126358号公報 特開平10−60101号公報 特開2005−220203号公報 WO2005/035623A号公報 特開平11−349670号公報 特開平10−168171号公報 WO2007/086563A号公報 特開2010−77350号公報 特許第3164456号公報
Macromol. Rapid Commun., 1998,19, pp.567-572 Macromol. Symp. 1999, 144, pp.289-302
上記事情に鑑み、本発明の主要な目的は、環状エステルの開環重合における有効な助触媒を見出して、効率的な脂肪族ポリエステルの製造方法を提供することにある。
本発明の更なる目的は、残留金属触媒による生成脂肪族ポリエステルの熱安定性の低下を効果的に抑制可能な脂肪族ポリエステルの製造方法を提供することにある。
本発明者らの研究によれば、上述の目的の達成のためには、スズ化合物触媒と組み合わせて、スルホン酸化合物を助触媒として用いることが有効であることが見出された。本発明の脂肪族ポリエステルの製造方法は、叙述の知見に基づくものであり、より詳しくは、触媒としてのスズ化合物、重合開始剤および助触媒としてのスルホン酸化合物の存在下に、環状エステルを開環重合することを特徴とするものである。
(環状エステル)
本発明で用いる環状エステルとしては、α−ヒドロキシカルボン酸の二量体環状エステル及びラクトンが好ましい。二量体環状エステルを形成するα−ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、L−及び/またはD−乳酸、α−ヒドロキシ酪酸、α−ヒドロキシイソ酪酸、α−ヒドロキシ吉草酸、α−ヒドロキシカプロン酸、α−ヒドロキシイソカプロン酸、α−ヒドロキシヘプタン酸、α−ヒドロキシオクタン酸、α−ヒドロキシデカン酸、α−ヒドロキシミリスチン酸、α−ヒドロキシステアリン酸、及びこれらのアルキル置換体などを挙げることができる。
ラクトンとしては、例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなどが挙げられる。また環状エーテルエステルとしては、例えばジオキサノンなどが挙げられる。
環状エステルは、不斉炭素を有する場合は、D体、L体、及びラセミ体のいずれでもよい。これらの環状エステルは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。2種以上の環状エステルを使用すると、任意の脂肪族コポリエステルを得ることができる。環状エステルは、所望により、共重合可能なその他のコモノマーと共重合させることができる。他のコモノマーとしては、例えば、トリメチレンカーボネート、1,3−ジオキソランなどの環状モノマーなどが挙げられる。
環状エステルの中でも、グリコール酸の二量体環状エステルであるグリコリド、L−及び/またはD−乳酸の二量体環状エステルであるL−及び/またはD−ラクチド、及びこれらの混合物が好ましく、グリコリドがより好ましい。グリコリドは、単独で使用することができるが、他の環状モノマーと併用してポリグリコール酸共重合体(コポリエステル)を製造することもできる。ポリグリコール酸共重合体を製造する場合、生成コポリエステルの結晶性、ガスバリア性などの物性上の観点から、共重合体中のグリコリドの割合は、好ましくは70重量%、より好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上とすることが望ましい。また、グリコリドと共重合させる環状モノマーとしては、ラクチド、ε−カプロラクトン、トリメチレンカーボネートが好ましい。
環状エステルの製造方法は、特に限定されない。例えば、グリコリドは、グリコール酸オリゴマーを解重合する方法により得ることができる。グリコール酸オリゴマーの解重合法として、例えば、米国特許第2,668,162号明細書に記載の溶融解重合法、特開2000−119269号公報に記載の固相解重合法、特開平9−328481号公報や国際公開第02/14303A1公報に記載の溶液相解重合法等を採用することができる。K.ChujoらのDie Makromolekulare Cheme,100(1967),262−266に報告されているクロロ酢酸塩の環状縮合物として得られるグリコリドも用いることができる。
グリコリドを得るには、上記解重合法の中でも、溶液相解重合法が好ましい。溶液相解重合法では、(1)グリコール酸オリゴマーと230〜450℃の範囲内の沸点を有する少なくとも一種の高沸点極性有機溶媒とを含む混合物を、常圧下または減圧下に、該オリゴマーの解重合が起こる温度に加熱して、(2)該オリゴマーの融液相の残存率(容積比)が0.5以下になるまで、該オリゴマーを該溶媒に溶解させ、(3)同温度で更に加熱を継続して該オリゴマーを解重合させ、(4)生成した二量体環状エステル(すなわち、グリコリド)を高沸点極性有機溶媒と共に溜出させ、(5)溜出物からグリコリドを回収する。
