JP2014200195A - スラグ成形体およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】水環境のpHの上昇を抑止できるとともに、水環境における有効成分を溶出できるスラグ成形体を提供する。
【解決手段】粒状の製鋼スラグおよび製鋼スラグ粉末の少なくとも一方を主原料とするスラグ粒体2を備える。また、このスラグ粒体2の表面に被覆部3を形成する。この被覆部3は、赤土や腐植土などの酸性土壌を主原料とする。また、被覆部3は、リグニンスルホン酸またはその金属塩を含有する。このようにリグニンスルホン酸により被覆部3の密着性を向上できる。そして、被覆部3によって製鋼スラグに起因するフリーライムの溶出による水環境のpHの上昇を抑制できるとともに、海洋生物の生育環境における栄養成分などの有効成分を溶出できる。
【選択図】図1

Description

本発明は、製鋼スラグが原料として用いられ、水環境で使用されるスラグ成形体、およびその製造方法に関する。
近年、海洋沿岸部においては、岩場に海藻が繁殖しなくなり石灰藻に覆われる磯焼け、水質の悪化、およびヘドロの堆積に伴う藻場の消失が問題となっており、魚介類などの水産資源の減少が深刻化している。
水産資源の減少の要因の一つとしては、海洋沿岸部での鉄分の減少が考えられる。すなわち、通常は森林の腐植土壌中に含まれる鉄分が河川を下り海へ供給されていたが、近年の森林の荒廃やダム建設などによって河川からの鉄分の流入量が減少している。そのため、海洋沿岸部で鉄分を必要とする海藻類や植物プランクトンが減少して、水産資源の減少へつながっている。
このような問題に対する技術として、製鋼スラグを用いた海洋環境修復技術が知られている。製鋼スラグとは、鉄鋼製品製造における製鋼プロセスにおいて副産物として多量に生成されるものをいい、このような製鋼スラグは、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、珪素(Si)およびリン(P)などの元素を含有している。
そして、これらの元素が例えば海水中などの水環境で溶出すると、海洋生物の生育環境の栄養成分として有効に作用するため、製鋼スラグは、海洋環境修復材として水環境で使用する際に有用であることが知られている。
特許文献1には、例えば、廃木材チップに石炭溶融灰または転炉スラグを混合した混合物をココナッツ繊維性の袋に詰め、海水中に沈設する磯焼け修復技術が記載されている。
また、この特許文献1では、二価鉄の含有物質として転炉スラグが用いられ、発酵後に腐食物質を含有する物質として廃木材チップが用いられ、透水性を有する袋材としてココナッツ繊維性の袋が用いられて水環境における保全材料が形成されている。なお、発酵後に腐食物質を含有する物質は、二価の鉄イオンと錯体を形成することにより、二価鉄イオンを安定させる作用を奏するものである。
ここで、製鋼スラグを海水中に投入すると、製鋼スラグ中に不可避的に含まれる未反応の可溶性CaO(フリーライム)が溶出し海水と反応することにより、周囲の海水のpH上昇、および、pHの上昇による白濁化を引き起こしてしまう。
より具体的に説明すると、製鋼スラグを海水に投入すると、(1)式に示すように可溶性フリーライムが水と反応してCa(OH)を生成する。
(1)式:CaO+HO→Ca(OH)
このCa(OH)は、(2)式に示すように電離して、水中のOHイオン濃度が高くなる。
(2)式:Ca(OH)→Ca2++2OH
また、水中のOHイオン濃度が高くなると、海水のpHが上昇する。
一方、海水中に存在するMg2+イオンは、アルカリ雰囲気中では、(3)式に示す反応が進行する。
(3)式:Mg2++2OH→Mg(OH)
したがって、海水のpHが上昇するとともに、pHが上昇してアルカリ雰囲気となると、不溶性のMg(OH)が生成され、この不溶性のMg(OH)が白濁化の原因となる。
