JP2015017323A - 溶銑の予備処理方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 1つの転炉を用い、溶銑の脱珪処理と脱燐処理とを行う予備処理方法において、効率良く脱珪処理し且つ効率良く脱燐処理する。
【解決手段】 1つの転炉1で、溶銑5を脱珪し次いで脱燐して予備処理するにあたり、当該チャージで使用する溶銑の珪素含有量、炉内での前チャージの脱燐スラグの残留の有無、中間排滓工程での残留スラグ量、脱燐後の溶銑燐含有量に応じて、下記の精錬パターン1〜4を選定して溶銑を予備処理する。 精錬パターン1:脱珪、脱燐、出湯、脱燐スラグを排滓せずに次チャージの溶銑装入を、この順に行う精錬方法。 精錬パターン2:脱珪、中間排滓、脱燐、出湯、脱燐スラグを排滓せずに次チャージの溶銑装入を、この順に行う精錬方法。 精錬パターン3:脱珪、中間排滓、脱燐、出湯、排滓、次チャージの溶銑装入を、この順に行う精錬方法。 精錬パターン4:脱珪、出湯、排滓、次チャージの溶銑装入を、この順に行う精錬方法。
【選択図】 図2

Description

本発明は、転炉を用いた溶銑の予備処理方法に関し、詳しくは、1つの転炉を用い、高炉から出銑された溶銑を効率良く脱珪処理する、或いは、効率良く脱珪処理及び脱燐処理するための予備処理方法に関する。
近年、溶銑の予備処理方法(脱珪処理、脱燐処理、脱硫処理)の開発が進み、転炉に装入される溶銑の燐(P)、硫黄(S)の濃度は、それ以上に除去する必要のないレベルまで低減され、転炉では主に脱炭精錬のみを行う製鋼精錬プロセスが完成しつつある。脱珪処理及び脱燐処理は、溶銑中の珪素(Si)或いは燐が溶銑に供給される酸素源(酸素ガスや酸化鉄)中の酸素によって酸化除去される反応(酸化反応)であり、一方、脱硫処理は、CaO(酸化カルシウム)などの脱硫剤と溶銑中の硫黄とが反応して硫黄が除去される反応(還元反応)である。
これらの溶銑予備処理のなかで、脱燐処理は、生成される燐酸化物(P)をCaO系のスラグに吸収させて脱燐反応を進行させており、脱燐平衡の観点から、燐酸化物を吸収するためのスラグの塩基度(=(質量%CaO)/(質量%SiO):以下、単に「塩基度」とも記す)を所定の値、例えば1.5〜3.0の範囲内にする必要がある。溶銑中の珪素は溶銑中の燐よりも優先的に酸化されることから、溶銑に脱燐処理を施すべく、珪素を含有する溶銑に酸素源を供給すると、先ず、珪素が酸化し、つまり、脱珪反応が起こり、溶銑中の珪素が少なくなった以降に脱燐反応が起こる。珪素は酸化されるとSiO(二酸化珪素)になることから、脱燐処理前の溶銑中の珪素濃度が高い場合には、つまり、脱燐処理におけるSiOの発生量が多い場合には、スラグの塩基度を所定の値に確保するためのCaO系媒溶剤の使用量が多くなるのみならず、スラグの発生量が多くなり、製造コストを上昇させる。
そこで、上記問題を解決するために種々の提案がなされている。例えば、特許文献1には、転炉を用いて脱珪処理されていない溶銑を脱珪処理し、この脱珪処理に引き続いて脱燐処理する際に、脱珪処理終了時のスラグの塩基度が0.3〜1.3の範囲に入るようにCaO系媒溶剤の供給量を調整して脱珪処理を行った後、炉を傾動して炉内に生成したスラグを炉口から排出し、次いで、炉内にCaO系媒溶剤を添加して脱燐処理を行う予備処理方法が提案されている。
また、特許文献2には、転炉を用いて脱珪処理、脱燐処理を実施する場合において、前チャージで生成した脱燐スラグを排滓することなく次チャージの溶銑を転炉に装入して脱珪処理を実施し、溶銑中の珪素濃度が0.2質量%以下になった時点で塩基度が1.0〜3.0の範囲の炉内スラグの少なくとも一部を排出し、引き続き、脱燐精錬を行う予備処理方法が提案されている。ここで、脱燐スラグとは、脱燐処理で生成するスラグである。
特許文献1及び特許文献2に提案される技術を適用することで、1つの転炉を用いて溶銑の脱珪処理及び脱燐処理を行う際に、脱珪処理で生成するスラグの影響を受けることなく、効率的に脱燐処理を行うことが可能となっている。また、特許文献2は、前チャージで生成した脱燐スラグを排滓せずに、次チャージの脱珪処理でスラグの塩基度調整用に利用しており、CaO系媒溶剤の使用量が削減可能になると同時に、スラグ発生量を低減できるという効果が得られる。
特開平10−152714号公報 特開平11−323420号公報
しかしながら、上記従来技術には以下の問題がある。
即ち、特許文献1及び特許文献2は、脱珪処理と脱燐処理との途中で、炉内のスラグを排滓する(「中間排滓」という)ことを必須としているが、操業条件や溶銑成分によっては、中間排滓を行わなくても、効率的に脱燐処理を行うことができる。
また、特許文献2は、脱燐処理で生成した脱燐スラグを次チャージの脱珪処理で利用することを必須としているが、中間排滓で所定量のスラグが排出されない場合には、次チャージで利用する脱燐スラグの塩基度は低く、その上、脱珪処理中に生成するSiOによって、このSiOと残留脱燐スラグとで生成される脱珪スラグの塩基度は更に低下し、脱珪処理中に、脱燐スラグに含有されていた燐酸化物(P)が分解して溶銑に移行する、所謂「復燐」が発生することもある。また、スラグの組成や量の制御には不確定な要素もあるため、想定外に塩基度が低下したりスラグ量が増大したりすると、精錬中に炉口からスラグが噴出し、精錬の中断を余儀なくされたり、中間排滓時の排滓時間が増大したりして、予備処理の生産性が低下する、即ち予備処理を実施する比率が低下するという問題も発生する。つまり、操業条件によっては、前チャージの脱燐スラグを次チャージの脱珪処理で利用することで、却って操業を阻害することがある。ここで、脱珪スラグとは脱珪処理で生成するスラグである。
特許文献1及び特許文献2は、これらについて、何ら配慮していない。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、1つの転炉を用い、高炉から出銑された溶銑の脱珪処理を単独で行う、或いは、脱珪処理と脱燐処理とを連続して行う溶銑の予備処理方法において、種々の操業条件及び溶銑成分条件に応じて、効率良く脱珪処理する、或いは、効率良く脱珪処理及び脱燐処理することのできる、溶銑の予備処理方法を提供することである。
