ところで、エンジンの自動始動を行う際に、エンジンのクランキングと共に、最初に圧縮上死点を超える気筒内に燃料を噴射して、点火及び燃焼を行うことによって、エンジンを迅速始動させる燃焼始動技術が知られている。この燃焼始動技術をFFVに適用することによって、FFVにおいてもエンジンの迅速な自動始動が可能になる。
しかしながら、FFVでは燃料の性状が変化をするため、例えば燃料におけるエタノール濃度が高くて気化率が低下するようなときには、エンジンの自動始動時に、最初に圧縮上死点を超える気筒内に燃料を噴射しても燃料がほとんど気化せずに、結果としてエンジンの始動性が低下すると共に、始動時のNVH性能が悪化することがある。
ここに開示する技術は、前記の実情を考慮した技術であり、その目的とするところは、特定温度以下の状態下でガソリンよりも気化率の低い特殊燃料を含む燃料が供給されるエンジンにおいて、燃料の性状に関わらずエンジン自動始動時の始動性を確保することにある。
ここに開示する技術は、火花点火式エンジンの制御装置に係る。この火花点火式エンジンの制御装置は、複数の気筒を有しかつ、特定温度以下の条件下でガソリンよりも気化率の低い特殊燃料を含む燃料が供給されるように構成されたエンジン本体、前記気筒内に燃料を噴射する燃料噴射弁を有しかつ、前記エンジン本体に前記燃料を供給するように構成された燃料供給機構、前記気筒内の混合気に点火を行うように構成された点火プラグ、及び、所定の停止条件が成立したときに前記エンジン本体を自動停止しかつ、所定の始動条件が成立したときに前記エンジン本体を自動始動するように構成された制御器、を備える。
前記停止条件は、前記エンジン本体の温度状態が、前記特殊燃料の大気圧下における沸点よりも低い温度に設定された自動停止許可温度よりも高いことを含み、前記エンジン本体の自動始動を行う時には、当該エンジン本体の回転速度がゼロのタイミング、又は、いずれかの気筒が上死点に至る前のタイミングで、前記燃料噴射弁が前記気筒内に前記燃料を噴射しかつ、前記点火プラグが点火を行う。
そして、前記制御器は、前記エンジン本体に供給する燃料における前記特殊燃料の濃度が高いほど、前記自動始動の際に前記燃料噴射弁を通じて噴射する前記燃料の圧力を高くする。
ここで、「特定温度以下の状態下でガソリンよりも気化率が低い特殊燃料」とは、例えば単一成分燃料であり、具体的にはエタノール又はメタノール等のアルコールを例示することができる。アルコールの具体例としては、サトウキビやトウモロコシを原料としたバイオエタノール等の、生物由来アルコールとしてもよい。
また、「特殊燃料を含む燃料」は、特殊燃料とガソリンとを混合した燃料、及び、特殊燃料のみの燃料の双方を含む。ガソリンと特殊燃料との混合比に、特に制限はなく、任意の混合比を採用することができる。エンジン本体に供給される燃料は、ガソリンと特殊燃料との混合比が一定であってもよいし、随時、変化してもよい。特殊燃料をエタノールとしたときに、「特殊燃料を含む燃料」には、具体的には、ガソリンにエタノールを25%混合したE25から、エタノール100%のE100までの範囲で、任意のエタノール濃度の燃料が含まれる。また、前記の構成は、エンジン本体に対して、特殊燃料を含まない燃料が供給されることを排除するものではない。例えば特殊燃料をエタノールとしたときに、エンジン本体に供給する燃料には、ガソリン(つまり、エタノールを含まないE0)から、ガソリンにエタノールを85%混合したE85までの範囲で、任意のエタノール濃度の燃料が含まれる。さらに、「特殊燃料を含む燃料」には、水が含まれていてもよい。従って、5%程度の水分を含有するE100もまた、ここでいう「特殊燃料を含む燃料」に含まれる。尚、燃料におけるアルコール濃度は、様々な手法により、検知又は推定することが可能である。
「気化率」は、気筒内に供給した燃料量に対する、燃焼に寄与した燃料量の重量比として定義することができる。こうした気化率は、エンジンの排気通路に取り付けたO2センサの検出値に基づいて算出することが可能である。エンジン本体の温度が所定温度以下の条件下では、燃料における特殊燃料の濃度が高いほど、また、エンジン本体の温度状態が低いほど、気化率は低くなり得る。
「燃料噴射弁」は、気筒内に、燃料を直接、噴射する燃料噴射弁としてもよい。また、そうした直噴の燃料噴射弁に加えて、吸気ポートに燃料を噴射する燃料噴射弁を別途備えてもよい。
前記の構成によると、所定の停止条件が成立したときには、エンジン本体は自動停止される。所定の停止条件は、例えばエンジン本体の温度状態が、予め設定された自動停止許可温度よりも高いこと、運転者がブレーキペダルの踏み込み操作を行っていること、及び、車速が所定車速以下であることを含む。尚、エンジン本体の自動停止を行う時に、エンジン本体のピストン位置が、当該エンジンの自動始動に適した位置となるような制御を行ってもよい。
そうして、エンジン本体が自動停止した後、所定の始動条件が成立したときには、エンジン本体は自動始動される。所定の始動条件は、例えば運転者がアクセル操作を行ったこと、車両バッテリの残容量が少なくなって充電が必要になったこと、また、空調装置のコンプレッサの作動が必要になったことを含む。
所定の始動条件が成立してエンジン本体の自動始動を行う時には、エンジン本体の回転速度がゼロのタイミング、又は、いずれかの気筒が上死点に至る前のタイミング、言い換えると、エンジン本体が実質的に停止している間に、燃料噴射弁を通じて、気筒内に燃料を噴射する。そして、当該気筒内の混合気に点火を行い燃焼させる。その後、複数の気筒について順次、燃料噴射及び点火が行われて、エンジン本体の始動が完了することになる。このように、エンジン本体の自動始動時には、早期に燃料噴射を開始して燃焼によってエンジン本体の始動を行うことにより、始動時間を極めて短くすることが可能になる。尚、エンジン本体の自動始動時に、エンジン本体のクランキングを併用してもよい。