また、海水のpHの上昇は、海洋環境および生物にとって悪影響であり、好ましくない。なお、海水の白濁化自体は環境にとって特に有害なものではないが、視覚的に環境を悪化させているかのような印象を与えてしまうため好ましくない。
このようなpHの上昇に関して、特許文献1では、炭酸化処理した製鋼スラグを用いることにより周辺水域のpH上昇を抑制する構成が記載されている。
また、特許文献2には、製鋼スラグと浚渫土とを混合し浚渫土を改質して、海水のpHの上昇を抑制し、スラグ成分と浚渫土成分との反応により固化させて造成用材料として活用する技術が記載されている。
さらに、特許文献3には、40℃以上の融点の有機物またはその金属塩によってスラグの表面を被覆することにより、土壌環境において各種物質の溶出を抑制する技術が記載されている。
特開2005−34140号公報 特開2011−206625号公報 特開2002−104848号公報
しかしながら、上述の特許文献1には、炭酸化処理した製鋼スラグを用いることにより周辺水域のpH上昇を抑制できる旨が記載されているだけであり、炭酸化処理した製鋼スラグを用いた場合の海洋生物の生育環境に有効な成分の溶出作用について記載されておらず、有効成分の溶出作用が不明である。
特許文献2に記載された方法では、浚渫土の透水性が低いため、製鋼スラグとして転炉スラグを用いた場合には海洋生物の生育環境における有効成分の溶出作用を奏さない可能性が高い。また、反応により固化させているため、底生生物の生育環境には不向きであり、海洋環境修復材などとして水環境での使用には適当ではない。
特許文献3に記載された方法は、道路などの土壌環境に利用することを前提としており、単にスラグ中からの各種物質の溶出を抑制してしまうと、海洋生物の生育環境における有効成分の溶出作用も妨げられてしまう。したがって、海洋環境修復材などとして水環境にて使用する際において、原料として製鋼スラグを用いる利点が損なわれてしまう。
本発明はこのような点に鑑みなされたもので、水環境のpHの上昇を抑止できるとともに、水環境における有効成分を溶出できるスラグ成形体およびその製造方法を提供することを目的とする。
請求項1に記載されたスラグ成形体は、水環境で使用されるスラグ成形体であって、製鋼スラグを主原料とするスラグ粒体と、スラグ粒体の表面に形成され、酸性土壌を主原料としリグニンスルホン酸およびその金属塩の少なくとも一方を含有する被覆部とを具備するものである。
請求項2に記載されたスラグ成形体は、請求項1記載のスラグ成形体において、酸性土壌は、赤土および腐植土の少なくとも一方であるものである。
請求項3に記載されたスラグ成形体は、請求項1または2記載のスラグ成形体において、リグニンスルホン酸およびその金属塩の少なくとも一方の含有量は、スラグ粒体と酸性土壌との合計質量に対して0.1質量%以上であるものである。
請求項4に記載されたスラグ成形体の製造方法は、製鋼スラグを主原料とするスラグ粒体を形成し、スラグ粒体と、酸性土壌と、リグニンスルホン酸およびその金属塩の少なくとも一方とを混合して、スラグ粒体の表面に、酸性土壌を主原料としリグニンスルホン酸およびその金属塩の少なくとも一方を含有する被覆部を形成するものである。
請求項5に記載されたスラグ成形体の製造方法は、請求項4記載のスラグ成形体の製造方法において、酸性土壌は、赤土および腐植土の少なくとも一方であるものである。
請求項6に記載されたスラグ成形体の製造方法は、請求項4または5記載のスラグ成形体の製造方法において、リグニンスルホン酸およびその金属塩の少なくとも一方は、スラグ粒体と酸性土壌との合計質量に対して0.1質量%以上添加するものである。
本願発明によれば、スラグ粒体の表面に被覆部が形成されているため、製鋼スラグに起因する水環境のpHの上昇を抑制できるとともに、水環境における有効成分を溶出できる。
