JP2014235816A - フォトカソード型電子線源、その作成方法及びフォトカソード型電子線源システム - Google Patents

フォトカソード型電子線源、その作成方法及びフォトカソード型電子線源システム Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、従来の電子線源に比べて格段に高輝度の電子線を発生でき、その使用寿命を格段に長くできる、「フォトカソード型電子線源、その作成方法及びフォトカソード型電子線源システム」を提供することを課題とする。【解決手段】陰極先端20の先端面20aに形成されたフォトカソード型電子線源であって、先端面20aに形成された接合層21と、接合層21の一面21aに形成された光電子放出層22と、光電子放出層22の一面22aに形成された保護処理層23と、を有し、接合層21が、陰極先端20と反応しない物質であって、かつ、光電子放出層22を構成する物質と反応しない物質の膜からなり、保護処理層23が光電子放出層22を構成する物質と反応しない物質が酸化した不動態皮膜からなるフォトカソード型電子線源11を用いることによって前記課題を解決できる。【選択図】図2

Description

本発明は、フォトカソード型電子線源、その作成方法及びフォトカソード型電子線源システムに関するものである。
電子線源は、固体中の電子を空間に取り出す装置である。電極構造の違いにより、エミッタ型又はカソード型がある。また、電子の取り出し方法の違いにより、熱エネルギーにより電子放出を行う熱電子放出型、量子力学的トンネル効果により空間に電子を取り出す電界放射(Field Emission)型等がある。
電子線源から空間に放出された電子は、電界により加速されると共に、電子レンズによりビーム状に収束・照射され、高分解能電子顕微鏡や電子線描画装置などに用いられている。
しかし、上記様々なタイプの電子線源でも、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)の高解像度用の電子線源としては十分な輝度が得られていないという課題があった。
本発明者は、これまで、フォトカソード型電子線源に関する研究を続けてきた(特許文献1〜6)。フォトカソード型電子線源とは、陰極に接続又は一体化され、外部光電効果により電子を放出可能な電子線源である。
それらの研究をベースにして、外部光電効果により電子を放出する材料として、CsSb、KSb、RbSb等の量子効率(1個の光子の光電効果で放出される光電子の割合を%表示した指標)の極めて高い物質を用いることにより、透過型電子顕微鏡(TEM)の高解像度用電子線源として十分な輝度が得られる可能性があることに想到した。
予想どおり、CsSb、KSb、RbSb等の高量子効率物質を用いたフォトカソードは、高い量子効率を示した。しかし、前記高量子効率物質は、化学的に極めて活性であり、高真空中でもHO(水蒸気)やOが表面に付着しての酸化やアルカリ金属の真空中への蒸発により結晶構造が劣化して、その量子効率が低下し、フォトカソードとしての寿命が低下することが重大な問題であった。
特許第3569747号公報 特許第3577518号公報 特許第3837566号公報 特許第5071699号公報 特許第4915786号公報 オランダ特許第1002246号明細書
本発明は、従来の電子線源に比べて格段に高輝度の電子線を発生でき、寿命を格段に長くできる、「フォトカソード型電子線源、その作成方法及びフォトカソード型電子線源システム」を提供することを課題とする。
本発明者は、当初、CsSb等の高量子効率物質の表面にSb及びCsと化学反応を起こさないW膜やCr膜を形成することにより寿命を改善できると考え、高量子効率物質にW膜やCr膜の保護膜を形成して光電子放出実験を行った。しかし、寿命改善効果は得られなかった。しかし、その実験の試行錯誤を繰り返すことにより、W膜やCr膜を酸化して不動態皮膜からなる保護処理層を、光電子の放出を妨げない範囲に薄く、形成することにより、量子効率を低減させないで、真空中において高量子効率物質とHO(水蒸気)やO(酸素分子)との化学反応による酸化を抑制できるとともに、Csの蒸発による量子効率の低下を防止でき、かつ、寿命を長くすることができることを発見して、本発明を完成した。
本発明は、以下の構成を有する。
(1) 陰極先端の先端面に形成されたフォトカソード型電子線源であって、前記先端面に形成された接合層と、前記接合層の一面に形成された光電子放出層と、前記光電子放出層の一面に形成された保護処理層と、を有し、前記接合層が、前記陰極先端と反応しない物質であって、かつ、前記光電子放出層を構成する物質と反応しない物質の膜からなり、前記保護処理層が前記光電子放出層を構成する物質と反応しない物質の不動態皮膜からなることを特徴とするフォトカソード型電子線源。
(2) 前記光電子放出層がCsSb、KSb、RbSb、NaKSb、(Cs)NaKSb、KCsSb、CsTe、GaAs(Cs)の群から選択されるいずれか1の化合物からなり、前記光電子放出層を構成する物質がCs、Rb、K、Naのいずれかのアルカリ金属、GaのIII族金属、Sb、Te、Asのいずれかの半金属の群から選択されるいずれか1又は2以上の元素であることを特徴とする(1)に記載のフォトカソード型電子線源。
(3) 前記光電子放出層の膜厚が、照射される光子の最長進入深さ以上の厚さであることを特徴とする(2)に記載のフォトカソード型電子線源。
(4) 前記光電子放出層を構成する物質と反応しない物質がW又はCrであることを特徴とする(1)に記載のフォトカソード型電子線源。
(5) 前記陰極と反応しない物質であって、かつ、前記光電子放出層を構成する元素と反応しない物質がW又はCrであることを特徴とする(1)に記載のフォトカソード型電子線源。
(6) 前記不動態皮膜がWO又はCrの金属酸化物からなることを特徴とする(1)に記載のフォトカソード型電子線源。
(7) 乾式成膜法により、陰極先端の先端面にW又はCrからなる接合層を形成する工程と、乾式成膜法により、前記接合層の一面にCsSb、KSb、RbSb、NaKSb、(Cs)NaKSb、KCsSb、CsTe、GaAs(Cs)の群から選択されるいずれか1の化合物からなる光電子放出層を形成する工程と、前記光電子放出層の一面に前記光電子放出層を構成する物質と反応しない物質の不動態皮膜からなる保護処理層を形成する工程と、を有することを特徴とするフォトカソード型電子線源の作成方法。
(8) 前記光電子放出層を形成する工程が、Sb、Te、Asのいずれかの半金属からなる第1構成元素層と、Cs、Rb、K、Naのいずれかのアルカリ金属、GaのIII族金属の何れかからなる第2構成元素層を交互に積層して、第1構成元素層と第2構成元素層と第1構成元素層とからなる単位層を1層以上有する多層膜を形成する工程と、加熱により、前記多層膜を単層化する工程と、からなることを特徴とすることを特徴とする(7)に記載のフォトカソード型電子線源の作成方法。
(9) 前記保護処理層を形成する工程が、乾式成膜法により、前記光電子放出層の一面に前記光電子放出層を構成する物質と反応しない物質を形成する工程と、真空環境を変化させることにより、前記光電子放出層を構成する物質と反応しない物質を酸化して、その酸化膜からなる不動態皮膜を形成する工程と、からなることを特徴とする(7)又は(8)に記載のフォトカソード型電子線源の作成方法。
(10) 真空環境を変化させるとともに、前記フォトカソード型電子線源にレーザーを連続照射することを特徴とする(9)に記載のフォトカソード型電子線源の作成方法。
