JP2014181978A - 貯蔵用キャニスターの応力腐食割れ防止方法及び貯蔵用キャニスター - Google Patents

貯蔵用キャニスターの応力腐食割れ防止方法及び貯蔵用キャニスター Download PDF

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Abstract

【課題】核燃料からの放射線が遮蔽された状態で外表面全体に圧縮残留応力を発生させた状態とすることができる貯蔵用キャニスターの応力腐食割れ防止方法及び貯蔵用キャニスターを提供する。
【解決手段】金属製の胴体2の上部2aに蓋体4を溶接することによって当該胴体2における引張残留応力が生じた範囲に圧縮応力を付与して、応力腐食割れを防止する貯蔵用キャニスター1の応力腐食割れ防止方法である。蓋体4の溶接によって引張残留応力の発生が予定される胴体2の範囲Lに予め第1の圧縮応力を付与し、当該範囲Lに圧縮残留応力が生じている状態で蓋体4を溶接することで引張残留応力をキャンセルし、その後第2の圧縮応力を付与して当該範囲Lの全域で圧縮残留応力を生じさせる。
【選択図】図5

Description

本発明は、放射性廃棄物である核燃料を格納した状態で密閉し、核廃棄物貯蔵施設に設置される貯蔵用キャニスターと、貯蔵用キャニスターの応力腐食割れ防止方法に関する。
放射性廃棄物である核燃料は、原子力発電所等の核施設内で貯蔵用キャニスターに格納され、そこから核燃料を長期間保管するための図1の核廃棄物貯蔵施設100まで移送される。この貯蔵施設100内では、キャスク101内に貯蔵用キャニスター102が設置されているが、金属製の貯蔵用キャニスター102の応力腐食割れの発生が懸念されている。貯蔵用キャニスター102の応力腐食割れは、貯蔵用キャニスター102を構成するオーステナイト系ステンレス鋼材に引張応力が残留し、かつ海塩等の腐食環境下である場合に発生する。核燃料から発生する熱を貯蔵用キャニスター102の表面から放散させるため、図1のとおりキャスク101の上下には通気口101a、bが形成されている。この双方の通気口101a、bに外気が通されるため、貯蔵用キャニスター102は、外気に曝され続ける。日本国内においては、核廃棄物貯蔵施設100は沿岸に建設されることになり、海塩等の腐食環境を避けることはできない。
貯蔵用キャニスター102に残留する引張応力は、貯蔵用キャニスター102を構成するための胴体に蓋体を溶接した際に発生する引張残留応力である。そこで、溶接後に塑性加工を施して貯蔵用キャニスター102に残留する引張応力を消失させ、圧縮残留応力を生じさせた状態として、応力腐食割れを防止することが知られている(非特許文献1参照)。それには、例えば貯蔵用キャニスター102の胴体に蓋体を溶接した後、溶接した部位とその近傍に圧縮応力を付与するための作業を行う。より具体的には、原子力発電所内で核燃料を貯蔵用キャニスター102の胴体に入れ、一次蓋を溶接し、続いて二次蓋を溶接して核燃料を密閉する。核燃料が格納された貯蔵用キャニスター102の胴体の上部及び各蓋体には、溶接によって引張残留応力が生じている。その部分に、例えばピーニング法等によって圧縮応力を付与する塑性加工を行い、引張残留応力を消失させ、貯蔵用キャニスター102の外表面の全域に渡って圧縮応力を残留させた状態とする。核燃料を国内で貯蔵するにあたって、貯蔵用キャニスター102をこのような状態とすることは応力腐食割れを防止するための必須条件とされる。
核燃料が収容された貯蔵用キャニスター102は密閉されているため、放射性物質の外部への漏れはないが、放射線は薄い肉厚の胴体を透過して外部へ漏洩してしまう。貯蔵用キャニスター102の応力腐食割れを防止するためには、貯蔵用キャニスター102に面した状態で塑性加工の作業を行わなければならないが、貯蔵用キャニスター102から漏れてくる放射線の影響が問題となる。
