以下、図面を参照しながら一実施形態に係るX線検出器の製造装置及びX線検出器の製造方法について詳細に説明する。始めに、上記X線検出器の製造方法を使用して製造されたX線検出器の構成について説明する。ここでは、X線検出パネルを利用するX線平面検出器(X線平面検出器)の全体的な構成についても説明する。
(X線平面検出器について)
図1は、X線平面検出器を概略的に示す断面図である。図1に示すように、X線平面検出器は、大型のX線平面検出器である。X線平面検出器は、X線検出パネル2、防湿カバー3、支持基板4、回路基板5、X線遮蔽用の鉛プレート6、放熱絶縁シート7、接続部材8、筐体9、フレキシブル回路基板10、及び入射窓11を備えている。
図2は、X線平面検出器の一部を示す分解斜視図である。図1及び図2に示すように、X線検出パネル2は、光電変換基板21と、シンチレータ層22とを有している。光電変換基板21は、0.7mm厚のガラス基板と、ガラス基板上に2次元的に形成された複数の光検出部28とを備えている。光検出部28は、スイッチング素子としてのTFT(薄膜トランジスタ)26及びフォトセンサとしてのPD(フォトダイオード)27を有している。TFT26及びPD27は、例えばa−Si(アモルファスシリコン)を基材として形成されている。光電変換基板21の平面に沿った方向のサイズは、例えば正方形であり、1辺が50cmである。なお、大型のX線平面検出器において、光電変換基板21の一辺の長さは、例えば13乃至17インチである。
シンチレータ層22は、光電変換基板21上に直接形成されている。シンチレータ層22は、光電変換基板21のX線の入射側に位置している。シンチレータ層22は、X線を光(蛍光)に変換するものである。なお、PD27は、シンチレータ層22で変換された光を電気信号に変換するものである。
シンチレータ層22は、光電変換基板21上にシンチレータ材を蒸着させることにより形成されている。シンチレータ材としては、ヨウ化セシウム(CsI)を主成分とする材料を用いることができる。シンチレータ層22の厚みは、100乃至1000μmの範囲内に設定されている。より適切には、感度と解像度とを評価して、シンチレータ層22の厚みは、200乃至600μmの範囲内に設定されている。
この実施形態において、シンチレータ層22の厚みは、500μmに調整されている。シンチレータ材としては、主成分であるCsIの材料(シンチレータ主材料)にタリウム(Tl)またはヨウ化タリウム(TlI)を添加した材料(シンチレータ添加剤)を用いている。これにより、シンチレータ層22は、X線が入射されることにより適切な波長の光(蛍光)を放出することができる。
図1に示すように、防湿カバー3は、シンチレータ層22を完全に覆い、シンチレータ層22に封着されている。防湿カバー3は、例えばアルミニウム合金で形成されている。防湿カバー3の厚みが大きくなると、シンチレータ層22に入射されるX線量が減衰し、X線検出パネル2の感度の低下を招いてしまう。このため、防湿カバー3の厚みはなるべく小さくした方が望ましい。防湿カバー3の厚みを設定するに当たっては、各種パラメータ(防湿カバー3の形状の安定性、製造に耐える強度、シンチレータ層22に入射されるX線の減衰量)のバランスを考慮している。防湿カバー3の厚みは、50乃至500μmの範囲内に設定されている。この実施形態において、防湿カバー3の厚みは、200μmに調整されている。
光電変換基板21の外周部には、外部と接続するための複数のパッドが形成されている。複数のパッドは、光電変換基板21の駆動のための電気信号の入力及び出力信号の出力に使用される。
上記X線検出パネル2及び防湿カバー3の集合体は、薄い部材を積層して構成されているため、上記集合体は、軽く、強度の低いものである。このため、X線検出パネル2は、粘着シートを介して支持基板4の平坦な一面に固定されている。支持基板4は、例えばアルミニウム合金で形成され、X線検出パネル2を安定して保持するために必要な強度を有している。
支持基板4の他面には、鉛プレート6と放熱絶縁シート7とを介して回路基板5が固定されている。回路基板5及びX線検出パネル2は、フレキシブル回路基板10を介して接続されている。フレキシブル回路基板10と、光電変換基板21との接続には、ACF(非等方性導電フィルム)を利用した熱圧着法が用いられる。この方法により、複数の微細な信号線の電気的接続が確保される。回路基板5には、フレキシブル回路基板10に対応
するコネクタが実装されている。回路基板5は、上記コネクタなどを介してX線検出パネル2に電気的に接続されている。回路基板5は、X線検出パネル2を電気的に駆動し、かつ、X線検出パネル2からの出力信号を電気的に処理するものである。
筐体9は、X線検出パネル2、防湿カバー3、支持基板4、回路基板5、鉛プレート6、放熱絶縁シート7、接続部材8を収容している。筐体9は、X線検出パネル2と対向した位置に形成された開口を有している。接続部材8は、筐体9に固定され、支持基板4を支持している。
入射窓11は、筐体9の開口に取付けられている。入射窓11はX線を透過するため、X線は入射窓11を透過してX線検出パネル2に入射される。入射窓11は、板状に形成され、筐体9内部を保護する機能を有している。入射窓11は、X線吸収率の低い材料で薄く形成することが望ましい。これにより、入射窓11で生じる、X線の散乱と、X線量の減衰とを低減することができる。そして、薄くて軽いX線検出装置を実現することができる。X線検出装置は、上記のように形成されている。
(真空蒸着装置について)
次に、X線検出パネル2の製造装置に利用する真空蒸着装置について説明する。
図3は、真空蒸着装置30を示す概略構成図である。図3に示すように、真空蒸着装置30は、真空チャンバ31、シンチレータ主材料を加熱溶融して蒸発させる第1蒸発源としての坩堝32、ヒータ33、34、カバー35、シンチレータ添加剤を加熱溶融して蒸発させる第2蒸発源としての坩堝40、ヒータ41、カバー42、熱伝導体36、保持機構37、放熱部38及びモータ39を備えている。
真空チャンバ31は、幅方向(水平方向)に比べ高さ方向(垂直方向、鉛直方向)に大きい箱状に形成されている。真空チャンバ31には図示しない真空排気装置(真空ポンプ)が取付けられ、真空排気装置は真空チャンバ31内を大気圧以下の圧力に保持することができる。真空蒸着装置30は、圧力を大気圧以下の所望の値に設定した環境下で行う真空蒸着法を利用している。
坩堝32は、真空チャンバ31内の下方に配置され、光電変換基板21の回転軸の延長線上から外れて位置している。坩堝32内には、CsIもしくは、TlIが添加されたCsIが投入される。坩堝40内には、TlIが投入される。