(11) (1)〜(6)のいずれかに記載のフォトカソード型電子線源と、前記フォトカソード型電子線源に光照射可能な光源と、前記フォトカソード型電子線源から放出された光電子を引き寄せ可能な光電子捕捉部と、を有することを特徴とするフォトカソード型電子線源システム。
本発明のフォトカソード型電子線源は、陰極先端の先端面に形成されたフォトカソード型電子線源であって、前記先端面に形成された接合層と、前記接合層の一面に形成された光電子放出層と、前記光電子放出層の一面に形成された保護処理層と、を有し、前記接合層が、前記陰極先端と反応しない物質であって、かつ、前記光電子放出層を構成する物質と反応しない物質の膜からなり、前記保護処理層が前記光電子放出層を構成する物質と反応しない物質の不動態皮膜からなる構成なので、光電子の放出を妨げない範囲に薄く、丈夫に形成された保護処理層により、CsSb等の高量子効率物質から光電効果により発生する電子線を低減させることなく、光電子を放出させることができ、光電流値を高くして、光電変換に基づく量子効率を高くすることができるとともに、CsSb等の高量子効率物質と、真空中においても極微量存在する水や酸素との化学反応を抑制でき、フォトカソード型電子線源の寿命を長くすることができる。
本発明のフォトカソード型電子線源の作成方法は、乾式成膜法により、陰極先端の先端面にW又はCrからなる接合層を形成する工程と、乾式成膜法により、前記接合層の一面にCsSb、KSb、RbSb、NaKSb、(Cs)NaKSb、KCsSb、CsTe、GaAs(Cs)の群から選択されるいずれか1の化合物からなる光電子放出層を形成する工程と、前記光電子放出層の一面に前記光電子放出層を構成する物質と反応しない物質の不動態皮膜からなる保護処理層を形成する工程と、を有する構成なので、量子効率が高く、光電流値を大きくでき、寿命が長いフォトカソード型電子線源を容易に作成することができる。
本発明のフォトカソード型電子線源システムは、先に記載のフォトカソード型電子線源と、前記フォトカソード型電子線源に光照射可能な光源と、前記フォトカソード型電子線源から放出された光電子を引き寄せ可能な光電子捕捉部と、を有する構成なので、光源からの光をフォトカソード型電子線源に照射して、光電子を効率よく放出させて、光電流値の高い電子線を発生させることができるとともに、この電子線を光電子補足部に収率高く引き寄せることができる。また、保護処理層が形成されていることにより、(1)CsSb等の高量子効率物質と、真空中においても極微量存在するHOやOとの反応による高量子効率物質の酸化、及び、(2)高量子効率物質の構成原子(Cs等)の真空中への蒸発による喪失とによる、高量子効率物質の結晶構造の劣化を抑制でき、フォトカソード型電子線源の寿命を長くすることができる。以上により、より高機能な次世代型の透過型電子顕微鏡(TEM)用の電子線源等に利用できる。
本発明の実施形態であるフォトカソード型電子線源システムの一例を示す断面模式図である。 本発明の実施形態であるフォトカソード型電子線源の一例を示す図である。 本発明の実施形態であるフォトカソード型電子線源の作成方法の一例を示すフローチャート図である。 本発明の実施形態であるフォトカソード型電子線源の別の一例を示す図である。 フォトカソード型電子線源の作成・評価装置の模式図である。 フォトカソード型電子線源の作成工程図である。 試験例1−1のフォトカソード型電子線源からの光電流の規格化値の常用対数の時間変化の測定結果を示すグラフである。 試験例1−2のフォトカソード型電子線源からの光電流の規格化値の常用対数の時間変化の測定結果を示すグラフである。 試験例1−3のフォトカソード型電子線源からの光電流の規格化値の常用対数の時間変化の測定結果を示すグラフである。 試験例1−3のフォトカソード型電子線源からの光電流の規格化値の常用対数の時間変化の測定結果を示すグラフである。 試験例1−3のフォトカソード型電子線源からの光電流の規格化値の常用対数の時間変化の測定結果を示すグラフである。
(本発明の実施形態)
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態であるフォトカソード型電子線源、その作成方法及びフォトカソード型電子線源システムについて説明する。
<フォトカソード型電子線源システム>
まず、本発明の実施形態であるフォトカソード型電子線源システムについて、説明する。図1は、本発明の実施形態であるフォトカソード型電子線源システムの一例を示す断面模式図である。
図1に示すように、本発明の実施形態であるフォトカソード型電子線源システム51は、フォトカソード型電子線源11と、フォトカソード型電子線源11に光照射可能な光源33と、フォトカソード型電子線源11から放出された光電子42を引き寄せ可能な光電子捕捉部35と、を有して概略構成されている。
光源33としてはレーザー光源を挙げることができる。パルスレーザー光源とすれば、パルス電子線が得られ、装置の応用範囲を広げることがたできる。レーザーの波長は、特に限定されず、405nm、488nmなどを挙げることができる。
フォトカソード型電子線源システム51は真空排気できる真空チェンバー31を備えている。
真空チェンバー31にファラデーカップからなる光電子捕捉部35が配置されている。光電子捕捉部35の内部にはミラー36が設けられている。
真空チェンバー31の一側面にはレンズ34が組み込まれており、外部に配置された光源33に接続された光ファイバー32の先端から放射されるレーザー光41を、レンズ34を介して、光電子捕捉部35の内部にはミラー36に照射し、その反射光を陰極支持部19に取り付けられた棒状の陰極20の先端側に照射可能とされている。
光電子捕捉部35には配線38を介して、外部の電流計37に接続され、光電子捕捉部35で捕捉する光電子からなる電子線42により得られる光電流を測定可能とされている。
真空チェンバー31には陰極支持部19が配置されている。陰極支持部19には先端部を尖らせた陰極先端20が取り付けられている。
陰極先端20の先端面にフォトカソード型電子線源が形成されている。
<フォトカソード型電子線源>
次に、本発明の実施形態であるフォトカソード型電子線源について、説明する。
図2は、本発明の実施形態であるフォトカソード型電子線源の一例を示す図であって、平面図(a)、図2(a)のA−A’線における断面図(b)である。
図2に示すように、本発明の実施形態であるフォトカソード型電子線源11は、陰極先端20の先端面20aに形成されたフォトカソード型電子線源であって、先端面20aに形成された接合層21と、接合層21の一面21aに形成された光電子放出層22と、光電子放出層22の一面22aに形成された保護処理層23と、を有して概略構成されている。
接合層21は、陰極先端20と反応しない物質であって、かつ、光電子放出層22を構成する物質と反応しない物質の膜からなる。
例えば、陰極先端20がNiの場合、NiはSbやCsと化学反応を起こすため、図2(b)に示すように、まず、例えば、陰極先端を構成する物質であるNiや、光電子放出層を構成するSbやCsと化学的に反応しないことが知られているCrを被覆する。
また、保護処理層23は光電子放出層22を構成する物質と反応しない物質の不動態皮膜からなる。不動態皮膜はその結晶構造が極めて緻密であるため、例え極めて薄膜ではあっても、効果的に酸化を防止することができる。
光電子放出層22として、CsSb、KSb、RbSb、NaKSb、(Cs)NaKSb、KCsSb、CsTe、GaAs(Cs)の群から選択されるいずれか1の化合物を挙げることができる。これらの化合物を用いることにより、量子効率を向上させることができる。
光電子放出層22を構成する物質として、Cs、Rb、K、Naのいずれかのアルカリ金属、GaのIII族金属、Sb、Te、Asのいずれかの半金属の群から選択されるいずれか1又は2以上の元素を挙げることができる。