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]1つの転炉を用いて、高炉から出銑された溶銑を脱珪処理するか、または、脱珪処理し、その後に脱燐処理する溶銑の予備処理を3チャージ以上連続して実施するにあたり、
当該チャージで使用する溶銑の珪素含有量が0.20質量%ないし0.45質量%の範囲内の或る所定値X以下で、且つ、当該チャージの前チャージでは予備処理後(通常は脱燐処理後、脱珪処理のみの場合は脱珪処理後)に炉内のスラグが排滓されたときには、下記の精錬パターン1の精錬方法で予備処理を行い、
当該チャージで使用する溶銑の珪素含有量が前記所定値Xを超え且つ0.60質量%ないし0.80質量%の範囲内の或る所定値X以下のとき、或いは、当該チャージで使用する溶銑の珪素含有量が前記所定値X以下で、且つ、当該チャージの前チャージでは脱燐処理後に炉内の脱燐スラグが排滓されず、当該チャージの溶銑が転炉内に装入される時点では前チャージの脱燐スラグが炉内に残留しているときには、次の(A)または(B)の場合分けに応じた精錬方法で予備処理を行い、
(A):当該チャージの脱珪処理後の中間排滓工程直後の炉内での脱珪スラグの残留量が15kg/溶銑−トンないし25kg/溶銑−トンの範囲内の或る所定値Y以下で、且つ、当該チャージの脱燐処理後の溶銑の燐含有量分析値が0.040質量%ないし0.060質量%の範囲内の或る所定値Z以下の場合に、下記の精錬パターン2の精錬方法で予備処理を行うこととし、
(B):当該チャージの脱珪処理後の中間排滓工程直後の炉内での脱珪スラグの残留量が前記所定値Yを超える場合、或いは、当該チャージの脱燐処理後の溶銑の燐含有量分析値が前記所定値Zを超える場合には、下記の精錬パターン3の精錬方法で予備処理を行うこととし、
当該チャージで使用する溶銑の珪素含有量が前記所定値Xを超えるときには、下記の精錬パターン3の精錬方法または下記の精錬パターン4の精錬方法で予備処理を行うことを特徴とする、溶銑の予備処理方法。
精錬パターン1:転炉内の溶銑を脱珪処理する脱珪処理工程と、該脱珪処理工程で生成した脱珪スラグを排滓せずに前記転炉内の溶銑を脱燐処理する脱燐処理工程と、脱燐処理された溶銑を前記転炉から出湯する出湯工程と、前記脱燐処理工程で生成した脱燐スラグを排滓せずに前記転炉内に次チャージの溶銑を装入する溶銑装入工程とを、この順に行う精錬方法。
精錬パターン2:転炉内の溶銑を脱珪処理する脱珪処理工程と、該脱珪処理工程で生成した脱珪スラグを転炉から排滓する中間排滓工程と、前記転炉内に残留させた溶銑を脱燐処理する脱燐処理工程と、脱燐処理された溶銑を前記転炉から出湯する出湯工程と、前記脱燐処理工程で生成した脱燐スラグを排滓せずに前記転炉内に次チャージの溶銑を装入する溶銑装入工程とを、この順に行う精錬方法。
精錬パターン3:転炉内の溶銑を脱珪処理する脱珪処理工程と、該脱珪処理工程で生成した脱珪スラグを転炉から排滓する中間排滓工程と、前記転炉内に残留させた溶銑を脱燐処理する脱燐処理工程と、脱燐処理された溶銑を前記転炉から出湯する出湯工程と、前記脱燐処理工程で生成した脱燐スラグを転炉から排滓する排滓工程と、前記転炉内に次チャージの溶銑を装入する溶銑装入工程とを、この順に行う精錬方法。
精錬パターン4:転炉内の溶銑を脱珪処理する脱珪処理工程と、該脱珪処理された溶銑を前記転炉から出湯する出湯工程と、該脱珪処理工程で生成した脱珪スラグを転炉から排滓する排滓工程と、前記転炉内に次チャージの溶銑を装入する溶銑装入工程とを、この順に行う精錬方法。
本発明によれば、1つの転炉を用いて、高炉から出銑された溶銑の脱珪処理を単独で行う、或いは、脱珪処理と脱燐処理とを連続して行う溶銑の予備処理方法において、使用する溶銑の珪素含有量、転炉内での前チャージの脱燐スラグの排滓の有無、精錬の途中の中間排滓工程の実績、及び、脱燐処理工程後の溶銑の燐含有量分析値に基づいて、精錬パターン1〜4のなかからどの精錬パターンとするかを決定するので、溶銑には、状況に応じた最適な予備処理方法が施され、溶銑を効率良く脱珪処理し且つ効率良く脱燐処理することが実現される。
本発明に係る溶銑の予備処理方法を実施する際に用いる転炉の概略縦断面図である。 本発明に係る溶銑の予備処理方法のうちで、前チャージが精錬パターン2であって、精錬パターン2を連続して2チャージに適用した場合の当該チャージの処理方法を工程順に示す概略図である。
以下、添付図面を参照して本発明を具体的に説明する。図1は、本発明に係る溶銑の予備処理方法を実施する際に用いる転炉の概略縦断面図、図2は、本発明に係る溶銑の予備処理方法のうちで、前チャージが精錬パターン2であって、精錬パターン2を連続して2チャージに適用した場合の当該チャージの処理方法を工程順に示す概略図である。尚、図1は、図2−(B)の脱珪処理工程を示す図である。
本発明に係る溶銑の予備処理方法では、図1に示すような上底吹き可能な転炉1を用いる。上吹きは、転炉1の内部を昇降可能な上吹きランス2を介して、上吹きランス2の先端から酸素源として酸素含有ガスを溶銑5に向けて供給して行われる。酸素含有ガスとしては、酸素ガス、酸素富化空気、空気、酸素ガスと不活性ガスとの混合ガスを使用することができる。図1では、酸素含有ガスとして酸素ガス9を使用した例を示している。ここで、酸素ガス9とは工業用純酸素である。底吹きは、転炉1の底部に設けられた底吹き羽口3を介して行われる。底吹きガス10としては、酸素ガスを含むガスでも、或いはArガスや窒素ガスなどの不活性ガスのみでもよい。その機能として、溶銑中に吹き込むことにより溶銑5の攪拌を強化して冷鉄源の溶解を促進する機能を有するほか、底吹き羽口3から搬送用ガスとともに造滓剤を溶銑中に吹き込む機能を有するものでもよい。
本発明においては、溶銑5の精錬に2基以上の転炉1を使用し、そのうちの少なくとも1基の転炉1を本発明に係る溶銑予備処理に使用し、残りの少なくとも1基を、本発明に係る溶銑予備処理の施された溶銑5の脱炭精錬に使用する。つまり、溶銑予備処理用の転炉1で予備処理を行い、次いで、予備処理の施された溶銑5を脱炭精錬用の転炉1に移し替えて脱炭精錬を行う。また、本発明は、1基の転炉1を用いて3チャージ以上のチャージを連続して予備処理する場合に適用し、好ましくは、10チャージ以上のチャージを連続して予備処理する場合に適用する。