そうして、エンジン本体に供給する燃料における、特殊燃料の濃度が高いほど、自動始動の際に燃料噴射弁を通じて噴射する燃料の圧力を高く設定する。高い燃料圧力は、噴射した燃料を微粒化して、燃料の気化に有利になる。また、高い燃料圧力で噴射をすることによって、気筒内の流動を強くすることが可能になる。前述の通り、エンジン本体の自動始動時には、気筒内の流動がない、又は、極めて弱い状態で燃料を噴射することになる。このため、燃料噴射によって気筒内の流動を強くすることは、気筒内に噴射した燃料の気化を促進する。
こうして、燃料における特殊燃料の濃度が高いほど、燃料の圧力を高くすることを通じて燃料の気化を促進することが可能になる。特に自動始動のための停止条件は、特殊燃料の、大気圧下における沸点よりも低い温度に設定された自動停止許可温度よりも高いことを含んでいる。このため、燃料における特殊燃料の濃度が高いときに燃料の気化率が低下してしまうような、エンジン本体の温度状態が比較的低いときでも、エンジン本体が自動停止し得る。その結果、燃料の気化率が比較的低い条件下で、エンジン本体を自動始動する場合がある。燃料における特殊燃料の濃度に応じて燃料圧力を変更することは、燃料における特殊燃料の濃度が低いときは勿論のこと、燃料における特殊燃料の濃度が高いときも気化を促進することで、混合気の着火性の向上、及び/又は、燃焼安定性の向上が図られ、エンジン本体の始動性が高まり、始動時のNVH性能の悪化が回避される。
前記燃料供給機構は、前記エンジン本体によって駆動されかつ、前記燃料噴射弁が噴射する燃料を昇圧させる燃料ポンプを有し、前記制御器は、前記エンジン本体の自動停止をする際に、前記燃料噴射弁を通じた前記燃料の噴射を停止した後、前記エンジン本体が停止するまでの間、前記燃料ポンプを駆動することによって、前記自動始動の際の前記燃料の圧力を高くする、としてもよい。
前述したように、エンジン本体の自動始動時には、自動始動の開始後、比較的早いタイミングで燃料噴射を開始するため、エンジン本体の自動始動をするときに、燃料ポンプを駆動して、燃料の圧力を高めることは難しい。そこで、前記の構成では、エンジン本体の自動停止を行うときに予め、自動始動を行う際の燃料の圧力を高くする。
具体的には、エンジン本体の自動停止時における所定のタイミングで、燃料噴射弁を通じた燃料噴射を停止する。この燃料噴射の停止後、エンジン本体が完全に停止するまでの間、エンジン本体によって燃料ポンプが駆動される結果、燃料圧力を高めることが可能になる。こうして、エンジン本体の停止時、ひいてはエンジン本体の自動始動時に、燃料の圧力を、その燃料における特殊燃料の濃度に対応する圧力に設定することが可能になる。
前記制御器は、前記燃料における前記特殊燃料の濃度に応じて、前記燃料噴射を停止するタイミングでの前記エンジン本体の回転数を変更する、としてもよい。
前述したように、エンジン本体の自動停止時に、燃料噴射を停止した後、エンジン本体が完全に停止するまでの期間の長さによって、その期間内で昇圧される燃料の圧力が変化する。燃料噴射を停止した後、エンジン本体が完全に停止するまでの期間は、その燃料噴射を停止したタイミングでのエンジン本体の回転数の高低によって、変化することになる。つまり、燃料噴射を停止したタイミングでのエンジン本体の回転数が相対的に高いときには、エンジン本体が完全に停止するまでの期間が相対的に長くなり、燃料圧力は相対的に高くなるのに対し、燃料噴射を停止したタイミングでのエンジン本体の回転数が相対的に低いときには、エンジン本体が完全に停止するまでの期間が相対的に短くなり、燃料圧力は相対的に低くなる。従って、燃料における特殊燃料の濃度に応じて、燃料噴射を停止するタイミングでの、エンジン本体の回転数を変更することにより、エンジン本体を自動始動するときの燃料圧力を、燃料における特殊燃料の濃度に応じた圧力に設定することが実現する。
前記制御器は、前記エンジン本体の自動停止をする際には、前記エンジン本体を強制的に停止する際よりも、前記エンジン本体の停止時における前記燃料の圧力を高くする、ことが好ましい。
エンジン本体を強制的に停止する(つまり、キーオフによりエンジン本体を停止する)ときには、基本的に全てのエンジン制御が停止するため、その後に燃料の圧力を高めることはできない。一方で、そうした強制停止後の、エンジン本体の始動時には、前述したような早期の燃料噴射を行わないため、クランキング中に燃料ポンプが駆動されることで、燃料噴射を開始する前に燃料の圧力を高めることが可能である。
これに対し、前述の通り、エンジン本体を自動停止しかつ、その後、エンジン本体を自動始動する際には、エンジン本体を迅速に始動する観点から、気筒内への燃料噴射を早期に開始する必要がある。そのため、エンジン本体を停止するときに燃料の圧力を予め高めることが望ましい。
以上説明したように、前記の火花点火式エンジンの制御装置によると、エンジン本体の自動始動を行う時には、エンジン本体が実質的に停止しているときに気筒内に燃料を噴射して点火をすることで、迅速始動が可能になると共に、エンジンに供給する燃料における特殊燃焼の濃度が高いほど、自動始動の際に燃料噴射弁を通じて噴射する燃料の圧力を高くすることで、燃料の性状に関わらず燃料の気化が促進され、エンジンの始動性が高まる。