本発明の一実施の形態に係るスラグ成形体の構成を示す断面図である。 同上スラグ成形体の製造方法を概略的に示す構成図である。
以下、本発明の一実施の形態の構成について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1において、1はスラグ成形体を示し、このスラグ成形体1は、海洋環境用途材などとして海水などの水環境で使用されるものである。
スラグ成形体1は、粒状の製鋼スラグや、粒状の製鋼スラグを粉末化した製鋼スラグ粉末を主原料とする粒状のスラグ粒体2を備える。また、スラグ粒体2の表面には、酸性土壌を主原料とする被覆部3が層状に形成されている。さらに、これらスラグ粒体2および被覆部3は、リグニンスルホン酸を含有する。
このようなスラグ成形体1は、施肥材料などの海洋環境用途材として海水に投入して使用することを考慮すると、粒状に成形されることが好ましい。
また、スラグ成形体1は、海域の被砂材や藻場再生材などとしての海洋環境での使用や膨張安定性を考慮すると、平均粒径が1mm以上25mm以下であることが好ましい。
製鋼スラグは、鉄鋼製品を製造する過程で副産物として発生し、通常は路盤材や地盤改良材などに有効利用されているものである。このような製鋼スラグとしては、例えば、転炉スラグ、電気炉スラグ、予備処理スラグ、脱炭スラグ、脱硫スラグ、脱リンスラグ、脱珪スラグ、電気炉還元スラグ、電気炉酸化スラグ、二次精錬スラグおよび造塊スラグなどがある。
また、必要に応じて、エージング処理などによりスラグの膨張を抑制した製鋼スラグや、炭酸化処理や、塩酸または硫酸への浸漬処理を施した製鋼スラグを用いてもよい。
スラグ粒体2は、粒状の製鋼スラグや、製鋼スラグの粉砕物である製鋼スラグ粉末を造粒した造粒体を主原料とした粒状物である。
粒状の製鋼スラグを用いる場合には、その大きさや形状によっては粒状に成形せずにそのまま用いてもよい。
また、粒状の製鋼スラグは、一般的に表面が凹凸に富み、内部に空孔や亀裂などが存在するため、比表面積が大きい。
一方、製鋼スラグ粉末の造粒体は、粉末を造粒成形したものであるため、粒状の製鋼スラグに比べて比表面積が小さい。そのため、フリーライムが溶出しにくく、pH上昇を抑制しやすいとともに、粒状の製鋼スラグに比べて表面が平滑であるため、被覆部3を均一に形成しやすい。
なお、粒状の製鋼スラグおよび製鋼スラグ粉末は、造粒性を考慮すると平均粒子径が1mm未満であるものが好ましい。
これら粒状の製鋼スラグや製鋼スラグ粉末を主原料とするスラグ粒体2は、海洋環境用途材料としての有用性を高めるために、必要に応じて窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)および珪素(Si)などの海洋生物の生育環境における栄養成分として有効な成分の供給源となりうる施肥材料などを1種以上混合してもよい。混合する施肥材料としては、硫酸アンモニウム、尿素、過リン酸石灰、熔成リン肥、硝酸カリウム、苦土石灰、硝酸マグネシウムおよび珪酸カリウムなど施肥材料や、植物油かす、家畜の糞尿および魚粉などの農林水産副産物などがある。
酸性土壌は、例えば赤土、鹿沼土、腐植土および泥炭などのように、海水に投入した際にpHの低下が生じ、かつ、海水の水質悪化や有害成分の溶出が生じないものであればよい。なお、赤土とは、関東ローム層などを代表とする酸化鉄を多く含んだ赤褐色または黄褐色で粘土質の土壌である。
酸性土壌の投入により海水中のpHの低下が起こるメカニズムの詳細は不明であるが、次のようなメカニズムが考えられる。
酸性土壌中に一般的に含まれている粘度鉱物や腐植物質は、その表面に負電荷を有し、この負電荷を補うように表面には水素イオン(H)、ナトリウムイオン(Na)、マグネシウムイオン(Mg2+)およびカルシウムイオン(Ca2+)などの陽イオンが存在し、電気的に中性を保っている。そして、このような酸性土壌を海水中に投入すると、粒子表面に吸着されている上記陽イオンと海水中のCa2+のイオン交換が起こり、海水中のHが増加するため、pHが低下する。