平成23年5月、財団法人電力中央研究所発行、電力中央研究所報告、研究報告N10035、キャスク方式による使用済燃料貯蔵の実用化研究
核燃料が格納された貯蔵用キャニスター102は、核貯蔵施設まで厚い肉厚を有する移送用キャスクに入れて移送される。放射線の影響を抑えるため、プール内で貯蔵用キャニスター102を移送用キャスクに入れてから、上開口近傍の隙間空間を利用して、応力腐食割れを防止するための塑性加工を施す。蓋体の溶接によって引張応力が残留するのは、胴体の上端から底部に向かって比較的深い範囲に至る。そのため上開口から深い位置まで作業する必要があるが、例えば移送用キャスクの上部をより開放した形状とすれば、被爆量が上昇してしまうという問題が起こる。
そこで本発明はこのような従来技術の問題点に鑑み、核燃料からの放射線が遮蔽された状態で外表面全体に圧縮残留応力を発生させた状態とすることができる貯蔵用キャニスターの応力腐食割れ防止方法及び貯蔵用キャニスターを提供することを目的とする。
本発明者は、放射線の影響を抑えながら外表面全体に圧縮残留応力を発生させた状態とするためには、貯蔵用キャニスターと移送用キャスク間の浅い上開口で施工できるようにすることが重要であることに着目し次の技術的手段を講じた。
即ち、本発明の貯蔵用キャニスターの応力腐食割れ防止方法は、金属製の筒状胴体の上部に蓋体を溶接することによって当該筒状胴体における引張残留応力が生じた範囲に圧縮応力を付与して、応力腐食割れを防止する貯蔵用キャニスターの応力腐食割れ防止方法であって、前記蓋体の溶接によって前記引張残留応力の発生が予定される前記筒状胴体の範囲に予め第1の圧縮応力を付与し、当該範囲に圧縮残留応力が生じている状態で前記蓋体を溶接することで発生する引張残留応力をキャンセルし、その後第2の圧縮応力を付与し当該範囲の全域で圧縮残留応力を生じさせることを特徴とする。
本発明によれば、蓋体の溶接によって引張残留応力の発生が予定される筒状胴体の範囲に予め第1の圧縮応力を付与するため、溶接による引張残留応力がキャンセルさせられ、それに伴い第2の圧縮応力を付与するための施工範囲が小さくなる。これにより、貯蔵用キャニスターと移送用キャスク間の浅い上開口で施工を行うことが可能となり、筒状胴体の外表面の全域に渡って圧縮残留応力を生じた状態とすることができる。
前記第1の圧縮応力を付与する前記筒状胴体の範囲は、当該筒状胴体の上端から軸方向内側へ向かう軸方向範囲であり、この軸方向範囲Lが下記関係式を満たすことが好ましい。
(r:筒状胴体の外半径、t:筒状胴体の厚み)
蓋体の溶接によって引張残留応力が生じる筒状胴体の軸方向範囲は上記関係式の右辺で表されるため、第1の圧縮応力を付与する軸方向範囲を上記式を満たす範囲とすれば、筒状胴体の外表面の全域に渡って圧縮残留応力が生じた状態とすることができる。
前記第1の圧縮応力を付与する作業は多様な施工方法で行うことができるが、例えばジルコニアショットピーニング法又はバニシング法による施工方法が好ましい。
本発明の貯蔵用キャニスターは、金属製の筒状胴体の上部に蓋体が溶接されて構成され、核燃料を内蔵した密閉状態でキャスク内に設置される貯蔵用キャニスターであって、前記蓋体の溶接によって引張残留応力の発生が予定される前記筒状胴体の範囲に予め第1の圧縮応力を付与し、当該範囲に圧縮残留応力が生じている状態で前記蓋体を溶接することで引張残留応力をキャンセルし、その後第2の圧縮応力を付与して当該範囲の全域で圧縮残留応力が生じた状態となっていることを特徴とする。
本発明によれば、蓋体の溶接によって引張残留応力の発生が予定される筒状胴体の範囲に予め第1の圧縮応力が付与されているため、溶接による引張残留応力がキャンセルさせられ、第2の圧縮応力を付与するための施工範囲が小さくなっている。これにより、貯蔵用キャニスターと移送用キャスク間の浅い上開口で施工を行うことが可能となっており、筒状胴体の外表面の全域に渡って圧縮残留応力を生じた状態とすることができる。