坩堝32、40の中央の先端部は、筒状(煙突状)に形成され、真空チャンバ31の高さ方向に延出している。坩堝32、40の先端に位置する蒸発口32a、40aは、真空チャンバ31の上方を向いて開口している。また、坩堝40、ヒータ41及びカバー42の一式は、坩堝32からの蒸気を遮蔽しないように、坩堝32、ヒータ33、34及びカバー35の一式より図3の奥側に位置(偏在)している。
ヒータ33、41はそれぞれ坩堝32、40の周囲に設けられている。ヒータ33、41はそれぞれ坩堝32、40を個別に加熱し、坩堝32、40の温度が各材料の所望の蒸発レートが得られるように調整されている。ここでは、ヒータ33は坩堝32を約700℃に加熱し、ヒータ41は坩堝40を約400℃に加熱している。なお、坩堝32、40の温度は図示しない温度計で計測することができる。図示しないヒータ駆動部は、坩堝32、40の温度のモニタリングと、ヒータ33、41の駆動を行うことができる。
上記のように坩堝32、40が加熱されることにより、シンチレータ材の蒸発元素が坩堝32、40の蒸発口32a、40aを通って真空チャンバ31の上方に放射される。
この実施形態において、大型のX線検出パネル2を製造するため、光電変換基板21には多量(例えば400g)のシンチレータ材を蒸着する必要がある。このため、坩堝32には大型のものを利用し、坩堝32内には数kg(例えば6kg)以上のシンチレータ材が投入されている。
ヒータ34は、坩堝32の先端部の周囲に設けられ、坩堝32の先端部を加熱している。これにより、坩堝32の先端部が蒸発材料の凝集物で閉塞することを防止することができる。
カバー35、42は、坩堝32、40及びヒータ33、34、40を覆っている。カバー35、42は、坩堝32、40及びヒータ33、34、41からの熱伝導の拡散を抑制する。カバー35、42には、冷却液(例えば水)が流れる冷却路が形成されている。
熱伝導体36は、真空チャンバ31内の上方に位置し、真空チャンバ31に固定されている。熱伝導体36は、例えば厚さ3mmの板状に形成されている。熱伝導体36を形成する材料としては、例えばアルミニウムを利用することができる。熱伝導体36は、熱伝導により、放熱部38の熱を光電変換基板21及び保持機構37に伝えたり、光電変換基板21及び保持機構37の熱を放熱部38に伝えたりする機能を有している。また、熱伝導体36は、放熱部38などへのシンチレータ材の付着を防護する機能も有している。
保持機構37は、熱伝導体36に対向し、熱伝導体36よりも真空チャンバ31の中心側に位置している。保持機構37は、光電変換基板21の蒸着面を露出させた状態で、光電変換基板21を保持する。光電変換基板21は、蒸着面が真空チャンバ31の高さ方向に対して鋭角をなすように傾斜した状態で保持されている。
放熱部38は、熱伝導体36に対向し、熱伝導体36よりも真空チャンバ31の側壁側に位置している。放熱部38は真空チャンバ31に接続され、放熱部38に生じる熱は真空チャンバ31に伝達可能である。詳細には図示しないが、放熱部38は、熱伝導体及びヒータの集合体である。放熱部38のヒータは光電変換基板21を加熱するものである。なお、光電変換基板21の温度は図示しない温度計で計測することができ、光電変換基板21の温度のモニタリングと、放熱部38のヒータの駆動は図示しないヒータ駆動部で行うことができる。
放熱部38のヒータが発生する熱は、熱伝導により熱伝導体36を介して光電変換基板21に伝えられる。放熱部38のヒータが発生する熱は、放熱部38の熱伝導体や保持機構37をさらに介して光電変換基板21に伝えられてもよい。
一方、光電変換基板21に発生する熱は、熱伝導により熱伝導体36を介して放熱部38の熱伝導体に伝えられる。光電変換基板21に発生する熱は、保持機構37をさらに介して放熱部38の熱伝導体に伝えられてもよい。放熱部38の熱伝導体に伝えられた熱は、真空チャンバ31に伝達される。
モータ39は、真空チャンバ31に気密に取付けられている。モータ39のシャフトは、放熱部38に形成された貫通口及び熱伝導体36に形成された貫通口を通って位置している。なお、保持機構37は、モータ39のシャフトに取付けられ、シャフトに着脱可能である。光電変換基板21の中心は、モータ39のシャフトに対向している。そして、モータ39を稼動させることにより、保持機構37が回転する。すると、光電変換基板21は、光電変換基板21の中心の法線を回転軸として回転する。
図3では1つのモータ39に対して1つの光電変換基板21が装着されている。この場合、光電変換基板21の中心とモータ39の軸と基板の交点(以下、回転中心と呼ぶ)は一致させる。光電変換基板の21の中心と光電変換基板21の蒸着面の有効エリア(蒸着領域)の中心が一致しない場合など若干回転中心を基板の中心からずらしてもよい。
この実施形態において、真空蒸着装置30は、熱伝導体36、保持機構37、放熱部38及びモータ39を2つずつ備えている。このため、真空蒸着装置30は、2枚の光電変換基板21に同時にシンチレータ層22を形成することができる。上記のように、真空蒸着装置30が形成されている。
ここで、複数枚の光電変換基板21にシンチレータ層22を同時に形成する場合、1つのモータ39に対して複数枚の光電変換基板21が装着されていてもよい。
例えば、図4及び図5に示すように、回転中心46に対して点対称となるように光電変換基板21を蒸着マスク47に取り付けることにより対応することができる。蒸着マスク47は、光電変換基板21の蒸着面の有効エリアに対向した開口を有している。
(光電変換基板21の傾斜の度合いと真空蒸着装置30の体積の減少率との関係について)
坩堝32、40の蒸発口32a、40aから放射されるシンチレータ材の蒸発元素は、真空チャンバ31の上方に位置した光電変換基板21に蒸着する。その際、シンチレータ材の蒸発元素は、光電変換基板21に斜め方向から入射される。ここで、光電変換基板21へのシンチレータ主材料の入射角をθとする。入射角θは、光電変換基板21の法線とシンチレータ主材料の入射方向(蒸発口32aの中心と光電変換基板21蒸着面の任意の点とを結ぶ仮想線)とが内側になす角である。
この実施形態では、光電変換基板21の中心において、θ=60°である。光電変換基板21の最上部(真空チャンバ31の天井壁側の光電変換基板21の端部)において、θ=70°である。光電変換基板21の最下部(坩堝32側の光電変換基板21の端部)において、θ=50°である。
上記真空蒸着装置30は、θ=0°となる真空蒸着装置に比べ、真空チャンバ31の体積を低減することができる。これにより、真空排気装置などの装置負荷を低減することができる。また、真空引きに掛かる時間を短縮できるため、生産性の向上を図ることができる。
また、上記真空蒸着装置30では、シンチレータ材の利用効率を大幅に向上することができる。
(光電変換基板21の傾斜の度合いとシンチレータ層22の柱状結晶の形状との関係について)