ここで、海水中に酸性土壌を投入すると、pHの低下だけでなく、植物プランクトンや藻類の栄養成分となるアンモニア態窒素、硝酸態窒素およびリン酸態リンなどの溶出が生じる。特に赤土や腐植土は、上述のイオン交換によるpH低下作用も奏しやすいため、被覆部3を形成する原料として好ましい。
なお、酸性硫酸塩土壌のような硫化物を多く含む酸性土壌は、海水中に硫化物イオンが溶出して水質汚染を起こす可能性があるため、被覆部3を形成する原料としては好ましくない。
酸性土壌の形状や大きさは適宜選択可能であるが、平均粒子径1mm未満であると造粒性の観点から好適である。
リグニンスルホン酸およびその金属塩は、分散性および粘結性に優れ、粘結剤として用いられ、スラグ粒体2および被覆部3の強度の向上や、スラグ粒体2と被覆部3との密着性の向上が期待される。
また、リグニンスルホン酸は、必要に応じてpH調整可能であるが、スラグ成形体1における海水のpH上昇を抑制する観点や、pH上昇による白濁化を抑制する観点から、非アルカリ性であることが好ましい。特に、リグニンスルホン酸が酸性であると、海水のpH上昇を防止または緩和する効果を奏しやすいためより好ましい。
リグニンスルホン酸金属塩を用いる場合は、その種類は適宜選択できるが、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)およびコバルト(Co)などの金属のいずれか1つか、複数を混合して適用可能である。なお、取り扱い性やコストを考慮すると、Mg、CaまたはNaが好ましい。
リグニンスルホン酸およびその金属塩の形態は適宜選択でき、粉末の状態や水溶液の状態で添加できる。
リグニンスルホン酸およびその金属塩は、スルホン基(−SOH)、カルボキシル基(−COOH)、フェノール性またはアルコール性水酸基(−OH)を有しており、金属イオンと結合して親水性または疎水性の錯体化合物を形成するキレート性を有している。
そして、リグニンスルホン酸またはその金属塩を添加したスラグ成形体1を海水へ投入すると、リグニンスルホン酸のキレート性により、Feイオンが水酸化物を形成して沈殿することなく、溶存状態で安定的に存在するため、Feの溶出量が増加する。
リグニンスルホン酸の含有量は、海水のpH上昇を目標値または規制値以下に抑制でき、キレート効果を奏する範囲であればよいが、スラグ粒体2と酸性土壌との合計質量に対して0.1質量%以上であると、キレート効果を確保できるので好ましい。また、経済的な観点からキレート効果が得られる最低量に抑えることが好ましい。
リグニンスルホン酸の混合方法や添加のタイミングは適宜決定できるが、スラグ粒体2を成形する際に添加してもよく、被覆部3を形成する際に添加してもよい。また、必要に応じてリグニンスルホン酸およびその金属塩を組み合わせて用いてもよい。
ここで、スラグ粒体2に対する被覆部3による被覆の割合は、スラグ粒体2からのフリーライムの溶出によるpH上昇防止作用、酸性土壌によるpH低下作用、水環境における有効成分の溶出作用、および、酸性土壌による海水の濁り防止作用を確保できる範囲が好ましい。具体的には、スラグ粒体2に対する被覆部3の割合が10質量%以上30質量%以下が好ましい。
また、スラグ粒体2の表面全体が被覆部3にて覆われている必要がなく、例えば図1に示すように、スラグ粒体2が部分的に被覆されていない孔状の非被覆部4や、亀裂部5を有する構成にしてもよい。
なお、海水のpH上昇を目標値または規制値以下に抑制できるのであれば、被覆部3が非被覆部4や亀裂部5を有する構成の方が、水環境における有効成分を効果的に溶出しやすいので好ましい。
次に、上記スラグ成形体1の製造方法を説明する。