高沸点極性有機溶媒としては、例えば、ジ(2−メトキシエチル)フタレートなどのフタル酸ビス(アルコキシアルキルエステル)、ジエチレングリコールジベンゾエートなどのアルキレングリコールジベンゾエート、ベンジルブチルフタレートやジブチルフタレートなどの芳香族カルボン酸エステル、トリクレジルホスフェートなどの芳香族リン酸エステル、ポリエチレンジアルキルエーテルなどのポリアルキレングリコールエーテル等を挙げることができ、該オリゴマーに対して、通常、0.3〜50倍量(重量比)の割合で使用する。高沸点極性有機溶媒と共に、必要に応じて、該オリゴマーの可溶化剤として、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを併用することができる。グリコール酸オリゴマーの解重合温度は、通常、230℃以上であり、好ましくは230〜320℃である。解重合は、常圧下または減圧下に行うが、0.1〜90.0kPa(1〜900mbar)の減圧下に加熱して解重合させることが好ましい。
≪脂肪族ポリエステルの製造≫
本発明法においては、上記した環状エステルを、スズ化合物触媒、開始剤(分子量調節剤)および助触媒としてのスルホン酸化合物の存在下に塊状開環重合させることにより、脂肪族ポリエステルを製造する。
(触媒)
本発明においては、従来より環状エステルの開環重合触媒として広く用いられている金属化合物の中でも、重合活性、安全性、モノマーへの溶解性等の点で優れるスズ化合物が用いられる。スズ化合物の例としては、二塩化スズ、四塩化スズ等のハロゲン化スズ;オクタン酸スズ、酢酸スズ等の有機酸スズ;エトキシスズ、ブトキシスズ、等のアルコキシスズ化合物;等があげられる。中でも、活性、モノマーへの溶解性等の観点で、二塩化スズ、四塩化スズ等のハロゲン化スズおよびオクタン酸スズ、酢酸スズ等の有機酸スズが好ましく、特に二塩化スズあるいはその水和物が最も好ましく用いられる。必要に応じて酸化等により、2価スズの一部を4価状態に変化させたものも好ましく用いられる。
スズ化合物触媒は、一般に環状エステルに対して、重量基準で、水和水を除いて、300ppm以下、好ましくは1〜100ppm、より好ましくは10〜60ppmの割合で用いられる。過少であると、助触媒を添加しても重合速度が遅くなり、過剰であると生成ポリエステルの熱安定性が低下する。
(開始剤)
開始剤(分子量調節剤)としては、水、ブタノール、ドデシルアルコール(ラウリルアルコール)等の一価アルコール、好ましくは一価の高級アルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、グリセリンなどの多価アルコール等が用いられる。
これら開始剤化合物は、開始剤効果に加えて、生成する脂肪族ポリエステルの分子量を調節(低下)する効果を有し、生成ポリエステルの所望分子量に応じて、一般に、環状エステルに対するモル基準で、0.1〜0.5mol%、好ましくは0.15〜0.3mol%の範囲から選択された量比で用いられる。
(スルホン酸化合物)
本発明においては、スズ化合物触媒と組み合わせて、助触媒として、スルホン酸化合物を用いる。スルホン酸化合物の例としては、ベンゼンスルホン酸、n−ブチルベンゼンスルホン酸、n−オクチルベンゼンスルホン酸、n−ドデシルベンゼンスルホン酸、ペンタデシルベンゼンスルホン酸、2,5−ジメチルベンゼンスルホン酸、2,5−ジブチルベンゼンスルホン酸、o−アミノベンゼンスルホン酸、m−アミノベンゼンスルホン酸、p−アミノベンゼンスルホン酸、3−アミノ−4−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、5−アミノ−2−メチルベンゼンスルホン酸、3,5−ジアミノ−2,4,6−トリメチルベンゼンスルホン酸、2,4−ジニトロベンゼンスルホン酸、p−クロルベンゼンスルホン酸、 2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸、クメンスルホン酸、キシレンスルホン酸、o−クレゾールスルホン酸、m−クレゾールスルホン酸、p−クレゾールスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、1−ナフタレンスルホン酸、イソプロピルナフタレンスルホン酸、ドデシルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、1,5−ナフタレンジスルホン酸、2,7−ナフタンレンジスルホン酸、4,4−ビフェニルジスルホン酸、アントラキノン−2−スルホン酸、m−ベンゼンジスルホン酸、2,5−ジアミノ−1,3−ベンゼンジスルホン酸、 アニリン−2,4−ジスルホン酸、アントラキノン−1,5−ジスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸などの芳香族スルホン酸;メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1−プロパンスルホン酸、n−オクチルスルホン酸、ペンタデシルスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリクロロメタンスルホン酸、1,2−エタンジスルホン酸、1,3−プロパンジスルホン酸などの脂肪族スルホン酸;シクロペンタンスルホン酸、シクロヘキサンスルホン酸およびカンファースルホン酸などの脂環式スルホン酸などが挙げられる。