光電子放出層22の膜厚t22が照射される光子の最長進入深さ(CsSbで可視光照射の場合には約30nm)以上の厚さであることが好ましい。この厚さ以下では一部の光子は光電子放出層22を貫通してしまい、それらの一部の光子による光電効果が生じないからである。すべての光子が停止して、光電効果を生じることにより最大の量子効率が得られる。
光電子放出層22を構成する物質と反応しない物質として、W又はCrの金属を挙げることができる。
不動態皮膜として、WO3、Cr、Al等を挙げることができる。例えば、Al、Fe、Ni、Crを濃硝酸や熱濃硫酸に入れると、不動態となり、これらの溶液に溶けることはない。これは、表面に不動態皮膜(極めて薄い酸化皮膜)が形成されるからである。不動態化する金属としては、Fe、Ni、Co,Ti,Nb、Ta、Al等が有名であるが、それらの合金もまた不動態化することが知られている。
保護処理層23の膜厚t23は格子定数の厚さ以上で、かつ高量子効率物質から放出される光電子が透過可能な厚さ以下であることが望ましい。膜厚t23が光電子の透過可能厚さよりも厚いと光電子は真空中に放出されないからである。
例えば、WO膜の場合、厚さ0.56〜1.11nmとする。
また、Cr膜の場合、厚さ0.93nmとする。
これらの厚さであれば、光電子の放出の妨げとならない。
陰極先端20として、通電可能な固体物質とする。Ni等を挙げることができる。
金属Ni製の先端を直径0.2mmに尖らせた陰極先端の先端面にCsSbを被覆して、フォトカソード型電子線源を形成することにより、電子顕微鏡用に容易に使用することができる。
<フォトカソード型電子線源の作成方法>
次に、本発明の実施形態であるフォトカソード型電子線源の作成方法について、説明する。
図3は、本発明の実施形態であるフォトカソード型電子線源の作成方法の一例を示すフローチャート図である。
図3に示すように、本発明の実施形態であるフォトカソード型電子線源の作成方法は、接合層形成工程S1と、光電子放出層形成工程S2と、保護処理層形成工程S3と、を有して、概略構成されている。
(接合層形成工程S1)
接合層形成工程S1は、乾式成膜法により、陰極先端の先端面にW又はCrからなる接合層を形成する工程である。
乾式成膜法としては、蒸着法、スパッタ法を挙げることができる。
(光電子放出層形成工程S2)
光電子放出層形成工程S2は、乾式成膜法により、前記接合層の一面にCsSb、KSb、RbSb、NaKSb、(Cs)NaKSb、KCsSb、CsTe、GaAs(Cs)の群から選択されるいずれか1の化合物からなる光電子放出層を形成する工程である。
光電子放出層形成工程S2は、例えば、多層膜形成工程S21と、多層膜単層化工程S22と、からなる。
((多層膜形成工程S21))
多層膜形成工程S21は、Sb、Te、Asのいずれかの半金属からなる第1構成元素層と、Cs、Rb、K、Naのいずれかのアルカリ金属、GaのIII族金属の何れかからなる第2構成元素層を交互に積層して、第1構成元素層と第2構成元素層と第1構成元素層とからなる単位層を1層以上有する多層膜を形成する工程である。
((多層膜単層化工程S22))
多層膜単層化工程S22は、加熱により、前記多層膜を単層化する工程である。多層膜形成工程S21を−20℃の温度環境で実施し、多層膜単層化工程S22で、例えば、+13℃の温度環境とする。
(保護処理層形成工程S3)
保護処理層形成工程S3は、前記光電子放出層の一面に前記光電子放出層を構成する物質と反応しない物質の不動態皮膜からなる保護処理層を形成する工程である。
保護処理層を形成する工程S3は、例えば、不活性材料成膜工程S31と、不動態皮膜形成工程S32と、からなる。
((不活性材料成膜工程S31))
乾式成膜法により、前記光電子放出層の一面に前記光電子放出層を構成する物質と反応しない物質を形成する工程である。
光電子放出層22を構成する元素と反応しない物質(不活性材料)を蒸着・成膜する。
光電子放出層22を構成する元素と反応しない物質として、W又はCrを挙げることができる。
より具体的には、例えば、W膜を厚さ0.32〜0.63nmで成膜する。0.63nmよりも厚くしても効果は期待できる。しかし、0.32nmよりも薄くすると、すなわち、格子定数以下の厚さとすると、不動態皮膜としては不完全となり、効果は減少すると予想される。
また、W膜の代わりに、Cr膜を厚さ0.43nmで成膜してもよい。
((不動態皮膜形成工程S32))
真空環境を変化させることにより、前記光電子放出層を構成する物質と反応しない物質を酸化して、その酸化膜からなる不動態皮膜を形成する工程である。
真空環境の変化とは、単純に高真空から低真空に真空度を変化させることのほか、排気方法を変えて、真空中に極微量存在する水や酸素の量を変えることも含む。例えば、主たる真空排気用ポンプをクライオポンプからターボ分子ポンプ(TMP)に変えると、真空度の他、真空中に極微量存在するHOやOの量も変わる。
クライオポンプからターボ分子ポンプ(TMP)に変えることにより、前記光電子放出層を構成する物質と反応しない物質を酸化して、その酸化膜からなる不動態皮膜を形成することができる。
W膜の場合、厚さ0.56〜1.11nmのWOの不動態皮膜が形成される。
また、Cr膜の場合、厚さ0.93nmのCrの不動態皮膜が形成される。
これらの不動態皮膜により、CsSbの表面を保護することができ、CsSbの酸化を抑制できるとともに、Csの蒸発を防ぐことができ、CsSbからの光電子の放出量の時間的な低下を著しく遅くできる。これにより、フォトカソード型電子線源の寿命を長くすることができる。
真空環境を変化させるとともに、前記フォトカソード型電子線源にレーザーを連続照射してもよい。これにより、不動態皮膜を安定化できる。
図4は、本発明の実施形態であるフォトカソード型電子線源の別の一例を示す図である。
図4に示すように、陰極先端の先端面が平坦面ではなく、曲面とされていてもよい。曲面にしても、その形状に応じた層構造からなるフォトカソード型電子線源を形成することができ、不動態皮膜からなる保護処理層を備えた構成なので、光電子の放出を妨げない範囲に薄く、丈夫に形成された保護処理層により、CsSb等の高量子効率物質から光電効果により発生する電子線を低減させることなく、光電子を放出させることができ、光電流値を高くして、光電変換に基づく量子効率を高くすることができるとともに、CsSb等の高量子効率物質と、真空中においても極微量存在するHOやOとの化学反応を抑制でき、フォトカソード型電子線源の寿命を長くすることができる。
本発明の実施形態であるフォトカソード型電子線源11は、陰極先端20の先端面20aに形成されたフォトカソード型電子線源であって、先端面20aに形成された接合層21と、接合層21の一面21aに形成された光電子放出層22と、光電子放出層22の一面22aに形成された保護処理層23と、を有し、接合層21が、陰極先端20と反応しない物質であって、かつ、光電子放出層22を構成する物質と反応しない物質の膜からなり、保護処理層23が光電子放出層22を構成する物質と反応しない物質の不動態皮膜からなる構成なので、光電子の放出を妨げない範囲に薄く、丈夫に形成された保護処理層により、CsSb等の高量子効率物質で光電効果により発生する電子線を低減させることなく、光電子を放出させることができ、光電流値を高くして、光電変換に基づく量子効率を高くすることができるとともに、CsSb等の高量子効率物質と、真空中においても極微量存在する水や酸素との化学反応を抑制でき、フォトカソード型電子線源の寿命を長くすることができる。