スラグ成形体1を製造する際には、まず、製鋼スラグや製鋼スラグ粉末に必要に応じて1種以上の施肥材料を混合した後、所望の大きさや形状のスラグ粒体2に成形する。スラグ粒体2の成形方法は、例えば造粒機を用いた造粒や、ポンチ・ダイスやブリケットマシンを用いた加圧成形などが適用可能である。なお、粒状の製鋼スラグを用いる際には、粒状の製鋼スラグをそのままスラグ粒体2としてもよい。
また、必要に応じてスラグ粒体2の表面に水分や接着剤を付着させ、酸性土壌とリグニンスルホン酸またはその金属塩とを混合したものを付着させて、スラグ粒体2の表面に被覆部3を形成して被覆する。
ここで、図2には、スラグ粒体2の表面に酸性土壌を付着させて被覆部3を形成する方法の一例を示す。
この図2に示す方法では、まず、スラグ粒体2、および、酸性土壌とリグニンスルホン酸またはその金属塩の混合剤6とを回転ドラム式の造粒機7内に装入する。また、必要に応じて水分や接着剤を添加する。
そして、造粒機7を回転させて混合しながら、スラグ粒体2の表面に酸性土壌を付着させ被覆部3を形成して、スラグ成形体1を造粒する。
なお、被覆方法は、上述の造粒機7を用いた混合造粒の他に、酸性土壌とリグニンスルホン酸またはその金属塩とを混合した溶液を、スラグ粒体2の表面にスプレなどにて吹き付ける方法なども適用できる。
また、被覆部3の強度および密着性を向上させるため、被覆部3を形成した後に、乾燥機で乾燥させると好ましい。
乾燥条件は、リグニンスルホン酸またはその金属塩の量や、必要に応じて添加する水分の量や、スラグ成形体1の大きさなどによって適宜設定できるが、例えば10mm以下のスラグ成形体1の場合には、100℃で2時間以上保持すれば十分である。
次に、上記一実施の形態の作用および効果を説明する。
スラグ成形体1によれば、スラグ粒体2の表面に被覆部3が形成されているため、スラグ成形体1が海水などの水環境に浸漬しても、被覆部3によりスラグ粒体2に水が接触しにくく、スラグ粒体2の主原料である製鋼スラグまたは製鋼スラグ粉末に由来するフリーライムの溶出を抑制でき、スラグ粒体2からのフリーライムの溶出による水環境のpHの上昇を抑制できる。
ここで、フリーライムなどの製鋼スラグや製鋼スラグ粉末に由来する成分の溶出は被覆部3によって完全に防止できず、フリーライムなどの各種成分が多少溶出する。
しかしながら、スラグ成形体1は、被覆部3の主原料である酸性土壌も水環境に溶出するため、酸性土壌の溶出によるpH低下作用によって、溶出したフリータイムによるpH上昇作用を緩和できる。
したがって、スラグ成形体1は、スラグ粒体2からのフリーライムの溶出による水環境のpHの上昇を防止でき、その結果、pH上昇による白濁化を防止できる。
また、上述のように被覆部3によって各種成分の溶出は完全に防止されないため、製鋼スラグまたは製鋼スラグ粉末に由来する水環境における有効成分をスラグ粒体2から溶出できる。
さらに、酸性土壌を水環境に投入すると、pH低下作用を奏するだけでなく、鉄が溶出するとともに、例えばアンモニア態窒素、硝酸態窒素およびリン酸態リンなども溶出する。
したがって、スラグ粒体2から水環境における有効成分を溶出できるとともに、被覆部3からも水環境における有効成分を溶出できる。
さらに、リグニンスルホン酸またはその金属塩を添加することにより、スラグ粒体2および被覆部3の強度を向上できるとともに、スラグ粒体2と被覆部3との密着性を向上できる。そのため、スラグ成形体1を水環境に投入した際の被覆部3の剥離や、スラグ粒体2および被覆部3の破損を防止でき、スラグ粒体2からのフリーライムの溶出による水環境のpHの上昇を防止できる。
すなわち、スラグ粒体2の表面に酸性土壌を主原料とする層状の被覆部3が形成され、リグニンスルホン酸によって被覆部3の密着性を向上することにより、pH上昇の抑制作用および有効成分の溶出作用を両立できる。
また、酸性土壌として赤土や腐植土を用いた場合には、pH低下作用を奏しやすいとともに、酸化鉄を多く含んでいるため、有効成分を溶出しやすい。