なかでも、活性、熱安定性等の理由により、p−トルエンスルホン酸、等の芳香族スルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸等の脂肪族スルホン酸が、好ましく用いられる。
これらスルホン酸化合物は、スズ化合物触媒1モルに対して、0.1〜3モル、特に0.5〜2モルの割合で用いることが好ましい。過少であると、助触媒効果が乏しく、3モルを超えて添加量を増やしすぎると、重合系内の酸濃度が上昇し、非特許文献1で見られるように、酸による重合速度低下を招くため好ましくない。
(その他の助剤)
上記した、スズ化合物触媒、重合開始剤およびスルホン酸化合物は、それぞれ単独で重合系に添加することもできるが、重合系への均一分散を促進するために、予め特に触媒に対する溶解能を有する適宜の有機溶媒より、希釈したのち重合系に添加することも好ましい。本発明の環状エステルの開環重合は、回分系あるいは連続系のいずれによっても実現可能であるが、連続系の場合には、特に有機溶媒による希釈液の添加が好ましい。有機溶媒としては、保管中ならびに重合装置への供給条件で揮発による触媒の濃度変化を起さないよう沸点が50℃以上のものが好ましい。このような有機溶媒の例としては、酢酸メチル(沸点56.9℃)、酢酸エチル(沸点77℃)などのエステル系溶媒;ジオキサン(沸点101.1℃)などのエーテル系溶媒;アセトン(沸点56.5℃)、メチルエチルケトン(沸点79.5℃)などのケトン系溶媒;などが挙げられる。
例えばスズ化合物触媒濃度としては、製品ポリマーへの残存量を低減するために比較的低濃度で用いられ、一般に0.1g/ml以下、より好ましくは0.05g/ml以下、更に好ましくは0.001〜0.02g/ml程度とされる。
また有機溶媒としては、ドデシルアルコールなどの二塩化スズ触媒を溶解する作用を有する液体開始剤も用いられ、その分子量調節作用との関連で目的とする製品ポリマー分子量に応じて触媒との量比が制約される難点があるが、追加の有機溶媒を用いないため製品ポリマー中への溶媒の残存が避けられる、プロセスを簡略化できる等の利点が得られる。
すなわち、本発明の脂肪族ポリエステルの製造方法における環状エステルの開環重合は、溶液重合として実施できないことはないが、重合装置の容積効率、生成脂肪族ポリエステルの特性等の観点で、触媒等の助剤の補助的に使用される溶媒以外の溶媒はほとんど使用しない実質的に塊状重合として実施することが好ましい。また重合後期のポリマーを固体粉砕状態で回収し、更に固相重合に付して残留モノマーを0.2重量%以下、更には0.1重量%以下に低減したのち、熱安定剤とともに溶融混練してペレット化することも好ましい(そのような塊状重合の一例はWO2007/08563A1明細書に開示されている。)
熱安定剤の好ましい例としては、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシル)ホスファイト等のペンタエリスリトール骨格構造を有するリン酸エステル;モノ−またはジ−ステアリルアシッドホスフェートあるいはこれらの混合物等の、炭素数が好ましくは8〜24のアルキル基を有するリン酸アルキルエステルまたは亜リン酸アルキルエステル;炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム等の炭酸金属塩;更には一般に重合触媒不活性剤として知られる、ビス[2−(2−ヒドロキシベンゾイル)ヒドラジン]ドデカン酸、N,N′−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジンなどの−CONHNH−CO−単位を有するヒドラジン系化合物;3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール系化合物、更には、トリアジン系化合物などが挙げられる。これら熱安定剤の構造は、必要であれば、WO2003/037956A1公報に示されている。これら熱安定剤は、脂肪族ポリエステル100重量部に対して、好ましくは3重量部以下、より好ましくは0.003〜1重量部、最も好ましくは0.01〜0.05重量部の割合で用いられる。
更に、熱安定剤に加えて、カルボキシル基封止剤を加えることにより、得られるペレット状脂肪族ポリエステルの耐水性(耐加水分解性)を向上することもできる。