本発明の実施形態であるフォトカソード型電子線源11は、光電子放出層22がCsSb、KSb、RbSb、NaKSb、(Cs)NaKSb、KCsSb、CsTe、GaAs(Cs)の群から選択されるいずれか1の化合物からなり、前記光電子放出層を構成する元素がCs、Rb、K、Naのいずれかのアルカリ金属、GaのIII族金属、Sb、Te、Asのいずれかの半金属の群から選択されるいずれか1又は2以上の元素である構成なので、量子効率が高く、光電流値を大きくできる。
本発明の実施形態であるフォトカソード型電子線源11は、光電子放出層22の膜厚(47nm)は、照射される光子の最長進入深さ(CsSbで可視光照射の場合には約30nm)以上の厚さである構成なので、量子効率が高く、光電流値を大きくできる。
本発明の実施形態であるフォトカソード型電子線源11は、光電子放出層22を構成する物質と反応しない物質がW又はCrである構成なので、CsSb等の高量子効率物質の構成原子をNi等と反応させることなく、光電子放出層を形成でき、量子効率が高く、光電流値を大きくできる。また、丈夫な保護処理層を形成できる。
本発明の実施形態であるフォトカソード型電子線源11は、陰極先端20と反応しない物質であって、かつ、光電子放出層22を構成する物質と反応しない物質がW又はCrである構成なので、陰極先端と光電子放出層を反応させることなく、光電子放出層を形成でき、量子効率が高く、光電流値を大きくできる。
本発明の実施形態であるフォトカソード型電子線源11は、前記不動態皮膜がWO又はCrの金属酸化物からなる構成なので、量子効率を高く、光電流値を大きくしたまま、寿命を長くできる。
本発明の実施形態であるフォトカソード型電子線源11の作成方法は、乾式成膜法により、陰極先端20の先端面20aにW又はCrからなる接合層21を形成する工程と、乾式成膜法により、接合層21の一面21aにCsSb、KSb、RbSb、NaKSb、(Cs)NaKSb、KCsSb、CsTe、GaAs(Cs)の群から選択されるいずれか1の化合物からなる光電子放出層22を形成する工程と、光電子放出層22の一面22aに光電子放出層22を構成する物質と反応しない物質の不動態皮膜からなる保護処理層23を形成する工程と、を有する構成なので、量子効率が高く、光電流値を大きくでき、寿命が長いフォトカソード型電子線源を容易に作成することができる。
本発明の実施形態であるフォトカソード型電子線源11の作成方法は、光電子放出層22を形成する工程が、Sb、Te、Asのいずれかの半金属からなる第1構成元素層と、Cs、Rb、K、Naのいずれかのアルカリ金属、GaのIII族金属の何れかからなる第2構成元素層を交互に積層して、第1構成元素層と第2構成元素層と第1構成元素層とからなる単位層を1層以上有する多層膜を形成する工程と、加熱により、前記多層膜を単層化する工程と、からなる構成なので、所望の光電子放出層を容易に形成でき、量子効率が高く、光電流値を大きいフォトカソード型電子線源を容易に作成することができる。
本発明の実施形態であるフォトカソード型電子線源11の作成方法は、保護処理層23を形成する工程が、乾式成膜法により、光電子放出層22の一面22aに光電子放出層22を構成する元素と反応しない物質を形成する工程と、真空環境を変化させることにより、光電子放出層22を構成する物質と反応しない物質を酸化して、その酸化膜からなる不動態皮膜を形成する工程と、からなる構成なので、量子効率が高く、光電流値を大きくでき、寿命が長いフォトカソード型電子線源を容易に作成することができる。
本発明の実施形態であるフォトカソード型電子線源11の作成方法は、真空環境を変化させるとともに、前記フォトカソード型電子線源にレーザーを連続照射する構成なので、量子効率が高く、光電流値を大きくでき、寿命が長いフォトカソード型電子線源を容易に作成することができる。
本発明の実施形態であるフォトカソード型電子線源システム51は、フォトカソード型電子線源11と、フォトカソード型電子線源11に光照射可能な光源33と、フォトカソード型電子線源11から放出された光電子を引き寄せ可能な光電子捕捉部35と、を有する構成なので、光源からの光をフォトカソード型電子線源に照射して、光電子を効率よく放出させて、光電流値の高い電子線を発生させることができるとともに、この電子線を光電子補足部に収率高く引き寄せることができる。また、保護処理層が形成されていることにより、CsSb等の高量子効率物質と、真空中においても極微量存在するHOやOとの化学反応を抑制でき、フォトカソード型電子線源の寿命を長くすることができる。以上により、より高機能な次世代型の透過型電子顕微鏡(TEM)用の電子線源として利用できる。
本発明の実施形態であるフォトカソード型電子線源、その作成方法及びフォトカソード型電子線源システムは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することができる。本実施形態の具体例を以下の実施例で示す。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(試験例1−1)
<フォトカソード型電子線源の作成及び光電子放出特性測定>
図5は、フォトカソード型電子線源の作成・評価装置の模式図である。
当該装置は「上部真空室」、「中間真空室」、「下部真空室」と、3つに分けられている。
上部真空室は、排気速度の極めて速い「クライオポンプ」で真空排気されているため、高真空となっている。下部真空室と中間真空室は、いずれも「ターボ分子ポンプ」で真空排気されており、真空度は中程度である。上部真空室と中間真空室は狭い通路(「狭管」)で真空的にある程度隔離されており、中間真空室と下部真空室との間には遠隔操作が可能な「開閉バルブ」が設けられている。
下部真空室には蒸着ボートが配置されているが、蒸着ボートの加熱中の真空度は著しく低下する。Sb、Cs等の「陰極先端」への蒸着中には、開閉バルブを開けるが、上室を排気速度の極めて速いクライオポンプで真空排気していることと、狭管と中間室の存在による真空の差動排気効果とにより、下部真空室の真空度に比べて、1000倍以上の高い真空度に保持できる。下部真空室には5個の蒸着ボートが可動に取り付けられており、それぞれCr、Sb、Cs、W等を含む粉末材料が封入してあり、「電子ビーム加熱機器」により加熱される。
中間真空室には「水晶振動子」が納めてあり、蒸着膜の厚さ測定に用いられ、その厚さから、陰極先端での蒸着膜の厚さが計算できる。
上部真空室には、先端部が直径0.2mmに尖らせたNi製の陰極先端を取り付けた「陰極ユニット」を取り外し可能なように設置してある。先端部を0.2mmに尖らせたのは、空間電子効果による放出電流の減少を避けるためである。陰極先端は「ペルチェ冷却機器」を用いて、−20℃程度にまで冷却でき、「セラミック加熱機器」を用いて200℃程度にまでは加熱できるようになっている。
陰極先端の真下には、中心に微小孔を有する「絞り」が「3次元操作具」によって3次元的に可動なように位置しており、陰極先端の中心の微小領域(直径:1〜70ミクロン)に限定的にSb、Cs、Cr等の「蒸発物」を蒸着できる。これは、「1次元操作具」により、「望遠鏡」を用いて、陰極先端の先端面及び絞りの微小孔を観察し、3次元操作具を用いて絞りの微小孔の中心と陰極先端の直径0.2mmの中心の軸合わせを行うことで可能となる。
陰極先端から光電効果により真空中に飛び出した「光電子」は「2次元操作具」で2次元的に位置制御可能な「陽極板」で加速されて、1次元操作具により1次元的に位置制御可能な「ファラデーカップ」に飛び込み、電流として検出される。