本発明においては、1基の転炉1を用いて脱珪処理を単独、または、脱珪処理と脱燐処理とを溶銑5に対して行うが、その場合に、精錬パターンを、精錬パターン1、精錬パターン2、精錬パターン3、精錬パターン4の下記に示す4種類の精錬パターンのなかから選択した1つの精錬パターンで予備処理を実施する。
精錬パターン1:転炉内の溶銑を脱珪処理する脱珪処理工程と、該脱珪処理工程で生成した脱珪スラグを排滓せずに前記転炉内の溶銑を脱燐処理する脱燐処理工程と、脱燐処理された溶銑を前記転炉から出湯する出湯工程と、前記脱燐処理工程で生成した脱燐スラグを排滓せずに前記転炉内に次チャージの溶銑を装入する溶銑装入工程とを、この順に行う精錬方法。
精錬パターン2:転炉内の溶銑を脱珪処理する脱珪処理工程と、該脱珪処理工程で生成した脱珪スラグを転炉から排滓する中間排滓工程と、前記転炉内に残留させた溶銑を脱燐処理する脱燐処理工程と、脱燐処理された溶銑を前記転炉から出湯する出湯工程と、前記脱燐処理工程で生成した脱燐スラグを排滓せずに前記転炉内に次チャージの溶銑を装入する溶銑装入工程とを、この順に行う精錬方法。
精錬パターン3:転炉内の溶銑を脱珪処理する脱珪処理工程と、該脱珪処理工程で生成した脱珪スラグを転炉から排滓する中間排滓工程と、前記転炉内に残留させた溶銑を脱燐処理する脱燐処理工程と、脱燐処理された溶銑を前記転炉から出湯する出湯工程と、前記脱燐処理工程で生成した脱燐スラグを転炉から排滓する排滓工程と、前記転炉内に次チャージの溶銑を装入する溶銑装入工程とを、この順に行う精錬方法。
精錬パターン4:転炉内の溶銑を脱珪処理する脱珪処理工程と、該脱珪処理された溶銑を前記転炉から出湯する出湯工程と、該脱珪処理工程で生成した脱珪スラグを転炉から排滓する排滓工程と、前記転炉内に次チャージの溶銑を装入する溶銑装入工程とを、この順に行う精錬方法。
先ず、精錬パターン2について説明する。
精錬パターン2では、図2−(A)に示すように、前チャージの脱燐処理工程で生成した脱燐スラグ7の全量が残留し、この残留する脱燐スラグ7の上に鉄スクラップなどの冷鉄源8が装入された転炉1に、高炉から出銑された、当該チャージで使用する溶銑5を、装入鍋11を介して装入する(溶銑装入工程)。
次いで、この転炉内の溶銑5に、酸素源として酸素ガス或いは酸化鉄を供給して、図2−(B)に示すように、脱珪処理を実施する(脱珪処理工程)。溶銑5に含有される珪素と供給する酸素源中の酸素とが反応(脱珪反応:Si+2O→SiO)して脱珪処理が進行する。この脱珪反応による珪素の酸化熱で溶銑温度が上昇し、溶銑中の冷鉄源8の溶解が促進される。また、炉内に残留していた前チャージの脱燐スラグ7は脱珪反応によって生成するSiOや供給した酸素源との反応により生成する酸化鉄及び添加した造滓剤と混合・反応し、炉内に脱珪スラグ6が生成される。尚、図2において、脱珪処理後の溶銑は、脱珪処理前の溶銑5と区別するために、溶銑5Aと表示している。また、図2−(E)に示す符号5Bは、脱燐処理後の溶銑である。
この場合、脱珪処理工程において、炉内に残留していた前チャージの脱燐スラグ7から溶銑5への復燐が生じないように、脱珪スラグ6の塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO))を適切に調整する。
脱燐スラグ中の燐は、多くの場合、2CaO・SiOと3CaO・Pとの固溶体として存在することが知られている。従って、復燐反応を防止するためには、この固溶体が、脱燐スラグ7と脱珪処理で生成するSiOとが反応して生成する脱珪スラグ6に溶解することを防ぐようにすればよい。本発明者らは、鋭意研究の結果、脱珪処理後の脱珪スラグ6の塩基度が、状態図上のSiO飽和領域に到達しないように脱珪スラグ6の組成を調整することで、復燐反応を実質的に防止できることを見出した。
通常の脱珪処理条件においては、溶銑温度が1300℃程度で、脱珪スラグ中のFeO濃度が10〜20%程度であるので、実用的には、脱珪処理後の脱珪スラグ6の塩基度を0.8以上とすることで復燐反応が抑制される。復燐をより確実に防止するには、脱珪処理の全期間を通じて、脱珪スラグ6の塩基度を0.8以上に調整すればよい。
脱珪スラグ6の塩基度((質量%CaO)/(質量%SiO))は、下記の(1)式に基づいて計算することができる。
塩基度=[(炉内残留CaO量(kg/溶銑-t))+(脱珪処理での添加CaO量(kg/溶銑-t))]÷[(炉内残留SiO量(kg/溶銑-t))+(脱珪処理での生成SiO量(kg/溶銑-t))]…(1)
尚、脱珪処理での生成SiO量は、脱珪処理中の溶銑中珪素濃度の変化から算出できる。
本発明においては、脱珪スラグ6の塩基度の調整のために、脱珪処理前及び/または脱珪処理中に、(1)式に則り、必要に応じてCaO系媒溶剤を炉内に添加する。このCaO系媒溶剤としては、生石灰、炭酸カルシウム、ドロマイト、転炉スラグ(転炉での脱炭精錬で生成するスラグ)、取鍋内スラグ(取鍋内の溶鋼上に存在するスラグであって、出鋼時に混入した転炉スラグとアルミナなどの脱酸生成物とに、生石灰などのスラグ改質剤を添加したもの)などが使用できる。脱珪処理後の脱珪スラグ6の塩基度は、後述するように排滓性の観点から1.5以下とすることが好ましく、0.8〜1.5の範囲であれば特に制限はないが、CaO系媒溶剤の使用量を低減するためには塩基度は低い方が有利であり、1.2以下とすることがより好ましい。
CaO系媒溶剤の添加方法としては、粒状及び塊状のものは炉上のホッパーから、粉状のものは上吹きランス2を介するなどして投入することができる。CaO系媒溶剤の添加時期は脱珪処理を開始してからでもよいが、脱珪処理中に脱珪スラグ6を十分に滓化させるためには、CaO系媒溶剤を事前に炉内に投入しておいてもよい。但し、精錬パターン2では、前チャージの脱燐スラグ7を炉内に残留させるので、脱珪処理工程に供する溶銑5の珪素濃度が低い場合には、CaO系媒溶剤の添加が必要でないことがある。