以下、火花点火式エンジンの実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は例示である。図1に示されるように、エンジンシステムは、エンジン(エンジン本体)1、エンジン1に付随する様々なアクチュエーター、様々なセンサ、及びセンサからの信号に基づきアクチュエーターを制御するエンジン制御器100を有する。このエンジンシステムは、幾何学的圧縮比が12以上20以下(例えば12)の高圧縮比エンジン1を備える。
エンジン1は、火花点火式4ストローク内燃機関であって、図1には1つのみ図示するが、直列に配置された第1〜第4の4つの気筒11を有する。但し、ここに開示する技術が適用可能なエンジンは、直列4気筒エンジンには限定されない。エンジン1は、自動車等の車両に搭載され、その出力軸は、図示しないが、変速機を介して駆動輪に連結されている。エンジン1の出力が駆動輪に伝達されることによって、車両が推進する。
このエンジン1には、エタノール(バイオエタノールを含む)を含有する燃料が供給される。特にこの車両は、エタノールの濃度が25%(つまり、ガソリンの濃度が75%のE25)〜100%(つまり、ガソリンを含まないE100)までの任意の濃度の燃料が使用可能なFFVである。尚、ここでいうE100には、エタノールの精製過程で十分に水分が除去されずに5%程度の水分を含有するエタノールを含む。但し、ここに開示する技術は、E25〜E100の使用を前提としたFFVに限らず、例えばE0(つまり、ガソリンのみでエタノールを含まない)〜E85(つまり、ガソリン濃度15%、エタノール濃度85%)の範囲でエタノール濃度が変化する燃料が使用するFFVにも適用可能である。
図示は省略するが、この車両は、前記の燃料を貯留する燃料タンク(つまり、メインタンク)のみを有しており、従来のFFVのように、ガソリン濃度の高い燃料を、メインタンクとは別に貯留するためのサブタンクを有していない点が特徴である。このFFVは、ガソリンのみが供給されるガソリン仕様車をベースにしたものであり、その構成の大部分は、二つの仕様の間で共通化されている。
エンジン1は、シリンダブロック12と、その上に載置されるシリンダヘッド13とを備えており、ブロック12の内部に気筒11が形成されている。周知のように、シリンダブロック12には、ジャーナル、ベアリングなどによりクランクシャフト14が回転自在に支持されており、このクランクシャフト14が、コネクティングロッド16を介してピストン15に連結されている。
各気筒11の天井部には、略中央部からシリンダヘッド13の下端面付近まで延びる2つの傾斜面が形成されており、それらの傾斜面が互いに差し掛けられた屋根のような形状をなす、いわゆるペントルーフ型となっている。
前記ピストン15は、各気筒11内に摺動自在に嵌挿されており、気筒11及びシリンダヘッド13と共に燃焼室17を区画している。ピストン15の頂面は、前述した気筒11の天井面のペントルーフ型の形状に対応するように、その周縁部から中央部に向かって隆起する台形状に形成されており、これによって、ピストン15が圧縮上死点に到達したときの燃焼室容積を小さくして、12以上の高い幾何学的圧縮比を達成している。ピストン15の頂面にはまた、その概略中心位置に、概ね球面状に凹陥したキャビティ151が形成されている。このキャビティ151は、気筒11の中心部に配設された点火プラグ51に相対するように、配置されており、これによって、燃焼期間を短縮するようにしている。つまり、前述したように、この高圧縮比エンジン1は、ピストン15の頂面が隆起していて、ピストン15が圧縮上死点に到達したときに、ピストン15の頂面と気筒11の天井面との間隔が極めて狭くなるように構成されている。このため、キャビティ151を形成していないときには、初期火炎がピストン15の頂面と干渉して冷却損失が増大し、火炎伝播が阻害されて燃焼速度が遅延してしまう。これに対し、前記のキャビティ151は、初期火炎の干渉を回避して、その成長を妨げないため、火炎伝播が速くなって、燃焼期間が短縮し得る。このことは、ガソリン濃度の高い燃料においては、ノッキングの抑制に有利になり、点火時期の進角によるトルクの向上に寄与する。
気筒11毎に、吸気ポート18及び排気ポート19がシリンダヘッド13に形成され、それぞれが燃焼室17に連通している。吸気弁21及び排気弁22はそれぞれ、吸気ポート18及び排気ポート19を燃焼室17から遮断(閉)することができるように配設されている。吸気弁21は吸気弁駆動機構30により、排気弁22は排気弁駆動機構40により、それぞれ駆動され、それによって所定のタイミングで往復動して、吸気ポート18及び排気ポート19を開閉する。
吸気弁駆動機構30及び排気弁駆動機構40は、それぞれ吸気カムシャフト31及び排気カムシャフト41を有する。カムシャフト31,41は、周知のチェーン/スプロケット機構等の動力伝達機構を介してクランクシャフト14に連結される。動力伝達機構は、周知のように、クランクシャフト14が二回転する間に、カムシャフト31,41を一回転させる。
吸気弁駆動機構30は、吸気弁21の開閉時期を変更可能な吸気バルブタイミング可変機構32を含んで構成され、排気弁駆動機構40は、排気弁22の開閉時期を変更可能な排気バルブタイミング可変機構42を含んで構成される。吸気バルブタイミング可変機構32は、この実施形態では、吸気カムシャフト31の位相を所定の角度範囲内で連続的に変更可能な、液圧式、機械式又は電動式の位相可変機構(Variable Valve Timing:VVT)により構成され、排気バルブタイミング可変機構42は、排気カムシャフト41の位相を所定の角度範囲内で連続的に変更可能な、液圧式、機械式又は電動式の位相可変機構により構成されている。吸気バルブタイミング可変機構32は、吸気弁21の閉弁時期を変更することにより、有効圧縮比を調整し得るものである。尚、有効圧縮比とは、吸気弁閉弁時の燃焼室容積と、ピストン15が上死点にあるときの燃焼室容積との比である。