光ファイバーから発した「レーザー」は上部真空室の窓から導入され、大気側のレンズとファラデーカップ内に収納された45°ロッドミラーにより反射されて、陰極先端の先端面に照射される。45°ロッドミラーの中心には1.5mmの孔が開けられており、ファラデーカップの底面には2mmの孔が開けられているため、図5のファラデーカップの配置において、量子効率を向上させるためのCsの追加蒸着をしながら、光電子の放出量を測定することができる。
陰極先端に接合層であるCrを蒸着し、CsSbを形成し、格子定数程度の厚さを有するWOもしくはCrの不動態皮膜を形成した後、3次元操作具を用いて絞りを後退させてから、「操作棒」を用いて「蓋」を陰極ユニットに押しつける。
その後、「アルゴンガス」を上部真空室に1気圧程度導入し、その圧力によって蓋に取り付けてあるOリングを押しつけて、蓋とOリングとによって陰極先端が真空中にシールされるようにする。かくして、陰極先端を真空雰囲気に閉じこめたままにして、陰極ユニットを本フォトカソード型電子線源の作成・評価装置から取り出し、陰極先端が大気(水蒸気や酸素分子)に全く晒されないようにTEMに取り付ける。TEM等には、陰極先端が大気に晒されないように陰極ユニットを装着できるような構造になっていることが必要となる。
図6は、フォトカソード型電子線源の作成工程図である。
図6に示すように、フォトカソード型電子線源は、金属Ni製の先端に形成する。
まず、1×10−7Paの高真空としてから、陰極先端の先端面の汚れを完全に取り除くため、セラミック加熱機器を用いて、陰極先端を200℃に加熱して2時間保持し、ベーキングした。
その後、陰極先端の温度を室温とした。
次に、陰極先端の平坦面にCrを8nmの厚さで形成した。
次に、蒸着したCrの表面の汚れを完全に取り除くため、セラミック加熱機器を用いて、陰極先端を200℃に加熱して2時間保持し、ベーキングした。
次に、ペルチェ冷却機器を用いて、陰極先端を−15℃に冷却した。
次に、Cr膜上に、Sb膜を4nmの厚さで形成した。
次に、Sb膜上に、Cs膜を93nmの厚さで形成した。
次に、Cs膜上に、Sb膜を4nmの厚さで形成した。
以上により、図6(a)に示すSb/Cs/Sbサンドウィッチ構造体を作成した。
CsSbの形成方法としては、陰極先端を高温にしてSbとCsを頻繁に交互蒸着する方法もある。この方法に比べて、本実施例で採用した「サンドウィッチ方式」の方が操作は簡便であり、「CsSbを微小領域に形成できる構造にしたために頻繁な交互蒸着が困難」な図5に示す蒸着装置には、「本サンドウィッチ方式」は適合していた。
なお、CsSbの形成において、Sb層が合計で8nmの膜厚に対して、必要最小限のCsの膜厚は60nmである。しかし、実験誤差を考慮して、実際のCs膜の計画蒸着厚さは93nmと敢えてより大きくした。余分の約33nm分に相当するCsはCsSbの形成に悪影響を与えることなく、真空中へ散逸した。
次に、陰極先端の温度を13℃に加熱した。
これにより、図6(b)に示すように、Sb/Cs/Sbサンドウィッチ構造体を、厚さ47nmのCsSb層とした。
これにより、高量子効率物質であるCsSb層からなる光電子放出層を形成した。
Sb/Cs/Sbサンドウィッチ構造体が形成されてから63分後に陰極先端の冷却を停止したが、66分後の温度は0℃となった。
サンドウィッチ構造体形成終了時から64分後に行った405nmのレーザー照射での光電子量の検出結果から、量子効率は1.113%であることが分かった。量子効率の測定では、今回および以下のすべてにおいて、陽極に印加する電圧は1kVとした。
サンドウィッチ構造体形成から66分後の488nmレーザー照射実験から、量子効率は0.263%であり、405nmのレーザー照射に比べて、量子効率は小さいことが分かった。
サンドウィッチ構造体形成終了時から66分後、量子効率を高くするため、陰極先端に形成されたCsSbに追加的にCsを蒸着する実験を行った。この実験での陰極先端温度は13〜120℃の間で変化させた。
追加のCsの蒸着により、サンドウィッチ構造体形成終了時から187分後において、488nmのレーザー照射下での量子効率は0.474%の最大値を示した。これにより、Csの追加蒸着により、CsSbの量子効率が増加することが分かった。
Csの追加蒸着実験の終了後、陰極先端温度を13℃として、光電子の放出量の時間的な変化を調べる実験(寿命試験)を開始した。この寿命試験は、サンドウィッチ構造体形成終了時から233分後に行った。
図7に示されるように、この寿命試験開始から214.5時間後に13℃のままの温度で、W膜を0.32nm(1原子層)の厚さで形成した(図6(c))。
次に寿命試験の開始から312.5時間後、Wの蒸着終了時からは98時間後、陰極先端が存在する上部真空室の主たる真空排気を、クライオポンプからターボ分子ポンプ(TMP)に変換して、真空環境を変化させることにより、W膜を0.56nmの厚さのW0膜からなる保護処理層とした(図6(d))。
CsSb層からなる光電子放出層の形成後も、上部真空室の真空度を1×10−7Paとした状態のまま、光ファイバーからレーザーを放射し、レンズとミラーを介して、光電子放出層に照射し、光電子放出層から放出される光電子をファラデーカップで捕捉して、光電流を発生させ、その光電流値を測定した。レーザーとしては、405nmの波長のレーザー及び488nmの波長のレーザーの2種のレーザーを用いた。
また、特に記載のない限り、光電流測定時のみ10秒以内の間だけレーザーを照射することとし、実験での最短照射時間隔は1時間とした。1時間に10秒間以内の照射は、量子効率の時間変化に対しては、1時間全く照射しないのと同じ影響を有するからである。
図7は、試験例1−1のフォトカソード型電子線源からの光電流の規格化値の常用対数の時間変化の測定結果を示すグラフである。
図7では、光電流値を時刻0時間での値で規格し、その常用対数の時間変化の測定結果を示した。時刻0時間でのCsSbの量子効率は、405nmのレーザーに対しては1.293%であり、488nmのレーザーに対しては0.212%であった。
図7に示すように、時刻0時間から時刻100時間の間は、規格化した光電子放出量の常用対数は時間とも非直線的に急激に低下したが、時刻100時間から時刻312.5時間までの間はほぼ直線的に減少していた。これは、定常状態においては、光電子の放出量は時間経過とともに、ほぼ指数関数的に減少することを示している。405nmのレーザー照射の方が、488nmのレーザー照射に比べて、規格化した光電子放出量の常用対数の低下速度は緩やかであった。
時刻214.5時間の時点でW膜を蒸着したが、いずれのレーザーを用いた場合でも、その後、時刻312.5時間までの範囲では、光電流値の規格値の常用対数は、時間変化はそれ以前の時刻100時間から時刻214.5時間までの期間とは同じである。このことから、1原子層のW膜の蒸着だけでは、CsSbからの光電子放出の指数関数的な低下の速度、すなわちその寿命には影響を与えていないことが分かった。
規格化した光電子放出量の常用対数が時間経過と共に低下する速度は、405nmのレーザー照射では0.00208(/h)であった。
上部真空室の主な真空排気ポンプをクライオポンプからターボ分子ポンプ(TMP)に変換し、真空度を1×10−7Paから1.6×10−7Paに変えた時刻312.5時間からは、規格化した光電子放出量の常用対数の低下速度は急激に速くなった。時刻312.5時間から時刻331時間の間でのその低下速度は0.0917(/h)であり、時刻100時間から時刻312.5時間までの間での低下速度に比べて、約44倍も速くなった。
上部真空室の主な真空排気ポンプをクライオポンプからターボ分子ポンプに変換することにより、真空度は1×10−7Paから1.6×10−7Paへと約1.6倍と悪くなったが、真空の質も変化していた。