上述したように、光電変換基板21を傾斜させることにより、真空蒸着装置30の体積を減少させる効果や、シンチレータ材料の利用効率を向上できる効果を得ることができる。さらに、本願発明者等は、光電変換基板21を傾斜させることにより、特性との相関を見出したものである。すなわち、入射角θを変化させると、シンチレータ層22の柱状結晶の形態が変化した。
ここで、本願発明者等は、図3に示した真空蒸着装置30を利用し、シンチレータ層22の成膜(蒸着)条件を変化させた場合のシンチレータ層22の成膜結果について調査した。調査結果を表1及び表2に示す。表1はいくつかのサンプルのシンチレータ層22の成膜条件を示し、表2はいくつかのサンプルのシンチレータ層22の成膜結果を示す。
表1及び表2、並びに図3に示すように、サンプル1乃至6からは、入射角θを変化させた場合のシンチレータ層22の状態が分かる。
ここで、「異常成長」とは基本構造は柱状構造ではあるが、柱の側面に微小の凹凸ができて、全体的に白くにごった結晶ができることである。このような結晶ではシンチレータ層22の中に散乱帯が存在することになり、結果としてX線平面検出器の画像のノイズを増大させることになる。
「連続膜」とは、柱状結晶ができず、ほぼ面方向にシンチレータ材料が充填している状態のことである。
「不完全柱状結晶」とは、隣接する柱状結晶間は合体しており、面方向に光学的な境界面が少ない構造のことである。
シンチレータ層22の解像度特性は、「連続膜」<「不完全柱状結晶」<「柱状結晶」の関係にあり、「連続膜」の解像度特性が最も劣り、「柱状結晶」の解像度特性が最も優れている。「異常成長」の解像度は「柱状結晶」に近い。
結晶と入射角θの関係は大まかには、θ=40°辺りでCsI膜は柱状構造を作る可能性があり、大きすぎると別の弊害が発生する可能性があるといえる。しかし、同じ入射角θでも、できる結晶の形態に差異が発生することが判った。
例えば、サンプル2、7及び8を比較すると、同じθ=45°でも、光電変換基板21の温度≧140℃のときは、不完全結晶となるが、光電変換基板21の温度を115℃まで下げると、柱状結晶ができる。また、サンプル6及び11のように、同じθ=75°でも、光電変換基板21の温度が170℃では異常結晶ができるが、光電変換基板21の温度を200℃にすると柱状結晶となる。また、サンプル4、9及び10から、θ=60°では、光電変換基板21の温度が140乃至200℃の範囲では、通常の柱状結晶が形成されることが判った。
上記のように、入射角θとシンチレータ層22の柱状結晶の構造との関係は、一義的に決まるものではなく、複数の因子により決定されることが分かる。蒸着プロセスを考えると、形成中の柱状結晶の隙間に蒸発材料が到達しにくい装置構造とすることが必要である。
柱状結晶の先端の角度をαとする。ここで、角度αは、柱状結晶の頂上部のテーパ角度である。より詳しくは、柱状結晶の頂点を通る縦断面において、頂点から延びる2つの辺が内側に成す角度である。
入射角θがα/2と同等以上である場合、シンチレータ層形成面(成長面)に入射した蒸気は、柱状結晶の先端部分が影となって、柱状結晶と柱状結晶の隙間の部分に蒸着材料が入り込みにくくなる。このため、光電変換基板21を配置する際、θ≧α/2となるように光電変換基板21を配置する方が望ましい。
また、角度αは、光電変換基板21の温度が高いほど小さくなる傾向がある。従って、光電変換基板21の温度が高いほど入射角θを大きくする必要があり、プロセス因子に応じて、入射角θの設定値を変動させることが必要である。
また、α/2に対して、入射角θを大きくすれば、柱状結晶の先端部による蒸気が到達できない影の部分が大きくなる。極端な例としては、サンプル6のように、α/2が52°以下と推定される条件で、θ=75°と設定すると、今度は異常成長という別の不具合が発生する結果となった。一方、サンプル11ではα/2=52°と設定して正常な柱状結晶ができた。上記のことから、少なくとも、θ−23°≦α/2となるように設定することが好適である。
((坩堝32−光電変換基板21間の距離)<(坩堝40−光電変換基板21間の距離)について)
図3に示すように、本実施形態において、坩堝40の蒸発口40aから光電変換基板21の蒸着面上の回転中心までの距離が、坩堝32の蒸発口32aから光電変換基板21の蒸着面上の回転中心までの距離より小さくなるように光電変換基板21を配置している。次に、坩堝32、坩堝40及び光電変換基板21の位置関係を規定する理由を2つ挙げる。
第一の理由としては、坩堝を光電変換基板21に近づけることによりそれぞれの坩堝に収納した材料の膜厚または濃度の面方向の斑の影響がTlIの方が少なく、かつ、高価であることにある。つまり、コストと性能の双方を考慮した場合、TlIの方が距離を近づけてでもより少ない材料の蒸発量で所望の濃度を得ることを優先し、プロセスの最適化を図るためである。
第二の理由としては、第二に、坩堝32と坩堝40を同じ高さに配置した場合、CsIの蒸気がTlIの蒸気が光電変換基板21の方向に飛散することを阻害し、TlIを必要以上に投入しないと所望の濃度が得られないことにある。
図6は、Q/Eに対する、シンチレータ層22に含まれるTl濃度の変化と、Tl濃度分布の変化とをグラフで示した図である。ここで、Qは坩堝40の蒸発口40aから光電変換基板21の蒸着面上の回転中心までの距離であり、Eは光電変換基板21の対角線の長さである。
Tl濃度分布は、(光電変換基板21の周辺部の濃度)÷(光電変換基板21の中心部の濃度)×100の値である。ここで、光電変換基板21の中心を0%の位置、光電変換基板21の端縁を100%の位置と表すと、光電変換基板21の周辺部は基板中心から90%の位置である。
図3及び図6に示すように、シンチレータ層22に含まれるTl濃度の値は、長さEで規格化している。すなわち、Q/Eが1.59の場合、坩堝40が坩堝32と同じ高さに位置することとなる。そこで、坩堝40と坩堝32との高さが等しい場合のTl濃度を1に規格化している。
Tl濃度は、距離Qが長い(坩堝40の位置が低い)程、小さくなる。そして、距離Qが短い(坩堝40の位置が高い)程、Tl濃度は、単調に増大する。一方、Q/Eを1.0程度まで減少しても、副作用である濃度分布の悪化は少ししか見られない。
さらに、Q/Eが1.0を下回る辺りからTl濃度分布が急激に悪化することが判った。Tl濃度分布が悪化すると、前出の感度、残光特性に加えて、本実施形態の課題である感度ゴースト特性も光電変換基板21の面内で不均一な特性が発現する事になり実用上不都合である。
また、坩堝40を坩堝32の蒸発口32aから遠ざけることにより、坩堝32からのシンチレータ主材料の蒸発レート(g/分)の影響を受けにくいことも判った。これは、本実施形態が対象とする平面検出器が大面積で厚膜であり、坩堝32から吹出すCsI蒸気の量が非常に多く、CsI蒸気が、坩堝40からの蒸発材料が光電変換基板21に到達することを阻害していることが原因である。