カルボキシル基封止剤としては、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルの耐水性向上剤として知られているものを一般に用いることができ、例えば、N,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドなどのモノカルボジイミドおよびポリカルボジイミド化合物を含むカルボジイミド化合物、2,2′−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2′−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2−フェニル−2−オキサゾリン、スチレン・イソプロペニル−2−オキサゾリンなどのオキサゾリン化合物;2−メトキシ−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジンなどのオキサジン化合物;N−グリシジルフタルイミド、シクロへキセンオキシド、トリグリシジルイソシアヌレートなどのエポキシ化合物などが挙げられる。なかでもカルボジイミド化合物やエポキシ化合物が好ましい。これらカルボキシル基封止剤は、必要に応じて2種以上を併用することが可能であり、脂肪族ポリエステル100重量部に対して、0.01〜10重量部、更には0.1〜2重量部、特に0.2〜1重量部の割合で配合することが好ましい。
上述した脂肪族ポリエステル粉砕物および熱安定剤、更には必要に応じて加えるカルボキシル基封止剤、を脂肪族ポリエステルの融点+5〜+60℃、例えば脂肪族ポリエステルがポリグリコール酸(PGA)の場合、好ましくは230〜280℃、より好ましくは、240〜270℃の温度範囲に加熱して溶融(混合)する。溶融(混合)手段は基本的には任意であり、撹拌機、連続式混練機等も用いられるが、短時間処理が可能であり、その後の冷却工程への移行も円滑に行われる押出機(たとえば、同方向回転二軸混練押出機)中での加熱溶融(混合)が好ましい。
脂肪族ポリエステルに、機械的強度、その他の特性を付与するために、充填材を使用することが可能であり、その種類は特に限定されるものではないが、繊維状、板状、粉末状、粒状などの充填材を使用することができる。具体的には、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、キチン・キトサン、セルロース、綿などの天然繊維、芳香族ポリアミド繊維などの有機合成繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、ほう酸アルミニウムウイスカー、窒化ケイ素ウイスカーなどの繊維状あるいはウイスカー状充填材;マイカ、タルク、カオリン、シリカ、砂などの天然無機鉱物、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、モンモリロナイト、酸化チタン、酸化亜鉛、ポリ燐酸カルシウム、グラファイトなどの粉状、粒状あるいは板状の充填材が挙げられる。ガラス繊維の種類は、一般に樹脂の強化に用いられるものなら特に限定はなく、たとえば長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバーなどから選択して用いることができる。また上記の充填材は2種以上を併用することもできる。上記の充填材は、その表面を公知のカップリング剤(たとえばシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理して用いることもできる。またガラス繊維は、エチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆あるいは集束されていてもよい。充填材の添加量は、脂肪族ポリエステル100重量部に対して0.1〜100重量部、特に好ましくは1〜50重量部である。
以下、脂肪族ポリエステルとして、ポリグリコ−ル酸(PGA)およびポリ乳酸(PLA)を製造する実施例により、本発明を更に具体的に説明する。以下の記載を含めて、本明細書中に記載した物性(値)は、以下の方法による測定値に基づく。
(1)重合反応率:
反応混合物中のモノマー含有量を測定し、重合反応率として算出した。またモノマー含有量測定のために、サンプル約50mgに、内部標準物質の4−クロロベンゾフェノンを0.2g/lの濃度で溶解したジメチルスルホキシド(DMSO)2gを加え、160℃で約3分間加熱して溶解させ、室温まで冷却した後、濾過を行った。その濾液を1μl採取し、ガスクロマトグラフィー(GC)装置に注入して測定した。
<GC条件>
装置:(株)島津製作所製「GC−2010」
カラム:「TC−17」、0.25mmφ×30m
カラム温度:150℃5分間保持、20℃/分で270℃まで昇温、270℃3分間保持
気化室温度:180℃
検出器:FID(水素炎イオン化検出器)、温度:300℃。
(2)初期反応率、反応終了時間および反応速度定数