変換前後で、酸素分子(O)の分圧の全体に占める割合は約1.45%から約1.47%とほぼ同じで、真空中のOの分圧は1.3×10−9Paから2.3×10−9Paへと約1.62倍にしか増加していない。しかし、HOの分圧の全体に占める割合は約6.45%から約25.1%へと増加しており、水蒸気の分圧としては、6.45×10−9Paから4.02×10−8Paへと約6.23倍にも増加していたことになる。
OはOに比べて物質表面により付着し易く、付着したHOから乖離したO(酸素原子)がCsSbに進入して、これを酸化させると考えられる。従って、真空中のHOの量が増加すると酸化は急激に促進されると考えられる。このため、真空中のHOの濃度の増加が上述の44倍もの急激な速度の増加の原因と考えられる。
図7に示されるように、時刻331時間を境に、規格化した光電子放出量の常用対数はわずかに増加に転じた。すなわち、その値は時刻331時間では−2.930であったが、時刻356時間では−2.790と微増した。
さらに、時刻356時間から時刻504時間の間での光電子放出量の常用対数の減少速度は0.000667(/h)と極めて遅くなった。これは、時刻645.5時間に、真空度をさらに低下させる処置を行うまで続いている。
このような331時間から645.5時間の間の光電子放出量の常用対数の緩やかな変化は、時刻312.5時から時刻331時間までの間に1原子層の厚さのW膜が真空中のHOの増加により酸化され不動態皮膜WOが形成されたためである。すなわち、真空中のHOがCsSbの表面に蒸着したW膜に付着し、Wを徐々に酸化させ、時刻331時間の時点で不動態皮膜WOの形成が完了し、この形成された不動態皮膜WOがCsSbの酸化とCsSbからのCsの蒸発を防止したためである。CsSbの酸化とCsSbからのCsの蒸発はCsSbの結晶構造を劣化させ、光電子の放出量の低下を促進するわけであるが、時刻331時間から時刻645.5時間の間は、格子定数の厚さを有する不動態皮膜WOがCsSbの表面を保護して、その寿命を伸ばしたわけである。
図7では、陰極の温度は常に13℃を保持しているが、時刻650時間では上部真空室の真空排気の仕方を変え、真空度は1.6×10−7Paから2.8×10−7Paへと低下し、真空の質も劣化したため、不動態皮膜WOによるCsSbの保護機能が失われたため、規格化された光電子放出量の対数は再度急激に減少した。不動態皮膜WOの厚さが格子定数程度と薄すぎたために、さらなる真空度の劣化によって皮膜が破壊された可能性はある。
(試験例1−2)
寿命試験中に、保護処理層の材料として、厚さ0.63nm(2原子層)でW膜を蒸着した他は試験例1−1とほぼ同様にして、試験例1−2のフォトカソード型電子線源を作成した。寿命試験中の陰極先端の温度は、試験例1−1の場合と同様に、13℃で行った。
図8は、試験例1−2のフォトカソード型電子線源からの光電流の規格化値の常用対数の時間変化の測定結果を示すグラフである。
図8では、光電子の放出量を時刻0時間での値で規格化した値の常用対数の時間変化の測定(寿命試験)の結果を示した。
寿命試験はSb/Cs/Sbサンドウィッチ構造体形成終了時から173分後に開始されたが、時刻0での量子効率は、405nmのレーザー照射下では1.842%であり、488nmのレーザー照射下では0.910%であった。
図8に示すように、405nmのレーザーを用いた場合、時刻0時間から時刻211時間までの範囲では、規格化された光電子放出量の常用対数は時間と共にほぼ一定の速度で低下した。この間、レーザーは光電流測定時のみだけでなく、常時連続的に照射した。
時刻117時間から時刻211時間の間では、規格化された光電子放出量の常用対数は時間と共に、0.0144(/h)の速度で殆ど直線的に低下している。
試験例1−1において、図7に示されるように、同一の真空度と温度において、405nmのレーザーを光電流の測定時のみ陰極に照射した場合の時刻100時間から時刻312時間の間では、その低下速度は0.00208(/h)とより緩やかである。
連続照射を行うことにより、光電子放出量の常用対数の低下速度は6.9倍と速くなっていた。これは、連続的にレーザーを陰極先端に照射することが、真空度を低下させることと同様の効果を有することを意味している。すなわち、レーザー照射そのものが、CsSbの酸化を促進していることを示している。これは、レーザー照射誘起酸化として一般的に知られている現象と合致するものである。
図8に示されるように、時刻211時間の時点で、レーザーの連続照射を止めると、規格化された光電子放出量の常用対数の時間的変化は緩やかになった。時刻286時間の時点で、レーザーの連続照射を再開すると、光電子放出量の常用対数の減少速度は再度速くなった。
なお、図8において、グラフの上部に、「Laser:ON」又は「ON」と記した範囲は、レーザーが連続照射されていた時間範囲を示す。「On+e」と記した範囲は、レーザーを連続照射しながら同時に光電子も連続的に放出していた時間範囲を示す。「OFF」と記した範囲は、レーザーの連続照射を行っていなかった時間範囲を示す。
レーザーの連続照射を続けながら、時刻311.5時間の時点でW膜を0.63nm(2原子層)の厚さで形成すると、短時間で光電子放出量の常用対数の値は増加したが、その値は再びWの膜形成前と同じ速度で低下を始めた。W膜の蒸着時の一時的な光電子放出量の増加の原因ははっきりしないが、おそらくCsSbの表面に付着して光電子の放出を妨害していたHOの膜がWの衝突によりはじき飛ばされたためかもしれない。
時刻357時間の時点で、上部真空室の主な真空排気ポンプをクライオポンプからターボ分子ポンプに変換して、真空度を0.9×10−7Paから1.6×10−7Paに変えた。時刻357時間では、同時にレーザーの連続照射を停止したが、真空度が低下しているにもかかわらず、時刻357時間から時刻383時間までの間では、光電子放出量の常用対数の値の時間的変化はほとんどゼロであった。
試験例1−1においては、図7に示されるように、WOの不動態皮膜形成前での、同一の真空度、温度、レーザー照射の条件下における時刻312.5時間から時刻331時間の間でのその低下速度は0.0917(/h)と急激な低下を示した。
この試験例1−1の結果との比較から、本試験例1−2では、W膜を蒸着した時刻311.5時間から時刻357時間までの間にW膜が酸化されて、WOの不動態皮膜が形成されたことが合理的に推測できる。
時刻357時間から時刻383の間では、WOの不動態皮膜がCsSbの保護膜として作用し、図8に示されるように、光電子放出量の常用対数の値の時間的変化はほぼゼロとなったことが結論された。レーザー照射誘起酸化は一般的に知られていることであるが、本試験でも時刻311.5時間から時刻357時間の間のレーザーの連続照射は2原子層のW膜の酸化を促進したものである。
時刻383時間の時点で、再度、クライオポンプによる上部真空室の真空排気に戻して、真空度を1.6×10−7Paから0.9×10−7Paへと変えると同時に、405nmのレーザーの連続照射を再開した。これにより、時刻383時間からは、光電子放出量の常用対数は時間と共に、再度減少速度を速め、その減少速度は0.00781(/h)であった。この速度は、同一条件下での、WOの不動態皮膜の形成前での、時刻117時間から時刻211時間の間での低下速度0.0144(/h)に比べて、0.54倍と遅かった。これもWOの不動態皮膜の保護効果によるものである。