例えば、Q/E=1.59の時は、坩堝32の蒸発レートを2倍にすると、坩堝40の蒸発レートを2倍にしても、シンチレータ層22に含まれるTl濃度は23%減少する結果となった。これに対して、Q/E=0.5とし、同じく、坩堝32及び坩堝40の蒸発レートを2倍にした場合、シンチレータ層22に含まれるTl濃度は1%の減少に留まる結果となった。
((坩堝32−光電変換基板21間の距離)÷(光電変換基板21の対角線の長さ)について)
まず、坩堝32の蒸発口32aから光電変換基板21の蒸着面上の回転中心までの距離をRとする。距離Rは、材料使用量と膜厚の均一性について二律背反の関係がある。一般的に、材料の使用量は、距離Rの2乗に比例して増大するが、距離Rが大きいほどシンチレータ層22の膜厚均一性も改善するものである。
図7は、R/Eに対する、シンチレータ層22の膜厚分布の変化をグラフで示した図である。上記膜厚分布は、(光電変換基板21の周辺の膜厚)÷(光電変換基板21の中心の膜厚)×100の値である。ここで、光電変換基板21の中心を0%の位置、光電変換基板21の端縁を100%の位置と表すと、光電変換基板21の周辺は基板中心から90%の位置である。
図3及び図7に示すように、距離Rが小さくなるほど膜厚分布は100%から外れるが、比が1以上の範囲(1≦R/E)では膜厚分布が80%を超えており実用上問題ない膜厚分布となっている。このため、光電変換基板21は、1≦R/Eとなるように配置されている方が望ましい。
(偶数枚の光電変換基板21を配置する位置について)
図3に示すように、光電変換基板21を配置する際、偶数枚の光電変換基板21を対称の位置に配置し、偶数枚の光電変換基板21を同時に回転させ、偶数枚の光電変換基板21の蒸着面上にシンチレータ層22を同時に形成している。この実施形態において、2枚の光電変換基板21を対称の位置に配置する等している。これは、配置する光電変換基板21の枚数を1枚減らした(半数にした)場合と比べて、坩堝32に収納した蒸発材料の利用効率と生産能力が2倍になるためである。
光電変換基板21を1枚のみ配置する手法を採る場合、坩堝32を光電変換基板21の直下に移動させて付着効率を最適化させることができる余地はある。しかしながら、上記手法と比較しても、本実施形態のように2枚掛け構造の方が材料の利用効率は1枚掛けの場合よりも1.7倍となった。
上記のように光電変換基板21を偶数枚配置する場合、4枚の光電変換基板21を配置することも可能である。
図8及び図9に示すように、真空蒸着装置30は、正面から見ると図3に示した真空蒸着装置30と相違ないが、次の点で図3に示した真空蒸着装置30と相違している。
・側面から見ると分かるように、光電変換基板21は真空蒸着装置30の奥行き方向に2枚並んでいる。
・坩堝32は奥行き方向に並んだ2枚の光電変換基板21の中間に設置されている。
・坩堝40は奥行き方向に2つ並んでいる。
上記のように真空蒸着装置30を構成し、4枚の光電変換基板21を配置すると、真空チャンバ31の大きさは概ね2倍になるが、図示しない真空ポンプと、図示しない制御盤は1台で済むことになる。このため、真空蒸着装置30の大きさは、実質2倍にはならない。従って、生産能力に対する装置の占有面積と蒸着装置にかかる費用を低減することができる。
また、4枚掛け構造では、坩堝32から飛散した蒸気のうち一方の対の光電変換基板21に到達しなくて本来なら利用されない材料となるはずだったものの一部がもう一方の光電変換基板21に蒸着される。このため、4枚掛け構造の場合、2枚掛け構造の場合に比べ、材料の利用効率は1.2倍になることが判った。
(坩堝と光電変換基板の対称面との位置関係について)
図3、並びに図8及び図9に示したように、偶数枚の光電変換基板21を配置する際、偶数枚の光電変換基板21の対称面44上に坩堝32(蒸発口32a)及び坩堝40(蒸発口40a)の少なくとも一方が位置する状態に偶数枚の光電変換基板21を配置した方が望ましい。
偶数枚の光電変換基板21は、対称面44に対して面対称の配置となっている。左右の基板に同じCsIの膜厚、同じTlの濃度のシンチレータ層22を形成することを目的とするためである。
また、坩堝32(蒸発口32a)及び坩堝40(蒸発口40a)の両方が対称面44上に位置している方がより望ましい。左右の基板に同じCsIの膜厚、同じTlの濃度のシンチレータ層22を形成することを目的とするためである。
(シンチレータ層22の製造方法について)
次に、X線検出パネル2の製造方法として、真空蒸着装置30を使用したシンチレータ層22の製造方法について説明する。
シンチレータ層22の製造が開始されると、まず、真空蒸着装置30と、光検出部28を含む光電変換基板21とを用意する。続いて、光電変換基板21を保持機構37に取付ける。その後、光電変換基板21が取付けられた保持機構37を真空チャンバ31内に搬入し、モータ39のシャフトに取付ける。
次いで、真空チャンバ31を密閉し、真空排気装置を用いて真空チャンバ31内を真空引きする。続いて、モータ39を稼動させて光電変換基板21を回転させる。なお、モータ39の稼動を開始するタイミングは、特に限定されるものではなく種々変更可能である。例えば、坩堝32の温度のモニタリング結果に基づいて、モータ39の稼動を開始するタイミングを調整してもよい。
次いで、ヒータ33、34、41を用いての坩堝32、40の加熱と、カバー35、42に形成された冷却路における冷却液の循環と、を開始する。その後、坩堝32内のシンチレータ主材料と坩堝40内のシンチレータ添加剤とが蒸発することにより、光電変換基板21上にシンチレータ材が蒸着する。なお、光電変換基板21上に蒸着するシンチレータ材は熱を持っているため、蒸着期間において光電変換基板21は加熱される。上記のように、光電変換基板21上にシンチレータ材を蒸着することにより、光電変換基板21上にシンチレータ層22(図2)が形成される。これにより、シンチレータ層22の製造が終了する。
(真空チャンバ31内の圧力を1×10−2Pa以下にする理由について)
次に、真空チャンバ31内の圧力について説明する。
光電変換基板21上に入射したシンチレータ材の蒸発元素は、光電変換基板21上に結晶を形成する。蒸着初期の段階において光電変換基板21上に形成されるのは微小な結晶粒であるが、蒸着を継続すると、やがて結晶粒が柱状結晶となって成長する。柱状結晶の成長方向は、蒸発元素の入射方向の逆である。したがって、蒸発元素が光電変換基板21に斜めに入射する場合、柱状結晶はその斜め方向に成長することになる。
このような柱状結晶の成長を抑制し、光電変換基板21の法線に沿った方向に柱状結晶を成長させるため、以前は、蒸着中の真空チャンバ31内にアルゴン(Ar)ガスなどの不活性ガスを導入し、真空チャンバ31内の圧力を1×10−2乃至1Paほどに上昇させていた。蒸発元素は、上記不活性ガスの存在により飛翔し、光電変換基板21へ多方向から入射するようになる。この結果、柱状結晶の成長方向は、光電変換基板21の法線に沿った方向となる。