点火プラグ51は、例えば、ねじ等の周知の構造によって、シリンダヘッド13に取り付けられている。点火プラグ51の電極は、気筒11の概略中心において燃焼室17の天井部に臨んでいる。点火システム52は、エンジン制御器100からの制御信号を受けて、点火プラグ51が所望の点火タイミングで火花を発生するよう、それに通電する。
燃料噴射弁53は、例えばブラケットを使用する等の周知の構造で、この実施形態ではシリンダヘッド13の一側(図例では吸気側)に取り付けられている。このエンジン1は、燃料を気筒11内に直接噴射する、いわゆる直噴エンジンである。燃料噴射弁53の先端は、上下方向については吸気ポート18の下方に、また、水平方向については気筒11の中央に位置して、燃焼室17内に臨んでいる。但し、燃料噴射弁53の配置はこれに限定されるものではない。燃料噴射弁53は、この例においては、多噴口(例えば6噴口)型の燃料噴射弁(Multi Hole Injector:MHI)である。各噴口の向きは、図示は省略するが、気筒11内の全体に燃料が噴射できるように、噴口軸の芯先が広がっている。MHIの利点は、多噴口であるため一噴口の径が小さく、比較的高い圧力で燃料を噴射し得る点、及び、気筒11内の全体に燃料を噴射可能に広がっているため、燃料のミキシング性が高まると共に、燃料の気化・霧化が促進される点にある。従って、吸気行程中に燃料を噴射した場合は、気筒11内の吸気流動を利用した、燃料のミキシング性、及び、気化・霧化の促進の点で有利になる一方、圧縮行程において燃料を噴射した場合は、燃料の気化・霧化の促進により、気筒11内のガス冷却の点で有利になる。尚、燃料噴射弁53は、MHIに限定されるものではない。
燃料供給システム54は、その構成の図示は省略するが、燃料を昇圧して燃料噴射弁53に供給する高圧ポンプと、この高圧ポンプに対して燃料タンクからの燃料を送る配管やホース等と、燃料噴射弁53を駆動する電気回路と、を備えている。高圧ポンプは、この例ではエンジン1によって駆動される。具体的に高圧ポンプは、カムシャフトに取り付けられている。尚、高圧ポンプを電動ポンプとしてもよい。高圧ポンプは、例えばプランジャ式のポンプであり、高圧ポンプのプランジャは、カムシャフトに設けられたポンプ用カムにより、カムシャフト1回転につき4回の燃料の押し出しを行う。この高圧ポンプは、ここではガソリン仕様車と同じ比較的小容量のポンプである。燃料噴射弁53が多噴口型である場合は、微小な噴口から燃料を噴射するために、燃料噴射圧力は比較的高く設定される。最大の燃料圧力は、例えば20MPaである。電気回路は、エンジン制御器100からの制御信号を受けて燃料噴射弁53を作動させ、所定のタイミングで所望量の燃料を、燃焼室17内に噴射させる。ここで、燃料供給システム54は、エンジン回転数が上昇するに伴い燃圧を高く設定する。これは、エンジン回転数が上昇するに伴い、気筒11内に噴射される燃料量も増大するが、燃圧が高くなることで、燃料の気化・霧化に有利になると共に、燃料噴射弁53の燃料噴射に係るパルス幅を可及的に短くするという利点がある。前述したように、燃料タンクには、E25〜E100までの任意のエタノール濃度のアルコール含有燃料が貯留されている。
吸気ポート18は、吸気マニホールド55内の吸気経路55bによってサージタンク55aに連通している。図示しないエアクリーナからの吸気流は、スロットルボデー56を通過してサージタンク55aに供給される。スロットルボデー56にはスロットル弁57が配置されており、このスロットル弁57は、周知のようにサージタンク55aに向かう吸気流を絞って、その流量を調整する。スロットル・アクチュエーター58が、エンジン制御器100からの制御信号を受けて、スロットル弁57の開度を調整する。
排気ポート19は、排気マニホールド60内の排気経路によって周知のように排気管内の通路に連通している。この排気マニホールド60は、図示を省略するが、各気筒11の排気ポート19に接続された分岐排気通路が、排気順序が隣り合わない気筒同士で第1集合部により集合され、各第1集合部の下流の中間排気通路が第2集合部で集合された構造となっている。すなわち、このエンジン1の排気マニホールド60には、いわゆる4−2−1レイアウトが採用されている。
エンジン1にはまた、その始動時にクランキングを行うためのスタータモータ20が設けられている。
エンジン制御器100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラであって、プログラムを実行する中央演算処理装置(CPU)と、例えばRAMやROMにより構成されてプログラム及びデータを格納するメモリと、電気信号の入出力をする入出力(I/O)バスと、を備えている。
エンジン制御器100は、エアフローセンサ71からの吸気流量及び吸気温度、吸気圧センサ72からの吸気マニホールド圧、クランク角センサ73からのクランク角パルス信号、水温センサ78からのエンジン水温、及び、排気通路に取り付けられたリニアO2センサ79からの、排気ガス中の酸素濃度、というように、種々の入力を受ける。エンジン制御器100は、例えばクランク角パルス信号に基づいて、エンジン回転数を計算する。また、エンジン制御器100は、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度センサ75からのアクセル開度信号を受ける。さらに、エンジン制御器100には、変速機の出力軸の回転速度を検出する車速センサ76からの車速信号が入力される。加えて、シリンダブロック12には、当該シリンダブロック12の振動を電圧信号に変換して出力する加速度センサからなるノックセンサ77が取り付けられており、その出力信号もエンジン制御器100に入力される。