重合が進行し、ほぼ反応物が粘性を持ち始める時点(重合開始からグリコリドについては60分、L−ラクチドについては6時間)の重合反応率を初期反応率とし、この時点から30分毎に重合反応率を測定し、反応率が変化しなくなる重合開始からの時間を、反応終了時間として記録した。
他方、重合初期、反応物が粘性を持ち始める前の領域においては、停止反応が起こらず、反応中心の数(開始剤分子および触媒分子の数によって決定されると仮定した)が一定であると仮定して得られる以下の一次式(1)から、反応速度定数k(単位:「1/s」)を求めた。
−d[M]/dt=k[M] (1)
より具体的には、反応開始からグリコリドについては15分まで、L−ラクチドについては60分までの期間に数回のサンプリングを行い、測定モノマー濃度[M]に基づいて、反応時間に対する―ln([M]/[M])(ここで[M]:初期モノマー濃度)をプロットし、そのプロットの傾きより(初期)反応速度定数kを求めた。
(3)分子量:
サンプル約10mgをDMSO0.5mlで160℃において加熱溶解し、室温まで冷却した。その溶液をヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)で10mlにメスアップし、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置に注入して分子測定した。測定された分子量分布に基づき、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)を求めた。
<GPC条件>
装置:昭和電工(株)製「ShodexGPC−104」
カラム:「HFIP−606M」(2本)、プレカラム:「HFIP−G」(1本)を直列接続
カラム温度:40℃
溶離液:5mMトリフルオロ酢酸ナトリウム/HFIP中溶液
流速:0.6ml/min
検出器:RI(示差屈折率検出器)
分子量決定基準物質:標準ポリメタクリル酸メチル(昭和電工(株)製、分子量195.0万、65.9万、21.8万、5.0万、2.1万、0.7万及び0.2万)。
(4)熱安定性:
サンプル樹脂10mgを熱重量分析装置(TGA)に入れ、窒素を40cc(標準状態)/分の割合で流しながら260℃で、60分間保持した前後の重量変化により、下式により熱重量保持率(%)を計算し、評価した。
熱重量保持率(%)=(加熱後重量/加熱前重量)×100。
なお、重合後の経時変化による測定結果のばらつきを避けるために、(3)分子量及び(4)熱安定性、の測定には重合後、温度23±1℃且つ露点−50℃以下の低湿度環境下で保存し、測定直前に取り出したサンプル樹脂を使用した。
(実施例1)
グリコリド100重量部に対して、 触媒として二塩化スズ0.015重量部、重合開始剤としてエチレングリコール0.1重量部、助触媒としてパラトルエンスルホン酸を触媒に対してモル比0.1の量で重合容器に仕込んだ。仕込み内容物を、170℃の加熱条件下で保持し、前述の方法により、60分後反応率および最終反応時間ならびに(初期)反応速度定数を求めた。
結果を以下の実施例、比較例の結果とまとめて、後記表1に示す。
(実施例2)
助触媒/触媒モル比を0.5に変更する以外は、実施例1の操作を繰り返した。
(実施例3)
助触媒/触媒モル比を1に変更する以外は、実施例1の操作を繰り返した。
(実施例4)
助触媒/触媒モル比を2に変更する以外は、実施例1の操作を繰り返した。
(参考例1)
助触媒/触媒モル比を5に変更する以外は、実施例1の操作を繰り返した。
(実施例5)
助触媒としてメタンスルホン酸を用いる以外は、実施例3の操作を繰り返した。
(実施例6)
触媒としてオクタン酸スズ(II)0.0027重量部を用いる以外は、実施例3の操作を繰り返した。
(比較例1)
助触媒を用いない以外は、実施例1の操作を繰り返した。
(比較例2)
助触媒として、特許文献9で用いられるトリフェニルホスフィンを用いる以外は、実施例3の操作を繰り返した。
(比較例3)
助触媒を用いない以外は、実施例6の操作を繰り返した。
上記実施例1〜6、参考例1及び比較例1〜3の結果をまとめて次表1に示す。
Figure 2015021088
上記表1を見ると、次のことがわかる。二塩化スズ触媒に加えて、助触媒としてパラトルエンスルホン酸(芳香族スルホン酸化合物)を加えると、助触媒を加えない比較例1との対比において、助触媒/触媒モル比が0.1の場合(実施例1)であっても、反応終了時間の若干の短縮が認められ助触媒効果が認められる。さらに、助触媒/触媒モル比を増大させると(実施例2〜4)、反応速度定数、60分後の重合反応率および反応終了時間のいずれの点においても顕著な助触媒効果が認められるが、助触媒/触媒モル比が5とさらに増大すると(参考例1)、助触媒を用いない場合(比較例1)と比べて重合速度はむしろ低下する。二塩化スズ触媒に対する助触媒効果は、メタンスルホン酸(脂肪族スルホン酸化合物)においても認められる。オクタン酸スズ触媒に対し、助触媒としてパラトルエンスルホン酸を使用した場合(実施例6)、助触媒を使用しない場合(比較例3)と比べて、初期反応速度定数は若干低下しているが、60分後の反応率の増大、反応終了時間の短縮で分かるように、反応の中期以降における顕著な助触媒効果が認められる。