しかしながら、不活性ガスの導入により真空チャンバ31内の圧力を上げた場合、光電変換基板21への蒸発元素の入射方向は全方向に亘るため、柱状結晶の成長は、柱状結晶が太くなる方向にも促進される。結果的には、柱状結晶が太くなり、X線検出パネル2の解像度が低下することになる。この問題を克服するため、本実施形態では、光電変換基板21上にシンチレータ材を蒸着させる際、不活性ガスの導入無しに行っている。そして、真空引きして圧力が1×10−2Pa以下となる状態を維持した環境下で行う真空蒸着法を利用している。これにより、柱状結晶が太くなる成長を低減することができ、光電変換基板21の法線に沿った方向への結晶成長を促進させることができる。
(光電変換基板21の回転速度と地層厚について)
次に、光電変換基板21の回転速度について説明する。
光電変換基板21への蒸発元素の入射方向を平均化するため、光電変換基板21上にシンチレータ材を蒸着させる際、光電変換基板21を回転させている。これにより、シンチレータ層22の厚みを光電変換基板21全面に亘って一様にすることができる。
また、結晶成長ベクトルの向きを平均化することができ、トータルで光電変換基板21の法線に沿った方向に柱状結晶を成長させることができる。ここで、結晶成長ベクトルの向きは柱状結晶の成長方向である。この結果、より細い柱状結晶を形成することができるため、X線検出パネル2の解像度の向上を図ることができる。
上記結晶成長ベクトルの向きの平均化には、光電変換基板21の回転速度が主要な要素となる。ここで、本願発明者は、光電変換基板21の回転速度に対するMTF(modulation transfer function)値について調査した。調査結果を図10に示す。
図10は、光電変換基板21の回転速度に対するMTF相対値の変化をグラフで示す図である。図10には、光電変換基板21の回転速度を2rpm、4rpm、6rpm、とした場合の光電変換基板21の周辺部でのMTF値と、光電変換基板21の回転速度を2rpm、6rpm、10rpm、とした場合の光電変換基板21の中心部でのMTF値と、をプロットした。
図10に示すように、光電変換基板21の回転速度を10rpmとした場合の光電変換基板21の周辺部でのMTF値と、光電変換基板21の回転速度を4rpmとした場合の光電変換基板21の中心部でのMTF値と、はプロットしていない。しかしながら、光電変換基板21の回転速度を変えても、光電変換基板21の周辺部でのMTF値と、光電変換基板21の中心部でのMTF値とは、ほぼ同様に推移することが分かる。また、光電変換基板21の回転速度が4rpm未満になると、MTF値が急低下することが分かる。
一方、光電変換基板21の回転速度が4rpm以上では、MTF値が漸増することが分かる。従って、光電変換基板21を回転させる際、光電変換基板21の回転速度を4rpm以上とすることが望ましい。また、蒸着中は、光電変換基板21の回転速度を一定に保つとより望ましい。
また、図3、並びに図8及び図9に示したように、光電変換基板21を回転させながら真空蒸着し、さらにCsIとTlIを別々の位置から蒸発させる場合、図11に示すように、シンチレータ層22中のタリウム濃度にある特徴が現れる。図11において、横軸は高タリウム濃度層と低タリウム濃度層との積層方向位置、すなわち、光電変換基板21の蒸着面からの距離である。
シンチレータ層22は、光電変換基板21から離れるにしたがって、タリウム濃度が周期的に連続的に増加・低減を繰り返している。その結果、Tl濃度の所定の値をしきい値として、そのしきい値よりもTl濃度が高い領域を高タリウム濃度層、Tl濃度がしきい値以下の領域を低タリウム濃度層とすると、シンチレータ層22中には高タリウム濃度層と低タリウム濃度層とが光電変換基板21の法線方向に向かって繰り返し積層している。
(入射角θについて)
次に、光電変換基板21の中心における入射角θの下限について説明する。
本実施形態では、光電変換基板21の中心においてθ=60°となるように真空蒸着装
置30を形成した場合について説明したが、これに限定されるものではなく種々変形可能
である。真空蒸着装置30は、光電変換基板21の中心においてθ<60°となるように形成されていてもよい。しかし、入射角θが0°に近づくほど、光電変換基板21の蒸着面は真空チャンバ31の底壁を向くため、真空チャンバ31の幅が広がり、結果として真空チャンバ31の体積が増えることになる。上記のことは、光電変換基板21が大型である場合に顕著である。
また、真空チャンバ31の体積圧縮率は、sinθ(入射角θのsin)に概ね比例するものである。言い換えると、真空チャンバ31の体積はcosθに略比例する。このため、0°≦θ<45°の範囲内では、真空チャンバ31の体積圧縮率は比較的緩慢であるが、一方で、θ=45°の場合に、真空チャンバ31の体積圧縮率は漸く70%程となる。45°<θの場合は、θ=45°の場合に比べて、体積圧縮率がより変化し、真空チャンバ31の体積圧縮率がより高くなる。これにより、真空チャンバ31の体積のより効率的な削減効果を得ることができる。
このため、真空排気装置などの装置負荷、生産性、シンチレータ材の利用効率を考慮すると、真空蒸着装置30を、光電変換基板21の中心において45°≦θとなるように形成することが望ましい。
次に、光電変換基板21の中心における入射角θの上限について説明する。
図12は、上記真空蒸着装置30の一部を示す模式図であり、坩堝32及び光電変換基板21を示す図である。図12に示すように、光電変換基板21の中心における入射角θを、ここではθ1とする。なお、距離Rは、坩堝32の蒸発口32aから光電変換基板21(蒸着面)の中心までの直線距離である。光電変換基板21の平面に沿った方向において、光電変換基板21の中心からの長さをLとする。
完全な真空状態では、蒸発元素の入射方向の反対側に結晶成長する。蒸着中に光電変換基板21は回転するため、蒸着ベクトルVa(Va1、Va2、Va3)の積算結果から光電変換基板21のそれぞれの個所の柱状結晶の成長方向が決まる。ここで、蒸着ベクトルの向きは蒸発元素の入射方向である。
図13は、上記真空蒸着装置30の一部を示す他の模式図であり、坩堝32及び光電変換基板21を示す図である。図13に示すように、光電変換基板21の最上部では、結晶成長ベクトルは光電変換基板21の内側に向くことが分かる(例えば、結晶成長ベクトルVb2参照)。光電変換基板21の最下部では、結晶成長ベクトルは光電変換基板21の外側に向くことが分かる(例えば、結晶成長ベクトルVb1参照)。蒸着中に光電変換基板21は回転するため、結晶成長ベクトルVb(Vb1、Vb2)の光電変換基板21の平面に沿った方向の成分は、互いに相殺される。