エンジン制御器100は前記のような入力に基づいて、以下のようなエンジン1の制御パラメータを計算する。例えば、所望のスロットル開度信号、燃料噴射パルス、点火信号、バルブ位相角信号等である。そしてエンジン制御器100は、それらの信号を、スロットル・アクチュエーター58、燃料供給システム54、点火システム52、並びに、吸気及び排気バルブタイミング可変機構32、42等に出力する。エンジン制御器100はまた、エンジン1の始動時には、スタータモータ20に駆動信号を出力する。
ここで、FFV用のエンジンシステムに特有の構成として、エンジン制御器100は、リニアO2センサ79の検知結果に基づいて、燃料噴射弁53が噴射する燃料のエタノール濃度を推定する。エタノールの理論空燃比(9.0)は、ガソリンの理論空燃比(14.7)よりも小さく、燃料のエタノール濃度が高いほど理論空燃比はリッチ側(つまり、理論空燃比の値が小さくなる)になることから、理論空燃比でエンジンを運転している条件下において、排気ガス中に燃え残りの酸素が存在しているときには、燃料のエタノール濃度が予想よりも高かったと判断することができる。具体的に、燃料噴射弁53が噴射する燃料のエタノール濃度、言い換えると燃料タンク内に貯留している燃料のエタノール濃度は、給油を行うことによって変化する可能性があるため、エンジン制御器100はまず、燃料タンクのレベルゲージセンサの検出値に基づいて給油判定を行い、給油が行われたことを判定すれば、燃料のエタノール濃度の推定を行う。エンジン制御器100は、リニアO2センサ79が出力した信号から、空燃比がリーンのときには、燃料中にガソリンが多いと判定する一方、空燃比がリッチのときには燃料中にエタノールが多いと判定することにより、燃料におけるエタノール濃度を推定する。尚、燃料のエタノール濃度を推定する代わりに、燃料のエタノール濃度を検出するセンサを設けてもよい。推定したエタノール濃度は、燃料噴射制御に利用される。
エンジン制御器100はさらに、リニアO2センサ79の検知結果に基づいて、気筒11内に供給した燃料の気化率を算出する。気化率は、気筒11内に供給する燃料量(言い換えると、燃料噴射弁53が噴射した燃料量)に対する、燃焼に寄与した燃料量の重量比によって定義される。エンジン制御器100は、リニアO2センサの検出値を利用して、燃焼に寄与した燃料量の重量を算出すると共に、算出した燃料重量と、燃料噴射弁53の燃料噴射量とに基づいて気化率を算出する。
(燃料噴射に関する制御)
このエンジンシステムは、前述の通りFFVに搭載されたシステムであり、エンジン1には、E25〜E100までの任意の混合比のアルコール含有燃料が供給される。ここで、図2は、ガソリンの気化特性とエタノールの気化特性とを比較する図である。尚、図2は、1気圧下における温度変化に対する、ガソリン及びエタノールそれぞれの蒸留量(%)の変化を示している。ガソリンは多成分燃料であることから、各成分の沸点に応じて蒸発する。ガソリンの蒸留量は、温度変化に対しおおよそ線形的に変化することなる。つまり、ガソリンは、エンジン1の温度状態が比較的低いときにも一部の成分が気化して、可燃混合気を形成することが可能である。
これに対しエタノールは単一成分燃料であることから、特定温度(つまり、エタノールの沸点である78℃)以下では、蒸留量が0%になる一方で、特定温度を超えると、蒸留量が100%になる。このように、ガソリンとエタノールとを比較すると、特定温度以下では、エタノールの蒸留量の方がガソリンの蒸留量よりも低くなる状態がある一方で、特定温度を超えると、エタノールの蒸留量の方がガソリンの蒸留量よりも高くなる状態がある。そのため、エンジン1の温度状態が所定温度以下(例えば水温が20℃未満程度)の冷間状態では、エタノールを含有する燃料は、ガソリンと比較して気化率が低くなる。そうして、エンジン1が冷間状態にあるときには、エンジン1の温度状態が低いほど、また燃料のエタノール濃度が高いほど、燃料の気化率は低下することになる。
このように、エンジン1の温度状態や、燃料のエタノール濃度によって燃料の気化率が変化することから、エンジン制御器100は、目標となる気化燃料量が得られるように、エンジン負荷及びアルコール濃度等に応じて設定されるベースの燃料量に対し、燃料の気化率に応じた燃料量の増量補正を行う。
(エンジンの自動停止・自動始動制御)
このエンジンシステムは、予め設定されたエンジンの自動停止条件が成立したときに、燃料噴射弁53からの燃料の噴射を中止すると共に、点火プラグ51の点火動作を停止することにより、自動的にエンジン1を停止させる。また、エンジン1の自動停止後にエンジン1の自動始動条件が成立したときに、エンジン1を自動始動(つまり、再始動)させる制御を実行する。ここで、エンジン1の自動停止条件は、例えばエンジン本体の温度状態が所定温度よりも高いこと、運転者がブレーキペダルの踏み込み操作を行っていること、及び、車速が所定車速以下であることを含む。一方、エンジン1の自動始動条件には、例えばアクセルペダルを踏み込む等の運転者の発進要求に関係する条件と、空調装置のスイッチをオンにすることや、バッテリ電圧が低下することといった、運転者の発進要求以外の条件とが含まれる。