405nmのレーザーの連続照射中での真空度の影響を調べるため、時刻455.5時間において、再度、上部真空室の主な真空排気ポンプをクライオポンプからターボ分子ポンプに変換し、真空度を0.9×10−7Paから1.6×10−7Paへと低下させても、規格化した光電子放出量の常用対数の低下速度には顕著な変化はなかった。これは、レーザーの連続照射による酸化の効果の方が、真空度あるいは真空の質の低下、具体的にはHOの濃度が約6.23倍になったことによる酸化の効果よりも大きいことを示している。
時刻529時間の時点では、レーザーの連続照射はそのままにして、上部真空室の真空排気の方法を再度変え、真空度を1.6×10−7Paから3.4×10−7Paへと変えた。これにより、光電子放出量の常用対数の低下速度は0.229(/h)と著しく速くなった。これは、それ以前の減少速度0.00781(/h)の約29倍であり、真空度の低下によりWOの不動態皮膜の保護効果が消失したものと推測される。
(試験例1−3)
サンドイッチ構造からCsSbを陰極先端に形成し、Csの追加蒸着の調査実験の後の寿命試験中に、保護処理層として、厚さ0.43nm(1.5原子層)でCr膜を蒸着した他は試験例1−1や試験例1−2とほぼ同様にして、試験例1−3のフォトカソード型電子線源を作成した。
図9〜11は、試験例1−3のフォトカソード型電子線源からの光電流の規格化値の常用対数の時間変化の測定結果を示すグラフである。試験時間が1121時間と長期に及んだため、3つのグラフに分けた。図10は、図9からの続きの時間変化であり、図11は、図10からの続きの時間変化である。
図9〜11では、光電子放出量を時刻0時間での値で規格化した値の常用対数の時間変化の測定結果を示した。
寿命試験はSb/Cs/Sbサンドウィッチ構造体形成終了時から233分後に開始されたが、図9の時刻0時間での量子効率は、405nmのレーザー照射下では0.968%であり、488nmのレーザー照射下では0.342%であった。
図9に示すように、時刻0時間から時刻356時間までは、陰極先端の温度は−20℃とし、時刻356時間からは13℃とした。また、時刻0時間から時刻281時間までの上部真空室の真空度は0.9×10−7Paであるが、時刻281時間からの真空度は1.6×10−7Paであった。図9に示す時間範囲では、レーザーの連続照射は行っていない。
時刻142時間の時点で厚さ0.43nm(1.5原子層)のCr膜をCsSbの表面に蒸着したが、その前後で、規格化した光電子放出量の常用対数の低下速度はやや増加していた。
時刻142時間から時刻281時間の間でのその低下速度は0.00516(/h)であり、図7に示される試験例1−1での、405nmレーザー照射中、時刻100時間から時刻312時間の間(温度13℃、真空度1×10―7Pa)低下速度0.00208(/h)に比べて約2.5倍である。温度以外は、同一条件であるので、陰極温度を−20℃と低下させたことが、約2.5倍もの低下速度の原因である。温度が13℃であるよりも温度が−20℃である方が、真空中のHOがCsSbの表面に付着しやすく、酸化がより促進されることが低下速度増加の原因であると推測できる。
時刻281.5時間の時点で、これまで述べたと同じ方法により、上部真空室の真空度を0.9×10−7Paから1.6×10−7Paに変えたが、その直後には規格化した光電子放出量の常用対数の低下速度は極めて急激に速くなった。
その速度は、時刻282時間から286時間の間では、同じ405nmレーザー照射下では、0.281(/h)と約54.5倍となった。試験例1−1で、真空度を1.6×10−7Paと低下させた時刻312.5時間以降の場合(温度13℃)の405nmレーザー照射下での低下速度0.0917(/h)よりも、約3.1倍であるが、−20℃と低温であるために、真空度の低下の影響がより顕著になったためであると推測される。
しかし、図9に示されるように、時間の経過と共に、この低下速度は徐々に、かつ、階段状的に、遅くなっていった。
時刻286時間付近では、低下速度は0.281(/h)から0.0375(/h)へと緩やかとなり、さらに時刻292時間付近では、0.0375(/h)から0.00759(/h)へと遅くなった。
さらに、時間の経過と共に、この規格化した光電子放出量の常用対数の低下速度は階段状に低下を続け、時刻339時間から時刻356時間の間では、その速度は殆どゼロとなった。これは、真空度を1.6×10−7Paへの低下させたことにより、真空中のHOの濃度が約6.23倍と増加し、CsSbの表面に形成されていた厚さ0.43nm(1.5原子層)のCrの膜が酸化され、不動態皮膜Crとなり、CsSbを保護したためであると、合理的に推測できる。電子放出量の常用対数の低下速度が階段状に低下していったのは、不動態皮膜Crが時間経過と共に段階的に強化されたことを意味していた。
時刻356時間の時点で、陰極先端の温度を−20℃から13℃に昇温すると、図9に示されるように、405nmのレーザー照射下では規格化した光電子放出量の常用対数は−4.222から−3.699へと急激に増加した。
この急激な上昇は理解できないが、温度の上昇そのものが光電子の放出量を増加させたか、不動態皮膜Crに付着していたHOの膜厚が減少したためにHOの膜厚による光電子の真空中への逃走防止効果が軽減されたかのいずれかと推測される。
不動態皮膜CrがCsSbを保護する効果が、温度と共にどのように変化するかを、真空度を1×10−7Paのままにして調べた。レーザーの連続照射は光電子放出量の低下を加速させるが、この加速試験効果を利用することとした。すなわち、時刻476時間からは、405nmのレーザーの連続照射を断続的に行い、陰極先端の温度を13℃、20℃、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃、90℃、100℃、110℃、120℃、130℃、140℃と変えて、レーザーの連続照射下での規格化した光電子放出量の常用対数の低下速度を調べた。
図10と図11はその結果を示す。レーザーの連続照射下での光電子放出量の常用対数の低下速度は、照射するレーザーの強度の影響を受けると推測されることから、80℃と130℃の温度ではそれを調べた。
また、レーザーの連続照射と非連続照射での光電子放出量の常用対数の低下速度の違いを40℃で調べたが、それらの結果の詳細は省略する。
しかし、レーザーの連続照射下でのレーザー強度が光電子放出量の常用対数の低下速度に及ぼす効果についての結果は、不動態皮膜CrがCsSbを保護する効果の温度の効果の評価に反映させた。
図10と図11において、グラフの最上段には真空度の時間変化を数値と矢印とで示した。その下の段には、陰極先端の温度変化を数値と矢印とで示した。さらに最下段には、レーザーの連続照射を行った時刻の範囲を、陰極先端でのレーザーの強度の数値を伴ったマークによって示した。
図10に示す結果から、レーザーの連続照射下での規格化した光電子放出量の常用対数の低下速度は、陰極温度が13℃では最も速く、陰極の温度が20℃から30℃、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃、90℃と昇温するほどに、遅くなることが分かった。
また、図11に示す結果から、同じレーザー照射強度下での比較から、陰極の温度が90℃から、100℃、110℃、120℃、130℃と昇温するほどに、規格化した光電子放出量の常用対数の低下速度は速くなっていた。
しかし、温度が140℃でのその低下速度は、温度130℃での低下速度よりは遅くなっていた。これは、温度130℃でレーザーの照射強度を0.10W/cmと極端に弱くしての連続レーザー照射を行ったことで不動態皮膜Crに何らかの結晶構造の変化が生じたことに起因している可能性はある。
以上の結果を総合的にまとめると、不動態皮膜CrがCsSbを保護する効果は温度が90℃で最も大きいだろうということが推測できた。