ここで、結晶成長ベクトルVbの光電変換基板21の平面に沿った方向の成分をDhとする。結晶成長ベクトルVbの光電変換基板21の法線に沿った方向の成分をDvとする。簡単なシミュレーションとして、結晶成長ベクトルVbの大きさが距離Rの二乗に反比例すると仮定した場合、光電変換基板21の中心から長さLの位置において、成分Dh、Dvは、それぞれ次の式で表される。
光電変換基板21の平面に沿った方向への柱状結晶の成長の影響度は、成分Dhと、成分Dvとの比である成分比(Dh/Dv)を持って評価することができる。ここで、xは、光電変換基板21と坩堝32の蒸発口32aとの距離の相対寸法を特徴つける値であり、長さLと距離Rとの比(L/R)である(x=L/R)。
図14は、入射角θ1を40°、45°、50°、60°、70°、75°とした場合の、長さLと距離Rとの比(L/R)に対する結晶成長ベクトルの成分比(Dh/Dv)の変化をグラフで示す図である。図14の縦軸では、光電変換基板21の内側方向を+とし、光電変換基板21の外側方向を−として表している。図14は、上記数1、2を用いてシミュレーションした結果を表している。図14に示すように、光電変換基板21の1辺の長さが50cmの場合、長さLは、0乃至25cmの範囲内である。一方、上記真空蒸着装置30の構造から、距離Rは150cm前後(100数10乃至200cm)が現実的な距離である。従って、比(L/R)の範囲は0.15乃至0.2となる。この範囲を考慮すると、入射角θ1が70°以下であれば、(Dh/Dv)<1とできることが分かる。
実際の柱状結晶の成長には、コサイン則と呼ばれる蒸発時の前方へ蒸発量の偏りや、微量な残留ガスなどの影響を受けるため、成分比(Dh/Dv)は、図14に示した値よりも更に小さくなる(0に近づく)。
上記のことから、上述した入射角θの下限と併せると、光電変換基板21の中心において、45°≦θ1≦70°であることが適切である。
(シンチレータ層22に含まれるTl濃度について)
次に、シンチレータ層22に含まれるTl濃度について説明する。
本実施形態において、図3に示したように、坩堝32及び坩堝40を用意し、CsIとTlIの混合比が所望の値となるようにこれらの坩堝を別々に加熱し、シンチレータ層22を形成することにより、CsI及びTlIともに成膜レートが巨視的には一定となる。その結果、シンチレータ層22の積層方向の巨視的なTlI濃度は一定となり、良好な感度特性が得られる。
しかし、光電変換基板21上に蒸着されるシンチレータ材中のTl濃度は、微視的には、光電変換基板21の回転に応じて周期的に増減する。上記Tl濃度が光電変換基板21の回転に応じて周期的に増減する理由としては以下の2つを挙げることができる。
第一の理由としては、図15において、CsIが収納された坩堝32及びTlIが収納された坩堝40と光電変換基板21との距離にある。光電変換基板21の回転軸よりも左側であって坩堝32の上方である領域H1では、相対的に坩堝32が近く、坩堝40が遠い。結果として、領域H1におけるTlI濃度は低くなる。
これに対して、光電変換基板21の回転軸よりも右側であって坩堝40の上方である領域H2では、逆にTlI濃度は高くなる。光電変換基板21が回転する間に、光電変換基板21上のある部分はこれらの領域H1と領域H2を交互に通過する、すなわち坩堝32に近い領域および坩堝40に近い領域を交互に通過するので、光電変換基板21の回転周期に対応したTl濃度の濃淡が発生する。
第二の理由としては、CsI結晶の先端部形状と、CsI結晶表面と坩堝32、40との角度的な相違にある。CsI結晶は、気相でファイバ構造の集合体を形成する。
図16は、本実施形態によるシンチレータ層形成途中のCsI結晶の一つのファイバ構造を模式的に拡大した断面図である。図16に示すように、CsI結晶95は気相でファイバ構造の集合体を形成させる時、先端部が尖った形状になる。CsIが収納された坩堝32の方を向いている部分96とTlIが収納された坩堝40を向いている部分97とが存在し、それぞれTl濃度が低い部分、高い部分となる。その結果、光電変換基板21の回転周期に対応したTl濃度の濃淡が発生する。
上述の2つの理由の何れの場合でも、光電変換基板21の回転速度をA[rpm]、シンチレータ層22(CsIシンチレータ層)の成膜レートをB[nm/分]とした場合、この濃淡の周期はB/A[nm]となる。つまり、シンチレータ層22中の積層方向でのTl濃度の変動周期は、回転速度Aに反比例する。
さらに、坩堝40を坩堝32より光電変換基板21に近づける(R>Q)ことにより、光電変換基板21に形成されるシンチレータ層22に含まれるタリウム濃度は上昇する。距離Qを短くすることにより蒸着面に付着するシンチレータ材中のタリウム濃度が上昇する理由は2つある。
第一の理由としては、坩堝と光電変換基板21との間の距離の逆2乗則にある。
第二の理由としては、CsI蒸着工程特有のことであるが、坩堝40から飛散したTlIはCsIの蒸気により光電変換基板21に到達しにくくなる効果にある。これは、膜厚200乃至1000μmと、シンチレータ層22の厚膜をできるだけ短時間で積層したい要請から、坩堝32からの蒸発レートを高くするため、坩堝32のすぐ上方ではCsIの密度がかなり高くなっており、TlIがその部分を横切って光電変換基板21に到達しにくいことによる。
次に、上述した感度ゴーストを評価する手法について説明する。感度ゴーストを評価する際、まず、X線平面検出器とX線発生器との間にX線を遮蔽する物体を設置した状態で大線量(2400mAs)のX線を照射する。その5分後に、上記物体を取り除いた状態で通常の撮影条件(16mAs)でホワイト画像を撮影する。そして、撮影前照射履歴が無い部分の信号量に対する、大線量照射履歴のある部分の信号量の増分として感度ゴーストを評価する。
すなわち、感度ゴーストをGS[%]、撮影前照射履歴が無い部分の信号量すなわち非照射部分の感度をS0、大線量照射履歴のある部分の信号量すなわち大線量照射部分感度をS1としたとき、
GS[%]=(S1−S0)/S0×100
である。
CsI/Tlの蛍光現象は、CsI結晶に吸収されたX線が、高速電子に変換されたのちに自身は減速しながら結晶中の価電子帯の電子を順次励起し、励起された電子が、結晶中に散在するTlイオンからなる発光中心と通ることにより速やかに発光することによって生じる。Tlイオンが近くに無い場合、励起エネルギはシンチレータ層22に残存して、なかなか発光としてエネルギを放出しない。そして、次のフレームでX線を吸収し新たに発生した高速電子に刺激を受けて、ゴーストとして発光する。
感度ゴースト特性は、TlIのシンチレータ層22中の濃度と分散性に依存している。すなわち、Tl濃度が、1mass%以上のときは1回目のX線像の1%程度が2回目の撮影で残存しているのに対して、1mass%以下のときは1乃至4%の像が2回目の撮影に残存していることが判った。