さらに、リグニンスルホン酸またはその金属塩の含有量を、スラグ粒体2と酸性土壌との合計質量に対して0.1質量%以上とすることにより、リグニンスルホン酸によるキレート効果を奏しやすく、Feイオンが水酸化物を形成して、Feの溶出量を増加できる。
被覆部3は、非被覆部4や亀裂部5を有することにより、これら非被覆部4や亀裂部5からスラグ粒体2の各種成分が溶出しやすいため、海水のpHの上昇を酸性土壌によるpH低下作用などによって目標値や規制値以下に抑制できるのであれば、有効成分を効果的に溶出できる。
スラグ成形体1を製造する際には、スラグ粒体2を形成し、このスラグ粒体2と、酸性土壌およびリグニンスルホン酸またはその金属塩の混合剤6とを混合することにより、簡単な作業でスラグ成形体1を製造できるとともに、スラグ粒体2の表面に被覆部3を確実に形成できる。
そして、上記スラグ成形体1は、海洋生物の生育環境における栄養成分として有効な成分を溶出して供給できるとともに、製鋼スラグに由来する海水のpH上昇を抑制できるため、海域利用用途としての利用だけでなく、高pHを好まない水環境にて利用できる。
以下、本実施例および比較例について説明する。
製鋼スラグである転炉スラグを篩い分けして粒径10mm以下に調整した粒状スラグ、または、転炉スラグを粉砕して200μm以下にしたスラグ粉末をブリケットマシンを用いて粒径約10mmに造粒成形したスラグ粉末造粒体をスラグ粒体2の原料として用いた。
また、酸性土壌である赤土および腐植土の市販品を粉砕し、200μm以下として、被覆部3の原料として用いた。
これら転炉スラグ、赤土および腐植土の化学組成を表1に示す。
Figure 2014200195
上記スラグ粒体2と、赤土または腐植土とを所定の割合で回転ドラム式の造粒機7に投入した。
また、リグニンスルホン酸塩としての日本製紙ケミカル製のサンエキスM−100(サンエキスは登録商標。)を、スラグ粒体2と赤土または腐植土との合計質量に対して所定の割合で添加した。
さらに、水分をスラグ粒体2と赤土または腐植土との合計質量に対して10質量%添加した。
そして、回転ドラム式の造粒機7にて10分間混合造粒して、スラグ粒体2の表面に被覆部3を形成してスラグ成形体1とした。
また、スラグ成形体1を造粒機7から取り出し、乾燥機内で105℃で2時間加熱して乾燥させて、本実施例とした。
また、リグニンスルホン酸塩を添加せずに混合造粒したものを比較例として作製した。
さらに、造粒していないスラグ粉末と赤土または腐植土とを所定の割合にて混合容器内で均一に混合した後、造粒成形したものを比較例として作製した。
上記本実施例および比較例を直径60cm、高さ30cmのプラスチック製容器に投入するとともに、pH8.2、水温20℃の海水150Lが入った水槽にプラスチック製容器ごと投入して、全体を海水中に浸漬させた。
また、プロペラで海水を撹拌しながら、投入してから3時間後の海水のpH、海水の白濁化および酸性土壌による海水の濁りの状況を判定するとともに、海水の成分を測定した。これらの結果を表2に示す。
なお、海水のpHは、3時間後のpHが9.5以下であれば良好であると判定した。また、海水の白濁化は、目視で白濁が観察されなければ良好であると判定した。さらに、海水の濁りは、濁りの指標であるSS(浮遊粒子)値を測定し、SS値が0.2g/L未満であれば濁りが発生しておらず良好であると判定した。海水の成分は、3時間後の海水を採取しろ過した後、成分分析に供した。具体的には、FeはICP発光分光分析にて分析し、リン酸態リン(PO−P)およびアンモニウム態窒素(NH−N)は吸光光度法にて分析し、硝酸態窒素(NO−N)はイオンクロマトグラフ法にて分析した。
Figure 2014200195
比較例であるNo.30は粒状スラグのみを海水に浸漬した場合を示し、比較例であるNo.31はスラグ粉末造粒体を海水に浸漬した場合を示す。