貯蔵用キャニスターは、キャスクと前記筒状胴体間の上開口において、前記第2の圧縮応力を付与する施工を可能とする構成とすればよい。
具体的には、前記蓋体を、前記筒状胴体の上端に溶接された上蓋とこの上蓋の内部側で当該筒状胴体と溶接された下蓋とからものとした場合、当該下蓋の溶接位置を、当該筒状胴体の上端から上記関係式の右辺で表されるL最小値までの軸方向範囲内とすればよい。
上記の通り本発明によれば、溶接による引張残留応力がキャンセルさせられるため、第2の圧縮応力を付与するための施工範囲が小さくなり、貯蔵用キャニスターと移送用キャスク間の浅い上開口で施工を行うことが可能となる。これにより、核燃料からの放射線が遮蔽された状態で筒状胴体の外表面の全域に渡って圧縮残留応力を生じた状態とすることができる。
核貯蔵施設の概略図である。 本発明の一実施形態を示す貯蔵用キャニスターの側面図である。 貯蔵用キャニスターの応力腐食割れ防止方法の手順を説明するためのフロー図である。 底部材が設けられた胴体の斜視図である。 胴体の溶接部分とその近傍の拡大図である。 (a)は本発明の概念を説明する説明図であり、(b)はこれに対応する従来技術の説明図である。 レーザ溶接法及びアーク溶接法による胴体外表面での軸方向残留応力を示すグラフである。 圧縮応力処理部に引張応力をかけたときの残留応力値の変化を説明するための図である。 移送用キャスク内での貯蔵用キャニスターの一部拡大図である。 水冷した場合と水冷しない場合における胴体外表面での軸方向残留応力を示すグラフである。 水冷した場合と水冷しない場合における胴体外表面での周方向残留応力を示すグラフである。
本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図2は本発明の一実施形態を示す貯蔵用キャニスター1の側面図である。この貯蔵用キャニスター1は、使用済核燃料50を格納するためのものであり、使用済核燃料50を格納後、核貯蔵施設に設置される。貯蔵用キャニスター1は、オーステナイト系ステンレス鋼製であり、縦長の円筒状の胴体2(筒状胴体)と、この胴体2の底を塞ぐ底部材3と、胴体2の上部2aを塞ぐ蓋体4で構成されている。底部材3と蓋体4が胴体2に溶接されて、放射性物質が漏れないように貯蔵用キャニスター1が密閉される。一般に、貯蔵用キャニスター1は、胴体2の外径:1700mm程度、高さ;4600mm程度、厚み:13mm程度で構成されている。
本実施形態の蓋体4は、内側の一次蓋部材5(下蓋)と、外側の二次蓋部材6(上蓋)とからなっている。なお、胴体2を密閉する蓋体を構成する蓋部材の数は限定されず、1つ又は3つ以上の蓋部材を用いてもよい。一次蓋部材5の周縁と胴体2の内周面2bとが溶接され、それと共に二次蓋部材6の周縁と胴体2の内周面2bとが溶接されている。底部材3は胴体2の下端部2cと溶接されている。
図3に貯蔵用キャニスター1の応力腐食割れ防止方法の手順を説明するためのフロー図を示す。本実施形態の貯蔵用キャニスターの応力腐食割れ防止方法(以下、応力腐食割れ防止方法)は、圧縮応力を残留させることで応力腐食割れを防止する方法であり、蓋体4の溶接によって引張残留応力の発生が予定される胴体2の軸方向範囲に予め第1の圧縮応力を付与し、当該軸方向範囲に圧縮応力が生じている状態で蓋体4を溶接することで、引張残留応力をキャンセルし、その後第2の圧縮応力を付与する方法である。詳細には、胴体2への第1の圧縮応力付与の後、プール中の移送キャスク内に設置された有底の胴体2に使用済核燃料を収容し、蓋体4をこの胴体2に自動溶接して当該胴体2を密閉する。この状態で、胴体2の上部に第2の圧縮応力を付与する。その後、移送用キャスクを貯蔵用キャニスター1と共に核貯蔵施設へ移送して使用済核燃料を貯蔵する。