上記のことから、シンチレータ層22を形成する際、シンチレータ層22のTl濃度が1[mass%]以上となるように、CsIの加熱温度とTlIの加熱温度とを独立して制御し、CsI及びTlIのそれぞれの蒸発レートを調整することが望ましい。
ここで、シンチレータ層22のTl濃度が2[mass%]に達すると感度が頭打ちとなり、3[mass%]に達すると感度が減少に転じることになる。また、シンチレータ層22のTl濃度が2[mass%]に達しても感度ゴーストはそれほど悪化しないが、3[mass%]に達すると感度ゴーストははっきりと悪化することになる。すなわち、シンチレータ層22のTl濃度が2[mass%]に達しても感度ゴーストの発生を低減する効果を得ることができるが、3[mass%]に達すると感度ゴーストの発生を低減する効果が全く得られないことになる。
また、成膜レートBの回転速度Aに対する比、すなわちB/Aの値を小さくし、さらにTl濃度を1mass%以上とすることにより、感度ゴーストが低減することが分かった。坩堝32及び坩堝40を使ってシンチレータ材を蒸着する方式の場合、シンチレータ層22中のTl濃度が低下する、すなわち欠乏する領域が形成されることは不可避である。しかし、このシンチレータ層22中におけるTlが欠乏する領域を狭くすることにより、励起電子がTl発光中心に遭遇する確率が向上がるので、感度ゴーストを低減することができる。
そこで、本実施形態では、B/Aを、感度ゴーストが低減する340nm以下としている。つまり、シンチレータ層22は、高タリウム濃度層と低タリウム濃度層とを交互に積層したものであって、タリウムの濃度の積層方向の周期が340nm以下となるようにしている。
さらに、B/Aを40nm、さらに15nm以下とすることが好ましい。この場合、シンチレータ層22におけるタリウムの濃度の積層方向の周期は、40nm以下となる。このように、本実施形態によれば、シンチレータ層22を形成する際、B/A≦340[nm]の条件の下で行うことにより、X線(放射線)を可視光に変換するX線検出パネル2(シンチレータパネル)の感度ゴーストを低減することができる。
(光電変換基板21の温度について)
次に、蒸着期間における光電変換基板21の温度について説明する。
通常の蒸着においては被蒸着基板を加熱することにより蒸着膜の付着力を上げる方法が採られている。この狙いは、被蒸着基板に入射した蒸発元素と被蒸着基板の表面との活性状態を高めることにより蒸着膜の付着力を高めることにある。
ところで、光電変換基板21は、ガラス基板上にa−Siを基材としたTFT26やPD27が作り込まれた基板である。また、上述した光電変換基板21の構成の説明では省略したが、光電変換基板21の上層には保護層が形成されている。保護層は、光電変換基板21の表面の平滑化、保護及び電気絶縁性を確保するものである。保護層はその求められる機能から有機膜、又は有機膜と薄い無機膜との積層膜で形成されている。
光電変換基板21の表面にシンチレータ材を蒸着させる際、光電変換基板21の温度を上昇させると、光電変換基板21がダメージを受けたり、シンチレータ層22の付着力が低下したりするなど、信頼性の低下を引き起こす恐れがある。このため、TFT26及びPD27、さらに配線部の接続部などを考慮すると、光電変換基板21の温度を200数十℃以内に抑えることが望ましい。さらに、有機膜(保護膜)を考慮すると、光電変換基板21の温度を上記温度より低く抑えることが望ましい。
有機膜の材料としては、光学的特性やフォトエッチングパターン形成機能などの要請から、特にアクリル系やシリコーン系などの有機樹脂剤が利用されることが多い。上記の他には、エポキシ系樹脂なども保護膜の材料に成り得るが、いずれの有機樹脂にもガラス転移点が存在し、このガラス転移点以上の温度では、有機膜の熱膨張係数の増加や、有機膜の軟化が始まる。
従って、蒸着時の保護膜(光電変換基板21)の温度が大幅にガラス転移点を超えると、蒸着膜が安定となる。特に、光電変換基板21上へシンチレータ層22の形成が始まる蒸着初期において、蒸着膜の安定度に与える影響は大きい。一方、シンチレータ層22(結晶膜)の形成を考慮した場合、蒸着中の光電変換基板21の温度はより高い温度であることが望ましい。
ここで、本願発明者等は、蒸着期間に光電変換基板21の温度に対するシンチレータ層22の状態の変化について調査した。そして、形成されたシンチレータ層22に剥離の発生があるかどうかを調査し、シンチレータ層22の品質を判定した。調査する際、蒸着期間の光電変換基板21の温度を、蒸着初期と、蒸着初期以降とで変えて行った。ここで、蒸着初期とは、光電変換基板21上へのシンチレータ層22の形成を開始するタイミングである。具体的には、坩堝32、40の先端部(蒸発口32a、40a)に設けたシャッタを開くことにより、そのタイミングを設定できる。次の表3に調査結果を示す。
表3に示すように、蒸着初期の光電変換基板21の温度を100℃、蒸着初期以降の光電変換基板21の温度を125℃にそれぞれ調整したところ、形成されたシンチレータ層22に剥離の発生は無く、強制試験を経てもシンチレータ層22に剥離の発生は無かった。ここで、強制試験とは、例えばエポキシ樹脂などの硬化収縮性樹脂をシンチレータ層22上に一定量塗布し、硬化収縮による膜応力を局所的に強制負荷する方法である。
蒸着初期の光電変換基板21の温度を125℃、蒸着初期以降の光電変換基板21の温度を160乃至170℃にそれぞれ調整したところ、形成されたシンチレータ層22に剥離の発生は無く、強制試験を経てもシンチレータ層22に剥離の発生は無かった。
蒸着初期の光電変換基板21の温度を140℃、蒸着初期以降の光電変換基板21の温度を170乃至190℃にそれぞれ調整したところ、形成されたシンチレータ層22に剥離の発生は無かったが、強制試験を経るとシンチレータ層22に剥離が発生した。
蒸着初期の光電変換基板21の温度を150乃至180℃、蒸着初期以降の光電変換基板21の温度を180乃至195℃にそれぞれ調整したところ、形成されたシンチレータ層22に剥離が発生した。
シンチレータ層22の光電変換基板21への付着安定性に関しては、特に蒸着初期の光電変換基板21の温度の影響が大きい。蒸着初期の光電変換基板21の温度が140℃を超えると、形成されたシンチレータ層22に剥離が発生するリスクが大幅に増加することが予想される。従って、蒸着初期の光電変換基板21の温度は140℃以下に抑えた方が望ましい。
また、蒸着初期以降においては、125℃の温度条件でも膜剥れの無い適切なシンチレータ層22が形成できたことは上述の通りである。なお、125℃より低温側でも成膜は可能であるが、一方、蒸着初期以降の温度条件はシンチレータ層22の結晶成長条件に関連するため、感度などのシンチレータ層22の特性への影響も想定される。よって、125℃以上が適正範囲である。