脱珪処理のための酸素源としては、上吹きランス2からの酸素ガス9のみでもよく、また、酸素ガス9に酸化鉄(図示せず)を併用してもよい。短時間で行われる脱珪処理中に目標とする塩基度の脱珪スラグ6を形成させるためには、CaO系媒溶剤の滓化を促進させる機能を有する酸化鉄を使用することが効果的であるが、本発明の目的の1つである多量の冷鉄源8を溶解させる観点からは、昇熱時及び分解時に吸熱する酸化鉄を用いることは好ましくなく、従って、酸素源として酸化鉄を用いることは可能な限り避けることが好ましい。また、精錬容器として転炉1を使用するので、強攪拌が可能であり、酸素ガス9のみを用いて脱珪処理を行っても、十分に目標とする塩基度の脱珪スラグ6を形成させることができる。
脱珪反応が進行して溶銑中の珪素含有量が0.20質量%以下となると、次第に脱炭反応も活性化してCOガスの生成速度が増大するようになる。この場合に、脱珪スラグ6の性状が適当なものであれば、脱珪スラグ中に大量の小さなCOガス気泡が含まれるようになり、脱珪スラグ6は、その見掛けの体積が気泡を含まない場合の数倍以上にも増大する、所謂、フォーミング状態となる。脱珪処理後の中間排滓工程では、炉口から溶銑5Aが流出しない範囲で炉体を傾動させて、炉口からの溢流により脱珪スラグ6を排出するので、傾動した炉体の炉口からのスラグ浴面の高さが高いほど効率的に排滓することができる。従って、脱珪処理においては炉口からスラグが噴出しない範囲で脱珪スラグ6のフォーミングを促進させ、排滓中もフォーミングを維持できるように、スラグ中の酸化鉄濃度などを調整することが好ましい。
この脱珪処理工程のあとに、中間排滓工程を設け、図2−(C)に示すように、転炉1の出湯口4の設置された側が上方に位置するように、転炉1を傾転させ、脱珪処理で発生した、SiOを大量に含有する低塩基度の脱珪スラグ6を転炉1の炉口から排出する。
中間排滓工程における排滓性の観点から、排滓対象である脱珪スラグ6の塩基度は1.5以下とし、且つ、脱珪スラグ6の温度を1280℃以上とすることが好ましい。これは、脱珪スラグ6の流動性を確保して、良好な排滓性及び排滓率を得るためである。排滓率は下記の(2)式で求めることができる。
排滓率(質量%)=(排出スラグ質量)×100/[(脱珪処理工程で生成したスラグ質量)+(前チャージの残留脱燐スラグ質量)]…(2)
CaO系媒溶剤の添加量を削減する観点からは、脱珪スラグ6の塩基度を1.2以下とすることが好適である。
脱珪スラグ6の塩基度が1.5を超える場合、固相スラグが生じることでスラグ流動性が低くなり、また、脱珪スラグ6の温度が1280℃を下回っても、同様に固相スラグの増加によるスラグ流動性の低下、並びに、液相スラグ自体の粘性上昇が生じることから、脱珪スラグ6の流動性が低くなり、排滓が困難になる。これを防止するために、使用する溶銑5の初期条件によっては、例えば脱珪処理が進んで溶銑中珪素濃度が0.05質量%を下回るような段階であっても、脱珪スラグ6の温度が1280℃を下回る場合が発生するが、この場合には、酸素ガスを更に供給して脱炭反応を進めてスラグ温度を高めて中間排滓工程を行う必要がある。
排滓のための更に好ましい条件は、脱珪スラグ6の温度が1320℃以上である。一方、脱珪スラグ6の温度が高すぎると、脱珪スラグ6の塩基度を0.8以上に調整しても復燐が起きることがあるので、脱珪処理終了後のスラグ温度は1380℃以下であることが好ましい。
中間排滓工程における脱珪スラグ6の排滓率は30質量%以上を確保することが好ましい。これは、その後の脱燐処理工程においては脱燐反応を進める上で脱燐スラグ7の塩基度を1.5〜3.5に調整する必要があり、排滓率が30質量%を下回ると、脱燐処理工程で添加すべきCaO系媒溶剤の量が多くなってしまうだけでなく、脱燐処理における脱燐スラグ7の量が多くなり、脱燐処理中のスラグフォーミングが抑制できず、転炉1の炉口からの脱燐スラグ7の漏洩による操業支障が生じるからである。一方、生成した脱珪スラグ6の80質量%を超えて排滓してしまうと、次工程の脱燐処理工程において新たに添加するCaO系媒溶剤の滓化が損なわれ、脱燐反応が阻害される虞があるので、排滓率は80質量%以下とすることが好ましい。
中間排滓工程では、排出した脱珪スラグ6の質量から、炉内に残留した脱珪スラグ6の質量を算出する。脱珪スラグ6の全質量は、上記の(2)式の分母、つまり、[(脱珪処理工程で生成したスラグ質量)+(前チャージの残留脱燐スラグ質量)]で求める。排出した脱珪スラグ6の質量は、スラグ収容容器(図示せず)に排出された脱珪スラグ6の質量を秤量する、或いは、スラグ収容容器に排出された脱珪スラグ6のフォーミングが沈静化した後のスラグ収容容器内での上面位置の目視観察などから求める。
算出した炉内残留脱珪スラグ6の質量から、炉内に残留する溶銑5Aの質量に対する脱珪スラグ残留量の比率(kg/溶銑−トン)を求める。後述するように、排滓性が良く、中間排滓工程での脱珪スラグ残留量が、15kg/溶銑−トンないし25kg/溶銑−トンの範囲内で設定した或る所定値Y(=Ykg/溶銑−トン)以下の場合には、その後の脱燐処理工程以降は精錬パターン2を選定し、一方、排滓性が悪く、中間排滓工程での脱珪スラグ残留量が前記所定値Yを超える場合には、その後の脱燐処理工程以降は精錬パターン3を選定する。精錬パターン2の説明であるので、ここでは、中間排滓工程での脱珪スラグ残留量が前記所定値Y以下であったとして説明を進める。
尚、脱珪スラグ6の排滓率(質量%)と脱珪スラグ6の溶銑5Aに対する残留量(kg/溶銑−トン)とは、1対1に対応しない。これは、脱珪スラグ6の質量がチャージによって変化することによる。
中間排滓工程で炉外に排出する脱珪スラグ6は流動性が高いことから脱珪スラグ中に存在した粒鉄は溶銑中に沈降しやすい。従って、脱珪スラグ6と脱燐処理後の脱燐スラグ7とを比較すると、脱珪スラグ6では、スラグ中に混入する金属鉄分が1/10程度以下に低減する。これに対して、脱燐スラグ中に混入する金属鉄分は脱燐スラグ7と分離することが困難であり、その大部分は鉄分として回収できずに脱燐スラグ7として処理される。このために、脱燐処理後の脱燐スラグ7を炉外に排出しないで、脱珪処理後に脱珪スラグ6のみを炉外に排出する精錬パターン2の精錬方法では、鉄歩留りの大幅な向上が可能となる。
中間排滓工程後は、転炉内に残留させた溶銑5AにCaO系媒溶剤及び酸素源を供給して、図2−(D)に示すように、溶銑5Aを脱燐処理する(脱燐処理工程)。脱燐処理工程において、炉内の脱燐スラグ7の塩基度は1.5〜3.5の範囲、より好ましくは1.8〜3.0の範囲に調整する。この脱燐処理工程において使用する酸素源は、脱珪処理と同様に、上吹きランス2からの酸素ガス9を主体とするが、一部酸化鉄を使用しても構わない。