自動停止条件の成立後、エンジン1を実際に停止させるまでの間に、圧縮行程にある気筒11及び膨張行程にある気筒11において、ピストン15が上死点方向に移動する際の抵抗を大きくすべく、少なくともこれらの気筒11に対する吸気量を増大させ、特に膨張行程となる気筒11に対してより多く吸気を供給するように、スロットル弁57をエンジン1の停止動作期間中における所定期間だけ所定の開状態とする制御を実行する。こうして、エンジン1の停止時のピストン位置を、後述する燃焼始動に適した位置にする。また、詳細は後述するが、エンジン1の自動停止時には、エンジン1の再始動時における燃料圧力を、燃料におけるエタノール濃度に応じて変更するための制御も行われる。
自動停止状態となったエンジン1を再始動させる際には、エンジン制御器100が、スタータモータ20をエンジン1の再始動開始時点から作動させつつ、停止時に圧縮行程にある気筒11内への燃料噴射と点火とを行う(つまり、燃焼始動を行う)。燃料の噴射開始は、エンジン1が停止している状態のときに、又は、停止時に圧縮行程にある気筒が圧縮上死点に到達する前のタイミングで行われ、再始動の開始から早い時期に燃料の噴射を開始しかつ、燃焼を開始することにより、エンジン1の再始動を迅速に行うことが可能になる。
図3は、エンジン1の自動停止条件を例示する図である。前述の通り、FFVにおいては、エタノール濃度の高低によって燃料の性状が異なり、特にエンジン1の温度状態が低いときには、エタノール濃度が高いほど、燃料の気化率が低下する。そのため、そうした燃料の気化率が低い条件下でエンジン1を自動停止した後、再始動をしようとしても、始動性が低くなって迅速始動ができなかったり、始動時のNVH性能が悪化したりする虞がある。そこで、エンジン1の自動停止を許容する条件をエンジン1の水温及び燃料におけるエタノール濃度に応じて変更している。具体的には図3に示すように、エンジン水温が所定温度T2を超えるときには、エタノール濃度の高低に関わらず、エンジンの自動停止を許容する。エンジン水温が高いときには、エタノール濃度が高いときでも気化率が比較的高くなり、エンジン1の始動性を良好にすることが可能になるためである。ここで、図3に示す温度T3は、大気圧下におけるエタノールの沸点(つまり、78℃)に相当し、所定温度T2は、このエタノールの沸点よりも低い温度に設定されている。このようにエンジン1の温度状態が比較的低い状態であっても、エンジン1の自動停止を許容することにより、エンジン1の自動停止の頻度が高まり、燃費性能の向上に有利になる。一方で、後述するように、エンジン1の温度状態が比較的低い状態であっても、燃料の気化を促進することで、エンジン1の始動性は確保される。
燃料におけるエタノール濃度がE1からE2の間では、そのエタノール濃度が高いほど、エンジン1の自動停止を許容する温度条件を高く設定する。具体的に、図例では、エタノール濃度に対してエンジン水温が比例するように設定しており、燃料におけるエタノール濃度がE1のときには、エンジン水温がT1よりも高いのであれば、自動停止を許容する。一方で、燃料におけるエタノール濃度がE2(>E1)のときには、エンジン水温がT2(>T1)よりも高くなければ、自動停止を許容しない。これは、燃料の気化率及びエンジン1の始動性を考慮するためであり、燃料におけるエタノール濃度が相対的に高いときには、自動停止を許容する温度条件を高くすることで、エンジン1が相対的に低い温度状態のときには自動停止しなくなる。このことは、再始動時に始動性が悪化してしまう事態を未然に回避する。
燃料におけるエタノール濃度がE1未満のときには、エンジン1の自動停止を許容する温度条件をT1に設定する。燃料におけるガソリン濃度が高いため、エンジン1の温度状態が比較的低いときでも燃料の気化率が高くなる結果、エンジン1を確実にかつ迅速に再始動することが可能になるためである。ここで、前述したE1、E2、T1、及びT2の各パラメータは、一例として、但しこれに限定されないが、E1=25%(つまりE25)、E2=95%(つまりE95)、T1=35℃、T2=75℃としてもよい。
図4は、燃料におけるエタノール濃度と、エンジン1の再始動時における燃料圧力との関係を示している。つまり、燃料におけるエタノール濃度がE3以下のときには、燃料圧力をP1に設定する一方で、エタノール濃度がE3を超えるときには、エタノール濃度に比例して燃料圧力を高く設定している。ここで、エタノール濃度E3及び燃料圧力P1はそれぞれ、一例として、但しこれに限定されないが、E3=25%(つまり、E25)及びP1=8MPaとしてもよい。尚、図4に示す燃料圧力P0は、エンジン1のアイドル時における燃料圧力であり、例えばP0=3MPaである。
燃料におけるエタノール濃度が高いほど、エンジン1の温度状態によっては気化率が低下することになるが、エタノール濃度が高いほど燃料圧力を高めることによって、燃料噴射弁53から噴射される燃料は微粒化する。これは、燃料の気化に有利であり、燃料におけるエタノール濃度が高いほど、燃料噴霧の微粒化による気化が促進されることになる。また、燃料圧力を高めることによって、気筒内に燃料を噴射したときの筒内流動を強めることも可能になる。特にエンジン1の再始動時には、エンジン1が止まった状態、又は、極低回転の状態で燃料の噴射が開始されるため、気筒内の流動は実質的にゼロであるから、燃料圧力を高め、それによって気筒内の流動を強めることは、燃料におけるエタノール濃度が高いときの、燃料の気化を補助する。その結果、混合気の着火性及び/又は燃焼安定性が高まり、エンジン1の始動性、及び、始動時のNVH性能が向上する。