以下手順を追って説明する。まず、筒状の胴体2に底部材3を溶接して図4に示す有底筒状胴体7とする。有底筒状胴体7の底部7aには、溶接の際に生じた引張残留応力が存在する。そのため、例えばショットピーニング法等による塑性加工を施してその残留引張応力を消失させ圧縮応力を残留させた状態とする。これにより、底部7aの応力腐食割れを防止できる。なおこの作業時には、核燃料が格納されておらず胴体2を取り囲む構造物もないので、作業スペースの不足及び放射線被爆の問題は生じない。
図5は胴体2の溶接部分とその近傍の拡大図である。各蓋部材5、6を溶接する前に、溶接によって引張残留応力の発生が予定される胴体2の範囲に予め第1の圧縮応力の付与のための施工を行う。胴体2の上部2aにおける第1の圧縮応力を付与する範囲Lは、胴体2の上端2dから軸方向内側へ向かう軸方向範囲であり、この範囲Lが下記関係式を満たすようにする。従って、第1の圧縮応力を付与する軸方向範囲Lは、胴体2の上端2dからこの関係式の右辺で表されるL最小値(以下L最小値という)までの範囲か、それよりも深いことを要する。L最小値は一般的な貯蔵用キャニスター1では300mm程度となる。
(r:筒状胴体の外半径、t:筒状胴体の厚み)
図6(a)は本発明の応力腐食割れ防止方法の概念を説明する説明図であり、(b)はこれに対応する従来技術の説明図である。二次蓋部材6の溶接によって生じる引張残留応力の軸方向範囲は、胴体2の上端2dからL最小値までの範囲である。従って、少なくとも当該範囲に予め第1の圧縮応力を付与し、圧縮残留応力を生じさせておくことで、溶接時に生じる引張残留応力をキャンセルすることができる。溶接時に、胴体2の上端2dとその近傍範囲s1は融解に近い状態となるため、この軸方向範囲s1に限っては付与した圧縮残留応力も消失する。従って、第2の圧縮応力を付与する工程で、その浅い軸方向範囲s1を処理するだけで、胴体2の外表面の全域に渡って圧縮残留応力を生じさせた状態とすることができる。これにより、第2の圧縮応力を付与する深さ(軸方向範囲s1)を従来の深さs2よりも浅くすることができる。なお、第1の圧縮応力を付与しない範囲であるL範囲以外の部分は、前もって何らかの方法で圧縮残留応力が付与されていればよい。
本実施形態では、胴体2に内側の一次蓋部材5を溶接し、続いて外側の二次蓋部材6を溶接している。二次蓋部材6の溶接によって、胴体2の上端2dからL最小値までの軸方向範囲に引張残留応力が生じる。同様に一次蓋部材5の溶接によっても引張残留応力が生じる。一次蓋部材5の溶接位置は、胴体2の上端2dからL最小値までの軸方向範囲内とされていればよい。第1の圧縮応力を付与する軸方向範囲Lの外端は胴体2の上端2dであり、これにより一次及び二次蓋部材5、6の溶接による引張残留応力がキャンセルされる。
胴体2の上端2dからL最小値までの範囲は上記のとおり引張残留応力が生じる範囲であるため、この範囲への第1の圧縮応力P1の付与は必須となる。第1の圧縮応力P1を付与する軸方向範囲Lは、胴体2の上端2dから下端部2cまで、又は軸方向中央部2eまでとしてもよく、作業上好ましくは、L最小値までの範囲+内側へ100mm程度、より好ましくはL最小値までの範囲+内側へ50mm程度である。第1の圧縮応力P1を付与するための塑性加工を、L最小値の範囲+100mm程度まで行っていれば、溶接により発生する引張残留応力をより確実にキャンセルすることができる。
各蓋部材5、6にも溶接による引張残留応力が生じているが、問題となるのは外気に曝される外側の二次蓋部材6である。この二次蓋部材6にも同様に第1の圧縮応力を付与するための塑性加工を施してもよいが、移送用キャスクの上方は開放されているため、作業スペース上の問題はなく、蓋体4への第1の圧縮応力の付与は必須ではない。胴体2及び蓋体4を溶接する際の溶接法は限定しないが、レーザ溶接法又はアーク溶接法を用いることが好ましい。図7はこれらの溶接法で溶接した際の胴体の外表面での軸方向残留応力を示すグラフである。引張残留応力の領域がレーザ溶接法よりもアーク溶接法の方が大きくなっており、レーザ溶接法がより好ましいことがわかる。