脱燐処理で使用するCaO系媒溶剤としては、生石灰や炭酸カルシウムなどが使用できる。但し、これらに限定されず、鉄及び酸化鉄以外の成分の合計100質量部に対してCaOを50質量部以上含有し、必要に応じてフッ素やアルミナなどの他の成分を含有するものも、脱燐処理時のCaO系媒溶剤として使用することができる。このCaO系媒溶剤の添加方法としては、粒状及び塊状のものは炉上のホッパーから、粉状のものは上吹きランス2を介するなどして投入することができる。
溶銑中の燐は供給される酸素源中の酸素に酸化されて燐酸化物(P)となり、この燐酸化物が、CaO系媒溶剤の滓化によって形成され、脱燐精錬剤として機能する脱燐スラグ7に3CaO・Pなる安定形態の化合物として取り込まれ、溶銑5Aの脱燐反応が進行する。脱燐処理時間が所定の時間経過したなら、或いは、脱燐反応が進行して溶銑5Aの燐濃度が所定の値に低下したなら、脱燐処理を終了する。
CaO系媒溶剤の使用量は、中間排滓工程後に炉内に残留した脱珪スラグ6の残留量や、脱燐処理工程において溶銑5Bの目標とする燐含有量、精錬温度などの条件に応じて調整することが望ましい。例えば、脱珪スラグ6の残留量が15kg/溶銑−トン以下の場合は、残留量が少なく、比較的少ないCaO系媒溶剤使用量でも、0.04質量%以下の少ない溶銑中燐含有量まで効率的に脱燐処理を行うことができ、一方、脱珪スラグ6の残留量が25kg/溶銑−トンを超える場合は、目標とする溶銑5Bの燐含有量まで脱燐するためには大量のCaO系媒溶剤を使用することが必要になり、脱燐スラグ7の量も膨大なものになる。また、脱珪スラグ6の残留量が15kg/溶銑−トンと25kg/溶銑−トンとの間は、目標とする溶銑5Bの燐含有量に応じてCaO系媒溶剤の使用量を調節することなどにより、比較的効率的に脱燐処理を行うことができるが、これに伴って脱燐スラグ7の量も増減する。
脱燐処理終了後、図2−(E)に示すように、転炉1を出湯口4が設置された側に傾転させて転炉内の溶銑5Bを、出湯口4を介して溶銑保持容器(図示せず)に出湯する(出湯工程)。前述のように、図2−(E)に示す符号5Bは、脱燐処理後の溶銑である。出湯口4から流出する溶銑5Bに脱燐スラグ7が一部混入して流出することが確認された時点で、転炉1をその炉口が上方になるように傾動させ、出湯を終了する。
出湯終了後の転炉1には、脱燐スラグ7が残留し、また、図示はしないが少量の溶銑5Bも残留する。出湯工程では、出湯工程の末期に、出湯口4から流出する溶銑5Bに混入して脱燐スラグ7の一部が流出するが、この脱燐スラグ7の流出は不可避的なものであって意図的に排出したものではないので、本発明では、この状態を脱燐スラグ7の全量が炉内に残留したと定義する。
この出湯工程後、脱燐スラグ7を転炉1から排滓しないで、図2−(A)に示す溶銑装入工程に戻り、次チャージの脱珪処理及び脱燐処理を上記に沿って実施する。炉内に残留させた脱燐スラグ7は、脱炭精錬で生成する脱炭スラグに比べ、低温であり、酸化鉄濃度も低いことから、溶銑5との反応性は比較的低い。従って、冷却材の投入による脱燐スラグ7の固化処置を行わずに、脱珪スラグ7の上方から溶銑5を装入しても、操業上問題となることはない。
但し、図2−(F)に示すように、転炉1を直立させた状態で、炉上のホッパーから転炉1に冷鉄源(小サイズ)を装入する、或いは、石灰石などの造滓材を炉内に投入した後、転炉1を前後に数回往復傾動させ、炉内に残留する脱燐スラグ7を固化(脱燐スラグ固化工程)させても構わない。この処理を行う場合には、炉内に残留する溶銑5Bも凝固する。
このようにして精錬パターン2を実施する。精錬パターン2では、脱燐スラグ7の全量を炉内に残留させて次チャージの脱珪処理を開始するので、前チャージの脱燐スラグ7の有する熱量及び鉄分を次チャージの脱珪処理において回収することができるとともに、前チャージの脱燐スラグ中のCaO分を次チャージの脱珪処理におけるCaO源として活用することができ、次チャージの脱珪処理時のCaO系媒溶剤の使用量を削減することができる。
この精錬パターン2に対して、精錬パターン1は、図2−(C)に示す中間排滓工程を行わず、それ以外は、精錬パターン2に準じて実施する。精錬パターン1では中間排滓工程を行わないので、中間排滓工程時間の分、精錬時間を短縮することができる。また、適量の脱珪スラグ6を炉内に残留させたまま次の脱燐処理工程を行うので、CaO系媒溶剤の滓化が促進され、過剰なCaO系媒溶剤を添加することなく脱燐に必要なスラグ量を確保することができる。更に、脱燐スラグ7の全量を炉内に残留させて次チャージの脱珪処理を開始するので、次チャージでは上記の精錬パターン2を実施した場合と同一の効果を得ることができる。
一方、精錬パターン3は、図2−(E)に示す出湯工程後、転炉1の底部が上方になるように転炉1を傾転させ、脱燐スラグ7を炉口から排出し(排滓工程)、その後、次チャージの溶銑5を転炉内に装入する。この場合に、出湯工程後、図2−(F)に示すように、転炉1を直立させた状態で、炉上のホッパーから転炉1に冷鉄源(小サイズ)を投入して、転炉1を前後に数回往復傾動させ、炉内に残留する溶銑5Bを凝固させて炉内に付着させる工程(残銑固化工程)を行った後、脱燐スラグ7を炉口から排出することにより、残銑の顕熱を有効に活用するようにしてもよい。それ以外は、精錬パターン2に準じて実施する。従って、精錬パターン3が適用されたチャージの次チャージでは、排出可能な脱燐スラグ7の全量が炉内から排出された状態で、溶銑5の転炉1への装入が行われる。
また精錬パターン4は、図2−(B)に示す脱珪処理工程後、脱燐処理を行わずに、脱珪処理された溶銑5Aを転炉から出湯して、別の転炉で行う脱炭精錬に供する。その際に、溶銑5Aの出湯後、転炉1の底部が上方になるように転炉1を傾転させ、脱珪スラグ6を炉口から排出する。脱珪スラグ6の生成量が過大で、溶銑5Aの転炉からの出湯に支障が在る場合には、溶銑5Aの出湯に先立って、転炉1を出湯の際とは反対側に傾動させ、炉口から脱珪スラグ6を出湯に支障がない程度に部分的に排出し、その後、溶銑5Aを出湯するようにしてもよい。