これらNo.30およびNo.31では、転炉スラグ中のフリーライムが水と反応してpHが9.5より上昇するとともに、Mg(OH)が生成されて白濁が発生した。
比較例であるNo.21およびNo.22は、粒状スラグにリグニンスルホン酸塩を添加せずに赤土で被覆した状態で海水に浸漬した場合を示す。
比較例であるNo.23およびNo.24は、リグニンスルホン酸塩を添加せずにスラグ粉末造粒体に赤土を被覆した状態で海水に浸漬した場合を示す。
これらNo.21〜24では、pH上昇および白濁化は抑制され、鉄、リン酸態リン、アンモニウム態窒素および硝酸態窒素などの栄養成分の溶出を確認できたが、リグニンスルホン酸が添加されていないため、皮膜の密着性が悪く、赤土または腐植土の微粉に起因する海水の濁りが発生した。
比較例であるNo.25およびNo.26は、リグニンスルホン酸塩を添加せずにスラグ粉末造粒体に腐植土を被覆した状態で海水に浸漬した場合を示す。
これらNo.25およびNo.26では、リグニンスルホン酸塩が添加されておらず、皮膜の密着性が悪いため、皮膜によるフリーライムの溶出抑制作用を奏しにくく、pHが9.5より上昇するとともに、白濁が発生した。
比較例であるNo.27〜29は、スラグ粉末と赤土とを均一混合した後に造粒成形した状態で海水に浸漬した場合を示す。
これらNo.27〜29では、表面に皮膜が形成されておらず、皮膜によるフリーライムの溶出抑制作用が得られないため、pHが9.5より上昇するとともに、白濁が発生した。
一方、本実施例であるNo.1〜13では、いずれも海水のpH上昇を抑制する効果に優れ、その結果白濁化が抑制されるとともに、鉄、リン酸態リン、アンモニウム態窒素および硝酸態窒素などの栄養成分の溶出が確認された。
また、本実施例であるNo.1〜13では、リグニンスルホン酸塩の添加により皮膜の密着性が良好であるため、リグニンスルホン酸を添加していないNo.21〜24と、スラグと酸性土壌との混合割合が同じ場合であっても、No.21〜24とは異なり海水に濁りは生じなかった。
さらに、本実施例であるNo.1〜13では、リグニンスルホン酸塩の添加量が多い程、鉄の溶出量が増加することが確認された。
1 スラグ成形体
2 スラグ粒体
3 被覆部

Claims (6)

  1. 水環境で使用されるスラグ成形体であって、
    製鋼スラグを主原料とするスラグ粒体と、
    スラグ粒体の表面に形成され、酸性土壌を主原料としリグニンスルホン酸およびその金属塩の少なくとも一方を含有する被覆部と
    を具備することを特徴とするスラグ成形体。
  2. 酸性土壌は、赤土および腐植土の少なくとも一方である
    ことを特徴とする請求項1記載のスラグ成形体。
  3. リグニンスルホン酸およびその金属塩の少なくとも一方の含有量は、スラグ粒体と酸性土壌との合計質量に対して0.1質量%以上である
    ことを特徴とする請求項1または2記載のスラグ成形体。
  4. 製鋼スラグを主原料とするスラグ粒体を形成し、
    スラグ粒体と、酸性土壌と、リグニンスルホン酸およびその金属塩の少なくとも一方とを混合して、スラグ粒体の表面に、酸性土壌を主原料としリグニンスルホン酸およびその金属塩の少なくとも一方を含有する被覆部を形成する
    ことを特徴とするスラグ成形体の製造方法。
  5. 酸性土壌は、赤土および腐植土の少なくとも一方である
    ことを特徴とする請求項4記載のスラグ成形体の製造方法。
  6. リグニンスルホン酸およびその金属塩の少なくとも一方は、スラグ粒体と酸性土壌との合計質量に対して0.1質量%以上添加する
    ことを特徴とする請求項4または5記載のスラグ成形体の製造方法。
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