さらに、エタノールの理論空燃比とガソリンの理論空燃比とが相違することに起因して、燃料におけるエタノール濃度が高いほど、燃料噴射量は増大する。そのため、同一の燃料圧力であれば燃料の噴射期間は長くなるが、エタノール濃度が高いほど燃料圧力を高くすることによって、その分、噴射期間が短くなるから、結果として、燃料におけるエタノール濃度の高低に関わらず、燃料の噴射期間を同程度にすることが可能になる。このことは特に、詳細は後述するが、圧縮行程にある気筒内に燃料を噴射するときに、気筒内での燃料の分布状態を、エタノール濃度の高低に拘わらず、互いに同様の分布状態にすることができるという利点がある。
ここで、前述したように、エンジン1の再始動時には、燃料の噴射を早期に開始することから、その燃料噴射の開始前に燃料の圧力を高めることはできない。そこで、このエンジンシステムでは、エンジン1を自動停止する際に、燃料圧力を予め高めるように構成されている。具体的に、図5は、エンジン1の自動停止時における、エンジン回転数の変化と燃料圧力の変化との一例を示している。この例は、図4に示すように燃料におけるエタノールの濃度がE4で、それに伴い再始動時の燃料圧力をP2に設定する例である。
先ずエンジン1の自動停止前は、エンジン1はアイドル状態にあり、図5に実線で示すように、エンジン回転数はN0であり、燃料圧力はP0である。この状態で、エンジン1の自動停止条件が成立したときには、エンジン1が停止するまでの間に、燃料圧力をP0からP2にまで昇圧しなければならない。エンジン制御器100は、エンジン1の自動停止条件が成立した後、エンジン1の回転数を所定の回転数N1まで高め、その後、燃料噴射弁53を通じた燃料の噴射を中止する(図5におけるF/C参照)と共に、点火プラグ51を非作動にする。これにより、エンジン1の回転数は次第に低下をし、最終的には回転数がゼロになってエンジン1が停止する。
燃料の噴射を中止した後も、エンジン1のクランク軸は回転を継続することから、その間も、高圧ポンプは、エンジン1(つまり、カムシャフト)によって駆動される。その結果、燃料の圧力は次第に上昇することになる。こうして、エンジン1が完全に停止する前、又は、停止した時には、燃料圧力は、所定圧力P2まで上昇することになる。昇圧した燃料圧力は、エンジン1の再始動時までは少なくとも保持されるから、エンジン1の再始動時の燃料圧力を、燃料におけるエタノール濃度に対応する圧力P2にすることが実現する。尚、図5における一点鎖線は、エンジン1を自動停止するのではなく、キーオフにより強制的に停止する場合のエンジン回転数の変化及び燃料圧力の変化を示している。エンジン1の強制停止時には、キーオフと同時に燃料噴射も終了してエンジン1の回転数が低下することになり、燃料圧力は、アイドル時のP0から実質的に昇圧しないことになる。
このように、エンジン1の自動停止時には、その停止動作中に高圧ポンプを駆動することで、燃料圧力を昇圧することから、燃料の噴射を禁止してから、エンジン1が完全に停止するまでの期間、つまり、その期間にカムシャフトが何回転するかに応じて、到達する燃料圧力が変化することになる。エンジン制御器100は、燃料におけるエタノール濃度に基づいて、エタノール濃度が高いほど、エンジン1の自動停止時におけるエンジン回転数を高く設定し、それにより、燃料噴射を禁止してからエンジン1が停止するまでの期間を長くする。その結果、エタノール濃度が高いときには、エンジン1の再始動時における燃料圧力が高くなり、エタノール濃度が低いときには、エンジン1の自動停止時におけるエンジン回転数を低く設定することで、エンジン1の再始動時における燃料圧力が低くなる。
以上のようにして、エンジン1が自動停止した後、前述したエンジン1の自動始動条件が成立したときには、エンジン1の再始動が行われる。このときには、エンジン1がスタータモータ20によってクランキングされると共に、燃料の噴射が早期に開始されて燃焼による始動が実行される。図6は、エンジン1の再始動時の、第1気筒〜第4気筒に対する燃料の噴射形態を例示する図である。図6は、各気筒11におけるストロークの遷移を示しており、同図においてハッチングを付した四角は、当該気筒11に対して燃料の噴射を行うことを示している。但し、当該四角が描かれている位置は、噴射タイミング(クランク角)を正確に示すものではなく、四角の大きさは、燃料噴射量を示すものでもない。また、図6における一点鎖線は、エンジン1の停止時におけるピストン位置を例示しているが、その正確なクランク角を示すものではない。
図6(a)は、燃料におけるエタノール濃度が所定濃度よりも低いときの再始動時の制御を示している。所定濃度は、例えば65%(つまり、E65)である。エタノール濃度が比較的低い(言い換えるとガソリン濃度が比較的高い)ことにより、高い気化率を確保することができる。そのため、エンジン1の自動始動条件が成立して、スタータモータ20の駆動を開始するとき、若しくは開始した直後に、停止時に圧縮行程にある気筒11(図例では第1気筒)内に燃料の噴射を行い、その後、圧縮上死点付近で点火を行う。こうしてエンジン1の再始動時に、早期に燃焼を開始する。停止時に圧縮行程にある第1気筒に続いて、圧縮行程に至る気筒11(図例では第3気筒)に対しては、吸気行程中に気筒11内に燃料を噴射すると共に、圧縮行程中にも気筒11内に燃料を噴射する。吸気行程中の燃料噴射は、吸気流動を利用して混合気の均質化に有利になる。一方、圧縮行程の進行に伴う断熱圧縮によって、気筒11内の温度は次第に高くなるため、圧縮行程中に燃料を供給することは、気筒11内の高まる温度を利用した燃料の気化に有利である。