第1の圧縮応力及び第2の圧縮応力を付与するための塑性加工について説明する。オーステナイト系ステンレス鋼材はスケール処理のために、すでに圧縮残留応力が生じているが、スケール処理による圧縮残留応力の深さは最大でも200μm程度である。そのため、第1の圧縮応力及び第2の圧縮応力を付与するための塑性加工が必要となる。圧縮応力を付与するための塑性加工法は限定されるものではなく、例えば、レーザピーニング法、ウォータージェットピーニング法、ショットピーニング法等の各種のピーニング法がある。レーザピーニング法及びウォータージェットピーニング法は一般的な方法ではなく、作業性が低く、施工コストが高い。ショットピーニング法には、例えば鋳鋼ショット、アルミナショット、ジルコニアショットが知られている。鋳鋼ショットでは、圧縮層の深さは例えば約0.4mmであり、赤錆の発生が懸念される。アルミナショットでは、表面が粗くなる点は問題ないが、圧縮層深さは約0.5mmであり、鋳鋼ショットと同様に圧縮残留応力が生じている深さが比較的浅くなってしまう。
ジルコニアショットでは、ジルコニアの靱性が大きく、圧縮層の深さは約0.7mmであり、圧縮残留応力の深さを深くできる。本実施形態では、ジルコニアショットを採用し、1.0μm径のジルコニア粒を、5kg/cmGの空気圧で照射し、カバレッジを3とした。圧縮層の深さは0.7mmであった。これら3つのショット形態の中では、ジルコニアショットが最適である。
圧縮応力を付与するための他の塑性加工法として、バニッシング法が知られている。バニッシング法とは、硬質な球材が先端に設けられた押圧具を、対象とする材料表面に当てて、転圧する塑性加工法である。この方法は、粉塵を発生させずに深い圧縮層が得られることから、原子力発電設備内での作業には最適である。各種のピーニング法では、処理した表面性状は梨地となり、バニッシング法では、処理した表面性状が鏡面になることから、いずれの方法を採用しても、施工した範囲を目視で簡単に確認できるため作業性が向上する。
図8はオーステナイト系ステンレス鋼材の圧縮応力処理部に引張応力を付与したときの残留応力値の変化を説明するための図である。所定寸法のオーステナイト系ステンレス鋼材30の片方の表面30aに、ジルコニアショットによるピーニング処理を施し、左右から引張荷重をかけて、その際のピーニング部分31の残留応力値の変化を計測した。計測した結果が図8のグラフである。グラフ中の縦鎖線は0.2%耐力である243MPaを示す。ピーニング部分31の残留応力値は0.2%耐力まで「圧縮」であることから、0.2%耐力までであれば、引張荷重が作用しても残留応力は圧縮側となる。貯蔵用キャニスター1は0.2%耐力の1/3で設計されるため、付与された圧縮残留応力が消失することはない。
核燃料貯蔵施設は沿岸に建設されていることから、貯蔵用キャニスター1はキャスク内で常に塩分雰囲気に曝される。圧縮残留応力を存在させておけば、応力腐食割れは防止できるが、塩分による孔食の問題も考慮する必要がある。塩分による孔食が圧縮残留応力層の深さよりも深部へ進行すれば、応力腐食割れのおそれが生じる。そこで、沿岸での環境条件に近い相対湿度:15%(室温)での、最大孔食深さを推定した。1000時間の最大孔食深さをもとに直線的に孔食が成長したものとして推定値を算出した。なお、貯蔵用キャニスターの温度と気象データから求めた応力腐食割れが進展する可能性のある時間の積算は、本州北端では3853時間後であり、中部日本海沿岸では15021時間である。「平成23年5月、財団法人電力中央研究所発行、電力中央研究所報告、研究報告N10035、コンクリートキャスク方式による使用済燃料貯蔵の実用化研究(非特許文献1)」から引用。
以下、最大孔食深さの推定値を示す。
(グラインダ処理)
SUS304L:161μm(本州北端)、625μm(中部日本海沿岸)
SUS316L:213μm(本州北端)、829μm(中部日本海沿岸)