モノマーとして、グリコリドの代わりにL−ラクチドを用いて、以下の重合試験を行った。
(実施例7)
L-ラクチド100重量部に対して、 触媒としてオクタン酸スズ0.054重量部、重合開始剤としてエチレングリコール0.1重量部、助触媒としてパラトルエンスルホン酸を触媒に対してモル比1の量で重合容器に仕込んだ。仕込み内容物を、180℃の加熱条件下で保持して重合を進め、前記の方法により、初期反応速度定数、6時間後反応率および最終反応時間を求めた。
(比較例4)
助触媒を用いない以外は、実施例7の操作を繰り返した。
上記実施例7及び比較例4の結果をまとめて、次表2に示す。
Figure 2015021088
上記表2を見ると、グリコリドの場合(前記表1の実施例6と比較例3)と同様に、L-ラクチドをモノマーに用いても、オクタン酸スズ触媒に対し、助触媒としてパラトルエンスルホン酸を使用した場合、助触媒を使用しない場合と比べて、初期反応速度定数は若干低下しているが、6時間後の反応率の増大、反応終了時間の短縮で分かるように、反応の中期以降における顕著な助触媒効果が認められる。
(分子量測定及び熱安定性試験)
上記実施例3及び比較例1で反応終了後に得られたポリマーについて、それぞれ上記した方法により初期分子量測定ならびに熱安定性試験(熱重量保持率測定)を行った。結果をまとめて次表3に示す。
Figure 2015021088
助触媒としてパラトルエンスルホン酸を加えた実施例3において、助触媒を加えない比較例1との対比において、重合後に得られたポリマーの分子量に差は無いのにも関わらず、熱重量保持率には明らかな差異が観測された。これより、パラトルエンスルホン酸を加えたことによる顕著な熱安定性(熱重量保持率)の向上効果が認められる。
(参考例2)
実施例3および5のいずれにおいても、二塩化スズを用いずに助触媒のみを用いた場合には、重合はほとんど進行しなかった。
(参考例3)
触媒として、二塩化スズの代わりに塩化亜鉛(II)を用いる以外は、助触媒を用いずに、比較例1の操作を繰り返した。
(参考例4)
触媒として、二塩化スズの代わりに塩化亜鉛(II)を用いる以外は、実施例3の操作を繰り返した。
(参考例5)
触媒として、二塩化スズの代わりに塩化ジルコニウム(II)を用いる以外は、助触媒を用いずに、比較例1の操作を繰り返した。
(参考例6)
触媒として、二塩化スズの代わりに塩化ジルコニウム(II)を用いる以外は、実施例3の操作を繰り返した。
(参考例7)
触媒として、二塩化スズの代わりにジルコニウム(II)アセチルアセトナートを用いる以外は、助触媒を用いずに、比較例1の操作を繰り返した。
(参考例8)
触媒として、二塩化スズの代わりにジルコニウム(II)アセチルアセトナートを用いる以外は、実施例3の操作を繰り返した。
上記参考例3〜8において7時間後の重合反応率を測定した。比較例1及び3の結果とまとめて、次表4に示す。
Figure 2015021088
上表4に示す結果は、スルホン酸化合物の助触媒効果は、スズ化合物触媒に対して特異的に認められるものであり、環状エステルの開環重合触媒として知られる他の金属化合物触媒との組合わせで一様に認められるものではないことを示す。
上記表1〜3の結果で示されるように、本発明に従い、スズ化合物触媒を用いる環状エステルの塊状開環重合に際して、スルホン酸化合物を助触媒として用いることにより、熱安定性の向上した脂肪族ポリエステルが効率的な製造方法が提供される。

Claims (5)

  1. 触媒としてのスズ化合物、重合開始剤および助触媒としてのスルホン酸化合物の存在下に、環状エステルを開環重合することを特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法。
  2. 前記スズ化合物が二塩化スズ及びオクタン酸スズから選択される少なくとも1種である請求項1に記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
  3. 前記重合開始剤がアルコール類である請求項1または2に記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
  4. 前記スルホン酸化合物がメタンスルホン酸またはパラトルエンスルホン酸である請求項1〜3のいずれかに記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
  5. 前記環状エステルがグリコリド及びラクチドの少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
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