このように、吸気行程中の燃料噴射は混合気の均質化に有利である一方、圧縮行程中の燃料噴射は燃料の気化に有利である。そこで、このエンジンシステムでは、再始動時のエンジン1の温度状態に応じて燃料の噴射形態を変更するように構成されている。具体的にエンジン1の温度状態が所定温度よりも高いときには燃料の気化には有利であることから、吸気行程中に噴射する燃料量を、圧縮行程中に噴射する燃料量よりも多くする。このときに、図6(a)とは異なるが、吸気行程中に燃料の全量を噴射し、圧縮行程中には燃料を噴射しない、としてもよい。好ましくは、吸気行程と圧縮行程とのそれぞれで、燃料を噴射することである。
前述の通り、エンジン1の温度状態が高いことで、十分に高い燃料の気化率を確保しつつ、吸気行程中に噴射する噴射量を増やすことで混合気が均質化する。これは、混合気の着火性及び/又は燃焼安定性に有利になる。その結果、エンジン1の迅速かつ確実な始動が実現し、さらに始動時のNVH性能も悪化しない。また、エンジン1の再始動時には、エンジン1の温度が高かったり、吸気温度が高かったりすることに起因して、燃料におけるガソリン濃度が高いときには過早着火やノッキングといった異常燃焼が起きやすいという問題があるが、燃料におけるエタノール濃度が比較的高いときには、エンジン1の温度が高い状態で吸気行程中に燃料噴射を行っても、異常燃焼を回避することができるという利点がある。
これに対し、エンジン1の温度状態が所定温度以下のときには、特に燃料におけるエタノール濃度が高いときには燃料の気化に不利であるため、圧縮行程中に噴射する燃料量を、吸気行程中に噴射する燃料量よりも多くする。このときに、圧縮行程中に燃料の全量を噴射し、吸気行程中には燃料を噴射しないとしてもよい。圧縮行程中の燃料噴射は、前述したように、気筒内の温度上昇を利用した燃料の気化に有利になるため、エンジン1の温度状態が所定温度以下のときに特に有効である。
吸気行程中に噴射する燃料量と、圧縮行程中に噴射する燃料量との割合は、エンジン1の温度状態に応じて、連続的に又は不連続的に、(吸気行程中に噴射する燃料量):(圧縮行程中に噴射する燃料量)=0:10〜10:0の範囲で適宜、変更すればよい。
そうして、第3気筒に続いて、ピストンが圧縮上死点に至る第4気筒及び第2気筒についても同様に、吸気行程及び圧縮行程での燃料噴射、又は、圧縮行程での燃料噴射を行って、点火・燃焼を行うことにより、エンジン1の始動が完了することになる。
これに対し、図6(b)は、燃料におけるエタノール濃度が所定濃度以上(例えばE65以上)の場合の、再始動時の制御を示している。エタノール濃度が比較的高いことにより、エンジン1の温度状態が比較的低いときには気化率が低下する。そのため、エタノール濃度が比較的高いときには、低い気化率を考慮して、エンジン1の自動始動条件が成立した後、最初に圧縮上死点を超える気筒11、つまり、停止時に圧縮行程にある気筒11(図例では第1気筒)には燃料噴射を行わない。
前述したように、停止時に圧縮行程にある気筒11は、クランキングの開始に伴う断熱圧縮によって気筒11内の温度が高まるものの、当該気筒11のピストンは、停止時には当該気筒11の中間に位置しているため、そのピストン位置から圧縮上死点に至ったときでも実圧縮比は相対的に低くなり、圧縮端温度も相対的に低くなるためである。つまり、圧縮端温度が相対的に低いことで、筒内温度を利用した燃料の気化には不利になり、特にエタノール濃度が高い燃料では、十分な気化率が確保できない虞がある。
そこで、燃料におけるエタノール濃度が所定濃度以上のときには、最初に圧縮上死点を超える第1気筒には燃料噴射を行わず、2番目に圧縮上死点を超える気筒11(図例では第3気筒)に対して、燃料噴射を行う。この気筒11は、停止時に吸気行程にある気筒11であり、クランキングの開始後、ピストンは吸気下死点を経由した後に、圧縮上死点へと至る。従って、実圧縮比が相対的に高くかつ、圧縮端温度も相対的に高くなる。この相対的に高い筒内温度が、燃料の気化の促進に有利になる。
2番目に圧縮上死点を超える第3気筒以降、エンジン1の始動が完了するまでの燃料噴射は、図6(a)を参照して説明した燃料噴射形態と同じである。つまり、エンジン1の温度状態に応じて、エンジン1の温度状態が所定温度よりも高いときには、吸気行程中に噴射する燃料量を、圧縮行程中に噴射する燃料量よりも多くする。これは、吸気行程中の燃料噴射のみを行い、圧縮行程中の燃料噴射を行わないことも含む。好ましくは、吸気行程中と圧縮行程中とのそれぞれで燃料を噴射することである。また、エンジン1の温度状態が所定温度以下のときには、圧縮行程中に噴射する燃料量を、吸気行程中に噴射する燃料量よりも多くする。圧縮行程中の燃料噴射のみを行い、吸気行程中の燃料噴射を行わないとしてもよい。また、ここにおいても、吸気行程中の燃料噴射量と圧縮行程中の燃料噴射量との割合は、エンジン1の温度状態に応じて連続的に又は不連続的に、0:10〜10:0の範囲で適宜、変更すればよい。
こうして、エタノール濃度が比較的高いときには、無駄な燃焼噴射を省略して、結果的にエンジン1の迅速始動が可能になる。つまり、燃料の性状に応じて、最初に燃料を噴射する気筒を変更することにより、燃料の性状に関わらずエンジン1の再始動時における始動性が確保される。また、燃料におけるエタノール濃度に応じて、エンジン1の再始動時における燃料圧力を変更することで、燃料の性状に関わらず燃料の気化が促進されて、再始動時のNVH性能の悪化が回避される。
尚、前記の構成では、気筒11内に燃料を噴射する、いわゆる直噴の燃料噴射弁53のみを備えているが、この燃料噴射弁53に加えて、吸気ポートに燃料を噴射する燃料噴射弁をさらに備えるようにしてもよい。