(ピーニング処理)
SUS304L:114μm(本州北端)、442μm(中部日本海沿岸)
SUS316L:182μm(本州北端)、706μm(中部日本海沿岸)
(バニッシング処理)
SUS316L:215μm(本州北端)、838μm(中部日本海沿岸)
グラインダ処理による圧縮残留応力層の深さは0であり、ジルコニアショットによるピーニング処理で得られる圧縮残留応力層の深さは800μmであり、バニッシング処理で得られる圧縮残留応力層の深さは1500μmである。
応力腐食割れが発生しない条件は、(孔食深さ<圧縮残留応力層の深さ)であるため、ピーニング処理又はバニッシング処理を施し、第1の圧縮応力及び第2の圧縮応力の付与による圧縮残留応力層を1mm程度まで形成しておけば、孔食の影響による応力腐食割れは発生しない。貯蔵用キャニスター1の製造時に、擦過や衝突により材料表層を若干損傷する場合があったとしても、その損傷深さは、数百μm程度までであるので、圧縮残留応力層を1mm程度まで形成しておけば、損傷の影響による応力腐食割れも防ぐことができる。圧縮残留応力層は深い程よいが、作業性の観点から最大でも2mm程度であり、好ましくは上記の1mm程度である。
以上の応力腐食割れ防止方法を実施することにより本発明の貯蔵用キャニスターを得ることができる。即ち、本発明の貯蔵用キャニスター1は、金属製の筒状の胴体2の上部2aに蓋体4が溶接されて構成され、核燃料を内蔵した密閉状態でキャスク内に設置される貯蔵用キャニスター1であって、蓋体4の溶接によって引張残留応力の発生が予定される胴体2の範囲に予め第1の圧縮応力を付与し、当該範囲に圧縮残留応力が生じている状態で蓋体4を溶接することで引張残留応力をキャンセルし、その後第2の圧縮応力を付与して当該範囲の全域で圧縮残留応力が生じた状態となっている貯蔵用キャニスター1である。
図9は移送用キャスク10に入れられた貯蔵用キャニスター1の一部拡大図である。放射線の影響を抑えるため、貯蔵用キャニスター1を移送用キャスク10に入れてから、応力腐食割れを防止するための塑性加工を施す。従来では、塑性加工を施す範囲は、胴体の上部から下方に向かって深い範囲にまで至っていたが、本実施形態の貯蔵用キャニスター1では、胴体2の上部2aから下方に向かって浅い範囲s1に限られる。貯蔵用キャニスター1と移送用キャスク10間の上開口11を利用すれば第2の圧縮応力を付与するための塑性加工のための作業には十分である。移送キャスク10の厚みdは200mm程度である。
胴体2の上端2dからL最小値までの範囲は一般的な貯蔵用キャニスター1では上記のとおり300mm程度となる。本実施形態では上開口11の径方向寸法wは125mm程度、上開口11の深さh(軸方向寸法)は145mm程度である。上開口11の深さhは、一次蓋部材5の溶接部位の下端12から底部側へ、貯蔵用キャニスター1の厚みtの2倍程度とすればよい。なお、これらの寸法は限定されず適宜変更することができる。以上の方法で貯蔵用キャニスター1を形成すれば、核燃料からの放射線が遮蔽された状態で、全ての引張残留応力をキャンセルし、胴体2の全域に圧縮残留応力を生じさせた状態とすることが可能となる。
本実施形態によれば、蓋体4の溶接によって引張残留応力の発生が予定される胴体2の範囲に予め第1の圧縮応力を付与するため、溶接による引張残留応力がキャンセルさせられ、それに伴い第2の圧縮応力を付与するための施工範囲が小さくなる。これにより、貯蔵用キャニスター1と移送用キャスク10間の浅い上開口11で施工を行うことが可能となり、核燃料からの放射線が遮蔽された状態で胴体2の外表面の全域に渡って圧縮残留応力を生じた状態とすることができる。
上記の実施形態は本発明にかかる貯蔵用キャニスターの応力腐食割れ防止方法及び貯蔵用キャニスターの一例を示したものであり制限的なものではない。貯蔵用キャニスターの応力腐食割れ防止方法に他の工程を含ませること、貯蔵用キャニスターの形状、寸法等を変更してもよい。