より強いレーザー光を照射するほどに、より多量の光電子が放出されるが、レーザー照射による陰極先端の温度は上昇するが、90℃という比較的高い温度で不動態皮膜Crの保護効果が最大となることは、有利に作用する。
図10と図11に示される試験結果を総合的にまとめると、不動態皮膜CrがCsSbを保護する効果は陰極先端の温度が約90℃で最も大きいということが推測できた。
より強いレーザー光を照射するほどに、より多量の光電子が放出されるが、レーザー照射による陰極先端の温度は上昇するが、90℃という比較的高い温度で不動態皮膜Crの保護効果が最大となることは、有利に作用する。
実験結果を表1にまとめた。この表には、「実験中に検出された最大の量子効率」と、「その検出時刻を、2度目のSbの蒸着終了時からの経過時間(分)として示した値」と、を参考までに記載した。実施例で採用した「Sb/Cs/Sbサンドウィッチ構造体」からのCsSbの形成においても、所定の量子効率が得られたことが分かる。ちなみに、この方法によってCsSbを形成後に、陰極先端を高温に保持して、Csを最適に追加蒸着することにより、この表に示される最大量子効率よりもさらに高い量子効率を得ることは可能である。
(試験例1−4)
真空中においても極微量存在するHOやOの分圧の全体に占める割合が、上部真空室の主な真空排気ポンプの種類の違い(クライオポンプ(測定点P1、P2)とターボ分子ポンプ(測定点P3、P4、P5))、真空度によりどのように変化するかを調べた。測定点P7は、上部真空室の横からのターボ分子ポンプによる真空排気を停止し、中間真空室との間の狭管のみを通して、ターボ分子ポンプにより真空排気をした状態での測定。P1〜P7の測定時間は、図10と図11に各番号のマークで示す。
表2は、その分圧測定の結果を示すものである。
表2に示すように、クライオポンプで上部真空室を主排気した場合(P1、P2)は、HO、Oともに、極少量しか存在しなかった。
一方、ターボ分子ポンプで上部真空室を主排気した場合(P3、P4、P5)は、真空度はクライオポンプで上部真空室を主排気した場合(P1、P2)に対して1.6〜1.8倍、低下した。この変化によって、Oの分圧(あるいは真空中の個数)は1.62倍にしか増加しなかったが、HOの分圧は6.35倍になった。1.6×10−8Paの真空度でのHOの分圧はOの分圧の5.7倍もあった。
本発明のフォトカソード型電子線源は、従来の電子線源に比べて、格段に高輝度の電子線を発生でき、また、フォトカソード型電子線としての使用寿命が従来に比べて格段に長くすることができる。このフォトカソード型電子線源から発する電子線を高輝度電子線源として透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)に利用すれば、それらの性能を格段に飛躍させることができ、産業の発展に寄与しうる新材料の発見等に寄与できる。また、電子線加速器用の高輝度電子線源としての利用も可能であり、放射線治療による医療産業、科学技術産業等の発展を促す。さらには、各種電子線装置産業等においての利用可能性もある。例えば、電子レンズ、アパーチャー、デフレクター等を通し、X−Y−Zステージを微細に制御しながらマスクブランクスへ照射して目的のパターンを露光するシステムに適用すれば、電子線加工装置、電子ビーム(EB)露光装置、電子線(EB)描画装置等にも応用可能性がある。
11…フォトカソード型電子線源、19…陰極支持部、20…陰極先端、20a…先端面、21…接合層、21a…一面、22…光電子放出層、22a…一面、23…保護処理層、31…真空チェンバー、32…光ファイバー、33…光源、34…レンズ、35…ファラデーカップ(光電子捕捉部)、36…ミラー、37…電流計、38…配線、41…レーザー、42…電子線、51…フォトカソード型電子線源システム。

Claims (11)

  1. 陰極先端の先端面に形成されたフォトカソード型電子線源であって、
    前記先端面に形成された接合層と、
    前記接合層の一面に形成された光電子放出層と、
    前記光電子放出層の一面に形成された保護処理層と、を有し、
    前記接合層が、前記陰極先端と反応しない物質であって、かつ、前記光電子放出層を構成する物質と反応しない物質の膜からなり、
    前記保護処理層が前記光電子放出層を構成する物質と反応しない物質が酸化した不動態皮膜からなることを特徴とするフォトカソード型電子線源。
  2. 前記光電子放出層がCsSb、KSb、RbSb、NaKSb、(Cs)NaKSb、KCsSb、CsTe、GaAs(Cs)の群から選択されるいずれか1の化合物からなり、
    前記光電子放出層を構成する物質がCs、Rb、K、Naのいずれかのアルカリ金属、GaのIII族金属、Sb、Te、Asのいずれかの半金属の群から選択されるいずれか1又は2以上の元素であることを特徴とする請求項1に記載のフォトカソード型電子線源。
  3. 前記光電子放出層の膜厚が、照射される光子の最長進入深さ以上の厚さであることを特徴とする請求項2に記載のフォトカソード型電子線源。
  4. 前記光電子放出層を構成する物質と反応しない物質がW又はCrであることを特徴とする請求項1に記載のフォトカソード型電子線源。
  5. 前記陰極と反応しない物質であって、かつ、前記光電子放出層を構成する物質と反応しない物質がW又はCrであることを特徴とする請求項1に記載のフォトカソード型電子線源。
  6. 前記不動態皮膜がWO又はCrの金属酸化物からなることを特徴とする請求項1に記載のフォトカソード型電子線源。
  7. 乾式成膜法により、陰極先端の先端面にW又はCrからなる接合層を形成する工程と、
    乾式成膜法により、前記接合層の一面にCsSb、KSb、RbSb、NaKSb、(Cs)NaKSb、KCsSb、CsTe、GaAs(Cs)の群から選択されるいずれか1の化合物からなる光電子放出層を形成する工程と、
    前記光電子放出層の一面に前記光電子放出層を構成する物質と反応しない物質の不動態皮膜からなる保護処理層を形成する工程と、を有することを特徴とするフォトカソード型電子線源の作成方法。
  8. 前記光電子放出層を形成する工程が、Sb、Te、Asのいずれかの半金属からなる第1構成元素層と、Cs、Rb、K、Naのいずれかのアルカリ金属、GaのIII族金属の何れかからなる第2構成元素層を交互に積層して、第1構成元素層と第2構成元素層と第1構成元素層とからなる単位層を1層以上有する多層膜を形成する工程と、加熱により、前記多層膜を単層化する工程と、からなることを特徴とすることを特徴とする請求項7に記載のフォトカソード型電子線源の作成方法。
  9. 前記保護処理層を形成する工程が、乾式成膜法により、前記光電子放出層の一面に前記光電子放出層を構成する物質と反応しない物質を形成する工程と、真空環境を変化させることにより、前記光電子放出層を構成する物質と反応しない物質を酸化して、その酸化膜からなる不動態皮膜を形成する工程と、からなることを特徴とする請求項7又は8に記載のフォトカソード型電子線源の作成方法。
  10. 真空環境を変化させるとともに、前記フォトカソード型電子線源にレーザーを連続照射することを特徴とする請求項9に記載のフォトカソード型電子線源の作成方法。
  11. 請求項1〜6のいずれか1項に記載のフォトカソード型電子線源と、
    前記フォトカソード型電子線源に光照射可能な光源と、
    前記フォトカソード型電子線源から放出された光電子を引き寄せ可能な光電子捕捉部と、を有することを特徴とするフォトカソード型電子線源システム。
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