このため、蒸着初期以降においては、光電変換基板21の温度を125℃乃至190℃の範囲内とした方が望ましく、これにより、シンチレータ層22を剥離の発生無しに形成することができる。上記のように、シンチレータ層22の光電変換基板21への付着安定性の観点から、蒸着期間における光電変換基板21の温度の上限が判定される。
一方、蒸着期間における光電変換基板21の温度の下限は、特性面から制約を受ける。ここで、本願発明者等は、X線検出パネル2の感度特性が蒸着初期の光電変換基板21の温度と相関性があること、を見出した。
蒸着初期の光電変換基板21の温度が65℃乃至85℃の範囲内では、諸要因の影響はあるものの、平均的には蒸着初期の光電変換基板21の温度に対し約0.6倍の比率で感度特性が比例する。従って、蒸着初期の光電変換基板21の温度が低くなるとX線検出パネル2の感度特性も低くなる。
また、蒸着初期の光電変換基板21の温度が低下すると、結果的には蒸着初期以降の光電変換基板21の温度も低下する傾向となる。その結果、上述の結晶成長へ影響が想定される。また、上記のような感度低下現象を確認することができた。このため、X線検出パネル2が低感度を示すリスクを考慮すると、蒸着初期の光電変換基板21の温度は70℃以上が望ましい。
上述した検討結果から、本実施形態において、光電変換基板21上にシンチレータ材を蒸着させる際、蒸着初期の光電変換基板21の温度を70℃乃至140℃の範囲内に制御し、蒸着初期以降の光電変換基板21の温度を125℃乃至190℃の範囲内に制御することが望ましい。
また、蒸着初期の光電変換基板21の温度を70℃乃至125℃の範囲内に制御し、蒸着初期以降の光電変換基板21の温度を125℃乃至170℃の範囲内に制御した方がより好ましい。
次に、真空チャンバ31内部で起こる熱伝導について説明する。
図17は、図3に示した光電変換基板21、熱伝導体36、保持機構37及び放熱部38を示す図であり、熱伝導体36の機能を説明する模式図である。上述したように、シンチレータ層22を形成するため、坩堝32には大型のものを利用し、坩堝32内には数kg(例えば6kg)以上のシンチレータ主材料が投入され、坩堝32は約700℃に加熱される。
図3及び図17に示すように、従って、坩堝32からの放射(輻射)熱は大きいため、真空チャンバ31内の上方に位置した光電変換基板21は強く加熱される。さらに、蒸着中の蒸発元素が光電変換基板に熱エネルギを持ち込むため、光電変換基板21の温度は大きく上昇する。
そこで、光電変換基板21及び保持機構37の全域に対向するように熱伝導体36を配置している。ここで、光電変換基板21及び保持機構37と対向した熱伝導体36の面を表面Sa、放熱部38と対向した熱伝導体36の面を裏面Sbとする。これにより、熱伝導体36は、光電変換基板21及び保持機構37からの放射熱を表面Sa側で吸収することができるため、光電変換基板21の過熱を抑制し、光電変換基板21の温度を上述した適正な値に制御することが可能となる。
また、熱伝導体36は、裏面Sb側から放熱部38に放射熱を発散することができる。放熱部38のヒータを駆動しない場合、放熱部38は、熱伝導により熱を真空チャンバ31に伝える役割を果たしている。
放射熱は、対向する両者の間の距離が短ければより効率良く伝えることができる。このため、本実施形態では、熱伝導体36を保持機構37(光電変換基板21)と放熱部38の間に介在させ、熱伝導体36及び保持機構37(光電変換基板21)間の距離、並びに熱伝導体36及び放熱部38間の距離を極力短くしている。
また、表面Saと裏面Sbの放射率をそれぞれ1に近づけ、熱伝導率の高い材料を利用して熱伝導体36を形成することが望ましく、これにより、光電変換基板21の過熱を一層抑制することができる。
本実施形態において、熱伝導体36の表面Sa及び裏面Sbには、それぞれ黒色化処理が施されている。これにより、熱伝導体36は高い放射率を確保することができる。これは、アルミニウムなどで形成された金属光沢面の放射率が数10%程度であるのに比べ、黒色化処理が施された表面Sa及び裏面Sbの放射率は約95%を示すためである。表面Sa及び裏面Sbからの放射は、完全黒体放射に近いことが分かる。さらに、保持機構37の表面及び放熱部38の表面にも、放射率を上げる表面処理(黒色化処理)を施せば、より効果的である。
以上のように構成された一実施形態に係るX線検出器の製造装置及びX線検出器の製造方法によれば、X線検出器を製造する際、光電変換基板21の蒸着面が坩堝32及び坩堝40に露出し、上記蒸着面の法線に沿った回転軸の延長線上から坩堝32が外れて位置する状態に光電変換基板21を配置する。
続いて、回転軸を中心に光電変換基板21を回転させる。次いで、坩堝32からCsI若しくはTlIが添加されたCsI(シンチレータ主材料)を坩堝40からTlI(シンチレータ添加剤)をそれぞれ蒸発させ、蒸着面上にCsI及びTlIを蒸着させシンチレータ層22を形成する。
シンチレータ層22を形成する際、B/A≦340[nm]の条件の下で行っている。これにより、X線検出パネル2の感度ゴーストを低減することができる。
上記のことから、感度ゴーストの発生を低減することのできるX線検出器の製造方法及びX線検出器の製造装置を得ることができる。また、生産性の向上を図ることができ、X線検出パネル2の解像度特性の向上に寄与するシンチレータ層22を形成することができるX線検出器の製造方法を得ることができる。また、製造歩留まりが高いシンチレータ層22を形成することができるX線検出器の製造方法を得ることができる。
本発明の一つの実施形態を説明したが、実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
例えば、上述した実施形態では、2枚又は4枚のX線検出パネル2を同時に製造したが、1枚のX線検出パネル2のみを製造する場合や、3枚又は5枚以上のX線検出パネル2を同時に製造する場合であっても上述した効果を得ることができる。
熱伝導体36の形状は、板状に限定されるものではなく、ブロック構造など、種々変形可能である。熱伝導体36は、光電変換基板21の配置、保持機構37の形状、放熱部38との位置関係などに応じた形状に形成されていればよい。上述した実施形態では、熱伝導率を高めるためにアルミニウムを利用して熱伝導体36を形成したが、アルミニウムに限定されるものではなく、種々変形可能であり、銅(Cu)などの材料を利用して熱伝導体36が形成されていてもよい。
上述した実施形態では、シンチレータ材にヨウ化セシウム(CsI)を主成分とする材料を利用したが、これに限定されるものではなく、シンチレータ材に他の材料を利用しても上述した実施形態と類似した効果を得ることができる。
上述した技術は、X線検出器の製造方法及び製造装置への適用に限定されるものではなく、他のX線検出器の製造方法及び製造装置等、各種の放射線検出器の製造方法及び製造装置に適用することができる。