本発明では、前記4種類の精錬パターンで溶銑5を予備処理するにあたり、当該チャージで使用する溶銑5の珪素含有量が0.20質量%ないし0.45質量%の範囲内(0.30質量%ないし0.45質量%の範囲内としても良いし、例えば0.40質量%で一定としても良い)で設定した或る所定値X(=X質量%)以下で、且つ、当該チャージの前チャージでは予備処理後(通常は脱燐処理後、脱珪処理のみの場合は脱珪処理後)に炉内のスラグが排滓されて当該チャージの溶銑5が転炉内に装入される時点では、前チャージのスラグが炉内に残留していない場合(スラグの一部が炉壁に付着するなどして炉内に残留した場合を含む)に、精錬パターン1の精錬方法で予備処理を行う。
ここで、所定値Xは、使用する転炉設備や精錬条件に応じて、脱燐処理工程において溶銑5Bの目標とする燐含有量を得るのに適した値に適宜定めればよい。例えば、脱燐処理後の溶銑中燐濃度を0.020質量%以下に低減する場合には、所定値Xを0.30質量%とし、脱燐処理後の溶銑中燐濃度を0.050質量%以下に低減する場合には、所定値Xを0.45質量%とするといったように、脱燐処理後の溶銑5Bの目標とする燐含有量に基づいて、所定値Xを設定する。
精錬パターン1は、前チャージが、精錬パターン3の場合または精錬パターン4の場合や、出湯口4などの内張り耐火物の補修などのために、炉内に脱燐スラグ7を残留できなかった場合で、且つ、使用する溶銑5の珪素含有量が前記所定値X以下の場合に適用される。
精錬パターン1を行う理由は、使用する溶銑5の珪素含有量が前記所定値X以下と低く、脱珪処理で生成するSiOが少ない上に、前チャージのスラグが残留していないことから、中間排滓を実施しなくても、少ないCaO系媒溶剤の使用量で効率的に脱珪処理及び脱燐処理を行うことができるからである。
一方、当該チャージの溶銑5が転炉内に装入される時点で前チャージの脱燐スラグ7が炉内に残留していなくても、当該チャージで使用する溶銑5の珪素含有量が前記所定値Xを超え且つ0.60質量%ないし0.80質量%の範囲内の或る所定値X(例えば0.7質量%で一定としても良い)以下のとき、或いは、当該チャージで使用する溶銑5の珪素含有量が前記所定値X以下で、且つ、当該チャージの前チャージでは脱燐処理後に炉内の脱燐スラグ7が排滓されず、当該チャージの溶銑5が転炉内に装入される時点では前チャージの脱燐スラグ7が炉内に残留しているときには、精錬パターン2または精錬パターン3の精錬方法で予備処理を行って、中間排滓工程で脱珪スラグ6を部分的に炉外に排出する。
当該チャージで使用する溶銑5の珪素含有量が前記所定値Xを超える場合、及び、前チャージの脱燐スラグ7が炉内に残留している場合には、当該チャージで発生する脱珪スラグ6の量が多くなり、中間排滓を行わない場合には、脱燐処理においてCaO系媒溶剤の使用量が増大するからである。また、前チャージの脱燐スラグ7が炉内に残留している場合には、当該チャージで発生する脱珪スラグ6の燐濃度が高く、この脱珪スラグ6を残留させると、脱燐スラグ7の燐吸収能が低下して、効率的な脱燐処理が妨げられるからである。
ここで、上記の所定値Xは、使用する転炉型精錬炉などの設備条件や精錬条件、処理時間の制約などに応じて、前チャージの脱燐処理後に炉内の脱燐スラグ7を排滓しないで当該チャージの溶銑を装入して予備処理する精錬パターンを連続して行う場合において、炉内に残留させる当該チャージの脱燐スラグ量が過大となって次チャージの溶銑の脱珪処理で操業を阻害しないように、当該チャージの溶銑の珪素含有量の上限値として適した値に適宜定めればよい。例えば、溶銑5の珪素含有量がある程度多くても、脱珪処理の精錬能力が高くて処理時間にも余裕があり、且つ、スラグ収容容器の容量に余裕があって中間排滓工程での脱珪スラグの排出量を十分確保できる場合には、引き続いて行う脱燐処理開始時の溶銑中珪素含有量及び炉内に残留する脱珪スラグ量を十分に低減できることから、脱燐スラグ7の増加を招くことはないので、所定値Xを高めに設定することができるが、逆の場合には所定値Xを低めに設定する。
また、当該チャージで使用する溶銑5の珪素含有量が前記所定値X超えの場合には、脱珪処理後の溶銑5Aの珪素濃度を十分に低下できなくなり、脱珪スラグ6を中間排滓しても脱燐処理工程でのスラグ量が多くなり過ぎて、脱燐スラグ7の全量を炉内に残したまま次チャージの脱珪処理工程を行うことができなくなるからである。つまり、精錬パターン2を選択することができなくなるからである。
尚、脱燐処理後の脱燐スラグ7は流動性が低いために、炉内の脱燐スラグ7の排滓量を制御するように部分的に排出することは困難である。部分的に排出することを敢て行うとしても作業時間の大幅な延長を招くことになるので、通常は、炉内の付着分を除いてほぼ全量を排出する方法か、或いは、排滓を行わずに炉内に残留させたまま次チャージに持ち越す方法のどちらかが行われている。
また、上記の場合において、精錬パターン2と精錬パターン3との選択は、以下のようにして行う。
(A):当該チャージの脱珪処理工程を実施した後、脱珪処理後の中間排滓工程直後の炉内での脱珪スラグ6の残留量が15kg/溶銑−トンないし25kg/溶銑−トンの範囲内の所定値Y以下で、且つ、当該チャージの脱燐処理後の溶銑5Bの燐含有量分析値が0.040質量%ないし0.060質量%の範囲内の所定値Z以下の場合に、精錬パターン2の精錬方法で予備処理を行う。
(B):当該チャージの脱珪処理後の中間排滓工程直後の炉内での脱珪スラグの残留量が前記所定値Y超えの場合、或いは、当該チャージの脱燐処理後の溶銑の燐含有量分析値が所定値Z超えの場合には、精錬パターン3の精錬方法で予備処理を行う。
所定値Yは、処理条件に応じて、15kg/溶銑−トンないし25kg/溶銑−トンの範囲内で設定した或る値である(例えば20kg/溶銑−トンで一定としても良い)。また、所定値Zは、処理条件に応じて、0.040質量%ないし0.060質量%の範囲内で設定した或る値である(例えば0.050質量%で一定としても良い)。使用する転炉設備や当該チャージの脱燐処理及び次チャージの脱珪処理の精錬条件に応じて、次チャージの予備処理において、スラグ噴出などの操業阻害を招いたり、脱珪処理後の中間排滓における作業時間が過大にならない範囲で、できるだけ脱燐スラグを炉内に残留させたまま次チャージで利用するチャージの割合が低下しないように、所定値Y及び所定値Zを実績から適宜定めればよい。