例えば図9を参照して、移送用キャスク10と貯蔵用キャニスター12との間の上開口11に水を充填し、この状態で各蓋部材5、6の溶接を行ってもよい。即ち、この貯蔵用キャニスターの応力腐食割れ防止方法は、蓋体の溶接によって引張残留応力の発生が予定される筒状胴体の範囲に予め第1の圧縮応力を付与し、当該範囲に圧縮残留応力が生じている状態で蓋体を溶接することで引張残留応力をキャンセルし、その後第2の圧縮応力を付与して当該範囲の全域で圧縮残留応力を生じさせる方法であって、蓋体の溶接の際に溶接箇所を水冷しながら行うことで、第2の圧縮応力を付与する範囲をさらに小さくする方法である。
図10は溶接箇所を水冷した場合と水冷しない場合における胴体外表面での軸方向残留応力を示すグラフであり、図11は溶接箇所を水冷した場合と水冷しない場合における胴体外表面での周方向残留応力を示すグラフである。図10及び図11からわかるように、残留する軸方向応力及び残留する周方向応力のどちらも引張応力の発生領域が狭まっていることが認められる。冷却しながら溶接するので胴体の膨張が抑えられ、溶接後の引張残留応力の生じる軸方向範囲をより狭くすることができる。これにより、第2の圧縮応力を付与するための施工範囲をより小さくすることができる。
1 貯蔵用キャニスター
2 胴体
3 底部材
4 蓋体
5 一次蓋部材
6 二次蓋部材
7 有底筒状胴体
10 移送用キャスク
L 第1の圧縮応力を付与する軸方向範囲

Claims (6)

  1. 金属製の筒状胴体の上部に蓋体を溶接することによって当該筒状胴体における引張残留応力が生じた範囲に圧縮応力を付与して、応力腐食割れを防止する貯蔵用キャニスターの応力腐食割れ防止方法であって、
    前記蓋体の溶接によって前記引張残留応力の発生が予定される前記筒状胴体の範囲に予め第1の圧縮応力を付与し、当該範囲に圧縮残留応力が生じている状態で前記蓋体を溶接することで発生する引張残留応力をキャンセルし、その後第2の圧縮応力を付与して当該範囲の全域で圧縮残留応力を生じさせることを特徴とする貯蔵用キャニスターの応力腐食割れ防止方法。
  2. 前記第1の圧縮応力を付与する前記筒状胴体の範囲は、当該筒状胴体の上端から軸方向内側へ向かう軸方向範囲であり、この軸方向範囲Lが下記関係式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の貯蔵用キャニスターの応力腐食割れ防止方法。
    (r:筒状胴体の外半径、t:筒状胴体の厚み)
  3. 前記第1の圧縮応力は、ジルコニアショットピーニング法又はバニシング法によって付与することを特徴とする請求項1又は2に記載の貯蔵用キャニスターの応力腐食割れ防止方法。
  4. 金属製の筒状胴体の上部に蓋体が溶接されて構成され、核燃料を内蔵した密閉状態でキャスク内に設置される貯蔵用キャニスターであって、
    前記蓋体の溶接によって引張残留応力の発生が予定される前記筒状胴体の範囲に予め第1の圧縮応力を付与し、当該範囲に圧縮残留応力が生じている状態で前記蓋体を溶接することで発生する引張残留応力をキャンセルし、その後第2の圧縮応力を付与して当該範囲の全域で圧縮残留応力が生じた状態となっていることを特徴とする貯蔵用キャニスター。
  5. キャスクと前記筒状胴体間の上開口において、前記第2の圧縮応力を付与し、前記範囲の全域で圧縮残留応力を生じさせることが可能な構成を有することを特徴とする請求項4に記載の貯蔵用キャニスター。
  6. 前記蓋体は、前記筒状胴体の上端に溶接された上蓋とこの上蓋の内部側で当該筒状胴体と溶接された下蓋とからなり、当該下蓋の溶接位置が当該筒状胴体の上端から上記関係式の右辺で表されるL最小値までの軸方向範囲内であることを特徴とする請求項5に記載の貯蔵用キャニスター。
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