精錬パターン2及び精錬パターン3は、図2−(E)に示す出湯工程までは同一であり、出湯工程後に、脱燐スラグ7を排滓しないで次チャージの溶銑5を装入するか、脱燐スラグ7を排滓した後に次チャージの溶銑5を装入するかで異なる。従って、出湯工程の完了までに、中間排滓工程での炉内での脱珪スラグ6の残留量、及び、脱燐処理後の溶銑5Bの燐含有量分析値が判明すれば、本発明を問題なく適用することができる。
精錬パターン3は、脱珪スラグ6の排滓が円滑に行われなかった場合や、脱燐反応が順調に行われなかった場合に適用される。つまり、このような場合の脱燐処理で生成する脱燐スラグ7は、塩基度が低い、スラグ量が過大で反応効率が低いなどの問題を有しており、このような脱燐スラグ7を次チャージで利用すると、スラグの過多のスロッピングを起こしたり、CaO系媒溶剤の使用量の増大をもたらしたり、操業に悪影響を及ぼす可能性が高いからである。また、脱珪スラグ6の残留量が所定値Y以下の場合、或いは、脱燐処理後の溶銑5Bの燐含有量分析値が所定値Z以下の場合であっても、当該チャージの直後に、出湯口4などの内張り耐火物の補修などのために炉内に脱燐スラグ7を残留できない場合や、定期修理のような休止期間が予定されている場合には、炉内に脱燐スラグ7を残留させないために、精錬パターン3を適用する。
更に、当該チャージで使用する溶銑5の珪素含有量が前記所定値X超えのときには、精錬パターン3または精錬パターン4の精錬方法で予備処理を行う。当該チャージで使用する溶銑5の珪素含有量が前記所定値X超えの場合には、脱珪処理後の溶銑5Aの珪素濃度を十分に低下できなくなり、脱珪スラグ6を中間排滓しても脱燐処理工程でのスラグ量が多くなり過ぎて、脱燐スラグ7を炉内に残したまま次チャージの脱珪処理を行うことができなくなることから、脱燐処理後に脱燐スラグ7を排出することが必要となる。この場合に、精錬パターン3と精錬パターン4との選択条件は、使用する設備や精錬条件によっても異なるが、溶銑5の珪素含有量、操業時間上の制約、次工程の脱炭精錬に用いる溶銑成分の制約などを勘案して適宜決定することができる。
例えば、処理時間に制約がなければ、溶銑5の珪素含有量が1.0質量%程度であっても、脱珪処理工程で溶銑5Aの珪素含有量を0.2質量%程度まで低下させて、脱珪スラグ6を中間排滓した後、脱燐処理を行うこと(パターン3)も可能であるが、逆に溶銑5Bの燐濃度を低下させるメリットが小さい鋼種を溶製する場合には、溶銑5の珪素含有量が0.8質量%程度であっても、脱燐処理を行わないパターン4の方が効率的となる場合もある。
以上説明したように、本発明によれば、1つの転炉1を用いて、高炉から出銑された溶銑5の脱珪処理を単独で行う、或いは、脱珪処理と脱燐処理とを連続して行う溶銑5の予備処理方法において、使用する溶銑5の珪素含有量、転炉内での前チャージの脱燐スラグ7の排滓の有無、精錬の途中の中間排滓工程の実績、及び、脱燐処理工程後の溶銑5Bの燐含有量分析値に基づいて、精錬パターン1〜4のなかからどの精錬パターンとするかを決定するので、溶銑5には、状況に応じた最適な予備処理方法が施され、溶銑5を効率良く脱珪処理し且つ効率良く脱燐処理することが実現される。
図1に示す転炉を用いて、本発明を適用して行う溶銑予備処理(本発明例)、精錬パターン2だけを適用して行う溶銑予備処理(比較例1)、精錬パターン3だけを適用して行う溶銑予備処理(比較例2)を、それぞれ1ヶ月以上に亘って実施した。予備処理を施した後の溶銑には、別の転炉で脱炭精錬を行い、溶鋼を溶製した。予備処理から脱炭精錬までの結果をそれぞれ比較した。
本発明例及び比較例1、2とも、脱珪処理前の溶銑の珪素含有量は0.20〜0.80質量%、溶銑の燐含有量は0.100〜0.120質量%、溶銑温度は1260〜1350℃の範囲であり、溶銑中珪素含有量、溶銑中燐含有量及び溶銑温度の各度数分布には、本発明例及び比較例1、2の間で有意な差はなかった。
溶銑装入前に予備処理用の転炉に装入する鉄スクラップの量は、各試験期間での実績値に基いて、脱珪処理終了時点の溶銑温度が1300〜1350℃の範囲内となるように、50〜100kg/溶銑−トンの範囲で調整した。この予備処理後の溶銑を脱炭精錬する際には、脱炭精錬用の転炉には鉄スクラップの装入は行わなかった。
本発明例及び比較例1、2において、精錬パターン2または精錬パターン3では、脱珪処理後の中間排滓時の排滓性を向上させるべく、脱珪処理中に炉内の脱珪スラグのフォーミングを促進させるように送酸条件などの調整を行った。但し、炉内脱珪スラグの組成や量の制御が不十分なために、フォーミングが過剰となって炉口から脱珪スラグが噴出した場合には、一旦精錬を中断し、沈静材を投入してフォーミングを沈静化した後に精錬を再開した。このような場合には、処理時間の延長を招いた。
脱燐処理工程においては、いずれの場合も脱燐処理後の溶銑の燐含有量の目標値を0.030質量%以下とし、CaO系媒溶剤を供給して塩基度を1.5〜3.0の範囲で調整しつつ脱燐処理を行った。CaO系媒溶剤としては生石灰(CaO)を使用した。
脱炭精錬に供する溶銑は、極力、脱珪及び脱燐の予備処理を行ったが、後工程の連続鋳造工程での複数チャージの連続した鋳造を継続するために、脱炭精錬用の転炉への溶銑の供給が間に合わない場合には、予備処理を実施しない溶銑、或いは、予備処理を途中で終了した溶銑を脱炭精錬用の転炉に装入して脱炭精錬を行った。予備処理を実施しない溶銑を脱炭精錬用の転炉に装入する場合には、予備処理用の転炉に装入するのに相当する量の鉄スクラップを、溶銑装入前に脱炭精錬用の転炉に装入した。また、脱炭精錬では、脱炭精錬用の転炉に装入した溶銑の燐濃度などに応じて、脱燐精錬剤である生石灰などの使用量を調整した。脱炭精錬は平均約40チャージ/日の頻度で実施し、各試験期間によって脱炭精錬頻度に有意な差はなかった。
本発明例においては、所定値Xを0.40質量%、所定値Xを0.70質量%、所定値Yを20kg/溶銑−トン、所定値Zを0.050質量%として、当該チャージで使用する溶銑の珪素含有量、前チャージの脱燐処理後の脱燐スラグの排滓の有無、脱珪処理後の中間排滓工程直後の炉内の脱珪スラグの残留量、及び当該チャージの脱燐処理後の溶銑の燐含有量に応じて、前記の精錬パターン1〜4を選択して当該チャージの溶銑の予備処理を行った。中間排滓工程直後の炉内での脱珪スラグ残留量は、前チャージの実績から計算される脱珪処理前の炉内での脱燐スラグの残留量と、当該チャージの脱珪処理の実績から計算される脱珪処理でのスラグ増加量との合計値から、炉下のスラグ収容容器の台車に設置した秤量装置によって測定される脱珪スラグの排出量を減算することによって算出した。
表1に、予備処理用の転炉及び脱炭精錬用の転炉への鉄スクラップの合計装入量(kg/溶銑−トン)、予備処理用の転炉及び脱炭精錬用の転炉での生石灰の合計使用量(kg/溶銑−トン)、予備処理用の転炉及び脱炭精錬用の転炉での通算の鉄歩留り(質量%)、予備処理用の転炉におけるスラグ噴出による精錬中断が発生したチャージの比率、脱珪処理後に中間排滓を行った場合に要した排滓時間、脱珪及び/または脱燐の予備処理の実施比率(実施比率(%)=(予備処理チャージ数)×100/(脱炭精錬チャージ数))、及び脱燐処理後の溶銑の燐含有量分析値が0.030質量%以下となったチャージ数の脱炭精錬チャージ数に対する比率について、それぞれの試験期間における結果を示す。表1に示す値はそれぞれの平均値である。
Figure 2015017323
表1に示すように、比較例2では、鉄スクラップ装入量が少なく、生石灰の合計使用量が多く、且つ、鉄歩留りが低く、予備処理及び脱炭精錬を効率的に行うことはできなかった。
比較例1では、比較例2に比べて、鉄スクラップ装入量が増加するとともに鉄歩留りが向上しており、脱燐スラグを高温のまま次チャージに再利用することによる、熱量のメリット及び脱燐スラグ中の鉄分の回収メリットが明らかであった。しかし、生石灰の合計使用量は、脱珪処理において前チャージの脱燐スラグを石灰源として利用できるにも拘わらず比較例2と同等であり、生石灰使用量の削減は得られなかった。これは、予備処理中のスラグ噴出による精錬の中断や中間排滓時の排滓時間の延長によって予備処理の実施比率が低下したことや、脱燐処理後の溶銑の燐含有量を十分に低減できなかったチャージの比率が増加したことによって、脱炭精錬での生石灰使用量の増大と相殺されたことによる。
これに対して本発明例においては、比較例1のような予備処理実施比率の低下や脱燐処理後の溶銑の燐含有量の上昇を招くことはなく、脱燐スラグを高温のまま次チャージに再利用することが可能であった。これにより、本発明例では、比較例1及び比較例2に比較して、生石灰の合計使用量が大幅に低減可能であり、溶銑に対して効率的に予備処理を行うことが確認できた。
1 転炉
2 上吹きランス
3 底吹き羽口
4 出湯口
5 溶銑
6 脱珪スラグ
7 脱燐スラグ
8 冷鉄源
9 酸素ガス
10 底吹きガス
11 装入鍋

Claims (1)

  1. 1つの転炉を用いて、高炉から出銑された溶銑を脱珪処理するか、または、脱珪処理し、その後に脱燐処理する溶銑の予備処理を3チャージ以上連続して実施するにあたり、
    当該チャージで使用する溶銑の珪素含有量が0.20質量%ないし0.45質量%の範囲内の或る所定値X以下で、且つ、当該チャージの前チャージでは予備処理後に炉内のスラグが排滓されたときには、下記の精錬パターン1の精錬方法で予備処理を行い、
    当該チャージで使用する溶銑の珪素含有量が前記所定値Xを超え且つ0.60質量%ないし0.80質量%の範囲内の或る所定値X以下のとき、或いは、当該チャージで使用する溶銑の珪素含有量が前記所定値X以下で、且つ、当該チャージの前チャージでは脱燐処理後に炉内の脱燐スラグが排滓されず、当該チャージの溶銑が転炉内に装入される時点では前チャージの脱燐スラグが炉内に残留しているときには、次の(A)または(B)の場合分けに応じた精錬方法で予備処理を行い、
    (A):当該チャージの脱珪処理後の中間排滓工程直後の炉内での脱珪スラグの残留量が15kg/溶銑−トンないし25kg/溶銑−トンの範囲内の或る所定値Y以下で、且つ、当該チャージの脱燐処理後の溶銑の燐含有量分析値が0.040質量%ないし0.060質量%の範囲内の或る所定値Z以下の場合に、下記の精錬パターン2の精錬方法で予備処理を行うこととし、
    (B):当該チャージの脱珪処理後の中間排滓工程直後の炉内での脱珪スラグの残留量が前記所定値Yを超える場合、或いは、当該チャージの脱燐処理後の溶銑の燐含有量分析値が前記所定値Zを超える場合には、下記の精錬パターン3の精錬方法で予備処理を行うこととし、
    当該チャージで使用する溶銑の珪素含有量が前記所定値Xを超えるときには、下記の精錬パターン3の精錬方法または下記の精錬パターン4の精錬方法で予備処理を行うことを特徴とする、溶銑の予備処理方法。
    精錬パターン1:転炉内の溶銑を脱珪処理する脱珪処理工程と、該脱珪処理工程で生成した脱珪スラグを排滓せずに前記転炉内の溶銑を脱燐処理する脱燐処理工程と、脱燐処理された溶銑を前記転炉から出湯する出湯工程と、前記脱燐処理工程で生成した脱燐スラグを排滓せずに前記転炉内に次チャージの溶銑を装入する溶銑装入工程とを、この順に行う精錬方法。
    精錬パターン2:転炉内の溶銑を脱珪処理する脱珪処理工程と、該脱珪処理工程で生成した脱珪スラグを転炉から排滓する中間排滓工程と、前記転炉内に残留させた溶銑を脱燐処理する脱燐処理工程と、脱燐処理された溶銑を前記転炉から出湯する出湯工程と、前記脱燐処理工程で生成した脱燐スラグを排滓せずに前記転炉内に次チャージの溶銑を装入する溶銑装入工程とを、この順に行う精錬方法。
    精錬パターン3:転炉内の溶銑を脱珪処理する脱珪処理工程と、該脱珪処理工程で生成した脱珪スラグを転炉から排滓する中間排滓工程と、前記転炉内に残留させた溶銑を脱燐処理する脱燐処理工程と、脱燐処理された溶銑を前記転炉から出湯する出湯工程と、前記脱燐処理工程で生成した脱燐スラグを転炉から排滓する排滓工程と、前記転炉内に次チャージの溶銑を装入する溶銑装入工程とを、この順に行う精錬方法。
    精錬パターン4:転炉内の溶銑を脱珪処理する脱珪処理工程と、該脱珪処理された溶銑を前記転炉から出湯する出湯工程と、該脱珪処理工程で生成した脱珪スラグを転炉から排滓する排滓工程と、前記転炉内に次チャージの溶銑を装入する溶銑装入工程とを、この順に行う精錬方法。
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